(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記トレンチを挟んで隣り合う前記メサ領域には、前記第1半導体層の一方の面に平行な方向で、かつ前記第1方向と直交する第2方向に、前記トレンチに接する前記第2半導体領域と、前記トレンチ間に前記第2半導体領域が設けられていない部分とが交互にあらわれることを特徴とする請求項2に記載の半導体装置。
前記第1半導体領域の厚さ、前記第1半導体層の、前記第1半導体領域と前記第2半導体層とに挟まれた部分の厚さ、前記第2半導体層の厚さ、および前記第3半導体層の厚さの合計は35μm以上60μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
第1導電型の第1半導体層の一方の面から深さ方向に所定の深さで、かつ前記第1半導体層の一方の面に平行な方向に延びるストライプ状に複数のトレンチを形成する第1工程と、
前記トレンチの内部に、ゲート絶縁膜を介して第1電極を形成する第2工程と、
前記第1半導体層の一方の面の表面層の、前記トレンチによって分離されたメサ領域に、前記トレンチよりも浅い深さで、かつ前記第1半導体層の一方の表面層全体に第2導電型の第1半導体領域を形成する第3工程と、
前記第1半導体領域の内部に選択的に第1導電型の第2半導体領域を形成する第4工程と、
前記第1半導体層の他方の面の表面層に、前記第1半導体層よりも不純物濃度が高い第1導電型の第2半導体層を形成する第5工程と、
前記第1半導体層の他方の面の表面層の、前記第2半導体層よりも浅い位置に前記第2半導体層に接する第2導電型の第3半導体層を形成する第6工程と、
を含み、
前記第5工程では、前記第2半導体層の厚さを、前記第1半導体層の、前記第1半導体領域と前記第2半導体層とに挟まれた部分の厚さよりも厚くし、
前記第3工程の後、前記第1半導体領域の内部に、前記第1半導体領域よりも不純物濃度が高い第2導電型の第3半導体領域を選択的に形成する第7工程をさらに含み、
前記第7工程では、前記トレンチの側壁に形成された前記ゲート絶縁膜と離して、前記トレンチがストライプ状に延びる方向と平行に延びるストライプ状で、かつ前記第2半導体領域の前記第3半導体層側を通るレイアウトで配置され、深さ方向に前記第2半導体領域に対向し、前記第2半導体領域の、前記第3半導体層側の面に接する前記第3半導体領域を形成し、
前記第4工程では、
隣り合う前記トレンチ間にわたって延在し、両側の前記トレンチの側壁の前記ゲート絶縁膜に接する前記第2半導体領域を形成し、
かつ前記第2半導体領域の、前記第3半導体領域が接する部分の厚さを、前記第2半導体領域の前記トレンチ側の部分の厚さよりも薄くすることを特徴とする半導体装置の製造方法。
前記第1の第1導電型半導体層は、前記第3半導体層と前記第3電極との界面から少なくとも2.0μm以上8.0μm以下の深さの領域を含むように配置されていることを特徴とする請求項8に記載の半導体装置。
前記第2の第1導電型半導体層は、前記第3半導体層と前記第3電極との界面から0.5μm以上3.0μm以下の深さの範囲内に配置されていることを特徴とする請求項8に記載の半導体装置。
前記第1半導体領域の厚さ、前記第1半導体層の、前記第1半導体領域と前記第2半導体層とに挟まれた部分の厚さ、前記第2半導体層の厚さ、および前記第3半導体層の厚さの合計は60μm以下であることを特徴とする請求項8〜12のいずれか一つに記載の半導体装置。
第1導電型の第1半導体層の一方の面から深さ方向に所定の深さで、かつ前記第1半導体層の一方の面に平行な方向に延びるストライプ状に複数のトレンチを形成する第1工程と、
前記トレンチの内部に、ゲート絶縁膜を介して第1電極を形成する第2工程と、
前記第1半導体層の一方の面の表面層の、前記トレンチによって分離されたメサ領域に、前記トレンチよりも浅い深さで、かつ前記第1半導体層の一方の表面層全体に第2導電型の第1半導体領域を形成する第3工程と、
前記第1半導体領域の内部に選択的に第1導電型の第2半導体領域を形成する第4工程と、
前記第1半導体層の他方の面の表面層に、前記第1半導体層よりも不純物濃度が高い第1導電型の第2半導体層を形成する第5工程と、
前記第1半導体層の他方の面の表面層の、前記第2半導体層よりも浅い位置に前記第2半導体層に接する第2導電型の第3半導体層を形成する第6工程と、
を含み、
前記第5工程は、
前記第3半導体層から離れた位置に、前記第3半導体層よりも不純物濃度が低い第1の第1導電型半導体層を形成する第1形成工程と、
前記第3半導体層と前記第1の第1導電型半導体層との間に、前記第3半導体層よりも不純物濃度が低く、かつ前記第1の第1導電型半導体層よりも不純物濃度が高い第2の第1導電型半導体層を形成する第2形成工程と、を含み、
前記第1形成工程では、
不純物濃度の最大値を示す深さから前記第2半導体領域側および前記第3半導体層側に向かうにしたがって不純物濃度が低くなり、かつ前記第3半導体層から離れた位置に配置されるほど不純物濃度の最大値が低い前記第1の第1導電型半導体層を、前記第3半導体層から異なる深さで複数形成し、
前記第5工程では、前記第1の第1導電型半導体層と前記第2の第1導電型半導体層とを離して形成し、前記第1半導体層の、前記第1の第1導電型半導体層と前記第2の第1導電型半導体層とに挟まれた部分を第3の第1導電型半導体層として残すことを特徴とする半導体装置の製造方法。
前記第1形成工程では、前記第1半導体層の他方の面からのプロトン照射により前記第1の第1導電型半導体層を形成することを特徴とする請求項14に記載の半導体装置の製造方法。
前記第2形成工程では、前記第1半導体層の他方の面からリンをイオン注入することにより前記第2の第1導電型半導体層を形成することを特徴とする請求項14〜18のいずれか一つに記載の半導体装置の製造方法。
前記第2形成工程では、前記イオン注入の後に、330℃以上450℃以下の温度でのアニールまたはレーザーアニールを行うことを特徴とする請求項19に記載の半導体装置の製造方法。
前記第3半導体領域は、前記第1半導体層の一方の面から見て、前記第2半導体領域の前記第3半導体層側を通る直線状のレイアウトに設けられていることを特徴とする請求項23に記載の半導体装置。
【背景技術】
【0002】
電力変換装置の低消費電力化が進む中、電力変換装置において中心的な役割を果たすパワーデバイスの低消費電力化に対する期待が大きい。そのパワーデバイスの中でも、伝導度変調効果により低オン電圧を実現し、かつ絶縁ゲートへの印加電圧により容易に電流制御可能な電圧駆動型の絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(IGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)の使用が定着してきている。
【0003】
従来より、IGBTについては、これまで数多くの改良によって、性能の向上が図られている。ここで、IGBTの性能とは、オフ時には電圧を保持して電流を完全に遮断し、一方、オン時には可能な限り小さい電圧降下(すなわち可能な限り低オン抵抗)で電流を流すというスイッチとしての性能である。以下に、IGBTの特性等について説明する。
【0004】
まず、IGBT性能のトレードオフについて説明する。IGBTの保持可能な最大電圧、すなわち耐圧の大きさと、オン時の電圧降下(オン電圧)との間には、二律背反の関係(いわゆるトレードオフ関係)が存在し、高耐圧のIGBTほどオン電圧が高くなる。最終的には、このトレードオフ関係の限界値は、シリコンの物性で決まる。このトレードオフを限界まで向上させるためには、電圧保持時に局所的な電界集中が生じるのを防ぐなど、設計面での工夫が必要である。
【0005】
また、IGBTの性能を表すもう一つの重要な指標として、オン電圧とスイッチング損失(特にターンオフ損失)とのトレードオフ関係がある。IGBTは、スイッチングデバイスであるため、オンからオフまたはオフからオンの動作を行う。このスイッチング動作の瞬間に、時間当たり大きな損失が発生する。一般に、オン電圧の低いIGBTほどターンオフが遅いので、ターンオフ損失が大きい。以上のようなトレードオフ関係を改善することによって、IGBTの性能の向上を図ることができる。なお、ターンオン損失は、IGBTと組み合わせて使われる還流ダイオードの特性に大きく左右される。
【0006】
オン電圧とターンオフ損失とのトレードオフ関係(以下、オン電圧−ターンオフ損失の関係とする)を最適化するには、IGBTがオン状態のときの内部の過剰キャリア分布を最適化することが有効である。オン電圧を下げるには、過剰キャリア量を増やしてドリフト層の抵抗値を下げればよい。しかし、ターンオフ時には、この過剰キャリアをすべてデバイスの外に掃き出すか、または、電子−ホール再結合により消滅させる必要がある。そのため、過剰キャリア量を増やすと、ターンオフ損失が増加してしまう。したがって、このトレードオフ関係を最適化するには、同じオン電圧でターンオフ損失を最小にすればよい。
【0007】
最適なトレードオフを実現するには、コレクタ側のキャリア濃度を下げるとともに、エミッタ側のキャリア濃度を上げることによって、コレクタ側とエミッタ側とのキャリア濃度の比率が1:5程度になるようにすればよい。さらに、ドリフト層のキャリアライフタイムをできるだけ大きく保つことによって、ドリフト層内の平均キャリア濃度が高くなるようにすればよい。
【0008】
IGBTのターンオフ時には、空乏層は、エミッタ側のpn接合からドリフト層内部に広がり、裏面のコレクタ層へ向かって進展する。その際、ドリフト層内の過剰キャリアのうち、ホール(正孔)は、電界によって空乏層端から引き抜かれる。このようにして電子過剰状態となり、余った電子は、中性領域を抜けてp型のコレクタ層に注入される。そして、コレクタ側のpn接合がやや順バイアスされることになるため、注入された電子に応じてホールが逆注入される。この逆注入されたホールは、上述した電界によって引き抜かれるホールと合流して、空乏層に入っていく。
【0009】
デバイスの端子電圧というマクロの観点で見ると、コレクタ−エミッタ間電圧が上がり終わる前、すなわち上昇中に流れる電流の方が、上がり終わった後に流れる電流よりも、電圧と電流との積(=電圧×電流)で表される損失に対する寄与が少ない。以上のことから、後述するIE効果(Injection Enhancement Effect:注入促進効果)によりエミッタ側に偏重したキャリア分布は、低電圧で引き抜かれるキャリアの割合が多く、オン電圧が同じであるという条件下では、コレクタ側に偏重したキャリア分布よりもターンオフ損失が小さいということがわかる。
【0010】
コレクタ側のキャリア濃度を下げるには、コレクタ層の総不純物量を下げればよい。これ自体は、特に困難なことではない。ただし、600Vなどのように定格耐圧の低いIGBTでは、コレクタ層の総不純物量を下げるためには、製造工程中に、100μm程度の厚さ、またはそれよりも薄い厚さのウェハを扱う必要があるため、生産技術上の困難が存在する。一方、エミッタ側のキャリア濃度を上げるメカニズムは、IE効果と呼ばれている。
【0011】
IE効果の大きいエミッタ構造(セル)として、プレーナゲート構造のp型ベース領域を囲むように高濃度のn型領域を挿入したHiGT(High Conductivity IGBT)構造などが提案されている(例えば、下記特許文献1,2参照。)。また、トレンチゲート構造において、基板おもて面側の表面層の、トレンチによって分離されたメサ領域(以下、トレンチ間のメサ領域とする)に、n
-型ドリフト層よりも高濃度のn型領域を挿入したCSTBT(Carrier Stored Trench−Gate Bipolar Transistor)構造や、IEGT(Injection Enhanced Gate Transistor)構造などが提案されている(例えば、下記特許文献3,4参照。)。一般に、トレンチゲート型におけるIE効果のほうがプレーナゲート型におけるIE効果よりも大きい。
【0012】
IE効果については、例えば下記特許文献4に記載されており、IEGT構造によってエミッタ側に偏重した最適なキャリア分布を実現してダイオードのオン電圧に近い限界の特性を実現可能であることが公知である。IEGT構造とは、n
