(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記光源部は、測定対象ガスセル内の測定対象ガスに測定光を照射するとともに、リファレンスガスセル内の参照ガスに測定光を照射することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のガス分析装置。
【背景技術】
【0002】
気体中の水蒸気量を計測する方法の一つとして、水分子が特定波長領域(例えば、1.3μm帯)の光のみを吸収することを利用した吸収分光法が挙げられる。この吸収分光法は、測定対象ガスに対し非接触で測定可能であるため、測定対象ガスの場を乱さずに測定対象ガス中の水蒸気量を計測することができる。
【0003】
このような吸収分光法の中でも、特に光源に波長可変半導体レーザ(レーザ素子)を利用した「波長可変半導体レーザ吸収分光法」は、シンプルな装置構成で実現することができる。例えば、「波長可変半導体レーザ吸収分光法」を利用したガス分析装置では、測定対象ガスが所定方向に流れている配管(測定対象ガスセル)に対して、配管に形成された入射用光学窓と出射用光学窓とを介して、配管を横切って光路(光路長L)が形成されるようにそれぞれ対向して設けられる波長可変半導体レーザと光検出センサ(受光部)とを追加することが一般的である(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このようなガス分析装置によれば、波長可変半導体レーザから発振された所定波長のレーザ光(測定光)は、配管内を通過する過程で測定対象ガス中に存在する水分子の遮光作用によってレーザ光の進行が阻害されて、測定対象ガス中における水分子の濃度に対応して光検出センサに入射する光量が減少することを利用して、波長可変半導体レーザから発振されたレーザ光の光量に対する光検出センサに入射するレーザ光の光量を計測することによって水分子の濃度が算出される。
図7は、ガス分析装置で得られた吸収スペクトルの一例を示すグラフである。縦軸は受光強度Iであり、横軸は周波数νである。なお、I
0(ν)は周波数νにおいて水分子の吸収を受けなかった場合の受光強度Iであり、非吸収波長の受光強度Iに基づいて近似式を作成することで導出されることになる。
【0005】
ここで、
図7に示す吸収スペクトルを用いた演算処理の一例について説明する。Lambert-Beerの法則より下記式(1)が成り立つ。
【0006】
【数1】
【0007】
なお、I
0(ν)は周波数νにおいて水分子の吸収を受けなかった場合の光強度、I(ν)は周波数νにおける透過光強度、c(mol/cm
3)は水分子の数密度、L(cm)は測定対象ガスを通過する光路の長さ、S(T)(cm
−1/(mol/cm
−2))は所定の吸収線強度におけるガス温度Tの関数である。
【0008】
ここで、
図8は、縦軸をln(I
0(
ν)/I(
ν))とし、横軸を周波数νとしたグラフである。よって、式(1)の左辺の値は、
図8に示すグラフの面積を求めることで得られる。
図8のグラフの面積を求める方法として、長方形近似を一例に挙げると、式(1)の左辺は下記式(2)のように変形することができる。
【0009】
【数2】
【0010】
なお、ν
maxは吸収帯(吸収ピーク)の周波数上限、ν
minは吸収帯の周波数下限、nは1波形あたりの測定点数である。
【0011】
一方、式(1)の右辺におけるS(T)に関しては下記式(3)が成り立つ。
【0012】
【数3】
【0013】
なお、S
0は標準状態での線強度、Q(T)は分配関数、B(T)はボルツマン因子、SE(T)は誘導放射の補正式である。
さらに、式(3)の右辺におけるQ(T)、B(T)、SE(T)は、それぞれ下記式(4)、(5)、(6)のように表すことができる。
【0014】
【数4】
【0015】
なお、S
0、定数a〜d、E
lは、HITRANデータベース等から得られることができる。よって、ガス温度値Tと光強度変化I(ν)、I
0(ν)とを得ることができれば、水分子の数密度cが算出できることになる。
【0016】
そして、水分子の数密度cと水分の分圧値P
H2Oとの関係は、下記式(7)のように表すことができる。
【0017】
【数5】
【0018】
なお、kはボルツマン定数である。これにより、水分の分圧値P
