(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6313079
(24)【登録日】2018年3月30日
(45)【発行日】2018年4月18日
(54)【発明の名称】封入型金属イオンナノクラスター
(51)【国際特許分類】
A61K 33/26 20060101AFI20180409BHJP
A61K 33/06 20060101ALI20180409BHJP
A61K 33/24 20060101ALI20180409BHJP
A61K 33/32 20060101ALI20180409BHJP
A61K 33/34 20060101ALI20180409BHJP
A61K 33/00 20060101ALI20180409BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20180409BHJP
A61P 3/02 20060101ALI20180409BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20180409BHJP
A61P 13/12 20060101ALI20180409BHJP
【FI】
A61K33/26
A61K33/06
A61K33/24
A61K33/32
A61K33/34
A61K33/00
A61K49/00
A61P3/02
A61P1/04
A61P13/12
【請求項の数】11
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-52476(P2014-52476)
(22)【出願日】2014年3月14日
(65)【公開番号】特開2014-181237(P2014-181237A)
(43)【公開日】2014年9月29日
【審査請求日】2017年1月11日
(31)【優先権主張番号】13/833,279
(32)【優先日】2013年3月15日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】513099555
【氏名又は名称】エルジー バイオナノ,エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】チェン−チン ウー
【審査官】
横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/054376(WO,A2)
【文献】
特表2006−526643(JP,A)
【文献】
特表平11−512706(JP,A)
【文献】
特開2000−239173(JP,A)
【文献】
特表2010−528166(JP,A)
【文献】
特表2002−541218(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00−33/44
A61K49/00
A61P1/00−43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径が2〜500nm、分子量が3500〜1000000ダルトンであり、式X(OH)aYbZcMd(H2O)eを有する金属イオンナノクラスターであって、前記式中、Xは金属カチオンであり、Yは水溶性の塩を形成するアニオンであり、Zは水溶性のリガンドであり、Mは濁り点改変剤であり、aは0.1〜20、bは0〜9、cは0.1〜10、dは0.1〜9、およびeは0〜25であり、
金属カチオンは、Mg(II)、Al(III)、Ca(II)、Cr(III)、Cu(II)、Zn(II)、Mn(II)、Ti(IV)、Fe(II/III)、Co(II)、Ni(II)、Bi(III)、V(V)、La(III)、Mo(VI)、Sr(II)、Zr(IV)またはこれらの組合せであり、
水溶性の塩を形成するアニオンは、フッ化物アニオン、塩化物アニオン、臭化物アニオン、ヨウ化物アニオン、硝酸アニオン、硫酸アニオン、酢酸アニオン、またはこれらの組合せであり、
水溶性のリガンドは、キシリトール、マンニトール、リボース、マンノース、キシロース、ガラクトース、フルクトース、ラクトース、グルコース、イソマルトース、イソマルト、スクロース、マルチトール、トレハロース、アラビノース、ソルビトール、ポリイソマルトース、イソマルトオリゴ糖、デキストリン、デキストラン、フラクトオリゴ糖、またはこれらの組合せであり、
濁り点改変剤は、錯体を形成する多価アニオンであって、クエン酸アニオン、リンゴ酸アニオン、フマル酸アニオン、酒石酸アニオン、乳酸アニオン、シュウ酸アニオン、コハク酸アニオン、アスコルビン酸アニオン、リン酸アニオン、ピロリン酸アニオン、グリセロリン酸アニオン、またはこれらの組合せから選択される多価アニオン、カルボキシル化されたポリオール、カルボキシル化されたポリエーテル、スルホン化された炭水化物、スルホン化されたポリオール、スルホン化されたポリエーテル、リン酸化された炭水化物、リン酸化されたポリオール、リン酸化されたポリエーテル、アミノ酸、水溶性ポリペプチド、水溶性タンパク質、またはこれらの組合せであり、
