(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
所定のギャップ距離を隔てて前記エレクトレットと相対する対向電極をさらに有し、振動を受けて前記対向電極と前記エレクトレットとの重なり面積が変化することにより発電を行うことを特徴とする請求項11〜請求項13のいずれか一項に記載の発電装置。
【発明を実施するための形態】
【0030】
<序論>
エレクトレットは、半永久的に電荷を保持する誘電材料である。本願の発明者らは、これまでにも、エレクトレットを用いた静電型VEHを多数開発している。また、本願の発明者らは、
図1で示すように、ベース電極上の固定エレクトレットと、対向電極と共に垂直振動バネで懸架された強誘電体平板(チタン酸バリウム(BaTiO
3)など)とから成る新規なVEHも開発している。なお、
図1(a)は初期状態、
図1(b)はプルーフマスが下方に変位した状態、及び、
図1(c)はプルーフマスが上方に変位した状態をそれぞれ示している。
【0031】
本明細書では、ナノポーラス構造を持つSiO
2によって形成された新規なエレクトレットを提案する。ナノポーラスSiO
2中に存在する多くのボイドは、CYTOP中のナノクラスターと同様の挙動を示すことが期待される。そのため、ナノポーラスSiO
2エレクトレットは、高い表面電荷密度と熱耐性を併せ持つことが期待される。
【0032】
図2は、今回提案するナノポーラスSiO
2エレクトレットの概念図である。なお、
図2において、右欄には今回提案するナノポーラスSiO
2エレクトレットが描写されており、左欄にはナノクラスター(アミノシラン)を導入したポリマーエレクトレットが対比のために描写されている。
【0033】
本明細書では、エレクトレットとして用いられるナノポーラスSiO
2の製造方法とその諸特性(表面電荷密度の熱的安定性を含む)を提供する。また、ナノポーラスSiO
2エレクトレットを用いたVEHの出力電力についても後ほど紹介する。
【0034】
<実験及び結果>
1.ナノポーラスSiO
2エレクトレットの製造
図3は、ナノポーラスSiO
2エレクトレットを製造するためのプロセスフロー図である。本実験ではナノポーラスSiO
2をナノポーラスSiの熱酸化によって製造した。
【0035】
まず、低抵抗のシリコン基板(p型、面方位(100)、<0.01Ω・cm、厚み500μm、
図3(a)を参照)をフッ化水素酸溶液中でアノードエッチングすることにより、シリコン基板の表面上にナノポーラス層を形成した(
図3(b)を参照)。アノードエッチング処理に用いたエッチング溶液は、フッ化水素10%、イオン交換水10%、及び、エタノール80%を配合したものである。また、本実験では、エッチング電流を10mA/cm
2とし、電極間距離を2cmとしてアノードエッチング処理を行った。
【0036】
次に、1000℃のイオン交換水の水蒸気雰囲気中において、ナノポーラス層が形成されたシリコン基板を熱酸化させた(
図3(c)を参照)。酸素はナノポーラスシリコン層を急速に拡散するので、ナノポーラスシリコン層の酸化とともに、ナノポーラスシリコン層下の非ナノポーラスシリコン層も酸化された(
図3(d)を参照)。本明細書では、ナノポーラスSiO
2の下層にある通常(すなわち非ナノポーラス)のSiO
2層を「ベースSiO
2」と呼ぶ。ナノポーラスSiO
2の厚み(t
porous)とベースSiO
2の厚み(t
base)は、それぞれ、アノードエッチング時間と熱酸化時間によって制御した。
【0037】
本明細書では、
図4で示すように2種類の試料を作成した。第1試料では、厚いベースSiO
2(t
base=0.8μm)上に厚みの異なるナノポーラスSiO
2(t
porous=0−1.0μm)を形成した(
図4(a)を参照)。一方、第2試料では、薄いベースSiO
2(t
base=0.2μm)上に厚みの異なるナノポーラスSiO
2(t
porous=0−1.0μm)を形成した(
図4(b)を参照)。なお、第1試料生成時の熱酸化時間は6時間であり、第2試料生成時の熱酸化時間は20分程度である。
【0038】
図5は、ベースSiO
2上に形成されたナノポーラスSiO
2のFE−SEM[field emission - scanning electron microscopy]写真である。なお、
図5(a)〜(c)はナノポーラスSi(熱酸化前)の平面図及び断面図であり、
図5(d)〜(f)はベースSiO
2上に形成されたナノポーラスSiO
2(熱酸化後)の平面図及び断面図である。これらの写真から、ナノポーラスSiO
