特許第6311904号(P6311904)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6311904微多孔膜及びその製造方法、並びに、電気化学素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6311904
(24)【登録日】2018年3月30日
(45)【発行日】2018年4月18日
(54)【発明の名称】微多孔膜及びその製造方法、並びに、電気化学素子
(51)【国際特許分類】
   D21H 11/18 20060101AFI20180409BHJP
   H01G 9/02 20060101ALI20180409BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20180409BHJP
【FI】
   D21H11/18
   H01G9/02 301
   H01M2/16 N
【請求項の数】15
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2017-48774(P2017-48774)
(22)【出願日】2017年3月14日
(62)【分割の表示】特願2013-86988(P2013-86988)の分割
【原出願日】2013年4月17日
(65)【公開番号】特開2017-119941(P2017-119941A)
(43)【公開日】2017年7月6日
【審査請求日】2017年3月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】507369811
【氏名又は名称】特種東海製紙株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134544
【弁理士】
【氏名又は名称】森 隆一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】待井 芳晴
(72)【発明者】
【氏名】根本 聡
【審査官】 平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−224960(JP,A)
【文献】 特開2012−036529(JP,A)
【文献】 特開2000−331663(JP,A)
【文献】 特許第6150045(JP,B2)
【文献】 第52回電池討論会講演要旨集,(社)電気化学会電池技術委員会,平成23年,p.286(1E12)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D21B 1/00〜D21J7/00
H01G 9/00〜 9/02
11/00〜11/86
H01M 2/14〜 2/18
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維からなる微多孔膜であって、
引張破断強度が0.5kN/m以上であり、30N/mの張力における引張伸度が0.01%〜0.2%であり、170℃における長手方向と幅方向の熱収縮率がそれぞれ2%未満である、微多孔膜。
【請求項2】
膜厚10μmあたりの透気抵抗度が20〜600秒である、請求項1記載の微多孔膜。
【請求項3】
空孔率が30〜70%である、請求項1又は2に記載の微多孔膜。
【請求項4】
水銀圧入法で測定した細孔分布のモード径(最大頻度)が0.3μm未満である、請求項1乃至3のいずれかに記載の微多孔膜。
【請求項5】
1mol/LiPF/プロピレンカーボネート溶液を含浸させた状態において20kHzの交流を使用して決定した体積抵抗率が1500Ω・cm以下である、請求項1乃至4のいずれかに記載の微多孔膜。
【請求項6】
高分子バインダーを更に含む、請求項1乃至5のいずれかに記載の微多孔膜。
【請求項7】
前記高分子バインダーが少なくともカルボキシ基及び/又は水酸基を有する、請求項6記載の微多孔膜。
【請求項8】
セルロース繊維沸点が180℃以上の親水性開孔剤及び溶媒を少なくとも含み、溶媒全体量の50重量%以上が水である、スラリーを基材上に塗布する工程、
前記スラリーを乾燥させて前記基材上にシートを形成する工程、及び、
前記シートを前記基材から剥離する工程
を備える、引張破断強度が0.5kN/m以上であり、30N/mの張力における引張伸度が0.01%〜0.2%であり、170℃における長手方向と幅方向の熱収縮率がそれぞれ2%未満である微多孔膜の製造方法。
【請求項9】
前記親水性開孔剤の水への溶解度が10重量%以上である、請求項8記載の製造方法。
【請求項10】
前記親水性開孔剤がグリコールエーテル類である、請求項8又は9記載の製造方法。
【請求項11】
前記スラリーが高分子バインダーを更に含む、請求項8乃至10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
前記高分子バインダーが少なくともカルボキシ基及び/又は水酸基を有する、請求項11記載の製造方法。
【請求項13】
請求項1乃至7のいずれかに記載の微多孔膜、又は、請求項8乃至12のいずれかに記載の製造方法により得られる微多孔膜からなる、電気化学素子用セパレータ。
【請求項14】
請求項13記載の電気化学素子用セパレータを備える電気化学素子。
【請求項15】
電池又はキャパシタである請求項14記載の電気化学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に、電気化学素子用セパレータに好適なセルロース微多孔膜及びその製造方法、並びに、電気化学素子に関する。
【0002】
本明細書において、電気化学素子とは、正極及び負極とセパレータとを備えた電気化学素子であり、例えば、リチウムイオン二次電池、ポリマーリチウム電池等の各種二次電池、アルミニウム電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等の各種キャパシタ等が挙げられる。
【背景技術】
【0003】
近年、化石資源の枯渇やCO削減といった環境問題に対応するためにエネルギー源としての電気の利用が高まりつつある。そこで、自動車業界では二次電池を利用した電気自動車の開発が盛んに行われている。
【0004】
電気自動車等の充電式の輸送機器の分野や携帯電話等の携帯電子端末の分野などでは、小さな体積でも長時間稼動するように単位体積あたりに貯蔵される電気エネルギーが大きい電気エネルギー貯蔵デバイスが求められている。かかる電気エネルギー貯蔵デバイスとしては例えば、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ等がある。
【0005】
電気自動車の駆動用の二次電池としては、一般に、出力とエネルギー密度の関係から現時点ではリチウムイオン二次電池が採用されている。しかし、電気自動車は依然として高価であるため、市場の広がりは当初の予測よりも緩やかに推移している。一方で、エンジンと駆動用モーター、二次電池を内蔵し、アイドリングストップや回生エネルギーの回収、エンジンを効率よく作動させることにより燃費性能を向上させるハイブリッド自動車は市場に広く受け入れられている。また、駆動用モーターは内蔵しないがアイドリングストップや回生エネルギーの回収で燃費性能を向上させるマイルドハイブリッド自動車も近年市場に投入されつつあり、この電気エネルギー貯蔵デバイスとしてハイレート特性に優れる電気二重層キャパシタも用いられるようになり、今後電気二重層キャパシタの市場の伸びも期待されている。
【0006】
これら電気エネルギー貯蔵デバイスには紙、不織布、微多孔フィルム等のセパレータが使用されている。このような正極及び負極とセパレータとを備えた電気化学素子において一般的にセパレータに要求される性能は、正負極間の短絡防止、電解液に対する化学的安定性、低い内部抵抗等である。これらの要求性能はデバイス間によって求められる程度には差があるが、種類によらずセパレータに共通して求められる特性でもある。
【0007】
リチウムイオン二次電池のセパレータでは一般的に、ポリプロピレン、ポリエチレン等の高分子有機化合物で作られた微多孔膜が採用されている。これらの微多孔膜は、化学的安定性に優れること以外にリチウムイオン二次電池に適した幾つかの特徴を有する。例えば、
1)リチウムイオン二次電池の宿命として少なからずリチウムデンドライトが必ず発生する。細孔径のサイズを小さく設計することができるため、リチウムデンドライトによる短絡を防ぐリチウム遮断特性に優れる。
