(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6309700
(24)【登録日】2018年3月23日
(45)【発行日】2018年4月11日
(54)【発明の名称】焼結バルブシート
(51)【国際特許分類】
F01L 3/02 20060101AFI20180402BHJP
【FI】
F01L3/02 H
F01L3/02 F
【請求項の数】15
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2018-505053(P2018-505053)
(86)(22)【出願日】2017年12月1日
(86)【国際出願番号】JP2017043303
【審査請求日】2018年1月31日
(31)【優先権主張番号】特願2017-63088(P2017-63088)
(32)【優先日】2017年3月28日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000139023
【氏名又は名称】株式会社リケン
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(74)【代理人】
【識別番号】100168206
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 健二
(72)【発明者】
【氏名】橋本 公明
【審査官】
首藤 崇聡
(56)【参考文献】
【文献】
特公平2−33848(JP,B2)
【文献】
特開2015−14262(JP,A)
【文献】
特開2005−256146(JP,A)
【文献】
特開2004−232088(JP,A)
【文献】
実開昭56−71906(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01L 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のシリンダヘッドに圧入される焼結バルブシートであって、前記バルブシートは、バルブフェイスに繰り返し当接するシート層と、シリンダヘッドのバルブシート圧入孔の底面及び内周面に当接する支持層からなる2層構造を有し、前記シート層はCu又はCu合金からなるマトリックスにCo基硬質粒子及びFe基硬質粒子から選択された少なくとも1種を含み、前記支持層はCu又はCu合金からなるマトリックスにFe粒子及びFe合金粒子から選択された少なくとも1種を含むことを特徴とする焼結バルブシート。
【請求項2】
請求項1に記載の焼結バルブシートにおいて、前記シート層に含まれる前記Co基硬質粒子及び前記Fe基硬質粒子から選択された少なくとも1種の含有量が25〜70質量%であり、前記支持層に含まれる前記Fe粒子及びFe合金粒子から選択された少なくとも1種の含有量が30〜70質量%であることを特徴とする焼結バルブシート。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の焼結バルブシートにおいて、前記支持層の熱伝導率が前記シート層の熱伝導率よりも高いことを特徴とする焼結バルブシート。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の焼結バルブシートにおいて、前記シート層と前記支持層の体積比が25/75〜70/30であることを特徴とする焼結バルブシート。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の焼結バルブシートにおいて、前記シート層に含まれる前記Co基硬質粒子が、質量%で、Mo:27.5〜30.0%、Cr:7.5〜10.0%、Si:2.0〜4.0%、残部Co及び不可避的不純物からなるCo-Mo-Cr-Si合金粒子、Cr:27.0〜32.0%、W:7.5〜9.5%、C:1.4〜1.7%、残部Co及び不可避的不純物からなるCo-Cr-W-C合金粒子、及び、Cr:28.0〜32.0%、W:11.0〜13.0%、C:2.0〜3.0%、残部Co及び不可避的不純物からなるCo-Cr-W-C合金粒子から選択された少なくとも1種であり、前記Fe基硬質粒子が、質量%で、Mo:27.5〜30.0%、Cr:7.5〜10.0%、Si:2.0〜4.0%、残部Fe及び不可避的不純物からなるFe-Mo-Cr-Si合金粒子であることを特徴とする焼結バルブシート。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の焼結バルブシートにおいて、前記支持層に含まれる前記Fe粒子が、質量%で、96%以上のFe及び不可避的不純物からなるFe粒子であり、前記Fe合金粒子が、質量%で、Cr:0.5〜3.0%、残部Fe及び不可避的不純物からなるFe-Cr合金粒子、及び、Cr:0.5〜5.0%、Mo:0.1〜2.0%、残部Fe及び不可避的不純物からなるFe-Cr-Mo合金粒子から選択された少なくとも1種であることを特徴とする焼結バルブシート。
【請求項7】
