(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
盛土工事における「施工品質の見える化」を実践する上で、ブルドーザ・振動ローラ・バックホウなどの施工重機にICT(情報通信技術)を用いて効率化を図り、かつ品質保証をする試みは多くなされてきた。
また、盛土工事では、施工仕様基準に則した転圧管理をすることが最も重要な項目であり、既転圧箇所の判別が困難な転圧管理において「施工品質の見える化」は品質保証する上で非常に有効となった。
【0003】
例えば、特許文献1において、建設工事現場で作業を行う複数の建設作業機械のそれぞれのGPS三次元座標を、簡単な構成によって一つの場所の装置で画面表示し、土量施工出来高などを迅速かつ正確に管理する建設工事現場管理システムが提案される。
この建設工事現場管理システムは、建設工事現場を移動する複数の建設機械に設置される移動局からGPS測位によるGPS三次元座標データが無線送信される。固定局からもGPS測位によるGPS三次元座標データが無線送信される。このそれぞれのGPS三次元座標データを中央管理局が受信する。これらのGPS三次元座標データ及び固定局を設置した予め既知の地図上の三次元座標(緯度、経度、標高)から中央管理局の移動局位置演算装置がGPS干渉計測位におけるキネマティック測量による地図上の三次元座標を算出し、移動局の移動地点における地図上の三次元座標を同時に画面表示する。
この建設工事現場管理システムによれば、建設工事現場において移動する建設機械等の複数の移動体それぞれのGPS三次元座標や地図上の三次元座標が、簡単な構成によって一つの場所に設置した装置に同時に画面表示して判明できるようになる。したがって、例えば、建設工事現場における土量施工出来高、盛土や舗装の転圧、各種構造物の設置作業、埋立地の地盤沈下及び無人化施工等の管理が迅速かつ正確にできるようになる。
【0004】
しかし、ICTと共に「可視化」は進歩したものの、出来形測定の省力化に伴う「日々の施工数量の把握」には未だ至っていない。
現在、大規模土工事を施工する際、「日々の施工数量の把握」は施工計画・進捗管理・工程管理を行う上で精度の向上を図れ、より効率的な施工管理を実施するために望まれてきた。
【0005】
例えば、ダムや大規模造成工事において、日々の施工数量を算出する際、
1)現地の出来形測量による算出、
2)ダンプトラックの運搬台数からの推定、
3)測線及び標高ごとの概算数量の算出、
などが行われている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、従来の技術では、
1)測量機器の進歩により省力化は進んだものの、日々の作業量としては負担が大きい、
2)ダンプ台数の日報管理が必要であり、1台当りの土量は推定値を使用する、
3)代表的な測線・標高の数量は正確であるが、任意形状(仕上がり標高が凸凹など)での数量は概算数量になる、
など日々の作業量を考慮して、精度を犠牲にした管理が行われ、効率と精度を満足した施工管理には至っていなかった。
【0008】
本発明の課題は、ダム等の盛立工事において、最終出来形となる振動ローラの転圧後、その施工結果及び位置情報を可視化するだけでなく、施工した土量を自動算出できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するため、請求項1に記載の発明は、
ダムや大規模造成の盛立工事現場を移動して転圧する振動ローラから送信される三次元座標による位置情報を取り込んで出来形情報を得る現場管理システムにおいて、
前記盛立工事現場を予め所定の単位面積ごとに分割された、工事開始前の前記三次元座標による基盤形状として設定しておき、
前記振動ローラから送信される前記
所定の単位面積ごとの前記三次元座標による位置情報を取得し、その位置情報の標高データと前記工事開始前の基盤形状の標高データとの差に基づいて前記
所定の単位面積ごとの体積を算出し、その
算出した体積を
前記振動ローラによる施工当日の転圧済みの施工範囲に応じ積算して、
施工当日の当該時点までに現場に投入された土量を算定する、盛立工事における土量自動算定システムを特徴とする。
【0010】
さらに、請求項1に記載の発明は、
前記盛立工事現場の法肩部において、
法肩から所定寸法離れた平坦部上に判定用境界線を設定して、その判定用境界線
が設定された前記所定の単位面積ごとで所定の標高ごとにおける前記振動ローラによる
施工当日の転圧済みの境界線の割合を、前記振動ローラによる
施工当日の踏破率とする一方、
前記判定用境界線が設定された前記所定の単位面積ごとにおいて、前記判定用境界線より前記法肩側の工事完了まで投入が必要な土量を予め
