【実施例】
【0072】
以下、実施例について説明するが、これに限定されない。
〈経編地の実施例〉
[経編地の作製]
経編地の作製においては、まず、生体吸収性材料からなる糸として、ポリ乳酸からなる糸(帝人、33T12)と、非生体吸収性材料からなる糸として、ポリエチレンテレフタレートからなる糸(東レ、33T12、タイプ262)とを整経機を用いて、使用幅の糸本数をビームに巻き取った。続いて、巻き取った糸を編機(トリコット機、32ゲージ、120コース)に仕掛けて糸道保持のセパレーターを通しガイド(筬)に入れた。
編機は4枚筬(GB1〜4)を使用し、編み上がった状態で無地編地になるように編み立てた。その際、筬(GB1、GB2)は、2枚で総詰め(FULL.SET)になるように糸を配列し、残り筬(GB3、GB4)も2枚で総詰め(FULL.SET)になるように配列した。その後、密度が36ウェール/inch、117コース/inchとなるように、得られた編地を120℃、1時間にて熱セットした。
以下に、作製した経編地(
図10〜18)に対応させて、用いた配列、組織を表2に示し、その組織表を表3に示す。また、GB1、GB3に配列した糸は上記のポリエチレンテレフタレートからなる糸であり、GB2、GB4に配列した糸は上記のポリ乳酸からなる糸である。
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
得られた経編地に対して、NaOH水溶液で生体吸収性材料からなる糸が消失するまで溶解処理を施した。生体吸収性材料からなる糸を消失させた生地を
図10〜18に示す。なお、
図10の(a)は、生地の図であり、
図10の(b)がその一部の拡大図であり、
図10の(c)が、生体吸収性材料を消失させた生地を経緯に広げた状態の図である。また、
図11〜
図18は、生体吸収性材料からなる糸を消失させた生地を経緯に広げた状態の図である。
【0076】
〈経編地の比較例〉
[比較例1]
以下の組織及び配列以外の条件は、実施例1に記載の経編地の作製方法と同じ方法で行った。
【0077】
【表4】
【0078】
[ポリ乳酸分解後経編地の二軸延伸]
[実施例10]
実施例1で得られた経編地を100mm×100mmに切出し、60℃の1M NaOH水溶液に2時間浸漬し、経編地のPLAを分解させ、超純水で洗浄、乾燥し、試験サンプルを調製した。次いで、60mm×60mmに切出し、二軸延伸機(東洋精機(株)製)にて、縦方向(MD)及び横方向(TD)に、長さ2倍まで、定速二軸同時引張試験を実施した。チャック間距離:45mm、速度:50mm/分、温度:37℃。
【0079】
[実施例11]
編機のコースを60コースに変えた以外は、実施例1と同様にして経編地を作製し、得られた経編地を用いて実施例10と同様にして試験サンプルを調製し、定速二軸同時引張試験を実施した。
【0080】
[実施例12]
編機のコースを90コースに変えた以外は、実施例1と同様にして経編地を作製し、得られた経編地を用いて実施例10と同様にして試験サンプルを調製し、定速二軸同時引張試験を実施した。
【0081】
[比較例2]
【0082】
比較例1で得られた経編地を使用する以外は、実施例10と同様にして試験サンプルを調製し、定速二軸同時引張試験を実施した。
【0083】
実施例10〜12及び比較例2に関する結果を表5、及び
図19(a)〜(d)に示す。
【0084】
【表5】
【0085】
試験結果より、実施例10〜12の経編地は、1N未満の力で2倍の長さまで伸長させることができた。また、本発明の経編地は、2倍まで伸長させた際、目の広いメッシュ状の構造を維持していた。一方、比較例2の経編地では、約1.4倍まで延伸した際に10N以上の大きな力がかかり、経編地は破断してしまい、2倍まで伸長することができなかった。
【0086】
〈医療材料の実施例(1)〉
[医療材料の作製]
前述のようにして作製して得られた実施例1の経編地を、超音波処理により洗浄した。続いて、浸漬容器(株式会社フラット、フラットシャーレ、直径68mm)に、容器内に入るように円状にカットした経編地(直径約67mm)を置き、上方から円状の金枠を乗せ、経編地を固定した。この浸漬容器に、12%ゼラチン溶液(ニッピ製、メディゼラチン)を所定量添加し、経編地を浸漬した。
