(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0031】
<1.第1実施形態>
図1は、本発明に係る複合膜の製造装置1の全体概略構成を示す斜視図である。また、
図2は、
図1の製造装置1の側面図である。この複合膜の製造装置1は、帯状の薄膜である電解質膜2の表面に電極インク(電極ペースト)を塗工し、その電極インクを乾燥させて電解質膜2上に機能層として触媒層(電極)を形成して固体高分子形燃料電池用の膜・電極接合体5を製造する装置である。なお、
図1および以降の各図には、それらの方向関係を明確にするためZ軸方向を鉛直方向とし、XY平面を水平面とするXYZ直交座標系を適宜付している。また、
図1および以降の各図においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数を誇張または簡略化して描いている。
【0032】
製造装置1は、主たる要素として、電解質膜2からバックシート6を剥離する剥離部10と、電解質膜2を吸着支持して搬送する吸着ローラ20と、電解質膜2の表面に電極インクを塗工する塗工ノズル30と、塗工された電極インクを加熱して乾燥させる乾燥炉40と、乾燥工程を経た電解質膜2に支持フィルムを貼り合わせる貼付部50と、を備える。
【0033】
剥離部10は第1プレスローラ11を備える。また、製造装置1は、電解質膜巻出ローラ12、補助ローラ13およびバックシート巻取ローラ14を備える。電解質膜巻出ローラ12は、バックシート6付きの電解質膜2が巻回されており、そのバックシート6付きの電解質膜2を連続的に送り出す。
【0034】
電解質膜2としては、従来より固体高分子形燃料電池の膜・電極接合体用途に用いられているフッ素系や炭化水素系などの高分子電解質膜を使用することができる。例えば、電解質膜2として、パーフルオロカーボンスルホン酸を含む高分子電解質膜(例えば、米国DuPont社製のNafion(登録商標)、旭硝子(株)製のFlemion(登録商標)、旭化成(株)製のAciplex(登録商標)、ゴア(Gore)社製のGoreselect(登録商標)など)を使用することができる。
【0035】
上記の電解質膜2は、非常に薄くて機械的強度が弱く、大気中の少量の湿気によっても容易に膨潤する一方で湿度が低くなると収縮する特性を有しており、極めて変形しやすい。このため、電解質膜巻出ローラ12には、電解質膜2の変形を防止するために初期状態としてバックシート6付きの電解質膜2が巻回されている。バックシート6としては、機械的な強度に富んで形状保持機能に優れた樹脂材料、例えばPEN(ポリエチレンナフタレート)やPET(ポリエチレンテレフタレート)のフィルムを用いることができる。
【0036】
電解質膜巻出ローラ12に巻回された初期状態のバックシート6付き電解質膜2において、電解質膜2の膜厚は5μm〜30μmであり、幅は最大で300mm程度である。また、バックシート6の膜厚は25μm〜100μmであり、その幅は電解質膜2の幅と同等かそれより若干大きい。第1実施形態では、電解質膜2の第1面にバックシート6が貼り合わされている。
【0037】
電解質膜巻出ローラ12から送り出されたバックシート6付きの電解質膜2は、補助ローラ13に懸架され、第1プレスローラ11によって吸着ローラ20に押し付けられる。第1プレスローラ11は、図示を省略するシリンダーによって吸着ローラ20の外周面から所定の間隔を隔てた位置に近接支持されている。第1プレスローラ11と吸着ローラ20の外周面との間隔は、バックシート6付き電解質膜2の厚さよりも小さい。従って、バックシート6付き電解質膜2が第1プレスローラ11と吸着ローラ20との間を通過するときに、電解質膜2の第2面が吸着ローラ20に押し付けられる。第1プレスローラ11がバックシート6付き電解質膜2を吸着ローラ20に押し付ける力は、上記のシリンダーによって第1プレスローラ11と吸着ローラ20との間隔を調整することによって制御される。
【0038】
第1プレスローラ11が電解質膜2の第2面を吸着ローラ20に押し付けることによって、電解質膜2は吸着ローラ20の外周面に吸着される。このとき、バックシート6は電解質膜2の第1面から剥離され、バックシート巻取ローラ14に巻き取られる。すなわち、剥離部10の第1プレスローラ11は、バックシート6付きの電解質膜2からバックシート6を剥離するとともに、電解質膜2を吸着ローラ20に押し付けて吸着させる役割を担っている。バックシート巻取ローラ14は、図示省略のモータによって連続的に回転されることにより、バックシート6を連続的に巻き取るとともに、電解質膜巻出ローラ12から補助ローラ13を経て第1プレスローラ11に至るバックシート6付き電解質膜2に一定の張力を与える。
【0039】
吸着ローラ20は、中心軸がY軸方向に沿うように設置された円柱形状の部材である。吸着ローラ20の大きさは、例えば、高さ(Y軸方向の長さ)が400mmであり、直径が400mm〜1600mmである。吸着ローラ20は、図示省略のモータによってY軸方向に沿った中心軸を回転中心として
図2中矢印AR2に示す向きに回転される。
【0040】
吸着ローラ20は、多孔質カーボンまたは多孔質セラミックスにて形成された多孔質ローラである。多孔質セラミックスとしては、例えばアルミナ(Al
2O
3)または炭化ケイ素(SiC)の焼結体を用いることができる。多孔質の吸着ローラ20における気孔径は5μm以下であり、気孔率は15%〜50%の範囲内である。また、吸着ローラ20の外周面(円柱の周面)の表面粗さは、Rz(最大高さ)が5μm以下であり、この値は小さいほど好ましい。さらに、回転時の吸着ローラ20の全振れ(回転軸から外周面までの距離の変動)は10μm以下とされている。
【0041】
図3は、吸着ローラ20および乾燥炉40の構成を示す図である。吸着ローラ20の上面および/または底面には吸引口21が設けられている。吸引口21は、図外の吸引機構(例えば、排気ポンプ)によって吸引されて負圧が与えられる。吸着ローラ20は、気孔率が15%〜50%の多孔質であるため、吸引口21に負圧が付与されると、内部の気孔を介して吸着ローラ20の外周面にも所定値の負圧(周辺雰囲気から外周面に吸引する圧力)が均一に作用することとなる。例えば、本実施形態では、吸引口21に90kPa以上の負圧が付与されることによって、吸着ローラ20の外周面には10kPa以上の負圧が均一に作用することとなる。これにより、吸着ローラ20は、電解質膜2を幅方向(Y軸方向)の全域にわたって均等に吸着することができる。
【0042】
