特許第6309726号(P6309726)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6309726デジタルオフセット印刷用フィルム積層体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6309726
(24)【登録日】2018年3月23日
(45)【発行日】2018年4月11日
(54)【発明の名称】デジタルオフセット印刷用フィルム積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20180402BHJP
   B32B 27/36 20060101ALN20180402BHJP
【FI】
   B32B27/32 101
   !B32B27/36
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-190610(P2013-190610)
(22)【出願日】2013年9月13日
(65)【公開番号】特開2015-54497(P2015-54497A)
(43)【公開日】2015年3月23日
【審査請求日】2016年9月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中原 純一
(72)【発明者】
【氏名】大葛 貴良
【審査官】 飛彈 浩一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−327991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム基材の少なくとも片面に樹脂層を形成させたフィルムであって、前記樹脂層に用いられる樹脂が、以下の条件を満たすことを特徴とするデジタルオフセット印刷用フィルム積層体。
(i)酸価が20mgKOH/g以上の変性ポリオレフィン樹脂である。
(ii)ガラス転移温度を有する場合には、ガラス転移温度が70〜90℃、ガラス転移温度を有しない場合には、融点が70〜90℃である。
【請求項2】
フィルムが二軸延伸フィルムであることを特徴とする請求項1に記載のデジタルオフセット印刷用フィルム積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルオフセット印刷用フィルム積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
包装フィルム分野においては、意匠性を付与する目的で、フィルムにパッケージデザインの印刷がおこなわれている(例えば、特許文献1)。パッケージデザインの印刷する方法としては、近年、商品の少量多種化・ライフサイクルの短縮化の観点から、版を必要とせず即時にデザインを変更できるデジタルオフセット印刷が注目されている。デジタルオフセット印刷とは、汎用のオフセット印刷のような版下等を作製せずに、所望の印刷物を必要なときに必要な部数だけ(オンデマンドで)作製する印刷方式であり、デジタルデータを直接出力するデジタル印刷機を使用することに特徴がある。デジタルオフセット印刷においては、通常、フォトイメージングプレート上に印刷したいデザインを形成した後、それをブランケットに転写し、被写体をブランケットに押し付けることによりインクを熱転写する。
【0003】
デジタルオフセット印刷は、オンデマンドで印刷することが本来の目的であるため、種々の基材フィルムに対応可能なように印刷直前にプライマー処理することを前提としたシステムが採用されている。このため、プライマーは、比較的乾燥速度が速い有機溶剤系のものが用いられ、乾燥速度が遅い水に分散させたものを用いることはなかった。
【0004】
パッケージデザインの印刷がされたフィルムは、包装袋等に加工する際に、熱融着等の熱処理がおこなわれる。しかしながら、たとえ乾燥速度が早い有機溶剤を用いたとしても、完全にインラインで乾燥することはできず、その上に印刷したパッケージデザインを熱処理した際に、印刷後に残存している有機溶剤によって、インクが軟化してインクとフィルムとの密着性が低下するという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2004−532144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、デジタルオフセット印刷方式において、印刷直前のプライマー処理工程を必要とせず、インキに対する密着性にも優れるフィルム積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討の結果、フィルムに、特定の酸価を有し、特定の熱的特性を有する変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体を予め塗布することにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)フィルム基材の少なくとも片面に樹脂層を形成させたフィルムであって、前記樹脂層に用いられる樹脂が、以下の条件を満たすことを特徴とするデジタルオフセット印刷用フィルム積層体。
(i)酸価が20mgKOH/g以上の変性ポリオレフィン樹脂である。
(ii)ガラス転移温度を有する場合には、ガラス転移温度が70〜90℃、ガラス転移温度を有しない場合には、融点が70〜90℃である。
(2)フィルムが二軸延伸フィルムであることを特徴とする(1)に記載のデジタルオフセット印刷用フィルム積層体。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、インキに対する密着性に優れたデジタルオフセット印刷用フィルム積層体を提供することができる。また、印刷直前のプライマー塗布工程を設ける必要がないため、デジタルオフセット印刷機の機構を簡略化し、印刷機の省スペース化を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のフィルム積層体は、フィルム基材の少なくとも片面に樹脂層を形成させたデジタルオフセット印刷用のフィルム積層体である。