前記所定の標高ごとに所定の土量を単位ブロックとするブロック数量として算出しておき、
前記判定用境界線が設定された前記所定の単位面積ごとで前記所定の標高ごとにおいて、施工当日の前記踏破率に前記ブロック数量を掛けて、前記法肩部の
施工当日の当該時点までに現場に投入された土量として算定することを特徴とする。
【0011】
請求項
2に記載の発明は、
請求項
1に記載の盛立工事における土量自動算定システムであって、
施工当日の前記踏破率が100%で最高標高の前記判定用境界線の当該最高標高までの全ての土量である当該最高標高土量を算出しておき、
前記判定用境界線が設定された前記所定の単位面積ごとで前記所定の標高ごとにおいて、施工当日の前記踏破率が100%を下回る前記判定用境界線については、当該標高より一つ前記所定の標高が低い判定用境界線の当該標高までの全ての土量である標高別土量を差し引いた上で、当該踏破率を乗じた値を当該標高土量として算出し、
前記判定用境界線が設定された前記所定の単位面積ごとで前記所定の標高ごとにおいて、前記当該最高標高土量及び当該標高土量を足し合わせて、前記法肩部の
施工当日の当該時点までに現場に投入された最終的な土量として算定することを特徴とする。
【0012】
請求項
3に記載の発明は、
請求項
2に記載の盛立工事における土量自動算定システムであって、
前記踏破率に予め下限しきい値と上限しきい値を設定しておき、
前記踏破率が前記下限しきい値を下回った場合は0%として扱い、
前記踏破率が前記上限しきい値を上回った場合は100%として扱うことを特徴とする。
【0013】
請求項
4に記載の発明は、
請求項
1から3のいずれか一項に記載の盛立工事における土量自動算定システムであって、
前記平坦部の転圧によって計測された標高と、前記平坦部の転圧作業後に法面整形など法面盛土部の施工の際の標高との差をオフセット値として設定しておき、
前記法面盛土部の施工の際は、前記計測された標高から前記オフセット値を差し引いて、前記法肩部の
施工当日の当該時点までに現場に投入された土量を算定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ダム等の盛立工事において、最終出来形となる振動ローラの転圧後、その施工結果及び位置情報を可視化するだけでなく、施工した土量を自動算出することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態を詳細に説明する。
(概要)
ダムや大規模造成の盛立工事において、最終出来形となる振動ローラの転圧後、その施工結果及び位置情報を可視化するだけでなく、取得した位置データ(x,y,z)を初期値(基盤)と比較して、土量を柱状化し累計することで、出来形測定を実施せず、作業の省力化を図りながら、その日の施工量を自動算出できる「土量自動算定システム」である。
土量自動算定は、主に平坦部の算出と、法肩部の算出とに分けられる。
【0017】
A.平坦部の算出方法
1)事前に「基盤形状」として座標(x,y,z0)を持ったメッシュ(例えば50cm×50cm)にしておく。
2)重機からフィードバックされてくるメッシュごとの位置データ(x,y,z1が任意)を取得する。
3)取得データ(z1)と基盤データ(z0)の差を立方体体積として、施工範囲のメッシュ体積を総和する。
4)「前日の総和」と「当日の総和」の差が当日の施工数量となる。
【0018】
B.法肩部の算出方法
1)法肩部は振動ローラが安全上端部まで施工できないことから、踏破率により土量を算出する。
2)法肩から平行に任意の寸法、例えば3m離れた盛土上に判定用境界線を設定して、判定用境界線における転圧済みの境界線の割合を踏破率とする。
3)事前に判定用境界線より法肩側のブロック数量を標高ごとに算出しておく。
4)踏破率×ブロック数量で法肩部の土量として計上し、平坦部の土量と合計して算出する。
5)しきい値を設定することで、GPS不良等の外れ値を計上しないように考慮する。
6)法肩部の施工は、法面整形など転圧作業後に施工することを考慮して、N−1層のブロック数量を用いる。
【0019】
(実施形態)
図1は本発明を適用した現場管理システムの一実施形態を示すもので、例えばダム堤体の施工において、図示のように、管理事務所1の管理PC2及びデータサーバ3と、ブルドーザ4と、振動ローラ5と、図示しないバックホウと、GNSS移動局6と、GNSS基準局7と、各所に設置された図示しないアクセスポイントとが、現場内の無線LAN8でデータ通信可能に接続されている。
