(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6309938
(24)【登録日】2018年3月23日
(45)【発行日】2018年4月11日
(54)【発明の名称】3次元位置計測システム、3次元位置計測用プローブ、及びキャリブレータ
(51)【国際特許分類】
G01B 21/00 20060101AFI20180402BHJP
G01B 11/00 20060101ALI20180402BHJP
G01C 15/00 20060101ALI20180402BHJP
G01C 15/06 20060101ALI20180402BHJP
【FI】
G01B21/00 P
G01B11/00 H
G01C15/00 101
G01C15/06 T
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-228414(P2015-228414)
(22)【出願日】2015年11月24日
(65)【公開番号】特開2017-96738(P2017-96738A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2017年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000207816
【氏名又は名称】大豊精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】栗山 幸雄
【審査官】
櫻井 仁
(56)【参考文献】
【文献】
特表2005−537583(JP,A)
【文献】
特開平11−160069(JP,A)
【文献】
特開2008−256692(JP,A)
【文献】
特開2000−221029(JP,A)
【文献】
特開2005−62064(JP,A)
【文献】
特表2001−520747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 21/00−21/32
G01B 11/00−11/30
G01B 5/00− 5/30
G01C 15/00
G01C 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤外線照射可能な複数のカメラと、
基部、前記基部に設けられた複数の反射マーカ、及び前記基部に設けられた位置特定部を有するプローブと、
前記複数のカメラから取得した前記複数の反射マーカに関する撮像データに基づいて、三角測量の原理により、3次元座標における前記位置特定部の位置を演算する演算装置と、
を備える3次元位置計測システムにおいて、
前記基部は、第一表面と、前記第一表面から円柱状に突出した複数の円柱状部位と、前記第一表面のうち少なくとも前記円柱状部位の周囲に形成された反射抑制領域と、を備え、
前記反射マーカは、前記円柱状部位の突出端面を覆うように前記突出端面上に配置されている3次元位置計測システム。
【請求項2】
前記基部は、前記突出端面の中央から前記反射マーカを貫通して突出するピン状部位を備え、
前記反射マーカの中央には、前記ピン状部位が挿通された貫通孔が形成されている請求項1に記載の3次元位置計測システム。
【請求項3】
前記反射マーカは、白系色の表面と接着面である裏面とを有するとともに、前記貫通孔が形成された円形シート状のシールである請求項2に記載の3次元位置計測システム。
【請求項4】
前記円柱状部位には、前記突出端面の中央に凹部が形成され、
前記ピン状部位は、前記基部とは別体であって、前記凹部に着脱可能に固定されている請求項2又は3に記載の3次元位置計測システム。
【請求項5】
前記複数のカメラは、それぞれ別体であって独立して設置可能に形成されている請求項1〜4の何れか一項に記載の3次元位置計測システム。
【請求項6】
前記円柱状部位の突出長さは、0.5mm以上1.5mm以下である請求項1〜5の何れか一項に記載の3次元位置計測システム。
【請求項7】
基部と、前記基部に設けられた複数の反射マーカと、前記基部に設けられた位置特定部と、を備え、複数のカメラから取得した前記複数の反射マーカに関する撮像データに基づいて、三角測量の原理により、3次元座標における前記位置特定部の位置を演算する3次元位置計測システムに用いられる3次元位置計測用プローブであって、
