特許第6309241号(P6309241)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6309241-ホイップドクリーム 図000011
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6309241
(24)【登録日】2018年3月23日
(45)【発行日】2018年4月11日
(54)【発明の名称】ホイップドクリーム
(51)【国際特許分類】
   A23L 9/20 20160101AFI20180402BHJP
【FI】
   A23L9/20
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-222920(P2013-222920)
(22)【出願日】2013年10月28日
(65)【公開番号】特開2015-84656(P2015-84656A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年10月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】増竹 憲二
(72)【発明者】
【氏名】藤田 康之
【審査官】 厚田 一拓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−099650(JP,A)
【文献】 特開昭61−170351(JP,A)
【文献】 特開2001−292710(JP,A)
【文献】 特開2013−013393(JP,A)
【文献】 米国特許第04208444(US,A)
【文献】 特開平04−011850(JP,A)
【文献】 特開平04−022850(JP,A)
【文献】 特開2003−180280(JP,A)
【文献】 特開昭49−041561(JP,A)
【文献】 特開平08−023879(JP,A)
【文献】 米国特許第05547697(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01J 1/00 − 99/00
A23C 1/00 − 23/00
A23L 7/117− 9/20
A23L 29/212− 29/225
A23L 5/00 − 5/30
A23L 29/00 − 29/10
A23L 21/00 − 21/25
A23L 29/20 − 29/206
A23L 29/231− 29/30
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/FROSTI(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、低ゲル強度の乳清タンパク質、LMペクチン、及び水溶性カルシウム塩を含有し、油脂含量が30質量%未満であるクリームを起泡させたホイップドクリームであって、
クリームにおける各成分の含量が以下のとおりであるホイップドクリーム;
低ゲル強度の乳清タンパク質 0.3〜5質量%、
LMペクチン 0.1〜2質量%、
水溶性カルシウム塩(カルシウム換算) 0.003〜0.07質量%。
【請求項2】
起泡後、7℃条件下で1日間保存後の強度が60g以上である、請求項1に記載のホイップドクリーム。
【請求項3】
ヘキサメタリン酸塩、ポリリン酸塩及びクエン酸塩からなる群から選択される一種以上の塩類を含有する、請求項1又は2に記載のホイップドクリーム。
【請求項4】
更に発酵セルロースを含有する、請求項1〜3のいずれかに記載のホイップドクリーム。
【請求項5】
以下の工程1〜5を含有する、請求項1〜4のいずれかに記載のホイップドクリームの製造方法;
(工程1)水に乳清タンパク質を添加し、水相を調製する工程、
(工程2)前記水相と油相を混合し、クリームミックスを調製する工程、
(工程3)前記クリームミックスに水溶性カルシウム塩を添加する工程、
(工程4)工程3で得られたミックスに均質化処理を施す工程、
及び
(工程5)均質化処理後のミックスにLMペクチンを添加し、起泡する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製菓・製パン用途等に好適なホイップドクリームに関する。
【背景技術】
【0002】
