特許第6309248号(P6309248)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6309248給油所跡地を利用した津波避難施設への改築方法及び津波避難施設
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6309248
(24)【登録日】2018年3月23日
(45)【発行日】2018年4月11日
(54)【発明の名称】給油所跡地を利用した津波避難施設への改築方法及び津波避難施設
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/14 20060101AFI20180402BHJP
【FI】
   E04H9/14 Z
【請求項の数】21
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-234092(P2013-234092)
(22)【出願日】2013年11月12日
(65)【公開番号】特開2015-94128(P2015-94128A)
(43)【公開日】2015年5月18日
【審査請求日】2016年11月4日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 [発行者名] 国立大学法人神戸大学 [刊行物名] 持続的住環境創成講座 [発行年月日] 平成25年5月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000198787
【氏名又は名称】積水ハウス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080182
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 三彦
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼濱 史子
【審査官】 新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−180055(JP,A)
【文献】 特開2007−138472(JP,A)
【文献】 特開2013−181334(JP,A)
【文献】 特開平09−302952(JP,A)
【文献】 特開2009−036014(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/14
E04G 23/02
E04H 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支柱とこの支柱によって支えられる屋根を具備したキャノピー部を少なくとも有する給油所跡地を津波避難施設に改築する方法において、
前記キャノピー部の支柱を補強して当該支柱の津波の波力及び漂流物に対する保全を図ると共に前記支柱によって支えられる屋根の支持強度を向上させ、且つ、前記屋根面を退避床面として周囲の全部若しくは一部を手摺で囲むと共に前記避難床面への退避手段を設けることを特徴とする給油所跡地を利用した津波避難施設への改築方法。
【請求項2】
前記退避手段が、前記給油所跡地の地面と前記退避床面とを連絡する階段であることを特徴とする請求項1記載の給油所跡地を利用した津波避難施設への改築方法。
【請求項3】
前記退避手段が、前記給油所跡地の建築物と前記退避床面とを連絡する渡り通路であることを特徴とする請求項1記載の給油所跡地を利用した津波避難施設への改築方法。
【請求項4】
前記キャノピー部の支柱の補強が、上端が前記支柱に連結固定され下端が前記給油所跡地の地面に固定された下補強斜柱と、下端が前記支柱に連結固定され上端が屋根に連結固定された上補強斜柱によってなされることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の給油所跡地を利用した津波避難施設への改築方法。
【請求項5】
前記上補強斜柱の上端と屋根の連結固定が、屋根下面に設けた補強梁を介してなされることを特徴とする請求項4に記載の給油所跡地を利用した津波避難施設への改築方法。
【請求項6】