前記基部は、第一表面と、前記第一表面から円柱状に突出した複数の円柱状部位と、前記第一表面のうち少なくとも前記円柱状部位の周囲に形成された反射抑制領域と、を備え、
前記反射マーカは、前記円柱状部位の突出端面を覆うように前記突出端面上に配置されている3次元位置計測用プローブ。
【請求項8】
赤外線照射可能な複数のカメラと、
複数のマーカと位置特定部とを有するプローブと、
前記複数のカメラから取得した前記複数のマーカに関する撮像データに基づいて、三角測量の原理により、3次元座標における前記位置特定部の位置を演算する演算装置と、
を備える3次元位置計測システムに対して、キャリブレーションの際に用いられるキャリブレータであって、
基部と、前記基部に設けられた3つ以上の反射マーカと、を備え、
前記基部は、第一表面と、前記第一表面から円柱状に突出した3つ以上の円柱状部位と、前記第一表面のうち少なくとも前記円柱状部位の周囲に形成された反射抑制領域と、を有し、
前記反射マーカは、前記円柱状部位の突出端面を覆うように前記突出端面上に配置されているキャリブレータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3次元位置計測システム、3次元位置計測用プローブ、及びキャリブレータに関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、複数のカメラが設置された撮像対象スペース(撮像可能空間)において、プローブの特定点の位置(3次元座標における位置)を計測する3次元位置計測システムが開発されている。例えば、モーションキャプター装置では、複数のカメラにより形成された撮像対象スペース内において、カメラから照射された赤外線(光)を、人間の関節等に取り付けられた球状の反射マーカが反射し、その反射した画像がカメラで撮像される。そして、少なくとも2つの撮像データに基づいて、三角測量の原理により反射マーカの3次元座標上の位置が測定される。モーションキャプターに関する技術としては、例えば特開2014−211404号公報に記載されている。3次元位置計測システムは、モーションキャプター装置と同様の原理により、プローブの特定点の3次元座標上の位置を計測(測定)するシステムである。
【0003】
現在の3次元位置計測システムは、例えば、2つのカメラが常時所定距離だけ離れた状態で物理的に固定されたカメラセットと、複数の反射マーカが設けられたプローブと、2つのカメラが撮像した反射マーカの撮像データに基づいて三角測量の原理によりプローブの特定点の位置を演算する演算装置と、で構成されている。演算装置は、主に、コンピュータ及びコンピュータにインストールされた計測ソフトウェアで構成されている。プローブは、ハンディプローブであって、ユーザが持ち運ぶことができるように形成されている。この3次元位置計測システムは、例えば、工業製品(自動車やその部品等)の各部の寸法の計測・検査に用いられる。このような3次元座標計測に関する技術としては、例えば特表2013−528795号公報や特開2015−125641号公報に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−211404号公報
【特許文献2】特表2013−528795号公報
【特許文献3】特開2015−125641号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の3次元位置計測システムでは、2つのカメラの離間距離が一定であり且つ2つのカメラが一定方向を撮像するカメラセットを用いているため、予め設定されたカメラ位置関係に基づき、位置計測及びキャリブレーションは比較的容易に精度良く実行することができる。
【0006】
しかしながら、この3次元位置計測システムでは、2つのカメラ位置・向きが固定されているため、自由な撮像対象スペースの形成は困難である。そこで、発明者は、モーションキャプター装置のように、それぞれ独立して設置可能な複数のカメラを用いることで、より自由に撮像対象スペースを形成することを発想した。そして、発明者は、このような発想のもと、新たな課題に想到した。
【0007】