H2O(水蒸気量情報)を算出することができる。
【0019】
ここで、
図9は、波長可変半導体レーザ吸収分光法を利用したガス分析装置の一例を示す概略構成図であり、
図10は、
図9のガス分析装置を機能ごとに示したブロック図である。なお、地面に水平な一方向をX方向とし、地面に水平でX方向と垂直な方向をY方向とし、X方向とY方向とに垂直な方向をZ方向とする。
ガス分析装置301は、光源部10と、受光部20と、圧力値P
totalを測定する圧力センサ31と、ガス温度値T
gを測定するガス温度センサ32と、光源部10を制御するレーザ制御部350と、マイコンやPCで構成される制御部360とを備える。
【0020】
このようなガス分析装置301は、燃焼プロセスへの給排気の各ラインに連結されたサンプル流路(測定対象ガスセル)70内を流れる測定対象ガス中の水分の分圧値P
H2Oを計測するために用いられる。サンプル流路70はZ方向に伸びており、サンプル流路70の側壁には、入射用光学窓71と、入射用光学窓71にX方向に距離Lを空けて対向配置される出射用光学窓72とが形成されている。そして、測定対象ガスはサンプル流路70内をZ方向に流れている。
【0021】
光源部10は、半導体レーザ(例えば光通信用分布帰還系形(DFB:distributed feedback)半導体レーザダイオード等)と、半導体レーザの温度を所定時間間隔で検出していくNTCサーミスタ(温度センサ)と、半導体レーザの温度の調整を行うためのペルチェモジュールとを備える。このモジュールとして、例えば、バタフライモジュール(
図11参照)やTO−CANタイプモジュール(
図12参照)等が用いられる。そして、半導体レーザは、入射用光学窓71からサンプル流路70内にX方向へレーザ光を入射させるように配置されており、レーザ光が測定対象ガスに対して照射されるようになっている。
【0022】
また、このようなバタフライモジュールやTO−CANタイプモジュール等は、分圧値P
H2Oの連続モニタリングに使用されるときには、半導体レーザの温度がペルチェモジュールで設定温度(一定)TとなるようにPI制御され、半導体レーザへ印加する駆動電流値を所定周期で変化させており、具体的には鋸歯形状となる駆動電流値が印加されることにより、所定波長範囲のレーザ光を所定周期で半導体レーザから発振している。
図13は、駆動電流値とレーザ光の発振波長との関係を示す概念図であり、
図13(a)は、半導体レーザへ印加する駆動電流値の波形図であり、
図13(b)は、その駆動電流値が印加された半導体レーザから発振されたレーザ光の発振波長の波形図である。
図13(a)に示すような駆動電流値の波形や設定温度Tは、連続モニタリングの開始に際してユーザによって入力されるか予め記憶されており、レーザ制御部350から制御信号として光源部10に出力されるようになっている。
【0023】
受光部20は、光強度を電気信号に変換できるものであればよく、例えばフォトダイオードが用いられる。そして、フォトダイオードは、出射用光学窓72からサンプル流路70外にX方向へ出射されたレーザ光を受光するように配置されており、測定対象ガスを通過したレーザ光の強度I(ν)を受光する。これにより、各周期において吸収ピークの中心波長部分のレーザ光の強度I(ν)と、中心波長部分の両側となる非吸収波長部分のレーザ光の強度I(ν)とを含むスペクトル波形をフォトダイオードにより取得することで、制御部360がI
0(ν)とI(ν)とを算出するようになっている。
【0024】
圧力センサ31は、サンプル流路70内に設置されており、測定対象ガスの全圧である圧力値P
totalを所定時間間隔で測定する。また、ガス温度センサ32も、サンプル流路70内に設置されており、測定対象ガスの温度であるガス温度値T
gを所定時間間隔で測定する。
【0025】
レーザ制御部350は、半導体レーザへ印加する駆動電流値を制御するレーザ電流制御部51と、半導体レーザの温度を設定温度Tに制御するレーザ温度調節部352とにより構成される。
制御部360は、CPU361とメモリ362と表示部63と入力装置64とを備える。また、CPU361が処理する機能をブロック化して説明すると、レーザ光の強度I(ν)に基づいて測定対象ガス中の分圧値P
H2Oを算出する演算部361aを有している。