また、吸着ローラ20には、複数の水冷管22が設けられている。水冷管22は、吸着ローラ20の内部を巡るように均一な配設密度にて設けられている。水冷管22には図外の給水機構から所定温度に温調された恒温水が供給される。水冷管22の内部を流れた恒温水は図外の排液機構へと排出される。水冷管22に恒温水を流すことによって、吸着ローラ20は冷却されることとなる。
【0043】
図1,2に戻り、吸着ローラ20の外周面に対向して塗工ノズル30が設けられている。塗工ノズル30は、吸着ローラ20による電解質膜2の搬送方向において、第1プレスローラ11よりも下流側に設けられている。塗工ノズル30は、先端((+X)側の端部)にスリット状の吐出口を備えたスリットノズルである。そのスリット状の吐出口の長手方向はY軸方向である。塗工ノズル30は、スリット状の吐出口が吸着ローラ20の外周面から所定間隔を隔てる位置に設けられている。また、塗工ノズル30は、図示しない駆動機構によって吸着ローラ20に対する位置および姿勢が調整可能に設けられている。
【0044】
塗工ノズル30には、塗工液供給機構35から塗工液として電極インクが供給される。本実施形態で使用される電極インクは、例えば、触媒粒子、イオン伝導性電解質および分散媒を含有する。触媒粒子としては、公知または市販のものを使用することができ、高分子形燃料電池のアノードまたはカソードにおける燃料電池反応を起こさせるものであれば特に限定されず、例えば白金(Pt)、白金合金、白金化合物等を用いることができる。このうち白金合金としては、例えば、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、モリブデン(Mo)、イリジウム(Ir)、鉄(Fe)等からなる群から選択された少なくとも1種の金属と白金との合金を挙げることができる。一般的には、カソード用の電極インクの触媒粒子には白金、アノード用の電極インクの触媒粒子には上述の白金合金が用いられる。
【0045】
また、触媒粒子は、触媒微粒子が炭素粉に担持された、いわゆる触媒担持炭素粉であっても良い。触媒担持炭素の平均粒子径は、通常10nm〜100nm程度、好ましくは20nm〜80nm程度、最も好ましくは40nm〜50nm程度である。触媒微粒子を担持する炭素粉は特に制限されるものではなく、例えば、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、ランプブラック等のカーボンブラック、黒鉛、活性炭、カーボン繊維、カーボンナノチューブ等が挙げられる。これらは、1種単独で使用しても良いし、2種以上併用しても良い。
【0046】
上記のような触媒粒子に溶媒を加えてスリットノズルから塗布可能なペーストとする。溶媒としては、水、エタノール、n−プロパノールおよびn−ブタノールなどのアルコール系、並びに、エーテル系、エステル系およびフッ素系などの有機溶剤を用いることができる。
【0047】
さらに、溶媒中に触媒粒子を分散させた溶液にイオン交換基を有する高分子電解質溶液を加える。一例として、白金を50wt%担持したカーボンブラック(田中貴金属工業(株)製の「TEC10E50E」)を水、エタノール、プロピレングリコールおよび高分子電解質溶液(米国DuPont社製のNafion液「D2020」)に分散させて電極インクを得ることができる。このようにして混合されたペーストを電極インクとして塗工液供給機構35から塗工ノズル30に供給する。
【0048】
塗工液供給機構35は、上述の如き電極インクを貯留するタンク、当該タンクと塗工ノズル30とを連通接続する供給配管、および、当該供給配管に設けられた開閉バルブなどを有する。塗工液供給機構35は、開閉バルブを開放し続けることによって塗工ノズル30に連続して電極インクを供給することも可能であるし、開閉バルブを繰り返し開閉することによって塗工ノズル30に断続的に電極インクを供給することも可能である。
【0049】
塗工液供給機構35から供給された電極インクは、吸着ローラ20に吸着支持されて搬送される電解質膜2の第1面に塗工ノズル30から塗工される。塗工液供給機構35が連続して電極インクを供給する場合には電解質膜2に電極インクが連続的に塗工され、断続的に電極インクを供給する場合には電解質膜2に電極インクが間欠塗工される。
【0050】
乾燥炉40は、吸着ローラ20の外周面の一部を覆うように設けられている。
図3に示すように、乾燥炉40は、3つの乾燥ゾーン41,42,43、および、2つの熱遮断ゾーン44,45の合計5つのゾーンに分割されている。3つの乾燥ゾーン41,42,43のそれぞれは、図外の熱風送風部からの熱風送風により、吸着ローラ20の外周面に向けて熱風を吹き付ける。乾燥炉40からの熱風の吹き付けによって、電解質膜2の第1面に塗工された電極インクが乾燥される。
【0051】
3つの乾燥ゾーン41,42,43は、吹き付ける熱風の温度が異なる。3つの乾燥ゾーン41,42,43が吹き付ける熱風の温度は、吸着ローラ20による電解質膜2の搬送方向の上流側から下流側に向けて(
図3の紙面上にて時計回りに)順次高くなる。例えば、最も上流側の乾燥ゾーン41の熱風温度は室温〜40℃であり、中間の乾燥ゾーン42の熱風温度は40℃〜80℃であり、最も下流側の乾燥ゾーン43の熱風温度は50℃〜100℃である。
【0052】
2つの熱遮断ゾーン44,45は、電解質膜2の搬送方向に沿って乾燥ゾーン41,42,43の両端に設けられている。熱遮断ゾーン44は乾燥ゾーン41の上流側に設けられ、熱遮断ゾーン45は乾燥ゾーン43の下流側に設けられている。2つの熱遮断ゾーン44,45は、図外の排気部からの排気により、吸着ローラ20の外周面近傍の雰囲気を吸引する。これによって、乾燥ゾーン41,42,43から吹き出された熱風が乾燥炉40を超えて吸着ローラ20の上流側および下流側に流れ出るのを防止するとともに、乾燥時に電極インクから生じた溶媒蒸気などが乾燥炉40の外部に漏出するのを防止することができる。なお、少なくとも上流側の熱遮断ゾーン44が設けられていれば、乾燥ゾーン41,42,43から吹き出された熱風が塗工ノズル30に流れ込んで吐出口近傍を乾燥させることに起因した塗工不良の発生を防止することができる。
【0053】
図4は、吸着ローラ20および乾燥炉40の正面図である。乾燥炉40には、吸着ローラ20の幅方向(Y軸方向)に沿った両端にも吸引部46,47が設けられている。吸引部46,47は、熱遮断ゾーン44,45と同様に、周辺の雰囲気を吸引する。これによって、乾燥炉40の幅方向両端から漏出しようとする熱風および溶媒蒸気などをも吸引回収することができる。
【0054】
