特許第6309839号(P6309839)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6309839-メカニカルシール 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6309839
(24)【登録日】2018年3月23日
(45)【発行日】2018年4月11日
(54)【発明の名称】メカニカルシール
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/34 20060101AFI20180402BHJP
   F16J 15/16 20060101ALI20180402BHJP
【FI】
   F16J15/34 K
   F16J15/16 E
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-132979(P2014-132979)
(22)【出願日】2014年6月27日
(65)【公開番号】特開2016-11704(P2016-11704A)
(43)【公開日】2016年1月21日
【審査請求日】2016年12月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503227553
【氏名又は名称】イーグルブルグマンジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125357
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100085006
【弁理士】
【氏名又は名称】世良 和信
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100096873
【弁理士】
【氏名又は名称】金井 廣泰
(74)【代理人】
【識別番号】100131532
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 浩一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155871
【弁理士】
【氏名又は名称】森廣 亮太
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 諭
(72)【発明者】
【氏名】尾形 洋一
【審査官】 杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−031896(JP,A)
【文献】 特開2005−121130(JP,A)
【文献】 実開昭63−033062(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/00 − 15/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、該回転軸が挿通されるハウジングとの間の隙間を封止するメカニカルシールであって、
前記回転軸に対して固定される回転環と、
前記回転環との間にシール面を形成する固定環と、
前記固定環を保持する環状且つ金属製のシールケースと、
前記ハウジング内の物質に対する耐腐食性を有する材料から構成された環状の保護部材と、
を備え、
前記保護部材は、前記シールケースの径方向内側に挿入される円筒部と、該シールケースの軸方向における前記ハウジング側の端面に沿って径方向外側へ延びるフランジ部と、を備え、前記フランジ部が、前記シールケースに対して固定された環状の固定部材によって挟まれることによって、前記保護部材が前記シールケースに対して固定されており、前記ハウジング内の物質が前記シールケースに到達する経路を塞ぐように、前記シールケースと前記ハウジングとの間に取り付けられることを特徴とするメカニカルシール。
【請求項2】
前記回転環と前記固定環は、前記シールケースの径方向内側の領域を封止するものであって
記円筒部と前記固定環との間がゴム状弾性体製の環状シールによって封止され、且つ、前記フランジ部における前記シールケースとは反対側に前記ハウジングが固定されることを特徴とする請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項3】
前記シールケースには、径方向に貫通したガス供給孔が設けられており、
前記固定環には、前記固定環の外周面から前記回転環と対向する面に至る、前記ガス供給孔と連通する通路が設けられ、
前記固定環と前記シールケースとの間を封止する、前記通路の軸方向の両側に設けられたOリングを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のメカニカルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メカニカルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品や食品用の攪拌機やポンプ等の装置に使用されるメカニカルシールでは、密封領域側(機内側)への異物の混入が確実に防止されることが要求される。ここで、機内側に金属の部分が露出していると、機内に腐食性の高い物質が密封された際に、当該部分が腐食して酸化物等の異物が発生する虞がある。そこで、機内側に金属部分が露出していない、ノンメタリック構造などと称されるメカニカルシールが知られている。特許文献1には、金属製のシールケースにおける、装置内部に密封された流体が接触し得る部分に、合成樹脂材料からなる被覆層が形成されたメカニカルシールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−31896号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されたメカニカルシールによれば、金属製のシールケースの腐食は抑制されるが、密封流体が接触し得る部分に被覆層を余すところなく形成する必要がある。
【0005】