【0026】
そして、レーザ光の強度I(ν)、圧力値P
total、ガス温度値T
gをそれぞれA/D変換部1、2、3によってデジタル値に所定サンプリング間隔で変換し、演算部361aは、各周期においてこのデジタル値からI
0(ν)とI(ν)とを算出して式(1)に当てはめて数密度cを得て、得られた数密度cを式(7)に当てはめて分圧値P
H2Oを得ていく。
なお、演算部361aは、分圧値P
H2Oと圧力値P
totalとを用いて、測定対象ガス中の水蒸気量(濃度)を演算するようにしてもよい。
【0027】
ところで、光源部10において、半導体レーザの温度を(一定の)設定温度Tに制御するために、バタフライモジュールでは、半導体レーザに近接した位置にペルチェモジュールが内蔵されており、TO−CANタイプモジュールでは、外部にペルチェモジュールが取り付けられている。ペルチェモジュールは、ペルチェ効果を利用して温度調整を行うことが可能な周知の熱電素子であって、レーザ温度調節部352によって制御される。
ここで、
図14は、TO−CANタイプモジュールの設定温度Tをレーザ温度調節部352によって0.1℃ずつ変化させたときの吸収スペクトルにおける吸収ピークの中心波長の位置変化、つまり光吸収の最大値の位置変化を示すグラフである。
図14(a)は、直接吸収波長法で取得したときの吸収スペクトルであり、
図14(b)は、高調波同期検出法で取得したときの吸収スペクトルである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
ところで、上述したようなガス分析装置301は、気体中の水蒸気量を計測するものであり、
図7に示すような吸収スペクトルを取得していくことになるが、その計測に際しては、一日中炎天下で計測することもあれば、氷点下で計測することもあり、さらに機械的稼働部が基本的に存在せず消耗品も少ないことから連続計測に用いられている。このような環境下では一日の間の気温変動や年間の気候変動によって、或る周期期間中にI
0(ν)を正確に算出できなかったり、
図8に示すようなグラフの面積を正確に求められないことがあった。
【課題を解決するための手段】
【0030】
本出願人は、或る周期期間中にI
0(ν)を正確に算出できないことや、
図8に示すようなグラフの面積を正確に求められなくなる原因について検討した。その結果、TO−CANタイプモジュールでは、本来温度調節すべき半導体レーザとその温度を検出するNTCサーミスタとの位置が離れているため、周囲温度の影響を強く受けていることがわかった。また、バタフライモジュールでは、半導体レーザとNTCサーミスタとは近接しているものの、少なからず周囲温度の影響を受けている。よって、TO−CANタイプモジュールやバタフライモジュールでは、第(n−
1)周期から第n周期までの間に周囲の温度が急激に下がった場合には、レーザ温度調節部352によって設定温度Tを一定に制御していても、実際の半導体レーザの温度は周囲温度の影響により下がっていた。このように半導体レーザの実際の温度が低下すると、第n周期での発振波長は
図14に示すように短波長側にシフトする。このとき、吸収ピークは第n周期の所定波長範囲の吸収スペクトルにおいて最終側へ向かっていき、最悪の場合、特定ガスの吸収ピークの周波数上限ν
maxから周波数下限ν
minまでの範囲をカバーできないことがあった。
つまり、TO−CANタイプモジュールやバタフライモジュールは、光通信用半導体レーザでの用途が想定されており、その光通信用途ではガス検出用途ほどの温度調整精度が求められていないことがわかった。
【0031】
そこで、本出願人は、吸収スペクトル中の吸収ピークの位置を記録しながら、その吸収ピークの位置に基づいて、半導体レーザの温度を調整することを見出した。例えば、半導体レーザの駆動電流値を連続的に同じ周期で変化させた場合に、第n周期中において任意のガス分子(参照ガス)の光吸収の最大値が得られる所要時間Δt
nが、過去の周期における所要時間Δt
(n−1)よりも短いときには、レーザ温度調整部によって半導体レーザの設定温度T
(n+1)を下げ、反対に長いときには設定温度T
(n+1)を上げることにした。
【0032】