2中のボイドサイズが数十nmオーダーであることが分かる。
【0039】
次に、負電荷(電子)をコロナ放電法によってそれぞれの試料に注入した。
図6は、エレクトレットに対する電荷注入用コロナ放電の機構図である。各試料の表面電荷密度は、静電電圧計(Model279、Monroe Electronics社製)で測定した各々の表面電位から算出した。
【0040】
比較用のエレクトレットとして通常のSiO
2とCYTOP膜も製造した。ベースSiO
2上のナノポーラスSiO
2、ないし、通常のSiO
2において、低抵抗のシリコン基板は、ベース電極として機能する。一方、CYTOP膜は、アルミニウム電極を持つ石英基板上に形成した。
【0041】
2.ベースSiO
2上のナノポーラスSiO
2に注入した電荷の時間依存性と熱的安定性
図7は、ベースSiO
2上に形成されたナノポーラスSiO
2の厚み(t
porous)と、電荷注入直後の初期表面電位Vとの相関図である。本図で示すように、表面電荷密度に比例する初期表面電位Vは、t
baseとt
porousの双方に依存する。高い表面電位を得るには比較的厚いベースSiO
2が必要であることが分かる。
【0042】
図8は、ベースSiO
2上に形成されたナノポーラスSiO
2の表面電荷密度(a)及び正規化表面電荷密度(b)の時間依存性を示す図である。本図で示したように、ベースSiO
2が厚い(t
base=0.8μm)とき、ナノポーラスSiO
2(t
porous=0.6μm)中における電荷密度の減少率は、CYTOP中の電荷減少率と同程度であった。これは、通常のSiO
2中における電荷密度の減少率よりも非常に良好な結果である。ベースSiO
2が薄い(t
base=0.2μm)とき、ナノポーラスSiO
2中の電荷密度は急速に減少した。これらの結果は、ベースSiO
2がナノポーラスSiO
2から基礎を成すSi基板への電荷消失を妨げるバリア層として働くことを示している。
【0043】
次に、ベースSiO
2上のナノポーラスSiO
2、非ナノポーラスSiO
2、及び、CYTOPのそれぞれについて、試料加熱時における表面電荷密度の減少挙動を測定した。
図9は、加熱温度と正規化表面電荷密度との相関図である。加熱試験の結果として、ナノポーラスSiO
2または通常SiO
2中の電荷量は、試料温度が約130℃よりも高くなる条件下において、試料温度が高いほど徐々に減少した。一方、CYTOP中における電荷量は、試料温度150℃近傍で急速に減少した。このことから、ナノポーラスSiO
2の熱耐性は、非ナノポーラスSiO
2やCYTOPと比べて最良であることが証明された。
【0044】
3.発電試験
次に、自由振動によるVEHの出力電力を示す。本試験では、ベースSiO
2上のナノポーラスSiO
2、通常のSiO
2、または、CYTOP膜をエレクトレットとして用いた。
図10は、出力電力測定用の実験機構図(概略図(a)及び写真(b))である。本実験機構では、プルーフマスがコイルバネ(バネ定数:0.34N/mm)を用いてケースに懸架されている。ステンレス鋼製のケースは、振動発生器(PET−05、IMV社製)に固定されている。強誘電体(BaTiO
3)板の厚みと面積は、それぞれ0.2mm及び165mm
2である。プルーフマス(アルミニウム製)は70gfである。オーバーラップ面積は、強誘電体板の面積と同一である。出力電力を評価するために100kΩの抵抗に生じる電圧を測定した。振動振幅と周波数は、それぞれ0.4mm及び20Hz(加速度0.65G)である。
【0045】
図11は、負荷抵抗と出力電力との相関図である。本図で示すように、厚いベースSiO
2(t
base=0.8μm)上のナノポーラスSiO
2(t
porous=0.6μm)をエレクトレットとして用いたときに270μWの最高パフォーマンスが得られた。
【0046】
<結論>
上記では、ナノポーラスSiO
2エレクトレットの表面電荷密度と熱耐性について述べた。ナノポーラスSiO
2は、低抵抗シリコン基板のアノードエッチングと熱酸化によって製造した。製造されたナノポーラスSiO
2中のボイドサイズは、数十nmオーダーであった。ナノポーラスSiO
2層下に存在するベースSiO
2層の厚みは、厚み表面電荷密度の経時的安定性に影響を及ぼす。これは、おそらくベースSiO
2が注入電荷の基板への散逸を妨げているからである。ベースSiO
2の厚みが0.8μmであるとき、ベースSiO
2上のナノポーラスSiO
2のエレクトレットとしての経時的安定性及び熱的安定性は、非ナノポーラスSiO
