特許第6313152号(P6313152)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ NTN株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6313152-電動ブレーキ装置 図000002
  • 特許6313152-電動ブレーキ装置 図000003
  • 特許6313152-電動ブレーキ装置 図000004
  • 特許6313152-電動ブレーキ装置 図000005
  • 特許6313152-電動ブレーキ装置 図000006
  • 特許6313152-電動ブレーキ装置 図000007
  • 特許6313152-電動ブレーキ装置 図000008
  • 特許6313152-電動ブレーキ装置 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6313152
(24)【登録日】2018年3月30日
(45)【発行日】2018年4月18日
(54)【発明の名称】電動ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/00 20060101AFI20180409BHJP
   B60T 17/18 20060101ALI20180409BHJP
【FI】
   B60T8/00 Z
   B60T17/18
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-147668(P2014-147668)
(22)【出願日】2014年7月18日
(65)【公開番号】特開2016-22814(P2016-22814A)
(43)【公開日】2016年2月8日
【審査請求日】2017年6月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(72)【発明者】
【氏名】増田 唯
(72)【発明者】
【氏名】山崎 達也
【審査官】 内山 隆史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−343397(JP,A)
【文献】 特開2010−120522(JP,A)
【文献】 特開2000−312444(JP,A)
【文献】 特開2004−322987(JP,A)
【文献】 特開平11−5520(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 8/00、13/74、17/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータと、車輪と一体に回転するブレーキロータと、このブレーキロータと接触して制動力を発生させる摩擦パッドと、前記電動モータの回転運動を前記摩擦パッドの進退運動に変換する変換機構と、目標ブレーキ力を指令するブレーキ力指令手段と、前記摩擦パッドを前記ブレーキロータに押し付けることにより発生するブレーキ力の推定値を求めるブレーキ力推定手段と、前記ブレーキ力指令手段で指令される目標ブレーキ力となるように前記電動モータを駆動する制御装置と、この制御装置および前記電動モータにそれぞれ電力を供給する電源装置と、を備えた電動ブレーキ装置において、
前記制御装置は、
前記電源装置から前記電動モータに供給可能な残存する電力量が定められた値以下になったか否かを判定する電力判定手段と、
この電力判定手段で判定される前記残存する電力量が定められた値以下になったとき、前記ブレーキ力推定手段で求められるブレーキ力の推定値が設定値以下となるように、前記電動モータをブレーキ押圧方向と逆向きに駆動してブレーキ力の残圧を解除する残圧解除手段と、
を有することを特徴とする電動ブレーキ装置。
【請求項2】
請求項1記載の電動ブレーキ装置において、
前記残圧解除手段は、
前記ブレーキ力推定手段で求められるブレーキ力の推定値が目標ブレーキ力から前記設定値以下になるまでの区間における、この電動ブレーキ装置の剛性および逆効率から、前記電動モータに入力される弾性エネルギー推定値を決定する弾性エネルギー推定値決定部と、
前記区間において定められたトルクを発揮し続けるときに発生するモータ損失推定値を求めるモータ損失推定値算出部と、
前記弾性エネルギー推定値決定部で決定される弾性エネルギー推定値と、前記モータ損失推定値算出部で算出されるモータ損失推定値との合計が、前記電力判定手段で判定される電力量を上回らない条件となるブレーキ力となるように前記電動モータを制御する比較演算部と、
を有する電動ブレーキ装置。
