特許第6309242号(P6309242)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6309242ケミカルループ燃焼装置を備えた微粉炭燃焼ボイラ発電システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6309242
(24)【登録日】2018年3月23日
(45)【発行日】2018年4月11日
(54)【発明の名称】ケミカルループ燃焼装置を備えた微粉炭燃焼ボイラ発電システム
(51)【国際特許分類】
   F23K 1/00 20060101AFI20180402BHJP
   F23C 10/10 20060101ALI20180402BHJP
   F23L 15/00 20060101ALI20180402BHJP
【FI】
   F23K1/00 B
   F23C10/10
   F23L15/00 A
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-225705(P2013-225705)
(22)【出願日】2013年10月30日
(65)【公開番号】特開2015-87053(P2015-87053A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年10月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】514030104
【氏名又は名称】三菱日立パワーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000442
【氏名又は名称】特許業務法人 武和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武田 豊
(72)【発明者】
【氏名】竹田 誠
(72)【発明者】
【氏名】吉廻 秀久
【審査官】 渡邉 聡
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/040645(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0050654(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0223083(US,A1)
【文献】 特開2012−086214(JP,A)
【文献】 特開2013−194213(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/052417(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F23K 1/00
F23C 10/10
F23L 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料反応器と空気反応器の間にサイクロンが配置されて、金属粒子が循環流動するように前記燃料反応器とサイクロンと空気反応器がループ状に接続したケミカルルーピング燃焼装置を、空気燃焼型の微粉炭燃焼ボイラ発電システムに併設し、
前記燃料反応器は固体燃料と前記空気反応器で酸化された金属粒子を反応させて金属粒子を還元し、COとHOを生成させ、
前記空気反応器は空気中の酸素と前記燃料反応器で還元された金属粒子を反応させて金属粒子を酸化し、窒素や残存酸素を放出し、
前記燃料反応器に前記固体燃料としてバイオマスを供給し、
前記空気反応器に前記微粉炭燃焼ボイラ発電システムからの予熱空気を供給し、
前記サイクロンからの排ガスを前記微粉炭燃焼ボイラ発電システムの火炉へ導入し、
前記ケミカルルーピング燃焼装置で製造した蒸気を前記微粉炭燃焼ボイラ発電システムの蒸気タービンへ供給する
構成になっていることを特徴とするケミカルルーピング燃焼装置を備えた微粉炭燃焼ボイラ発電システム。
【請求項2】
燃料反応器と空気反応器の間にサイクロンが配置されて、金属粒子が循環流動するように前記燃料反応器とサイクロンと空気反応器がループ状に接続したケミカルルーピング燃焼装置を、空気燃焼型の微粉炭燃焼ボイラ発電システムに併設し、
前記燃料反応器は固体燃料と前記空気反応器で酸化された金属粒子を反応させて金属粒子を還元し、COとHOを生成させ、