前記下補強斜柱と上補強斜柱が前記支柱の回りに等間隔で設けられてなることを特徴とする請求項4又は5に記載の給油所跡地を利用した津波避難施設への改築方法。
【請求項7】
前記キャノピー部の支柱の補強が、屋根の両側を両端が柱部材によって支持されている梁部材に吊られていることによりなされることを特徴とする請求項1〜3にいずれか1項に記載の給油所跡地を利用した津波避難施設への改築方法。
【請求項8】
前記柱部材は鉄筋コンクリート造であり前記梁部材は鉄骨造であることを特徴とする請求項7に記載の給油所跡地を利用した津波避難施設への改築方法。
【請求項9】
前記梁部材の内部に非常時用品を収納する空間部を設けたことを特徴とする請求項7又は8に記載の給油所跡地を利用した津波避難施設への改築方法。
【請求項10】
前記キャノピー部の支柱の補強が、当該支柱の周囲において下端が前記給油所跡地の地面に固定され上端が屋根に連結固定された複数の支持柱によってなされることを特徴とする前記請求項1〜3のいずれか1項に記載の給油所跡地を利用した津波避難施設への改築方法。
【請求項11】
前記支持柱の上端と屋根の連結固定が、既存の屋根のグリッドを分割して設けた直交グリッドに支持柱の上端を連結固定したものであることを特徴とする請求項10記載の給油所跡地を利用した津波避難施設への改築方法。
【請求項12】
支柱によって支えられている屋根を有するキャノピー部を有する津波避難施設において、上端が前記支柱の中央部に連結固定され下端が地面に固定された下補強斜柱と、下端が前記支柱の中央部に連結固定され上端が前記屋根に連結固定された上補強斜柱と、を具備し、更に、前記屋根面を退避床面として周囲の全部若しくは一部を手摺で囲むと共に前記避難床面への退避手段を設けることを特徴とする津波避難施設。
【請求項13】
前記上補強斜柱の上端と屋根の連結固定が、屋根下面に設けた補強梁を介してなされることを特徴とする請求項12に記載の津波避難施設。
【請求項14】
前記下補強斜柱と上補強斜柱が前記支柱の回りに等間隔で設けられてなることを特徴とする請求項12又は13に記載の津波避難施設。
【請求項15】
支柱によって支えられている屋根を有するキャノピー部からなる津波避難施設において、
前記キャノピー部の屋根の両側を両端が柱部材によって支持されている梁部材に吊られ、更に、前記屋根面を退避床面として周囲の全部若しくは一部を手摺で囲むと共に前記避難床面への退避手段を設けることを特徴とする津波避難施設。
【請求項16】
前記柱部材は鉄筋コンクリート造であり前記梁材は鉄骨造であることを特徴とする請求項15に記載の津波避難施設。
【請求項17】
前記梁部材の内部に非常時用資材を収納する空間部を設けたことを特徴とする請求項15又は16に記載の津波避難施設。
【請求項18】
支柱によって支えられている屋根を有するキャノピー部からなる津波避難施設において、下端が地面に固定されるとともに上端が屋根に連結固定され、前記支柱の周りを囲んで配置される複数の支持柱を有し、更に、前記屋根の上面は退避床面としその周囲の全部又は一部を手摺で囲むと共に、前記退避床面への退避手段を設けたことを特徴とする津波避難施設。
【請求項19】
前記支持柱の上端と屋根の連結固定が、既存の屋根のグリッドを分割して設けた直交グリッドに支持柱の上端を連結固定したものであることを特徴とする請求項18に記載の津波避難施設。
【請求項20】
前記退避手段が、前記退避床面と前記給油所跡地の地面とを連絡する階段であることを特徴とする請求項12〜19のいずれか1項に記載の津波避難施設。
【請求項21】
前記退避手段が、前記退避床面と前記給油所跡地の建築物とを連絡する渡り通路であることを特徴とする請求項12〜19のいずれか1項に記載の津波避難施設。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、とくに海岸に比較的近くで丘陵地などの高台のない地域にあるガソリンスタンドなどの給油所跡地を津波避難施設となる構造に改築する改築方法及び該改築方法によって構築された津波避難施設に関する。
【背景技術】
【0002】
