特許第6310167号(P6310167)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6310167
(24)【登録日】2018年3月23日
(45)【発行日】2018年4月11日
(54)【発明の名称】経編地及び医療材料
(51)【国際特許分類】
   D04B 21/00 20060101AFI20180402BHJP
   A61L 27/52 20060101ALI20180402BHJP
   A61L 27/28 20060101ALI20180402BHJP
【FI】
   D04B21/00 A
   D04B21/00 B
   A61L27/52
   A61L27/28
【請求項の数】7
【全頁数】43
(21)【出願番号】特願2017-561190(P2017-561190)
(86)(22)【出願日】2017年1月13日
(86)【国際出願番号】JP2017001063
(87)【国際公開番号】WO2017122795
(87)【国際公開日】20170720
【審査請求日】2017年12月18日
(31)【優先権主張番号】特願2016-5593(P2016-5593)
(32)【優先日】2016年1月14日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-115768(P2016-115768)
(32)【優先日】2016年6月9日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、医工連携事業化推進事業「自己組織に置換され、伸長する心臓修復パッチの開発」委託研究開発、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502437894
【氏名又は名称】学校法人大阪医科薬科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】393018358
【氏名又は名称】福井経編興業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100134784
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和美
(72)【発明者】
【氏名】根本 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】山田 英明
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 潤
(72)【発明者】
【氏名】河野 一輝
(72)【発明者】
【氏名】伊東 雅弥
(72)【発明者】
【氏名】大西 敦子
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−503281(JP,A)
【文献】 特表2014−531518(JP,A)
【文献】 特開2001−137330(JP,A)
【文献】 特開2013−240910(JP,A)
【文献】 特表2016−534241(JP,A)
【文献】 米国特許第8418508(US,B2)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0267137(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L15/00−33/18
D04B3/00−19/00
23/00−39/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
隣り合うループ列同士が連結されている経編地において、
第1糸を含む、経方向の連続ループ群からなる複数の第1ループ列と、該第1ループ列同士の間に配置される、経方向の連続ループ群からなる、1又は2以上の第2ループ列とからなり、
該第2ループ列が、第2糸のみを含む1又は2以上のループと、第1糸を含む1又は2以上のループとが交互に繰り返されたものであり、
該第1ループ列が、第1糸によって少なくとも3配列で互いに連結され、
第1糸の生体吸収速度が第2糸の生体吸収速度よりも小さい、経編地。
【請求項2】
前記第1糸が非生体吸収性材料からなり、前記第2糸が生体吸収性材料からなる、請求項1に記載の経編地。
【請求項3】
前記第1ループ列同士の間に配置される前記第2ループ列が1〜5配列である、請求項1又は2に記載の経編地。
【請求項4】
前記糸がマルチフィラメントである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の経編地。
【請求項5】
医療材料に用いられる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の経編地。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の経編地の少なくとも1方の面がハイドロゲルで被覆されているか、又は、経編地の糸間の空隙がハイドロゲルで満たされている医療材料。
【請求項7】
前記ハイドロゲルがゼラチン及び/又はコラーゲンである、請求項6に記載の医療材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経編地及び医療材料に関し、更に詳しくは、医療の分野において、生体内で用いられる経編地、及びそれを用いた医療材料に関する。本発明はまた、生地のシーリング方法、及びシーリングされた生地に関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野において、織物、編物等の生地は、生体適合性を有するものがあり、且つ、それ自体への加工が比較的容易であることから、医療材料として利用されている。
特に近年は、医療用途に合わせ、より高い機能が付与された生地の開発が行われている。
【0003】
例えば、このような生地として、植え込み可能なスリングに使用されるメッシュが知られている(特許文献1参照)。当該メッシュは、格子状に配置された、複数の非生物分解性横ストランドと複数の非生物分解性縦ストランドと生物分解性繊維を織り込んだものであり、生物分解性繊維の分解に伴い、スリングの孔/格子隙間が大きくなって組織の内部成長及び瘢痕組織の形成を支持する。
また、医療のための移植用に使用されるポリマーメッシュが知られている(特許文献2参照)。当該ポリマーメッシュは、吸収性ポリマー繊維と非吸収性ポリマー繊維とを編み込んだものであり、吸収性ポリマー繊維及び非吸収性ポリマー繊維の存在による初期の構造的に堅固な段階と、吸収性ポリマー繊維の分解により拡張可能となる段階とを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5657249号公報
【特許文献2】米国特許出願公開第2013/0267137号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1記載のメッシュは、いわゆる織物であるため、生分解繊維が全て分解したとしても伸長性が十分とはいえない。このため、例えば、外科手術における縫合部の補強として当該メッシュを用いた場合、縫合部を有する臓器が人体と共に徐々に成長して大きくなると、メッシュが当該臓器の膨大化に十分に追従できないという欠点がある。
また、上記特許文献2記載のポリマーメッシュにおいては、吸収性ポリマー繊維が溶解した後のメッシュ構造では、吸収性ポリマー繊維による横の繋がりは無くなるものの、非吸収性ポリマー繊維の縦方向の繋がりは維持されており、いわば、元の編地の目が単に拡がっただけの構造となる。そのため、このような編地は全方向に同時に伸長することはできないという欠点がある。すなわち、吸収性ポリマー繊維が溶解した場合であっても、吸収性ポリマー繊維が溶解する前の編地と同様に、緯方向に生地を伸長させた場合、経方向が縮むことになり、逆に、経方向に生地を伸長させた場合、緯方向が縮むことになる。このように、当該ポリマーメッシュは、全方向に対して同時に伸長しないため、上記したことと同様に、臓器の膨大化に対して全方向で追従することができないという問題がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、生地、特に経編地を構成する2種類の糸の内、生体吸収速度がより大きい方の生体吸収性材料からなる糸が生体内において経時的に吸収されることにより、全方向に対して同時に伸長することが可能であり、且つ、当該伸長の度合いを大きくすることができる経編地及び該経編地を用いた医療材料を提供することを目的とする。本発明はまた、血液等の液体が生地を透過しないようにハイドロゲルによって生地を封止するシーリング方法、及びシーリングされた生地を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討したところ、経編みを編成方法として、第1糸を含む、経方向の連続ループ群からなる複数の第1ループ列と、第1糸の生体吸収速度よりも大きい生体吸収速度を有する第2糸のみを含む、経方向の連続ループ群からなる第2ループ列とを所定の配列となるように編成することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明者はまた、特定の条件下で生地を封止することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下の発明を包含する。
【0008】
(1)本発明は、隣り合うループ列同士が連結されている経編地において、第1糸を含む、経方向の連続ループ群からなる複数の第1ループ列と、該第1ループ列同士の間に配置される、経方向の連続ループ群からなる、1又は2以上の第2ループ列とからなり、該第2ループ列が、第2糸のみを含む1又は2以上のループと、第1糸を含む1又は2以上のループとが交互に繰り返されたものであり、該第1ループ列が、第1糸によって少なくとも3配列で互いに連結され、第1糸の生体吸収速度が第2糸の生体吸収速度よりも小さい、経編地に存する。
【0009】
本発明は、(2)第1糸が非生体吸収性材料からなり、第2糸が生体吸収性材料からなる、上記(1)の経編地に存する。
【0010】
本発明は、(3)第1ループ列同士の間に配置される第2ループ列が1〜5配列である、上記(1)又は(2)に記載の経編地に存する。
【0011】
本発明は、(4)糸がマルチフィラメントである、上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の経編地に存する。
【0012】
本発明は、(5)医療材料に用いられる、上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の経編地に存する。
【0013】