+型エミッタ領域およびp型ベース領域の一部表面を絶縁膜によって覆うことによって、n
+型エミッタ領域およびp型ベース領域とエミッタ電極とのコンタクト(電気的接触部)の面積を低減させた構造である。すなわち、トレンチ間のメサ領域に、エミッタ電極に接続されずにフローティング電位となるp型ベース領域(以下、フローティングp領域とする)が設けられている。
【0013】
IEGTの動作は、基本的にトレンチゲート型IGBTと同じであるが、IEGTは通常のトレンチゲート型IGBTよりもオン電圧を低くすることができる。IEGTでは、n
+型エミッタ領域およびp型ベース領域とエミッタ電極とがコンタクトしていない部分において、n
-型ドリフト層の内部のp型ベース領域付近のホールがエミッタ電極に掃き出されにくいため、この部分にホールが蓄積される。これによって相対的にn
-型ドリフト層への電子の注入量が増加して、n
-型ドリフト層のキャリア濃度分布がダイオードのキャリア濃度分布に近くなるからである。
【0014】
しかしながら、パワーデバイスでは、低オン電圧以外に高速スイッチング特性も要求されており、高速スイッチング特性の改善も重要な課題となっている。スイッチング特性を改善させた装置として、トレンチ間のメサ領域の幅(トレンチが並ぶ方向の幅、以下、単に幅とする)を狭くし、かつメサ領域内のp型ベース領域を複数に分割してセルピッチに占めるベース領域の比率を小さくし、メサ領域内のある限られた領域をエミッタ構造とすることで、IE効果を維持しつつ、スイッチング損失も低減させた装置が提案されている(例えば、下記特許文献5参照。)。
【0015】
下記特許文献5では、トレンチ間のメサ領域にフローティングp領域が設けられていなくても、セルピッチを最適化することで十分な耐圧が得られる。また、フローティングp領域を設けていないため、ターンオン時におけるフローティングp領域の電位の持ち上がりによってコレクタ電流の電流変化率(di/dt)の制御性が悪化するという問題が生じない。下記特許文献5に示す従来のトレンチゲート型IGBTの構造について、
図24を参照しながら説明する。
図24は、従来のトレンチゲート型IGBTの構造を示す斜視図である。
図24は、下記特許文献5の
図1に相当する。
【0016】
図24に示すように、p
+型コレクタ層101とn
-型ドリフト層102とからなる半導体基板のおもて面(n
-型ドリフト層102側の面)の表面層には、p型ベース領域103が選択的に設けられている。p型ベース領域103の内部には、n
+型エミッタ領域104が選択的に設けられている。基板おもて面から深さ方向(縦方向)にn
+型エミッタ領域104およびp型ベース領域103を貫通してn
-型ドリフト層102に達するトレンチ105が設けられている。トレンチ105間のメサ領域には、トレンチ105が並ぶ方向と直交する方向(以下、長手方向とする)にp型ベース領域103が分散して配置され、p型ベース領域103とn
-型ドリフト層102とが交互にあらわれる。
【0017】
トレンチ105の内部には、ゲート絶縁膜106を介してゲート電極107が設けられている。ゲート電極107およびメサ領域のn
-型ドリフト層102の表面上は、層間絶縁膜(不図示)で覆われている。層間絶縁膜には、トレンチ105の長手方向に所定間隔で配置された複数のp型ベース領域103をそれぞれ露出する複数のコンタクトホールが設けられている。エミッタ電極(不図示)は、層間絶縁膜のコンタクトホールを介してn
+型エミッタ領域104およびp型ベース領域103に接続されている。符号108で示すハッチング部分は、n
+型エミッタ領域104およびp型ベース領域103とエミッタ電極とのコンタクトである。基板裏面(p
+型コレクタ層101側の面)には、コレクタ電極109が設けられている。
【0018】
プレーナゲート構造において、下記特許文献5のようにセルピッチに占めるベース領域の比率を小さくした場合、オン電圧が低減する。その理由は、pin(p−intrinsic−n)ダイオード領域の比率が大きくなることに加えて、おもて面付近での横方向(深さ方向に直交する方向)の電流密度が高くなり、電圧降下が大きくなることによって、n
+/n
-接合の順バイアスが大きくなる効果が大きいと推測される。n
+/n
-接合の順バイアスが大きくなる理由は、n
+層は低抵抗であるため、その電位がエミッタ電位に等しいが、n
-層は高抵抗であるため、その電位が大電流により持ち上がるからである。
【0019】
同様に、トレンチゲート構造において、pnp−BJT領域の比率を減らすことによって、IE効果を高めることができる。pnp−BJT領域の比率を減らすには、例えば一部のメサ領域において、p型ベース領域をフローティング状態とすればよい。また、トレンチを深くして、トレンチ底部をp型ベース領域とn
-型ドリフト層との間のpn接合から離すことによっても、IE効果が大きくなる。さらに、メサ領域の幅を狭くすることによっても、IE効果が大きくなる。これらは、いずれの場合も、メサ領域を流れるホール電流密度が大きくなり、電圧降下によるn
+/n
-接合の順バイアスが強くなるためと推測される。
【0020】
ここで、pinダイオード領域とは、ベース領域間の領域であり、おもて面から深さ方向にn
-型ドリフト層およびp型コレクタ層が順に配置された領域である。pinダイオード領域には、オン状態のときにn
-型ドリフト層の、p型ベース領域間に挟まれた領域に誘起されるn
+電子蓄積層(カソード)、n
-型ドリフト層、および裏面のp型コレクタ層(アノード)からなるpinダイオードが形成される。n
+/n
-接合とは、pinダイオードを構成するn
+電子蓄積層とn
-型ドリフト層との間の接合である。pnp−BJT領域とは、おもて面から深さ方向にp型ベース領域、n
-型ドリフト層およびp型コレクタ層が順に配置された領域である。
【0021】
エミッタ側の電子濃度は、n
+/n
-接合に印加される順バイアスに応じて、指数関数的に増大する。順バイアス量を増やす手段として、上述したように、大電流による電圧降下を利用するものがある。また、下記特許文献1〜3に記載されているように、n
+濃度を増やすことによっても、順バイアス量を増やすことができる。ただし、下記特許文献1,2に記載されているHiGT構造は、プレーナゲート構造であるため、おもて面側のn
+型バッファ層の不純物濃度が高すぎると、順耐圧が大きく低下してしまう。
【0022】
一方、下記特許文献3に記載されているCSTBT構造では、おもて面側のn
+型バッファ層(メサ領域に設けられた高濃度のn型領域)は、トレンチ側壁のゲート酸化膜により挟まれており、そのゲート酸化膜を介してポリシリコン電位へと続いている。これにより、順電圧保持時、すなわちブロッキングモード時には、おもて面側のn
+型バッファ層は、p型ベース領域との間のpn接合だけでなく、両側のトレンチ側壁のゲート酸化膜との境界からも空乏化するため、低い順バイアスで完全に空乏化する。したがって、おもて面側のn
+型バッファ層は高不純物濃度であるにもかかわらず、その内部の電界は緩和されている。順バイアスをさらに上げても、トレンチ間のメサ領域の電界が緩和されていることによって、局所的なピーク電界が現れにくい。
【0023】
このように、CSTBT構造は、IE効果を高めつつも、順耐圧が低下しにくいという特性を有する。その理由は、おもて面側のn
+型バッファ層が、n
-型ドリフト層との間に拡散電位を形成し、ホールにとっての電位障壁となるため、n
-型ドリフト層中のホール濃度が上昇するからである。また、おもて面側のn
+型バッファ層とn
-型ドリフト層との間が順バイアスされるため、n
+型バッファ層から電子が注入されるからである。すなわち、n
+/n
-接合において、n
+型層が高不純物濃度であれば、電子注入効率が向上するため、n
+型層に入るホール電流に対して、n
-型層に注入される電子電流の比率が大きくなる。
【0024】
また、トレンチ間のメサ領域にフローティングp領域を設けない装置として、p型ベース領域が、複数のトレンチによって、n
+型ソース領域が設けられた部分と、n
+型ソース領域が設けられていない部分と、に分離されており、p型ベース領域の、n
+型ソース領域が設けられていない部分にエミッタ電極を短絡させてエミッタ電位とした装置が提案されている(例えば、下記特許文献6(第7図)参照。)。
【0025】
また、セルピッチに占めるベース領域の比率を小さくした装置として、次の装置が提案されている。隣り合うトレンチゲート(トレンチの内部に設けられたゲート電極)の間の領域は、ドリフト層への電荷の注入源となるエミッタ層に対応する有効領域と、電荷の注入源を生じない無効領域と、を有する。有効領域は、トレンチゲートの長手方向に所定間隔をもって分割されている(例えば、下記特許文献7参照。)。
【0026】
また、別の装置として、トレンチ間のメサ領域に設けられたp型ベース層の内部に、高不純物濃度のn型エミッタ層およびp型コンタクト層がトレンチの側壁に接して、かつトレンチの長手方向(チャネル幅方向)に沿って交互に形成されている装置が提案されている(例えば、下記特許文献8参照。)。また、別の装置として、隣り合うトレンチ間のメサ領域に、トレンチの側壁に接し、かつトレンチの長手方向に沿ってn
+型エミッタ層が設けられた装置が提案されている(例えば、下記特許文献9(第1図)参照。)。
【0027】
また、オン電圧とスイッチング損失とのトレードオフ関係を改善させた別の構造のIGBTとして、ドリフト層の内部のコレクタ側に、ドリフト層よりも不純物濃度の高いフィールドストップ(FS:Field Stop)層(バッファ層)を備えたIGBT(FS−IGBT)が公知である(例えば、下記特許文献10〜12参照。)。下記特許文献10,11では、ドリフト層の内部の、コレクタ層に接する位置にフィールドストップ層を配置した構造のFS−IGBTが開示されている。下記特許文献12では、コレクタ層から離れた位置にフィールドストップ層を配置した構造のFS−IGBTが開示されている。
【0028】
FS−IGBTでは、フィールドストップ層が設けられていることにより、コレクタ側からドリフト層へのキャリアの注入制御を行うことができる。このため、ドリフト層の厚さ(ウェハの厚さ)を薄く(薄板化)した場合においても耐圧を維持することができる。また、ターンオフ時にエミッタ側からコレクタ側へ伸びる空乏層の広がりを抑制することができ、コレクタ側に残存するキャリアを増やすことができる。このため、ターンオフ時の電圧・電流波形の発振を抑制することができる。次に、従来のFS−IGBTの構造について説明する。
【0029】
図25は、従来のFS−IGBTの構造を示す断面図である。
図26は、
図25のFS−IGBTの深さ方向の不純物濃度分布を示す特性図である。
図26には、半導体基板(シリコン(Si)チップ)の厚さ(p
+型コレクタ層101、フィールドストップ層110およびn
-型ドリフト層102の総厚さ)Dが60μmである場合の不純物濃度分布を示す。
図25に示す従来のFS−IGBTが
図24に示す従来のトレンチゲート型IGBTと異なる点は、n
-型ドリフト層102の内部のp
+型コレクタ層101側において、p
+型コレクタ層101よりも基板裏面から深い位置に、リン(P)がドープされてなるn
+型のフィールドストップ層(以下、リンドープFS層とする)110を備える点である。
【0030】
図27は、従来のFS−IGBTの別の構造を示す断面図である。
図28は、
図27のFS−IGBTの深さ方向の不純物濃度分布を示す特性図である。
図28には、半導体基板の厚さ(p
+型コレクタ層101、フィールドストップ層120およびn
-型ドリフト層102の総厚さ、すなわちシリコン厚さ)Dが60μmである場合の不純物濃度分布を示す。
図27に示すFS−IGBTが
図25に示すFS−IGBTと異なる点は、リンドープFS層110に代えて、セレン(Se)がドープされてなるn
+型のフィールドストップ層(以下、セレンドープFS層とする)120を備える点である。セレンドープFS層120の厚さは、
図25に示すFS−IGBTのリンドープFS層110の厚さよりも厚い。
【0031】
次に、従来のFS−IGBTの製造方法について、
図27に示すFS−IGBTを作製(製造)する場合を例に説明する。