図1,2に戻り、吸着ローラ20による電解質膜2の搬送方向に沿って乾燥炉40よりも下流側に貼付部50が設けられている。貼付部50は、第2プレスローラ51および第3プレスローラ52を備える。第2プレスローラ51は、図示を省略するシリンダーによって吸着ローラ20の外周面から所定の間隔を隔てた位置に近接支持されている。第2プレスローラ51と吸着ローラ20の外周面との間隔は、乾燥処理後の電解質膜2の厚さ(電解質膜2と触媒層との合計厚さ)よりも小さい。従って、乾燥処理後の電解質膜2が第2プレスローラ51と吸着ローラ20との間を通過するときに、触媒層を含む電解質膜2の第1面が第2プレスローラ51に押し付けられる。
【0055】
第3プレスローラ52は、図示を省略するシリンダーによって第2プレスローラ51から所定の間隔を隔てた位置に近接支持されている。第3プレスローラ52と第2プレスローラ51との間隔は、電解質膜2と触媒層との合計の厚さにさらに後述する支持フィルム7の厚さを加えた値よりも小さい。なお、第1プレスローラ11、第2プレスローラ51および第3プレスローラ52は、吸着ローラ20と同程度の幅を有する金属ローラであっても良いし、樹脂製のローラであっても良い。また、第1プレスローラ11、第2プレスローラ51および第3プレスローラ52の径は適宜のものとすることができる。
【0056】
製造装置1には、さらに支持フィルム巻出ローラ55および接合体巻取ローラ56が設けられている。支持フィルム巻出ローラ55は、支持フィルム7が巻回されており、その支持フィルム7を連続的に送り出す。支持フィルム7としては、機械的な強度に富んで形状保持機能に優れた樹脂フィルム、例えばPEN(ポリエチレンナフタレート)やPET(ポリエチレンテレフタレート)のフィルムを用いることができる。すなわち、支持フィルム7はバックシート6と同じものであっても良く、剥離部10が剥離してバックシート巻取ローラ14によって巻き取ったバックシート6を支持フィルム7として支持フィルム巻出ローラ55から送り出すようにしても良い。また、支持フィルム7は、上記の樹脂フィルムの片面(電解質膜2との貼り合わせ面)に粘着剤を塗布した片面微粘着フィルムであっても良い。
【0057】
支持フィルム巻出ローラ55から送り出された支持フィルム7は、第3プレスローラ52に懸架される。一方、乾燥処理後の触媒層が形成された電解質膜2は、第2プレスローラ51によって吸着ローラ20から剥離されて第2プレスローラ51に懸架される。そして、第2プレスローラ51および第3プレスローラ52によって、電解質膜2の第2面に支持フィルム7が押し付けられて貼り合わされる。この工程を経て支持フィルム7付きの膜・電極接合体5が製造される。
【0058】
支持フィルム7付きの膜・電極接合体5は、接合体巻取ローラ56によって巻き取られる。接合体巻取ローラ56は、膜・電極接合体5を巻き取るとともに、吸着ローラ20から離れて第2プレスローラ51に懸架された電解質膜2に一定の張力を与える。製造装置1は、貼付部50と接合体巻取ローラ56との間に追加乾燥炉49を備える。貼付部50にて支持フィルム7が貼り合わされた膜・電極接合体5は、追加乾燥炉49を通過してから接合体巻取ローラ56によって巻き取られる。追加乾燥炉49としては、公知の熱風乾燥炉を用いることができる。追加乾燥炉49の内部を支持フィルム7付きの膜・電極接合体5が通過することによって、触媒層の仕上げの乾燥が行われる。
【0059】
また、製造装置1は、エアー噴出部60を備える。エアー噴出部60は、貼付部50と剥離部10との間に設けられている。エアー噴出部60は、吸着ローラ20に向けてエアーを噴出する機構と、周辺の雰囲気を吸引する機構とを備えている。エアー噴出部60が噴出するエアーは、例えば5℃程度に冷却されている。なお、エアー噴出部60は、貼付部50と剥離部10との間に設けられているため、電解質膜2が吸着されていない吸着ローラ20の外周面にエアーを吹き付ける。
【0060】
エアー噴出部60が吸着ローラ20に冷却されたエアーを吹き付けることによって、吸着ローラ20の外周面が冷却される。また、エアー噴出部60が吸着ローラ20にエアーを吹き付けるとともに、周辺雰囲気を吸引することによって、吸着ローラ20の外周面に付着した異物を取り除くことができる。
【0061】
さらに、製造装置1は、装置に設けられた各機構を制御する制御部90を備える。制御部90のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部90は、各種演算処理を行うCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスクを備えて構成される。制御部90のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって、製造装置1に設けられた各動作機構が制御されて膜・電極接合体5の製造処理が進行する。
【0062】
次に、上記の構成を有する複合膜の製造装置1における処理手順について説明する。
図5は、製造装置1において膜・電極接合体5が製造される手順を示すフローチャートである。以下に説明する膜・電極接合体5の製造手順は、制御部90が製造装置1の各動作機構を制御することにより進行する。
【0063】
まず、電解質膜巻出ローラ12がバックシート6付きの電解質膜2を巻き出す(ステップS1)。上述したように、固体高分子形燃料電池用途の電解質膜2は大気中に含まれる少量の湿気によっても極めて容易に変形するため、電解質膜2の製造時に巻き取られる段階で形状保持のための帯状の樹脂フィルムであるバックシート6が貼り付けられた状態となっている。バックシート6は電解質膜2の第1面に貼り合わされている。電解質膜巻出ローラ12から連続的に引き出されたバックシート6付きの電解質膜2は、補助ローラ13に懸架され、剥離部10の第1プレスローラ11へと送り出される。
【0064】
剥離部10では、第1プレスローラ11によってバックシート6付きの電解質膜2の第2面を吸着ローラ20に押し付けることにより、バックシート6を剥離して電解質膜2を吸着ローラ20に吸着支持させる(ステップS2)。換言すれば、第1プレスローラ11は、吸着ローラ20に電解質膜2の第2面が吸着された状態でバックシート6を剥離する。
図6は、第1プレスローラ11によってバックシート6を剥離して電解質膜2を吸着ローラ20に吸着させる様子を示す図である。第1プレスローラ11と吸着ローラ20との間にてバックシート6が電解質膜2から剥離され、電解質膜2は吸着ローラ20に吸着される。
【0065】
第1プレスローラ11は、強度の弱い電解質膜2を変形させることなく吸着ローラ20の外周面に確実に吸着させることができる範囲の力にて電解質膜2を吸着ローラ20に押し付けている。但し、第1プレスローラ11は、吸着ローラ20の外周面から所定の間隔を隔てて近接するように設置されている。第1プレスローラ11がバックシート6付き電解質膜2を吸着ローラ20に押し付ける力は、当該間隔によって調整される。
