(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
コネクタのコンタクトに関しては接触抵抗を下げたいという要求がある。
【0005】
そこで、本発明は、低い接触抵抗を有するコンタクトを備えるコネクタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、第1のコネクタとして、
相手側コネクタと嵌合可能なコネクタであって、
前記相手側コネクタは、相手側接点部を有する相手側コンタクトを有しており、
前記コネクタは、コンタクトと、前記コンタクトを保持する保持部材とを備えており、
前記コンタクトは、接触部を有しており、
前記コネクタと前記相手側コネクタとの嵌合の際に、前記相手側接点部は前記接触部上をスライドしながら接触しており、
前記接触部は、最表層としての第1めっき層と、前記第1めっき層の下層である第2めっき層とを有しており、
前記第1めっき層は、銀又は銀合金からなるものであり、且つ、90Hv以下のビッカース硬度を有しており、
前記第2めっき層は、銀又は銀合金からなるものであり、且つ、100Hv以上のビッカース硬度を有している
コネクタを提供する。
【0007】
また、本発明は、第2のコネクタとして、第1のコネクタであって、
前記コンタクトは、銅又は銅合金からなる基材を更に有しており、
前記第2めっき層は、前記基材上に形成されている
コネクタを提供する。
【0008】
また、本発明は、第3のコネクタとして、第1又は第2のコネクタであって、
前記第2めっき層は、90重量%以上の銀を含んでいる
コネクタを提供する。
【0009】
また、本発明は、第4のコネクタとして、第3のコネクタであって、
前記第2めっき層は、銀以外の残部として、Sb,Se,Teからなる群より選ばれた少なくとも一つの元素を更に含んでいる
コネクタを提供する。
【0010】
また、本発明は、第5のコネクタとして、第1乃至第4のいずれかのコネクタであって、
前記第2めっき層のビッカース硬度は、180Hv以下である
コネクタを提供する。
【0011】
また、本発明は、第6のコネクタとして、第1乃至第5のいずれかのコネクタであって、
前記コネクタと前記相手側コネクタとの嵌合の際に、前記相手側接点部は所定方向に沿って前記接触部上をスライドしており、
前記相手側接点部は、前記所定方向と交差する方向において前記接触部に向かって突出する形状を有している
コネクタを提供する。
【発明の効果】
【0012】
銀のみからなるめっき層や、接触抵抗を上げる原因となるようなアンチモン(Sb)やセレン(Se)、テルル(Te)などを含まない銀合金からなるめっき層は、90Hv以下のビッカース硬度を有している。このような90Hv以下のビッカース硬度を有する第1めっき層が最表層に設けられていることから、コンタクトの接触抵抗を下げることができる。
【0013】
第1めっき層は耐摩耗性が比較的低いことから、コネクタの相手側コネクタに対する挿抜を繰り返すと、第1めっき層の下層が露出してしまう可能性がある。その場合でも、第1めっき層の下層には第2めっき層が設けられていることから、接触抵抗が極端に上がってしまう事態を避けることができる。
【0014】
加えて、第2めっき層は耐摩耗性が高いことから、第2めっき層の下層が露出してしまい更に接触抵抗が上昇してしまうことを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1の実施の形態によるコネクタ及び相手側コネクタからなるコネクタ対を示す斜視図である。コネクタと相手側コネクタは互いに嵌合している。
【
図4】
図1のコネクタ対をIV--IV線に沿って示す断面図である。
【
図5】
図2の接触部の詳細構造を示す断面図である。
【
図6】本発明の第2の実施の形態によるコンタクト及び相手側コンタクトを示す斜視図である。コンタクトは、相手側コンタクトに挿入されている。
【
図7】
図6のコンタクト及び相手側コンタクトをVII--VII線に沿って示す断面図である。図においては、接触部の近傍(1点鎖線で囲んだ部分)が拡大され描画されており、また、相手側コンタクトがコンタクトに挿入される前の相手側接点部の輪郭が破線で描画されている。
【
図8】本発明の実施例によるコンタクトの一部及び相手側コンタクトの一部を模式的に示す斜視図である。
【
図9】相手側接点部及び接触部に対して様々な硬度のめっき厚10μmの単層の銀めっきを施した場合における接触抵抗と基材が露出されるまでのスライド回数の関係を示すグラフである。
【
図10】軟質の銀めっきのめっき厚を変化させたときの接触抵抗と基材が露出されるまでのスライド回数の関係を示すグラフである。
【
図11】比較例としての単層めっきを施した場合と二層めっきを施した場合とについて接触抵抗と基材が露出されるまでのスライド回数の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第1の実施の形態)
