【実施例1】
【0029】
図1は、本発明の実施例1に係る既存微粉炭燃焼ボイラに併設したバイオマス専焼用ケミカルルーピング燃焼(CLC)装置の概略系統図である。
【0030】
同図の左下部分に示したバイオマス専焼用ケミカルルーピング燃焼(CLC)システムの系統は、空気反応器1、燃料反応器2、空気反応器1の後流側に配置されたサイクロン11、CLC-微粉炭燃焼ボイラ連結管14、燃料反応器2の後流側に配置されたサイクロン12、熱交換器13、除塵器14、脱液/脱水器17、CO
2液化装置18、バイオマス専用のバンカ51、バイオマス専用のミル52、燃料供給管19などを備え、
図1に示すような接続関係になっている。
【0031】
CLCは、空気反応器1−サイクロン11−燃料反応器2−空気反応器1の間は、金属粒子4、5が循環できるよう、ループ状に接続されている。
【0032】
バイオマス燃料55は、バイオマスバンカ51ならびにバイオマス専用ミル52を経て、燃料供給管19内を通って燃料反応器2に供給される。ミル52では燃料(バイオマス)搬送ガス53にCO
2ガスを使用する。なお、バイオマス燃料55は、ペレット状に成形されたものや、チップ状に裁断されたものとして提供されることが多いが、燃料反応器2は、内部で流動層もしくは移動層を形成する方式となっているため、バイオマス専用ミル52を設けることなく、提供されたペレット状やチップ状のバイオマスを、直接、燃料反応器2に供給することも可能である。
【0033】
図2は、ケミカルルーピング燃焼の原理を説明するための模式図である。同図に示すように、燃料反応器2では固体燃料7(本実施例ではバイオマス燃料55)が金属粒子4(MeO)と反応し、CO
2とH
2O(水蒸気)が生成する。還元された金属粒子5(Me)5は、搬送ガス26に同伴されて、空気反応器1へ移送される。
【0034】
空気反応器1には、同図の右上部分に示した微粉炭燃焼ボイラ発電システムの2次空気47のダクトに連結した予熱空気供給管20から高温の予熱空気6を供給する。空気反応器1の内部では予熱空気6と金属粒子(Me)5が反応して、酸化した金属粒子(MeO)4を生成する。金属粒子(MeO)4は排気ガス(N
2、残留O
2、飛灰など)8と共にサイクロン11に移動され、比重差により固体の金属粒子(MeO)4と気体の排気ガス8に分離される。空気反応器1内では酸化反応による発熱で、排気ガス8のガス温度は約1000℃に達する。
【0035】
排気ガス8は、CLC-微粉炭燃焼ボイラ連結管14を介して火炉36内に導入される。そして微粉炭燃焼ガス49と混合され、ボイラの高温過熱器40、高温再熱器41、低温過熱器42、低温再熱器43、節炭器44などで熱回収して、それによって生成した蒸気が蒸気タービン(図示せず)に送られて発電に利用される。
【0036】
排気ガス8には腐食因子である揮発したアルカリ金属類は含まれないため、高温過熱器40、高温再熱器41、低温過熱器42、低温再熱器43、節炭器44等の熱回収部は腐食されない。
【0037】
金属粒子(MeO)4は、重力でサイクロン11の下部に落下しループシール21を通過して、燃料反応器2に移動する。燃料反応器2の内部では、金属粒子(MeO)4を浮遊流動させながら金属粒子(MeO)4と燃料7が反応してCO
2ガスとH
2O(水蒸気)が生成する。また、金属粒子(MeO)4は揮発分13との反応により還元されて金属粒子(Me)5となり、ループシール25を通過して、空気反応器1に移動する。
【0038】
このようにCLC装置では、金属粒子4、5が燃料反応器2→空気反応器1→燃料反応器2→・・・を循環流動しながら固体燃料7と反応している。また、金属粒子4、5を搬送する配管に使用する搬送用流体には、系内で生成したCO
2ガス及び/あるいはH
2O(水蒸気)が利用される。
【0039】
燃料反応器2から生成したCO
2ガス9とH
2O(水蒸気)10はサイクロン12を介し、熱交換器13に送られて冷却される。熱交換器13で得られた蒸気は図示しない微粉炭燃焼ボイラ発電の蒸気タービン発電や補助蒸気に使用される。冷却されたCO
2ガス9とH
2O(水蒸気)10は除塵器16、脱液/脱水器17で浄化され、CO
2液化装置18でCO
2ガス9の圧縮液化が行われ、液化したCO
2はCO
2貯留装置(図示せず)に貯留される。
【0040】
燃料反応器2から生成したガスには腐食因子であるアルカリ金属類が含まれるが、熱交換器13で凝縮するため、後流のCO
2中にはアルカリ金属類は含まれない。熱交換器13はアルカリ金属類による腐食の可能性があるが、高Cr鋼などの耐腐食性材料の使用やスートブローにより腐食を抑制する。また、熱交換器13が腐食により一定量の減肉が認められた場合、交換し易くなるよう、ユニット式を採用するのが望ましい。