【0066】
吸着ローラ20は、電解質膜2の第2面を吸着する。気孔率が15%〜50%の多孔質セラミックスにて形成された吸着ローラ20の吸引口21に90kPa以上の負圧を付与することによって、電解質膜2を吸着しているか否かに関わらず、吸着ローラ20の外周面には10kPa以上の負圧が均一に作用する。従って、電解質膜2の幅の大小に関わらず、吸着ローラ20は電解質膜2を一定の吸引圧にて安定して吸着支持することができる。また、吸着ローラ20の吸着による電解質膜2の変形も抑制することができる。
【0067】
また、吸着ローラ20の外周面の表面粗さは、Rzが5μm以下であるとともに、吸着ローラ20の気孔径は5μm以下であるため、電解質膜2には吸着支持にともなう吸着痕は生じにくい。すなわち、本実施形態の吸着ローラ20は、脆弱な機械的性質を有する電解質膜2を変形させたり吸着痕を生じさせることなく安定して吸着支持することができるのである。
【0068】
図6に示すように、電解質膜2を吸着支持した吸着ローラ20がY軸方向に沿った中心軸を回転中心として回転することにより、バックシート6が剥離された電解質膜2が吸着ローラ20の外周面に支持されて搬送される。一方、電解質膜2から剥離されたバックシート6は、バックシート巻取ローラ14によって巻き取られる。
【0069】
次に、吸着ローラ20に吸着支持されて搬送される電解質膜2の第1面には、塗工ノズル30から電極インクが塗工される(ステップS3)。固体高分子形燃料電池の電解質膜2に塗工する電極インクは、例えば、白金や白金合金などの触媒粒子、イオン伝導性電解質および分散媒を含有する。塗工する電極インクは、カソード用であってもアノード用であっても良い。
【0070】
また、本実施形態では、塗工液供給機構35が電極インクを断続的に塗工ノズル30に供給することによって、吸着ローラ20に吸着支持されて搬送される電解質膜2の第1面に塗工ノズル30から間欠塗工を行っている。
図7は、電解質膜2に電極インクが間欠塗工された状態を示す図である。また、
図8は、電極インクが間欠塗工された電解質膜2の断面図である。吸着ローラ20に吸着支持されて一定速度で搬送される電解質膜2に塗工ノズル30から電極インクを断続的に吐出することによって、
図7,8に示すように、電解質膜2の第1面には一定サイズの電極インク層8が一定間隔で不連続に形成される。
【0071】
回転時の吸着ローラ20の全振れは10μm以下であり、吸着ローラ20の外周面の表面粗さは、Rzが5μm以下であるため、回転する吸着ローラ20の外周面と塗工ノズル30のスリット状吐出口との間隔はほぼ一定値に安定している。このため、塗工ノズル30からの間欠塗工によって高い精度にて均一な電極インク層8を形成することができる。
【0072】
電解質膜2の第1面に形成される各電極インク層8の幅は、塗工ノズル30のスリット状吐出口の幅によって規定される。各電極インク層8の長さは、塗工ノズル30の電極インク吐出時間と電解質膜2の搬送速度(つまり、吸着ローラ20の回転速度)とによって規定される。また、電極インク層8の厚さ(高さ)は、塗工ノズル30の吐出口と電解質膜2の第1面との距離および電極インクの吐出流量と電解質膜2の搬送速度とによって規定され、例えば10μm〜300μmである。電極インクは塗工ノズル30から塗工可能なペーストであり、電解質膜2上にて電極インク層8の形状を維持できる程度の粘性を有している。
【0073】
次いで、吸着ローラ20の回転によって、電極インク層8が乾燥炉40に対向する位置にまで搬送され、電極インク層8の乾燥処理が行われる(ステップS4)。電極インク層8の乾燥処理は、乾燥炉40から電極インク層8に熱風を吹き付けることによって行われる。熱風が吹き付けられることによって電極インク層8が加熱されて溶媒成分が揮発し、電極インク層8が乾燥される。溶媒成分が揮発することによって電極インク層8が乾燥されて触媒層9となる。なお、本実施形態においては、追加乾燥炉49を設けて最終の仕上げ乾燥を行うため、乾燥炉40では触媒層9からインクが第2プレスローラ51に付着しない程度にまで乾燥させておけば良い。
【0074】
図9は、触媒層9が形成された電解質膜2の断面図である。触媒層9は、白金などの触媒粒子が担持された電極層である。触媒層9は、電極インク層8から溶媒成分が揮発して固化したものであるため、その厚さは電極インク層8よりも薄い。乾燥後の触媒層9の厚さは、例えば3μm〜50μmである。
【0075】
また、乾燥炉40は、3つの乾燥ゾーン41,42,43を備えており、それらからは異なる温度の熱風が吹き付けられる。具体的には、吸着ローラ20による電解質膜2の搬送方向の最も上流側に位置する乾燥ゾーン41から中間の乾燥ゾーン42を経て最も下流側の乾燥ゾーン43の順に熱風温度が高くなる。乾燥ゾーンを分割することなく、塗工直後の電極インク層8に直ちに高温の熱風を吹き付けると、電極インク層8が急激に乾燥されて表面にクラックが生じることがある。或いは、吸着ローラ20にヒータを内蔵して塗工直後の電極インク層8を急激に乾燥した場合も同様である。
【0076】
本実施形態では、乾燥炉40を3つの乾燥ゾーン41,42,43に分割し、電解質膜2の搬送方向の上流側から下流側に向けて乾燥温度を順次に高くしている。すなわち、最も上流側の乾燥ゾーン41は、塗工直後の電極インク層8に比較的低温の熱風を吹き付けることによって、電極インク層8を僅かに昇温させる。次に、中間の乾燥ゾーン42がやや高温の熱風を吹き付けることによって、電極インク層8を緩やかに乾燥させる。そして、最も下流側の乾燥ゾーン43が高温の熱風を吹き付けることによって、電極インク層8を強く乾燥させる。このように、乾燥温度を徐々に高くして電極インク層8を段階的に乾燥させることにより、乾燥処理時のクラックの発生を防止することができる。
【0077】
クラックの発生を防止しつつ電極インク層8を適切に乾燥させるためには、乾燥処理時間も適切に管理する必要があり、例えば約60秒とするのが好ましい。乾燥処理時間は、1つの電極インク層8が3つの乾燥ゾーン41,42,43を通過する合計時間である。例えば、吸着ローラ20の直径が400mmで3つの乾燥ゾーン41,42,43が吸着ローラ20の外周面の半周を覆っていたとすると、その長さは約628mmとなる。この条件で乾燥処理時間として60秒を確保するためには、電解質膜2の搬送速度を10.4mm/秒とすれば良い。電解質膜2の搬送速度は吸着ローラ20の回転速度によって規定される。
【0078】