ホイップドクリーム(ホイップされたクリーム)は、製菓・製パン用途をはじめとした、各種飲食品用途で多用されている。特に、製菓・製パンのサンド用途等に用いられるホイップドクリームは、十分な強度及び保形性を有し、離水が抑制されていることが求められる。一方で、近年の健康嗜好の需要に伴い、油脂(油、脂肪等)含量を低減したホイップドクリームの需要が高まっている。しかし、油脂含量の低減は、ホイップドクリームの強度低下を引き起こす。ホイップドクリームの強度の低いものは、例えば、輸送中に気泡が潰れやすく液体に近くなるため加工が難しくなり、ホイップドクリームを絞り出しパンにサンドした場合、パン生地にうまくサンドできない、離水が発生しやすく、生じた離水がパン生地に浸みこみ、パン素材を柔らかくして品質を低下させることなどの欠点がある。同様にして、ホイップドクリームの保形性が低下すると、ホイップドクリームを絞り出した後に、生地がだれやすい等の問題が生じる。更には、油脂含量を低減することで、常温保存時に離水が顕著に発生する等の問題を抱える。
【0003】
ホイップドクリームにペクチンを用いる技術として、エステル化度が25〜50%のペクチンをクリームに添加することで、冷蔵保存後や凍結解凍後における離水等を防止する技術(特許文献1)、LMペクチン等のゲル化剤を含む流動状態の起泡性水中油型エマルジョンを、当該エマルジョンがゲル状を呈し始める温度、且つ油脂の融点以上の温度まで予備冷却した後、強制的に気体を混入しホイップしながらさらに冷却する技術(特許文献2)、油脂8〜50重量%、糖質5〜40重量%、乳化剤及び水分を含有する水中油滴型乳化組成物において、ペクチン等の増粘安定剤を0.2〜2重量%添加する技術(特許文献3)等が知られている。特許文献4には、油脂8〜50重量%、糖質5〜35重量%、ゲル化剤0.2〜2重量%及び乳化剤0.2〜4重量%を含むことを特徴とするゲル状水中油型組成物が開示されており、必要に応じてホイップドクリームとして使用できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−180280号公報
【特許文献2】特開平02−128651号公報
【特許文献3】特開平05−199837号公報
【特許文献4】特開昭64−5465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1〜3に開示された技術はいずれも、ペクチンを単独で用いる技術であり、水溶性カルシウム塩を用いる技術について何ら開示がない。水溶性カルシウム塩を不使用とした場合は、例えLMペクチンを用いた場合であっても、後述の実験例1で示すように、クリームの強度が格段に低下し、保形性も低下する。更には、常温保存時における離水が顕著に発生してしまう。特に、クリームの油脂含量が30質量%未満、更には25質量%以下になると、上記問題が顕著に生じてしまう。特許文献4の実施例2には、LMペクチン及びイオタカラギナンを併用したゲル状水中油型組成物が開示されているが、組成物の油脂含量は45質量%と高く、低油脂含量のホイップドクリームが抱える問題点について何ら教えるところがない。更には、ゲルを形成させることで保形性を付与する技術であるため、滑らかな食感を得ることは難しく、起泡性(例えば、オーバーラン等)も十分満足できるものではなかった。
【0006】
上記従来技術に鑑み、本発明では、油脂含量を低減させた場合であっても十分な強度や保形性を有し、更には、離水が抑制されたホイップドクリームを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記のごとき課題を解決すべく鋭意研究した結果、油脂含量が30質量%未満であるクリームであっても、乳清タンパク質、LMペクチン及び水溶性カルシウム塩を併用することで、十分な強度や保形性を有し、更には、離水が抑制されたホイップドクリームを提供できることを見出して本発明に至った。
【0008】
本発明は、以下の態様を有するホイップドクリームに関する;
項1.水、乳清タンパク質、LMペクチン及び水溶性カルシウム塩を含有し、
油脂含量が30質量%未満であるクリームを起泡させたホイップドクリーム。
項2.起泡後、7℃条件下で1日間保存後の強度が60g以上である、項1に記載のホイップドクリーム。
項3.乳清タンパク質が、低ゲル強度の乳清タンパク質及び/又は熱変性した微粒子の乳清タンパク質である、項1又は2に記載のホイップドクリーム。
項4.ヘキサメタリン酸塩、ポリリン酸塩及びクエン酸塩からなる群から選択される一種以上の塩類を含有する、項1〜3のいずれかに記載のホイップドクリーム。
項5.更に発酵セルロースを含有する、項1〜4のいずれかに記載のホイップドクリーム。
【0009】
本発明はまた、以下の態様を有するホイップドクリームの製造方法にも関する;
項6.以下の工程1〜5を含有するホイップドクリームの製造方法;
(工程1)水に乳清タンパク質を添加し、水相を調製する工程、
(工程2)前記水相と油相を混合し、クリームミックスを調製する工程、
(工程3)前記クリームミックスに水溶性カルシウム塩を添加する工程、
(工程4)工程3で得られたミックスに均質化処理を施す工程、