2やCYTOPと比べて最良であった。また、ナノポーラスSiO
2エレクトレットを用いたVEHで生成される出力電力は、通常のSiO
2エレクトレットやポリマーエレクトレットを用いた場合よりも大きいことが証明された。
【0047】
<ナノポーラスSiO
2の表面電位測定>
まず、ナノポーラスSiO
2の厚みによる表面電位の推移について、
図12及び
図13を参照しながら説明する。
図12及び
図13は、それぞれ、ベースSiO
2の厚みを0.8μm及び0.4μmに固定し、ナノポーラスSiO
2の厚みを0μm〜1μmとした試料の表面電位が時間の経過と共にどのように変化するかを示すものである。
【0048】
実験では、表面をナノポーラス化した試料にコロナ放電を行い、表面電位の推移を測定した。放電条件は、印加電圧−9.0kV、グリッド電圧−1.5kVで、放電時間は3分である。酸化は水蒸気酸化であり、ナノポーラス層を超えて酸化を行っている。試料としては、各厚みの試料を3枚ずつ(0.8μmのみ2枚)作製した。その中から電荷注入直後の表面電位が高かったものを示す。なお、試料のエレクトレット部の総膜厚は、ナノポーラスSiO
2の厚みにベースSiO
2の厚みを加えた値(グラフの凡例の値+0.4μmないし+0.8μm)となる。
【0049】
次に、ベースSiO
2の厚みによる表面電位の推移について、
図14及び
図15を参照しながら説明する。
図14は、ナノポーラスSiO
2の厚みを0.2μmに固定し、ベースSiO
2の厚みを0.4μmまたは0.8μmとした試料の表面電位が時間の経過と共にどのように変化するかを示すものである。同様に、
図15は、ナノポーラスSiO
2の厚みを1.0μmに固定し、ベースSiO
2の厚みを0.2μm、0.4μm、0.8μmとした試料の表面電位が時間の経過と共にどのように変化するかを示すものである。
【0050】
<ナノポーラス膜厚及びベース膜厚による発電量の違い>
ナノポーラスSiO
2及びベースSiO
2の厚みがそれぞれ発電量にどのように影響するかを知るために、先出の
図1ないし後出の
図20に示す発電装置を用いて、大型加振による発電実験を行った。
図16は、ナノポーラスSiO
2の膜厚と発電量との相関図である。ナノポーラスSiO
2の膜厚t
porousは0μm〜1.0μmの8パターンであり、ベースSiO
2の膜厚t
baseは0.4μmと0.8μmの2パターンである。コロナ放電の条件は、印加電圧−9.0kV、グリッド電圧−1.5kV、放電時間3分である。コロナ放電後、一日放置して表面電位を落ち着かせた後実験を行った。発電実験直前の表面電位は、t
base=0.8μmの試料では−500V程度(ただしt
porous=0.5μmの試料では−400V)であり、t
base=0.4μmの試料では−300V程度であった。
【0051】
なお、ナノポーラスSiO
2及びベースSiO
2の最適な厚みは、エレクトレットの素材や用途(所望の表面電荷密度など)に応じて異なる。例えば、今回の発電実験に用いた発電装置用のエレクトレットについて言えば、本実験の結果から、ナノポーラスSiO
2及びベースSiO
2の好適な厚み範囲は、それぞれ、0μm<t
porous<2μm(より好ましくは0.1μm<t
porous<0.8μm)、及び、t
base≧0.2μm(より好ましくはt
base≧0.8μm)であることが分かる。
【0052】
先の
図7で示したように、ナノポーラスSiO
2の厚みを2倍にしても、エレクトレットの表面電荷密度は2倍にならない。この事実を鑑みると、エレクトレット中の電荷は、ナノポーラスSiO
2中に均等分布しているのではなく、ナノポーラスSiO
2とベースSiO
2の界面付近に多く捕捉されているものと考えられる。
【0053】
一方、ナノポーラスSiO
2の誘電率は空隙層の誘電率よりも高いので、ナノポーラスSiO
2の厚みが大き過ぎると、プルーフマスの変位に伴う静電容量の変化が小さくなってしまうので発電量が減少に転じる。このような原理により、ナノポーラスSiO
2の厚みには上限値が存在すると考えられる。なお、先に示したt
porousの上限値2μmは、本実験の結果と上記の原理を鑑みて外挿的に求めた理論値である。
【0054】
<ナノポーラスSiO
2層とベースSiO
2層の多層化>
図17は、ナノポーラスSiO
2層とベースSiO
2層の多層化を実現する第1のプロセスフロー図である。なお、本図のプロセスフローは、(a1)欄から(a6)欄に向けて順次進行していく。
【0055】
