特許第6311619号(P6311619)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6311619
(24)【登録日】2018年3月30日
(45)【発行日】2018年4月18日
(54)【発明の名称】レーザモジュール及びレーザ装置
(51)【国際特許分類】
   H01S 3/30 20060101AFI20180409BHJP
   H01S 3/109 20060101ALI20180409BHJP
   H01S 3/0941 20060101ALI20180409BHJP
   G02F 1/35 20060101ALI20180409BHJP
   G02F 1/37 20060101ALI20180409BHJP
【FI】
   H01S3/30
   H01S3/109
   H01S3/0941
   G02F1/35 502
   G02F1/37
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-10214(P2015-10214)
(22)【出願日】2015年1月22日
(65)【公開番号】特開2016-134584(P2016-134584A)
(43)【公開日】2016年7月25日
【審査請求日】2017年5月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】門倉 一智
(72)【発明者】
【氏名】久光 守
(72)【発明者】
【氏名】井上 和哉
(72)【発明者】
【氏名】西 亮祐
【審査官】 村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/067599(WO,A2)
【文献】 特表2009−533847(JP,A)
【文献】 特開2006−93674(JP,A)
【文献】 米国特許第5673281(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 3/00−3/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の端面と、該第1の端面に対向する第2の端面とで両端面を定義された光共振器と、
前記光共振器の内部に配置され、基本波及び該基本波のラマンシフトによって生じるラマン光を発振するレーザ媒体と
を備え、
前記光共振器の内部で前記ラマン光が共振し且つ前記基本波が共振しないように前記第1の端面及び前記第2の端面の反射率が設定されていることを特徴とするレーザモジュール。
【請求項2】
前記第1の端面及び前記第2の端面の少なくともいずれかの前記基本波の波長における反射率が、前記第1の端面及び前記第2の端面の前記ラマン光の波長における反射率よりも低いことを特徴とする請求項1に記載のレーザモジュール。
【請求項3】
前記第1の端面及び前記第2の端面の前記ラマン光の波長における反射率が99.5%以上であり、
前記第1の端面及び前記第2の端面の少なくともいずれかの前記基本波の波長における反射率が10%以下である
ことを特徴とする請求項2に記載のレーザモジュール。
【請求項4】
前記光共振器の内部に配置され、前記ラマン光の波長を変換する波長変換素子を更に備えることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のレーザモジュール。
【請求項5】
前記波長変換素子の互いに対向する2つの端面の一方が前記第2の端面であり、他方の端面が前記レーザ媒体と対向していることを特徴とする請求項4に記載のレーザモジュール。
【請求項6】
前記レーザ媒体と前記波長変換素子とが一体構造であることを特徴とする請求項5に記載のレーザモジュール。
【請求項7】
前記レーザ媒体が、励起光の入射によって前記基本波を発振するレーザ結晶であり、
前記レーザ結晶の前記励起光が入射する入射面を前記第1の端面とすることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のレーザモジュール。
【請求項8】
前記レーザ結晶が、ネオジウムイオンがドープされたイットリウム・バナデートであることを特徴とする請求項7に記載のレーザモジュール。
【請求項9】
励起光を出射する半導体レーザと、
第1の端面と該第1の端面に対向する第2の端面とで両端面を定義された光共振器、及び、前記光共振器の内部に配置され、前記励起光によって励起された基本波及び該基本波のラマンシフトによって生じるラマン光を発振するレーザ媒体を有し、前記光共振器の内部で前記ラマン光は共振し且つ前記基本波は共振しないように前記第1の端面及び前記第2の端面の反射率が設定されているレーザモジュールと
