特許第6311944号(P6311944)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6311944
(24)【登録日】2018年3月30日
(45)【発行日】2018年4月18日
(54)【発明の名称】ハニカム状触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/89 20060101AFI20180409BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20180409BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20180409BHJP
   B01J 23/63 20060101ALI20180409BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20180409BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20180409BHJP
【FI】
   B01J23/89 AZAB
   B01J35/02 P
   B01D53/94 222
   B01D53/94 245
   B01J23/63 A
   F01N3/10 A
   F01N3/28 301P
【請求項の数】3
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-64594(P2016-64594)
(22)【出願日】2016年3月28日
(65)【公開番号】特開2017-176939(P2017-176939A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2017年6月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正
(72)【発明者】
【氏名】山本 敏生
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−326476(JP,A)
【文献】 特開2014−226651(JP,A)
【文献】 特開2014−018724(JP,A)
【文献】 特表2007−501107(JP,A)
【文献】 特開2005−118747(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
B01D 53/86
B01D 53/94
F01N 3/00 − 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一体成型されたハニカム状基材と、該ハニカム状基材の各セルの内壁にセルの内周に沿った方向に分離して配置されている2種以上の触媒層とを備えていることを特徴とするハニカム状触媒。
【請求項2】
前記2種以上の触媒層は、それぞれ組成が前記セルの長軸方向に均一であることを特徴とする請求項1に記載のハニカム状触媒。
【請求項3】
前記2種以上の触媒層が、ロジウムを含有する触媒層とパラジウムを含有する触媒層の組み合わせ、ロジウムを含有する触媒層と白金を含有する触媒層の組み合わせ、ロジウムを含有する触媒層とセリアを含有する触媒層の組み合わせ、ロジウムを含有する触媒層と酸化鉄を含有する触媒層の組み合わせ、セリアを含有する触媒層と酸化鉄を含有する触媒層の組み合わせ、アルミナを含有する触媒層と酸化鉄を含有する触媒層の組み合わせ、チタニアを含有する触媒層とアルミナを含有する触媒層の組み合わせ、貴金属を含有する触媒層とシリカを含有する触媒層の組み合わせ、貴金属を含有する触媒層とゼオライトを含有する触媒層の組み合わせ、並びに塩基性材料を含有する触媒層と貴金属を含有する触媒層の組み合わせのうちの少なくとも1つの組み合わせを含有するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載のハニカム状触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム状基材の各セルの内壁に2種以上の触媒層が配置されているハニカム状触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に用いられる排ガス浄化用触媒としては、例えば、複数の貫通孔を有するハニカム状基材と、このハニカム状基材のセルの内壁に塗布された触媒材料からなる触媒層とを備えるハニカム状触媒が知られている。このようなハニカム状触媒の触媒層においては、従来、1種類の触媒材料が用いられていたが、近年、触媒性能の向上のために、複数の触媒材料が併用されている。しかしながら、複数の触媒材料を混合して形成された混合触媒層を備えるハニカム状触媒は、触媒性能が必ずしも十分なものではなかった。
【0003】
また、複数の触媒材料を併用した触媒層としては、組成が異なる複数の触媒層が、排ガスの流れ方向(セルの長軸方向)に分離して配置されている流れ方向分離型の触媒層や排ガスの流れ方向に垂直な方向(セルの短軸方向又は半径方向)に分離して配置されている多層の触媒層が知られている。
【0004】
例えば、特開2007−268484号公報(特許文献1)には、ハニカム基材のセル隔壁の表面に、複数のスラリーをハニカム基材の軸方向及び径方向の少なくとも一方で異なる分布パターンをもつようにコートする方法であって、前記分布パターンと略同一パターンとなるように複数のスラリーを筒状のコート治具に区画して充填し、このコート治具をハニカム基材の一端面に当接させ、前記コート治具の端面からスラリーをセル通路に導入するコート方法が記載されている。
【0005】
また、国際公開第2010/114132号(特許文献2)には、複数の吐出口が設けられているノズルと、このノズルに接続されている流体供給装置とを備える排ガス浄化用触媒の製造装置が記載されている。また、特許文献2には、触媒層の原料を含んだ流体を前記ノズルからモノリスハニカム基材の一方の端面に吐出させて触媒層を形成し、次いで、異なる触媒層の原料を含んだ流体を前記ノズルからモノリスハニカム基材の他方の端面に吐出させて異なる触媒層を形成することによって、モノリスハニカム基材の上流部と下流部に異なる組成の触媒層が形成された排ガス浄化用触媒が得られることが記載されている。
【0006】
さらに、特開2010−133332号公報(特許文献3)には、1つのハニカム担体に光発熱材のコート層と排ガス浄化用触媒の触媒層を塗り分けることによって、排気上流側又は下流側に光発熱体、下流側又は上流側に排ガス浄化用触媒が配置されている触媒装置が得られることが記載されている。
【0007】
また、特開2014−188466号公報(特許文献4)には、ハニカム構造部の入口セル側の隔壁表面に、微細原料粒子を塗布し、焼成して、複数の細孔を有する表面捕集層を形成し、ハニカム構造部の出口セル側の隔壁表面に、排ガス浄化用触媒を含むスラリーを塗工し、乾燥させて、前記排ガス浄化用触媒を担持させる排ガス浄化フィルターの製造方法が記載されている。
【0008】
さらに、特開2016−2534号公報(特許文献5)には、シリンジ先端から、ウォールスルー型のフィルター基体のガス流入通路の封止端側の隔壁表面に粒子状物質酸化触媒の前駆体である触媒スラリーを圧入し、さらに、ガス流入通路の開口端側の隔壁表面にNOx浄化触媒の前駆体である触媒スラリーを圧入し、その後、乾燥、焼成を施す排ガス浄化用触媒の製造方法が記載されている。
【0009】
しかしながら、特許文献1〜2、4〜5に記載の方法によって得られるハニカム状触媒や特許文献3に記載の触媒装置は、複数の触媒層がハニカム状基材のセルの長軸方向や半径方向に分布した状態に配置されているものであり、複数の触媒層がセルの内周に沿った方向に分布した状態で配置されているハニカム状触媒については知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−268484号公報