及び
(工程5)均質化処理後のミックスにLMペクチンを添加し、起泡する工程。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、油脂含量が30質量%未満であっても十分な強度や保形性を有し、更には、離水が抑制されたホイップドクリームを提供できる。本発明のホイップドクリームは、油脂(油、脂肪等)を40質量%以上用いたホイップドクリームと遜色ない強度や保形性を有し、製菓・製パン用途、特には、サンド用途に好適に使用できる。また。本発明のホイップドクリームは十分な強度を有するため、例えば、厚さ30〜50mm程度のシート状に成形したホイップドクリームに、5倍以上の加重をかけた場合であっても、型くずれが生じにくいという利点も有する。
【0011】
別の側面において、本発明のホイップドクリームは、十分な強度、保形性を有しつつも、優れた起泡性、並びに滑らかな食感(良好な口溶け)を備えるという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実験例1において、実施例1−1のホイップドクリームを凍結解凍後、花形に絞り出し、25℃で1日間静置後の様子を示した写真である。
図2】実験例1において、比較例1−1のホイップドクリームを凍結解凍後、花形に絞り出し、25℃で1日間静置後の様子を示した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書中、特に記載のない限り、用語「クリーム」は起泡前のクリームを意味し、用語「ホイップドクリーム」は起泡後のクリームを意味する。
本発明のホイップドクリームは、水、乳清タンパク質、LMペクチン及び水溶性カルシウム塩を含有し、油脂含量が30質量%未満であるクリームを起泡して得られる。
【0014】
(クリーム)
本発明で用いるクリーム(起泡前のホイップドクリーム)について具体的に説明する。
本発明のクリームは、油脂含量が30質量%未満、好ましくは25質量%以下である。油脂の種類は特に制限されない。例えば、植物油脂、動物油脂、これらの精製油、分別油、水素添加油脂(硬化油脂)、エステル交換油脂等を例示できる。植物油脂としては、例えばヤシ油、ナタネ油、コーン油、大豆油、パーム油、パーム核油、ヒマワリ油、オリーブ油、サフラワー油、カカオ脂、米油等を例示できる。動物油脂としては、例えば、乳脂、ラード、魚油、鯨油等を例示できる。本発明では上記植物油脂、動物油脂等の混合油を用いることも可能である。好ましくは、ヤシ油、パーム油、パーム核油、コーン油、大豆油及びこれらの硬化油、並びに乳脂からなる群から選択される一種以上である。
【0015】
通常、クリームにおける油脂含量が30質量%未満、更には25質量%以下まで低下すると、起泡後のホイップドクリームの強度が不十分となり、シート等に成形した際に型くずれが生じる、保形性の低下や、常温保存時に離水が顕著に発生する等の問題が生じる。特に、常温で固体の性質を示す硬化油や脂肪(例えば、乳脂肪等)含量の低減に伴い、上記現象が顕著に生じる。
しかし、本発明では、常温で固体の性質を示す油脂含量が上記範囲内のクリームであっても、十分な強度や保形性を有し、更には、離水が顕著に抑制されているホイップドクリームを提供できるという利点を有する。クリームにおける油脂含量の下限は特に制限されない。例えば、10質量%、好ましくは15質量%である。
【0016】
本発明で用いる乳清タンパク質は、牛乳由来の乳清を原料としたものであれば特に制限されない。例えば、乳清タンパク質濃縮物(WPC)、又は乳清タンパク質単離物(WPI)等が挙げられる。クリームにおける乳清タンパク質含量は、特に制限されない。通常、0.3〜5質量%、好ましくは0.5〜4質量%、更に好ましくは1〜3質量%である。
【0017】
本発明では、乳清タンパク質として、低ゲル強度の乳清タンパク質及び/又は熱変性した微粒子の乳清タンパク質を用いることが好ましい。本発明でいう低ゲル強度の乳清タンパク質とは、乳清タンパク質15質量%水溶液を80℃に加熱した後、4℃に冷却後のゲル強度が、カード値で4N/cm2以下のものをいう。具体的なゲル強度の測定方法は以下のとおりである。
乳清タンパク質30gを170mlのイオン交換水に添加し、1400〜1500rpmで3分間攪拌、溶液の泡を除去し、無通気性のケーシングチューブに充填する。80℃で40分間ボイル後、4℃で一晩静置したものを約3センチの厚さに切断し、カードメーターにて、カード値を測定する(重り200g、プランジャーφ3mm)。商業上入手可能な低ゲル強度の乳清タンパク質として、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の「ミルプロ(登録商標)L−1」、「ミルプロ(登録商標)LG」等を例示できる。
