(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6313610
(24)【登録日】2018年3月30日
(45)【発行日】2018年4月18日
(54)【発明の名称】インホイールモータ駆動装置とダンパとの連結構造およびこの連結構造を備えるサスペンション装置
(51)【国際特許分類】
B60G 13/06 20060101AFI20180409BHJP
B60G 3/20 20060101ALI20180409BHJP
B60K 7/00 20060101ALI20180409BHJP
【FI】
B60G13/06
B60G3/20
B60K7/00
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-36241(P2014-36241)
(22)【出願日】2014年2月27日
(65)【公開番号】特開2015-160498(P2015-160498A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2017年1月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】特許業務法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田村 四郎
【審査官】
鈴木 敏史
(56)【参考文献】
【文献】
特開平3−112724(JP,A)
【文献】
特開2010−214986(JP,A)
【文献】
特開2005−271909(JP,A)
【文献】
特開2013−144509(JP,A)
【文献】
特開平5−238276(JP,A)
【文献】
特開2011−218931(JP,A)
【文献】
米国特許第5087229(US,A)
【文献】
欧州特許出願公開第2106948(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60G 1/00−99/00
B60K 1/00−6/12
7/00−8/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも車幅方向外側端部が転舵輪のロードホイール内空領域に設置されるインホイールモータ駆動装置と、
車幅方向に延び、少なくとも車幅方向外側端部が前記ロードホイール内空領域に配置されるダンパブラケットと、
前記ロードホイール内空領域に配置され、前記ダンパブラケットの車幅方向外側端部と前記インホイールモータ駆動装置とを回動可能に連結する第1ジョイントと、
下端部が前記ダンパブラケットの車幅方向内側端部と結合し、上端部が車体側メンバに取り付けられ、前記インホイールモータ駆動装置のバウンドおよびリバウンドを吸収するダンパとを備える、インホイールモータ駆動装置とダンパとの連結構造。
【請求項2】
前記第1ジョイントは前記インホイールモータ駆動装置の上部に設けられる、請求項1に記載のインホイールモータ駆動装置とダンパとの連結構造。
【請求項3】
前記第1ジョイントは、前記ロードホイール内空領域で、ロードホイール内空領域の上側領域および下側領域を通過して延びるキングピンと重なるように配置される、請求項1または2に記載のインホイールモータ駆動装置とダンパとの連結構造。
【請求項4】
前記インホイールモータ駆動装置は、インホイールモータ駆動装置から上方へ向かって延び根元部がロードホイール内空領域に位置し上端部がロードホイール内空領域よりも上方に位置する上下アーム部を有し、
前記上下アーム部の上端部は、車体側メンバに回動可能に連結されてキングピンの上端を構成する、請求項1または2に記載のインホイールモータ駆動装置とダンパとの連結構造。
【請求項5】
インホイールモータ駆動装置を懸架するサスペンション装置であって、
車幅方向に延び、少なくとも車幅方向外側端部がロードホイール内空領域に配置されてインホイールモータ駆動装置に回動可能に連結されるダンパブラケットと、
下端部が前記ダンパブラケットの車幅方向内側端部と結合し、上端部が車体側メンバに取り付けられ、前記インホイールモータ駆動装置のバウンドおよびリバウンドを吸収するダンパと、
車幅方向に延びて車幅方向内側端部が車体側メンバに連結される基端をなし、車幅方向外側端部が上下方向に揺動可能な遊端をなし、該遊端がインホイールモータ駆動装置に回動可能に連結されてロードホイール内空領域の上側領域および下側領域を通過して延びるキングピンに含まれるリンク部材とを備える、サスペンション装置。
【請求項6】
