【実施例】
【0026】
以下、本実施例の擁壁構築工法について、説明する。
図1は、本発明の擁壁構築工法を適用する地山斜面の地形断面図である。
ここで、
図1に示すように、本発明の擁壁構築工法が適用される地山斜面Kは、斜面下方に位置する地面Pと地面Pより上方に位置する地面Tとにより挟まれ、傾斜を有している。
【0027】
まず、
図2は、
図1における地山斜面の掘削領域Hを示す。
このような掘削領域Hは、地山斜面Kの法尻下方を地山斜面Kの遠端側に向けて地面Pを掘削し、地山斜面Kの法尻下方に沿って形成される溝として形成される。
【0028】
そして、
図3および
図4に示すように、本発明に特有の補強材一体ふとん籠110は、後述するようなふとん籠111とこのふとん籠111と一体になった補強材112とを備えたものである。
したがって、
図3の補強材一体ふとん籠110の設置状態で示すように、前述した掘削領域Hにおいて地面Pを掘削する深さについては、補強材一体ふとん籠110の一部を構成するふとん籠111の高さの半分程度とする。
また、地面Pを地山斜面Kの遠端側に向けて掘削する掘削幅(掘削領域Hの
図2に対する左右の長さ)については、後に示すように、補強材一体ふとん籠110の補強材112を地山斜面Kに向け、ふとん籠111を地山斜面Kの遠端側に向けて掘削領域Hの底面に設置するのに十分な幅とする。
さらに、掘削領域Hの底面は、水平面とし、必要に応じて、振動ローラ、ハンドガイドローラ、タンパ、ランマ、プレートコンパクタなどを用いて締め固めるのが好ましい。
また、掘削領域Hの底面は、地耐力を有していなければならない。
【0029】
図4は、本実施例で用いる補強材一体ふとん籠110の具体的な形態を示す斜視図である。
図4に示すように、補強材一体ふとん籠110の一部を構成するふとん籠111は、直方体形状の籠網体を構成する6つの保形面、すなわち、ふとん籠111の上面に配置する網目状蓋部111aと、この網目状蓋部111aに連続して順次形成される網目状前方保形面111b、網目状底保形面111c、網目状後方保形面111dと、これらに連結される2つの網目状側方保形面111e、111eを備え、これらの6つの保形面で内部空間S1を画成している。
このようにして得られたふとん籠111の開閉自在な網目状蓋部111aを開くことにより、ふとん籠111の内部空間S1には、排水用骨材材料120が充填される。
【0030】
ここで、これら網目状蓋部111a、網目状前方保形面111b、網目状底保形面111c、網目状後方保形面111d、網目状側方保形面111eの網目の大きさについては、ふとん籠111の内部空間S1に充填される排水用骨材材料120よりも小さい網目寸法を有しているため、ふとん籠111の内部空間S1に充填される排水用骨材材料120がふとん籠111の外部に零れ落ちることがない。
なお、ふとん籠111の内部には、ふとん籠111の内部空間S1を複数の内部空間に仕切る仕切り保形部材が配置されていてもよい。
図4では、ふとん籠111の内部空間S1は、1つの仕切り保形部材により2つの内部空間に仕切られている。
【0031】
他方、
図4に示すように、補強材一体ふとん籠110のふとん籠111に連続して構成される補強材112については、一枚物として連続的に生産された物で構成されている。
したがって、補強材112は、ふとん籠111の網目状底保形面111cと面一状態で、前述した掘削領域Hに敷設することができるばかりでなく、補強材一体ふとん籠110のふとん籠111と補強材112との相互間で不要な緩みが生じること無く、補強材一体ふとん籠110の設置形態を長期に亘って安定させることができる。
さらに、補強材一体ふとん籠110のふとん籠111と補強材112とが一体となって地山斜面から生じる土圧に抵抗するため、ふとん籠のはらみ出しと称する、ふとん籠111の網目状前方保形面111bの前方への変形や膨出を抑制することができる。
【0032】
また、ふとん籠111および補強材112の素材
となる線材については、
メッキ被覆された鋼線からなる芯材層と該芯材層を被覆する樹脂からなる被覆層とで構成され、例えば、通称ガルファンと呼ばれる溶融亜鉛に5%のアルミニウムを加えた合金をメッキした内部被覆に、PVCコーティングによる外部被覆を施した線材内径2.7mm、線材外径3.7mmの鋼線112aなどが用いられる。