【特許文献2】国際公開第2010/114132号
【特許文献3】特開2010−133332号公報
【特許文献4】特開2014−188466号公報
【特許文献5】特開2016−2534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、複数の触媒材料を併用した触媒層を備えており、従来の複数の触媒材料を混合して形成された混合触媒層を備えるハニカム状触媒に比べて優れた触媒性能を示すハニカム状触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、複数の触媒材料をハニカム状基材の各セルの内壁にセルの内周に沿った方向に分離した状態に塗布することによって、従来の複数の触媒材料を混合して形成された混合触媒層を備えるハニカム状触媒に比べて優れた触媒性能を示すハニカム状触媒が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明のハニカム状触媒は、一体成型されたハニカム状基材と、該ハニカム状基材の各セルの内壁にセルの内周に沿った方向に分離して配置されている2種以上の触媒層とを備えていることを特徴とするものである。
【0014】
本発明のハニカム状触媒において、前記2種以上の触媒層は、それぞれ組成が前記セルの長軸方向に均一であることが好ましい。また、前記2種以上の触媒層が、ロジウムを含有する触媒層とパラジウムを含有する触媒層の組み合わせ、ロジウムを含有する触媒層と白金を含有する触媒層の組み合わせ、ロジウムを含有する触媒層とセリアを含有する触媒層の組み合わせ、ロジウムを含有する触媒層と酸化鉄を含有する触媒層の組み合わせ、セリアを含有する触媒層と酸化鉄を含有する触媒層の組み合わせ、アルミナを含有する触媒層と酸化鉄を含有する触媒層の組み合わせ、チタニアを含有する触媒層とアルミナを含有する触媒層の組み合わせ、貴金属を含有する触媒層とシリカを含有する触媒層の組み合わせ、貴金属を含有する触媒層とゼオライトを含有する触媒層の組み合わせ、並びに塩基性材料を含有する触媒層と貴金属を含有する触媒層の組み合わせのうちの少なくとも1つの組み合わせを含有するものであることが好ましい。
【0015】
なお、本発明のハニカム状触媒が、従来の複数の触媒材料を混合して形成された混合触媒層を備えるハニカム状触媒に比べて優れた触媒性能を示す理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、従来の複数の触媒材料を混合して形成された混合触媒層においては、複数の触媒材料が互いに近接して共存しているため、酸化/還元の高温熱処理によって触媒材料が拡散・固溶・反応・シンタリング(粒成長)し、各触媒材料の性能が阻害され、十分な触媒性能が発揮されないと推察される。一方、本発明のハニカム状触媒においては、2種以上の触媒層がハニカム状基材の各セルの内壁にセルの内周に沿った方向に分離して配置されているため、酸化/還元の高温熱処理を施しても触媒材料が拡散・固溶・反応・シンタリング(粒成長)しにくくなり、各触媒材料の性能が十分に発現する。その結果、本発明のハニカム状触媒は、従来の複数の触媒材料を混合して形成された混合触媒層を備えるハニカム状触媒に比べて優れた触媒性能を示すものになると推察される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、複数の触媒材料を併用した触媒層を備えており、従来の複数の触媒材料を混合して形成された混合触媒層を備えるハニカム状触媒に比べて優れた触媒性能を示すハニカム状触媒を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A】本発明のハニカム状触媒の好適な実施態様の一例を示す、セルの長軸方向に垂直な断面の模式図である。
図1B】本発明のハニカム状触媒の好適な実施態様の一例を示す、セルの長軸方向に垂直な断面の模式図である。
図1C】本発明のハニカム状触媒の好適な実施態様の一例を示す、セルの長軸方向に垂直な断面の模式図である。
図1D】本発明のハニカム状触媒の好適な実施態様の一例を示す、セルの長軸方向に垂直な断面の模式図である。
図1E】本発明のハニカム状触媒の好適な実施態様の一例を示す、セルの長軸方向に垂直な断面の模式図である。
図1F】本発明のハニカム状触媒の好適な実施態様の一例を示す、セルの長軸方向に垂直な断面の模式図である。
図1G】本発明のハニカム状触媒の好適な実施態様の一例を示す、セルの長軸方向に垂直な断面の模式図である。
図1H】本発明のハニカム状触媒の好適な実施態様の一例を示す、セルの長軸方向に垂直な断面の模式図である。
図1I】本発明のハニカム状触媒の好適な実施態様の一例を示す、セルの長軸方向に垂直な断面の模式図である。
図1J】本発明のハニカム状触媒の好適な実施態様の一例を示す、セルの長軸方向に垂直な断面の模式図である。
図1K】本発明のハニカム状触媒の好適な実施態様の一例を示す、セルの長軸方向に垂直な断面の模式図である。
図1L】本発明のハニカム状触媒の好適な実施態様の一例を示す、セルの長軸方向に垂直な断面の模式図である。
図2】調製例2、4、5で得られたスラリーのずり速度と粘度との関係を示すグラフである。
図3】実施例1〜2で作製した分離コート触媒層を備えているハニカム触媒を示す、セルの長軸方向に垂直な断面の模式図である。
図4A】実施例1及び比較例1で使用したハニカム状触媒の製造装置の模式縦断面図である。
図4B】実施例1において、ハニカム状基材のセル内にFZスラリーが塗布された状態を示す、ハニカム状触媒の製造装置の模式縦断面図である。
図4C】実施例1において、ハニカム状基材のセル内にFZ層を形成した後、再度シリンジを挿入した状態を示す、ハニカム状触媒の製造装置の模式縦断面図である。
図4D】実施例1において、ハニカム状基材のセル内にRh/アルミナスラリーが塗布された状態を示す、ハニカム状触媒の製造装置の模式縦断面図である。
図5】比較例1、3で作製した混合触媒層を備えているハニカム触媒を示す、セルの長軸方向に垂直な断面の模式図である。
図6】実施例1及び比較例1で得られたハニカム状触媒のNO及びCOの浄化率と触媒入りガス温度との関係を示すグラフである。
図7】触媒層のX線回折測定で使用した試験片の模式斜視図である。
図8】耐熱試験(1)後の各触媒層のX線回折パターンを示すグラフである。
図9】比較例2で作製した積層触媒層を備えているハニカム触媒を示す、セルの長軸方向に垂直な断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0019】
本発明のハニカム状触媒は、ハニカム状基材と、このハニカム状基材の各セルの内壁にセルの内周に沿った方向に分離して配置されている2種以上の触媒層とを備えているものである。
【0020】
(ハニカム状基材)
本発明に用いられるハニカム状基材としては、隔壁で区画された多数のセル(ガス通路)を有するものであれば特に制限はない。また、セルの長軸方向(ガスの流れ方向)に垂直な方向のセルの断面形状としては特に制限はなく、例えば、四角形状(好ましくは正四角形状)、六角形状(好ましくは正六角形状)等の多角形状(好ましくは正多角形状)、円形状、楕円形状等が挙げられる。
【0021】
このようなハニカム状基材の材質としては特に制限はなく、例えば、コージェライト、炭化ケイ素、ムライト、アルミナ、チタン酸アルミニウム、窒化ケイ素、ステンレス鋼、20%Cr−5%Al合金ステンレス鋼等が挙げられる。特に、本発明のハニカム状触媒を自動車用排ガス浄化触媒として使用する場合には、コージェライト製ハニカム状基材、ステンレス箔基材が好ましい。
【0022】
(触媒層)