【請求項3】
請求項2記載の電動ブレーキ装置において、前記モータ損失推定値算出部は、前記区間におけるモータ回転角と、前記電動モータのコギングトルクの最大値と、定められた転がり摩擦抵抗値とによりモータ損失推定値を推定する電動ブレーキ装置。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の電動ブレーキ装置において、前記残圧解除手段は、前記電力判定手段で判定される電力量が定められた値以下になったとき、前記電動モータをブレーキ解除方向に単調回転させる緊急残圧解除用の閾値を別途設けた電動ブレーキ装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の電動ブレーキ装置において、前記電源装置は、主に使用される主電源装置と、ブレーキ力の残圧を解除するとき使用される副電源装置とを有し、
前記主電源装置から前記電動モータに供給される残存電力が定められた値以下になったと前記電力判定手段で判定されると、前記残圧解除手段は、前記主電源装置との接続を遮断し、前記副電源装置の残存電力から、前記電動モータを駆動してブレーキ力の残圧を解除する電動ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電動ブレーキ装置に関し、例えば、電力線の断線やバッテリ異常時の残留ブレーキ力を解除することができる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電動ブレーキ装置として、以下の技術が提案されている。
1.ブレーキペダルを踏み込むことで、モータの回転運動を直動機構を介して直線運動に変換して、ブレーキパッドをブレーキディスクに押圧接触させて制動力を付加する(特許文献1)。
2.遊星ローラねじ機構を使用した電動式直動アクチュエータが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−327190号公報
【特許文献2】特開2006−194356号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記1,2の電動ブレーキ装置において、例えば、電力線やバッテリ異常等により、電動モータに異常が発生した際、アクチュエータ内部の摩擦力によるヒステリシスに起因して、残留ブレーキ力(以下、「残圧」という)が発生する場合がある。
前記残圧が発生したまま走行を続けると、車両に意図しないブレーキ力が発生することで、車両の燃費・電費が悪化する可能性がある。また、前記残圧によるブレーキ力によってブレーキロータが過剰に発熱し、問題となる可能性がある。
【0005】
この発明の目的は、電源装置等の異常時において、ブレーキ力の残圧を解除して車両に意図しないブレーキ力が発生することを防止する電動ブレーキ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の電動ブレーキ装置は、電動モータ4と、車輪と一体に回転するブレーキロータ8と、このブレーキロータ8と接触して制動力を発生させる摩擦パッド9と、前記電動モータ4の回転運動を前記摩擦パッド9の進退運動に変換する変換機構6と、目標ブレーキ力を指令するブレーキ力指令手段18aと、前記摩擦パッド9を前記ブレーキロータ8に押し付けることにより発生するブレーキ力の推定値を求めるブレーキ力推定手段24と、前記ブレーキ力指令手段18aで指令される目標ブレーキ力となるように前記電動モータ4を駆動する制御装置2と、この制御装置2および前記電動モータ4にそれぞれ電力を供給する電源装置3と、を備えた電動ブレーキ装置において、
前記制御装置2は、
前記電源装置3から前記電動モータ4に供給可能な残存する電力量が定められた値以下になったか否かを判定する電力判定手段28と、
この電力判定手段28で判定される前記残存する電力量が定められた値以下になったとき、前記ブレーキ力推定手段24で求められるブレーキ力の推定値が設定値以下となるように、前記電動モータ4をブレーキ押圧方向と逆向きに駆動してブレーキ力の残圧を解除する残圧解除手段29と、
を有することを特徴とする。
前記「定められた値」、前記「設定値」は、それぞれ実験やシミュレーション等の結果により定められる。
【0007】