本発明の目的は、金属製のシールケースを備えるメカニカルシールにおいて、密封領域内の物質によるシールケースの腐食を容易に抑制することができるメカニカルシールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために以下の構成を採用した。
すなわち、本発明に係るメカニカルシールは、
回転軸と、該回転軸が挿通されるハウジングとの間の隙間を封止するメカニカルシールであって、
前記回転軸に対して固定される回転環と、
前記回転環との間にシール面を形成する固定環と、
前記固定環を保持する環状且つ金属製のシールケースと、
前記ハウジング内の物質に対する耐腐食性を有する材料から構成された環状の保護部材と、
を備え、
前記保護部材は、前記ハウジング内の物質が前記シールケースに到達する経路を塞ぐように、前記シールケースと前記ハウジングとの間に取り付けられることを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、シールケースとは異なる部品で構成される保護部材を取り付けることにより、金属製のシールケースとハウジング内に密封されている物質との接触を防止してシールケースの腐食を抑制することが可能になる。ゆえに、本発明によれば、上記の従来技術のように、シールケースの表面に被覆層を形成する必要がなくなるため、金属製のシールケースの腐食を容易に抑制することが可能になる。
【0008】
ここで、前記回転環と前記固定環は、前記シールケースの径方向内側の領域を封止するものであって、
前記保護部材は、前記シールケースの径方向内側に挿入される円筒部と、該シールケースの軸方向における前記ハウジング側の端面に沿って径方向外側へ延びるフランジ部と、を備え、
前記円筒部と前記固定環との間がゴム状弾性体製の環状シールによって封止され、且つ、前記フランジ部における前記シールケースとは反対側に前記ハウジングが固定されてもよい。
【0009】
この構成によれば、保護部材と環状シールによって、ハウジング内の物質がシールケースに到達する経路を確実に塞ぐことが可能になる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金属製のシールケースを備えるメカニカルシールにおいて、密封領域内の物質によるシールケースの腐食を容易に抑制することができるメカニカルシールが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例に係るメカニカルシールの模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施例に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0013】
[実施例]
<メカニカルシールの構成>
図1を参照して、本発明の実施例に係るメカニカルシールの構成について説明する。本実施例に係るメカニカルシール100は、回転軸200と、回転軸200が挿通されるハウジング300との間の隙間を封止するために用いられるメカニカルシールであって、医薬品や食品用の攪拌機やポンプ等の装置に用いられる。図1は、メカニカルシール100の概略構成を示す、回転軸200の中心軸線を含む平面による模式的断面図である。なお、説明の便宜上、特徴的な部分を示すために切断位置の位相は適宜変更させている。また、奥行きは基本的に省略されており、端面のみが図示されている。
【0014】
メカニカルシール100は、回転軸200に固定されたカラー110と、回転軸200に対してカラー110を介して固定された回転環120とを備えている。回転環120は、ハウジング300内に収容される物質(詳細は後述)に対する耐腐食性を有する材料であるSiC(炭化ケイ素)から成る。回転環120の外周側には環状の段差部121が設けられており、この段差部121が、カラー110に対してネジ止めされた環状且つ金属製の固定部材111によって挟まれることによって、回転環120がカラー110に対して固定されている。また、カラー110には軸方向に突出するノックピン112が設けられており、このノックピン112が段差部121に設けられた切欠き溝122に嵌ることによって、回転環120のカラー110に対する回転が規制されている。また、回転環120の内周面と回転軸200の外周面との間は、Oリング190によって封止されている。なお、カラー110は、回転軸200に設けられた段差部によって位置決めされた状態で、回転軸200に対して固定されたスリーブ113によって固定されている。そして、カラー110とスリーブ113や回転環120との間、また、スリーブ113と回転軸200との間は、それぞれOリングによって封止されている。
【0015】
そして、メカニカルシール100は、回転環120との間にシール面を形成する固定環
130と、固定環130を保持する環状且つ金属製のシールケース140とを備えている。固定環130は、回転環120と同様にSiCから成る。シールケース140には、軸方向に突出するノックピン141が設けられており、このノックピン141が、固定環130の機内側A(図中右側の密封領域側)の端面に設けられたピン穴131に嵌ることによって、固定環130のシールケース140に対する回転が規制されている。また、シールケース140には、固定環130を機外側B(図中左側の大気側)方向へ付勢するスプリング142が設けられている。
【0016】
そして、シールケース140の径方向内側には、ハウジング300内の物質に対する耐腐食性を有する材料から構成された環状の保護部材150が取り付けられている。本実施例においては、ハウジング300内には、発煙硫酸やフッ酸等の強酸性液体や、苛性ソーダ等の強塩基性流体が収容される。そのため、保護部材150の材料としては、これら強酸性流体や強塩基性流体に対する耐腐食性を有するSiCが用いられる。保護部材150は、焼結によって成形された後に削り出し等の加工が施されることによって製造される。なお、保護部材150の材料は、ハウジング300内に収容される物質(流体、気体、粉体等)に応じて適宜定めればよいため、収容される物質が強酸性物質等の特に腐食性の高いものでない場合は、アルミナ等の他のセラミックや、樹脂、カーボン等の材料であってもよい。なお、この場合には、回転環120や固定環130の材料も、アルミナ等の他のセラミックや、樹脂、カーボン等の材料であってもよい。
