(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アミロイド前駆体タンパク質(APP)中のシグナルペプチドを構成するアミノ酸配列、または、該シグナルペプチドのアミノ酸配列中の1個又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付加されて形成されたアミノ酸配列から実質的に構成される合成ペプチドを、インビトロにおいて、2型TNF受容体(TNF−R2)を発現可能な細胞に供給することを特徴とする、
前記細胞であって且つTNF−R2の存在量を減少させた細胞をインビトロにおいて製造する方法。
【発明の概要】
【0005】
上記のとおり、ともにTNFの受容体でありながら、TNF−R1とTNF−R2とは相互に異なる生理活性を誘起させる受容体である。換言すれば、TNF(例えばTNF−α)が介在して発現する生理作用は、当該TNFがTNF−R1に結合した場合と、TNF−R2に結合した場合とで異なることを示している。
このことから、例えば、対象とする生体器官、組織若しくは部位(より微視的にいえば該器官、組織若しくは部位に存在する細胞)においてTNF−R2の発現量を低下させてTNF−R1に対するTNF−R2の存在比を変化させる(低下させる)ことができれば、TNF−R2の過剰な発現によって生じ得る当該生体器官、組織若しくは部位における望ましくない生理作用を発現させない(若しくは抑制する)ことが可能である。
例えば、上述した報告例にあるように、緑内障や網膜剥離等の網膜疾患の場合、網膜に存在する視細胞や神経節細胞におけるTNF受容体の存在比(発現比)を通常よりもTNF−R2の存在率(発現率)が小さくなるように調節することにより、視細胞や神経節細胞のアポトーシスを抑制することができる。
【0006】
しかしながら、従来、TNF−R2発現細胞のTNF−R2発現を抑制し、それによって細胞膜中に存在するTNF−R1に対するTNF−R2の存在比を容易に且つ高効率に低下させる方法や薬剤類が存在しなかった。
そこで本発明は、生体内(インビボ:in vivo)又は生体外(インビトロ:in vitro)において、所望する生体器官、組織若しくは部位に存在する少なくとも1種の細胞におけるTNF−R2の発現を抑制する方法、該方法に利用される合成ペプチド、ならびに該ペプチドを含む組成物(薬剤組成物)を提供することを目的として創出された発明である。
【0007】
上記の目的を実現するべく、本発明によると以下の構成の組成物が提供される。すなわち、ここで開示される組成物は、2型TNF受容体(TNF−R2)を発現可能な細胞における該TNF−R2の発現を抑制するための組成物であり、アミロイド前駆体タンパク質(Amyloid Precursor Protein:APP)中のシグナルペプチドを構成するアミノ酸配列(以下「APPシグナル配列」と略称する場合がある。)、または、該シグナルペプチドのアミノ酸配列中の1個又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付加されて形成されたアミノ酸配列(以下「改変APPシグナル配列」と略称する場合がある。)から実質的に構成される合成ペプチドと、薬学的に許容可能な担体とを含む、TNF−R2発現抑制用組成物である。
ここで「TNF−R2を発現可能な細胞」とは、生体内(インビボ)若しくは生体外(インビトロ)において定常的若しくは一時的にTNF−R2の発現が確認される細胞をいう。例えば、ヒトやその他の哺乳動物の免疫系の細胞や神経系を構成する細胞は、ここでいうTNF−R2、即ちデスドメインを有しないことによってTNF−R1とは明確に区別される約75kDaのTNF受容体を発現可能な細胞の典型例である。
【0008】
本発明者らは、脳の神経細胞中でアミロイド前駆体タンパク質(APP)がセクレターゼによって切断されて典型的には40若しくは42アミノ酸残基から成るアミロイドβタンパク質が産生され、該アミロイドβが脳内において凝集(蓄積)されることにより神経細胞が破壊され、その結果としてアルツハイマー病が発症するというアミロイド仮説において、いわばアルツハイマー病の出発物質ともいうべきアミロイド前駆体タンパク質の性状を詳細に検討し、該アミロイド前駆体タンパク質のシグナルペプチドに着目した。