本発明に用いられる触媒層を構成する触媒材料としては特に制限はなく、例えば、貴金属(ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)等)、塩基性材料(バリウム(Ba)等)、酸化物担体(アルミナ、ジルコニア、シリカ、チタニア、希土類酸化物(例えば、セリア、酸化ランタン)、遷移金属酸化物(例えば、酸化鉄)、これらを2種以上含む複合酸化物(例えば、セリア−ジルコニア複合酸化物、ゼオライト)等)が挙げられる。
【0023】
本発明のハニカム状触媒においては、このような触媒材料のうちの2種以上をそれぞれ独立に使用して形成された2種以上の触媒層が、前記ハニカム状基材の各セルの内壁にセルの内周方向に分離した状態で配置されている。本発明にかかる2種以上の触媒材料(触媒層)の組み合わせとしては特に制限はないが、触媒材料を混合した場合に酸化/還元の高温熱処理により触媒材料の拡散・固溶・反応・シンタリング(粒成長)等が起こり、活性点や比表面積の減少、融点の低下によって触媒性能が十分に発揮されない触媒材料(該触媒材料からなる触媒層)の組み合わせが好ましく、ロジウム(Rh)を含有する触媒材料(触媒層)とパラジウム(Pd)を含有する触媒材料(触媒層)の組み合わせ、ロジウム(Rh)を含有する触媒材料(触媒層)と白金(Pt)を含有する触媒材料(触媒層)の組み合わせ、ロジウム(Rh)を含有する触媒材料(触媒層)とセリアを含有する触媒材料(触媒層)の組み合わせ、ロジウム(Rh)を含有する触媒材料(触媒層)と酸化鉄を含有する触媒材料(触媒層)の組み合わせ、セリアを含有する触媒材料(触媒層)と酸化鉄を含有する触媒材料(触媒層)の組み合わせ、アルミナを含有する触媒材料(触媒層)と酸化鉄を含有する触媒材料(触媒層)の組み合わせ、チタニアを含有する触媒材料(触媒層)とアルミナを含有する触媒材料(触媒層)の組み合わせがより好ましい。これらの触媒材料の組み合わせは、それぞれ独立に使用してセルの内周方向に分離した状態の2種以上の触媒層を形成した場合に、酸化/還元の高温熱処理を施しても触媒材料の拡散・固溶・反応・シンタリング(粒成長)等が起こりにくくなり、活性点や比表面積の減少、融点の低下が抑制され、混合した場合に比べて優れた触媒性能が発現する。
【0024】
また、本発明にかかる2種以上の触媒材料(触媒層)の組み合わせとしては、触媒材料を混合した場合にコーキングが起こりやすい触媒材料の組み合わせも好ましく、貴金属を含有する触媒材料(触媒層)とシリカを含有する触媒材料(触媒層)の組み合わせ、貴金属を含有する触媒材料(触媒層)とゼオライトを含有する触媒材料(触媒層)の組み合わせがより好ましい。これらの触媒材料の組み合わせは、それぞれ独立に使用してセルの内周方向に分離した状態の2種以上の触媒層を形成した場合に、コーキングが起こりにくくなり、混合した場合に比べて優れた触媒性能(例えば、炭化水素(HC)吸着能)が発現する。
【0025】
さらに、本発明にかかる2種以上の触媒材料(触媒層)の組み合わせとしては、触媒材料を混合した場合に触媒材料の拡散や移動・反応が起こりやすい触媒材料の組み合わせも好ましく、塩基性材料を含有する触媒材料(触媒層)と貴金属を含有する触媒材料(触媒層)の組み合わせがより好ましい。これらの触媒材料の組み合わせは、それぞれ独立に使用してセルの内周方向に分離した状態の2種以上の触媒層を形成した場合に、触媒材料の拡散や移動・反応が起こりにくくなり、混合した場合に比べて優れた触媒性能(例えば、NOx吸着能やNOx浄化性能)が発現する。
【0026】
(ハニカム状触媒の構造)
本発明のハニカム状触媒は、前記ハニカム状基材と、このハニカム状基材の各セルの内壁にセルの内周方向に分離して配置されている2種以上の触媒層とを備えているものである。図1A図1Lは、このような本発明のハニカム状触媒の好適な実施態様の例を示す、セルの長軸方向(ガスの流れ方向)に垂直な断面の模式図である。2種以上の触媒層をハニカム状基材の各セルの内壁にセルの内周方向に分離して配置することによって、酸化/還元の高温熱処理を施しても触媒材料の拡散・固溶・反応・シンタリング(粒成長)が起こりにくくなり、各触媒層の性能が十分に発現し、2種以上の触媒材料を混合した場合に比べて優れた触媒性能を示す。また、各触媒層は、全体及び/又は一部分が隣の触媒層と接触していてもよいし、離れていてもよい。
【0027】
図1A及び図1Gに示す本発明のハニカム状触媒は、ハニカム状基材のセル1aの断面形状が正四角形のものであって、このセル1aの内壁1bをセルの内周方向に2分割した領域のうちの一方に触媒A層101Aが、他方に触媒B層101Bがそれぞれ配置されているもの、すなわち、セル1aの内壁1bに、1つの触媒A層101Aと1つの触媒B層101Bとがセルの内周方向に分離した状態で配置されているものである。
【0028】
図1B及び図1Hに示す本発明のハニカム状触媒は、ハニカム状基材のセル1aの断面形状が正四角形のものであって、このセル1aの内壁1bをセルの内周方向に4分割した領域のうちの1つに触媒A層101Aが、この触媒A層101Aに隣接する2つの領域に触媒B層101Bが、前記触媒A層101Aに対向する領域に触媒A層101Aがそれぞれ配置されているもの、すなわち、セル1aの内壁1bに、2つの触媒A層101Aと2つの触媒B層101Bとがセルの内周方向に分離した状態で交互に配置されているものである。
【0029】
図1C及び図1Iに示す本発明のハニカム状触媒は、ハニカム状基材のセル1aの断面形状が正四角形のものであって、このセル1aの内壁1bをセルの内周方向に4分割した領域のうちの1つに触媒A層101Aが、この触媒A層101Aに隣接する一方の領域に触媒B層101Bが、前記触媒A層101Aに隣接する他方の領域に触媒D層101D(又は触媒C層101C)が、前記触媒A層101Aに対向する領域に触媒C層101C(又は触媒D層101D)がそれぞれ配置されているもの、すなわち、セル1aの内壁1bに、触媒A層101Aと触媒B層101Bと触媒C層101Cと触媒D層101Dと(又は触媒A層101Aと触媒B層101Bと触媒D層101Dと触媒C層101Cと)がセルの内周方向に分離した状態で順に配置されているものである。
【0030】
図1D及び図1Jに示す本発明のハニカム状触媒は、ハニカム状基材のセル1aの断面形状が正六角形のものであって、このセル1aの内壁1bをセルの内周方向に2分割した領域のうちの一方に触媒A層101Aが、他方に触媒B層101Bがそれぞれ配置されているもの、すなわち、セル1aの内壁1bに、1つの触媒A層101Aと1つの触媒B層101Bとがセルの内周方向に分離した状態で配置されているものである。
【0031】
図1E及び図1Kに示す本発明のハニカム状触媒は、ハニカム状基材のセル1aの断面形状が正六角形のものであって、このセル1aの内壁1bをセルの内周方向に6分割した領域のうちの1つに触媒A層101Aが、この触媒A層101Aに隣接する2つの領域に触媒B層101Bが、前記触媒A層101Aに対向する領域に触媒B層101Bが、この触媒B層101Bに隣接する2つの領域に触媒A層101Aがそれぞれ配置されているもの、すなわち、セル1aの内壁1bに、3つの触媒A層101Aと3つの触媒B層101Bがセルの内周方向に分離した状態で交互に配置されているものである。
【0032】
図1Fに示す本発明のハニカム状触媒は、ハニカム状基材のセル1aの断面形状が正六角形のものであって、このセル1aの内壁1bをセルの内周方向に3分割した領域のうちの1つに触媒A層101Aが、この触媒A層101Aに隣接する一方の領域に触媒B層101Bが、前記触媒A層101Aに隣接する他方の領域に触媒C層101Cがそれぞれ配置されているもの、すなわち、セル1aの内壁1bに、触媒A層101Aと触媒B層101Bと触媒C層101Cとがセルの内周方向に分離した状態で順に配置されているものである。
【0033】
