特許第6311934号(P6311934)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ニプロ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6311934-ニードルレスコネクター 図000002
  • 特許6311934-ニードルレスコネクター 図000003
  • 特許6311934-ニードルレスコネクター 図000004
  • 特許6311934-ニードルレスコネクター 図000005
  • 特許6311934-ニードルレスコネクター 図000006
  • 特許6311934-ニードルレスコネクター 図000007
  • 特許6311934-ニードルレスコネクター 図000008
  • 特許6311934-ニードルレスコネクター 図000009
  • 特許6311934-ニードルレスコネクター 図000010
  • 特許6311934-ニードルレスコネクター 図000011
  • 特許6311934-ニードルレスコネクター 図000012
  • 特許6311934-ニードルレスコネクター 図000013
  • 特許6311934-ニードルレスコネクター 図000014
  • 特許6311934-ニードルレスコネクター 図000015
  • 特許6311934-ニードルレスコネクター 図000016
  • 特許6311934-ニードルレスコネクター 図000017
  • 特許6311934-ニードルレスコネクター 図000018
  • 特許6311934-ニードルレスコネクター 図000019
  • 特許6311934-ニードルレスコネクター 図000020
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6311934
(24)【登録日】2018年3月30日
(45)【発行日】2018年4月18日
(54)【発明の名称】ニードルレスコネクター
(51)【国際特許分類】
   A61M 39/04 20060101AFI20180409BHJP
   A61M 39/26 20060101ALI20180409BHJP
【FI】
   A61M39/04 100
   A61M39/26
【請求項の数】12
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-538591(P2014-538591)
(86)(22)【出願日】2013年9月26日
(86)【国際出願番号】JP2013076084
(87)【国際公開番号】WO2014050976
(87)【国際公開日】20140403
【審査請求日】2016年6月7日
(31)【優先権主張番号】特願2012-213139(P2012-213139)
(32)【優先日】2012年9月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】佐野 嘉彦
(72)【発明者】
【氏名】松尾 浩
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 賢
【審査官】 田中 玲子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2010−514528(JP,A)
【文献】 特表2010−508986(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/133754(WO,A1)
【文献】 米国特許第06050978(US,A)
【文献】 特開平9−108361(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0282302(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 39/04
A61M 39/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬液流路が形成されたハウジング内に弾性弁体が組み込まれており、該弾性弁体のスリットに雄ルアーが挿し入れられると該弾性弁体が開いて該薬液流路に該雄ルアーが接続されるニードルレスコネクターにおいて、
前記ハウジングには裾広がりの傾斜面を有する突状支持面が形成されており、該突状支持面に対して前記弾性弁体が密着状態で重ね合わされて、該突状支持面において、前記薬液流路の開口部上に該弾性弁体の前記スリットが位置させられていると共に、
該突状支持面に重ね合わされた該弾性弁体の外周面に凹凸が付されて周方向に延びる谷部と山部が形成されており、且つ、
前記スリットに前記雄ルアーが挿し入れられた接続状態において、変形し易い前記谷部での湾曲と変形し難い前記山部での形状保持との協働作用で前記弾性弁体が前記突状支持面から外方へ離隔して曲げ変形されて前記弾性弁体と前記突状支持面との間に間隙が生ぜしめられるようになっている
ことを特徴とするニードルレスコネクター。
【請求項2】
前記弾性弁体の外周面における凹凸が、角部をもたない滑らかな湾曲断面形状とされている請求項1に記載のニードルレスコネクター。
【請求項3】
前記弾性弁体が、前記突状支持面の裾側領域に重ね合わされる薄肉部と、該突状支持面の頂側領域に重ね合わされる厚肉部とを、含んで構成されており、
該厚肉部の上端部分の外周面に前記谷部が形成されている請求項1又は2に記載のニードルレスコネクター。
【請求項4】
前記弾性弁体が、前記突状支持面の裾側領域に重ね合わされる薄肉部と、該突状支持面の頂側領域に重ね合わされる厚肉部とを、含んで構成されており、
少なくとも該厚肉部の外周面に前記谷部と前記山部が形成されている請求項1〜3の何れか1項に記載のニードルレスコネクター。
【請求項5】
前記弾性弁体が、前記突状支持面の裾側領域に重ね合わされる薄肉部と、該突状支持面の頂側領域に重ね合わされる厚肉部とを、含んで構成されており、
少なくとも該薄肉部の外周面に前記谷部と前記山部が形成されている請求項1〜4の何れか1項に記載のニードルレスコネクター。
【請求項6】
前記谷部と前記山部が前記弾性弁体の外周面の全周に亘って設けられている請求項1〜5の何れか1項に記載のニードルレスコネクター。
【請求項7】
前記弾性弁体の外周が前記ハウジングで覆われていると共に、それら弾性弁体とハウジングとの間には該弾性弁体の外周側への変形を許容する内部空間が設けられている請求項1〜6の何れか1項に記載のニードルレスコネクター。