2)リチウムイオン二次電池が熱暴走を起こした際に、ポリプロピレンやポリエチレンが溶融することで細孔が狭くなり初期の熱暴走を抑制することが可能である。
といった点である。
【0008】
しかしながらこれまでのリチウムイオン二次電池の研究では、熱暴走を起こす根本的な原因は解明されておらず、二次電池に用いられる各種素材は熱暴走のリスクを回避するための手段を経験的な手法で各社検討し提案しているのが現状である。熱暴走の原理の解明から統一した評価法も含めて今後明らかになることによって、より安全性の高い自動車用途に適した材料開発が進むと考えられ、安全性に関する課題も解決されることが期待される。
【0009】
安全性の向上を図るために耐熱性に優れた合成繊維、無機繊維等からなる不織布を用いたセパレータも数多く提案されている。従来不織布は、乾式不織布と湿式不織布がありどちらも電池セパレータとして利用されてきたが、リチウムイオン二次電池用途においては繊維分布の均一性が得られない乾式不織布は電極隔離効果が低いため使用することができないといわれている。一方、湿式不織布は乾式不織布と比べると繊維分布が均一であることが特徴で、製法上の特徴から微多孔フィルムより空孔率を高く調整することができるため、インピーダンスの低いシートを作ることが可能である。しかしながら、現在広くリチウムイオン二次電池に採用されているグラファイト負極を用いた電池には使用することは実質困難である。これはリチウムイオン二次電池が負極側にリチウムデンドライトを生成するという特徴があるためで、このリチウムデンドライトはセパレータ内のリチウムイオンが多く通る負極表面に生成しやすい特性がある。このため数十μmオーダーの範囲でシートそのものに粗密ができる不織布では、リチウムデンドライトが発生しやすい箇所は粗であるため、リチウムデンドライトが生成した際にショートを抑制する遮断特性はフィルムタイプと比較して低いとされている。
【0010】
これらの課題を解決するために特許文献1(特開平11−040130号公報)に代表されるように、細孔サイズをある一定の範囲内に規定することが行われている。しかしながら、孔のサイズは繊維径に左右されるため、細孔サイズを小さくコントロールするには繊維径を細くすることが必要となるが、現在の技術では、安価にナノオーダーのサイズの繊維を作るのは難しいため、極細と呼ばれているような合成繊維を使用したとしてもリチウムイオン二次電池に適した孔のサイズにコントロールすることは実質不可能であり、リチウム遮断特性を向上することはできない。
【0011】
更に、特許文献2(特許第4425576号公報)に代表されるような静電紡糸法を用いて不織布を製造する方式が提案されている。しかしながら、静電紡糸法のみで数十μmの厚みのシートを作るのは現在考案されている生産設備では実質困難ある。自動車用途における電気エネルギー貯蔵デバイスにおいては性能面以外にもコストでが大きな課題となっており、コストの中でもセパレータは、電池コストの2割を占める材料であり今以上のコストダウンが求められているのが現状であるなかで、生産効率を考えると現実的な手法とは言えない。
【0012】
一方、セルロースタイプのセパレータも数多く提案されている。例えば、特許文献3(特許第4201308号公報)には、セルロースの水酸基が電気化学的に安定ではないためアセチル化処理をすることで安定化させリチウムイオン二次電池の適性を持たせるとの記載があるが、セルロースを主体としたセパレータが一部のリチウムイオン二次電池で試験的に使われてきている実績があるため、セルロース自体のリチウムイオン二次電池における電気化学的安定性は問題とはならない。
【0013】
特許文献4(特許第4628764号公報)では、セルロースナノファイバーを使ったセパレータも提案されている。特許文献4に記載されている1000nm以下のセルロース繊維のみを得るには、特許文献4等に記載されているようにバクテリアセルロースを利用する方法が確実である。しかしながら、バクテリアセルロースを使用して工業的にセルロース繊維を得る方法は確立されておらず、生産コストの面で不明瞭な点があり、安価なシートを作るのに有効な手段であるとはいえない。また、特許文献4には天然セルロースを利用する手段も記載されているが、天然セルロースを1000nm以下に均一に処理するとフィブリル化が進むことで保水性が高くなり、抄紙するための原料としては粘度が非常に高く、脱水効率が悪いためこれも有効的な手段とは言えない。更に、キャスト法を用いて製造することもできるとの記載があるが、抄紙法とは細孔のできるプロセスが異なるにも関わらず、その手段については明記されておらず十分な説明がなされていない。
【0014】
また、シート化工程において濾布やメッシュ等を使用して抄紙を行っているが、この手法では脱水時に濾布面が転写されるため、転写面側に数μmの凹凸ができる。したがって、リチウムイオン二次電池に組み込んだ際に電極との密着が不十分となり電池の性能を落とす可能性があるため好ましくない。
【0015】
特許文献5(特開2010−090486公報)では、微細なセルロース繊維を用いて油性化合物をエマルジョン化し、透気抵抗度を一定の範囲内に制御したシートが提案されている。この方法では、油性化合物をエマルジョン化して開孔する手法が取られているが、乾燥工程の水分が揮発する際にエマルジョンが壊れてしまい、シート中に1μm以上の大きな孔が不均一にできる。その結果、リチウム遮断特性が低下し、リチウムデンドライトによる短絡が発生しやすくなるので、リチウムイオン二次電池に使用することはできない。
【0016】
電気二重層キャパシタのセパレータには一般的に紙や不織布が採用されている。また、電気二重層キャパシタにおけるセパレータの主な役割は、電極の短絡防止(セパレート性)、電解液中のイオンの移動を妨げないこと(低い内部抵抗)である。上記したような微多孔膜は密度が高いため、内部抵抗が高くなる傾向にある。一方、不織布をキャパシタのセパレータに用いることも知られているが、セパレート性を保持するために繊維径を小さくしたり、繊維密度を高めると内部抵抗が高くなるという問題があった。そのため、内部抵抗の低いセパレータの開発が望まれている。
【0017】
これら電気二重層キャパシタに用いられるセパレータは、上述の理由からリチウムイオン二次電池においてはリチウム遮断特性と低い内部抵抗は両立することはできない。
【0018】
一方、自動車業界で特にコストが課題である中で、セパレータそのもののコストダウン以外にも電気エネルギー貯蔵デバイスの製造における加工適性を向上させることでデバイス自体のコストを下げることも考えられる。
【0019】
特許文献6(特開2004−207333公報)では耐熱性のある繊維を用いて特定の引張強度と破断伸度で設計することで、耐熱性、加工適性、及び電気二重層キャパシタの性能を兼ね備えることを可能にする提案がなされている。具体的には、破断伸度の数値が大きいほど充電時による電極膨張に追従でき電圧維持率が高いとしているが、破断伸度の数値が大きくなると捲回時にセパレータの幅方向が収縮し、電極が露出することで短絡が発生する恐れがある。
【0020】
また特許文献7(特開2010−7053公報)ではポリオレフィン微多孔膜に特定の弾性率に設計することで加工適性を向上させる提案がなされている。たしかに、ポリオレフィン微多孔膜は機械強度に優れており、加えてリチウムイオン二次電池においては何らかの異常により電池内部の温度が上昇した際に、ポリオレフィンが溶融することで細孔を消失させ熱暴走に至る前に温度上昇を抑制するシャットダウン性能がある。しかし、シャットダウンしても完全に熱暴走に至った際には温度上昇はシャットダウン性能では止めることができず、セパレータが溶けて穴が開くメルトダウンが引き起こされ、電池が発火する恐れがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開平11−040130号公報
【特許文献2】特許第4425576号公報
【特許文献3】特許第4201308号公報
【特許文献4】特許第4628764号公報
【特許文献5】特開2010−090486号公報
【特許文献6】特開2004−207333号公報
【特許文献7】特開2010−7053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明は上述の状況に鑑みて為されたものであり、電気化学素子向けのセパレータとしての性能に優れ、特に、ポリオレフィン微多孔膜にはない高い耐熱性を有し、また、不織布、紙等では発揮できない高いリチウム遮断特性を備え、更に、加工適正や安全性の高いセルロース微多孔膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の物性を備えるセルロース微多孔膜が電気化学素子用のセパレータとしての性能に優れ、特に、高い耐熱性又はリチウム遮断特性を備え、また、加工適性や安全性にも優れていることを見出し、本発明を完成させた。