次に、この容器を4℃で30分冷却することでゼラチンを被覆させて、編地の目から液が透過しないよう封止した。その後、予め4℃で冷却していた3%濃度のグルタールアルデヒド液(東京化成、50%グルタールアルデヒド液)を4ml添加し、4℃で1h反応させてゼラチンを架橋させた。反応後、蒸留水で洗浄し、真空で一晩乾燥した。乾燥後、40%グリセリン水(健栄製薬株式会社、局方グレードグリセリン)10mLに20分浸漬して、ゼラチンを被覆した経編地からなる医療材料(以下、「シーリング経編地」ともいう)を得た。
【0087】
[医療材料の評価]
[ハイドロゲルの被覆量の測定]
ゼラチンを被覆する前の経編地の重量値と、被覆後の経編地の重量値の差分を測定することにより、ハイドロゲルの被覆量を測定した。
【0088】
[シーリング経編地の厚み測定]
マイクロメータ((株)ミツトヨ製、クイックマイクロMDQ−30M)を用いて、シーリング経編地1サンプルにつき5ヶ所の厚みを測定し、その平均値を算出した。
【0089】
[耐水性試験]
図21に示す漏れ試験機20を用いて測定を行った。
まず、シーリング経編地23に、シリコン系接着シール材(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製、TSE392−W)でシーリング経編地23の周りを被覆して横から漏れないようにした。
次に、漏れ試験機20の容器部22の下面の直径20mmの下口部21に当接するように、このシーリング経編地23をセットし、容器部22内に蒸留水を充填して、上方から150mmHg(20kPa)に加圧した。そして、下口部21からシーリング経編地23を通過して下方に漏れた蒸留水を回収し、1分間に漏れ出す水の量を電子天秤24で測定した。なお、試験n数は3で行い、その平均を求めた。
【0090】
[針孔漏れ試験]
シーリング経編地の中央に縫合糸(エチコン、プロリーン6−0)を用いて人工皮膚(Pro(S)、日本ライトサービス(株)製)を5針縫合で縫い付けることで、針穴からの液体の漏れを試験するための試験片を作製した。この試験片を、上述した耐水性試験と同様にして、漏れ試験機にセットし、室温の擬似血液(山科精器(株))を用いて、上方から150mmHg(20kPa)に加圧することにより、シーリング経編地23を通過して1分間に漏れ出す擬似血液の量を測定した。試験n数は3で行い、その平均を求めた。
【0091】
[シーリング経編地の光学顕微鏡写真]
シーリング経編地を所定の大きさに切り出し、2.5%グルタールアルデヒドにて4℃、2時間で前固定した。その後、0.1Mリン酸緩衝液で2時間洗浄後、1%四酸化オスミウムで4℃、2時間で後固定した。その後、50%エタノールで10分間脱水、70%エタノールで20分間脱水、80%エタノールで20分間脱水、90%エタノールで30分間脱水、95%エタノールで30分間脱水、100%エタノールで30分間脱水を順次行った。次に、得られたシーリング経編地をn−ブチルグリシジルエーテル(QY−1、新EM社)で30分間置換後、QY−1:エポキシ樹脂(Epon812 resin)=1:1で30分間置換、QY−1:エポキシ樹脂=1:2で30分間置換、QY−1:エポキシ樹脂=1:3で30分間置換を順次行い、エポキシ樹脂で一晩置換した後、60℃で硬化させた。硬化させたサンプルを、ウルトラミクロトームで1μm厚の切片を作製し、トルイジンブルーにて染色を行い、キーエンス社デジタルマイクロスコープで、上面及び断面を観察及び撮影を行った。
【0092】
[実施例13]
12%ゼラチン溶液の添加量を1.0mlとして、上記方法にてゼラチンシーリング経編地を作製した。得られたシーリング経編地のゼラチンの被覆量は3.59mg/cm
2であり、被覆後の厚みは0.22μmであった。得られたシーリング経編地の顕微鏡写真を撮影したところ、
図23の通り、糸の表面及び糸の間にゼラチンが付着していた。耐水性試験に供したところ、漏れ出た水は確認されず(0g/min)、針孔漏れ試験では、漏れ出た擬似血液は0.1g/minであり、評価結果は良好であった。