【請求項8】
前記内部空間を外部空間に連通させる空間連通路が形成されている請求項7に記載のニードルレスコネクター。
【請求項9】
前記弾性弁体には、前記スリットの貫通方向の両端部分においてそれぞれ外周側に広がる一対のフランジ状部が一体形成されており、
該一対のフランジ状部の外周縁部がそれぞれ前記ハウジングで固定支持されている請求項1〜8の何れか1項に記載のニードルレスコネクター。
【請求項10】
前記弾性弁体の外側端面に重ね合わされて第二弁体が設けられており、該第二弁体に設けられて前記雄ルアーが挿し入れられるスリットが、該弾性弁体の前記スリットに対して交差して重ね合わされる方向に形成されている請求項1〜9の何れか1項に記載のニードルレスコネクター。
【請求項11】
前記突状支持面の少なくとも先端部分が稜線状の頂部をもって延びる長山形状とされていると共に、前記弾性弁体の前記スリットが該稜線状の頂部に沿って延びる状態で重ね合わされている請求項1〜10の何れか1項に記載のニードルレスコネクター。
【請求項12】
前記薬液流路において、前記突状支持面の頂部に開口する先端部分が、断面積を絞られたノズル状とされている請求項1〜11の何れか1項に記載のニードルレスコネクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療分野における輸液ルート等の液体流路に用いられて、かかる液体流路に対してシリンジ等に設けられた雄ルアーを接続可能とするニードルレスコネクターに関する。
【背景技術】
【0002】
医療分野において輸液や輸血等を行う液体流路では、シリンジや輸液バッグ等を接続および切り離し可能とするために、ニードルレスコネクターが用いられている。このニードルレスコネクターは、米国特許第6171287号明細書(特許文献1)の図1に記載されているように、ハウジングに形成された薬液流路の先端開口部に弾性弁体が組み付けられている。また、薬液流路の基端には、血管に挿入されたカテーテルが接続されるようになっている。
【0003】
そして、弾性弁体のスリットに対して外部から雄ルアーを挿し入れることにより、弾性弁体が開いて薬液流路と雄ルアーとが連通されるようになっている。この状態で雄ルアーに接続されたシリンジ等からニードルレスコネクター内部に薬液を流入させて、患者に薬液投与を行うことができる。また、薬液投与が完了すると、雄ルアーはスリットから抜き取られ、スリットは弾性弁体の復元に伴って閉鎖される。これにより、薬液流路の先端開口部が弾性弁体で遮断されて、血管等に接続された薬液流路から雄ルアーが切り離されることとなる。
【0004】
ところで、ニードルレスコネクターでは、雄ルアーをスリットから抜き取る際に、その薬液流路に接続されたカテーテルに血管から血液が入り込み(逆流)、血液凝固が生じるおそれがある。そこで、雄ルアーをスリットから抜き取る際の血液の逆流を防止可能なニードルレスコネクターが求められている。
【0005】
上記特許文献1に記載されたニードルレスコネクターは、従来構造のものであり、薬液流路の先端開口部が弾性弁体に向かって次第に広がっている。しかし、弾性弁体における薬液流路側の端面が支えられておらず、外部から雄ルアーを差し入れた際に、弾性弁体の中央部分が薬液流路の先端開口部から内方に入り込むように弾性変形する。その結果、雄ルアーを抜き取る際には、弾性弁体の復元変形に伴って、血管等に接続された薬液流路の容積が増大して、薬液流路への血液等の吸い込み力が発生し、血液の逆流が生じ易かった。
【0006】
なお、かかる血液の逆流を防止するために、特表2009−544449号公報(特許文献2)には、弁体である隔壁に対して、内側チャンバーを形成すると共に硬質部材を埋設した構造が提案されている。この特許文献2に記載の構造では、雄ルアー等の先端部の挿し入れ時に、隔壁の弾性変形に伴って内側チャンバーの容積が増大することにより、先端部の抜き取り時に内側チャンバーの容積が減少して血液等の逆流が防止されるようになっている。
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載の構造でも、弁体である隔壁に対して雄ルアー等の先端部を挿し入れると、内側チャンバーは拡幅されるものの、内側チャンバー内に隔壁が入り込むように変形することから、結局のところ内側チャンバーの容積拡大が充分に達成され難く、目的とする血液等の逆流防止効果が充分に発揮され難いという問題があった。しかも、弁体である隔壁が硬質部材との複合構造とされて、形状も複雑であることから製造が難しいという問題もある。更に、弾性体である隔壁の弾性変形が硬質部材で拘束されることから、変形剛性が大きくなって操作が難しくなるおそれがあることに加えて、変形応力の集中等による亀裂の発生が懸念され、充分な耐久性を得難いという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第6171287号明細書
【特許文献2】特表2009−544449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここにおいて、本発明は上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、血液等の逆流を簡単な構造で防止することが出来る新規なニードルレスコネクターを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる課題を解決するために為された本発明の第1の態様は、薬液流路が形成されたハウジング内に弾性弁体が組み込まれており、該弾性弁体のスリットに雄ルアーが挿し入れられると該弾性弁体が開いて該薬液流路に該雄ルアーが接続されるニードルレスコネクターにおいて、前記ハウジングには裾広がりの傾斜面を有する突状支持面が形成されており、該突状支持面に対して前記弾性弁体が密着状態で重ね合わされて、該突状支持面において、前記薬液流路の開口部上に該弾性弁体の前記スリットが位置させられていると共に、該突状支持面に重ね合わされた該弾性弁体の外周面に凹凸が付されて周方向に延びる谷部と山部が形成されており、且つ、前記スリットに前記雄ルアーが挿し入れられた接続状態において、変形し易い前記谷部での湾曲と変形し難い前記山部での形状保持との協働作用で前記弾性弁体が前記突状支持面から外方へ離隔して曲げ変形されて前記弾性弁体と前記突状支持面との間に間隙が生ぜしめられるようになっていることを特徴とする。