本発明は、(6)上記(1)〜(4)のいずれか1つに記載の経編地の少なくとも1方の面がハイドロゲルで被覆されているか、又は、経編地の糸間の空隙がハイドロゲルで満たされている医療材料に存する。
【0014】
本発明は、(7)ハイドロゲルがゼラチン及び/又はコラーゲンである、上記(6)に記載の医療材料に存する。
【0015】
本発明はまた、生地目付(g/m)(X)、ハイドロゲルの被覆量(mg/cm)(Y)、及びハイドロゲルの膨潤率(%)(Z)が、以下:
【0016】
【数1】
【0017】
の関係を満たすシーリング生地に存する。
【0018】
本発明はまた、生地目付(g/m)(X)、ハイドロゲルの被覆量(mg/cm)(Y)、及びハイドロゲルの膨潤率(%)(Z)が、直交座標系(X,Y,Z)において、以下の頂点:点A=(50,6,700)、点B=(50,6,800)、点C=(50,4,800)、点D=(50,4,700)、点E=(70,6.2,459)、点F=(70,6.2,965)、点G=(70,1.6,965)、点H=(70,1.6,459)、点I=(72,4.9,826)、点J=(72,4.9,1028)、点K=(72,1.7,1028)、点L=(72,1.7,826)を有する多面体の線状及びその内部領域の値を有するシーリング生地に存する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の経編地は、編成方法として経編みを採用しているので、充分に密な構造とすることができる。また、経編地を構成する生体吸収性材料からなる2種類の糸の内、生体吸収速度がより大きい方の生体吸収性材料からなる糸が分解吸収された場合に、全方向に対して同時に伸長させることが可能となる。すなわち、一方向に生地を伸長させた場合に、他方向が縮むことを防止できる。
【0020】
本発明の経編地においては、第1糸の生体吸収速度が第2糸の生体吸収速度よりも小さく、第1ループ列を、第1糸を含む経方向の連続ループ群からなるものとし、第2ループ列を、第2糸のみを含む1又は2以上のループと、第1糸を含む1又は2以上のループとが交互に繰り返されたものとし、第1ループ列同士の間に1又は2以上の第2ループ列を配置し、第1ループ列が、第1糸によって少なくとも3配列で互いに連結されたものとすることにより、第2糸が分解吸収された場合であっても、全方向に対して経編地自体が分離又は破損しない程度の強度が保持されると共に、全方向に対する伸長の度合いを大きくすることができる。
【0021】
これらのことから、本発明の経編地を用いることで、例えば、外科手術における縫着して埋植する補填材として用いた場合、初期段階では、縫着部を十分な強度で補填することができ、生体吸収性材料からなる糸が分解吸収された段階では、破損しない程度の強度があり、且つ、縫着部を有する臓器が人体と共に徐々に成長して大きくなったとしても、経編地を当該臓器の膨大化に追従させることができる。
【0022】
本発明の経編地は、第1ループ列同士の間に配置される第2ループ列が1〜5配列である場合、生体吸収性材料の分解後の経編地の強度及び全方向の伸長性が共に、一層優れるものとなる。
【0023】
本発明の経編地は、糸がマルチフィラメントである場合、軟らかな風合いとすることができる。また、生体内で使用した場合に、単糸間に細胞組織や微小血管が入り込みやすくなるため組織再生の点で有用である。
【0024】
本発明のシーリング方法は、操作が簡便であるうえに、血液等の液体が生地を透過することを封止することができ、医療材料の製造に好適に用いることができる。
【0025】
本発明の経編地、及び本発明のシーリング生地は、医療材料として好適に用いられる。具体的には、例えば、小児の心臓の欠損部や狭窄部に対する修復材(心臓修復用パッチ)として好適に用いられる。
【0026】
本発明の医療材料は、経編地等の生地の少なくとも1方の面がハイドロゲルで被覆されているか、経編地の糸間の空隙がハイドロゲルで満たされている場合、経編地から血液等の液体が漏れることを抑制することができる。また、本発明の医療材料は、ハイドロゲルとの組織置換が良好に行われる。さらに、本発明の医療材料を用いると、組織置換に際して平滑筋及び小血管の再生が良好に行われ、カルシウム沈着による石灰化も軽減される。
このとき、ハイドロゲルが、ゼラチン及び/又はコラーゲンである場合、汎用性及び生体適合性に優れる。
本発明の経編地は、第1糸を含む、経方向の連続ループ群からなる複数の第1ループ列と、第1糸の生体吸収速度よりも大きい生体吸収速度を有する第2糸のみを含む、経方向の連続ループ群からなる第2ループ列とを所定の配列となるように編成される。好適な実施形態として、本発明の経編地は、非生体吸収性材料からなる糸と、生体吸収性材料からなる糸とによって編成される(以下、本実施形態を「第1実施形態」ともいう)。
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態として、第1実施形態を中心に説明する。
なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1(a)】図1(a)は、第1実施形態に係る経編地の一例を示す正面図である。
図1(b)】図1(b)は、図1(a)に示す経編地の生体吸収性材料からなる糸を分解吸収させた後の状態を示す正面図である。
図2図2は、図1の(a)に示す経編地の編成図である。
図3(a)】図3(a)は、図1(a)の部分拡大図である。
図3(b)】図3(b)は、図1(b)の部分拡大図である。
図4(a)】図4(a)は、図1(a)又は図1(b)の開き目を示す図である。
図4(b)】図4(b)は、図1(a)又は図1(b)の閉じ目を示す図である。
図5図5の(a)は、第1実施形態に係る経編地において生体吸収性材料からなる糸を分解吸収させた後の経編地を示す正面図であり、図5の(b)は、斯かる経編地を緯方向に伸長させた状態を示す部分拡大図であり、図5の(c)は、緯方向に伸長させた経編地をさらに経方向に伸長させた状態を示す部分拡大図である。
図6(a)】図6(a)は、他の第1実施形態に係る経編地を示す正面図である。
図6(b)】図6(b)は、図6(a)の経編地の生体吸収性材料からなる糸を分解吸収させた後の状態を示す正面図である。
図7(a)】図7(a)は、他の第2実施形態に係る経編地を示す正面図である。
図7(b)】図7(b)は、図7(a)の経編地の生体吸収性材料からなる糸を分解吸収させた後の状態を示す正面図である。
図8(a)】図8(a)は、他の第3実施形態に係る経編地を示す正面図である。
図8(b)】図8(b)は、図8(a)の経編地の生体吸収性材料からなる糸を分解吸収させた後の状態を示す正面図である。
図9図9(a)〜図9(g)は、他の第4〜第10実施形態に係る経編地の生体吸収性材料からなる糸を分解吸収させた後の状態を示す正面図である。
図10図10(a)は、実施例1で得られた経編地の図であり、図10(b)は、その拡大図であり、図10(c)は、実施例1で得られた経編地の生体吸収性材料からなる糸を分解吸収させた後に伸長した図である。
図11図11は、実施例2で得られた経編地の生体吸収性材料からなる糸を分解吸収させた後に伸長した図である。
図12図12は、実施例3で得られた経編地の生体吸収性材料からなる糸を分解吸収させた後に伸長した図である。
図13図13は、実施例4で得られた経編地の生体吸収性材料からなる糸を分解吸収させた後に伸長した図である。
図14図14は、実施例5で得られた経編地の生体吸収性材料からなる糸を分解吸収させた後に伸長した図である。
図15図15は、実施例6で得られた経編地の生体吸収性材料からなる糸を分解吸収させた後に伸長した図である。
図16図16は、実施例7で得られた経編地の生体吸収性材料からなる糸を分解吸収させた後に伸長した図である。
図17図17は、実施例8で得られた経編地の生体吸収性材料からなる糸を分解吸収させた後に伸長した図である。
図18図18は、実施例9で得られた経編地の生体吸収性材料からなる糸を分解吸収させた後に伸長した図である。
図19図19は、比較例1で得られた経編地の生体吸収性材料からなる糸を分解吸収させた後に伸長した図である。
図20(a)】図20(a)は、実施例1で得られた経編地(120コース)及びコース数のみ変えて作製した経編地(60コース、90コース)をそれぞれ二軸延伸した結果(実施例10〜12)を示すグラフである。
図20(b)】図20(b)は、実施例1で得られた経編地(120コース)及びコース数のみ変えて作製した経編地(60コース、90コース)をそれぞれ二軸延伸した結果(実施例10〜12)を示すグラフである。
図20(c)】図20(c)は、実施例1で得られた経編地(120コース)及びコース数のみ変えて作製した経編地(60コース、90コース)をそれぞれ二軸延伸した結果(実施例10〜12)を示すグラフである。
図20(d)】図20(d)は、比較例1で得られた経編地を二軸延伸した結果(比較例2)を示すグラフである。
図21図21は、耐水性試験及び針孔漏れ試験に用いた漏れ試験機を示す模式図である。
図22図22は、ゼラチンを被覆する前の経編地の顕微鏡写真である。
図23図23(a)は、実施例13で得られた医療材料の上面からの顕微鏡写真であり、図23(b)は、その断面を示す写真である。
図24図24(a)は、実施例14で得られた医療材料の上面からの顕微鏡写真であり、図24(b)は、その断面を示す写真である。
図25図25(a)は、実施例15で得られた医療材料の上面からの顕微鏡写真であり、図24(b)は、その断面を示す写真である。
図26図26は、実施例17で得られた医療材料を埋植し6ヵ月経過後、採取した下大静脈の内膜側の外観を示す写真である。
図27図27は、実施例17で得られた医療材料を埋植し6ヵ月経過後、採取した下大静脈血管壁のHE染色に関する写真である(Bar=500μm)。
図28図28は、図27の点線部分を拡大した写真である(Bar=100μm)。
図29図29は、実施例17で得られた医療材料を埋植し6ヵ月経過後、採取した下大静脈血管壁のアリザリンレッド染色に関する写真である(Bar=500μm)。
図30図30は、実施例17で得られた医療材料を埋植し6ヵ月経過後、採取した下大静脈血管壁のαSMA染色に関する写真である(Bar=100μm)。
図31図31は、実施例17で得られた医療材料を埋植し6ヵ月経過後、採取した下大静脈血管壁のvWF染色に関する写真である(Bar=100μm)。
図32図32は、実施例18で得られた医療材料を埋植し3ヵ月経過後、採取した下行大動脈の内膜側の外観を示す写真である。
図33図33は、実施例18で得られた医療材料を埋植し3ヵ月経過後、採取した下行大動脈血管壁のHE染色に関する写真である(Bar=500μm)。
図34図34は、図33の点線部分を拡大した写真である(Bar=100μm)。
図35図35は、実施例18で得られた医療材料を埋植し3ヵ月経過後、採取した下行大動脈血管壁のアリザリンレッド染色に関する写真である(Bar=500μm)。