東北地方太平洋沖地震に伴う大津波のように海側に面した海岸線の地域には、近々の大地震の発生とそれに伴う大津波の到来が統計学的に予測されている。居住地や職場、学校、更には通学、通勤経路の近くにこのような予測される津波にも十分に避難対応できる丘陵地や公共の建造物がある場合はともかくも、多くの人の場合には、こうした滞在時間の長い常時居る所に津波避難施設がないのが実情である。そこで、津波が到来した場合の緊急避難場所としての人工の津波避難施設がこれまでに提案されている(例えば、特開2006−83549号)。
【0003】
一方、近年の消防法改正による燃料保管タンクの規制強化に伴う設備維持経費の増大に加えて、若者の自動車離れや電気自動車の台頭等の理由によりガソリンの需要が減り、廃業するガソリンスタンドが年々増加している現状がある。ガソリンスタンドは、一旦廃業するとその設備の性質上再開は困難であるので、完全に解体するか、そのまま残した建物だけを別の用途として利用するしか方法がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−83549
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記の人工の津波避難施設は、新たに設置する場合には目立ちやすく人通りが比較的多い場所に用地を確保しなければならないので、用地探しが困難であると共に用地買収や施設構築の予算の確保上の問題点がある。更に、完成した避難施設が街の風景に溶け込まないことが多く、街の景観上の問題点がある。又、避難施設の構築に代えて既存の建築物を利用することも考えられるが、津波避難施設の高さは、津波想定高さの1.5倍以上としなければならないので、想定高さが3mを超える場合には既存の建築物を利用することができない場合が多く、結果として、新築の施設を構築せざるを得ない問題点がある。
【0006】
一方、前述の理由により年々その数を増す廃業されるガソリンスタンドの一般的な構造は、地下には燃料保管タンクを抱え、地上には事務室、整備室、サービスルームなどに利用している建築物があり、更には、給油機器や給油作業者から雨や直射日光を避けるために支柱によって支えられた屋根を有するキャノピィー部があるので、他の利用用途の施設に変更するのが難しく、又、解体工事をして更地にするにしても地下の燃料保管タンクから地上のキャノピー部の屋根の解体工事などその跡地の整備には多額の経費を要するという問題点がある。
この発明はこのような事情に鑑みて、双方の抱える課題を同時に解決することを目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は上記事情を鑑みてなされたものであって、その手段とするところは、請求項1の手段は、支柱とこの支柱によって支えられる屋根を具備したキャノピー部を少なくとも有する給油所跡地を津波避難施設に改築する方法において、前記キャノピー部の支柱を補強して当該支柱の津波の波圧、波力及び漂流物に対する保全を図ると共に前記支柱によって支えられる屋根の支持強度を向上させ、且つ、前記屋根面を退避床面として周囲の全部若しくは一部を手摺で囲むと共に前記避難床面への退避手段を設けることを特徴とする給油所跡地を利用した津波避難施設への改築方法である。
【0008】
請求項2の手段は、前記退避手段が、前記給油所跡地の地面と前記退避床面とを連絡する階段である。
【0009】
請求項3の手段は、前記退避手段が、前記給油所跡地の建築物と前記退避床面とを連絡する渡り通路である。
【0010】
請求項4の手段は、前記キャノピー部の支柱の補強が、上端が前記支柱に連結固定され下端が前記給油所跡地の地面に固定された下補強斜柱と、下端が前記支柱に連結固定され上端が屋根に連結固定された上補強斜柱によってなされることである。
【0011】
請求項5の手段は、前記上補強斜柱の上端と屋根の連結固定が、屋根下面に設けた補強梁を介してなされることである。
【0012】
請求項6の手段は、前記下補強斜柱と上補強斜柱が前記支柱の回りに等間隔で設けられてなることである。
【0013】
請求項7の手段は、前記キャノピー部の支柱の補強が、屋根の両側を両端が柱部材によって支持されている梁部材に吊られていることによりなされることである。
【0014】
請求項8の手段は、前記柱部材は鉄筋コンクリート造であり前記梁部材は鉄骨造であることである。
【0015】
請求項9の手段は、前記梁部材の内部に非常時用品を収納する空間部を設けたことである。