そして、かかるAPPシグナル配列若しくはその改変APPシグナル配列からなる合成ペプチドを種々のTNF−R2を発現する細胞(培養細胞)に供給したところ、TNF−R2の発現を抑制し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、ここで開示される組成物の主成分である「TNF−R2発現抑制ペプチド」、具体的には、アミロイド前駆体タンパク質(APP)中のシグナルペプチドを構成するアミノ酸配列、または、該シグナルペプチドのアミノ酸配列中の1個又は数個(典型的には2個又は3個)のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付加されて形成されたアミノ酸配列から実質的に構成される合成ペプチドを、所定のTNF−R2を発現可能な対象細胞に供給する(例えば所定のTNF−R2を発現可能な対象細胞を培養中の培養液に本発明に係る組成物或いはペプチドを添加する。)ことによって、当該合成ペプチドが供給された細胞においてTNF−R2の発現を抑制することができる。
【0009】
ここで開示されるTNF−R2発現抑制用組成物(TNF−R2発現抑制ペプチド)を使用することにより、対象とする細胞のTNF−R2発現量(即ち存在量)を低下させることができる。このため、ここで開示されるTNF−R2発現抑制用組成物(TNF−R2発現抑制ペプチド)は、TNF−R2の発現量(存在量)或いはTNF−R1に対するTNF−R2の存在比が影響してTNFが関与する種々の疾病や傷害の治療若しくは改善に資することができる。例えば、網膜に存在する視細胞や神経節細胞におけるTNF−R2の発現量(存在量)を低下させることにより、当該細胞のアポトーシスを抑制することができる。
また、ここで開示されるTNF−R2発現抑制用組成物(TNF−R2発現抑制ペプチド)は、TNF−R2が関与する疾病(傷害)を改善させることを目標とした研究開発分野(例えば医学、薬学、遺伝学、生化学、生物学に関連する分野。以下同じ。)において好適に実施することができる。
【0010】
本発明はまた、ここで開示される合成ペプチド(TNF−R2発現抑制ペプチド)を使用することを特徴とするTNF−R2の発現を抑制する方法を提供する。
即ち、TNF−R2を発現可能な細胞において該TNF−R2の発現を抑制する方法であって、アミロイド前駆体タンパク質(APP)中のシグナルペプチドを構成するアミノ酸配列、または、該シグナルペプチドのアミノ酸配列中の1個又は数個のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付加されて形成されたアミノ酸配列から実質的に構成される合成ペプチドを前記細胞に供給することを特徴とする方法を提供する。
かかる方法によると、生体内又は生体外において、所定の生体器官、組織若しくは部位に存在する少なくとも1種のTNF−R2を発現可能な細胞の該TNF−R2の存在量(発現量)を減少させることができる。
従って、本発明によると、ここで開示されるTNF−R2発現抑制用組成物(即ちTNF−R2発現抑制ペプチド)を用いてTNF−R2の存在量を減少させた細胞を製造することができる。換言すれば、本発明は、ここで開示されるTNF−R2発現抑制用組成物(TNF−R2発現抑制ペプチド)を用いることを特徴とする、TNF−R2の存在量を減少させた細胞を製造する方法を提供する。
【0011】
本発明の実施においては、上記アミロイド前駆体タンパク質(APP)のシグナルペプチドのアミノ酸配列は、
MLPGLALLLLAAWTARA(配列番号1)、
MLPSLALLLLAAWTVRA(配列番号2)、
MLPGLALVLLAAWTARA(配列番号3)、または
MLPSLALLLLTTWTARA(配列番号4)、
であることが好ましい。
これら、ヒト(配列番号1)、マウス(配列番号2)、ブタ(配列番号3)、モルモット(配列番号4)由来のAPPシグナル配列又はその改変APPシグナル配列を利用することによって、対象細胞のTNF−R2の発現を好適に抑制することができる。また、本発明の実施において用いられる合成ペプチドは、総アミノ酸残基数が25以下の化学合成ペプチドであることが好ましい。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えばここで開示されるTNF−R2発現抑制ペプチドの一次構造や鎖長)以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えばペプチドの化学合成法、細胞培養技法、ペプチドを成分とする薬学的組成物の調製に関するような一般的事項)は、細胞工学、生理学、医学、薬学、有機化学、生化学、遺伝子工学、タンパク質工学、分子生物学、遺伝学等の分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、以下の説明では、場合に応じてアミノ酸をIUPAC-IUBガイドラインで示されたアミノ酸に関する命名法に準拠した1文字表記(但し配列表では3文字表記)で表す。
