(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記試料ガス導入部は前記試料ガス導入口から内部空間に通じるノズルをもち、前記内部空間にはメイクアップガスが供給されるとともに、前記分離カラムの先端が配置されており、
前記試料ガス導入部は基端部の外形形状が前記通路の内壁に接する正多角形又は角の取れた正多角形形状をもっている請求項3に記載の電子捕獲検出器。
【発明を実施するための形態】
【0012】
好ましい実施形態では、セル室は円筒形状をなしており、セル室底部の開口は円形であり、セル室の底部の中央に配置されており、コレクタ電極はセル室の円筒の中心軸上に配置されている。線源はセル室の側面の内壁に配置されているので、試料ガス導入口は線源から最も遠い位置に配置されることになる。そして、コレクタ電極の周囲に形成されるパージガス流による流体障壁が試料ガス導入口の外側の開口からガス排出流路に流れ込むことになるので、試料ガス導入口から導入された分離カラムからのガスと線源との間にもそのパージガス流による流体障壁が存在することになる。そのようにして、線源が試料ガスと接触して汚染される確率を一層小さくする。
【0013】
この実施形態において、好ましくは、セル室の下部にセル室底部の開口よりも大きい直径をもつ円筒状の通路をもち、この通路はその円筒の中心軸をセル室の円筒の中心軸上にもっているようにすることができる。そして、試料ガス導入部は少なくともその一部がこの通路内に配置されていて、この通路の内壁と試料ガス導入部の外面との隙間が前記ガス排出部となっているように構成することができる。
【0014】
この実施形態において、さらに好ましくは、試料ガス導入部は試料ガス導入口から内部空間に通じるノズルをもち、その内部空間にはメイクアップガスが供給されるとともに、分離カラムの先端が配置されているようにし、試料ガス導入部は基端部の外形形状がこの通路の内壁に接する正多角形又は角の取れた正多角形形状をもっているように構成することができる。
【0015】
試料ガス導入口が分離カラムの先端自体でなく、分離カラムからの溶出ガスとメイクアップガスを導くノズルの先端となるので、内径の異なる分離カラムを使用したときにもノズルの先端からセル室内に流入する試料ガスの線速度が一定になって試料ガスの広がり方の差がなくなる。このことは測定結果の再現性向上に寄与する。
【0016】
また、試料ガス導入部の外形形状がそのような正多角形又は正多角形形状をもっていることにより、試料ガス導入部とこの通路の内壁との間にガス排出部となる隙間を確保できるとともに、試料ガス導入部を位置決めすることができる。試料ガス導入部を位置決めすることはセル室底部における試料ガス導入口の位置決めをすることになる。この実施形態では、試料ガス導入口はセル室の円筒の中心軸上に配置され、その位置が試料ガス導入部の基端部の外形形状により固定されることになる。このことも測定結果の再現性向上に寄与する。
【0017】
この実施形態において、さらに好ましくは、試料ガス導入部の内部空間において、分離カラムの先端はノズルから離れた位置に配置されているように構成することができる。分離カラムの先端はノズルから離れていることにより、分離カラムからの溶出ガスとメイクアップガスとが混合しやすくなり、後述のように試料濃度に対する検出強度の直線性の向上に寄与する。
【0018】
図1にガスクロマトグラフの一実施例を概略図で示す。試料導入部としての試料気化室2の上部に試料注入部4が設けられている。試料注入部4は気密封止のためのセプタムを備え、そのセプタムを通して試料注入用シリンジにつながるノズルが試料気化室2に挿入されて試料が注入される。試料気化室2では、キャリアガス流路6を通じて供給されるキャリアガスの一部が試料注入部4から注入された試料をインサート部8へ搬送し、キャリアガスの残りはパージガスとしてパージガス流路10を通じて外部へ排出されるようになっている。インサート部8へ搬送され気化した試料を含むガスの一部は試料導入流路12を通って分離カラム14Aへ導かれ、残りのガスはスプリットガス流路15を通じて外部へ排出されるようになっている。分離カラム14Aで分離された成分を含む溶出ガスは検出器16に導かれて検出される。