【0041】
熱交換器13では、発生した蒸気15を燃料反応器2に導入し、ガス化剤及び金属粒子5の流動化ガスとして利用する。
【0042】
前記の空気反応器1では予熱空気6と金属粒子5が酸化反応し、発熱する。発生した熱は空気反応器1の水冷壁7で熱交換し、生成した蒸気は微粉炭燃焼ボイラの蒸気タービン(図示せず)に供給して発電に利用する。
【0043】
金属粒子(MeO)4としては、例えばニッケル(Ni)、鉄(Fe)、銅(Cu)、カルシウム(Ca)などの酸化物が使用される。特に酸化鉄は無公害で安価なためCLCに好適である。金属粒子(MeO)4としては、酸化鉄を使用した場合の、還元/酸化反応式を下記に示す。
【0044】
還元反応:バイオマス+ 6Fe
2O
3 ⇒ 4Fe
3O
4 + CO
2−吸熱 (3)
酸化反応:4Fe
3O
4 + O
2(空気) ⇒ 6Fe
2O
3 + 発熱 (4)
金属粒子(MeO)4として酸化鉄を使用した場合、金属粒子(MeO)4はFe
2O
3、金属粒子(Me)5はFe
3O
4に相当する。そして空気反応器1では前記式(4)に示すFe
3O
4と空気の酸化反応が生じ、燃料反応器2では、前記式(3)に示すFe
2O
3の還元反応が生じる。
次に空気反応器1ならびに燃料反応器2の機器寸法について説明する。
空気反応器1は導入した金属粒子(Me)5を空気6により上昇させるため、空気6の空塔速度が金属粒子(Me)5の終末速度よりも速くなるように空気反応器1の断面積を設計する。
【0045】
燃料反応器2は金属粒子(MeO)4を蒸気15のガス量により流動化させるため、空塔速度が流動化開始速度よりも速くなるように燃料反応器2の断面積を設計する。
【0046】
また、各反応器の温度は高温ほど反応速度が速くなるものの、1100℃以上では灰が溶融し、冷却時に固化して、閉塞する可能性があるため、各反応器の上限温度は1000℃付近が望ましい。
【0047】
次に本発明に係るケミカルループ燃焼装置を備えた微粉炭燃焼ボイラ発電システムの作用について述べる。
【0048】
既存微粉炭燃焼ボイラ発電では、地球温暖化の要因であるCO
2を大量に排出しているため、CCS技術の採用が急がれている。前述のように、先行CCS技術としては、化学吸収法や酸素燃焼法が開発されているが、エネルギー損失が大きく、発電効率の大幅な低下を招くという欠点がある。これに対し、CLCを適用すれば、排ガス中のCO
2分離回収装置、空気分離酸素製造装置が不要となり、より高効率な火力発電システムを構築できると期待されている。
【0049】
本発明は、バイオマス使用のケミカルルーピング燃焼装置を併設することで、バイオマスによる既存微粉炭燃焼ボイラの腐食や灰付着による伝熱阻害等を防止することが可能である。
【0050】
また、CLCから発生する蒸気や高温排ガスを微粉炭燃焼ボイラシステムに戻すため、 微粉炭燃焼ボイラシステムが混燃運転したときと得られる蒸気量はほとんど変わらない。すなわちCO
2回収してもほとんどエネルギー損失が伴わないメリットがある。
【0051】
また、
図7の従来技術に示した熱回収装置64、除塵器65、排気塔66、固形燃料バンカ61、ミル62 には既存の微粉炭燃焼ボイラの設備を利用することで新設が不要になり、設備コストを大幅に抑制できる。
【0052】
既存の大型微粉炭燃焼ボイラ発電システムにCLCを併設することで、安価にCLC装置を設置でき、CO
2排出抑制に貢献できる。
CLCは無害な固体粒子を用いるため、化学吸収法で用いる薬剤による人体や環境へ負荷を防止できる効果がある。
酸素燃焼法では対応できない部分CO
2回収がCLCを同時運転することで対応可能である。
【0053】
本発明によれば、CLC装置をバイオマス用に使用し、既存の微粉炭燃焼ボイラ発電システムと同時運転すれば、低コストでバイオマス燃焼が可能となる。同時にCO
2削減を達成できる。
【0054】
図1において符号14,22は搬送ガス、25,50はループシール、27はブロア、28,29は弁、30は石炭バンカ、32は既存ミル、33は1次空気ライン、34は微粉炭ライン、37は水冷壁、38は水、39は蒸気、45は脱硝装置、46はエアヒ―タ、48は空気、49は燃焼排ガスである。
【実施例2】
【0055】
本発明のCLC装置において微粉炭と金属粒子の反応性を向上させるため、
図3に示すように、燃料反応器2を分割し、燃料反応器2と揮発分反応器3の2塔に分けて、空気反応器1と合わせて3塔式CLC装置(特許文献1参照)も本発明に使用可能である。
【0056】
この3塔式CLC装置の性能が向上する理由は、石炭を熱分解したときに発生する揮発分がチャーのガス化反応の阻害要因であるが、その揮発分を分離したことでチャーのガス化反応を効率よく進行できるためである。
