(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車両の左右輪にそれぞれ対応して設けられエアの給排により車高を上下させる左右一対のエアスプリングと、該エアスプリングに対してエアの給排を行う左右一対のエア給排手段とを備えた車高調整システムの制御装置であって、
少なくとも前記エアスプリング又は前記エア給排手段の故障を判定可能な故障判定手段と、
前記故障判定手段によって左右何れか一方のエアスプリング又は左右何れか一方のエア給排手段が故障と判定された場合に、故障側の車高を目標車高に設定すると共に、非故障側の車高が前記目標車高になるまで非故障側のエア給排手段にエアの給排を実行させる水平化制御手段と、を備え、
前記水平化制御手段は、非故障側の車高が前記目標車高になる前に、非故障側のエアスプリングの内圧がエアの排気によって所定の下限内圧まで低下した場合は、該エアスプリングからのエアの排気を停止させ、
前記下限内圧は、非故障側のエアスプリングの内圧低下による破損を防止できる最も低い内圧である
車高調整システムの制御装置。
車両の左右輪にそれぞれ対応して設けられエアの給排により車高を上下させる左右一対のエアスプリングと、該エアスプリングに対してエアの給排を行う左右一対のエア給排手段とを備えた車高調整システムの制御方法であって、
少なくとも前記エアスプリング又は前記エア給排手段の故障を判定し、
左右何れか一方のエアスプリング又は左右何れか一方のエア給排手段が故障と判定された場合は、故障側の車高を目標車高に設定すると共に、非故障側の車高が前記目標車高になるまで非故障側のエア給排手段にエアの給排を実行させ、
非故障側の車高が前記目標車高になる前に、非故障側のエアスプリングの内圧がエアの排気によって所定の下限内圧まで低下した場合は、該エアスプリングからのエアの排気を停止させ、
前記下限内圧は、非故障側のエアスプリングの内圧低下による破損を防止できる最も低い内圧である
車高調整システムの制御方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的な車高調整システムは、エアタンクと左右のエアスプリングとを接続するエア配管に、エアスプリングへのエア給排を制御するエアバルブを備えて構成されている。このような車高調整システムでは、単に車高を基準車高に維持することを目的として一つのエアバルブで左右のエアスプリングへのエア給排を制御する一系統の構造や、偏積等によって生じるバネ上のロール角を抑制するために左右一対のエアバルブを左右一対のエアスプリングに対応させて設けた二系統の構造が知られている。
【0005】
特に二系統の車高調整システムにおいては、左右何れか一方のエアバルブ(エア給排系)に故障が生じて機能しなくなると、正常側のエアスプリングへのエア給排によってはバネ上のロール角が大きくなり、車両走行性能に影響を与える可能性がある。
【0006】
本発明の目的は、左右何れか一方のエア給排系に故障が生じた場合においても、車両走行性能に与える影響を効果的に抑止することができる車高調整システムの制御装置及び制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の目的を達成するため、本発明の車高調整システムの制御装置は、車両の左右輪にそれぞれ対応して設けられエアの給排により車高を上下させる左右一対のエアスプリングと、該エアスプリングに対してエアの給排を行う左右一対のエア給排手段とを備えた車高調整システムの制御装置であって、少なくとも前記エアスプリング又は前記エア給排手段の故障を判定可能な故障判定手段と、前記故障判定手段によって左右何れか一方のエアスプリング又は左右何れか一方のエア給排手段が故障と判定された場合に、故障側の車高を目標車高に設定すると共に、非故障側の車高が前記目標車高になるまで非故障側のエア給排手段にエアの給排を実行させる水平化制御手段とを備える。
【0008】
また、前記水平化制御手段は、非故障側の車高が前記目標車高になる前に、非故障側のエアスプリングの内圧がエアの排気によって所定の下限内圧まで低下した場合は、該エアスプリングからのエアの排気を停止させることが好ましい。
【0009】
また、本発明の車高調整システムの制御方法は、車両の左右輪にそれぞれ対応して設けられエアの給排により車高を上下させる左右一対のエアスプリングと、該エアスプリングに対してエアの給排を行う左右一対のエア給排手段とを備えた車高調整システムの制御方法であって、少なくとも前記エアスプリング又は前記エア給排手段の故障を判定し、左右何れか一方のエアスプリング又は左右何れか一方のエア給排手段が故障と判定された場合は、故障側の車高を目標車高に設定すると共に、非故障側の車高が前記目標車高になるまで非故障側のエア給排手段にエアの給排を実行させる。