【0019】
検出器16は一実施例のECD検出器である。そのECD検出器16の概略を
図2に示す。
【0020】
セル室20は円筒型をなし、その側面の内壁に放射性同位元素を含む線源22が配置されている。セル室20には頂部側にコレクタ電極24が配置されている。コレクタ電極24は断面が円形の棒状をしており、セル室20の円筒の中心軸上に配置され、その先端部がセル室20に突出している。
【0021】
線源22は、例えばニッケル63(Ni
63)を含む箔又は板状の放射性ベータ放射体である。線源22としてはトリチウム(H
3)を用いることもできる。線源22はメイクアップガスの分子をイオン化して電子を発生させる。発生した電子がコレクタ電極24へ移動して電子電流を生成する。
【0022】
コレクタ電極24を介してその電子電流を検出するためにコレクタ電極24には検出回路40が接続されている。線源22が例えば接地され、検出回路40はコレクタ電極24と線源22との間に正電圧パルスを印加するように構成されている。検出回路40はコレクタ電極24と線源22との間の電流を一定に保つようにコレクタ電極24と線源22との間に印加する電圧パルスの量を変化させ、その変化を検出信号として検出するように構成されている。
【0023】
セル室20の底部の中心に試料ガス導入口26が配置されている。試料ガス導入口26が形成されている部材が試料ガス導入部である。コレクタ電極24がセル室20の円筒の中心軸上に配置されているので、コレクタ電極24の先端と試料ガス導入口26はセル室20の円筒の中心軸上で対向している。試料ガス導入口26はメイクアップガスとキャピラリ14からのガスをセル室20内に流入させるものであり、その具体的な構造の例は後で
図3と
図4を参照して説明する。メイクアップガスは例えば窒素ガスである。キャピラリ14は分離カラム14Aの一例である。
【0024】
セル室20の頂部にはパージガス導入部32が配置されている。パージガス導入部32は、パージガスをコレクタ電極24に沿ってコレクタ電極24の先端側に向かってセル室20内に流入させるパージガス案内部34を備えている。パージガス案内部34はコレクタ電極24の周面を取り囲みセル室20内に通じる隙間からなる。パージガス案内部34の具体的な構造も
図3を参照して後述する。パージガスは例えば窒素ガスであり、この実施例ではメイクアップガスとパージガスは同じガス供給源から供給される同じガスを使用する。
【0025】
セル室20の底部側にはガス排出部36が設けられている。ガス排出部36は、セル室20の底部において試料ガス導入口26の外側を取り囲んでいる開口25に通じ、外部につながる排出流路39に接続されている。ガス排出部36はセル室20内のガスをその開口25から取り込んで排出流路39からセル室20の外部に排出する。
【0026】
試料ガス、メイクアップガス及びパージガスの流れは、概略的には
図2中の矢印で示されるようになる。パージガスはパージガス導入部32の案内部34からセル室20内に流入し、コレクタ電極24の回りにパージガス流による流体障壁を形成する。セル室20内に流入したパージガスは、セル室20の底部の開口25に入ってガス排出部36から排出される。溶出ガスとメイクアップガスはセル室20の底部の試料ガス導入口26からセル室20に流入する。溶出ガスとメイクアップガスはセル室20に流入する前又は後で混合して試料ガスとなる。試料ガスはパージガスによる流体障壁によってコレクタ電極24にも線源22にも接触する前にパージガスとともにセル室20の底部の開口25に入ってガス排出部36から排出される。
【0027】