ナノクラスターは8以下の濁り点を有し、ここで、濁り点とはpH滴定中に沈澱反応が生じるpH点を指す、ナノクラスター。
【請求項2】
粒径が2〜150nmである、請求項1に記載のナノクラスター。
【請求項3】
4.5以下の濁り点を有する、請求項1または2に記載のナノクラスター。
【請求項4】
aは1〜10、bは0〜3、cは1〜6、dは0.1〜6、およびeは0〜10である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のナノクラスター。
【請求項5】
5000〜300000ダルトンの分子量を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のナノクラスター。
【請求項6】
1〜180分の解離速度を有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のナノクラスター。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のナノクラスターを含む組成物であって、3〜11.5のpH値を有し、かつ、キレート化されていないイオン、反応しない水溶性リガンド、および不安定な低分子量イオン錯体を含まない組成物。
【請求項8】
透明な水溶液であるか、または透明な水溶液として再構成可能な水溶性の固形物であって、前記透明な水溶液のpH値は3.5〜9.5である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
疾患を治療するための、または組織画像を検出するための製剤の製造における有効な量の請求項1〜6のいずれか1項に記載のナノクラスターの使用であって、前記疾患はミネラル欠乏症、胃逆流症、または慢性腎不全であり、組織画像は病的組織を正常組織と区別する際に使用される、使用。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか1項に記載のナノクラスターを調製する方法であって、
X、Y、Z、およびOHを含有する水性分散液を提供するステップと、
前記水性分散液のpHを所定値に調整して、pH調整された水性分散液を得るステップと、
pH調整された水性分散液を50〜180℃に加熱してナノクラスターを形成するステップと、
上記のステップのうちいずれかの後でMを添加するステップと
を含み、
Xは金属カチオンであり、Yは水溶性の塩を形成するアニオンであり、Zは水溶性のリガンドであり、Mは濁り点改変剤であり、X:Y:Z:Mの比は、1:0〜9:0.1〜10:0.1〜9である、方法。
【請求項11】
Mが添加されかつナノクラスターが形成された後に、前記ナノクラスターをナノ濾過処理によって収集するステップと、前記ナノクラスターを乾燥させて固形のナノクラスターを形成するステップとをさらに含む、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属イオンナノクラスターに関する。
【背景技術】
【0002】
ミネラル欠乏症の治療に有用な数多くのミネラルは、単に金属イオンとして可溶性であるにすぎず、一般に組織に対して刺激性であって不快な味を有する。金属錯体はこの問題に取り組むために代用されてきた。
【0003】
金属錯体は、通常は高い濁り点(turbidity point)および低い酸解離速度を有し、経口および筋肉内適用に望ましい中性または酸性の条件において不安定である。そのため、金属錯体は典型的には塩基性溶液中で製剤化される。例えば、静脈内経路を介してのみ投与されなければならない鉄スクロース製品であるVenofer(登録商標)は、11程度のpH値を有し、よって飲料、および静脈内注射剤以外の医薬製剤については、不適となっている。
【0004】
中性または酸性の条件において安定な金属錯体を開発することが必要とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第8053470号明細書
【特許文献2】米国特許第8030480号明細書
【特許文献3】米国特許第7674780号明細書
【特許文献4】米国特許第7005531号明細書
【特許文献5】米国特許第7179939号明細書
【特許文献6】米国特許第8263577号明細書
【特許文献7】米国特許第7612109号明細書
【特許文献8】米国特許第7964568号明細書
【特許文献9】米国特許第5624668号明細書
【特許文献10】米国特許第7871597号明細書
【特許文献11】米国特許第7943664号明細書
【特許文献12】米国特許出願公開第2005/0037996号明細書
【特許文献13】米国特許出願公開第2006/0293220号明細書
【特許文献14】米国特許出願公開第2006/0199972号明細書
【特許文献15】米国特許出願公開第2003/0232084号明細書
【特許文献16】米国特許出願公開第2007/0161600号明細書
【特許文献17】米国特許出願公開第2008/0176941号明細書
【特許文献18】米国特許第6599498号明細書
