【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業先導的物質変換領域委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
Adv. Synth. Catal.,2014.02.20,Vol.356,p.673−679
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
界面活性剤を含有し、温度が30〜80℃、塩基濃度[OH
−]が0.01〜0.5mol/Lの溶液に、下記式(1)で表される
ピリジン基含有有機シラン化合物及び下記式(2)で表されるピリジン基含有有機シラン化合物:
【化1】
〔前記式(1)中のR
11〜R
14のうちの少なくとも1つの基及びR
15〜R
18のうちの少なくとも1つの基、並びに、前記式(2)中のR
21〜R
25のうちの少なくとも2つの基は、下記式(3):
−Y−[Si(O−iPr)
3]
k (3)
(前記式(3)中、Yは、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基
からなる群から選択される2価又は3価の有機基、或いは単結合であり、kは1又は2である)
で表されるイソプロポキシシリル基を有する基であり、前記式(1)及び(2)中のR
11〜R
18及びR
21〜R
25のうちの残りの基は水素原子であり、前記式(1)中のXは窒素原子および炭素原子のうちのいずれかである〕
からなる群から選択される少なくとも1種のイソプロポキシシリル基を有するピリジン系有機シラン化合物を添加する添加工程、
前記ピリジン系有機シラン化合物を、30〜80℃の温度で加水分解・縮重合させ、前記界面活性剤を含有する有機シリカメソ構造体を得る反応工程、及び
前記有機シリカメソ構造体から前記界面活性剤を除去して有機シリカメソ多孔体を得る鋳型除去工程、
を含むことを特徴とする有機シリカメソ多孔体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0017】
(ピリジン系有機シラン化合物)
先ず、本発明に用いられるピリジン系有機シラン化合物について説明する。本発明においては、下記式(1)で表される
ピリジン基を有する有機シラン化合物及び下記式(2)で表されるピリジン基を有する有機シラン化合物からなる群から選択される少なくとも1種のイソプロポキシシリル基を有するピリジン系有機シラン化合物(以下、「イソプロポキシシリル基含有ピリジン系有機シラン化合物」という)を使用する。
【0019】
前記式(1)において、R
11〜R
14のうちの少なくとも1つの基及びR
15〜R
18のうちの少なくとも1つの基は、下記式(3):
−Y−[Si(O−iPr)
3]
k (3)
で表されるイソプロポキシシリル基を有する基であり、残りの基は水素原子である。また、前記式(2)において、R
21〜R
25のうちの少なくとも2つの基は、前記式(3)で表されるイソプロポキシシリル基を有する基であり、残りの基は水素原子である。さらに、前記式(1)中のXは窒素原子および炭素原子のうちのいずれかである。
【0020】
前記式(3)において、Yは、アルキレン基(好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは炭素数1〜6)、アルケニレン基(好ましくは炭素数2〜12、より好ましくは炭素数2〜6)、アルキニレン基(好ましくは炭素数2〜12、より好ましくは炭素数2〜6)、アリーレン基(好ましくは炭素数6〜12)、エーテル基、カルボニル基、アミノ基、アミド基、及びイミド基からなる群から選択される2価又は3価の有機基、或いは単結合であり、kは1又は2である。前記式(3)中のYとしては、アルキレン基及び単結合のうちのいずれかが好ましく、単結合がより好ましい。
【0021】
本発明において、前記イソプロポキシシリル基含有ピリジン系有機シラン化合物は単独で使用してもよいし、その他の有機シラン化合物と組み合わせて使用してもよい。原料として使用する全有機シラン化合物中の前記イソプロポキシシリル基含有ピリジン系有機シラン化合物の割合としては、1質量%以上(その他の有機シラン化合物の割合が99質量%以下)であれば特に制限はないが、得られる有機シリカメソ多孔体においてビピリジン基やピリジン基の量が増加し、金属錯体の固体配位子としての機能が向上するという観点から、10〜100質量%(その他の有機シラン化合物の割合が0〜90質量%)が好ましく、30〜100質量%(その他の有機シラン化合物の割合が0〜70質量%)がより好ましく、50〜100質量%(その他の有機シラン化合物の割合が0〜50質量%)が更に好ましく、70〜100質量%(その他の有機シラン化合物の割合が0〜30質量%)が特に好ましく、100質量%(その他の有機シラン化合物の割合が0質量%)が最も好ましい。