を備えることを特徴とするレーザ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラマンレーザを用いたレーザモジュール及びレーザ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
基本波のラマンシフトによって生じるラマンストークス光(以下において「ラマン光」という。)を用いたラマンレーザが、レーザ源として検討されている(例えば特許文献1参照。)。ラマンレーザと波長変換素子を用いて所望の波長のレーザ光を出力するレーザモジュールや、このレーザモジュールを搭載したレーザ装置を構成できる。例えば、ラマンレーザから出力されるラマン光を波長変換することによって、半導体レーザ(LD)では直接得ることができない波長の出力光を得ることも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−533847号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ラマンレーザや波長変換素子を光共振器の内部に配置したレーザモジュールでは、光共振器の内部に基本波とラマン光それぞれに固有の縦モードが存在する。この縦モードには、光共振器の長さに依存する共振器モードに加え、光共振器に含まれる各結晶の界面反射に影響された複合共振器モードがある。更に、和周波発生に起因する縦モードの揺らぎや変動が生じる。このため、光共振器によって得られる出力光の波長が不安定になるなどの問題があった。
【0005】
上記問題点に鑑み、本発明は、ラマンレーザを用いて安定した出力光を得られるレーザモジュール及びレーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、(ア)第1の端面と、第1の端面に対向する第2の端面とで両端面を定義された光共振器と、(イ)光共振器の内部に配置され、基本波及び基本波のラマンシフトによって生じるラマン光を発振するレーザ媒体とを備え、光共振器の内部でラマン光が共振し且つ基本波が共振しないように第1の端面及び第2の端面の反射率が設定されているレーザモジュールが提供される。
【0007】
本発明の他の態様によれば、(ア)励起光を出射する半導体レーザと、(イ)第1の端面と第1の端面に対向する第2の端面とで両端面を定義された光共振器、及び、光共振器の内部に配置され、励起光によって励起された基本波及び基本波のラマンシフトによって生じるラマン光を発振するレーザ媒体を有し、光共振器の内部でラマン光は共振し且つ基本波は共振しないように第1の端面及び第2の端面の反射率が設定されているレーザモジュールとを備えるレーザ装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ラマンレーザを用いて安定した出力光を得られるレーザモジュール及びレーザ装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1の実施形態に係るレーザモジュールの構成を示す模式図である。
図2】本発明の第1の実施形態に係るレーザモジュールのレーザ媒体の模式図ある。
図3】本発明の実施形態に係るレーザモジュールを搭載したレーザ装置の構成を示す模式図である。
図4】本発明の実施形態に係るレーザモジュールを搭載したレーザ装置により出力される出力光の特性例を示すグラフである。
図5】本発明の第1の実施形態の変形例に係るレーザモジュールの構成を示す模式図である。
図6】本発明の第1の実施形態の変形例に係るレーザ媒体の構成を示す模式図である。
図7】本発明の第2の実施形態に係るレーザモジュールの構成を示す模式図である。
図8】本発明の第2の実施形態の変形例に係るレーザモジュールの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであることに留意すべきである。また、以下に示す実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の実施形態は、構成部品の材質、形状、構造、配置などを下記のものに特定するものでない。この発明の実施形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0011】
(第1の実施形態)