【特許文献19】米国特許第6342257号明細書
【特許文献20】米国特許出願公開第2010/0009901号明細書
【特許文献21】国際公開第2010/007441号
【特許文献22】国際公開第1996/006101号
【特許文献23】中国特許出願公開第1798754号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Biochemical Journal、1996年、第314巻、p.1035−1039
【非特許文献2】Nephrology Dialysis Transplantation、2006年、第21巻、第2号、p.378−382
【非特許文献3】Journal of the American Society of Nephrology、2008年、第19巻、第5号、p.833−834
【非特許文献4】Journal of the American Society of Nephrology、2004年、第15巻、補足第2号、p.S107−S111
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、中性または酸性の条件において安定な金属錯体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、低い濁り点および高い酸解離速度を有する安定な金属イオンナノクラスターの発見に基づいている。
1つの態様では、本発明は、粒径が2〜500nm(例えば2〜150nmおよび2〜80nm)、分子量が3500〜1000000ダルトン(例えば5000〜300000ダルトンおよび10000〜180000ダルトン)、濁り点が8以下(例えば7以下および4.5以下)、ならびに解離速度が1〜180分(例えば1〜60分)である金属イオンナノクラスターを特徴とする。濁り点とは、pH滴定中に沈澱反応が生じるpH点を指す。解離速度とは、0.75MのHCl水溶液中で37℃にて撹拌中にナノクラスターの75%超が遊離金属イオンへと解離するのに必要な時間を指す。
【0009】
本発明の金属イオンナノクラスターは、
X(OH)
aY
bZ
cM
d(H
2O)
e
の式を有する。
【0010】
Xは金属カチオンである。例としては、限定するものではないが、Cr、Al、Bi、Zn、Ba、Cu、Ti、Mg、Mn、Pt、Ca、Se、In、Fe、Co、Ni、V、La、Mo、Sr、Zrのカチオン、およびこれらの組合せが挙げられる。好ましくは、金属カチオンは、Mg(II)、Al(III)、Ca(II)、Cr(III)、Cu(II)、Zn(II)、Mn(II)、Ti(IV)、Fe(II/III)、Co(II)、Ni(II)、Bi(III)、V(V)、La(III)、Mo(VI)、Sr(II)、Zr(IV)またはこれらの組合せである。Yは水溶性の塩を形成するアニオンであり、無機アニオンであっても有機アニオンであってもよい。例としては、限定するものではないが、フッ化物アニオン、塩化物アニオン、臭化物アニオン、ヨウ化物アニオン、硝酸アニオン、硫酸アニオン、酢酸アニオン、およびこれらの組合せが挙げられる。好ましくは、該アニオンは、塩化物アニオン、硝酸アニオン、硫酸アニオン、酢酸アニオン、またはこれらの組合せである。Zは水溶性のリガンドである。例としては、限定するものではないが、炭水化物、水素化炭水化物、加水分解された炭水化物、ポリオール、ポリエーテル、およびこれらの組合せが挙げられる。好ましくは、該リガンドは、キシリトール、マンニトール、リボース、マンノース、キシロース、ガラクトース、フルクトース、ラクトース、グルコース、イソマルトース、イソマルト、スクロース、マルチトール、トレハロース、アラビノース、ソルビトール、ポリイソマルトース、イソマルトオリゴ糖、デキストリン、デキストラン、フラクトオリゴ糖、またはこれらの組合せである。Mは濁り点改変剤である。例としては、限定するものではないが、錯体を形成する多価アニオン、酸化された炭水化物(例えばグルコン酸、グルコン酸ナトリウム、およびグルコン酸エステル)、カルボキシル化されたポリオール、カルボキシル化されたポリエーテル、スルホン化された炭水化物、スルホン化されたポリオール、スルホン化されたポリエーテル、リン酸化された炭水化物、リン酸化されたポリオール、リン酸化されたポリエーテル、アミノ酸、水溶性ポリペプチド、水溶性タンパク質、およびこれらの組合せが挙げられる。錯体を形成する多価アニオンの例には、限定するものではないが、クエン酸アニオン、リンゴ酸アニオン、フマル酸アニオン、酒石酸アニオン、乳酸アニオン、シュウ酸アニオン、コハク酸アニオン、アスコルビン酸アニオン、リン酸アニオン、ピロリン酸アニオン、グリセロリン酸アニオン、またはこれらの組合せが挙げられる。
【0011】
用語「炭水化物」は、単糖類(例えばキシロース、アラビノース、グルコース、マンノース、フルクトース、ガラクトース、およびリボース)、二糖類(例えばスクロース、ラクトース、マルトース、およびイソマルトース)、オリゴ糖類(すなわちグリコシド結合によって連結された3〜9個の単糖類残基から構成されている炭水化物、例えばラフィノース、メレチトース、マルトトリオース、アカルボース、スタキオース、フラクトオリゴ糖、およびガラクトオリゴ糖など)、または多糖類(例えばデキストリン、デキストラン、ポリイソマルトースおよびマルトデキストリン)を指す。