【0022】
前記その他の有機シラン化合物としては、ジメトキシシラン、ジエトキシシラン、ジイソプロポキシシランといったジアルコキシシラン;トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリイソプロポキシシランといったトリアルコキシシラン;テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラジイソプロポキシシランといったテトラアルコキシシラン;1,2−ビス(トリエトキシシリル)エタン、1,2−ビス(トリエトキシシリル)エチレン、1,2−ビス(トリエトキシシリル)アセチレン、1,4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、4,4’−ビス(トリエトキシシリル)ビフェニル、1,2−ビス(トリイソプロポキシシリル)エタン、1,2−ビス(トリイソプロポキシシリル)エチレン、1,2−ビス(トリイソプロポキシシリル)アセチレン、1,4−ビス(トリイソプロポキシシリル)ベンゼン、4,4’−ビス(トリイソプロポキシシリル)ビフェニルといった有機基架橋型アルコキシシラン等の公知のアルコキシシラン化合物が挙げられる。これらのアルコキシシラン化合物は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0023】
このようなその他の有機シラン化合物のうち、下記式(4):
(R
32O)
3Si−R
31−Si(OR
32)
3 (4)
で表される有機基架橋型アルコキシシランが好ましい。
【0024】
前記式(4)において、R
31は、2〜4価の有機基であり、アルキレン基(好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは炭素数1〜6)、アルケニレン基(好ましくは炭素数2〜12、より好ましくは炭素数2〜6)、アルキニレン基(好ましくは炭素数2〜12、より好ましくは炭素数2〜6)、アリーレン基(好ましくは炭素数6〜12)等が挙げられる。また、R
32は、それぞれ独立に炭素数1〜8(好ましくは1〜4)のアルキル基を表す。
【0025】
(界面活性剤)
次に、本発明に用いられる界面活性剤について説明する。本発明において、界面活性剤は、そのミセルや液晶構造がメソ細孔を形成するための鋳型として機能するものである。このような界面活性剤としては特に制限はなく、カチオン性、アニオン性、ノニオン性のうちのいずれであってもよく、具体的には、アルキルトリメチルアンモニウム、アルキルトリエチルアンモニウム、ジアルキルジメチルアンモニウム、ベンジルアンモニウム等の塩化物、臭化物、ヨウ化物或いは水酸化物;脂肪酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリエチレンオキサイド系ノニオン性界面活性剤、一級アルキルアミン等が挙げられる。これらの界面活性剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0026】
前記界面活性剤のうち、ポリエチレンオキサイド系ノニオン性界面活性剤としては、疎水性成分として炭化水素基、親水性部分としてポリエチレンオキサイドをそれぞれ有するポリエチレンオキサイド系非イオン性界面活性剤等が挙げられる。このような界面活性剤としては、例えば、一般式C
nH
2n+1(OCH
2CH
2)
mOHで表され、nが10〜30、mが1〜30であるものが好適に使用できる。また、オレイン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、パルミチン酸等の脂肪酸とソルビタンとのエステル、或いはこれらのエステルにポリエチレンオキサイドが付加した化合物もポリエチレンオキサイド系ノニオン性界面活性剤として用いることができる。
【0027】
さらに、ポリエチレンオキサイド系ノニオン性界面活性剤として、トリブロックコポリマー型のポリアルキレンオキサイドを用いることもできる。このような界面活性剤としては、ポリエチレンオキサイド(EO)とポリプロピレンオキサイド(PO)からなり、一般式(EO)
x(PO)
y(EO)