また、本明細書中で引用されている全ての文献の全ての内容は本明細書中に参照として組み入れられている。
【0014】
本明細書において「合成ペプチド」とは、人為的な化学合成或いは生合成(即ち遺伝子工学に基づく生産)によって製造され、所定の組成物(例えばTNF−R2発現抑制用組成物)中で安定して存在し得るペプチド断片をいう。
また、本明細書において「ペプチド」とは、複数のペプチド結合を有するアミノ酸ポリマーを指す用語であり、ペプチド鎖に含まれるアミノ酸残基の数によって限定されないが、典型的には全アミノ酸残基数が概ね50以下(例えば25以下、特には20以下)のような比較的分子量の小さいものをいう。
また、本明細書において「アミノ酸残基」とは、特に言及する場合を除いて、ペプチド鎖のN末端アミノ酸及びC末端アミノ酸を包含する用語である。
【0015】
本明細書において「改変APPシグナル配列」とは、APPシグナル配列が有する機能(即ちTNF−R2の発現を抑制する機能)を損なうことなく、1個又は数個(例えば2個又は3個)のアミノ酸残基が置換、欠失及び/又は付加(挿入)されて形成されたアミノ酸配列をいう。例えば、ここで開示される何れかのAPPシグナル配列において1個又は数個(典型的には2個又は3個)のアミノ酸残基が保守的に置換したいわゆる同類置換(conservative amino acid replacement)によって生じた配列(例えば疎水性アミノ酸残基が別の疎水性アミノ酸残基に置換した配列:例えばロイシン残基とバリン残基との相互置換、中性アミノ酸残基が別の中性アミノ酸残基に置換した配列:例えばグリシン残基とセリン残基との相互置換、)、或いは、所定のアミノ酸配列について1個又は数個(典型的には2個又は3個)のアミノ酸残基が付加(挿入)した若しくは欠失したアミノ酸配列等は、本明細書でいうところの改変APPシグナル配列に包含される典型例である。
また、本明細書において「ポリヌクレオチド」とは、複数のヌクレオチドがリン酸ジエステル結合で結ばれたポリマー(核酸)を指す用語であり、ヌクレオチドの数によって限定されない。種々の長さのDNAフラグメント及びRNAフラグメントが本明細書におけるポリヌクレオチドに包含される。
【0016】
ここで開示されるTNF−R2の発現を抑制する方法に用いられる組成物は、上記TNF−R2発現抑制ペプチドを有効成分として含有する組成物である。
上述のとおり、ここで開示されるTNF−R2発現抑制ペプチドは、APPシグナル配列又はその改変APPシグナル配列から実質的に構成される合成ペプチドであるという点において、自然界には存在しない合成ペプチドといえる。
ここで開示されるTNF−R2発現抑制ペプチドを構成するAPPシグナル配列の好適例を表1に示す。
【0018】
これら列挙したアミノ酸配列のうち、配列番号1に示すアミノ酸配列は、ヒト由来のAPPシグナル配列である。また、配列番号2に示すアミノ酸配列は、マウス由来のAPPシグナル配列である。また、配列番号3に示すアミノ酸配列は、ブタ由来のAPPシグナル配列である。また、配列番号4に示すアミノ酸配列は、モルモット由来のAPPシグナル配列である。
【0019】
好ましくは、ここで開示されるTNF−R2発現抑制ペプチドは、少なくとも一つのアミノ酸残基がアミド化されているものが好ましい。アミノ酸残基(典型的にはペプチド鎖のC末端アミノ酸残基)のカルボキシル基のアミド化により、合成ペプチドの構造安定性(例えばプロテアーゼ耐性)を向上させることができる。
また、使用する合成ペプチドとしては、ペプチド鎖を構成する全アミノ酸残基数が50以下が適当であり、30以下が望ましく、例えば25以下(例えば20以下、典型的には17又は18〜20)が好ましい。APPシグナル配列のアミノ酸残基数はこのような範囲に収まる。APPシグナル配列又は改変APPシグナル配列のみから成るペプチドは、好適にここで開示される調節方法に用いられる。
なお、ここで開示されるTNF−R2発現抑制ペプチドは、APPシグナル配列若しくは改変APPシグナル配列をペプチド鎖の実質的な構成部分(主体をなす構成部分)とするものであればよく、目的とする生理活性機能を失わない限りにおいてAPPシグナル配列又はその改変APPシグナル配列以外のアミノ酸残基を含むペプチドであってもよい。