【0011】
本態様に係るニードルレスコネクターでは、突状支持面に対して弾性弁体を密着状態で重ね合わせたことにより、雄ルアーの挿し入れ時に弾性弁体が突状支持面に沿ってスリット拡開方向に押し広げられて弾性変形する。これにより、雄ルアーの挿し入れ時に弾性弁体が薬液流路側に入り込むことが防止され、スリットが広がる分だけ弾性弁体と突状支持面との間の容積が確実に増大する。それ故、雄ルアーを抜き取った際に、広がっていたスリットが閉じる分に相当する容積減少量が薬液流路に陽圧(正圧)を発生することとなり、血液等の逆流防止に効果的に作用し得る。
【0012】
しかも、本態様のニードルレスコネクターでは、突状支持面に密着して重ね合わされた弾性弁体の外周面に谷部と山部が形成されていることで、弾性弁体における弾性が部分的に異ならされて変形し易い部分とし難い部分が形成されている。それ故、雄ルアーの挿し入れ時に突状支持面に沿って弾性弁体が変形する際、谷部によって変形し易くされた部分において屈曲するようにして突状支持面から外方へ離隔する方向の曲げ変形が発生し易い。
【0013】
これにより、弾性弁体の変形剛性が小さくされて雄ルアーの挿し入れ操作が容易になる。また、弾性弁体が、突状支持面から外方へ離隔するように曲げ変形することで、初期状態で密着された弾性弁体と突状支持面との間に間隙が確実に安定して生じ易くなる。この間隙が安定して発生することにより、雄ルアーの挿し入れ時における弾性弁体内での容積増大が大きく且つ安定して実現され得て、雄ルアーの抜き取りに際して薬液流路に一層大きな陽圧を発生させて、血液等の逆流防止効果の更なる向上が図られ得る。
【0014】
なお、本態様において、谷部と山部は、弾性弁体の外周面における相対的な高さの部分であって、相対的に凹の部分を谷部といい、相対的に凸の部分を山部という。また、谷部と山部は、相互に隣接している必要はなく、離れて設けられていても良いし、数や形状等についても限定されるものでない。
【0015】
本発明の第2の態様は、前記第1の態様に係るニードルレスコネクターであって、前記弾性弁体の外周面における凹凸が、角部をもたない滑らかな湾曲断面形状とされているものである。
【0016】
本態様では、弾性弁体の外周面において、谷部や山部を設けたことに起因する角部の発生が回避されることで、変形や応力の集中による亀裂発生が防止されて耐久性が向上される。
【0017】
本発明の第3の態様は、前記第1又は第2の態様に係るニードルレスコネクターであって、前記弾性弁体が、前記突状支持面の裾側領域に重ね合わされる薄肉部と、該突状支持面の頂側領域に重ね合わされる厚肉部とを、含んで構成されており、該厚肉部の上端部分の外周面に前記谷部が形成されているものである。
【0018】
本態様では、厚さ寸法が大きくされることで変形剛性が大きくなりがちの弾性弁体の厚肉部において、柔らかな変形が実現されることとなり、それによって、雄ルアーの挿し入れも容易となる。
【0019】
本発明の第4の態様は、前記第1〜3の何れかの態様に係るニードルレスコネクターであって、前記弾性弁体が、前記突状支持面の裾側領域に重ね合わされる薄肉部と、該突状支持面の頂側領域に重ね合わされる厚肉部とを、含んで構成されており、少なくとも該厚肉部の外周面に前記谷部と前記山部が形成されているものである。
【0020】
本態様では、変形剛性が大きくなりがちの弾性弁体の厚肉部において、その外周面に設けた谷部と山部の大きさや形状、数などを調節することで、要求されるスリット遮断特性や、雄ルアーの挿し入れ操作性、更に雄ルアー引抜時の血液等の逆流防止作用を、より適切に且つ大きな自由度で設定することが可能になる。即ち、谷部によって実現される変形し易さを利用して雄ルアーの挿し入れ操作を容易としつつ、山部によって実現される弾性強度を利用してスリットの遮断を確実にし、更に、谷部と山部の協働で実現される外方への安定した膨らみ変形を利用して雄ルアーの引抜時の優れた逆流防止効果を得ることが可能になる。
【0021】
本発明の第5の態様は、前記第1〜4の何れかの態様に係るニードルレスコネクターであって、前記弾性弁体が、前記突状支持面の裾側領域に重ね合わされる薄肉部と、該突状支持面の頂側領域に重ね合わされる厚肉部とを、含んで構成されており、少なくとも該薄肉部の外周面に前記谷部と前記山部が形成されているものである。
【0022】
本態様では、もともと薄肉で且つテーパ形状とされていることで雄ルアー挿し入れ時に変形し易い薄肉部において、その変形の態様を、谷部と山部によって予め設定することが出来、それによって、薄肉部における外側へ膨らむ変形をより安定して発生させることが可能になる。
【0023】
本発明の第6の態様は、前記第1〜5の何れかの態様に係るニードルレスコネクターであって、前記谷部と前記山部が前記弾性弁体の外周面の全周に亘って設けられているものである。
【0024】
本発明においては、谷部と山部を必ずしも弾性弁体の全周に設ける必要はないが、本態様に従って、山部と谷部を全周に亘って連続して設けることにより、雄ルアー挿し入れ時における弾性弁体の外方への膨らみ変形を一層大きくすることができる。これにより、雄ルアーの抜き取りに際して薬液流路に一層大きな陽圧を発生させて、血液等の逆流防止効果の更なる向上が図られ得る。
【0025】
本発明の第7の態様は、前記第1〜6の何れかの態様に係るニードルレスコネクターであって、前記弾性弁体の外周が前記ハウジングで覆われていると共に、それら弾性弁体とハウジングとの間には該弾性弁体の外周側への変形を許容する内部空間が設けられているものである。
【0026】
本態様では、弾性弁体の外側への弾性変形を内部空間によって充分に許容しつつ、弾性弁体の略全体をハウジングによって保護することが可能になる。その結果、弾性弁体に対して他部材が干渉することに起因する損傷や、弾性変形の阻害などの問題が防止され得る。特に、本発明では、弾性弁体の変形空間を弾性弁体の内部に設ける等して、突状支持面から外方に離れる弾性変形を弾性弁体に許容することも可能であるが、本態様では、弾性弁体をハウジングでカバーして保護しつつ、突状支持面から離れる変形を、一層簡単な構造をもって弾性弁体に許容することも可能となる。
【0027】
本発明の第8の態様は、前記第7の態様に係るニードルレスコネクターであって、 前記内部空間を外部空間に連通させる空間連通路が形成されているものである。
【0028】