すなわち、ブルドーザ4、振動ローラ5、及びバックホウには、図示しないモニタ、無線LAN通信用アンテナ、及びGNSS受信用アンテナがそれぞれ搭載されている。なお、ブルドーザ4には傾斜計も搭載されている。また、バックホウには、バケットセンサ、アームセンサ、及びブームセンサも搭載されている。
【0020】
この現場管理システムにおいて、具体的には、
1)GNSS(Global Navigation Satellite System)を利用した振動ローラ5の転圧回数管理、
2)ブルドーザ4のMG(マシンガイダンス)を利用した敷均し、
3)バックホウのMGを利用した法面整形、
4)GNSS移動局6による位置出し、出来形測量、
5)転圧回数・盛立土量など、日々の帳票作成の自動化、
が行われる。
【0021】
すなわち、ブルドーザ4のMGシステムにより、丁張レス施工、均一な敷均し厚が管理される。
【0022】
そして、振動ローラ5のGPS締固め管理システムにより、締固め回数が管理され、さらに、αシステムにより、振動ローラ加速度応答による面的な地盤剛性が評価される。
【0023】
また、GNSS移動局6等を用いたGPS測量により、詳細が測量され、出来形データが得られる。
【0024】
さらに、管理PC2及びデータベース3の3D−CADによる統合DBシステムにより、施工指示データ、品質管理データ、出来高管理データ、各種帳票類作成が行われる。
【0025】
そして、施工指示データ・施工実績データ・GNSS補正データ等の情報は、全て無線LAN8を介して送受信して、堤体全域+αをカバーしている。
以上の現場管理システムによる処理を以下に説明する。
【0026】
1)GNSSを利用した振動ローラ5の転圧回数管理
振動ローラ5による転圧回数が可視化されて、転圧対象EL(標高)の平面図やゾーン境界線が背景図として表示される。これにより、ゾーン境界部、盛土端部、先行・後行ジョイント部等の踏み残し防止が図れる。
【0027】
2)ブルドーザMGを利用した敷均し
ブルドーザ4による設定高からの高低が可視化されて、ゾーン境界線が背景図として表示される。これにより、撒出し厚、ゾーン境界の測量レスが図れ、敷均し施工の効率化、高精度化が図れる。
【0028】
3)バックホウMGを利用した法面整形
バックホウによる設計形状からの高低が可視化される。これにより、丁張レス、法面整形の効率化が図れる。
【0029】
4)GNSS移動局6による位置出し、出来形測量
測量業務の労力低減が図れる。
【0030】
5‐1)帳票作成の自動化(日報)
日毎の施工結果平面図が自動作成される。
従って、簡易なカスタマイズで他地点へ適用可となる。
【0031】
5‐2)帳票作成の自動化(土量自動算出システム)
【0032】
図2は本発明の土量自動算定システムによる盛立工事の土量算出を説明するもので、所定の単位面積ごと、すなわち、図示のように、50cm×50cmのメッシュごとに対応した施工結果の位置情報から求められる土柱体積を積算し、土量を自動算出する。
なお、盛土、切土に適用可である。
【0033】
図3は帳票作成の自動化として日報例を示した図表である。
図示のように、日盛立数量と累計盛立数量が表示される。
【0034】
図4は
図2に対応する盛立工事のメッシュ例及び位置情報の取得を説明するもので、振動ローラ転圧後、図示のように、取得した位置データ(x,y,z)を活用して出来形測定の省力化を図る。
【0035】
図5は位置データから得られる面データ例を示した平面図である。
【0036】
図6は基盤形状と取得データの仕上がり面の関係を示したもので、図示のように、メッシュごとに分割された基盤形状に対し、取得データの仕上がり面との差に基づいて、すべての取得データについて基盤データとの差分から体積を算出する。
【0037】
(平坦部の算出方法)
1)事前に「基盤形状」として座標(x,y,z0)を持ったメッシュ(50cm×50cm)にしておく。
2)重機(振動ローラ5)からフィードバックされてくるメッシュごとの位置データ(x,y,z1が任意)を取得する。
3)取得データ(z1)と基盤データ(z0)の差を立方体体積として、施工範囲のメッシュ体積を総和する。
4)「前日の総和」と「当日の総和」の差が当日の施工数量となる。
【0038】
図7は法肩部の判定用境界線を示したもので、図示のように、法肩部は振動ローラ5が安全上、端部まで施工できないことから、踏破率により土量を算出する。
【0039】
(法肩部の算出方法1)
1)法肩から平行に3m(任意)離れた盛土上に判定用境界線を設定して、判定用境界線における転圧済みの境界線の割合を踏破率とする。
2)事前に判定用境界線より法肩側の土量を標高ごとにブロック数量として算出しておく。
3)踏破率×ブロック数量で法肩部の土量として計上し、平坦部の土量と合計して算出する。