図1Lに示す本発明のハニカム状触媒は、ハニカム状基材のセル1aの断面形状が正六角形のものであって、このセル1aの内壁1bをセルの内周方向に4分割した領域のうちの1つに触媒A層101Aが、この触媒A層101Aに隣接する2つの領域に触媒C層101Cが、前記触媒A層101Aに対向する領域に触媒B層101Bがそれぞれ配置されているもの、すなわち、セル1aの内壁1bに、触媒A層101Aと触媒C層101Cと触媒B層101Bと触媒C層101Cとがセルの内周方向に分離した状態で順に配置されているものである。
【0034】
また、ハニカム状基材のセルの断面形状が正四角形や正六角形等の多角形の場合において、塗布する触媒材料や触媒材料スラリーの粘度が高くなると、図1G図1Lに示すように、触媒層の内周は円くなる。このため、セルの断面形状における辺(多角形の辺)の中央部の触媒層の厚さがコーナー部(多角形の頂点部分)に比べて薄くなる。そこで、図1G図1Lに示すように、隣接する触媒層の境界部分をセルの断面形状における辺(多角形の辺)(好ましくは辺の中央部(多角形の辺の中央部))に配置することによって、図1A図1Fに示すハニカム状触媒に比べて、触媒材料の拡散・固溶・反応・シンタリング(粒成長)等が更に起こりにくくすることができる。また、図1Lに示すように、触媒A層101Aと触媒B層101Bとの間にバッファー層としての触媒C層101Cを配置することによって、触媒A層101Aと触媒B層101Bとを分離する効果を更に高めることができる。
【0035】
また、図1A図1Lに示す本発明のハニカム状触媒においては、触媒A層101A、触媒B層101B、触媒C層101C及び触媒D層101Dの組成がそれぞれセルの長軸方向に均一であることが好ましい。これにより、セル内を流通するガスに対する圧力損失を低減することができる。
【0036】
本発明のハニカム状触媒において、触媒層の幅(触媒層表面における短軸方向長さ)としては0.05〜5mmが好ましく、0.3〜2mmがより好ましい。触媒層の幅が前記下限未満になると、触媒層の分離が十分ではなく、触媒性能が十分に発現しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、2種類以上の触媒層の共存効果が十分に得られにくい傾向にある。
【0037】
また、触媒層の厚さとしては5〜200μmが好ましく、10〜50μmがより好ましい。触媒層の厚さが前記下限未満になると、十分な量の触媒材料を担持できないため、触媒性能が十分に発現しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、ガスの流路が十分に確保できないため、セル内を流通するガスに対する圧力損失が増加し、例えば、排ガス浄化用触媒の場合には自動車の燃費が悪化する傾向にある。
【0038】
このような本発明のハニカム状触媒の製造方法を、触媒材料A及び触媒材料Bを塗布して触媒層A及び触媒層Bを形成する場合を例として以下に説明する。
【0039】
先ず、シリンジ等の吐出管をハニカム状基材の一方の端面からセルに挿入し、吐出管の先端部をハニカム状基材の他方の端面に達するまで移動させる。次に、吐出管をハニカム状基材のセルの長軸方向に沿って前記他方の端面から前記一方の端面に向かって移動させながら、触媒材料Aを吐出管に供給して吐出管の先端部に設けられた材料吐出口から吐出させる。このとき、吐出管の先端部の外周面の一部に材料吐出口を設けることによって、セルの内壁の内周方向の一部の領域に触媒材料Aを塗布することができる。これらの一連の操作を各セルについて行い、各セルの内壁の内周方向の一部の領域に触媒材料Aを塗布する。その後、塗布された触媒材料Aを焼成することによって、各セルの内壁の内周方向の一部の領域に触媒層Aが形成される。
【0040】
次に、セルの内壁の触媒層Aが形成されていない所定の領域に触媒材料Bが塗布されるように、長軸方向を回転軸として吐出管を回転させて材料吐出口の向きをセットする。その後、吐出管をハニカム状基材の一方の端面からセルに挿入し、吐出管の先端部をハニカム状基材の他方の端面に達するまで移動させる。次いで、吐出管をハニカム状基材のセルの長軸方向に沿って前記他方の端面から前記一方の端面に向かって移動させながら、触媒材料Bを吐出管に供給して吐出管の先端部に設けられた材料吐出口から吐出させる。これにより、セルの内壁の触媒層Aが形成されていない領域のうちの内周方向の少なくとも一部の領域に触媒材料Bが塗布される。これらの一連の操作を各セルについて行い、各セルの内壁の内周方向の一部の領域に触媒材料Aを塗布する。その後、塗布された触媒材料Bを焼成することによって、各セルの内壁の触媒層Aが形成されていない領域のうちの内周方向の少なくとも一部の領域に触媒層Bが形成される。
【0041】
このように、触媒材料Aと触媒材料Bの塗布及び焼成を順次行うことによって、例えば、図1A図1D図1G及び図1Jに示すような、ハニカム状基材のセルの内壁に2種類の触媒層がセルの内周方向に分離した状態で配置されている本発明のハニカム状触媒を得ることができる。また、上記のような触媒材料Aと触媒材料Bの塗布及び焼成を順次繰り返すことによって、例えば、図1B図1E図1H及び図1Kに示すような、ハニカム状基材のセルの内壁に2種類の触媒層がセルの内周方向に分離した状態で交互に配置されている本発明のハニカム状触媒を得ることができる。さらに、上記のように触媒層A及び触媒層Bを形成した後、さらに、触媒材料C等の塗布及び焼成を行うことによって、例えば、図1C図1F図1I及び図1Lに示すような、ハニカム状基材のセルの内壁に3種以上の触媒層がセルの内周方向に分離した状態で交互に配置されている本発明のハニカム状触媒を得ることができる。
【0042】
このようなハニカム状触媒の製造方法において、触媒材料として触媒材料スラリーを用いる場合、その粘度としては、触媒材料が材料吐出口から吐出される限り、特に制限はなく、吐出装置の種類を選択することにより、1000mPa・s程度のスラリーを用いることもできるが、上記の方法によって容易に触媒材料をセルの内壁に塗布することができるという観点から、300mPa・s以下が好ましく、200mPa・s以下がより好ましく、100mPa・s以下が特に好ましい。
【0043】
また、前記ハニカム状触媒の製造方法において、触媒材料を吐出管に供給する方法としては特に制限はなく、例えば、エア式、バルブ式、スクリュー式、一軸偏心ねじ式等の各種送液ポンプを用いる方法が挙げられる。
【0044】
さらに、前記ハニカム状触媒の製造方法においては、空気等の気体を、気体供給装置から気体流路に供給し、吐出管の先端部に設けられた気体吐出口から吹き付けながら、触媒材料を塗布することが好ましい。これにより、触媒材料をセルの内壁に確実に密着させることができ、さらに、余分な触媒材料が除去されてセルの内壁が平滑となり、圧力損失が少なく、内壁が滑らかな流路(セル)を有するハニカム状触媒を得ることが可能となる。
【0045】
また、前記ハニカム状触媒の製造方法においては、吸引装置を用いてハニカム状基材の吐出管を挿入した端面と反対側の端面からセル内を吸引しながら、触媒材料を塗布することが好ましい。これにより、余分な触媒材料が除去されてセルの内壁が平滑となり、圧力損失が少なく、内壁が滑らかな流路(セル)を有するハニカム状触媒を製造することが可能となる。
【0046】
さらに、前記ハニカム状触媒の製造方法においては、水等の液体を、液体供給装置から液体流路に供給し、吐出管の先端部に設けられた液体吐出口から吹き付けながら、触媒材料を塗布することも可能である。これにより、材料吐出口付近での触媒材料の乾燥、固化を防止することができる。
【0047】
以上、本発明のハニカム状触媒の製造方法について説明したが、本発明のハニカム状触媒は前記方法によって製造されたものに限定されない。例えば、前記方法においては、1本の吐出管を1つのセル内に挿入して触媒材料の塗布及び焼成を行い、この操作を各セルについて繰り返すことによって、複数のセル内に触媒層を形成しているが、複数の吐出管を同時に複数のセル内に挿入して触媒材料の塗布及び焼成を行い、複数のセル内に同時に触媒層を形成してもよい。これにより、総塗布時間を短縮することができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で使用した触媒材料スラリーは以下の方法により調製した。