図29〜32は、従来のFS−IGBTの製造途中の状態を示す断面図である。まず、
図29に示すように、n
-型ドリフト層102となるn
-型の半導体ウェハのおもて面側に、一般的な方法により、トレンチゲート型のMOSゲート(金属−酸化膜−半導体からなる絶縁ゲート)構造を形成する。次に、半導体ウェハのおもて面に層間絶縁膜111を形成した後、コンタクトホールを形成してn
+型エミッタ領域104およびp
+型コンタクト領域113を露出させる。
【0032】
次に、
図30に示すように、半導体ウェハを裏面側から研削していき、半導体装置として用いる製品厚さの位置まで研削する。次に、
図31に示すように、半導体ウェハの裏面からセレンおよびボロンをイオン注入した後、熱処理(アニール)を行うことにより、半導体ウェハの研削後の裏面の表面層にセレンドープFS層120およびp
+型コレクタ層101を形成する。次に、
図32に示すように、半導体ウェハのおもて面にエミッタ電極112を形成した後、半導体ウェハの裏面にコレクタ電極109を形成することで、
図27に示す半導体装置が完成する。
【0033】
上述した
図25に示すFS−IGBTでは、リンドープFS層110は、基板裏面(チップ裏面)から2μm以下程度の浅い深さで形成される。このため、製造プロセス中にウェハ裏面に生じる傷やパーティクルなどによる悪影響によって不良が発生するという問題がある。一方、
図27に示すFS−IGBTでは、セレンドープFS層120は、リンよりもシリコンに対する拡散係数が大きいセレンのイオン注入によって形成される。セレンドープFS層120の深さは、リンドープFS層110よりも深く、基板裏面から20μm程度の深さとなるため、ウェハ裏面に生じる傷やパーティクルなどを起因とする不良の発生を抑制することができる。
【0034】
リンドープFS層よりもウェハ裏面から深い深さでフィールドストップ層を形成する別の方法として、下記特許文献10,11には、ウェハ裏面からプロトン(H
+)を注入することによりフィールドストップ層を形成する方法が開示されている。また、フィールドストップ層を形成する別の方法として、プロトンを異なるドーズ量で複数回注入(多段注入)することにより、チップ裏面からの深さが異なる複数段のフィールドストップ層を形成する方法が提案されている(例えば、下記特許文献13,14参照。)。
【0035】
また、別のフィールドストップ構造として、リンがドープされてなるフィールドストップ層(リンドープFS層)と、プロトンがドープされてなるフィールドストップ層(以下、プロトンドープFS層とする)と、の2層構造のフィールドストップ構造が提案されている(例えば、下記特許文献15,16参照。)。下記特許文献15では、リンドープFS層を設けることにより、プロトンドープFS層のみのフィールドストップ構造に比べて、プロトンドープFS層の不純物濃度を低減させることができる。このため、生産性の向上、電界緩和による耐圧確保、およびサージ電圧抑制を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0071】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる半導体装置および半導体装置の製造方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。本明細書および添付図面においては、nまたはpを冠記した層や領域では、それぞれ電子または正孔が多数キャリアであることを意味する。また、nやpに付す+および−は、それぞれそれが付されていない層や領域よりも高不純物濃度および低不純物濃度であることを意味する。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0072】
(実施の形態1)
実施の形態1にかかる半導体装置の構造について説明する。
図1は、実施の形態1にかかる半導体装置の構造を示す斜視図である。
図1には、実施の形態1にかかる半導体装置の活性領域の構造を示すが、活性領域の周囲を囲む耐圧構造部(図示省略)を配置してもよい。活性領域は、オン状態のときに電流が流れる領域である。耐圧構造部は、n
-型ドリフト層(第1半導体層)2の基板おもて面側の電界を緩和し耐圧を保持する領域であり、例えばガードリング、フィールドプレートおよびリサーフ等を組み合わせた耐圧構造を有する。
【0073】
図1に示すように、実施の形態1にかかる半導体装置において、n
-型ドリフト層2となるn
-型半導体基板(半導体チップ)のおもて面の表面層には、p型ベース領域(第1半導体領域)3が設けられている。p型ベース領域3の内部には、基板おもて面側の表面層にn
+型エミッタ領域(第2半導体領域)4が選択的に設けられている。基板おもて面から深さ方向にn
+型エミッタ領域4およびp型ベース領域3を貫通してn
-型ドリフト層2に達するトレンチ5が設けられている。複数のトレンチ5は、基板おもて面に平行な方向(
図1では紙面奥行き方向、以下、トレンチ5の長手方向(第1方向:縦方向)とする)に延びるストライプ状の平面レイアウトを有する。トレンチ5の内部には、トレンチ5の内壁に沿ってゲート絶縁膜6が設けられ、ゲート絶縁膜6の内側にゲート電極(第1電極)7が設けられている。
【0074】
基板おもて面側の表面層の、トレンチ5によって分離されたメサ領域(トレンチ5間のメサ領域)には、基板おもて面全面に露出されるようにp型ベース領域3が設けられている。すなわち、p型ベース領域3は、トレンチ5間のメサ領域において、トレンチ5の長手方向に延びる直線状の平面レイアウトを有する。また、トレンチ5間のメサ領域には、p型ベース領域3の内部に設けられたn
+型エミッタ領域4がトレンチ5の長手方向に所定間隔x1で分散して配置されている。すなわち、トレンチ5間のメサ領域には、トレンチ5の長手方向に、トレンチ5に接するn
+型エミッタ領域4が設けられエミッタ構造(セル)をなす部分と、トレンチ5間にn
+型エミッタ領域4が設けられていない部分とが交互に繰り返し配置されている。同一のメサ領域内において、隣り合うトレンチ5の側壁に設けられた各ゲート絶縁膜6にそれぞれ接するn
+型エミッタ領域4同士は、トレンチ5が並ぶ方向、すなわちトレンチ5の長手方向と直交する方向(
図1では、紙面横方向、以下、トレンチ5の短手方向(第2方向:横方向)とする)に所定間隔x2をあけて対向する。
【0075】
トレンチ5を挟んで隣り合うメサ領域に設けられたn
+型エミッタ領域4同士は、トレンチ5の短手方向に対向しないように配置されている。すなわち、トレンチ5を挟んで隣り合うメサ領域において、トレンチ5の短手方向に、p型ベース領域3の、n
+型エミッタ領域4が設けられている部分とn
+型エミッタ領域4が設けられていない部分とが交互にあらわれる。トレンチ5間のメサ領域の、トレンチ5の短手方向の幅(以下、単に幅とする)は、設計上可能な限り狭いのが好ましい。その理由は、メサ領域に占めるn
+型エミッタ領域4の比率が大きくなり、後述する本発明の効果に加えてさらにチャネル密度を高くすることができ、オン電圧を低減させることができるからである。ゲート電極7、n
+型エミッタ領域4およびp型ベース領域3の表面上は、層間絶縁膜(絶縁層:不図示)で覆われている。
【0076】
層間絶縁膜にはトレンチ5の長手方向に所定間隔でコンタクトホールが選択的に設けられており、エミッタ電極(第2電極:不図示)は、層間絶縁膜のコンタクトホールを介してn
+型エミッタ領域4およびp型ベース領域3に接続されている。すなわち、n
+型エミッタ領域4およびp型ベース領域3とエミッタ電極とのコンタクト(電気的接触部)8はトレンチ5の長手方向に選択的に設けられており、p型ベース領域3の、トレンチ5の長手方向に隣り合うn
+型エミッタ領域4間に挟まれた部分は層間絶縁膜によって覆われている。
図1の斜視図上面において、ハッチングされた部分はn
+型エミッタ領域4およびp型ベース領域3とエミッタ電極とのコンタクト8であり、ハッチングされていない部分は層間絶縁膜に覆われた部分である。上述したようにメサ領域内においてトレンチ5の長手方向にp型ベース領域3が連続して配置されていることにより、メサ領域の基板おもて面側の表面層全体がエミッタ電位となっている。
【0077】
n
-型半導体基板の裏面の表面層には、p
+型コレクタ層(第3半導体層)1が設けられている。基板裏面には、p
+型コレクタ層1とのオーミック接合をなすコレクタ電極(第3電極)9が設けられている。また、n
-型半導体基板の裏面の表面層には、p
+型コレクタ層1よりも基板裏面から深い位置にn
+型バッファ層(第2半導体層)10が設けられている。すなわち、n
+型バッファ層10は、p
+型コレクタ層1とn
-型ドリフト層2との間に配置され、p
+型コレクタ層1およびn
-型ドリフト層2に接する。n
+型バッファ層10の不純物濃度は、p
+型コレクタ層1側よりもn
-型ドリフト層2側で低く、n
-型ドリフト層2側からp
+型コレクタ層1側へ向かって増加する不純物濃度分布となっている。
【0078】
n
+型バッファ層10の厚さt3は、n
-型ドリフト層2の厚さ(n
-型ドリフト層2の、p型ベース領域3とn
+型バッファ層10とに挟まれた部分の厚さ)t2とほぼ同じか、n
-型ドリフト層2の厚さt2よりも厚い。具体的には、定格電圧は例えば600V以下であり、p型ベース領域3の厚さt1、n
-型ドリフト層2の厚さt2、n
+型バッファ層10の厚さt3、および、p
+型コレクタ層1の厚さt4の合計(すなわち半導体基板の厚さ(シリコン厚さ)D)は60μm以下である。n
+型バッファ層10の厚さt3は、定格電圧に基づいて例えば15μm以上30μm以下程度の範囲内で設定される。上記条件を満たすn
+型バッファ層10を設けることで、定常スイッチング時に、p型ベース領域3とn
-型ドリフト層2との間のpn接合から伸びる空乏層がn
+型バッファ層10にパンチスルーする構成となる。
【0079】
次に、実施の形態1にかかる半導体装置の各部の寸法および不純物濃度について説明する。例えば定格電圧600Vである場合には、耐圧700V程度とし、各部の寸法および不純物濃度は次の値をとる。
図2は、定格電圧600Vの半導体装置の深さ方向の不純物濃度分布を示す特性図である。
図2には、
図1に示す半導体装置のエミッタ電極とn
+型エミッタ領域4との界面(深さ=0μm)から深さ方向にn
+型エミッタ領域4、p型ベース領域3、n
-型ドリフト層2、n
+型バッファ層10およびp
+型コレクタ層1を含む領域の不純物濃度分布を示す(
図3,10,16,18,20,22においても同様)。半導体基板の厚さDは60μmである。p型ベース領域3の厚さt1は2.8μmである。p
+型コレクタ層1の不純物濃度は3.0×10
17/cm
3以上3.6×10
18/cm
3以下であり、その厚さt4は1.0μmである。エミッタ電極とn
+型エミッタ領域4との界面からn
-型ドリフト層2とn
+型バッファ層10との界面までの深さは30μmである。すなわち、n
-型ドリフト層2の厚さt2は27.2μmであり、n
+型バッファ層10の厚さt3は29μmである。n
-型ドリフト層2の比抵抗は23Ωcm以上26Ωcm以下である。n
+型バッファ層10のピーク濃度(コレクタ側の不純物濃度)は、1.1×10
15/cm
3である。この場合、素子耐圧は例えば700V程度であり、定常スイッチング時に300V(定格電圧の半分)の電圧が印加されると仮定した場合に、エミッタ電極とn
+型エミッタ領域4との界面から36μm程度の深さまで空乏層が広がる。すなわち、n
-型ドリフト層2とn
+型バッファ層10との界面からn
+型バッファ層10への空乏層の入り込み量は6μm程度である。定格電圧600VのIGBTは、例えばエアコンのインバーター制御に用いられる。
【0080】
また、例えば定格電圧350Vである場合には、耐圧370V程度とし、各部の寸法および不純物濃度は次の値をとる。
図3は、定格電圧350Vの半導体装置の深さ方向の不純物濃度分布を示す特性図である。半導体基板の厚さDは37μmである。p型ベース領域3の厚さt1は2.8μmである。p
+型コレクタ層1の不純物濃度は4.2×10
17/cm
3以上6.0×10
18/cm
3以下であり、その厚さt4は1.0μmである。エミッタ電極とn