また、乾燥炉40は、電解質膜2の搬送方向に沿って最も上流側に熱遮断ゾーン44を備え、最も下流側に熱遮断ゾーン45を備えている。これにより、乾燥ゾーン41,42,43から吹き出された熱風が乾燥炉40を超えて吸着ローラ20の上流側および下流側に流れ出るのを防止することができる。その結果、乾燥炉40の上流側に位置する塗工ノズル30や下流側に位置する貼付部50が不必要に加熱されるのを防止することができる。
【0079】
さらに、乾燥炉40には、熱遮断ゾーン44,45に加えて吸引部46,47も設けられており、これらによって乾燥炉40の周囲に熱風が流れ出るのを防止するとともに、乾燥時に電極インク層8から揮発した溶媒の蒸気等が漏出するのを防止することができる。
【0080】
次に、吸着ローラ20のさらなる回転によって、乾燥後の触媒層9が貼付部50に到達する。触媒層9が形成された電解質膜2が貼付部50に到達すると、電解質膜2は吸着ローラ20から剥離されて第2プレスローラ51によって懸架される。すなわち、電解質膜2の第2面が吸着ローラ20の外周面から剥離されるとともに、電解質膜2の第1面が第2プレスローラ51の外周面によって当接支持されるのである(ステップS5)。このときには、電解質膜2に形成された触媒層9が第2プレスローラ51に接触することとなる。一方、支持フィルム巻出ローラ55から送り出された支持フィルム7は、第3プレスローラ52に懸架される。
【0081】
第2プレスローラ51と第3プレスローラ52とは、所定の間隔を隔てて設けられており、その間隔は電解質膜2と触媒層9と支持フィルム7との合計厚さよりも小さい。従って、電解質膜2および支持フィルム7が第2プレスローラ51と第3プレスローラ52との間を通過するときに、電解質膜2の第2面に支持フィルム7が押し付けられて貼り合わされる(ステップS6)。
【0082】
図10は、第2プレスローラ51および第3プレスローラ52によって電解質膜2に支持フィルム7が貼付される様子を示す図である。第2プレスローラ51に巻き掛けられた電解質膜2の第2面と、第3プレスローラ52に巻き掛けられた支持フィルム7とが接触する。このときに、電解質膜2の第2面に支持フィルム7が押し付けられる力は、第2プレスローラ51と第3プレスローラ52との間隔によって規定される。電解質膜2は表面に多少の粘着性を有しているため、支持フィルム7がPEN等の樹脂フィルムであっても、電解質膜2の第2面に支持フィルム7を押し付けることによって支持フィルム7を貼付することができる。支持フィルム7が片面に粘着剤を塗布した片面微粘着フィルムであれば、より確実に支持フィルム7を電解質膜2に貼付することができる。
【0083】
電解質膜2の第2面に支持フィルム7を貼付することによって、支持フィルム7付きの膜・電極接合体5が製造される。この膜・電極接合体5は、接合体巻取ローラ56によって巻き取られることにより搬送される。この過程で、支持フィルム7付きの膜・電極接合体5は追加乾燥炉49の内部を通過する。これにより、触媒層9の最終の仕上げ乾燥が行われる(ステップS7)。乾燥炉40で触媒層9が十分には乾燥されていない場合であっても、追加乾燥炉49によって触媒層9を確実に乾燥させることができる。追加乾燥炉49を通過した支持フィルム7付きの膜・電極接合体5が接合体巻取ローラ56によって巻き取られることにより、一連の膜・電極接合体5の製造プロセスが完了する(ステップS8)。
【0084】
ところで、上記の製造装置1においては、吸着ローラ20の外周面の一部を覆うように乾燥炉40を設け、電極インク層8の乾燥のために吸着ローラ20の外周面に熱風を吹き付けている。このため、多孔質セラミックスにて形成された吸着ローラ20が徐々に蓄熱して昇温する。吸着ローラ20が所定値を超えて高温になると、塗工ノズル30から電解質膜2に塗工された電極インクが直ちに加熱されて急激に乾燥し、電極インク層8の表面にクラックが生じるおそれがある。
【0085】
このため、吸着ローラ20に複数の水冷管22を設け(
図3)、その水冷管22に恒温水を流すことによって吸着ローラ20を冷却して所定値以上に昇温するのを防いでいる。但し、多孔質セラミックスにて形成された吸着ローラ20は熱伝導度が低い場合もあり、しかも乾燥炉40は吸着ローラ20の外周面に熱風を吹き付けるため、当該外周面の温度上昇を十分に抑制できない場合もあり得る。
【0086】
このような場合であっても、エアー噴出部60(
図2)から吸着ローラ20の外周面に向けて冷却エアーを吹き付けることにより、乾燥炉40からの熱風により蓄熱された吸着ローラ20の外周面を冷却して除熱することができる。これにより、塗工ノズル30から電解質膜2に塗工された電極インクが直ちに加熱されるのを防ぐことができる。また、エアー噴出部60が吸着ローラ20にエアーを吹き付けるとともに、周辺雰囲気を吸引することによって、吸着ローラ20の外周面に付着した異物を取り除くことができる。
【0087】
第1実施形態においては、電解質膜巻出ローラ12からバックシート6付きにて電解質膜2が送り出され、第1プレスローラ11によって電解質膜2の第2面を吸着ローラ20に吸着させた状態でバックシート6を剥離している。そして、電解質膜2を吸着ローラ20に吸着支持した状態で搬送しつつ、電解質膜2の第1面に電極インクを塗工して電極インク層8を形成し、それに熱風を吹き付けて乾燥させて触媒層9としている。その後、吸着ローラ20に近接配置された第2プレスローラ51の外周面が電解質膜2の第1面に当接して支持した状態で当該電解質膜2の第2面に支持フィルム7を貼り合わせている。
【0088】
従って、電解質膜巻出ローラ12から吸着ローラ20を経て接合体巻取ローラ56に至るまでロール・ツー・ロール(roll-to-roll)で搬送される電解質膜2は、常に何らかの部材によって連続的に支持されている。具体的には、初期段階では電解質膜2の第1面がバックシート6によって支持され、バックシート6が剥離されるときには電解質膜2の第2面が吸着ローラ20の外周面によって支持され、触媒層9の乾燥後に吸着ローラ20から離れるときには電解質膜2の第1面が第2プレスローラ51によって支持されている。さらに、第2プレスローラ51の外周面に電解質膜2の第1面が当接支持された状態で電解質膜2の第2面に支持フィルム7が貼り合わされて接合体巻取ローラ56に巻き取られる。
【0089】