xで表されるものが挙げられる。x、yはそれぞれEO、POの繰り返し数を表すが、xは5〜110、yは15〜70であることが好ましく、xは13〜106、yは29〜70であることがより好ましい。前記トリブロックコポリマーとしては、(EO)
19(PO)
29(EO)
19、(EO)
13(PO)
70(EO)
13、(EO)
5(PO)
70(EO)
5、(EO)
13(PO)
30(EO)
13、(EO)
20(PO)
30(EO)
20、(EO)
26(PO)
39(EO)
26、(EO)
17(PO)
56(EO)
17、(EO)
17(PO)
58(EO)
17、(EO)
20(PO)
70(EO)
20、(EO)
80(PO)
30(EO)
80、(EO)
106(PO)
70(EO)
106、(EO)
100(PO)
39(EO)
100、(EO)
19(PO)
33(EO)
19、(EO)
26(PO)
36(EO)
26が挙げられる。これらのトリブロックコポリマーはBASF社、アルドリッチ社等から入手可能であり、また、小規模製造レベルで所望のx値とy値を有するトリブロックコポリマーを得ることができる。
【0028】
また、エチレンジアミンの2個の窒素原子にそれぞれ2本のポリエチレンオキサイド(EO)鎖−ポリプロピレンオキサイド(PO)鎖が結合したスターダイブロックコポリマーもポリエチレンオキサイド系ノニオン性界面活性剤として使用することができる。このようなスターダイブロックコポリマーとしては、一般式((EO)
x(PO)
y)
2NCH
2CH
2N((PO)
y(EO)
x)
2で表されるものが挙げられる。ここでx、yはそれぞれEO、POの繰り返し数を表すが、xは5〜110、yは15〜70であることが好ましく、xは13〜106、yは29〜70であることがより好ましい。
【0029】
このような界面活性剤のうち、規則的なメソ細孔を有するメソポーラス有機シリカが得られるという観点から、アルキルトリメチルアンモニウム[C
pH
2p+1N(CH
3)
3]の塩(好ましくはハロゲン化物塩)を用いることが好ましい。また、その場合は、アルキルトリメチルアンモニウム中のアルキル基の炭素数は8〜22であることがより好ましい。このようなものとしては、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、デシルトリメチルアンモニウムブロミド、オクチルトリメチルアンモニウムブロミド、ドコシルトリメチルアンモニウムクロリド等が挙げられる。
【0030】
(その他の成分)
本発明においては、反応液の塩基濃度を所定の値に調整するために、塩基性物質を使用する。このような塩基性物質としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等のアルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物、水酸化アンモニウム(アンモニア水)等が挙げられる。
【0031】
<有機シリカメソ多孔体の製造方法>
(界面活性剤含有溶液の調製)
本発明においては、先ず、前記界面活性剤と溶媒とを混合して前記界面活性剤を含有する溶液(以下、「界面活性剤含有溶液」という)を調製する。前記溶媒としては、水、水と混和できる有機溶媒(例えば、低級アルコール(好ましくは炭素数6以下)、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等)と水との混合溶媒等が挙げられる。この溶液中の界面活性剤の濃度としては、0.1〜10質量%が好ましく、0.5〜5質量%がより好ましい。前記界面活性剤の濃度が前記下限未満になると、細孔の形成が不完全となりやすい傾向にあり、他方、前記上限を超えると溶液中に残留する界面活性剤の量が増大して細孔の均一性が低下しやすい傾向にある。また、前記濃度の界面活性剤含有溶液を使用することによって、前記界面活性剤を20〜90質量%(好ましくは30〜70質量%)の割合で含有する有機シリカメソ構造体が得られる傾向にある。有機シリカメソ構造体中の界面活性剤の含有量が前記下限未満になると、メソ細孔構造の秩序が低下しやすい傾向にあり、他方、前記上限を超えると、メソ細孔の均一性が低下しやすい傾向にある。
【0032】
また、本発明においては、前記界面活性剤含有溶液を調製する際、前記塩基性物質を添加して、得られる界面活性剤含有溶液の塩基濃度[OH