すなわち、本発明のガス分析装置は、測定対象ガスに測定光を照射するレーザ素子を有する光源部と、前記測定対象ガス中を通過した測定光の強度を受光する受光部と、前記レーザ素子へ印加する駆動電流値を所定周期で変化させることにより、所定波長範囲の測定光をレーザ素子から所定周期で発振させるレーザ電流制御部と、前記レーザ素子の温度を設定温度Tに調整するレーザ温度調節部と、前記受光部で受光された第n周期の所定波長範囲の測定光の強度変化I(ν)における特定ガスの吸収ピークに基づいて、前記測定対象ガス中の特定ガス量情報を算出する演算部とを備えるガス分析装置であって、1周期中に取得された所定波長範囲の測定光の強度変化I(ν)における
前記特定ガスとは異なる参照ガスの吸収ピークを検出し、当該周期の開始時間t
sから参照ガスの光吸収の最大値が得られる時間t
pまでの所要時間Δtを算出する最大変化位置算出部と、第n周期で算出された所要時間Δt
nと、第(n−
1)周期で算出された所要時間Δt
(n−1)とに基づいて、前記設定温度T
(n+1)を変更する変更信号を前記レーザ温度調節部に出力するレーザ温度補正部とを備えるようにしている。
【発明の効果】
【0033】
以上のように、本発明のガス分析装置によれば、光源部に備えられた温度センサの温度と、レーザ素子の実際の温度との差異を随時補正することで、一日の温度差が激しい環境下や、一年の温度差が激しい気候環境における設置場所においてもレーザ素子の実際の温度は一定となるため、長時間の安定した計測が可能となる。また、ガス分析装置内外に存在する発熱体によってレーザ素子の周囲温度が激しく変化する場合にも、常に適切な吸収ピークの位置で吸収スペクトルを捉えることができる
。
【0034】
そして、特定ガス分子の吸収波長帯の近くに常に存在する参照ガス分子の吸収ピークが存在する場合には、それを温度補正用として使用することで、たとえ特定ガス分子が検出できない状況でも温度補正を行うことができる。とりわけH2Oは自然界に常に存在し、広い波長帯に渡って吸収ピークが存在するため、この吸収ピークは多くの場合に有用である。
【0035】
(他の課題を解決するための手段及び効果)
また、上記の発明では、前記レーザ温度補正部は、所要時間Δtnが所要時間Δt(n−1)より短い場合には、前記設定温度T(n+1)を下げ、一方、所要時間Δtnが所要時間Δt(n−1)より長い場合には、前記設定温度T(n+1)を上げる変更信号を出力するようにしてもよい。
【0036】
また、上記の発明では、前記特定ガスは水分子でなく、かつ、前記参照ガスは水分子であるようにしてもよい。
本発明のガス分析装置によれば、水分子は自然界に常に存在し、かつ、大抵の波長帯に吸収ピークが現れるため、この吸収ピークは多くの場合に有用である。
【0037】
そして、上記の発明では、前記光源部は、測定対象ガスセル内の測定対象ガスに測定光を照射するとともに、リファレンスガスセル内の参照ガスに測定光を照射するようにしてもよい。
本発明のガス分析装置によれば、光路上に特定ガス分子が必ずしも存在するとは限らない場合にも、光路上に温度補正用の参照ガス分子が封入されたリファレンスセルを挿入することで常に温度補正が可能になる。このようなリファレンスセルを用意すれば、特定ガス分子が検出できなくても、常に正しい温度設定で計測し続けることができる。
【0038】
さらに、上記の発明では、測定対象ガスセル内の測定対象ガスに照射する分割測定光と、リファレンスガスセル内の参照ガスに照射する参照光とに分割する測定光分割部と、前記リファレンスガスセル中を通過した参照光の強度を受光する参照受光部とを備えるようにしてもよい。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下に説明するような実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれることはいうまでもない。
【0041】
<第一実施形態>
図1は、本発明の第一実施形態のガス分析装置の一例を示す概略構成図であり、
図2は、
図1に示すガス分析装置を機能ごとに示したブロック図である。また、
図3は、本発明のガス分析装置で得られた吸収スペクトルの一例を示すグラフである。なお、上述した従来のガス分析装置301と同様のものについては、同じ符号を付している。
ガス分析装置1は、光源部10と、受光部20と、圧力値P