本発明の第1の実施形態に係るレーザモジュール10は、図1に示すように、第1の端面101と第1の端面101に対向する第2の端面102とで両端面を定義された光共振器100と、光共振器100の内部に配置されたレーザ媒体11とを備える。即ち、第1の端面101と第2の端面102を光学ミラーとして光共振器100が構成されている。
【0012】
レーザ媒体11は、光共振器100の外部から入射された励起光Leによって励起され、基本波及び基本波のラマンシフトによって生じるラマン光Lrを発振する。図1に例示したレーザモジュール10では、レーザ媒体11は単一のレーザ結晶である。即ち、図2に示すように、励起光Leによって励起されてレーザ媒体11が基本波Lbを生成する。同時に、レーザ媒体11は、レーザ結晶内部でのラマンシフトによって生じるラマン光Lrを発振する。
【0013】
また、図1に示したレーザモジュール10では、ラマン光Lrの波長を変換して波長変換光を発生する波長変換素子12が、光共振器100の内部に配置されている。光共振器100の内部に発生した波長変換光は、アウトプットミラー13を透過して光共振器100の外部に出力光Loutとして出力される。
【0014】
レーザモジュール10の光共振器100では、励起光Leが入射されるレーザ媒体11の端面が第1の端面101である。そして、アウトプットミラー13の、波長変換素子12に対向する面が第2の端面102である。レーザモジュール10では、光共振器100の内部でラマン光Lrが共振し、且つ基本波Lbが共振しないように、第1の端面101及び第2の端面102の反射率が設定されている。
【0015】
例えば、第1の端面101及び第2の端面102のラマン光Lrの波長における反射率は、99.5%以上に設定される。より好ましくは99.8%以上であり、100%に近いほど好ましい。これにより、ラマン光Lrは光共振器100の内部で共振する。
【0016】
一方、第1の端面101及び第2の端面102の少なくともいずれかの基本波Lbの波長における反射率は、10%以下に設定される。より好ましくは1%以下、更に好ましくは0.3%以下である。上記のように基本波Lbにおける反射率が低く設定されることにより、基本波Lbは光共振器100の内部で共振することがない。なお、基本波Lbの波長における反射率を低くするのは、第1の端面101又は第2の端面102のいずれか一方だけでもよく、或いは、第1の端面101と第2の端面102の両方の反射率を低くしてもよい。端面の基本波Lbにおける反射率を小さく設定する場合に、例えば端面が空気に接触している場合の反射率より少なくとも小さく設定される。
【0017】
上記のように、第1の端面101及び第2の端面102の少なくともいずれかの基本波Lbの波長における反射率が、第1の端面101及び第2の端面102のラマン光Lrの波長における反射率よりも低いように設定される。このようにして、光共振器100の内部でラマン光Lrが共振し、且つ基本波Lbが共振しないレーザモジュール10を実現できる。
【0018】
第1の端面101及び第2の端面102の反射率を設定する端面処理は、例えばそれぞれの端面に誘電体多層膜を形成することによって行われる。即ち、光共振器100の第1の端面101及び第2の端面102に、ラマン光Lrの波長に対しては反射率の高い高反射膜(HRコート)であり、基本波Lbの波長に対しては低反射率の反射防止膜(「ARコート」)であるコーティング膜を配置する。この誘電体多層膜の材質や膜厚、層数などは、基本波Lb及びラマン光Lrの波長に応じて適宜選択される。
【0019】
なお、図1に示した構成のレーザモジュール10では、ラマン光Lrの波長に対してはHRコートであり、波長変換光の波長に対してはARコートであるように、第2の端面102を端面処理する。これにより、レーザモジュール10の出力効率を高められる。
【0020】
また、励起効率を高めるために、励起光Leに対してARコートであるように第1の端面101を端面処理することが好ましい。なお、第1の端面101は、波長変換光に対してHRコートとしてもよい。
【0021】
以下に、レーザ媒体11として、ネオジウムイオンがドープされたイットリウム・バナデート(Nd:YVO4)結晶を用いた場合について説明する。即ち、励起光Leが入射されるNd:YVO4結晶の端面が、第1の端面101である。波長が808nmの励起光LeによってNd:YVO4結晶が励起されて、波長が1064nmの基本波Lbを生成する。同時に、Nd:YVO4結晶は波長が1178nmのラマン光Lrを発振する。このラマン光Lrは、Nd:YVO4結晶において基本波Lbからラマンシフトにより生じる長波長側の1次ストークス光である。また、波長変換素子12が、Nd:YVO4結晶の発振するラマン光Lrの第2高調波発生光(SHG光)を発生させる。例えば、波長変換素子12は、波長が1178nmのラマン光Lrから波長が589nmの波長変換光を発生させる。