【0040】
図8は判定用境界線で一般部と法肩部の分離例を示したものである。
【0041】
図9は踏破率を説明する図表である。
図示のように、踏破率は、判定用境界線における転圧済みの境界線の割合となる。
また、図示例においては、境界線判定による土量算出では、標高10cmごとの判定用境界線について踏破率を算出する。
【0042】
図10は踏破率を例示したもので、図示のように、土量算出には、まず、踏破率100%且つ最高標高の判定用境界線の標高別土量を算出する。
そして、踏破率100%を下回る判定用境界線については、一つ標高が低い判定用境界線の標高別土量を差し引いた上で、踏破率を乗じた値を土量として算出する。これらを足し合わせ最終的な土量として計上する。
【0043】
図11は
図10に対応する土量の算出を示した図表である。
図示のように、標高別土量は、その標高までの全ての土量であるため、10cm分の土量を知るにはひとつ下の標高別土量との差分を計算する必要がある。
【0044】
(法肩部の算出方法2)
図12は踏破率の外れ値及び欠落・計測不能を例示したものである。
図示のように、GPS不良等の外れ値や欠落・計測不能を計上しないように考慮して、しきい値を設定する。
【0045】
図13は
図12に対応するしきい値例との関係を示した図表である。
図示例は、下限しきい値5%、上限しきい値90%の場合である。
この場合、踏破率2%、3%、4%は、下限のしきい値5%を下回ったため、0%として扱われる。
また、踏破率92%、98%は、上限のしきい値90%を上回ったため、100%として扱われる。
【0046】
(法肩部の算出方法3)
図14は法面整形など法面盛土部の施工の際の層の相違を示したもので、図示のように、法面盛土部の施工は、平坦部の転圧作業後に実施するため、リフト厚の設定及びN−1層のブロック数量を計上する。
そして、平坦部のロック材等の一般盛土材はリップ材等の法面盛土材よりも先に施工されるため、転圧によって計測された標高と、法面盛土材の標高には差が生じる。その差をオフセット値として、標高に対して設定しておき、法面盛土材の土量算出の際には、オフセットされた標高を使用することで、正しい土量を算出する。
【0047】
図15は
図14に対応する計測された標高からオフセット値を差し引いて法面盛土材(リップ材)の土量算出に使われる標高の例を示した図表である。
【0048】
以上、実施形態によれば、盛立工事現場を予め所定の単位面積に分割された基盤形状として設定しておき、振動ローラ5から送信される単位面積ごとの三次元座標による位置情報(x,y,z)を取得し、その位置情報の標高データ(z1)と基盤形状の標高データ(z0)との差に基づいて単位面積ごとの体積を算出し、その体積を施工範囲に応じ積算して土量を算定するので、ダム等の盛立工事において、最終出来形となる振動ローラの転圧後、その施工結果及び位置情報を可視化するだけでなく、施工した土量を自動算出することができる。
【0049】
そして、法肩部においては、法肩から所定寸法離れた平坦部上に判定用境界線を設定して、その判定用境界線における振動ローラ5による転圧済みの境界線の割合を踏破率とする一方、判定用境界線より法肩側の土量を予め標高ごとにブロック数量として算出しておき、踏破率にブロック数量を掛けて法肩部の土量として算定するので、振動ローラ5が端部まで施工できない法肩部の土量を自動算出することができる。
【0050】
さらに、踏破率が100%で最標高の判定用境界線の標高別土量を算出しておき、踏破率が100%を下回る判定用境界線については、一つ標高が低い判定用境界線の標高別土量を差し引いた上で、当該踏破率を乗じた値を土量として算出し、これら土量を足し合わせて最終的な土量として算定するので、法肩部の土量の算出誤差を少なくすることができる。
【0051】
さらに、踏破率に予め下限しきい値と上限しきい値を設定しておき、踏破率が下限しきい値を下回った場合は0%として扱い、踏破率が上限しきい値を上回った場合は100%として扱うので、GPS不良等の外れ値や欠落・計測不能を計上しないようにして、法肩部の土量の算出誤差を少なくすることができる。
【0052】
また、平坦部の転圧によって計測された標高と、平坦部の転圧作業後に法面整形など法面盛土部の施工の際の標高との差をオフセット値として設定しておき、法面盛土部の施工の際は、計測された標高からオフセット値を差し引いて土量を算定するので、法面盛土材の土量を正しく算出することができる。
従って、施工が完了していない箇所の過度な土量計上を防止でき、より精度の高い土量算出が可能となる。
【0053】
(変形例)
以上の実施形態の他、具体的な手法等について適宜に変更可能であることは勿論である。