前記空気反応器は空気中の酸素と前記燃料反応器で還元された金属粒子を反応させて金属粒子を酸化し、窒素や残存酸素を放出し、
前記燃料反応器に前記微粉炭燃焼ボイラ発電システムの微粉炭ラインから前記固体燃料として微粉炭を供給し、
前記空気反応器に前記微粉炭燃焼ボイラ発電システムからの予熱空気を供給し、
前記サイクロンからの排ガスを前記微粉炭燃焼ボイラ発電システムの火炉へ導入し、
前記ケミカルルーピング燃焼装置で製造した蒸気を前記微粉炭燃焼ボイラ発電システムの蒸気タービンへ供給する
構成になっていることを特徴とするケミカルルーピング燃焼装置を備えた微粉炭燃焼ボイラ発電システム。
【請求項3】
燃料反応器と空気反応器の間にサイクロンが配置されて、金属粒子が循環流動するように前記燃料反応器とサイクロンと空気反応器がループ状に接続したケミカルルーピング燃焼装置を、空気燃焼型の微粉炭燃焼ボイラ発電システムに併設し、
前記燃料反応器は固体燃料と前記空気反応器で酸化された金属粒子を反応させて金属粒子を還元し、COとHOを生成させ、
前記空気反応器は空気中の酸素と前記燃料反応器で還元された金属粒子を反応させて金属粒子を酸化し、窒素や残存酸素を放出し、
前記燃料反応器に前記固体燃料としてバイオマスと微粉炭の混合燃料を供給し、
前記空気反応器に前記微粉炭燃焼ボイラ発電システムからの予熱空気を供給し、
前記サイクロンからの排ガスを前記微粉炭燃焼ボイラ発電システムの火炉へ導入し、
前記ケミカルルーピング燃焼装置で製造した蒸気を前記微粉炭燃焼ボイラ発電システムの蒸気タービンへ供給する
構成になっていることを特徴とするケミカルルーピング燃焼装置を備えた微粉炭燃焼ボイラ発電システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,地球温暖化問題となる二酸化炭素(CO2)の排出削減に係り、特に化石燃料ボイラ発電などで使用する化石燃料を燃焼することによって発生するCO2の分離回収技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、発電燃料としてコスト的に石炭火力が見直されつつあるが、地球温暖化の原因の一つとして、微粉炭燃焼ボイラ発電設備からのCO2排出が問題視されている。CO2排出削減策として2002年に電気事業者に新エネルギー等から発電される電気を一定割合以上利用することを義務づける法規制(RPS法)が制定され、動植物に由来する有機物であるバイオマスを燃料として使用するバイオマス発電システムの普及が進んでいる。
【0003】
既存の微粉炭燃焼ボイラ発電システムからのCO2排出量削減のため、石炭とバイオマスとを混合して燃焼させるバイオマス・石炭混焼方式が実用化されている。しかし、バイオマス・石炭混焼方式ではバイオマス中のアルカリ金属によるボイラ伝熱管の腐食の可能性が危惧されている。このため、バイオマスの混焼割合を数%と低くした条件でバイオマス・石炭混焼発電が実施されている。
【0004】
一方、燃焼排ガスからのCO2を分離・回収して貯留する技術(CCS : Carbon dioxide Capture and Storage)が、CO2の排出削減に有効な手段として注目されている。化石燃料を使用するボイラ設備に適用可能なCCS技術には、化学吸収法、酸素燃焼法、ケミカルルーピング燃焼(CLC:Chemical Looping Combustion)法などがある。しかし、化学吸収法はCO2を吸着した液を再生するために多くの熱エネルギーが必要であり、また前記酸素燃焼技術では酸素製造装置を駆動するには多大な動力が必要なため、これら従来のCCS技術では消費エネルギーの低減が望まれている。これに対してCLCは、化学吸収法の液再生エネルギーや、酸素燃焼法における酸素製造装置の動力が不要であるため、CCS技術の消費エネルギーを大幅に低減し、発電効率の低下を抑制できるという特長を有している。
【0005】
CLCとは、空気を燃料に直接接触させずに、酸素キャリアである金属酸化物(MeO)で燃料を酸化反応させ、その酸化反応によって還元された金属(Me)は空気で酸化して金属酸化物(MeO)として、再利用する技術である。これによって反応生成物は、CO2と水分となり、CO2の回収が容易となる技術である。
【0006】