【0016】
請求項10の手段は、前記キャノピー部の支柱の補強が、当該支柱の周囲において下端が前記給油所跡地の地面に固定され上端が屋根に連結固定された複数の支持柱によってなされることである。
【0017】
請求項11の手段は、前記支持柱の上端と屋根の連結固定が、既存の屋根のグリッドを分割して設けた直交グリッドに支持柱の上端を連結固定したものであることである。
【0018】
請求項12の手段は、支柱によって支えられている屋根を有するキャノピー部を有する津波避難施設において、上端が前記支柱の中央部に連結固定され下端が地面に固定された下補強斜柱と、下端が前記支柱の中央部に連結固定され上端が前記屋根に連結固定された上補強斜柱と、を具備し、更に、前記屋根面を退避床面として周囲の全部若しくは一部を手摺で囲むと共に前記避難床面への退避手段を設けた津波避難施設としたことである。
【0019】
請求項13の手段は、前記上補強斜柱の上端と屋根の連結固定が、屋根下面に設けた補強梁を介してなされることにある。
【0020】
請求項14の手段は、前記下補強斜柱と上補強斜柱が前記支柱の回りに等間隔で設けられてなることにある。
【0021】
請求項15の手段は、支柱によって支えられている屋根を有するキャノピー部からなる津波避難施設において、前記キャノピー部の屋根の両側を両端が柱部材によって支持されている梁部材に吊られ、更に、前記屋根面を退避床面として周囲の全部若しくは一部を手摺で囲むと共に前記避難床面への退避手段を設けた津波避難施設としたところにある。
【0022】
請求項16の手段は、前記柱部材は鉄筋コンクリート造であり前記梁材は鉄骨造であることである。
【0023】
請求項17の手段は、前記梁部材の内部に非常時用資材を収納する空間部を設けたことにある。
【0024】
請求項18の手段は、支柱によって支えられている屋根を有するキャノピー部からなる津波避難施設において、下端が地面に固定されるとともに上端が屋根に連結固定され、前記支柱の周りを囲んで配置される複数の支持柱を有し、更に、前記屋根の上面は退避床面としその周囲の全部又は一部を手摺で囲むと共に、前記退避床面への退避手段を設けた津波避難施設としたことである。
【0025】
請求項19の手段は、前記支持柱の上端と屋根の連結固定が、既存の屋根のグリッドを分割して設けた直交グリッドに支持柱の上端を連結固定したものであることにある。
【0026】
請求項20の手段は、前記退避手段が、前記退避床面と前記給油所跡地の地面とを連絡する階段であることである。
【0027】
請求項21の手段は、前記退避手段が、前記退避床面と前記給油所跡地の建築物とを連絡する渡り通路であることである。
【発明の効果】
【0028】
この発明の給油所跡地を利用した津波避難施設への改築方法及び津波避難施設によれば、年々その数を増す給油所跡地の有効利用が図られ、且つ、津波の避難所を安価に構築できる。ガソリンスタンドなどの給油所は元々自動車や人通りが多くて道路沿いに設置されているので、そこに給油所の高く掲げられた看板を避難所の看板に代えておけば、良く目立って地域住民等に周知・啓発や避難時の混乱を防止できるし、急に津波警報が出されて逃げ遅れた場合でも逃げ込み易い。とくに、その跡地内の建築物を託児所やデイケアなどの弱者の施設に改築した場合には退避誘導も楽であり退避遅れを防止出来る。又、このような日常的に利用できる施設に改築することで、津波避難施設の管理や運用の役割も同時に行える。更に、改築のためのコストも安価である。
【0029】
そして、給油所自体が、その設置時に街の景観に合致するように構築されているので、改造を加えても基本的な構成は変わらないことから街の景観を損ねることはない。更に、給油所は海岸に沿った津波浸水警戒領内に多いことからその跡地利用は特に有効であるのに加え、多くの場合に構築の施主となる行政庁としてみれば新たな津波避難所を構築する場合のように用地確保の心配もない。更にピロティー部の支柱は、車の出入りを効率よく行うように丈夫で本数を少なくして屋根を支えているので、津波の波力や漂流物を避けられ易く好都合である。更に、屋根は平屋根又は勾配の小さい屋根が殆どなので、屋根面をそのまま避難者の避難床面としたり改良を加える場合でも改築工数が少なくて済む。