既述したように、製造装置1にて使用される電解質膜2は、非常に薄くて機械的強度が弱く、大気中の少量の湿気によっても容易に膨潤する一方で湿度が低くなると収縮するという特性を有しており、極めて変形しやすい。何らの支持もしていない電解質膜2に電極インクを塗布すると、電極インクに含まれる溶媒によって電解質膜2が膨潤し、電極インクが乾燥されるときには電解質膜2も収縮する。また、乾燥炉40で触媒層9が十分には乾燥されていない場合には、乾燥炉40での乾燥処理後にも電解質膜2が膨潤・収縮にすることがある。電解質膜2が膨潤・収縮すると、電解質膜2に皺やピンホールが発生するおそれがある。すなわち、特に、溶媒を含む電極インクが塗工された以降において、電解質膜2の膨潤・収縮が生じやすく、皺やピンホールの発生が問題となる。電解質膜2にこのような皺やピンホールが発生すると、燃料電池の発電性能を低下させる要因となる。
【0090】
本実施形態においては、電極インクを塗工するときには電解質膜2を吸着ローラ20によって吸着支持するとともに、その後に電解質膜2が吸着ローラ20から離れた後も第2プレスローラ51および支持フィルム7によって電解質膜2を連続的に支持している。従って、電極インクの塗工時以降の搬送全体にわたって電解質膜2の膨潤・収縮に起因した変形を抑制することができ、皺やピンホールの発生を防止することができる。その結果、本発明に係る製造装置1によって製造された膜・電極接合体5を使用した燃料電池の発電性能の低下を防止することができる。
【0091】
また、製造装置1では、電極インクの塗工時以降のみならず、電解質膜2が電解質膜巻出ローラ12から送り出されてから接合体巻取ローラ56に巻き取られるまで常に何らかの部材によって連続的に支持されている。このため、膜・電極接合体5の一連の製造工程の全体にわたって電解質膜2の膨潤・収縮に起因した変形を抑制することができ、皺やピンホールの発生を防止することができる。
【0092】
<2.第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第1実施形態では、電解質膜2の片面に電極インクを塗工して触媒層9を形成していたが、第2実施形態においては、片面に触媒層9が形成された電解質膜2の反対面に電極インクを塗工して触媒層9を形成する。電解質膜2の両面にアノードおよびカソードの触媒層9を形成することによって、固体高分子形燃料電池の膜・電極接合体5として機能することとなる。
【0093】
図11は、第2実施形態の複合膜の製造装置1aの側面図である。同図において、第1実施形態と同一の要素については同一の符号を付している。第2実施形態の製造装置1aが第1実施形態の製造装置1と相違するのは、画像処理ユニット70を備えている点である。画像処理ユニット70は、電解質膜巻出ローラ12と剥離部10の第1プレスローラ11との間のいずれかの位置に設けられている(第2実施形態では、補助ローラ13と第1プレスローラ11との間)。画像処理ユニット70は、撮像カメラおよび画像データ解析機器を備えており、電解質膜巻出ローラ12から送り出されて剥離部10に向けて搬送される電解質膜2の表面を撮像カメラにて撮像する。画像処理ユニット70は、撮像カメラが撮像して得た画像データに所定の画像処理を施して電解質膜2上における触媒層9の形成位置を特定する。画像処理ユニット70による解析結果は制御部90に伝達される。画像処理ユニット70を除く第2実施形態の製造装置1aの残余の構成は第1実施形態の製造装置1と同じである。
【0094】
第2実施形態の製造装置1aにおける処理手順も第1実施形態と同様である(
図5参照)。但し、第2実施形態では、既に片面に触媒層9が形成された電解質膜2の反対面に電極インクを塗工する。このため、電解質膜巻出ローラ12には、片面に触媒層9が形成された電解質膜2の反対面にバックシート6が貼り付けられたものが巻回されている。例えば、第1実施形態にて第1面に触媒層9が形成された電解質膜2の第2面に支持フィルム7が貼り合わされて接合体巻取ローラ56に巻き取られたものを、そのまま電解質膜巻出ローラ12から巻き出すようにしても良い。支持フィルム7とバックシート6とは同じものであっても良く、第1実施形態にて製造された膜・電極接合体5をそのまま第2実施形態にて電解質膜巻出ローラ12から巻き出す素材とすることが可能である。
【0095】
図12は、電解質膜巻出ローラ12から巻き出されたバックシート6付きの電解質膜2の断面図である。電解質膜2の第1面には断続的に触媒層9が形成されるとともに、第2面にバックシート6が貼り合わされている。電解質膜巻出ローラ12から連続的に引き出されたバックシート6付きの電解質膜2は、補助ローラ13に懸架され、剥離部10の第1プレスローラ11へと送り出される。
【0096】
電解質膜2が電解質膜巻出ローラ12から剥離部10へと送り出される過程において、画像処理ユニット70によって電解質膜2の第1面が撮像され、画像処理により電解質膜2上における触媒層9の形成位置が特定される。画像処理ユニット70によって特定された触媒層9の形成位置は制御部90に伝達される。画像処理ユニット70は、連続して或いは短い周期で断続的に電解質膜2の第1面を撮像しており、全ての触媒層9についてその形成位置を特定する。
【0097】
剥離部10では、第1プレスローラ11によって電解質膜2の第1面を吸着ローラ20に押し付けることにより、第2面からバックシート6を剥離して電解質膜2を吸着ローラ20に吸着支持させる。換言すれば、第1プレスローラ11は、吸着ローラ20に電解質膜2の第1面が吸着された状態で第2面からバックシート6を剥離する。第1実施形態にて製造された膜・電極接合体5をそのまま第2実施形態に使用した場合には、電解質膜2の表裏が逆向きに吸着ローラ20に吸着支持されることとなる。
【0098】
電解質膜2の第1面を吸着支持した吸着ローラ20がY軸方向に沿った中心軸を回転中心として回転することにより、バックシート6が剥離された電解質膜2が吸着ローラ20の外周面に支持されて搬送される。一方、電解質膜2から剥離されたバックシート6は、バックシート巻取ローラ14によって巻き取られる。
【0099】
次に、吸着ローラ20に吸着支持されて搬送される電解質膜2の第2面には、塗工ノズル30から電極インクが塗工される。第2実施形態においては、電解質膜2の第1面に既に形成されている触媒層9と逆極性の電極インクを第2面に塗工する。例えば、電解質膜2の第1面にカソードの触媒層9が形成されている場合には、アノード用の電極インクを電解質膜2の第2面に塗工する。逆に、電解質膜2の第1面にアノードの触媒層9が形成されている場合には、カソード用の電極インクを電解質膜2の第2面に塗工する。
【0100】
また、第2実施形態では、画像処理ユニット70による触媒層9の形成位置の特定結果に基づいて、その触媒層9の形成位置の対応する電解質膜2の第2面に塗工ノズル30から電極インクを間欠塗工するように制御部90が塗工制御を行う。具体的には、電解質膜2の搬送方向における位置合わせについては、制御部90が塗工ノズル30からの電極インクの吐出タイミングを制御する。また、電解質膜2の幅方向における位置合わせについては、制御部90が塗工ノズル30のY軸方向位置を調整する。
