【文献】
ORTEL, E. et al,Mesoporous IrO2 Films Templated by PEO-PB-PEO Block-Copolymers: Self-Assembly, Crystallization Behavior, and Electrocatalytic Performance,Chem. Mater.,2011年 6月 6日,Vol.23, No.13,p.3201-3209,DOI:10.1021/cm200761f
【文献】
NAKAGAWA, T. et al,Efficient Electro-Oxidation of Water near Its Reversible Potential by a Mesoporous IrOx Nanoparticle Film,J. Phys. Chem. C,2009年 7月 7日,Vol.113, No.30,p.12958-12961,DOI:10.1021/jp9060076
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
(メソポーラス酸化イリジウムの製造方法)
本発明のメソポーラス酸化イリジウムの製造方法は、酸化イリジウム前駆体溶液調製工程と、気化工程と、を少なくとも含み、更に焼成工程を含むことが好ましく、必要に応じて、更にその他の工程を含む。
【0017】
<酸化イリジウム前駆体溶液調製工程>
前記酸化イリジウム前駆体溶液調製工程は、下記一般式(1)で表される共重合体と、ヘキサクロロイリジウム酸及びその塩の少なくともいずれかと、水とを混合し、酸化イリジウム前駆体溶液を調製する工程である。
H−(OCH
2CH
2)
x−(OCH(CH
3)CH
2)
y−(OCH
2CH
2)
z−OH ・・・一般式(1)
ただし、xは、97〜106の整数を表し、yは、65〜70の整数を表し、zは、97〜106の整数を表す。
【0018】
<<酸化イリジウム前駆体溶液>>
前記酸化イリジウム前駆体溶液は、前記一般式(1)で表される共重合体と、ヘキサクロロイリジウム酸及びその塩の少なくともいずれかと、水とを少なくとも含み、必要に応じて、更にその他の成分を含む。
【0019】
−一般式(1)で表される共重合体−
前記一般式(1)で表される共重合体としては、疎水性領域と親水性領域とを有する共重合体である限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、xが100、yが65、zが100の共重合体であることが好ましい。
前記一般式(1)で表される共重合体は、市販品を用いてもよく、適宜合成したものを用いてもよい。前記市販品の具体例としては、Pluronic(登録商標) F−127(ノニオン系両親媒性界面活性剤、x=100、y=65、z=100、SIGMA−Aldrich製)などが挙げられる。
【0020】
前記酸化イリジウム前駆体溶液における前記一般式(1)で表される共重合体の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、38.5質量%〜79.1質量%が好ましく、76.9質量%〜77.3質量%がより好ましい。前記一般式(1)で表される共重合体の含有量が、38.5質量%未満であると、ミセルを形成しないことがある。
【0021】
−ヘキサクロロイリジウム酸及びその塩の少なくともいずれか−
前記ヘキサクロロイリジウム酸塩における塩としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、カリウム塩が特に好ましい。
【0022】
前記酸化イリジウム前駆体溶液における前記ヘキサクロロイリジウム酸及びその塩の少なくともいずれかの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10.6質量%〜32.2質量%が好ましく、19.2質量%〜22.2質量%がより好ましい。
【0023】
−水−
前記水としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、蒸留水、イオン交換水などが挙げられる。
前記酸化イリジウム前駆体溶液が、水を含むことにより、前記一般式(1)で表される共重合体が、
図1に示すような棒状のミセルを形成する。これにより、メソポーラス酸化イリジウムが効率よく製造される。
【0024】
−その他の成分−
前記酸化イリジウム前駆体溶液中の前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