図2はCLCの原理を説明するための図である。CLCは同図に示すように空気反応器1と燃料反応器2で構成され、その間を金属粒子(MeO)4と金属粒子(Me)5が循環流動するシステムになっている。
【0007】
空気反応器1では、金属粒子(Me)5が空気6中の酸素と反応し金属酸化物(MeO)となる。
【0008】
MexOy-1+0.5O2→MexOy (1)
酸化した金属粒子(MeO)4はサイクロン(図示せず)で排ガス(N2、O2など)8と分離され、燃料反応器2へ送られる。燃料反応器2では高温の金属粒子(MeO)4と固体燃料(例えば石炭)7が接触して、金属粒子(MeO)4の酸素と固体燃料7が反応する。このとき、固体燃料7を酸化した金属粒子(MeO)4は還元されて金属粒子(Me)5となり、再び空気反応器1へ戻る循環ループを形成する。
【0009】
(2n+m)MexOy+CnH2m→(2n+m)MexOy-1+mH2O+nCO2 (2)
空気反応器1からは、窒素や残存酸素を含んだ排気ガス8が放出される。燃料反応器2からは、CO2 ガス9やH2O(水蒸気)10などが排出される。これらのガスは高温のため、排熱回収ボイラ(図示せず)で熱回収して、その熱回収で生成した蒸気を発電に利用する。(非特許文献1参照)。
【0010】
図7は従来のCLC装置の具体例を示す概略系統図である。同図に示すようにCLC装置は、空気反応器1、サイクロン11、熱回収器64、除塵器65、排気設備66、燃料反応器2、サイクロン12、熱交換器13、除塵器16、脱液/脱水器17、CO2液化装置18などを備えている。空気反応器1-サイクロン11-燃料反応器2-空気反応器1の間は、金属粒子4、5が循環できるように配管でループ状に接続されている。
【0011】
なお、CLC装置に関する従来技術としては、例えば特許文献1〜5や非特許文献1などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2013-194213号公報
【特許文献2】特開2011-178572号公報
【特許文献3】米国特許第7767191号明細書
【特許文献4】米国特許第0265978号明細書
【特許文献5】WO2010052417号公報
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】吉田、小野崎:ケミカルルーピング燃焼技術:季報 エネルギー総合工学研究所、vol33、No.1、pp29-35、2010、4
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
最近、事業用発電設備では、CO2削減の緊急対策として、バイオマス・微粉炭混焼が推奨されている。しかしながら、バイオマスは繊維状であるため、微粉炭用ミルの圧砕式では粒子径を細かくできず、バーナでの燃焼性が低下する。そのため、バイオマス・微粉炭混焼にはバイオマス専用のミルとバーナの追設が必要となりコスト負担が大きい。
【0015】
また、バイオマスの燃焼灰は低融点であり、混焼率の増大により灰付着(スラッギング、ファウリング)及び腐食等の発生が問題となる。 特に、バイオマス燃料中のカリウム(K)、ナトリウム(Na)等のアルカリ金属は、灰中成分と反応し、低融点化合物を生成させ腐食を加速する。さらに、この低融点化合物はバインダー作用により灰付着を誘発し、伝熱阻害等に発展するといった課題があった。従って既存の微粉炭燃焼ボイラ発電システムにバイオマス・微粉炭混焼を適用することは技術的にも経済的にも困難であった。このため、バイオマスの混焼割合を数%と低くした運用をせざるを得なかった。
【0016】
そこで、上記課題を解決する方法として本発明では、既存微粉炭燃焼ボイラ発電システムにバイオマス専焼用のケミカルルーピング燃焼装置を併設し、同時運転することで、バイオマス・石炭混焼とエネルギー損失を抑制したCO2回収を実現するものである。
【0017】
他のCCS技術である化学吸収法では、吸収液再生エネルギーにボイラ蒸気を抽気するため、エネルギー損失が大きく、また一般的な化学吸収液であるアミン系液は人体や環境への負荷が大きいといった課題がある。酸素燃焼法では、CO2全量回収用であり、CO2回収率を10%〜50%等といったフレキシブルな運用に対応することができないといった課題がある。従って、バイオマス専焼用にはエネルギー損失が他のCCS技術より少ないCLCが好適である。