図36図36は、実施例18で得られた医療材料を埋植し3ヵ月経過後、採取した下行大動脈血管壁のαSMA染色に関する写真である(Bar=100μm)。
図37図37は、ウシ心のう膜を埋植し6ヵ月経過後、採取した下大静脈の内膜側の外観を示す写真である。
図38図38は、ウシ心のう膜を埋植し6ヵ月経過後、採取した下大静脈血管壁のHE染色に関する写真である(Bar=500μm)。
図39図39は、図38の点線部分を拡大した写真である(Bar=100μm)。
図40図40は、ウシ心のう膜を埋植し6ヵ月経過後、採取した下大静脈血管壁のアリザリンレッド染色に関する写真である(Bar=500μm)。
図41図41は、ウシ心のう膜を埋植し6ヵ月経過後、採取した下大静脈血管壁のαSMA染色に関する写真である(Bar=100μm)。
図42図42は、ウシ心のう膜を埋植し6ヵ月経過後、採取した下大静脈血管壁のvWF染色に関する写真である(Bar=100μm)。
図43図43は、実施例19〜42のシーリング条件(ゼラチン被覆量、目付)をプロットした図である。図中で、丸印又は三画印中の番号は実施例の番号をを示す。
図44図44は、実施例19〜27及び実施例32〜34及び40のシーリング条件(90コース、目付70g/mの場合の、ゼラチン被覆量、膨潤率)をプロットした図である。
図45図45は、実施例28〜30及び実施例38〜39のシーリング条件(100コース、目付72g/mの場合の、ゼラチン被覆量、膨潤率)をプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本明細書において「生体吸収性」は、生体吸収性材料からなる糸が、当該材料の化学的性質等に応じて、経時的に生体内で組織により分解吸収され、消滅する特性をいう。また、本明細書において「生体吸収速度」は、本発明の経編地又は生地で用いられる糸が生体内において分解吸収される速度、即ち、単位量当たりの糸が分解吸収されるまでの時間を意味する。
【0029】
[経編地]
本発明に係る経編地について説明する。
本発明の経編地において「ループ列」とは、経方向の連続したループ群をいう。
図1(a)は、第1実施形態に係る経編地の一例を示す正面図であり、図1(b)は、図1(a)に示す経編地の生体吸収性材料からなる糸を分解吸収させた後の状態を示す正面図であり、図2は、図1の(a)に示す経編地の編成図である。
図1(a)に示すように、第1実施形態に係る経編地10は、等間隔に配置された経方向の連続ループ群からなる複数の第1ループ列1と、該第1ループ列1同士の間に配置された経方向の連続ループ群からなる2配列の第2ループ列2とからなる。
そして、経編地10は、図2に示すように、経編みにより編成されたものであるので、隣り合うループ列同士、すなわち、第1ループ列1及び第2ループ列2、又は、第2ループ列同士が互いに連結されている。
【0030】
経編地10は、編成方法として経編みを採用しているので、充分に密な構造とすることができる。また、後述する生体吸収性材料からなる糸が分解吸収された場合、全方向に同時に伸長させることが可能となる。なお、全方向とは、経編地と同一平面における全ての方向を意味する。
図1(b)に示すように、第1実施形態に係る経編地10において、生体吸収性材料からなる糸は、生体内で経時的に分解吸収されることにより消失する。すなわち、2配列の第2ループ列2における生体吸収性材料からなる糸のみを含む複数のループが消失し、第1ループ列1及び第2ループ列2の非生体吸収性材料からなる糸のみが残存する。なお、生体吸収性材料からなる糸が分解吸収された場合の生地の伸長については、後述する。
【0031】
上記第1ループ列1は、非生体吸収性材料からなる糸のみを含む複数のループが経方向に連結されたものである。
上記第2ループ列2は、生体吸収性材料からなる糸のみを含む複数のループと、非生体吸収性材料からなる糸のみを含む複数のループとが経方向に交互に繰り返されて連結されたものである。
【0032】
図3(a)は、図1(a)の部分拡大図であり、図3(b)は、図1(b)の部分拡大図である。
図3(a)及び図3(b)に示すように、第2ループ列2は、隣り合う第1ループ列1同士の間に2列配列されている。すなわち、経編地10は、第1ループ列1と第2ループ列2とが、1:2の比率で含まれるものであり、1列の第1ループ列1及び2列の第2ループ列2からなるユニットが連続して繰り返された構造となっている。なお、後述するように、経編地10は、第1ループ列1及び第2ループ列2の配列を変更することにより、生体吸収性材料からなる糸が分解吸収された後の経編地の形状及び伸長率を変化させることができる。
【0033】
第1ループ列1は、等間隔で配置されており、第1ループ列1同士は、互いに第2ループ列を構成する非生体吸収性材料からなる糸により連結されている。すなわち、図3(b)に示すように、生体吸収性材料からなる糸が生体内で分解吸収された後であっても、第1ループ列1同士は、分解吸収されない非生体吸収性材料からなる糸により互いに連結された構造を維持するようになっている。
このとき、連結される第1ループ列1は、強度の観点から、少なくとも3配列以上である必要がある。これにより、長期的に用いた場合であっても、破損することなく、十分な強度を保持することができる。
【0034】
第2ループ列2は、非生体吸収性材料からなる糸のみを含む複数のループが、第1ループ列1同士を連結しており、生体吸収性材料からなる糸のみを含む複数のループが、その他の部分を構成している。
なお、第2ループ列2において、非生体吸収性材料からなる糸のみを含むループの数、及び、生体吸収性材料からなる糸のみを含むループの数は、特に限定されない。
また、非生体吸収性材料からなる糸のみを含む複数のループと、生体吸収性材料からなる糸のみを含む複数のループとが繰り返される際の編成比率も、特に限定されない。
さらに、隣り合う第2ループ列2において、上記ループの数及び上記編成比率は、同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0035】
図4(a)は、図1(a)又は図1(b)の開き目を示す図であり、図4(b)は、図1(a)又は図1(b)の閉じ目を示す図である。
図4(a)及び図4(b)に示すように、経編地10においては、1本の非生体吸収性材料からなる糸又は生体吸収性材料からなる糸が複数のループを作りながらジグザグに形成される。
そして、他の非生体吸収性材料からなる糸又は生体吸収性材料からなる糸も同様にループを作りながらジグザグに形成され、互いのループが緯方向で連結されることにより、いわゆる経編が編成される。
これにより、非生体吸収性材料からなる糸は、第1ループ列1と、第1ループ列1同士を連結するループ、すなわち、第2ループ列2の一部となる。
また、生体吸収性材料からなる糸は、ジグザグに形成された非生体吸収性材料からなる糸の折り返し部分をループで連結することにより、第2ループ列2の一部となる。
【0036】
このとき、組織のループは、開き目(図4(a)参照)であってもよく、閉じ目(図4(b)参照)であってもよい。なお、第1実施形態に係る経編地10は、開き目を採用している。
経編地10においては、後述するループ列の配列、及び、上述の開き目及び閉じ目を適宜選択することにより、生体吸収性材料からなる糸が分解吸収された後の経編地10の形状及び伸長率を変化させることができる。
【0037】
図3(a)及び図3(b)に戻り、経編地10においては、生体吸収性材料からなる糸が生体内で分解吸収されることにより、第2ループ列2の一部が消失する構造となる。すなわち、図3(a)に示す経編地10における生体吸収性材料からなる糸が、徐々に生体内で分解吸収され、最終的には消失することにより、図3(b)に示すような組織となる。これにより、当該経編地10の伸長性を大きくすることが可能となる。なお、生体吸収性材料からなる糸の消失と経編地の伸長は、生体内では並行して進行することも有り得る。
【0038】
生体吸収性材料からなる糸を消失させた場合では、第1ループ列1及び第2ループ列2を上述したような配列とし、且つ、上述したように連結させることにより、全方向に対して分離又は破損しない程度の強度を保持することができると共に、全方向に対する伸長の度合いを極めて大きくすることができる。
【0039】
図5の(a)は、第1実施形態に係る経編地において生体吸収性材料からなる糸を分解させた後の経編地を示す正面図であり、図5の(b)は、斯かる経編地を緯方向に伸長させた状態を示す部分拡大図であり、図5の(c)は、緯方向に伸長させた経編地を経方向に伸長させた状態を示す部分拡大図である。
図5の(a)及び(b)に示すように、経編地10においては、生体吸収性材料からなる糸を分解吸収させた後の経編地を緯方向に伸長させると、第2ループ列2のループ状の非生体吸収性材料からなる糸が伸長し直線状となる。
そして、図5の(c)に示すように、経編地10においては、生体吸収性材料からなる糸を分解吸収させた後の経編地を経方向に伸長させると、第1ループ列1のループ状の非生体吸収性材料からなる糸が伸長し直線状となる。
このように、経編地10においては、経方向及び緯方向が互いに独立して伸長するようになっているので、一方向に生地を伸長させた場合に、他方向が縮むことを防止できる。このことにより、全方向に対して同時に伸長させることが可能となる。
【0040】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
第1実施形態に係る経編地10において、第1ループ列1は、非生体吸収性材料からなる糸のみを含む複数のループが経方向に連結されたものとしているが、生体吸収性材料からなる糸が生体内で消失された後であっても、第1ループ列1同士が互いに連結された構造を維持することが可能であれば、非生体吸収性材料からなる糸以外の糸を含んでいてもよい。
また、第1実施形態に係る経編地10においては、第2ループ列2の非生体吸収性材料からなる糸のみを含む複数のループが、第1ループ列1同士を連結しているが、別の非生体吸収性材料からなる糸で第1ループ列1同士を連結させてもよい。
また、第2ループ列2は、生体吸収性材料からなる糸のみを含む複数のループを有しているが、1つのループであってもよい。同様に、第2ループ列2は、非生体吸収性材料からなる糸のみを含む複数のループを有しているが、1つのループであってもよい。すなわち、第2ループ列は、生体吸収性材料からなる糸のみを含む1又は2以上のループと、非生体吸収性材料からなる糸を含む1又は2以上のループとが交互に繰り返されて連結されたものであればよい。
【0041】
第1実施形態に係る経編地10は、第1ループ列1と第2ループ列2とが、1:2の比率で配列されたものであるが、比率は特に限定されない。
また、第2ループ列2は、隣り合う第1ループ列1の間に、2列配列されているが、特に限定されない。
