特許第6311700号(P6311700)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6311700硬質皮膜、硬質皮膜被覆部材、及びそれらの製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6311700
(24)【登録日】2018年3月30日
(45)【発行日】2018年4月18日
(54)【発明の名称】硬質皮膜、硬質皮膜被覆部材、及びそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/06 20060101AFI20180409BHJP
   C23C 14/32 20060101ALI20180409BHJP
   B23B 27/14 20060101ALI20180409BHJP
【FI】
   C23C14/06 A
   C23C14/32 A
   B23B27/14 A
【請求項の数】12
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2015-505525(P2015-505525)
(86)(22)【出願日】2014年3月12日
(86)【国際出願番号】JP2014056546
(87)【国際公開番号】WO2014142190
(87)【国際公開日】20140918
【審査請求日】2017年2月9日
(31)【優先権主張番号】特願2013-49318(P2013-49318)
(32)【優先日】2013年3月12日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-148811(P2013-148811)
(32)【優先日】2013年7月17日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2013-220814(P2013-220814)
(32)【優先日】2013年10月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000233066
【氏名又は名称】三菱日立ツール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(72)【発明者】
【氏名】府玻 亮太郎
(72)【発明者】
【氏名】久保田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】福永 有三
【審査官】 村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/002385(WO,A1)
【文献】 特開2009−090452(JP,A)
【文献】 特開2012−132035(JP,A)
【文献】 国際公開第1999/031289(WO,A1)
【文献】 特開平06−272715(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/002948(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
B23B 27/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(AlxTiyMz)aN1−a(但し、M元素はCr及び/又はWであり、x、y、z及びaはそれぞれ原子比で0.6≦x≦0.9、0.05≦y≦0.4、0≦z≦0.2、x+y+z=1及び0.2≦a≦0.8を満たす数字である。)で表される組成を有し、アークイオンプレーティング法により形成された硬質皮膜であって、
前記硬質皮膜のX線回折パターンがウルツ鉱型の単一構造を示し、前記ウルツ鉱型構造の(002)面のX線回折ピークが最大ピークであることを特徴とする硬質皮膜。
【請求項2】
請求項1に記載の硬質皮膜において、前記ウルツ鉱型構造の等価X線回折強度比TC(002)が2.5以上であることを特徴とする硬質皮膜。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の硬質皮膜において、M元素を含まないか又はM元素がWを主体とする場合、前記ウルツ鉱型構造の(002)面及び(100)面のX線回折ピーク強度I(002)及びI(100)の比が、I(002)/I(100)≧3.0の関係を満たすことを特徴とする硬質皮膜。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の硬質皮膜において、M元素がCrを主体とする場合、前記ウルツ鉱型構造の(002)面及び(103)面のX線回折ピーク強度I(002)及びI(103)の比がI(002)/I(103)≧3.0の関係を満たすことを特徴とする硬質皮膜。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の硬質皮膜を基体上に形成したことを特徴とする硬質皮膜被覆部材。
【請求項6】
請求項5に記載の硬質皮膜被覆部材において、前記基体と前記硬質皮膜との間に、物理蒸着法により、4a、5a及び6a族の元素、Al及びSiからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属元素と、B、O、C及びNからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素とを必須に含む中間層を形成したことを特徴とする硬質皮膜被覆部材。
【請求項7】
(AlxTiyMz)aN1-a(但し、M元素はCr及び/又はWであり、x、y、z及びaはそれぞれ原子比で0.6≦x≦0.9、0.05≦y≦0.4、0≦z≦0.2、x+y+z=1及び0.2≦a≦0.8を満たす数字である。)で表される組成を有する硬質皮膜を、アークイオンプレーティング法により基体上に形成する方法であって、
窒化ガス雰囲気中で、560〜650℃の温度に保持した前記基体上に前記硬質皮膜を形成する際に、前記基体にバイポーラパルスバイアス電圧を印加するとともに、アーク放電式蒸発源に備えられたAlTi合金又はAlTiM合金からなるターゲットにパルスアーク電流を通電し、
前記バイポーラパルスバイアス電圧が+5 V〜+15 Vの正バイアス電圧、−60 V〜−20 Vの負バイアス電圧、及び20〜50 kHzの周波数を有し、
前記パルスアーク電流が80〜110 Aの最大アーク電流値、40〜80 Aの最小アーク電流値、及び1〜15 kHzの周波数を有するとともに、前記最大アーク電流値と前記最小アーク電流値との差が10 A以上のほぼ矩形波状であることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項7に記載の硬質皮膜の製造方法において、前記硬質皮膜の被覆前の基体をTiイオンでエッチング処理することを特徴とする硬質皮膜の製造方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の硬質皮膜の製造方法において、前記パルスアーク電流のデューティ比を20〜50%にすることを特徴とする方法。
【請求項10】
(AlxTiyMz)aN1-a(但し、M元素はCr及び/又はWであり、x、y、z及びaはそれぞれ原子比で0.6≦x≦0.9、0.05≦y≦0.4、0≦z≦0.2、x+y+z=1及び0.2≦a≦0.8を満たす数字である。)で表される組成を有する硬質皮膜を基体上に有する硬質皮膜被覆部材を製造する方法であって、
窒化ガス雰囲気中で、560〜650℃の温度に保持した前記基体上にアークイオンプレーティング法により前記硬質皮膜を形成する際に、前記基体にバイポーラパルスバイアス電圧を印加するとともに、アーク放電式蒸発源に備えられたAlTi合金又はAlTiM合金からなるターゲットにパルスアーク電流を通電し、
前記バイポーラパルスバイアス電圧が+5 V〜+15 Vの正バイアス電圧、−60 V〜−20 Vの負バイアス電圧、及び20〜50 kHzの周波数を有し、
前記パルスアーク電流が80〜110 Aの最大アーク電流値、40〜80 Aの最小アーク電流値、及び1〜15 kHzの周波数を有するとともに、前記最大アーク電流値と前記最小アーク電流値との差が10 A以上のほぼ矩形波状であることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項10に記載の硬質皮膜被覆部材の製造方法において、前記硬質皮膜を形成する前に前記基体にTiイオンを用いてエッチング処理をすることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項10又は11に記載の硬質皮膜被覆部材の製造方法において、前記パルスアーク電流のデューティ比を20〜50%にすることを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑性に優れた(AlTiM)N皮膜及び硬質皮膜被覆部材、並びにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、被削材を高送りや高速で切削加工をするに当たり、高性能かつ長寿命の(AlTiM)N皮膜被覆切削工具が要望されている。また高性能かつ長寿命の(AlTiM)N皮膜被覆金型も切望されている。このような状況下で、「神戸製鋼技報Vol. 41,No. 3,July 1991 通巻第167号」は、第10頁の右欄に、(Ti0.3Al0.7)N皮膜ではB1型結晶構造(立方晶又は岩塩型構造とも呼ばれる。)の他に、微量のウルツ鉱型(六方晶とも呼ばれる。)とみなせる相が検出され、(Ti0.15Al0.85)N皮膜はウルツ鉱型構造を有すると記載している。