この構成によると、制御装置2は、ブレーキ力指令手段18aで指令される目標ブレーキ力となるように電動モータ4をブレーキ押圧方向に制御する。電源装置3は、制御装置2および電動モータ4にそれぞれ電力を供給する。電力判定手段28は、電動モータ4に供給可能な残存する電力量が定められた値以下になったか否かを判定する。この電力判定手段28で検出が必要なものは電源装置3に蓄積された残エネルギ量である。例えば、電源装置3がバッテリの場合、電源装置3の残存電力は電流の積分等から求めるステートオブチャージ(State Of Charge:略称SOC)等で管理され、これは電力量に相当する。また電源装置3が例えばキャパシタの場合、電源装置3の残存電力は1/2・CV2(C=静電容量 V=電圧)で管理され、これは電力量に相当する。電動モータ4に供給可能な残存する電力量が定められた値より大きいと電力判定手段28が判定するとき、制御装置2は、目標ブレーキ力となるように電動モータ4をブレーキ押圧方向に駆動制御する。
【0008】
例えば、電源装置3や電力線L1の異常により電力判定手段28で判定される残存する電力量が定められた値以下になったとき、残圧解除手段29は、ブレーキ力推定手段24で求められるブレーキ力の推定値が設定値(例えば、ゼロ近傍の正の値)以下となるように、電動モータ4をブレーキ押圧方向と逆向きに駆動制御する。電源装置3がバッテリの場合、電流センサ31で検出される電流を積分等して求められる電力量が、例えば、予め定められた残圧解除動作パターンにおいて、摩擦損失、銅損、鉄損等から求められる残圧解除動作によって発生する損失に所定の安全率を乗じた値以下に低下したとき、電力判定手段28は、前記残存する電力量が定められた値以下になったと判定し得る。これにより、この電動ブレーキ装置を搭載する車両に意図しないブレーキ力が発生することを未然に防止し、車両の燃費または電費の悪化を防止することができる。またブレーキロータ8の過剰な発熱を防止し、車両が継続して走行することを可能とする。
【0009】
なお車両が複数の電動ブレーキ装置を搭載している場合、一般に冗長性を確保するため、複数の電動ブレーキ装置がそれぞれ別系統の電源装置30を有することが考えられる。このため、前記車両において、異常が発生した電源装置30に接続された制御装置2、電動モータ4を含む電動ブレーキ装置に本発明が適用され、他の電動ブレーキ装置は別系統の電源装置30により正常に動作させ得る。
【0010】
前記残圧解除手段29は、
前記ブレーキ力推定手段24で求められるブレーキ力の推定値が目標ブレーキ力から前記設定値以下になるまでの区間における、この電動ブレーキ装置の剛性および逆効率から、前記電動モータ4に入力される弾性エネルギー推定値を決定する弾性エネルギー推定値決定部32と、
前記区間において定められたトルクを発揮し続けるときに発生するモータ損失推定値を求めるモータ損失推定値算出部33と、
前記弾性エネルギー推定値決定部32で決定される弾性エネルギー推定値と、前記モータ損失推定値算出部33で算出されるモータ損失推定値との合計が、前記電力判定手段28で判定される電力量を上回らない条件となるブレーキ力となるように前記電動モータ4を制御する比較演算部34とを有するものとしても良い。
前記「剛性」は、例えば、ブレーキキャリパや摩擦パッドの変形量と、変換機構6の軸方向荷重との相関によって定められる。
前記「定められたトルク」は、実験やシミュレーション等の結果により定められる。
【0011】
ここで電動モータ4のトルク(x軸線)と、この電動モータ4の回転運動により発揮される摩擦パッド9の押圧力(y軸線)との相関について、例えば、モータトルクの上昇に伴い、摩擦パッド9の押圧力は、正効率線に従って上昇する。この動作の後、モータトルクが減少に転じると、摩擦パッド9の押圧力は、逆効率線に従って減少する。この逆効率線において、電源装置3等の異常時のトルクτ0における摩擦パッドの押圧力F0が、異常時に発生する残圧となる。
【0012】
電動モータ4に入力される弾性エネルギーは、前記逆効率線、所定のモータトルクから零に至るx軸線に平行な直線、およびy軸線に囲まれた面積となる。このため、例えば、予め試験を実施してモータトルクと押圧力との相関を定め、弾性エネルギーを推定するマップを作成しておく。弾性エネルギー推定値決定部32は、推定されるブレーキ力を押圧力に換算して同押圧力を前記マップに照らし合わせて弾性エネルギーを推定し得る。
モータ損失推定値算出部33は、例えば、電源装置3等の異常時に電動モータ4をブレーキ解除方向に回転させるのに必要な外力、および、ブレーキ力をゼロ近傍以下に低下させるまでに必要なモータ回転角よりモータ損失推定値を推定し得る。
比較演算部34は、前述の弾性エネルギーの推定値とモータ損失推定値との合計が、電力判定手段28で判定される電力量を上回らない条件となるブレーキ力となるように電動モータ4を制御する。このため、ブレーキ力をゼロ近傍以下に確実に低下させることができる。