【0093】
[実施例14]
12%ゼラチン溶液の添加量を2.0mlとして、上記方法にてゼラチンシーリング経編地を作製した。得られたシーリング経編地のゼラチンの被覆量は4.93mg/cm
2であり、被覆後の厚みは0.24μmであった。得られたシーリング経編地の顕微鏡写真を撮影したところ、
図24の通り、糸の表面及び糸の間にゼラチンが付着していた。耐水性試験に供したところ、漏れ出た擬似血液は確認されず(0g/min)、針孔漏れ試験では、漏れ出た擬似血液は0.04g/minであり、評価結果は良好であった。
【0094】
[実施例15]
12%ゼラチン溶液の添加量を3.0mlとして、上記方法にてゼラチンシーリング経編地を作製した。得られたシーリング経編地のゼラチンの被覆量は6.34mg/cm
2であり、被覆後の厚みは0.35μmであった。得られたシーリング経編地の顕微鏡写真を撮影したところ、
図25に示すように、糸の表面及び糸の間にゼラチンが付着していた。耐水性試験に供したところ、漏れ出た水は確認されず(0g/min)、針孔漏れ試験では、漏れ出た擬似血液は0.05g/minであり、評価結果は良好であった。
【0095】
[実施例16]
12%ゼラチン溶液の添加量を0.5mlとして、上記方法にてゼラチンシーリング経編地を作製した。得られたシーリング経編地のゼラチンの被覆量は1.86mg/cm
2であり、被覆後の厚みは0.20μmであった。耐水性試験に供したところ、漏れ出た水量は4.2g/minであった。針孔漏れ試験では、漏れ出た擬似血液は比較的多かったが、750g/min以下であった。
【0096】
〈医療材料の比較例〉
[比較例3]
ゼラチンを被覆していない経編地を耐水性試験及び針孔漏れ試験に供したところ、殆ど時間を要することなく擬似血液が漏れ出し、留出速度はいずれも1000g/min以上であった。
以上の医療材料の評価結果を表6に示す。
【0097】
【表6】
【0098】
〈イヌを用いた埋植試験の実施例〉
イヌの下大静脈血管壁及び下行大動脈血管壁への埋植による評価は、以下の通り行った。
[埋植に用いたシーリング経編地]
下大静脈血管壁に埋植したシーリング経編地は、以下の条件を有するものを、実施例1の方法及び[医療材料の作製]に記載の方法に準じて作製した。
・生体吸収性材料からなる糸:ポリ乳酸からなる糸(帝人、33T1)
・非生体吸収性材料からなる糸:ポリエチレンテレフタレートからなる糸(東レ、33T12、タイプ262)
・編機仕掛け条件:32ゲージ、130コース
・密度(熱セット後):35ウェール/inch、127コース/inch
・組織:14cアトラス
・配列:3in、3out
・ゼラチン添加量:36.0ml
・ゼラチン被覆量:3.3mg/cm
2
また、下行大動脈血管壁へ埋植したシーリング経編地は、以下の条件を有するものを、経編地の表面と裏面にゼラチンが均一に被覆されるように留意しながら、実施例1の方法及び[医療材料の作製]に記載の方法に準じて作製した。
・生体吸収性材料からなる糸:ポリ乳酸からなる糸(帝人、33T12)
・非生体吸収性材料からなる糸:ポリエチレンテレフタレートからなる糸(東レ、33T12、タイプ262)
・編機仕掛け条件:32ゲージ、120コース
・密度(熱セット後):36ウェール/inch、117コース/inch
・組織:14cアトラス
・配列:3in、3out
・ゼラチン添加量:1.2ml
・ゼラチン被覆量:3.82mg/cm
2
[麻酔方法]
試験に供するイヌに対して、チアミラールナトリウム(イソゾール、日医工株式会社)22.5mg/kgを静脈内投与(投与用量は導入時の麻酔深度により適宜増減する)により導入麻酔した。また、脱水予防のため、橈側皮静脈から生理食塩水を点滴投与した。気管カテーテルを気道に挿管し、アコマ動物用人工呼吸器により人工呼吸(呼吸回15strokes/min、Tidal volume20mL/kg/strokeを目安)を行った。アコマ動物用麻酔器により混合ガス(Air:O