具体的に、上記の3次元位置計測システムでは、配置自由な複数のカメラにより形成された撮像対象スペース内において、上記プローブにより、あらゆる方向から特定位置(例えば工業製品の各部位置)を計測すると、カメラの撮像向きによってはその精度が低下する。これは、上記プローブが、上記カメラセットのカメラ構成を前提として構成されているためであると考えられる。赤外線反射の撮像データは安定しない。また一方で、全方位に対して反射することができる球状の反射マーカが存在するが、球状の反射マーカは、真球加工に高度な技術が必要となり、製造精度やコストの面で問題がある。位置計測精度の観点では、反射マーカの球状の形状誤差が、位置計測のずれになり得る。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みて為されたものであり、複数のカメラの位置が変更可能なシステムであっても、簡易に製造可能なプローブにより、特定部位の3次元座標上の位置を精度良く計測することができる3次元位置計測システム、並びにそれに用いる3次元位置計測用プローブ及びキャリブレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の3次元位置計測システムは、赤外線照射可能な複数のカメラと、基部、前記基部に設けられた複数の反射マーカ、及び前記基部に設けられた位置特定部を有するプローブと、前記複数のカメラから取得した前記複数の反射マーカに関する撮像データに基づいて、三角測量の原理により、3次元座標における前記位置特定部の位置を演算する演算装置と、を備える3次元位置計測システムにおいて、前記基部は、第一表面と、前記第一表面から円柱状に突出した円柱状部位と、前記第一表面のうち少なくとも前記円柱状部位の周囲に形成された反射抑制領域と、を備え、前記反射マーカは、前記円柱状部位の突出端面を覆うように前記突出端面上に配置されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、反射マーカが第一表面から突出した位置に配置されている分、反射マーカは、カメラの撮像方向(赤外線照射方向)の正面からずれた向きに配置されたとしても、赤外線照射をより良く反射するとともに、反射マーカと反射抑制領域とのより明確な輪郭線を演算装置に提供することができる。これにより、演算装置は、複数のカメラの相対位置が変更可能な場合でも、反射マーカの位置を精度良く演算することができ、ひいてはプローブの位置特定部の3次元座標上の位置を精度良く計測することができる。また、プローブとしては、円柱状部位と当該端面を覆う反射マーカとを備える構成であるため、その製造に高度な加工技術を必要とせず、簡易且つ精度良くプローブを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態の3次元位置計測システムの構成を示す構成図である。
【
図2】本実施形態のプローブの構成を示す構成図である。
【
図3】本実施形態のプローブの構成を説明するための断面図である。
【
図4】凸状キャリブレータの構成を示す構成図である。
【
図5】球状キャリブレータの構成を示す構成図である。
【
図6】実験例1における球状キャリブレータの計測結果を示す説明図である。
【
図7】実験例1における凸状キャリブレータの計測結果を示す説明図である。
【
図8】実験例2における球状プローブの構成を示す構成図である。
【
図9】実験例2におけるY軸回転を説明するための説明図である。
【
図10】実験例2におけるX軸回転を説明するための説明図である。
【
図11】実験例2における球状プローブのY軸回転の計測結果を示す説明図である。
【
図12】実験例2におけるプローブ2のY軸回転の計測結果を示す説明図である。
【
図13】実験例2における球状プローブのX軸回転の計測結果を示す説明図である。
【
図14】実験例2におけるプローブ2のX軸回転の計測結果を示す説明図である。
【
図15】実験例2における凹状ターゲットを有するプローブのY軸回転の計測結果を示す説明図である。
【
図16】実験例2における凹状ターゲットを有するプローブのX軸回転の計測結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。ただし、図面は説明のための概念図であり、寸法等は厳密ではない。特に
図3では、プローブ2を縦方向(厚み方向)に大きく伸ばして表している。