【0049】
(調製例1)
<酸化鉄−ジルコニア系複合酸化物粉末の調製>
クエン酸鉄(III)アンモニウム(和光純薬工業(株)製、試薬、褐色、鉄含量:16〜19%)333.8g、水分散型のイットリア含有アルカリ性ジルコニアゾル(日産化学工業(株)製「ナノユースZR30−BS」、ゾル粒子径:30〜80nm、ZrO固形分濃度:30.8%、Zr:Y(原子比)=1:0.109、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)を含有。)223.5g、及び蒸留水179.1gを容量1Lのポリエチレン製ビーカーに仕込んだ。これらの仕込量から算出した複合酸化物の原子比はFe:Zr:Y=2.00:1.00:0.109であり、Fe、ZrO及びYの含有量はFe:ZrO:Y(質量%)=54.09:41.74:4.17であった。
【0050】
この混合物をプロペラ攪拌機で十分に撹拌し、さらにホモジナイザー(IKA社製「T25」、シャフトジェネレータはIKA社製「S25N−25F」を使用)を用いて回転数20000rpmで1回あたり1分間の撹拌を3回行なった。その後、ろ紙(5種C、粒子保持能:2.5μm、直径:70mmφ)を用いて吸引ろ過を行い、不純物を除去し、クエン酸鉄(III)アンモニウムが溶解したイットリア含有ジルコニアゾル水懸濁液をガラス製ビーカーに回収した。
【0051】
この水懸濁液をテフロン(登録商標)で被覆されたプロペラ攪拌機を用いて撹拌しながら、250℃に設定したホットスターラーで加熱することにより濃縮した。水懸濁液の粘度が高くなり撹拌が困難となる手前で撹拌を停止し、濃縮物をプロペラ翼とともに120℃の乾燥機に入れ、12時間以上乾燥させた。得られた粉末をるつぼに入れ、粉末を完全に酸化させるために、るつぼの蓋を1/10〜1/5程度開けた状態で鞘鉢に入れた。この鞘鉢を大気の流通が可能な脱脂炉に入れ、大気中、150℃で3時間→250℃で2時間→400℃で2時間→500℃で5時間の条件で粉末を仮焼成した。
【0052】
その後、脱脂炉の温度が150℃以下になった時点で脱脂炉から鞘鉢を取り出し、粉末を75μm以下の大きさになるまでメノウ乳鉢を用いて粉砕した。得られた粉砕物をるつぼに入れ、るつぼの蓋を1/10〜1/5程度開けた状態で箱型電気炉に入れ、大気中、900℃で5時間焼成して酸化鉄−ジルコニア系複合酸化物粉末(以下、「FZ粉末」という。)を得た。このFZ粉末の体積基準の粒度分布を動的光散乱法により測定し、平均粒径D50(累積頻度50%における粒径)を求めたところ、34μmであった。
【0053】
(調製例2)
<酸化鉄−ジルコニア系複合酸化物スラリーの調製>
調製例1で得られたFZ粉末100質量部、酢酸安定化アルミナゾル(日産化学工業(株)製「AS200」、固形分濃度:10.8%)10質量部及び水を固形分濃度が40質量%となるように混合した後、ホモジナイザーを用いて2分間撹拌して酸化鉄−ジルコニア系複合酸化物スラリー(以下、「FZスラリー」という。)を得た。このFZスラリーの体積基準の粒度分布を動的光散乱法により測定し、平均粒径D50(累積頻度50%における粒径)を求めたところ、11μmであった。また、E型粘度計(東機産業(株)製「TVE−35H型」)を用いて25℃における粘度を測定したところ、図2に示すように、ずり速度10〜300/秒の範囲において100mPa・s以下であった。
【0054】
(調製例3)
<ロジウム担持アルミナ粉末の調製>
ランタン安定化Θ−アルミナ粉末((株)キャタラー製、ランタン含有量:1質量%、比表面積:約100m/g)を粉砕機(アズワン(株)製「ワンダーブレンダー」)を用いて篩で粒径が25μm以下となるように粉砕した。得られた粉砕物40gに蒸留水100mlを添加し、さらに、ロジウム(Rh)を金属換算で0.06009g含有する硝酸ロジウム溶液2.114mlを添加して、La安定化Θ−アルミナ粉末に硝酸ロジウム溶液を含浸させた後、110〜150℃に徐々に温度を高めながらセットしたホットスターラー上で蒸発乾固させ、さらに、大気中、110℃で16時間乾燥させ、凝固物を得た(蒸発乾固)。次いで、500℃で1時間焼成することにより、Rhが担持されたLa安定化Θ−アルミナ粉末(以下、「Rh/Θ−アルミナ粉末」という。)を得た。得られたRh/Θ−アルミナ粉末を75μm以下の大きさになるまでメノウ乳鉢を用いて粉砕した。得られた粉砕物の体積基準の粒度分布を動的光散乱法により測定し、平均粒径D50(累積頻度50%における粒径)を求めたところ、13μmであった。なお、得られたRh/Θ−アルミナ粉末におけるロジウム担持量は0.15質量%であった。
【0055】
(調製例4)
<ロジウム担持アルミナスラリーの調製>
調製例3で得られたRh/Θ−アルミナ粉末100質量部、酢酸安定化アルミナゾル(日産化学工業(株)製「AS200」、固形分濃度:10.8%)10質量部及び水を固形分濃度が30質量%となるように混合した後、ホモジナイザーを用いて2分間撹拌してロジウム担持アルミナスラリー(以下、「Rh/アルミナスラリー」という。)を得た。このRh/アルミナスラリーの体積基準の粒度分布を動的光散乱法により測定し、平均粒径D50(累積頻度50%における粒径)を求めたところ、12μmであった。また、調製例2と同様に、25℃における粘度を測定したところ、図2に示すように、ずり速度10〜300/秒の範囲において100mPa・s以下であった。
【0056】
(調製例5)
<パラジウム担持セリア−ジルコニア複合酸化物粉末の調製>
硝酸酸性のパラジウム担持水溶液((株)キャタラー製、Pd含有量:8.2質量%)12.195g(Pdとして1g)に、25μm以下の大きさに粉砕したセリア−ジルコニアを含む複合酸化物粉末(平均粒径(D50):7.5μm、CeO:ZrO:その他の希土類酸化物=60質量%:30質量%:10質量%、以下、「CZ粉末」という。)99gを浸漬してCZ粉末に硝酸酸性のパラジウム担持水溶液を含浸させた後、120〜220℃に徐々に温度を高めながらセットしたホットスターラー上で蒸発乾固させ、さらに、大気中、500℃で1時間焼成することにより、Pdが担持されたセリア−ジルコニア複合酸化物粉末(以下、「Pd/CZ粉末」という。)を得た。なお、前記CZ粉末の平均粒径(D50)は、動的光散乱法により測定したCZ粉末の体積基準の粒度分布の累積頻度50%における粒径である。
【0057】
(調製例6)
<パラジウム担持セリア−ジルコニア複合酸化物粉末とアルミナ粉末との混合スラリーの調製>
調製例5で得られたPd/CZ粉末100質量部、25μm以下の大きさに粉砕したランタン安定化Θ−アルミナ粉末((株)キャタラー製、平均粒径(D50):約17μm、ランタン含有量:4質量%、比表面積:約100m/g)100質量部、酢酸安定化アルミナゾル(日産化学工業(株)製「AS200」、固形分濃度:10.8%)20質量部及び水を固形分濃度が30質量%となるように混合した後、ホモジナイザーを用いて2分間撹拌してPd/CZ粉末とΘ−アルミナ粉末とを含有する混合スラリー(以下、「Pd/CZ+アルミナ混合スラリー」という。)を得た。なお、前記ランタン安定化Θ−アルミナ粉末の平均粒径(D50)は、動的光散乱法により測定したCZ粉末の体積基準の粒度分布の累積頻度50%における粒径である。
【0058】
(調製例7)
<酸化鉄−ジルコニア系複合酸化物粉末とロジウム担持アルミナ粉末との混合スラリーの調製>
