(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
(燃料電池システム100)
図1及び
図2は、燃料電池システム100の斜視図である。燃料電池システム100は、複数の燃料電池1、燃料マニホールド2、発電用空気マニホールド3、及び冷却用空気マニホールド4を備える。
【0011】
(燃料電池1)
複数の燃料電池1は、配列方向に沿って一列に並べられる。各燃料電池1は、略等間隔で略平行に配置される。複数の燃料電池1は、各燃料電池1の主面が互いに対向するように配置される。各燃料電池1の基端部11は、燃料マニホールド2に固定される。各燃料電池1の先端部12は、自由端である。このように、各燃料電池1は、燃料マニホールド2によって片持ち状態で支持される。
【0012】
各燃料電池1は、平板状に形成される。各燃料電池1は、いわゆる横縞型の固体酸化物型燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)である。各燃料電池1は、燃料極、固体電解質膜、及び空気極によって構成される少なくとも1つの発電部を有する。各燃料電池1が複数の発電部を有する場合、複数の発電部は、燃料電池1の長手方向に沿って配置することができる。発電部の個数及びサイズは、燃料電池1のサイズに応じて適宜変更できる。
【0013】
各燃料電池1の内部には、複数の燃料ガス流路10aが形成される。各燃料ガス流路10aは、各燃料電池1の長手方向に沿って延びる。各燃料ガス流路10aは、各燃料電池1の長手方向両端面で開口している。各燃料ガス流路10aは、支持基板10の短手方向において略等間隔で略平行に形成される。燃料電池スタック100の発電時、各燃料ガス流路10aには、燃料マニホールド2から燃料ガスが供給される。本実施形態では、各燃料電池1に5本の燃料ガス流路10aが形成されているが、燃料ガス流路10aの本数は適宜変更できる。
【0014】
複数の燃料電池1は、中央部燃料電池1aと、中央部燃料電池1aの配列方向両側に配置された端部燃料電池1b,1bとを含む。
【0015】
中央部燃料電池1aは、複数の燃料電池1のうち配列方向中央とその近傍に配置された燃料電池1を意味する。具体的には、配列方向中央を中心として、配列方向における複数の燃料電池1の全長の1/3程度の領域に配置された燃料電池1を、中央部燃料電池1aとすることができる。
図1に示すように、本実施形態では、3個の燃料電池1が中央部燃料電池1aとされているが、中央部燃料電池1aの個数は、複数の燃料電池1の全長と各燃料電池1のサイズに応じて適宜変更できる。
【0016】
端部燃料電池1b,1bは、配列方向において中央部燃料電池1aの両側に配置される。端部燃料電池1b,1bは、複数の燃料電池1のうち配列方向両端とその近傍に配置された燃料電池1を意味する。具体的には、配列方向両端から複数の燃料電池1の全長の1/3程度までの領域に配置された燃料電池1を、端部燃料電池1bとすることができる。
図1に示すように、本実施形態では、3個の中央部燃料電池1aの両側に配置された4個の燃料電池1が端部燃料電池1bとされているが、端部燃料電池1bの個数は、複数の燃料電池1の全長と各燃料電池1のサイズに応じて適宜変更できる。
【0017】
ここで、燃料電池スタック100の発電時に、各燃料電池1は、燃料電池1自身のジュール熱や反応熱により熱エネルギーを放出する。端部燃料電池1b,1bは隣接する燃料電池1が少ないため、端部燃料電池1b,1bからの熱エネルギーが外部に放散されやすいのに対して、中央部燃料電池1aの両側には多数の燃料電池1が配置されているため、中央部燃料電池1aからの熱エネルギーは外部に放散されにくい。従って、中央部燃料電池1aは、端部燃料電池1b,1bに比べて高温になりやすい。
【0018】
(燃料マニホールド2)
燃料マニホールド2は、各燃料電池1に燃料ガス(水素ガス)を分配するように構成されている。燃料マニホールド2は、中空状であり、内部空間を有する。燃料マニホールド2の内部空間には、燃料ガス配管2aを介して燃料ガス供給源から燃料ガスが供給される。燃料マニホールド2は、例えば、ステンレス鋼等で構成できる。
【0019】
