(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6314690
(24)【登録日】2018年4月6日
(45)【発行日】2018年4月25日
(54)【発明の名称】真空容器の形成方法
(51)【国際特許分類】
H01L 23/02 20060101AFI20180416BHJP
B23K 1/20 20060101ALI20180416BHJP
B23K 1/00 20060101ALI20180416BHJP
【FI】
H01L23/02 C
H01L23/02 F
B23K1/20 D
B23K1/20 J
B23K1/00 330E
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2014-130932(P2014-130932)
(22)【出願日】2014年6月26日
(65)【公開番号】特開2016-9811(P2016-9811A)
(43)【公開日】2016年1月18日
【審査請求日】2016年10月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】島田 勝
(72)【発明者】
【氏名】山田 実
(72)【発明者】
【氏名】藤井 淳
【審査官】
鈴木 駿平
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−218811(JP,A)
【文献】
特開2007−324447(JP,A)
【文献】
特開2003−243550(JP,A)
【文献】
特表2009−506565(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/54
H01L 23/00−23/10、23/16−23/26
B23K 1/00−3/08、31/02、33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の部品を接合して内部が真空の真空容器を形成する方法であって、
第1の部品の表面にインジウムであるシール材を形成するステップと、
前記シール材の上にバリア膜を形成するステップと、
前記シール材の酸化を防止し且つ前記バリア膜と合金反応しない酸化防止膜を前記バリア膜の上に形成するステップと、
前記シール材、前記バリア膜及び前記酸化防止膜を介して前記第1の部品を第2の部品に接触させ、真空状態において前記シール材を溶融させて前記第1の部品と前記第2の部品とを接合するステップと
を含むことを特徴とする真空容器の形成方法。
【請求項2】
前記酸化防止膜が金膜であることを特徴とする請求項1に記載の真空容器の形成方法。
【請求項3】
前記バリア膜が、クロム膜、ニッケル膜、チタン膜のいずれかであることを特徴とする請求項1又は2に記載の真空容器の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部が真空である真空容器の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
真空容器の内部に機器を配置した装置、例えばX線検出装置では、真空に保持された真空容器内にX線検出素子が配置される。このような真空容器を複数の部品を接合して形成するために、インジウム(In)膜をシール材とする真空パッケージ技術が用いられている。このとき、シール材の表面に酸化膜が生成されると、部品間の接合性が劣化し、真空容器の内部を高真空にできない。
【0003】
このため、インジウム膜の表面に金(Au)膜を酸化防止膜として形成することによって、酸化膜がインジウム膜の表面に生成されるのを抑制する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−174594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、インジウム膜の表面に金膜を形成するときにインジウムと金が反応して、酸化防止膜となるはずの金膜の表面がインジウム化合物で覆われるという問題が生じる。これにより、インジウム化合物の表面に露出するインジウム原子面が酸化し、部品間の接合面でのインジウムと金の均一な合金反応が妨げられる。その結果、部品間の接合性が劣化する。
【0006】
上記問題点に鑑み、本発明は、真空容器を構成する部品間の接合面での均一な合金反応を実現可能な真空容器の形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によれば、複数の部品を接合して内部が真空の真空容器を形成する方法であって、第1の部品の表面に
インジウムであるシール材を形成するステップと、シール材の上にバリア膜を形成するステップと、シール材の酸化を防止し且つバリア膜と合金反応しない酸化防止膜をバリア膜の上に形成するステップと、シール材、バリア膜及び酸化防止膜を介して第1の部品を第2の部品に接触させ、真空状態においてシール材を溶融させて第1の部品と第2の部品とを接合するステップとを含む真空容器の形成方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、真空容器を構成する部品間の接合面での均一な合金反応を実現可能な真空容器の形成方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施形態に係る真空容器の形成方法を説明するための模式図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る真空容器の形成方法による部品の接合の例を示す模式図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る真空容器の形成方法を用いて製造されるX線検出装置の例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであることに留意すべきである。又、以下に示す実施形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の実施形態は、構成部品の構造、配置などを下記のものに特定するものでない。この発明の実施形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0011】