【0030】
支柱に波力や漂流物が当たった場合にも、又、屋根に大勢の人が避難してもそれらの荷重に耐えられるように補強されているので安全である。又、屋根面を避難床面としその周囲の一部若しくは全部に手摺を設けたので、避難床面から落下する危険性が無い。
【0031】
更に又、避難床面への避難手段を設けたので、これを利用して地上から十分に高い位置にあるピロチィー部の屋根に相当する避難床面に避難出来る。
【0032】
避難手段が給油地跡地の地面と避難床面とを連絡する階段であれば、給油所跡地にいる人は容易に避難できる。又、この階段を方向を変えて複数個設置しておけば、津波と到来方向と逆の位置にある階段を利用できる安全である。
【0033】
避難手段が給油所跡地の建築物と退避床面とを連絡する渡り通路である場合には、建築物の階段等から上階へ移動し、そこから渡り通路を通って避難床面に行くことが出来るので、途中の階段の設置が不要であり、又、建築物から移動するので、逃げ遅れて津波が押寄せて来ても少しは安全である。更に、渡り通路を介して連絡することにより、避難床面を支柱だけで支持する場合に較べてより確固に保持できる。また、この渡り通路にも人が避難できるので、より多くの人が避難できる。
【0034】
キャノピー部の支柱の補強を、上端が支柱の中心部と連結固定され、下端が地面に固定される下補強斜柱を用いることにより、津波の波圧、波力や漂流物から支柱を保護出来る。この下補強斜柱を支柱の回りに複数個用いた場合には、下補強斜柱を設置した数だけの津波の方向に対する補強が出来る。一つの屋根を複数の支柱で支持しているキャノピー部の場合には、それぞれの支柱について、全て同じ方向を向いた下補強斜柱を用いても良いし、あらゆる方向からの津波に対応するために各支柱毎に設置方向を変えても良い。又、支柱に対する下補強斜柱の取付角度は特に限定されるものではないが、45°が強度的に好ましい。
【0035】
又、キャノピー部の支柱の補強を、下端が支柱の中心部と連結固定され、上端が屋根に連結固定された上補強斜柱を用いているので、屋根と支柱の一点の支持よりも、上補強斜柱の数だけ多くの点で屋根を支持出来、支持強度が向上し、避難床面にそれだけ多くの人が避難できる。ここで、下補強斜柱の延長方向に上補強斜柱を設けた場合には、避難床面からの荷重を支柱及び下補強斜柱を通じて地面で受け止められるので、支柱に作用する荷重は、真上からの荷重が大部分となり補強強度が向上する。
【0036】
又、屋根の下面に新たに設けた補強梁を介して、上補強斜柱の上端と屋根とを連結固定すれば、屋根を点ではなく線で支持出来るので、ラーメン効果を得られる。この場合の補強梁は、屋根の長手方向に介在させる方がより効率的である。
【0037】
下補強斜柱と上補強斜柱の数は多いほど支柱を強固に且つ屋根の荷重を支えられるが、これらは支柱の周りに等間隔に設置すれば支柱に掛かる荷重を均等に分布することが出来、全体として均整がとれ耐久力が向上する。
【0038】
キャノピー部の支柱の補強が、屋根の両側を両端が柱部材によって支持されている梁部材に吊られている場合には、避難床面に多数の人が載った場合でもその荷重を梁部材で受け止めることが出来るので、支柱への負担を軽減できる。柱部材によっても津波の波圧、波力や漂流物から支柱を阻止出来る。柱部材は梁部材の中央部にも設けても良い。この支柱の補強の場合には、屋根の下に補強した柱がないので、屋根下空間を日常の活動の場として有効に活用できる。なお、支柱の強度補強を更に高めたい時には、屋根下空間が犠牲になるが、前記の下補強斜柱や上補強斜柱を用いて支柱や屋根を補強しても良い。
【0039】
柱部材が鉄筋コンクリートであれば、津波の波力や漂流物の衝撃に対する抵抗が大きくなる利点がある、梁部材は屋根を吊った場合の荷重を支えるだけの構造であれば良いので鉄骨造で良い。この鉄骨造の構造体の内部に、飲食糧、医薬品、防寒用具、救難信号発信機等の非常用品を収納できる収納庫を確保しておけばより好都合である。
【0040】
キャノピー部の支柱の補強が、当該支柱の周囲において下端が地面に固定された上端が屋根に連結固定された支持柱を用いれば、屋根の避難床面に避難者が多数載った場合でもその荷重を支えられる。また、支柱に津波の波圧、波力や漂流物の直接衝突による衝撃を防止できる。上端が屋根の構成材であるグリッドの直交点で連結固定すればより確実に連結出来る。