(a1)欄では、エレクトレットの基材となる無機半導体として、ドーパント(ホウ素やアルミニウムなどのアクセプタ、或いは、リンやヒ素などのドナー)が添加された導電性のシリコン(Si)基板が描写されている。ただし、エレクトレットの基材としては、これ以外の無機半導体や無機導体を用いることも可能である。
【0056】
(a2)欄では、シリコン基板に対して第1の深さまでアノードエッチング処理(ナノポーラス化処理)を施すことにより、ナノポーラスSi層を形成するステップが描写されている。なお、シリコン基板のアノード酸化により、ナノポーラスSi層ではSiO
2が生成されているが、熱酸化処理後のナノポーラスSiO
2層と明確に区別すべく、ここではナノポーラスSi層と呼んでいる。ナノポーラスSi層に含まれるボイドは、必ずしも各個が分離されたものではなく、アノードエッチング溶液の浸潤に伴って縦方向や横方向に連結した構造(スポンジ構造)となっている(
図18を参照)。なお、アノードエッチング処理に際しては、基材となるシリコン基板の裏面中央部に正電圧を印加することにより、シリコン基板の表面を均一にナノポーラス化することが可能となる。
【0057】
(a3)欄では、ナノポーラスSi層が形成されたシリコン基板に対して、第1の深さよりも大きい第2の深さまで熱酸化処理(絶縁化処理)を施すことにより、非ナノポーラス構造のベースSiO
2層と、ナノポーラス構造のナノポーラスSiO
2層とを形成するステップが描写されている。
【0058】
ここまでのプロセスは、先出の
図3で説明したものと同様であり、当該プロセスによって製造されるエレクトレットは、非ナノポーラス構造のベース層とナノポーラス構造のナノポーラス層とを一層ずつ有する無機絶縁体(Si酸化物(SiO
2))となる。なお、シリコン基板の絶縁化処理としては、熱酸化処理以外にも窒化処理や炭化処理を用いることも可能である。その場合、エレクトレットを形成する無機絶縁体は、窒化物(SiN)や炭化物(SiC)となる。また、ベース層とナノポーラス層の形成手法についても、上記に限定されるものではなく、別個独立に形成されたベース層とナノポーラス層を互いに貼り合わせてエレクトレットを形成することも可能である。
【0059】
また、上記の熱酸化処理に際して、シリコン基板の下地層を熱酸化させずに残しておけば、導電性を持つ下地層をエレクトレットのベース電極として活用することができる。もちろん、シリコン基板を完全に熱酸化させて全体をエレクトレット化し、これに別途形成したベース電極を取り付けても構わない。
【0060】
さらに、
図17で提案するエレクトレットの製造プロセスは、(a4)欄で示す通り、ナノポーラスSiO
2層の上に別途新たなシリコン層を積層形成するステップを有する。なお、新たなシリコン層の積層形成手法としては、物理蒸着法(PVD[physical vapor deposition])や化学蒸着法(CVD[chemical vapor deposition])などの既存技術を用いればよい。
【0061】
(a5)欄では、新たなシリコン層に対して所定の深さまでアノードエッチング処理を施すことにより、2層目のナノポーラスSi層を形成するステップが描写されている。なお、基材となるシリコン基板と新たなシリコン層との間には絶縁性のベースSiO
2層及びナノポーラスSiO
2層が存在する。従って、新たなシリコン層のアノードエッチング処理に際しては、新たなシリコン層の側端面(ないしは表面の側端部)から正電圧を印加しなければならない点に留意しておく必要がある。
【0062】
(a6)欄では、新たなシリコン層全体に熱酸化処理を施すことにより、2層目のベースSiO
2層とナノポーラスSiO
2層を形成するステップが描写されている。このように、ベースSiO
2層とナノポーラスSiO
2層を交互に複数積層したエレクトレットであれば、ボイドとSiO
2との界面が増えるので、より多くの電荷をより強くトラップすることが可能となる。なお、(a4)欄〜(a6)欄の各ステップ(新たなシリコン層の積層処理、アノードエッチング処理、及び、熱酸化処理)は、所望の積層数に応じて適宜繰り返せばよい。
【0063】
また、本プロセスでは、新たなシリコン層を積層形成する毎にアノードエッチング処理が実施されると共に、一層分のアノードエッチング処理が完了する毎に新たなシリコン層全体の熱酸化処理が実施される。従って、ナノポーラスSiO
2層とベースSiO
2層を2層目、3層目、4層目と増やしていく場合であっても、最表面のシリコン層に対する熱酸化処理のみを繰り返せばよいので、熱酸化処理の確実性を高めることが可能となる。
【0064】
図19は、ナノポーラスSiO
2層とベースSiO