【0018】
熱変性した微粒子の乳清タンパク質は、例えば、高せん断力条件下で乳清タンパク質濃縮素材を熱して、変性した極微粒子を形成させることで入手できる。通常、変性した極微粒子は、乳化脂肪球とごく近い0.1〜2ミクロン程度の球形である。熱変性した微粒子の乳清タンパク質の製造法としては、チーズ製造時に副産物として得られる甘性乳清を低温殺菌し、脂肪を除去して、限外濾過にて、タンパク質を濃縮しつつ、乳糖やミネラル分を低減させ、その後、更に濃縮し、せん断力を与えながら加熱して変性した微粒子状のタンパク質になるまで加工することにより製造できる。具体的には、特許第2740457号に記載の方法によっても製造できる。商業上入手可能な、熱変性した微粒子の乳清タンパク質として、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の「シンプレス100」等を例示できる。
【0019】
LMペクチンは、ガラクツロン酸を主体とする酸性多糖類と数種の中鎖糖が存在する。主鎖はα−D−ガラクツロン酸がα−1,4結合しており、部分的にメタノールでエステル化されている。ペクチンを構成するガラクツロン酸は、メチルエステルの形と酸の2種類の形で存在しており、そのエステルの形で存在するガラクツロン酸の割合(エステル化度)でHM(高メトキシル)ペクチン、LM(低メトキシル)ペクチンに分類される。本発明では、かかるエステル化度が50未満、好ましくは40以下のLMペクチンを用いる。下限は特に制限されないが、通常、20である。商業上入手可能なLMペクチンとして、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の「ビストップ[登録商標]D−402」等を例示できる。
【0020】
クリームにおけるLMペクチンの含量は特に制限されない。通常、0.1〜2質量%、好ましくは0.3〜1.5質量%、更に好ましくは0.4〜1質量%である。
【0021】
本発明では、更に、水溶性カルシウム塩を併用することを特徴とする。本発明において「水溶性カルシウム塩」とは、中性域(pH5〜9)で水に容易に溶解するカルシウム塩をいい、種類は特に制限されない。例えば、20℃の水への溶解度が1g/100g水分中、好ましくは3g/100g水分中以上のものであれば特に限定されず、通常、食品添加物として使用されているものであればよい。水溶性カルシウム塩としては、例えば、乳酸カルシウム、塩化カルシウム、又はグルコン酸カルシウム(これらの水和物を含む)を使用でき、本発明ではこれらカルシウム塩を単独、或いは適宜混合して使用できる。特に好ましくは、乳酸カルシウムである。なお、乳酸カルシウムは水和物、無水物のいずれを使用しても構わないが、水和物を使用することが好ましい。
【0022】
クリームにおける、水溶性カルシウム塩の含量は特に制限されない。通常、カルシウム換算で0.003〜0.07質量%、好ましくは0.005〜0.05質量%、更に好ましくは0.007〜0.03質量%となるように、水溶性カルシウム塩を添加することが好ましい。
【0023】
本発明のクリームは、物性安定性向上の観点から、更に発酵セルロースを併用することが好ましい。クリームに発酵セルロースを併用することで、滑らかで口どけの良い食感や、良好なつやを有し、更に、十分に離水が抑制されたホイップドクリームを提供できる。
【0024】
発酵セルロースは、セルロース生産菌(例.アセトバクター属、シュードモナス属、アグロバクテリウム属等に属する細菌)が産生するセルロースである。発酵セルロースは、植物由来の一般的なセルロース繊維の繊維径に比べて非常に微細な繊維径を有する。一方でその繊維長は長く、純粋な結晶領域のみを取得して得られる結晶セルロースとは大きく異なる。
【0025】
本発明では発酵セルロースとして、好ましくは当該発酵セルロースと他の高分子物質との複合化体である発酵セルロース複合体を使用できる。当該複合体は、発酵セルロースと他の高分子物質とから実質的になり、好ましくは発酵セルロース繊維の表面に他の高分子物質が付着している。このような複合化に使用される「他の高分子物質」は、食品に使用可能な高分子物質であれば特に限定されない。例えば、ガラクトマンナン、カルボキシメチルセルロース(CMC)とその塩、キサンタンガム、タマリンド種子ガム、ペクチン、トラガントゴム、カラヤガム、カラギナン、寒天、アルギン酸とその塩、ジェランガム、カードラン、プルラン、サイリウムシードガム、グルコマンナン、キチン、キトサン等が挙げられる。
【0026】