このような鎖長の短いペプチドは、化学合成が容易であり、容易にTNF−R2発現抑制ペプチドを提供することができる。なお、ペプチドのコンホメーション(立体構造)については、使用する環境下(生体外若しくは生体内)で目的の活性を発揮する限りにおいて、特に限定されるものではないが、免疫原(抗原)になり難いという観点から直鎖状又はへリックス状のものが好ましい。このような形状のペプチドはエピトープを構成し難いという観点からも好適である。
なお、ここで開示されるTNF−R2発現抑制ペプチドとしては、全てのアミノ酸残基がL型アミノ酸であるものが好ましいが、アミノ酸残基の一部又は全部がD型アミノ酸に置換されているものであってもよい。
【0020】
ここで開示される合成ペプチドは、一般的な化学合成法に準じて容易に製造することができる。例えば、従来公知の固相合成法又は液相合成法のいずれを採用してもよい。アミノ基の保護基としてBoc(t-butyloxycarbonyl)或いはFmoc(9-fluorenylmethoxycarbonyl)を適用した固相合成法が好適である。ここで開示される合成ペプチドは、市販のペプチド合成機(例えば、PerSeptive Biosystems社、Applied Biosystems社等から入手可能である。)を用いた固相合成法により、所望するアミノ酸配列、修飾(C末端アミド化等)部分を有するペプチド鎖を合成することができる。
【0021】
或いは、遺伝子工学的手法に基づいてTNF−R2発現抑制ペプチドを生合成してもよい。すなわち、所望するペプチドのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列(ATG開始コドンを含む。)のポリヌクレオチド(典型的にはDNA)を合成する。そして、合成したポリヌクレオチド(DNA)と該アミノ酸配列を宿主細胞内で発現させるための種々の調節エレメント(プロモーター、リボゾーム結合部位、ターミネーター、エンハンサー、発現レベルを制御する種々のシスエレメントを包含する。)とから成る発現用遺伝子構築物を有する組換えベクターを、宿主細胞に応じて構築する。
一般的な技法によって、この組換えベクターを所定の宿主細胞に導入し、所定の条件で当該宿主細胞又は該細胞を含む組織や個体を培養する。このことにより、目的とするTNF−R2発現抑制ペプチドを細胞内で発現、生産させることができる。
そして、宿主細胞(分泌された場合は培地中)からペプチドを単離し、精製することによって、目的のTNF−R2発現抑制ペプチドを得ることができる。なお、組換えベクターの構築方法及び構築した組換えベクターの宿主細胞への導入方法等は、当該分野で従来から行われている方法をそのまま採用すればよく、かかる方法自体は特に本発明を特徴付けるものではないため、詳細な説明は省略する。
【0022】
例えば、宿主細胞内で効率よく大量に生産させるために融合タンパク質発現システムを利用することができる。すなわち、目的のTNF−R2発現抑制ペプチドのアミノ酸配列をコードする遺伝子(DNA)を化学合成し、該合成遺伝子を適当な融合タンパク質発現用ベクター(例えばノバジェン社から提供されているpETシリーズ及びアマシャムバイオサイエンス社から提供されているpGEXシリーズのようなGST(Glutathione S-transferase)融合タンパク質発現用ベクター)の好適なサイトに導入する。そして該ベクターにより宿主細胞(典型的には大腸菌)を形質転換する。得られた形質転換体を培養して目的の融合タンパク質を調製する。次いで、該タンパク質を抽出及び精製する。次いで、得られた精製融合タンパク質を所定の酵素(プロテアーゼ)で切断し、遊離した目的のペプチド断片(設計したTNF−R2発現抑制ペプチド)をアフィニティクロマトグラフィー等の方法によって回収する。このような従来公知の融合タンパク質発現システム(例えばアマシャムバイオサイエンス社により提供されるGST/Hisシステムを利用し得る。)を用いることによって、本発明のTNF−R2発現抑制ペプチドを製造することができる。