【0018】
本発明は、固体燃料を燃焼させる際に、ボイラの腐食や伝熱阻害などの課題を解消し、CO2回収が可能なケミカルループ燃焼装置を備えた微粉炭燃焼ボイラ発電システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
前記目的を達成するため、本発明の第1の手段は、
燃料反応器と空気反応器の間にサイクロンが配置されて、金属粒子が循環流動するように前記燃料反応器とサイクロンと空気反応器がループ状に接続したケミカルルーピング燃焼装置を、空気燃焼型の微粉炭燃焼ボイラ発電システムに併設し、
前記燃料反応器は固体燃料と前記空気反応器で酸化された金属粒子を反応させて金属粒子を還元し、COとHOを生成させ、
前記空気反応器は空気中の酸素と前記燃料反応器で還元された金属粒子を反応させて金属粒子を酸化し、窒素や残存酸素を放出し、
前記燃料反応器に前記固体燃料としてバイオマスを供給し、
前記空気反応器に前記微粉炭燃焼ボイラ発電システムからの予熱空気を供給し、
前記サイクロンからの排ガスを前記微粉炭燃焼ボイラ発電システムの火炉へ導入し、
前記ケミカルルーピング燃焼装置で製造した蒸気を前記微粉炭燃焼ボイラ発電システムの蒸気タービンへ供給する構成になっていることを特徴とするものである。
【0020】
前記目的を達成するため、本発明の第2の手段は、
燃料反応器と空気反応器の間にサイクロンが配置されて、金属粒子が循環流動するように前記燃料反応器とサイクロンと空気反応器がループ状に接続したケミカルルーピング燃焼装置を、空気燃焼型の微粉炭燃焼ボイラ発電システムに併設し、
前記燃料反応器は固体燃料と前記空気反応器で酸化された金属粒子を反応させて金属粒子を還元し、COとHOを生成させ、
前記空気反応器は空気中の酸素と前記燃料反応器で還元された金属粒子を反応させて金属粒子を酸化し、窒素や残存酸素を放出し、
前記燃料反応器に前記微粉炭燃焼ボイラ発電システムの微粉炭ラインから前記固体燃料として微粉炭を供給し、
前記空気反応器に前記微粉炭燃焼ボイラ発電システムからの予熱空気を供給し、
前記サイクロンからの排ガスを前記微粉炭燃焼ボイラ発電システムの火炉へ導入し、
前記ケミカルルーピング燃焼装置で製造した蒸気を前記微粉炭燃焼ボイラ発電システムの蒸気タービンへ供給する構成になっていることを特徴とするものである。
【0021】
前記目的を達成するため、本発明の第3の手段は、
燃料反応器と空気反応器の間にサイクロンが配置されて、金属粒子が循環流動するように前記燃料反応器とサイクロンと空気反応器がループ状に接続したケミカルルーピング燃焼装置を、空気燃焼型の微粉炭燃焼ボイラ発電システムに併設し、
前記燃料反応器は固体燃料と前記空気反応器で酸化された金属粒子を反応させて金属粒子を還元し、COとHOを生成させ、
前記空気反応器は空気中の酸素と前記燃料反応器で還元された金属粒子を反応させて金属粒子を酸化し、窒素や残存酸素を放出し、
前記燃料反応器に前記固体燃料としてバイオマスと微粉炭の混合燃料を供給し、
前記空気反応器に前記微粉炭燃焼ボイラ発電システムからの予熱空気を供給し、
前記サイクロンからの排ガスを前記微粉炭燃焼ボイラ発電システムの火炉へ導入し、
前記ケミカルルーピング燃焼装置で製造した蒸気を前記微粉炭燃焼ボイラ発電システムの蒸気タービンへ供給する構成になっていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0022】
本発明は前述のような構成になっており、バイオマス使用のケミカルルーピング燃焼装置を併設することで、バイオマスによる既存微粉炭燃焼ボイラの腐食や灰付着による伝熱阻害等を防止することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施例1に係る既存微粉炭燃焼ボイラに併設したバイオマス専焼用ケミカルルーピング燃焼(CLC)装置の概略系統図である。
図2】ケミカルルーピング燃焼の原理を説明するための模式図である。
図3】3塔式ケミカルルーピング燃焼の原理を説明するための模式図である。
図4】本発明の実施例2に係る既存微粉炭燃焼ボイラに併設した3塔式のバイオマス専焼用ケミカルルーピング燃焼(CLC)装置の概略系統図である。
図5】本発明の実施例3に係るケミカルルーピング燃焼装置の具体例を示す概略系統図である。