【0013】
前記モータ損失推定値算出部33は、前記区間におけるモータ回転角と、前記電動モータ4のコギングトルクの最大値と、定められた転がり摩擦抵抗値とによりモータ損失推定値を推定しても良い。
前記モータ回転角は、例えば、電動モータ4に設けられる角度センサ26により検出される。
前記「転がり摩擦抵抗値」は、例えば、試験やシミュレーション等の結果により定められる。
【0014】
前記電動モータ4の転がり抵抗等のパラメータが変動することによって、残圧が発生してしまう可能性がある。
この対策として、前記残圧解除手段29は、前記電力判定手段28で判定される電力量が定められた値以下になったとき、前記電動モータ4をブレーキ解除方向に単調回転させる緊急残圧解除用の閾値を別途設けても良い。
前記「閾値」は、例えば、試験やシミュレーション等の結果により定められる。
この場合、ブレーキ力の残圧を解除することができるうえ、制御系を簡素化して制御装置2の演算処理負荷の低減を図れる。
【0015】
前記電源装置30は、主に使用される主電源装置3と、ブレーキ力の残圧を解除するとき使用される副電源装置21とを有し、
前記主電源装置3から前記電動モータ4に供給可能な残存する電力量が定められた値以下になったと前記電力判定手段28で判定されると、前記残圧解除手段29は、前記主電源装置3との接続を遮断し、前記副電源装置21の残存電力から、前記電動モータ4を駆動してブレーキ力の残圧を解除しても良い。
このように主電源装置3とは異なる副電源装置21を用いて、ブレーキ力の残圧を解除するため、冗長性を確保することができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明の電動ブレーキ装置は、電動モータと、車輪と一体に回転するブレーキロータと、このブレーキロータと接触して制動力を発生させる摩擦パッドと、前記電動モータの回転運動を前記摩擦パッドの進退運動に変換する変換機構と、目標ブレーキ力を指令するブレーキ力指令手段と、前記摩擦パッドを前記ブレーキロータに押し付けることにより発生するブレーキ力の推定値を求めるブレーキ力推定手段と、前記ブレーキ力指令手段で指令される目標ブレーキ力となるように前記電動モータを駆動する制御装置と、この制御装置および前記電動モータにそれぞれ電力を供給する電源装置と、を備えた電動ブレーキ装置において、前記制御装置は、前記電源装置から前記電動モータに供給可能な残存する電力量が定められた値以下になったか否かを判定する電力判定手段と、この電力判定手段で判定される前記残存する電力量が定められた値以下になったとき、前記ブレーキ力推定手段で求められるブレーキ力の推定値が設定値以下となるように、前記電動モータをブレーキ押圧方向と逆向きに駆動してブレーキ力の残圧を解除する残圧解除手段とを有する。このため、電源装置等の異常時において、ブレーキ力の残圧を解除して車両に意図しないブレーキ力が発生することを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】この発明の実施形態に係る電動ブレーキ装置を概略示す図である。
図2】同電動ブレーキ装置のパーキングブレーキ機構の要部を平面視で概略示す図である。
図3】同電動ブレーキ装置の制御系の概略構成を示すブロック図である。
図4図3の要部の拡大図である。
図5】同電動ブレーキ装置のモータトルクと摩擦パッドの押圧力との相関を示す図である。
図6】同電動ブレーキ装置および従来例の電動ブレーキ装置の電源異常時の動作例を示す図である。
図7】同電動ブレーキ装置の動作フローの概念を示すフローチャートである。
図8】この発明の他の実施形態に係る電動ブレーキ装置の制御系の概略構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明の実施形態に係る電動ブレーキ装置を図1ないし図7と共に説明する。
図1に示すように、この電動ブレーキ装置は、電動アクチュエータ1と、制御装置2と、主電源装置3とを有する。先ず、電動アクチュエータ1について説明する。
電動アクチュエータ1は、電動モータ4と、この電動モータ4の回転を減速する減速機構5と、直動機構(変換機構)6と、駐車ブレーキであるパーキングブレーキ機構7と、ブレーキロータ8と、摩擦パッド9とを有する。前記電動モータ4、減速機構5、および直動機構6は、例えば、図示外のハウジング等に組込まれる。
【0019】