totalを測定する圧力センサ31と、ガス温度値Tを測定するガス温度センサ32と、光源部10を制御するレーザ制御部50と、マイコンやPCで構成される制御部60とを備える。
なお、ガス分析装置1は、燃焼プロセスへの給排気の各ラインに連結されたサンプル流路(測定対象ガスセル)70内を流れる測定対象ガス中のCO
2(特定ガス)の分圧値P
CO2を計測するために用いられるものとする。
【0042】
制御部60は、CPU61とメモリ62と表示部63と入力装置64とを備える。また、CPU61が処理する機能をブロック化して説明すると、レーザ光の強度I(ν)に基づいて測定対象ガス中の分圧値P
CO2を算出する演算部61aと、レーザ光の強度I(ν)に基づいて第n周期の開始時間t
sからCO
2(特定ガス及び参照ガス)の光吸収の最大値が得られる時間t
pまでの所要時間Δt
nを算出してメモリ62に記憶させる最大変化位置算出部61bと、設定温度T
nを変更するレーザ温度補正部61cとを有する。さらに、メモリ62には、分圧値P
CO2を記憶するための分圧値記憶領域62aと、所要時間Δt
nを記憶するための最大変化位置記憶領域62bとを有する。
【0043】
演算部61aは、レーザ光の強度I(ν)、圧力値P
total、ガス温度値T
gをそれぞれA/D変換部1、2、3によってデジタル値に所定サンプリング間隔で変換し、各周期においてこのデジタル値からI
0(ν)とI(ν)とを算出して式(1)に当てはめて数密度cを得て、得られた数密度cを式(7)に当てはめて分圧値P
CO2を得て分圧値記憶領域62aに記憶させる制御を行う。
【0044】
最大変化位置算出部61bは、第n周期の開始時間t
snからCO
2の光吸収の最大値が得られる時間t
pnまでの所要時間Δt
nを算出して最大変化位置記憶領域62bに記憶させる制御を行う。
例えば、まず、第n周期のI(ν)の曲線の傾斜量を順次調べて、その傾斜量が所定値以下になったときに吸収ピークの開始点であると判断し、傾斜量が零から正に転じたときに吸収ピークのピークトップ(最大値)であると判断し、傾斜量が所定値以下になったときに吸収ピークの終点であると判定する。そして、第n周期の開始時間t
snからCO
2のピークトップ(最大値)が得られる時間t
pnまでの所要時間Δt
n(=t
pn−t
sn)を算出して最大変化位置記憶領域62bに記憶させる。
次に、第(n+1)周期のI(ν)の曲線の傾斜量を順次調べて、その傾斜量が所定値以下になったときに吸収ピークの開始点であると判断し、傾斜量が零から正に転じたときに吸収ピークのピークトップ(最大値)であると判断し、傾斜量が所定値以下になったときに吸収ピークの終点であると判定する。そして、第(n+1)周期の開始時間t
s(n+1)からCO
2のピークトップ(最大値)が得られる時間t
p(n+1)までの所要時間Δt
(n+1)(=t
p(n+1)−t
s(n+1))を算出して最大変化位置記憶領域62bに記憶させる。
このようにして、第n周期の所要時間Δt
nを最大変化位置記憶領域62bに順次記憶させていく。
【0045】
なお、第n周期のI(ν)においてCO
2の吸収ピークが存在しないことがあるため、最大変化位置算出部61bは、CO
2以外の吸収ピーク等をCO
2の吸収ピークと判定しないように、第n周期のI(ν)においてCO
2の吸収ピークが存在するか否かを判定し、吸収ピークが存在すると判定したときに、所要時間Δt
nを算出するようにすることが好ましい。
例えば、第n周期のI(ν)においてCO
2の吸収ピークが存在するか否かを判定する判定方法としては、上述した吸収ピークの検出方法で得られた吸収ピークにおいて、その吸収量が閾値(ノイズの2倍)以上であるか否かを判定し、閾値以上であれば、CO
2の吸収ピークが存在すると判定し、一方、閾値未満であれば、CO
2の吸収ピークが存在しないと判定する。
また、所要時間Δt
nは、実時間そのものであることには限定されず、実時間に替わる情報であってもよく、例えば一定サンプリング周期で動作しているA/D変換部のサンプリング数差としてもよい。
【0046】
レーザ温度補正部61cは、所要時間Δt
nが所要時間Δt
(n−1)より短い場合には、設定温度T
(n+1)を下げる変更信号をレーザ温度調節部52に出力し、一方、所要時間Δt
nが所要時間Δt
(n−1)より長い場合には、設定温度T