請求項5に記載の焼結バルブシートにおいて、前記シート層に含まれる前記Co基硬質粒子及び前記Fe基硬質粒子から選択された少なくとも1種の一部が、第2の硬質粒子で置換され、前記第2の硬質粒子は、質量%で、C:1.4〜1.6%、Si:0.4%以下、Mn:0.6%以下、Cr:11.0〜13.0%、Mo:0.8〜1.2%、V:0.2〜3.0%、残部がFe及び不可避的不純物からなる合金鋼粒子、C:0.35〜0.42%、Si:0.8〜1.2%、Mn:0.25〜0.5%、Cr:4.8〜5.5%、Mo:1〜1.5%、V:0.8〜1.15%、残部がFe及び不可避的不純物からなる合金鋼粒子、C:0.8〜0.88%、Si:0.45%以下、Mn:0.4%以下、Cr:3.8〜4.5%、Mo:4.7〜5.2%、W:5.9〜6.7%、V:1.7〜2.1%、残部がFe及び不可避的不純物からなる合金鋼粒子、及び、C:0.01%以下、Cr:0.3〜5.0%、Mo:0.1〜2.0%、残部がFe及び不可避的不純物からなる合金鋼粒子から選択された少なくとも1種であることを特徴とする焼結バルブシート。
【請求項8】
請求項7に記載の焼結バルブシートにおいて、前記シート層に含まれる前記Co基硬質粒子及び前記Fe基硬質粒子から選択された少なくとも1種の一部が、第3の硬質粒子で置換され、前記第3の硬質粒子は、質量%で、Mo:40〜70%、Si:0.4〜2.0%、残部Fe及び不可避的不純物からなるFe-Mo-Si合金粒子、Al2O3粒子及びSiC粒子から選択された少なくとも1種で置換されることを特徴とする焼結バルブシート。
【請求項9】
請求項6に記載の焼結バルブシートにおいて、前記支持層に含まれる前記Fe粒子及び前記Fe合金粒子から選択された少なくとも1種の一部が、第2の硬質粒子で置換され、前記第2の硬質粒子は、質量%で、C:1.4〜1.6%、Si:0.4%以下、Mn:0.6%以下、Cr:11.0〜13.0%、Mo:0.8〜1.2%、V:0.2〜3.0%、残部がFe及び不可避的不純物からなる合金鋼粒子、C:0.35〜0.42%、Si:0.8〜1.2%、Mn:0.25〜0.5%、Cr:4.8〜5.5%、Mo:1〜1.5%、V:0.8〜1.15%、残部がFe及び不可避的不純物からなる合金鋼粒子、及び、C:0.8〜0.88%、Si:0.45%以下、Mn:0.4%以下、Cr:3.8〜4.5%、Mo:4.7〜5.2%、W:5.9〜6.7%、V:1.7〜2.1%、残部がFe及び不可避的不純物からなる合金鋼粒子から選択された少なくとも1種であることを特徴とする焼結バルブシート。
【請求項10】
請求項9に記載の焼結バルブシートにおいて、前記支持層に含まれる前記Fe粒子及び前記Fe合金粒子から選択された少なくとも1種の一部が、第3の硬質粒子で置換され、前記第3の硬質粒子は、質量%で、Mo:40〜70%、Si:0.4〜2.0%、残部Fe及び不可避的不純物からなるFe-Mo-Si合金粒子、Al2O3粒子及びSiC粒子から選択された少なくとも1種で置換されることを特徴とする焼結バルブシート。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の焼結バルブシートにおいて、前記シート層が0.05〜2.2質量%のPを含むことを特徴とする焼結バルブシート。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の焼結バルブシートにおいて、前記支持層が0.1〜2.2質量%のPを含むことを特徴とする焼結バルブシート。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の焼結バルブシートにおいて、前記シート層が6.5質量%までのSnを含むことを特徴とする焼結バルブシート
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の焼結バルブシートにおいて、前記シート層が3質量%までの固体潤滑材を含むことを特徴とする焼結バルブシート。
【請求項15】
請求項14に記載の焼結バルブシートにおいて、前記固体潤滑材がC、BN、MnS、CaF2、SiO2、WS2及びMo2Sの群から選択された少なくとも1種であることを特徴とする焼結バルブシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのバルブシートに関し、特に、バルブ温度の上昇を抑制できる圧入型高伝熱焼結バルブシートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車エンジンの環境対応による燃費の向上と高性能化を両立する手段として、エンジンの排気量を20〜50%低減する、いわゆるダウンサイジングが推進され、さらに、高圧縮比を実現する技術として直噴エンジンにターボチャージング(過給)を組合せることが行われている。これらのエンジンの高効率化は必然的にエンジン温度の上昇をもたらすが、温度の上昇は出力低下に繋がるノッキングを招くので、特にバルブ周りの部品の冷却能を向上させることが必要となっている。
【0003】
バルブ周りの冷却能を向上させる手段として、エンジンバルブに関し、特許文献1はバルブの軸部を中空化し、その中空部分に金属ナトリウム(Na)を封入するエンジンバルブの製造方法を開示している。また、バルブシートに関しては、特許文献2は、バルブ冷却能を向上させるためレーザー光のような高密度加熱エネルギーを用いてアルミ(Al)合金製のシリンダヘッドに直接肉盛する(以下「レーザークラッド法」という。)というバルブ冷却能を向上させる手段を採用し、そのバルブシート合金としては、銅(Cu)基マトリックス中にFe-Ni系の硅化物及び硅化物の粒子が分散し且つCu基初晶中にSn及びZnの1つあるいは両方を固溶する肉盛用分散強化Cu基合金を教示している。
【0004】