前記酸化イリジウム前駆体溶液中の前記その他の成分の含有量としては、本発明の効果を妨げない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0026】
−−酸化イリジウム前駆体溶液の調製方法−−
前記酸化イリジウム前駆体溶液の調製方法としては、前記一般式(1)で表される共重合体と、前記ヘキサクロロイリジウム酸及びその塩の少なくともいずれかと、前記水とを混合することができれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0027】
前記一般式(1)で表される共重合体と、前記ヘキサクロロイリジウム酸及びその塩の少なくともいずれかと、前記水との混合順序としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0028】
前記混合は、攪拌により行うことができる。攪拌方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、マグネチックスターラーを用いる方法、攪拌機を用いる方法、手動で攪拌する方法などが挙げられる。
【0029】
前記酸化イリジウム前駆体溶液を調製する際の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0℃〜90℃が好ましく、20℃〜40℃がより好ましく、20℃〜25℃が特に好ましい。前記温度が、0℃未満であると、溶媒(水)が凍結することがあり、90℃を超えると、酸化イリジウムコロイドが形成することがある。
【0030】
前記酸化イリジウム前駆体溶液を調製する際の混合時間(攪拌時間)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10分間〜30分間が好ましく、15分間〜20分間がより好ましい。前記混合時間が、10分間未満であると、溶解しないことがある。
【0031】
以上のようにして、酸化イリジウム前駆体を含む酸化イリジウム前駆体溶液を調製することができる。
なお、本発明において、酸化イリジウム前駆体とは、水酸化イリジウム(IV)((Ir(OH)
6)
2−)を意味する。
【0032】
前記酸化イリジウム前駆体溶液中の酸化イリジウム前駆体の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、6.5質量%〜19.6質量%が好ましく、11.7質量%〜13.5質量%がより好ましい。
【0033】
<気化工程>
前記気化工程は、前記酸化イリジウム前駆体溶液から前記水の少なくとも一部を気化させてメソポーラス酸化イリジウムを得る工程である。前記気化工程により、
図1に示すように、前記一般式(1)で表される共重合体の親水性領域の周囲に前記酸化イリジウムが規則的に配列され、これによりメソポーラス構造を有する酸化イリジウムが得られる。
【0034】
前記気化工程において、前記水の少なくとも一部を気化させる際の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、60℃〜100℃が好ましく、80℃〜90℃がより好ましい。前記温度が、60℃未満であると、溶媒が蒸発しないことがある。
【0035】
また、前記気化工程は、前記酸化イリジウム前駆体溶液から前記水の少なくとも一部を気化することができれば、特に制限はなく、減圧下で行われてもよい。
【0036】
前記気化工程では、前記メソポーラス酸化イリジウムを形成することができる限り、必ずしも前記酸化イリジウム前駆体溶液から完全に水を気化させる(乾固させる)必要はない。前記気化工程後の前記酸化イリジウム前駆体溶液の水分含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5質量%未満が好ましく、3質量%未満がより好ましい。
【0037】
<焼成工程>
前記焼成工程は、前記メソポーラス酸化イリジウムを530℃以下の温度で焼成する工程である。前記焼成工程は、前記気化工程の後に行われる。
前記焼成工程を行うことにより、安定にメソポーラス構造を形成することができ、また、メソポーラス構造における細孔間距離を制御することができるため、表面積を制御できる点で好ましい。
【0038】
前記焼成工程における焼成温度としては、530℃以下であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、300℃〜530℃が好ましく、350℃〜530℃がより好ましく、400℃〜500℃が特に好ましい。前記焼成温度が、300℃未満であると、メソポーラス構造における細孔間距離が大きくなり、水の酸化触媒として使用する場合に十分な触媒活性が得られないこと、メソポーラス酸化イリジウムを水中で使用する場合に該メソポーラス酸化イリジウムが溶解してしまうことなどがあり、530℃を超えると、メソポーラス構造が破壊されてしまうことがある。