本態様では、雄ルアーの挿し入れによる弾性弁体の拡径変形に際して、変形許容空間の空気ばねによる変形抵抗が回避される。これにより、雄ルアーを弾性弁体へ一層容易に挿し入れることが出来ると共に、弾性弁体と突状支持面との間の間隙も一層生じ易くなって、雄ルアーの抜き取りに際しての血液等の逆流防止効果の更なる向上も達成される。
【0029】
本発明の第9の態様は、第1〜8の何れかの態様に係るニードルレスコネクターであって、前記弾性弁体には、前記スリットの貫通方向の両端部分においてそれぞれ外周側に広がる一対のフランジ状部が一体形成されており、該一対のフランジ状部の外周縁部がそれぞれ前記ハウジングで固定支持されているものである。
【0030】
本態様では、一対のフランジ状部において弾性弁体をハウジングに固定支持することで、弾性弁体のスリット内に形成される薬液流路の外部空間に対する流体密性を容易に且つ高度に確保することが可能になる。
【0031】
本発明の第10の態様は、前記第1〜9の何れかの態様に係るニードルレスコネクターであって、前記弾性弁体の外側端面に重ね合わされて第二弁体が設けられており、該第二弁体に設けられて前記雄ルアーが挿し入れられるスリットが、該弾性弁体の前記スリットに対して交差して重ね合わされる方向に形成されているものである。
【0032】
本態様では、弾性弁体と第二弁体の何れにおいても、雄ルアーの挿抜に伴う弾性変形に基づいてスリットが開閉されて薬液流路の連通/遮断が切り換えられる。これら二つの弁体が、各スリットが交差する状態で重ね合わされることにより、雄ルアーの挿抜時における薬液流路の外部空間に対するシール性の更なる向上が図られ得る。
【0033】
本発明の第11の態様は、前記第1〜10の何れかの態様に係るニードルレスコネクターであって、前記突状支持面の少なくとも先端部分が稜線状の頂部をもって延びる長山形状とされていると共に、前記弾性弁体の前記スリットが該稜線状の頂部に沿って延びる状態で重ね合わされているものである。
【0034】
本態様では、長山形状の突状支持面に対応した形状とされて突状支持面に密着して配置される弾性弁体において、スリットを挟んだ両側部分が、突状支持面の稜線状の頂部を挟んだ両側斜面に沿って案内されつつ、スリットを拡開する方向に弾性変形することとなる。それ故、突状支持面による案内作用とスリットの拡開方向とが相俟って、弾性弁体の弾性変形が一層効率的に且つ安定して発生する。これにより、雄ルアーの挿し入れにより弾性弁体と突状支持面との間に一層大きな間隙が安定して発生して、雄ルアーの抜取りに際しての血液等の逆流防止がより効果的に達成される。
【0035】
本発明の第12の態様は、前記第1〜11の何れかの態様に係るニードルレスコネクターであって、前記薬液流路において、前記突状支持面の頂部に開口する先端部分が、断面積を絞られたノズル状とされているものである。
【0036】
本態様では、突状支持面に開口する薬液流路の先端開口部が、小さい開口面積とされることから、雄ルアーの挿し入れ時に弾性弁体がかかる先端開口部に入り込む等の不具合がより効果的に防止される。
【発明の効果】
【0037】
本発明に従う構造とされたニードルレスコネクターでは、弾性弁体の外周面に谷部と山部が設けられていることにより、雄ルアーの挿し入れ時に、変形し易い谷部付近で屈曲するように弾性弁体が変形させられる。これにより、弾性弁体において、突状支持面から離れる方向に向かう弾性変形が安定した形状をもって発生することとなり、雄ルアーの挿し入れに際して弾性弁体と突状支持面との間に所定の間隙が安定して発生する。その結果、雄ルアーの抜き取り時にかかる間隙が消失することに基づいて生ずる陽圧によって、血液等の逆流防止効果が有効に且つ安定して発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明の第1の実施形態としてのニードルレスコネクターの縦断面図。
図2図1のII−II断面図。
図3図1に示されたニードルレスコネクターを構成するベースハウジングの斜視図。
図4図1に示されたニードルレスコネクターを構成する弾性弁体の斜視図。
図5図4に示された弾性弁体の正面図。
図6図4に示された弾性弁体の側面図。
図7図6のVII−VII断面図。
図8図5のVIII−VIII断面図。
図9図2に示されたニードルレスコネクターにおける雄ルアーの挿し入れ状態を示す説明図。
図10】本発明の第2の実施形態としてのニードルレスコネクターの縦断面図。
図11図10のXI−XI断面図。
図12図10に示されたニードルレスコネクターを構成する弾性弁体の斜視図。
図13図12に示された弾性弁体の正面図。
図14図12に示された弾性弁体の側面図。
図15図14のXV−XV断面図。
図16図13のXVI−XVI断面図。
図17図11に示されたニードルレスコネクターにおける雄ルアーの挿し入れ状態を示す説明図。
図18】比較例における弾性弁体の図5に対応する正面図。
図19図18に示される弾性弁体の図6に対応する側面図。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。先ず、図1,2には、本発明の第1の実施形態としてのニードルレスコネクター10が示されている。このニードルレスコネクター10は、ハウジング12に対して、弾性弁体としての下部弁14と第二弁体としての上部弁16とが組み込まれた構造とされている。なお、以下の説明中、上下方向は、図1,2中の上下方向を言う。
【0040】
より詳細には、ハウジング12は分割構造とされており、図1の下方となる基端側のベースハウジング18と、図1の上方となる先端側のカバーハウジング20とを含んで構成されている。
【0041】
ベースハウジング18は、中心軸上を延びる筒状部22の外周側に離れて周壁部24が設けられており、これら筒状部22と周壁部24の上端部間が上底部26で一体的に連結されている。また、筒状部22は、周壁部24から下方に突出しており、筒状部22の内部に薬液流路28が形成されている。一方、周壁部24の内周面にはロック溝30が形成されている。
【0042】
そして、図示しない血管内留置カテーテルが、ベースハウジング18の筒状部22の基端開口部に対して接続されるようになっている。本実施形態では、筒状部22と周壁部24とによってロック型のルアー構造が構成されており、カテーテルが確実に接続可能とされている。
【0043】
また、図3にも示されているように、筒状部22と周壁部24が上底部26で連結されたベースハウジング18の上端面には、中央部分において上方に向かって略山形に突出する突状支持面32が形成されている。突状支持面32の少なくとも先端部分(図3中の上方)には、稜線状に延びる頂部34が形成されている。これにより、本実施形態では、突状支持面32が全体として長山形状とされている。