図6】本発明の実施例4に係るケミカルルーピング燃焼装置の具体例を示す概略系統図である。
図7】従来のケミカルルーピング燃焼装置の具体例を示す概略系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、バイオマス使用のケミカルルーピング燃焼装置を併設することで、バイオマスによる既存微粉炭燃焼ボイラの腐食や灰付着による伝熱阻害等を防止することが可能である。
【0025】
既設の微粉炭燃焼ボイラとその排ガス処理装置およびボイラ用水処理設備が利用できるため、追設ケミカルルーピング燃焼装置の設備コストが低減できる。さらにケミカルルーピング燃焼装置で発生する蒸気は既設蒸気タービンでの発電が可能である。
【0026】
既設微粉炭燃焼ボイラとケミカルルーピング燃焼装置とを同時に運転し、CO2排出量の部分削減が可能である。全体のCO2回収率は微粉炭燃焼ボイラとケミカルルーピング燃焼装置のバイオマス燃料の分担割合によって決まるが、発電システムの負荷変動に対し自由度が高いといった利点がある。
【0027】
ケミカルルーピング燃焼装置と微粉炭燃焼ボイラを同時に運転した場合、微粉炭燃料を分割供給した微粉炭燃焼ボイラからの蒸気発生量は燃料の分割に比例して減少するが、同時運転したケミカルルーピング燃焼装置から発生した蒸気を既設蒸気タービンへ供給するため、微粉炭燃焼ボイラ発電システムを単独で運転したときと得られる蒸気量はほとんど変わらない。すなわち、トータルの燃料から得られる蒸気量は、単独運転でも併用運転でもほとんど変わらない。従ってCO2回収における、エネルギー損失はほとんど無いことになる。
【0028】
次に本発明の各実施例を図面とともに説明する。
【実施例1】
【0029】
図1は、本発明の実施例1に係る既存微粉炭燃焼ボイラに併設したバイオマス専焼用ケミカルルーピング燃焼(CLC)装置の概略系統図である。
【0030】
同図の左下部分に示したバイオマス専焼用ケミカルルーピング燃焼(CLC)システムの系統は、空気反応器1、燃料反応器2、空気反応器1の後流側に配置されたサイクロン11、CLC-微粉炭燃焼ボイラ連結管14、燃料反応器2の後流側に配置されたサイクロン12、熱交換器13、除塵器14、脱液/脱水器17、CO2液化装置18、バイオマス専用のバンカ51、バイオマス専用のミル52、燃料供給管19などを備え、図1に示すような接続関係になっている。
【0031】
CLCは、空気反応器1−サイクロン11−燃料反応器2−空気反応器1の間は、金属粒子4、5が循環できるよう、ループ状に接続されている。
【0032】
バイオマス燃料55は、バイオマスバンカ51ならびにバイオマス専用ミル52を経て、燃料供給管19内を通って燃料反応器2に供給される。ミル52では燃料(バイオマス)搬送ガス53にCO2ガスを使用する。なお、バイオマス燃料55は、ペレット状に成形されたものや、チップ状に裁断されたものとして提供されることが多いが、燃料反応器2は、内部で流動層もしくは移動層を形成する方式となっているため、バイオマス専用ミル52を設けることなく、提供されたペレット状やチップ状のバイオマスを、直接、燃料反応器2に供給することも可能である。
【0033】
図2は、ケミカルルーピング燃焼の原理を説明するための模式図である。同図に示すように、燃料反応器2では固体燃料7(本実施例ではバイオマス燃料55)が金属粒子4(MeO)と反応し、CO2とH2O(水蒸気)が生成する。還元された金属粒子5(Me)5は、搬送ガス26に同伴されて、空気反応器1へ移送される。
【0034】
空気反応器1には、同図の右上部分に示した微粉炭燃焼ボイラ発電システムの2次空気47のダクトに連結した予熱空気供給管20から高温の予熱空気6を供給する。空気反応器1の内部では予熱空気6と金属粒子(Me)5が反応して、酸化した金属粒子(MeO)4を生成する。金属粒子(MeO)4は排気ガス(N2、残留O2、飛灰など)8と共にサイクロン11に移動され、比重差により固体の金属粒子(MeO)4と気体の排気ガス8に分離される。空気反応器1内では酸化反応による発熱で、排気ガス8のガス温度は約1000℃に達する。
【0035】
排気ガス8は、CLC-微粉炭燃焼ボイラ連結管14を介して火炉36内に導入される。そして微粉炭燃焼ガス49と混合され、ボイラの高温過熱器40、高温再熱器41、低温過熱器42、低温再熱器43、節炭器44などで熱回収して、それによって生成した蒸気が蒸気タービン(図示せず)に送られて発電に利用される。