2=3:0.2を目安)と0.5〜3%イソフルラン(フォーレン吸入麻酔液、アッヴィ合同会社)の吸入により持続麻酔した。
[下大静脈血管壁への埋植]
上記方法により麻酔したイヌ(ビーグル、4カ月齢、埋植時体重6.7kg、有限会社浜口動物)を左側臥位に保定し、右胸部を毛刈りし、ヨード液で消毒した後、第4−5肋間の胸部側壁を開胸した。下大静脈の血管を20mm切開にし、拡げた状態で上記方法により作製したシーリング経編地(大きさ:縦23mm×横8mmの楕円)を血管壁に全周的に縫合し、埋植した。
[下行大動脈血管壁への埋植]
上記方法により麻酔したイヌ(ビーグル、20カ月齢、埋植時体重8.9kg、有限会社浜口動物)を右側臥位に保定し、左胸部を毛刈りし、ヨード液で消毒した後、第4−5肋間の胸部側壁を開胸した。続いて、大動脈弓部を確認し、下行大動脈を剥離した。下行大動脈に対して埋植を行う部位を確定し、斯かる埋植部位を挟んだバイパスを作製するため、ヘパリンを400IU/animal静脈内投与した。埋植部の近遠位側に設置したたばこ嚢縫合の中心部をメスで切開し、切開部にカテーテルを挿入し、二つのカテーテルを接続しバイパスを開通した後、埋植部位近遠位の血管を遮断した。両遮断間の下行大動脈の血管を20mm切開にし、縦20mm、横12mmの大きさで血管壁を切り抜き、上記方法で作製したシーリング経編地(大きさ:縦20mm×横12mmの楕円)をその部分に全周的に縫合し、埋植した。その後、埋植部血管の遮断を解除し、プロタミン硫酸塩を4mg/animal(10mg/mL濃度を0.4mL/animal)静脈内投与した。埋植部位から血液が漏れ出た場合は、追加縫合、ガーゼ圧迫、又はタコシールを貼付し止血した。バイパス用のカテーテルを取り除き、たばこ嚢縫合し、血液が漏れ出ないことを確認した。埋植部位及びたばこ嚢縫合から血液が漏れ出ないことを確認後、胸腔内にカニューレを挿入し閉胸した。胸腔ドレナージを実施した後、カテーテルを抜去し、閉創した。止血後にドレーンを挿入し閉胸した。術後の疼痛対策として、手術終了後、覚醒前に酒石酸ブトルファノール(ベトファール、Meiji Seikaファルマ)を0.1mg/kgの用量で筋肉内に投与した。
[組織摘出及び標本作製]
術後所定期間経過後に、試験に供したイヌを過剰麻酔により安楽死させた。続いて、本シーリング経編地を埋植した部位の血管組織を摘出し長軸方向に切り開いた血管を、4%パラホルムアルデヒド溶液により組織固定した後、冷蔵保存した。得られた組織切片は、エチルアルコールを用いて脱水した後、中間剤としてキシレンを経由してパラフィンを組織内に浸透させて作製したパラフィン包埋ブロックより厚さ約4〜5μmの薄切標本を作製し、Hematoxylin & Eosin(HE)(ヘマトキシリン・エオシン)染色、Alizarin red(AR)(アリザリンレッド)染色、さらにvon Willebrand factor(vWF)(ヴォン・ヴィレブランド因子)及びAlpha-smooth muscle actin(αSMA)(α平滑筋アクチン)に対する免疫染色を行った。
[免疫染色]
免疫染色の一次抗体にはAnti-vWF rabbit polyclonal 抗体(DAKO Cytomation A/S, Glostrup, Denmark)を1:2500に、Anti-SMA mouse monoclonal抗体(clone 1A4, DAKO)を1:500にそれぞれ希釈して4℃で一晩反応させた。二次抗体としてvWFにはHRP標識anti-rabbit IgG goat polyclonal抗体を、SMAにはHRP標識anti-mouse IgG goat polyclonal抗体(いずれもNichirei, Tokyo, Japan)をそれぞれ反応させ、生じた抗原抗体反応物を3-3’ diaminobenzidine(DAB)によって茶褐色に呈色させて可視化し、Hematoxylinで対比染色した。
[画像取得]
顕微鏡画像は、蛍光顕微鏡(BX53、オリンパス株式会社)を用いて、顕微鏡用デジタルカメラ(DP73、オリンパス株式会社)にて撮影して取得した。
【0099】
[実施例17](下大静脈血管壁への埋植試験)