2層の多層化を実現する第2のプロセスフロー図である。なお、本図のプロセスフローは、(b1)欄から(b5)欄に向けて順次進行していく。
【0065】
(b1)欄及び(b2)欄では、シリコン基板に対して第1の深さまでアノードエッチング処理を施すことにより、ナノポーラスSi層を形成するステップが描写されている。ここまでのプロセスは、
図17の(a1)欄及び(a2)欄と全く同様である。
【0066】
本プロセスでは、次にシリコン基板の熱酸化処理を実施するのではなく、(b3)欄で示したように、ナノポーラスSi層上に別途新たなシリコン層が積層形成される。なお、新たなシリコン層の積層形成手法としては、
図17の(a4)欄と同様、PVDやCVDを用いればよい。
【0067】
(b4)欄では、新たなシリコン層に対して所定の深さまでアノードエッチング処理を施すことにより、2層目のナノポーラスSi層を形成するステップが描写されている。なお、本プロセスでは、基材となるシリコン基板と新たなシリコン層との間に絶縁層が存在しない。従って、新たなシリコン層のアノードエッチング処理に際しては、基材となるシリコン基板の裏面中央部に正電圧を印加することにより、新たなシリコン層の表面を均一にナノポーラス化することが可能となる。なお、(b3)欄及び(b4)欄の各ステップ(新たなシリコン層の積層処理、及び、アノードエッチング処理)は、所望の積層数に応じて適宜繰り返せばよい。
【0068】
(b5)欄では、シリコン基板上に形成された1層目のナノポーラスSi層より深い位置まで熱酸化処理を施すことにより、2層分のベースSiO
2層とナノポーラスSiO
2層を一気に形成するステップが描写されている。このようなプロセスで製造されたエレクトレットは、
図17のプロセスで製造されたエレクトレットと同じく、ベースSiO
2層とナノポーラスSiO
2層を交互に複数積層した構造となるので、より多くの電荷をより強くトラップすることが可能となる。
【0069】
また、本プロセスでは、新たなシリコン層を積層形成する毎にアノードエッチング処理が実施されると共に、全ての層のアノードエッチング処理が完了した後に全体の熱酸化処理が実施される。従って、(b4)欄の説明でも述べたように、各層毎のアノードエッチング処理に際して、基材となるシリコン基板の裏面中央部から正電圧を印加することができるので、新たなシリコン層の表面を均一にナノポーラス化することが可能となる。
【0070】
ただし、本プロセスでは、非ナノポーラス構造のシリコン層が下層への酸素流入経路を遮断するように積層形成されているので、最後に熱酸化処理を行っても所望の深さまで酸素が行き渡らないおそれがある。このような不具合を回避するためには、例えば、複数層分(熱酸化処理の実施に際して支障とならない程度の積層数)のアノードエッチング処理が完了する毎に熱酸化処理を実施するプロセスが有効であると考えられる。
【0071】
<発電装置>
図20は、発電装置の第1構成例を示す模式図(横方向から見た断面図)であり、第1構成例の発電装置10は、基本的に先出の
図1と同一の構成であり、誘電体11と、エレクトレット12と、下部電極13と、抵抗14と、上部電極15と、基板16と、空隙層17とを有する。なお、
図20の上段には、発電装置10の第1状態(誘電体11とエレクトレット12とが離間した状態)が描写されており、
図20の下段には、発電装置10の第2状態(誘電体11とエレクトレット12とが接近した状態)が描写されている。
【0072】
以下では、説明の便宜上、特に断りのない限り、紙面の上端側を鉛直上方向と定義し、誘電体11が上下方向(鉛直方向)に振動する構成を前提とした説明を行うが、誘電体11の振動方向はこれに限定されるものではなく、例えば、紙面を90度回転させることにより、誘電体が左右方向(水平方向)に振動する構成とすることも当然に可能である。
【0073】
誘電体11は、発電装置10に与えられる振動によってエレクトレット12に対する相対位置が変化する可動体である。誘電体11の下面は、空隙層17を挟んでエレクトレット12の上面と対向している。誘電体11としては、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)やチタン酸バリウム(BTO)などを用いることができる。誘電体11は、板状に形成してもよいし膜状に形成してもよい。例えば、基板自体を誘電体で形成してもよいし、基板上に薄膜印刷技術で誘電体膜を形成してもよいし、或いは、別途の工程で形成しておいた板状の誘電体を基板上に貼り付けてもよい。
【0074】