【0013】
本実施形態の3次元位置計測システムAは、
図1に示すように、複数のカメラ1と、プローブ2と、演算装置3と、を備えている。なお、カメラ1及び演算装置3については、公知の装置であるため、詳細な説明は省略する。カメラ1は、画像を撮像する撮像部11と、赤外線を照射する照射部12と、を備えている。カメラ1は、例えばカメラセンサや光学式カメラである。カメラ1は、例えば部屋の壁面(天井等)に固定されている。なお、各カメラ1は、単独で移動可能なスタンド式(例えば三脚式)でも良い。複数のカメラ1により、撮像対象スペースSが形成されている。
【0014】
プローブ2は、測定される信号を伝えるためのユニットであって、カメラ1で撮像されることにより自身の位置に関するデータ(情報)を演算装置3に提供する。プローブ2は、撮像対象スペースS内で、ユーザが片手で持ち運ぶことができるハンディタイプのプローブである。プローブ2は、3次元位置計測用プローブである。
【0015】
具体的に、プローブ2は、
図2及び
図3に示すように、基部21、基部21に設けられた複数の反射マーカ22、及び基部21に設けられた位置特定部23を備えている。基部21は、全体として角柱状の部材(例えば樹脂製部材)であって、第一表面21aと、角柱状部位211と、複数の円柱状部位212と、反射抑制領域213と、ピン状部位214と、棒状部位215と、を備えている。第一表面21aは、角柱状部位211の一面である。角柱状部位211の形状は、任意である。本実施形態の角柱状部位211は、例として、五角柱状(平面視が五角形状)に形成されている。第一表面21aは、五角形状の面のうちの一方の面である。プローブ2には、例えば第一表面21aの反対側に、ユーザが持つための把持部(図示せず)が設けられている。
【0016】
円柱状部位212は、角柱状部位211の第一表面21aから円柱状に突出した部位である。円柱状部位212の第一表面21aからの突出長さ(高さ)は、1mmに設定されている。この突出長さは、0.5mm〜1.5mmであることが好ましい。反射マーカ22の位置を計測する際に、計測器と円柱状部位212の側面とを当接(係合)させることで、計測器を容易に位置決めでき、より精度良く円柱状部位212の位置を計測することができる。したがって、計測器(例えば棒状器具)が円柱状部位212の側面にひっかかる(係合する)程度の突出量が必要となる。この位置計測作業のしやすさの観点から、円柱状部位212の突出長さは0.5mm以上であることが好ましい。そして、円柱状部位212の突出長さが大きくなるほど、斜めから撮像した場合に、他の円柱状部位212と重なる可能性が高くなる。また、加工精度の観点から、突出長さが大きくなるほど円柱形状の加工精度を維持し難い。これらの観点から円柱状部位212の突出長さは、1.5mm以下であることが好ましい。円柱状部位212は、本実施形態のように角柱状部位211と一体的に形成されても良く、角柱状部位211に貫通孔(又は雌ネジ孔)を設け、そこに嵌め込まれる(螺合される)別体の円柱状部材であっても良い。
【0017】
円柱状部位212は、第一表面21a上に5つ形成されている。5つの円柱状部位212は、演算装置3がプローブ2の向きを認識することができるように、その軌跡が略V字状(又は略U字状)となるように配置されている。なお、最外殻の3つ(最大三角形を形成する3点)の円柱状部位212以外の2つの円柱状部位212は、演算装置3にプローブ2の3次元空間内の向きと傾きを認識させる目的で設けられており、不均等に配置されている。
【0018】
反射抑制領域213は、第一表面21aのうちの少なくとも円柱状部位212の周囲に形成されている。本実施形態では、反射抑制領域213が、第一表面21a全体に形成されている。反射抑制領域213は、赤外線の反射を抑制するために、第一表面21aに黒系色塗料が塗布された(又は黒系色の部材で形成された)領域である。黒系色は、黒色や濃紺色など赤外線(光)を反射しにくい色を意味する。つまり、本実施形態において、円柱状部位212の周囲を含む第一表面21aは、黒系色になっている。
【0019】