或いは、無細胞タンパク質合成システム用の鋳型DNA(即ちTNF−R2発現抑制ペプチドのアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を含む合成遺伝子断片)を構築し、ペプチド合成に必要な種々の化合物(ATP、RNAポリメラーゼ、アミノ酸類等)を使用し、いわゆる無細胞タンパク質合成システムを採用して目的のペプチドをインビトロ合成することができる。無細胞タンパク質合成システムについては、例えばShimizuらの論文(Shimizu et al., Nature Biotechnology, 19, 751-755(2001))、Madinらの論文(Madin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 97(2), 559-564(2000))が参考になる。これら論文に記載された技術に基づいて、本願出願時点において既に多くの企業がペプチドの受託生産を行っており、また、無細胞タンパク質合成用キット(例えば、日本の東洋紡績(株)から入手可能なPROTEIOS(商標)Wheat germ cell-free protein synthesis kit)が市販されている。
【0023】
ここで開示されるTNF−R2発現抑制ペプチドをコードするヌクレオチド配列及び/又は該配列と相補的なヌクレオチド配列を含む一本鎖又は二本鎖のポリヌクレオチドは、従来公知の方法によって容易に製造(合成)することができる。すなわち、設計したアミノ酸配列を構成する各アミノ酸残基に対応するコドンを選択することによって、TNF−R2発現抑制ペプチドのアミノ酸配列に対応するヌクレオチド配列が容易に決定され、提供される。そして、ひとたびヌクレオチド配列が決定されれば、DNA合成機等を利用して、所望するヌクレオチド配列に対応するポリヌクレオチド(一本鎖)を容易に得ることができる。さらに得られた一本鎖DNAを鋳型として用い、種々の酵素的合成手段(典型的にはPCR)を採用して目的の二本鎖DNAを得ることができる。
本発明によって提供されるポリヌクレオチドは、DNAの形態であってもよく、RNA(mRNA等)の形態であってもよい。DNAは、二本鎖又は一本鎖で提供され得る。一本鎖で提供される場合は、コード鎖(センス鎖)であってもよく、それと相補的な配列の非コード鎖(アンチセンス鎖)であってもよい。
本発明によって提供されるポリヌクレオチドは、上述のように、種々の宿主細胞中で又は無細胞タンパク質合成システムにて、TNF−R2発現抑制ペプチド生産のための組換え遺伝子(発現カセット)を構築するための材料として使用することができる。
【0024】
ここで開示されるTNF−R2発現抑制ペプチドは、TNF−R2を発現可能な対象細胞、例えば中枢若しくは抹消の神経系を構成する細胞、或いは免疫系を構成する細胞、血管その他の循環器を構成する細胞、網膜その他の目の組織を構成する細胞、等に作用し、TNF−R2の発現を抑制することができる。このため、TNF−R2の発現量(存在量)を減少させるための組成物(薬学的組成物)、換言すればTNF−R1に対するTNF−R2の存在比を低下させるための組成物(薬学的組成物)の有効成分として好適に使用し得る。
なお、かかるTNF−R2発現抑制ペプチドは、目的とする生理活性を損なわない限りにおいて、塩の形態であってもよい。例えば、常法に従って通常使用されている無機酸又は有機酸を付加反応させることにより得られ得る該ペプチドの酸付加塩を使用することができる。或いは、他の塩(例えば金属塩)であってもよい。本明細書及び特許請求の範囲に記載の「合成ペプチド」は、かかる塩形態のものを包含する。
【0025】
ここで開示される組成物は、有効成分であるTNF−R2発現抑制ペプチドの生理活性が失われない状態で保持し得る限りにおいて、使用形態に応じて薬学(医薬)上許容され得る種々の担体を含み得る。希釈剤、賦形剤等としてペプチド医薬において一般的に使用される担体が好ましい。用途や形態に応じて適宜異なり得るが、典型的には、水、生理学的緩衝液、種々の有機溶媒が挙げられる。適当な濃度のアルコール(エタノール等)水溶液、グリセロール、オリーブ油のような不乾性油であり得る。或いはリポソームであってもよい。また、かかる組成物に含有させ得る副次的成分としては、種々の充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、表面活性剤、色素、香料等が挙げられる。
【0026】
ここで開示される組成物の典型的な形態として、液剤、懸濁剤、乳剤、エアロゾル、泡沫剤、顆粒剤、粉末剤、錠剤、カプセル、軟膏、水性ジェル剤等が挙げられる。また、注射等に用いるため、使用直前に生理食塩水又は適当な緩衝液(例えばPBS)等に溶解して薬液を調製するための凍結乾燥物、造粒物とすることもできる。