燃料マニホールド2の天板には複数の貫通孔2bが形成されており、各貫通孔2bには各燃料電池1の基端部11が挿入される。各燃料電池1の基端部11は、接合材(例えば、結晶化ガラスなど)によって貫通孔2bに固定される。結晶化ガラスとしては、例えば、SiO
2−B
2O
3系、SiO
2−CaO系、又はSiO
2−MgO系を用いることができる。
【0020】
(発電用空気マニホールド3)
発電用空気マニホールド3は、各燃料電池1の第1側S1に配置される。発電用空気マニホールド3は、各燃料電池1の一方の側面と対向する。発電用空気マニホールド3は、燃料電池1の配列方向と直交する短手方向において、各燃料電池1から所定間隔離れた位置に配置される。
【0021】
発電用空気マニホールド3は、各燃料電池1に空気(酸化剤ガス)を分配するように構成される。発電用空気マニホールド3は、発電に必要十分な量の空気を各燃料電池1の空気極に供給する機能を有する。
【0022】
発電用空気マニホールド3は、中空状であり、内部空間を有する。発電用空気マニホールド3の内部空間には、空気配管3aを介して空気供給源から空気が供給される。発電用空気マニホールド3は、例えば、ステンレス鋼等で構成できる。
【0023】
発電用空気マニホールド3は、中央部燃料電池1aと端部燃料電池1b,1bとを含む全ての燃料電池1に向かって開口する発電用空気流出孔3bを有する。発電用空気流出孔3bは、各燃料電池1の基端部11に向かって開口している。発電用空気流出孔3bは、燃料電池1の配列方向に沿って延びる単一の長孔である。発電用空気流出孔3bから流出する空気は、各燃料電池1の間を通って、各燃料電池1の先端部12側に向かって上昇する。
【0024】
(冷却用空気マニホールド4)
冷却用空気マニホールド4は、各燃料電池1の第2側S2に配置される。冷却用空気マニホールド4は、各燃料電池1を挟んで、発電用空気マニホールド3の反対側に配置される。冷却用空気マニホールド4は、各燃料電池1の他方の側面と対向する。冷却用空気マニホールド4は、燃料電池1の配列方向と直交する短手方向において、各燃料電池1から所定間隔離れた位置に配置される。
【0025】
冷却用空気マニホールド4は、3個の中央部燃料電池1aに空気を送ることによって、3個の中央部燃料電池1aを冷却するように構成される。すなわち、冷却用空気マニホールド4は、発電用空気マニホールド3とは異なり、端部燃料電池1b,1bよりも高温になりやすい中央部燃料電池1aを効果的に冷却する機能を有する。ただし、冷却用空気マニホールド4から中央部燃料電池1aに供給される空気は、中央部燃料電池1aにおける発電にも用いられ得る。
【0026】
冷却用空気マニホールド4は、中空状であり、内部空間を有する。冷却用空気マニホールド4の内部空間には、空気配管4aを介して空気供給源から空気が供給される。冷却用空気マニホールド4は、例えば、ステンレス鋼等で構成できる。
【0027】
冷却用空気マニホールド4は、3個の中央部燃料電池1aに向かって開口する冷却用空気流出孔4bを有する。冷却用空気流出孔4bは、各中央部燃料電池1aの基端部11に向かって開口している。冷却用空気流出孔4bは、燃料電池1の配列方向に沿って延びる単一の長孔である。冷却用空気流出孔4bから流出する空気は、3個の中央部燃料電池1aの間を通って、各中央部燃料電池1aの先端部12側に向かって上昇する。
【0028】
ここで、燃料電池1の配列方向において、発電用空気流出孔3bの長さL1は、冷却用空気流出孔4bの長さL2より長い。すなわち、燃料電池1の配列方向において、冷却用空気流出孔4bの長さL2は、発電用空気流出孔3bの長さL1より短い。
【0029】
冷却用空気流出孔4bの長さL2は、発電用空気流出孔3bの長さL1の0.1倍以上であることが好ましい。これによって、冷却用空気流出孔4bから十分な量の空気を中央部燃料電池1aに供給することで、中央部燃料電池1aの高温化をより抑制できるため、中央部燃料電池1aにおける電極破損をより抑制することができる。
【0030】
また、冷却用空気流出孔4bの長さL2は、発電用空気流出孔3bの長さL1の0.5倍以下であることが好ましい。これによって、冷却用空気流出孔4bから流出する空気を中央部燃料電池1aだけでなく端部燃料電池1b、1bにも追加的に供給できるため、端部燃料電池における発電性能をより向上できる。
【0031】