本発明の実施形態に係る真空容器の形成方法は、
図1に示すように、シール材31を用いて複数の部品を接合して真空容器を形成する方法である。即ち、第1の部品10の表面にシール材31を形成するステップと、シール材31の上にバリア膜32を形成するステップと、バリア膜32の上に酸化防止膜33形成するステップと、シール材31、バリア膜32及び酸化防止膜33を介して第1の部品10に第2の部品20を接触させ、シール材31を溶融させるステップとを含む。真空状態においてシール材31を溶融させることによって第1の部品10と第2の部品20とを接合させて、第1の部品10と第2の部品20とで囲まれた内部が真空の真空容器を形成する。
【0012】
図1では、第1の部品10と第2の部品20の接合部分の近傍のみを例示している。例えば、第1の部品10がキャップ形状であり、第2の部品20が板形状である場合に、第1の部品10の開口部の縁と第2の部品20の主面を接合面として、真空容器が形成される。
【0013】
シール材31には、例えばインジウム(In)やインジウム錫(InSn)などの半田材が採用可能である。酸化防止膜33には、シール材31の酸化を防止する材料が選択される。また、バリア膜32には、酸化防止膜33と合金反応しない材料が選択される。例えばシール材31がインジウムである場合、酸化防止膜33には金(Au)膜が好適に使用され、バリア膜32にはクロム(Cr)膜、ニッケル(Ni)膜、チタン(Ti)膜などの金属膜が好適に使用される。
【0014】
なお、
図1に示したように、第1の部品10及び第2の部品20の表面には、シール材31と合金反応する表面被覆膜120が配置されている。例えばシール材31がインジウムである場合に、インジウムと合金を作りやすい金(Au)膜が表面被覆膜120に好適に使用される。なお、
図1に示したように、第1の部品10及び第2の部品20の表面に下地膜110を配置し、下地膜110上に表面被覆膜120を配置してもよい。下地膜110は、クロム膜やニッケル膜などの金属膜111と金(Au)膜112の積層膜などが使用される。
【0015】
以下に、実施形態に係る真空容器の形成方法の実施例を示す。なお、下地膜110として、膜厚100nmのクロム膜と膜厚250nmの金膜を積層した積層膜が使用されているとする。
【0016】
まず、表面被覆膜120として膜厚5μm程度の金膜が接合面にそれぞれ配置された第1の部品10と第2の部品20を用意する。表面被覆膜120は、例えば金メッキにより形成される。
【0017】
第1の部品10上に形成された表面被覆膜120上に、シール材31として膜厚2μm程度のインジウム膜を形成する。次いで、シール材31上に、膜厚50nm程度のバリア膜32を形成する。
【0018】
次に、バリア膜32上に、酸化防止膜33として金膜を膜厚100nm程度で形成する。したがって、バリア膜32には、金膜と合金反応しないクロム膜、ニッケル膜、チタン膜などの金属膜を使用する。
【0019】
その後、第2の部品20の表面に配置された表面被覆膜120が酸化防止膜33と接するようにして、第1の部品10上に第2の部品20を配置する。そして、真空状態において第1の部品10と第2の部品20の接合面を合わせてシール材31を溶融させて、第1の部品10と第2の部品20とを接合する。即ち、シール材31のインジウム膜を、第1の部品10及び第2の部品20の表面に配置された表面被覆膜120の金膜とそれぞれ合金反応させる。このとき、酸化防止膜33及びバリア膜32を通ってシール材31が第1の部品10に進行し、第1の部品10表面の表面被覆膜120とシール材31が合金反応する。この真空シール工程によって、第1の部品10と第2の部品20の接合面においてシール材31の液相と表面被覆膜120との合金反応が速やかに生じる。これにより、内部が真空の真空容器が形成される。真空容器に所望の真空度に合わせて、第1の部品10と第2の部品20とを接合する環境の真空度が設定される。真空度は、例えば10
-2〜数Pa程度である。
【0020】
なお、上記のシール工程においてバリア膜32が分解され、シール材31と表面被覆膜120との合金に、分解されたバリア膜32が分散して含有される。つまり、
図2に示した第1の部品10と第2の部品20との接合部分(以下において、「シール部30」という。)のシール材31と表面被覆膜120との合金には、バリア膜32の粒子などが含まれている。ただし、シール材31や表面被覆膜120の量に比べてバリア膜32の量は非常に少ないために、接合性には影響しない。
【0021】
バリア膜32の膜厚が薄すぎるとバリア性が不足し、酸化防止膜33の形成時にシール材31と酸化防止膜33との合金反応が生じてしまう。一方、バリア膜32が厚すぎると、シール工程後にバリア膜32が残存してしまう。バリア膜32の膜厚は、例えば10nm〜200nm程度である。
