(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態(以下、本実施の形態という。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0017】
本実施の形態の低温収縮性オーバーラップ包装用フィルム(以下、単に「フィルム」と略記する場合がある。)は、両表面層(I)と、芯層(II)を備える。両表面層(I)は、エチレン−酢酸ビニル共重合体を50質量%以上含む。芯層(II)は、密度が0.880〜0.916g/cm
3のエチレン−α−オレフィン共重合体(A)を40〜85質量%、融解ピーク温度が110℃以下であるエチレン系共重合体(B)を60〜15質量%含む。
【0018】
以下、両表面層(I)及び芯層(II)について詳述する。
【0019】
図1は、本発明の一実施形態である低温収縮性オーバーラップ包装用フィルムの模式断面図である。
図1に示すように、低温収縮性オーバーラップ包装用フィルム10は、上表面及び下表面に両表面層(I)2,3と、その間に挟まれた芯層(II)1とを備える。
【0020】
[両表面層(I)]
本実施の形態において、両表面層(I)は、エチレン−酢酸ビニル共重合体を50質量%以上含む層であればよい。エチレン−酢酸ビニル共重合体は酢酸ビニルに由来するヒートシール性、防曇剤の保持性に優れており、表面層に使用するのに好適である。
【0021】
本実施の形態においては、エチレン−酢酸ビニル共重合体を80質量%以上含有することで、ヒートシール性や防曇性がより良好となることから好ましく、90質量%以上を含有することで、ヒートシール性や防曇性がさらに良好となることからより好ましい。なお、エチレン−酢酸ビニル共重合体の含有割合の上限値は好ましくは100質量%である。
【0022】
エチレン−酢酸ビニル共重合体中の酢酸ビニル含有量は、1〜40質量%が好ましく、ヒートシール性と、防曇性を両立させる観点から、より好ましくは5〜30質量%、更に好ましくは10〜20質量%である。
【0023】
酢酸ビニル含有量は、JIS K 7192に準じて、試料をキシレン中に溶解し、水酸化カリウムのアルコール溶液で酢酸基を加水分解する。過剰の硫酸又は塩酸を加え、フェノールフタレインを指示薬として、標準水酸化ナトリウム溶液で酸を逆滴定することにより、測定できる。
【0024】
両表面層(I)には、30質量%を超えない範囲で、その他の柔軟性樹脂や改質樹脂を含んでもよい。柔軟性樹脂としては、エチレン−α−オレフィン共重合体や高圧法低密度ポリエチレン等が挙げられ、融点が60〜120℃以下のものを用いると、ヒートシール性や包装機走行性の観点から好ましく、より好ましくは70〜115℃、更に好ましくは80〜110℃である。
なお、両表面層(I)の上表面側の層2と下表面側の層3は、エチレン−酢酸ビニル共重合体を50質量%以上含めばよく、2つの層は互いに成分の配合割合が異なっていてもよい。
【0025】
[芯層(II)]
本実施の形態において、芯層(II)は、密度が0.880〜0.916g/cm
3のエチレン−α−オレフィン共重合体(A)を40〜85質量%、融解ピーク温度が110℃以下であるエチレン系共重合体(B)を60〜15質量%含んでなる。
【0026】
本実施の形態において、エチレン−α−オレフィン共重合体(A)を40〜85質量%含むことで、フィルムの引張強度や引裂強度等の機械的強度が改良される。エチレン−α−オレフィン共重合体は、エチレンとC3〜C18のα−オレフィンの共重合体である。α−オレフィンとしては、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテンなどから選ばれるものが好ましい。
【0027】
エチレン−α−オレフィン共重合体(A)の密度は、包装後の収縮温度を低く設定でき、フィルムの剛性が包装フィルムとして適度な高さとなるため、0.880〜0.916g/cm
3であり、フィルムの腰や収縮性の観点から、好ましくは0.890〜0.913g/cm
3であり、より好ましくは0.895〜0.910g/cm
3である。
【0028】