【0003】
特許第2644710号は、(AlxTi1-x)(NyC1-y)(但し、0.56≦x≦0.75、0.6≦y≦1)で表される化学組成を有し、かつNaCl型の結晶構造を有する厚さ0.8〜10μmの耐高温酸化性に優れた高硬度耐摩耗性皮膜が基材表面に形成された部材を開示している。特許第2644710号の図1は、AlNの割合が70モル%以上の場合にウルツ鉱型構造になることを示している。
【0004】
特表2008-533310号は、段落[0024]及び図3に、ターゲット電極5’、20’がパルス電源16に接続された構成のアーク蒸着コーティング装置を開示している。
【0005】
特開2003-113463号は、少なくとも一つのエッジ稜線を有する基材の表面に単層又は多層のTiAl化合物皮膜を形成した部材において、前記TiAl化合物皮膜が、TiとAlを含む窒化物,炭化物,炭窒化物,炭酸化物,窒酸化物及び炭窒酸化物の少なくとも一種からなり、かつ前記エッジ稜線の近接部ではTi/Al原子比が最大の第一層と、Ti/Al原子比が小さい第二層とからなり、中心部ではTi/Al原子比が一定の単層膜である部材を開示している。特開2003-113463号は表1中の比較例2の欄に、(Ti, Al)N皮膜の形成時のアーク電流を50〜90 Aにすると記載している。
【0006】
しかしいずれの文献も、アークイオンプレーティング法により(AlTiM)N皮膜を形成する際に、基体に所定条件のバイポーラパルスバイアス電圧を印加するとともに、アーク放電式蒸発源へ所定条件のパルスアーク電流を通電し、もってウルツ鉱型構造の(002)面に優先的に配向し、優れた潤滑性及び長寿命を有する(AlTiM)N皮膜を得るという技術的思想を開示も示唆もしていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の第一の目的は、従来の(AlTiM)N皮膜より優れた潤滑性を有し、長寿命である(AlTiM)N皮膜を提供することである。
【0008】
本発明の第二の目的は、かかる(AlTiM)N皮膜を形成した切削工具、金型等の部材を提供することである。
【0009】
本発明の第三の目的は、かかる(AlTiM)N皮膜を形成する方法を提供することである。
【0010】
本発明の第四の目的は、かかる(AlTiM)N皮膜を形成した部材を製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の硬質皮膜は、(AlxTiyMz)aN1-a(但し、M元素はCr及び/又はWであり、x、y、z及びaはそれぞれ原子比で0.6≦x≦0.9、0.05≦y≦0.4、0≦z≦0.2、x+y+z=1及び0.2≦a≦0.8を満たす数字である。)で表される組成を有し、アークイオンプレーティング法により形成されたもので、X線回折パターンがウルツ鉱型の単一構造を示し、前記ウルツ鉱型構造の(002)面のX線回折ピークが最大ピークであることを特徴とする。
【0012】
前記ウルツ鉱型構造の等価X線回折強度比TC(002)が2.5以上であると、本発明の硬質皮膜は顕著に向上した潤滑性を有する。
【0013】
本発明の硬質皮膜において、M元素を含まないか又はM元素がWを主体とする場合、前記ウルツ鉱型構造の(002)面及び(100)面のX線回折ピーク強度I(002)及びI(100)の比が、I(002)/I(100)≧3.0の関係を満たすと、より優れた潤滑性が得られる。前記関係式は、膜厚方向に対して垂直に配向する(002)面及び(100)面のX線回折ピーク強度比が3以上であることを意味する。
【0014】
本発明の硬質皮膜において、M元素がCrを主体とする場合、前記ウルツ鉱型構造の(002)面及び(103)面のX線回折ピーク強度I(002)及びI(103)の比が、I(002)/I(103)≧3.0の関係を満たすと、より優れた潤滑性が得られる。前記関係式は、膜厚方向に対して垂直に配向する(002)面及び(103)面の各X線回折ピーク強度比が3以上であることを意味する。
【0015】
本発明の硬質皮膜被覆部材は、上記硬質皮膜を基体上に形成したことを特徴とする。前記基体と前記硬質皮膜との間に、物理蒸着法により、4a、5a及び6a族の元素、Al及びSiからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属元素と、B、O、C及びNからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素とを必須に含む中間層を形成するのが好ましい。
【0016】
上記組成を有する硬質皮膜をアークイオンプレーティング法により基体上に形成する本発明の方法は、
窒化ガス雰囲気中で、560〜650℃の温度に保持した前記基体上に前記硬質皮膜を形成する際に、前記基体にバイポーラパルスバイアス電圧を印加するとともに、アーク放電式蒸発源に備えられたAlTi合金又はAlTiM合金からなるターゲットにパルスアーク電流を通電し、
前記バイポーラパルスバイアス電圧が+5 V〜+15 Vの正バイアス電圧、−60 V〜−20 Vの負バイアス電圧、及び20〜50 kHzの周波数を有し、
前記パルスアーク電流が80〜110 Aの最大アーク電流値、40〜80 Aの最小アーク電流値、及び1〜15 kHzの周波数を有するとともに、前記最大アーク電流値と前記最小アーク電流値との差が10 A以上のほぼ矩形波状であることを特徴とする。
【0017】
本発明の硬質皮膜被覆部材の製造方法は、
窒化ガス雰囲気中で、560〜650℃の温度に保持した前記基体上にアークイオンプレーティング法により上記組成を有する硬質皮膜を形成する際に、前記基体にバイポーラパルスバイアス電圧を印加するとともに、アーク放電式蒸発源に備えられたAlTi合金又はAlTiM合金からなるターゲットにパルスアーク電流を通電し、
前記バイポーラパルスバイアス電圧が+5 V〜+15 Vの正バイアス電圧、−60 V〜−20 Vの負バイアス電圧、及び20〜50 kHzの周波数を有し、
前記パルスアーク電流が80〜110 Aの最大アーク電流値、40〜80 Aの最小アーク電流値、及び1〜15 kHzの周波数を有するとともに、前記最大アーク電流値と前記最小アーク電流値との差が10 A以上のほぼ矩形波状であることを特徴とする方法。
【0018】
前記硬質皮膜をさらに高性能にするために、硬質皮膜の形成前に前記基体にTiイオンを用いてエッチング処理(Tiイオンボンバード処理)をするのが好ましい。また、(AlTiM)N皮膜を安定的に形成するために、前記パルスアーク電流のデューティ比を20〜50%にするのが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明の硬質皮膜はAlリッチな(AlTiM)Nの組成を有し、X線回折パターンがウルツ鉱型の単一構造を示し、かつウルツ鉱型構造の(002)面のX線回折ピークが最大ピークである多結晶粒からなるので、従来の(AlTiM)N皮膜に比べて顕著に潤滑性に富む。そのため、この皮膜を形成した部材(切削工具、金型等)は著しく長寿命である。
本発明の製造方法により、かかる長寿命の(AlTiM)N皮膜被覆部材を効率良く製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の硬質皮膜の形成に使用し得るアークイオンプレーティング装置の一例を示す概略断面図である。
図2】本発明の硬質皮膜形成時にアーク放電式蒸発源に印加するパルスアーク電流波形の一例を示す図である。
図3】実施例1の硬質皮膜被覆工具の断面を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率:25,000倍)である。
図4(a)】実施例1の(AlTi)N皮膜のX線回折パターンを示すグラフである。
図4(b)】従来例1の(AlTi)N皮膜のX線回折パターンを示すグラフである。
図5(a)】実施例1の(AlTi)N皮膜の表面を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率:3,000倍)である。
図5(b)】従来例1の(AlTi)N皮膜の表面を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率:3,000倍)である。
図6】実施例1の(AlTi)N皮膜の制限視野回折像を示す写真である。
図7】本発明の硬質皮膜被覆部材を構成するインサート基体の一例を示す斜視図である。
図8】インサートを装着した刃先交換式回転工具の一例を示す概略図である。
図9】硬質皮膜被覆金型の一例を示す部分断面概略図である。
図10】実施例39の硬質皮膜被覆工具の断面を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率:25,000倍)である。
図11】実施例39の(AlTiCr)N皮膜のX線回折パターンを示すグラフである。
図12】実施例39の(AlTiCr)N皮膜の制限視野回折像を示す写真である。
図13】実施例43の硬質皮膜被覆工具の断面を示す走査型電子顕微鏡写真(倍率:25,000倍)である。
図14】実施例43の(AlTiW)N皮膜のX線回折パターンを示すグラフである。