減速機構5は、電動モータ4の回転を、回転軸10に固定された3次歯車11に減速して伝える機構であり、1次歯車12、中間歯車13、および3次歯車11を含む。この例では、減速機構5は、電動モータ4のロータ軸4aに取り付けられた1次歯車12の回転を、中間歯車13により減速して、回転軸10の端部に固定された3次歯車11に伝達可能としている。
【0020】
直動機構6は、減速機構5で出力される回転運動を送りねじ機構により直動部14の直線運動に変換して、ブレーキロータ8に対して摩擦パッド9を当接離隔させる機構である。直動部14は、回り止めされ且つ矢符A1にて表記する軸方向に移動自在に支持されている。直動部14のアウトボード側端に摩擦パッド9が設けられる。電動モータ4の回転を減速機構5を介して直動機構6に伝達することで、回転運動が直線運動に変換され、それが摩擦パッド9の押圧力に変換されることにより制動力を発生させる。
【0021】
パーキングブレーキ機構7は、電動アクチュエータ1の制動力が弛むのを阻止するパーキングロック状態と、前記制動力が弛むのを許容するアンロック状態とにわたって切換え可能に構成されている。このパーキングブレーキ機構7は、ロック部材15と、このロック部材15を切換え駆動するアクチュエータ16とを有する。
【0022】
図2は、パーキングブレーキ機構の要部を平面視で概略示す図である。中間歯車13のアウトボード側端面には、複数(この例では6個)の係止孔17が円周方向一定間隔おきに形成される。各係止孔17は、円周方向に沿って延びる長孔形状にそれぞれ形成される。これら係止孔17のいずれか1つにロック部材15が係止可能に構成される。
【0023】
アクチュエータ16(図1)として例えばリニアソレノイドが適用される。アクチュエータ16(図1)によりロック部材(ソレノイドピン)15を進出させて中間歯車13に形成された係止孔17の有底円筒孔部17aに嵌まり込ませることで係止し、中間歯車13の回転を禁止することで、パーキングロック状態にする。ロック部材15の一部または全部をアクチュエータ16(図1)に退避させて係止孔17から離脱させることで中間歯車13の回転を許容し、アンロック状態にする。
【0024】
図3は、この電動ブレーキ装置の制御系の概略構成を示すブロック図である。この電動ブレーキ装置の制御装置2は、ECU(VCU)18に接続されるインバータ装置19を有する。ECU18には、ブレーキ力指令手段18aが設けられる。インバータ装置19の上位制御手段であるECU18として、例えば、車両全般を制御する電気制御ユニットが適用される。ブレーキ力指令手段18aは、例えば、図示外のブレーキペダルの操作量に応じて変化するセンサ(図示せず)の出力に応じて、目標ブレーキ力を指令する。
【0025】
インバータ装置19は、演算器20、蓄電装置21、駆動回路22、および切換スイッチ23等を有する。演算器20はブレーキ力推定手段24を含む。このブレーキ力推定手段24は、摩擦パッド9(図1)をブレーキロータ8(図1)に押し付けることにより発生するブレーキ力の推定値を求める。このブレーキ力推定手段24は、例えば、電動アクチュエータ1に配置される磁気式のブレーキ力センサ25を含む。但し、ブレーキ力センサ25として、磁気式以外の光学式、渦電流式、または静電容量式のセンサ等を適用することも可能である。
【0026】
磁気式のブレーキ力センサ25は、例えば、磁気ターゲットと磁気センサとを有する。ブレーキ力の反力がブレーキ力センサ25に伝達されると、このブレーキ力センサ25の一部が弾性変形することにより、前記磁気ターゲットと磁気センサが軸方向に相対変位する。この相対変位量に応じて、磁気センサの出力信号すなわちブレーキ力センサ25のセンサ出力が変化する。
【0027】
ブレーキ力が解除されると、ブレーキ力センサ25の一部が弾性復帰することにより、磁気センサに対する磁気ターゲットの軸方向の相対位置が所期位置に戻る。ブレーキ力推定手段24は、ブレーキ力センサ25のセンサ出力を、このブレーキ力センサ25に作用するブレーキ力の反力とセンサ出力との関係を設定した関係設定手段に照合して、ブレーキ力を推定し得る。なお、ブレーキ力センサ25として、ブレーキ時に発生するトルクを検出するトルクセンサを適用しても良い。
【0028】
演算器20は、ブレーキ力指令手段18aで指令される目標ブレーキ力となるように、駆動回路22を制御する。演算器20は、コンピュータとこれに実行されるプログラム、および電子回路により構成される。演算器20は、電動モータ4に関する各検出値や制御値等の各情報をECU18に出力する機能を有する。駆動回路22は、主電源装置3または後述の蓄電装置21の直流電力を電動モータ4の駆動に用いる3相の交流電力に変換するインバータ22bと、このインバータ22bを制御するPWM制御部22aとを有する。
