【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の少なくとも一実施形態に係る風力発電設備は、
風車翼を含むロータと、
前記ロータを回転可能に支持するためのナセルと、
前記ナセルを旋回させるように構成されたヨー駆動部と、
前記風車翼のピッチ角を変化させるように構成されたピッチ駆動部と、
前記ピッチ駆動部にピッチ角指令値を与えて前記ピッチ駆動部を制御するように構成された制御装置と、
を備える風力発電設備であって、
前記制御装置は、
少なくとも前記ロータの回転数に基づいてピッチ角要求値を算出するように構成された要求値算出部と、
少なくとも風向と前記ナセルの向きとの間の角度が閾値A
1(ただし、A
1>0である。)以上であるときに、フルファインピッチ角とフルフェザーピッチ角との間のピッチ角をリミット値として設定するためのリミット値設定部と、
前記ピッチ角要求値が前記リミット値よりも前記フルファインピッチ角側にある場合、前記リミット値を前記ピッチ角指令値に設定するとともに、前記ピッチ角要求値が前記リミット値である、又は、前記フルフェザーピッチ角側にある場合、前記ピッチ角要求値を前記ピッチ角指令値に設定するように構成された指令値算出部と、
を含む。
【0007】
風向偏差が所定値よりも大きい場合、風車翼に実際に作用する風速に対してロータ正面からの風速成分が小さいため、ロータ回転数を維持するためにピッチ角要求値はフルファインピッチ角に近い値をとることになり、このことが翼の過大荷重発生の原因となる。
この点、上記(1)の構成では、風向とナセルの向きとの間の角度(風向偏差)が所定値よりも大きい場合に、ピッチ角のリミット値をフルファインピッチ角よりもフェザー側の値に設定し、ロータ回転数に基づいて算出されるピッチ角要求値に対して該リミット値による制限を付与するようにした。これにより、風向偏差が所定値よりも大きい場合であっても、風車翼のピッチ角がフルファインピッチ角付近に維持されるのを防ぐことができ、風向変化に起因する翼過大荷重を回避することができる。
なお、上記(1)のようなピッチ角のリミット値を設けなくても、風力発電設備をシャットダウンさせて風車翼のピッチ角をフルフェザーピッチ角にすることにより、風車翼に加わる荷重を低減させることも可能な場合がある。しかしながら、この場合、シャットダウン中に、風車翼のピッチ角がフルフェザーに移行する過程において、複数の風車翼間に大きな荷重偏差が生じるため、タワートップに大きな荷重が発生する場合がある。この点、上記(1)の構成では、風力発電設備をシャットダウンさせることなく翼過大荷重を回避できるので、翼及びタワートップの過大荷重も回避することができる。
【0008】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)の構成において、前記リミット値設定部は、前記風向と前記ナセルの向きとの間の前記角度に基づいて前記リミット値を決定するように構成される。
上記(2)の構成によれば、風向偏差に応じて適切なピッチ角のリミット値を設定することができる。
【0009】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)の構成において、前記リミット値設定部は、前記風向と前記ナセルの向きとの間の前記角度と前記閾値A
1との大小関係によらず設定されるベースリミット値と、前記風向と前記ナセルの向きとの間の前記角度が前記閾値A
1(ただし、A
1>0である。)以上であるときに前記角度に基づいて定まるリミット補正量との和を前記リミット値として設定するように構成される。
典型的な風力発電設備には、風向偏差によらないピッチ角のリミットが設定されたロジックを採用したものがある。上記(3)の構成によれば、風向偏差が所定値よりも大きい場合に、風向偏差によらずに設定されるベースリミット値と風向偏差に基づいて定まるリミット補正量との和をピッチ角のリミット値として設定するので、典型的な風力発電設備のロジックに対する簡単な修正により、上記(1)又は(2)で述べた制御装置を構築することができる。
【0010】
(4)幾つかの実施形態では、上記(2)または(3)の構成において、前記リミット値設定部は、前記風向と前記ナセルの向きとの間の前記角度が前記閾値A
1よりも大きい閾値A
2以上であるときに、前記リミット値を、前記角度が前記閾値A
1であるときよりもフェザー側に近づけるように構成される。