(n+1)を上げる変更信号をレーザ温度調節部52に出力する制御を行う。なお、所要時間Δt
nが所要時間Δt
(n−1)と同じ場合には、レーザ温度調節部52に対して変更信号を出力しない。
【0047】
ここで、ガス分析装置1の使用方法について説明する。
図4は、分圧値P
CO2を計測する計測方法について説明するためのフローチャートである。
まず、ステップS101の処理において、周期回数パラメータn=1とする。
次に、ステップS102の処理において、レーザ温度調節部52は、半導体レーザの温度を設定温度T
nとなるようにPI制御する制御信号を光源部10に出力するとともに、レーザ電流制御部51は、半導体レーザへ印加する駆動電流値を連続的に変化させる制御信号を光源部10に出力する。
【0048】
次に、ステップS103の処理において、演算部61aは、レーザ光の強度I(ν)、圧力値P
total、ガス温度値T
gをそれぞれA/D変換部1、2、3によってデジタル値に変換して取得する。
次に、ステップS104の処理において、演算部61aは、第n周期においてこのデジタル値からI
0(ν)とI(ν)とを算出して式(1)に当てはめて数密度cを得て、得られた数密度cを式(7)に当てはめて分圧値P
CO2を得て分圧値記憶領域62aに記憶させる。
【0049】
次に、ステップS105の処理において、最大変化位置算出部61bは、第n周期の開始時間t
snからCO
2の光吸収の最大値が得られる時間t
pnまでの時間Δt
nを算出して最大変化位置記憶領域62bに記憶させる。
次に、ステップS106の処理において、レーザ温度補正部61cは、所要時間Δt
nが所要時間Δt
(n−1)と同じであるか否かを判定する。
【0050】
所要時間Δt
nが所要時間Δt
(n−1)と同じであると判定したときには、ステップS107の処理において、n=n+1とした後、ステップS102の処理に戻る。
一方、所要時間Δt
nが所要時間Δt
(n−1)と同じでないと判定したときには、ステップS108の処理において、所要時間Δt
nが所要時間Δt
(n−1)より短いか否かを判定する。所要時間Δt
nが所要時間Δt
(n−1)より短いと判定したときには、ステップS109の処理において、設定温度T
(n+1)を下げる変更信号をレーザ温度調節部52に出力した後、ステップS107の処理に進む。
一方、所要時間Δt
nが所要時間Δt
(n−1)より長いと判定したときには、ステップS110の処理において、設定温度T
(n+1)を上げる変更信号をレーザ温度調節部52に出力した後、ステップS107の処理に進む。
【0051】
以上のように、本発明のガス分析装置1によれば、光源部10に備えたNTCサーミスタで検出された温度と半導体レーザの温度との差異を随時補正することで、一日の温度差が激しい環境下や、一年の温度差が激しい気候における設置場所においても半導体レーザの温度は一定になるため、長時間の安定した計測が可能となる。
【0052】
<第二実施形態>
図5は、本発明の第二実施形態のガス分析装置の一例を示す概略構成図である。なお、上述したガス分析装置1と同様のものについては、同じ符号を付している。
ガス分析装置101は、光源部10と、受光部20と、リファレンスガスセル80と、圧力値P
totalを測定する圧力センサ31と、ガス温度値Tを測定するガス温度センサ32と、光源部10を制御するレーザ制御部50と、マイコンやPCで構成される制御部160とを備える。
なお、ガス分析装置101は、燃焼プロセスへの給排気の各ラインに連結されたサンプル流路(測定対象ガスセル)70内を流れる測定対象ガス中のCO
2(特定ガス)の分圧値P
CO2を計測するために用いられるものとし、参照ガスとしてH
2Oを用いることとする。
【0053】
半導体レーザは、リファレンスガスセル80を通過させた後、入射用光学窓71からサンプル流路70内にX方向へレーザ光を入射させるように配置されており、レーザ光が参照ガスを通過した後、測定対象ガスに対して照射されるようになっている。
【0054】
制御部160は、CPU161とメモリ62と表示部63と入力装置64とを備える。また、CPU161が処理する機能をブロック化して説明すると、レーザ光の強度I(ν)に基づいて測定対象ガス中の分圧値P