【0036】
排気ガス8には腐食因子である揮発したアルカリ金属類は含まれないため、高温過熱器40、高温再熱器41、低温過熱器42、低温再熱器43、節炭器44等の熱回収部は腐食されない。
【0037】
金属粒子(MeO)4は、重力でサイクロン11の下部に落下しループシール21を通過して、燃料反応器2に移動する。燃料反応器2の内部では、金属粒子(MeO)4を浮遊流動させながら金属粒子(MeO)4と燃料7が反応してCO2ガスとH2O(水蒸気)が生成する。また、金属粒子(MeO)4は揮発分13との反応により還元されて金属粒子(Me)5となり、ループシール25を通過して、空気反応器1に移動する。
【0038】
このようにCLC装置では、金属粒子4、5が燃料反応器2→空気反応器1→燃料反応器2→・・・を循環流動しながら固体燃料7と反応している。また、金属粒子4、5を搬送する配管に使用する搬送用流体には、系内で生成したCO2ガス及び/あるいはH2O(水蒸気)が利用される。
【0039】
燃料反応器2から生成したCO2ガス9とH2O(水蒸気)10はサイクロン12を介し、熱交換器13に送られて冷却される。熱交換器13で得られた蒸気は図示しない微粉炭燃焼ボイラ発電の蒸気タービン発電や補助蒸気に使用される。冷却されたCO2ガス9とH2O(水蒸気)10は除塵器16、脱液/脱水器17で浄化され、CO2液化装置18でCO2ガス9の圧縮液化が行われ、液化したCO2はCO2貯留装置(図示せず)に貯留される。
【0040】
燃料反応器2から生成したガスには腐食因子であるアルカリ金属類が含まれるが、熱交換器13で凝縮するため、後流のCO2中にはアルカリ金属類は含まれない。熱交換器13はアルカリ金属類による腐食の可能性があるが、高Cr鋼などの耐腐食性材料の使用やスートブローにより腐食を抑制する。また、熱交換器13が腐食により一定量の減肉が認められた場合、交換し易くなるよう、ユニット式を採用するのが望ましい。
【0041】
熱交換器13では、発生した蒸気15を燃料反応器2に導入し、ガス化剤及び金属粒子5の流動化ガスとして利用する。
【0042】
前記の空気反応器1では予熱空気6と金属粒子5が酸化反応し、発熱する。発生した熱は空気反応器1の水冷壁7で熱交換し、生成した蒸気は微粉炭燃焼ボイラの蒸気タービン(図示せず)に供給して発電に利用する。
【0043】
金属粒子(MeO)4としては、例えばニッケル(Ni)、鉄(Fe)、銅(Cu)、カルシウム(Ca)などの酸化物が使用される。特に酸化鉄は無公害で安価なためCLCに好適である。金属粒子(MeO)4としては、酸化鉄を使用した場合の、還元/酸化反応式を下記に示す。
【0044】

還元反応:バイオマス+ 6Fe2O3 ⇒ 4Fe3O4 + CO2−吸熱 (3)
酸化反応:4Fe3O4 + O2(空気) ⇒ 6Fe2O3 + 発熱 (4)

金属粒子(MeO)4として酸化鉄を使用した場合、金属粒子(MeO)4はFe2O3、金属粒子(Me)5はFe3O4に相当する。そして空気反応器1では前記式(4)に示すFe3O4と空気の酸化反応が生じ、燃料反応器2では、前記式(3)に示すFe2O3の還元反応が生じる。
次に空気反応器1ならびに燃料反応器2の機器寸法について説明する。
空気反応器1は導入した金属粒子(Me)5を空気6により上昇させるため、空気6の空塔速度が金属粒子(Me)5の終末速度よりも速くなるように空気反応器1の断面積を設計する。
【0045】
燃料反応器2は金属粒子(MeO)4を蒸気15のガス量により流動化させるため、空塔速度が流動化開始速度よりも速くなるように燃料反応器2の断面積を設計する。
【0046】
また、各反応器の温度は高温ほど反応速度が速くなるものの、1100℃以上では灰が溶融し、冷却時に固化して、閉塞する可能性があるため、各反応器の上限温度は1000℃付近が望ましい。
【0047】
次に本発明に係るケミカルループ燃焼装置を備えた微粉炭燃焼ボイラ発電システムの作用について述べる。
【0048】