エチレン−α−オレフィン共重合体(A)のメルトフローレートは、0.1〜10g/10分であることが好ましい。メルトフローレートが0.1g/10分以上では良好なフィルム強度が得られる点で好ましく、10g/10分以下では生産工程での安定性と良好な回復性が得られる点で好ましい。より好ましくは0.2〜3.0g/10分、更に好ましくは0.3〜2.0g/10分である。
【0029】
エチレン−α−オレフィン共重合体(A)は気相法や溶液法、高圧法によって製造されるが、用いる重合触媒は特に限定はされず、マルチサイト触媒やシングルサイト触媒等のいずれでもよいが、組成・分子量分布が広く、変形回復性を維持しつつ、低温収縮性と耐熱性を両立できる点で、溶液法により、マルチサイト触媒を用いて得られるものが好ましい。
上記、低温収縮性と耐熱性の両立のため、分子量分布(Mw/Mn)は3.5〜7.0、より好ましくは4.0〜6.0である。
【0030】
耐熱性の観点から、エチレン−α−オレフィン共重合体(A)の融点は110℃以上が好ましく、より好ましくは115℃以上、更に好ましくは118℃以上である。融点が110℃以上であれば、底シール時の熱によって、ピンホールが生じにくい。
【0031】
本実施の形態において、「密度」とは、JIS K 6922に準じて測定される値を意味する。密度の測定方法として、具体的には、JIS K 6922に準じて、密度勾配管により密度を測定することができる。
【0032】
本実施の形態において、メルトフローレート(MFR)は、溶融時の流動性を示す指標であり、JIS K 7210に準じて測定される値を意味する。MFRの測定方法として、具体的には、JIS K 7210に準じて、メルトインデクサーによりMFRを測定することができる。
【0033】
本実施の形態においては、融解ピーク温度が110℃以下であるエチレン系共重合体(B)を含有することにより、フィルムの変形回復性が向上する。
【0034】
エチレン系共重合体(B)としては、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メチルメタクリル酸共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−エチルアクリル酸共重合体、エチレン−マレイン酸変性樹脂等があげられる。いずれもフィルム内に防曇剤を保持しやすくなるため、防曇性の向上が期待できる。
中でも取扱い性や架橋特性等の点でエチレン−酢酸ビニル共重合体がよい。
【0035】
エチレン系共重合体(B)は共重合成分の増加に伴って、樹脂の融点は低下し柔軟となり、架橋処理を行うことで変形回復性が向上しやすくなる。
エチレン系共重合体(B)は、融解ピーク温度が好ましくは105℃以下、より好ましくは100℃以下のものを用いることで、低温収縮性が発現しやすくなる。
一方、フィルムに腰を与えて、包装機適性を向上させるため、エチレン系共重合体(B)の融解ピーク温度は70℃以上が好ましく、より好ましくは80℃以上である。
【0036】
本実施の形態において、エチレン−酢酸ビニル共重合体は柔軟性と熱安定性などの点から、好ましい酢酸ビニル含有量は3〜40質量%、より好ましくは6〜30質量%、更に好ましくは8〜20質量%である。
【0037】
フィルムに柔軟性を与えるためのエチレン−酢酸ビニル共重合体のメルトフローレートは、0.1〜1.8g/10分であることが好ましく、より好ましくは0.2〜1.5g/10分である。メルトフローレートが0.1g/10分以上ではフィルム強度と押出安定性が得られやすい点で好ましく、1.8g/10分以下では延伸安定性が得られやすい点で好ましい。
【0038】
芯層(II)の、エチレン−α−オレフィン共重合体(A)、エチレン系共重合体(B)、含有量は、延伸安定性や変形回復性が良好になるため、エチレン−α−オレフィン共重合体(A)が40〜85質量%、エチレン系共重合体(B)が60〜15質量%の範囲であればよく、エチレン−α−オレフィン共重合体(A)はフィルム強度を与える観点から、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは60質量%以上である。エチレン系共重合体(B)は防曇剤をフィルム内に保持し、防曇性を向上させる観点から20質量%以上がより好ましく、25質量%以上が更に好ましい。
【0039】
(添加剤)