これにより、樹脂からなる外部被覆が、耐候性や耐酸性・耐アルカリ性があるとともに、塩害被害を防止するので、鋼線112aの摩耗や腐食による性能劣化を抑制して擁壁100の剛性が長期的に保持される。
このような鋼線112aを編むことにより、例えば、ふとん籠111および補強材112の網目内寸法が80mm、120mmとなる亀甲型網目状に形成する。
この亀甲型網目により、補強材一体ふとん籠110は、外力に対する保形性を発揮するとともに通水性を発揮する。
また、補強材一体ふとん籠110の排水性が向上することにより、地山中の水分が補強材一体ふとん籠110を介して排水され易くなり、補強材一体ふとん籠110および地山の内部における地下水や浸透水を擁壁100から外側に放出して余分な水分の蓄積による水位の上昇を早期に防止し、豪雨時や地震発生の際に、地山斜面Kの変形や円弧すべりさせようとする力が発生した場合であっても、擁壁100によって壁面の形状を保持する。
【0033】
なお、ふとん籠111および補強材112の保形性を向上させるため、例えば、ふとん籠111において直方体形状の籠網体を構成する6つの保形面の外周囲に配線する鋼線は、その内側に配線される鋼線112aよりもやや太いほうが望ましく、補強材112に用いる鋼線についても同様に、外周囲に配線する鋼線は、その内側に配線される鋼線112aよりもやや太いほうが望ましい。
【0034】
図5は、補強材一体ふとん籠110の組み立て過程を示す説明図である。
補強材一体ふとん籠110は、
図4に示すように、ふとん籠111が直方体形状などの立体的な構造を常時有している必要はなく、
図5(A)のように、平面的な形状を有した状態で運搬自在とし、この補強材一体ふとん籠110の設置現場やこのような設置現場とは異なる場所にて組み立てても良い。
図5(A)に示すように、補強材一体ふとん籠110は、ふとん籠111の四角筒形状の網目状蓋部111a、網目状前方保形面111b、網目状底保形面111c、網目状後方保形面111dが連続している。
そして、網目状前方保形面111bおよび網目状底保形面111cは、補強材112と強固に連続した構造となっている。
【0035】
まず、
図5(B)に示すように、網目状前方保形面111bおよび保形面111aを、網目状前方保形面111bが網目状底保形面111cと連結する辺を中心軸として90度回転させ起立させる。
次に、
図5(B)に示すように、網目状後方保形面111dを、網目状底保形面111cおよび補強材112が連結されている一辺を中心軸として90度回転させ起立させる。
また、網目状後方保形面111dを起立させる際には、2つの網目状側方保形面111e、111eを、網目状後方保形面111dを回転させる方向に90度回転させる。
これにより、
図5(c)に示すように、ふとん籠111の内部空間S1が形成され、排水用骨材材料120を充填自在となる。
図5(c)に示すように、網目状蓋部111aは、ふとん籠111の上面として使用されることになり、排水用骨材材料120を充填した後、保形面111aを、網目状前方保形面111bが連結する辺を中心軸として90度回転させる。
なお、組み立て後の補強材一体ふとん籠110において、網目状前方保形面111bを、補強材一体ふとん籠110の前面と称する場合がある。
【0036】
図6は、補強材一体ふとん籠110を掘削領域Hの底面に設置した後に、網目状蓋部111aを開いた状態として、ふとん籠111の内部空間S1に排水用骨材材料120を充填した状態を示す。
排水用骨材材料120については、ぐり石や単粒度材などの比較的大きな粒径を有する材料を使用している。
ここで言う、比較的とは、後に、
補強材112の上に敷設される補強用骨材材料130の粒径と比較した場合を意味している。
排水用骨材材料120は、人手によってふとん籠111の内部空間S1に充填されてもよいし、掘削領域Hに重機を隣接させ、その重機を用いてふとん籠111の内部空間S1に充填させてもよい。
【0037】
図7は、補強材一体ふとん籠110を掘削領域Hの底面に設置し、排水用骨材材料120をふとん籠111の内部空間S1に充填し、網目状蓋部111aを閉じた後に、補強材112の上に、補強用骨材材料130を敷均しして締固めており、1層目のふとん籠補強層を形成した状態を示す。