上記の通り作製したシーリング経編地を用いて、上記方法にて下大静脈血管壁に対して埋植を行ったところ、シーリング経編地を充てた部分からの血液の漏出や血管の破裂は認められなかった。
術後6ヵ月後にイヌを安楽死させ、上記方法により、シーリング経編地を埋植した部分の血管について標本作製し、撮影した写真を
図26に示す。また、上記方法にて染色した組織切片の、縫合部付近のヘマトキシリン・エオシン(HE)染色を
図27及び
図28に、アリザリンレッド(AR)染色の顕微鏡写真を
図29に示す。さらに、α平滑筋アクチン(αSMA)染色による顕微鏡写真を
図30に、ヴォン・ヴィレブランド因子(vWF)染色による顕微鏡写真を
図31に示す。
図26より、術後6ヶ月においてシーリング経編地の埋植部の縁が不明瞭になっていたことから、内膜が良好に再生していることが確認された。また、
図27及び
図28より、埋植部におけるシーリング経編地のゼラチンが消失し、自己組織が再生することによって、再生した自己組織とゼラチンとが置換すると共に、経編地の表と裏で組織がブリッジングしていることが確認された。また、
図29より、細胞死の結果として生じ得るカルシウム沈着は確認されなかったことから、本発明のシーリング経編地は、医療材料異物反応による石灰化を引き起こさない程度に生体適合性が高い医療材料であることが示唆された。さらに、
図30より、組織内に平滑筋アクチン繊維が確認されたことから、良好な組織が再生していることが確認された。また、
図31より、経編地のフィラメント間の組織中に血管組織が確認されたことから、新生組織は長期的に生着し、偽性内膜のように剥がれ落ちることはないことが予想された。
【0100】
[実施例18](下行大動脈血管壁への埋植試験)
上記の通り作製したシーリング経編地を用いて、上記方法にて下行大動脈血管壁に対して埋植を行ったところ、シーリング経編地を充てた部分からの血液の漏出や血管の破裂は認められなかった。
術後3ヵ月後にイヌを安楽死させ、上記方法により、シーリング経編地を埋植した部分の血管について標本作製し、撮影した写真を
図32に示す。また、上記方法にて染色した組織切片の、縫合部付近のヘマトキシリン・エオシン(HE)染色の顕微鏡写真を
図33及び
図34に、アリザリンレッド(AR)染色の顕微鏡写真を
図35に示す。また、α平滑筋アクチン(αSMA)染色の顕微鏡写真を
図36に示す。
図32より、術後3ヶ月においても、シーリング経編地の埋植部に良好な内膜が再生していることが確認された。また、
図33及び
図34より、埋植部で自己組織が再生しており、組織のブリッジングが確認された。また、
図35より、カルシウム沈着は確認されなかったことから、本シーリング経編地は、医療材料異物反応や材料内での細胞死による石灰化を引き起こさない程度に生体適合性が高い医療材料であることが示唆された。さらに、
図36より、組織内に平滑筋アクチン繊維が確認されたことから、良好な組織が再生していることが示唆された。同様に、術後6ヵ月後にイヌを安楽死させ、埋植部の組織の状態を観察したところ、血管の狭窄は起きておらず、また、術後3カ月のように良好な組織が再生及び維持されていた。
【0101】
〈イヌを用いた埋植試験の比較例〉
イヌの下大静脈血管壁に対してウシ心のう膜パッチを埋植した試験の評価は、以下の通り行った。その際、埋植以外の麻酔方法、標本作製、免疫染色、画像取得については、実施例18と同様にして行った。
[ウシ心のう膜パッチの下大静脈血管壁への埋植]
イヌ(ビーグル、埋植時体重10.7kg、有限会社浜口動物)の下大静脈の血管を楕円形(長軸2cm×短軸1.5cm)に取り除き、ここに市販のウシ心のう膜パッチ[(大きさ:縦25mm×横15mmの楕円、品番:4700、エドワーズライフサイエンス(株)]を埋植した。
【0102】
[比較例4]
上記の通り、イヌの下大静脈血管壁に対してウシ心のう膜パッチを埋植したところ、ウシ心のう膜パッチを埋植した部位からの血液の漏出や血管の破裂は認められなかった。
術後6ヵ月後に安楽死させ、上記方法により、ウシ心のう膜を充てた部分の血管を取り出し、ウシ心のう膜を充てた部分の血管を縦に開いた状態の写真を