図15】実施例43の(AlTiW)N皮膜の制限視野回折像を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
[1] 硬質皮膜被覆部材
本発明の硬質皮膜被覆部材は、基体上に、アークイオンプレーティング法(AI法)により、(AlxTiyMz)aN1-a(但し、M元素はCr及び/又はWであり、x、y、z及びaはそれぞれ原子比で0.6≦x≦0.9、0.05≦y≦0.4、0≦z≦0.2、x+y+z=1及び0.2≦a≦0.8を満たす数字である。)で表される組成を有する硬質皮膜を形成してなる。硬質皮膜はMを含有するものと含有しないものがあるので、(AlTi)N皮膜又は(AlTiM)N皮膜と呼べるが、特に断らない限り両者をまとめて「(AlTiM)N皮膜」と呼ぶことにする。(AlTiM)N硬質皮膜のX線回折パターンはウルツ鉱型の単一構造を示し、前記ウルツ鉱型構造の(002)面のX線回折ピークが最大ピークである。
【0022】
(A) 基体
基体は600℃近くで物理蒸着法を適用できる材質である必要がある。基体の形成材料として、例えば超硬合金、サーメット、高速度鋼、工具鋼又は立方晶窒化ホウ素を主成分とする窒化ホウ素焼結体(cBN焼結体)に代表されるセラミックスが挙げられる。強度、硬度、耐摩耗性、靱性及び熱安定性等の観点から、WC基超硬合金製基体が好ましい。WC基超硬合金は、炭化タングステン(WC)粒子と、Co又はCoを主体とする合金の結合相とからなり、結合相の含有量は1〜13.5質量%が好ましく、3〜13質量%がより好ましい。結合相の含有量が1質量%未満では基体の靭性が不十分になり、結合相が13.5質量%超では硬度(耐摩耗性)が不十分になる。焼結後のWC基超硬合金の未加工面、研磨加工面及び刃先処理加工面のいずれの表面にも本発明の(AlTiM)N皮膜を形成できる。
【0023】
(B) (AlTiM)N皮膜
(1) 組成
AI法により、基体上に被覆される本発明の(AlTiM)N皮膜は、Al及びTiを必須元素とする窒化物からなる。(AlTiM)N皮膜の組成は、一般式:(AlxTiyMz)aN1-a(原子比)により表される。M元素はCr及び/又はWであり、x、y、z及びaはそれぞれ0.6≦x≦0.9、0.05≦y≦0.4、0≦z≦0.2、x+y+z=1及び0.2≦a≦0.8を満たす数字である。この組成により、(002)面が配向したウルツ鉱型を単一構造とする(AlTiM)N皮膜が得られる。
【0024】
M元素(Cr及び/又はW)の含有により(AlTiM)N皮膜はさらに緻密になり、耐酸化性が向上する。特にCrを含有する場合、結晶粒が大きくなり、かつウルツ鉱型構造の(002)面の配向が強められる。またWを含有する場合、高温安定性が増し、高温時の皮膜硬さが向上する。すなわち、Wの含有によりTi酸化物及びAl酸化物の生成温度が高くなるため、相分離が起こりにくくなり、ウルツ鉱型構造の(002)面に強く配向し、優れた切削性能及び金型性能を発揮する(AlTiM)N皮膜が得られる。
【0025】
Al、Ti及びM元素の総計(x+y+z)を1として、Alの割合を示すxが0.6未満では岩塩型構造が形成され、また0.9を超えると基体と(AlTiM)N皮膜との密着性が著しく損われる。xの好ましい範囲は0.65〜0.85である。
【0026】
Al、Ti及びM元素の総計(x+y+z)を1として、Tiの割合を示すyが0.05未満では基体と(AlTiM)N皮膜との密着性が著しく損われ、また0.4を超えると岩塩型構造が形成され、潤滑性が損なわれる。yの好ましい範囲は0.05〜0.35である。
【0027】
Al、Ti及びM元素の総計(x+y+z)を1として、M元素の割合を示すzは0.2以下であって、0でも良い。zが0.2を超えると岩塩型構造が形成され、潤滑性が損なわれる。zの好ましい範囲は0.05〜0.2である。
【0028】
(AlTiM)N皮膜中の金属成分と窒素との総計を1として、金属成分の割合(a)が0.2未満では(AlTi)N多結晶体の結晶粒界に不純物が取り込まれやすくなる。不純物は成膜装置の内部残留物に由来する。このような場合、(AlTiM)N皮膜の接合強度が低下し、外部衝撃によって容易に(AlTiM)N皮膜が破壊されてしまう。一方、aが0.8を超えると、金属成分の比率が過多となって結晶歪が大きくなり、基体との密着性が低下して(AlTiM)N皮膜が剥離しやすくなる。
【0029】
本発明の(AlTiM)N皮膜はC、B及びOの少なくとも一種を含有しても良い。その場合、C、B及びOの合計量はN含有量(1-a)の30原子%以下であるのが好ましい。高い潤滑性を保持するためには、C、B及びOの合計量は10原子%以下であるのがより好ましい。C、B及びOの少なくとも一種を含有する場合、(AlTiM)N皮膜は、窒炭化物、窒硼化物、窒酸化物、窒炭硼化物、窒炭酸化物又は窒炭硼酸化物と呼ぶことができる。
【0030】
(2) 膜厚
本発明の(AlTiM)N皮膜の平均厚さは0.5〜15μmが好ましく、1〜12μmがより好ましい。この範囲の膜厚により、基体と(AlTiM)N皮膜との剥離が抑制され、優れた潤滑性が発揮される。平均厚さが0.5μm未満では(TiAl)N皮膜の効果が実質的に得られない。また、平均厚さが15μmを超えると残留応力が過大になり、基体から剥離しやすくなる。(AlTiM)N皮膜は完全に平坦ではないので、単に「厚さ」という場合は平均厚さを意味するものとする。
【0031】
(3) 結晶構造
本発明の(AlTiM)N皮膜のX線回折パターンはウルツ鉱型の単一構造からなる。本発明の(AlTiM)N皮膜の透過型電子顕微鏡による制限視野回折パターンでは、ウルツ鉱型構造を主構造とし、その他の構造(岩塩型構造等)を副構造とすることが許容される。
【0032】
(4) 結晶配向
本発明の(AlTiM)N皮膜は、ウルツ鉱型構造の(002)面に強く配向した(AlTi)N多結晶粒から構成される。この結晶配向性は、後述するように、(AlTiM)N皮膜のX線回折パターンから等価X線回折強度比TC(002)を算出して評価する。本発明の(AlTiM)N皮膜の結晶面(hkl)には、(100)面、(002)面、(101)面、(102)面、(110)面、(103)面、(200)面、(112)面、(201)面及び(004)面がある。各結晶面の配向性は、計算する結晶面の数を10として、下記の等価X線回折強度比TC(100)、TC(002)、TC(101)、TC(102)、TC(110)、TC(103)、TC(200)、TC(112)、TC(201)及びTC(004)により数値化できる。
TC(100) = [I(100)/I0(100)]/Σ[I(hkl)/10I0(hkl)]・・・(1)
TC(002) = [I(002)/I0(002)]/Σ[I(hkl)/10I0(hkl)]・・・(2)
TC(101) = [I(101)/I0(101)]/Σ[I(hkl)/10I0(hkl)]・・・(3)
TC(102) = [I(102)/I0(102)]/Σ[I(hkl)/10I0(hkl)]・・・(4)
TC(110) = [I(110)/I0(110)]/Σ[I(hkl)/10I0(hkl)]・・・(5)
TC(103) = [I(103)/I0(103)]/Σ[I(hkl)/10I0(hkl)]・・・(6)
TC(200) = [I(200)/I0(200)]/Σ[I(hkl)/10I0(hkl)]・・・(7)
TC(112) = [I(112)/I0(112)]/Σ[I(hkl)/10I0(hkl)]・・・(8)
TC(201) = [I(201)/I0(201)]/Σ[I(hkl)/10I0(hkl)]・・・(9)
TC(004) = [I(004)/I0(004)]/Σ[I(hkl)/10I0(hkl)]・・・(10)
但し、(hkl)は(100)、(002)、(101)、(102)、(110)、(103)、(200)、(112)、(201)及び(004)である。
【0033】
TC(hkl)において、I(hkl)は(hkl)面からの実測X線回折ピーク強度であり、I0(hkl)はJCPDSファイル番号251133に記載されている標準X線回折ピーク強度である。上記式で定義されたTC(hkl)は、ウルツ鉱型構造の(hkl)面からの実測X線回折ピーク強度の相対強度を示し、TC(hkl)が大きいほど(hkl)面からのX線回折ピーク強度が他のX線回折面のピーク強度より大きい。これは(hkl)面が膜厚方向に対して垂直に配向していることを示す。
【0034】
本発明の(AlTiM)N皮膜は、上記等価X線回折強度比TCのうちTC(002)が最大である。具体的には、TC(002)は2.5以上が好ましく、2.5〜7がより好ましく、3〜6が最も好ましい。TC(002)が5〜6で(002)面への配向が特に強まり、潤滑効果が向上する。TC(002)が2.5未満では(002)面への配向が不足し、潤滑性が不十分である。一方、TC(002)が7超では耐摩耗性が低下する。
【0035】
ウルツ鉱型構造の(002)面は結晶格子のc軸に対して平行であり、TC(002)≧2.5は(AlTiM)N皮膜を構成する多結晶粒が基体表面に対して平行な方向に優位に大きく成長していることを示す。ウルツ鉱型構造の最も脆弱なすべりは(002)面同士のすべりである。これは(002)面同士の結合力が弱く破壊し易いことによる。ウルツ鉱型構造の(002)面がTC(002)≧2.5を満たす場合、僅かな外力で(002)面同士の結合は容易に破壊され、(002)面が層状に破壊される。その結果、被削材と(AlTiM)N皮膜とが接触する部分が顕著にすべりやすくなり、もって切削加工時や型成型時に発生する(AlTiM)N被覆部材の摩耗量が小さく抑えられる。さらに、本発明のウルツ鉱型構造の(AlTiM)N皮膜は、被削材に含有される金属元素(Fe、Ni等)に対して濡れ性が非常に悪いから、被削材の構成成分の溶着を少なく抑えることができる。このように、ウルツ鉱型構造の(002)面に強く配向させた本発明の(AlTiM)N皮膜を基体上に形成した切削工具又は金型は顕著に向上した潤滑性を有する。