−]を0.01〜0.5mol/Lに調整する。前記塩基濃度が前記下限未満になると、イソプロポキシシリル基含有ピリジン系有機シラン化合物の加水分解・縮重合反応が十分に進行せず、所望の有機シリカメソ多孔体を得ることが困難となる。他方、前記塩基濃度が前記上限を超えると、イソプロポキシシリル基含有ピリジン系有機シラン化合物の加水分解・縮重合反応は進行するものの、得られる縮重合物においてビピリジン基やピリジン基とシリル基との間の結合が完全に開裂するため、所望の有機シリカメソ多孔体を得ることが困難となる。また、イソプロポキシシリル基含有ピリジン系有機シラン化合物の加水分解・縮重合反応が十分に進行し、かつ得られる縮重合物においてビピリジン基やピリジン基とシリル基との間の結合の開裂が十分に抑制されるという観点から、前記塩基濃度[OH
−]としては0.01〜0.15mol/Lが好ましく、0.015〜0.1mol/Lがより好ましい。
【0033】
(添加工程)
次に、このようにして調製した界面活性剤含有溶液を30〜80℃の温度に加熱し、この温度を保持し、激しく撹拌しながら、前記界面活性剤含有溶液に、前記イソプロポキシシリル基含有ピリジン系有機シラン化合物及び必要に応じてその他の有機シラン化合物を添加する(以下、これらをまとめて「原料有機シラン化合物」という)。前記界面活性剤含有溶液の温度が前記下限未満になると、イソプロポキシシリル基含有ピリジン系有機シラン化合物の加水分解が十分に進行せず、均一な反応混合液(反応懸濁液)が得られず、他方、前記界面活性剤含有溶液の温度が前記上限を超えると、ビピリジン基やピリジン基とシリル基との間の結合が開裂する。また、イソプロポキシシリル基含有ピリジン系有機シラン化合物の加水分解が十分に進行し、かつビピリジン基やピリジン基とシリル基との間の結合の開裂が十分に抑制されるという観点から、前記界面活性剤含有溶液の温度としては40〜70℃が好ましい。
【0034】
本発明において、前記原料有機シラン化合物は溶媒に溶解した状態で添加することが好ましい。前記溶媒としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、アセトン、アセトニトリル等の水と混和する有機溶媒等が挙げられる。添加する溶液中の原料有機シラン化合物の濃度としては0.5〜10mol/Lが好ましい。また、前記原料有機シラン化合物を含有する溶液(以下、「原料有機シラン化合物含有溶液」という)の添加は、可能な限り低速で行うことが好ましい。具体的には、前記原料有機シラン化合物含有溶液中の全有機シラン化合物の添加速度V(単位:mol/h)と前記界面活性剤含有溶液中の塩基のモル数M(単位:mol)とが、好ましくは、下記式(a):
0.1≦V/M≦2 (a)
で表される条件を満たすように、より好ましくは、下記式(b):
0.2≦V/M≦1.5 (b)
で表される条件を満たすように、前記原料有機シラン化合物含有溶液の添加速度を調整することがより好ましい。これにより、より規則性の高いメソ細孔を有する有機シリカメソ多孔体を得ることが可能となる。
【0035】
(超音波処理工程)
本発明においては、前記添加工程で得られた反応混合液(反応懸濁液)に30〜80℃(好ましくは40〜70℃)の温度で超音波処理を施すことが好ましい。これにより、反応混合液(反応懸濁液)中の粒状物が均一に分散し、より規則性の高いメソ細孔を有する有機シリカメソ多孔体を得ることが可能となる。その他の超音波処理条件としては、発振周波数:20〜100kHz、処理時間:0.5〜3時間が好ましい。超音波処理時間が前記下限未満になると、超音波処理による効果が十分に得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、超音波処理による効果が飽和する傾向にある。
【0036】
(反応工程)
次に、前記添加工程又は前記超音波処理工程で得られた反応混合液(反応懸濁液)を30〜80℃の温度で撹拌して前記原料有機シラン化合物を加水分解・縮重合させることにより、前記界面活性剤を含有する有機シリカメソ構造体が得られる。反応温度が前記下限未満になると、イソプロポキシシリル基含有ピリジン系有機シラン化合物の加水分解・縮重合反応が十分に進行せず、所望の有機シリカメソ多孔体を得ることが困難となる。他方、反応温度が記上限を超えると、イソプロポキシシリル基含有ピリジン系有機シラン化合物の加水分解・縮重合反応は進行するものの、得られる縮重合物においてビピリジン基やピリジン基とシリル基との間の結合が完全に開裂するため、所望の有機シリカメソ多孔体を得ることが困難となる。また、イソプロポキシシリル基含有ピリジン系有機シラン化合物の加水分解・縮重合反応が十分に進行し、かつ得られる縮重合物においてビピリジン基やピリジン基とシリル基との間の結合の開裂が十分に抑制されるという観点から、反応温度としては40〜70℃が好ましい。