なお、第2ループ列2は、隣り合う第1ループ列1の間に、1〜5列配列されていることが好ましい。この場合、全方向に対する強度及び伸長性が共に優れるものとなる。
【0042】
図6(a)は、他の第1実施形態に係る経編地を示す正面図であり、図6(b)は、図6(a)の経編地の生体吸収性材料からなる糸を分解吸収させた後の状態を示す正面図である。
図6(a)及び図6(b)に示す経編地11は、開き目を採用し、且つ、1列の第1ループ列1a、1列の第2ループ列2a1、1列の第1ループ列1a、2列の第2ループ列2a2からなるユニットが連続して繰り返された構造となっている。すなわち、第1ループ列1a:第2ループ列2a1:第1ループ列1a:第2ループ列2a2が、1:1:1:2の比率となって繰り返される。
【0043】
図7(a)は、他の第2実施形態に係る経編地を示す正面図であり、図7(b)は、図7(a)の経編地の生体吸収性材料からなる糸を分解吸収させた後の状態を示す正面図である。
図7(a)及び図7(b)に示す経編地12は、閉じ目を採用し、且つ、1列の第1ループ列1b及び3列の第2ループ列2bからなるユニットが連続して繰り返された構造となっている。すなわち、第1ループ列1bと第2ループ列2bとが、1:3の比率で含まれている。
【0044】
図8(a)は、他の第3実施形態に係る経編地を示す正面図であり、図8(b)は、図8(a)の経編地の生体吸収性材料からなる糸を分解させた後の状態を示す正面図である。
図8(a)及び図8(b)に示す経編地13は、閉じ目を採用し、且つ、1列の第1ループ列1c及び2列の第2ループ列2cからなるユニットが連続して繰り返された構造となっている。すなわち、第1ループ列1cと第2ループ列2cとが、1:2の比率で含まれている。
【0045】
図9の(a)〜(g)は、他の第4〜第10実施形態に係る経編地の生体吸収性材料からなる糸を分解吸収させた後の状態を示す正面図である。すなわち、他の第4〜第10実施形態に係る経編地は、生体吸収性材料からなる糸及び非生体吸収性材料からなる糸の配列数を所定の比により構成したものであり、それらの生体吸収性材料からなる糸を分解吸収させた後の状態を図9の(a)〜(g)に示している。
これらは、経編機を用い、経編機のガイド(GB1〜GB4)を以下の表1に示すようにして編成することで得られる。なお、これらは同じ組織であるが、配列を変えることで、図9に示すように、第1ループ列1及び第2ループ列2の配分を変えることができる。
【0046】
【表1】
【0047】
図9の(a)に示す生体吸収性材料からなる糸を分解吸収させた後の第4実施形態に係る経編地は、1列の第1ループ列及び1列の第2ループ列からなるユニットが連続して繰り返された構造となっている。すなわち、第1ループ列と第2ループ列とが、1:1の比率で含まれている。
図9の(b)に示す生体吸収性材料からなる糸を分解吸収させた後の第5実施形態に係る経編地は、1列の第1ループ列及び2列の第2ループ列からなるユニットが連続して繰り返された構造となっている。すなわち、第1ループ列と第2ループ列とが、1:2の比率で含まれている。
図9の(c)に示す生体吸収性材料からなる糸を分解吸収させた後の第6実施形態に係る経編地は、1列の第1ループ列及び3列の第2ループ列からなるユニットが連続して繰り返された構造となっている。すなわち、第1ループ列と第2ループ列とが、1:3の比率で含まれている。
図9の(d)に示す生体吸収性材料からなる糸を分解吸収させた後の第7実施形態に係る経編地は、1列の第1ループ列及び4列の第2ループ列からなるユニットが連続して繰り返された構造となっている。すなわち、第1ループ列と第2ループ列とが、1:4の比率で含まれている。
図9の(e)に示す生体吸収性材料からなる糸を分解吸収させた後の第8実施形態に係る経編地は、1列の第1ループ列及び5列の第2ループ列からなるユニットが連続して繰り返された構造となっている。すなわち、第1ループ列と第2ループ列とが、1:5の比率で含まれている。
図9の(f)に示す生体吸収性材料からなる糸を分解吸収させた後の第9実施形態に係る経編地は、2列の第1ループ列及び2列の第2ループ列からなるユニットが連続して繰り返された構造となっている。すなわち、第1ループ列と第2ループ列とが、1:1の比率で含まれている。
図9の(g)に示す生体吸収性材料からなる糸を分解吸収させた後の第10実施形態に係る経編地は、2列の第1ループ列及び1列の第2ループ列からなるユニットが連続して繰り返された構造となっている。すなわち、第1ループ列と第2ループ列とが、2:1の比率で含まれている。
その他に、第1ループ列及び第2ループ列の比率として、例えば1:2:1:3の繰り返し単位(即ち、第1ループ列が1配列であり、第2ループ列が2配列又は3配列である場合)や、2:2:1:2の繰り返し単位(即ち、第1ループ列が2配列又は1配列であり、第2ループ列が2配列である場合)や、それらの組み合わせを有する経編地を用いることもできる。
本発明の経編地は、伸長後の編地の安定性、即ち強度の観点から、第1ループ列及び第2ループ列の比率が1:2又は1:3であることが好ましく、より好ましくは1:2である。伸長後の編地の強度は、例えば図10(c)で示されるように、縦方向及び横方向に均等に糸が配置されると大きくなる。
【0048】
次に、本発明に係る経編地の物性、材質、用途等について説明する。
本発明の経編地(生体吸収性材料が分解吸収されていない状態)は、密度が60〜120コース/inchかつ28〜45ウェール/inchであることが好ましい。より好ましくは、生地の生体組織への縫合容易性や、耐水性や針孔漏れ性、経編地の異方性の観点から、70〜110コース/inchかつ30〜42ウェール/inchであり、さらに好ましくは80〜100コース/inchかつ32〜40ウェール/inchである。
【0049】
生体吸収性材料からなる糸が消失した場合の経編地は、伸び率が生体吸収性材料からなる糸が消失する前の伸び率の1.2〜8.0倍であることが好ましく、2.0〜8.0倍であることがより好ましい。
外科手術における縫着部の補填材や欠損部の修復材に用いた場合、仮に患者が臓器の成長速度が速い小児であっても、十分にそれに追従させることができる。
【0050】
本発明の経編地において、生体吸収性材料からなる糸としては、生体適合性を有すると共に、経時的に生体内で分解吸収され消失するものであれば特に限定されない。
例えば、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリ(ラクチドグリコリド)共重合体、ポリリング酸、ポリジオキサノン、ポリカプロラクトン、ポリヒドロキシアルカノエート、変性ポリビニルアルコール、ガゼイン、変性澱粉、ポリグラクチンポリカプロラクトン共重合体、ポリグリコール酸乳酸共重合体及びそれらの誘導体等が挙げられる。
これらの中でも、ポリ乳酸、ポリジオキサノン、ポリグリコール酸、ポリグラクチンポリカプロラクトン共重合体及びポリグリコール酸乳酸共重合体から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。この場合、汎用性や強度にも優れ、生体内で分解吸収させることができる。
【0051】
生体吸収性材料からなる糸の生体吸収速度を制御するためには、公知の方法を用いればよく、例えば、共重合成分の比の変更や、ポリマーの側鎖を親水性又は疎水性に修飾することで制御できる。上記生体吸収材料のうち、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトンの生体吸収速度は一般的にポリグリコール酸>ポリ乳酸>ポリカプロラクトン(ポリグリコール酸の生体吸収性が最も大きい)であることが知られている。よって、例えばポリ(ラクチドグリコリド)共重合体の場合は、ラクチド成分及びグリコリド成分の比を調整することで、生体吸収速度を変更できる。
【0052】
上記第一実施形態の経編地における生体吸収性材料からなる糸が生体内で分解吸収され消失するまでの生体吸収時間は、生体組織が定着後、経編地が適用される人体の成長度合いに応じて所定時間後に徐々に分解すればよく、通常3ヶ月〜3年の間である。本発明の経編地において、第1糸の生体吸収速度は第2糸の生体吸収速度よりも小さければよいが、第1糸は、経編地が安定して伸長するために、好ましくは、第2糸が分解した後6ヶ月〜数年後に遅延して分解する。
【0053】
本発明の経編地において、非生体吸収性材料からなる糸としては、生体適合性を有すると共に、経時的に生体内で分解吸収されないものであれば特に限定されずに用いることができる。
例えば、フッ素繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ビニロン繊維、ビニリデン繊維、ポリ塩化ビニル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリウレタン繊維、炭素繊維、ポリスチレン繊維、ポリメタクリル酸メチル等が挙げられる。ポリエステル繊維としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ステレオコンプレックスポリ乳酸、第3成分を共重合させたポリエステル等が挙げられる。
これらの中でも、フッ素繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維及びポリプロピレン繊維から選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。この場合、汎用性や強度にも優れ、経編地として十分な強度を保持することができる。
【0054】
本発明の経編地に用いられる非生体吸収性材料からなる糸は、総繊度が好ましくは22〜110dtexであり、単繊維繊度が好ましくは0.8〜5.0dtexであり、フィラメント数が好ましくは1〜48本である。繊度等が上記範囲内にある場合、軽量でありながら、充分な強度を保持できる。より好ましくは、総繊度が25〜50dtexであり、単繊維繊度が好ましくは1〜5dtexであり、フィラメント数が好ましくは5〜20本である。
【0055】
本発明の経編地に用いられる生体吸収性材料からなる糸は、総繊度が好ましくは20〜200dtexであり、単繊維繊度が好ましくは1.3〜44dtexであり、フィラメント数が好ましくは1〜24本である。当該糸を上記範囲内で調整することで、生体内で分解吸収させることができる。より好ましくは、総繊度が25〜50dtexであり、単繊維繊度が好ましくは1〜5dtexであり、フィラメント数が好ましくは5〜20本である。
【0056】
生体吸収性材料からなる糸及び/又は非生体吸収性材料からなる糸は、モノフィラメント又はマルチフィラメントであってもよい。マルチフィラメントの場合、軟らかな風合いにすることができる。また、マルチフィラメントを生体内で使用する場合、単糸間に細胞組織が入り込みやすくなるため組織再生の点で好ましい。一方、モノフィラメントの糸は、マルチフィラメントと比較して洗浄効率が高い。生体吸収性材料からなる糸及び/又は非生体吸収性材料からなる糸は、マルチフィラメントの場合、フィラメント数が5〜20本であり、総繊度が25〜50dtexであることが好ましい。