図37に示す。また、上記方法にて染色した組織切片の、縫合部付近のヘマトキシリン・エオシン(HE)染色の顕微鏡写真を
図38及び39に、アリザリンレッド(AR)染色の顕微鏡写真を
図40に、α平滑筋アクチン(αSMA)染色の顕微鏡写真を
図41に、ヴォン・ヴィレブランド因子(vWF)染色の顕微鏡写真を
図42に示す。
図37より、術後6ヶ月においてもウシ心のうパッチの埋植辺縁が確認されたことから、内膜が十分に再生されていないことが示唆された。また、
図38より、埋植部が内膜に比して肥厚していた。血管内膜が肥厚している場合、血管が狭窄し、以遠の血行障害が出る可能性がある。また、
図39より、ウシ心のう膜の内部には新生組織が確認されなかった。また、
図40より、埋植辺縁部付近にカルシウム沈着が確認されたことから、異物反応の発生が示唆された。さらに、
図41より、新生された膠原線維及び筋原線維層は、層状になっておらず不規則であったこと、また、
図42より、経編地のフィラメント間の組織中に血管組織が確認されなかったことから、実施例17及び18と比較して良好ではない組織であることが確認された。
【0103】
〈医療材料の実施例(2)〉
[医療材料の作製]
以下の実施例にしたがって、ゼラチンを被覆した経編地からなるシーリング経編地を得た。
【0104】
[医療材料の評価]
[膨潤率]
シーリング経編地を十分に乾燥した後、30mm×30mmにサンプルを切り出し初期重量を測定しこの重量をM1(mg)とする。次に、この経編地をボトルに入れ、超純水100mlを加え、サンプルを24h浸漬静置した。24時間後にサンプルを取り出し、キムワイプで挟み表面の水分を除去し、重量を測定した。この時の重量をM2(mg)とする。
下記式(I)に従い、ハイドロゲル部の膨潤率(%)を算出した。
【0105】
【数3】
【0106】
[針孔漏れ試験]
シーリング経編地の中央に縫合糸(エチコン、プロリーン6−0)を1針通した状態で、漏れ試験機に取付け、
加圧下で1分間あたりに検体を透過する水の量を測定した。試験n数は3で行い、その平均を求めた。
【0107】
[たわみ]
「JIS L1096:2010 織物及び編物の生地試験方法 8.21 剛軟度測定」を参考にして、サンプル台にサンプルをセットした。この後サンプルが重力により垂れさがる時の水平面からのδの値をたわみとした。
【0108】
[力学試験関連]
弾性率、引張強度、及び伸度は、小型卓上試験機(島津製作所製、EZ-SX)を用いて引張試験を行い測定した。
【0109】
なお、ハイドロゲルの被覆量の測定、シーリング経編地の厚み測定、及び耐水性試験は、前述の方法によって行った。
【0110】
[実施例19]
上記実施例1で得られた経編地を超音波処理により洗浄した。続いて、浸漬容器(角型ディッシュ、Grainer製、120mm×120mm)に入るようにカットした経編地を置き、上方から円状の金枠を乗せ、経編地を固定した。この浸漬容器に10%ゼラチン溶液(ニッピ製、メディゼラチン)を5.4ml添加し、経編地を浸漬した。
次に、この容器を室温で2時間静置することでゼラチンを被覆させて、編地の目から液が透過しないよう封止した。その後、予め4℃で冷却していた0.4%濃度のグルタールアルデヒド液(東京化成、50%グルタールアルデヒド液)を6.4ml添加し、室温で1h反応させてゼラチンを架橋させた。反応後、蒸留水で洗浄し、真空一晩乾燥した。乾燥後、40%グリセリン水(健栄製薬株式会社、局方グレードグリセリン)15mLに30分浸漬して、ゼラチンを被覆した経編地からなる医療材料を得た。
【0111】
[実施例20]
上記実施例19の10%ゼラチン溶液を4.3mlとし、ゼラチンの被覆量を変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。
【0112】
[実施例21]
上記実施例19の10%ゼラチン溶液を2.9mlとし、ゼラチンの被覆量を変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。
【0113】
[実施例22]