+型エミッタ領域4との界面からn
-型ドリフト層2とn
+型バッファ層10との界面までの深さは19μmである。すなわち、n
-型ドリフト層2の厚さt2は16.2μmであり、n
+型バッファ層10の厚さt3は17μmである。n
-型ドリフト層2の比抵抗は17Ωcmである。n
+型バッファ層10のピーク濃度は、1.4×10
15/cm
3である。この場合、素子耐圧は例えば370V程度であり、定常スイッチング時に150V(定格電圧の半分)の電圧が印加されると仮定した場合に、エミッタ電極とn
+型エミッタ領域4との界面から28μm程度の深さまで空乏層が広がる。すなわち、n
-型ドリフト層2とn
+型バッファ層10との界面からn
+型バッファ層10への空乏層の入り込み量は9μm程度である。定格電圧300V以上400V以下程度のIGBTは、例えばHEV(Hybrid Electric Vehicle:ハイブリッド電気自動車)のモーター部分(BAS:Belted Alternator Starter)に用いられる。
【0081】
このように本発明においては、n
+型バッファ層10の厚さt3をn
-型ドリフト層2の厚さt2とほぼ同じか、n
-型ドリフト層2の厚さt2よりも厚くして定格電圧を600V以下(半導体基板の厚さDを60μm以下)とし、トレンチ5間のメサ部の基板おもて面側の表面層全体にエミッタ電位のp型ベース領域3を配置することにより、p型ベース領域3からエミッタ電極へのホールの引き抜きによるオン電圧の増加は少ない。一方、従来(例えば上記特許文献5の技術に相当する従来構造(
図24))のようにトレンチ105間のメサ領域内にトレンチ105の長手方向に所定間隔で複数のp型ベース領域103を配置してIE効果を維持した構造では、半導体基板の厚さDが60μm以下と薄い場合、n
-型ドリフト層102の抵抗が低くなるため、n
-型ドリフト層102の、p型ベース領域103間に挟まれた部分(フローティングn
-領域)に正孔が蓄積されにくく、IE効果が小さくなる。したがって、定格電圧600V以下である場合、従来のようにIE効果を維持した構造ではなく、本発明のようにトレンチ5間のメサ領域の基板おもて面側の表面層全体にエミッタ電位のp型ベース領域3を配置することによってチャネル密度を高めて、n
-型ドリフト層2への電子の注入量を増やした構造とするのがよい。
【0082】
また、本発明のようにトレンチ5間のメサ領域の基板おもて面側の表面層全体にエミッタ電位のp型ベース領域3を配置した構成において、例えば定格電圧1200V以上とした場合、p型ベース領域3からエミッタ電極へホールが引き抜かれてしまうため、IE効果が小さくなり、オン電圧が高くなる。このため、低オン電圧を実現するためには、定格電圧600V以下程度とするのが好ましい。また、トレンチ5間のメサ領域の基板おもて面側の表面層全体をエミッタ電位のp型ベース領域3とするため、トレンチ5の側壁に設けられたゲート絶縁膜6の大部分がゲート・エミッタ間容量C
GEとなる。ゲート絶縁膜6とn
-型ドリフト層2との接触面積が小さくなるため、メサ領域内のp型ベース領域を複数に分割して単位セルのメサ領域内のある限られた領域をエミッタ構造とした従来構造(
図24)よりもゲート・コレクタ間容量C
GCが小さくなり、スイッチング損失を低減することができる。また、トレンチ5間のメサ領域の基板おもて面側の表面層全体をエミッタ電位のp型ベース領域3とするため、p型ベース領域3を形成するためのイオン注入時にマスクを必要としない。このため、製造工程に用いるマスク枚数を低減することができる。
【0083】
次に、実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法について説明する。まず、出発ウェハとして、例えば、n
-型ドリフト層2となるn
-型の半導体ウェハを用意する。次に、半導体ウェハのおもて面から所定深さの複数のトレンチ5を形成する。トレンチ5の深さは、後述する工程において基板裏面側に形成されるn
+型バッファ層10に達しない深さとする。次に、トレンチ5の内部に、トレンチ5の側壁に沿ってゲート絶縁膜6を形成する。次に、トレンチ5の内部の、ゲート絶縁膜6の内側にゲート電極7を形成する。次に、例えば基板おもて面側からp型不純物をイオン注入することにより、トレンチ5間のメサ領域の基板おもて面側の表面層全体に、トレンチ5の深さよりも浅い深さでp型ベース領域3を形成する。
【0084】
次に、n
+型エミッタ領域4の形成領域に対応する部分が開口したマスクを用いて、基板おもて面側からn型不純物をイオン注入することにより、p型ベース領域3の内部にn
+型エミッタ領域4を選択的に形成する。次に、一般的な方法により、半導体ウェハのおもて面に、層間絶縁膜やエミッタ電極など残りのおもて面素子構造を形成する。このとき、層間絶縁膜には、トレンチ5の長手方向に所定間隔でコンタクトホールを選択的に形成する。次に、半導体ウェハの裏面から例えば1×10
14/cm
2程度でセレン(Se)をイオン注入した後、900℃程度の温度で2時間程度の熱処理(アニール)を行うことにより、半導体ウェハの裏面の表面層に所定厚さのn
+型バッファ層10を形成する。これによって、n
+型バッファ層10とp型ベース領域3との間に残るn
-型層がn
-型ドリフト層2となる。
【0085】
セレンのイオン注入に代えて、プロトン(H
+)を異なるドーズ量で複数回注入(多段注入)することにより、n
+型バッファ層10を形成してもよい。セレンのイオン注入やプロトンの多段注入によりn
+型バッファ層10を形成することで、n
+型バッファ層10の不純物濃度はn
-型ドリフト層2側からp
+型コレクタ層1側へ向かって増加する不純物濃度分布となる。また、例えばリン(P)のイオン注入によってn
+型バッファ層10を形成する場合にはシリコンに対する拡散係数が小さいので深い拡散領域を得ることは困難であるが、拡散係数が大きいセレンのイオン注入によりn
+型バッファ層10を形成することで、深い拡散領域を得ることができる。
【0086】
次に、ウェハ裏面から例えば1.0×10
13/cm
2以上4.0×10
13/cm
2以下のドーズ量でp型不純物をイオン注入することにより、半導体ウェハの裏面の表面層(すなわちn
+型バッファ層10の表面層)に、n
+型バッファ層10よりも薄い厚さでp
+型コレクタ層1を形成する。p
+型コレクタ層1のドーズ量が1.0×10
13/cm
2未満である場合、コレクタ電極9とのオーミック接合を形成することができないため、好ましくない。その後、一般的な方法により、半導体ウェハの裏面にコレクタ電極9などを形成することで、
図1に示す半導体装置が完成する。上述した半導体装置の製造方法において、出発ウェハの厚さが製品厚さよりも厚い場合には、例えばn
+型バッファ層10を形成する前に、半導体ウェハを裏面側から研削していき、半導体装置として用いる製品厚さの位置まで研削すればよい。
【0087】
以上、説明したように、実施の形態1によれば、トレンチ間のメサ領域の基板おもて面側の表面層全体にエミッタ電位のp型ベース領域を配置し、エミッタ側のチャネル密度を高めて、n
-型ドリフト層への電子の注入量を増やした構造とし、かつn
+型バッファ層の厚さをn
-型ドリフト層の厚さとほぼ同じか、n
-型ドリフト層の厚さよりも厚くすることにより、定格電圧600V以下においてオン電圧を低減させることができる。また、実施の形態1によれば、トレンチ間のメサ領域の基板おもて面側の表面層全体にエミッタ電位のp型ベース領域を配置することで、ゲート絶縁膜とn
-型ドリフト層との接触面積が小さくなるため、ゲート・コレクタ間容量が小さくなり、スイッチング損失を低減することができる。また、実施の形態1によれば、トレンチ間のメサ領域の基板おもて面側の表面層全体にp型ベース領域を設けるため、p型ベース領域を形成するためのイオン注入時にマスクを必要としない。このため、製造工程に用いるマスク枚数を低減することができる。また、実施の形態1によれば、定格電圧600V以下と低耐圧であるため、耐圧の大きさに対してオン電圧が高くなることはない。このため耐圧を維持するとともに、低オン電圧を実現することができる。
【0088】
(実施の形態2)
次に、実施の形態2にかかる半導体装置の構造について説明する。
図4は、実施の形態2にかかる半導体装置の構造を示す斜視図である。実施の形態2にかかる半導体装置が実施の形態1にかかる半導体装置と異なる点は、p型ベース領域3の内部にトレンチ5の長手方向に延びるストライプ状にp
+型コンタクト領域(第3半導体領域)13を設け、かつエミッタ電極とのコンタクト18をトレンチ5の長手方向に延びるストライプ状に設けた点である。
図4の斜視図上面において、ハッチングされた部分はn
+型エミッタ領域4、p
+型コンタクト領域13およびp型ベース領域3とエミッタ電極とのコンタクト18であり、ハッチングされていない部分は層間絶縁膜に覆われた部分である(
図5においても同様)。また、メサ領域内においてトレンチ5の長手方向に延びる2本の点線の内側の部分はp
+型コンタクト領域13である(
図5においても同様)。
【0089】
具体的には、
図4に示すように、p型ベース領域3の内部には、同一のメサ領域内においてトレンチ5の短手方向に隣り合うn
+型エミッタ領域4間にp
+型コンタクト領域13が設けられている。p
+型コンタクト領域13は、基板おもて面側の表面層にトレンチ5の長手方向に延びるストライプ状に設けられている。すなわち、p
+型コンタクト領域13は、p型ベース領域3の、エミッタ構造(セル)をなす部分に設けられるとともに、p型ベース領域3の、n
+型エミッタ領域4が設けられていない部分(エミッタ構造に挟まれた部分)にも設けられている。
【0090】
また、p
+型コンタクト領域13は、p型ベース領域3の、n
+型エミッタ領域4が設けられていない部分においてトレンチ5側壁のゲート絶縁膜6に接していてもよい。この場合、しきい値電圧Vthを上昇させないこと、および、n
+型エミッタ領域4の不純物濃度を維持すること、を実現可能な設計条件または製造工程によって、p
+型コンタクト領域13を形成する。層間絶縁膜にはトレンチ5の長手方向に延びるストライプ状にコンタクトホールが設けられている。エミッタ電極(不図示)は、層間絶縁膜のコンタクトホールを介してn
+型エミッタ領域4、p
+型コンタクト領域13およびp型ベース領域3に接続されている。
【0091】
実施の形態2にかかる半導体装置の製造方法は、例えば、実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法において、p型ベース領域3の形成後にp
+型コンタクト領域13を形成する工程を追加し、かつ層間絶縁膜のコンタクトホールをトレンチ5の長手方向に延びるストライプ状に形成すればよい。p
+型コンタクト領域13の形成においては、例えばp
+型コンタクト領域13の形成領域に対応する部分が開口したマスクを用いて、基板おもて面側からp型不純物をイオン注入することによりp
+型コンタクト領域13を形成する。実施の形態2にかかる半導体装置の製造方法のそれ以外の構成は、実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法と同様である。
【0092】
以上、説明したように、実施の形態2によれば、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。また、実施の形態2によれば、p
+型コンタクト領域を設けることにより、p
+型コレクタ層、n
+型バッファ層、n
-型ドリフト層、p型ベース領域およびn
+型エミッタ領域からなる寄生のpnpnサイリスタの動作を制御してラッチアップが生じることを防止することができる。
【0093】
(実施の形態3)
次に、実施の形態3にかかる半導体装置の構造について説明する。
図5は、実施の形態3にかかる半導体装置の構造を示す斜視図である。実施の形態3にかかる半導体装置が実施の形態2にかかる半導体装置と異なる点は、n
+型エミッタ領域14をトレンチ5の長手方向に延びるストライプ状に設けた点である。すなわち、トレンチ5の長手方向に連続してエミッタ構造(セル)が形成されている。エミッタ電極(不図示)は、層間絶縁膜のコンタクトホールを介してn