【0037】
また、攪拌時間としては、12時間〜3日間が好ましく、1〜2日間がより好ましい。攪拌時間が前記下限未満になると、イソプロポキシシリル基含有ピリジン系有機シラン化合物の加水分解・縮重合反応が十分に進行せず、所望の有機シリカメソ多孔体を得ることが困難となる傾向にある。他方、攪拌時間が前記上限を超えると、得られる縮重合物において、ピリジン基やビピリジン基とシリル基との間の結合が開裂し始める傾向や、或いは撹拌による効果が飽和する傾向がある。
【0038】
また、本発明においては、前記反応温度を保持しながら、前記有機シリカメソ構造体を含有する懸濁液を静置することが好ましい。これにより、より規則性の高いメソ細孔を有する有機シリカメソ多孔体を得ることが可能となる。静置時間としては、12時間〜3日間が好ましく、1〜2日間がより好ましい。静置時間が前記下限未満になると、静置による効果が十分に得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られる縮重合物において、ピリジン基やビピリジン基とシリル基との間の結合が開裂し始める傾向や、或いは静置による効果が飽和する傾向にある。
【0039】
このようにして得られた前記有機シリカメソ構造体を含有する懸濁液にろ過等の固液分離処理を施して前記有機シリカメソ構造体を回収する。
【0040】
(水熱処理工程)
本発明においては、前記有機シリカメソ構造体に水熱処理を施すことが好ましい。これにより、より規則性の高いメソ細孔を有する有機シリカメソ多孔体を得ることが可能となる。水熱処理の方法としては、例えば、前記有機シリカメソ構造体を水又は前記有機シリカメソ構造体を形成する際に使用した界面活性剤を含有する水溶液(界面活性剤の濃度としては0.1〜10質量%が好ましく、0.5〜5質量%がより好ましい)に再分散させ、得られた分散液(pH6〜8)を50〜100℃の温度で12〜24時間静置する方法が挙げられる。
【0041】
このようにして得られた水熱処理を施した有機シリカメソ構造体を含有する懸濁液にろ過等の固液分離処理を施して前記有機シリカメソ構造体を回収する。
【0042】
(鋳型除去工程)
次に、反応工程又は水熱処理工程で得られた前記有機シリカメソ構造体から前記界面活性剤を除去することによって、前記有機シリカメソ構造体において前記界面活性剤が存在していた部分がメソ細孔となり、有機シリカメソ多孔体が形成される。界面活性剤を除去する方法としては、例えば、(i)界面活性剤に対する溶解度が高い有機溶媒(例えば、エタノール)中に、前記有機シリカメソ構造体を浸漬して前記界面活性剤を除去する方法、(ii)前記有機シリカメソ構造体を250〜550℃で焼成して前記界面活性剤を除去する方法、(iii)前記有機シリカメソ構造体を酸性溶液(例えば、希塩酸)に浸漬して加熱し、前記界面活性剤を水素イオンに交換せしめるイオン交換法、(iv)前記有機シリカメソ構造体を、加熱した酸性蒸気(例えば、塩酸蒸気)に曝露した後、有機溶媒(例えば、エタノール)に浸漬して前記界面活性剤を有機溶媒中に溶出させる方法、等が挙げられる。これらの方法における処理条件は、使用する界面活性剤、有機溶媒、酸性蒸気の種類等により適宜設定することができる。
【0043】
(有機シリカメソ多孔体)
このようにして得られる有機シリカメソ多孔体は、下記式(5)で表される
ピリジン基を有する構造及び下記式(6)で表されるピリジン基を有する構造からなる群から選択される少なくとも1種の構造を備えるピリジン系有機シリカメソ多孔体である。
【0045】
前記式(5)において、R
51〜R
54のうちの少なくとも1つの基及びR
55〜R
58のうちの少なくとも1つの基は、下記式(7):
【0047】
で表される基であり、残りの基は水素原子である。また、前記式(6)において、R
61〜R
65のうちの少なくとも2つの基は、前記式(7)で表される基であり、残りの基は水素原子である。さらに、前記式(5)中のXは窒素原子および炭素原子のうちのいずれかである。
【0048】
前記式(7)において、Yは、アルキレン基(好ましくは炭素数1〜12、より好ましくは炭素数1〜6)、アルケニレン基(好ましくは炭素数2〜12、より好ましくは炭素数2〜6)、アルキニレン基(好ましくは炭素数2〜12、より好ましくは炭素数2〜6)、アリーレン基(好ましくは炭素数6〜12)、エーテル基、カルボニル基、アミノ基、アミド基、及びイミド基からなる群から選択される2価又は3価の有機基、或いは単結合であり、kは1又は2であり、*は隣接する構造との結合部位である。前記式(7)中のYとしては、アルキレン基及び単結合のうちのいずれかが好ましく、単結合がより好ましい。