【0057】
図4は、本発明の実施例2に係る既存微粉炭燃焼ボイラに併設した3塔式のバイオマス専焼用ケミカルルーピング燃焼(CLC)装置の概略系統図である。
【0058】
図1との差異は、揮発分反応器3が加わったことである。3塔式CLC装置は、空気反応器1−サイクロン11−揮発分反応器3−燃料反応器2−空気反応器1の間は、金属粒子4、5が循環できるよう、エンドレス状に接続されている。
【0059】
3塔式CLCでは燃料反応器2内でのチャー滞留時間を確保するために、燃料反応器2内は移動層としてある。移動層とは、金属粒子が連続的に供給され、砂時計の如く、金属粒子が充填されたままゆっくりと下方へ移動し、ガス化剤(蒸気)15は粒子の隙間を流れて上方へ移動し、チャーはその移動層内でゆっくりとガス化反応する。移動層は気泡流動層のようにガス流速が速くないため、チャーが飛散して、燃料反応器2の内面に固着するようなことは無い。
【0060】
一方、揮発分反応器3は流動層とし、流動化ガスとして燃料反応器2から発生した揮発分57を利用することで、揮発分57と酸素キャリアである金属粒子(MeO)4の接触を良好に行い、反応性を高める効果がある。
【0061】
揮発分57の主成分はCH
4とCOとH
2であり、揮発分反応器3では揮発分57と金属粒子(MeO)4であるFe
2O
3の間で下記の反応が生じる。
【0062】
CH
4+6Fe
2O
3 ⇒ CO +H
2O+4Fe
3O
4 (5)
CO+3Fe
2O
3 ⇒ CO
2+2Fe
3O
4 (6)
H
2+3Fe
2O
3 ⇒ H
2O+2Fe
3O
4 (7)
次に3塔式CLC装置の空気反応器1、燃料反応器2ならびに揮発分反応器3の機器寸法について説明する。
空気反応器1は導入した金属粒子(Me)5を空気6により上昇させるため、空気6の空塔速度が金属粒子(Me)5の終末速度よりも速くなるように空気反応器1の断面積を設計する。
【0063】
燃料反応器2は金属粒子4、5が移動層を形成するため、ガス化剤15の流速は、金属粒子4、5の流動化開始速度より遅くなるように燃料反応器2の断面積を設計する。
【0064】
揮発分反応器3は金属粒子(MeO)4を揮発分57のガス量により流動化させるため、揮発分57の空塔速度が流動化開始速度よりも速くなるように揮発分反応器3の断面積を設計する。この3塔式CLC装置を用いた場合、固体燃料(バイオマス)と金属粒子の反応性の向上が図れる。
【0065】
本発明では、バイオマス専用供給系をCLC装置に設置することで、既存の微粉炭燃焼ボイラをバイオマス・微粉炭の混焼装置に改造する必要がなく、費用を抑制できる。またCLCをバイオマス専焼で運用するため、既存の微粉炭燃焼ボイラは、バイオマス燃焼による腐食や伝熱阻害および燃焼率低下などの課題を回避できる。
【実施例3】
【0066】
図5は、本発明の実施例3に係るケミカルルーピング燃焼装置の具体例を示す概略系統図である。CLCは、空気反応器1、燃料反応器2、空気反応器1の後流側に配置されたサイクロン11、CLC-微粉炭燃焼ボイラ連結管14、燃料反応器2の後流側に配置されたサイクロン12、熱交換器13、除塵器14、脱液/脱水器17、CO
2液化装置18、微粉炭燃焼ボイラからの燃料供給管19と予熱空気管20などを備え、
図5に示すような接続関係になっている。
【0067】
固体燃料(例えば石炭)7は、微粉炭燃焼ボイラの石炭バンカ30ならびに既存ミル31を経由して、分岐配管した燃料供給管19内を通って燃料反応器2に供給される。既存ミル31では微粉炭搬送ガスに空気を用いているため、CLC装置用にCO
2ガスで搬送するよう改造する。
【0068】
図1に示す実施例1との差異は、石炭専焼用CLCを設置したことである。
CLCで採用する気泡流動層や循環流動層では、使用可能な燃料種が多く、例えば褐炭など低価格な石炭種範囲が拡大し、発電コストの低下が可能である。
【0069】
また、CO
2回収率は必ずしも100%回収である必要はなく、30%〜70%とする現実的な妥協案も考えられる。この場合、本実施例3のような既設微粉炭燃焼とCLCとの同時運転で対応可能である。全体のCO
2回収率は微粉炭燃焼ボイラシステムとCLCの分担割合によって決まるが、燃料の分担比で制御可能であるため、発電システムの運用上の自由度が高いというメリットがある。
【0070】
また、CLCから発生する蒸気や高温排ガスを微粉炭燃焼ボイラシステムに戻すため、 微粉炭燃焼ボイラシステムが単独運転したときと得られる蒸気量はほとんど変わらない。すなわちCO
2回収してもほとんどエネルギー損失が伴わないメリットがある。