なかでも好ましくは、キサンタンガム、ガラクトマンナン、並びにカルボキシメチルセルロース(CMC)又はその塩が挙げられる。ガラクトマンナンとして好ましくはグァーガムが挙げられ、CMC又はその塩として好ましくはCMCナトリウムが挙げられる。本発明では特に、グァーガムと、CMC又はその塩を用いて複合化された発酵セルロースを好適に使用できる。
【0027】
発酵セルロース複合体は、例えば、発酵セルロースを含有する液体(所望により、本液体が含有し得る発酵セルロース生産菌体をアルカリ処理等によって溶解することが可能である)と他の高分子物質の溶液とを混合し、その後、イソプロピルアルコール等のアルコール沈殿又はスプレードライ等によって発酵セルロース複合体を取得する方法、発酵セルロースのゲルを他の高分子物質の溶液に浸漬させる方法、又は特開平09−121787号公報に開示されている方法、具体的には、発酵セルロース産生微生物の培養において、用いる培地中に他の高分子物質を添加する方法等を用いて、発酵セルロースの複合化が可能である。なお、所望により、発酵セルロース複合体を乾燥させて、乾燥粉末を得ることができる。
【0028】
発酵セルロース複合体の乾燥粉末は商業上入手可能であり、例えば、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製の「サンアーティスト[登録商標]PG(グァーガム、CMCナトリウム及び発酵セルロースの複合体製剤)」、「サンアーティスト[登録商標]PN(キサンタンガム、CMCナトリウム及び発酵セルロースの複合体製剤)」を例示できる。
【0029】
クリームにおける発酵セルロース(単体としての)の含量は特に制限されない。通常、0.005〜0.4質量%、好ましくは0.01〜0.3質量%、更に好ましくは0.02〜0.2質量%である。
【0030】
その他、クリームの乳化安定に用いる乳化剤は、特に制限されない。例えば、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン、リゾレシチン、蒸留モノグリセライド、プロピレングリコール脂肪酸エステル等を使用できる。
【0031】
本発明ではまた、クリームに、ヘキサメタリン酸塩、ポリリン酸塩及びクエン酸塩からなる群から選択される一種以上の塩類を併用することで、ホイップドクリームの強度や保形性を向上できる。好ましくは、ヘキサメタリン酸塩及び/又はポリリン酸塩、更に好ましくはヘキサメタリン酸塩である。これらの塩としては、例えばナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられ、好ましくはナトリウム塩である。クリームにおける、ヘキサメタリン酸塩、ポリリン酸塩及びクエン酸塩からなる群から選択される一種以上の塩類の含量は特に制限されないが、含量が多いとホイップドクリームの強度が低下する場合がある。好ましくは、クリーム中の含量が0.03〜0.4質量%の範囲となるように、ヘキサメタリン酸塩、ポリリン酸塩及びクエン酸塩からなる群から選択される一種以上の塩類を添加することが望ましい。
【0032】
(ホイップドクリーム)
本発明のホイップドクリームは、クリームを起泡することで得られる。具体的には、水、乳清タンパク質、LMペクチン及び水溶性カルシウム塩を含有し、油脂含量が30質量%未満であるクリームを起泡して得られる。
【0033】
また、本発明のホイップドクリームは、調製後(起泡後)、7℃条件下で1日保存後の強度が60g以上であることが好ましい。より好ましくは70g以上、更に好ましくは100g以上である。ホイップドクリームの強度が60g未満では、強度が不十分となり、運送時にかかる加重等により、ホイップドクリームの形状が変化してしまう。また、ホイップドクリームに含まれる気泡があらく、滑らかさのないホイップドクリームや、離水しやすいホイップドクリームとなってしまう。
【0034】
本発明において、「起泡後、7℃条件下で1日保存後の強度が60g以上」とは、下記条件に従って測定した強度が60g以上であることをいう;
(測定条件)
(1)ホイップドクリームを調製後(起泡後)、90ml容プリンカップに70g充填し、7℃条件下で1日間保存する。
(2)1日間経過後のホイップドクリームを、STEVENS社製 テクスチャー・アナライザーTA1000を用い、プローブの浸入速度:1.0mm/second プローブの浸入距離:4mmの条件にて測定する。
【0035】
本発明のホイップドクリームは、例えば、以下の工程1〜5に従って製造できる;
(工程1)水に乳清タンパク質を添加し、水相を調製する工程、
(工程2)前記水相と油相を混合し、クリームミックスを調製する工程、
(工程3)前記クリームミックスに水溶性カルシウム塩を添加する工程、
(工程4)工程3で得られたミックスに均質化処理を施す工程、
及び
(工程5)均質化処理後のミックスにLMペクチンを添加し、起泡する工程、