【図面の簡単な説明】
【0041】
図1】既存の一般的なガソリンスタンド(給油所)の概略斜視図面図
図2】他の既存の給油所の一例の概略平面図
図3】図の改築後の給油所の概略平面図
図4】津波避難施設の第1実施例の概略説明図
図5図4のX−X線拡大断面図
図6図4の下方斜めから見た拡大斜視図
図7図4の変形例の概略正面図
図8】津波避難施設の第2実施例の概略斜視図
図9図8のY−Y線拡大断面図
図10】津波避難施設の第3実施例の概略斜視図
図11図10のZ−Z線拡大断面図
図12】支持柱と直交グリップとの連結固定の説明斜視図
【発明を実施するための形態】
【0042】
この発明を実施するための形態について以下図を参照しつつ説明する。
まず、この発明の改築方法で改築する以前の既存の給油所(ガソリンスタンド)跡地の一例を図1図2に基づいて説明する。
給油所跡地Aは車道に面していて全体が舗装された略四角形状であり、隅の部分には事務室1、補修ビット2、サービスヤード3等の部屋がある建築物4がある。この建築物4の正面側には所定距離を開けて給油機器5が並べられており、これら給油機器5や給油作業者を雨や直射日光から防ぐためのキャノピー部6が設けられている。このキャノピー部6は、給油機器5に近接して地面に固定して建てられた複数の支柱6とこの支柱6に支持された屋根7からなり、この屋根7は3個の給油機器5の周囲上方と給油機器5と建築物4の正面側の間の上方を覆っている。又、建築物4と端の給油機器5の間の敷地の地下には、燃料保管タンク9が埋められている。更に、広告塔10、廃油タンク11、消火器ボックス12、防火塀13などが設けられている。
【0043】
この給油所跡地Aを、例えば図3に示す津波避難施設Bへ改築するには、既存の給油所跡地Aにある前記の諸設備の内、特に、キャノピー部6の支柱7の津波の波圧、波力や漂流物などの衝撃に対する水平荷重や多数の避難者の積載荷重に対する補強、屋根8面の避難床面14への改築、当該避難床面14の全周囲又は一部周囲への手摺15の設置、給油所跡地Aの地面から若しくは建築物4からの避難手段としての階段16若しくは渡り通路17の設置である。この内、キャノピー部6の具体的な補強の方法が3通りあり、この改築方法とその改築後の設備について図に基づいて順次他の改築をも含めて説明する。
【0044】
まず、キャノピー部6の具体的補強方法の第1の実施例を図図7に示す。この実施例では建築物4については託児所とした場合の部屋の配置を示し、例えば、補修ビット2を保育室18とこれに付随する小部屋とし、サービスヤード3を貯水タンクや蓄電池装置などの非常時用部材室19とし、事務室1をランチルーム20やプレイルームあるいはその他の事務室や職員の更衣室など種々の目的に活用する。
【0045】
キャノピー部6の支柱7は、下補強斜柱71と上補強斜柱72を用いて補強されている。下補強斜柱71は下端を地面に固定し上端を支柱7の中央部に連結固定したものである。支柱7の垂直方向の維持と津波の波圧、波力や漂流物からの保護が目的である。支柱7に対する傾斜角度は特に限定されるものではないが、45°が最適である。地面への固定は地中でコンクリートで固めたもので良く、支柱7との連結固定はボルト・ナット、溶接、取付金具などを介して行うが、他の手段によってこれらの固定を行っても良い。取付個数は支柱7が四角柱であればその周りにそれぞれ90°の等間隔で4個が適当である。支柱7が円柱であれば取付金具を介して行うのが適しており、その個数は4個に限定されるものではない。
【0046】
上補強斜柱72も同様にして、下端を支柱7の中央部に上端を屋根8に連結固定し、又、取付角度や個数についても同様にして、屋根8の上に設けた避難床面14に載った避難者の荷重を受けて支柱7に伝達する役目を持つ。この時、下補強斜柱71の中心線の延長上に上補強斜柱72の中心線が位置するように配置すれば、上補強斜柱72に掛かる避難者の荷重が下補強斜柱71に伝達され、支柱7の負担が更に軽減される。上補強斜柱72の上端と屋根8との連結は、屋根8に使用されている構造部材に直接連結固定しても良いが、図4図5に示すように、屋根8の下面に補強梁21を設け、この補強梁21に上補強斜柱72の上端を連結固定すれば、屋根面すなわち避難床面14の補強を兼ね備えるものとなる。又、この補強梁21の長手方向からの津波に対してはラーメン効果をも得られる。