本実施の形態において、滑り性や防曇性を改善する観点で、添加剤としてグリセリン系脂肪酸エステルを両表面層(I)及び/又は芯層(II)に配合することが好ましい。
【0040】
本実施の形態において、グリセリン系脂肪酸エステルとは、グリセリンと脂肪酸とのエステルである。グリセリン系脂肪酸エステルをフィルム表面に存在させることにより、フィルムに防曇性を付与することができる。
【0041】
グリセリンの重合度、脂肪酸の種類、及び/又はエステル化度を変えることにより親水性と親油性を調節することができる。グリセリン系脂肪酸エステルとしては、グリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、トリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル等が挙げられ、例えば、ジグリセリンオレート、ジグリセリンラウレート、グリセリンモノオレート、又はそれらの混合物等など主成分としたものが、フィルムの滑り性、光沢度の観点で、使い勝手がよいので好ましい。
【0042】
上記した以外のグリセリン系脂肪酸エステルとしては、グリセリンのモノ脂肪酸エステル、ジ脂肪酸エステル、トリ脂肪酸エステル、ポリ脂肪酸エステルなどが挙げられ、炭素原子数が8〜18の飽和または不飽和脂肪酸のモノグリセリンエステル、ジグリセリンエステル、トリグリセリンエステル、テトラグリセリンエステルなどが挙げられる。
【0043】
具体的には、グリセリンモノラウレート、グリセリンモノミリステート、グリセリンモノパルミテート、グリセリンジパルミテート、グリセリンモノステアレート、グリセリンジステアレート、グリセリントリステアレート、グリセリンジオレート、グリセリントリオレート、グリセリンモノリノレート、ジグリセリンミリステート、ジグリセリンパルミテート、ジグリセリンステアレート、ジグリセリンリノレート、トリグリセリンラウレート、トリグリセリンオレート、トリグリセリンステアレート、テトラグリセリンラウレート、テトラグリセリンオレート、テトラグリセリンステアレートなどが挙げられる。
【0044】
本実施の形態において、グリセリン系脂肪酸エステルをフィルム表面に存在させるには、押出機の温度設定を190℃以上とし、高せん断速度で、両表面層(I)又は芯層(II)を構成する樹脂と混練することが好ましく、混練する際にグリセリン系脂肪酸エステルを微分散させることが好適である。ブリードアウトについては、その量や存在の仕方によって効果が異なる重要な因子である。存在の仕方としては、フィルムの表面にグリセリン系脂肪酸エステルが液滴状ではなく層状で、すなわちほぼ連続した状態で存在することが好ましい。
【0045】
一般的に芯層に含まれるグリセリン系脂肪酸エステルは隣接する両表面層へ移行し、ブリードアウトを促進させるとともに、グリセリン系脂肪酸エステル自体も表面へブリードアウトすると考えられている。また、グリセリン系脂肪酸エステルが、フィルム表面に移行(ブリードアウト)することにより良好な防曇性をフィルムに付与することができると考えられている。
【0046】
グリセリン系脂肪酸エステルの親水性と親油性を調整することによりフィルムの防曇性を高めることができるので、親水性の高いグリセリン系脂肪酸エステルを用いることが好ましく、また、グリセリン系脂肪酸エステルの添加量を増やすことによってもフィルムの防曇性を高めることができる。
【0047】
本実施の形態において、防曇性の観点から両表面層(I)に、グリセリン系脂肪酸エステルを2.0〜5.0質量%含有することが好ましい。
【0048】
また、本実施の形態において、防曇性及び包装機械とフィルムとの滑り性の観点から、芯層(II)にグリセリン系脂肪酸エステルを0.1〜2.0質量%含有することが好ましい。
【0049】
本実施の形態において、良好な防曇性と滑り性を付与するために両表面層(I)と芯層(II)に下記の添加剤を含んでもよい。添加剤としては多価アルコールの脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリアルキレングリコール脂肪酸エステルなどが挙げられる。
【0050】
本実施の形態において、両表面層(I)及び/又は芯層(II)は、流動パラフィンを含有していてもよい。流動パラフィンとしては、JIS K2283に準拠して測定される40℃における動粘度が、通常10〜10000(mm