なお、発電用空気流出孔3bの長さL1は、複数の燃料電池1の全長の90%以上が好ましく、95%以上がより好ましい。冷却用空気流出孔4bの長さL2は、複数の燃料電池1の全長の5%以上60%以下が好ましく、7%以上55%以下がより好ましい。
【0032】
(作用及び効果)
図3は、各燃料電池1へ空気が供給される様子を模式的に示す図である。
【0033】
発電用空気マニホールド3の発電用空気流出孔3bから流出した空気は、第1側S1から各燃料電池1に供給され、各燃料電池1における発電に利用される。
【0034】
また、冷却用空気マニホールド4の冷却用空気流出孔4bから流出した空気は、第2側S2から3個の中央部燃料電池1aに供給され、各燃料電池1における発電に利用されるとともに、各中央部燃料電池1aの冷却に利用される。
【0035】
そのため、発電用空気流出孔3bから適量の空気を各燃料電池1に供給しながら、冷却用空気流出孔4bから流出する空気によって中央部燃料電池1aを冷却することができる。従って、中央部燃料電池1aと端部燃料電池1b,1bとの温度差を低減させることができるため、中央部燃料電池1aの燃料ガス流路10aを流れる燃料ガスの粘度が高くなり流量が少なくなってしまうことを抑制できる。その結果、中央部燃料電池1aで燃料ガスが不足することを抑えられるため、各発電部の電極(特に、燃料極)の破損を抑制することができる。
【0036】
(他の実施形態)
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で種々の変形又は変更が可能である。
【0037】
上記実施形態において、複数の燃料電池1は、3個の中央部燃料電池1aを含むこととしたが、中央部に少なくとも1個の中央部燃料電池1aを含んでいればよい。この場合であっても、少なくとも1個の中央部燃料電池1aにおいて、電極の破損を抑制することができる。
【0038】
上記実施形態において、冷却用空気マニホールド4は、全ての燃料電池1の側面と対向することとしたが、
図4に示すように、冷却用空気マニホールド4は、少なくとも中央部燃料電池1aの側面と対向していればよい。
【0039】
上記実施形態において、発電用空気マニホールド3の発電用空気流出孔3bは、各燃料電池1の基端部11と対向することとしたが、これに限られるものではない。発電用空気流出孔3bは、基端部11だけでなく、基端部11と先端部12との間の中央部とも対向していてもよい。
【0040】
上記実施形態において、冷却用空気マニホールド4の冷却用空気流出孔4bは、各中央部燃料電池1aの基端部11と対向することとしたが、これに限られるものではない。冷却用空気流出孔4bは、各中央部燃料電池1aの基端部11だけでなく、基端部11と先端部12との間の中央部とも対向していてもよい。
【0041】
上記実施形態において、発電用空気マニホールド3は、燃料電池1の配列方向に沿って延びる発電用空気流出孔3bを1つだけ有することとしたが、これに限られるものではない。発電用空気マニホールド3は、上下に並べられた2つ以上の発電用空気流出孔3bを有していてもよい。
【0042】
上記実施形態において、冷却用空気マニホールド4は、燃料電池1の配列方向に沿って延びる冷却用空気流出孔4bを1つだけ有することとしたが、これに限られるものではない。冷却用空気マニホールド4は、上下に並べられた2つ以上の冷却用空気流出孔4bを有していてもよい。
【0043】
上記実施形態において、発電用空気マニホールド3の発電用空気流出孔3bは、全ての燃料電池1に向かって開口することとしたが、これに限られるものではない。発電用空気流出孔3bから必要十分な量の空気が供給される限り、発電用空気流出孔3bは、複数の燃料電池1のうち配列方向両端付近の燃料電池1と対向していなくてもよい。
【実施例】
【0044】
以下において本発明に係る燃料電池システムの実施例について説明するが、本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0045】
(サンプルNo.1〜No.10の作製)
以下のようにして、
図1〜3に示した構成を有する燃料電池システムを作製した。
【0046】
まず、集電部材を介して互いに接続された30枚の燃料電池(長さ250mm×幅100mm×厚み3mm)を準備して、各燃料電池の基端部を燃料マニホールドに結晶化ガラスで固定した。各燃料電池には、第1主面に配置された10個の発電部と第2主面に配置された10個の発電部とを有する周知の横縞型固体酸化物型燃料電池を用いた。配列方向における30枚の燃料電池の全長は、177mmであった。