【0049】
このようなピリジン系有機シリカメソ多孔体のメソ細孔構造における細孔径(中心細孔直径)としては、1〜50nmが好ましく、2〜30nmがより好ましい。また、細孔容量としては、0.1cm
3/g以上が好ましく、0.3cm
3/g以上がより好ましい。さらに、BET比表面積としては、100cm
2/g以上が好ましく、300cm
2/g以上がより好ましい。
【0050】
なお、前記中心細孔直径とは、細孔容積(V)を細孔直径(D)で微分した値(dV/dD)を細孔直径(D)に対してプロットした曲線(細孔径分布曲線)の最大ピークにおける細孔直径であり、次に述べる方法により求めることができる。すなわち、試料を液体窒素温度(−196℃)に冷却して窒素ガスを導入し、定容量法或いは重量法によりその吸着量を求め、次いで、導入する窒素ガスの圧力を徐々に増加させ、各平衡圧に対する窒素ガスの吸着量をプロットし、吸着等温線を得る。この吸着等温線を用い、Cranston−Inklay法、Pollimore−Heal法、BJH法等の計算法により細孔径分布曲線を求めることができる。
【実施例】
【0051】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
オクタデシルトリメチルアンモニウムクロリド(C
18TMACl,2.43g,6.98mmol)、蒸留水(132ml)及び6N水酸化ナトリウム水溶液(0.770ml)を混合し、得られた界面活性剤水溶液(塩基濃度[OH
−]:0.035mol/L)を50℃に加熱した。温度を50℃に保持し、磁気撹拌装置を用いて激しく撹拌(撹拌速度:1300rpm)しながら、この界面活性剤水溶液に5,5’−ビス(トリイソプロポキシシリル)−2,2’−ビピリジン(Si−BPy−Si,2.97g,5.26mmol)のエタノール溶液(5ml)を、シリンジポンプを用いて滴下した。なお、前記エタノール溶液の滴下速度は、前記Si−BPy−Siの添加速度V(単位:mol/h)と前記界面活性剤水溶液中の塩基のモル数M(単位:mol)との比(V/M)が0.57h
−1となるように、2.5〜3.5ml/hの範囲で調整した。
【0053】
得られた反応懸濁液に超音波装置を用いて50℃で2時間以上の超音波処理(周波数:40kHz)を施して粒状物を均一に分散させた。その後、前記反応懸濁液を、50℃で3日間撹拌(撹拌速度:500rpm)し、さらに、50℃で3日間静置して、下記反応式(I):
【0054】
【化5】
【0055】
で表される加水分解・縮重合反応を行なった。
【0056】
得られた沈殿を加圧ろ過装置を用いてろ取し、鋳型界面活性剤(C
18TMACl)を含むビピリジン基含有有機シリカメソ構造体を得た(収量:2.39g)。この有機シリカメソ構造体をC
18TMACl水溶液(C
18TMACl(8.70g)を蒸留水(433ml)に溶解したもの)に再分散させた。得られた分散液を95℃で24時間静置して前記有機シリカメソ構造体に水熱処理を施し、その後、沈殿を加圧ろ過装置を用いてろ取した(収量:1.56g)。水熱処理後の前記有機シリカメソ構造体を酸性エタノール溶液(エタノール(260ml)に2N塩酸(7.2ml)を添加したもの)に添加し、一晩懸濁させて前記鋳型界面活性剤を除去し、薄黄色〜白色の粉末状のビピリジン基含有有機シリカメソ多孔体(BPy−PMO)を得た(収量:1.39g)。
【0057】
この有機シリカメソ多孔体BPy−PMOのX線回折パターンを粉末X線回折装置((株)リガク製「RINT−2200」)を用いて測定したところ、
図1Aに示すように、2θ=1.96°(d=4.50nm)、3.40°(d=2.60nm)、3.84°(d=2.30nm)に規則的なヘキサゴナル構造に由来する回折ピークが観察された。また、2θ=7.6°(d=1.16nm)、15.2°(d=0.58nm)、23.0°(d=0.39nm)にビピリジン基の層状配列構造に由来する回折ピークが観察された。さらに、前記有機シリカメソ多孔体BPy−PMOの窒素吸脱着等温線を自動比表面積/細孔分布測定装置(カンタクローム社製「Autosorb−1 system」)を用い、液体窒素温度(−196℃)条件で定容量式ガス吸着法により求めたところ、