【0039】
前記焼成工程を行う条件としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、窒素雰囲気及び/又は酸素雰囲気で行うことが好ましい。前記焼成工程を窒素雰囲気で行うことにより、前記一般式(1)で表される共重合体が分解しないため、メソポーラス構造を保持したまま焼成することができる。また、前記焼成工程を酸素雰囲気で行うことにより、前記一般式(1)で表される共重合体の分解が促進することができる。これらの中でも、前記焼成工程は、前記窒素雰囲気、次いで、前記酸素雰囲気で行うことが特に好ましい。窒素雰囲気下のみで焼成を行うと、前記一般式(1)で表される共重合体が分解されず、メソポーラス酸化イリジウムを形成できないことがある。また、酸素雰囲気下のみで焼成を行うと、前記一般式(1)で表される共重合体の分解が促進され、メソポーラス構造を保持することができないことがある。したがって、前記焼成工程を、まず窒素雰囲気下で行い、メソポーラス構造を保持したまま昇温し、次いで、酸素雰囲気下に切り替えることで、メソポーラス構造を保持したまま前記一般式(1)で表される共重合体が分解され、メソポーラス酸化イリジウムを好適に形成することができる点で有利である。
【0040】
前記焼成工程における焼成時間としては、特に制限はなく、前記反応温度や、出発物質の添加量などに応じて適宜選択することができるが、4時間〜5時間が好ましい。
これらの中でも、前記焼成時間は、窒素雰囲気で、1時間〜2時間が好ましく、1時間〜1.5時間がより好ましい。
また、酸素雰囲気で、2時間〜4時間が好ましく、2.5時間〜3時間がより好ましい。前記酸素雰囲気での焼成時間が、2時間未満であると、前記一般式(1)で表される共重合体が完全に分解されないことがある。
【0041】
<その他の工程>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、予備焼成工程などが挙げられる。
【0042】
<<予備焼成工程>>
前記予備焼成工程は、前記気化工程の後、前記焼成工程の前に、前記気化工程で得られたメソポーラス酸化イリジウムを前記好ましい焼成温度まで昇温する工程である。
前記気化工程で得られたメソポーラス酸化イリジウムを急激に昇温すると、メソポーラス構造を保持できないことがあるため、前記予備焼成工程により徐々に昇温することで、メソポーラス構造を安定に保持したまま昇温できる点で有利である。
【0043】
前記予備焼成工程における昇温速度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.5℃/分間〜1℃/分間が好ましい。前記昇温速度が、0.5℃/分間未満であると、前記メソポーラス酸化イリジウムの製造に時間がかかり非効率であることがあり、1℃/分間を超えると、メソポーラス構造を保持することができないことがある。
【0044】
(メソポーラス酸化イリジウム)
本発明のメソポーラス酸化イリジウムは、本発明の前記メソポーラス酸化イリジウムの製造方法により製造されるメソポーラス酸化イリジウムである。
前記メソポーラス酸化イリジウムは、その電気化学的特性及び構造上の特徴によって、既知の化合物と明確に区別される新規物質である。
【0045】
本発明において、メソポーラス構造とは、2nm〜50nm程度の細孔が規則的に配列した構造を意味する。
前記メソポーラス酸化イリジウムの細孔間距離としては、2nm〜50nmの範囲内であれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、8.2nm〜15.21nmが好ましい。前記細孔間距離が、2nm未満であると、水の酸化触媒活性が低くなることがある。なお、本発明において、細孔間距離は、隣接する孔と孔との中心間距離を指す。
前記細孔間距離は、小角X線散乱法による分析により確認することができる。
【0046】
<用途>
前記メソポーラス酸化イリジウムは、水の酸化触媒や、電気メッキ、電気合成、電解採取等を行う際のアノード電極の材料などとして好適に使用することができる。
【0047】
(水の酸化触媒)
本発明の水の酸化触媒は、本発明の前記メソポーラス酸化イリジウムを少なくとも含有し、必要に応じて、更にその他の成分を含有する。前記水の酸化触媒は、水から電気化学的に酸素を生成する触媒である。