【0044】
なお、筒状部22に形成された薬液流路28は、上方の先端部分において開口しており、断面積を縮小された、ノズル状の先端開口部36とされている。そして、このノズル状の先端開口部36が、突状支持面32において稜線状に延びる頂部34の中央に開口している。
【0045】
また、本実施形態では、図1〜3に示されているように、突状支持面32は、頂部から裾部に至る全体に亘って略一定の傾斜角度とされた裾広がりのテーパ形の傾斜面とされている。即ち、突状支持面32には、高さ方向の中間部分に折れ点や屈曲点が設けられておらず、上下方向に略直線的に延びる傾斜面とされている。尤も、本発明において、突状支持面32の傾斜面は直線状に限定されるものではなく、湾曲していても良いし、高さ方向の途中に1つ或いは複数の折れ点や屈曲点を有していても良い。
【0046】
さらに、本実施形態では、突状支持面32上において、頂部34から下方に延びる直線状の連通溝37が形成されている。特に、本実施形態では、図1中の左右方向に一対の連通溝37a,37aが形成されていると共に、図2中の左右方向に一対の連通溝37b,37bが形成されている。この一対の連通溝37b,37bは、頂部34の中央である薬液流路28の先端開口部36から延び出して突状支持面32の下端裾部にまで直線的に形成されている。
【0047】
なお、ベースハウジング18の上端面には、突状支持面32の外周側を所定幅で周方向に広がる環状の平坦面38(図3参照)が形成されていると共に、平坦面38の外周縁部には上方に向かって円筒形状で突出する外周カラー40が一体形成されている。また、ベースハウジング18の外周面には、カバーハウジング20を位置決め固定するための段差42が形成されている。
【0048】
このようなベースハウジング18と協働してハウジング12を構成するカバーハウジング20は、図1,2に示されているように、全体として段付の円筒形状を有している。即ち、かかるカバーハウジング20は、大径の円筒形状を有するカバー本体44と、小径の円筒形状を有する接続口部46とが、円環板形状の上底部48により一体的に連結されている。
【0049】
そして、下方に向かって開口するカバー本体44が、ベースハウジング18の上方から組み付けられて、カバー本体44の開口部がベースハウジング18の外周面に嵌め合わされている。なお、カバー本体44の開口部分は、ベースハウジング18の段差42によって軸方向で位置決めされた状態で、圧入や溶着,接着などの固着手段によりベースハウジング18に対して固定されている。
【0050】
このようにベースハウジング18に対してカバーハウジング20が組み付けられることにより、ベースハウジング18の上方において、カバーハウジング20で周囲を覆われた内部領域が形成されている。また、かかる内部領域は、カバーハウジング20の接続口部46を通じて、上方に開口されている。なお、接続口部46の外周面には、ロック溝50が形成されている。また、カバー本体44および接続口部46の各周壁には、内外に貫通する空気抜き孔52が形成されている。
【0051】
そして、上述の如きハウジング12内に形成された内部領域に対して、下部弁14と上部弁16が組み込まれている。
【0052】
下部弁14は、図4〜8に示されているように、ブロック形状を有する厚肉部としての弁本体部54と、弁本体部の下側でテーパ状に広がる外周面形状をもった拡径部56とを備えている。この弁本体部54の外周面形状は特に限定されるものでないが、本実施形態では略楕円筒形状とされている。
【0053】
また、下部弁14の外周面には、凹凸が周方向に延びて付されている。これにより、本実施形態では、弁本体部54の外周面に、各1つの谷部58と山部60が、それぞれ周方向の全周に亘って連続して延びる環状に形成されている。かかる谷部58は、弁本体部54の上端部分の外周面に形成されている一方、山部60は、弁本体部54の下端部分の外周面に形成されている。
【0054】
更にまた、本実施形態では、弁本体部54の下端から拡径部56がテーパ状に広がっていることから、弁本体部54と拡径部56との境界部分にも、下部弁14の全周に亘って延びる谷部58が形成されている。
【0055】
また、図7〜8に示されているように、下部弁14の外周面に形成された凹凸は、角部を持たない滑らかな曲線で形成されている。これにより、弁本体部54および拡径部56の外周面が、各谷部58,58と山部60を含む全体として、折れ点を持たない滑らかな湾曲断面形状とされている。
【0056】
なお、図5〜8における二点鎖線は、弁本体部54において、凹凸による谷部58および山部60が形成されていない仮想上の外周面形状を現している。即ち、この仮想線で現される弁本体部54の外周面形状が、楕円筒形のベース形状とされている。
【0057】
また、弁本体部54の中央部分には、スリット62が上下方向に貫通形成されている。本実施形態では、前述のように、弁本体部54の横断面が楕円形の外周面形状とされており、スリット62は、この楕円形の長軸方向に延びている。更に、弁本体部54の上下両端の外周面には、スリット62の貫通方向両端部分において、一対のフランジ部64,64が一体形成されており、それぞれ外周側に広がっている。
【0058】
さらに、下部弁14は、その上端面が平坦面とされている一方、その下端面には、中央部分に開口する凹所66が形成されている。この凹所66の内周面形状は、前述のベースハウジング18の突状支持面32に対応したテーパ面形状とされている。具体的には、凹所66は、下端の開口部に向かって次第に拡開する楕円形状のテーパ面とされている。
【0059】
かかる凹所66の内周面は、拡径部56の外周面と略同じ傾斜角度とされている。そして、拡径部56の内部に凹所66が形成されることにより、拡径部56がテーパ筒形状の薄肉部とされている。なお、凹所66の上部は、厚肉部を構成する弁本体部54の軸方向中間部分にまで延び出している。
【0060】
一方、上部弁16は、図1,2に示されているように、略扁平楕円の横断面形状で上下方向に延びる弁本体部68を備えており、この弁本体部68の上下両端の外周面には、一対のフランジ部70,72が一体形成されている。また、弁本体部68の中央部分には、スリット74が上下方向に貫通形成されている。このスリット74は、上部弁16の横断面において扁平楕円の長軸方向に延びており、上下方向に直線的に貫通している。