【0057】
本発明に係る経編地は、トリコット編機を用いて、一般的なアトラス編等のジグザグに編むことにより第1及び第2ループ列同士を連結しながら第1ループ列にまたがる組織となるように作製される。その際、使用糸、配列、組み合わせ方を所望する組織に応じて変更することで最終形態を変えることができる。また、第2ループ列における非生体吸収性材料からなる糸の割合を変更する際に、すべての筬を1:1、4:2又は5:3の割合で配列することもできる。糸の伸度、硬度、繊度が同じ場合は、同時に整経することも可能なため、2ビーム2バーや3ビーム2バーで編み立てすることも可能である。
【0058】
本発明の経編地は、生体内組織損傷、欠損又は狭窄に対する修復材、補填材又は補強材等に用いられる。組織としては、血管、心臓弁、心膜、硬膜、軟骨、皮膚、粘膜、靭帯、腱、筋肉、気管、腹膜等が挙げられる。生体内損傷としては、外科手術、外傷、その他先天性の欠損や狭窄が挙げられる。また、房中隔欠損症、心室中隔欠損症、房室中隔欠損症、ファロー四徴症、肺動脈狭窄症、各種単心室症等に対する心臓外科手術においても使用することができる。
これらの中でも、本発明の経編地は、小児の心臓の欠損部及び狭窄部に対する修復材である、いわゆる心臓修復用パッチとして好適に用いられる。この場合、初期段階では、修復部を十分な強度で支持することができ、生体吸収性材料からなる糸が消失した段階では、経編地の伸長性が大きくなるため、修復した臓器が人体と共に成長して膨大化した場合であっても、当該臓器の成長に経編地を追従させることができる。
【0059】
[医療材料]
本発明に係る医療材料について説明する。
本発明の医療材料において「被覆」とは、経編地の糸の表面及び糸の間にハイドロゲルが、血液等の液体が経編地を透過しないように付着されている状態をいう。また、本明細書では、前記「被覆」を「シーリング」ともいう。
本発明の医療材料において「空隙が満たされている」とは、経編地の糸の間にハイドロゲルが、液体が透過しないように固定化されている状態をいう。
本発明の医療材料は、上述した経編地の表面又は裏面のうち少なくとも1方の面がハイドロゲルで被覆されている。これにより、経編地の目から血液等の液体が漏れることを抑制及び防止することができる。また、生体内でハイドロゲルとの組織置換が良好に行われ、組織置換に際して平滑筋及び小血管の再生が行われる。さらに、死滅した細胞によって生じ得るカルシウム沈着による石灰化も軽減される。経編地の両面がハイドロゲルで被覆されることがより好ましい。
なお、ハイドロゲルを被覆した経編地からなる医療材料を「シーリング経編地」ということがある。また、ハイドロゲルを被覆した生地からなる医療材料を「シーリング生地」ともいう。
【0060】
前記ハイドロゲルとしては、水分を内包することができる高分子体であり、生体適合性であることが好ましい。その他、タンパク質としては、コラーゲン及びその加水分解物であるゼラチン、プロテオグリカン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、ラミニン、エンタクチン、テネイシン、トロンボスポンジン、フォンビルブランド因子、オステオポンチン、フィブリノーゲン等が挙げられる。多糖類としては、コンドロイチン硫酸などのグリコサミノグリカン、デンプン、グリコーゲン、アガロース、ペクチン等が挙げられる。また、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ−γ−グルタミン酸及びそれらの共重合体等の水溶性、水親和性、又は水吸収性合成高分子が挙げられる。その他、これらを組み合わせてもよい。これらの中でも、汎用性及び生体適合性の観点から、ゼラチン及び/又はコラーゲンであることが好ましい。
【0061】
本発明のシーリング経編地は、良好なハンドリング性、すなわち、外科手術時の良好な縫合容易性を有する。具体的には、本発明のシーリング経編地は、埋植時の変形がないか又はほとんどなく、生地からのシーリング層は剥離せず、適度なたわみを有し、組織密着性が高い。また、本発明のシーリング経編地では、経編地のMD方向とTD方向の弾性率の差、即ち、異方性が適正である。異方性が大き過ぎる場合、生体内で経編地が伸長する際に方向によっては伸長を妨げる力が働くことがあり好ましくない。更に、本発明のシーリング経編地は、好適な耐水性を有し、組織への縫合の際、縫合針によって開いた針孔が塞がることで、針孔から漏れる血液等の液体が抑制される。
【0062】
[シーリング方法]
本発明に係る生地の封止(シーリング)方法について説明する。
シーリングは、生地をハイドロゲルに浸漬して行える他、生地にハイドロゲルを噴霧又は塗布する等の手段によって行うことができる。一例として、生地を、ハイドロゲルを含む溶液に浸漬し、所定の温度で冷却又は乾燥することによってハイドロゲルを被覆させることができる。処理温度は、約0℃〜約40℃であることが好ましく、約0℃〜約30℃であることがより好ましい。処理時間は、30分〜2時間程度である。
また、本発明のシーリング方法において、ハイドロゲルの架橋処理をしてもよい。架橋剤としては、当該分野で一般的に使用されているものを用いることができ、例えば、グルタールアルデヒド、グリオキザール等が挙げられる。架橋剤の濃度は、通常、約0.1〜約10重量%である。
【0063】
生地としては、トリコット、ダブルラッセル等の編物、平織、綾織等の織物など、特に制限されない。編物は経編、緯編のいずれでもよい。
【0064】
ハイドロゲルが例えばタンパク質である場合、生地に対するハイドロゲルの被覆量(面積あたりの固形分の質量)は、通常、1〜30mg/cmであり、1〜20mg/cmであることが好ましく、1〜10mg/cmであることがより好ましく、1.4〜6.0mg/cmであることが特に好ましい。生地目付(生地の単位面積あたりの重さ。単に「目付」ということがある。)は、通常、40〜100g/mであり、50〜80g/mであることが好ましく、50〜80g/mであることがより好ましい。また、後述する式(I)で表されるハイドロゲルの膨潤率は、一般に、400〜1200%であればよく、400〜1100%であることが好ましく、414〜1028%であることがより好ましい。
【0065】
本発明のシーリング生地において、良好な耐水性、針孔漏れ抑制及び手術時の良好なハンドリング性に関する特性は、目付、ハイドロゲルの被覆量、及び、ハイドロゲルの膨潤率を調整することで達成することができるに。好ましくは、本発明のシーリング生地は、シーリング条件:目付(g/m)(X)、ハイドロゲルの被覆量(mg/cm)(Y)、及びハイドロゲルの膨潤率(%)(Z)が、以下:
【0066】
【数2】
【0067】
の関係を満たすことが好ましい。
【0068】
ハイドロゲルの被覆量が1.4mg/cm未満では、十分な耐水性が得られず、6.0mg/cm超では、シーリング生地が変形する傾向がある。また、膨潤率が、414%未満ではシーリング生地と当該生地を適用する対象、例えば特定の生体組織、との密着性が十分でなく、1028%超ではシーリング層が生地から剥離することがある。
より好ましくは、本発明のシーリング生地は、直交座標系(X,Y,Z)(X,Y,Zは上で定義したとおりである)において、X、Y及びZの値が、以下の頂点:点A=(50,6,700)、点B=(50,6,800)、点C=(50,4,800)、点D=(50,4,700)、点E=(70,6.2,459)、点F=(70,6.2,965)、点G=(70,1.6,965)、点H=(70,1.6,459)、点I=(72,4.9,826)、点J=(72,4.9,1028)、点K=(72,1.7,1028)、点L=(72,1.7,826)を有する多面体の線状及びその内部領域の値を有するものである。
【0069】
さらに好ましくは、本発明のシーリング生地は、直交座標系(X,Y,Z)において、X、Y及びZの値が、以下の頂点:点A=(54,5.3,760)、点B=(70,6.2,459)、点C=(70,4.4,965)、点D=(70,1.6,552)、点E=(72,1.7,1028)、点F=(72,3.6,877)、及び点G=(72,4.9,826)を有する多面体の線状及びその内部領域の値を有するものである。
【0070】
本発明のシーリング生地は、例えば、医療材料、例えば生体内組織損傷に対する修復部材や補強部材として使用することができる。医療材料としては、心血管修復パッチ、ステント、バルーンカテーテル、ステントグラフト、人工血管、人工心臓弁、人工弁輪等が挙げられる。本発明のシーリング生地が医療材料として使用される場合には、生体内でハイドロゲルと生体組織との置換が良好に行われ、組織置換に際して膠原線維、平滑筋及び小血管の再生が行われる。更に、カルシウム沈着による石灰化も軽減される。
【0071】
本発明のシーリング生地はまた、上記シーリング経編地のように、良好な耐水性、ハンドリング性を有し、針孔漏れも抑制される。
【実施例】
【0072】
以下、実施例について説明するが、これに限定されない。
〈経編地の実施例〉
[経編地の作製]
経編地の作製においては、まず、生体吸収性材料からなる糸として、ポリ乳酸からなる糸(帝人、33T12)と、非生体吸収性材料からなる糸として、ポリエチレンテレフタレートからなる糸(東レ、33T12、タイプ262)とを整経機を用いて、使用幅の糸本数をビームに巻き取った。続いて、巻き取った糸を編機(トリコット機、32ゲージ、120コース)に仕掛けて糸道保持のセパレーターを通しガイド(筬)に入れた。
編機は4枚筬(GB1〜4)を使用し、編み上がった状態で無地編地になるように編み立てた。その際、筬(GB1、GB2)は、2枚で総詰め(FULL.SET)になるように糸を配列し、残り筬(GB3、GB4)も2枚で総詰め(FULL.SET)になるように配列した。その後、密度が36ウェール/inch、117コース/inchとなるように、得られた編地を120℃、1時間にて熱セットした。
以下に、作製した経編地(図10〜18)に対応させて、用いた配列、組織を表2に示し、その組織表を表3に示す。また、GB1、GB3に配列した糸は上記のポリエチレンテレフタレートからなる糸であり、GB2、GB4に配列した糸は上記のポリ乳酸からなる糸である。
【0073】
【表2】
【0074】
【表3】
【0075】
得られた経編地に対して、NaOH水溶液で生体吸収性材料からなる糸が消失するまで溶解処理を施した。生体吸収性材料からなる糸を消失させた生地を図10〜18に示す。なお、図10の(a)は、生地の図であり、図10の(b)がその一部の拡大図であり、図10の(c)が、生体吸収性材料を消失させた生地を経緯に広げた状態の図である。また、図11図18は、生体吸収性材料からなる糸を消失させた生地を経緯に広げた状態の図である。