【0012】
再び式X(OH)
aY
bZ
cM
d(H
2O)
eを参照すると、aは0.1〜20(例えば1〜10)であり、bは0〜9(例えば0.1〜9、0〜3、および0.1〜3)であり、cは0.1〜10(例えば1〜6)であり、dは0.1〜9(例えば0.1〜6)であり、eは0〜25(例えば0〜10)である。
【0013】
本発明の別の態様は、上述のナノクラスターを含有する組成物に関する。この組成物は、透明な水溶液または再構成して透明な水溶液とするための水溶性の固形物であり、キレート化されていないイオン、反応しない水溶性リガンド、および不安定な低分子量イオン錯体(すなわち3500ダルトン未満)を含まない。該透明な水溶液のpH値は3〜11.5、例えば3.5〜9であってよい。透明な水溶液とは、透き通った水溶液または透光性の水溶液、すなわちコロイド溶液もしくはコロイド懸濁液を指す。
【0014】
さらに本発明の範囲内には、投与を必要とする対象者に有効な量の上記のナノクラスターを投与することにより、疾患を治療するための、または組織画像を検出するための方法がある。疾患の例には、ミネラル欠乏症、胃逆流症、および慢性腎不全が挙げられる。組織画像は病的組織を正常組織と区別する際に使用される。
【0015】
用語「治療」とは、上記の疾患、そのような疾患の症状、またはそのような疾患を生じやすい素因を有する対象者に、治療的効果を与える目的で、例えば、上記の疾患、該疾患の任意の症状、または該疾患を生じやすい素因を、治し、軽減し、変化させ、改善し、または上記の疾患、該疾患の任意の症状、または該疾患を生じやすい素因に影響を及ぼす目的で、ナノクラスターを投与することを指す。
【0016】
本発明の範囲内にはさらに、上記のナノクラスターを調製する方法がある。該方法は、(1)X、Y、Z、およびOHを含有する水性分散液を提供するステップと、(2)該水性分散液のpHを所定値に調整して、pH調整された水性分散液を得るステップと、(3)pH調整された水性分散液を50〜180℃に加熱してナノクラスターを形成するステップと、(4)上記のステップのうちいずれかの後でMを添加するステップとを含む。Mは、このように形成されたナノクラスターの必須構成要素となることに注意されたい。X:Y:Z:Mの比は、1:0〜9:0.1〜10:0.1〜9である。水溶液中にこのように形成されたナノクラスターは、ナノ濾過処理によって収集され、次いで(例えばオーブン中で、真空により、噴霧により、また凍結によって)乾燥することにより固形のナノクラスターを得ることができる。
【0017】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細が以下の説明において述べられている。本発明のその他の特徴、目的および利点は、該説明から、および特許請求の範囲から明白となろう。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本明細書中で説明されるのは、金属イオンナノクラスターであって、各々が1つ以上の金属カチオンと、1つ以上の水溶性の塩を形成するアニオンと、1つ以上の水溶性のリガンドと、1つ以上の濁り点改変剤とを含有する金属イオンナノクラスターである。
【0019】
食事療法上または健康上の有益性を有する任意の金属カチオンが、本発明のナノクラスター中で使用されうる。例としては、Mg(II)、Al(III)、Ca(II)、Cr(III)、Cu(II)、Zn(II)、Mn(II)、Ti(IV)、Fe(II/III)、Co(II)、Ni(II)、Bi(III)、V(V)、La(III)、Mo(VI)、Sr(II)、およびZr(IV)が挙げられる。2種以上のカチオン、例えばFe(III)およびMg(II)が、該ナノクラスター中に含められてもよい。
【0020】
適切な水溶性の塩を形成するアニオンは有機アニオンであっても無機アニオンであってもよく、例えばフッ化物アニオン、塩化物アニオン、臭化物アニオン、ヨウ化物アニオン、硝酸アニオン、硫酸アニオン、および酢酸アニオンである。
【0021】
適切なリガンドは水に可溶であり、金属カチオンに結合して本発明のナノクラスターを形成する。例としては、キシリトール、マンニトール、リボース、マンノース、キシロース、ガラクトース、フルクトース、ラクトース、グルコース、イソマルトース、イソマルト、スクロース、マルチトール、トレハロース、アラビノース、ソルビトール、ポリイソマルトース、イソマルトオリゴ糖、デキストリン、デキストラン、およびフラクトオリゴ糖が挙げられる。さらなる例は米国特許出願公開第2012/0093898号明細書に記載されている。
【0022】