【0024】
すなわち、本発明は、セルロース繊維からなる微多孔膜であって、
引張破断強度が0.5kN/m以上であり、30N/mの張力における引張伸度が0.01%〜0.2%であり、170℃における長手方向と幅方向の熱収縮率がそれぞれ2%未満である、微多孔膜に関する。
【0025】
前記セルロース繊維には、1μm以上の太さの繊維がセルロース繊維の全重量を基準として5重量%以上含まれていることが好ましい。
【0026】
本発明の微多孔膜は、膜厚10μmあたりの透気抵抗度が20〜600秒であることが好ましい。
【0027】
本発明の微多孔膜は、空孔率が30〜70%であることが好ましい。
【0028】
水銀圧入法で測定した細孔分布のモード径(最大頻度)が0.3μm未満である、請求項1乃至4のいずれかに記載の微多孔膜。
【0029】
本発明の微多孔膜は、1mol/LiPF/プロピレンカーボネート溶液を含浸させた状態において20kHzの交流を使用して決定した体積抵抗率が1500Ω・cm以下であることが好ましい。
【0030】
本発明の微多孔膜は高分子バインダーを更に含むことができる。
【0031】
前記高分子バインダーは少なくともカルボキシ基及び/又は水酸基を有することが好ましい。
【0032】
また、本発明は、セルロース繊維及び沸点が180℃以上の親水性開孔剤を少なくとも含むスラリーを基材上に塗布する工程、
前記スラリーを乾燥させて前記基材上にシートを形成する工程、及び、
前記シートを前記基材から剥離する工程
を備える、引張破断強度が0.5kN/m以上であり、30N/mの張力における引張伸度が0.01%〜0.2%であり、170℃における長手方向と幅方向の熱収縮率がそれぞれ2%未満である微多孔膜の製造方法にも関する。
【0033】
前記親水性開孔剤の水への溶解度は10重量%以上であることが好ましい。
【0034】
前記親水性開孔剤はグリコールエーテル類であることが好ましい。
【0035】
前記スラリーは高分子バインダーを更に含むことができる。
【0036】
前記高分子バインダーは少なくともカルボキシ基及び/又は水酸基を有することが好ましい。
【0037】
本発明は、前記微多孔膜又は前記製造方法により得られる微多孔膜からなる、電気化学素子用セパレータにも関する。
【0038】
特に、本発明は、前記電気化学素子用セパレータを備える電気化学素子にも関する。
【0039】
前記電気化学素子は電池又はキャパシタであることが好ましい。
【発明の効果】
【0040】
本発明のセルロース微多孔膜は電気化学素子向けのセパレータとしての性能に優れている。したがって、本発明のセルロース微多孔膜を用いて、不織布、紙等では困難であった高いリチウム遮断特性を有する電気化学素子用セパレータを製造することが可能となる。また、本発明のセルロース微多孔膜は引張破断強度が高く、引張伸度が小さいために電気化学素子用のセパレータとして優れた寸法安定性を有する。
【0041】
また、本発明の微多孔膜は、セルロース繊維を用いることで熱溶融を起こさない特性を保持しつつ、電気化学素子製造時の乾燥工程に加熱してもその寸法安定性が優れているため、加工適正に優れ、また電気化学素子の安全性に高く寄与することができる。
【0042】
そして、本発明のセルロース微多孔膜の製造方法では、微多孔膜の細孔径及び細孔量を自由に設計することが可能となるため、不織布、紙等では発揮できなかった高いリチウム遮断特性を有する電気化学素子用セパレータに好適なセルロース微多孔膜を得ることが可能であり、また、得られたセルロース微多孔膜は優れた強度及び寸法安定性を備えており、更に、そのようなセルロース微多孔膜を低コストで製造することが可能となる。
【0043】
特に、高分子バインダーを使用する場合には、高分子バインダーをセルロースシートに塗布又は含浸する必要がないので、セルロース膜の微細な孔が高分子バインダーで閉塞されることがなく、また、高分子バインダーをセルロースシート中に均一に分散させることができる。そして、優れた強度及び寸法安定性を備えるセルロース微多孔膜を容易に製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0044】
本発明の微多孔膜は、セルロース繊維からなる微多孔膜であって、引張破断強度が0.5kN/m以上であり、30N/mの張力における引張伸度が0.01%〜0.2%であり、170℃における長手方向と幅方向の熱収縮率がそれぞれ2%未満である微多孔膜である。
【0045】
本発明で使用されるセルロース繊維は特に限定されるものではなく、例えば、セルロースI型、セルロースII型等の任意の型のセルロースの繊維を使用することができるが、コットン、コットンリンター、木材パルプに代表されるような、セルロースI型の天然繊維が好ましい。再生セルロースに代表されるセルロースII型の繊維はセルロースI型の繊維に比べ結晶化度が低くフィブリル化処理を行う際に、短繊維化しやすい傾向があるので好ましくない。
【0046】
本発明においては、セルロース繊維をミクロフィブリル化してもよい。セルロース繊維をミクロフィブリル化処理する装置は特に限定されるものではないが、例えば、高圧ホモジナイザー処理(マントン・ゴーリン型分散機による高圧分散処理)、ラニエタイプ圧力式ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー処理(アルテマイザーTM(スギノマシーン株式会社製)、ビーズミルや流星ミル等の分散装置、マスコロイダー(粒度16〜120番の砥粒を備える砥粒板を複数枚擦合せ配置した砥粒板擦合装置、増幸産業株式会社製)等のホモジナイザー等が挙げられる。また、ミクロフィブリル化処理する前にダブルディスクリファイナー、ビーター等製紙用で使用している叩解機を前処理に使用することも可能である。また、添加量は限られてくるが、TEMPO酸化触媒によってナノファイバー化されたセルロースナノファイバーを用いることも可能である。特に、本発明においては、本発明で使用されるセルロース繊維が、粒度16〜120番の砥粒を備える砥粒板を複数枚擦合せ配置した砥粒板擦合装置の擦合せ部に予め叩解処理したパルプスラリーを通過させる微細化処理、又は予め叩解処理したパルプスラリーを高圧ホモジナイザー処理する微細化処理を受けていることが好ましい。
【0047】
セルロース繊維はセルロース分子の持つ水酸基により、水に均一に分散することが可能であるが、その水系分散液(水性スラリー)の粘度は、セルロース繊維の繊維長と表面積に依存する。セルロース繊維が細くなることは、それだけセルロースの表面積が増えるため、スラリーの粘度も必然的に上昇することになる。またその繊維長が長くなるほど繊維間の相互作用が増えることによってこれも粘度上昇に繋がる要因として考えられる。これらの相互作用による粘度上昇は、高濃度におけるシート化を阻害する要因となっており、ナノセルロースを取り扱うには濃度を下げる手段が一般的にとられている。
【0048】
更に、セルロース繊維はその水酸基により、脱水工程において繊維同士が水素結合を行う性質を持っており、再生セルロース以外の合成繊維で作った不織布にはない特徴が見られる。この水素結合形成の工程において強度が発現する一方で、繊維間が相互作用により乾燥工程における収縮が合成繊維を使った不織布よりも大きいことも特徴として挙げられる。特に繊維径が細くなるに従い繊維の剛度が下がるため、この収縮が顕著に見られる。また極度にフィブリル化が進んだ繊維を用いて作成したシートは繊維間が完全に密着するために透明化することが知られている。つまり、繊維径を細くすることのみでは孔径をコントロールするどころか、多孔質化シートを作ることは困難である。このため、多孔質化されたシートを製造するには乾燥時の収縮を抑えることと繊維間の水素結合を阻害させることが必要となる。これまでに提案されている具体的な手法は、抄紙法やキャスト法でシート化した原料をアセトンのような親水性の溶媒に置換した後、更にトルエンとアセトンの混合溶媒といったより疎水性の高い溶媒に置換して乾燥させる等の方法が提案されている。しかしながらこの手法は2つの問題点がある。まず一つは分散溶媒の水からアセトンに溶媒置換する作業である。セルロース繊維は、繊維径が細くなるに従い保水性が高くなるため、水から溶媒への置換は非常に時間のかかる作業となっており実生産の面で生産性を下げる要因となっている。更に、細孔径は繊維の太さに依存されるため、細孔径はあくまで繊維の太さによってコントロールされることになり、均一化された繊維を利用しなければ目的の細孔径をえることが出来ず、セルロース繊維の処理工程にも時間とコストが必要となっている。