【0011】
フィルム基材を構成する樹脂としては、熱可塑性樹脂であれば特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、およびこれらの混合物等のポリエステル系樹脂、あるいはポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリ−p−キシリレンアジパミド(MXD6ナイロン)、およびこれらの混合物等のポリアミド系樹脂が挙げられる。フィルムの厚みは、特に限定されないが、5〜500μmの範囲とすることが好ましい。
【0012】
フィルム基材は、フィルム形状を有していれば特に限定されないが、一軸延伸フィルム、二軸延伸フィルム等の延伸フィルムが好ましく、力学特性の点から、二軸延伸フィルムがより好ましい。
【0013】
二軸延伸フィルムの製造方法としては、特に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂を押出機で加熱、溶融してTダイより押出し、冷却ロールより冷却固化させて未延伸フィルムを得るか、または円形ダイより押出して水冷もしくは空冷により固化させて未延伸フィルムを得、その後、未延伸フィルムを一旦巻き取るか、または連続して同時二軸延伸法もしくは逐次二軸延伸法により延伸する方法が挙げられる。中でも、フィルムの機械的特性や厚み均一性等の性能面から、Tダイによるフラット式製膜法とテンター延伸法を組み合わせる方法が好ましい。
【0014】
本発明において、樹脂層に用いる樹脂は、特定の酸価を有し、特定の熱的特性を有する変性ポリオレフィン樹脂である必要がある。
【0015】
変性ポリエステル樹脂とは、ジカルボン酸成分とグリコール成分から構成され、無水カルボン酸等により変性されたポリエステル樹脂のことをいう。また、変性ポリオレフィン樹脂とは、ポリオレフィン樹脂を無水カルボン酸等により変性した樹脂のことをいう。ポリオレフィン樹脂としては、例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、共重合オレフィン樹脂が挙げられる。無水カルボン酸としては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸が挙げられる。
【0016】
性ポリオレフィン樹脂の酸価は、20mgKOH/g以上であることが必要である。変性ポリオレフィン樹脂の酸価が20mgKOH/g未満の場合、樹脂を水に分散させることが困難であるため好ましくない。
【0017】
樹脂層に用いる樹脂の熱的特性は特定の範囲である必要がある。デジタルオフセット印刷においては、熱転写ローラーの温度は、70〜90℃に設定されている。このため、本発明においては、熱転写ローラーを従来と同じ温度とすることができるように、変性ポリエステル樹脂、変性ポリオレフィン樹脂は、ガラス転移温度を有する場合には、ガラス転移温度が70〜90℃であることが必要であり、80〜90℃であることがより好ましく、ガラス転移温度を有しない場合には、融点が70〜90℃であることが必要であり、80〜90℃であることがより好ましい。ガラス転移温度を有していてガラス転移温度が70℃未満の場合、または、ガラス転移温度を有しておらず融点が70℃未満の場合、巻き取れなかったり、ブロッキングが生じたりするので好ましくない。一方、ガラス転移温度を有していてガラス転移温度が90℃を超える場合、または、ガラス転移温度を有しておらず融点が90℃を超える場合、インキと樹脂層の密着性が低下し、印刷特性が不十分となるので、好ましくない。
【0018】
変性ポリエステル樹脂や変性ポリオレフィン樹脂は、水に分散させて用いることが必要である。有機溶剤に溶解させた樹脂を塗布した場合、フィルムどうしを熱融着する場合などに、インクが軟化してインクとフィルムとの密着性が低下することがあるので好ましくない。
【0019】
ポリエステル樹脂の水性分散体の市販品としては、例えば、ユニチカ社製エリーテル、東洋紡社製バイロナール、互応化学社製プラスコートが挙げられ、変性ポリオレフィン樹脂の水性分散体の市販品としては、例えば、ユニチカ社製アローベース、三井化学社製ケミパールが挙げられる。
【0020】
樹脂層には、塗工性・接着性・膜強度の改良のために各種添加剤を加えてもよい。各種添加剤としては、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、アルキルトリメチルアンモニウム塩系界面活性剤等の界面活性剤や、メラミン系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤等の架橋剤が挙げられる。界面活性剤を用いることにより、基材との密着性が向上し、架橋剤を用いることにより、膜強度が増し、摩擦、耐溶剤性、耐ブロッキング性が向上する。界面活性剤または架橋剤の添加することにより、転写ロールの汚染を抑制することができるため、印刷適性が向上する。また、樹脂層には、本発明の効果を損なわない限りで、帯電防止剤やスリップ剤等の公知の各種添加剤を加えることができる。
【0021】
フィルム基材上に形成される樹脂層の厚みは、0.03〜10μmとすることが好ましく、0.05〜1μmとすることがより好ましい。樹脂層の厚みが、0.03μm未満の場合、十分な印刷特性が得られない場合があり、一方、10μmを超える場合、性能が飽和するので経済的ではない。
【0022】