【0022】
第1の端面101及び第2の端面102は、波長が1178nmのラマン光Lrに対してHRコートであるように端面処理される。且つ、第1の端面101及び第2の端面102の少なくとも一方は、波長1064nmの基本波Lbに対してARコートであるように端面処理される。更に、励起光LeによってNd:YVO4結晶の発振する他の基本波の波長(914nm、1342nm)に対しても、第1の端面101及び第2の端面102の少なくとも一方はARコートであるように端面処理される。このようにしてNd:YVO4結晶の発振する他の基本波について光共振器100の内部で共振させないようにすると、波長が1064nmの基本波Lbによって発振するラマン光Lrの効果を高められる。
【0023】
なお、励起効率を向上させるために、波長が808nmの励起光に対して第1の端面101をARコートとすることが好ましい。第1の端面101は、波長変換光に対してはHRコートとしてもよい。また、第2の端面102は、効率良く波長変換光を光共振器100の外部に取り出すために、波長変換光に対してARコートとする。
【0024】
上記構成のレーザモジュール10によって、半導体レーザでは直接得ることができない黄色光或いはオレンジ色光として使用される波長589nmの出力光Loutを得ることができる。
【0025】
なお、長波長側の1次ストークス光をラマン光Lrとして使用する例を以上に説明した。しかし、所望の波長の出力光Loutを得るために、短波長側の1次ストークス光や、或いは2次以降のストークス光をラマン光Lrとして使用してもよい。
【0026】
波長変換素子12には、角度位相整合を利用したリン酸チタニルカリウム(KTP)結晶やリチウム・トリボレート(LBO)結晶などを使用できる。或いは、強誘電体結晶に周期的分極反転構造が形成された擬似位相整合を利用したニオブ酸リチウム(LN)結晶やタンタル酸リチウム(LT)結晶も波長変換素子12に使用できる。LN結晶やLT結晶は、レーザモジュール10を使用する周囲温度に合わせて周期設計が可能であるため、特に好適に使用される。また、MgドープのLN結晶やLT結晶は耐光性に優れているため、波長変換素子12に好適である。
【0027】
本発明の第1の実施形態に係るレーザモジュール10によれば、以下のような効果を奏する。
【0028】
一般的に、光共振器の出力光を効率良く得るために、光共振器内部の発振光の波長に対して光共振器の両端面が高反射率を有するように設定される。しかし、基本波とラマン光のそれぞれの波長に対して両端面が高反射率を有する光共振器では、光共振器の内部に基本波とラマン光それぞれに固有の縦モードが存在する。このため、複合共振器モードや和周波発生に起因する縦モードの揺らぎや変動が生じる。その結果、光共振器によって得られる出力光の波長が不安定になる。
【0029】
これに対し、レーザモジュール10では、光共振器100の内部で基本波Lbが共振しないように、第1の端面101と第2の端面102の反射率が設定されている。このため、光共振器100の内部に基本波Lbに由来する縦モードの揺らぎや変動が生じない。したがって、レーザモジュール10によれば、基本波Lbのラマンシフトによって生じるラマン光Lrについても縦モードの揺らぎや変動が発生せず、安定的にラマン光Lrの発振が得られる。更に、ラマン光Lrを波長変換した波長変換光も安定する。
【0030】
以上に説明したように、本発明の第1の実施形態に係るレーザモジュール10では、光共振器100の内部で基本波Lbは共振しないように第1の端面101と第2の端面102の反射率が設定される。このため、基本波Lbの共振モード光ではなく自然放出光によって、光共振器100の内部にラマン光Lrが発生する。その結果、上記に説明したように、ラマン光Lrやラマン光Lrを波長変換した波長変換光を安定化することができる。
【0031】
例えば、レーザモジュール10の温度変化に対して出力光Loutの出力値が安定するため、レーザモジュール10の温度を調整する装置を用意する必要がなくなる。このため、レーザモジュール10や、レーザモジュール10を搭載するレーザ装置の小型化や、消費電力の抑制による省エネルギー化を実現できる。
【0032】