濁り点改変剤は、ナノクラスターの濁り点を所定範囲に、例えば7以下に調整することによって該ナノクラスターを中性または酸性の溶液中で安定にするために使用される。中性または酸性の溶液中での安定性は、筋肉内注射剤または経口製剤にとって重要な特徴である。さらに、濁り点改変剤は、ナノクラスターを調製するための時間を短縮する。濁り点改変剤は、調製の過程で必要とされる温度を低くすることもできる。濁り点改変剤は、金属カチオン、アニオン、またはリガンドと相互作用し、ナノクラスターの必須構成要素となる。ナノクラスター中の濁り点改変剤は、該ナノクラスター中の水溶性の塩を形成するアニオンとは異なる、錯体を形成する多価アニオンであってよい。多価アニオンの例には、クエン酸アニオン、リンゴ酸アニオン、フマル酸アニオン、酒石酸アニオン、乳酸アニオン、シュウ酸アニオン、コハク酸アニオン、アスコルビン酸アニオン、リン酸アニオン、ピロリン酸アニオン、およびグリセロリン酸アニオンが挙げられる。中でも、クエン酸アニオン、シュウ酸アニオン、コハク酸アニオン、および酒石酸アニオンが好ましい。
【0023】
本発明のナノクラスターは様々な方法を使用して調製可能である。1つの実施形態では、該ナノクラスターは、水溶性の金属塩(例えば塩化鉄(III))、リガンド(例えばキシリトール)、アルカリ性剤(例えば水酸化ナトリウム)、および濁り点改変剤(例えばクエン酸ナトリウム)を、適温(例えば50〜180℃または好ましくは65〜105℃)下で所定の工程時間(例えば30分〜10時間)の間、水と混合することによって得られる。別例として、金属塩、リガンド、およびアルカリ性剤が混合および加熱されてナノクラスター前駆体が形成される。その後、濁り点改変剤が、加熱(例えば50〜180℃および65〜105℃)を伴って、または加熱を伴わずに、該前駆体に導入される。濁り点改変剤の種類および量は、所定の濁り点を有するナノクラスターを得るために変更可能である。
【0024】
このように形成されたナノクラスターは水溶液の状態である。これを、ナノ濾過処理を使用して分離し、キレート化されていない金属カチオン、反応しないリガンド、および不安定な低分子量イオン錯体を含まない濃縮ナノクラスター含有溶液を得ることができる。キレート化されていない金属カチオンは組織に対して刺激性であって不快な金属味を有することに注意されたい。キレート化されていない金属カチオンはさらにタンパク質沈殿を引き起こして生理学的機能を妨害する可能性もある。反応しないリガンドは溶液の微生物汚染および浸透圧モル濃度を増大させる。不安定な低分子量イオン錯体は、解離して組織内へ迅速に拡散し、酸化的損傷を引き起こす。ワイク(Wyck)、米国腎臓学会誌(Journal of American Society of Nephrology)、2004年、第15巻、p.S107−11を参照されたい。
【0025】
濃縮ナノクラスター含有溶液は、任意選択で、ナノクラスター固形物を得るために、適切な乾燥方法、例えばオーブン乾燥、真空乾燥、噴霧乾燥、および凍結乾燥を使用して乾燥させてもよい。ナノクラスター固形物は、濁り点およびその他の特性を変化させることなくナノクラスター溶液に再構成することができる。
【0026】
下記は、本発明のナノクラスターを調製するための典型的な手順である。塩または塩混合物としての金属カチオンおよびアニオンは、水溶液中で水溶性リガンドと混合されて溶液または分散液を生じる。pHはアルカリ塩または塩基を使用して調整される。pH調整された該溶液または分散液は、ナノクラスター前駆体が形成されるまで、すなわち該溶液または分散液が透き通るまで加熱される。次いで、濁り点改変剤が該前駆体に添加されかつ50〜105℃に加熱されてナノクラスターが生じ、該ナノクラスターはナノ濾過処理によって分離され、次いでオーブン中で乾燥されてナノクラスター固形物を生じる。溶媒で誘発される沈澱(例えばエタノールのような水溶性有機溶媒を使用)のような他の分離技法も適用可能である。得られる固形生成物は、ナノクラスターコロイド溶液へ再構成されてもよいし、その他の剤形へと製剤化されてもよい。
【0027】
こうして形成されたナノクラスターは、典型的には、以下の実施例1に記載された手順または類似の手順によって判定可能な、8以下(例えば4.5以下)の濁り点と、動的レーザー光散乱技法によって判定可能な、2nm〜500nm(例えば2〜80nm)の粒径とを有する。前記動的レーザー光散乱技法はB.J.ベルン(Berne)ら、「動的光散乱(Dynamic Light Scattering)」、米国ニューヨークのJ.ワイリーおよびサンズ社(J.Wiley and Sons,Inc.)、1976年;P.J.フロイト(Freud)ら、「動的光散乱による粒度測定への新しいアプローチ(A New Approach to particle Sizing by Dynamic Light Scattering)」、マイクロトラック社(Microtrac,Inc.);ならびにM.N.トレーナー(Trainer)ら、「動的光散乱による高濃度サブミクロン粒度分布」、アメリカン・ラボラトリー(American Laboratory)、1992年7月、に記載されているような技法である。
【0028】