【0036】
(C) 中間層
基体と(AlTiM)N皮膜との間に、物理蒸着法により、4a、5a及び6a族の元素、Al及びSiからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素と、B、O、C及びNからなる群から選ばれた少なくとも一種の元素とを必須に含む中間層を形成するのが実用的である。中間層として、例えば、TiN、岩塩型構造を主構造とする(TiAl)N、(TiAl)NC、(TiAl)NCO、(TiAlCr)N、(TiAlCr)NC、(TiAlCr)NCO、(TiAlNb)N、(TiAlNb)NC、(TiAlNb)NCO、(TiAlW)N、(TiAlW)NC及び(TiAlW)NCO、(TiSi)N、(TiB)N、TiCN、Al2O3、Cr2O3、(AlCr)2O3、(AlCr)N、(AlCr)NC及び(AlCr)NCOからなる群から選ばれた少なくとも一種の皮膜が挙げられる。
【0037】
[2] 成膜装置
(AlTiM)N皮膜の成膜にはアークイオンプレーティング装置(AI装置)を使用することができ、中間層の成膜にはAI装置又はその他の物理蒸着装置(スパッタリング装置等)を使用することができる。この成膜装置は、絶縁物13を介して減圧容器5に取り付けられたアーク放電式蒸発源12,27と、アーク放電式蒸発源12,27に取り付けられたターゲット10,17と、アーク放電式蒸発源12,27に接続したアーク放電用電源11,11と、軸受け部4を介して減圧容器5に回転軸線に支持された支柱6と、基体7を保持するために支柱6に支持された保持具8と、支柱6を回転させる駆動部1と、基体7にバイアス電圧を印加するバイアス電源3とを具備する。減圧容器5には、ガス導入部2及び排気口16が設けられている。アーク点火機構15,15は、アーク点火機構軸受部14,14を介して減圧容器5に取り付けられている。電極19は絶縁物18を介して減圧容器5に取り付けられている。ターゲット10,17と基体7との間には、遮蔽板軸受け部20を介して減圧容器5に取り付けられた遮蔽板22が設けられている。遮蔽板22は遮蔽板駆動部21により例えば上下左右に移動自在であり、遮蔽板22による遮蔽を解除した状態で(AlTiM)N皮膜の形成が行われる。
【0038】
(A) ターゲット
本発明の(AlTiM)N皮膜の成膜用ターゲットとして、不可避的不純物以外AlxTiyMz(但し、M元素はCr及び/又はWであり、x、y及びzはそれぞれ原子比で0.6≦x≦0.9、0.05≦y≦0.4、0≦z≦0.2、x+y+z=1を満たす数字である。)で表される組成を有するAlTi合金又はAlTiM合金を使用するのが好ましい。以下特に断らなければ、両合金をまとめて「AlTiM合金」と呼ぶ。x、y及びzが0.6≦x≦0.9、0.05≦y≦0.4、及びz≦0.2の条件を満たさないと、本発明の(AlTiM)N皮膜が得られない。
【0039】
(B) アーク放電式蒸発源、アーク放電用電源
図1に示すように、アーク放電式蒸発源12、27はそれぞれ陰極物質のターゲット(AlTiM合金)10、17を備え、アーク放電用電源11、11から、後述の条件でターゲット10、17にパルスアーク電流が通電される。図1には図示していないが、アーク放電式蒸発源12、27には磁場発生手段(電磁石及び/又は永久磁石)が設けられ、(AlTiM)N皮膜を形成する基体7の近傍に数十G(例えば10〜50 G)の空隙磁束密度の磁場分布が形成される。
【0040】
AlTiM合金からなるターゲットは低融点金属のAlを含むため、ターゲット上を移動するアークスポットがAlの部分で停滞しやすい。アークスポットの移動が滞留すると、その滞留部分に大きな溶解部が生じ、その液滴(「ドロップレット」と呼ばれる)が基体の表面に付着し、(AlTiM)N皮膜の表面を荒らす。ドロップレットの存在はまたウルツ鉱型構造を有する結晶粒の減少及び成長の阻害を引き起こし、最終的にウルツ鉱型構造の(002)面の配向率を大きく低下させる。さらに、ドロップレットが多い(AlTiM)N皮膜は非晶質に近い形態(無配向の状態)になる。
【0041】
AI法により本発明の(AlTiM)N皮膜を形成するにあたり、ドロップレットの発生を抑制し、かつウルツ鉱型構造の(002)面に優先的に配向させるために、基体へのバイポーラパルスバイアス電圧を所定条件で印加するとともに、アーク放電式蒸発源のターゲットにパルスアーク電流を所定条件で通電する必要がある。
【0042】
(C) バイアス電源
図1に示すように、基体7に、バイアス電源3から、直流電圧又はバイポーラパルスバイアス電圧が印加される。
【0043】
[3] 成膜条件
ウルツ鉱型構造の(002)面に強く配向した本発明の(AlTiM)N皮膜は、基体にバイポーラパルスバイアス電圧を印加するとともに、アーク放電式蒸発源のターゲットにパルスアーク電流を通電する成膜条件でAI法を行うことにより製造することができる。以下、本発明の(AlTiM)N皮膜の成膜条件を工程ごとに説明する。
【0044】
(A) 基体のクリーニング工程
図1に示すAI装置の保持具8上に基体7をセットした後、減圧容器5内を1.5×10-2 Paの真空に保持しながら、ヒーター(図示省略)により基体7を250〜650℃の温度に加熱する。図1では円柱体で示されているが、基体7はソリッドタイプのエンドミル又はインサート等の種々の形状を取り得る。その後、Arガスを減圧容器5内に導入して0.5〜10 PaのArガス雰囲気とする。この状態で基体7にバイアス電源3により−250 V〜−150 Vの直流バイアス電圧又はパルスバイアス電圧を印加して基体7の表面をArガスによりボンバード処理をし、クリーニングする。
【0045】
基体温度が250℃未満ではArガスによるエッチング効果がなく、また650℃超ではArガスによるエッチング効果が飽和して工業生産性が低下する。基体温度は基体に埋め込んだ熱電対により測定する。減圧容器5内のArガスの圧力が0.5〜10 Paの範囲外であると、Arガスによるボンバード処理が不安定となる。直流バイアス電圧又はパルスバイアス電圧の印加電圧が−250 V未満では基体にアーキングの発生が起こり、−150 V超ではエッチングによるクリーニング効果が十分に得られない。
【0046】
(B) (AlTiM)N皮膜の成膜工程
基体のクリーニング処理後に、基体7上に(AlTiM)N皮膜を形成する。この際、窒化ガスを使用し、アーク放電式蒸発源12、27に取り付けたターゲット10、17の表面にアーク放電用電源11、11から後述の条件でパルスアーク電流を通電する。同時に、所定温度に制御した基体7に、バイアス電源3から後述の条件によりバイポーラパルスバイアス電圧を印加する。
【0047】
(1) 基体温度
(AlTiM)N皮膜の成膜時に基体温度を560〜650℃にする必要がある。基体温度が560℃未満ではウルツ鉱型の単一構造が得られず、650℃超では岩塩型構造が安定になり、ウルツ鉱型構造が得られない。基体温度は560〜630℃が好ましい。
【0048】
(2) 窒化ガスの種類及び圧力
基体7に(AlTiM)N皮膜を形成するための窒化ガスとして、例えば窒素ガス、アンモニアガスと水素ガスとの混合ガス等を使用することができる。窒化ガスの圧力は2〜6 Paにするのが好ましい。2 Pa未満では窒化物の生成が不十分となり、6 Pa超では窒化ガスの添加効果が飽和する。
【0049】
(3) 基体に印加するバイポーラパルスバイアス電圧
ウルツ鉱型構造の(002)面に配向した(AlTiM)N皮膜を得るために、正バイアス電圧及び負バイアス電圧からなるほぼ矩形状のバイポーラパルスバイアス電圧を基体へ印加する必要がある。正バイアス電圧(ゼロから正側への立ち上がりの急峻な部分を除いた正のピーク値)は+5 V〜+15 Vであり、+8 V〜+15 Vが好ましい。この範囲内で十分に基体7の帯電を防止できるから、ウルツ鉱型構造の(002)面の配向を促進させることができる。正バイアス電圧のピーク値が+5 V未満では帯電防止効果を得られず、ウルツ鉱型構造の(002)面に配向しない。一方+15 V超では(AlTiM)N皮膜の成膜速度が急激に遅くなり、実用的でない。負バイアス電圧(ゼロから負側への立ち下がりの急峻な部分を除いた負のピーク値)は−60 V〜−20 Vであり、−50 V〜―20 Vが好ましい。負バイアス電圧が−60 V未満ではウルツ鉱型構造の(002)面が配向せず(最大ピークではなく)、−20 V超ではウルツ鉱型構造が不安定になる。
【0050】
バイポーラパルスバイアス電圧の周波数は20〜50 kHzであり、30〜40 kHzが好ましい。周波数が20〜50 kHzの範囲外ではウルツ鉱型構造が不安定になるか、ウルツ鉱型構造の(002)面が配向しない。
【0051】
(4) パルスアーク電流