上記の金属Na封入エンジンバルブは、中実バルブに比べ、エンジン駆動時のバルブ温度を約150℃程度低下させ(バルブ温度としては約600℃)、また、レーザークラッド法によるCu基合金バルブシートは、中実バルブのバルブ温度を約50℃程度低下させ(バルブ温度としては約700℃)て、ノッキングの防止を可能にした。しかし、金属Na封入エンジンバルブはコストの点で難があり、一部の車を除いて幅広く使用されるまでには至っていない。レーザークラッド法によるCu基合金バルブシートも、硬質粒子を有しないため、叩かれ摩耗で凝着し、耐摩耗性が不十分であるという課題があり、さらに、シリンダヘッドに直接肉盛するため、シリンダヘッド加工ラインの大幅な見直しと設備投資が必要になるという課題も生じてくる。
【0005】
一方、シリンダヘッドに圧入されるタイプのバルブシートでは、熱伝導を改善する手段として、特許文献3が、Cu粉末又はCu含有粉末を配合したバルブ当接層(Cu含有量3〜20%)とバルブシート本体層(Cu含有量5〜25%)に二層化した鉄系焼結合金製バルブシートを開示し、特許文献4は硬質粒子を分散したFe基焼結合金にCu又はCu合金を溶浸することを開示している。
【0006】
さらに、特許文献5は、熱伝導に優れた分散硬化型Cu基合金にさらに硬質粒子を分散したCu基合金製焼結バルブシートを開示している。具体的には、出発粉末混合物が50〜90重量%のCu含有基礎粉末及び10〜50重量%のMo含有粉末状合金添加材からなり、前記Cu含有基礎粉末としてAl
2O
3分散硬化したCu粉末、Mo含有粉末状合金添加材として28〜32重量%Mo、9〜11重量%Cr、2.5〜3.5重量%Si、残部Coを有する合金粉末を教示している。
【0007】
しかし、特許文献5は、Al
2O
3分散硬化したCu粉末について、Cu-Al合金溶湯からアトマイズしたCu-Al合金粉末をAlの選択酸化のための酸化雰囲気中で熱処理することにより製造できると教示しているが、実際には、Alの固溶したCu-Al合金からAl
2O
3が分散したCuマトリックスの純度を上げることに限界があるのが実情である。さらに、Cuマトリックスの純度を上げると、降伏応力が低下して、熱ヘタリによりバルブシートがシリンダヘッドから脱落しやすくなるという問題が生じてくる。
【0008】
このように、高コストな金属Na封入エンジンバルブを用いるのと同等以上にバルブ温度の上昇を抑制し、耐摩耗性にも優れ、さらにシリンダヘッドからの耐脱落性にも優れたバルブシートが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
特許文献1:特開平7-119421号公報
特許文献2:特開平3-60895号公報
特許文献3:特開平10-184324号公報
特許文献4:特許第3786267号公報
特許文献5:特許第4272706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記問題に鑑み、本発明は、高効率エンジンに使用可能な優れたバルブ冷却能を有し、耐変形性、耐摩耗性及び耐脱落性に優れた焼結バルブシートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、熱伝導に優れたCu又はCu合金中に硬質粒子を分散した焼結バルブシートに関し鋭意研究した結果、バルブシートを、耐熱・耐摩耗性に優れた高熱伝導性シート層と、耐変形性に優れた高熱伝導性支持層からなる2層構造とし、耐摩耗性及び耐変形性に優れた、バルブ冷却能の高い焼結バルブシートが得られることに想到した。
【0012】
すなわち、本発明の焼結バルブシートは、内燃機関のシリンダヘッドに圧入される焼結バルブシートであって、前記バルブシートは、バルブフェイスに繰り返し当接するシート層と、シリンダヘッドのバルブシート圧入孔の底面及び内周面に当接する支持層からなる2層構造を有し、前記シート層はCu又はCu合金からなるマトリックスにCo基硬質粒子及びFe基硬質粒子から選択された少なくとも1種を含み、前記支持層はCu又はCu合金からなるマトリックスにFe粒子及びFe合金粒子から選択された少なくとも1種を含むことを特徴とする。前記シート層に含まれる前記Co基硬質粒子及び前記Fe基硬質粒子から選択された少なくとも1種の含有量は25〜70質量%であることが好ましく、前記支持層に含まれる前記Fe粒子及び前記Fe合金粒子から選択された少なくとも1種の含有量は30〜70質量%であることが好ましい。また、前記支持層の熱伝導率は前記シート層の熱伝導率より高いことが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の焼結バルブシートは、熱伝導に優れたCu又はCu合金からなるマトリックス中に、Co基硬質粒子及び/又はFe基硬質粒子を含む耐熱・耐摩耗性に優れた高熱伝導性シート層と、Fe粒子及び/又はFe合金粒子を含む耐変形性に優れた高熱伝導性支持層からなる2層構造とすることによって、バルブ冷却能を向上させることが可能となり、ノッキング等のエンジンの異常燃焼の低減により、高圧縮比、高効率エンジンの性能向上に貢献することができる。また、支持層の緻密化による降伏応力の向上と高熱伝導化により、シリンダヘッドからの脱落を生じにくくすることが可能となる。さらに、Cu粉末原料に微細なCu粉末を使用しているので、比較的多量の硬質粒子が存在しても、ネットワーク状のCuマトリックスを形成し、また緻密化を図ることによって、高い熱伝導率を維持し、強度及び耐摩耗性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の焼結バルブシートの断面構造の1例の概略を示した図である。