+型エミッタ領域14およびp
+型コンタクト領域13に接続され、かつp
+型コンタクト領域13を介してp型ベース領域3に電気的に接続されている。
【0094】
実施の形態3にかかる半導体装置の製造方法は、実施の形態2にかかる半導体装置の製造方法において、n
+型エミッタ領域14を形成するためのイオン注入に用いるマスクの開口パターンをトレンチ5の長手方向に延びるストライプ状にすればよい。実施の形態3にかかる半導体装置の製造方法のそれ以外の構成は、実施の形態2にかかる半導体装置の製造方法と同様である。
【0095】
以上、説明したように、実施の形態3によれば、実施の形態1,2と同様の効果を得ることができる。また、実施の形態3によれば、n
+型エミッタ領域をトレンチの長手方向に延びるストライプ状に設けることにより、メサ領域に占めるn
+型エミッタ領域の比率が大きくなり、さらにチャネル密度を高くすることができる。これにより、さらにオン電圧を低減させることができる。
【0096】
(実施の形態4)
次に、実施の形態4にかかる半導体装置の構造について説明する。
図6は、実施の形態4にかかる半導体装置の構造を示す斜視図である。実施の形態4にかかる半導体装置が実施の形態1にかかる半導体装置と異なる点は、p
+型コンタクト領域23をトレンチ長手方向に所定間隔で設け、p
+型コンタクト領域23を介してエミッタ電極(不図示)とp型ベース領域3とを電気的に接続した点である。
図6の斜視図上面において、ハッチングされた部分はn
+型エミッタ領域4、p
+型コンタクト領域23およびp型ベース領域3とエミッタ電極とのコンタクト28であり、ハッチングされていない部分は層間絶縁膜に覆われた部分である。また、点線で囲む部分はp
+型コンタクト領域23である。
【0097】
具体的には、
図6に示すように、p型ベース領域3の内部には、基板おもて面側の表面層にトレンチ5の長手方向に所定間隔でp
+型コンタクト領域23が選択的に設けられている。p
+型コンタクト領域23は、同一のメサ領域内においてトレンチ5の短手方向に隣り合うn
+型エミッタ領域4間に設けられている。層間絶縁膜にはトレンチ5の長手方向に所定間隔でコンタクトホールが選択的に設けられている。エミッタ電極は、層間絶縁膜のコンタクトホールを介してn
+型エミッタ領域4およびp
+型コンタクト領域23に接続され、かつp
+型コンタクト領域23を介してp型ベース領域3に電気的に接続されている。
【0098】
実施の形態4にかかる半導体装置の製造方法は、例えば、実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法において、p型ベース領域3の形成後に、p
+型コンタクト領域23を形成する工程を追加すればよい。p
+型コンタクト領域23の形成においては、例えばp
+型コンタクト領域23の形成領域に対応する部分が開口したマスクを用いて、基板おもて面側からp型不純物をイオン注入することによりp
+型コンタクト領域23を形成する。実施の形態4にかかる半導体装置の製造方法のそれ以外の構成は、実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法と同様である。
【0099】
以上、説明したように、実施の形態4によれば、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0100】
(実施例1)
次に、本発明にかかる半導体装置の出力特性について説明する。
図7は、実施例1にかかる半導体装置の出力特性(コレクタ・エミッタ間電圧V
CE−コレクタ電流I
C特性)を示す特性図である。上述した実施の形態1にかかる半導体装置(以下、実施例1とする)の出力特性を
図7に示す。
図7には、比較として、トレンチ105の長手方向に所定間隔でp型ベース領域103を選択的に設けることでメサ領域内のある限られた領域をエミッタ構造としてIE効果を高めた従来の半導体装置(
図24参照、以下、従来例1とする)の出力特性も示す。従来例1のp型ベース領域103以外の構成は、実施例1と同様である。
図7に示す結果より、実施例1においては、従来例1よりもコレクタ・エミッタ間飽和電圧が低く、スイッチング動作が速いことが確認された。
【0101】
(実施例2)
次に、オン電圧Vonと半導体基板の厚さDとの関係について説明する。
図8は、実施例2にかかる半導体装置のオン電圧と半導体基板の厚さとの関係を示す特性図である。実施の形態1にかかる半導体装置(以下、実施例2とする)について、半導体基板(シリコン基板)の厚さDを30μm〜80μmとしたときのオン電圧について検証した結果を
図8に示す。
図8には、比較として、トレンチ105の長手方向に所定間隔でp型ベース領域103を選択的に設けることでメサ領域内のある限られた領域をエミッタ構造としてIE効果を高めた従来の半導体装置(
図24参照、以下、従来例2とする)についても、半導体基板の厚さを実施例2と同じ条件としたときのオン電圧を示す。従来例2のp型ベース領域103以外の構成は、実施例2と同様である。
【0102】
図8に示す結果より、実施例2においては、半導体基板の厚さDが60μm以下(すなわち定格電圧600V以下)である場合に、従来例2よりもオン電圧Vonを低くすることができることが確認された。その理由は、半導体基板の厚さDを60μm以下とする場合、従来のようにIE効果を高めた構造では、n
-型ドリフト層102の厚さが薄すぎるため、エミッタ側にキャリアが蓄積しにくく、IE効果が得られにくいからである。したがって、半導体基板の厚さDを60μm以下として例えば定格電圧300V〜600VのIGBTを構成する場合、従来のようにIE効果を高めた構造とするよりも、本発明のようにエミッタ側のチャネル密度を高めて、n
-型ドリフト層2への電子の注入量を増やした構造とするのが好ましいことが確認された。
【0103】
(実施の形態5)
次に、実施の形態5にかかる半導体装置の構造について説明する。
図9は、実施の形態5にかかる半導体装置の構造を示す断面図である。
図10は、
図9の半導体装置の深さ方向の不純物濃度分布を示す特性図である。実施の形態5にかかる半導体装置が実施の形態1にかかる半導体装置と異なる点は、プロトンがドープされてなるバッファ層(以下、プロトンドープバッファ層(第1の第1導電型半導体層)とする)31と、リンがドープされてなるバッファ層(以下、リンドープバッファ層(第2の第1導電型半導体層)とする)32と、の2層構造のバッファ層を備える点である。すなわち、p型ベース領域3の厚さt1、n
-型ドリフト層2の厚さt2、プロトンドープバッファ層31の厚さt31、リンドープバッファ層32の厚さt32、および、p
+型コレクタ層1の厚さt4の合計が半導体基板の厚さ(シリコン厚さ)Dとなる。また、実施の形態5においては、プロトンドープバッファ層31の厚さt31およびリンドープバッファ層32の厚さt32の合計が、n
-型ドリフト層2の厚さt2とほぼ同じか、n
-型ドリフト層2の厚さt2よりも厚い。
【0104】
図9,10には、プロトンドープバッファ層31の導電型をn
+(H
+)と示し、リンドープバッファ層32の導電型をn
+(P)と示す(
図14〜22においても同様)。具体的には、
図9,10に示すように、プロトンドープバッファ層31は、リンドープバッファ層32よりも基板裏面から深い位置に設けられ、かつリンドープバッファ層32およびn
-型ドリフト層2に接する。すなわち、プロトンドープバッファ層31は、リンドープバッファ層32とn
-型ドリフト層2との間に配置されている。具体的には、プロトンドープバッファ層31は、基板裏面から少なくとも2.0μm以上8.0μm以下程度の深さの領域を含むように配置されるのが好ましい。その理由は、耐圧を維持しながら、ターンオフ時にコレクタ側にキャリアを残して発振を抑止するために最適な深さであるからである。また、プロトンドープバッファ層31は、基板裏面から異なる深さに形成された複数段のバッファ層で構成されている。プロトンドープバッファ層31を構成する各バッファ層は、例えば、深さ方向に隣り合う層同士が互いに接するように配置されている。
図10には、プロトンドープバッファ層31が3段のバッファ層(以下、第1〜3プロトンドープバッファ層とする)31a〜31cからなる場合を示す。
【0105】
第1〜3プロトンドープバッファ層31a〜31cの不純物濃度は、それぞれ、不純物濃度ピークの位置からn
+型エミッタ領域4側およびp
+型コレクタ層1側に向かって低くなっている。第1〜3プロトンドープバッファ層31a〜31cのピーク濃度(不純物濃度ピークの不純物濃度)は、基板裏面から深い位置にあるほど低い。具体的には、基板裏面から最も深い位置に配置された第1プロトンドープバッファ層31aのピーク濃度は、第2,3プロトンドープバッファ層31b,31cのピーク濃度よりも低い。基板裏面から2番目に深い位置に配置された第2プロトンドープバッファ層31bのピーク濃度は、基板裏面から最も浅い位置に配置された第3プロトンドープバッファ層31cのピーク濃度よりも低い。プロトンドープバッファ層31の厚さ(すなわち、第1〜3プロトンドープバッファ層31a〜31cの厚さの合計)t31は、リンドープバッファ層32の厚さt32よりも厚い。
【0106】
リンドープバッファ層32は、p
+型コレクタ層1とプロトンドープバッファ層31との間に配置され、p
+型コレクタ層1およびプロトンドープバッファ層31に接する。すなわち、リンドープバッファ層32は、p
+型コレクタ層1よりも基板裏面から深い位置に、かつプロトンドープバッファ層31よりも基板裏面から浅い位置に設けられている。具体的には、リンドープバッファ層32は、基板裏面から0.5μm以上3.0μm以下程度の深さの範囲内に配置されるのが好ましい。リンドープバッファ層32の不純物濃度は、不純物濃度ピークの位置からn
+型エミッタ領域4側およびp
+型コレクタ層1側に向かって低くなっている。また、リンドープバッファ層32のピーク濃度は、p
+型コレクタ層1の不純物濃度よりも低く、かつリンドープバッファ層32に接する第3プロトンドープバッファ層31cのピーク濃度よりも高い。また、p型ベース領域3の内部に、実施の形態2〜4と同様にp
+型コンタクト領域13(23)が設けられていてもよい。
【0107】
次に、実施の形態5にかかる半導体装置の各部の寸法および不純物濃度の一例について説明する。例えば定格電圧600Vである場合には、耐圧700V程度とし、各部の寸法および不純物濃度は次の値をとる。半導体基板の厚さDおよびp型ベース領域3の厚さt1は実施の形態1と同様である。n
-型ドリフト層2の厚さt2は28.2μmであり、その比抵抗は実施の形態1と同様である。第1プロトンドープバッファ層31aのピーク濃度は7.0×10
14/cm
3であり、その厚さt311は9.0μmである。第2プロトンドープバッファ層31bのピーク濃度は2.0×10
15/cm
3であり、その厚さt312は9.0μmである。第3プロトンドープバッファ層31cのピーク濃度は8.5×10
15/cm
3であり、その厚さt313は9.5μmである。リンドープバッファ層32のピーク濃度は4.0×10
16/cm
3であり、その厚さt32は1.0μmである。p
+型コレクタ層1の不純物濃度は4.0×10
17/cm
3であり、その厚さt4は0.5μmである。すなわち、プロトンドープバッファ層31の厚さt31およびリンドープバッファ層32の厚さt32の合計は28.5μmである。
【0108】
次に、実施の形態5にかかる半導体装置の製造方法について説明する。
図11〜14は、実施の形態5にかかる半導体装置の製造途中の状態を示す断面図である。まず、
図11に示すように、出発ウェハとして、例えば、n
-型ドリフト層2となるn
-型の半導体ウェハを用意する。次に、半導体ウェハのおもて面側に、実施の形態1と同様に、p型ベース領域3、n
+型エミッタ領域4、トレンチ5、ゲート絶縁膜6およびゲート電極7からなるトレンチゲート型のMOSゲート構造を形成する。次に、半導体ウェハのおもて面に層間絶縁膜11を形成した後、実施の形態1と同様に、層間絶縁膜11を深さ方向に貫通するコンタクトホールを形成して、n
+型エミッタ領域4およびp型ベース領域3を露出させる。ここで、MOSゲート構造としてp