図1乃至
図4に示されるように、本発明の第1の実施の形態によるコネクタ対100は、X方向(前後方向:所定方向)に沿って互いに嵌合可能なコネクタ200と相手側コネクタ300とを備えている。本実施の形態においては、コネクタ200及び相手側コネクタ300の夫々は、回路基板(図示せず)に搭載される基板コネクタである。但し、本発明は、基板コネクタ以外のコネクタにも適用可能である。
【0017】
図2に示されるように、コネクタ200は、絶縁体からなる保持部材210と、導電体からなる複数のコンタクト220とを有している。保持部材210は、Y方向に長く延びる箱形状を有している。保持部材210の内部には受容部212が形成されている。コンタクト220は、保持部材210に保持されている。詳しくは、コンタクト220は、Z方向において2列に分けられている。各列のコンタクト220は、Y方向に並べられている。
【0018】
図2及び
図4に示されるように、本実施の形態によるコンタクト220は、接触部230と、被固定部240とを有している。接触部230は、受容部212の内部をX方向に沿って延びている。本実施の形態による接触部230は、XY平面上を延びる上面(+Z側の面)及び下面(−Z側の面)を有している。被固定部240は、接触部230の−X側の端(後端)付近からZ方向外側に延びている。被固定部240は、コネクタ200が回路基板(図示せず)に搭載される際、半田付け等によって回路基板に固定され接続される。
【0019】
図5に示されるように、コンタクト220の接触部230には、二層のめっきが施されている。コンタクト220全体に二層のめっきが一様に施されていてもよいし、接触部230のみに二層のめっきが施されていてもよい。
【0020】
詳しくは、接触部230は、最表層としての第1めっき層232と、第1めっき層232の下層である第2めっき層234と、第2めっき層234の下に位置する基材236とを有している。換言すると、接触部230は、基材236と、基材236上に形成された第2めっき層234と、第2めっき層234上に形成された第1めっき層232とを有している。基材236と第2めっき層234の間に下地めっき層を更に介在させることとしてもよい。
【0021】
本実施の形態において、基材236は、銅又は銅合金からなるものである。但し、本発明はこれに限定されるわけではなく、他の金属を基材236として使用することとしてもよい。
【0022】
第2めっき層234は、銀又は銀合金からなるものであり、且つ、100Hv以上のビッカース硬度を有している。特に、本実施の形態の第2めっき層234のビッカース硬度は、180Hv以下である。但し、本発明はこれに限定されるわけではなく、第2めっき層234のビッカース硬度は、180Hv以上であってもよい。また、本実施の形態の第2めっき層234は、銀に対してセレン(Se)を硬化剤として添加してなる銀合金からなるものである。第2のめっき層234における銀の占める割合は90重量%以上であり、残部がセレンからなる。但し、本発明はこれに限定されるわけではなく、第2のめっき層234は、銀以外の残部として、アンチモン(Sb)、セレン(Se)、テルル(Te)からなる群より選ばれた少なくとも一つの元素を含んでいるものであってもよい。
【0023】
第1めっき層232は、銀又は銀合金からなるものであり、且つ、90Hv以下のビッカース硬度を有している。第1めっき層232のビッカース硬度は、アンチモン、セレン、テルルを含んでいないことから、90Hv以下の軟らかいものとなっている。このように、本実施の形態の第1めっき層232は、第2めっき層234よりも軟らかい。
【0024】
図3に示されるように、相手側コネクタ300は、絶縁体からなる相手側保持部材310と、導電体からなる複数の相手側コンタクト320とを有している。相手側保持部材310は、Y方向(ピッチ方向)に長く延びる箱形状を有している。相手側コンタクト320は、コンタクト220(
図2参照)と対応するように、相手側保持部材310に保持されている。詳しくは、相手側コンタクト320は、Z方向(上下方向)において2列に分けられている。各列の相手側コンタクト320は、Y方向に並べられている。
【0025】
図3及び
図4を参照すると、本実施の形態による相手側コンタクト320は、2つの弾性支持部330と、2つの相手側接点部340と、被固定部350とを有している。弾性支持部330は、X方向に沿って延びている。相手側接点部340は、突出形状を有しており且つ弾性支持部330に夫々支持されている。弾性支持部330は、XZ平面内において弾性変形可能である。このため、相手側接点部340は、Z方向において移動可能である。被固定部350は、弾性支持部330の+X側の端(後端)付近からZ方向外側に延びている。被固定部350は、相手側コネクタ300が回路基板(図示せず)に搭載される際、半田付け等によって回路基板に固定され接続される。