調製例1で得られたFZ粉末125質量部、調製例3で得られたRh/Θ−アルミナ粉末100質量部、酢酸安定化アルミナゾル(日産化学工業(株)製「AS200」、固形分濃度:10.8%)22.5質量部及び水を固形分濃度が36質量%となるように混合した後、ホモジナイザーを用いて2分間撹拌してFZ粉末とRh/Θ−アルミナ粉末とを含有する混合スラリー(以下、「FZ+Rh/アルミナ混合スラリー」という。)を得た。このFZ+Rh/アルミナ混合スラリーの体積基準の粒度分布を動的光散乱法により測定し、平均粒径D50(累積頻度50%における粒径)を求めたところ、15.5μmであった。また、調製例2と同様に、25℃における粘度を測定したところ、図2に示すように、ずり速度10〜300/秒の範囲において100mPa・s以下であった。
【0059】
(調製例8)
<パラジウム担持セリア−ジルコニア複合酸化物粉末とロジウム担持アルミナ粉末との混合スラリーの調製>
調製例4で得られたRh/アルミナスラリー60質量部と調製例6で得られたPd/CZ+アルミナ混合スラリー80質量部とを混合した後、撹拌してPd/CZ粉末とRh/Θ−アルミナ粉末とを含有する混合スラリー(以下、「Pd/CZ+Rh/アルミナ混合スラリー」という。)を得た。
【0060】
(実施例1)
図3に示すように、ハニカム状基材(コージェライト製、基材サイズ:縦10mm×横10mm×長さ49mm、容量:約5ml、セル形状:4角セル、セル数:200セル/インチ、セル厚:12ミル、セルピッチ:1.9mm×1.9mm)の25個のセルの内壁1bの内周方向の約半分の領域にFZ層(触媒A層101A)を形成し、このFZ層に対向する残りの領域にRh/アルミナ層(触媒B層101B)を形成した。これらの分離コート触媒層は、合計コート量が約0.6g(ハニカム状基材1Lに対して約120g/L−cat)であった。また、FZ層とRh/アルミナ層との質量比はFZ:Rh/アルミナ=5:4となるように形成した。
【0061】
先ず、前記ハニカム状基材を水洗し、乾燥後、大気中、1000℃で3時間焼成した。図4Aに示すように、先端部の外周面の一部に材料吐出口2が設けられている吐出管3(外径:1.07mm、内径:0.69mm)を、前記ハニカム状基材1の一方の端面4からセル1a内に挿入し、先端部が他方の端面5に達するまで移動させた。次に、図4Bに示すように、吐出管3をセル1aの長軸方向に沿って5.0mm/秒の速さで端面5から端面4の方向に移動させ、かつ、セル1a内を吸引しながら、調製例2で得られたFZスラリーを0.03mm/秒の速度でスラリー供給装置6から吐出管3に供給し、吐出管3の先端部の材料吐出口2から吐出させた。このとき、材料吐出口2が吐出管3の先端部の外周面の一部に設けられているため、セルの内壁1bの内周方向の約半分の領域にFZスラリーが塗布され、FZスラリー層(触媒材料A層102A)が形成された。この操作を25個のセルについて行い、各セルの内壁1bの内周方向の約半分の領域にFZスラリーを塗布し、FZスラリー層(触媒材料A層102A)を形成した。その後、大気中、500℃で1時間焼成することにより、前記ハニカム状基材1のセルの内壁1bの内周方向の約半分の領域に幅が約1.5mmのFZ層(触媒A層101A)が形成された。
【0062】
次に、吐出管3の材料吐出口2の向きを180°回転させた後、図4Cに示すように、吐出管3を前記ハニカム状基材1の一方の端面4からセル内に挿入し、先端部が他方の端面5に達するまで移動させた。次いで、図4Dに示すように、吐出管3をセル1aの長軸方向に沿って5.0mm/秒の速さで端面5から端面4の方向に移動させ、かつ、セル1a内を吸引しながら、調製例4で得られたRh/アルミナスラリーを0.06mm/秒の速度でスラリー供給装置6から吐出管3に供給し、吐出管3の先端部の材料吐出口2から吐出させた。このとき、材料吐出口2が吐出管3の先端部の外周面の一部に設けられているため、セルの内壁1bの内周方向の前記FZ層に対向する残りの領域にRh/アルミナスラリーが塗布され、Rh/アルミナスラリー層(触媒材料B層102B)が形成された。この操作を25個のセルについて行い、各セルの内壁1bの内周方向の前記FZ層に対向する残りの領域にRh/アルミナスラリーを塗布し、Rh/アルミナスラリー層(触媒材料B層102B)を形成した。その後、大気中、500℃で1時間焼成することにより、前記ハニカム状基材1のセルの内壁1bの内周方向の前記FZ層(触媒A層101A)に対向する残りの領域に幅が約1.5mmのRh/アルミナ層(触媒B層101B)が形成された。
【0063】
(比較例1)
図5に示すように、ハニカム状基材(コージェライト製、基材サイズ:縦10mm×横10mm×長さ49mm、容量:約5ml、セル形状:4角セル、セル数:200セル/インチ、セル厚:12ミル、セルピッチ:1.9mm×1.9mm)の25個のセルの内壁1bに、実施例1と同様の方法を用いて、2本のFZ+Rh/アルミナ混合層(混合触媒層104A及び104B)を、これらの層が対向するように形成した。これらの混合触媒層は、合計コート量が約0.55g(ハニカム状基材1Lに対して約110g/L−cat)であった。また、混合層中のFZとRh/アルミナとの質量比はFZ:Rh/アルミナ=5:4となるように形成した。
【0064】
先ず、前記ハニカム状基材を水洗し、乾燥後、大気中、1000℃で3時間焼成した。図4Aに示すように、先端部の外周面の一部に材料吐出口2が設けられている吐出管3(外径:1.07mm、内径:0.69mm)を前記ハニカム状基材1の一方の端面4からセル1a内に挿入し、先端部が他方の端面5に達するまで移動させた。次に、吐出管3をセル1aの長軸方向に沿って5.0mm/秒の速さで端面5から端面4の方向に移動させ、かつ、セル1a内を吸引しながら、調製例7で得られたFZ+Rh/アルミナ混合スラリーを0.04mm/秒の速度でスラリー供給装置6から吐出管3に供給し、吐出管3の先端部の材料吐出口2から吐出させた。このとき、材料吐出口2が吐出管3の先端部の外周面の一部に設けられているため、セルの内壁1bの内周方向の約半分の領域にFZ+Rh/アルミナ混合スラリーが塗布され、FZ+Rh/アルミナ混合スラリー層(混合触媒材料層)が形成された。この操作を25個のセルについて行い、各セルの内壁1bの内周方向の約半分の領域にFZ+Rh/アルミナ混合スラリーを塗布し、FZ+Rh/アルミナ混合スラリー層(混合触媒材料層)を形成した。その後、大気中、500℃で1時間焼成することにより、前記ハニカム状基材のセルの内壁1bの内周方向の約半分の領域に幅が約1.5mmのFZ+Rh/アルミナ混合層(混合触媒層104A)が形成された。
【0065】
次に、吐出管3の材料吐出口2の向きを180°回転させた後、吐出管3を前記ハニカム状基材1の一方の端面4からセル内に挿入し、先端部が他方の端面5に達するまで移動させた。次いで、吐出管3をセル1aの長軸方向に沿って5.0mm/秒の速さで端面5から端面4の方向に移動させ、かつ、セル1a内を吸引しながら、調製例7で得られたFZ+Rh/アルミナ混合スラリーを0.04mm/秒の速度でスラリー供給装置6から吐出管3に供給し、吐出管3の先端部の材料吐出口2から吐出させた。このとき、材料吐出口2が吐出管3の先端部の外周面の一部に設けられているため、セルの内壁1bの内周方向の前記FZ+Rh/アルミナ混合層(混合触媒層104A)に対向する残りの領域にFZ+Rh/アルミナ混合スラリーが塗布され、FZ+Rh/アルミナ混合スラリー層(混合触媒材料層)が形成された。この操作を25個のセルについて行い、各セルの内壁1bの内周方向の前記FZ+Rh/アルミナ混合層(混合触媒層104A)に対向する残りの領域にFZ+Rh/アルミナ混合スラリーを塗布し、FZ+Rh/アルミナ混合スラリー層(混合触媒材料層)を形成した。その後、大気中、500℃で1時間焼成することにより、前記ハニカム状基材のセルの内壁1bの内周方向の前記FZ+Rh/アルミナ混合層(混合触媒層104A)に対向する残りの領域に幅が約1.5mmのFZ+Rh/アルミナ混合層(混合触媒層104B)が形成された。これにより、幅が約1.5mmの2本のFZ+Rh/アルミナ混合層(混合触媒層104A及び104B)が対向するように前記ハニカム状基材のセルの内壁1bに形成された。
【0066】
<耐熱試験(1)>