補強用骨材材料130としては、ふとん籠111の内部空間S1に充填された排水用骨材材料120よりも小さな粒径を含む材料を使用する。
例えば、補強用骨材材料130として、クラッシャランやレキ質材を使用することができる。
上述したように、排水用骨材材料120の粒径は、補強用骨材材料130の粒径よりも大きい。
このため、ふとん籠111の内部空間S1に充填した排水用骨材材料120と、補強材112の上の補強空間S2に締固めた補強用骨材材料130とは、締固め度が異なり、補強材112の上の
補強空間S2に締固めた補強用骨材材料130のほうが、ふとん籠111の内部空間S1に充填した排水用骨材材料120よりも締固め度が大きくなる。
これにより、補強材112の上の補強空間S2に締固めた補強用骨材材料130の単位体積当たりの重量を、ふとん籠111の内部空間S1に充填した排水用骨材材料120の単位体積当たりの重量よりも大きくすることができる。
また、補強材112は、ふとん籠111の底面となる網目状底保形面111cの長さより長くしている。
これにより、ふとん籠111の内部に充填した排水用骨材材料120の総重量よりも、補強材112の上に締固めた補強用骨材材料130の総重量が大きくなり、掘削領域Hに設置された補強材一体ふとん籠110の重心は、地山斜面K側に位置することになる。
したがって、掘削領域Hに設置された補強材一体ふとん籠110の上に構造物を安定して配置することができる。
なお、補強材112の上の補強空間S2に補強用骨材材料130を締固めする際、その補強空間S2の締固め度を上げるために、ローラRなどを用いてさらに締固めることも可能である。
上述したように、補強材一体ふとん籠110を設置する作業とこれに続いて実行する補強材一体ふとん籠110に排水用骨材材料120を充填するとともに補強用骨材材料130を締固めする作業とで構成されるふとん籠補強層造成工事を1回行なうことにより、地山斜面Kの遠端側となる掘削領域Hに1層目のふとん籠補強層が造成される。
【0038】
なお、掘削領域Hの幅が、補強材一体ふとん籠110の長さよりも広くなっている場合に
補強材一体ふとん籠110を敷設すると、掘削領域Hの底面の地山斜面K側に、補強材112により覆われていない部分が発生する。
このような場合には、補強材112の上に補強用骨材材料130を締固めしながら、補強材112により覆われていない部分には、土砂を締固めしてもよい。
土砂を敷設することにより、現地発生土の有効利用やコストを削減することができる。
なお、補強材112により覆われていない部分にも、補強材112の上に敷設される補強用骨材材料130を敷設してもよい。
【0039】
図8は、排水用骨材材料120を充填するとともに補強用骨材材料130を締固めした1層目のふとん籠補強層が造成された状態で、前述したふとん籠補強層造成工事をさらに1回行なうことで、1層目のふとん籠補強層の上に2層目のふとん籠補強層を造成した状態を示す。
すなわち、1層目のふとん籠補強層の上に、補強材一体ふとん籠110Bを載置し、補強材一体ふとん籠110Bの内部空間S1に排水用骨材材料120を充填するとともに、補強材一体ふとん籠110Bの補強材の上に形成された補強空間S2に補強用骨材材料130を締固めした状態を示す。
【0040】
すでに造成された下層のふとん籠補強層の上に別のふとん籠補強層(上層のふとん籠補強層)を造成する場合は、
図8に示すように、上層のふとん籠補強層は、下層のふとん籠補強層よりも、地山斜面Kの側に距離iだけ水平方向に移動(セットバック)した状態で造成される。
すなわち、補強材一体ふとん籠110Bは、補強材一体ふとん籠110Aよりも、地山斜面Kの側に距離iだけ水平方向に移動させてある。
この距離iについては、上層側のふとん籠と下層側のふとん籠の重複部分がとれるところまで設定可能である。
【0041】
また、i=0の場合には、下層のふとん籠補強層と上層のふとん籠補強層との補強材一体ふとん籠110の前面を揃えることができ、ふとん籠補強層造成工事を繰り返し行なうことにより、垂直な壁面を構築することができる。