+型コンタクト領域13(23)を形成する場合には、実施の形態2〜4と同様に、p
+型コンタクト領域13(23)やコンタクトホールを形成すればよい。以下、p
+型コンタクト領域13を形成した場合を例に説明する。
【0109】
次に、
図12に示すように、半導体ウェハのおもて面に、層間絶縁膜11のコンタクトホールを介してn
+型エミッタ領域4およびp
+型コンタクト領域13に接するエミッタ電極12を形成する。次に、
図13に示すように、半導体ウェハを裏面側から研削していき、半導体装置として用いる製品厚さの位置まで研削する。製品厚さとは、上述した半導体基板の厚さDである。次に、
図14に示すように、半導体ウェハの裏面からプロトンの多段注入を行った後、例えば330℃以上450℃以下程度の温度で熱処理(アニール)を行うことにより、半導体ウェハの研削後の裏面側の所定の位置にプロトンドープバッファ層31を形成する。プロトンドープバッファ層31を形成するためのプロトンの多段注入条件は、例えば、加速電圧を400keV以上1.5MeV以下の範囲内とし、ドーズ量を1.0×10
13/cm
2以上1.0×10
15/cm
2以下の範囲内として、加速電圧およびドーズ量がそれぞれ異なる複数回のプロトン注入を行うのが好ましい。
【0110】
具体的には、例えば、上述した定格電圧600Vの半導体装置を作製(製造)する場合、プロトンドープバッファ層31となる3段のバッファ層(第1〜3プロトンドープバッファ層31a〜31c)を形成するためのプロトンの多段注入条件および熱処理条件は、次の通りである。第1プロトンドープバッファ層31aを形成するためのプロトン注入条件は、例えば、加速電圧を1.4MeVとし、ドーズ量を2.0×10
13/cm
2としてもよい。第2プロトンドープバッファ層31bを形成するためのプロトン注入条件は、例えば、加速電圧を1.0MeVとし、ドーズ量を5.0×10
13/cm
2としてもよい。第3プロトンドープバッファ層31cを形成するためのプロトン注入条件は、例えば、加速電圧を750keVとし、ドーズ量を2.0×10
14/cm
2としてもよい。このような条件で第1〜3プロトンドープバッファ層31a〜31cを形成することにより、上記例示した深さに所定の厚さt31のプロトンドープバッファ層31が形成される。第1〜3プロトンドープバッファ層31a〜31cを形成する順序は種々変更可能である。また、熱処理条件は、350℃程度の温度で2時間程度である。
【0111】
次に、半導体ウェハの裏面からリンのイオン注入を行い、リンドープバッファ層32を形成する。リンドープバッファ層32を形成するためのリンのイオン注入条件は、例えば、加速電圧を100keV以上900keV以下とし、ドーズ量を5.0×10
11/cm
2以上1.0×10
13/cm
2以下とするのが好ましい。具体的には、例えば、上述した定格電圧600Vの半導体装置を作製する場合、リンドープバッファ層32を形成するためのリンのイオン注入条件は、加速電圧を700keVとし、ドーズ量を1.0×10
12/cm
2としてもよい。これにより、プロトンドープバッファ層31よりも基板裏面から浅い位置に、所定の厚さt32のリンドープバッファ層32が形成される。次に、半導体ウェハの裏面から例えばボロンなどのp型不純物のイオン注入を行い、p
+型コレクタ層1を形成する。p
+型コレクタ層1を形成するため例えばボロンのイオン注入条件は、加速電圧を45keVとし、ドーズ量を1.0×10
13/cm
2としてもよい。そして、例えば330℃以上450℃以下程度の温度でアニールまたはレーザーアニールを行うことにより、リンドープバッファ層32およびp
+型コレクタ層1を活性化させる。次に、半導体ウェハの裏面にコレクタ電極9を形成することで、
図9に示す半導体装置が完成する。
【0112】
以上、説明したように、実施の形態5によれば、基板裏面から深い位置に複数のバッファ層が連続してなるプロトンドープバッファ層を設けることにより、ターンオフ時にエミッタ側から伸びる空乏層がp
+型コレクタ層にパンチスルーすることによって生じる耐圧低下を抑制することができ(フィールドストップ機能)、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。また、実施の形態5によれば、プロトンドープバッファ層を設けることにより、従来と同様に製造プロセス中にウェハ裏面に生じる傷やパーティクルなどによる不良が発生することを抑制することができるとともに、コレクタ側に残存するキャリアを増やすことができ、ターンオフ時の電圧・電流波形の発振を抑制することができる。これにより、ドリフト層の厚さ(ウェハの厚さ)を薄く(薄板化)することができるため、オン電圧を低減させることができるとともに、スイッチング損失を低減させることができる。
【0113】
また、実施の形態5によれば、プロトンドープバッファ層よりも基板裏面から浅い位置にリンドープバッファ層を設けることにより、ターンオフ時にエミッタ側から伸びる空乏層がp
+型コレクタ層にパンチスルーすることによって生じる耐圧低下を防止することができるとともに、コレクタ側からドリフト層へのキャリアの注入を抑制することができる。これによって、ウェハを薄板化することができるため、さらに、低オン電圧化および低スイッチング損失化を図ることができる。定格電圧600V以下の低耐圧では、半導体基板の厚さに対してプロトンドープバッファ層の厚さが厚いものの、リンドープバッファ層を設けることで、オン電圧とスイッチング損失とのトレードオフ関係をより良好な状態にすることができる。すなわち、プロトンドープバッファ層とリンドープバッファ層との2層構造のバッファ層を設けることで、オン電圧とスイッチング損失とのトレードオフ関係をさらに改善することができる。
【0114】
また、実施の形態5によれば、ウェハおもて面側におもて面素子構造(MOSゲート構造など)を形成した後にウェハを薄板化することにより、ウェハの機械的強度が高い状態でウェハおもて面におもて面素子構造を形成することができる。このため、おもて面素子構造の微細化を図ることができ、さらに低オン電圧化を図ることができる。
【0115】
(実施の形態6)
次に、実施の形態6にかかる半導体装置の構造について説明する。
図15は、実施の形態6にかかる半導体装置の構造を示す断面図である。
図16は、
図15の半導体装置の深さ方向の不純物濃度分布を示す特性図である。実施の形態6にかかる半導体装置が実施の形態5にかかる半導体装置と異なる点は、プロトンドープバッファ層31とリンドープバッファ層32とを離して配置し、基板裏面からより深い位置にプロトンドープバッファ層31を設けた点である。具体的には、プロトンドープバッファ層31とリンドープバッファ層32との間にn
-型層33が設けられている。すなわち、p型ベース領域3の厚さt1、n
-型ドリフト層2の厚さt2、プロトンドープバッファ層31の厚さt31、n
-型層33の厚さt5、リンドープバッファ層32の厚さt32、および、p
+型コレクタ層1の厚さt4の合計が半導体基板の厚さDとなる。n
-型層33の不純物濃度は、例えばn
-型ドリフト層2の不純物濃度と同じである。
【0116】
次に、実施の形態6にかかる半導体装置の各部の寸法および不純物濃度の一例について説明する。例えば定格電圧600Vである場合には、耐圧700V程度とし、各部の寸法および不純物濃度は次の値をとる。半導体基板の厚さDおよびn
-型ドリフト層2の比抵抗は実施の形態5と同様である。p型ベース領域3の厚さt1は実施の形態5と同様であり、n
-型ドリフト層2の厚さt2は24.7μmである。第1プロトンドープバッファ層31aのピーク濃度は6.5×10
14/cm
3であり、その厚さt311は9.0μmである。第2プロトンドープバッファ層31bのピーク濃度は1.5×10
15/cm
3であり、その厚さt312は9.0μmである。第3プロトンドープバッファ層31cのピーク濃度は8.0×10
15/cm
3であり、その厚さt313は12.0μmである。すなわち、プロトンドープバッファ層31の厚さt31は30.0μmである。n
-型層33の厚さt5は1.0μmである。リンドープバッファ層32のピーク濃度および厚さt32は実施の形態5と同様である。p
+型コレクタ層1の不純物濃度および厚さt4は実施の形態5と同様である。
【0117】
実施の形態6にかかる半導体装置の製造方法は、例えば、実施の形態5にかかる半導体装置の製造方法において、プロトンドープバッファ層31とリンドープバッファ層32との間にn
-型層33となる基板濃度のn
-型領域が残るように、プロトンドープバッファ層31を形成するためのプロトンの多段注入を行えばよい。具体的には、例えば、上述した定格電圧600Vの半導体装置を作製する場合、第1〜3プロトンドープバッファ層31a〜31cを形成するためのプロトンの多段注入条件は、次の通りである。第1プロトンドープバッファ層31aを形成するためのプロトン注入条件は、例えば、加速電圧を1.5MeVとし、ドーズ量を2.0×10
13/cm
2としてもよい。第2プロトンドープバッファ層31bを形成するためのプロトン注入条件は、例えば、加速電圧を1.2MeVとし、ドーズ量を5.0×10
13/cm
2としてもよい。第3プロトンドープバッファ層31cを形成するためのプロトン注入条件は、例えば、加速電圧を800keVとし、ドーズ量を2.0×10
14/cm
2としてもよい。
【0118】
以上、説明したように、実施の形態6によれば、実施の形態5と同様の効果を得ることができる。また、実施の形態6によれば、プロトンドープバッファ層とリンドープバッファ層との間にn
-型層を設けることで、基板裏面からより深い位置にプロトンドープバッファ層を配置することができる。このため、ターンオフ時の電圧・電流波形の発振を抑制する効果がさらに高くなる。また、ターンオフ時の電圧・電流波形の発振を抑制する効果がさらに高くなるため、半導体基板の厚さをさらに薄くすることができ、オン電圧とスイッチング損失とのトレードオフ関係をさらに改善することができる。
【0119】
(実施の形態7)
次に、実施の形態7にかかる半導体装置の構造について説明する。
図17は、実施の形態7にかかる半導体装置の構造を示す断面図である。
図18は、
図17の半導体装置の深さ方向の不純物濃度分布を示す特性図である。実施の形態7にかかる半導体装置が実施の形態5にかかる半導体装置と異なる点は、リンドープバッファ層を設けない点である。すなわち、プロトンドープバッファ層31はp
+型コレクタ層1に接するように配置されており、p型ベース領域3の厚さt1、n
-型ドリフト層2の厚さt2、プロトンドープバッファ層31の厚さt31、およびp
+型コレクタ層1の厚さt4の合計が半導体基板の厚さDとなる。また、実施の形態7においては、プロトンドープバッファ層31の厚さt31が、n
-型ドリフト層2の厚さt2とほぼ同じか、n
-型ドリフト層2の厚さt2よりも厚い。この場合、プロトンドープバッファ層31のドーズ量を高く設定するなどによって、ターンオフ時にエミッタ側から伸びる空乏層がp
+型コレクタ層1にパンチスルーしない構成にすればよい。これによって、パンチスルーによる耐圧低下もなく、かつバッファ層としてプロトンドープバッファ層31を形成するのみの簡略化された製造工程とすることができ、低コスト化につながる。
【0120】
次に、実施の形態7にかかる半導体装置の各部の寸法および不純物濃度の一例について説明する。例えば定格電圧600Vである場合には、耐圧700V程度とし、各部の寸法および不純物濃度は次の値をとる。半導体基板の厚さDおよびp型ベース領域3の厚さt1は実施の形態5と同様である。n
-型ドリフト層2の厚さt2は28.2μmであり、その比抵抗は実施の形態5と同様である。第1プロトンドープバッファ層31aのピーク濃度および厚さt311は実施の形態5と同様である。第2プロトンドープバッファ層31bのピーク濃度および厚さt312は実施の形態5と同様である。第3プロトンドープバッファ層31cのピーク濃度は実施の形態5と同様であり、その厚さt313は10.5μmである。すなわち、プロトンドープバッファ層31の厚さt31は28.5μmである。p
+型コレクタ層1の不純物濃度および厚さt4は実施の形態5と同様である。
【0121】