【0048】
前記水の酸化触媒における前記メソポーラス酸化イリジウムの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。これらの中でも、前記水の酸化触媒は、前記メソポーラス酸化イリジウムのみを含有するものであることが好ましい。
【0049】
前記メソポーラス酸化イリジウムが水の酸化触媒活性を有するか否かは、例えば、サイクリックボルタンメトリー(CV)測定などにより確認することができる。
【0050】
<用途>
前記水の酸化触媒は、エネルギー変換、水素生成などの分野においてアノード触媒などとして、好適に使用することができる。
【0051】
(メソポーラス酸化イリジウム電極)
本発明のメソポーラス酸化イリジウム電極は、導電性基体上に、本発明の前記メソポーラス酸化イリジウムを含有するメソポーラス酸化イリジウム層を少なくとも有し、必要に応じて、更にその他の層を有する。
【0052】
<メソポーラス酸化イリジウム層>
前記メソポーラス酸化イリジウム層は、少なくとも前記メソポーラス酸化イリジウムを含有してなる層であり、更にその他の成分を含んでなるものであってもよい。
【0053】
前記メソポーラス酸化イリジウム層における前記メソポーラス酸化イリジウムの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記メソポーラス酸化イリジウム層は、前記メソポーラス酸化イリジウムのみからなるものであってもよい。
【0054】
前記メソポーラス酸化イリジウム層の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記メソポーラス酸化イリジウム層の厚みは、例えば、光学的手法(エリプソメトリー、光の干渉を利用した分光膜厚計など)、機械的手法(例えば、触診計、AFMなど)を用いることにより測定することができる。
【0055】
<導電性基体>
前記導電性基体の材料としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、金(Au)、白金(Pt)、モリブデン(Mo)、錫(Sn)等の金属材料;ITO(In
2O
3−SnO
2)、酸化錫(SnO
2)、酸化亜鉛(ZnO)にアルミニウム(Al)を添加したZnO:Al等の透明材料などが挙げられる。
また、前記導電性基体は、その表面に、フッ素などがドープされたものであってもよい。
【0056】
<<メソポーラス酸化イリジウム電極の製造方法>>
前記メソポーラス酸化イリジウム電極の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記導電性基体に、前記メソポーラス酸化イリジウム層を形成する材料を成膜する方法などが挙げられる。
【0057】
前記メソポーラス酸化イリジウム層の成膜には、前記メソポーラス酸化イリジウム前駆体溶液を用いることが好ましい。
前記成膜の方法としては、特に制限はなく、公知の方法の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スピンコート法、キャスト法、ディッピング法、インクジェット法などが挙げられる。
【0058】
前記成膜後、これを乾燥させることにより、前記導電性基体上に前記メソポーラス酸化イリジウムが析出され、これにより、前記メソポーラス酸化イリジウム電極が好適に製造される。
【0059】
前記メソポーラス酸化イリジウム前駆体溶液を成膜後に乾燥させる方法としては、前記メソポーラス酸化イリジウムの製造方法における気化工程が適用される。
また、乾燥後は、前記メソポーラス酸化イリジウムの製造方法における焼成工程が適用されることが好ましい。
【0060】
前記メソポーラス酸化イリジウム電極は、表面に、前記メソポーラス酸化イリジウムを有するため、水の酸化触媒活性に優れる点で有利である。
【0061】
<用途>
前記メソポーラス酸化イリジウム電極は、酸素発生用電極として好適に使用することができる。具体的には、所望の水溶液を電解して、陽極で酸素を発生させる反応に好適に用いられる。
【実施例】
【0062】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0063】
(製造例1)
0.1M水酸化ナトリウム水溶液(和光純薬工業株式会社製)0.4mLに、ノニオン系両親媒性界面活性剤(Pluronic(登録商標) F−127、SIGMA−Aldrich製)0.04g及びヘキサクロロイリジウム酸カリウム(和光純薬工業株式会社製)0.01g(0.02mmol)を加え、25℃で15分間撹拌することにより、(Ir(OH)