前記リンク部材は、インホイールモータ駆動装置の上部と車体側メンバとを連結するアッパアームと、前記アッパアームよりも下方に配置されてインホイールモータ駆動装置の下部と車体側メンバとを連結するロアアームとを含む、請求項5に記載のサスペンション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転舵輪を駆動するインホイールモータ駆動装置のサスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インホイールモータ駆動装置は、電気駆動されることから環境に負荷を与えることが少ないばかりでなく、自動車の車輪内に設置されて当該車輪を駆動することから、エンジン自動車と比較して広い車室スペースを確保することができ、有利である。そこでインホイールモータ駆動装置を車体側に取り付ける技術としては従来、例えば特許文献1に記載のごときものが知られている。特許文献1に記載のインホイールモータ駆動装置は、その下部にサスペンション装置のトレーリングアームと結合するための座部を有する。
【0003】
一方で、インホイールモータ駆動装置とは無関係に、転舵輪を懸架するサスペンション装置としては従来、例えば特許文献2に記載のごときハイマウント型ダブルウィッシュボーン式サスペンション装置が知られている。特許文献2のサスペンション装置は、車幅方向に延びるアッパアームおよびロアアームと、下端がロアアームに連結され、上端が車体側部材に連結される油圧ダンパとを備える。
【0004】
また、インホイールモータ駆動装置で転舵輪を駆動するため、インホイールモータ駆動装置をハイマウント型ダブルウィッシュボーン式サスペンション装置で懸架する技術も提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−116017号公報
【特許文献2】特開2005−178410号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】村田智史、「139-20105175 インホイールモータ駆動ユニットの開発」、学術講演会前刷集 No.28-10、社団法人自動車技術会、2010年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1のようにインホイールモータ駆動装置を転舵輪のロードホイール内空領域に設けてサスペンション装置で懸架する場合、以下に説明するような問題を生ずる。つまり非特許文献1の油圧ダンパは、車両の前後方向にみた正面視において、車輪およびインホイールモータ駆動装置の回転軸線と交差して上下方向に延びる。このため、インホイールモータ駆動装置の車幅方向内側端部が油圧ダンパと干渉しないように、転舵輪のロードホイールの軸線方向寸法を極端に大きくして、インホイールモータ駆動装置の車幅方向内側端部をロードホイール内空領域に収容する必要がある。そうすると転舵輪のキングピンがロードホイールの軸線方向中央から離れてしまい、転舵輪の転舵に支障をきたす。
【0008】
あるいは非特許文献1のロードホイールの軸線方向寸法を、特許文献2に記載される転舵輪のロードホイールの軸線方向寸法と同じになるまで短く変更すれば、インホイールモータ駆動装置の車幅方向内側端部が油圧ダンパと干渉してしまう。
【0009】
またインホイールモータ駆動装置はロードホイールとともに転舵するため、転舵角が大きくなるとインホイールモータ駆動装置と油圧ダンパが互いに干渉したり、ロードホイールと油圧ダンパが互いに干渉したりする虞がある。
【0010】
かといって、油圧ダンパの位置を変更するとすれば、インホイールモータ駆動装置を含む転舵輪の転舵に支障をきたす虞がある。
【0011】
本発明は、上述の実情に鑑み、インホイールモータ駆動装置およびロードホイールの転舵を妨げず、しかもインホイールモータ駆動装置と油圧ダンパとの干渉、および、ロードホイールと油圧ダンパとの干渉を回避することできるインホイールモータ駆動装置とダンパとの連結構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的のため本発明によるインホイールモータ駆動装置とダンパとの連結構造は、少なくとも車幅方向外側端部が転舵輪のロードホイール内空領域に設置されるインホイールモータ駆動装置と、車幅方向に延び少なくとも車幅方向外側端部がロードホイール内空領域に配置されるダンパブラケットと、ロードホイール内空領域に配置されダンパブラケットの車幅方向外側端部とインホイールモータ駆動装置とを回動可能に連結する第1ジョイントと、下端部がダンパブラケットの車幅方向内側端部と結合し上端部が車体側メンバに取り付けられインホイールモータ駆動装置のバウンドおよびリバウンドを吸収するダンパとを備える。
【0013】