を含有する、ホイップドクリームの製造方法。
【0036】
(工程1)水に乳清タンパク質を添加し、水相を調製する工程
本工程は、水に、乳清タンパク質を添加することで実施できる。必要に応じて、原料(例えば、砂糖、乳成分等)、乳化剤、発酵セルロース、並びに、ヘキサメタリン酸塩、ポリリン酸塩及びクエン酸塩からなる群から選択される一種以上の塩類を添加できる。
【0037】
(工程2)前記水相と油相を混合し、クリームミックスを調製する工程。
前記工程1で調製した水相に、油脂を混合することで実施できる。油脂として、融点が高い油脂を用いる場合には、混合工程において、油脂が流動性を有する温度(融点以上の温度)に加温されていることが好ましい。
【0038】
(工程3)前記クリームミックスに水溶性カルシウム塩を添加する工程。
工程2で得られたクリームミックスに、水溶性カルシウム塩を添加することで実施できる。水溶性カルシウム塩は、例えば、水溶液として添加できる。
【0039】
(工程4)工程3で得られたミックスに均質化処理を施す工程。
均質化処理の条件は特に制限されない。通常、一段階目5〜7.5MPa、二段階目2.5〜3MPaの二段階の均質化工程を例示できる。
本発明では、均質化処理後、エージング工程をとることができる。例えば、工程4で得られた均質化処理後のミックスを、必要に応じて冷却後、5〜10℃で10時間以上、好ましくは一晩静置する。
【0040】
(工程5)均質化処理後のミックスにLMペクチンを添加し、起泡する工程。
本発明では、均質化処理後のミックスにLMペクチンを添加し、起泡することが好ましい。水相調製時にLMペクチンを添加すると、原料(例えば、乳製品等)に由来するカルシウムと結合を起こし、ミックスのゲル化が生じてしまう場合があるためである。LMペクチンは、好ましくは水溶液として添加する。その他、起泡工程は、常法に従ってクリームをホイップすることで実施できる。
【0041】
本発明のクリームは、必要に応じて殺菌工程を経ることが可能である。殺菌工程は、均質化処理後、行うことが好ましい。殺菌条件は特に制限されない。例えば、80〜90℃で15分程度の殺菌、若しくは、UHT殺菌加熱処理の場合は、90℃〜143℃で0.5〜60秒間程度の殺菌条件を例示できる。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例を用いて本発明を更に詳しく説明する。ただし、これらの例は本発明を制限するものではない。なお、実施例中の「部」「%」は、それぞれ「質量部」「質量%」を意味する。
【0043】
実験例1 ホイップドクリームの調製
(クリームの調製)
表1の処方に従い、クリームを調製した。粉体混合した乳清タンパク質、乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル及びリゾレシチン)、及びヘキサメタリン酸ナトリウムを水に加え、70℃で10分間撹拌溶解した。砂糖を添加して70℃に保持し、水相を調製した。溶解した油脂(硬化ヤシ油)を水相に添加し、70℃で5分間撹拌し、乳酸カルシウム水溶液を添加した。全量が90質量部となるように水で全量補正後、70℃にて均質化処理を行なった(第一段7.5MPa、第二段2.5MPa)。冷却後、5℃で1日間冷蔵保存(エージング工程)することで、クリームミックスを調製した。
【0044】
(ホイップドクリームの調製)
得られたクリームミックスをボウルに450g入れ、品温6℃にて、20℃の部屋で家庭用ミキサー(Kitchen Aid)を用い30秒間ホイップした。6質量%のLMペクチン水溶液50gをゆっくり加え、角が立つまでホイップすることで、ホイップドクリームを調製した。
(評価)
起泡前のクリームミックスの安定性、及び起泡後のホイップドクリームについて、表3の基準に従って物性を評価した。結果を表2に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
注1)乳清タンパク質15質量%水溶液を80℃に加熱した後、4℃に冷却後のゲル強度が、カード値で4N/cm2以下である、低ゲル強度の乳清タンパク質「ミルプロ(登録商標)L−1」(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)を使用。
注2)処方に示す添加量となるように、10質量%乳酸カルシウム水溶液を添加した。
注3)「ビストップ[登録商標]D−402」(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)を使用。
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