【0101】
図13は、触媒層9に対応する反対面に電極インクが間欠塗工された電解質膜2の断面図である。同図に示すように、第1面に形成された触媒層9の形成位置に対応する電解質膜2の第2面に電極インクが塗工されて電極インク層8が形成される。なお、電解質膜2の第2面に形成する電極インク層8の位置は、触媒層9の形成位置に完全に対応するものでなくても良く、若干ずれていても良い。
【0102】
次いで、吸着ローラ20の回転によって、電極インク層8が乾燥炉40に対向する位置にまで搬送され、電極インク層8の乾燥処理が行われる。電極インク層8の乾燥処理は、第1実施形態と同様であり、乾燥炉40から電極インク層8に熱風を吹き付けることによって行われる。熱風が吹き付けられることによって電極インク層8が加熱されて溶媒成分が揮発し、電極インク層8が乾燥される。溶媒成分が揮発することによって電極インク層8が乾燥されて触媒層9となる。
【0103】
また、乾燥炉40の3つの乾燥ゾーン41,42,43は、吸着ローラ20による電解質膜2の搬送方向の上流側から下流側に向けて熱風温度(乾燥温度)を順次に高くしている。これにより、電極インク層8が段階的に乾燥されることとなり、乾燥処理時のクラックの発生を防止することができる。
【0104】
図14は、両面に触媒層9が形成された電解質膜2の断面図である。電解質膜2の第1面に触媒層9が形成されるとともに、それとは逆極性の触媒層9が第2面に形成される。第2面の触媒層9は第1面における触媒層9の形成位置に対応する位置に形成されるため、
図14に示すように、カソードおよびアノードの触媒層9に電解質膜2が挟み込まれることとなる。
【0105】
次に、吸着ローラ20のさらなる回転によって、乾燥後の触媒層9が貼付部50に到達する。第2面に触媒層9が形成された電解質膜2が貼付部50に到達すると、電解質膜2は吸着ローラ20から剥離されて第2プレスローラ51によって懸架される。すなわち、電解質膜2の第1面が吸着ローラ20の外周面から剥離されるとともに、電解質膜2の第2面が第2プレスローラ51の外周面によって当接支持されるのである。一方、支持フィルム巻出ローラ55から送り出された支持フィルム7は、第3プレスローラ52に懸架される。
【0106】
両面に触媒層9が形成された電解質膜2および支持フィルム7が第2プレスローラ51と第3プレスローラ52との間を通過するときに、電解質膜2の第1面に支持フィルム7が押し付けられて貼り合わされる。
図15は、支持フィルム7が貼り合わされた電解質膜2の断面図である。第2プレスローラ51に巻き掛けられた電解質膜2の第1面と、第3プレスローラ52に巻き掛けられた支持フィルム7とが接触する。このときに、電解質膜2の第1面に支持フィルム7が押し付けられる力は、第2プレスローラ51と第3プレスローラ52との間隔によって規定される。電解質膜2の第1面に支持フィルム7を押し付けることにより、電解質膜2の第1面に支持フィルム7が貼り合わされて支持フィルム7付きの膜・電極接合体5が製造される。なお、
図15では、触媒層9の厚さを誇張して描いているが、実際には3μm〜50μmの極めて薄いものであるため、触媒層9の上から電解質膜2の第1面に支持フィルム7を適切に貼付することが可能である。
【0107】
支持フィルム7付きの膜・電極接合体5は、追加乾燥炉49の内部を通過してから接合体巻取ローラ56によって巻き取られる。膜・電極接合体5が追加乾燥炉49の内部を通過するときに、触媒層9の最終の仕上げ乾燥が行われる。支持フィルム7付きの膜・電極接合体5が接合体巻取ローラ56によって巻き取られることにより、一連の膜・電極接合体5の製造プロセスが完了する。
【0108】
第2実施形態においても、電極インクを塗工するときには電解質膜2を吸着ローラ20によって吸着支持するとともに、その後に電解質膜2が吸着ローラ20から離れた後も第2プレスローラ51および支持フィルム7によって電解質膜2を連続的に支持している。従って、電極インクの塗工時以降の搬送全体にわたって電解質膜2の膨潤・収縮に起因した変形を抑制することができ、皺やピンホールの発生を防止することができる。その結果、本発明に係る製造装置1aによって製造された膜・電極接合体5を使用した燃料電池の発電性能の低下を防止することができる。
【0109】
また、第2実施形態の製造装置1aでは、電極インクの塗工時以降のみならず、電解質膜2が電解質膜巻出ローラ12から送り出されてから接合体巻取ローラ56に巻き取られるまで常に何らかの部材によって連続的に支持されている。このため、膜・電極接合体5の一連の製造工程の全体にわたって電解質膜2の膨潤・収縮に起因した変形を抑制することができ、皺やピンホールの発生を防止することができる。
【0110】
<3.第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態について説明する。第3実施形態においては、電解質膜2の片面に電極インクを2回塗工して乾燥処理を行う。
図16は、第3実施形態の複合膜の製造装置1bの側面図である。同図において、第1実施形態と同一の要素については同一の符号を付している。第3実施形態の製造装置1bが第1実施形態の製造装置1と相違するのは、2つの塗工ノズル30,130を備えている点である。
【0111】
製造装置1bの塗工ノズル30および塗工液供給機構35は、第1実施形態と同様のものである。第3実施形態の製造装置1bは、さらに塗工ノズル130を備える。塗工ノズル130は、吸着ローラ20による電解質膜2の搬送方向において、塗工ノズル30よりも下流側に乾燥炉40を分断するように設けられている。すなわち、塗工ノズル130を挟んで前後に乾燥炉40が設けられている。例えば、乾燥炉40の3つの乾燥ゾーンのうちの1つを塗工ノズル130よりも上流側に配置するとともに、2つを塗工ノズル130よりも下流側に配置するようにすれば良い。
【0112】
塗工ノズル130および塗工液供給機構135の構成自体は、塗工ノズル30および塗工液供給機構35と同じである。すなわち、塗工ノズル130は、先端にスリット状の吐出口を備えたスリットノズルである。塗工液供給機構135は、電極インクを貯留するタンクや開閉バルブを備え、塗工ノズル130に電極インクを送給する。2つの塗工ノズル30,130を備えている点を除く第3実施形態の製造装置1bの残余の構成は第1実施形態の製造装置1と同じである。
【0113】