図1Bに示すように、IV型であり、前記有機シリカメソ多孔体BPy−PMOは規則的なメソ細孔を有するものであることが確認された。また、この有機シリカメソ多孔体BPy−PMOの比表面積をBET法により算出したところ、739m
2/gであり、中心細孔直径をDFT法により算出したところ、38.0Åであり、細孔容量をt−プロット検定により算出したところ、0.41cm
3/gであった。
【0058】
(実施例2)
オクタデシルトリメチルアンモニウムクロリド(C
18TMACl,1.45g,4.17mmol)、蒸留水(77.7ml)及び6N水酸化ナトリウム水溶液(1.13ml)を混合し、得られた界面活性剤水溶液(塩基濃度[OH
−]:0.09mol/L)を50℃に加熱した。温度を50℃に保持し、磁気撹拌装置を用いて激しく撹拌(撹拌速度:1300rpm)しながら、この界面活性剤水溶液に5,5’−ビス(トリイソプロポキシシリル)−2,2’−ビピリジン(Si−BPy−Si,882mg,1.56mmol)及び4,4’−ビス(トリイソプロポキシシリル)ビフェニル(Si−Bp−Si,880mg,1.56mmol)を含有するエタノール溶液(3ml)を、シリンジポンプを用いて滴下した。なお、前記エタノール溶液の滴下速度は、前記Si−BPy−Si及び前記Si−Bp−Siの添加速度V(単位:mol/h)と前記界面活性剤水溶液中の塩基のモル数M(単位:mol)との比(V/M)が0.31h
−1となるように、2.5〜3.5ml/hの範囲で調整した。
【0059】
得られた反応懸濁液に超音波装置を用いて50℃で2時間以上の超音波処理(周波数:40kHz)を施して粒状物を均一に分散させた。その後、前記反応懸濁液を、50℃で3日間撹拌(撹拌速度:500rpm)し、さらに、50℃で3日間静置して、下記反応式(II):
【0060】
【化6】
【0061】
で表される加水分解・縮重合反応を行なった。
【0062】
得られた沈殿を加圧ろ過装置を用いてろ取し、鋳型界面活性剤(C
18TMACl)を含むビピリジン基含有有機シリカメソ構造体を得た(収量:900mg)。この有機シリカメソ構造体をC
18TMACl水溶液(C
18TMACl(3.17g)を蒸留水(162ml)に溶解したもの)に再分散させた。得られた分散液を95℃で24時間静置して前記有機シリカメソ構造体に水熱処理を施し、その後、沈殿を加圧ろ過装置を用いてろ取した(収量:800mg)。水熱処理後の前記有機シリカメソ構造体を酸性エタノール溶液(エタノール(150ml)に2N塩酸(4.1ml)を添加したもの)に添加し、一晩懸濁させて前記鋳型界面活性剤を除去し、薄黄色〜白色の粉末状のビピリジン基及びビフェニル基含有有機シリカメソ多孔体(BPy−Bp−PMO)を得た(収量:649mg)。
【0063】
この有機シリカメソ多孔体BPy−Bp−PMOのX線回折パターンを実施例1と同様に測定したところ、
図2Aに示すように、2θ=2.02°(d=4.37nm)に規則的なメソ構造に由来する回折ピークが観察された。また、2θ=7.56°(d=1.17nm)、15.1°(d=0.59nm)、22.7°(d=0.39nm)に有機基の層状配列構造に由来する回折ピークが観察された。さらに、前記有機シリカメソ多孔体BPy−PMOの窒素吸脱着等温線を実施例1と同様に求めたところ、
図2Bに示すように、IV型であり、前記有機シリカメソ多孔体BPy−Bp−PMOは規則的なメソ細孔を有するものであることが確認された。また、この有機シリカメソ多孔体BPy−Bp−PMOの比表面積をBET法により算出したところ、960m
2/gであり、中心細孔直径をDFT法により算出したところ、35.4Åであり、細孔容量をt−プロット検定により算出したところ、0.50cm
3/gであった。
【0064】
(実施例3)
オクタデシルトリメチルアンモニウムクロリド(C
18TMACl,1.01g,2.90mmol)、蒸留水(134ml)及び6N水酸化ナトリウム水溶液(2.02ml)を混合し、得られた界面活性剤水溶液(塩基濃度[OH
−]:0.09mol/L)を50℃に加熱した。温度を50℃に保持し、磁気撹拌装置を用いて激しく撹拌(撹拌速度:1300rpm)しながら、この界面活性剤水溶液に5,5’−ビス(トリイソプロポキシシリル)−2,2’−ビピリジン(Si−BPy−Si,760mg,1.34mmol)及び1,2−ビス(トリイソプロポキシシリル)エタン(Si−Et−Si,2.79,6.35mmol)を含有するエタノール溶液(1.27ml)を、シリンジポンプを用いて滴下した。なお、前記エタノール溶液の滴下速度は、前記Si−BPy−Si及び前記Si−Et−Siの添加速度V(単位:mol/h)と前記界面活性剤水溶液中の塩基のモル数M(単位:mol)との比(V/M)が0.32h