既存微粉炭燃焼ボイラ発電では、地球温暖化の要因であるCO2を大量に排出しているため、CCS技術の採用が急がれている。前述のように、先行CCS技術としては、化学吸収法や酸素燃焼法が開発されているが、エネルギー損失が大きく、発電効率の大幅な低下を招くという欠点がある。これに対し、CLCを適用すれば、排ガス中のCO2分離回収装置、空気分離酸素製造装置が不要となり、より高効率な火力発電システムを構築できると期待されている。
【0049】
本発明は、バイオマス使用のケミカルルーピング燃焼装置を併設することで、バイオマスによる既存微粉炭燃焼ボイラの腐食や灰付着による伝熱阻害等を防止することが可能である。
【0050】
また、CLCから発生する蒸気や高温排ガスを微粉炭燃焼ボイラシステムに戻すため、 微粉炭燃焼ボイラシステムが混燃運転したときと得られる蒸気量はほとんど変わらない。すなわちCO2回収してもほとんどエネルギー損失が伴わないメリットがある。
【0051】
また、図7の従来技術に示した熱回収装置64、除塵器65、排気塔66、固形燃料バンカ61、ミル62 には既存の微粉炭燃焼ボイラの設備を利用することで新設が不要になり、設備コストを大幅に抑制できる。
【0052】
既存の大型微粉炭燃焼ボイラ発電システムにCLCを併設することで、安価にCLC装置を設置でき、CO2排出抑制に貢献できる。
CLCは無害な固体粒子を用いるため、化学吸収法で用いる薬剤による人体や環境へ負荷を防止できる効果がある。
酸素燃焼法では対応できない部分CO2回収がCLCを同時運転することで対応可能である。
【0053】
本発明によれば、CLC装置をバイオマス用に使用し、既存の微粉炭燃焼ボイラ発電システムと同時運転すれば、低コストでバイオマス燃焼が可能となる。同時にCO2削減を達成できる。
【0054】
図1において符号14,22は搬送ガス、25,50はループシール、27はブロア、28,29は弁、30は石炭バンカ、32は既存ミル、33は1次空気ライン、34は微粉炭ライン、37は水冷壁、38は水、39は蒸気、45は脱硝装置、46はエアヒ―タ、48は空気、49は燃焼排ガスである。
【実施例2】
【0055】
本発明のCLC装置において微粉炭と金属粒子の反応性を向上させるため、図3に示すように、燃料反応器2を分割し、燃料反応器2と揮発分反応器3の2塔に分けて、空気反応器1と合わせて3塔式CLC装置(特許文献1参照)も本発明に使用可能である。
【0056】
この3塔式CLC装置の性能が向上する理由は、石炭を熱分解したときに発生する揮発分がチャーのガス化反応の阻害要因であるが、その揮発分を分離したことでチャーのガス化反応を効率よく進行できるためである。
【0057】
図4は、本発明の実施例2に係る既存微粉炭燃焼ボイラに併設した3塔式のバイオマス専焼用ケミカルルーピング燃焼(CLC)装置の概略系統図である。
【0058】
図1との差異は、揮発分反応器3が加わったことである。3塔式CLC装置は、空気反応器1−サイクロン11−揮発分反応器3−燃料反応器2−空気反応器1の間は、金属粒子4、5が循環できるよう、エンドレス状に接続されている。
【0059】
3塔式CLCでは燃料反応器2内でのチャー滞留時間を確保するために、燃料反応器2内は移動層としてある。移動層とは、金属粒子が連続的に供給され、砂時計の如く、金属粒子が充填されたままゆっくりと下方へ移動し、ガス化剤(蒸気)15は粒子の隙間を流れて上方へ移動し、チャーはその移動層内でゆっくりとガス化反応する。移動層は気泡流動層のようにガス流速が速くないため、チャーが飛散して、燃料反応器2の内面に固着するようなことは無い。
【0060】
一方、揮発分反応器3は流動層とし、流動化ガスとして燃料反応器2から発生した揮発分57を利用することで、揮発分57と酸素キャリアである金属粒子(MeO)4の接触を良好に行い、反応性を高める効果がある。
【0061】
揮発分57の主成分はCH4とCOとH2であり、揮発分反応器3では揮発分57と金属粒子(MeO)4であるFe2O3の間で下記の反応が生じる。
【0062】
CH4+6Fe2O3 ⇒ CO +H2O+4Fe3O4 (5)
CO+3Fe2O3 ⇒ CO2+2Fe3O4 (6)
H2+3Fe2O3 ⇒ H2O+2Fe3O4 (7)

次に3塔式CLC装置の空気反応器1、燃料反応器2ならびに揮発分反応器3の機器寸法について説明する。
空気反応器1は導入した金属粒子(Me)5を空気6により上昇させるため、空気6の空塔速度が金属粒子(Me)5の終末速度よりも速くなるように空気反応器1の断面積を設計する。