また、0<iの場合には、iの上限を、ふとん籠111の高さの0.1倍として、ふとん籠補強層造成工事を繰り返し行なうことにより、擁壁100が、擁壁100の高さに対して天面を地山斜面Kの方向に後退させる割合が1:0.1より緩くなり、急勾配の壁面を構築することができる。
また、0<iの場合には、iの上限を、網目状蓋部111aの幅(ふとん籠111の前面と前面に対向する面との距離)より小さくすることにより、下層側のふとん籠111と上層側のふとん籠111との一部が重複される。
この場合、下層のふとん籠補強層の網目状蓋部111aの全てまたは一部が、上層のふとん籠補強層により覆われ、下層のふとん籠補強層の網目状蓋部111aが開かないようにすることができる。
また、0<iの場合には、iの上限を、網目状蓋部111aの幅より小さくすることにより、下層のふとん籠補強層の上面となる網目状蓋部111aおよび上層のふとん籠補強層の底面となる網目部111eを介して、下層のふとん籠補強層に充填された排水用骨材材料120と上層のふとん籠補強層に充填された排水用骨材材料120の表面同士が相互に接触し、排水用骨材材料120の凹部と凸部とが噛み合うことにより、下層のふとん籠補強層と上層のふとん籠補強層を一体化する。
【0042】
また、
図8を再度参照すると、地山斜面Kは、傾斜しているので、補強材一体ふとん籠110の補強材112より上の補強空間S2と地山斜面Kとの間に隙間空間S3が形成される。
この隙間空間S3には、任意の材料を配置することができ、例えば、補強用骨材材料130と同じものを配置することもできる。
あるいは、この隙間空間S3には、補強用骨材材料130よりも粒径が幅広い土砂を配置することもでき、現地発生土の有効利用やコストの削減が可能である。
【0043】
図9は、2層目のふとん籠補強層の上にさらに、3層目、4層目、5層目のふとん籠補強層を順に構築した状態を示し、最上位のふとん籠補強層が地面Tと同程度の高さになり、最上位のふとん籠補強層の上部に、新たな地盤や舗装面を形成した状態を示す。
【0044】
図10に示すように、1層目のふとん籠補強層の底面(掘削領域Hの底面)から最上位(5層目)のふとん籠補強層の上面までの高さをhとし、1層目のふとん籠補強層の補強材一体ふとん籠110のふとん籠111の前面から5層目のふとん籠補強層の補強材一体ふとん籠110のふとん籠111の地山斜面Kの前面への水平距離をLとする。
すなわち、1層目のふとん籠補強層から5層目のふとん籠補強層のふとん籠111により形成される壁面の傾斜は、壁面の高さhに対して天面を地山斜面Kの方向にL後退させたことになる。
このとき、L=(5−1)×iとなる。
また、Iに対するiの大きさの割合を、1:0.1より緩くすることにより、急勾配の擁壁
100を形成することができる。
【0045】
上述のように、本発明によれば、下層側のふとん籠111と上層側のふとん籠111との一部を重複することにより、下層のふとん籠補強層に充填された排水用骨材材料120と上層のふとん籠補強層に充填された排水用骨材材料120の表面同士が相互に接触して、下層のふとん籠補強層と上層のふとん籠補強層を一体化し、その結果として、ふとん籠補強層造成工事を繰り返すことにより造成される擁壁が一体化される。
この一体化は、排水用骨材材料120を充填する内部空間S1と補強用骨材材料130を締固めする補強空間S2とを区分けしているため、より一層強化される。
【0046】
特に、排水用骨材材料120の充填する位置をふとん籠111内とし、補強用骨材材料130を締固めする位置を補強材
112の上とし、排水用骨材材料120よりも補強用骨材材料130の粒径は小さいものを含み十分締固めすることにより、ふとん籠補強層の重心を地山斜面K側に移動させて一体化を図るため、擁壁100を安定化することができる。
【0047】
つぎに、
図11は、本発明を崩落した地山斜面に適用した場合の説明図である。
ここで、
図11に示すように、本発明の擁壁構築工法が適用される地山斜面Kは、豪雨や地震により発生したがけ崩れや土砂崩落の復旧作業として、仮想線Mで示すような崩落前の地形から崩落した土砂を取り除いた後に形成された斜面である。
したがって、仮想線で示すような崩落前の土砂を取り除いた後は、上述した本発明の擁壁構築工法が上述したような工法手順で適用できることは言うまでもなく、その効果も上述のとおりである。