6)
2−を含む酸化イリジウム前駆体溶液を調製した。
得られた酸化イリジウム前駆体溶液10μLを、フッ素ドープ酸化錫(FTO)電極(旭硝子株式会社製)1cm
2にキャストし、ホットプレート上で、60℃にて15分間乾燥させることにより、酸化イリジウム電極を製造した。
【0064】
(比較製造例1)
製造例1において、ノニオン系両親媒性界面活性剤(Pluronic(登録商標) F−127)を加えなかったこと以外は、製造例1と同様の方法で、酸化イリジウム電極を製造した。
【0065】
(製造例2)
0.1M水酸化ナトリウム水溶液(和光純薬工業株式会社製)0.4mLに、ノニオン系両親媒性界面活性剤(Pluronic(登録商標) F−127、SIGMA−Aldrich社製)0.04g及びヘキサクロロイリジウム酸カリウム(和光純薬工業株式会社製)0.01g(0.02mmol)を加え、25℃で15分間撹拌することにより、(Ir(OH)
6)
2−を含む酸化イリジウム前駆体溶液を調製した。
得られた酸化イリジウム前駆体溶液10μLを、フッ素ドープ酸化錫(FTO)電極(旭硝子株式会社製)1cm
2にキャストし、ホットプレート上で、60℃にて15分間乾燥した。その後、電気炉を用いて窒素雰囲気で昇温速度1℃/分間で300℃まで昇温した後、更に300℃にて、窒素雰囲気で1時間、次いで、酸素雰囲気で3時間焼成して、酸化イリジウム電極を製造した。
【0066】
(比較製造例2)
製造例2において、ノニオン系両親媒性界面活性剤(Pluronic(登録商標) F−127)を加えなかったこと以外は、製造例2と同様の方法で、酸化イリジウム電極を製造した。
【0067】
(製造例3)
製造例2において、昇温速度を、1℃/分間で300℃から、1℃/分間で400℃に変え、続く焼成温度を300℃から、400℃に変えたこと以外は、製造例2と同様の方法で、酸化イリジウム電極を製造した。
【0068】
(比較製造例3)
製造例3において、ノニオン系両親媒性界面活性剤(Pluronic(登録商標) F−127)を加えなかったこと以外は、製造例3と同様の方法で、酸化イリジウム電極を製造した。
【0069】
(製造例4)
製造例2において、昇温速度を、1℃/分間で300℃から、1℃/分間で450℃に変え、続く焼成温度を300℃から、450℃に変えたこと以外は、製造例2と同様の方法で、酸化イリジウム電極を製造した。
【0070】
(比較製造例4)
製造例4において、ノニオン系両親媒性界面活性剤(Pluronic(登録商標) F−127)を加えなかったこと以外は、製造例4と同様の方法で、酸化イリジウム電極を製造した。
【0071】
(製造例5)
製造例2において、昇温速度を、1℃/分間で300℃から、1℃/分間で500℃に変え、続く焼成温度を300℃から、500℃に変えたこと以外は、製造例2と同様の方法で、酸化イリジウム電極を製造した。
【0072】
(比較製造例5)
製造例5において、ノニオン系両親媒性界面活性剤(Pluronic(登録商標) F−127)を加えなかったこと以外は、製造例5と同様の方法で、酸化イリジウム電極を製造した。
【0073】
(比較製造例6)
製造例2において、昇温速度を、1℃/分間で300℃から、1℃/分間で550℃に変え、続く焼成温度を300℃から、550℃に変えたこと以外は、製造例2と同様の方法で、酸化イリジウム電極を製造した。
【0074】
(比較製造例7)
比較製造例6において、ノニオン系両親媒性界面活性剤(Pluronic(登録商標) F−127)を加えなかったこと以外は、比較製造例6と同様の方法で、酸化イリジウム電極を製造した。
【0075】
(試験例1)
<小角X線散乱法による分析>
製造例1〜5、並びに、比較製造例1及び6で製造した酸化イリジウム電極について、小角X線散乱法により、以下の条件で分析した。
[分析条件]
・装置:Rigaku ultra X 1800 Rint 2000
+
・X線源:CuK
α(λ=0.154 nm)
・シャッタータイマー:2時間
【0076】
結果を
図2に示す。
図2より、ノニオン系両親媒性界面活性剤(Pluronic(登録商標) F−127)用いた製造例1〜5の酸化イリジウム電極では、リング状の回折像が観察され、酸化イリジウムにメソポーラス構造が生じたことが確認された。一方、比較製造例1及び6の酸化イリジウム電極では、回折像が認められなかった。
製造例1〜5では、焼成温度が上昇するにつれて回折ピークは高角度側にシフトし、中心間距離dが小さくなることがわかった。即ち、焼成温度が上昇するにつれ、メソポーラス構造の細孔の中心間距離(細孔間距離)が小さくなっていた。比較製造例6の550℃で焼成した場合は、回折ピークは観察されず、メソポーラス構造が破壊されていることがわかった。