【0026】
図4に示されるように、各相手側コンタクト320の2つの相手側接点部340は、Z方向において対向している。相手側接点部340は、上述した接触部230と同様にめっきされている。但し、本発明はこれに限定されるわけではない。相手側接点部340に関しては、上述した接触部230とは異なるめっきを施されていてもよい。即ち、コンタクト220のみ又はコンタクト220の接触部230のみに上述した二層のめっきを施すこととし、相手側コンタクト320の相手側接点部340に対しては例えば単層のめっきを施すこととしてもよい。
【0027】
図4から理解されるように、本実施の形態においては、コネクタ200を相手側コネクタ300と嵌合する際、相手側接点部340は、接触部230上をX方向(所定方向)に沿ってスライドしながら移動する。本実施の形態において、コネクタ200と相手側コネクタ300との嵌合の際に、相手側接点部340の突出形状は、X方向と交差しており、接触部230に接触している。即ち、相手側接点部340は、X方向と交差する方向において接触部230に向かって突出する形状を有している。
【0028】
相手側接点部340が接触部230上をスライドしながら移動する場合、使用時の接触抵抗の変化は主として接触部230のめっき構造に起因する。本実施の形態において、最表層である第1めっき層232は、90Hv以下のビッカース硬度を有すると共に銀又は銀合金からなるものである。即ち、本実施の形態の第1めっき層232は、接触抵抗を上げるアンチモン、セレン、テルルといった硬化剤を含まないものである。そのため、接触部230と相手側接点部340との接触抵抗を低くすることができる。加えて、第1めっき層232により第2めっき層234や基材236を謂わばパックしている状態にあるので、第2めっき層234に含まれるセレンや基材236の銅などが最表面に露出してしまう事態を避けることができる。
【0029】
相手側コネクタ300の相手側コンタクト320に対するコネクタ200のコンタクト220の挿抜を多数繰り返すと、第1めっき層232が摩耗してしまうことがあり、それにより、第2めっき層234が露出する場合もある。ここで、第2めっき層234の材料は、第1めっき層232の材料よりは接触抵抗の高いものであるが、一般的には接触抵抗の低いものである。そのため、第2めっき層234が露出した場合であっても、急激に接触抵抗が上がってしまうことを抑制することができる。特に、本実施の形態の第2めっき層234のビッカース硬度は180Hv以下である。従って、接触抵抗が上がったとしても比較的低い値に抑えることができる。加えて、第2めっき層234のビッカース硬度は100Hv以上であり、第2めっき層234は優れた耐摩耗性を有している。そのため、第1めっき層232のみからなる場合と比較して、基材236が露出する問題が生じる可能性を低減することができる。
【0030】
上述した実施の形態において、接触部230は角棒形状を有していたが、板形状を有していてもよいし、丸棒形状を有していてもよい。即ち、コンタクト220は、どのような形状を有していてもよい。同様に、相手側コンタクト320は、どのような形状を有していてもよい。
【0031】
(第2の実施の形態)
図6及び
図7を参照すると、本発明の第2の実施の形態によるコネクタ対(図示せず)は、互いに嵌合可能なコネクタ(図示せず)と相手側コネクタ(図示せず)とを備えている。コネクタは、導電体からなるコンタクト220Aを有しており、相手側コネクタは、導電体からなる相手側コンタクト320Aを有している。
【0032】
図6及び
図7に示されるように、本実施の形態によるコンタクト220Aは、接触部230Aと、基部250Aとを有している。接触部230Aは、基部250Aから−X方向に沿って延びており、丸ピン形状を有している。接触部230Aは、上述した実施の形態と同様に二層のめっきを施されている(
図5参照)。即ち、接触部230Aは、最表層としての第1めっき層232と、第1めっき層232の下層である第2めっき層234と、第2めっき層234の下に位置する基材236とを有している。第1めっき層232は、銀又は銀合金からなるものであり、且つ、90Hv以下のビッカース硬度を有している。第2めっき層234は、銀又は銀合金からなるものであり、且つ、100Hv以上のビッカース硬度を有している。
【0033】
図6及び
図7に示されるように、本実施の形態による相手側コンタクト320Aは、相手側接点部340Aと、基部360Aとを有している。本実施の形態の相手側接点部340Aは、複数に分割されている。本実施の形態における相手側接点部340Aの数は4つであり、夫々、相手側コンタクト320Aの先端近傍に位置している。この相手側接点部340Aには、上述した接触部230Aと同様に、めっきが施されている。