かかる本発明によれば、ダンパブラケットとインホイールモータ駆動装置とを回動可能に連結する第1ジョイントが、ロードホイール内空領域に配置されることから、キングピンがロードホイール内空領域を通過して延びる転舵輪において、第1ジョイントをキングピンの近傍に配置することが可能になりインホイールモータ駆動装置の転舵を妨げることがない。
【0014】
またダンパをロードホイールよりも車幅方向内側に配置することができるので、転舵角の大小にかかわらずダンパとロードホイールとの干渉を回避することができる。
【0015】
なお第1ジョイントは例えばボールジョイントなどインホイールモータ駆動装置の転舵を許容するものであればよく、構造を特に限定されない。またダンパは例えば液圧を蓄えるシリンダであったり、減衰ばねおよび伸縮可能なロッドの組み合わせであったり、構造を特に限定されない。またダンパブラケットは少なくとも車幅方向に延びるものであればよく、ダンパブラケットがダンパ下端部と一体結合してもよいし、別体に形成されたダンパブラケットおよびダンパ下端部をボルトやバンド等で連結固定してもよい。またインホイールモータ駆動装置の軸線方向一端部が転舵輪に連結固定される場合、インホイールモータ駆動装置の軸線方向他端部はロードホイール内空領域からはみ出ても良い。
【0016】
ダンパブラケットの車幅方向外側端部とインホイールモータ駆動装置とを回動可能に連結する箇所はロードホイール内空領域に位置すればよく、詳細な配置は、特に限定されないが、本発明の一実施形態として、第1ジョイントはインホイールモータ駆動装置の上部に設けられる。かかる実施形態によれば、ダンパをインホイールモータ駆動装置よりも上方に配置することができる。したがって転舵角の大小にかかわらずダンパとインホイールモータ駆動装置との干渉を回避することができる。なおインホイールモータ駆動装置の上部とは、インホイールモータ駆動装置の軸線よりも上方にあればよく、その前後方向位置は特に限定されない。好ましい実施形態として第1ジョイントは、インホイールモータ駆動装置の軸線の略直上あるいはその近傍に配置される。
【0017】
本発明の一実施形態として、第1ジョイントはロードホイール内空領域で、ロードホイール内空領域の上側領域および下側領域を通過して延びるキングピンと重なるように配置される。かかる実施形態によれば、第1ジョイントがキングピンと重なることから、転舵力が転舵輪からダンパブラケットに入力されることがない。したがって転舵角の大小にかかわらずダンパは転舵の影響を受けず、インホイールモータ駆動装置を容易に転舵させることができる。他の実施形態として、第1ジョイントがキングピンとは重ならないもののキングピン近傍に配置されてもよい。なおキングピンとは仮想直線で構成される転舵輪の転舵軸線をいうが、第1ジョイントから離れた箇所でピン等の部品によって構成されてもよい。
【0018】
本発明の一実施形態として、インホイールモータ駆動装置は、インホイールモータ駆動装置から上方へ向かって延び根元部がロードホイール内空領域に位置し上端部がロードホイール内空領域よりも上方に位置する上下アーム部を有し、上下アーム部の上端部は車体側メンバに回動可能に連結されてキングピンの上端を構成する。かかる実施形態によれば、インホイールモータ駆動装置をその上側で転舵可能に支持する車体側メンバ、例えばサスペンション装置の上下方向に揺動可能なリンク部材、を転舵輪から遠ざけるレイアウト配置が可能になり、レイアウト配置の自由度が大きくなってサスペンション装置の乗り心地性能の改善に資する。他の実施形態として、例えばローマウント型ダブルウィッシュボーン式サスペンション装置において、上下アーム部の代わりにアッパアームの遊端をロードホイール内空領域でインホイールモータ駆動装置の上部と回動可能に連結してもよい。
【0019】
インホイールモータ駆動装置を懸架する転舵輪のサスペンション装置は特に限定されず、インホイールモータ駆動装置と車体とを連結するリンク部材の形状、本数、および配置は限定されないと理解すべきである。本発明の接続構造が適用される転舵輪のサスペンション装置は特に限定されないが、好ましい実施形態として、インホイールモータ駆動装置を懸架するサスペンション装置であって、車幅方向に延び、少なくとも車幅方向外側端部がロードホイール内空領域に配置されてインホイールモータ駆動装置に回動可能に連結されるダンパブラケットと、下端部がダンパブラケットの車幅方向内側端部と結合し、上端部が車体側メンバに取り付けられ、インホイールモータ駆動装置のバウンドおよびリバウンドを吸収するダンパと、車幅方向に延びて車幅方向内側端部が車体側メンバに連結される基端をなし、車幅方向外側端部が上下方向に揺動可能な遊端をなし、該遊端がインホイールモータ駆動装置に回動可能に連結されてロードホイール内空領域の上側領域および下側領域を通過して延びるキングピンに含まれるリンク部材とを備えるサスペンション装置である。