−1となるように、2.5〜3.5ml/hの範囲で調整した。
【0065】
得られた反応懸濁液に超音波装置を用いて50℃で2時間以上の超音波処理(周波数:40kHz)を施して粒状物を均一に分散させた。その後、前記反応懸濁液を、50℃で3日間撹拌(撹拌速度:500rpm)し、さらに、50℃で3日間静置して、下記反応式(III):
【0066】
【化7】
【0067】
で表される加水分解・縮重合反応を行なった。
【0068】
得られた沈殿を加圧ろ過装置を用いてろ取し、鋳型界面活性剤(C
18TMACl)を含むビピリジン基含有有機シリカメソ構造体を得た(収量:1.73g)。この有機シリカメソ構造体をC
18TMACl水溶液(C
18TMACl(2.16g)を蒸留水(229ml)に溶解したもの)に再分散させた。得られた分散液を95℃で24時間静置して前記有機シリカメソ構造体に水熱処理を施し、その後、沈殿を加圧ろ過装置を用いてろ取した(収量:1.34g)。水熱処理後の前記有機シリカメソ構造体を酸性エタノール溶液(エタノール(223ml)に2N塩酸(6.2ml)を添加したもの)に添加し、一晩懸濁させて前記鋳型界面活性剤を除去し、薄黄色〜白色の粉末状のビピリジン基及びエチレン基含有有機シリカメソ多孔体(BPy−Et−PMO)を得た(収量:951mg)。
【0069】
この有機シリカメソ多孔体BPy−Et−PMOのX線回折パターンを実施例1と同様に測定したところ、
図3Aに示すように、2θ=1.68°(d=5.25nm)に規則的なメソ構造に由来する回折ピークが観察された。一方、有機基の層状配列構造に由来する回折ピークは観察されず、細孔壁はアモルファス構造であることが示唆された。さらに、前記有機シリカメソ多孔体BPy−Et−PMOの窒素吸脱着等温線を実施例1と同様に求めたところ、
図3Bに示すように、IV型であり、前記有機シリカメソ多孔体BPy−Et−PMOは規則的なメソ細孔を有するものであることが確認された。また、この有機シリカメソ多孔体BPy−Et−PMOの比表面積をBET法により算出したところ、909m
2/gであり、中心細孔直径をDFT法により算出したところ、44.0Åであり、細孔容量をt−プロット検定により算出したところ、0.47cm
3/gであった。
【0070】
(比較例1)
温度を室温(25℃)に変更した以外は実施例1と同様にして前記界面活性剤水溶液に前記Si−BPy−Siのエタノール溶液を滴下したが、
図4Aに示すように、未反応のSi−BPy−Siが反応容器や撹拌子に付着し、均一な反応懸濁液は得られなかった。この反応懸濁液のIR吸収スペクトルを測定したところ、
図4Bに示すように、波数2973cm
−1にイソプロポキシシリル基に由来するピークが観察され、室温(25℃)では加水分解反応が進行しないことがわかった。
【0071】
(比較例2)
温度を95℃に変更した以外は実施例1と同様にして加水分解・縮重合反応を行なった。反応生成物を
29Si−MAS NMRにより分析したところ、
図5に示すように、化学シフト−90〜−120ppmにQサイトに由来するピークが観察され、95℃の反応温度では、ビピリジン基とシリル基との間の結合が完全に開裂することがわかった。
【0072】
(比較例3)
6N水酸化ナトリウム水溶液の添加量を変更して界面活性剤水溶液の塩基濃度[OH
−]を0.005mol/Lに変更した以外は実施例1と同様にして前記界面活性剤水溶液に前記Si−BPy−Siのエタノール溶液を滴下したが、
図6Aに示すように、未反応のSi−BPy−Siが反応容器や撹拌子に付着し、均一な反応懸濁液は得られなかった。この反応懸濁液のIR吸収スペクトルを測定したところ、
図6Bに示すように、波数2973cm
−1にイソプロポキシシリル基に由来するピークが観察され、塩基濃度[OH
−]が0.005mol/Lの条件では加水分解反応が進行しないことがわかった。
【0073】
(比較例4)
6N水酸化ナトリウム水溶液の添加量を変更して界面活性剤水溶液の塩基濃度[OH
−]を0.6mol/Lに変更した以外は実施例1と同様にして加水分解・縮重合反応を行なった。反応生成物を
29Si−MAS NMRにより分析したところ、化学シフト−90〜−120ppmにQサイトに由来するピークが観察され、
塩基濃度[OH−]が0.6mol/Lの条件では、ビピリジン基とシリル基との間の結合が完全に開裂することがわかった。