エレクトレット12は、電荷を半永久的に保持する部材である。エレクトレット12としては、高い表面電荷密度と高い熱耐性を持つ先述のナノポーラスSiO
2エレクトレットを用いることが望ましい。エレクトレット12は、下部電極13の全面を被覆するように形成されている。このように、下部電極13を露出させない構成とすることにより、エレクトレット12への電荷注入に際して、露出した下部電極13への電荷流出を防止することができるので、エレクトレット12への電荷注入効率を高めることが可能となる。
【0075】
下部電極13は、エレクトレット12の下面側(誘電体11と対向していない側)に接続された第1電極(ベース電極)に相当する。下部電極13は、抵抗14を介して接地端に接続されている。下部電極13としては、先にも述べたように、ナノポーラスSiO
2エレクトレットの下地層(導電性を持つシリコン基板)を活用してもよいし、或いは、別途のアルミニウム電極などを用いてもよい。
【0076】
抵抗14は、発電装置10の振動によって下部電極13と接地端との間に流れる電流を電圧として取り出すための負荷である。
【0077】
上部電極15は、誘電体11の上面(エレクトレット12と対向していない側)に接続された第2電極(対向電極)に相当する。上部電極15は接地端に直接接続されている。上部電極15としては、アルミニウム電極などを用いることができる。
【0078】
基板16は、エレクトレット12及び下部電極13を担持するための板状部材である。基板16としては、石英基板や酸化膜付きシリコンウェハなどを用いることができる。ただし、寄生容量抑制の観点から言えば、酸化膜付きシリコンウェハよりも石英基板などを用いる方が望ましい。
【0079】
空隙層17は、誘電体11とエレクトレット12との間に挟まれた空間である。空隙層17の厚み(誘電体11とエレクトレット12を隔てるギャップ距離)は、振動に伴う誘電体11の変位によって変化する。空隙層17は、低真空状態(高真空状態や超高真空状態ではない状態)としてもよいし、若しくは、空気、不活性ガス(N
2など)、或いは、放電防止効果のあるガス(例えば主成分としてSF
6を含むガス)等を充填してもよい。空隙層17を低真空状態とする場合、脱気工程を用いてもよいし、或いは、何らかの高温処理時に空隙層17からガスが抜けて自然に低真空状態となる現象を利用してもよい。空隙層17を高真空状態や超高真空状態にしない方が好ましい理由は、エレクトレット12の放電を回避するためである。なお、本明細書中において、「低真空状態」とは大気圧〜10
-1Paの状態を指し、「高真空状態」とは10
-1〜10
-5Paの状態を指し、「超高真空状態」とは10
-5以下の状態を指すものとする。また、空隙層17に水分が含まれていると、エレクトレット12の表面に水分子が付着して電荷が抜けやすくなるので、空隙層17に含まれる水分は十分に除去して湿度の低い状態としておくことが望ましい。
【0080】
上記したように、第1構成例の発電装置10は、少なくとも一対の誘電体11とエレクトレット12を有し、誘電体11とエレクトレット12とのギャップ距離が変化することによって発電を行う構成(振動に伴う静電容量の変化を利用して発電を行う構成)とされている。以下では、その発電原理について説明する。
【0081】
図20の上段で示したように、発電装置10の第1状態(誘電体11とエレクトレット12とが離間した状態)では、エレクトレット12に保持された負の固定電荷(
図20では、白色の四角印にマイナス符号を付したシンボルとして描写)に引き寄せられて、下部電極13の表面(エレクトレット12との界面)に金属内正電荷(
図20では、白色の丸印にプラス符号を付したシンボルとして描写)が誘起される。この金属内正電荷は、下部電極13(金属)中のある箇所から自由電子が排除された結果、周囲に存在する自由電子との電位差により正電荷としての性質を帯びたものである。従って、上記の物理現象については、エレクトレット12に保持された負の固定電荷によって、下部電極13内の正電荷が引き寄せられると言うよりも、下部電極13内の自由電子が遠ざけられると言う方が正しい。なお、下部電極13内の金属内正電荷は接地端から供給される(下部電極13内の自由電子は接地端に移動する)ので、下部電極13の電位は0Vのままである。
【0082】
一方、
図20の下段で示したように、発電装置10が上記の第1状態から第2状態(誘電体11とエレクトレット12とが接近した状態)に遷移すると、エレクトレット12に保持された負の固定電荷によって誘電体11の内部が分極され、誘電体11の下面に正の分極電荷(