2/s)であるものが挙げられる。また、流動パラフィンとしては、動粘度が50〜3000(mm
2/s)であり、かつ両表面層(I)又は芯層(II)を構成する樹脂組成物と相溶性のよい流動パラフィンであることが好ましい。
【0051】
流動パラフィンは、一種単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。両表面層(I)又は芯層(II)への流動パラフィンの添加は、フィルム成形性及び防曇性付与に有効である。
【0052】
なお、両表面層(I)及び芯層(II)には上記添加剤の他に、タルクや脂肪酸アミド等を添加し、フィルム同士の密着防止を行っても良い。
【0053】
本実施の形態の低温収縮性オーバーラップ包装用フィルムにおいて、熱収縮時の加熱によるトレーの軟化変形を抑制するためには、出来るだけ低温で収縮して、タイトな仕上がりを得る必要があるため、100℃におけるTD方向の収縮率が10%以上であることが好ましく、トレーの割れを抑制するために60%以下が好ましい。より好ましくは20〜55%、更に好ましくは30〜50%である。
【0054】
また、自動包装機での熱収縮時に、被包装物であるPSPトレー等の変形を防止する点で、100℃におけるTD方向の加熱収縮応力が250g/mm
2以下であることが好ましく、タイトな収縮性を得るためには100g/mm
2以上であることが好ましい。
【0055】
本実施の形態の低温収縮性オーバーラップ包装用フィルムにおいて、その特性を損なわない範囲で、両表面層(I)と芯層(II)との間に、少なくとも1つの中間層(III)を備えていてもよい。中間層(III)は、(i)防曇性を持続させるための防曇剤の保持層として、(ii)両表面層(I)と芯層(II)との接着性を向上させ、層間剥離を抑制するため、(iii)回収した樹脂を押出機で再ペレット化したものを入れる、フィルムの回収層といった理由から設けることが好ましく、上記(i)、(ii)、(iii)の理由からその本来の特性を損なわない範囲で、両表面層(I)、芯層(II)に使用される樹脂以外の他の樹脂や添加剤などを60質量%以下で配合してもよい。
【0056】
回収した樹脂としては、フィルムを製造する際に回収される樹脂であれば特に限定されないが、本実施の形態のフィルムを再度溶融させて得られる樹脂などが挙げられる。
【0057】
本実施形態のフィルムに対する中間層(III)の厚み比率は、特性を損なわない範囲で特に限定されるものではないが、40%以下であることが好ましく、より好ましくは30%以下であり、さらに好ましくは25%以下である。中間層の厚み比率が40%以下である場合、延伸安定性の観点で好ましい。
【0058】
本実施の形態において、両表面層(I)と芯層(II)の配置としては、両表面層(I)の間に芯層(II)が積層されている配置であれば、特に限定されるものではないが、例えば、(I)と、(II)からなる3層の場合:(I)/(II)/(I)、中間層(III)を1層用いる全4層からなる場合:(I)/(III)/(II)/(I)、中間層を2層用いる全5層である場合:(I)/(III)/(II)/(III)/(I)、両表面層がまた、中間層(III)と異なる中間層(IV)を併用することも可能であり、7層や8層、又はそれより多い層から構成することができる。
【0059】
本実施の形態の低温収縮性オーバーラップ包装用フィルムにおいて、厚みは、好ましくは5〜40μm、より好ましくは8〜30μmである。厚みが5〜40μmの範囲であれば重量物や突起物を有する被包装物に対しても破れが生じにくく、かつ安定して生産することが可能である。フィルムの厚みは、製造時の各層押出機の吐出量又は延伸倍率などによって所望の値に調整することができる。
【0060】
本実施の形態において、芯層(II)の厚み比率は、フィルムの強度の観点で、50〜90%であることが好ましく、より好ましくは60〜85%である。
【0061】
熱収縮多層フィルムにおいて、両表面層(I)の厚み比率は、安定したヒートシール強度を発現させる点で、50〜10%であることが好ましく、より好ましくは40〜15%である。
【0062】
[低温収縮性オーバーラップ包装用フィルムの製造方法]