(AlTiM)N皮膜の形成時のドロップレットの発生を抑制するために、各ターゲット10、17にパルスアーク電流を通電する。パルスアーク電流は、例えば図2(実施例1のパルスアーク電流の通電波形)に概略的に示すように、少なくとも2段階のほぼ矩形状のパルス波である。パルスアーク電流の安定領域における最小値(Amin)及び最大値(Amax)の設定が極めて重要である。図2において、tminは周期Tにおけるパルスアーク電流の安定領域における最小値Amin側の通電時間であり、tmaxは周期Tにおけるパルスアーク電流の安定領域における最大値Amax側の通電時間である。
【0052】
図2に示すように、AminからAmaxに至る立ち上がりの急峻な部分を除いた安定領域においてAmax及びtmaxを求める。図2ではAmaxからAminに至る立ち下がりの急峻な部分は認められないが、この急峻な部分が存在する場合はこの部分を除いた安定領域においてAmin及びtminを求める。パルスアーク電流波形の1パルス(周期T)において、最大値側の安定領域は急峻な部分を除いた最大値の96〜100%の範囲であり、最小値側の安定領域は急峻な部分を除いた最小値の100〜104%の範囲である。
【0053】
(AlTiM)N皮膜の形成時のドロップレットの発生を抑制するために、Aminは40〜80 Aであり、40〜70 Aが好ましい。Aminが40 A未満ではアーク放電が起こらず、成膜できない。一方、Aminが80 A超ではドロップレットが増加し、ウルツ鉱型構造の(AlTiM)N皮膜の(002)面が配向しない。Amaxは80〜110 Aであり、85〜100 Aが好ましい。Amaxが80〜110 Aの範囲外であると、ウルツ鉱型構造が不安定になるか、ウルツ鉱型構造の(002)面が配向しない。
【0054】
AmaxとAminとの差ΔAは10 A以上であり、10〜60 Aが好ましく、20〜50 Aがより好ましい。ΔAが10 A未満であるとドロップレットが増加し、ウルツ鉱型構造が得られないか、得られてもその(002)面が最大ピークではない。
【0055】
パルスアーク電流におけるtmaxとtminとの出力割合はデューティ比Dで制御する。デューティ比Dは下記式:
D=[tmin/(tmin+tmax)]×100%
(ただし、tminはパルスアーク電流の最小値Aminの安定領域における通電時間であり、tmaxはパルスアーク電流の最大値Amaxの安定領域における通電時間である。)で定義される。
【0056】
デューティ比Dは20〜50%であるのが好ましく、25〜45%がより好ましい。デューティ比Dが20〜50%の範囲外であると、ウルツ鉱型構造が不安定になるか、ウルツ鉱型構造の(002)面が配向しない傾向が大きくなる。ただし、パルスアーク電流の波形は図2に示す2段階に限定されず、少なくともAmax及びAminの安定領域を有する波形であれば3段階以上(例えば3〜10段階)でも良い。
【0057】
パルスアーク電流の周波数は1〜15 kHzであり、1〜4 kHzが好ましい。パルスアーク電流の周波数が1〜15 kHzの範囲外であると、ウルツ鉱型構造が不安定になるか、ウルツ鉱型構造の(002)面が配向しない。
【0058】
(AlTiM)N皮膜の形成にあたり、パルスバイアス電圧の印加条件及びパルスアーク電流の通電条件を上記最適範囲内に設定することにより、アークスポットはAl部分に停滞することなくターゲット上を均一に移動するので、ターゲット表面のAlTiM合金は均一に溶融、蒸発し、ドロップレットの発生が非常に少なくなる。その結果、基体上に形成される(AlTiM)N皮膜のウルツ鉱型構造が安定し、かつウルツ鉱型構造の(002)面の配向が強まり、性能が向上する。
【0059】
後述するように従来例1の(AlTiM)N皮膜ではウルツ鉱型構造の(100)面配向となり、ウルツ鉱型構造の(002)面が配向しなかった。本発明の(AlTiM)N皮膜のX線回折パターンにおいてウルツ鉱型構造の(002)面のX線回折ピークが最大ピークになること、即ちウルツ鉱型構造の(002)面が配向するメカニズムは必ずしも明らかではないが、以下のように考えられる。上記のとおり、本発明の(AlTiM)N皮膜の形成にあたり、所定条件のパルスバイアス電圧の印加によって、基体7の表面のマイクロアーキングが抑制され、減圧容器5内に導入されるガス成分のイオン化率が高められる。さらに、所定条件のパルスアーク電流の通電によって、ターゲット10、17を構成するAl、Ti(及びM元素)のイオン化率が変化し、もってAl、Ti及びN(及びM元素)によって形成されるプラズマの密度が変化することにより、基体7に到達するAl、Ti及びN(及びM元素)の各イオン量がウルツ鉱型構造の(002)面の配向に適するようになるからであると考えられる。
【0060】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は勿論それらに限定されるものではない。
【0061】
実施例1
(1) 基体のクリーニング
6.0質量%のCoを含有し、残部がWC及び不可避的不純物からなる組成を有するWC基超硬合金製の高送りミーリングインサート基体(図7に示す形状を有する日立ツール株式会社製のEDNW15T4TN-15)、及び物性測定用インサート基体(日立ツール株式会社製のSNMN120408)を、図1に示すAI装置の保持具8上にセットし、真空排気と同時にヒーター(図示省略)で600℃まで加熱した。その後、Arガスを500 sccm(1 atm及び25℃におけるcc/分、以下同様)導入して減圧容器5内の圧力を2.0 Paに調整するとともに、各基体に負の直流バイアス電圧−200 Vを印加してArイオンのエッチングにより各基体のクリーニングを行った。
【0062】
(2) (AlTi)N皮膜の形成
基体温度を600℃に保持したまま、窒素ガスを700 sccm導入して減圧容器5内の圧力を3.2 Paに調整した。Al0.85Ti0.15(原子比)の組成のAlTi合金からなるターゲット10、17を、アーク放電用電源11、11が接続されたアーク放電式蒸発源12、27にそれぞれ配置した。
【0063】
バイアス電源3により各基体に、+10 Vの正バイアス電圧、−40 Vの負バイアス電圧、及び40 kHzの周波数を有するほぼ矩形波状のバイポーラパルスバイアス電圧を印加した。バイポーラパルスバイアス電圧の印加とともに、ターゲット10、17の表面にアーク放電用電源11、11からほぼ矩形波状のパルスアーク電流を通電しながら、(AlTi)N硬質皮膜を形成した。図2に示すように、パルスアーク電流の最小値Aminは50 Aで、最大値Amaxは100 Aであり、周波数は4 kHz(周期T=2.5×10-4秒/パルス)であり、デューティ比Dは35%であった。この条件で、各基体上に厚さ3.0μmの(Al0.82Ti0.18)0.33N0.67皮膜(原子比)を被覆した。前記組成は、前記皮膜の厚さ方向の中心位置を、電子プローブマイクロ分析装置EPMA(日本電子株式会社製、JXA-8500F)により、加速電圧10 kV、照射電流0.05 A及びビーム径0.5μmの条件で測定したものである。
【0064】
図3は、(AlTi)N皮膜を形成した物性測定用インサート基体の断面組織を示す走査型電子顕微鏡(SEM)写真(倍率:25,000倍)である。図3において、41は基体であり、42は(AlTi)N皮膜である。
【0065】
(3) (AlTi)N皮膜のX線回折パターン
物性測定用インサート基体上の(AlTi)N皮膜の結晶構造及び結晶配向を測定するために、X線回折装置(Panalytical社製のEMPYREAN)を使用し、CuKα1線(波長λ:0.15405 nm)を(AlTi)N皮膜に照射して、以下の条件でX線回折パターン[図4(a)]を得た。
管電圧:45 kV
管電流:40 mA
入射角ω:3°に固定
2θ:30〜80°
【0066】
図4(a) において、w-(002)、w-(100)、w-(101)及びw-(112)はそれぞれウルツ鉱型構造のX線回折ピークを示す。図4(a) はいずれのX線回折ピークもウルツ鉱型構造のものであることを示し、実施例1の(AlTi)N皮膜はウルツ鉱型の単一構造であることが確認された。
【0067】
(4) ドロップレットの測定
図5(a) は、物性測定用インサートの(AlTi)N皮膜の表面を示すSEM写真(倍率:3,000倍)である。このSEM写真の縦35μm×横40μmの視野において、直径1μm以上のドロップレットをカウントした結果、実施例1の(AlTi)N皮膜の表面は、後述の従来例1の(AlTi)N皮膜の表面(図5b)に比べて、ドロップレットが少ないことが分かる。
【0068】
(5) (AlTi)N皮膜の制限視野回折図形
透過型電子顕微鏡TEM(日本電子株式会社製のJEM-2100)を用いて、物性測定用インサートの(AlTi)N皮膜の制限視野回折図形(回折パターン)を、200 kVの加速電圧及び50 cmのカメラ長の条件で観察した。得られた制限視野回折図形(図6)において、w-(002)、w-(100)、w-(101)及びw-(102)はウルツ鉱型構造の回折スポットを示し、c-(200)は岩塩型構造の回折スポットを示す。図6から、回折スポットの殆どはウルツ鉱型構造であり、岩塩型構造に起因する回折スポットは僅かであり、物性測定用インサートの(AlTi)N皮膜は、TEMの制限視野回折パターンではウルツ鉱型構造を主構造とすることが分かる。
【0069】
表1は、JCPDSファイル番号251133に記載されているウルツ鉱型構造を有するAlNの標準X線回折強度I0及び2θを示す。AlNは(AlTi)Nと同一のウルツ鉱型構造を有し、かつ組成が類似するので、本発明の(AlTi)N皮膜の標準X線回折強度I0(hkl)として表1の数値を採用した。
【0070】
【表1】