図20では、黒色の丸印にプラス符号を付したシンボルとして描写)が局在化する。このとき、第1状態で生じていたエレクトレット12内の負電荷と下部電極13内の正電荷との対応関係(の一部)が解消される。この現象により、下部電極13内には一時的に余剰の正電荷が生じる。ただし、下部電極13は抵抗14を介して接地端に接続されているので、一時的に上昇した下部電極13の電位が0Vになるまで、下部電極13から接地端に向けた余剰の正電荷の移動(電流)が生じる。なお、
図20の下段では、下部電極13から正電荷の一部が移動した後の状態が示されている。下部電極13から流出しなかった残りの電荷がQ1である。
【0083】
また、上記とは逆に、発電装置10が第2状態から第1状態に遷移したときには、接地端から下部電極13に向けた正電荷の移動(すなわち電流)が生じるので、この電流を電気エネルギーとして取り出すことができる。
【0084】
なお、発電装置10の第2状態では、誘電体11の内部分極によって誘電体11の上面に負の分極電荷(
図20では、黒色の丸印にマイナス符号を付したシンボルとして描写)が局在化する。従って、上部電極15の上面(誘電体11との界面)には、上記した負の分極電荷に引き寄せられて金属内正電荷が誘起される。ただし、上部電極15内の金属内正電荷は接地端から供給されるので、上部電極15の電位は0Vのままである。
【0085】
電磁気学的に見ると、発電装置10の第2状態は、第1状態よりも静電ポテンシャルエネルギーが低い状態(第1状態よりも正電荷と負電荷との距離が近い安定状態)である。従って、外部から運動エネルギー(振動)を与えることにより、発電装置10を第1状態と第2状態との間で遷移させてやれば、運動エネルギーを電気エネルギーに変換することが可能となる。
【0086】
特に、第1構成例の発電装置10は、誘電体11の上面に上部電極15が設けられると共に、この上部電極15が接地端に接続された構成とされている。このような構成とすることにより、発電装置10の第2状態において、上部電極15の内部に電位差を生じることがないので、第2状態のポテンシャルエネルギーを引き下げて発電効率を高めることが可能となる。ただし、上部電極15は、発電装置10にとって必須の構成要素ではなく、デバイス作製の容易性を優先する場合には、上部電極15を省略することも可能である。また、両構成の折衷案として、上部電極15を完全に排除するのではなく、これを電気的にフローティング状態の金属体に置き換えることも考えられる。
【0087】
図21は、発電装置の第2構成例を示す模式図(横方向から見た断面図)である。第2構成例の発電装置20は、上部基板21と、下部基板22と、エレクトレット23と、対向電極24と、ベース電極25と、バネ26とを有する。なお、
図21の上段には、発電装置20の第1状態(エレクトレット23と対向電極24とがオーバーラップした状態)が描写されており、
図21の下段には、発電装置20の第2状態(エレクトレット23と対向電極24とがオーバーラップしていない状態)が描写されている。
【0088】
このように、第2構成例の発電装置20は、所定のギャップ距離を維持しながらエレクトレット23と対向電極24とのオーバーラップ面積を2軸平面方向(X方向、Y方向)の振動によって変化させることにより、対向電極24に誘導される電荷の変化分を電流として得る構成(振動に伴う静電容量の変化を利用して発電を行う構成)とされている。
【0089】
<エレクトレットのパターニング>
なお、第2構成例の発電装置20においても、エレクトレット23としては、高い表面電荷密度と高い熱耐性を持つ先述のナノポーラスSiO
2エレクトレットを用いることが望ましい。ただし、水平振動型である発電装置20への適用に際しては、対向電極24の櫛葉と各々対向するエレクトレット23を個別に形成するのではなく、単一のベース電極25(シリコン基板)上に形成されたエレクトレット23の表面を対向電極24の櫛葉と同一の間隔でパターニングする方が効率的である。以下、その手法について説明する。
【0090】
図23は、ナノポーラスSiO
2エレクトレットのパターニングを実現する第1のプロセスフロー図である。なお、本図のプロセスフローは、(c1)欄から(c6)欄に向けて順次進行していく。
【0091】
(c1)欄〜(c4)欄では、ドープ済みシリコン基板に対してアノードエッチング処理と熱酸化処理を施すことにより、ベースSiO
2層とナノポーラスSiO
2層が形成されている。このような処理の内容については、先の
図3(a)〜(d)や
図17(a1)〜(a3)と同様である。
【0092】
ただし、本図のプロセスフローでは、ナノポーラスSiO