【
図2】本発明の焼結バルブシートの断面構造の別の1例の概略を示した図である。
【
図4(a)】実施例1のシート層の断面組織を示した走査電子顕微鏡写真である。
【
図4(b)】実施例1の支持層の断面組織を示した走査電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の焼結バルブシートは、シリンダヘッドに圧入される焼結バルブシートであって、バルブフェイスに繰り返し当接するシート層と、シリンダヘッドのバルブシート圧入孔の底面及び内周面に当接する支持層からなる少なくともシート層/支持層の2層構造を有している。
図1は、本発明の焼結バルブシート(1)の断面構造の1例の概略を示しており、リング状のシート層(2)と支持層(3)が2層構造を構成し、シート層(2)の内周側にバルブフェイスに繰り返し当接するシート面(4)を有している。
図2も、本発明の焼結バルブシートの断面構造の別の1例の概略を示したものであるが、シート層(2)の体積が相対的に縮小され、バルブシート圧入孔の内周面に当接する支持層(3)部分の面積、すなわち、支持層(3)の外周面積が増加した構成を有している。なお、本発明の焼結バルブシート全体の高熱伝導化を阻害しない限り、シート層(2)と支持層(3)の収縮率を近づけて割れ等を防止するため、シート層(2)と支持層(3)の間に中間層(複数の中間層も含む)を設け、3層以上の構造とすることができる。
【0016】
本発明の焼結バルブシートのシート層は高熱伝導性で耐熱・耐摩耗性に優れた層を構成し、支持層は高熱伝導性で降伏強度の高い耐変形性に優れた層を構成する。焼結バルブシート全体の高熱伝導性を確保するため、シート層及び支持層の両層において、マトリックスをCu又はCu合金から構成し、シート層には耐熱・耐摩耗性を付与するCo基硬質粒子及び/又はFe基硬質粒子を分散・含有し、支持層には緻密化及び強度を向上して耐変形性を付与するFe粒子及び/又はFe合金粒子を分散・含有する。Co基硬質粒子及び/又はFe基硬質粒子は当然にFe粒子及び/又はFe合金粒子よりも硬く、Fe粒子及び/又はFe合金粒子の硬さはビッカース硬さで350 HV0.1未満であることが好ましい。前記シート層に含まれるCo基硬質粒子及び/又はFe基硬質粒子の含有量は25〜70質量%であることが好ましく、30〜65質量%であることがより好ましく、35〜60質量%であることがさらに好ましい。また、前記支持層に含まれるFe粒子及び/又はFe合金粒子の含有量は30〜70質量%であることが好ましく、35〜65質量%であることがより好ましく、40〜50質量%であることがさらに好ましい。
【0017】
特に、支持層の熱伝導率は、シート層の熱伝導率より高いことが好ましい。具体的には、支持層の熱伝導率は55〜90 (W/m)・Kであることが好ましく、60〜90 (W/m)・Kであることがより好ましく、65〜90 (W/m)・Kであることがさらに好ましい。シート層の熱伝導率は、30〜70 (W/m)・Kであることが好ましく、35〜70 (W/m)・Kであることがより好ましく、40〜70 (W/m)・Kであることがさらに好ましい。
【0018】
また、前記シート層と前記支持層の体積比は25/75〜70/30であることが好ましく、25/75〜60/40であることがより好ましく、25/75〜50/50であることがさらに好ましい。
【0019】
前記シート層に含まれるCo基硬質粒子及び/又はFe基硬質粒子、及び前記支持層に含まれるFe粒子及び/又はFe合金粒子は、マトリックスを構成するCuに殆ど固溶しないことが重要である。Co及びFeは600℃以下でCuに殆ど固溶しないので、Co基及びFe基の硬質粒子として使用できる。さらにMo、W、Cr及びVもCuに殆ど固溶しないので主要な合金元素として使用でき、Co基硬質粒子としてはCo-Mo-Cr-Si合金粉末及びCo-Cr-W-C合金粉末、Fe基硬質粒子としてはFe-Mo-Cr-Si合金粉末を使用することができる。すなわち、前記Co基硬質粒子は、質量%で、Mo:27.5〜30.0%、Cr:7.5〜10.0%、Si:2.0〜4.0%、残部Co及び不可避的不純物からなるCo-Mo-Cr-Si合金粒子、Cr:27.0〜32.0%、W:7.5〜9.5%、C:1.4〜1.7%、残部Co及び不可避的不純物からなるCo-Cr-W-C合金粒子、及び、Cr:28.0〜32.0%、W:11.0〜13.0%、C:2.0〜3.0%、残部Co及び不可避的不純物からなるCo-Cr-W-C合金粒子から選択された少なくとも1種であることが好ましく、前記Fe基硬質粒子は、質量%で、Mo:27.5〜30.0%、Cr:7.5〜10.0%、Si:2.0〜4.0%、残部Fe及び不可避的不純物からなるFe-Mo-Cr-Si合金粒子であることが好ましい。これらの硬質粒子の硬さは、ビッカース硬さで550〜900 HV0.1であることが好ましく、600〜850 HV0.1であることがより好ましく、650〜800 HV0.1であることがさらに好ましい。
【0020】