風向偏差が大きいほど、実際の風速に比べて風速の正面成分が小さくなるため、回転数制御によるピッチ角要求値はよりファイン側の値となり、翼に作用する荷重が大きくなる傾向となる。
この点、上記(4)の構成では、風向偏差がA
1であるときよりも、風向偏差がA
1よりも大きい閾値A
2以上であるときにピッチ角のリミット値をよりフェザー側に設定して、翼に作用する荷重をより減少させるようにしたので、風向変化に起因する翼過大荷重を適切に回避することができる。
【0011】
(5)幾つかの実施形態では、上記(4)の構成において、前記リミット値設定部は、前記風向と前記ナセルの向きとの間の前記角度が前記閾値A
1以上前記閾値A
2以下である範囲において、前記角度の増加とともに、前記リミット値をフェザー側に近づけるように構成される。
上記(5)の構成では、風向偏差がA
1以上A
2以下である範囲において、風向偏差の増加とともにリミット値をフェザー側に近づけるようにしたので、風向変化に起因する翼過大荷重をより適切に回避することができる。
【0012】
(6)幾つかの実施形態では、上記(5)の構成において、前記リミット値設定部は、前記風向と前記ナセルの向きとの間の前記角度が前記閾値A
1以上前記閾値A
2以下である範囲において、前記リミット値を前記角度に比例して増加させるように構成される。
【0013】
(7)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(6)の何れかの構成において、前記リミット値設定部は、風速に基づいて前記リミット値を決定するように構成される。
上述のように、風向偏差が所定値以上である場合、ロータ正面の風速成分が小さいため、ロータ回転数を維持しようとしてピッチ角要求値はファイン側に固定されてしまい、翼に作用する荷重が大きくなる傾向にある。このとき、風車翼に作用する風速が大きいほど、ピッチ角要求値がファイン側に固定されることによる荷重増大傾向は顕著である。
この点、上記(7)の構成では、風速に基づいてリミット値を決定するようにしたので、翼の荷重を効果的に低減できる。
【0014】
(8)幾つかの実施形態では、上記(7)の構成において、前記リミット値設定部は、前記風速が閾値U
1よりも大きい閾値U
2以上であるときに、前記リミット値を、前記風速が前記閾値U
1であるときよりもフェザー側に近づけるように構成される。
上述のように、風向偏差が所定値以上である場合、風車翼に作用する風速が大きいほど、ピッチ角要求値がファイン側に固定されることによる荷重増大傾向は顕著である。
この点、上記(8)の構成では、風速がU
1であるときよりも、風速がU
1よりも大きいU
2以上である時にピッチ角のリミット値をよりフェザー側に設定して、翼に作用する荷重をより減少させるようにしたので、翼の荷重を効果的に低減できる。
【0015】
(9)幾つかの実施形態では、上記(8)の構成において、前記リミット値設定部は、前記風速が前記閾値U
1以上前記閾値U
2以下である範囲において、前記風速の増加とともに、前記リミット値をフェザー側に近づけるように構成される。
上記(9)の構成では、風速がU
1以上U
2以下である範囲において、風速の増加とともにリミット値をフェザー側に近づけるようにしたので、風向変化に起因する翼過大荷重をより適切に回避することができる。
【0016】
(10)幾つかの実施形態では、上記(9)の構成において、前記リミット値設定部は、前記風速が前記閾値U
1以上前記閾値U
2以下である範囲において、前記リミット値を前記風速に比例して増加させるように構成される。
【0017】
(11)幾つかの実施形態では、上記(1)〜(10)の何れかの構成において、前記閾値A
1は、30°以上50°以下である。
ある風車機種においては風向偏差が30°未満の場合、実際の風速とロータ正面の風速成分とのずれが比較的小さいため、風速がある程度大きければロータ回転数制御の下でピッチ角要求値はフェザー側に調節される。このため、風向偏差が30°未満の場合には翼に過大荷重が作用することは少ない。
一方、風向偏差が50°を超える場合、実際の風速とロータ正面の風速成分とのずれが大きく、風車翼に作用する風速がある程度大きくても、ロータ回転数制御の下でピッチ角要求値はフルファインピッチ角に固定されてしまうことが多い。このため、風向偏差が50°を超える場合、翼に過大荷重が作用しやすい。
この点、上記(11)の構成によれば、前記閾値A
1を30°以上50°以下に設定したので、翼荷重の発生レベルに応じて上記(1)〜(10)で述べたリミット値によるピッチ角の制限を行って、翼過大荷重を効果的に回避できる。