第3実施形態の製造装置1bにおける処理手順については、第1実施形態と概ね同じである。まず、吸着ローラ20に電解質膜2の第2面が吸着された状態でバックシート6が第1面から剥離され、吸着ローラ20によって吸着支持されて搬送される電解質膜2の第1面に塗工ノズル30から1回目の電極インクが間欠塗工されるまでの工程は第1実施形態と全く同様である。
【0114】
次いで、吸着ローラ20の回転によって、電極インク層8が前段の乾燥炉40(塗工ノズル130よりも上流側の乾燥炉40)に対向する位置にまで搬送され、1回目の電極インクの塗工によって形成された電極インク層8の乾燥処理が行われる。この乾燥処理では、電極インク層8を完全に乾燥させなくても良く、表面が触診で付かない程度に乾燥させておけば良い。
【0115】
第3実施形態では、1回目の電極インクの塗工によって電解質膜2の第1面に形成された電極インク層8の上に、さらに塗工ノズル130から2回目の電極インクの間欠塗工を行う。これにより、電解質膜2の第1面には電極インク層8が二重に積層されることとなる。
【0116】
吸着ローラ20の回転によって、電解質膜2の第1面に二重に積層された電極インク層8が後段の乾燥炉40(塗工ノズル130よりも下流側の乾燥炉40)に対向する位置にまで搬送され、電極インク層8の乾燥処理が行われる。乾燥炉40から電極インク層8に熱風を吹き付けることによって電極インク層8が加熱されて溶媒成分が揮発し、積層された電極インク層8が乾燥される。溶媒成分が揮発することによって電極インク層8が乾燥されて二重に積層された触媒層9となる。
【0117】
その後、吸着ローラ20のさらなる回転によって、乾燥後の触媒層9が貼付部50に到達し、電解質膜2の第2面に支持フィルム7が押し付けられて貼り合わされるが、この工程は第1実施形態と同様である。
図17は、第1面に触媒層9が積層された電解質膜2の第2面に支持フィルム7が貼り合わされた電解質膜2の断面図である。第1実施形態と同様に、電解質膜2の第1面に支持フィルム7を押し付けることにより、電解質膜2の第1面に支持フィルム7が貼り合わされて支持フィルム7付きの膜・電極接合体5が製造される。
【0118】
そして、支持フィルム7付きの膜・電極接合体5は、追加乾燥炉49の内部を通過してから接合体巻取ローラ56によって巻き取られる。膜・電極接合体5が追加乾燥炉49の内部を通過するときに、積層された触媒層9の最終の仕上げ乾燥が行われる。支持フィルム7付きの膜・電極接合体5が接合体巻取ローラ56によって巻き取られることにより、一連の膜・電極接合体5の製造プロセスが完了する。
【0119】
第3実施形態においても、電極インクを塗工するときには電解質膜2を吸着ローラ20によって吸着支持するとともに、その後に電解質膜2が吸着ローラ20から離れた後も第2プレスローラ51および支持フィルム7によって電解質膜2を連続的に支持している。従って、電極インクの1回目の塗工時以降の搬送全体にわたって電解質膜2の膨潤・収縮に起因した変形を抑制することができ、皺やピンホールの発生を防止することができる。その結果、本発明に係る製造装置1bによって製造された膜・電極接合体5を使用した燃料電池の発電性能の低下を防止することができる。
【0120】
また、第3実施形態の製造装置1bでは、電極インクの塗工時以降のみならず、電解質膜2が電解質膜巻出ローラ12から送り出されてから接合体巻取ローラ56に巻き取られるまで常に何らかの部材によって連続的に支持されている。このため、膜・電極接合体5の一連の製造工程の全体にわたって電解質膜2の膨潤・収縮に起因した変形を抑制することができ、皺やピンホールの発生を防止することができる。
【0121】
<4.変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上記各実施形態においては、第1プレスローラ11および第2プレスローラ51は、吸着ローラ20の外周面から所定の間隔を隔てて近接するように設置されていたが、これらを吸着ローラ20の外周面に接触して配置するようにしても良い。同様に、第3プレスローラ52を第2プレスローラ51に接触して配置するようにしても良い。これらのローラを互いに接触するように配置しても、電解質膜2が電解質膜巻出ローラ12から送り出されてから接合体巻取ローラ56に巻き取られるまで常に何らかの部材によって連続的に支持されることとなるため、電解質膜2の膨潤・収縮に起因した変形を抑制することができる。但し、ローラを互いに接触するように配置した場合には、電解質膜2や触媒層9に上記実施形態よりも強い力が作用することとなる。
【0122】
また、上記各実施形態においては、乾燥炉40に3つの乾燥ゾーン41,42,43を設けていたが、乾燥ゾーンの分割数は3つに限定されるものではなく、2つであっても良いし、4つ以上であっても良い。いずれであっても、乾燥炉40が吹き付ける熱風の温度は、吸着ローラ20による電解質膜2の搬送方向の上流側から下流側に向けて順次に高くなる。
【0123】
また、隣り合う乾燥ゾーンの間に上記実施形態と同様の熱遮断ゾーンを設けるようにしても良い。このようにすれば、隣り合う乾燥ゾーンから吹き出された熱風の相互干渉を防止することができる。
【0124】
また、乾燥炉40によって触媒層9が十分に乾燥される場合には、追加乾燥炉49は必ずしも設置しなくても良い。
【0125】
また、乾燥炉40は、熱風を吹き付けて電極インク層8の乾燥を行うようにしていたが、これに代えて、遠赤外線ヒータなどによって電極インク層8の乾燥を行うようにしても良い。
【0126】
また、エアー噴出部60に代えて、異物を吸着する粘着ローラやブラシを吸着ローラ20の外周面に接触させるように設けても良い。或いは、吸着ローラ20の外周面に超音波を吹き付けて異物を取り除く機構を設けるようにしても良い。
【0127】
また、第2プレスローラ51の内部に冷却水を流し、吸着ローラ20から第2プレスローラ51への熱伝導によって吸着ローラ20の外周面を冷却して除熱するようにしても良い。
【0128】
また、第2実施形態の製造装置1aを使用して電解質膜2の片面に形成された触媒層9の位置を特定し、その触媒層9の上に新たな電極インクを塗工して乾燥処理を行うようにしても良い。このようにすれば、第3実施形態と同様に、触媒層9を積層した膜・電極接合体5を製造することができる。
【0129】
また、本発明に係る製造技術は、燃料電池の膜・電極接合体5の製造への適用に限定されるものではなく、他の種類の薄膜上に機能層を形成する複合膜の製造に適用することもできる。特に、上記の電解質膜2の如く、膨潤・収縮によって容易に変形する薄膜に溶媒を含む塗工液を塗工して乾燥させることにより、薄膜上に機能層を形成した複合膜を製造するのに、本発明に係る製造技術は好適に用いることができる。