ピン状部位214は、円柱状部位212の突出端面212aの中央から反射マーカ22を貫通して突出するピン状(例えば凸状、凸弧状、円柱状、円錐状)の部位である。本実施形態のピン状部位214は、基部21とは別体の円柱状の部材である。円柱状部位212には、円形状である突出端面212aの中心位置に、凹部212bが形成されている。ピン状部位214は、凹部212bに取り外し可能に嵌合(ここでは圧入)されている。つまり、ピン状部位214は、凹部212bに着脱可能に固定されている。ピン状部位214の突出端面212aからの突出長さ(高さ)は、5mm程度に設定されている。またピン状部位214の半径は、1.5mm程度である。ピン状部位214は、取り外し可能であり、反射マーカ22が配置された後に取り外され、位置計測時の際にはプローブ2上に存在しないように運用される。なお、ピン状部位214は、円柱状部位212と一体に形成されても良い。
【0020】
棒状部位215は、角柱状部位211の側面(第一表面21aの1つの頂点に対応する側面)から突出した棒状の部位である。棒状部位215の先端部は、凸弧状(例えば球面状)に形成されている。棒状部位215の先端部は、円錐状又は角錐状であっても良い。
【0021】
反射マーカ22は、赤外線を反射するためのものであり、円柱状部位212の突出端面212aを覆うように突出端面212a上に配置されている。つまり、5つの反射マーカ22のそれぞれが、対応する円柱状部位212上に配置されている。反射マーカ22は、少なくとも露出部分が白系色に形成されている。反射マーカ22は、突出端面212aの形状に合わせた円形状に形成されている。反射マーカ22及び突出端面212aは、真円であり、本実施形態では同径(例えば半径10〜30mm)に形成されている。本実施形態の反射マーカ22は、白系色の表面と接着可能な裏面とを有するとともに、中央に貫通孔22aが形成された円形シート状のシールである。反射マーカ22(白系色)の表面は、公知の反射材料、例えばガラス系原料(又は塗料)により形成されている。また、反射マーカ22の中心位置には、ピン状部位214が挿通された貫通孔22aが形成されている。つまり、反射マーカ22はドーナツ状(円環状)シールといえる。反射マーカ22と突出端面212aは、ピン状部位214が貫通孔22aに挿通された状態で、接着固定されている。このように、1つの円柱状部位212と1つの反射マーカ22とが、1つの凸状ターゲットTを形成している。つまり、本実施形態のプローブ2は、5つの凸状ターゲットTを有している。
【0022】
位置特定部23は、棒状部位215の先端部(突出端部)に設定されている。換言すると、棒状部位215の先端部が、位置特定部23である。位置特定部23は、演算装置3により3次元位置を計測する対象であり、プローブ2のうちの任意の部位に設定される。ユーザが位置特定部23を計測対象物(例えば工業製品)Bの計測したい位置に当接させ、演算装置3が位置特定部23の位置を計測することで、計測対象物Bの当該位置を計測することができる。
【0023】
演算装置3は、複数のカメラ1から取得した複数の反射マーカ22に関する撮像データに基づいて、三角測量の原理により、3次元座標(X、Y、Z)における位置特定部23の位置を演算する装置である。具体的に、演算装置3は、CPUやメモリ等を有するコンピュータ31と、当該コンピュータ31で作動する計測ソフトウェア32と、を備えている。計測ソフトウェア32は、例えば市販のソフトウェア(3次元位置計測やモーションキャプチャーに関するソフトウェア)を利用することができる。コンピュータ31は、すべてのカメラ1と通信可能に接続されている。
【0024】
演算装置3は、カメラ1から受信した撮像データから、反射マーカ22の画像上(ピクセル上)の輪郭(輪郭線)を演算する。輪郭は、白黒の境界に基づき決定される。演算装置3は、演算された輪郭の形状から、その輪郭形状の重心(中心)位置を演算する。演算装置3は、演算された重心位置を当該反射マーカ22の位置として認識する。演算装置3は、反射マーカ22の中心位置を反射マーカ22の位置として認識することを前提に、3次元位置を計測するように設定されている。例えば、1つのカメラ1から受信した撮像データにおいて、輪郭が円形であった場合、当該円の中心が反射マーカ22の位置となるため、演算装置3は、その輪郭の中心位置(2次元座標)を算出する。また、例えば輪郭が楕円状であった場合、演算装置3は、楕円の比率からその重心位置(2次元座標)を演算し、それを反射マーカ22の位置とする。輪郭は、例えば白黒が共存するピクセルに基づいて判定される。つまり、輪郭が明確であるほど、精度良く反射マーカ22の位置が計測される。