【0049】
本発明においては、使用されるセルロース繊維の全重量に対して1μm以上の径を有する繊維が5重量%以上含まれていることが好ましく、10重量%以上含まれていることがより好ましい。特に、基材上でのスラリーのキャスト塗工を行うにあたり、繊維径が1μm未満の細いセルロース繊維のみを用いてスラリーを調製するとスラリーの粘度が高くなるので、当該スラリーに溶媒等を添加して低粘度化することが必要となるが、その後の溶媒等の乾燥コストが増えるため好ましくない。また、一般的手法でセルロース繊維にせん断力を与えて繊維径の細いセルロース繊維を製造すると繊維長もあわせて短くなる傾向があり、作成したシートの引裂き強度等の強度が低下する傾向がある。そのため、1μm以上の太さを有する繊維が5重量%以上存在することで得られるシートの引裂き強度を向上させることができる。なお、1μm以上の太さを有する繊維以外の繊維については、数nm程度の非常に細いナノファイバーを使用することも可能である。
【0050】
本発明において使用されるセルロース繊維中に占める1μm以上の径を有する繊維量の上限は特に限定されるものではないが、例えば、40重量%以下とすることができ、30重量%以下が好ましく、20重量%以下がより好ましい。1μm以上の径を有する繊維が所定量を超えて存在すると、セルロース繊維同士が水素結合によって接触する接点の数が減少するため、得られるシートの強度が低下するおそれがある。
【0051】
本発明のセルロース微多孔膜は強度特性及び寸法安定性に優れるものである。具体的には、本発明のセルロース微多孔膜の引張破断強度は0.5kN/m以上であり、及び、その引張伸度は0.01〜0.2%である。引張破断強度が0.5kN/m未満の場合、セパレータの捲回等の加工時にシートが切れたり、破損したりするおそれがある。引張破断強度はJIS C2151に準じた測定法により測定することができる。また、引張破断強度の測定結果から、所定の張力下における引張伸度を測定することができる。引張破断強度は0.6kN/m以上が好ましく、0.7kN/m以上がより好ましく、0.8kN/m以上が更により好ましい。前記引張伸度が0.01%未満の場合、捲回等の加工時にシートが伸びないため切断するおそれがある。また、引張伸度が0.2%を超えると加工時においてシートが捲回の方向(長手方向)に伸びすぎて幅方向が収縮してしまう為、作製された電池の電極が露出し短絡を引き起こす危険性がある。30N/mの張力における引張伸度は0.02〜0.19%が好ましく、0.03〜0.18%がより好ましく、0.05〜0.15%が更により好ましい。
【0052】
本発明のセルロース微多孔膜は耐熱性に優れるものである。具体的には、本発明のセルロース微多孔膜の170℃における長手方向と幅方向の熱収縮率はそれぞれ2%未満である。170℃における熱収縮率が2%以上であると、電池の異常による温度上昇時の際にセパレータの変形や損傷により電池が短絡したり発火する等の危険性がある。ポリオレフィンからなる微多孔膜をセパレータに使用した場合170℃で熱溶融する可能性があり、170℃における長手方向と幅方向の熱収縮率は、1.8%未満が好ましく、1.5%未満がより好ましく、1.2%未満が更により好ましい。
【0053】
本発明のセルロース微多孔膜は、膜厚10μm当たりの透気抵抗度が20〜600秒(/100cc)であり、20〜450秒が好ましく、30〜250秒がより好ましい。前記透気抵抗度はJIS P8117に基づいて測定することができる。前記透気抵抗度が20秒未満の場合、リチウムイオン二次電池用途ではリチウム遮断特性が低下し、リチウムデンドライトによる短絡が発生するリスクが高くなるため、安全上好ましくない。600秒超の場合は、特に体積抵抗率が大きくなり電気化学素子の出力特性を落とすことになるため好ましくない。
【0054】
本発明のセルロース微多孔膜の空孔率は30〜70%が好ましい。本発明のセルロース微多孔膜は、空孔率を30%〜70%の範囲に維持することで、電気化学素子に良好に対応可能である。空孔率30%未満でも電気化学素子として作動することは可能ではあるが、抵抗値が高いため出力が下がり電気化学素子としての性能が十分ではないおそれがある。空孔率が70%を超える場合には、細孔分布のモード径が大きくなり微多孔膜に起因する抵抗が下がるので電気化学素子の出力性能及びサイクル特性は向上するが、リチウムイオン二次電池用途ではリチウム遮断特性が低下し、リチウムデンドライトによる短絡が発生するリスクが高くなるため、安全上好ましくない。
【0055】
本発明における空孔率は、セルロース繊維を膨潤させない溶媒をセルロース微多孔膜に含浸させて、その吸液した溶媒の重量から計算することが可能である。具体的には、50mm×50mmのサイズにカットしたサンプルを23℃50%相対湿度の雰囲気下で1日調湿した後、サンプルの厚みを測定し、更にサンプルの重量を4桁若しくは5桁秤を用いて秤量する。秤量後、溶媒に1分間含浸させた後、表面について余分な溶媒を吸い取り紙で吸収した後、再度秤量を行う。含浸後の重量から含浸前の重量を引いた値を含浸した溶媒の密度で割ることにより溶媒の体積を求める。この体積を厚みから計算した全体の体積の百分率を空孔率とする。したがって、この場合の空孔率は以下の式により求めることができる。

空孔率(%)=100×(吸液後のシート重量−吸液前のシート重量)/吸液させた溶媒の密度×5×5×厚み(cm)
【0056】
本発明において空孔率を測定することが可能な溶媒は、セルロースを膨潤させない溶媒なので、極性の低い有機溶媒を用いるのが好ましい。また吸液させた溶媒が短い測定時間の間で揮発してしまわないものを選定する必要がある。特に好ましいものとしては、通常電解液で使用されるプロピレングリコールやケロシン等石油系の高沸点溶媒等が挙げられる。
【0057】
本発明のセルロース微多孔膜の細孔径は、水銀圧入法で測定される細孔分布のモード径(最大頻度)が0.3μm以下であることが好ましい。リチウムイオン電池等の電気化学素子で使用される電極活物質の粒子径は様々な大きさがあるため、必ずしも細孔径が小さくなければならない訳ではない。およその基準としては、使用される活物質の粒子径の1/4の細孔径であれば短絡は起きないとされている。一方で粒子径の小さい活物質を使用する電気化学素子に用いる場合にはモード径が0.3μmよりも小さくする必要がある場合もありうる。
【0058】
本発明のセルロース微多孔膜は、1mol/Lの濃度のLiPFのプロピレンカーボネート溶液を含浸させた状態において20kHzの交流電流を用いて測定される体積抵抗率が1500Ω・cm以下であることが好ましい。体積抵抗率は、前述の透気抵抗度及び空孔率と相関があり、基本的には、透気抵抗度が低く、空孔率が高くなると体積抵抗率が下がる傾向にあるが、体積抵抗率には空孔のサイズ及び膜中の空孔の分布状態も影響するため、透気抵抗度が低く、空孔率が高いものが必ずしも低い体積抵抗率を示すとは限らない。ここで、周波数が20kHzの交流を利用するのは、電極界面の反応等の電気化学的な要素を体積抵抗率の測定値から除くことが目的である。これにより、測定装置の抵抗とセルロース微多孔膜のイオン電導性の合計のみが測定値に寄与するため、当該測定値がセルロース微多孔膜細孔分布及び細孔径を反映することができる。本発明のセルロース微多孔膜は、この体積抵抗率が1500Ω・cm以下であることが好ましく、1000Ω・cm以下がより好ましい。1500Ω・cmを超えるとサイクル特性が悪くなるおそれがある。1500Ω・cm以下では良好なサイクル特性を発現し電気化学素子用セパレータとして好適に使用可能である。
【0059】
本発明における20kHzの交流を用いた体積抵抗率の測定は、以下の手順で行うことができる。まず、直径20mmのサイズに打ち抜いたセルロース微多孔膜を150℃の条件で24時間以上乾燥させる。次に、乾燥したセルロース微多孔膜を、例えば、SH2−Z型固体用サンプルホルダ(東陽テクニカ製)に5枚重ねて入れ、1mol/Lの濃度のLiPF6/プロピレンカーボネートの電解液に十分に浸す。そして、好ましくは、0.8MPaまで減圧してセルロース微多孔膜間に残る空気を脱気した後、対向する2枚の金電極の間に挟み、ポテンショ/ガルバノスタッドを組み合わせた周波数応答アナライザVSP(Bio−Logic製)を用いて掃引周波数100m〜1MHz、振幅10mVの条件で交流インピーダンス値(Ω)を測定する。この値とセルロース微多孔膜の厚みから単位体積当たりの抵抗率(体積抵抗率)に換算する。なお、測定装置が持つ抵抗成分のみを測定しておくか、測定結果に反映されないようキャンセルしておくことが望ましい。