【0061】
そして、下部弁14の上側端面(外側端面)に上部弁16が重ね合わされた状態で、これら下部弁14および上部弁16が、ハウジング12内に組み込まれている。
【0062】
ここにおいて、下部弁14は、その凹所66に対して、ベースハウジング18の突状支持面32が嵌まり込んだ状態で組付けられており、凹所66の内面が突状支持面32の実質的に全面に亘って略密着状態で重ね合わされている。即ち、ベースハウジング18の突状支持面32の裾側領域には、下部弁14において薄肉部を構成する拡径部56の内周面が重ね合わされていると共に、突状支持面32の頂側領域には、下部弁14において厚肉部を構成する弁本体部54が重ね合わされている。
【0063】
また、下部弁14の下側のフランジ部64は、突状支持面32の外周側でベースハウジング18の平坦面38に対して略密着状態で重ね合わされている。一方、下部弁14の上側のフランジ部64には、上部弁16の下側のフランジ部72が重ね合わされており、略同じ外径寸法とされた両フランジ部64,72が、カバーハウジング20の上底部48の下面に重ね合わされている。
【0064】
さらに、ハウジング12には、円筒形状の押さえスリーブ76が組み込まれており、下部弁14の弁本体部54に外挿状態で配されている。この押さえスリーブ76は、ベースハウジング18の外周カラー40に下端部分を嵌め入れられて位置決めされた状態で、下部弁14における上下のフランジ部64,64間に組み付けられている。ここにおいて、本実施形態では、押さえスリーブ76の高さ寸法(図1中の上下方向)は、下部弁14の一対の上下フランジ部64,64の対向面間距離よりわずかに大きくされている。これにより、押さえスリーブ76の軸方向下端面により、下部弁14の下側のフランジ部64の外周部分が、ベースハウジング18の平坦面38に押し付けられてシール固定されている。また、押さえスリーブ76の軸方向上端面により、互いに重ね合わされた下部弁14の上側のフランジ部64と上部弁16の下側のフランジ部72との各外周部分が、カバーハウジング20の上底部48に押し付けられてシール固定されている。
【0065】
そして、前述のベースハウジング18とカバーハウジング20で囲まれて形成された内部領域において、弁本体部54の外周側には、下部弁14の外周側への弾性変形を許容する内部空間としての変形許容空間78が形成されている。特に、本実施形態では、押さえスリーブ76が下部弁14の弁本体部54の外周面から外方に離隔されており、これら弁本体部54と押さえスリーブ76との間、即ち、下部弁14の上下一対のフランジ部64,64の対向面間に変形許容空間78が形成されている。また、押さえスリーブ76には、径方向の貫通孔80が1つ或いは複数(本実施形態では2つ)形成されていると共に、押さえスリーブ76とカバーハウジング20のカバー本体44との間には間隙82が形成されている。これにより、貫通孔80と間隙82、空気抜き孔52によって、変形許容空間78を外部空間に連通する空間連通路が形成されている。
【0066】
さらに、上部弁16は、弁本体部68がカバーハウジング20の接続口部46内に配されており、上部弁16の上側のフランジ部70が、接続口部46の上側開口端面に重ね合わされている。また、弁本体部68と接続口部46との間には、スリット74の延出している方向に直交する方向(図1中の左右方向)での、弁本体部68の弾性変形を許容する変形許容空間84が形成されている。
【0067】
そして、下部弁14は、弁本体部54の長軸方向が、突状支持面32において長山形状とされた頂部34の稜線方向に延びるように、ベースハウジング18に対して周方向で位置合わせされている。これにより、下部弁14の弁孔としてのスリット62が、ベースハウジング18の突状支持面32における稜線状の頂部34に沿って延びている。なお、このスリット62は、後述する雄ルアー88の挿入前は密着状態にあり、開口していない。また、前述のように、下部弁14の下側では、筒状部22の薬液流路28の先端開口部36が、突状支持面32において稜線状に延びる頂部34の中央に開口している。
【0068】
さらに、本実施形態では、上部弁16の弁孔としてのスリット74が、下部弁14のスリット62と略直交方向に延びる状態で、周方向に位置決めされて組み付けられている。これにより、下部弁14のスリット62と上部弁16のスリット74の交点を通って上下方向に延びる中心軸上に、ベースハウジング18の薬液流路28の先端開口部36が位置するようになっている。
【0069】
上述の如き構造とされたニードルレスコネクター10は、前述のように薬液流路28の基端開口部に対して図示しない血管内留置カテーテル等が接続されて使用される。そして、かかる使用状態下、図9に示されているように、上方から、シリンジ86等の雄ルアー88がハウジング12の接続口部46を通じて上部弁16および下部弁14の各スリット74,62に挿し入れられることにより、それぞれのスリット74,62が拡開されて、雄ルアー88が薬液流路28に連通状態とされる。
【0070】
なお、図9に示されたシリンジ86の雄ルアー88は、雄型のルアーロック構造とされており、ハウジング12の接続口部46に対する接続状態が確実に維持されるようになっている。この雄ルアー88は、ネジで固定するルアーロック構造だけでなく、挿し込んで固定するルアースリップ構造であっても良い。
【0071】
ここにおいて、ニードルレスコネクター10に雄ルアー88を挿し入れた際には、雄ルアー88の押込力が下部弁14にまで及ぼされて、下部弁14の弁本体部54の中央部分が下方に押し下げられる。この押し下げに伴い、弁本体部54の下面は、密着状態とされた突状支持面32に沿ってスリット62の両側に押し広げられるように変形することとなる。その際、下部弁14では、外周面に形成された谷部58および山部60により弾性が部分的に異ならされている。それ故、雄ルアー88の挿し入れ時に突状支持面32に沿って下部弁14が変形する際、谷部58によって屈曲するようにして変形が発生し易くなっている。
【0072】
その結果、雄ルアー88を挿し入れる際の下部弁14の変形剛性が小さくされて、雄ルアー88の挿入操作を容易に行うことができる。また、雄ルアー88を挿し入れた際に、変形し易い谷部58付近での湾曲と変形し難い山部60付近での形状保持とが協働して、突状支持面32から外方へ離隔するように曲げ変形された下部弁14と突状支持面32との間に、間隙90が確実に安定して且つ大きな容積をもって発生することとなる。この周方向に延びる間隙90は、突状支持面32上に形成されている一対の連通孔37a,37aおよび一対の連通孔37b、37bによって、薬液流路28および拡開された下部弁14のスリット62に対して、より確実に安定して連通される。