また、前記Co基硬質粒子及び前記Fe基硬質粒子から選択された少なくとも1種の硬質粒子の一部(全部でない)は第2の硬質粒子で置換され、前記第2の硬質粒子が、質量%で、C:1.4〜1.6%、Si:0.4%以下、Mn:0.6%以下、Cr:11.0〜13.0%、Mo:0.8〜1.2%、V:0.2〜3.0%、残部がFe及び不可避的不純物からなる合金鋼粒子、C:0.35〜0.42%、Si:0.8〜1.2%、Mn:0.25〜0.5%、Cr:4.8〜5.5%、Mo:1〜1.5%、V:0.8〜1.15%、残部がFe及び不可避的不純物からなる合金鋼粒子、C:0.8〜0.88%、Si:0.45%以下、Mn:0.4%以下、Cr:3.8〜4.5%、Mo:4.7〜5.2%、W:5.9〜6.7%、V:1.7〜2.1%、残部がFe及び不可避的不純物からなる合金鋼粒子、及び、C:0.01%以下、Cr:0.3〜5.0%、Mo:0.1〜2.0%、残部がFe及び不可避的不純物からなる合金鋼粒子から選択された少なくとも1種であることが好ましい。これら第2の硬質粒子は、前記のCo基硬質粒子及びFe基硬質粒子よりも軟らかく、ビッカース硬さで300〜650 HV0.1の硬さを有することが好ましい。400〜630 HV0.1であることがより好ましく、550〜610 HV0.1であることがさらに好ましい。前記のCo基硬質粒子又はFe基硬質粒子の一部(全部でない)を、硬さを抑えた第2の硬質粒子で置換することによって、バルブ攻撃性を緩和することができる。置換量としては、5〜35質量%が好ましく、15〜35質量%がより好ましく、21〜35質量%がさらに好ましい。
【0021】
また、前記Co基硬質粒子及び前記Fe基硬質粒子から選択された少なくとも1種の硬質粒子の一部(全部でない)は第3の硬質粒子で置換され、前記第3の硬質粒子が、質量%で、Mo:40〜70%、Si:0.4〜2.0%、残部Fe及び不可避的不純物からなるFe-Mo-Si合金粒子、Al
2O
3粒子及びSiC粒子から選択された少なくとも1種であることが好ましい。これら第3の硬質粒子は、ビッカース硬さで1100〜2400 HV0.1の硬さを有することが好ましい。すなわち、第3の硬質粒子は、Co基硬質粒子及びFe基硬質粒子よりも硬く、さらに耐摩耗性を向上するが、逆にバルブ攻撃性を増大するため、置換する量は要求特性に応じて調整されなければならない。
【0022】
一方、本発明のバルブシートの支持層は、シート層に含まれる、硬く、変形し難く、緻密化を阻害する傾向にある硬質粒子の代わりに、圧縮成形で緻密化しやすいが、軟質なCu又はCu合金マトリックス中に骨格を形成して強度と耐変形性を向上するFe粒子及び/又はFe合金粒子を使用する。Fe粒子は、96質量%以上のFe及び不可避的不純物からなるFe粒子であり、Fe合金粒子は、Feを80質量%以上含有するFe基合金粒子であり、具体的には、質量%で、Cr:0.5〜3.0%、残部Fe及び不可避的不純物からなるFe-Cr合金粒子、及び、Cr:0.5〜5.0%、Mo:0.1〜2.0%、残部Fe及び不可避的不純物からなるFe-Cr-Mo合金粒子から選択された少なくとも1種であることが好ましい。これらFe粒子及びFe合金粒子は、ビッカース硬さで350 HV0.1未満の硬さを有することが好ましい。300 HV0.1未満であればより好ましい。
【0023】
但し、前記支持層に含まれる前記Fe粒子及び前記Fe合金粒子から選択された少なくとも1種の一部(全部でない)は第2の硬質粒子で置換され、前記第2の硬質粒子が、質量%で、C:1.4〜1.6%、Si:0.4%以下、Mn:0.6%以下、Cr:11.0〜13.0%、Mo:0.8〜1.2%、V:0.2〜3.0%、残部がFe及び不可避的不純物からなる合金鋼粒子、C:0.35〜0.42%、Si:0.8〜1.2%、Mn:0.25〜0.5%、Cr:4.8〜5.5%、Mo:1〜1.5%、V:0.8〜1.15%、残部がFe及び不可避的不純物からなる合金鋼粒子、C:0.8〜0.88%、Si:0.45%以下、Mn:0.4%以下、Cr:3.8〜4.5%、Mo:4.7〜5.2%、W:5.9〜6.7%、V:1.7〜2.1%、残部がFe及び不可避的不純物からなる合金鋼粒子、及び、C:0.01%以下、Cr:0.3〜5.0%、Mo:0.1〜2.0%、残部がFe及び不可避的不純物からなる合金鋼粒子から選択された少なくとも1種であることが好ましい。これら第2の硬質粒子は、前記のFe粒子及びFe合金粒子よりも硬く、ビッカース硬さで300〜650 HV0.1の硬さを有することが好ましい。400〜630 HV0.1であることがより好ましく、550〜610 HV0.1であることがさらに好ましい。前記のFe粒子及びFe合金粒子の一部(全部でない)を、硬さを高めた第2の硬質粒子で置換することによって、圧縮成形時により変形し難くして、層間での分離を防止することと、シート層と支持層の収縮率を近づけることによる層間での歪み、割れを防止することができる。置換量としては、3〜30質量%が好ましく、5〜30質量%がより好ましく、5〜25質量%がさらに好ましい
【0024】
また、前記Fe粒子及び前記Fe合金粒子から選択された少なくとも1種の一部(全部でない)は第3の硬質粒子で置換され、前記第3の硬質粒子が、質量%で、Mo:40〜70%、Si:0.4〜2.0%、残部Fe及び不可避的不純物からなるFe-Mo-Si合金粒子、Al
2O
3粒子及びSiC粒子から選択された少なくとも1種であることが好ましい。これら第3の硬質粒子は、ビッカース硬さで1100〜2400 HV0.1の硬さを有することが好ましい。すなわち、第3の硬質粒子は、前記第2の硬質粒子よりも硬く、さらに圧縮成形時の変形を抑えるが、逆にバルブ攻撃性を増大するため、置換する量は要求特性に応じて調整されなければならない。
【0025】