図3に、レーザモジュール10を搭載したレーザ装置の構成例として、半導体レーザ励起固体レーザ装置1を示す。即ち、半導体レーザ励起固体レーザ装置1は、励起光Leを出射する半導体レーザ20とレーザモジュール10とを備える。
【0033】
半導体レーザ20は、レーザ駆動装置30によって駆動されて励起光Leを出射する。半導体レーザ20から出射された励起光Leは集光レンズ25によって集光され、集光された励起光Leがレーザモジュール10に入射する。レーザモジュール10のレーザ媒体11は、励起光Leによって励起されて基本波Lb及びラマン光Lrを生成する。そして、ラマン光Lrを波長変換した波長変換光が出力光Loutとして発生される。
【0034】
図3に示したように、半導体レーザ20、レーザモジュール10及び温度調整装置40が支持台15に搭載されている。温度調整装置40によって支持台15の温度を調整することにより、半導体レーザ20の温度が調整される。支持台15には、熱伝導率の高い材料、例えばアルミニウム材やインバー材などを使用可能である。温度調整装置40は、例えばペルチェ素子などを使用した構成を採用可能である。温度調整装置40は、温調駆動装置50によって駆動される。
【0035】
支持台15に取り付けられた温度検出装置60によって、半導体レーザ20の温度が検出される。温度検出装置60は、検出した温度を電気的な温度信号STとして制御装置70に送信する。温度検出装置60には、例えばサーミスタなどを使用可能である。温度信号STを受信することにより、制御装置70は、半導体レーザ20の温度をリアルタイムでモニタできる。制御装置70は、半導体レーザ20の温度が所定の設定温度であるように温調駆動装置50を制御する。例えば、モードホップを生じることなく一定の波長の単一縦モードの励起光Leを特定の設定出力値で出射するように、半導体レーザ20の温度が設定される。
【0036】
一方、レーザモジュール10は温度変化に対して安定であるため、レーザモジュール10についての温度調整装置は不要である。つまり、半導体レーザ励起固体レーザ装置1では半導体レーザ20についてのみ温度調整装置を用意すればよい。したがって、半導体レーザ励起固体レーザ装置1を小型化・省エネルギー化できる。
【0037】
また、温度変化に対して安定した励起光Leを出力する半導体レーザ20を使用することによって、半導体レーザ20の温度調整装置が不要になる。このため、半導体レーザ励起固体レーザ装置1を更に小型化・省エネルギー化できる。
【0038】
図3に示した半導体レーザ励起固体レーザ装置1では、レーザモジュール10から出射された出力光Loutは、ビームスプリッタ80によって分光される。分光された出力光Loutの一部は、受光素子90に入射され、電気信号に変換される。受光素子90は、出力光Loutの出力値に応じた電気的な出力信号Spを制御装置70に送信する。受光素子90には、例えばフォトダイオードなどを使用可能である。出力信号Spを受信することにより、制御装置70は、出力光Loutの出力値をリアルタイムでモニタできる。制御装置70は、出力光Loutの出力値が所定の範囲内であるように半導体レーザ20の励起光Leの出力を調整するために、レーザ駆動装置30を制御する。
【0039】
なお、出力光Loutの出力値をフィードバックして半導体レーザ20の出力を調整する必要がない場合には、制御装置70、ビームスプリッタ80、受光素子90などを使用しなくてもよい。これにより、半導体レーザ励起固体レーザ装置1を更に小型化することができる。
【0040】
レーザモジュール10を使用することによって、例えば図4に示すように、波長変換光である波長が589nmのSHG光について、10mWの安定した出力が得られた。図4の横軸は半導体レーザ20を駆動する駆動電流の値であり、縦軸は波長変換素子12により得られたSHG光の出力である。
【0041】
一般的に、半導体レーザ励起固体レーザ装置では、半導体レーザとレーザモジュール10を個別に温度制御して、それぞれが最適な温度に設定される。しかし、温度変化に対して安定して動作するレーザモジュール10を搭載することにより、上記のようにレーザ装置の小型化や省エネルギー化を実現できる。
【0042】
なお、半導体レーザ励起固体レーザ装置1の温度調整を行わない場合には、半導体レーザ20及びレーザモジュール10の温度特性で定まる一定の温度で、出力光Loutが安定して出力される。このため、分極反転周期を調整することによって所定の温度に対応できる分極反転構造素子が、波長変換素子12に好適に使用できる。
【0043】
<変形例>