【0025】
演算装置3は、2以上のカメラ1の撮像データに基づいて、三角測量の原理により、反射マーカ22の3次元座標を演算する。演算装置3は、例えば、(X、Y)座標上の反射マーカ22の位置データと、(Y、Z)座標上の反射マーカ22の位置データに基づいて、反射マーカ22の(X、Y、Z)座標上の位置を演算する。演算装置3は、すべての反射マーカ22の3次元座標を算出し、そこからプローブ2の位置や向きを把握し、位置特定部23の3次元座標上の位置を算出する。プローブ2における反射マーカ22と位置特定部23との位置関係は、予め計測されており、演算装置3に記憶(設定)されている。当該位置関係は、例えば高精度の3次元測定器(例えば3次元レーザースキャナ等)で計測することが好ましい。演算装置3は、機能として、輪郭演算部及び重心演算部を備えているといえる。
【0026】
(実験例1)
ここで、本実施形態の上記ターゲットT(突出長さ1mm)を有する凸状キャリブレータ(「キャリブレータ」に相当する)8と、球状のターゲットを有する球状キャリブレータ9とを、2点間ピッチの計測精度の観点で比較する。2点間ピッチは、対象の2点の3次元座標を計測し、当該座標から距離を演算したものである。
図4に示すように、凸状キャリブレータ8は、直方体状の部位81の一面にそれぞれ離間して3つのターゲットT1、T2、T3が設けられている。ターゲットT1は部位81の一端部に配置され、ターゲットT2は部位81の他端部に配置され、ターゲットT3はターゲットT1とターゲットT2とを結ぶ直線上における中間点ではない位置(ターゲットT1寄り)に配置されている。
【0027】
球状キャリブレータ9は、
図5に示すように、棒状の部位91にそれぞれ離間してターゲットP1、P2、P3が設けられている。ターゲットP1〜P3は、部位91から同方向(直交方向)に突出した棒状の部位92の先端に球状の反射マーカ93が設置されて構成されている。ターゲットP1は部位91の一端部に配置され、ターゲットT2は部位91の他端部に配置され、ターゲットP3はターゲットP1とターゲットP2とを結ぶ直線上における中間点ではない位置(ターゲットP1寄り)に配置されている。ターゲットT1とターゲットT2の離間距離t(2点間ピッチ)と、ターゲットP1とターゲットP2の離間距離pは、同じ(又はほぼ同じ)である。なお、別途、計測装置により計測された離間距離t、pの実寸(真値)は、499.94mmであった。
【0028】
上記同様の3次元位置計測システムにて、離間距離t、pを、同位置において、キャリブレータ8、9を回転(Y軸回転)させた2つの向きで計測した。向きは、0°位置(所定正面から見て、ターゲットT1、P1が右側、ターゲットT2、P2が左側となる位置)と、180°位置(同所定正面から見て、ターゲットT1、P1が左側、ターゲットT2、P2が右側となる位置)である。計測空間(撮像対象スペースS)内において、キャリブレータ8、9を手持ちで固定し、30秒間隔でサンプリングした。
【0029】
図6及び
図7に示すように、凸状キャリブレータ8の計測結果(
図7)は、球状キャリブレータ9の計測結果(
図6)に比べて、0°位置と180°位置での離間距離pの計測値の差、バラツキ、真値からのずれが小さい。真値との差は、球状キャリブレータ9が0.07mmであり、凸状キャリブレータ8が0.03mmであった。バラツキは、球状キャリブレータ9が0.2mmであり、凸状キャリブレータ8が0.04mmであった。容積精度差は、球状キャリブレータ9が0.15mmであり、凸状キャリブレータ8が0.02mmであった。また、凸状キャリブレータ8の計測結果では、球状キャリブレータ9の計測結果で現れたスパイクノイズが現れなかった。このように、本実施形態のターゲットTを有する凸状キャリブレータ8のほうが、球状ターゲットを有する球状キャリブレータ9よりも、3次元位置計測において有利であることが分かった。特に、手持ちで計測する場合でも、凸状キャリブレータ8は、キャリブレータの計測値のバラツキが小さいため、カメラキャリブレーションの精度が向上し、結果として位置特定部23の位置を精度良く計測することができる。
【0030】
(実験例2)