【0034】
図7から理解されるように、コンタクト220Aが相手側コンタクト320Aに挿入されていないとき、相手側接点部340Aは、YZ平面における相手側コンタクト320Aの中心に向かって近づいている。コネクタ(図示せず)が相手側コネクタ(図示せず)と嵌合する際に、相手側コンタクト320Aの相手側接点部340Aは、コンタクト220Aの接触部230Aの上をスライドする。この場合であっても、上述した第1の実施の形態と同様に良好な特性を得ることができる。
【0035】
上述した第1及び第2の実施の形態においては、コネクタと相手側コネクタとの嵌合方向と相手側接点部が接触部上をスライドする際のスライド方向とが同じであったが、本発明はこれに限定されるわけではなく、スライド方向は嵌合方向と異なる方向であってもよい。
【実施例】
【0036】
以下、上述した本発明の実施の形態による接触部230,230Aのめっき構造について、実施例及び比較例を参照しながら更に具体的に説明する。
【0037】
図8に示されるように、コンタクト220Bは、板形状の接触部230Bを有するピンコンタクトであり、相手側コンタクト320Bは突出形状の相手側接点部340Bを有するソケットコンタクトである。相手側接点部340Bを接触部230B上でスライドさせて最終的に停止した位置で相互の導通をとることとする。相手側接点部340Bには、垂直方向に一定の荷重(6[N])が掛かるようにばねの力が働いている。この力を以下においては「接触力」という。
【0038】
本発明の効果確認のために相手側接点部340B及び接触部230Bに対して硬質のめっき層の上に軟質のめっき層を形成してなる二層めっきを施すと共に、比較例として相手側接点部340B及び接触部230Bに対して単層のめっきを施した。
【0039】
より具体的には、めっき用の試料として、銀めっきHv80,銀めっきHv120,銀めっきHv150,銀めっきHv200を使用した。各試料の表面硬度及び断面硬度を下記表1に示す。表面硬度は、圧子をめっき層の表面に押し込んで測定されたビッカース硬度であり、断面硬度は、圧子をめっき層の断面に押し込んで測定されたビッカース硬度である。詳しくは、下層の表面硬度は、下層を形成した後であって上層を形成する前に測定したものであり、上層の表面硬度は、下層の上に上層を形成した後に測定したものである。各層のめっきの厚みは10μmである。硬度測定時における圧子の印加荷重は、9.8×10
−3[N](1gf)である。
【0040】
【表1】
【0041】
更に、上掲の試料について、RIGAKU製のX線解析装置(X−RAY DIFFRACT METER RINT 2000)を使用して、結晶子サイズの測定も行った。測定角度は5〜90度であり、測定X線波長は1.54056×10
−10[m](CuK
α1線)である。結晶子サイズの算出には、比較的ピークの大きい(220)面の回析線を用いた。測定結果を下記表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
表2から理解されるように、ビッカース硬度が高くなるに連れて結晶子サイズは小さくなっている。
【0044】
このような試料を用いてめっきを施されたコンタクト220B及び相手側コンタクト320Bについて、
図8に示されるように、6[N]の接触力を掛けた状態で、接触部230B上において相手側接点部340Bを10[mm]スライドさせて接触抵抗を測定した。更に、この測定を接触部230Bの基材の銅が露出するまで、スライドを繰り返した。10[mm]の距離をスライドさせて往復したときにスライド回数を1回とカウントした。測定結果を
図9乃至
図11に示す。なお、
図11に関し、単層めっきのめっき厚は20μmとし、二層めっきのめっき厚は夫々10μmとした。
【0045】
図9を参照すると、めっきが硬いほど基材の銅が露出するまでのスライド回数が多い(耐摩耗性が高い)が、接触抵抗もめっき硬度とともに高くなっていることが理解される。また、
図10を参照すると、めっき厚が大きくなるに連れて、基材が露出しにくくなるが接触抵抗も上昇してしまうことが理解される。
図11を参照すると、二層めっきの方が軟質の銀めっきの単層の場合よりも接触抵抗が低く、且つ、基材が露出するまでのスライド回数も多い(即ち、耐摩耗性が高い)ことが理解される。
【0046】
なお、本発明における銀合金には、例えば銀−錫合金は含まれない。銀−錫合金は、下記表3に示されるように、表面硬度が高いことから基材が露出するまでのスライド回数が多く耐摩耗性に優れているが、錫が空気中の酸素と結合してしまい、表面に酸化物が形成されてしまうことにより、表面抵抗が高くなる傾向がある。従って、銀−錫合金は、本発明の第1めっき層232及び第2めっき層234のいずれにも使用されない。
【0047】
【表3】