【0029】
電動モータ4は3相の同期モータ等からなる。この電動モータ4には、図示外のロータの回転角を検出する角度センサ26が設けられている。角度センサ26として、例えば、レゾルバやエンコーダ等が適用される。インバータ22bは、複数の半導体スイッチング素子(図示せず)で構成され、PWM制御部22aは、入力された電流指令をパルス幅変調し、前記各半導体スイッチング素子にオンオフ指令を与える。
【0030】
演算器20は、前記目標ブレーキ力および前記ブレーキ力の推定値に従い、電圧値による電流指令に変換して、PWM制御部22aに電流指令からなるモータ動作指令値を与える。演算器20は、目標ブレーキ力に対し、インバータ22bから電動モータ4に流すモータ電流を電流検出手段27から得て、電流フィードバック制御を行う。また演算器20は、電動モータ4の回転角を角度センサ26から得て、前記回転角に応じた効率的なモータ駆動が行えるように、PWM制御部22aに電流指令を与える。
この演算器20に、後述の電力判定手段28および残圧解除手段29を設けている。
【0031】
演算器20は、角度センサ26による回転角検出ではなく、例えば、線間電圧から回転角を推定するセンサレス推定機能を有するものとしても良い。その他、例えば、電動モータ4が回転角検出を必要としないDCモータやステッピングモータである場合、角度センサを設けなくても良い。
【0032】
主電源装置3は主に使用される電源であり、例えば、この車両の他の駆動源にも電力を供給する。副電源装置である蓄電装置21は、ブレーキ力の残圧を解除するときに使用される電動ブレーキ装置専用品である。蓄電装置21は、主電源装置3から供給される電力を蓄電する。蓄電装置21は、例えば、コンデンサやバッテリ等が適用される。蓄電装置21は、この例では、インバータ装置19内に固定されているが、例えば、インバータ装置19外の車両の一部に固定しても良い。主電源装置3と蓄電装置21とで電源装置30が構成される。主電源装置3に切換スイッチ23および電流センサ31を介して、蓄電装置21が接続される。
【0033】
図4は、切換スイッチ23等の拡大図である。切換スイッチ23は、例えば、電界効果トランジスタ(略称:FET)からなるスイッチング素子により構成される。電流センサ31として、例えば、通電時の磁界検出センサや、シャント抵抗とアンプからなる電流センサを適用し得る。演算器20に、それぞれ、切換スイッチ23と電流センサ31が接続される。
【0034】
演算器20は、電流センサ31で検出される電流に応じて切換スイッチ23を開閉する。通常時、切換スイッチ23はオンとなっており、主電源装置3から駆動回路22および電動モータ4(図3)に電力が供給される。主電源装置3や電力線L1等の異常時に、例えば、電流センサ31で検出される電流に基づいて、主電源装置3から電動モータ4(図3)に供給可能な残存する電力量が定められた値以下になったと演算器20で判定されると、演算器20は切換スイッチ23をオフとし制御装置2と主電源装置3との接続を遮断する。
【0035】
ここで図5は、この電動ブレーキ装置のモータトルクと摩擦パッド9(図1)の押圧力との相関を示す図である。同図5において、横軸(x軸線)はモータトルクを表し、縦軸(y軸線)は摩擦パッド9(図1)の押圧力を表す。ブレーキペダル(図示せず)の踏込量が大きくなる程、ブレーキ力指令手段18a(図3)が指令する目標ブレーキ力は大きくなる。この目標ブレーキ力が大きくなるのに伴い、モータトルクは上昇する。このモータトルクの上昇に伴い、摩擦パッド9(図1)の押圧力は、正効率線B1に従って上昇する。
【0036】
この動作の後、モータトルクが減少に転じると、摩擦パッド9(図1)の押圧力は、逆効率線B2に従って減少する。この逆効率線B2において、主電源装置等の異常時のトルクτ0における摩擦パッド9(図1)の押圧力F0が、異常時に発生する残圧となる。主電源装置3等の異常により、電動モータ4(図3)に異常が発生した際、電動アクチュエータ1内部の摩擦力によるヒステリシスに起因して前記残圧が発生する。
【0037】
この電動ブレーキ装置は、特に、前記残圧を解除して車両に意図しないブレーキ力が発生することを防止する。
図3に示すように、演算器20は、電力判定手段28と、残圧解除手段29とを有する。電力判定手段28は、電流センサ31で検出される電流に基づいて、主電源装置3から電動モータ4に供給可能な残存する電力量が定められた値以下になったか否かを判定する。残圧解除手段29は、判定される前記残存する電力量が定められた値以下になったとき、前述のように、切換スイッチ23をオフとし制御装置2と主電源装置3との接続を遮断する。