実施の形態7にかかる半導体装置の製造方法は、例えば、実施の形態5にかかる半導体装置の製造方法において、リンドープバッファ層を形成するためのリンのイオン注入工程を省略すればよい。このとき、上述した定格電圧600Vの半導体装置を作製する場合、第1〜3プロトンドープバッファ層31a〜31cを形成するためのプロトンの多段注入条件は、例えば実施の形態5と同様であってもよい。
【0122】
以上、説明したように、実施の形態7によれば、実施の形態5と同様の効果を得ることができる。
【0123】
(実施の形態8)
次に、実施の形態8にかかる半導体装置の構造について説明する。
図19は、実施の形態8にかかる半導体装置の構造を示す断面図である。
図20は、
図19の半導体装置の深さ方向の不純物濃度分布を示す特性図である。実施の形態8にかかる半導体装置が実施の形態7にかかる半導体装置と異なる点は、プロトンドープバッファ層31とp
+型コレクタ層1とを離して配置し、基板裏面からより深い位置にプロトンドープバッファ層31を設けた点である。具体的には、プロトンドープバッファ層31とp
+型コレクタ層1との間にn
-型層33が設けられている。すなわち、p型ベース領域3の厚さt1、n
-型ドリフト層2の厚さt2、プロトンドープバッファ層31の厚さt31、n
-型層33の厚さt5、および、p
+型コレクタ層1の厚さt4の合計が半導体基板の厚さDとなる。n
-型層33の不純物濃度は、例えばn
-型ドリフト層2の不純物濃度と同じである。
【0124】
次に、実施の形態8にかかる半導体装置の各部の寸法および不純物濃度の一例について説明する。例えば定格電圧600Vである場合には、耐圧700V程度とし、各部の寸法および不純物濃度は次の値をとる。半導体基板の厚さDおよびn
-型ドリフト層2の比抵抗は実施の形態7と同様である。p型ベース領域3の厚さt1は実施の形態7と同様であり、n
-型ドリフト層2の厚さt2は24.7μmである。第1プロトンドープバッファ層31aのピーク濃度は6.5×10
14/cm
3であり、その厚さt311は9.0μmである。第2プロトンドープバッファ層31bのピーク濃度は1.5×10
15/cm
3であり、その厚さt312は9.0μmである。第3プロトンドープバッファ層31cのピーク濃度は8.0×10
15/cm
3であり、その厚さt313は12.0μmである。すなわち、プロトンドープバッファ層31の厚さt31は30.0μmである。n
-型層33の厚さt5は2.0μmである。p
+型コレクタ層1の不純物濃度および厚さt4は実施の形態7と同様である。
【0125】
実施の形態8にかかる半導体装置の製造方法は、例えば、実施の形態7にかかる半導体装置の製造方法において、プロトンドープバッファ層31とp
+型コレクタ層1との間にn
-型層33となる基板濃度のn
-型領域が残るように、プロトンドープバッファ層31を形成するためのプロトンの多段注入を行えばよい。具体的には、例えば、上述した定格電圧600Vの半導体装置を作製する場合、第1〜3プロトンドープバッファ層31a〜31cを形成するためのプロトンの多段注入条件は、次の通りである。第1プロトンドープバッファ層31aを形成するためのプロトン注入条件は、例えば、加速電圧を1.5MeVとし、ドーズ量を2.0×10
13/cm
2としてもよい。第2プロトンドープバッファ層31bを形成するためのプロトン注入条件は、例えば、加速電圧を1.2MeVとし、ドーズ量を5.0×10
13/cm
2としてもよい。第3プロトンドープバッファ層31cを形成するためのプロトン注入条件は、例えば、加速電圧を800keVとし、ドーズ量を2.0×10
14/cm
2としてもよい。
【0126】
以上、説明したように、実施の形態8によれば、実施の形態7と同様の効果を得ることができる。また、実施の形態8によれば、プロトンドープバッファ層とp
+型コレクタ層との間にn
-型層を設けることで、基板裏面からより深い位置にプロトンドープバッファ層を配置することができる。このため、ターンオフ時の電圧・電流波形の発振を抑制する効果がさらに高くなる。また、ターンオフ時の電圧・電流波形の発振を抑制する効果がさらに高くなるため、半導体基板の厚さをさらに薄くすることができ、オン電圧とスイッチング損失とのトレードオフ関係をさらに改善することができる。
【0127】
(実施の形態9)
次に、実施の形態9にかかる半導体装置の構造について説明する。
図21は、実施の形態9にかかる半導体装置の構造を示す断面図である。
図22は、
図21の半導体装置の深さ方向の不純物濃度分布を示す特性図である。実施の形態9にかかる半導体装置が実施の形態1にかかる半導体装置と異なる点は、n
+型バッファ層(例えばセレンがドープされてなるバッファ層、以下、セレンドープバッファ層とする)10とp
+型コレクタ層1との間にリンドープバッファ層32を設けた点である。リンドープバッファ層32は、セレンドープバッファ層10およびp
+型コレクタ層1に接する。すなわち、p型ベース領域3の厚さt1、n
-型ドリフト層2の厚さt2、セレンドープバッファ層10の厚さt3、リンドープバッファ層32の厚さt32、および、p
+型コレクタ層1の厚さt4の合計が半導体基板の厚さDとなる。
図21,22には、セレンドープバッファ層10の導電型をn
+(Se)と示す。
【0128】
次に、実施の形態9にかかる半導体装置の各部の寸法および不純物濃度の一例について説明する。例えば定格電圧600Vである場合には、耐圧700V程度とし、各部の寸法および不純物濃度は次の値をとる。半導体基板の厚さDおよびp型ベース領域3の厚さt1は実施の形態1と同様である。n
-型ドリフト層2の厚さt2および比抵抗は実施の形態1と同様である。セレンドープバッファ層10のピーク濃度(コレクタ側の不純物濃度)は実施の形態1と同様であり、その厚さt3は28.5μmである。リンドープバッファ層32のピーク濃度は4.0×10
16/cm
3であり、その厚さt32は1.0μmである。p
+型コレクタ層1の不純物濃度は4.0×10
17/cm
3であり、その厚さt4は0.5μmである。
【0129】
実施の形態9にかかる半導体装置の製造方法は、例えば、実施の形態1にかかる半導体装置の製造方法に、リンドープバッファ層を形成するためのリンのイオン注入工程を追加すればよい。リンドープバッファ層を形成するためのリンのイオン注入工程は、例えば実施の形態5と同様である。
【0130】
以上、説明したように、実施の形態9によれば、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。また、実施の形態9によれば、セレンドープバッファ層を設けることにより、従来と同様に製造プロセス中にウェハ裏面に生じる傷やパーティクルなどによる不良が発生することを抑制することができるとともに、コレクタ側に残存するキャリアを増やすことができ、ターンオフ時の電圧・電流波形の発振を抑制することができる。これにより、ドリフト層の厚さを薄くすることができるため、オン電圧を低減させることができるとともに、スイッチング損失を低減させることができる。また、実施の形態9によれば、半導体基板の厚さに対してセレンドープバッファ層の厚さが厚いものの、n
-型ドリフト層の比抵抗を高くして、n
-型ドリフト層の不純物濃度に対するセレンドープバッファ層の不純物濃度の比率を低減すればよく、耐圧低下を防止することができる。
【0131】
(実施例3)
次に、本発明にかかる半導体装置のオン電圧とスイッチング損失(ターンオフ損失)とのトレードオフ関係について説明する。
図23は、実施例3にかかる半導体装置のオン電圧とスイッチング損失とのトレードオフ関係を示す特性図である。上述した実施の形態5にかかる半導体装置(以下、実施例3とする)のオン電圧とスイッチング損失とのトレードオフ関係を
図23に●印で示す。また、
図23には、比較として、p
+型コレクタ層101に接するようにセレンドープバッファ層120を設けた従来の半導体装置(
図27参照、以下、従来例3とする)のオン電圧とスイッチング損失とのトレードオフ関係を■印で示す。
【0132】
図23に示すように、実施例3においては、従来例3よりもオン電圧およびスイッチング損失ともに低減されることが確認された。すなわち、本発明においては、従来よりもターンオフ時の電圧・電流波形の発振を大幅に抑制することができ、それによってシリコン厚さを薄くすることができるため、従来よりもオン電圧とスイッチング損失とのトレードオフ関係をさらに改善することができることがわかる。図示省略するが、実施の形態6〜9にかかる半導体装置においても実施例3と同様の結果が得られることが確認された。
【0133】
(実施の形態10)
次に、実施の形態10にかかる半導体装置の構造について説明する。
図33は、実施の形態10にかかる半導体装置の構造を示す斜視図である。実施の形態10にかかる半導体装置が実施の形態2にかかる半導体装置と異なる点は、次の2点である。1つ目の相違点は、隣り合うトレンチ5間にわたってトレンチ5の短手方向に連続してn
+型エミッタ領域44が設けられている点である。2つ目の相違点は、n
+型エミッタ領域44の直下(コレクタ側)を通ってトレンチ5の長手方向の延びる略直線状にp
+型コンタクト領域43が設けられている点である。
図33の斜視図上面において、ハッチングされた部分はn
+型エミッタ領域44、p
+型コンタクト領域43およびp型ベース領域3とエミッタ電極(不図示)とのコンタクト18であり、ハッチングされていない部分は層間絶縁膜に覆われた部分である。また、点線で囲む部分はp
+型コンタクト領域43である。
【0134】
具体的には、
図33に示すように、トレンチ5間のメサ領域において、n
+型エミッタ領域44が設けられエミッタ構造(セル)をなす部分には、p型ベース領域3の基板おもて面側の表面層に、隣り合うトレンチ5間にわたってトレンチ5の短手方向に連続してn
+型エミッタ領域44が設けられている。すなわち、基板おもて面にn
+型エミッタ領域44のみが露出されている。p型ベース領域3の基板おもて面側の表面層の、n
+型エミッタ領域44よりも深い位置には、n
+型エミッタ領域44の下側(コレクタ側)の面に接するように、p
+型コンタクト領域43が設けられている。p
+型コンタクト領域43は、トレンチ5の側壁に設けられたゲート絶縁膜6と離して、例えばメサ領域の中央部付近に配置されている。n
+型エミッタ領域44の、p
+型コンタクト領域43が接する部分(中央部付近)の厚さは、例えば、n
+型エミッタ領域44のトレンチ側の部分の厚さよりも薄くてもよい。
【0135】
一方、トレンチ5間のメサ領域において、トレンチ5間にn
+型エミッタ領域44が設けられていない部分には、p型ベース領域3の基板おもて面側の表面層にp
+型コンタクト領域43のみが設けられている。すなわち、トレンチ5間にn
+型エミッタ領域44が設けられていない部分において、基板おもて面にはp型ベース領域3およびp
+型コンタクト領域43(またはp
+型コンタクト領域43のみ)が露出されている。また、トレンチ5間にn
+型エミッタ領域44が設けられていない部分において、p
+型コンタクト領域43は、n
+型エミッタ領域44の直下に配置されたp
+型コンタクト領域43につながるように設けられている。すなわち、トレンチ5の長手方向に直線状に延びるコンタクト18は、トレンチ5の長手方向にn
+型エミッタ領域44とp
+型コンタクト領域43とが交互に繰り返しエミッタ電極(不図示)に接続されてなる。
【0136】
トレンチピッチ(トレンチ5の短手方向の配置間隔)は、例えば、2.2μm以上であることが好ましい。その理由は、しきい値電圧Vthの変動を防止することができるからである。n
+型エミッタ領域44の最も深い部分(すなわちn
+型エミッタ領域44の、p
+型コンタクト領域43と接していないトレンチ5側の部分)の基板おもて面からの深さd2は、p
+型コンタクト領域43の基板おもて面からの深さd1と同じか、p
+型コンタクト領域43の基板おもて面からの深さd1よりも浅い。具体的には、p
+型コンタクト領域43の基板おもて面からの深さd1は、例えば0.5μm以上程度であることが好ましい。n
+型エミッタ領域44の最も深い部分の基板おもて面からの深さd2は、p
