(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6309908
(24)【登録日】2018年3月23日
(45)【発行日】2018年4月11日
(54)【発明の名称】燃料電池用ガス拡散層の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/88 20060101AFI20180402BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20180402BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20180402BHJP
【FI】
H01M4/88 C
H01M4/86 H
H01M4/86 B
!H01M8/10 101
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-48956(P2015-48956)
(22)【出願日】2015年3月12日
(65)【公開番号】特開2016-170925(P2016-170925A)
(43)【公開日】2016年9月23日
【審査請求日】2017年5月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000100780
【氏名又は名称】アイシン化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】特許業務法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴田 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】関谷 章仁
【審査官】
渡部 朋也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−191537(JP,A)
【文献】
特開2016−136481(JP,A)
【文献】
特開2002−212895(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86−4/98
H01M 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロポーラス層形成用ペーストの材料として、導電材粒子、撥水剤、分散剤、および増粘剤としてのポリエチレンオキサイド(PEO)を用いた、燃料電池用ガス拡散層の製造方法であって、
前記マイクロポーラス層形成用ペーストの材料のうち、前記PEOを除いた材料を混合する混合工程と、
前記混合工程によって得られた混合物を所定の期間、保存する保存工程と、
前記保存工程の後に、前記混合物に前記PEOを混合して、前記マイクロポーラス層形成用ペーストを得るPEO混合工程と、
前記得られたマイクロポーラス層形成用ペーストを、ガス拡散層基材に塗工する塗工工程と、
を備える、燃料電池用ガス拡散層の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用ガス拡散層の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、カーボンペーパー等の基材の表面にマイクロポーラス層形成用のペーストを塗工して、燃料電池用のガス拡散層を製造していた。マイクロポーラス層形成用のペーストは、特許文献1に示すように、カーボン粒子、分散剤、PTFEエマルジョン、イオン交換水を混合・分散し、その後、増粘剤としてのポリエチレンオキサイドを配合・混合することによって製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013−191537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記先行技術では、前記ペーストを予め製造し、長期保存後にペーストを基材に塗工していた。ペーストを長期保存すると、ペーストに含まれるポリエチレンオキサイドが経時劣化(水分保持能力の低下)することで、ペーストの粘度が低下する。このために、先行技術では、ペーストを適正な粘度で基材に塗工できず、かすみや染み込み等、塗工品質を確保できない問題が発生した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
本発明の一形態は、マイクロポーラス層形成用ペーストの材料として、導電材粒子、撥水剤、分散剤、および増粘剤としてのポリエチレンオキサイド(PEO)を用いた、燃料電池用ガス拡散層の製造方法である。この燃料電池用ガス拡散層の製造方法は、前記マイクロポーラス層形成用ペーストの材料のうち、前記PEOを除いた材料を混合する混合工程と、前記混合工程によって得られた混合物を所定の期間、保存する保存工程と、前記保存工程の後に、前記混合物に前記PEOを混合して、前記マイクロポーラス層形成用ペーストを得るPEO混合工程と、前記得られたマイクロポーラス層形成用ペーストを、ガス拡散層基材に塗工する塗工工程と、を備える。
【0007】
この形態の燃料電池用ガス拡散層の製造方法では、所定の期間、保存される混合物は、導電材粒子、撥水剤、および分散剤の混合物であり、ポリエチレンオキサイドが除かれたものである。このため、ポリエチレンオキサイドの経時劣化が起きないため、保存工程後のPEO混合工程によって得られるマイクロポーラス層形成用ペーストは、粘度を適正な範囲内とすることができる。したがって、この製造方法によれば、マイクロポーラス層形成用ペーストを適正な粘度でガス拡散層基材に塗工でき、塗工品質を容易に確保できる。
【0008】
本発明は燃料電池用ガス拡散層の製造方法以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、混合工程と保存工程とPEO混合工程とを備えるマイクロポーラス層形成用ペーストの製造方法、燃料電池用ガス拡散層の製造方法における各工程を備える膜電極接合体の製造方法、燃料電池の製造方法の形態等で実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態におけるガス拡散層の製造方法を示す工程図である。
【
図2】参考例としてのガス拡散層の製造方法を示す工程図である。
【
図3】MPL形成用ペーストにおいて、製造後の経過日数に対する粘度の変化を示すグラフである。
【
図4】MPL形成用ペーストの粘度と燃料電池用ガス拡散層の不良率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、本発明の一実施形態を説明する。本発明の一実施形態は、燃料電池用ガス拡散層の製造方法に関するものである。燃料電池は、例えば固体高分子型の燃料電池であり、膜電極接合体の表面にガス拡散層が接合された構成を備えている。このガス拡散層を、この製造方法は製造する。