【0020】
かかる本発明によれば、上下方向に延びるキングピンがロードホイール内空領域を通過して延びる転舵輪において、回動可能に連結されるダンパブラケットとインホイールモータ駆動装置との連結箇所がロードホイール内空領域に配置されることから、当該連結箇所をキングピンの近傍に配置することが可能になりインホイールモータ駆動装置の転舵を妨げることがない。
【0021】
しかも車幅方向に延びるダンパブラケットを介してダンパの下端部とインホイールモータ駆動装置とを連結することから、ダンパをロードホイールよりも車幅方向内側に配置することができる。したがって、転舵角の大小にかかわらずダンパとロードホイールとの干渉を回避することができる。
【0022】
なお回動可能に連結する構成は例えばボールジョイントなどインホイールモータ駆動装置の転舵を許容するものであればよく、構造を特に限定されない。またダンパは例えば液圧を蓄えるシリンダであったり、減衰ばねおよび伸縮可能なロッドの組み合わせであったり、構造を特に限定されない。またダンパブラケットは少なくとも車幅方向に延びるものであればよく、ダンパブラケットがダンパ下端部と一体結合してもよいし、別体に形成されたダンパブラケットおよびダンパ下端部をボルトやバンド等で連結固定してもよい。またインホイールモータ駆動装置の軸線方向一端部が転舵輪に連結固定される場合、インホイールモータ駆動装置の軸線方向他端部はロードホイール内空領域からはみ出ても良い。
【0023】
好ましい実施形態としてサスペンション装置のリンク部材は、インホイールモータ駆動装置の上部と車体側メンバとを連結するアッパアームと、アッパアームよりも下方に配置されてインホイールモータ駆動装置の下部と車体側メンバとを連結するロアアームとを含む。かかる実施形態によれば、ダブルウィッシュボーン式サスペンション装置に、本発明の接続構造を適用することができる。なおインホイールモータ駆動装置の下部とは、インホイールモータ駆動装置の軸線よりも下方にあればよく、その前後方向位置は特に限定されない。好ましい実施形態としてロアアームの遊端は、インホイールモータ駆動装置の軸線の略直上あるいはその近傍でインホイールモータ駆動装置に連結される。
【発明の効果】
【0024】
このように本発明は、転舵するインホイールモータ駆動装置と転舵しないダンパ下端部とを回動可能に連結する第1ジョイントがキングピンに重なり、あるいはキングピン近傍に位置し、インホイールモータ駆動装置の転舵を妨げることがない。そして、インホイールモータ駆動装置の転舵角の大小に関わらず、インホイールモータ駆動装置とダンパとの干渉を回避することができる。本発明は、インホイールモータ駆動装置を転舵輪に設ける場合に、インホイールモータ駆動装置とサスペンション装置のダンパとの連結構造を好適に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態になるインホイールモータ駆動装置とダンパとの連結構造を含むサスペンション装置を示す正面図である。
【
図6】同サスペンション装置の最大転舵角を示す底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づき詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態になるインホイールモータ駆動装置とダンパとの連結構造を示す正面図であり、車両前方から観察した状態を表す。本実施形態の連結構造は、
図1に示すように、インホイールモータ駆動装置を懸架するサスペンション装置に採用される。
図2はこのサスペンション装置を示す側面図であり、車幅方向内側から観察した状態を表す。
図3はこのサスペンション装置を示す背面図であり、車両後方から観察した状態を表す。
図4はこのサスペンション装置を示す平面図であり、車両上方から観察した状態を表す。
図5はこのサスペンション装置を示す底面図であり、車両下方から観察した状態を表す。
図6はこのサスペンション装置の最大転舵角を示す底面図であり、左右方向の最大転舵角をそれぞれ表す。
【0027】
まずインホイールモータ駆動装置11から説明すると、インホイールモータ駆動装置11は同軸に順次直列配置されたモータ部11A、減速部11B、およびハブ部11Cを備える。転舵輪の転舵角が0°のとき、インホイールモータ駆動装置11の軸線Oは