【0047】
支柱7、下補強斜柱71及び上補強斜柱72は、同じ断面構造の部材を用いても異なる部材であっても良い。支柱7が四角材である時には、上下の補強斜柱72,71を支柱7の各面の上下方向中央部に連結固定して支柱7を挟んで1組がX状になるようにしたものに対して直角にもう1組を固定したものとすれば支柱7の回りに等間隔に90°となり強度的に好ましい。
【0048】
避難手段としての階段16は、図3に示すように、建築物4側とその反対側の2か所に2つ設けて、万一の場合に備えておくのが望ましい。この階段16の他にも、図7に示すように、建築物4と避難床面14を連結固定する渡り通路17を設けておいても良い。この渡り通路17は、キャノピー部6を構成する屋根8を建築物4に連結固定する役目をも持つ。また、この渡り通路17が長い場合には、この路面上にも人が立つことが出来るので、避難者の数を増やすことが出来る。なお、このような構造体以外の退避手段として、退避床面14上にロープや縄梯子などを備えて、階段16や渡り通路17が破損した場合や漂流者救済用の避難手段としても良い。
【0049】
屋根8の上面に設ける避難床面14は、多くの場合に屋根8が平屋根或いは勾配が小さい屋根であるので特段の改築をすることなくそのままでも使用できるが、例外的に勾配が大きい場合には、避難者に不安を与えない程度の最小限の勾配となるように屋根面を水平方向に改築することが必要である。又、屋根8が平屋根の場合であっても、その重量を軽減し、多くの避難者が載った場合の重量バランスが取り易いように改築しても良い。又、避難床面14の表面には滑り止めを施しておくと安全である。更に、この避難床面14の周囲に設ける手摺15は、屋根8の構造体と連結した確固なものとしておくことが望ましい。更に、前記した避難手段としての階段16、渡り通路17、手摺15、新たに改築した避難床面14などは、パンチングメタル、ラス金網、網目、隙間のある格子状細金属線、などのように重量には耐え得るが多くの間隙を有する素材を採用すれば津波の波圧、波力を減衰させるために好適である。
【0050】
給油所跡地Aには、キャノピー部6や建築物4の他にも、地下の燃料保管タンク9、広告塔10、防火塀13などの設備があり、これらも津波避難設備Bとして有効活用できる。例えば、燃料保管タンク9は、真水の保存、或いはその内部に浮体を収納して津波の水が浸入することに伴う浮体の浮力を生かして救助信号を発する装置に応用することなどに利用できる。又、広告塔10は元々隣接する道路に向けて視認できるように大きく高く掲げられているので、これに避難施設の表示をしておくことにより地域住民等への周知・啓発を日常的に行えて、避難時の混乱防止に役立てられる。防火塀13は、近隣の家屋などが火災になっても熱風や延焼を有効に防止でき、避難床面14上の避難者を守ることができる。
【0051】
建築物4は、その使用目的を明確化することによって種々の改築が可能である。図2に示す建築物4の間取りを前述した図3に示す託児所に改築することが出来る。この場合には、貯水タンクや蓄電池盤などの非常時用資材を保管する防災用具室19も併せ持つようにしておけば尚良い。又、避難床面14の下方は、風通しの良い日陰となり、テラスとして、幼児の遊び場としても活用できる。建築物4は、老人ホーム、デイケア施設、介護施設など身体的弱者の施設とすれば、逃げ遅れた場合にも緊急避難し易い。
【0052】
キャノピー部6の具体的補強の第2の実施例は、図8図9に示されるように、キャノピー部6を構成する屋根8を両端が柱部材22によって支持されている梁部材23に吊られている構造である。柱部材22は、鉄筋コンクリ―トのように丈夫な構造の方が津波の波圧、波力や漂流物によっても耐え得ることができ、支柱7の保護をも兼ね備えることが出来る。梁部材23は、鉄骨造で中空部24を有し、屋根8の長手方向の両側をワイヤーやボルト等の吊部材25で吊って、あるいは直接に連結固定して屋根8すなわち避難床面14上に避難者が多数載った場合でも支柱7に荷重が掛かることを防ぐ。柱部材22は梁部材23の中央部にも設けても良い。又、梁部材23についても、避難床面14の短手方向に複数設けても良い。更に、柱部材22、梁部材23を鉄骨等からなるアーチ状に形成して、ロープや鉄筋などで避難床面14を吊る構成としても良く、この場合には、周囲の景観が良くなる利点がある。退避手段としての階段16は、長手方向の端部の柱部材22の間が適しているが、その他の場所であっても良い。又、階段16の設置は、柱部材22を巻回するようにすればより強固に固定でき、津圧、波力等によっても破壊される可能性が少なくなる。