【0071】
実施例1の硬質皮膜被覆部材では、ウルツ鉱型構造の(100)面、(002)面、(101)面、及び(112)面の配向性をそれらの等価X線回折強度比TC(hkl)により評価した。TC(hkl)は[1] (B) (4) の段落に記載の式(1)〜(10) により求めた。表2は、(AlTi)N皮膜のX線回折ピーク強度の実測値及びTC(hkl)値を示す。X線回折ピークが観察されたウルツ鉱型構造の結晶面のうち、TC(002)が6.2で最大であった。
【0072】
【表2】
注:(1) X線回折ピークは観察されなかった。
【0073】
(6) 工具寿命の測定
(AlTi)N皮膜を被覆した4つの高送り切削工具用インサート30(図7)を、図8に示す刃先交換式回転工具(日立ツール株式会社製、ASR5063-4)40の工具本体36の先端部38に止めねじ37で装着した。工具40の刃径は63 mmであった。以下の判断基準により工具寿命を測定するために、下記の転削条件で切削加工を行い、倍率100倍の光学顕微鏡で単位時間ごとにサンプリングしたインサート30のすくい面を観察し、すくい面の(AlTi)N皮膜が滅失して基体のWC基超硬合金が表面に露出したときの加工時間を工具寿命と判定した。
【0074】
切削加工条件
加工方法: 高送り連続転削加工
被削材: 130 mm×250 mmのS50C角材
使用インサート: EDNW15T4TN-15(ミーリング用)
切削工具: ASR5063-4
切削速度: 300 m/分
1刃当たりの送り量: 1.5 mm/刃
軸方向の切り込み量: 1.0 mm
半径方向の切り込み量:44.0 mm
切削液: 無(乾式加工)
【0075】
(AlTi)N皮膜について組成、X線回折及び電子回折の結果及びドロップレットの測定結果とともに、工具寿命を表3に示す。表3から明らかなように、実施例1の高送り切削工具用インサート30は36分と長寿命であった。
【0076】
実施例2〜4、及び比較例1及び2
(1) (AlTi)N皮膜組成
原子比でそれぞれAl0.90Ti0.10合金(実施例2)、Al0.71Ti0.29合金(実施例3)、Al0.62Ti0.38合金(実施例4)、Al0.05Ti0.95合金(比較例1)、及びAl0.96Ti0.04合金(比較例2)からなるターゲットを使用した以外、実施例1と同様にして各切削工具(インサート)を作製し、評価した。各(AlTi)N皮膜の組成及びX線回折結果、電子回折結果、ドロップレットの測定結果、及び工具寿命を表3に示す。
【0077】
【表3-1】
【0078】
【表3-2】
注:(1) 単一構造。
(2) 主構造。
【0079】
表3から明らかなように、実施例2〜4の硬質皮膜被覆工具はドロップレットが少なく、18分以上と長寿命であったが、比較例1及び2の硬質皮膜被覆工具は工具寿命がそれぞれ6分及び9分と短かった。この理由は、比較例1では(AlTi)N皮膜が岩塩型構造であるために潤滑性が劣ったからであり、比較例2では(AlTi)N皮膜がAlを過剰に含有し、ドロップレットが多く形成されたためである。
【0080】
実施例5、及び比較例3及び4
本発明の(AlTi)N皮膜に及ぼす基体温度の影響を明らかにするため、基体温度を実施例5では560℃にし、比較例3では400℃にし、比較例4では700℃にした以外、実施例1と同様にして各切削工具(インサート)を作製し、評価した。各(AlTi)N皮膜の組成、X線回折結果、電子回折結果、及び工具寿命を表4に示す。
【0081】
【表4-1】
【0082】
【表4-2】
注:(1) 単一構造。
(2) 主構造。
【0083】
表4から明らかなように、実施例5の硬質皮膜被覆工具は21分と長寿命であったが、比較例3及び4の硬質皮膜被覆工具は、(AlTi)N皮膜がウルツ鉱型構造であるが(100)面に配向しているために、短寿命であった。
【0084】
実施例6及び7、及び比較例5及び6
バイポーラパルスの負バイアス電圧
本発明の(AlTi)N皮膜に及ぼすバイポーラパルスの負バイアス電圧の負側のピーク値の影響を調べるために、基体に印加する前記ピーク値を、実施例6では−20 V、実施例7では−60 V、比較例5では−10 V、比較例6では−80 Vにした以外、実施例1と同様にして各切削工具(インサート)を作製し、評価した。各(AlTi)N皮膜の組成、X線回折結果、電子回折結果、及び工具寿命を表5に示す。
【0085】
【表5-1】
【0086】
【表5-2】
注:(1) 単一構造。
(2) 主構造。
【0087】
表5から明らかなように、実施例6及び7では工具寿命は21分以上と長かったが、負バイアス電圧の上限及び下限を外れた比較例5及び6ではウルツ鉱型構造の(002)面が配向せず、工具寿命が短かった。
【0088】
実施例8及び9、及び比較例7及び8
(AlTi)N皮膜に及ぼすバイポーラパルスの正バイアス電圧のピーク値の影響を調べるために、ピーク値を、実施例8では5 Vとし、実施例9では15 Vとし、比較例7では3 Vとし、比較例8では20 Vにした以外、実施例1と同様にして各切削工具(インサート)を作製し、評価した。各(AlTi)N皮膜の組成、X線回折結果、電子回折結果、及び工具寿命を表6に示す。
【0089】
【表6-1】
【0090】
【表6-2】
注:(1) 単一構造。
(2) 主構造。
【0091】
表6から明らかなように、実施例8及び9の硬質皮膜被覆工具はいずれも30分以上と長寿命であったが、比較例7及び8の硬質皮膜被覆工具は(AlTi)N皮膜にウルツ鉱型構造の(002)面配向がなかったので、短寿命であった。
【0092】
実施例10及び11、及び比較例9及び10
(AlTi)N皮膜に及ぼすバイポーラパルスバイアス電圧の周波数の影響を調べるために、パルスバイアス電圧の周波数を、実施例10では20 kHzとし、実施例11では50 kHzとし、比較例9では10 kHzとし、比較例10では80 kHzにした以外、実施例1と同様にして各切削工具(インサート)を作製し、評価した。各(AlTi)N皮膜の組成、X線回折結果、電子回折結果、及び工具寿命を表7に示す。
【0093】
【表7-1】
【0094】
【表7-2】
注:(1) 単一構造。
(2) 主構造。
【0095】
表7から明らかなように、実施例10及び11の硬質皮膜被覆工具の寿命はいずれも30分以上と長かったが、比較例9及び10の硬質皮膜被覆工具は短寿命であった。この理由は、比較例9ではパルスバイアスの周波数が過小で帯電が発生し、ウルツ鉱型構造の(002)面に配向しなかったためであり、比較例10ではパルスバイアスの周波数が過大で帯電が解消されず、ウルツ鉱型構造の(002)面に配向しなかったためである。
【0096】
実施例12〜15、及び比較例11及び12
(AlTi)N皮膜に及ぼすパルスアーク電流の周波数の影響を調べるために、前記周波数を、実施例12では1 kHzとし、実施例13では8 kHzとし、実施例14では12 kHzとし、実施例15では15 kHzとし、比較例11では0.5 kHzとし、比較例12では20 kHzとした以外、実施例1と同様にして各切削工具(インサート)を作製し、評価した。各(AlTi)N皮膜の組成、X線回折結果、電子回折結果、及び工具寿命を表8に示す。
【0097】
【表8-1】
【0098】
【表8-2】
注:(1) 単一構造。
(2) 主構造。
【0099】
表8から明らかなように、実施例12〜15の硬質皮膜被覆工具はいずれも27分以上と長寿命であったが、比較例11及び12の硬質皮膜被覆工具は短寿命であった。この理由は、(AlTi)N皮膜のドロップレットが減少せず、ウルツ鉱型構造の(002)面が配向しなかったためである。
【0100】
実施例16-1〜16-5、比較例13、及び従来例1
(AlTi)N皮膜に及ぼすパルスアーク電流のAmin、Amax及びΔA(=Amax−Amin)の影響を調べるために、表9に示すようにAmin、Amax及びΔAを変化させた以外、実施例1と同様にして各切削工具(インサート)を作製し、評価した。各(AlTi)N皮膜の組成、X線回折結果、電子回折結果、ドロップレットの測定結果、及び工具寿命を表10に示す。
【0101】
【表9】
注:(1) デューティ比。
(2) ΔA=Amax−Amin。
【0102】
【表10-1】
【0103】
【表10-2】
注:(1) 単一構造。
(2) 主構造。
【0104】
表9及び表10から、Amin=40〜80 A、Amax=80〜110 A及びΔA=10〜60 Aの範囲内の成膜条件下で形成した実施例16-1〜16-5の硬質皮膜ではいずれもウルツ鉱型構造の(002)面が強く配向しており、各工具は長寿命であった。これに対し、比較例13及び従来例1の工具は短寿命であった。これは、Amin、Amax及びΔAがいずれも本発明の範囲外である比較例13、及びアーク電流がパルスでない従来例1の(AlTi)N皮膜では、ドロップレットが顕著に発生し、ウルツ鉱型構造の(002)面が配向しなかったためである。
【0105】
特に従来例1の(AlTi)N皮膜は、図4(b) のX線回折パターンから明らかなようにウルツ鉱型構造の(100)面の配向が最大であり、また図5(b) のSEM写真(倍率:3,000倍)から明らかなように表面にドロップレットを非常に多く有していた。
【0106】
実施例17及び18、及び比較例14及び15