この実施例では、コレクタ電極24はセル室20内に突出しているが、必ずしも突出していなくてもよい。例えば、コレクタ電極24の先端がパージガス導入部32のセル室20側の面よりも後退していてもよい。その場合でもコレクタ電極24の先端部はパージガス案内部34内にあってセル室20と通じている。「露出」はこの状態も含む。要はセル室20で発生した電子がコレクタ電極24に取り込まれる状態になっていればよい。コレクタ電極24がセル室20内に突出している方がセル室20で発生した電子を取り込みやすくなって検出感度が高まる点では有利であるが、セル室20に導入される溶出ガスとの接触の可能性が高まるのでコレクタ電極24が汚染される可能性が高まる点では不利である。したがって、コレクタ電極24をセル室20内に突出させるかどうか、また突出させるとしてもどの程度突出させるかという事項は、検出感度と汚染リスクとの兼ね合いで決めればよい。
【0028】
次に、このECD検出器16による検出動作について説明する。セル室20内では線源22からのベータ線によってメイクアップガスの一部が電離してセル室20内に電子が生成する。コレクタ電極24と線源22との間に一定間隔で一定電圧の正電圧パルスが印加されると、この電子がコレクタ電極24に引き寄せられてコレクタ電極24と線源22との間に一定の大きさの定常電流が流れる。ガス導入口26からセル室20内に溶出ガスが流入しその溶出ガス中に電子親和性物質が存在すると、電子はコレクタ電極24に到達する前に電子親和性物質に取り込まれやすくなる。電子親和性物質に取り込まれた電子は電子親和性物質の質量が加わって移動しにくくなるため、コレクタ電極24と線源22との間の電流を一定に保つために検出回路40は電圧パルスを印加する間隔を短くすることによってより多くの電圧パルスを印加し、検出回路40はその電圧パルス印加量の変化をピークとして検出する。
【0029】
ECD検出器16の一実施例の具体的な構造を
図3と
図4に示す。
【0030】
セル室20は金属製の筐体18により円筒状に形成されており、セル室20の内側の側面が鉛直方向になるように、すなわち図の状態に設置される。線源22はセル室20内に配置され、セル室20の底面側から側面の内壁面を覆っている。線源22が配置されている高さは、特に限定されるものではないが、壁面の高さの半分以上であり、壁面全体を覆っていてもよい。
【0031】
コレクタ電極24はセル室20の円筒の中心軸上にあってセル室20の頂部の中心からセル室20内に下向きに突出している。コレクタ電極24がセル室20内に突出している長さは、特に限定されるものではなく、この実施例では線源22が配置されている高さよりも下方に至る長さである。
【0032】
セル室20の底部の中央に円形の開口25があけられている。その開口25の中心に試料ガス導入口26を配置するために、筐体18にはセル室20の下部に開口25よりも大きい直径をもつ円筒状の通路19が設けられ、その通路19内にノズルキャップ28をもつアダプタ27が配置されている。ノズルキャップ28は試料ガス導入部の一例である。通路19はその円筒の中心軸がセル室20の円筒の中心軸上にあるように形成されている。
【0033】
通路19はセル室20側の先端側で円筒から内径が徐々に狭くなって開口25に通じている。円筒から開口25に至る通路19内面は傾斜面となっている。
【0034】
アダプタ27は、キャピラリ14をセル室20の近くまで導くために、中心にキャピラリ14の外形よりも大きい内径の孔31をもち、その孔31内にキャピラリ14が配置されている。その孔31の内面とキャピラリ14の外面との隙間がメイクアップガスの通路となっている。
【0035】
アダプタ27はセル室20側の先端部の内径が小さくなり、先端にはノズルキャップ28が設けられている。ノズルキャップ28はセル室20側に配置される先端面が円形であり、その先端面の直径はセル室20底部の開口25の直径よりも小さい。ノズルキャップ28の先端面が開口25の中央に位置決めされている。ノズルキャップ28は基端部側に向かって内径が大きくなる外形形状をもち、その基端部の外形形状は通路19の円筒の内面に接する正多角形又はその角がとれた正多角形状態になっている。そのため、通路19の円筒から開口25に至る通路19内面とノズルキャップ28の外面との間には