また、本発明の焼結バルブシートは、緻密な焼結体を目指し、Fe-P合金粉末を添加することが好ましい。特に、支持層は、熱伝導率、強度、耐変形性の向上を図るため、緻密化を意図して、Fe-P合金粉末をシート層よりも少し多めに添加することが好ましい。Pの含有量で表せば、シート層には0.05〜2.2質量%が好ましく、支持層には0.1〜2.2質量%が好ましい。また、Fe-P合金粉末はPが15〜32質量%の範囲の合金粉末が市場から入手でき、例えば、Pが26.7質量%のFe-P合金粉末を利用した場合は、Fe-P合金粉末として、シート層で0.2〜8.2質量%、支持層で0.4〜8.2質量%の添加量とするのが好ましい。PはCo、Cr、Mo等と化合物を作るので、P含有量の上限は2.5質量%がより好ましく、1.0質量%がさらに好ましい。
【0026】
さらに、緻密な焼結体を目指し、Fe-P合金粉末と同様に6.5質量%までのSnを含有することができる。Cuマトリックスへの僅かなSnの添加が焼結時に液相を作り緻密化に貢献する。但し、Snが多量に存在すると、Cuマトリックスの熱伝導率を低下させることに加え、靱性の低い低強度のCu
3Sn化合物が増加して耐摩耗性を損なうので6.5質量%を上限とする。Snの添加量は、0.3〜2.0質量%が好ましく、0.3〜1.0質量%がより好ましい。
【0027】
本発明の焼結バルブシートのシート層には、必要に応じて固体潤滑材を加えることができる。例えば、直噴エンジンでは燃料による潤滑作用の無い摺動状態となり、固体潤滑材の添加により自己潤滑性を高めて耐摩耗性を維持することも必要となる。よって、本発明の焼結バルブシートは、3質量%までの、すなわち、0〜3質量%の固体潤滑材を含有することができる。固体潤滑材は、カーボン、窒化物、酸化物、硫化物及びフッ化物から選択され、特に、C、BN、MnS、CaF
2、SiO
2、WS
2、Mo
2Sから選択された少なくとも1種であることが好ましい。
【0028】
本発明の焼結バルブシートの2層構造は、支持層用の混合粉末とシート層用の混合粉末を準備し、金型の一部に支持層用混合粉末を投入、その上にシート層用混合粉末を投入して、圧縮、成形することによって形成される。支持層用混合粉末は、Cu粉末、Fe粒子粉末及び/又はFe合金粒子粉末、必要に応じて、前記Fe粒子粉末及び/又はFe合金粒子粉末の一部と置換する第2の硬質粒子粉末及び/又は第3の硬質粒子粉末、Fe-P合金粉末を配合、混合して準備され、シート層用混合粉末は、Cu粉末、Co基硬質粒子粉末及び/又はFe基硬質粒子粉末、必要に応じて、前記Co基硬質粒子粉末及び/又はFe基硬質粒子粉末の一部と置換する第2の硬質粒子粉末及び/又は第3の硬質粒子粉末、Fe-P合金粉末、Sn粉末、固体潤滑材を配合、混合して準備される。成形性を高めるため、混合粉末それぞれに対し、離型剤としてステアリン酸塩を0.5〜2質量%配合してもよい。焼結バルブシート用成形圧粉体は、真空又は非酸化性又は還元性の雰囲気中、850〜1070℃の温度範囲で焼成される。
【0029】
なお、上記の硬質粒子、Fe粒子及びFe合金粒子は、軟質なCu又はCu合金マトリックス中に骨格を形成するため、メジアン径は10〜150μmであることが好ましい。ここで、メジアン径は、その粒子径と累積体積(特定の粒子径以下の粒子体積を累積した値)との関係を示す曲線において、50%の累積体積に対応する粒子径d50を表し、例えば、マイクロトラック・ベル株式会社のMT3000IIシリーズを用いて測定できる。メジアン径は50〜100μmであることがより好ましく、65〜85μmであることがさらに好ましい。
【0030】
本発明の焼結バルブシートに使用する硬質粒子、Fe粒子及びFe合金粒子は球形状又は非球状の不規則形状であることが好ましい。特に、Co基硬質粒子及びFe基硬質粒子は、変形し難く緻密化を阻害する傾向にあるので、充填性を上げるためには球形状であることが好ましい。一方、球形状の硬質粒子は摺動面から脱落しやすいため、脱落を防止する意味では不規則な非球形状の硬質粒子が好ましい。特に、シート層に含有する硬質粒子は、要求特性に対応して、球形状の硬質粒子と不規則形状の硬質粒子を使い分けることが好ましい。もちろん、球形状の硬質粒子と不規則形状の硬質粒子を混合して使用することも好ましい。また、硬さの軟らかい軟質側の硬質粒子は、緻密化し易いので、硬質粒子同士の接触を増やして骨格構造を形成する観点で、不規則な非球形状であることが好ましい。球形状の硬質粒子はガスアトマイズにより作製でき、不規則な非球形状の粒子は粉砕又は水アトマイズにより作製できる。
【0031】
マトリックスを構成するCu粉末には、メジアン径45μm以下、純度99.5%以上のCu粉末を使用することが好ましい。粉末充填の観点から、硬質粒子のメジアン径より相対的に小さいCu粉末を使用することにより、硬質粒子が比較的多量に存在しても、ネットワーク状に連結したCuマトリックスを形成することが可能になる。例えば、硬質粒子のメジアン径は45μm以上、Cu粉末のメジアン径は30μm以下が好ましい。その点、Cu粉末は球状のアトマイズ粉末が好ましい。また、Cu粉末同士が絡みやすい細かな突起をもった樹枝状の電解Cu粉末もネットワーク状の連結したマトリックスを形成する上で、好ましく使用できる。
【実施例】
【0032】
実施例1