【0063】
燃料反応器2は金属粒子4、5が移動層を形成するため、ガス化剤15の流速は、金属粒子4、5の流動化開始速度より遅くなるように燃料反応器2の断面積を設計する。
【0064】
揮発分反応器3は金属粒子(MeO)4を揮発分57のガス量により流動化させるため、揮発分57の空塔速度が流動化開始速度よりも速くなるように揮発分反応器3の断面積を設計する。この3塔式CLC装置を用いた場合、固体燃料(バイオマス)と金属粒子の反応性の向上が図れる。
【0065】
本発明では、バイオマス専用供給系をCLC装置に設置することで、既存の微粉炭燃焼ボイラをバイオマス・微粉炭の混焼装置に改造する必要がなく、費用を抑制できる。またCLCをバイオマス専焼で運用するため、既存の微粉炭燃焼ボイラは、バイオマス燃焼による腐食や伝熱阻害および燃焼率低下などの課題を回避できる。
【実施例3】
【0066】
図5は、本発明の実施例3に係るケミカルルーピング燃焼装置の具体例を示す概略系統図である。CLCは、空気反応器1、燃料反応器2、空気反応器1の後流側に配置されたサイクロン11、CLC-微粉炭燃焼ボイラ連結管14、燃料反応器2の後流側に配置されたサイクロン12、熱交換器13、除塵器14、脱液/脱水器17、CO2液化装置18、微粉炭燃焼ボイラからの燃料供給管19と予熱空気管20などを備え、図5に示すような接続関係になっている。
【0067】
固体燃料(例えば石炭)7は、微粉炭燃焼ボイラの石炭バンカ30ならびに既存ミル31を経由して、分岐配管した燃料供給管19内を通って燃料反応器2に供給される。既存ミル31では微粉炭搬送ガスに空気を用いているため、CLC装置用にCO2ガスで搬送するよう改造する。
【0068】
図1に示す実施例1との差異は、石炭専焼用CLCを設置したことである。
CLCで採用する気泡流動層や循環流動層では、使用可能な燃料種が多く、例えば褐炭など低価格な石炭種範囲が拡大し、発電コストの低下が可能である。
【0069】
また、CO2回収率は必ずしも100%回収である必要はなく、30%〜70%とする現実的な妥協案も考えられる。この場合、本実施例3のような既設微粉炭燃焼とCLCとの同時運転で対応可能である。全体のCO2回収率は微粉炭燃焼ボイラシステムとCLCの分担割合によって決まるが、燃料の分担比で制御可能であるため、発電システムの運用上の自由度が高いというメリットがある。
【0070】
また、CLCから発生する蒸気や高温排ガスを微粉炭燃焼ボイラシステムに戻すため、 微粉炭燃焼ボイラシステムが単独運転したときと得られる蒸気量はほとんど変わらない。すなわちCO2回収してもほとんどエネルギー損失が伴わないメリットがある。
【実施例4】
【0071】
図6は、本発明の実施例4に係るケミカルルーピング燃焼装置を備えた微粉炭燃焼ボイラ発電システムの具体例を示す概略系統図である。図5に示す実施例3との差異は、CLC装置にバイオマス専用ミル52と微粉炭専用ミル31を設け、CLC装置の燃料にバイオマス・微粉混合物を使用した点である。
【0072】
本実施例4による効果は、発熱量が少ないバイオマス燃料に微粉炭燃料を混合することで、定格の熱量を確保して安定した蒸気量を得ることができるなどの利点がある。
前記図5(実施例3)ならびに図6 (実施例4)では、2塔式のケミカルルーピング燃焼装置を使用した場合を示しているが、前述した3塔式のケミカルルーピング燃焼装置を用いることも可能である。
【0073】
以上のように本発明は、ケミカルルーピング燃焼装置の実用化に重要な技術であり、CO2削減効果が大きく、将来性は高い。さらに、石炭以外では、安価なバイオマスや褐炭などの燃料へも適用でき、発電単価の低減に有効である。
【符号の説明】
【0074】
1:空気反応器
2:燃料反応器
3:揮発分反応器
4:金属粒子(MeO)
5:金属粒子(Me)
6:予熱空気
7:固体燃料(石炭)
8:排気ガス(N2、O2、飛灰)
11:サイクロン(空気反応器後段)
15:ガス化剤(蒸気)
19:燃料供給管
36:火炉
51:バイオマスバンカ
52:バイオマス用ミル
53:燃料搬送用ガス
54:バイオマス供給管
55:バイオマス燃料
56:バイオマス・微粉炭混合燃料
60:予熱空気配管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7