なお、TNF−R2発現抑制ペプチド(主成分)及び種々の担体(副成分)を材料にして種々の形態の組成物(薬剤)を調製するプロセス自体は従来公知の方法に準じればよく、かかる製剤方法自体は本発明を特徴付けるものでもないため詳細な説明は省略する。処方に関する詳細な情報源として、例えばComprehensive Medicinal Chemistry, Corwin Hansch監修,Pergamon Press刊(1990)が挙げられる。この書籍の全内容は本明細書中に参照として援用されている。
【0027】
本発明の適用対象とする器官、組織又は部位は、当該適用対象においてTNF−R2を発現可能な細胞が存在するのであれば特に制限されない。例えば脳や脊髄といった中枢神経系若しくは末梢神経系の細胞(例えば神経細胞(ニューロン)、グリア細胞)が好適例として挙げられる。また、免疫系の細胞(例えば種々のリンパ球、マクロファージ、好中球、好酸球、好塩基球、単球)、また、血管を含む循環器系の細胞(例えば心臓を構成する心筋細胞、血管内皮細胞)、網膜を構成する細胞、等に対して本発明を適用することができる。
或いは、各種の腫瘍(癌)に含まれるがん細胞(腫瘍細胞)に対して本発明を適用することができる。
或いはまた、ES細胞(胚性幹細胞)、iPS細胞(人工多能性幹細胞)、脂肪幹細胞、軟骨幹細胞等の間葉系幹細胞、造血幹細胞、神経幹細胞、等の幹細胞に対して本発明を適用することができる。
【0028】
ここで開示されるTNF−R2発現抑制ペプチド(又は該ペプチドを含む組成物)は、その形態及び目的に応じた方法や用量で使用することができる。
例えば、生体外で培養している細胞(細胞塊)、組織、器官に対しては、対象とする培養細胞(培養組織又は器官)の培地に目的のペプチドを添加するとよい。添加量及び添加回数は、培養物の種類、細胞密度(培養開始時の細胞密度)、継代数、培養条件、培地の種類、等の条件によって異なり得るため特に限定されないが、ヒト或いはヒト以外の哺乳動物の細胞、組織等を培養する場合、培地中のペプチド濃度が概ね0.1μM〜100μMの範囲内、好ましくは0.5μM〜20μM(例えば1μM〜10μM)の範囲内となるように、1〜複数回添加することが好ましい。
ここで開示されるTNF−R2発現抑制ペプチドをインビトロ培養系に添加することにより、当該培養系においてTNF−R2の発現を抑制し、TNF−R1に対するTNF−R2の存在比を低下させることができる。
なお、本発明の実施対象として好ましい哺乳動物として、例えば、マウス、ラット、モルモット等の齧歯類、ウマ、ロバ等の奇蹄類、ブタ、ウシ等の偶蹄類、チンパンジー、オランウータン、カニクイザル等の霊長類(ヒトを除く)、等が例示される。
【0029】
或いはまた、生体内において所定の器官、組織若しくは部位(或いは所定の部位に移植した組織片若しくは細胞塊)においてTNF−R2の発現を抑制し、TNF−R1に対するTNF−R2の存在比を低下させたい場合、TNF−R2発現抑制ペプチドの適当量を液剤として、静脈内、筋肉内、皮下、皮内若しくは腹腔内への注射によって患者(即ち生体内)に所望する量だけ投与することができる。
或いは、錠剤等の固体形態のものや軟膏等のゲル状若しくは水性ジェリー状のものを直接所定の組織(即ち該組織を構成している細胞)に投与することができる。なお、添加量及び添加回数は、上記存在バランスを調節したい細胞の種類、該細胞が存在する部位、器官、組織等の条件によって異なり得るため特に限定されない。
【0030】
以下、本発明に関する試験例を説明するが、本発明をかかる例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0031】
<実施例1:ペプチド合成>
上述した表1に示す配列番号1のアミノ酸配列からなる合成ペプチドと、配列番号2のアミノ酸配列からなる合成ペプチドとを後述するペプチド合成器を用いて製造した。なお、以下の説明では、合成した計2種類のペプチドを、配列番号に対応させてサンプル1、サンプル2と呼称する。これらペプチドは、全体が17アミノ酸残基から成る直鎖状の化学合成ペプチドである。いずれのペプチドも、市販のペプチド合成機(Intavis AG社製品)を用いてマニュアルどおりに固相合成法(Fmoc法)を実施して合成した。なお、ペプチド合成機の使用態様自体は本発明を特徴付けるものではないため、詳細な説明は省略する。合成した各ペプチドはDMSOに溶かした後、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)で希釈し1mMのストック液を調製した。
【0032】
<実施例2:マウス由来の培養細胞を対象とした各合成ペプチドのTNF−R2発現抑制活性の評価試験>