【0073】
これにより、雄ルアー88の抜き取りに際して薬液流路28に一層大きな陽圧(正圧)が発生して、血液等の逆流防止効果が一層効果的に且つ安定して発揮され得る。即ち、雄ルアー88を抜き取った際に、広がっていたスリット62が閉じる分に相当する容積減少量に加えて、下部弁14と突状支持面32との間に発生していた間隙90が消失することに伴う容積減少量が発生することで、雄ルアー88の抜き取りに伴う陰圧の発生が完全に防止されて、血液等の逆流防止効果が安定して発揮されるのである。
【0074】
また、本実施形態のニードルレスコネクター10では、突状支持面32を形成する傾斜面が、上下方向断面において直線状であり、折れ点や屈曲点を有していない。それ故、突状支持面32と下部弁14の凹所66との密着が一層安定して実現され易く、雄ルアー88の挿入前、および雄ルアー88の抜き取り後において、突状支持面32と凹所66との間に製造誤差等に基づく隙間等が生じ難い。これにより、突状支持面32と凹所66との間において、雄ルアー88の挿入前には形成されていない間隙90が、雄ルアー88挿入時に確実に形成され得る。更に、雄ルアー88の抜き取り時に確実に、容積減少に伴う正圧を発生させることが出来る。
【0075】
なお、下部弁14の外周面に形成される谷部58および山部60の個数や形状を変化させることにより、雄ルアー88挿入時における突状支持面32と凹所66との間の間隙90の形状や大きさを調節することも可能である。即ち、谷部58や山部60の位置や数、大きさや形状等を調節することにより、雄ルアー88の挿入時における下部弁14の弾性変形剛性や弾性変形態様、間隙90の大きさ等を調節して、雄ルアー88の挿入抵抗や雄ルアー88の抜取時における陽圧の大きさなどを適宜に調節することも可能である。
【0076】
更にまた、本実施形態では、下部弁14の外周に形成された変形許容空間78が貫通孔80と間隙82、空気抜き孔52を通じて外部空間に連通されていることから、下部弁14の上述の如き弾性変形とそれに基づく効果が変形許容空間78における空気ばねの作用に阻害されず、より一層有利に発揮され得る。尤も、外部連通路は、本発明において必須でなく、変形許容空間78を密閉構造とすることも可能である。
【0077】
次に、図10,11には本発明の第2の実施形態のニードルレスコネクター92が示されている。なお、以降の説明において、前記第1の実施形態と同じ部材および部位については、図中に、第1の実施形態と同じ符号を付すことにより、詳細な説明は省略する。本実施形態では、ニードルレスコネクター92を構成する下部弁94の形状が前記第1の実施形態の下部弁14とは異なっており、図12〜16に、本実施形態の下部弁94が示されている。
【0078】
本実施形態の下部弁94には、図13,14に示されているように、弁本体部54と拡径部56との両方の外周面に対してそれぞれ周方向に延びる凹凸が形成されている。これにより、弁本体部54の外周面には、高さ方向の中央部分を周方向に延びる山部60が形成されていると共に、上下両側部分をそれぞれ周方向に延びる谷部58,58が設けられている。また、拡径部56の外周面には、高さ方向の中間部分を周方向に延びる谷部58とその両側の2つの山部60,60とが設けられている。なお、弁本体部54および拡径部56における全ての谷部58と山部60は、第一の実施形態と同様に、滑らかな湾曲線で接続された表面形状をもって形成されている。
【0079】
このような形状とされた下部弁94が組み込まれた本実施形態のニードルレスコネクター92では、図17に示されているように、シリンジ86等の雄ルアー88がハウジング12の接続口部46から挿し入れられることにより、下部弁94および上部弁16の各スリット62,74が拡開されて、雄ルアー88が薬液流路28に連通状態とされる。その際、下部弁94は、外周面に形成された谷部58や山部60により、弾性特性や変形態様が適切に設定されていることから、第一の実施形態と同様に、下部弁94の凹所66と突状支持面32との間に間隙90が大きな容積をもって安定して形成されることとなる。その結果、雄ルアー88の挿入操作の容易化や、雄ルアー88の抜取時における血液等の逆流防止効果が、十分に発揮されるのである。
【0080】
特に本実施形態では、下部弁94における弁本体部54に加えて拡径部56にも外周面に凹凸が形成された谷部58および山部60が設けられている。それ故、雄ルアー88の挿入時における下部弁94の弾性変形態様を、弁本体部54と拡径部56との全体に亘って目的とする形状に設定することが可能になり、下部弁94の弾性変形ひいては雄ルアー88の抜き取り時における血液等の逆流防止効果を一層大きな自由度で設定等することができる。
【0081】
[実施例]
前記第1の実施形態および第2の実施形態に従う構造とされたニードルレスコネクターを試作して、血液の逆流防止効果を確認する実験を行った。かかる実験結果を、実施例1および実施例2として以下に示す。
【0082】
また、比較例として、図18,19に示されている形状の下部弁96を準備し、実施例1のニードルレスコネクター10において下部弁14に代えて当該下部弁96を組み付けたものを準備した。そして、この下部弁96を組み付けた比較例としてのニードルレスコネクターについて、実施例1,2と同様な実験を行った結果を、以下に比較例として併せ示す。なお、比較例としての下部弁96は、前記第1の実施形態における下部弁14の弁本体部54が、図5,6中の仮想線で示されたベース形状の外周面を有するものであって、その他の部分の形状や寸法は第1の実施形態の下部弁14と同じである。
【0083】
すなわち、ニードルレスコネクターからのシリンジの抜き取りに際して、カニューラのニードルレスコネクターを接続した側と反対側の先端部における液面がニードルレスコネクター側に接近移動した場合には、血液の逆流に相当する引き込みが発生したと判定し、反対にカニューラ内の液面がニードルレスコネクターから離隔移動した場合には吐き出しが発生したと判定した。また、それぞれの場合において、カニューラ内における液面の移動量にカニューラ内径を乗ずることにより引き込み量または吐き出し量を測定した。
【0084】