+型コンタクト領域43の基板おもて面からの深さd1との差を例えば0.0μm以上0.3μm以下程度とすることが好ましい。その理由は、ラッチアップにより破壊に至ることを防止することができるとともに、しきい値電圧Vthの変動を防止することができるからである。
【0137】
実施の形態10にかかる半導体装置の製造方法は、例えば、実施の形態2にかかる半導体装置の製造方法において、p
+型コンタクト領域43の形成後に、p
+型コンタクト領域43の表面層にトレンチ5の長手方向に所定の間隔で配置されるようにn
+型エミッタ領域44を形成すればよい。具体的には、実施の形態2と同様に、トレンチ5の長手方向に延びるストライプ状にp
+型コンタクト領域43を形成する。または、層間絶縁膜をマスクとして用いて、エミッタ電極とのコンタクト18を形成するために層間絶縁膜に開口したコンタクトホールからp型不純物をイオン注入することによりp
+型コンタクト領域43を形成してもよい。そして、トレンチ5の長手方向に所定の間隔でp
+型コンタクト領域43が露出されるように開口したマスクを用いて、n
+型エミッタ領域44を形成する。実施の形態10にかかる半導体装置の製造方法のそれ以外の構成は、実施の形態2にかかる半導体装置の製造方法と同様である。
【0138】
以上、説明したように、実施の形態10によれば、実施の形態1,2と同様の効果を得ることができる。実施の形態10によれば、n
+型エミッタ領域の直下を通るようにp
+型コンタクト領域を設けることで、n
+型エミッタ領域が設けられエミッタ構造をなす部分の体積に対するp
+型コンタクト領域の体積比率を小さくすることができる。このため、オン電圧−ターンオフ損失の関係を改善させるためにトレンチピッチを狭くしたとしても、p型ベース領域のトレンチに沿った部分(チャネルが形成される部分)に回り込んでp
+型コンタクト領域が形成される(以下、p
+型コンタクト領域のチャネルへの回り込みとする)ことを抑制することができる。チャネルが形成される部分の不純物濃度が高くなることを防止することができるため、しきい値電圧が上昇することを抑制することができる。したがって、実施の形態2と同様にラッチアップが生じることを防止することができるとともに、しきい値電圧の上昇を抑制することができる。
【0139】
(実施例4)
次に、p
+型コンタクト領域43の基板おもて面からの深さ(以下、p
+型領域深さとする)と、n
+型エミッタ領域44の最も深い部分の基板おもて面からの深さ(以下、n
+型領域深さとする)との差(=p
+型領域深さ−n
+型領域深さ)と、ラッチアップ電流との関係について説明する。ラッチアップ電流とは、ラッチアップが生じる電流値である。
図35は、実施例4にかかる半導体装置のp
+型領域深さとn
+型領域深さとの差とラッチアップ電流との関係を示す特性図である。
図34は、比較例の半導体装置の構造を示す斜視図である。上述した実施の形態10にかかる半導体装置について、p
+型領域深さとn
+型領域深さとの差を−0.5μm〜0.5μmの範囲で種々変更したときのラッチアップ電流を検証した(以下、実施例4とする)。その結果を
図35に示す。
【0140】
図35には、比較として、従来例4および比較例(
図34)についても、実施例4と同じ条件でp
+型領域深さとn
+型領域深さとの差を種々変更したときのラッチアップ電流を示す。従来例4は、従来例1(
図24参照)において、同一のメサ領域内においてトレンチ105の短手方向に隣り合うn
+型エミッタ領域104間に、トレンチ105の長手方向に延びる直線状にp
+型コンタクト領域を設けた構成となっている。比較例は、トレンチピッチを狭くした場合においても、しきい値電圧Vthが上昇しない構造となっている。具体的には、比較例が実施例4と異なる点は、n
+型エミッタ領域54の直下にp
+型コンタクト領域53は設けていない点である。比較例では、トレンチ5の長手方向に直線状に延びるp
+型コンタクト領域53は、トレンチ5の長手方向に所定の間隔で配置されたn
+型エミッタ領域54によって複数に分離されている。すなわち、トレンチ5の長手方向に隣り合うn
+型エミッタ領域54間に、p
+型コンタクト領域53が設けられている。符号48は、コンタクトホールである。
【0141】
図35に示す結果より、従来例4では、p
+型領域深さとn
+型領域深さとの差を0.4μm以下とした場合に、p
+型領域深さとn
+型領域深さとの差がマイナス方向にシフトするほどラッチアップ電流が定格電流の10倍から下がっていくことが確認された。その理由は、n
+型エミッタ領域104の、トレンチ105の長手方向の幅(奥行長)が実施例4のn
+型エミッタ領域の同幅に対して4倍以上であるからであることが本発明者らによって確認されている。比較例では、p
+型領域深さとn
+型領域深さとの差を0.2μm以下とした場合に、p
+型領域深さとn
+型領域深さとの差がマイナス方向にシフトするほどラッチアップ電流が定格電流の10倍から下がっていくことが確認された。その理由は、n
+型エミッタ領域54の直下にp
+型コンタクト領域53が設けられていないため、コレクタ側から注入された正孔がp
+型コンタクト領域53に流れる際に経由する高抵抗のp型ベース領域3内での正孔の通過距離が実施例4よりも長く、オン抵抗成分が大きいからである。
【0142】
一方、実施例4においては、p
+型領域深さとn
+型領域深さとの差を0.0μm以上0.5μm以下程度とすることで、ラッチアップ電流を定格電流(=10A)の10倍以上(すなわち100A以上)とすることができることが確認された。また、実施例4は、p
+型領域深さとn
+型領域深さとの差が0.4μm未満程度である場合に、p
+型領域深さとn
+型領域深さとの差を等しくした従来例4および比較例よりもラッチアップ電流を高くすることができることが確認された。すなわち、実施例4は、従来例4および比較例よりもラッチアップ耐量を向上させることができることが確認された。また、従来から、p
+型領域深さよりもn
+型領域深さを大きくした場合(p
+型領域深さ<n
+型領域深さ)、n
+型エミッタ領域、p型ベース領域およびn
-型ドリフト層からなるnpnトランジスタが導通してラッチアップしやすい。このため、p
+型領域深さとn
+型領域深さとの差を0.0μm以上とすることで、ラッチアップによる破壊耐量の低下を抑制することができる。
【0143】
(実施例5)
次に、p
+型領域深さとn
+型領域深さとの差と、しきい値電圧Vthとの関係について説明する。
図36は、実施例5にかかる半導体装置のp
+型領域深さとn
+型領域深さとの差としきい値電圧との関係を示す特性図である。実施の形態10にかかる半導体装置について、p
+型領域深さとn
+型領域深さとの差を−0.5μm以上0.5μm以下の範囲で種々変更したときのしきい値電圧Vthを検証した(以下、実施例5とする)。その結果を
図36に示す。
図36には、比較として、従来例5および上記比較例についても、実施例4と同じ条件でp
+型領域深さとn
+型領域深さとの差を種々変更したときのしきい値電圧Vthを示す。従来例5の構成は、従来例4と同様である。
【0144】
図36に示す結果より、実施例5においては、p
+型領域深さとn
+型領域深さとの差が0.3μm以下である場合に、しきい値電圧Vthが変動しないことが確認された。その理由は、p
+型領域深さとn
+型領域深さとの差を0.3μm以下とすることで、トレンチピッチを狭くしたとしても、p
+型コンタクト領域43のチャネルへの回り込みを抑制することができるからである。このため、チャネルの不純物濃度が高くなることを抑制することができ、しきい値電圧Vthの変動を抑制することができる。従来例5では、p
+型領域深さとn
+型領域深さとの差が実施例5と同じであるため、p
+型領域深さとn
+型領域深さとの差としきい値電圧Vthとの関係は実施例5と同じ結果になる。
【0145】
比較例では、p
+型領域深さとn
+型領域深さとの差の違いに依らず、しきい値電圧Vthが変動していないことがわかる。比較例では、n
+型エミッタ領域54の直下、すなわちチャネル付近にp
+型コンタクト領域53が設けられていないため、トレンチピッチを狭くしてもp
+型コンタクト領域53のチャネルへの回り込みがほとんどなく、しきい値電圧Vthが上昇しないからである。したがって、
図35,36に示す結果より、実施例4,5のようにn
+型エミッタ領域44の直下にp
+型コンタクト領域43を配置した場合においても、p
+型領域深さとn
+型領域深さとの差を上記条件とすることで、比較例よりも高いラッチアップ耐量が得られるとともに、比較例と同様のしきい値電圧Vth特性を得ることができる。
【0146】
(実施例6)
次に、トレンチピッチとしきい値電圧Vthとの関係について説明する。
図37は、実施例6にかかる半導体装置のトレンチ間隔としきい値電圧Vthとの関係を示す特性図である。実施の形態10にかかる半導体装置について、トレンチピッチを1.8μm以上5.0μm以下の範囲で種々変更したときのしきい値電圧Vthを検証した(以下、実施例6とする)。その結果を
図37に示す。
図37には、比較として、従来例6についても、実施例4と同じ条件でトレンチピッチを種々変更したときのしきい値電圧Vthを示す。実施例6および従来例6ともに、p
+型領域深さとn
+型領域深さとの差を0.3μmとした。従来例6の、p
+型領域深さとn
+型領域深さとの差以外の構成は、従来例4と同様である。
【0147】
図37に示す結果より、実施例6においては、トレンチピッチが2.2μm未満である場合にしきい値電圧Vthが上昇し、トレンチピッチが2.2μm以上である場合にはしきい値電圧Vthが変動しないことが確認された。すなわち、p
+型領域深さとn
+型領域深さとの差を0.3μm以下として、p
+型コンタクト領域43のチャネルへの回り込みを抑制した構造(実施例5、
図36参照)とした場合においても、トレンチピッチが2.2μm未満である場合には、p
+型コンタクト領域43のチャネルへの回り込みが生じ、チャネルの不純物濃度が高くなることがわかる。したがって、トレンチピッチは2.2μm以上であることが好ましい。
【0148】
一方、従来例6では、トレンチピッチが3.4μm以下である場合に、しきい値電圧Vthが変動することが確認された。すなわち、しきい値電圧Vthの変動を生じさせないためにはトレンチピッチを3.4μmよりも大きくする必要があり、実施例6よりもトレンチピッチを狭くすることができない。その理由は、従来例6のしきい値電圧Vthが上昇する理由が実施例6のしきい値電圧Vthが上昇する理由とは異なるからである。従来例6では、n
+型エミッタ領域104が設けられエミッタ構造をなす部分において、メサ部の中央部にはp
+型コンタクト領域が設けられている。このため、従来例6のp
+型コンタクト領域の厚さは、実施例6のp
+型コンタクト領域43の厚さよりも厚く、0.3μm以上(p
+型領域深さとn
+型領域深さとの差以上)である。
【0149】
それに対して、実施例6においては、p
+型コンタクト領域43はn
+型エミッタ領域44の直下に設けられているため、p
+型コンタクト領域43の厚さは0.3μm(=p
+型領域深さとn
+型領域深さとの差)である。このため、従来例6では、エミッタ構造をなす部分の体積に対するp
+型コンタクト領域の体積比率が実施例6の同体積比率よりも大きく、実施例6よりもp
+型コンタクト領域のチャネルへの回り込みが生じやすいからである。したがって、本発明のようにn
+型エミッタ領域44の直下にp
+型コンタクト領域43を設けることで、さらにトレンチピッチを狭くすることができることがわかる。
【0150】
以上において本発明は、上述した実施の形態に限らず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、実施の形態5〜9では、プロトンの多段注入による複数段の不純物濃度ピークを有するプロトンドープバッファ層が設けられている場合を例に説明しているが、1回のプロトン注入による1つの不純物濃度ピークを有する1段のバッファ層で構成されたプロトンドープバッファ層が設けられていてもよい。また、各実施の形態では第1導電型をn型とし、第2導電型をp型としたが、本発明は第1導電型をp型とし、第2導電型をn型としても同様に成り立つ。