低い濁り点を有しつつ、本発明のナノクラスターは数多くの生理学的成分および賦形剤成分との適合性を有する。該ナノクラスターは、上記成分とともに固形または液状形態に製剤化可能である。ナノクラスターを含有する固形組成物は、飲料、ペースト剤、ゼリー剤、カプセル剤、または錠剤の調製に使用するのに好都合である。他方、ナノクラスターを含有する液状組成物は、透明な溶液であっても透光性の溶液であってもよく、注射製剤または経口製剤を調製するために使用可能である。
【0029】
本発明のナノクラスターを含有する組成物は、栄養補助食品、化粧品、コントラスト撮像用製品、または医薬製剤であってよい。栄養補助食品としては、ミネラル、アミノ酸、またはハーブ抽出物のような追加の栄養素が含められてもよい。化粧品としては、湿潤剤、美白剤、酸化防止剤、またはハーブ抽出物のような追加成分が含められてもよい。コントラスト撮像用製品(例えば組織画像を検出するための製品)としては、該組成物は適切な薬学的に許容される担体とともに経口または注射用の剤形に製剤化可能である。重金属組成物および磁性金属組成物は、撮像目的で広く使用される(例えばMRI造影剤としての鉄含有組成物およびX線放射線造影剤としてのバリウム含有組成物)。医薬製剤(例えば、限定するものではないが、散剤、カプセル剤、錠剤、乳剤、水性懸濁液、分散液、および溶液などの形態のもの)としては、ナノクラスター組成物は、単独で使用されてもよいし、薬学的に許容される担体と組み合わせて使用されてもよい。コントラスト撮像用製品または医薬組成物中の担体は、該製剤の有効成分との適合性を有する(かつ好ましくは該有効成分を安定化する能力を有する)とともに治療される対象者に対して有害でないという意味において、「許容される」ものでなければならない。例としては、ラクトース、コロイド状二酸化ケイ素、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、およびD&C黄色10号が挙げられる。ステアリン酸マグネシウムのような滑沢剤が典型的には添加される。カプセル形態での経口投与について、有用な希釈剤にはラクトースおよび乾燥トウモロコシデンプンが挙げられる。水性懸濁液または乳剤が経口投与される場合、ナノクラスター組成物は水性相中で乳化剤または懸濁化剤と併せて懸濁または溶解されればよい。必要に応じ、甘味料、香料、または着色料が添加されてもよい。
【0030】
ナノクラスター組成物はさらに、食品生産物、すなわち液状、固形、または半固形の材料であってヒトもしくは動物を養育するため、正常もしくは加速的な成長を維持するため、または耐久力もしくは注意力を維持するために使用されるものであってもよい。例としては、茶系飲料、ジュース、コーヒー、ミルク、ゼリー、クッキー、シリアル、パン、ドーナッツ、ベーグル、チョコレート、棒状スナック、ハーブ抽出物、乳製品(例えばアイスクリームやヨーグルト)、ダイズ製品(例えば豆腐)、ならびに米製品が挙げられる。
【0031】
鉄を含有するナノクラスター組成物は、鉄欠乏性貧血のような鉄欠乏症を治療するために使用することができる。クロムを含有する組成物は、糖尿病(例えばII型糖尿病)を治療し、コレステロールレベルを低下させ、肥満を治療するために使用することができる。マグネシウムおよびアルミニウム/鉄を含有するものは制酸剤として使用可能であり、Mg、Mn、Cr、ZnおよびCuイオンを含有するものは非経口完全栄養注射剤として使用可能である。
【0032】
さらに、本発明は、上記の概要の節に記載された疾患の患者に有効な量のナノクラスター組成物を投与する方法を包含する。該ナノクラスター組成物は、診断(例えば画像診断)用に、リン吸着剤として、または胃逆流症用の制酸剤として、使用することもできる。
【0033】
「有効な量」とは、治療を受ける対象者に治療効果を与えるために必要なナノクラスター組成物の量を指す。有効用量は、当業者には認識されるように、治療される疾患の種類、投与経路、賦形剤の使用、および他の治療的処置との共用の可能性に応じて変化しうる。
【0034】
用語「投与」とは、任意の適切な形態、例えば食品生産物、飲料、錠剤、カプセル剤、懸濁液、ローション剤、クリーム剤、ゲル、および溶液の形態の本発明の組成物の、対象者への経口送達、局所送達、または非経口送達を包含する。用語「非経口の」とは、皮下、皮内、静脈内、筋肉内、関節内、動脈内、滑液内、胸骨内、鞘内、病巣内、および頭蓋内への注射、ならびに様々な注入技法を指す。注射用無菌組成物、例えば水性または油性の注射用無菌懸濁液は、必要に応じて適切な分散剤または湿潤剤(Tween(登録商標)80など)および懸濁化剤を使用して、当分野で既知の技法に従って製剤化されてもよい。注射用無菌調製物は、無毒の非経口的に許容される希釈剤中または無毒の非経口的に許容される溶媒中の注射用無菌溶液または懸濁液、例えば1,3‐ブタンジオール、プロピレングリコール、またはグリセリン中の溶液であってもよい。使用することができる許容されるビヒクルおよび溶媒としては、キシリトール、マンニトール、水、リンゲル液および等張食塩水が挙げられる。加えて、無菌の不揮発性油は、溶媒または懸濁媒として従来から使用されている(例えば合成モノグリセリドまたはジグリセリド)。オレイン酸およびそのグリセリド誘導体のような脂肪酸は、オリーブ油またはヒマシ油のような天然の薬学的に許容される油(特にそれらのポリオキシエチレン化体)と同様に、注射剤の調製に有用である。これらの油溶液または油懸濁液はさらに長鎖アルコールの希釈剤もしくは分散剤、またはカルボキシメチルセルロースもしくは類似の分散剤を含有することもできる。Tween(登録商標)もしくはSpan(登録商標)のような他の一般に用いられている界面活性剤、または、薬学的に許容される固形、液状もしくはその他の剤形の製造において一般に使用される他の同様の乳化剤もしくは生物学的利用能増強剤も、製剤化を目的として使用可能である。