上記実施例19の10%ゼラチン溶液を7.2mlとし、ゼラチンの被覆量を変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。
【0114】
[実施例23]
上記実施例19のゼラチン溶液の濃度を13%ゼラチン溶液とし、3.3ml添加した以外は同様な手法によりサンプルを得た。
【0115】
[実施例24]
上記実施例19の10%ゼラチン溶液を用いて、グルタールアルデヒド液の濃度を0.1%に変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。
【0116】
[実施例25]
上記実施例19の10%ゼラチン溶液を5.4mlとし、ゼラチンの被覆量を変更し、グルタールアルデヒド液の濃度を10%に変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。
【0117】
[実施例26]
上記実施例19の10%ゼラチン溶液を7・2mlとし、ゼラチンの被覆量を変更し、グルタールアルデヒド液の濃度を0.1%に変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。
【0118】
[実施例27]
上記実施例19の10%ゼラチン溶液を7・2mlとし、ゼラチンの被覆量を変更し、グルタールアルデヒド液の濃度を10%に変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。
【0119】
[実施例28]
上記実施例19の経編地を32ゲージ、100コースに変更し、10%ゼラチン溶液を2.9mlに変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。
【0120】
[実施例29]
上記実施例28の10%ゼラチン溶液を5.4mlとし、ゼラチンの被覆量を変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。
【0121】
[実施例30]
上記実施例28の10%ゼラチン溶液を7.2mlとし、ゼラチンの被覆量を変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。
【0122】
[実施例31]
上記実施例28の経編地を32ゲージ、60コースに変更し、10%ゼラチン溶液を7.2mlに変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。
【0123】
[実施例32]
上記実施例19の10%ゼラチン溶液を1.8mlとし、ゼラチンの被覆量を変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。このサンプルの針孔漏れ試験では、3.0g/分とやや多い留出量であった。
【0124】
[実施例33]
上記実施例19の10%ゼラチン溶液を9.0mlとし、ゼラチンの被覆量を変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。このサンプルの漏水試験、針孔漏れ試験では、液体の漏れは観察されなかったものの、吸水するとサンプルが大きく変形した。このように大きな変形が手術時に起こると、縫合が難しくなる。
【0125】
[実施例34]
上記実施例19の10%ゼラチン溶液を1.0mlとし、ゼラチンの被覆量を変更し、グルタールアルデヒド液の濃度を0.05%に変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。このサンプルを37℃の超純水に浸漬すると、経編地からゼラチンコーティング層が膨潤し、一部剥離した。
【0126】
[実施例35]
上記実施例31のゼラチン濃度を13%ゼラチン溶液に変更し、13%ゼラチン溶液を7.2mlに変更し、グルタールアルデヒド液の濃度を3.0%に変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。このサンプルの針孔漏れ試験では、2.0g/minとやや多い留出量であった。
【0127】
[実施例36]