図4(A)に示されるように隙間が存在し、ノズルキャップ28の基端部においても
図4(B)に示されるように通路19の内面とノズルキャップ28の基端部との間に隙間が存在する。それらの隙間がガス排出部36となっている。
【0036】
ノズルキャップ28の先端面の中心にはアダプタ27の中心の孔31をセル室20に通じさせるノズル29が設けられている。そのノズル29の先端側の開口がガス導入口26となっている。ノズルキャップ28はその外形の基端部が正多角形又は正多角形状態になっているので、ノズルキャップ28の基端部が通路19の円筒の内面に接することによってノズルキャップ28の先端面の中心にあるガス導入口26が位置決めされる。
【0037】
ノズルキャップ28の基端部の外形を正多角形又は正多角形状態にしているのは、ノズルキャップ28の基端部と通路19の内面との間にガス排出部36となる隙間を設けることと、先端面の中心にあるカス導入口26を位置決めすることが目的であるので、そのような目的を達成できる正多角形又は正多角形状態であれば、正三角形、正四角形、正五角形、正六角形など、適当に選択することができる。
【0038】
そして、ノズルキャップ28の基端部の外形を正多角形又は正多角形状態にしたことによりガス導入口26が常にセル室20の中心軸上に位置決めされる。このことは、ガス導入口26からセル室20への試料ガスの放出の状態が安定することを意味し、測定結果の再現性の向上に寄与する。
【0039】
アダプタ27の中心の孔31内には分離カラム14Aの一例としてのキャピラリ14が配置され、キャピラリ14の先端は、
図4(A)に示されるように、ノズルキャップ28のノズル29を塞ぐことがないように、ノズル29の下端から離れたところに位置決めされている。アダプタ27の中心の孔31は、
図3に示されるように、メイクアップガス供給流路30に接続されており、メイクアップガス供給流路30から供給されたメイクアップガスがキャピラリ14からのガスとともにノズルキャップ28のノズル29から試料ガス導入口26を経てセル室20内に流入する。
【0040】
キャピラリ14の先端とノズルキャップ28の先端部のノズル19の下端との間の隙間は、以下の観点から適当な大きさに設定する。その隙間が大きいほどキャピラリ14からの溶出ガスとメイクアップガスとの混合が促進される。本発明者らの知見によれば、キャピラリ14からのガスとメイクアップガスとの混合がよく行われた場合には、試料濃度の変化に対する検出強度の直線性がよい。一方、その隙間を大きくするほど、分離カラムとしてのキャピラリ14で分離した試料成分が拡散するので、検出されるピークが広がることになる。そのため、検出強度の直線性とピークの広がりとの兼ね合いから、その隙間の大きさを適当な値に設定するのが好ましい。その隙間の大きさは特に限定されるものではなく、例えば1〜10mmとすることができる。
【0041】
ノズルキャップ28の先端のノズル29の孔径は特に限定されるものではないが、例えば0.3mmとする。一方、ガスクロマトグラフの分離カラムとしては、主に内径が0.25mm、0.32mm及び0.53mmの3種類のキャピラリが使用されている。仮にノズルキャップ28を用いないでキャピラリ14の先端をセル室20底部の開口25に導いたとすれば、溶出ガスがセル室20に注入される際の線速度がキャピラリ14の内径によって異なり、それによってセル室20に注入される溶出ガスの広がりが異なることになる。このことは測定結果がキャピラリ14の内径によって変化する結果を招き、測定結果の再現性が低下することを意味する。それに対し、この実施例のようにノズルキャップ28を配置することにより、キャピラリ14の内径が異なってもノズルキャップ28のノズル29を経て試料ガスがセル室20内に注入されるので、溶出ガスがセル室20に注入される際の線速度がキャピラリ14の内径によらず一定になり、セル室20に流入する試料ガスの広がりも一定になって、測定結果の再現性が向上する。