(AlTi)N皮膜に及ぼすパルスアーク電流におけるAminのデューティ比Dの影響を調べるために、デューティ比Dを、実施例17では50%とし、実施例18では20%とし、比較例14では10%とし、比較例15では65%とした以外、実施例1と同様にして各切削工具(インサート)を作製し、評価した。各(AlTi)N皮膜の組成、X線回折結果、電子回折結果、及び工具寿命を表11に示す。
【0107】
【表11-1】
【0108】
【表11-2】
注:(1) 単一構造。
(2) 主構造。
【0109】
表11から明らかなように、実施例17及び18の工具は30分以上と長寿命であったが、比較例14及び15の工具は短寿命であった。これは、比較例14ではデューティ比Dが過小であり、比較例15ではデューティ比Dが過大であるため、ウルツ鉱型構造の(002)面が配向しなかったためである。
【0110】
実施例19〜22
成膜時間を調整することにより(AlTi)N皮膜の膜厚を、実施例19では1.0μmとし、実施例20では6.0μmとし、実施例21では8.0μmとし、実施例22では10.0μmとした以外、実施例1と同様にして各切削工具(インサート)を作製し、評価した。各(AlTi)N皮膜の組成、X線回折結果、電子回折結果、及び工具寿命を表12に示す。表12から明らかなように、実施例19〜22の硬質皮膜被覆工具は21分以上と長寿命であった。
【0111】
【表12-1】
【0112】
【表12-2】
注:(1) 単一構造。
(2) 主構造。
【0113】
実施例23〜34
本発明の硬質皮膜被覆部材に及ぼす中間層の影響を調べるために、実施例1と同じ基体及び(AlTi)N皮膜の間に、表13-1の各ターゲットをそれぞれ使用して表13-2に示す各中間層を形成した以外、実施例1と同様にして切削工具(インサート)を作製し、評価した。各中間層の成膜条件を表13に、各(AlTi)N皮膜の組成、X線回折結果、電子回折結果及び工具寿命を表14に示す。
【0114】
【表13-1】
注:(1) アーク放電式蒸発源のアーク電流。
(2) 直流バイアス電源による負バイアス電圧のピーク値。
【0115】
【表13-2】
注:(3) 実施例1と同様にX線回折測定した結果、岩塩型の単一構造であった。
【0116】
【表14-1】
【0117】
【表14-2】
注:(1) 単一構造。
(2) 主構造。
【0118】
実施例23〜34では、WC基超硬合金基体と(AlTi)N皮膜との間に、物理蒸着法により、4a、5a及び6a族の元素、Al及びSiからなる群から選ばれた少なくとも一種の金属元素と、B、O、C及びNからなる群から選ばれた少なくとも一種とを必須構成元素とする中間層(硬質皮膜)を形成したが、表14から明らかなようにいずれの工具も30分以上の寿命を有していた。
【0119】
実施例35
(1) 基体のクリーニング
6質量%のCoを含有し、残部がWC及び不可避的不純物からなる組成のWC基超硬合金の旋削インサート基体(日立ツール株式会社製のCNMG120408)を図1に示すAI装置の保持具上にセットし、真空排気と同時にヒーターで基体を600℃に加熱した。その後、Arガスを500 sccm導入して減圧容器5内の圧力を2.0 Paに調整し、前記基体に−200 Vの直流バイアス電圧を印加してArイオンのエッチングにより基体のクリーニングを行った。
【0120】
(2) Tiイオンボンバード処理
その後、Arガスを40 sccm導入し、純Tiターゲット(不可避的不純物以外Ti1.00の組成を有する。)を備えたアーク放電式蒸発源に100 Aのアーク電流を通電するとともに、インサート基体に−800 Vの直流バイアス電圧を印加して、Tiイオンによるボンバード処理を10分間行った。
【0121】
(3) (AlTi)N皮膜の形成及び分析
Tiイオンボンバード処理したインサート基体に、実施例1と同様にして(AlTi)N皮膜を形成した。(AlTi)N皮膜について実施例1と同様に組成分析、X線回折及び電子回折を行った。(AlTi)N皮膜の組成、X線回折結果及び電子回折結果を表15に示す。
【0122】
(4) 工具寿命の評価
(AlTi)N皮膜を形成したインサートを取り付けた旋削工具により下記条件で旋削加工を行い、(AlTi)N皮膜の剥離状況、逃げ面の摩耗、及びチッピング等を調べた。(AlTi)N皮膜の剥離の有無は、旋削加工の単位時間ごとにサンプリングしたインサートの(AlTi)N皮膜に剥離箇所があるか否かを光学顕微鏡(倍率:100倍)で観察することによりチェックした。旋削加工において、逃げ面の最大摩耗幅が0.30 mmを超えるまで、(AlTi)N皮膜が剥離するまで、又は(AlTi)N皮膜がチッピングするまでのうち最も短い切削加工時間を工具寿命とした。工具寿命を表15に示す。
切削加工条件
被削材: SUS630
加工方法: 連続旋削加工
工具形状: CNMG120408
切削速度: 150 m/分
送り: 0.25 mm/回転
切り込み: 1.5 mm
切削液: 水溶性切削油
【0123】
実施例36
Tiイオンによるボンバード処理を行わなかった以外、実施例35と同様にして(AlTi)N皮膜被覆切削工具(インサート)を作製し、評価した。得られた皮膜の組成、X線回折結果、電子回折結果、及び工具寿命を表15に示す。
【0124】
比較例16
比較例2と同じ(AlTi)N皮膜を形成した以外、実施例35と同様にして(AlTi)N皮膜被覆切削工具(インサート)を作製し、評価した。得られた皮膜の組成、X線回折結果、電子回折結果、及び工具寿命を表15に示す。
【0125】
【表15-1】
【0126】
【表15-2】
注:(1) 単一構造。
(2) 主構造。
【0127】
表15から、Tiイオンボンバード処理を行った実施例35の(AlTi)N被覆インサートは、Tiイオンボンバード処理を行わなかった実施例36の(AlTi)N被覆インサートより寿命が長いことが分かる。また実施例35及び36の(AlTi)N被覆インサートは、Tiイオンボンバード処理を行ったが比較例2と同じ(AlTi)N皮膜を形成した比較例16のインサートより寿命が顕著に長かった。
【0128】
実施例37
図8に示す金型56のパンチ51に実施例1と同じ(AlTi)N皮膜を形成した。この金型56は、打ち抜き加工用パンチ51と、パンチ51を固定した水平部材52と、水平部材52を上下方向に高精度に移動させるための一対のガイドピン53、53と、パンチ51の先端部51aが貫通する中央孔54a(穴径:0.15 mm)を有する上型54と、パンチ51の先端部51aが進入する中央孔55a(穴径:0.15 mm)を有する下型55とを具備する。パンチ51の基体はWC基超硬合金(Co含有量:6質量%)からなる。
【0129】
上型54と下型55との間に固定した薄板S(SUS304製、板厚0.2 mm)をパンチ51で打ち抜いた後水平方向に所定距離だけ移動させるショットを5000回連続して行った後、パンチ51の先端部51aの(AlTi)N皮膜の剥離の有無を光学顕微鏡(倍率:100倍)で観察した。結果を表16に示す。
【0130】
実施例38
パンチ51の基体を高速度鋼(SKH57)とした以外実施例37と同様にして、パンチ51の基体に(AlTi)N皮膜を形成し、5000ショットの打ち抜きを連続的に行った後、パンチ51の先端部51aの(AlTi)N皮膜の剥離の有無を観察した。結果を表16に示す。
【0131】
比較例17
比較例2と同じ(AlTi)N皮膜を形成した以外実施例37と同様にして、パンチ51の基体に(AlTi)N皮膜を形成し、5000ショットの打ち抜きを連続的に行った後、パンチ51の先端部51aの(AlTi)N皮膜の剥離の有無を観察した。結果を表16に示す。
【0132】
比較例18
パンチ51の基体を高速度鋼(SKH57)とし、かつ比較例2と同じ(AlTi)N皮膜を形成した以外実施例37と同様にして、パンチ51の基体に(AlTi)N皮膜を形成し、5000ショットの打ち抜きを連続的に行った後、パンチ51の先端部51aの(AlTi)N皮膜の剥離の有無を観察した。結果を表16に示す。
【0133】
【表16】
【0134】
表16から明らかなように、実施例1の(AlTi)N皮膜を形成した実施例37及び38のパンチ51では、基体が超硬合金製であるか高速度鋼製であるかに関係なく、(AlTi)N皮膜の剥離がなかったが、比較例2の(AlTi)N皮膜を形成した比較例17及び18のパンチ51ではいずれも(AlTi)N皮膜が剥離した。
【0135】
実施例39
(1) 基体のクリーニング
6.0質量%のCoを含有し、残部がWC及び不可避的不純物からなる組成のWC基超硬合金製の高送りミーリングインサート基体(図7に示す形状を有する日立ツール株式会社製のEDNW15T4TN-15)及び物性測定用インサート基体(日立ツール株式会社製のSNMN120408)を、図1に示すAI装置の保持具8上にセットし、実施例1と同様にArイオンのエッチングにより各基体のクリーニングを行った。
【0136】
(2) (AlTiCr)N皮膜の形成
ターゲット10、17にAl0.80Ti0.10Cr0.10(原子比)で表される組成のAlTiCr合金を使用した以外実施例1と同様にして、各基体上に厚さ3.0μmの(Al0.81Ti0.09Cr0.100.35N0.65皮膜(原子比)を形成した。(AlTiCr)N皮膜の組成は実施例1と同様にEPMAにより分析した。
【0137】
図10は、実施例39のインサートの断面組織を示すSEM写真(倍率:25,000倍)である。図10において、141は基体であり、142は(AlTiCr)N皮膜である。
【0138】
(3) (AlTiCr)N皮膜のX線回折パターン