【0018】
(12)幾つかの実施形態では、上記(4)〜(6)の何れかの構成において、前記閾値A
2はA
2(°)≧A
1(°)+5°を満たす。
上述したように、風向偏差が大きいほど、実際の風速に比べて風速の正面成分が小さくなるため、回転数制御によるピッチ角要求値はよりファイン側の値となり、翼に作用する荷重が大きくなる傾向となる。このため、風向偏差が大きくなるにしたがって、ロータ回転数に基づいて算出されるピッチ角要求値に対してリミット値による制限を付与する必要性が増大する。
この点、上記(12)の構成によれば、ピッチ角のリミット値のための閾値A
1とA
2との間隔を5°以上としたので、ピッチ角要求値に対して制限を付与する必要性に応じた適切なリミットをかけることができる。
【0019】
(13)幾つかの実施形態では、上記(4)〜(10)の何れかの構成において、前記リミット値設定部は、前記風向と前記ナセルの向きとの間の前記角度が前記A
2のときにフルファインピッチ角に対してΔθだけフェザー側のピッチ角をリミット値として設定するように構成され、前記Δθは、2°≦Δθ(°)≦15°を満たす。
風向偏差が所定値以上である場合、上述したようにピッチ角がフルファインピッチ角近傍に固定されると、翼過大荷重が生じるおそれがある。一方、ピッチ角をある程度フェザー側にしてしまうと、風力発電設備をシャットダウンさせる過程と同様の問題が生じうる。すなわち、風向偏差が所定値以上であるときに、ピッチ角がある程度フェザー側にあると、複数の風車翼間に大きな荷重偏差が生じるため、タワートップに大きな荷重が発生する場合がある。
この点、上記(13)の構成によれば、フルファインピッチ角よりも2°〜15°だけフェザー側のピッチ角を風向偏差がA
2の時のリミット値としたので、風向偏差に起因する翼およびタワートップの過大荷重発生を適切に回避することができる。
【0020】
(14)本発明の少なくとも一実施形態に係る風力発電設備の制御方法は、
風車翼を含むロータと、
前記ロータを回転可能に支持するためのナセルと、
前記ナセルを旋回させるように構成されたヨー駆動部と、
前記風車翼のピッチ角を変化させるように構成されたピッチ駆動部と、
を含む風力発電設備の制御方法であって、
前記ピッチ駆動部にピッチ角指令値を与えて前記ピッチ駆動部を制御するピッチ制御ステップと、
少なくとも前記ロータの回転数に基づいてピッチ角要求値を算出するように構成された要求値算出ステップと、
少なくとも風向と前記ナセルの向きとの間の角度が閾値A
1(ただし、A
1>0である。)以上であるときに、フルファインピッチ角(θ
0)とフルフェザーピッチ角との間のピッチ角をリミット値として設定するためのリミット値設定ステップと、
前記ピッチ角要求値が前記リミット値よりも前記フルファインピッチ角側にある場合、前記リミット値を前記ピッチ角指令値に設定するとともに、前記ピッチ角要求値が前記リミット値である、又は、前記フルフェザーピッチ角側にある場合、前記ピッチ角要求値を前記ピッチ角指令値に設定するように構成された指令値算出ステップと、
を備える。
【0021】
風向偏差が所定値よりも大きい場合、風車翼に実際に作用する風速に対してロータ正面からの風速成分が小さいため、ロータ回転数を維持するためにピッチ角要求値はフルファインピッチ角に近い値をとることになり、このことが翼の過大荷重発生の原因となる。
この点、上記(14)の方法では、風向とナセルの向きとの間の角度(風向偏差)が所定値よりも大きい場合に、ピッチ角のリミット値をフルファインピッチ角よりもフェザー側の値に設定し、ロータ回転数に基づいて算出されるピッチ角要求値に対して該リミット値による制限を付与するようにした。これにより、風向偏差が所定値よりも大きい場合であっても、風車翼のピッチ角がフルファインピッチ角付近に維持されるのを防ぐことができ、風向変化に起因する翼過大荷重を回避することができる。
なお、上記(14)のようなピッチ角のリミット値を設けなくても、風力発電設備をシャットダウンさせて風車翼のピッチ角をフルフェザーピッチ角にすることにより、風車翼に加わる荷重を低減させることで翼過大荷重を回避することも可能な場合がある。しかしながら、この場合、シャットダウン中に、風車翼のピッチ角がフルフェザーに移行する過程において、複数の風車翼間に大きな荷重偏差が生じるため、タワートップに大きな荷重が発生する場合がある。この点、上記(14)の方法では、風力発電設備をシャットダウンさせることなく翼過大荷重を回避できるので、翼及びタワートップの過大荷重も回避することができる。