【0010】
また、非故障側の車高が前記目標車高になる前に、非故障側のエアスプリングの内圧がエアの排気によって所定の下限内圧まで低下した場合は、該エアスプリングからのエアの排気を停止させることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の車高調整システムの制御装置及び制御方法によれば、左右何れか一方のエア給排系に故障が生じた場合においても、車両走行性能に与える影響を効果的に抑止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面に基づいて、本発明の一実施形態に係る車高調整システムの制御装置及び制御方法を説明する。同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0014】
図1に示すように、本実施形態の車高調整システム10は、例えばトラック等の大型車両に搭載されるもので、エアタンク11と、エア配管12と、左エアバルブ13Lと、右エアバルブ13Rと、左後輪20Lに対応して設けられた左エアスプリング14Lと、右後輪20Rに対応して設けられた右エアスプリング14Rと、電子制御ユニット(以下、ECU)40とを備えている。なお、
図1中において、符号21L,21Rは左右前輪をそれぞれ示している。
【0015】
エアタンク11は、本発明のエア給排手段の一部であって、車両1に搭載された図示しないコンプレッサから供給される圧縮エアを貯留する。このエアタンク11には、エア配管12の上流端が接続されている。なお、エアタンク11は一個に限定されず、二個のエアタンク11を左右のエア給排系にそれぞれ設けてもよい。
【0016】
エア配管12は、本発明のエア給排手段の一部であって、略T字状の配管継手12Aによって下流側を分岐形成されている。配管継手12Aよりも左下流側のエア配管12には左エアバルブ13Lが介設されると共に、その下流端には左エアスプリング14Lが接続されている。また、配管継手12Aよりも右下流側のエア配管12には右エアバルブ13Rが介設されると共に、その下流端には右エアスプリング14Rが接続されている。
【0017】
左エアバルブ13Lは、本発明のエア給排手段の一部であって、ECU40からの作動指示信号に応じて開閉動作することで、左エアスプリング14Lにエアを給気又は、左エアスプリング14Lからエアを排気させる。右エアバルブ13Rは、本発明のエア給排手段の一部であって、ECU40からの作動指示信号に応じて開閉動作することで、右エアスプリング14Rにエアを給気又は、右エアスプリング14Rからエアを排気させる。
【0018】
左エアスプリング14L及び、右エアスプリング14Rは、車両1の何れも図示しない後軸とフレームとの間に介設されている。これら左右のエアスプリング14L,14Rは、エアの給排に応じて車体上下方向に伸縮することで車高を上下させるアクチュエータとして機能する。
【0019】
左内圧センサ30Lは、左エアバルブ13Lよりも下流側のエア配管12に設けられており、左エアスプリング14Lの内圧を検出する。右内圧センサ30Rは、右エアバルブ13Rよりも下流側のエア配管12に設けられており、右エアスプリング14Rの内圧を検出する。これら内圧センサ30L,Rで検出される内圧は、電気的に接続されたECU40に送信される。
【0020】
左車高センサ31Lは、何れも図示しない後軸とフレームとの距離(左エアスプリング14Lの変位)から車両1の左車高を検出する。右車高センサ31Rは、何れも図示しない後軸とフレームとの距離(右エアスプリング14Rの変位)から車両1の右車高を検出する。これら車高センサ31L,Rで検出される左右の車高は、電気的に接続されたECU40に送信される。
【0021】
ECU40は、車両1の各種制御を行うもので、公知のCPUやROM、RAM、入力ポート、出力ポート等を備えて構成されている。また、ECU40は、
図2に示すように、正常時水平化制御部41と、故障判定部42と、故障時水平化制御部43とを一部の機能要素として有する。これら各機能要素は、本実施形態では一体のハードウェアであるECU40に含まれるものとして説明するが、これらのいずれか一部を別体のハードウェアに設けることもできる。
【0022】
正常時水平化制御部41は、エアバルブ13L,13R等が正常に作動する場合に、エアスプリング14L,14Rに対するエア給排を制御することで、車体を水平状態に維持させる。より詳しくは、ECU40には、車体を所定の車高で水平に維持するための基準車高が予め記憶されている。正常時水平化制御部41は、エアスプリング14L,14Rに対するエアの給排によって車高センサ31L,31Rで検出される左右の車高が基準車高となるように、エアバルブ13L,13Rに作動指示信号を送信する。