CO2を算出する演算部61aと、レーザ光の強度I(ν)に基づいて第n周期の開始時間t
sからH
2Oの光吸収の最大値が得られる時間t
pまでの所要時間Δt
nを算出してメモリ62に記憶させる最大変化位置算出部61bと、設定温度T
(n+1)に変更するレーザ温度補正部61cとを有する。
【0055】
以上のように、本発明のガス分析装置101によれば、光源部10に備えたNTCサーミスタで検出された温度と半導体レーザの温度との差異を随時補正することで、一日の温度差が激しい環境下や、一年の温度差が激しい気候における設置場所においても半導体レーザの温度は一定となるため、長時間の安定した計測が可能となる。このようなリファレンスセル80を用意すれば、CO
2が検出できなくても、常に正しい温度設定で計測し続けることができる。
【0056】
<第三実施形態>
図6は、本発明の第三実施形態のガス分析装置の一例を示す概略構成図である。なお、上述したガス分析装置101と同様のものについては、同じ符号を付している。
ガス分析装置201は、光源部10と、分割測定光と参照光とに分割する測定光分割部15と、参照光受光部21と、リファレンスガスセル80と、圧力値P
totalを測定する圧力センサ31と、ガス温度値Tを測定するガス温度センサ32と、光源部10を制御するレーザ制御部50と、マイコンやPCで構成される制御部260とを備える。
【0057】
測定光分割部15は、例えばレーザ光を2方向へ分割するハーフミラーであり、半導体レーザから出射されたレーザ光の一部を透過することで測定対象ガスに照射する分割測定光と、レーザ光の残りを反射することで測定対象ガスに照射しない参照光とに分割する。
そして、参照光がリファレンスガスセル80に対して照射されるようになっている。
【0058】
参照光受光部21は、光強度を電気信号に変換できるものであればよく、例えばフォトダイオードが用いられる。そして、フォトダイオードは、測定光分割部15でZ方向に反射され、リファレンスガスセル80を通過したレーザ光(参照光)を受光するように配置されており、H
2Oを通過した強度I’(ν)のレーザ光(参照光)を受光する。
【0059】
制御部260は、CPU261とメモリ62と表示部63と入力装置64とを備える。また、CPU261が処理する機能をブロック化して説明すると、レーザ光の強度I(ν)に基づいて測定対象ガス中の分圧値P
CO2を算出する演算部61aと、レーザ光の強度I’(ν)に基づいて第n周期の開始時間t
sからH
2Oの光吸収の最大値が得られる時間t
pまでの所要時間Δt
nを算出してメモリ62に記憶させる最大変化位置算出部61bと、設定温度T
(n+1)に変更するレーザ温度補正部61cとを有する。
【0060】
以上のように、本発明のガス分析装置201によれば、光源部10に備えたNTCサーミスタで検出された温度と半導体レーザの温度との差異を随時補正することで、一日の温度差が激しい環境下や、一年の温度差が激しい気候における設置場所においても半導体レーザの温度を一定に保つことができ、長時間の安定した計測が可能となる。このようなリファレンスセル80を用意すれば、CO
2が検出できなくても、常に正しい温度設定で計測し続けることができる。
【0061】
<他の実施形態>
(1)上述したガス分析装置1においては、レーザ温度補正部61cは、所要時間Δt
nが所要時間Δt
(n−1)より短い場合には、設定温度T
(n+1)を下げる変更信号をレーザ温度調節部52に出力し、一方、所要時間Δt
nが所要時間Δt
(n−1)より長い場合には、設定温度T
(n+1)を上げる変更信号をレーザ温度調節部52に出力する制御を行う構成としたが、所要時間Δt
nが所要時間Δt
(n−5)より短い場合には、設定温度T
(n+1)を下げる変更信号をレーザ温度調節部に出力し、一方、所要時間Δt
nが所要時間Δt
(n−5)より長い場合には、設定温度T
(n+1)を上げる変更信号をレーザ温度調節部に出力する制御を行うような構成としてもよい。
【0062】
(2)上述したガス分析装置1においては、所要時間Δt
nが所要時間Δt
(n−1)と同じ場合には、変更信号をレーザ温度調節部52に出力しない構成としたが、所要時間Δt
nが所要時間Δt
(n−1)±B(定数)となる場合には変更信号をレーザ温度調節部に出力しないような構成としてもよい。