【0076】
〈経編地の比較例〉
[比較例1]
以下の組織及び配列以外の条件は、実施例1に記載の経編地の作製方法と同じ方法で行った。
【0077】
【表4】
【0078】
[ポリ乳酸分解後経編地の二軸延伸]
[実施例10]
実施例1で得られた経編地を100mm×100mmに切出し、60℃の1M NaOH水溶液に2時間浸漬し、経編地のPLAを分解させ、超純水で洗浄、乾燥し、試験サンプルを調製した。次いで、60mm×60mmに切出し、二軸延伸機(東洋精機(株)製)にて、縦方向(MD)及び横方向(TD)に、長さ2倍まで、定速二軸同時引張試験を実施した。チャック間距離:45mm、速度:50mm/分、温度:37℃。
【0079】
[実施例11]
編機のコースを60コースに変えた以外は、実施例1と同様にして経編地を作製し、得られた経編地を用いて実施例10と同様にして試験サンプルを調製し、定速二軸同時引張試験を実施した。
【0080】
[実施例12]
編機のコースを90コースに変えた以外は、実施例1と同様にして経編地を作製し、得られた経編地を用いて実施例10と同様にして試験サンプルを調製し、定速二軸同時引張試験を実施した。
【0081】
[比較例2]
【0082】
比較例1で得られた経編地を使用する以外は、実施例10と同様にして試験サンプルを調製し、定速二軸同時引張試験を実施した。
【0083】
実施例10〜12及び比較例2に関する結果を表5、及び図19(a)〜(d)に示す。
【0084】
【表5】
【0085】
試験結果より、実施例10〜12の経編地は、1N未満の力で2倍の長さまで伸長させることができた。また、本発明の経編地は、2倍まで伸長させた際、目の広いメッシュ状の構造を維持していた。一方、比較例2の経編地では、約1.4倍まで延伸した際に10N以上の大きな力がかかり、経編地は破断してしまい、2倍まで伸長することができなかった。
【0086】
〈医療材料の実施例(1)〉
[医療材料の作製]
前述のようにして作製して得られた実施例1の経編地を、超音波処理により洗浄した。続いて、浸漬容器(株式会社フラット、フラットシャーレ、直径68mm)に、容器内に入るように円状にカットした経編地(直径約67mm)を置き、上方から円状の金枠を乗せ、経編地を固定した。この浸漬容器に、12%ゼラチン溶液(ニッピ製、メディゼラチン)を所定量添加し、経編地を浸漬した。
次に、この容器を4℃で30分冷却することでゼラチンを被覆させて、編地の目から液が透過しないよう封止した。その後、予め4℃で冷却していた3%濃度のグルタールアルデヒド液(東京化成、50%グルタールアルデヒド液)を4ml添加し、4℃で1h反応させてゼラチンを架橋させた。反応後、蒸留水で洗浄し、真空で一晩乾燥した。乾燥後、40%グリセリン水(健栄製薬株式会社、局方グレードグリセリン)10mLに20分浸漬して、ゼラチンを被覆した経編地からなる医療材料(以下、「シーリング経編地」ともいう)を得た。
【0087】
[医療材料の評価]
[ハイドロゲルの被覆量の測定]
ゼラチンを被覆する前の経編地の重量値と、被覆後の経編地の重量値の差分を測定することにより、ハイドロゲルの被覆量を測定した。
【0088】
[シーリング経編地の厚み測定]
マイクロメータ((株)ミツトヨ製、クイックマイクロMDQ−30M)を用いて、シーリング経編地1サンプルにつき5ヶ所の厚みを測定し、その平均値を算出した。
【0089】
[耐水性試験]
図21に示す漏れ試験機20を用いて測定を行った。
まず、シーリング経編地23に、シリコン系接着シール材(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ製、TSE392−W)でシーリング経編地23の周りを被覆して横から漏れないようにした。
次に、漏れ試験機20の容器部22の下面の直径20mmの下口部21に当接するように、このシーリング経編地23をセットし、容器部22内に蒸留水を充填して、上方から150mmHg(20kPa)に加圧した。そして、下口部21からシーリング経編地23を通過して下方に漏れた蒸留水を回収し、1分間に漏れ出す水の量を電子天秤24で測定した。なお、試験n数は3で行い、その平均を求めた。
【0090】
[針孔漏れ試験]
シーリング経編地の中央に縫合糸(エチコン、プロリーン6−0)を用いて人工皮膚(Pro(S)、日本ライトサービス(株)製)を5針縫合で縫い付けることで、針穴からの液体の漏れを試験するための試験片を作製した。この試験片を、上述した耐水性試験と同様にして、漏れ試験機にセットし、室温の擬似血液(山科精器(株))を用いて、上方から150mmHg(20kPa)に加圧することにより、シーリング経編地23を通過して1分間に漏れ出す擬似血液の量を測定した。試験n数は3で行い、その平均を求めた。
【0091】
[シーリング経編地の光学顕微鏡写真]
シーリング経編地を所定の大きさに切り出し、2.5%グルタールアルデヒドにて4℃、2時間で前固定した。その後、0.1Mリン酸緩衝液で2時間洗浄後、1%四酸化オスミウムで4℃、2時間で後固定した。その後、50%エタノールで10分間脱水、70%エタノールで20分間脱水、80%エタノールで20分間脱水、90%エタノールで30分間脱水、95%エタノールで30分間脱水、100%エタノールで30分間脱水を順次行った。次に、得られたシーリング経編地をn−ブチルグリシジルエーテル(QY−1、新EM社)で30分間置換後、QY−1:エポキシ樹脂(Epon812 resin)=1:1で30分間置換、QY−1:エポキシ樹脂=1:2で30分間置換、QY−1:エポキシ樹脂=1:3で30分間置換を順次行い、エポキシ樹脂で一晩置換した後、60℃で硬化させた。硬化させたサンプルを、ウルトラミクロトームで1μm厚の切片を作製し、トルイジンブルーにて染色を行い、キーエンス社デジタルマイクロスコープで、上面及び断面を観察及び撮影を行った。
【0092】
[実施例13]
12%ゼラチン溶液の添加量を1.0mlとして、上記方法にてゼラチンシーリング経編地を作製した。得られたシーリング経編地のゼラチンの被覆量は3.59mg/cmであり、被覆後の厚みは0.22μmであった。得られたシーリング経編地の顕微鏡写真を撮影したところ、図23の通り、糸の表面及び糸の間にゼラチンが付着していた。耐水性試験に供したところ、漏れ出た水は確認されず(0g/min)、針孔漏れ試験では、漏れ出た擬似血液は0.1g/minであり、評価結果は良好であった。
【0093】
[実施例14]
12%ゼラチン溶液の添加量を2.0mlとして、上記方法にてゼラチンシーリング経編地を作製した。得られたシーリング経編地のゼラチンの被覆量は4.93mg/cmであり、被覆後の厚みは0.24μmであった。得られたシーリング経編地の顕微鏡写真を撮影したところ、図24の通り、糸の表面及び糸の間にゼラチンが付着していた。耐水性試験に供したところ、漏れ出た擬似血液は確認されず(0g/min)、針孔漏れ試験では、漏れ出た擬似血液は0.04g/minであり、評価結果は良好であった。
【0094】
[実施例15]
12%ゼラチン溶液の添加量を3.0mlとして、上記方法にてゼラチンシーリング経編地を作製した。得られたシーリング経編地のゼラチンの被覆量は6.34mg/cmであり、被覆後の厚みは0.35μmであった。得られたシーリング経編地の顕微鏡写真を撮影したところ、図25に示すように、糸の表面及び糸の間にゼラチンが付着していた。耐水性試験に供したところ、漏れ出た水は確認されず(0g/min)、針孔漏れ試験では、漏れ出た擬似血液は0.05g/minであり、評価結果は良好であった。
【0095】
[実施例16]
12%ゼラチン溶液の添加量を0.5mlとして、上記方法にてゼラチンシーリング経編地を作製した。得られたシーリング経編地のゼラチンの被覆量は1.86mg/cmであり、被覆後の厚みは0.20μmであった。耐水性試験に供したところ、漏れ出た水量は4.2g/minであった。針孔漏れ試験では、漏れ出た擬似血液は比較的多かったが、750g/min以下であった。
【0096】
〈医療材料の比較例〉
[比較例3]
ゼラチンを被覆していない経編地を耐水性試験及び針孔漏れ試験に供したところ、殆ど時間を要することなく擬似血液が漏れ出し、留出速度はいずれも1000g/min以上であった。
以上の医療材料の評価結果を表6に示す。
【0097】
【表6】
【0098】
〈イヌを用いた埋植試験の実施例〉
イヌの下大静脈血管壁及び下行大動脈血管壁への埋植による評価は、以下の通り行った。
[埋植に用いたシーリング経編地]
下大静脈血管壁に埋植したシーリング経編地は、以下の条件を有するものを、実施例1の方法及び[医療材料の作製]に記載の方法に準じて作製した。
・生体吸収性材料からなる糸:ポリ乳酸からなる糸(帝人、33T1)
・非生体吸収性材料からなる糸:ポリエチレンテレフタレートからなる糸(東レ、33T12、タイプ262)
・編機仕掛け条件:32ゲージ、130コース
・密度(熱セット後):35ウェール/inch、127コース/inch
・組織:14cアトラス
・配列:3in、3out
・ゼラチン添加量:36.0ml
・ゼラチン被覆量:3.3mg/cm
また、下行大動脈血管壁へ埋植したシーリング経編地は、以下の条件を有するものを、経編地の表面と裏面にゼラチンが均一に被覆されるように留意しながら、実施例1の方法及び[医療材料の作製]に記載の方法に準じて作製した。
・生体吸収性材料からなる糸:ポリ乳酸からなる糸(帝人、33T12)
・非生体吸収性材料からなる糸:ポリエチレンテレフタレートからなる糸(東レ、33T12、タイプ262)
・編機仕掛け条件:32ゲージ、120コース
・密度(熱セット後):36ウェール/inch、117コース/inch
・組織:14cアトラス
・配列:3in、3out
・ゼラチン添加量:1.2ml
・ゼラチン被覆量:3.82mg/cm
[麻酔方法]
試験に供するイヌに対して、チアミラールナトリウム(イソゾール、日医工株式会社)22.5mg/kgを静脈内投与(投与用量は導入時の麻酔深度により適宜増減する)により導入麻酔した。また、脱水予防のため、橈側皮静脈から生理食塩水を点滴投与した。気管カテーテルを気道に挿管し、アコマ動物用人工呼吸器により人工呼吸(呼吸回15strokes/min、Tidal volume20mL/kg/strokeを目安)を行った。アコマ動物用麻酔器により混合ガス(Air:O=3:0.2を目安)と0.5〜3%イソフルラン(フォーレン吸入麻酔液、アッヴィ合同会社)の吸入により持続麻酔した。
[下大静脈血管壁への埋植]
上記方法により麻酔したイヌ(ビーグル、4カ月齢、埋植時体重6.7kg、有限会社浜口動物)を左側臥位に保定し、右胸部を毛刈りし、ヨード液で消毒した後、第4−5肋間の胸部側壁を開胸した。下大静脈の血管を20mm切開にし、拡げた状態で上記方法により作製したシーリング経編地(大きさ:縦23mm×横8mmの楕円)を血管壁に全周的に縫合し、埋植した。