上記実施例1において合成された両ペプチドの性能をマウス脊髄の神経芽細胞腫由来の培養細胞である細胞株(Neuro2a株)を用いて調べた。コントロール区としてペプチド無添加区を設けた。本評価試験の詳細は以下のとおりである。
Neuro2a細胞株を8.5×10
4cells/mLの密度に直径6cmの培養ディッシュに播種した。培地は一般的なDMEM培地(10%のFBS、1%のペニシリンを含有する。)を用い、37℃、5%CO
2条件下のCO
2インキュベータ内で一晩培養した。
その一晩培養後、培地を2%のFBS、20μMのレチノイン酸、1%のペニシリンを含有するDMEM培地に交換し、同条件で7日間培養することによってレチノイン酸を用いた誘導を行った。その後、培地を2%のFBS、20μMのレチノイン酸、1%のペニシリンに加えて5μMとなる量のサンプル1若しくはサンプル2に係るペプチドを含有するDMEM培地(このときDMSOを12.5μL含む。)に交換し、同条件で2日間培養を継続した。なお、コントロール区(ペプチド無添加区)においては、ペプチド無しで上記の量のDMSOだけ加えたDMEM培地(2%FBS、20μMレチノイン酸、1%のペニシリンを含む。)を用いて2日間の培養を行った。
【0033】
上記培養終了後、各試験区の培養細胞を回収し、細胞数が同じになるようにして所定の試験管に分注した。次いで、以下の蛍光抗体法により、各試験区(ペプチド無添加区、サンプル1添加区、サンプル2添加区)におけるTNF−R1とTNF−R2の発現量(存在量)を調べた。
具体的には、各試験区において、TNF−R2の測定は、抗TNF−R2ヤギポリクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology, Inc製品、SC-1074)を最終濃度:4×10
−3mg/mLとなるように各試験管に添加し、37℃で所定時間インキュベートした。そして、二次抗体として蛍光色素(Alexa(登録商標)488)で標識した抗ヤギIgG抗体(ロバ:Invitrogen社製品、A11055)を最終濃度:4×10
−3mg/mLとなるように試験管に添加し、37℃で所定時間インキュベートした。
一方、TNF−R1の測定は、抗TNF−R1ウサギポリクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology, Inc製品、SC-7895)を最終濃度:4×10
−3mg/mLとなるように各試験管に添加し、37℃で所定時間インキュベートした。そして、二次抗体として蛍光色素(Alexa(登録商標)488)で標識した抗ウサギIgG抗体(ヤギ:Invitrogen社製品、A11034)を最終濃度:2×10
−3mg/mLとなるように試験管に添加し、37℃で所定時間インキュベートした。
【0034】
而して、フローサイトメーター(Millipore社製品、Guava(登録商標) easyCyte 8HT)を用いて細胞の蛍光強度を測定した。結果を
図1に示す。なお、TNF−R2の蛍光強度及びTNF−R1の蛍光強度のいずれについてもコントロール区(ペプチド無添加区)におけるTNF−R2又はTNF−R1の蛍光強度を1とした相対値で示している。
【0035】
図1に示すように、サンプル1及びサンプル2の何れをマウス由来の培養細胞に添加した場合でも、コントロール区と比較してTNF−R2の存在量(発現量)は著しく減少した。このことは、サンプル1又はサンプル2として合成された各合成ペプチドがTNF−R2発現抑制ペプチドとして優れた活性を有することを示すものである。
一方、サンプル1及びサンプル2の何れをマウス由来の培養細胞に添加した場合でも、コントロール区と比較してTNF−R1の存在量(発現量)については殆ど変化が認められなかった(コントロール区と比較してTNF−R1の発現量は僅かに上昇した。)。従って、サンプル1又はサンプル2のようなAPPシグナル配列から実質的に構成される合成ペプチドを用いることによって、対象とする生体器官、組織若しくは部位(微視的には該器官、組織若しくは部位に存在する細胞)におけるTNF−R2の発現を抑制することができ、併せてTNF−R1に対するTNF−R2の存在比を低下させることができる。
【0036】
<実施例3:ヒト由来の培養細胞を対象とした各合成ペプチドのTNF−R2発現抑制活性の評価試験>
上記実施例1において合成された両ペプチドの性能をヒトの神経芽細胞腫由来の培養細胞である細胞株(SK−N−SH株)を用いて調べた。コントロール区としてペプチド無添加区を設けた。本評価試験の詳細は以下のとおりである。
SK−N−SH細胞株を1.5×10