【0035】
上述のナノクラスターは、in vitroのアッセイによって上記疾患を治療する際の有効性について予備的にスクリーニングされ、次いで動物実験および臨床試験によって確認されうる。当業者にはその他の方法も明白となろう。
【0036】
下記の特定の実施例は単なる実例として解釈されるべきであり、いかなる意味においても本開示の残りの部分を限定するものではない。さらに詳細に説明するまでもなく、当業者であれば、本明細書中の記載に基づいて本発明を最大限利用することができると考えられる。本明細書中で引用された全ての出版物は参照により全体が本願に援用される。
【0037】
(実施例1)
本発明の典型的な組成物である組成物1は、下記の手順に従って調製された。撹拌および加熱デバイスを装備した槽内において、87グラムの水に次の作用剤すなわち:(1)水溶性のリガンドとして13.68グラムのキシリトール、(2)濁り点改変剤として2.18グラムのグルコン酸ナトリウム、および(3)金属カチオンとして、かつ水溶性の塩を形成するアニオンとして、27グラムの塩化鉄(III)六水和物を溶解することにより水溶液を得た。該水溶液を75〜80℃に加熱した後、NaOH(54グラムの水中に12グラム)を添加し、続いて90℃で30分間加熱して水酸化鉄(III)キシリトールグルコン酸ナノクラスターを含有する組成物1を得た。
【0038】
比較組成物1’は、グルコン酸ナトリウムが添加されないという点を除いて上記と全く同じ手順に従って調製された。
濁り点アッセイ
組成物1および1’の濁り点は、鉄スクロース注射(Iron Sucrose Injection)のアメリカ薬局方(USP)モノグラフすなわちUSP28‐NF23、第1064ページに記載された方法によって測定された。組成物1のpH値は0.1Mの塩酸溶液を使用して約6.0に調整された。該溶液に光源を適用して溶液に光線を透過させた。さらなる塩酸溶液を、軽微であるが永続的な濁りが生じるまで滴下した。この時点でのpH値を濁り点とした。
【0039】
結果を以下の表中に示す。表中に示されるように、濁り点改変剤であるグルコン酸塩を含有する組成物1は、予想外なことに、濁り点改変剤を含有しない比較組成物1’よりも濁り点が顕著に低下した。
【0040】
下記の表は、各々が濁り点改変剤を含有する組成物2〜6、ならびにいずれも濁り点改変剤を含有しない比較組成物2’、3’、5’、および6’の濁り点も示していることに注意されたい。予想外なことに、組成物2〜6はそれぞれ、その対応する比較組成物、すなわち比較組成物2’、3’、5’、および6’よりも顕著に低い濁り点を示した。組成物3’は組成物4の対応する比較組成物であることに注意されたい。
【0041】
【表1】
(実施例1A)
組成物1Aは、組成物1に含まれるナノクラスターを分画分子量が5000ダルトンのナノ濾過処理によって該水溶液から分離することにより調製された。分離されたナノクラスターを90℃で16時間乾燥させ、組成物1Aを固形物として得た。
【0042】
固形組成物1Aをナノクラスター溶液へ再構成することができることを実証するために、組成物1Aを水に溶解して透明なナノクラスター溶液を形成した。該溶液は組成物1の濁り点と同じ濁り点を示した。上記の表を参照されたい。組成物1と同じように、組成物1Aは予想外なことに比較組成物1’よりも顕著に低い濁り点を示した。
【0043】
(実施例2)
組成物2は以下に記載された手順に従って調製された。撹拌および加熱デバイスを装備した槽内において、87グラムの水に次の作用剤すなわち:(1)水溶性のリガンドとして18.2グラムのマンニトール、(2)濁り点改変剤として2.94グラムのクエン酸ナトリウム二水和物、および(3)金属カチオンとして、かつ水溶性の塩を形成するアニオンとして、27グラムの塩化鉄(III)六水和物を溶解することにより水溶液を得た。該水溶液を75〜80℃に加熱した後、NaOH(54グラムの水中に12グラム)を添加し、続いて90℃で30分間加熱して水酸化鉄(III)マンニトールクエン酸ナノクラスターを含有する組成物2を得た。
【0044】
比較組成物2’は、クエン酸ナトリウム二水和物が添加されないという点を除いて組成物2と全く同じ手順に従って調製された。
組成物2および2’両方の濁り点が実施例1に記載された手順に従って測定された。上記の表に示された結果は、予想外なことに、組成物2の濁り点が比較組成物2’よりも顕著に低かったことを示している。