【0060】
本発明のセルロース微多孔膜の表面粗さは、表裏ともにRa値1.5以下が好ましい。表面粗さは、電気化学素子を作製した際の正極とセパレータの接触抵抗として交流インピーダンスに影響を与えることが知られている。この接触抵抗は、ラミネートセルやコイン電池等の電気化学素子で測定した周波数が0.1Hzの値と20000Hzの交流インピーダンス値の差から算出することができる。表面粗さRa値が大きくなるに従い0.1Hzの値と20000Hzの値の差が大きくなる。交流インピーダンスの値はオームの法則に従い対向面積に反比例するが、対向面積を大きくすると測定値自体が小さくなるため測定誤差の影響を受けやすいことや、周波数が低くなるに従い、正極、負極の抵抗成分も交流インピーダンスの値に含まれるため、セパレータの違いだけで値を指定できるものではない。但し、同じ電極、同じ電解液、同じサイズの電池であれば、セパレータの表面性の影響の違いを見ることができる。例えばCoLiO系正極、グラファイト系負極を用い、電解液にはLiPFといった一般的なリチウムイオン二次電池で用いる材料で作成した対向面積15cmのラミネートセルのこの値は、Ra値1.5でおよそ1Ω程度となる。電池の接触抵抗は出来るだけ低い方が好ましいことからRaができるだけ小さくなる条件が好ましい。なお電池を組んで交流インピーダンスを測定する際には、事前に3から5サイクルほど低いレートで充放電を行ったのち、一定の電圧まで充電後にインピーダンスを測定するのが望ましい。
【0061】
表面粗さRaは原料の細かさ、繊維の分散状態、基材の表面性の影響により変動する。特にセパレータの基材転写面は、原料の細かさや繊維の分散状態の影響よりも顕著に影響がでるため正極側に好適に使用できる。抄紙法のワイヤーメッシュや濾布を用いるケースでは、ワイヤーメッシュは濾布の転写面がそのまま出てしまうため、Raの値を小さく制御することができず不適である。
【0062】
本発明のセルロース微多孔膜は、セルロース繊維間を繋ぐための接着剤として、高分子バインダー、特に親水性高分子バインダーを更に含むことが好ましい。
【0063】
親水性高分子バインダーはカルボキシ基及び/又は水酸基を有することが好ましい。親水性高分子バインダー、好ましくはカルボキシ基及び/又は水酸基を含有する親水性高分子バインダーは、樹脂の形態であっても、エマルジョンの形態であってもよい。具体的には、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース等のセルロース誘導体、アルギン酸、両性澱粉、カルボキシル変性澱粉、リン酸エステル化デンプン、コーンスターチ等の多糖類の誘導体、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、カルボキシ基変性ポリビニルアルコール等が利用可能であるが、これらに限定されるものではない。中でも、カルボキシメチルセルロースが好ましく利用可能である。これは、カルボキシメチルセルロースが、セルロースと同じくグルコース残基がβ‐1,4グリコシド結合にて繋がった骨格を持っているため、両者を混合した際に両者の親和性が高いためであると考えられる。
【0064】
前記高分子バインダーを使用する場合のその使用量は特に限定されるものではないが、例えば、セルロース繊維100重量部に対して3〜80重量部使用することが好ましく、5〜50重量部使用することがより好ましく、10〜40重量部使用することが更により好ましい。前記バインダーは、接着剤としての機能以外に、セルロース繊維の分散性を向上させる機能を発揮することができる。均一な細孔分布を得るためには、スラリー中に繊維が均一に分散する必要があるが、バインダーはセルロース繊維の表面に定着することで保護コロイドに似た役割を果たすため分散性が向上する。バインダーの添加量が3重量部未満となると、出来上がったシートの強度が低下するおそれがあり、また、セルロース繊維の分散性が悪化するため、均一な細孔を得ることが困難となる。一方、80重量部よりも多い場合には、バインダーが細孔を埋めてしまう形となり、セルロース製微多孔膜の体積抵抗率が高くなるため好ましくない。
【0065】
前記高分子バインダーは架橋されていてもよい。前記架橋は、高分子バインダーが自己架橋することによって形成されてもよいし、架橋剤を別途添加することにより形成されてもよい。微多孔膜中で架橋を形成することで、熱による分子の移動が制限されるため、熱に対する安定性を高めることができる。
【0066】
また、高分子バインダーの架橋により、高分子バインダーに存在する活性な官能基を架橋によって封鎖することが可能となる。前記官能基としては、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、等が挙げられる。高分子の熱分解反応は、ラジカルの発生と連鎖による酸化反応であると言われている。高分子中の活性な官能基を架橋によって封鎖することで、熱によるラジカルの発生を抑制することができるとともに、発生したラジカルによる攻撃を受けにくくなることから、分子の熱分解を抑制することができ、結果的に微多孔膜全体の熱に対する安定性を高めることができる。
【0067】
前記架橋は、高分子バインダーの分子間のみで形成されていてもよいし、高分子バインダーとセルロースの間に形成されていてもよい。とりわけ、高分子バインダーとセルロースの間に架橋構造が形成される場合は、セルロース同士の相互作用を強化することに繋がり、シートの強度を底上げする効果があるため好ましい。
【0068】
高分子バインダー間、及び、場合によっては高分子バインダーとセルロース間を架橋する架橋剤の種類は特に限定されるものではないが、尿素ホルムアルデヒド樹脂、メラミンホルムアルデヒド樹脂、カルボジイミド基含有化合物、オキサゾリン基含有化合物、グリオキザール基含有化合物、イソシアネート基含有化合物等が利用可能である。中でも、架橋剤が架橋点を複数持つ高分子化合物であると、より多くの分子、繊維を含んだ架橋構造を形成することが可能であるため好ましい。このように、架橋剤は高分子化合物であることが好ましいが、これは架橋剤の架橋点と架橋点の間に長い分子鎖が存在することにより、応力がかかったときにシート内で分子が動く余地ができるため、低分子量の架橋剤と比較してシートの伸びを維持することができるためでもある。
【0069】
前記架橋剤は、特に、カルボジイミド基及び/又はオキサゾリン基を含む化合物であることが好ましい。これらの官能基はいずれも主にカルボキシ基と反応するものであり、前述の通り高分子バインダー分子間、そして、場合によってはセルロースと高分子バインダーの間の結合を形成することができる。
【0070】
前記カルボジイミド基含有化合物としては、ジイソシアネート類を脱二酸化炭素縮合反応して得られる、末端イソシアネート基が親水性基で封止されたカルボジイミド化合物が好ましい。これらのカルボジイミド基含有化合物は−N=C=N−で表されるカルボジイミド基を1つ以上、好ましくは2つ以上含有する。ここで、前記ジイソシアネート類は、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、水添キシリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)、1,12−ジイソシアネートドデカン(DDI)、ノルボルナンジイソシアネート(NBDI)、及び2,4−ビス−(8−イソシアネートオクチル)−1,3−ジオクチルシクロブタン(OCDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(HMDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、及びイソホロンジイソシアネート(IPDI)から選ばれる1種又は2種以上のジイソシアネートが挙げられる。なお、カルボジイミド基含有化合物は、例えば、特開平10−316930の実施例に示す方法で合成することができる。
【0071】