【0042】
パージガス導入部32はセル室20の頂部側に配置されており、パージガスをセル室20の頂部側からコレクタ電極24に沿ってセル室20内に導入するための案内部34を備えている。案内部34は、コレクタ電極24の周面に平行な内壁面をもつ平行部分34aと、平行部分34aからセル室20内への開口に向かって内径が広がる拡径部分34bとからなっている。拡径部分34bは、開口34に向かって傾斜をもって広がる漏斗状をなしている。
【0043】
パージガス導入部32は外部からパージガスを供給するパージガス供給流路35に接続されており、パージガス供給流路35から供給されたパージガスを平行部分34aに導くためにパージガス導入部32は溝35aを備えている。溝35aはパージガス導入部32を周方向に取り囲むように形成され、周方向の複数個所で平行部分34aとつながっている。
【0044】
パージガス導入部32の案内部34が平行部分34aをもっていることにより、コレクタ電極24の回りにパージガス流による流体障壁を形成しやすくなる。さらに、案内部34が拡径部分34bをもっていることにより、試料ガス導入口26から導入される溶出ガスと線源22との間にもパージガス流による流体障壁を形成しやすくなる。
【0045】
線源22はセル室20を構成する筐体18を介して接地される。コレクタ電極24は筐体18とは電気的に絶縁状態になるように支持され、コレクタ電極24は検出回路40に接続されている。検出回路40による検出動作は
図2の説明において述べた。
【0046】
セル室20内の圧力が変動するとセル室20内でのメイクアップガスの密度も変動し、線源22からの放射線量が一定であってもメイクアップガスから発生する電子の量が変動して検出感度が変動する。そのため、セル室20に流入するメイクアップガスとパージガスはともにそれぞれの圧力を制御した状態でセル室20に流入させる必要がある。
【0047】
メイクアップガスとパージガスをそれぞれのガス供給源からそれぞれの圧力制御ラインを介して供給するようにそれぞれのガス供給流路を構成してもよい。その場合は圧力制御ラインが2つ必要になる。
【0048】
好ましい実施形態では、ガスを供給する共通の圧力制御ラインから流路を分岐し、一方をメイクアップガス供給流路30とし、他方をパージガス供給流路35とする。それぞれのガスの流量はそれぞれのガス供給流路30、35の流路抵抗を調整することにより設定する。
【0049】
そのようなガス供給流路の一例を
図5に示す。ガス供給源50は自動圧力制御装置(APC)を備えた窒素ガス供給装置であり、窒素ガスを一定圧力で供給する。そのガス供給口52には配管54が接続され、その配管54の2つの配管に分岐している。その分岐した一方の配管がメイクアップガス供給流路30として、他方の配管がパージガス供給流路35としてそれぞれがECD検出器16に接続されている。セル室20からのガスを排出する排出流路39はガス供給源50の排出用ポート(VENT)に接続されており、その排出用ポートは配管の出口を大気に解放している。
【0050】
メイクアップガス供給流路30には流路抵抗として抵抗管58が設けられ、パージガス供給流路35には流路抵抗として抵抗管56が設けられている。抵抗管56と58の流路抵抗の比率を調整することによりパージガス流量とメイクアップガス流量の比率を設定する。
【0051】
このように共通のガス供給源50からの流路を分岐し、それぞれの分岐した流路に抵抗管を配置してそれぞれの抵抗管の流路抵抗比を調整することにより、圧力制御ラインが一つですみ、パージガスとメイクアップガスを供給する装置を低コストで実現できる。
【0052】