図1に示すように車幅方向に延びる。モータ部11Aは車幅方向内側で相対的に大きな外径のケーシングに収容され、減速部11Bは車幅方向外側で相対的に小さな外径のケーシングに収容される。かかるケーシングは外郭をなす非回転部材であるに対し、ハブ部11Cは減速部11Bから車幅方向外側に突出する回転部材であり、仮想線で示す転舵輪のロードホイールWを複数のボルト19で連結固定する。
【0028】
モータ部11Aはケーシング内に回転電機を内蔵し、ハブ部11Cを駆動し、あるいはハブ部11Cの回転を利用して電力回生を行う。減速部11Bはケーシング内に例えばサイクロイド減速機などの減速機構を内蔵し、モータ部11Aの回転を減速してハブ部11Cに伝達する。なおモータ部11Aおよび減速部11Bの下部は、モータ部11Aおよび減速部11Bのケーシングよりもさらに外径側に張り出し、オイルを貯留するためのオイルタンク11Rを有する。
【0029】
相対的に車幅方向外側に位置するハブ部11Cおよび減速部11Bは、円筒形状のロードホイールWの内空領域に配置される。これに対し相対的に車幅方向内側に位置するモータ部11Aは、ロードホイールWの内空領域から車幅方向内側へ一部はみ出ている。減速部11Bの下部には第3ボールジョイント座部17が設けられる。減速部11Bの上部には上方へ突出する第1ボールジョイント座部12が設けられている。なお本実施形態では、第3ボールジョイント座部17は軸線Oの略直下に位置する。また第1ボールジョイント座部12は軸線Oの略直上に位置する。
【0030】
また減速部11Bの上部には、第1ボールジョイント座部12よりも後側から上方へ弧を描くように延びる上下アーム部13が形成されている。詳細には、上下アーム部13はその根元部でインホイールモータ駆動装置11のケーシング11Gと一体結合し、かかる根元部から中間部分13mまで一旦車幅方向内側へ向かって延び、次に中間部分13mから上端部まで車幅方向外側へ向かって延び、ロードホイールWとの干渉を回避する(
図3)。そして上下アーム部13の上端部には第2ボールジョイント座部14が設けられている。このように上下アーム部13はロードホイールWの内空領域からロードホイールWを跨ぐようにして上下方向に延びる。そして第2ボールジョイント座部14を含む上下アーム部13の上端部はロードホイールWよりも上方に位置する。
【0031】
また上下アーム部13は、その根元部から中間部分13mまで一旦後側へ向かって延び、次に中間部分13mから上端部まで前側へ向かって延びる(
図2)。
【0032】
なお上下アーム部13の上端部の第2ボールジョイント座部14から、前後アーム部15が前方へさらに延びる(
図4参照)。前後アーム部15の前端16には図示しないステアリング装置のタイロッドが連結される。
【0033】
次にインホイールモータ駆動装置11を懸架するサスペンション装置につき説明する。
【0034】
図1〜
図6に示すサスペンション装置は、ダブルウィッシュボーン式サスペンション装置であり、インホイールモータ駆動装置11の上部と連結するアッパアーム22と、インホイールモータ駆動装置11の下部と連結するロアアーム23と、インホイールモータ駆動装置11のバウンド量およびリバウンド量を減衰させるダンパ31とを備える。アッパアーム22、ロアアーム23、およびダンパ31の各部品自体は公知のものでよい。
【0035】
アッパアーム22は
図4に示すように略V字状であり、V字の両端になる車幅方向内側端部221,222を基端として図示しない車体側メンバ、例えば車体フレーム、に揺動可能に連結される。これに対しV字の中央部になる車幅方向外側端部223は遊端をなし、第2ボールジョイント24を介して、上下アーム部13の上端部の第2ボールジョイント座部14と回動可能に連結する。第2ボールジョイント24はロードホイールWよりも上方に位置し(
図1参照)、アッパアーム22の上下方向位置はローマウント型ダブルウィッシュボーン式サスペンション装置のアッパアームよりも高いことから、このサスペンション装置はハイマウント型ダブルウィッシュボーン式サスペンション装置である。なお車体側メンバとは、説明される部材からみて車体側にある部材をいうと理解されたい。
【0036】
ロアアーム23は
図5に示すように車幅方向に延びる前側アームと、この前側アームの途中から分岐して後方かつ車幅方向内側へ斜めに延びる後側アームからなり、前側の車幅方向内側端部231および後側の車幅方向内側端部232を基端として図示しない車体側メンバ、例えば車体フレーム、に揺動可能に連結される。これに対しロアアーム23の車幅方向外側端部233は遊端をなし、第3ボールジョイント25を介して、インホイールモータ駆動装置11の下部の第3ボールジョイント座部17と回動可能に連結する。
【0037】