本実施の形態の低温収縮性オーバーラップ包装用フィルムの製造方法としては、ダイレクトインフレーション法、ダブルバブルインフレーション法、トリプルバブルインフレーション法、テンター法が挙げられる。
【0063】
インフレーション法においては、所定の樹脂を加熱した押出機を用い溶融混練して環状ダイから押し出し、冷却水にて急冷して無延伸状態の原反を採取する。押出は特に制限されるものではなく、多層のTダイや多層のサーキュラーダイを用いた方法で得ることができるが、多層のサーキュラーダイを用いた方法が好ましい。
【0064】
次に、この原反に架橋処理を施し、続いて熱風による伝熱加熱あるいはインフラヒーター等の輻射加熱により原反を融点以上に加熱した後、原反を2組のニップロール間で速度比をつけ流れ方向(MD)に延伸しつつチューブ内にエアーを注入して垂直方向(TD)にも、延伸する。
【0065】
本実施の形態の低温収縮性オーバーラップ包装用フィルムは、延伸安定性の付与のため、両表面層(I)及び芯層(II)において、少なくとも一つの層が架橋処理されていることが好ましい。延伸安定性を更に向上させるため、芯層(II)が架橋されていることが好ましい。
【0066】
本実施の形態における低温収縮性オーバーラップ包装用フィルムの製造方法において、架橋方法には、一般に公知の方法が使用できる。例えば、架橋剤を添加して架橋剤の分解温度以上に加熱して架橋を施す方法やα線、β線、γ線、中性子線、電子線等の電離性放射線を照射する方法が挙げられる。
【0067】
架橋処理を施すことにより、フィルムの収縮後の曇り度、光沢度を改良することができる。また、フィルムを構成する樹脂の融点以上に加熱して収縮させる場合に、フィルムの溶融による破れ等を防ぐ狙いもある。
【0068】
本実施の形態の低温収縮性オーバーラップ包装用フィルムは、適度に架橋されることによって、フィルムを構成している樹脂の融点以上の温度で安定した延伸を行うことができ、熱収縮率の高いフィルムとすることができることから好ましい。すなわち、架橋することによって、延伸温度と延伸倍率の調節が容易になり、高い収縮性を持ちながら熱収縮応力が低いフィルムを製造することができる。
【0069】
本実施の形態において、電離性放射線の照射の程度は、フィルム全体でゲル分率が1〜60質量%になるように照射することが好ましく、機械的なムラも考慮すると照射線量は30〜90kGyが好ましい。フィルムの熱収縮後の曇り度、光沢度の点より照射線量は35kGy以上がより好ましく、また熱収縮応力の点より照射線量80kGy以下がより好ましい。
【0070】
樹脂の種類によっては照射の程度と架橋の程度の関係が異なり、架橋処理を行うことで延伸性が向上し、包装後の変形回復性も良好となる。なお、過度な架橋処理を施すと底シール性が損なわれる場合があるので好ましくない。
【0071】
フィルム全体のゲル分率は、延伸安定性と包装時の底シール性、容器変形防止、包装後の変形回復性付与等の点で、3〜50質量%であることが好ましく、より好ましくは5〜45質量%であり、更に好ましくは10〜35質量%である。
【0072】
なお、ゲル分率は、後述の方法により測定することができる。
【0073】
[包装体]
本実施の形態において、自動包装機による包装工程の一例について説明する。
【0074】
オーバーラップ包装としては、例えば、以下の方法が挙げられる。フィルムの両端を合掌し、筒状とする。被包装物(PSPトレーに収められた精肉や鮮魚等)を筒の中に入れ前後をカットながら、前後を底側に折り込んで、一つ一つの包装体を得る。予め80℃〜140℃に温度調節されている熱風シュリンクトンネル内でフィルムを熱収縮させることで、包装体上部の皺を除去し、フィルムに張りを与え、タイトな包装体とすることができる。
【0075】
近年の高速連続包装機における包装スピードは、1分間に約80〜120個包装するものである。そのため包装フィルムには、その包装スピードに対応できる適性、例えば、滑り性、底シール性、熱収縮特性が強く求められる。
【0076】
底シールの方法の一例としては、フィルムを底側に折り込んだ後に、スポンジ製の抑えベルトで抑えながら、予め加熱した熱板上を通過させ、底シールを行うことが好ましい。
【0077】
包装後に加熱収縮処理を行う場合には、熱風、蒸気、熱水等を使用できるが熱風を用いることが好ましい。