【0053】
梁部材23の中空部24は、飲食糧、医薬品、防寒用具、救難信号発信機等の非常時用資材の格納庫として用いることや、避難床面14に載った避難者の手摺代わりにもなる。更に、外方向を向いている側面には避難所の表示をすることで、広告塔10と同じ目的を持たせられる。更に、避難床面14下には柱等の支持部材が存在しないことから、広い空間を得られ、有効活用が可能となる。
【0054】
キャノピー部6の具体的補強の改築方法及び津波避難設備Bの第3の実施例は、図10に示すように、支柱7の周囲において下端が地面に固定され上端が屋根に連結固定された複数の支持柱26によって、屋根8すなわち避難床面14を支えるようにしたものである。支持柱26の数は径の大小、素材強度などによって影響を受けるので特定されるものではないが、支柱7の周囲に設けることで、支柱7を津波の波圧、波力や漂流物から保護する役割をも有していることから、予想される津波の到来方向を考慮しながら均等に荷重を支持できる位置に配置するのが望ましい。
【0055】
支持柱26の屋根8との連結固定は、屋根8の構造体のグリッドの直交点で行えばより確固に固定でき安定する。この場合、既存の屋根8の梁のグリッドを分割して、例えば1.4mの直交グリッドを作り、その全ての交点27に支持柱26を配置し、避難者の載った避難床面14からの荷重を分散して受けるようにする。これにより、支持柱26の径が細くても本数が多く取れるので荷重を耐え得る。
【0056】
前記第1乃至第3実施例の支柱7の補強を採用した場合の全体の試算について説明する。避難床面14の高さは、想定される津波の高さの1.5倍が必要であることから、キャノピー部6の避難床面14までの高さを6.0mとした場合には、想定津波高さが4.0までは耐え得るものとした。避難床面14の面積が一般的なガソリンスタンドのキャノピー部6の屋根8で約300mであるので、この面積から最大600人収容可能であると試算し、ここから全体荷重36tを算出した。支柱7は断面が正四角で幅が400mmの金属柱を用い上下補強斜柱72,71も同じとした。支柱7及び屋根8に対する連結固定角度は45°とした。下補強斜柱71の地面への固定は、下端を地中でコンクリートで覆ったものとした。階段16は、避難床面14の向い合せに2か所に設け、幼児や要介護者も利用することを考慮して高さと踏面の比を1対2とした。建築物4は託児所として利用し、図に示すように各室を配置するよう改築した。
【0057】
以上の説明からも明らかなように、この発明の給油所跡地を利用した津波避難施設への改築方法及び津波避難施設によると、廃業されて放置状態の給油所の跡地を津波の避難施設として改築することが出来る。
【産業上の利用可能性】
【0058】
この発明は、廃業したガソリンスタンドなどの給油所跡地を津波避難設備として有効活用できるので、各自治体等における公共施設への設備投資を図り、給油所跡地の所有者にはその資産売却益あるいは施設や土地の賃貸料収入が得られる。
【符号の説明】
【0059】
6 キャノピー部
7 支柱
8 屋根
14 避難床面
15 手摺
16 階段(退避手段)
17 渡り通路(退避手段)
21 補強梁
22 柱部材
23 梁部材
24 中空部
25 吊部材
26 支持柱
27 交点(グリッド)
A 既存のガソリンスタンド(給油所)跡地
B 本発明の津波避難施設
図1
図2
図3
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図5
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図8
図9
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図12