実験例2では、本実施形態のプローブ2と、球状プローブ7とを比較した。球状プローブ7は、
図8に示すように、棒状部71と、4つのターゲット72と、位置特定部73と、を備えている。ターゲット72は、棒状枝部721と、棒状枝部721の先端に配置された球状の反射マーカ722と、で構成されている。実験例2では、
図9及び
図10に示すように、所定のカメラ正面に対して、位置特定部23、73を位置決めした状態で(位置特定部23、73を中心に)、プローブ2、7をY軸回りに回転させて(
図9の1→2→3の向きに回転させて)位置計測し、また別途、X軸回りに回転させて(
図10の1→2の向きに回転させて)位置計測した。Y軸回転は、カメラレンズに対する横振り(左右振り)を意味し、X軸回転は、カメラレンズに対する縦振り(前後振り)を意味する。具体的に、Y軸回転の実験では、第一向き(
図9の1)で10回サンプリングし、第一向きから45°回転させた第二向き(
図9の2)で10回サンプリングし、第二向きから45°回転させた第三向き(
図9の3)で10回サンプリングした。X軸回転の実験では、水平(上向き)から垂直(正面向き)に動かす間(
図10の1から2に回転させる間)に、連続的に30回サンプリングした。
【0031】
図11及び
図12に示すように、プローブ2の計測結果(
図12)は、球状プローブ7の計測結果(
図11)に比べて、Y軸回転においてバラツキが小さいことが分かった。同様に、
図13及び
図14に示すように、プローブ2の計測結果(
図14)は、球状プローブ7の計測結果(
図13)に比べて、X軸回転においてもバラツキが小さいことが分かった。つまり、プローブ2のほうが向きの変化があっても位置測定精度を高く維持することができる。なお、
図15及び
図16に示すように、プローブ2と、平板状の基部に凹状のターゲットを複数有するプローブとを比較すると、凸状のターゲットTを有するプローブ2の計測結果(
図12及び
図14)ほうが、凹状のターゲットを有するプローブの計測結果(
図15及び
図16)よりも、位置測定精度において優れていることが分かる。このターゲットの凹凸は、いずれも計測器との当接を可能とし、プローブにおけるターゲットの位置精度(計測精度)を向上させることになる。このように、ターゲットTを有するプローブ2では、カメラ正面から向きがズレた場合でも、反射マーカ22の輪郭が精度良く読み取られ、コンピュータで解析される反射マーカ22の中心座標の位置測定精度が高い。
【0032】
(作用効果)
本実施形態によれば、反射マーカ22がカメラ1に対して正面(円形状に見える位置)を向いていない場合でも、すなわち反射マーカ22が斜めから撮像されている場合でも、反射マーカ22が第一表面21aから飛び出した位置にあり且つその周囲が反射を抑制する部位(黒系色部位)であるため、カメラ1が反射マーカ22の輪郭(例えば楕円状)をより明確に撮像することができる。したがって、複数のカメラ1の配置(カメラ同士の距離等)や向きを、反射マーカ22を撮像可能な範囲(想定作業範囲)で自由に設定したとしても、反射マーカ22の位置を精度良く検出することができ、ひいては位置特定部23の位置を精度良く計測することができる。具体的に、プローブ2を用いることで、演算装置3が、カメラ1の撮像データに基づいて反射マーカ22の輪郭をより精度良く判定でき、それにより輪郭の重心すなわち反射マーカ22の中心位置を精度良く計測することができる。そして、演算装置3は、精度良く演算された複数の反射マーカ22の位置に基づき、反射マーカ22の3次元座標を演算し、複数の反射マーカ22の3次元座標から位置特定部23の3次元座標を計測する。したがって、本実施形態によれば、位置特定部23の3次元座標上の位置を、より精度良く計測することができる。
【0033】
また、本実施形態によれば、上記作用があるため、プローブ2と複数のカメラ1を用いたキャリブレーションの精度も向上する。2つのカメラ1の離間距離が常に物理的に固定されている場合、演算装置3において予めカメラ1の位置を正確に定義しておくことが可能である。したがって、この場合、従来のプローブ2構成であっても、キャリブレーションの精度は保たれる。しかしながら、壁面等の固定物に設置する設置式のカメラや、移動可能なスタンドに固定されたカメラなど、独立して設置可能な(撮像対象スペースSを変更可能な)複数のカメラにより撮像対象スペースSを形成する場合、カメラ間の距離等を予め設定することができず、キャリブレーション精度の維持が難しくなる。本実施形態によれば、このような場合でも、演算装置3が反射マーカ22の輪郭を精度良く認識することができるため、キャリブレーション精度を高精度に維持することができる。本実施形態のキャリブレーションは、例えば、プローブ2を2つのカメラ1で撮像し、それらの撮像データに基づいて演算装置3が行う。