【0078】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0079】
以下に本実施の形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本実施の形態はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお、本実施の形態に用いられる評価方法は以下のとおりである。
【0080】
[ゲル分率]
沸騰p−キシレン中で試料を12時間抽出し、不溶解部分の割合を次式により計算により求めた。フィルムの架橋度の尺度として用いた。
ゲル分率(質量%)=(抽出後の試料の質量/抽出前の試料の質量)×100
【0081】
[100℃の収縮率]
ASTM D2732に準拠して収縮率を測定した。フィルムを流れ(MD)方向、幅(TD)方向にそれぞれ10cm×10cmとなるようにサンプリングを行い、100℃に設定した熱風乾燥機を用いて、30分間自由収縮させた。3回測定を行い、TDの収縮率を各3回測定し、平均値を求めた。
【0082】
[100℃の最大熱収縮応力]
ASTM D2838に準拠して最大熱収縮応力(最大加熱収縮応力)を測定した。フィルムを幅10mm、長さ50mmのサイズに切り出し、100℃で保温されたオイルバス中に浸漬し、TD方向の最大熱収縮応力を各3回測定し、平均値を求めた。
【0083】
[自動包装機適性]
得られたフィルムを380mm巾にスリットし、大森機械工業株式会社製の「STC−N2(商品名)」を用いて、PSPトレー(株式会社エフピコ製 エコFLB−A15−35 W)に、鶏肉(200g)を入れたものを各30個包装した。
(1)カットバック性
フィルム切断時のカットバック性の評価として、フィルムカット部が綺麗に折り畳まれており、角部が捲れず、完全に密着しているものを◎、フィルムカット部が綺麗に折り畳まれているものを○、先端が捲れているものを△、フィルムカット部が大きく捲れ上がっているものを×とした。
(2)底シール性(熱融着性)
底シール熱融着性の評価として、包装後にフィルムカット部のめくれがないもののみを抑えベルトで抑えながら、150℃まで加熱した熱板上を通過させて、底シールを行った。完全シール出来ているものを○、部分的にシール出来ているものを△、容易に剥がせるものを×とした。
(3)底シール性(耐熱性)
底シール耐熱性の評価として、包装後にフィルムカット部のめくれがないもののみを抑えベルトで抑えながら、180℃まで加熱した熱板上を通過させて、底シールを行った。フィルムに穴が開いてないものを○、フィルムに溶融穴が開いたものを×とした。
(4)トレー変形評価
底シールまで完了した包装体を115℃の温度に設定した熱風シュリンクトンネルに1.5秒間、通過させたのち、トレーが割れていないか評価した。トレーが割れておらず、トレーの幅に対して、トレーの変形量が5%未満のものを○、トレーが割れていないが変形量が5%以上のものを△、トレーが割れているものを×とした。
【0084】
[自動包装機適性の総合評価]
上記評価の全てが○または◎であったものをA、△が1つ以上あったものをB、×が1つ以上あったものをCとして、総合評価した。
【0085】
[包装体の変形回復性]
前記自動包装機適性の評価で用いた包装体の中央に、直径15mmの金属丸棒(先端が半径7.5mmの半球)をトレー上面から、20mmの深さまで、1000mm/minの一定速度で押込み、同速度で引き抜いた。引き抜いた直後から押込みによって生じた押し痕が消えるのに要した時間を回復時間とした。なお、内容物は押込みの妨げとならないよう、粘土をトレーの角へ入れたものを用いた。
【0086】
30秒未満で押込み痕が消えたものを○、30秒〜300秒で押込み痕が消えたものを△、300秒より長く経過しても皺が消えないものを×とした。
【0087】
[水防曇性]
長さ15cm×巾15cm×高さ6cmのプラスチック製容器に20℃の水を200g入れ、容器上面にフィルムを貼りつけた。次いで、110℃の温度に設定した熱風シュリンクトンネル(協和電気株式会社製、C−300)内を1.5秒間通過させて、熱処理を行った。5℃に設定した冷蔵ショーケースに2時間入れ、フィルム内面に付着した水滴の状態を評価した。内面側のフィルム表面が均一に濡れ、内部がはっきり確認できるものを○、水滴が付着して内部が確認しづらいものを△、細かい水滴がフィルム全面に付着して内部が全く見えないものを×とした。