5cells/mLの密度に直径6cmの培養ディッシュに4mL播種した。培地は一般的なDMEM培地(10%のFBS、2mMのL−グルタミン、50ユニット/mLのペニシリン、及び50μg/mLのストレプトマイシンを含有する。)を用い、37℃、5%CO
2条件下のCO
2インキュベータ内で二晩培養した。
その二晩培養後、培地を2%のFBS、2mMのL−グルタミン、20μMのレチノイン酸、50ユニット/mLのペニシリン、及び50μg/mLのストレプトマイシンを含有するDMEM培地に交換し、同条件で5日間培養することによってレチノイン酸を用いた誘導を行った。その後、培地を2%のFBS、2mMのL−グルタミン、20μMのレチノイン酸、50ユニット/mLのペニシリン、及び50μg/mLのストレプトマイシンに加えて5μMとなる量のサンプル1若しくはサンプル2に係るペプチドを含有するDMEM培地(このときDMSOを5μL含む。)に交換し、同条件で2日間培養を継続した。なお、コントロール区(ペプチド無添加区)においては、ペプチド無しで上記の量のDMSOだけ加えたDMEM培地(2%FBS、2mMのL−グルタミン、20μMレチノイン酸、50ユニット/mLのペニシリン、及び50μg/mLのストレプトマイシンを含む。)を用いて2日間の培養を行った。
【0037】
上記培養終了後、各試験区の培養細胞を回収し、細胞数が同じになるようにして所定の試験管に分注した。次いで、以下の蛍光抗体法により、各試験区(ペプチド無添加区、サンプル1添加区、サンプル2添加区)におけるTNF−R1とTNF−R2の発現量(存在量)を調べた。
具体的には、各試験区において、TNF−R2の測定は、抗TNF−R2ヤギポリクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology, Inc製品、SC-1074)を最終濃度:4×10
−3mg/mLとなるように各試験管に添加し、氷上で所定時間静置した。そして、二次抗体として蛍光色素(Alexa(登録商標)647)で標識した抗ヤギIgG抗体(ロバ:Invitrogen社製品、A21447)を最終濃度:4×10
−3mg/mLとなるように試験管に添加し、氷上で所定時間静置した。
一方、TNF−R1の測定は、抗TNF−R1マウスモノクローナル抗体(Santa Cruz Biotechnology, Inc製品、SC-52739)を最終濃度:2×10
−3mg/mLとなるように各試験管に添加し、氷上で所定時間静置した。そして、二次抗体として蛍光色素(Alexa(登録商標)488)で標識した抗マウスIgG抗体(ヤギ:Invitrogen社製品、A10029)を最終濃度:4×10
−3mg/mLとなるように試験管に添加し、氷上で所定時間静置インキュベートした。
【0038】
而して、フローサイトメーター(Millipore社製品、Guava(登録商標) easyCyte 8HT)を用いて細胞の蛍光強度を測定した。結果を
図2に示す。なお、TNF−R2の蛍光強度及びTNF−R1の蛍光強度のいずれについてもコントロール区(ペプチド無添加区)におけるTNF−R2又はTNF−R1の蛍光強度を1とした相対値で示している。
【0039】
図2に示すように、サンプル1及びサンプル2の何れをヒト由来の培養細胞に添加した場合でも、コントロール区と比較してTNF−R2の存在量(発現量)は著しく減少した。このことは、サンプル1又はサンプル2として合成された各合成ペプチドがTNF−R2発現抑制ペプチドとして優れた活性を有することを示すものである。
一方、サンプル1及びサンプル2の何れをヒト由来の培養細胞に添加した場合でも、コントロール区と比較してTNF−R1の存在量(発現量)については殆ど変化が認められなかった(コントロール区と比較してTNF−R1の発現量は僅かに上昇した。)。従って、サンプル1又はサンプル2のようなAPPシグナル配列から実質的に構成される合成ペプチドを用いることによって、対象とする生体器官、組織若しくは部位(微視的には該器官、組織若しくは部位に存在する細胞)におけるTNF−R2の発現を抑制することができ、併せてTNF−R1に対するTNF−R2の存在比を低下させることができる。
【0040】
<実施例4:顆粒剤の調製>
上記合成ペプチド(TNF−R2発現抑制ペプチド)50mgと結晶化セルロース50mg及び乳糖400mgとを混合した後、エタノールと水の混合液1mLを加え混練した。この混練物を常法に従って造粒し、ここで開示されるTNF−R2発現抑制ペプチドを主成分とする顆粒剤(顆粒状組成物)を得た。