上記実施例28の経編地を32ゲージ、60コースに変更し、10%ゼラチン溶液を2.9mlに変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。このサンプルは、耐水性及び針孔漏れの点で他と比べてやや劣っていた。
【0128】
[実施例37]
上記実施例28の経編地を32ゲージ、60コースに変更し、10%ゼラチン溶液を10.8mlに変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。このサンプルの針孔漏れ試験では、2.4g/minと留出量がやや多く、吸水後のサンプルは変形した。
【0129】
[実施例38]
上記実施例37の経編地を32ゲージ、100コースに変更し、10%ゼラチン溶液を1.45mlに変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。このサンプルの針孔漏れ試験では、5.3g/minとやや多い留出量であった。
【0130】
[実施例39]
上記実施例37の経編地を32ゲージ、100コースに変更し、10%ゼラチン溶液を10.8mlとし、ゼラチンシーリング量を変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。このサンプルは、実施例32と同様に吸水後のサンプルは変形した。
【0131】
[実施例40]
上記実施例19の10%ゼラチン溶液を5.4mlとし、ゼラチンの被覆量を変更し、グルタールアルデヒド液の濃度を50%に変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。このサンプルは、架橋度が高いため組織密着性が劣り、針孔漏れも見られた。
【0132】
[実施例41]
36ゲージ、120コースの経編地は、「JIS L1096:2010 織物及び編物の生地試験方法 8.21 剛軟度測定」に従い測定した。その結果、当該経編地のMD方向の剛軟度は3.6(mN/cm)であり、実施例16で使用した32ゲージ、90コースの経編地は0.7(mN/cm)と比べて硬い経編地であった。
【0133】
[実施例42]
32ゲージ、120コースの経編地のMD方向とTD方向の弾性率を実施例40と同様に測定した。その結果、それぞれ5.1N/mm
2と20.9N/mm
2であり、異方性がやや大きかった。
【0134】
以上の結果を表7に纏める。表中の総合評価○又は△については、○は、耐水性、針孔漏れ及びハンドリング性の点から問題なく良好であることを意味し,△はハンドリング性等の点から評価○よりやや劣ることを意味する。また、ハイフン「−」はデータを取得していないことを意味する。
【0135】
【表7-1】
【表7-2】
【0136】
図43に、実施例のシーリング条件(目付、ゼラチン被覆量)をプロットする。
図44に、実施例19〜27並びに実施例32〜34及び40のシーリング条件(90コース、目付70g/m
2の場合の、ゼラチン被覆量、膨潤率)をプロットする。
図44において、座標点(459(膨潤率),6.2(ゼラチン被覆量))は、実施例26における座標点(858(膨潤率),4.8(ゼラチン被覆量))と実施例27における座標点(517(膨潤率),6.0(ゼラチン被覆量)とを結んだ直線y=−0.0035x+7.799と、実施例21における座標点(552(膨潤率),1.6(ゼラチン被覆量))と実施例25における座標点(485(膨潤率),4.9(ゼラチン被覆量)とを結んだ直線y=−0.0496x+28.973とによって得られる外挿値である。また、
図44において、座標点(965(膨潤率),4.4(ゼラチン被覆量))は、上記直線y=−0.0035x+7.799と、実施例21における座標点(552(膨潤率),1.6(ゼラチン被覆量))と実施例24における座標点(898(膨潤率),3.98(ゼラチン被覆量)とを結んだ直線y=0.0068x−2.1451とによって得られる外挿値である。
図45に、実施例28〜30及び実施例38〜39のシーリング条件(100コース、目付72g/m
2の場合の、ゼラチン被覆量、膨潤率)をプロットする。