【0088】
実施例及び比較例で用いた樹脂、添加剤、フィルム製造方法は以下の通りである。
【0089】
[両表面層(I)]
「エチレン−酢酸ビニル共重合体」
・EVA1:酢酸ビニル含有量=15質量%、MFR=2.2g/cm
3)
「エチレン−α−オレフィン共重合体」
・PE1:α−オレフィンコモノマー=ヘキセン、密度=0.900g/cm
3、MFR=2.0g/10分、融解ピーク温度=92℃、シングルサイト系触媒で重合されたもの、Mw/Mn=2.18)
【0090】
[芯層(II)]
エチレン−α−オレフィン共重合体(A)
・PE2 エチレン−α−オレフィン共重合体 (α−オレフィンコモノマー=オクテン、密度=0.905g/cm
3、MFR=0.8g/10分、融解ピーク温度=121℃、マルチサイト系触媒で重合されたもの、Mw/Mn=5.50。
・PE3 エチレン−α−オレフィン共重合体 (α−オレフィンコモノマー=オクテン、密度=0.912g/cm
3、MI=2.0g/10分、融解ピーク温度=123℃、マルチサイト系触媒で重合されたもの、Mw/Mn=5.69)
・PE4 エチレン−α−オレフィン共重合体 (α−オレフィンコモノマー=オクテン、密度=0.926g/cm
3、MI=2.0g/10分、融解ピーク温度=121℃、マルチサイト系触媒で重合されたもの、Mw/Mn=4.87)
・PE5 エチレン−α−オレフィン共重合体 (α−オレフィンコモノマー=オクテン、密度=0.868g/cm
3、MFR=0.5g/10分、融解ピーク温度=121℃、シングルサイトサイト系触媒で重合されたもの、Mw/Mn=3.10)
【0091】
エチレン系共重合体(B)
・EVA2 エチレン−酢酸ビニル共重合体 (酢酸ビニル含有量=15質量%、MFR=1.0g/cm3、融解ピーク温度=90℃)
【0092】
融解ピーク温度の測定は以下のとおり行った。株式会社パーキンエルマー製、示差走査熱量計「Diamond DSC(商)」を用い、0℃から200℃まで、10℃/minの速度で昇温後、1分間保持し、200℃から0℃まで、10℃/minの速度で降温後、0℃にて、1分間保持した。更に200℃まで、10℃/minの速度で昇温した時の融解プロファイルの最も高いピーク温度を融点として採用した。
【0093】
分子量分布(Mw/Mn)の測定は以下のとおりに行った。GPC(日本)ウォーターズ社製GPC装置150C型(商標)を用い、カラムとして東ソー製TSK GMH−6(商標)を溶媒としてオルトジクロロベンゼン(ODCB)を用いて、135℃、流量1ml/min、濃度10mg/10ml、サンプル流量500μlの条件で測定した。標準ポリスチレンでの構成曲線から換算した重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)から、Mw/Mnを求めた。
【0094】
[添加剤1]
添加剤1は、防曇剤として両表面層(I)又は芯層(II)に添加されるものである。
・Ad1/Ad2=1/1
・Ad1 グリセリンモノオレート
・Ad2 ジグリセリンオレート
【0095】
[フィルムの製造方法]
実施例及び比較例における低温収縮性オーバーラップ包装用フィルムは、下記の方法により製造した。すなわち、両表面層(I)の押出機には、両表面層(I)を形成するための樹脂を供給し、芯層(II)の押出機には、芯層(II)を形成するための樹脂を供給し、各押出機において、所定の添加剤を注入ポンプで所定量注入しながら混合溶融を行った。この混合溶融された樹脂をそれぞれ環状ダイに供給し、このダイで積層化し共押出しした。環状ダイ直下で、ダイから吐出された溶融樹脂は第1バブルを形成しながら、冷却水で急冷したあとピンチロールでピンチし、無延伸状の原反を採取した。
【0096】
この原反は所望の厚み、層比率になるように調整した。この原反に加速電圧500kVの電子線照射装置を用いて架橋処理を施した。この時、各層のゲル分率が、所望の値内に入るように調整を行った。この処理が施された原反を150℃の雰囲気温度に保たれた加熱炉で加熱し、2組のニップロール間の速度比により流れ方向に5〜7倍、チューブ内にエアーを注入することにより機械の流れ方向と垂直方向に5〜7倍延伸し、バブルの最大径の部分にエアーリングより冷風をあて冷却を行った。その後、折りたたんで5〜40μmの厚みのフィルムを得た。