カルボジイミド基含有化合物は上記のように合成しても良く、また市販のものを使用して良い。例えば、日清紡より「カルボジライト」の商品名で市販されている。市販されているカルボジライトは、例えば商品名カルボジライト V-02、V-02-L2、V-04、V-06及びSV-02等がある。
【0072】
前記オキサゾリン基含有化合物としては、例えば、下記一般式(1):
【化1】
(式中、R、R、R及びRは、同一若しくは異なって、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、フェニル基又は置換フェニル基を表す。)で表されるオキサゾリン基を有する重合体が好ましく、例えば、付加重合性オキサゾリンを必須とし、必要に応じてその他の不飽和単量体を含む単量体成分を、従来公知の重合法により水性媒体中で溶液重合することにより得ることができる。
【0073】
上記付加重合性オキサゾリンとしては、例えば、下記一般式(2);
【化2】
(式中、R、R、R及びRは、上記と同様である。R5は、付加重合性不飽和結合をもつ非環状有機基を表す。)で表される化合物等が挙げられる。このような化合物として、具体的には、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリン等が挙げられ、1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的にも入手し易く好適である。
【0074】
このようなオキサゾリン系重合体としては、水溶性タイプでは、エポクロスWS−500、WS−700、エマルションタイプでは、エポクロスK−2010、K−2020、K−2030(日本触媒社製)が挙げられる。特に、主剤との反応性の高い水溶性タイプが好ましい。
【0075】
また、前記架橋剤は、尿素ホルムアルデヒド樹脂及び/又メラミンホルムアルデヒド樹脂であってもよい。これらの官能基はいずれも水酸基と反応するものであり、高分子バインダー分子間、そして、場合によってはセルロースと高分子バインダーの間の結合を形成することができる。
【0076】
本発明の、引張破断強度が0.5kN/m以上であり、30N/mの張力における引張伸度が0.01%〜0.2%であり、170℃における長手方向と幅方向の熱収縮率がそれぞれ2%未満である微多孔膜は、
セルロース繊維及び沸点が180℃以上の親水性開孔剤を少なくとも含むスラリーを基材上に塗布する工程、
前記スラリーを乾燥させて前記基材上にシートを形成する工程、及び、
前記シートを前記基材から剥離する工程
を備える製造方法により得ることができる。
【0077】
本発明のセルロース微多孔膜は、1μm以上の太さの繊維がセルロース繊維の全重量を基準として5重量%以上含まれているセルロース繊維を含むスラリーから得られるものが好ましい。
【0078】
本発明の製造方法は、セルロース繊維からなるシートの多孔質化の手段として沸点が180℃以上の親水性開孔剤を含むスラリーを剥離基材上に塗布し乾燥することで、生産効率を大幅に改善することができる。更に、本発明では、親水性開孔剤の水への溶解度を調整することによってシートの孔のサイズを制御することができる。また、本発明では、親水性開孔剤の添加量の調整により空孔率を自由に制御することができる。例えば、本発明では、セルロース繊維100重量(質量)部に対して親水性開孔剤を好ましくは50〜600重量部、より好ましくは80〜400重量部、更により好ましくは100〜300重量部の割合で使用することができる。
【0079】
本発明の製造方法で使用される親水性開孔剤は、セルロース繊維からなるシートに微細な孔を形成可能な親水性物質であれば特に限定されるものではないが、親水性開孔剤の沸点は、180℃以上であることが必要である。繊維間の水素結合は、乾燥時のシート水分が10〜20重量%の間で形成されることが知られている。この水素結合が形成される際に開孔剤がシート中に存在し、かつ繊維間の水素結合を阻害することにより多孔化が可能となる。沸点が180℃未満の開孔剤を用いた場合は、添加量を多くしても乾燥工程において開孔剤が揮発してしまい、十分に多孔化することができない。そのため沸点が180℃以上の開孔剤が必要であるが、より好ましくは200℃以上である。例えばヘキサノールよりも少ない分子量の一級アルコール等は、水溶性と疎水性をあわせ持つ材料であるが、乾燥工程において水よりも揮発しやすいため十分に水素結合を阻害することができないため本発明においては用いることはできない。但し開孔剤の蒸気で満たした空気を用いて乾燥したり、水よりも蒸気圧の低い溶媒を用いて多段乾燥を用いたりする等の通常の乾燥条件とは異なる乾燥方法を用いた場合は必ずしも沸点が180℃以上である必要はない。
【0080】
本発明の製造方法で使用される親水性開孔剤は、水への溶解度が10重量%以上のものが好ましく、20重量%以上のものがより好ましく、30重量%以上のものが更により好ましい。水への溶解度が10重量%未満の開孔剤を用いた場合には、開孔剤の添加量が限られるため、目的とする空孔率を開孔剤の添加量のみでコントロールすることが困難となりうる。また乾燥が進むに従い溶媒量が減少することで溶解できない開孔剤が分離するため、シートの面方向、厚み方向に均一に多孔化することが困難となりうる。なお、このような疎水性の開孔剤は乳化剤等によりエマルジョン化することで、ある程度均一に多孔化することが可能であるが、孔径の制御は困難である。一方、水への溶解度が10重量%以上の開孔剤を用いた場合には、スラリーに均一に分散可能であり、また、水への溶解性が高いので乾燥工程で分離しないため、乾燥工程において均一に水素結合を阻害することで細孔を均一に作ることができる。
【0081】
本発明で使用される親水性開孔剤は、25℃における蒸気圧が0.1kPa未満のものが好ましく、0.09kPa未満のものがより好ましく、0.08kPa未満のものが更により好ましい。蒸気圧が0.1kPa以上の親水性開孔剤は揮発性が高いのでセルロース膜の多孔化の寄与する前に揮発する傾向が高く、結果として、微多孔質のセルロース膜を得ることが困難となるおそれがある。
【0082】
本発明で使用される親水性開孔剤は、水/オクタノールの分配係数(Log Pow)が−1.2〜0.8の範囲のものが好ましく、−1.1〜0.8の範囲のものがより好ましく、−0.7〜0.4の範囲のものが更により好ましい。前記オクタノールとしてはn−オクタノールが好ましい。前記分配係数が−1.2未満の親水性開孔剤を使用すると、得られるセルロース微多孔膜のインピーダンス値が高まるおそれがある。
【0083】
本発明で用いることのできる親水性開孔剤としては具体的には次のようなものがある。例えば1、5−ペンタンジオール、1-メチルアミノ-2,3-プロパンジオール等の高級アルコール類、イプロシンカプロラクトン、α−アセチル−γ−ブチルラクトン等のラクトン類、ジエチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル類、更にその他にグリセリン、炭酸プロピレン、N-メチルピロリドン等が挙げられるがその限りではない。これらの中でもグリコールエーテル類は蒸気圧が低く、本発明の製造方法において最も適している。
【0084】
本発明において使用されるスラリーは、セルロース繊維と親水性開孔剤以外に繊維間を繋ぐための接着剤として上記の高分子バインダー、好ましくは親水性高分子バインダーを含むことができる。
【0085】
スラリーに添加する高分子バインダーとしては、カルボキシ基及び/又は水酸基を有するものが好ましく、例えば、既述したものが使用できるが、カルボキシメチルセルロースを含むことが好ましい。カルボキシメチルセルロースは、前述したとおりセルロースとの親和性が高く、かつカルボキシ基の働きにより親水性が高いことから、セルロース繊維を分散する性能が良い。また、セルロース表面に存在する官能基と共通であるカルボキシ基と水酸基の両方を持つため、バインダーとセルロースの間の架橋を形成しやすいため好ましい。
【0086】
また、そのほかの高分子バインダーとして、既述したように、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース等のセルロース誘導体、リン酸エステル化デンプン、コーンスターチ、アルギン酸又はその塩等の多糖類の誘導体、電極用のバインダーとして知られているスチレンブタジエン共重合体エマルジョン、ポリフッ化ビニリデン等のバインダーを単独又は複合して使用することも可能である。
【0087】