【0011】
図1は、本実施形態におけるガス拡散層の製造方法を示す工程図である。図示するように、このガス拡散層の製造方法は、工程1から工程6までの6つの工程によって構成される。各工程1〜6はこの順に実行される。各工程1〜6について、順に説明する。
【0012】
[工程1]
導電材粒子としてのカーボンと、撥水剤としてのポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」と呼ぶ)と、分散剤と、イオン交換水とを用意し、それらを調合する。
【0013】
カーボンは、粒径が20nm〜150nmであり、燃料電池用途に使用可能な導電性を有し、金属コンタミネーションが低減されたものを使用することが望ましい。分散剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテルを使用する。
【0014】
このガス拡散層の製造方法では、工程1から工程4までによってマイクロポーラス層(MPL:Micro Porous Layer)形成用ペーストを製造するが、この製造されるMPL形成用ペーストの組成を、次の通りとする。
【0015】
・カーボンが、MPL形成用ペーストにおける全固形分比で、70〜90%。
・PTFEが、MPL形成用ペーストにおける全固形分比で、10〜30%。
・分散剤が、カーボンに対する固形分比で、5〜15%。
・ポリエチレンオキサイド(以下、「PEO」と呼ぶ)が、MPL形成用ペーストにおける全固形分比で、0.1〜1%。
【0016】
工程1では、MPL形成用ペーストを製造する材料のうち、PEOを除いた材料を調合するが、詳しくは、MPL形成用ペーストの組成が上記の通りとなる、カーボン、PTFE、および分散剤の各分量で、調合を行う。
【0017】
[工程2]
工程1によって得られた混合物を、所定の攪拌機を用いて混練する。すなわち、工程1によって得られた混合物を、材料が均一に散らばるように混練する。
【0018】
[工程3]
工程2によって得られた混合物を、所定の期間、貯蔵(保存)する。所定の期間は、14日以上の日数とした。
【0019】
[工程4]
工程3を終えた後の混合物に対して、増粘剤としてのポリエチレンオキサイド(PEO)を混合する。PEOは、分子量が100万〜400万のものを使用している。混合は、所定の攪拌機を用いて行う。工程4では、PEOが、前述したように、MPL形成用ペーストにおける全固形分比で0.1〜1%となるように分量を定めて、混合する。
【0020】
工程4までの処理によって、MPL形成用ペーストが製造される。製造されたMPL形成用ペーストの組成は、前述した通りのものとなる。また、MPL形成用ペーストの物性は、固形分の割合が15〜25[%]で、粘度がずり速度50[s
-1]において1000〜3000[mPa・s]となる。
【0021】
[工程5]
工程4によって得られたMPL形成用ペーストを、ガス拡散層基材に塗工する。ガス拡散層基材としては、カーボンペーパーやカーボンクロス等のカーボン多孔質体を用いることができる。塗工は、例えば成膜装置を用いて行う。
【0022】
[工程6]
工程5によってMPL形成用ペーストが塗工されたガス拡散層基材を乾燥、焼成させる。工程6の結果、燃料電池用ガス拡散層の製造が完了する。
【0023】
以上のように構成された燃料電池用ガス拡散層の製造方法において、工程1および工程2が、[発明の概要]の欄に記載した本発明の一形態における「混合工程」の下位概念に相当する。工程3が、前記一形態における「保存工程」の下位概念に相当する。工程4が、前記一形態における「PEO混合工程」の下位概念に相当する。工程5が、前記一形態における「塗工工程」の下位概念に相当する。
【0024】
以上、詳述した燃料電池用ガス拡散層の製造方法では、工程3によって14日以上の期間、保存される混合物は、カーボン、PTFE、および分散剤の混合物であり、PEOが除かれたものである。PEOは、MPL形成用ペーストが完成する直前、すなわち、工程3による保存完了後に混合される。このため、PEOの経時劣化が起きないため、製造されたMPL形成用ペーストは、粘度を1000〜3000[mPa・s]といった適正な範囲内とすることができる。したがって、本実施形態の燃料電池用ガス拡散層の製造方法によれば、MPL形成用ペーストを適正な粘度でガス拡散層基材に塗工でき、ガス拡散層における塗工品質を容易に確保できる。
【0025】
図2は、参考例としてのガス拡散層の製造方法を示す工程図である。参考例のガス拡散層の製造方法は、本実施形態のガス拡散層の製造方法(
図1)と比較して、工程11および工程12によって調合・混練する材料がPEOを含み、PEOを含む混合物を工程13によって貯蔵(14日以上)する点が相違する。このために、参考例では、PEOの経時劣化が起きる。
【0026】
図3は、MPL形成用ペーストにおいて、製造後の経過日数に対する粘度の変化を示すグラフである。参考例のガス拡散層の製造方法によれば、工程12によってMPL形成用ペーストを製造後、工程13によって14日以上が経過することから、グラフに示すように、MPL形成用ペーストの粘度は、500[mPa・s]以下となる。これに対して、本実施形態のガス拡散層の製造方法によれば、製造完了直前にPEOが混合されることから製造後からの経過日数がほとんどない。したがって、グラフに示すように、MPL形成用ペーストの粘度は、1500[mPa・s]となる。このグラフからも、本実施形態によって製造されたMPL形成用ペーストは、粘度を適正な範囲内に保持できることが判る。
【0027】
図4は、MPL形成用ペーストの粘度と燃料電池用ガス拡散層の不良率との関係を示すグラフである。不良率は、ガス拡散層におけるかすみ、染み込み、基材露出の発生度合いを示す。グラフに示すように、参考例の場合、粘度が500[mPa・s]であることから、不良率は4〜5%となる。これに対して、本実施形態の場合、粘度が1500[mPa・s]であることから、不良率は数%以下となる。このグラフからも、本実施形態によって製造されたガス拡散層は、塗工品質に優れていることが判る。
【0028】
本発明は、上述の実施形態や変形例に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態、変形例中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、前述した実施形態および各変形例における構成要素の中の、独立請求項で記載された要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。