【0022】
酸化防止膜33の膜厚を厚くすることにより酸化防止効果が高まるが、成膜工程が長くなる問題が生じる。また、酸化防止膜33を厚く形成している間に部品の温度が上昇し、酸化防止膜33とシール材31の合金化が進んでしまう。更に、酸化防止膜33に金膜を使用した場合にはコストが上昇する。このため、酸化防止膜33の膜厚は100nm〜300nm程度が好ましい。
【0023】
上記の真空シール工程では、例えば、シール材31の溶融温度以上にシール材31を昇温することによって、第1の部品10及び第2の部品20の表面に配置された表面被覆膜120とシール材31とを合金反応させる。インジウムの溶融温度は150℃程度である。また、インジウム錫の溶融温度は120℃程度である。シール材31にインジウム膜やインジウム錫を使用した場合、インジウムと合金を作りやすい金膜が表面被覆膜120に好適に使用される。
【0024】
なお、シール材31のインジウム膜、バリア膜32、及び酸化防止膜33の金膜の形成には、例えば蒸着法などを採用可能である。或いは、スパッタ法を採用してもよく、金膜の形成には金メッキ法を使用してもよい。
【0025】
以上に説明したように、本発明の実施形態に係る真空容器の形成方法によれば、酸化防止膜33を形成中での酸化防止膜33とシール材31の合金反応が抑制される。例えば、インジウム膜上に薄い金膜を蒸着するときにインジウムと金とが合金反応することが抑制される。したがって、シール材31の表面が酸化防止膜33によって覆われた状態が保持され、空気中でもシール材31表面の酸化が防止される。その結果、真空シール工程において、第1の部品10と第2の部品20の接合面でおいて均一にシール材31と表面被覆膜120との合金反応が速やかに生じる。これにより、リークの抑制された良好な真空シールが得られる。
【0026】
なお、上記のようにシール材31の酸化が抑制されるため、シール材31表面の酸化膜のエッチング除去や、酸化膜の除去に使用したフラックスの洗浄作業などが不要である。したがって、真空容器の形成方法における工程の増大を抑制できる。また、シール材31の表面に形成された酸化膜を破るために接合部への超音波印加や接合部に振動を与えるスクラブ法なども考えられるが、装置が大型化する問題がある。一方、実施形態に係る真空容器の形成方法ではそのような機能を必要としない。
【0027】
上記に説明した形成方法では、形成時から真空容器の内部が真空である。このため、形成後に真空容器の内部を真空にする必要がない。したがって、真空ポンプによる減圧によって内部を真空にすることが困難な小型の真空容器の形成などに有効である。
【0028】
例えば、
図3に示すようなX線検出装置1などの製造に、本発明の実施形態に係る真空容器の形成方法を適用可能である。
図3に示したX線検出装置1は、X線を検出するX線検出素子200、及びX線検出素子200を冷却する冷却装置300が、真空容器100に格納された構造である。真空容器100に配置された入射窓101を透過して、検出対象のX線がX線検出素子200に入射する。
【0029】
X線検出素子200は、例えばシリコン(Si)単結晶にリチウム(Li)を拡散させて形成したP−I−N接合を有する半導体素子である。X線がX線検出素子200に入射すると、I層に入射したX線によりX線検出素子200内に電子と正孔が生じ、外部に電流パルスとして検出される。この電流パルスは、リード部400を介して、真空容器100の外部に出力される。
【0030】
真空容器100は、第1の部品10と第2の部品20とがシール部30によって接合された構造である。シール部30は、上記で説明したように、シール材31と表面被覆膜120との合金である。
図1を参照して説明した形成方法によれば、X線検出素子200及び冷却装置300を格納した状態で、第1の部品10と第2の部品20とを、内部を真空状態で接合することができる。これにより、小型且つ高真空の真空容器100を得られる。
【0031】
また、赤外線検出素子を内部に格納した真空容器を有する赤外線検出装置も、
図3に示したX線検出装置1と同様に形成可能である。即ち、赤外線検出素子を内部に格納した状態で、第1の部品10と第2の部品20とを真空状態において接合する。これにより、小型且つ高真空の真空容器内部に赤外線検出素子を格納した赤外線検出装置を得られる。
【0032】
(その他の実施形態)
上記のように、本発明は実施形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述及び図面はこの発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施形態、実施例及び運用技術が明らかとなろう。
【0033】
上記では2つの部品によって真空容器を構成する例を示したが、3つ以上の部品によって真空容器を構成する場合にも本発明は適用可能である。
【0034】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施形態等を含むことは勿論である。したがって、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0035】
1…X線検出装置
10…第1の部品
20…第2の部品
30…シール部
31…シール材
32…バリア膜
33…酸化防止膜
100…真空容器
110…下地膜
120…表面被覆膜
200…X線検出素子
300…冷却装置
400…リード部