まず、メジアン径22μm、純度99.8質量%の電解Cu粉末に、メジアン径72μmの、質量%で、Mo:28.5%、Cr:8.5%、Si:2.6%、残部Co及び不可避的不純物からなるCo基硬質粒子(後述するCo基硬質粒子の1Aに相当)を50質量%、P含有量が26.7質量%のFe-P合金粉末を1.0質量%配合し、混練して、焼結バルブシートのシート層用混合粉末を作製した。ここで、Co基硬質粒子は、球形状と不規則形状の両方の形状の粒子を混合したものを使用している。また、原料粉末には成形工程の型抜き性を良くするためにステアリン酸亜鉛を原料粉末の量に対して0.5質量%加えている。
【0033】
次に、シート層用混合粉末に使用した電解Cu粉末とFe-P合金粉末を用い、電解Cu粉末に、メジアン径60μmの、純度99.8質量%のFe粒子粉末(後述するFe粒子又はFe合金粒子の4Aに相当)を45質量%、Fe-P合金粉末を2.5質量%配合し、混練して、焼結バルブシートの支持層用混合粉末を作製した。ここで、Fe粒子は不規則形状粒子で、ステアリン酸亜鉛も0.5質量%加えている。
【0034】
上記の支持層用混合粉末を所定量、成形金型に、続いてシート層用混合粉末を充填し、面圧640 MPaで圧縮・成形して、バルブシート積層成形体を作製した。ここで、積層成形体の積層界面は、
図1に示すように、バルブシートの内外周面に垂直になるように充填、圧縮している。
【0035】
バルブシート成形体は、温度1050℃の真空雰囲気中で焼成して、外径40 mmφ、内径18 mmφ、厚さ8 mmのリング状焼結体を作製し、さらに、機械加工により、軸方向から45°傾斜したシート面を有する外径25.8 mmφ、内径21.6 mmφ、高さ6 mmのバルブシートサンプルを作製した。
【0036】
上記バルブシートのシート層と支持層の体積比は、各層の寸法から計算により求めた結果、37/63であった。また、バルブシートのPの組成について成分分析を行った結果、シート層で0.27質量%、支持層で0.66質量%であった、この結果は、Fe-P合金粉末の添加量を反映していた。
【0037】
また、上記バルブシートのシート層と支持層の熱伝導率を確認するため、各層の混合粉末から成形、焼成、機械加工を経て、5 mmφ×1.3 mmの試験片を作製し、レーザーフラッシュ法により熱伝導率を測定した。その結果、シート層の熱伝導率は50 (W/m)・K、支持層の熱伝導率は78 (W/m)・Kであり、支持層がシート層よりも高い熱伝導率を示していた。
【0038】
さらに、上記バルブシートのシート層と支持層の強度を確認するため、各層の混合粉末から成形、焼成を経て、外径40 mmφ、内径18 mmφ、厚さ8 mmのリング状焼結体を作製し、焼成密度と圧環強さの測定を行った。その結果、シート層の密度は7.61 Mg/m
3、圧環強さは441 MPa、支持層の密度は8.00 Mg/m
3、圧環強さは710 MPaであり、支持層がシート層よりも高い密度と圧環強さを示していた。
【0039】
比較例1
硬質粒子として、メジアン径78μmの、質量%で、Mo:60.1%、Si:0.5%、残部Fe及び不可避的不純物からなるFe-Mo-Si合金粒子粉末(後述する第3の硬質粒子の3Aに相当)を10質量%含有したFe基焼結合金を使用して、実施例1と同形状の単層のバルブシートサンプルを作製した。
【0040】
比較例2
硬質粒子として、実施例1で使用したCo基硬質粒子50質量%の代わりに、同Co基硬質粒子を35質量%に、メジアン径84μmの、質量%で、C:0.85%、Si:0.3%、Mn:0.3%、Cr:3.9%、Mo:4.8%、W:6.1%、V:1.9%、残部がFe及び不可避的不純物からなる合金鋼粒子を15質量%としたシート層用混合粉末を用いて、実施例1と同形状の単層のバルブシートサンプルを作製した。
【0041】
[1] バルブ冷却能(バルブ温度)の測定
図3に示したリグ試験機を用いてバルブ温度を測定し、バルブ冷却能を評価した。バルブシートサンプル(11)はシリンダヘッド相当材(Al合金、AC4A材)のバルブシートホルダ(12)に圧入して試験機にセットされ、リグ試験は、バーナー(13)によりバルブ(14)(SUH合金、JIS G4311)を加熱しながら、カム(15)の回転に連動してバルブ(14)を上下させることによって行われる。バルブ冷却能は、バーナー(13)のエアー及びガスの流量とバーナー位置を一定にすることで入熱を一定にし、サーモグラフィー(16)によりバルブの傘中心部の温度を計測することによって測定した。バーナー(13)のエアー及びガスの流量(L/min)は、それぞれ90 L/min及び5.0 L/min、カム回転数は2500 rpmとした。運転開始15分後、飽和したバルブ温度を測定した。なお、本願実施例では、バルブ冷却能は、加熱条件等により変化する飽和バルブ温度で評価する代わりに、比較例1のバルブ温度からの温度低下量(低下を - で表示)により評価した。比較例1の飽和バルブ温度は800℃を超える高温であったが、実施例1の飽和バルブ温度は800℃を下回り、バルブ冷却能は-58℃であった。また、比較例2のバルブ冷却能は-30℃であった。
【0042】
[2] 摩耗試験
図3に示したリグ試験機を用いて、バルブ冷却能の評価の後、耐摩耗性を評価した。評価は、バルブシート(11)に埋め込んだ熱電対(17)を用いて、バルブシートの当たり面が所定の温度になるようにバーナー(13)の火力を調節して行った。また、摩耗量は、試験前後のバルブシートとバルブの形状を測定することにより、当たり面の後退量として算出した。ここで、バルブ(14)(SUH合金)は上記バルブシートに適合するサイズのCo合金(Co-20%Cr-8%W-1.35%C-3%Fe)を盛金したものを使用した。試験条件としては、温度300℃(バルブシート当たり面)、カム回転数2500 rpm、試験時間5時間とした。なお、摩耗量は、比較例1の摩耗量を1とした相対比率で評価した。実施例1の摩耗量は、比較例1と比較して、バルブシート摩耗量で0.71、バルブ摩耗量で0.92であった。比較例2の摩耗量は、バルブシート摩耗量で0.86、バルブ摩耗量で0.88であった。