【0034】
また、本実施形態によれば、円柱状部位212及び円形状の反射マーカ22を製造すれば良く、製造に高度な技術(例えば反射マーカ22を真球に形成する等)を必要としない。精度向上には球の加工精度の向上が求められる。本実施形態によれば、簡素なプローブ2で計測精度を向上させることができる。そして、簡素な形状であるため、プローブ2をより高精度に形成することができる。これにより、位置計測の精度も向上する。なお、従来の球状の反射マーカの場合、空中に配置されることが多く、その周囲が白っぽく撮像され、境界の明確性が低下する場合がある。本実施形態によれば、反射マーカ22の周囲が反射抑制領域213であるため、境界の明確性は確保される。輪郭の判定精度は、白黒の境界がぼやけたり欠けたりすることで低下する。本実施形態によれば、従来のプローブよりも白黒の境界が明確になっている。
【0035】
また、本実施形態によれば、基部21がピン状部位214を有し且つ反射マーカ22が貫通孔22aを有するため、突出端面212aに反射マーカ22(シール)を配置・接着させる際、作業者はピン状部位214を貫通孔22aに通すように反射マーカ22を配置すれば良い。これにより、自動的に突出端面212aの中心と反射マーカ22の中心が一致し、作業者は、容易且つ精度良く反射マーカ22を円柱状部位212と同軸的に設置することができる。つまり、本実施形態によれば、反射マーカ22の固定作業の作業性を向上させることができる。そして、ピン状部位214は、突出端面212a及び反射マーカ22の中央に位置しているため、反射マーカ22の輪郭の読み取り(明確性)への影響は抑制される。撮像データにおいて、反射マーカ22の中央部分がぼやけていても、輪郭の読み取りには影響しない。つまり、本実施形態によれば、位置計測精度を維持しつつ、作業性を向上させることができる。
【0036】
また、本実施形態によれば、反射マーカ22の配置が完了した後に、ピン状部位214を凹部212bから取り外すことができる。位置計測開始前に、ピン状部位214を取り外すことにより、作業者が作業しやすく、且つ、万が一ピン状部位214が反射マーカ22の反射の妨げになる可能性を排除することができる。つまり、本実施形態によれば、より確実に境界の読み取りへの影響を排除することができる。上記のように、ピン状部位214を取り外すことで凹部212bが露出しても、そこは反射マーカ22の中央部分であるため、輪郭の読み取り(すなわちターゲットTの位置の読み取り)には影響がない。
【0037】
(その他)
本発明は、上記実施形態に限られない。例えば、基部21の形状は、上記に限られず、第一表面21aが形成されていれば良く、例えば多角形の板状や、円盤状などであっても良い。また、ピン状部位214、凹部212b、及び貫通孔22aは、なくても良い。また、反射マーカ22は、突出端面212aに形成されても良く、例えば突出端面212aに白系色の原料(反射材等)が塗布(配置)されて形成されても良い。ただし、シール状の反射マーカ22を用いることにより、作業者は、容易且つ精度良く貼り付け作業をすることができる。また、ターゲットTは、プローブ2の向きの検知の観点から5つ以上形成されることが好ましい。また、ピン状部位214は、白系色に形成されても良い。また、ピン状部位214は、反射マーカ22の貼り付け後に、自身の根元部又は中間の部位で折って排除できるように谷部が形成されていても良い。
【符号の説明】
【0038】
1:カメラ、 2:プローブ、 21:基部、 21a:第一表面、
212:円柱状部位、 212a:突出端面、 213:反射抑制領域、
214:ピン状部位、 215:棒状部位、 212b:凹部、
22:反射マーカ、 22a:貫通孔、 8:凸状キャリブレータ、
23:位置特定部、 A:3次元位置計測システム、 S:撮像対象スペース