乳清タンパク質及びLMペクチンを用いた場合であっても、乳酸カルシウム無添加区(比較例1−1)は、ホイップドクリームの強度がわずか13gしかなく、強度に乏しいものであった。また、調製直後のホイップドクリームをプリンカップ容器の上部まで花型に絞り出し、25℃にて1日間放置後、高さの低下(上部からどれだけ高さが低下したか)を測定した。比較例1−1のホイップドクリームは、5mm程度高さが低下し、ホイップドクリームがだれていることが分かり、保形性の面からも十分ではなかった。更には、比較例1−1のホイップドクリームは、起泡後のしまりも弱く、ホイップドクリームのつや、エッジのシャープ度合いもなかった。更には、常温保存時に離水が多量に発生してしまった。
【0050】
一方、乳酸カルシウム添加区(実施例1−1)は、油脂含量が22質量%と、油脂含量が低減しているにも関わらず、100g以上の強度を有し、十分な保形性を有するホイップドクリームであった。また、比較例1−1と同様にして保形性を見るために高さの低下を測定したが、25℃で1日間経過後も高さが低下することなく、十分な保形性を有していた。更には、その他の全ての項目において良好な結果を示した。
特に、実施例1−1のホイップドクリームは凍結解凍後の離水抑制効果にも極めて優れていた。図1に、実施例1−1のホイップドクリームを凍結解凍後、花形に絞り出し、25℃で1日間静置した様子を示す。同様に、図2に、比較例1−1のホイップドクリームを凍結解凍後、花形に絞り出し、25℃で1日間静置した様子を示す。図1及び図2から明らかなように、比較例1−1は顕著に離水が発生しているのに対し、実施例1−1のホイップドクリームは、顕著に離水が抑制されていることが見て取れる。
【0051】
実験例2 ホイップドクリームの調製
(クリームの調製)
表4の処方に従い、クリームを調製した。粉体混合した乳清タンパク質、脱脂粉乳、乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル及びリゾレシチン)、発酵セルロース、及びヘキサメタリン酸ナトリウムを水に加え、70℃で10分間撹拌溶解した。砂糖を添加して70℃に保持し、水相を調製した。溶解した油脂(硬化ヤシ油)を水相に添加し、70℃で5分間撹拌し、香料及び乳酸カルシウム水溶液を添加した。全量が90質量部となるように水で全量補正後、70℃にて均質化処理を行なった(第一段7.5MPa、第二段2.5MPa)。冷却後、5℃で1日間冷蔵保存(エージング工程)することで、クリームミックスを調製した。
【0052】
(ホイップドクリームの調製)
エージング工程後のクリームミックスをボウルに450g入れ、品温6℃にて、20℃の部屋で家庭用ミキサー(Kitchen Aid)を用い30秒間ホイップを行い、6質量%のLMペクチン水溶液50gをゆっくり加え、角が立つまでホイップすることで、ホイップドクリームを調製した。
【0053】
実験例1と同様にして、表3に示す基準に従って、調製したクリームミックス及びホイップドクリームの物性を評価した。結果を表5に示す。
【0054】
【表4】
【0055】
注4)熱変性した微粒子の乳清タンパク質「シンプレス100」(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)を使用した。
注5)乳清タンパク質15質量%水溶液を80℃に加熱した後、4℃に冷却後のゲル強度が、カード値で4N/cm2を超える、中ゲル強度の乳清タンパク質「ミルプロ(登録商標)WG−900」(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)を使用した。
注6)発酵セルロースを20質量%含有する、発酵セルロース複合体製剤「サンアーティスト[登録商標]PG(発酵セルロース、CMCナトリウム及びグァーガムの複合体製剤)」(三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製)を使用。表中の数値は、発酵セルロース単体の添加量を示す。
【0056】
【表5】
【0057】
乳清タンパク質、LMペクチン及び乳酸カルシウムを併用した実施例2−1〜2−3は、エージング工程後も安定性が高いクリームミックスが得られた。また、油脂含量が22質量%と低いにも関わらず、ホイップドクリームの強度も100g以上と十分な強度を有しており、製菓・製パン用途に好適であった。また、ホイップドクリームを花型に絞り出し、静置して保形性を確認したが、十分な保形性を有していた。更には、ホイップドクリームの物性(しまり、つや、組織の細かさ、エッジのシャープ度、口溶け及び離水)のいずれも良好な結果を示した。一方、乳清タンパク質の代わりに脱脂粉乳を用いた比較例2−1は、エージング工程でミックスの粘度が経時変化と共に増粘し、凝集・分離を生じてしまった。