内径約30mmの反応管に、実施例1及び比較例1で得られたハニカム状触媒を同時に4本装着した。このとき、反応管に導入されるガスがハニカム状触媒内を十分に流通するように、反応管とハニカム状触媒との間の隙間を石英ウールで充填した。還元ガス〔CO(1容量%)+HO(3容量%)+N(残部)〕を10L/分で流通させながら、前記反応管を1000℃で5時間加熱して、還元雰囲気下でハニカム状触媒に耐熱試験を施した。
【0067】
<CO及びNOの50%浄化温度>
耐熱試験(1)後のハニカム状触媒を装着した前記反応管に、評価ガス〔NO(約0.1容量%)+CO(約0.45容量%)+HO(3容量%)+O(所定流量)+N(残部)〕を、150℃から600℃まで24℃/分の昇温速度で加熱しながら、15L/分で流通させ、各触媒入りガス温度において触媒入りガス及び触媒出ガス中のCO及びNOの濃度を測定してそれらの浄化率を算出し、CO及びNOが50%浄化された時点の触媒温度(CO及びNOの50%浄化温度)を求めた。その結果を図6及び表1に示す。なお、Oガスの流量は、触媒入りガスの空燃比が約0.999になるように適宜調整した。
【0068】
<CO及びNOの平均浄化率>
耐熱試験(1)後のハニカム状触媒を装着した前記反応管に、触媒入りガス温度280℃で、定常ガス〔NO(約0.045容量%)+HO(3容量%)+N(残部)〕を15L/分で流通させながら、リッチガス(CO(約0.2容量%)+N(残部))を15L/分で1分間流通させた後、リーンガス(O(約0.05容量%)+N(残部))を15L/分で1分間流通させた。この操作を2回繰り返し、合計4分間(2周期分)の触媒入りガス及び触媒出ガス中のCO及びNOの平均濃度を測定してCO及びNOの平均浄化率を算出した。その結果を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
図6及び表1に示した結果から明らかなように、FZ層とRh/アルミナ層とをセルの内壁に内周方向に分離して形成した本発明のハニカム状触媒(実施例1:分離コート)は、2本のFZ+Rh/アルミナ混合層を対向するようにセルの内壁に形成したハニカム状触媒(比較例1:混合スラリーコート)に比べて、低い触媒入りガス温度でCO及びNOを浄化することができ、触媒活性に優れていることがわかった。
【0071】
また、表1に示した結果から明らかなように、FZ層とRh/アルミナ層とをセルの内壁に内周方向に分離して形成した本発明のハニカム状触媒(実施例1:分離コート)は、2本のFZ+Rh/アルミナ混合層を対向するようにセルの内壁に形成したハニカム状触媒(比較例1:混合スラリーコート)に比べて、CO及びNOの平均浄化率が高く、排ガス浄化性能に優れていることがわかった。
【0072】
<触媒層のX線回折測定>
ハニカム状基材(コージェライト製、セル形状:6角セル、セル間隔:1.3mm)から切り出したハニカム状平板(20mm×50mm)上に、図7に示すように、FZ層105Aとアルミナ層105Bとを交互に形成した。すなわち、前記ハニカム状平板上に、調製例2で得られたFZスラリーとRhが担持されていないランタン安定化Θ−アルミナ粉末((株)キャタラー製、ランタン含有量:1質量%、比表面積:約100m/g)を含有するスラリーとを1セル分ずつ交互に塗布し、大気中、500℃で1時間焼成した。これにより、前記ハニカム状平板上に、セルの長軸方向に垂直な方向にFZ層とアルミナ層とが1セル分ずつ交互に分離して配置されている試験片(以下、「分離コート試験片」という。)を得た。
【0073】
また、前記ハニカム状平板上の全面に、調製例1で得られたFZ粉末とRhが担持されていないランタン安定化Θ−アルミナ粉末((株)キャタラー製、ランタン含有量:1質量%、比表面積:約100m/g)とを質量比2:1で含有する混合スラリーを塗布し、大気中、500℃で1時間焼成した。これにより、前記ハニカム状平板上の全面に、FZ+アルミナ混合層が配置されている試験片(以下、「混合スラリーコート試験片」という。)を得た。
【0074】
また、前記ハニカム状平板上の全面に、Rhが担持されていないランタン安定化Θ−アルミナ粉末((株)キャタラー製、ランタン含有量:1質量%、比表面積:約100m/g)を含有するスラリーを塗布し、大気中、500℃で1時間焼成した。これにより、前記ハニカム状平板上の全面に、アルミナ層が配置されている試験片(以下、「アルミナスラリーコート試験片」という。)を得た。
【0075】
また、前記ハニカム状平板上の全面に、調製例2で得られたFZスラリーを塗布し、大気中、500℃で1時間焼成した。これにより、前記ハニカム状平板上の全面に、FZ層が配置されている試験片(以下、「FZスラリーコート試験片」という。)を得た。
【0076】
各試験片に前記耐熱試験(1)を施した後、触媒層を掻きとって回収し、得られた触媒粉末について粉末X線回折測定を行なった。その結果を図8に示す。図8に示したように、混合スラリーコート試験片においては、FeAlに由来するX線回折ピークが見られ、FeとAlが反応してスピネル相(FeAl)が形成していることが確認された。一方、分離コート試験片においては、FZスラリーコート試験片と同様に、Feに由来するX線回折ピークが見られたが、FeAlに由来するX線回折ピークは見られなかった。これらの結果から、FZ+Rh/アルミナ混合層を備えるハニカム状触媒(比較例1:混合スラリーコート)においては、スピネル相(FeAl)が生成してRhが失活し、触媒活性や排ガス浄化性能が低下したと考えられる。一方、分離コート試験片においては、FeAlに由来するX線回折ピークが見られなかったことから、Rhが失活せず、優れた触媒活性や排ガス浄化性能が発現したと考えられる。
【0077】
(実施例2)
FZスラリーの代わりに調製例6で得られたPd/CZ+アルミナ混合スラリーを用いた以外は実施例1と同様にして、図3に示すように、ハニカム状基材の25個のセルの内壁1bの内周方向の約半分の領域に幅が約1.5mmのPd/CZ+アルミナ混合層(触媒A層101A)を形成し、このPd/CZ+アルミナ混合層に対向する残りの領域に幅が約1.5mmのRh/アルミナ層(触媒B層101B)を形成した。これらの分離コート触媒層は、合計コート量が約0.7g(ハニカム状基材1Lに対して約140g/L−cat)であった。また、Pd/CZ+アルミナ混合層とRh/アルミナ層との質量比はPd/CZ+アルミナ:Rh/アルミナ=4:3となるように形成した。
【0078】
(比較例2)
図9に示すように、ハニカム状基材(コージェライト製、基材サイズ:縦10mm×横10mm×長さ49mm、容量:約5ml、セル形状:4角セル、セル数:200セル/インチ、セル厚:12ミル、セルピッチ:1.9mm×1.9mm)の25個のセルの内壁1bの内周方向の約半分の領域にPd/CZ+アルミナ混合層(触媒A層101A)を形成し、このPd/CZ+アルミナ混合層の上にRh/アルミナ層を積層した。これらの積層触媒層は、合計コート量が約0.7g(ハニカム状基材1Lに対して約140g/L−cat)であった。また、Pd/CZ+アルミナ混合層とRh/アルミナ層との質量比はPd/CZ+アルミナ:Rh/アルミナ=4:3となるように形成した。
【0079】
先ず、前記ハニカム状基材を水洗し、乾燥後、大気中、1000℃で3時間焼成した。図4Aに示すように、先端部の外周面の一部に材料吐出口2が設けられている吐出管3(外径:1.07mm、内径:0.69mm)を、前記ハニカム状基材1の一方の端面4からセル1a内に挿入し、先端部が他方の端面5に達するまで移動させた。次に、吐出管3をセル1aの長軸方向に沿って5.0mm/秒の速さで端面5から端面4の方向に移動させ、かつ、セル1a内を吸引しながら、調製例6で得られたPd/CZ+アルミナ混合スラリーを0.03mm/秒の速度でスラリー供給装置6から吐出管3に供給し、吐出管3の先端部の材料吐出口2から吐出させた。このとき、材料吐出口2が吐出管3の先端部の外周面の一部に設けられているため、セルの内壁1bの内周方向の約半分の領域にPd/CZ+アルミナ混合スラリーが塗布され、Pd/CZ+アルミナ混合スラリー層(触媒材料A層)が形成された。この操作を25個のセルについて行い、各セルの内壁1bの内周方向の約半分の領域にPd/CZ+アルミナ混合スラリーを塗布し、Pd/CZ+アルミナ混合スラリー層(触媒材料A層)を形成した。その後、大気中、500℃で1時間焼成することにより、前記ハニカム状基材1のセルの内壁1bの内周方向の約半分の領域に幅が約1.5mmのPd/CZ+アルミナ混合層(触媒A層101A)が形成された。