【0023】
故障判定部42は、本発明の故障判定手段の一例であって、エア給排系(例えば、エアバルブ13L,13R及び、エアバルブ13L,13Rよりも下流側のエア配管12等)又は、エアスプリング14L,14Rの故障を判定する。より詳しくは、ECU40からエアバルブ13L,13Rに送信される作動指示信号に対して、車高センサ31L,31Rで検出される車高が所定時間変化しない場合、故障判定部42は変化しない側のエア給排系又は、エアスプリング14L,14Rに故障が生じたと判定する。
【0024】
故障時水平化制御部43は、本発明の水平化制御手段であって、左右何れか一方のエア給排系又は、エアスプリング14L,14Rに故障が発生した場合に、非故障側(以下、正常側と称する)のエアバルブ14L,14Rを制御して車体を水平状態に維持させる。より詳しくは、故障時水平化制御部43は、故障判定部42によって故障と判定された側の車高センサ31L,Rの検出値を目標車高として設定し、正常側の車高センサ31L,Rの検出値がこの目標車高になるまで、正常側のエアスプリング14L,14Rにエアの給排が行われるように、正常側のエアバルブ13L,13Rに作動指示信号を送信する。
【0025】
以下、
図3に基づいて、左側のエア給排系(例えば、左エアバルブ13L)又は、左エアスプリング14Lが故障した場合の水平化制御を説明する。
【0026】
図3(a)に示すように、基準車高VH
0よりも高い状態で左側のエア給排系又は左エアスプリング14Lに故障が生じた場合、故障時水平化制御部43(
図2にのみ示す)は、故障した左側の現在の車高を目標車高VH
Tとして設定すると共に、正常な右側の車高が目標車高VH
Tになるまで右エアスプリング14Rにエアが供給されるよう、右エアバルブ13R(
図1,2に示す)に作動指示信号を送信する。すなわち、車体姿勢は図中実線で示す右側に傾いた状態から右側の車高を目標車高VH
Tまで上げることで、図中破線で示す水平な状態に調整される。
【0027】
一方、
図3(b)に示すように、基準車高VH
0よりも低い状態で左側のエア給排系又は左エアスプリング14Lに故障が生じた場合、故障時水平化制御部43(
図2にのみ示す)は、故障した左側の現在の車高を目標車高VH
Tとして設定すると共に、正常な右側の車高が目標車高VH
Tになるまで右エアスプリング14Rからエアが排出されるように、右エアバルブ13R(
図1,2に示す)に作動指示信号を送信する。すなわち、車体姿勢は図中実線で示す左側に傾いた状態から右側の車高を目標車高VH
Tまで下げることで、図中破線で示す水平な状態に調整される。
【0028】
なお、エアスプリング14L,14R上の重量が低い状態で車高を下げていくと、フリクション等によって車高が目標車高VH
Tまで下がる前にエアスプリング14L,14Rからエアが必要以上に排気され、エアスプリング14L,14Rのゴムがピストン(不図示)から外れる等の破損を招く可能性がある。そのため、本実施形態の故障時水平化制御部43は、正常側の車高が目標車高VH
Tまで下がる前に、正常側のエアスプリング14L,14Rの内圧が圧力低下による破損を防止する最低基準内圧まで低下すると、エアの排気を停止させるように構成されている。
【0029】
次に、本実施形態の車高調整システムの制御装置及び制御方法による作用効果を説明する。
【0030】
左右のエアスプリングにエア給排を独立で行うようにエアバルブ(エア給排系)を二系統備えた車高調整システムにおいては、左右何れか一方のエア給排系が故障した場合に正常側のエアスプリングのエア給排を行うと、車体が傾いてロール角を増大させ、車両走行性能に大きな影響を与える可能性がある。
【0031】
本実施形態では、左右何れか一方のエア給排系又は、エアスプリング14L,14Rに故障が生じた場合は、故障側の現在の車高を目標車高として設定すると共に、正常側の車高が目標車高となるように制御される。すなわち、左右何れか一方に故障が生じた場合においても、故障側を基準に正常側の車高を調整することで、車体姿勢を水平状態に維持できるように構成されている。従って、本実施形態の制御装置及び制御方法によれば、左右何れか一方のエア給排系に故障が生じた場合においても、車体姿勢を水平に維持することで車両走行性能に与える影響を確実に抑止することが可能になる。
【0032】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜変形して実施することが可能である。
【0033】
例えば、車高調整システム10の適用は左右後輪20L,20Rに限定されず、左右前輪21L,21Rにも適用することが可能である。また、車両1はトラック等の大型車両に限定されず、乗用車等の他の車両にも広く適用することが可能である。