【0038】
これにより残圧解除手段29は、蓄電装置21の残存電力から、ブレーキ力推定手段24で求められるブレーキ力の推定値が設定値(例えば、ゼロ近傍の正の値)以下となるように、電動モータ4をブレーキ押圧方向と逆向きに駆動してブレーキ力の残圧を解除する。
残圧解除手段29は、弾性エネルギー推定値決定部32と、モータ損失推定値算出部33と、比較演算部34とを有する。
【0039】
弾性エネルギー推定値決定部32は、ブレーキ力推定手段24で求められるブレーキ力の推定値が、目標ブレーキ力から前記設定値以下になるまでの区間における、この電動ブレーキ装置の剛性および逆効率から、電動モータ4に入力される弾性エネルギー推定値を決定する。前記「剛性」は、例えば、ブレーキキャリパや摩擦パッドの変形量と、変換機構6の軸方向荷重との相関によって定められる。
【0040】
前記区間における電動モータ4に入力される弾性エネルギーは、図5に示すように、逆効率線B2、所定のモータトルクから零に至るx軸線に平行な直線、およびy軸線に囲まれた三角形の面積(図5のハッチング参照)となる。このため、例えば、予め試験を実施してモータトルクと摩擦パッド9(図1)の押圧力との相関を定め、弾性エネルギーを推定するマップを作成しておく。図3に示すように、弾性エネルギー推定値決定部32は、例えば、ブレーキ力推定手段24で推定されるブレーキ力を路面摩擦係数μで除すことで押圧力に換算して同押圧力を前記マップに照らし合わせて弾性エネルギーを推定し得る。
【0041】
モータ損失推定値算出部33は、前記区間において定められたトルクを発揮し続けるときに発生するモータ損失推定値を求める。モータ損失推定値算出部33は、例えば、電源装置30の異常時に電動モータ4をブレーキ解除方向に回転させるのに必要な外力、および、ブレーキ力をゼロ近傍以下に低下させるまでに必要なモータ回転角よりモータ損失推定値を推定し得る。モータ損失推定値算出部33は、前記区間におけるモータ回転角と、電動モータ4のコギングトルクの最大値と、定められた転がり摩擦抵抗値とによりモータ損失推定値を推定しても良い。
【0042】
比較演算部34は、弾性エネルギー推定値決定部32で決定される弾性エネルギー推定値と、モータ損失推定値算出部33で算出されるモータ損失推定値との合計が、電力判定手段28で判定される電力量を上回らない条件となるブレーキ力となるように電動モータ4を制御する。このため、ブレーキ力をゼロ近傍以下に確実に低下させ得る。
【0043】
図6は、電源装置に異常が発生した例を示す。以後、図3も参照しつつ説明する。図6(a)は、蓄電装置21を有する本実施形態に係る電動ブレーキ装置において、主電源装置3に異常が発生した例を示す。図6(b)は、蓄電装置の無い電動ブレーキ装置の電源装置に異常が発生した例を示す。図6の例では、それぞれ所定のブレーキ力を発揮している間に時刻ゼロで電源装置の異常が発生し、電源装置から供給可能な電力量が低下する場合を示す。
【0044】
図6(a),(b)の各上図において、時刻ゼロ以降も所定の目標ブレーキ力Fmを継続して維持し、その目標ブレーキ力Fmに対する実際のブレーキ力Frの推移を示す。図6(a)上図に示すように、実施形態の電動ブレーキ装置では、制御装置2の残圧解除手段29等により、時間の経過とともにブレーキ力Frがゼロに推移する。一方、図6(b)上図では、電源装置に異常が発生した後にヒステリシスに起因した残圧Fが発生する。
【0045】
図6(a),(b)の各下図において、実線は、それぞれ電源装置から供給可能な残存する電力量である。ブレーキ力Frをゼロ近傍に低下させるまでに発生するモータ損失は、実際のブレーキ力Fr(ブレーキ力推定手段で推定されるブレーキ力)の推移と同様に推移する。すなわち、図6(a)下図では、時間の経過とともにモータ損失がゼロに推移する。一方、図6(b)下図では、時間の経過とともにモータ損失が低下していくが、ある時間以後、一定のモータ損失を残したまま推移していく。
【0046】
また図6(a),(b)の各下図において、一点鎖線は、その時点のブレーキ力を発揮した状態において電動ブレーキ装置が有する弾性エネルギーのうち、逆作用によって電動モータ4に入力される弾性エネルギー推定値を示す。図6(a)の下図において、比較演算部34は、モータ損失と弾性エネルギー推定値との合計が、供給可能な残存する電力量を上回らないようにブレーキ力を低下させていき、最終的には実際のブレーキ力Frをゼロ近傍へと推移せしめる。一方、図6(b)の下図では、モータ損失と弾性エネルギー推定値との合計が、供給可能な電力量を上回ってしまうため、それ以後、前記残圧Fが発生する。