【0047】
次に、各燃料電池の短手方向における第1側に発電用空気マニホールドを配置し、各燃料電池の短手方向における第2側に冷却用空気マニホールドを配置した。
【0048】
発電用空気マニホールドの発電用空気流出孔は、30個の燃料電池それぞれの基端部に向かって開口する長孔である。発電用空気マニホールドの発電用空気流出孔の配列方向における長さL1は、表1に示すとおり175mmに統一した。
【0049】
冷却用空気マニホールドの冷却用空気流出孔は、30個の燃料電池のうち中央部に配置された中央部燃料電池それぞれの基端部に向かって開口する長孔である。冷却用空気マニホールドの冷却用空気流出孔の配列方向における長さL2は、表1に示すとおり、サンプルごとに変更した。
【0050】
(サンプルNo.11の作製)
サンプルNo.11では、冷却用空気マニホールドを配置しなかった以外は、サンプルNo.1〜No.10と同じ構成の燃料電池システムとした。
【0051】
なお、サンプルNo.11において、発電用空気マニホールドの発電用空気流出孔の配列方向における長さL1は、表1に示すとおり、サンプルNo.1〜No.10と同じ175mmとした。
【0052】
(燃料電池の発電性能及び温度の測定)
各サンプルの燃料マニホールドに窒素ガスを供給し、かつ、各空気マニホールドに空気を供給しながら750℃まで昇温し、750℃に達した時点で燃料マニホールドに水素ガスを3時間供給することによって燃料電池を還元処理した。その後、各サンプルについて、温度750℃、電流密度0.2A/cm
2における燃料利用率を測定した。
【0053】
表1では、燃料利用率85%以上で運転できたサンプルを「◎」、燃料利用率80%以上85%未満で運転できたサンプルを「○」、燃料利用率80%未満での運転に止まったサンプルを「×」と評価した。
【0054】
(中央部燃料電池の発電部における電極破損)
上記温度測定の後、燃料電池システムの作動を停止して、各サンプルから中央部燃料電池を取り出した。そして、中央部燃料電池の各発電部における電極破損の有無を観察した。観察結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表1に示すように、燃料電池の第1側に発電用空気マニホールドを配置し、かつ、燃料電池の第2側に冷却用空気マニホールドを配置したサンプルNo.1〜No.10では、燃料電池の第2側に冷却用空気マニホールドを配置しなかったサンプルNo.11に比べて、中央部燃料電池における電極破損を抑制するとともに、良好な燃料利用率で運転できた。このような結果が得られたのは、サンプルNo.1〜No.10では、冷却用空気マニホールドを利用することによって、各燃料電池に適量の空気を供給しながら、各燃料電池の温度差を低減できたためである。
【0057】
また、表1に示すように、冷却用空気マニホールドの冷却用空気流出孔の長さL2を発電用空気マニホールドの発電用空気流出孔の長さL1の0.1倍以上としたサンプルNo.3〜No.10では、サンプルNo.1,2に比べて、中央部燃料電池における電極破損をより抑制することができた。このような結果が得られたのは、サンプルNo.3〜No.10では、冷却用空気流出孔から十分な量の空気を中央部燃料電池に供給することによって、中央部燃料電池の高温化をより抑制できたためである。
【0058】
また、表1に示すように、冷却用空気マニホールドの冷却用空気流出孔の長さL2を発電用空気マニホールドの発電用空気流出孔の長さL1の0.5倍以下としたサンプルNo.1〜No.8では、サンプルNo.9,10に比べて、良好な燃料利用率で運転できた。このような結果が得られたのは、サンプルNo.1〜No.8では、冷却用空気流出孔から流出する空気を中央部燃料電池だけでなく端部燃料電池にも追加的に供給することによって、端部燃料電池における発電性能をより向上できたためである。
【0059】
なお、本実施例では、30枚の燃料電池を備える燃料電池システムにおいて、冷却用空気マニホールドを設けることの効果を確認したが、燃料電池の枚数を10枚、20枚、50枚に変更した各燃料電池システムにおいても、上記と同じ効果が確認された。