【0017】
保護部材150は、シールケース140の径方向内側に挿入される円筒部151と、シールケース140の機内A側の端面に沿って径方向外側へ延びるフランジ部152とを備えている。円筒部151は、固定環130の内径側まで延びており、ゴム状弾性体製のOリング191によって、円筒部151と固定環130との間が封止されている。また、フランジ部152の外周側には環状の段差部153が設けられており、この段差部153が、シールケース140に対してネジ止めされた環状且つ金属製の固定部材160によって挟まれることによって、保護部材150がシールケース140に対して固定されている。
【0018】
以上のように構成されるメカニカルシール100は、回転軸200を支持する軸受け等が収容されたケース170と共に、ハウジング300の機外B側の端面に設けられたスタッドボルト302に締結されることによって、ハウジング300に対して固定されている。なお、保護部材150のフランジ部152と、ハウジング300の開口301の機外B側の端面との間は、ゴム状弾性体製のガスケット192によって封止される。メカニカルシール100がこのようにしてハウジング300に対して固定されることにより、保護部材150がシールケース140とハウジング300との間に取り付けられた状態となる。これにより、保護部材150によってシールケース140が機内A側に露出しない状態となるため、ハウジング300内の物質がシールケース140に到達する経路が塞がれる。
【0019】
ところで、シールケース140には、径方向に貫通したガス供給孔143が設けられている。また、固定環130には、固定環130の外周面から機外B側の端面132に至る通路133が設けられている。図示のように、固定環130は、ガス供給孔143と通路133とが連通する状態でシールケース140に対して取り付けられている。そして、固定環130とシールケース140との間は、通路133の軸方向の両側に設けられたゴム状弾性体製のOリング193、194によって封止されている。これにより、ガス供給孔143と通路133内を通過するガスの圧力が保持される。また、メカニカルシール100の外部には、メカニカルシール100の使用時にガス供給孔143に窒素ガス等を供給する不図示のガス供給装置が設置されている。ガス供給装置からガス供給孔143に供給されたガスは、通路133を通って回転環120の機内A側の端面123と固定環130の端面132との間に導入されるため、導入されたガスの圧力によって端面123と端面132との間に微小な隙間が生じる。したがって、本実施例においては、回転環120は
、固定環130に対して非接触な状態で回転するが、端面123と端面132との間に導入されたガスの作用によって、回転環120と固定環130との間にはシール面が形成される。これにより、ハウジング300内の領域に連通する、シールケース140の径方向内側(機内A側)の領域が密封された状態になる。ここで、回転環120は、固定環130に対して非接触状態で回転するため、摩耗によって粉塵等の異物が発生することが回避される。なお、端面123には、ガスの動圧を効果的に発生させるための動圧発生溝124が形成されている。また、ケース170には、径方向に貫通したベント171が設けられており、両端面間に導入された後に機外B側に流出したガスはベント171を通って大気へ排出される。一方、両端面間に導入された後に機内A側に流出したガスは、ハウジング300に設けられた不図示のベントから排出される。
【0020】
<本実施例に係るメカニカルシールの優れた点>
以上のように構成されるメカニカルシール100によれば、シールケース140とは異なる部品で構成された保護部材150をシールケース140とハウジング300との間に取り付けることによって、密封領域であるハウジング300内の領域に収容されている物質がシールケース140に到達する経路を塞ぐことができる。これにより、シールケース140の腐食を容易に抑制することが可能になる。また、メカニカルシール100によれば、保護部材150の円筒部151と固定環130との間がOリング191によって封止されると共に、フランジ部152におけるシールケース140とは反対側にハウジング300が固定されるため、ハウジング300内の物質がシールケース140の径方向内側に到達する経路を確実に塞ぐことが可能になる。
【0021】
なお、メカニカルシール100においては、機内A側に金属部品は露出しておらず、ハウジング300内の物質が接触し得る、回転環120、固定環130及び保護部材150は、全て耐腐食性を有する材料から構成されている。したがって、メカニカルシール100によれば、構成部品の腐食による異物の発生が好適に防止される。また、メカニカルシール100によれば、保護部材150が円筒部151とフランジ部152とを備えているため、機内A側から円筒部151を挿入させることによって、シールケース140に対して容易に取り付けることが可能になる。更に、メカニカルシール100においては、保護部材150は、固定部材160を介してネジ止めされている。したがって、保護部材150がSiC等の靱性が低い材料から構成されていても、保護部材150を破損させることなく、シールケース140に対して容易に固定することができる。また、このような構成によれば、保護部材150が、樹脂等の熱膨張係数の大きい材料から構成されていても、固定部材160を介したネジ止めによって容易に固定することが可能になる。なお、保護部材150が、カーボン等のある程度の弾性を有する材料から構成される場合には、シールケース140に対して直接固定することも可能である。また、本実施例においては、回転環120は、固定環130に対して非接触状態で回転するが、本発明は、回転環が固定環に対して摺動する構成を備えるメカニカルシールにも適用することができる。この場合においても、構成部品の腐食による異物の発生は好適に防止される。
【符号の説明】
【0022】
100 メカニカルシール
120 回転環
130 固定環
140 シールケース
150 保護部材
200 回転軸
300 ハウジング
図1