上記スラリーは更に架橋剤を含むことができる。架橋剤としては既述したものを使用することができる。架橋剤をスラリーの段階で添加することで、架橋剤を親水性高分子と均一に混合することができ、シート中により均一な架橋構造を形成することが可能である。また、後工程で架橋剤を付与する手法と比較して製造が一工程で可能であるため、製造コストを抑制することが可能である。架橋剤の配合量は、特に限定されるものではないが、セルロース繊維100重量部に対して1〜30重量部が好ましく、2〜20重量部がより好ましく、3〜10重量部が更により好ましい。
【0088】
本発明で使用される基材は、特に限定されるものではないが、高分子フィルム、ガラス板、金属板、剥離紙等が使用可能である。なお、基材は、ワイヤー、濾布、濾紙等のスラリー中の親水性開孔剤が裏に抜けないものが好ましい。本発明の製造方法では、親水性開孔剤を用いて多孔化しているため、乾燥前に親水性開孔剤が基材の裏から抜けてしまうと十分にシートを多孔化することができないからである。更に、乾燥したシートは、基材の表面性を転写する特性があるため、基材の表面はできるだけ平滑な方が好ましい。これらのことを考慮すると、二軸延伸したポリエチレンテレフタレートフィルムはフレキシブル性があり、溶融温度も比較的高いため、乾燥時の伸びや収縮の影響が少ない。また、ポリプロピレンフィルムと比較して極性も高いため、水系のスラリー処方においても塗工しやすく、好適に使用することが可能である。
【0089】
本発明の製造方法において、セルロース繊維及び親水性開孔剤(並びに、必要に応じて、高分子バインダー、架橋剤等)を含むスラリーを基材上に塗布する手法は、塗布層の膜厚が一定の範囲内となるように均一塗布できる塗工方法であればいかなる手段でも使うことができる。例えば、スロットダイコーター、カーテンコーター等の前計量タイプのコーターや、MBコーター、MBリバースコーター、コンマコーター等の後計量タイプでも塗工が可能である。
【0090】
本発明において、必要な場合には、添加剤として界面活性剤をスラリーに添加することができる。消泡剤やレベリング剤としてアセチレングリコール等に代表されるノニオン性の界面活性剤を電気化学素子性能に影響を与えない程度であれば使用可能である。イオン性の界面活性剤は、電気化学素子性能に影響を与える可能性があるので使わない方が好ましい。
【0091】
この他に、前記スラリーには、前記界面活性剤以外にも填料を含むことが可能である。例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子といった無機填料、シリコーンパウダー等の有機填料等を使用することが可能である。これらの粒子は、セパレータの細孔に影響を与えない程度に添加可能であるが、できるだけ平均粒子径が2μm未満のものを使用する方が好ましい。平均粒子径が2μm以上になると、粒子間の隙間により細孔径の大きな孔が開いてしまうため好ましくない。なお、これらの填料はスラリーの粘度を下げる効果があるために塗料濃度を上げることが可能となり生産効率を上げるのに好適である。一方、添加量が多すぎると強度が低下するため、セルロース繊維100重量部に対して100重量部よりも多い添加量は好ましくない。
【0092】
本発明の製造方法に用いるスラリーの溶媒は基本的に水を使用する必要があるが、乾燥効率を向上させることを目的としてメタノールやエタノール、t−ブチルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジエチルエーテル、エチルメチルエーテル等のエーテル類等の水よりも蒸気圧の高い溶媒を溶媒全体量の50重量%まで添加することが可能である。これらの溶媒を50重量%以上添加するとセルロース繊維の分散性が悪くなり細孔分布の均一性が悪くなるため好ましくない。
【0093】
本発明の製造方法では、基材上に塗布された前記スラリーを乾燥してシートを得ることができる。乾燥方法は特に限定されるものではないが、具体的には、熱風乾燥及び遠赤外線乾燥の単独又は組み合わせ等の一般的に使用されている乾燥手法を使用して実施することが可能であり、例えば熱風温度は、30〜150℃、好ましくは60〜120℃とすることができるが、できるだけシートの厚み方向の構造が均一に乾燥されるように熱風温度、熱風量、遠赤外線の照射条件等を調整する必要がある。また乾燥効率の向上のために、マイクロ波加熱を使用することもできる。
【0094】
本発明におけるシート厚みは、10〜40μmの範囲が好ましい。セパレータの厚みは、電気化学素子性能を大きく変える要因であるが、10μm未満であるとリチウム遮断特性が十分ではなく、安全性の面で十分でないおそれがある。一方、40μmを超えるとセパレータの体積抵抗率値が大きくなってしまい、電気化学素子の出力性能を落とすことになるため好ましくない。特に好ましいのはリチウム遮断特性及び体積抵抗率の値のバランスから、15〜30μmの範囲のシートである。
【0095】
本発明の製造方法では、このようにして基材上に形成されたシートを剥離して当該シートからなる微多孔膜を得ることができる。基材から微多孔膜を剥離する方法は特に限定されるものではない。
【0096】
本発明の製造方法は、セルロース繊維及び沸点が180℃以上の親水性開孔剤を少なくとも含むスラリーを基材に塗布する工程、前記スラリーを乾燥させて前記基材上にシートを形成する工程、前記シートを前記基材から剥離して該シートからなるセルロース微多孔膜を得る工程に加えて、前記シート又は微多孔膜を有機溶媒で洗浄する工程を更に有することができる。この洗浄工程は、界面活性剤等を必要に応じて使用した場合等において電気化学素子性能を阻害するような成分を取り除き、また、基材から前記シートを剥がす工程をスムーズに行うためのものである。洗浄工程に用いることのできる有機溶媒であれば、特に限定されるものではないが、残留水分が有機溶媒中に移行することによるシートの収縮の影響を避けるためには、水の溶解度が低い疎水性の溶媒が好ましい。
【0097】
前記有機溶媒としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、n‐ヘキサン、トルエン、プロパノール等の比較的揮発速度の速い有機溶剤を1種類又は2種類以上を単独又は混合で1回から数回に分けて使用することができるが、これらに限定されるものではない。残留した開孔剤を洗浄する目的では、エタノール、メタノール等の水と親和性の高い溶媒が好ましいが、シート中の水分が溶媒に移行したり、空気中の水分を吸湿したりして、セルロース微多孔膜の物性やシート形状に影響を与えるため、水分量が管理された状態で使用することが必要である。n−ヘキサン、トルエン等の疎水性の高い溶媒は、親水性開孔剤の洗浄効果は劣るが吸湿しにくいため好適に使用できる。以上の理由から例えば、アセトン、トルエン、n−ヘキサンのように、次第に疎水性が高くなるような順序で洗浄を繰り返しながら溶媒置換していく手法が好ましい。
【0098】
本発明の微多孔膜は、ポリオレフィン等の熱可塑性樹脂製ではなく、高い耐熱性を備えるセルロース製であり、電気化学素子用セパレータの一構成要素として又はそのまま電気化学素子用セパレータとして使用することができる。
【0099】
本発明の電気化学素子用セパレータは、例えば、リチウムイオン二次電池、ポリマーリチウム電池等の電池、並びに、アルミニウム電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等のキャパシタに用いることができる。
【0100】
上記電気化学素子の構成は、本発明の電気化学素子用セパレータをセパレータとして用いていること以外は、従来の電気化学素子と全く同様の構成とすることができる。なお、電気化学素子のセル構造は特に限定するものではなく、積層型、円筒型、角型、コイン型等が挙げられる。
【0101】
例えば、本発明のセパレータを備える電気化学素子としてのリチウムイオン二次電池は、正極と負極とを有し、これらの間に本発明の電気化学素子用セパレータが配置され、この電気化学素子用セパレータに電解液が含浸されたものである。
【0102】
上記正極及び負極は電極活物質を含む。正極活物質としては従来公知のものを用いることができ、例えば、LiCoO、LiNiO、LiMn等のリチウム遷移金属酸化物や、LiFePO等のリチウム金属リン酸塩等が挙げられる。負極活物質としては従来公知のものを用いることができ、例えば、グラファイト等の炭素材料やリチウム合金等が挙げられる。また、電極には必要に応じて、従来公知の導電助材や結着剤が添加される。
【0103】