[下行大動脈血管壁への埋植]
上記方法により麻酔したイヌ(ビーグル、20カ月齢、埋植時体重8.9kg、有限会社浜口動物)を右側臥位に保定し、左胸部を毛刈りし、ヨード液で消毒した後、第4−5肋間の胸部側壁を開胸した。続いて、大動脈弓部を確認し、下行大動脈を剥離した。下行大動脈に対して埋植を行う部位を確定し、斯かる埋植部位を挟んだバイパスを作製するため、ヘパリンを400IU/animal静脈内投与した。埋植部の近遠位側に設置したたばこ嚢縫合の中心部をメスで切開し、切開部にカテーテルを挿入し、二つのカテーテルを接続しバイパスを開通した後、埋植部位近遠位の血管を遮断した。両遮断間の下行大動脈の血管を20mm切開にし、縦20mm、横12mmの大きさで血管壁を切り抜き、上記方法で作製したシーリング経編地(大きさ:縦20mm×横12mmの楕円)をその部分に全周的に縫合し、埋植した。その後、埋植部血管の遮断を解除し、プロタミン硫酸塩を4mg/animal(10mg/mL濃度を0.4mL/animal)静脈内投与した。埋植部位から血液が漏れ出た場合は、追加縫合、ガーゼ圧迫、又はタコシールを貼付し止血した。バイパス用のカテーテルを取り除き、たばこ嚢縫合し、血液が漏れ出ないことを確認した。埋植部位及びたばこ嚢縫合から血液が漏れ出ないことを確認後、胸腔内にカニューレを挿入し閉胸した。胸腔ドレナージを実施した後、カテーテルを抜去し、閉創した。止血後にドレーンを挿入し閉胸した。術後の疼痛対策として、手術終了後、覚醒前に酒石酸ブトルファノール(ベトファール、Meiji Seikaファルマ)を0.1mg/kgの用量で筋肉内に投与した。
[組織摘出及び標本作製]
術後所定期間経過後に、試験に供したイヌを過剰麻酔により安楽死させた。続いて、本シーリング経編地を埋植した部位の血管組織を摘出し長軸方向に切り開いた血管を、4%パラホルムアルデヒド溶液により組織固定した後、冷蔵保存した。得られた組織切片は、エチルアルコールを用いて脱水した後、中間剤としてキシレンを経由してパラフィンを組織内に浸透させて作製したパラフィン包埋ブロックより厚さ約4〜5μmの薄切標本を作製し、Hematoxylin & Eosin(HE)(ヘマトキシリン・エオシン)染色、Alizarin red(AR)(アリザリンレッド)染色、さらにvon Willebrand factor(vWF)(ヴォン・ヴィレブランド因子)及びAlpha-smooth muscle actin(αSMA)(α平滑筋アクチン)に対する免疫染色を行った。
[免疫染色]
免疫染色の一次抗体にはAnti-vWF rabbit polyclonal 抗体(DAKO Cytomation A/S, Glostrup, Denmark)を1:2500に、Anti-SMA mouse monoclonal抗体(clone 1A4, DAKO)を1:500にそれぞれ希釈して4℃で一晩反応させた。二次抗体としてvWFにはHRP標識anti-rabbit IgG goat polyclonal抗体を、SMAにはHRP標識anti-mouse IgG goat polyclonal抗体(いずれもNichirei, Tokyo, Japan)をそれぞれ反応させ、生じた抗原抗体反応物を3-3’ diaminobenzidine(DAB)によって茶褐色に呈色させて可視化し、Hematoxylinで対比染色した。
[画像取得]
顕微鏡画像は、蛍光顕微鏡(BX53、オリンパス株式会社)を用いて、顕微鏡用デジタルカメラ(DP73、オリンパス株式会社)にて撮影して取得した。
【0099】
[実施例17](下大静脈血管壁への埋植試験)
上記の通り作製したシーリング経編地を用いて、上記方法にて下大静脈血管壁に対して埋植を行ったところ、シーリング経編地を充てた部分からの血液の漏出や血管の破裂は認められなかった。
術後6ヵ月後にイヌを安楽死させ、上記方法により、シーリング経編地を埋植した部分の血管について標本作製し、撮影した写真を図26に示す。また、上記方法にて染色した組織切片の、縫合部付近のヘマトキシリン・エオシン(HE)染色を図27及び図28に、アリザリンレッド(AR)染色の顕微鏡写真を図29に示す。さらに、α平滑筋アクチン(αSMA)染色による顕微鏡写真を図30に、ヴォン・ヴィレブランド因子(vWF)染色による顕微鏡写真を図31に示す。
図26より、術後6ヶ月においてシーリング経編地の埋植部の縁が不明瞭になっていたことから、内膜が良好に再生していることが確認された。また、図27及び図28より、埋植部におけるシーリング経編地のゼラチンが消失し、自己組織が再生することによって、再生した自己組織とゼラチンとが置換すると共に、経編地の表と裏で組織がブリッジングしていることが確認された。また、図29より、細胞死の結果として生じ得るカルシウム沈着は確認されなかったことから、本発明のシーリング経編地は、医療材料異物反応による石灰化を引き起こさない程度に生体適合性が高い医療材料であることが示唆された。さらに、図30より、組織内に平滑筋アクチン繊維が確認されたことから、良好な組織が再生していることが確認された。また、図31より、経編地のフィラメント間の組織中に血管組織が確認されたことから、新生組織は長期的に生着し、偽性内膜のように剥がれ落ちることはないことが予想された。
【0100】
[実施例18](下行大動脈血管壁への埋植試験)
上記の通り作製したシーリング経編地を用いて、上記方法にて下行大動脈血管壁に対して埋植を行ったところ、シーリング経編地を充てた部分からの血液の漏出や血管の破裂は認められなかった。
術後3ヵ月後にイヌを安楽死させ、上記方法により、シーリング経編地を埋植した部分の血管について標本作製し、撮影した写真を図32に示す。また、上記方法にて染色した組織切片の、縫合部付近のヘマトキシリン・エオシン(HE)染色の顕微鏡写真を図33及び図34に、アリザリンレッド(AR)染色の顕微鏡写真を図35に示す。また、α平滑筋アクチン(αSMA)染色の顕微鏡写真を図36に示す。
図32より、術後3ヶ月においても、シーリング経編地の埋植部に良好な内膜が再生していることが確認された。また、図33及び図34より、埋植部で自己組織が再生しており、組織のブリッジングが確認された。また、図35より、カルシウム沈着は確認されなかったことから、本シーリング経編地は、医療材料異物反応や材料内での細胞死による石灰化を引き起こさない程度に生体適合性が高い医療材料であることが示唆された。さらに、図36より、組織内に平滑筋アクチン繊維が確認されたことから、良好な組織が再生していることが示唆された。同様に、術後6ヵ月後にイヌを安楽死させ、埋植部の組織の状態を観察したところ、血管の狭窄は起きておらず、また、術後3カ月のように良好な組織が再生及び維持されていた。
【0101】
〈イヌを用いた埋植試験の比較例〉
イヌの下大静脈血管壁に対してウシ心のう膜パッチを埋植した試験の評価は、以下の通り行った。その際、埋植以外の麻酔方法、標本作製、免疫染色、画像取得については、実施例18と同様にして行った。
[ウシ心のう膜パッチの下大静脈血管壁への埋植]
イヌ(ビーグル、埋植時体重10.7kg、有限会社浜口動物)の下大静脈の血管を楕円形(長軸2cm×短軸1.5cm)に取り除き、ここに市販のウシ心のう膜パッチ[(大きさ:縦25mm×横15mmの楕円、品番:4700、エドワーズライフサイエンス(株)]を埋植した。
【0102】
[比較例4]
上記の通り、イヌの下大静脈血管壁に対してウシ心のう膜パッチを埋植したところ、ウシ心のう膜パッチを埋植した部位からの血液の漏出や血管の破裂は認められなかった。
術後6ヵ月後に安楽死させ、上記方法により、ウシ心のう膜を充てた部分の血管を取り出し、ウシ心のう膜を充てた部分の血管を縦に開いた状態の写真を図37に示す。また、上記方法にて染色した組織切片の、縫合部付近のヘマトキシリン・エオシン(HE)染色の顕微鏡写真を図38及び39に、アリザリンレッド(AR)染色の顕微鏡写真を図40に、α平滑筋アクチン(αSMA)染色の顕微鏡写真を図41に、ヴォン・ヴィレブランド因子(vWF)染色の顕微鏡写真を図42に示す。
図37より、術後6ヶ月においてもウシ心のうパッチの埋植辺縁が確認されたことから、内膜が十分に再生されていないことが示唆された。また、図38より、埋植部が内膜に比して肥厚していた。血管内膜が肥厚している場合、血管が狭窄し、以遠の血行障害が出る可能性がある。また、図39より、ウシ心のう膜の内部には新生組織が確認されなかった。また、図40より、埋植辺縁部付近にカルシウム沈着が確認されたことから、異物反応の発生が示唆された。さらに、図41より、新生された膠原線維及び筋原線維層は、層状になっておらず不規則であったこと、また、図42より、経編地のフィラメント間の組織中に血管組織が確認されなかったことから、実施例17及び18と比較して良好ではない組織であることが確認された。
【0103】
〈医療材料の実施例(2)〉
[医療材料の作製]
以下の実施例にしたがって、ゼラチンを被覆した経編地からなるシーリング経編地を得た。
【0104】
[医療材料の評価]
[膨潤率]
シーリング経編地を十分に乾燥した後、30mm×30mmにサンプルを切り出し初期重量を測定しこの重量をM1(mg)とする。次に、この経編地をボトルに入れ、超純水100mlを加え、サンプルを24h浸漬静置した。24時間後にサンプルを取り出し、キムワイプで挟み表面の水分を除去し、重量を測定した。この時の重量をM2(mg)とする。
下記式(I)に従い、ハイドロゲル部の膨潤率(%)を算出した。
【0105】
【数3】
【0106】
[針孔漏れ試験]
シーリング経編地の中央に縫合糸(エチコン、プロリーン6−0)を1針通した状態で、漏れ試験機に取付け、
加圧下で1分間あたりに検体を透過する水の量を測定した。試験n数は3で行い、その平均を求めた。
【0107】
[たわみ]
「JIS L1096:2010 織物及び編物の生地試験方法 8.21 剛軟度測定」を参考にして、サンプル台にサンプルをセットした。この後サンプルが重力により垂れさがる時の水平面からのδの値をたわみとした。
【0108】
[力学試験関連]
弾性率、引張強度、及び伸度は、小型卓上試験機(島津製作所製、EZ-SX)を用いて引張試験を行い測定した。
【0109】
なお、ハイドロゲルの被覆量の測定、シーリング経編地の厚み測定、及び耐水性試験は、前述の方法によって行った。
【0110】
[実施例19]
上記実施例1で得られた経編地を超音波処理により洗浄した。続いて、浸漬容器(角型ディッシュ、Grainer製、120mm×120mm)に入るようにカットした経編地を置き、上方から円状の金枠を乗せ、経編地を固定した。この浸漬容器に10%ゼラチン溶液(ニッピ製、メディゼラチン)を5.4ml添加し、経編地を浸漬した。