実験の結果、第1の実施形態に従う構造とされた実施例1のニードルレスコネクターでは、シリンジの抜き取りに際して、引き込みは1回も認められず、全ての測定において吐き出しが確認され、その吐き出し量は8〜20μLの範囲内であった。また、実施例2のニードルレスコネクターでは、シリンジの抜き取りに際して、引き込みは1回も認められず、全ての測定において吐き出しが確認され、その吐き出し量は1〜3μLの範囲内であった。一方、比較例のニードルレスコネクターでは、シリンジの抜き取りに際して、引き込みが認められた。
【0085】
上述の実験結果から、本発明に従う構造とされたニードルレスコネクターでは、比較例のニードルレスコネクターに比して、シリンジの抜き取りに際しての血液逆流防止効果を発揮し得ることが認められる。また、第1の実施例と第2の実施例の実験結果を対比することで、下部弁の外周面に設けられた谷部や山部の形状や大きさなどを調節することにより、シリンジの抜き取りに伴って生ずる血液の吐き出し量ひいては血液逆流防止効果を適宜に設定可能であると認められる。
【0086】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はかかる実施形態における具体的な記載によって限定的に解釈されるものでなく、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良などを加えた態様で実施可能である。
【0087】
例えば、本実施形態では、下部弁14(94)に対して別体の上部弁16が重ね合わされており、各スリット62,74が互いに直交して周方向に位置合わせされていることから、例えば雄ルアー88を上部弁16のスリット74から完全に抜き取る前に、下部弁14(94)のスリット62が閉鎖状態とされることにより、雄ルアー88の抜き差しの操作に際しての輸液や血液などの漏れ出しを一層効果的に防止することが可能である。尤も、上部弁16と下部弁14(94)のスリット74,62を直交配置することは本発明において必須ではなく、また、上部弁16を用いずに下部弁14(94)だけを採用することも可能である。更に、上部弁16と下部弁14(94)が一体であっても良い。また、その場合の弁形状は、例えば図1の上部弁16と下部弁14を合わせた形状でなくとも良く、弁の下部にのみフランジ部64が形成された弁形状としても良い。このように弁中間部にフランジ部を設けない弁形状であれば、弁中間部のフランジを位置決めする部位が不要となって、ニードルレスコネクター10(92)中央部の径を小さくすることができる。
【0088】
また、前記実施形態では、上下方向断面において突状支持面32の傾斜面形状が直線状とされていたが、前述のように、本発明においては、突状支持面32の傾斜面に折れ点や屈曲点が設けられて、傾斜角度が部分的に異ならされていても良い。その際、下部弁14(94)の凹所66の形状が突状支持面32の形状と対応させられて、突状支持面32と凹所66の内周面が完全に密着状態とされることが好適であるが、必ずしもその必要はなく、例えば突状支持面32と凹所66の内周面がわずかに離隔していても良い。さらに、頂部34の形状は長山形状に限定されるものではなく、例えば、円形状や多角形形状等であっても良い。
【0089】
さらに、前記実施形態では、谷部58および山部60が弁本体部54に設けられていたが、必ずしもこれに限定されるものではなく、例えば谷部58および山部60が拡径部56のみに設けられていても良い。また、下部弁14(94)に拡径部56を形成する必要はなく、例えば下部弁14(94)の全体を一定の外周面形状で軸方向に延びるベース形状として、その外周面に凹凸を付して適宜に谷部58と山部60を形成しても良い。また、谷部58や山部60は、下部弁14(94)の全周に亘って連続している必要はなく、下部弁14(94)の外周面において周方向で部分的に適数個が形成されていても良い。更にまた、谷部58や山部60は、下部弁14(94)の軸方向で離隔して形成されていても良い。
【0090】
また、前記実施形態では、下部弁14(94)の弾性変形が許容されるための変形許容空間78が設けられていたが、必ずしも前記実施形態の形状に限定されるものではない。更にまた、押さえスリーブ76や外周カラー40も必ずしも必要なものではない。従って、例えば、ベースハウジング18とカバー本体44で形成される領域の内周面全面に亘って下部弁が広がっている形状とされても良く、その場合には、下部弁の内部に、下部弁の弾性変形を許容する密閉された変形許容空間が設けられていても良い。このような形状の場合、圧縮された空気により空気ばねの効果が十分に発揮され、雄ルアー88の抜き取りに伴う下部弁の復元時において、下部弁の弾性復元力だけでなく空気ばねの作用も得ることができる。
【0091】
さらに、前記実施形態における下部弁14(94)の変形許容空間78、貫通孔80、間隙82を、ポリウレタン等のスポンジ状の連続気泡を有する合成発泡体等で充填させても良い。このような合成発泡体は内部に連続気泡からなる実質的な空間を有しており、柔軟性、弾性に優れ、伸縮自在であることから、雄ルアー88の挿入に際して、圧縮変形により下部弁14(94)の弾性変形を許容して、下部弁14(94)の変形後の形状に合わせて合成発泡体も形状を変化させることが出来る。このように、下部弁14(94)の外周側又は内部に所定容積の空間を設ける代わりに、合成発泡体のような圧縮可能で弾性を有する部材を配設して実質的な空間を設けても良い。
【0092】
更にまた、前記実施形態では、突状支持面32上に一対の連通溝37a,37aおよび一対の連通溝37b,37bが設けられていたが、これらの連通溝37は必ずしも必要なものではない。また、連通溝が形成される場合、形成される連通溝の数や方向、形状等は何等限定されるものではない。例えば、突状支持面32上に5本以上の連通溝が形成されても良いし、曲線状とされていても良い。
【符号の説明】
【0093】
10,92:ニードルレスコネクター、12:ハウジング、14,94:下部弁、16:上部弁、18:ベースハウジング、20:カバーハウジング、28:薬液流路、32:突状支持面、34:頂部、36:先端開口部、52:空気抜き孔、54:弁本体部(厚肉部)、56:拡径部(薄肉部)、58:谷部、60:山部、62:スリット、64,70,72:フランジ部、78:変形許容空間、80:貫通孔、82:間隙、88:雄ルアー
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19