このようにロアアーム23の車幅方向外側端部233と、第3ボールジョイント25と、インホイールモータ駆動装置11の下部に設けられた第3ボールジョイント座部17は、ロードホイールWの内空領域に配置される。なお図には示さなかったが、アッパアーム22およびロアアーム23は上述したV字形状あるいは分岐形状以外のアーム部材であってもよいこと勿論である。
【0038】
上側の第2ボールジョイント24および下側の第3ボールジョイント25は、インホイールモータ駆動装置11の転舵を可能にする。すなわち第2ボールジョイント24および第3ボールジョイント25を通る仮想直線はキングピンKを構成する。そして、インホイールモータ駆動装置11とロードホイールWを含む転舵輪は、キングピンKを中心として左右方向に転舵可能にされる。
図6は、右方向および左方向に最大転舵角まで転舵する場合のロアアーム23およびインホイールモータ駆動装置11の位置関係を示す。本実施形態は、例えば車両の左右の前輪に使用される。
【0039】
インホイールモータ駆動装置11とダンパ31との連結構造につき説明する。
【0040】
インホイールモータ駆動装置11のケーシングに設けられた第1ボールジョイント座部12は第1ボールジョイント18を介してダンパブラケット32の車幅方向外側端部321に回動可能に連結される。第1ボールジョイント18によりインホイールモータ駆動装置11が転舵してもダンパブラケット32は転舵しない。ダンパブラケット32は車幅方向に延び、少なくとも車幅方向外側端部321がロードホイールWの内空領域に配置される(
図1、
図3)。またダンパブラケット32の車幅方向内側端部322は、上下方向に延びる円筒スリーブ形状に形成され、この円筒スリーブ内にダンパ31の下端部311が差し込み固定される。かかる差し込み固定は、円筒スリーブの外周に取り付けられたボルト323を締め付けて円筒スリーブを縮径させることによって行う。
【0041】
ダンパ31は上下方向に延び、その下端部311がダンパブラケット32の車幅方向内側端部322と結合し、その上端部312が図示しない車体側メンバ、例えばホイールハウジングの頂上部、取り付けられる。アッパアーム22およびロアアーム23が上下に揺動してインホイールモータ駆動装置11が車体に対してバウンドおよびリバウンドすると、ダンパ31が伸縮してインホイールモータ駆動装置11のバウンドおよびリバウンドを減衰させる。
【0042】
ここで付言すると、モータ部11Aの上部には端子ボックス11Eが附設され、端子ボックス11Eから3本の電力線26および1本の信号線27が上方へ向かって延びる。端子ボックス11Eの上下方向位置はダンパブラケット32の上下方向位置と略同じであるが、ダンパブラケット32は端子ボックス11Eよりも車幅方向外側に位置する(
図3参照)。また第1ボールジョイント18は、ロードホイールWの内空領域で、ロードホイールWの内空領域の上側領域および下側領域を通過して延びるキングピンKと重なるように配置される。したがってインホイールモータ駆動装置11が転舵しても、ダンパブラケット32およびダンパ31がともに転舵することはない。これにより、インホイールモータ駆動装置11を含む転舵輪の好適な転舵を実現することができる。
【0043】
ところで本実施形態によれば、少なくとも車幅方向外側端部が転舵輪のロードホイールWの内空領域に設置されるインホイールモータ駆動装置11と、車幅方向に延びて少なくとも車幅方向外側端部がロードホイールWの内空領域に配置されるダンパブラケット32と、ロードホイールWの内空領域に配置されてダンパブラケット32の車幅方向外側端部321とインホイールモータ駆動装置11とを回動可能に連結する第1ボールジョイント18と、下端部311がダンパブラケット32の車幅方向内側端部322と結合し、上端部312が車体側メンバに取り付けられ、インホイールモータ駆動装置11のバウンドおよびリバウンドを吸収するダンパ31とを備える。
【0044】
かかるインホイールモータ駆動装置11とダンパ31との連結構造によれば、ダンパブラケット32とインホイールモータ駆動装置11とを回動可能に連結する第1ボールジョイント18が、
図1および
図3に示すようにロードホイールWの内空領域に配置されることから、第1ボールジョイント18をキングピンKの近傍に配置することが可能になり、インホイールモータ駆動装置11の転舵を妨げることがない。
【0045】
またダンパ31をロードホイールWよりも車幅方向内側に配置することができるので、転舵角の大小にかかわらずダンパ31とロードホイールWとの干渉を回避することができる。
【0046】