2エレクトレットのパターニングを実現すべく、(c2)欄で示すように、シリコン基板のアノードエッチング処理前に、シリコン基板のパターニング処理(トレンチ形成処理)が実施される。なお、シリコン基板をパターニングする手法は、ウェットエッチングでもドライエッチングでもよい。
【0093】
このように、基材となるシリコン基板を予めパターニングしておけば、これ以降、先と同様のアノードエッチング処理や熱酸化処理を実施するだけで、
図22で示したパターニング済みのナノポーラスSiO
2エレクトレットを製造することができる。
【0094】
なお、(c4)欄までの工程で製造されるナノポーラスSiO
2エレクトレットは、表面の凹凸(対向電極24とのギャップ差)のみに依存して保持電荷の分布にコントラストを付けている。このコントラストをさらに高めたければ、(c5)欄及び(c6)欄で示すように、ナノポーラスSiO
2エレクトレットの凸部上にレジスト層を形成してエッチング処理を施すことにより、凸部のナノポーラスSiO
2層を残しつつ、凹部のナノポーラスSiO
2層を除去すればよい。このような処理を追加すれば、凸部の電荷密度と凹部の電荷密度との間に差を付けることができるので、電荷分布のコントラストを一層高めることが可能となる。
【0095】
図24は、ナノポーラスSiO
2エレクトレットのパターニングを実現する第2のプロセスフロー図である。なお、本図のプロセスフローは、(d1)欄から(d5)欄に向けて順次進行していく。
【0096】
(d1)欄〜(d3)欄では、ドープ済みシリコン基板に対してアノードエッチング処理と熱酸化処理を施すことにより、ベースSiO
2層とナノポーラスSiO
2層が形成されている。このような処理の内容については、先の
図3(a)〜(d)や
図17(a1)〜(a3)と同様である。
【0097】
さらに、本図のプロセスフローでは、ナノポーラスSiO
2エレクトレットのパターニングを実現すべく、(d4)欄及び(d5)欄で示すように、ナノポーラスSiO
2層の表面上に所望パターンのレジスト層を形成してエッチング処理が実施される。
【0098】
すなわち、第2のプロセスフローは、先に説明した第1のプロセスフローからシリコン基板のパターニング処理(
図24の(c2)欄)を省略したものである。当該プロセスで作成されたナノポーラスSiO
2エレクトレットでも、ナノポーラスSiO
2層の有無によって保持電荷の分布にコントラストを付けることが可能である。
【0099】
<アプリケーション>
各種センサや無線機器(例えば、ZigBee[登録商標]・300MHz帯特定小電力無線機器)用の電源として、上記の発電装置を適用することにより、無線センサや無線センサネットワークによるユビキタス環境を構築することができる。すなわち、各種のセンサや無線装置の電源配線が不要となるので、各々の機器を分散配置して、ネットワーク内での情報連携を実現することが可能となる。
【0100】
なお、一部で実用化されているタイヤ空気圧モニタリングシステム(TPMS[tire pressure monitoring system])への応用のほか、上記の発電装置を用いたユビキタス環境の使用シーンとしては、例えば、医療・健康分野(健康管理や安否確認)、構造物監視(ワイヤ断線やボルト緩みの監視)、プラント監視(設備異常の監視)、並びに、物流管理(流通状態や品質の監視)などを挙げることができる。また、モータ等の電動機は電源周波数(50Hzまたは60Hz)で振動するので、発電装置に組み込まれたばね系の共振条件を上記の電源周波数に合わせれば、さらに大きな発電量が期待されることから、この発電電力をデータ処理装置等の電源として使用することが考えられる。さらに、上記の発電装置を人体に取り付けて発電するアプリケーションや、上記の発電装置を携帯電話等のモバイル機器に搭載して発電するアプリケーションなども想定される。
【0101】
<その他の変形例>
なお、本発明の構成は、上記実施形態ないし変形例のほか、発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることが可能である。すなわち、上記実施形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきであり、本発明の技術的範囲は、上記実施形態の説明ではなく、特許請求の範囲によって示されるものであり、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内に属する全ての変更が含まれると理解されるべきである。