【0080】
次に、吐出管3を、材料吐出口2の向きを変更せずに、前記ハニカム状基材1の一方の端面4からセル内に挿入し、先端部が他方の端面5に達するまで移動させた。次いで、吐出管3をセル1aの長軸方向に沿って5.0mm/秒の速さで端面5から端面4の方向に移動させ、かつ、セル1a内を吸引しながら、調製例4で得られたRh/アルミナスラリーを0.06mm/秒の速度でスラリー供給装置6から吐出管3に供給し、吐出管3の先端部の材料吐出口2から吐出させた。このとき、材料吐出口2が吐出管3の先端部の外周面の一部に設けられているため、セルの内壁1bの内周方向の前記Pd/CZ+アルミナ混合層の上にRh/アルミナスラリーが塗布され、Rh/アルミナスラリー層(触媒材料B層)が形成された。この操作を25個のセルについて行い、各セルの内壁1bの内周方向の前記Pd/CZ+アルミナ混合層上にRh/アルミナスラリーを塗布し、Rh/アルミナスラリー層(触媒材料B層)を形成した。その後、大気中、500℃で1時間焼成することにより、前記ハニカム状基材1のセルの内壁1bの内周方向の前記Pd/CZ+アルミナ混合層(触媒A層101A)上に幅が約1.5mmのRh/アルミナ層(触媒B層101B)が形成された。これにより、前記ハニカム状基材のセルの内壁1bに幅が約1.5mmのPd/CZ+アルミナ混合層(触媒A層101A)と幅が約1.5mmのRh/アルミナ層(触媒B層101B)とが積層された触媒層が形成された。
【0081】
(比較例3)
FZ+Rh/アルミナ混合スラリーの代わりに調製例8で得られたPd/CZ+Rh/アルミナ混合スラリーを用いた以外は比較例1と同様にして、図5に示すように、ハニカム状基材の25個のセルの内壁1bに、2本のPd/CZ+Rh/アルミナ混合層(混合触媒層104A及び104B)を、これらの層が対向するように形成した。これらの混合触媒層は、合計コート量が約0.7g(ハニカム状基材1Lに対して約140g/L−cat)であった。また、混合層中のPd/CZとRh/アルミナとの質量比はPd/CZ:Rh/アルミナ=4:3となるように形成した。
【0082】
<耐熱試験(2)>
内径約30mmの反応管に、実施例2及び比較例2〜3で得られたハニカム状触媒を同時に4本装着した。このとき、反応管に導入されるガスがハニカム状触媒内を十分に流通するように、反応管とハニカム状触媒との間の隙間を石英ウールで充填した。リッチガス〔CO(1容量%)+HO(3容量%)+N(残部)〕とリーンガス〔O(1容量%)+HO(3容量%)+N(残部)〕を20L/分で1分毎に交互に流通させながら、前記反応管を1050℃で10時間加熱して、ハニカム状触媒に耐熱試験を施した。
【0083】
<酸素貯蔵量(OSC)>
耐熱試験(2)後のハニカム状触媒を1種類ずつ装着した内径15mmの反応管に、触媒入りガス温度600℃で、リッチガス〔CO(2容量%)+N(残部)〕を15L/分で1分間流通させた後、リーンガス〔O(1容量%)+N(残部)〕を15L/分で1分間流通させた。この操作を4回繰り返し、触媒入りガス中のCO量を100として後半2回(2周期)の合計4分間の触媒出ガス中のCO量を求め、これを酸素吸蔵量(OSC)の相対値として評価した。その結果を表2に示す。
【0084】
<NOの平均浄化率>
耐熱試験(2)後のハニカム状触媒を1種類ずつ装着した内径15mmの反応管に、触媒入りガス温度500℃、流量15L/分、空間速度18万/時間の条件で、定常ガス〔CO(0.65容量%)+NO(0.15容量%)+HO(5容量%)+CO(10容量%)+N(残部)〕を流通させながら、リッチガス〔O(0容量%)〕を3分間流通させた後、リーンガス〔O(0.65容量%)〕を3分間流通させた。この操作を繰り返し、安定した周期の次の周期のリッチガス流通開始から100秒間の触媒入りガス及び触媒出ガス中のNOの平均濃度を測定してNOの平均浄化率を算出した。その結果を表2に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
表2に示した結果から明らかなように、Pd/CZ+アルミナ混合層とRh/アルミナ層とをセルの内壁に内周方向に分離して形成した本発明のハニカム状触媒(実施例2:分離コート)は、Pd/CZ+アルミナ混合層とRh/アルミナ層とが積層されたハニカム状触媒(比較例2:積層コート)に比べて、酸素貯蔵能に優れていることがわかった。
【0087】
また、表2に示した結果から明らかなように、Pd/CZ+アルミナ混合層とRh/アルミナ層とをセルの内壁に内周方向に分離して形成した本発明のハニカム状触媒(実施例2:分離コート)は、2本のPd/CZ+Rh/アルミナ混合層を対向するようにセルの内壁に形成したハニカム状触媒(比較例3:混合スラリーコート)に比べて、NOの平均浄化率が高く、排ガス浄化性能に優れていることがわかった。
【0088】
以上の結果から、ハニカム状基材のセルの内壁にFZ層とRh/アルミナ層とを、又は、Pd/CZ+アルミナ混合層とRh/アルミナ層とを、分離して配置することによって、高温で熱処理を施してもFeとAlとの反応やRhとPdやCZとの固溶や反応を抑制することができ、Rhの失活が抑制されることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
以上説明したように、本発明によれば、複数の触媒材料を併用した触媒層を備えており、従来の複数の触媒材料を混合して形成された混合触媒層を備えるハニカム状触媒に比べて優れた触媒性能を示すハニカム状触媒を得ることが可能となる。特に、混合した場合に一部の触媒性能が低下するような触媒材料の組み合わせに対して本発明を適用することによって前記触媒性能の低下を抑制することが可能となる。例えば、混合した場合に触媒活性は向上するものの、耐熱性が低下するような触媒材料の組み合わせに対して本発明を適用することによって、触媒活性が向上するだけでなく、耐熱性の低下を抑制する(又は耐熱性を向上させる)ことが可能となる。
【0090】
したがって、本発明のハニカム状触媒は、ガソリン車用の三元触媒、吸蔵還元型のNOx浄化用触媒、フロースルー貫通孔を有するガソリン車用の粒子状物質(パーティキュレート)浄化用触媒、片端ずつ交互に端面が目づめされたフィルター型のディーゼル車用の粒子状物質(パーティキュレート)浄化用触媒、HC及びCO浄化用触媒、燃料改質触媒、燃料電池用触媒、都市ガスや水素燃料用触媒等の、2種以上の触媒材料を併用する触媒において有用である。
【符号の説明】
【0091】
1:ハニカム状基材、1a:ハニカム状基材1のセル、1b:ハニカム状基材1の内壁、2:材料吐出口、3:吐出管、4:ハニカム状基材の、吐出管3が挿入される側の端面、5:ハニカム状基材の端面4とは反対側の端面、6.材料供給装置、101A:触媒A層、101B:触媒B層、101C:触媒C層、101D:触媒D層、102A:触媒材料A層、102B:触媒材料B層、103A:除去された余分な触媒材料A、103B:除去された余分な触媒材料B、104A及び104B:混合触媒層、105A:FZ層、105B:アルミナ層。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図1H
図1I
図1J
図1K
図1L
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
図6
図7
図8
図9