【0077】
下記表1に、製造例1〜5の酸化イリジウム電極におけるメソポーラス酸化イリジウムの中心間距離dの結果を示す。
【0078】
【表1】
【0079】
(試験例2)
製造例4又は比較製造例4で製造した酸化イリジウム電極を作用極とし、電解液として、0.1M リン酸バッファー(pH6.9)を用いて、下記条件にて定電位電解を行い、酸素を発生させた。この酸素量を、下記条件にて、ガスクロマトグラフで検出した。
その結果、比較製造例4で製造した酸化イリジウム電極を作用極とした場合と比較して、製造例4で製造した酸化イリジウム電極を作用極とした場合の酸素発生量は、1.32倍以上増加した。
[定電位電解の条件]
・測定器:HZ−3000(北斗電工株式会社製)
・作用電極:製造例4の酸化イリジウム電極又は比較製造例4の酸化イリジウム電極
・対向極:炭素電極
・参照電極:銀/塩化銀電極(Ag/AgCl)
・測定温度:25℃
・印加電圧:1.2V
・電解時間:60分間
[ガスクロマトグラフの条件]
・装置:GC−8A(株式会社島津製作所製)
・カラム:モレキュラーシーブ(内径2mm、長さ2m)(ユニオン昭和株式会社製)
・試料注入口温度:50℃
・検出温度:50℃
・キャリアガス流速:アルゴンガス、50mL/分間
【0080】
(試験例3)
<電気化学測定>
製造例2〜5及び比較製造例2〜7で製造した酸化イリジウム電極を作用極とし、電解液として、0.1M リン酸バッファー(pH6.9)を用いて、サイクリックボルタンメトリー(CV)測定を行った。
[測定条件]
・測定器:HZ−3000(北斗電工株式会社製)
・掃引速度:50mVsec
−1
・作用電極:酸化イリジウム電極
・対極:白金線
・参照電極:銀/塩化銀電極(Ag/AgCl)
・測定温度:25℃
【0081】
CV測定の結果を
図3〜9に示す。製造例2〜5では、比較製造例2〜7と比較して、−0.2V〜0.8Vに観察されるIr(IV)/Vに基づく酸化還元波が大きくなったことから、製造例2〜5におけるメソポーラス酸化イリジウムでは、酸化イリジウムの電気化学的に活性な触媒サイトが増加したことが示唆された。
製造例2〜5及び比較製造例2〜7のいずれの酸化イリジウム電極においても、0.9V vs. Ag/AgCl付近から水の酸化に基づく触媒電流が立ち上がったが、製造例2〜5の1.5V vs. Ag/AgClにおける電流値は、比較製造例2〜7に比べ、1.25倍以上増加した。
また、製造例2〜5の酸化イリジウム電極を用いて1.2Vvs. Ag/AgClで定電位電解を1時間行った時に流れた電荷量は、比較製造例2〜7の酸化イリジウム電極を用いて1.2V vs. Ag/AgClで定電位電解を1時間行った時に流れた電荷量に比べて、1.58倍以上増加した。
これらの結果より、製造例2〜5では、メソポーラス構造が形成されることにより、高い水の触媒活性が得られることがわかった。
【0082】
本発明の態様としては、例えば、以下のものなどが挙げられる。
<1> 下記一般式(1)で表される共重合体と、ヘキサクロロイリジウム酸及びその塩の少なくともいずれかと、水とを混合し、酸化イリジウム前駆体溶液を調製する酸化イリジウム前駆体溶液調製工程と、前記酸化イリジウム前駆体溶液から前記水の少なくとも一部を気化させてメソポーラス酸化イリジウムを得る気化工程と、を少なくとも含むことを特徴とするメソポーラス酸化イリジウムの製造方法である。
H−(OCH
2CH
2)
x−(OCH(CH
3)CH
2)
y−(OCH
2CH
2)
z−OH ・・・一般式(1)
ただし、xは、97〜106の整数を表し、yは、65〜70の整数を表し、zは、97〜106の整数を表す。
<2> メソポーラス酸化イリジウムを530℃以下の温度で焼成する焼成工程を更に含む前記<1>に記載のメソポーラス酸化イリジウムの製造方法である。
<3> 焼成温度が、350℃〜530℃である前記<2>に記載のメソポーラス酸化イリジウムの製造方法である。
<4> 前記<1>から<3>のいずれかに記載のメソポーラス酸化イリジウムの製造方法により製造されることを特徴とするメソポーラス酸化イリジウムである。
<5> 前記<4>に記載のメソポーラス酸化イリジウムを含有し、水の酸化を触媒することを特徴とする水の酸化触媒である。
<6> 導電性基体上に、前記<4>に記載のメソポーラス酸化イリジウムを含有するメソポーラス酸化イリジウム層を有することを特徴とするメソポーラス酸化イリジウム電極である。