【0058】
なお、実施例2−1の処方において、乳清タンパク質含量を1.75質量%から3質量%に増加する以外は実施例2−1と同様にしてホイップドクリームを調製したところ(実施例2−4)、実施例2−1と同様にして、十分な強度及び保形性を有し、離水が抑制されたホイップドクリームであった。
【0059】
実験例3 ホイップドクリームの調製
(クリームの調製)
表6の処方に従い、ホイップドクリームを調製した。粉体混合した乳清タンパク質、乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル及びリゾレシチン)、及び発酵セルロースを水に加え、85℃で10分間撹拌溶解した。次いで砂糖を添加し、水相を調製した。溶解した油脂(硬化ヤシ油)を水相に添加し、70℃で10分間撹拌し、ヘキサメタリン酸ナトリウム、香料及び乳酸カルシウム水溶液を添加した。全量が90質量部となるように水で全量補正後、70℃にて均質化処理を行なった(第一段7.5MPa、第二段2.5MPa)。冷却後、5℃で1日間冷蔵保存(エージング工程)することで、クリームミックスを調製した。
【0060】
(ホイップドクリームの調製)
表7に示す処方に従って、ホイップドクリームを調製した。具体的には、エージング工程後のクリームミックス450gをボウルに入れ、品温6℃にて、20℃の部屋で家庭用ミキサー(Kitchen Aid)にて30秒間ホイップを行い、各濃度のLMペクチン水溶液50gをゆっくり加え、角が立つまでホイップすることで、ホイップドクリームを調製した。
【0061】
実験例1と同様にして、表3に示す基準に従って、調製したクリームミックス及びホイップドクリームの物性を評価した。結果を表7に示す。
【0062】
【表6】
【0063】
【表7】
【0064】
実施例3−1〜3−3のいずれのホイップドクリームも、製菓・製パン用途に好適な十分な強度を有し、離水も抑制されたホイップドクリームであった。また、ホイップドクリームを花型に絞り出し、静置して保形性を確認したが、いずれも十分な保形性を有しており、物性面(しまり、つや、組織の細かさ、エッジのシャープ度、及び口溶け等)でも優れたホイップドクリームであった。更に、実施例3−1〜3−3のホイップドクリームを厚さ40mm程度のシート状に成形後、5倍以上の加重をかけたが、型くずれが生じることもなく、十分な強度を有するホイップドクリームであった。
【0065】
また、実施例3−1及び3−3のホイップドクリームを絞り出し、パンにサンドしたが、クリームからの水分によってパン素材が柔らかくなることもなく、十分な保形性を有し、加工特性にも優れていた。
【0066】
実験例4 ホイップドクリームの調製
(クリームの調製)
表8の処方に従い、クリームを調製した。粉体混合した乳清タンパク質、乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル及びリゾレシチン)、発酵セルロース、及び塩類(ヘキサメタリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム)を水に加え、70℃で10分間撹拌溶解した。砂糖を添加して70℃に保持し、水相を調製した。溶解した油脂(硬化ヤシ油)を水相に添加し、70℃で5分間撹拌し、香料及び乳酸カルシウム水溶液を添加した。全量が90質量部となるように水で全量補正後、70℃にて均質化処理を行なった(第一段7.5MPa、第二段2.5MPa)。冷却後、5℃で1日間冷蔵保存(エージング工程)することで、クリームミックスを調製した。
【0067】
(ホイップドクリームの調製)
エージング工程後のクリームミックスをボウルに500g入れ、品温6℃にて、20℃の部屋で家庭用ミキサー(Kitchen Aid)を用い30秒間ホイップを行い、4質量%のLMペクチン水溶液55gをゆっくり加え、角が立つまでホイップすることで、ホイップドクリームを調製した。
【0068】
実験例1と同様にして、表3に示す基準に従って、調製したクリームミックス及びホイップドクリームの物性を評価した。結果を表9に示す。
【0069】
【表8】
【0070】
【表9】
【0071】
実施例4−1〜4−3のホイップドクリームは、製菓・製パン用途に好適な強度を有し、離水も抑制されていた。また、ホイップドクリームを花型に絞り出し、静置して保形性を確認したが、いずれも十分な保形性を有していた。特に、メタリン酸ナトリウムを使用した実施例4−1は、1日静置後のホイップドクリームの強度が120と十分な強度を有し、更に、物性面(しまり、つや、組織の細かさ、エッジのシャープ度、及び口溶け等)でも非常に優れたホイップドクリームであった。
図1
図2