次に、この容器を室温で2時間静置することでゼラチンを被覆させて、編地の目から液が透過しないよう封止した。その後、予め4℃で冷却していた0.4%濃度のグルタールアルデヒド液(東京化成、50%グルタールアルデヒド液)を6.4ml添加し、室温で1h反応させてゼラチンを架橋させた。反応後、蒸留水で洗浄し、真空一晩乾燥した。乾燥後、40%グリセリン水(健栄製薬株式会社、局方グレードグリセリン)15mLに30分浸漬して、ゼラチンを被覆した経編地からなる医療材料を得た。
【0111】
[実施例20]
上記実施例19の10%ゼラチン溶液を4.3mlとし、ゼラチンの被覆量を変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。
【0112】
[実施例21]
上記実施例19の10%ゼラチン溶液を2.9mlとし、ゼラチンの被覆量を変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。
【0113】
[実施例22]
上記実施例19の10%ゼラチン溶液を7.2mlとし、ゼラチンの被覆量を変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。
【0114】
[実施例23]
上記実施例19のゼラチン溶液の濃度を13%ゼラチン溶液とし、3.3ml添加した以外は同様な手法によりサンプルを得た。
【0115】
[実施例24]
上記実施例19の10%ゼラチン溶液を用いて、グルタールアルデヒド液の濃度を0.1%に変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。
【0116】
[実施例25]
上記実施例19の10%ゼラチン溶液を5.4mlとし、ゼラチンの被覆量を変更し、グルタールアルデヒド液の濃度を10%に変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。
【0117】
[実施例26]
上記実施例19の10%ゼラチン溶液を7・2mlとし、ゼラチンの被覆量を変更し、グルタールアルデヒド液の濃度を0.1%に変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。
【0118】
[実施例27]
上記実施例19の10%ゼラチン溶液を7・2mlとし、ゼラチンの被覆量を変更し、グルタールアルデヒド液の濃度を10%に変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。
【0119】
[実施例28]
上記実施例19の経編地を32ゲージ、100コースに変更し、10%ゼラチン溶液を2.9mlに変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。
【0120】
[実施例29]
上記実施例28の10%ゼラチン溶液を5.4mlとし、ゼラチンの被覆量を変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。
【0121】
[実施例30]
上記実施例28の10%ゼラチン溶液を7.2mlとし、ゼラチンの被覆量を変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。
【0122】
[実施例31]
上記実施例28の経編地を32ゲージ、60コースに変更し、10%ゼラチン溶液を7.2mlに変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。
【0123】
[実施例32]
上記実施例19の10%ゼラチン溶液を1.8mlとし、ゼラチンの被覆量を変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。このサンプルの針孔漏れ試験では、3.0g/分とやや多い留出量であった。
【0124】
[実施例33]
上記実施例19の10%ゼラチン溶液を9.0mlとし、ゼラチンの被覆量を変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。このサンプルの漏水試験、針孔漏れ試験では、液体の漏れは観察されなかったものの、吸水するとサンプルが大きく変形した。このように大きな変形が手術時に起こると、縫合が難しくなる。
【0125】
[実施例34]
上記実施例19の10%ゼラチン溶液を1.0mlとし、ゼラチンの被覆量を変更し、グルタールアルデヒド液の濃度を0.05%に変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。このサンプルを37℃の超純水に浸漬すると、経編地からゼラチンコーティング層が膨潤し、一部剥離した。
【0126】
[実施例35]
上記実施例31のゼラチン濃度を13%ゼラチン溶液に変更し、13%ゼラチン溶液を7.2mlに変更し、グルタールアルデヒド液の濃度を3.0%に変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。このサンプルの針孔漏れ試験では、2.0g/minとやや多い留出量であった。
【0127】
[実施例36]
上記実施例28の経編地を32ゲージ、60コースに変更し、10%ゼラチン溶液を2.9mlに変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。このサンプルは、耐水性及び針孔漏れの点で他と比べてやや劣っていた。
【0128】
[実施例37]
上記実施例28の経編地を32ゲージ、60コースに変更し、10%ゼラチン溶液を10.8mlに変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。このサンプルの針孔漏れ試験では、2.4g/minと留出量がやや多く、吸水後のサンプルは変形した。
【0129】
[実施例38]
上記実施例37の経編地を32ゲージ、100コースに変更し、10%ゼラチン溶液を1.45mlに変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。このサンプルの針孔漏れ試験では、5.3g/minとやや多い留出量であった。
【0130】
[実施例39]
上記実施例37の経編地を32ゲージ、100コースに変更し、10%ゼラチン溶液を10.8mlとし、ゼラチンシーリング量を変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。このサンプルは、実施例32と同様に吸水後のサンプルは変形した。
【0131】
[実施例40]
上記実施例19の10%ゼラチン溶液を5.4mlとし、ゼラチンの被覆量を変更し、グルタールアルデヒド液の濃度を50%に変更した以外は同様な手法によりサンプルを得た。このサンプルは、架橋度が高いため組織密着性が劣り、針孔漏れも見られた。
【0132】
[実施例41]
36ゲージ、120コースの経編地は、「JIS L1096:2010 織物及び編物の生地試験方法 8.21 剛軟度測定」に従い測定した。その結果、当該経編地のMD方向の剛軟度は3.6(mN/cm)であり、実施例16で使用した32ゲージ、90コースの経編地は0.7(mN/cm)と比べて硬い経編地であった。
【0133】
[実施例42]
32ゲージ、120コースの経編地のMD方向とTD方向の弾性率を実施例40と同様に測定した。その結果、それぞれ5.1N/mmと20.9N/mmであり、異方性がやや大きかった。
【0134】
以上の結果を表7に纏める。表中の総合評価○又は△については、○は、耐水性、針孔漏れ及びハンドリング性の点から問題なく良好であることを意味し,△はハンドリング性等の点から評価○よりやや劣ることを意味する。また、ハイフン「−」はデータを取得していないことを意味する。
【0135】
【表7-1】
【表7-2】
【0136】
図43に、実施例のシーリング条件(目付、ゼラチン被覆量)をプロットする。
図44に、実施例19〜27並びに実施例32〜34及び40のシーリング条件(90コース、目付70g/mの場合の、ゼラチン被覆量、膨潤率)をプロットする。図44において、座標点(459(膨潤率),6.2(ゼラチン被覆量))は、実施例26における座標点(858(膨潤率),4.8(ゼラチン被覆量))と実施例27における座標点(517(膨潤率),6.0(ゼラチン被覆量)とを結んだ直線y=−0.0035x+7.799と、実施例21における座標点(552(膨潤率),1.6(ゼラチン被覆量))と実施例25における座標点(485(膨潤率),4.9(ゼラチン被覆量)とを結んだ直線y=−0.0496x+28.973とによって得られる外挿値である。また、図44において、座標点(965(膨潤率),4.4(ゼラチン被覆量))は、上記直線y=−0.0035x+7.799と、実施例21における座標点(552(膨潤率),1.6(ゼラチン被覆量))と実施例24における座標点(898(膨潤率),3.98(ゼラチン被覆量)とを結んだ直線y=0.0068x−2.1451とによって得られる外挿値である。
図45に、実施例28〜30及び実施例38〜39のシーリング条件(100コース、目付72g/mの場合の、ゼラチン被覆量、膨潤率)をプロットする。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明の経編地は、血管、心臓弁、心膜、硬膜、軟骨、皮膚、粘膜、靭帯、腱、筋肉、気管、腹膜等の生体内組織損傷や欠損、狭窄に対する修復材や補強部材等に好適に用いることができる。これらの中でも、心室中隔欠損症、ファロー四徴症、肺動脈狭窄症、単心室症等を含む先天性心疾患に対する外科手術において、心血管組織を修復する心臓パッチとして好適に用いられる。
【符号の説明】
【0138】
1,1a,1b,1c・・・第1ループ列
2,2a,2a1,2a2,2b,2c・・・第2ループ列
10,11,12,13・・・経編地
20・・・漏れ試験機
21・・・下口部
22・・・容器部
23・・・シーリング経編地
24・・・電子天秤
図1(a)】
図1(b)】
図2
図3(a)】
図3(b)】
図4(a)】
図4(b)】
図5
図6(a)】
図6(b)】
図7(a)】
図7(b)】
図8(a)】
図8(b)】
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20(a)】
図20(b)】
図20(c)】
図20(d)】
図21
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図23
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図25
図26
図27
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図40
図41
図42
図43
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図45