【0045】
(実施例3および4)
組成物3および4を得るために、比較組成物3’が以下に記載される手順に従って調製された。撹拌および加熱デバイスを装備した槽内において、硝酸鉄(III)九水和物溶液(250グラムの水中に102グラム)および炭酸ナトリウム溶液(350グラムの水中に55グラム)を混合することにより水酸化鉄(III)炭酸塩懸濁液を調製した。固形スクロース(230グラム)およびNaOH溶液(13グラムの水中に5グラム)を添加した。得られた混合物を92℃で3時間加熱し、水酸化鉄(III)スクロースナノクラスターを含有する比較組成物3’を得た。
【0046】
組成物3は、0.5グラムの比較組成物3’を0.0683グラムのシュウ酸ナトリウムとともに混合することにより調製した。
他方、組成物4は、0.5グラムの比較組成物3’を0.117グラムのコハク酸ナトリウムとともに混合することにより調製した。
【0047】
組成物3、3’および4の濁り点は実施例1に記載された手順に従って測定された。上記の表に示されたその結果は、予想外なことに、組成物3および4の濁り点がそれぞれの比較組成物すなわち組成物3’よりも顕著に低かったことを示している。
【0048】
(実施例5)
組成物5は以下に記載された手順に従って調製された。撹拌および加熱デバイスを装備した槽内において、硝酸鉄(III)九水和物溶液(62グラムの水中に25.6グラム)および炭酸ナトリウム溶液(75グラムの水中に13グラム)を混合することにより水酸化鉄(III)炭酸塩沈殿物を得た。固形スクロース(60.8グラム)および固形酒石酸ナトリウム(4.6グラム)を添加した。得られた混合物を92℃で1時間加熱し、水酸化鉄(III)スクロース酒石酸塩ナノクラスターを含有する組成物5を得た。
【0049】
比較組成物5’は、固形酒石酸ナトリウムの代わりにNaOH溶液(13グラムの水中に5.05グラム)を使用したという点を除いて組成物5と全く同じ手順に従って調製された。
【0050】
組成物5および5’両方の濁り点は実施例1に記載された手順に従って測定された。上記の表に示された結果は、予想外なことに、組成物5の濁り点が比較組成物5’よりも顕著に低かったことを示している。
【0051】
(実施例6)
組成物6を得るために、比較組成物6’が以下に記載された手順に従って調製された。撹拌および加熱デバイスが装備された槽内において、塩化鉄(III)溶液(1000グラムの水中に150グラム)および炭酸ナトリウム溶液(544グラムの水中に96グラム)を混合して水酸化鉄(III)炭酸塩沈殿物を得た。該沈殿物を遠心分離処理によって分離および洗浄し、328グラムの濃縮沈殿物を得た。固形スクロース(545グラム)およびNaOH溶液(108グラムの水中に12グラム)を添加した。得られた混合物を105℃で10時間加熱し、水酸化鉄(III)スクロースナノクラスターを含有する比較組成物6’を得た。
【0052】
組成物6は、10グラムの比較組成物6’をクエン酸ナトリウム二水和物溶液(1.5グラムの水中に0.5グラム)とともに混合して80℃で30分間加熱することにより調製した。
【0053】
組成物6および6’両方の濁り点が実施例1に記載された手順に従って測定された。上記の表に示された結果は、予想外なことに、組成物6の濁り点が比較組成物6’よりも顕著に低かったことを示している。
【0054】
解離アッセイ
さらに、組成物6および6’両方の解離速度が以下に記載された手順に従って測定された。
【0055】
組成物6の酸解離速度は米国特許第8,058,076号明細書に記載された方法に従って決定された。最初に、組成物6の溶液をメスフラスコに入れ、続いて37℃の0.75M塩酸溶液を添加した。混合後、UV/VIS分光光度計を使用して、該溶液の450nmの吸光度を5分ごとに測定した。測定は、時間0を始点として一定した吸光度が分光光度計によって得られるまで行った。米国特許第8,058,076号明細書の第4欄に記載された式を使用して濃度(%)を算出した。酸解離速度(T75)は、組成物から鉄(III)イオンの75%を放出するのに必要な時間(分)とした。組成物6の酸解離速度は32分であった。
【0056】
上述の同じ手順に従うと、比較組成物6’の酸解離速度は27.6分であった。
予想外なことに、組成物6の酸解離速度は比較組成物6’よりも低かった。
その他の実施形態
本明細書中で開示された特徴はすべて、任意に組み合わせることが可能である。本明細書中で開示された特徴はそれぞれ、同一、等価、または同様の目的を果たす別の特徴に置き換え可能である。したがって、明示的に別段の定めがないかぎり、開示された特徴はそれぞれ、総括的な一連の等価または同様の特徴の例にすぎない。
【0057】
以上の説明から、当業者は、本発明の本質的特質を容易に確認することが可能であり、かつ、本発明の思想および範囲から逸脱することなく、様々な使用法および条件に本発明を適合させるため本発明の様々な変更および改変を行うことが可能である。従って、他の実施形態も特許請求の範囲の範囲内にある。