【0047】
図7は、この電動ブレーキ装置の動作フローの概念を示すフローチャートである。例えば、車両の電源を投入する条件で本処理が開始し、制御装置2の電力判定手段28は、この電動ブレーキ装置の使用可能な電力量Pを取得する(ステップS1)。次に、残圧解除手段29は、ブレーキ力推定手段24で推定されたブレーキ力Fを取得する(ステップS2)。
【0048】
電力判定手段28は、取得した電力量Pが閾値より大きいか否かを判定する(ステップS3)。電力量Pが閾値より大きいとの判定で(ステップS3:yes)、本処理を終了する。電力量Pが閾値以下と判定されると(ステップS3:no)、残圧解除手段29は、ブレーキ力をゼロとするまでに必要な電力Prを推定する(ステップS4)。残圧解除手段29は、この電力Prが前記使用可能な電力量Pより小さいか否かを判定する(ステップS5)。
【0049】
電力Prが電力量Pより小さいとの判定で(ステップS5:yes)、本処理を終了する。電力Prが電力量P以上との判定で(ステップS5:no)、残圧解除手段29は、電動モータ4をブレーキ押圧方向を逆向きに駆動してブレーキ力Fを所定量低下させる(ステップS6)。その後本処理を終了する。
【0050】
以上説明した電動ブレーキ装置によると、例えば、主電源装置3や電力線L1の異常により電力判定手段28で判定可能な残存する電力量が定められた値以下になったとき、残圧解除手段29は、ブレーキ力の推定値がゼロ近傍以下となるように、電動モータ4をブレーキ押圧方向と逆向きに駆動制御する。これにより、この電動ブレーキ装置を搭載する車両に意図しないブレーキ力が発生することを未然に防止し、車両の燃費または電費の悪化を防止することができる。またブレーキロータ8の過剰な発熱を防止し、車両が継続して走行することを可能とする。
【0051】
主電源装置3から電動モータ4に供給可能な残存電力が定められた値以下になったと演算器20で判定されると、演算器20は切換スイッチ23をオフとし制御装置2と主電源装置3との接続を遮断する。これにより、残圧解除手段29は、副電源装置である蓄電装置21の残存電力から、電動モータ4を駆動してブレーキ力の残圧を解除する。このように主電源装置3とは異なる蓄電装置21を用いて、ブレーキ力の残圧を解除するため、冗長性を確保することができる。
なお1系統の電源装置に制御装置と複数の電動アクチュエータとが接続されている場合に、前記電源装置に異常が発生した場合、例えば、前記蓄電装置21の容量を、所定時間は電動ブレーキ装置が作動可能な程度のものとするような対策を講じることが好ましい。
【0052】
他の実施形態として、図8に示すように、蓄電装置を設けない構成としても良い。この場合、一般に冗長性を確保するため、複数の電動ブレーキ装置がそれぞれ別系統の電源装置30を有することが考えられる。このため、車両において、異常が発生した電源装置30に接続された制御装置、電動モータを含む電動ブレーキ装置に本発明が適用され、他の電動ブレーキ装置は別系統の電源装置30により正常に動作させ得る。
【0053】
電動モータ4の転がり抵抗等のパラメータが変動することによって、残圧が発生してしまう可能性がある。
この対策として、残圧解除手段29は、電力判定手段28で判定可能な残存する電力量が定められた値以下になったとき、電動モータ4をブレーキ解除方向に単調回転させる緊急残圧解除用の閾値を別途設けても良い。この場合、ブレーキ力の残圧を解除することができるうえ、制御系を簡素化して制御装置2の演算処理負荷の低減を図れる。
【0054】
車両は、駆動輪をモータで駆動する電気自動車であっても良いし、前後輪の一方をエンジンで駆動し、他方をモータで駆動するハイブリッド自動車あっても良い。また車両に、エンジンのみで駆動輪を駆動するエンジン車を適用しても良い。ブレーキのタイプはディスクブレーキタイプであってもドラムブレーキタイプであってもよい。
【符号の説明】
【0055】
2…制御装置
3…主電源装置
4…電動モータ
6…直動機構(変換機構)
8…ブレーキロータ
9…摩擦パッド
18a…ブレーキ力指令手段
21…蓄電装置(副電源装置)
24…ブレーキ力推定手段
28…電力判定手段
29…残圧解除手段
30…電源装置
32…弾性エネルギー推定値決定部
33…モータ損失推定値算出部
34…比較演算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8