【0097】
以下に、各実施例及び比較例について詳述する。
[実施例1]
EVA1を97質量%、添加剤としてグリセリンモノオレートAd1とジグリセリンオレートAd2とを1:1の割合で混合した添加剤1を3.0質量%含有する樹脂組成物を、両表面層(I)を形成するための第一の樹脂組成物とした。また、エチレン−α−オレフィン共重合体(A)として、エチレン−α−オレフィン共重合体PE2を59質量%、エチレン系共重合体(B)として、エチレン−酢酸ビニル共重合体2を40質量%、及び、グリセリンモノオレートAd1とジグリセリンオレートAd2とを1:1の割合で混合した添加剤1を1.0質量%含有する樹脂組成物を、芯層(II)を形成するための第二の樹脂組成物とした。これら第一の樹脂組成物及び第二の樹脂組成物を用いて、表面層(I)/芯層(II)/表面層(I)の各層厚み比率が15/70/15%となるように環状ダイを用いて押出した。
【0098】
その後冷却水にて冷却固化して幅130mm、厚み550μmの均一な厚み精度のチューブ状延伸原反を採取した。ついでこの延伸原反を500kVの電子線照射装置へ誘導し60kGyの吸収線量で架橋処理を行い、これを2組のニップロール間の速度比により8.0倍、チューブ内にエアーを注入することにより機械の流れ方向(MD)と垂直方向(TD)に6.2倍延伸を行い、厚み11μmのフィルムを得た。
【0099】
得られたフィルムの評価結果を表3及び表4に示す。得られたフィルムは自動包装機適性の評価においても問題なく、総合評価もA評価であった。また水防曇性、包装体変形回復性に優れていた。
【0100】
[実施例2〜7]
各層を形成するための樹脂、添加剤及びその比率を表1及び表2に示すとおりに変更したこと以外は、実施例1の条件と同様にして、厚み11μmのフィルムを得た。なお、延伸倍率は実施例1と同一とした。
【0101】
得られたフィルムの評価結果を表3に示す。得られたフィルムは自動包装機適性の評価においても問題なく、総合評価もA評価であった。また包装体変形回復性に優れていた。
【0102】
[比較例1〜5]
各層を形成するための樹脂及びその比率を表2に示すとおり変更したこと以外は、実施例1の条件と同様にして11μmのフィルムを得た。なお、比較例5は実施例1と同じ架橋条件では延伸が安定しなかったため、100kGyの照射線量で架橋処理を行った。
【0103】
得られたフィルムの評価結果を表4に示す。
【0104】
比較例1のフィルムは、両表面層(I)にエチレン−酢酸ビニル共重合体を用いておらず、底シール性(熱融着性)が不十分であるため、自動包装機適性に劣るものであった。
【0105】
比較例2のフィルムは、両表面層(I)のエチレン−酢酸ビニル共重合体の量が少ないため、底シール性(熱融着性)が不十分であり、自動包装機適性に劣るものであった。
【0106】
比較例3のフィルムは、芯層(II)のエチレン−α−オレフィン共重合体の密度が0.868g/cm
3と低く、100℃における収縮率が高すぎて、底シール時の熱によって、フィルムが収縮を起こし、底シール性(熱融着性)が十分でなかった。
また、分子量分布が狭く、耐熱性が十分でないため、180℃におけるヒートシールにおいてはフィルムが溶融し穴が開いた。更に100℃における収縮率が高く、トレー割れを起こした。
【0107】
比較例4のフィルムは、芯層(II)のエチレン−α−オレフィン共重合体の密度が0.926g/cm
3と高く、100℃における収縮が不十分で、シュリンクトンネル通過後も皺残りがあり、包装体変形回復性に劣っていた。
【0108】
比較例5のフィルムは、芯層(II)にエチレン−酢酸ビニル共重合体を用いておらず、包装後の変形回復性に劣る結果となった。また、芯層内の防曇剤保持が十分できず、添加した防曇剤が延伸時に飛散しやすくなったため、防曇性が低下する結果となった。
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
【0111】
【表3】
【0112】
【表4】