図1では、ラマン光Lrの波長を波長変換素子12によって変換し、変換された波長変換光をレーザモジュール10の出力光Loutとする例を示した。しかし、波長変換素子12を用いずに、例えば図5に示すように、ラマン光Lrをレーザモジュール10の出力光Loutとしてもよい。即ち、光共振器100の内部に発生したラマン光Lrの一部が、アウトプットミラー13を透過して光共振器100の外部に出力される。
【0044】
また、レーザ媒体11を複数の結晶によって構成してもよい。例えば図6に示すように、励起光Leに励起された基本波Lbを生成する第1のレーザ結晶111と、内部で基本波Lbがラマンシフトされてラマン光Lrを発振する第2のレーザ結晶112とによって、レーザ媒体11を構成してもよい。
【0045】
(第2の実施形態)
本発明の第2の実施形態に係るレーザモジュール10は、図7に示すように、アウトプットミラー13を含まない点が、図1に示したレーザモジュール10と異なる。図7に示したレーザモジュール10では、レーザ媒体11と波長変換素子12によって光共振器100が構成されている。即ち、レーザ媒体11と波長変換素子12の外側の端面が、光学ミラーとして端面処理される。
【0046】
具体的には、波長変換素子12の互いに対向する2つの端面の一方が第2の端面102であり、波長変換素子12の他方の端面がレーザ媒体11と対向している。そして、励起光Leが入射するレーザ媒体11の端面が第1の端面101であり、第1の端面101と対向するレーザ媒体11の他方の端面が波長変換素子12と対向している。
【0047】
図7に示したレーザモジュール10では、波長変換素子12の第2の端面102は、ラマン光Lrに対してHRコート、波長変換光即ち出力光Loutに対してARコートであるように、端面処理される。また、第1の端面101及び第2の端面102の少なくともいずれかが、基本波Lbに対してARコートであるように端面処理される。
【0048】
第2の実施形態に係るレーザモジュール10では、アウトプットミラー13を使用しないことによって、レーザモジュール10を小型化できる。更に、レーザ媒体11と波長変換素子12とが一体構造であるため、レーザモジュール10を更に小型化できる。また、レーザモジュール10の組み立てにおける部品間の位置合わせ(アライメント)を少なくできるため、製造が容易である。このため、レーザモジュール10の量産化や低コスト化に有利である。
【0049】
レーザ媒体11と波長変換素子12を一体構造とするために、レーザ媒体11と波長変換素子12とは、接着剤又はオプティカルコンタクト法などにより一体化される。なお、レーザモジュール10を、特開2007−225786号公報に記載された製造方法によって製造される構造にしてもよい。即ち、波長変換結晶をダミー材で挟んだ波長変換素子12と、レーザ媒体11のレーザ結晶とを一体化した構造を採用可能である。波長変換結晶をダミー材で挟んだ構造とすることで、波長変換素子のレーザ結晶との接合領域が増加する。これにより、波長変換結晶のみをレーザ結晶と接合する場合に比べて、波長変換素子とレーザ結晶とを容易に接合できる。
【0050】
本発明の第2の実施形態に係るレーザモジュール10によれば、レーザモジュールの小型化及び製造容易化を実現することができる。他は、第1の実施形態と実質的に同様であり、重複した記載を省略する。例えば、図7に示したレーザモジュール10を図3に示したレーザ装置に搭載することができる。
【0051】
<変形例>
図7では、レーザ媒体11と波長変換素子12とが一体構造である例を示した。しかし、図8に示すように、レーザ媒体11と波長変換素子12とが離間した状態で光共振器100を構成してもよい。このようにして、レーザ媒体11と波長変換素子12とを個別に準備して、レーザモジュール10を製造することができる。
【0052】
(その他の実施形態)
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0053】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0054】
1…半導体レーザ励起固体レーザ装置
10…レーザモジュール
11…レーザ媒体
12…波長変換素子
13…アウトプットミラー
15…支持台
20…半導体レーザ
25…集光レンズ
30…レーザ駆動装置
40…温度調整装置
50…温調駆動装置
60…温度検出装置
70…制御装置
80…ビームスプリッタ
90…受光素子
100…光共振器
101…第1の端面
102…第2の端面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8