【0043】
[3] 耐脱落性試験
耐脱落性試験は、加速試験として、バルブシート(11)を500℃まで加熱し50℃まで空冷するパターンを500サイクル実施し、耐脱落性は冷却後にバルブシートホルダ(12)からのバルブシート抜出荷重を測定して評価した。ここで、
図3のリグ試験機において、バルブ(14)は使用せずにバルブシート(11)の下に遮熱板を取り付け、温度はサーモグラフィー(16)を用いてバルブシート当たり面の温度を測定した。また、抜出荷重は万能試験機を使って測定した。耐脱落性は、シート層材料のみでバルブシート全体を形成した比較例2の抜出荷重を1とした相対比率で評価した。実施例1の耐脱落性は、比較例2と比較して、1.94であった。また、Fe基焼結合金である比較例1のバルブシートでは、耐脱落性は1.8であった。
【0044】
実施例2〜45
実施例2〜45においては、表1に示す種類のCo基硬質粒子及びFe基硬質粒子、表2に示す種類の第2の硬質粒子、表3に示す種類の第3の硬質粒子、及び表4に示す種類のFe粒子及びFe合金粒子を用いて、実施例1と同様にして、表5に示す配合量のシート層用混合粉末と、表6に示す配合量の支持層用混合粉末を作製した。表5のシート層用混合粉末には、さらに加えたFe-P合金粉末、Sn粉末及び固体潤滑材粉末の配合量も示した。なお、表1〜3のCo基又はFe基硬質粒子、及び、第2、第3の硬質粒子については、硬質粒子のビッカース硬さHV0.1(樹脂に埋め込み、鏡面研磨して、荷重0.1 kgで測定)、メジアン径、及び形状について示した。また、表6の支持層用混合粉末には、Sn粉末及び固体潤滑材粉末は加えていない。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
【表4】
【0049】
【表5】
【0050】
【表6】
【0051】
実施例2〜32及び36〜45について、表7に示すシート層と支持層の組合せで、シート層/支持層の体積比を変えて、実施例1と同様にしてバルブシートサンプルを作製し、実施例1と同様にして、シート層と支持層の体積比の測定、バルブ冷却能の測定、摩耗試験、及び耐脱落性試験を行った。実施例33〜35については、支持層成形時、45°内径側に傾斜した押型を使用し、
図2に示す積層界面を有する積層成形体を作製した。また、実施例10については、走査電子顕微鏡でシート層と支持層の断面組織を観察した。
【0052】
実施例10のシート層の走査電子顕微鏡写真を
図4(a)に、支持層の走査電子顕微鏡写真を
図4(b)に示す。
図4(a)のシート層の顕微鏡組織は、Cuマトリックス(5)及び硬質粒子(6)(Co基硬質粒子[硬質粒子1A]及び第2の硬質粒子[2A])が互いに絡みあって分布し、Cuマトリックス(5)は、一部は分断されているものの、多くが連続して分布している様子を示していた。なお、硬質粒子(6)は硬く変形し難いので、粒子形状を留めており、粒子間又は粒子/Cuマトリックス界面に隙間が存在している様子も観察された。一方、
図4(b)の支持層の顕微鏡組織は、Cuマトリックス(5)及びFe粒子(7)(Fe粒子4A)が互いに絡みあって分布し、Cuマトリックスは十分に連続して分布している様子を示していた。また、Fe粒子/Cuマトリックス界面も密接に結合しているようにみえ、支持層はシート層よりも緻密化していると考えられた。また、組織の大きさは、シート層に分散した硬質粒子サイズ(d50が72μm及び84μm)と支持層に分散したFe粒子サイズ(d50が60μm)を反映し、支持層の組織のほうが少し微細であった。
【0053】
シート層と支持層の体積比の測定、バルブ冷却能の測定、摩耗試験、及び耐脱落性試験の実施例2〜45の結果を、実施例1及び比較例1〜2の結果とともに、表7に示す。
【0054】
【表7】
【0055】
本発明の焼結バルブシートは、Fe基焼結合金製バルブシートと比較して、同等以上の耐摩耗性を示し、また、シート層と支持層からなる2層構造とすることによって、Fe基焼結合金製バルブシートに匹敵する耐脱落性を示した。さらに、バルブ冷却能は、支持層の体積比が大きくなるほど、向上しているようにみえた。
【符号の説明】
【0056】
1 焼結バルブシート
2 シート層
3 支持層
4 シート面
5 Cuマトリックス
6 硬質粒子
7 Fe粒子
11 バルブシートサンプル
12 バルブシートホルダ
13 バーナー
14 バルブ
15 カム
16 サーモグラフィー
17 熱電対
【要約】
高効率エンジンに使用可能な優れたバルブ冷却能を有し、耐変形性、耐摩耗性及び耐脱落性に優れた焼結バルブシートを提供するため、バルブシートを、バルブフェイスに繰り返し当接するシート層とシリンダヘッドのバルブシート圧入孔の底面及び内周面に当接する支持層とからなるシート層/支持層の2層構造とし、シート層はCu又はCu合金からなるマトリックスにCo基硬質粒子及びFe基硬質粒子から選択された少なくとも1種を含み、支持層はCu又はCu合金からなるマトリックスにFe粒子及びFe合金粒子から選択された少なくとも1種を含むようにする。