また本実施形態によれば、第1ボールジョイント18はインホイールモータ駆動装置11の上部に設けられる。これにより車幅方向に延びるダンパブラケット32を介してダンパ31の下端部311とインホイールモータ駆動装置11の上部とを連結することから、ダンパ31をインホイールモータ駆動装置11よりも上方に配置することができる。したがって転舵角の大小にかかわらずダンパ31とインホイールモータ駆動装置11との干渉を回避することができる。
【0047】
また本実施形態によれば、第1ボールジョイント18はロードホイールWの内空領域で、ロードホイールWの内空領域の上側領域および下側領域を通過して延びるキングピンKと重なるように配置されることから、転舵力が転舵輪からダンパブラケット32に入力されることがない。したがって転舵角の大小にかかわらずダンパ31は転舵の影響を受けず、インホイールモータ駆動装置11を容易に転舵させることができる。
【0048】
また本実施形態によれば、インホイールモータ駆動装置11はインホイールモータ駆動装置11の外郭から上方へ向かって延び根元部がロードホイールWの内空領域に位置し上端部がロードホイールWの内空領域よりも上方に位置する上下アーム部13を有し、上下アーム部13の上端部は第2ボールジョイント24を介してアッパアーム22に回動可能に連結されてキングピンKの上端を構成する。これによりインホイールモータ駆動装置11をインホイールモータ駆動装置11の上側で転舵可能に支持するアッパアーム22を転舵輪から遠ざけるレイアウト配置が可能になり、アッパアーム22のレイアウトの自由度が大きくなってサスペンション装置の乗り心地性能の改善に資する。
【0049】
また
図1〜
図6に示すサスペンション装置は、インホイールモータ駆動装置11を懸架するために、車幅方向に延びて少なくとも車幅方向外側端部321がロードホイールWの内空領域に配置されてインホイールモータ駆動装置11に回動可能に連結されるダンパブラケット32と、下端部311がダンパブラケット32の車幅方向内側端部322と結合し、上端部312が車体側メンバに取り付けられ、インホイールモータ駆動装置11のバウンドおよびリバウンドを吸収するダンパ31と、車幅方向に延びて車幅方向内側端部が車体側メンバに連結される基端をなし、車幅方向外側端部が上下方向に揺動可能な遊端をなし、該遊端がインホイールモータ駆動装置11に回動可能に連結されてロードホイールWの内空領域の上側領域および下側領域を通過して延びるキングピンKに含まれるアッパアーム22およびロアアーム23とを備える。これにより、ダンパブラケット32とインホイールモータ駆動装置11とを回動可能に連結する第1ボールジョイント18をキングピンKの近傍に配置することが可能になり、インホイールモータ駆動装置11およびロードホイールWを含む転舵輪の転舵を好適に実現することができる。
【0050】
また
図1〜
図6に示すサスペンション装置は、基端および遊端を有する上下方向に揺動可能なリンク部材として、インホイールモータ駆動装置11の上部と車体側メンバとを連結するアッパアーム22と、アッパアーム22よりも下方に配置されてインホイールモータ駆動装置11の下部と車体側メンバとを連結するロアアーム23とを含む。これによりダブルウィッシュボーン式サスペンション装置でインホイールモータ駆動装置11を転舵可能に懸架することができる。
【0051】
また、モータ部11Aに採用されるモータは埋込磁石型同期モータ(ずなわちIPMモータ)がよい。またラジアルギャップモータであってもよいし、アキシアルギャップモータであってもよい。
【0052】
さらに、この発明に係るインホイールモータ駆動装置11においては、サイクロイド減速機の例を挙げたが、これに限ることなく、遊星減速機、2軸並行減速機、その他の減速機を適用可能であり、また、減速機を採用しない、所謂ダイレクトモータタイプであってもよい。
【0053】
以上、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明したが、この発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
この発明になるインホイールモータ駆動装置のダンパ連結構造は、電気自動車およびハイブリッド車両において有利に利用される。
【符号の説明】
【0055】
11 インホイールモータ駆動装置、 12 第1ボールジョイント座部、 13 上下アーム部、 14 第2ボールジョイント座部、 17 第3ボールジョイント座部、 18 第1ボールジョイント、 22 アッパアーム、 23 ロアアーム、 24 第2ボールジョイント、 25 第3ボールジョイント、 31 ダンパ、 32 ダンパブラケット、 K キングピン、 O インホイールモータ駆動装置の軸線、 W ロードホイール。