実施例1と同様にしてCuKα1線(波長λ:0.15405 nm)を物性測定用インサートの(AlTiCr)N皮膜に照射し、図11に示すX線回折パターンを得た。図11において、w-(002)、w-(102)、w-(103)及びw-(112)はウルツ鉱型構造のX線回折ピークである。図11から明らかなように、実施例39の(AlTiCr)N皮膜の回折ピークはいずれもウルツ鉱型構造に対応していた。2θ=36°付近で、(AlTiCr)N皮膜のウルツ鉱型構造の(002)面に対応するX線回折ピークとWC基超硬合金のX線回折ピークとが重複しているので、重複するX線回折ピーク強度から、WC基超硬合金のX線回折ピーク強度を差し引いたものを、ウルツ鉱型構造の(002)面のX線回折ピーク強度として図11中に表した。
【0139】
(4) (AlTiCr)N皮膜の制限視野回折図形
実施例1と同様にTEMを用いて、(AlTiCr)N皮膜の制限視野回折図形(図12)を得た。図12において、いずれの回折スポットもウルツ鉱型構造に対応していた。
【0140】
(5) X線回折ピーク強度及びTC(hkl)
実施例39のインサートの(AlTiCr)N皮膜について、実施例1と同様に、ウルツ鉱型構造の(100)面,(002)面,(101)面,(112)面,(102)面,及び(103)面の配向性を[1] (B) (4) の段落に記載の式(1)〜(10) により求めた。表17は、(AlTiCr)N皮膜のX線回折ピーク強度の実測値、及びTC(hkl)値を示す。X線回折ピークが観察されたウルツ鉱型構造の結晶面のうち、TC(002)が5.2で最大であった。
【0141】
【表17】
注:(1) X線回折ピークは観察されなかった。
【0142】
(6) 工具寿命の測定
(AlTiCr)N皮膜を被覆した実施例39の4つの高送り切削工具用インサート30(図7)を、実施例1と同様に図8に示す刃先交換式回転工具(日立ツール株式会社製のASR5063-4)40の工具本体36の先端部38に止めねじ37で装着し、工具寿命を測定した。
【0143】
実施例39の(AlTiCr)N皮膜の組成、X線回折結果、電子回折結果、及び工具寿命を表18に示す。表18から明らかなように、実施例39の刃先交換式回転工具の寿命は40分と長かった。
【0144】
実施例40〜42、及び比較例19及び20
原子比でそれぞれAl0.92Ti0.04Cr0.04合金(実施例40)、Al0.74Ti0.13Cr0.13合金(実施例41)、Al0.70Ti0.17Cr0.13合金(実施例42)、Al0.60Ti0.35Cr0.05合金(比較例19)、及びAl0.95Ti0.03Cr0.02合金(比較例20)からなるターゲットを使用した以外実施例1と同様にして、各切削工具(インサート)を作製し、評価した。実施例40〜42、及び比較例19及び20の各(AlTiCr)N皮膜の組成、X線回折結果、電子回折結果、及び工具寿命を表18に示す。
【0145】
【表18-1】
【0146】
【表18-2】
注:(1) 単一構造。
(2) 主構造。
【0147】
表18から明らかなように、実施例40〜42の硬質皮膜被覆工具は20分以上と長寿命であるのに対し、比較例19及び20の硬質皮膜被覆工具はそれぞれ7分及び10分と短寿命であった。この理由は、比較例19では(AlTiCr)N皮膜が岩塩型構造であるために潤滑性が劣っており、比較例20では(AlTiCr)N皮膜がAlを過剰に含有し、ドロップレットが多く形成されたためである。
【0148】
実施例43
(1) 基体のクリーニング
6.0質量%のCoを含有し、残部がWC及び不可避的不純物からなる組成のWC基超硬合金製の高送りミーリングインサート基体(図7に示す形状の日立ツール株式会社製のEDNW15T4TN-15)及び物性測定用インサート基体(日立ツール株式会社製、仕様:SNMN120408)に対して、実施例1と同様にArイオンのエッチングによりクリーニングした。
【0149】
(2) (AlTiW)N皮膜の形成
次いで、ターゲット10、17としてAl0.80Ti0.10W0.10(原子比)で表される組成のAlTiW合金を使用した以外実施例1と同様にして、各基体上に厚さ3.0μmの(Al0.80Ti0.10W0.10)0.38N0.62皮膜(原子比)を形成した。皮膜組成は、実施例1と同様にEPMAにより分析した。図13は、実施例43の物性測定用インサートの断面組織を示すSEM写真(倍率:25,000倍)である。図13において、241は基体であり、242は(AlTiW)N皮膜である。
【0150】
(3) (AlTiW)N皮膜のX線回折パターン
実施例1と同様にCuKα1線(波長λ:0.15405 nm)を(AlTiW)N皮膜に照射し、図14に示すX線回折パターンを得た。図14中のw-(002)、w-(102)、w-(103)、w-(110)及びw-(112)はいずれもウルツ鉱型構造のX線回折ピークを示す。図14から、実施例43の(AlTiW)N皮膜のいずれの回折ピークもウルツ鉱型構造のものであることが確認された。なお、2θ=36°付近において(AlTiW)N皮膜のウルツ鉱型構造の(002)面のX線回折ピークとWC基超硬合金のX線回折ピークが重複していたので、重複するX線回折ピーク強度から、WC基超硬合金のX線回折ピーク強度を差し引いたものを、ウルツ鉱型構造の(002)面のX線回折ピーク強度として図14中に表した。
【0151】
(4) (AlTiW)N皮膜の制限視野回折図形
TEMを用いて、実施例1と同様にして、実施例43のインサートの(AlTiW)N皮膜の制限視野回折図形(回折パターン)を観察し、制限視野回折図形(図15)を得た。図15の回折スポットは全てウルツ鉱型構造であった。
【0152】
(5) X線回折ピーク強度及びTC(hkl)
表19は、(AlTiW)N皮膜のX線回折ピーク強度の実測値、及び[1] (B) (4) の段落に記載の式(1)〜(10) により求めたTC(hkl)値を示す。X線回折ピークが観察されたウルツ鉱型構造の結晶面のうち、TC(002)が4.2で最大であった。
【0153】
【表19】
注:(1) X線回折ピークは観察されなかった。
【0154】
(6) 工具寿命の測定
(AlTiW)N皮膜を被覆した4つの高送り切削工具用インサート30(図7)を、実施例1と同様に図8の刃先交換式回転工具(日立ツール株式会社製のASR5063-4)40の工具本体36の先端部38に止めねじ37で装着し、工具寿命を測定した。(AlTiW)N皮膜の組成、X線回折結果、電子回折結果、及び工具寿命を表20に示す。
【0155】
実施例44〜46、及び比較例21及び22
原子比でそれぞれAl0.92Ti0.04W0.04合金(実施例44)、Al0.72Ti0.14W0.14合金(実施例45)、Al0.68Ti0.20W0.12合金(実施例46)、Al0.58Ti0.37W0.05合金(比較例21)、及びAl0.94Ti0.03W0.03合金(比較例22)からなるターゲットを使用した以外実施例1と同様にして、各切削工具(インサート)を作製し、評価した。実施例44〜46、及び比較例21及び22の各(AlTiW)N皮膜の組成、X線回折結果、電子回折結果、及び工具寿命を表20に示す。
【0156】
【表20-1】
【0157】
【表20-2】
注:(1) 単一構造。
(2) 主構造。
【0158】
表20から明らかなように、実施例43〜46の硬質皮膜被覆工具は21分以上と長寿命であるが、比較例21及び22の硬質皮膜被覆工具はそれぞれ6分及び9分と短寿命であった。この理由は、比較例21では(AlTiW)N皮膜が岩塩型構造であるので潤滑性が劣っており、比較例22では(AlTiW)N皮膜がAlを過剰に含有し、ドロップレットが多く形成されたためである。
【0159】
実施例47〜49
原子比でそれぞれAl0.72Ti0.14Cr0.03W0.11合金(実施例47)、Al0.72Ti0.14Cr0.07W0.07合金(実施例48)、及びAl0.72Ti0.14Cr0.11W0.03合金(実施例49)からなるターゲットを使用した以外実施例1と同様にして、各切削工具(インサート)を作製し、評価した。実施例47〜49の各(AlTiCrW)N皮膜の組成、X線回折結果、電子回折結果、及び工具寿命を表21に示す。
【0160】
【表21-1】
【0161】
【表21-2】
注:(1) 単一構造。
(2) 主構造。
(3) z=z1+z2。
【0162】
表21から明らかなように、実施例47〜49の硬質皮膜被覆工具は39分以上と長寿命であった。
【符号の説明】
【0163】
1:駆動部
2:ガス導入部
3:バイアス電源
4:軸受け部
5:減圧容器
6:支柱
7:基体
8:保持具
10,17:ターゲット
11:アーク放電用電源
12、27:アーク放電式蒸発源
13,18:絶縁物
14:アーク点火機構軸受部
15:アーク点火機構
16:排気口
19:電極
20:遮蔽板軸受け部
21:遮蔽板駆動部
22:遮蔽板
30:ミーリング用インサート
35:インサートの主切刃
36:工具本体
37:インサート用止めねじ
38:工具本体の先端部
40:刃先交換式回転工具
41、141、241:超硬合金製基体
42、142、242:(AlTiM)N皮膜
51:打ち抜きパンチ
52:水平部材
53:ガイドピン
54:上型
54a:上型の中空部(孔)
55:下型
55a:下型の中空部(孔)
56:金型
図1
図2
図3
図4(a)】
図4(b)】
図5(a)】
図5(b)】
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15