本発明においては、フィルム基材上に樹脂層を形成するにあたり、構成樹脂を溶媒に分散させた塗工液をフィルム上に塗工し、乾燥させる方法を用いることができる。
【0023】
基材フィルムに塗工液を塗布する方法としては、塗布後乾燥、熱処理するオフラインコートでもよく、未配向の未延伸フィルム、または一軸延伸のみをおこなったフィルムに塗工液を塗布し、乾燥後または乾燥と同時に延伸し、配向をおこなうインラインコートでもよいが、経済的な観点から、インラインコートが好ましい。
【0024】
塗工液の塗布方法は、特に限定されないが、例えば、グラビアロール法、リバースロール法、エアーナイフ法、リバースグラビア法、マイヤーバー法、インバースロール法、ダイコート法、又はこれらの組み合わせによる各種コーティング方式や、各種噴霧方式等を採用することができる。また、コーターの前にコロナ処理装置等を設置し、基材フィルムの濡れ張力を調整することができる。
【実施例】
【0025】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
1.評価方法
【0026】
(1)耐ブロッキング性試験
50mm×50mmに切り出したフィルム積層体2枚を、樹脂層面と非樹脂層面とが接触するように重ね、ステンレス平板に挟んで平らな面に置き、10kgのおもりをのせて60℃で24時間以上静置した後、おもりとステンレス平板を取り除き、フィルム面のブロッキング状態を、以下の基準で評価した。
○:ブロッキングが見られる。
×:ブロッキングが見られない。
【0027】
(2)インキ密着性
ヒューレット・パッカード社製 Indigo WS6600を用いて、印刷後、セロテープ(登録商標)剥離試験にて、インキ密着性を、以下の基準で評価した。印刷機使用時にはプライミング工程部(プライミングステーション)を不使用とした。
○:剥がれなし。
×:剥がれあり。
【0028】
(3)ガラス転移温度、融点
樹脂10mgをサンプルとして用いて、示差走査型熱量計(PerkinElmer社製 Pyris1 DSC)を用いて昇温速度20℃/分で260℃まで昇温し、昇温曲線中のガラス転移に由来する2つの折曲点温度の中間値をガラス転移温度とし、吸熱ピークのトップを融点とした。
【0029】
(4)酸価
変性ポリエステル樹脂水性分散体または変性ポリオレフィン樹脂水性分散体10gを120℃で加熱し、固形分として樹脂を取り出した。
変性ポリエステル樹脂水性分散体から樹脂を取り出した場合、変性ポリエステル樹脂0.5gを精秤し、水/1,4-ジオキサン=1/9(体積比)50mLに室温で溶解し、クレゾールレッドを指示薬として0.1Nの水酸化カリウムメタノール溶液で滴定し、中和に消費された変性ポリエステル樹脂1gあたりの水酸化カリウムのmg数(mgKOH/g)を酸価とした。
また、変性ポリオレフィン樹脂水性分散体から樹脂を取り出した場合、変性ポリオレフィン樹脂0.5gを精秤し、テトラヒドロフラン50mLに室温で溶解し、クレゾールレッドを指示薬として0.1Nの水酸化カリウムメタノール溶液で滴定し、中和に消費された変性ポリオレフィン樹脂1gあたりの水酸化カリウムのmg数(mgKOH/g)を酸価とした。
【0030】
2.塗工液
(1)変性ポリエステル樹脂水性分散体
1.KZA−6034(ユニチカ社製エリーテル、ガラス転移温度72℃)
2.KZA−5034(ユニチカ社製エリーテル、ガラス転移温度67℃)
3.KA−0134(ユニチカ社製エリーテル、ガラス転移温度41℃)
4.Z−565(呉応化学社製プラスコート、ガラス転移温度64℃)
5.Z−690(呉応化学社製プラスコート、ガラス転移温度110℃)
(2)変性ポリオレフィン樹脂水性分散体
1.SB−1010(ユニチカ社製アローベース、融点83℃)
2.SA−1200(ユニチカ社製アローベース、融点100℃)
3.SE−1200(ユニチカ社製アローベース、融点93℃)
(3)架橋剤
1.サイメル325(日本サイテックインダストリーズ社製、メラミン系)
(4)界面活性剤
1.オルフィンE1004(日信化学工業社製、アセチレングリコール系)
【0031】
参考例1
KZA−6034を固形分濃度が12質量%になるように純水で希釈し、塗工液を作製した。
ポリエチレンテレフタレート樹脂(日本エステル社製、固有粘度0.6)を、Tダイを備えた押出機(75mm径、L/Dが45の緩圧縮タイプ単軸スクリュー)を用いて、シンリンダー温度260℃、Tダイ温度280℃でシート状に押出し、表面温度25℃に調節された冷却ロール上に密着させて急冷し、厚み120μmの未延伸フィルムを得た。続いて、90℃で縦方向に3.4倍延伸させた後、グラビアロール式コーターに導き、メイヤーバー法と組み合わせることにより、上記塗工液を、乾燥後の樹脂層厚みが0.2μmになるように塗布した。その後、温度90℃で2秒間予熱した後、横方向に3.5倍の倍率で延伸し、横方向弛緩率を2%として、フィルム積層体を得た。得られたフィルム積層体の基材の厚みは12μmであった。
得られたフィルム積層体の評価結果を表1に示す。
【0032】
実施例2〜4、実施例6、比較例1〜6、参考例1、5
塗工液の各成分の配合比を表1に示すように変更する以外は、参考例1と同様の操作をおこない、フィルム積層体を得た。
得られたフィルム積層体の評価結果を表1に示す。
【0033】
【表1】
【0034】
実施例2〜4、6のフィルム積層体は、インキ密着性に優れていた。また、耐ブロッキング性にも優れていた。
比較例1、2、5のフィルム積層体は、樹脂層に用いた樹脂のガラス転移温度または融点が、本発明で規定する範囲よりも低かったため、耐ブロッキング性が不良であった。
比較例3、4、6のフィルム積層体は、樹脂層に用いた樹脂のガラス転移温度または融点が、本発明で規定する範囲よりも高かったため、インキ密着性が不良であった。