リチウムイオン二次電池を製造するにはまず、正極活物質、負極活物質とそれぞれ、必要に応じて、従来公知の導電助材や結着剤とを含有してなる正極合剤、負極合剤を従来公知の集電体に塗布する。集電体としては例えば、正極にはアルミニウム等、負極には銅、ニッケル等が用いられる。正極合剤、負極合剤を集電体に塗布した後、乾燥させ、加圧成形することにより、集電体に活物質層が形成された正極及び負極がそれぞれ得られる。
【0104】
次いで、得られた正極及び負極と、本発明の電気化学素子用セパレータとを、正極、電気化学素子用セパレータ、負極の順に積層し或いは巻回して素子を構成する。次いで、その素子を外装材に収納し、集電体を外部電極に接続して、従来公知の電解液を含浸した後、外装材を封止してリチウムイオン二次電池が得られる。
【0105】
また、例えば、本発明のセパレータを備える電気化学素子としての電気二重層キャパシタは、正極と負極とを有し、これらの間に本発明の電気化学素子用セパレータが配置され、この電気化学素子用セパレータに電解液が含浸されたものである。
【0106】
上記正極及び負極の電極は例えば、活性炭粉末と従来公知の導電助材や結着剤とを含有してなる電極合剤を従来公知の集電体に塗布し、乾燥させ、加圧成形することにより得られる。集電体としては例えば、アルミニウム等が用いられる。
【0107】
電気二重層キャパシタは、正極及び負極と、本発明の電気化学素子用セパレータとを、正極、電気化学素子用セパレータ、負極の順に積層し或いは巻回して素子を構成する。次いで、その素子を外装材に収納し、集電体を外部電極に接続して、従来公知の電解液を含浸した後、外装材を封止することにより得られる。
【実施例】
【0108】
以下、本発明を、実施例を用いてより具体的に説明するが、本発明の範囲は実施例に限定されるものではない。
【0109】
(1)厚さの測定
厚み計TM600(熊谷理機製)を用い、セルロース製微多孔膜50mm×50mmのサンプルの厚さを任意で5点測定し、その平均値を膜厚とした。
(2)空孔率の測定
50mm×50mmのサイズにカットしたセルロース製微多孔膜サンプルを23℃50%RHの雰囲気下で1日調湿した後、サンプルの厚みを測定し、更にサンプルの重量を4桁若しくは5桁秤を用いて秤量する。秤量後、ケロシンに1分間含浸させた後、表面について余分な溶媒を吸い取り紙で吸収した後、再度秤量を行い、前述の計算式より算出した。
(3)透気抵抗度の測定
JIS P8117に準じた方法により膜厚10μm当たりの透気抵抗度(単位:秒/100cc)を測定した。
(4)引張破断強度及び引張伸度の測定
JIS C2151に準じた測定法により引張破断強度を測定した。引張破断強度を測定した際に出力されたSSカーブから30N/mにおける引張伸度を決定した。
(5)熱収縮率の測定
100mm×100mmのサイズにカットしたサンプルを23℃50%RHの雰囲気下で1日調湿した後、170℃の乾燥機に1時間静置した。乾燥機から取り出して即座に0.5mm刻みの金網で長手方向及び幅方向のそれぞれ5か所の寸法を測定し、熱収縮率とした。
(6)水銀圧入法による細孔分布のモード径(最大頻度)の測定
オートポアIV9510型(マイクロメリティクス社製)を用い、測定範囲φ415〜0.0003μm、水銀接触角130度、水銀表面張力485dynes/cmの条件設定にて細孔分布曲線を測定した。得られた細孔分布曲線から最大頻度の細孔径を決定し、モード径とした。
【0110】
[実施例1]
NBKPをイオン交換水中に3重量%濃度になるように分散させ、ダブルディスクリファイナーを用いて長さ加重平均繊維長0.4〜0.8mmの範囲となるような条件までサイクリングにて叩解した。長さ加重平均繊維長が0.4mm〜0.8mmの範囲となったセルロース繊維分散液をマスコロイダー(増幸産業株式会社製)で3回処理することにより長さ加重平均繊維長が0.08〜0.1mmとなるセルロース繊維の原料を得た。この原料を脱水装置を使って処理することにより約10重量%まで濃縮した。
【0111】
セルロース繊維の原料を100重量部とし、これに対してグリコールエーテル系開孔剤(商品名:ハイソルブDB 東邦化学製)を350重量部、親水性高分子バインダーとして1重量%濃度でイオン交換水に溶解したカルボキシメチルセルロース(商品名:サンローズMAC−500LC 日本製紙ケミカル製)を10重量部添加し、最終的に固形分濃度が1.7重量%となるように水を加えた塗料をホモミキサー(株式会社アズワン製)で均一に混ざるまで分散を行った。
【0112】
調合した塗料を100μmのPETフィルム上にWET膜厚が0.45mmとなるようアプリケーターを用いて塗布し、120℃の熱風及び赤外線ヒーターを用いて12分間乾燥した。得られた塗工膜をトルエン中でPETフィルムから剥離してトルエンを揮発させることにより坪量5.9g/m、膜厚17μm、空孔率57%のセルロース微多孔膜を得た。
【0113】
[比較例1]
NBKPをイオン交換水中に3重量%濃度になるように分散させ、ダブルディスクリファイナーを用いて長さ加重平均繊維長0.4〜0.8mmの範囲となるような条件までサイクリングにて叩解した。長さ加重平均繊維長が1.2〜1.6mmの範囲となったセルロース繊維分散液をマスコロイダー(増幸産業株式会社製)で1回処理することにより長さ加重平均繊維長が0.18mm〜0.22mmとなるセルロース繊維の原料を得た。この原料を脱水装置を使って処理することにより約10重量%まで濃縮した。このセルロース繊維原料を使用した以外は実施例1と同様の手法で坪量6.1g/m、膜厚21μm、空孔率60%のセルロース微多孔膜を得た。
【0114】
[比較例2]
比較例1で得たセルロース繊維原料を使用し、且つ、WET膜厚を0.90mmとなるよにPETフィルム上へ塗布した以外は実施例1と同様の手法で坪量10.5g/m、膜厚37μm、空孔率65%のセルロース微多孔膜を得た。
【0115】
実施例1で得られたセルロース製微多孔膜について、透気抵抗度、引張破断強度、引張強度、長手方向熱収縮率、幅方向熱収縮率、モード径を測定したところ、以下のとおりであった。
透気抵抗度:48秒/100cc
引張破断強度:0.6kN/m
引張伸度:0.10%
長手方向熱収縮率:1.0%
幅方向熱収縮率:1.0%
モード径:0.15μm
【0116】
比較例1で得られたセルロース微多孔膜について、透気抵抗度、引張破断強度、引張強度、長手方向熱収縮率、幅方向熱収縮率、モード径を測定したところ、以下のとおりであった。
透気抵抗度:27秒/100cc
引張破断強度:0.4kN/m
引張伸度:0.14%
長手方向熱収縮率:1.0%
幅方向熱収縮率:1.0%
モード径:0.27μm
【0117】
比較例2で得られたセルロース微多孔膜について、透気抵抗度、引張破断強度、引張強度、長手方向熱収縮率、幅方向熱収縮率、モード径を測定したところ、以下のとおりであった。
透気抵抗度:29秒/100cc
引張破断強度:0.6kN/m
引張伸度:0.23%
長手方向熱収縮率:1.0%
幅方向熱収縮率:1.0%
モード径:0.25μm
【0118】
また、セパレータとして実施例1のセルロース製微多孔膜を、電極としてLiCoO正極及びメソカーボンマイクロビーズ負極を使用し、また、電解液として1M−LiPF/エチレンカーボネート:メチルエチルカーボネート=3:7(体積比)を使用した対向面積15cmのラミネート型のリチウムイオン二次電池を作成した。この電池について0.2Cのレートで充電時間率250%まで電圧をモニタリングしながら充電を行い、5V以降で電圧の降下が確認される場合を不合格とし、電圧の降下が確認されない場合を合格とする遮断特性試験を実施した。この結果、実施例1のセルロース製微多孔膜を使用した二次電池は合格であった。
【0119】
更に、市販の電池用捲回機を用い、長さ450mm、幅100mmのセパレータ、及び、長さ3500mm、幅95mmの遮断特性試験で用いたものと同じ種類の電極を使用して、セパレータの張力を30N/mとして、箔速度2000mm/sの条件で、円筒型の捲回体を作成し、セパレータの破断や破れやシワがなく、幅方向の寸法変化が0.2%以下であるものを合格とし、0.2%超を不合格とする加工適性を評価した。実施例1と比較例1及び2のセルロース製微多孔膜を前記セパレータとして使用したところ、実施例1の加工適性は合格であったが、比較例1はセパレータの破断が生じ不合格であった。また、比較例2のセルロース製微多孔膜は、捲回後に得られた捲回体のセパレータに幅方向の収縮が生じ、電極が一部露出していた。
【0120】
したがって、本発明のセルロース製微多孔膜は電気化学素子用セパレータとして好適であり、電池及びキャパシタのセパレータとして好適に使用することができる。