また、以下にも一例を示すが、一実施形態でのECD検出器の適切なガス流量比は、耐久性及び感度を考慮すると、メイクアップガスとパージガスの流量の割合が1:1のときである。そのような流量比に設定する場合は、同じ長さ、及び同じ内径の抵抗管を両ガス供給流路30、35に配置することにより、ガス供給源50から供給するガスの圧力を変動させて両ガス供給流路30、35の流量を変化させた際にも常にこの流量比を維持できる。
【0053】
図3及び
図4の実施例においてパージガス流量とメイクアップガス流量の適当な設定値を調べた結果を以下に示す。ただし、パージガス流量とメイクアップガス流量の最適値はセル室20のサイズや形状、コレクタ電極24の突出長さ、線源22のセル室20底面からの高さなどの条件により異なるので、ここでの結果は特定のECD検出器16における一例を示すにすぎない。
【0054】
測定を行ったECD検出器16は、セル室20は内径が10mm、高さが15mmの円筒形である。パージガス導入部32の案内部34における拡径部分34bの広がり角度αは60°、コレクタ電極24がパージガス導入部32からセル室20内へ突出している長さは10mm、線源22のセル室20底面からの高さは10mmである。
【0055】
試料はγ−BHC(γ−ベンゼンヘキサクロライド)のn-Hexane(n−ヘキサン)溶液であり、濃度が薄い方から順にガスクロマトグラフで分析し、一実施例のECD検出器16で検出した。分析条件は以下の通りである。
【0056】
(ガスクロマトグラフ)
分離カラム:CBP1−S25−050(株式会社島津製作所の製品、長さ25m、内径0.32mm、充填剤粒径0.5μm)、カラム温度220℃
試料気化室:
試料注入量:1μL
温度:280℃
スプリット比:1:99(1/100をカラム14Aに導き、残部を排出)
パージ流量:3mL/分
制御モード:圧力
圧力:77.7kPa(大気圧を0としたときの圧力)
キャリアガス:ヘリウム
【0057】
(ECD検出器)
温度:300℃
コレクタ電極24と線源22間の電圧パルスオン時間:1.0μ秒
セル室20の内圧:78.3kPa(大気圧を0としたときの圧力)
パージガスとメイクアップガス:窒素
【0058】
コレクタ電極と線源の間に印加する電圧パルス信号は、電圧パルスを1.0μ秒のパルスオン時間で印加したとき、セル室に流入する溶出ガスに電子親和性物質が含まれていない定常状態において定常電流が1nAになるように設定した。溶出ガスに電子親和性物質が含まれるとコレクタ電極に流れる電流を1nAに維持するために検出回路40から供給する電圧パルス信号の間隔が短くなってパルス信号量が増加する。検出回路40はそれをピークとして検出する。
【0059】
その分析結果のピークの面積値から、試料濃度を異ならせたときの直線性、すなわち試料濃度の増加に伴って検出されるピークの面積値が比例しているかどうか、を検討した。直線性の数値は、γ−BHCのサンプルを10倍ずつ薄めて作成した試料で測定した結果、あるサンプル面積値が1段階薄いサンプルで測定した面積値の何倍であるかを表している。したがって最も低濃度の試料については直線性の数値はない。
【0060】
その結果を表1に示す。メイクアップガス流量対パージガス流量が1:1のものについてはMDQ(試料最小検出可能量)も算出した。MDQは、
MDQ=(サンプル量fg)×2×(ノイズ値μV)/(ピーク面積値μV・s)
として計算した。MDQが小さいほどS/N(信号対ノイズ)比が高く、検出感度が高いことを意味する。
【0062】
表1の結果によれば、パージガス流量の比率を大きくすると、メイクアップガス流量/パージガス流量が30mL/60mLの測定結果に示されるように、高濃度試料の直線性が低下している。逆に、パージガス流量の比率を小さくすると、直線性は維持されるが、溶出ガスがコレクタ電極や線源を汚染して耐サンプル汚染性が悪化することが予想される。そのため、両者の兼ね合いから、パージガスとメイクアップガスの流量比は1:1が適切だと考えられる。
【0063】
次に、パージガスとメイクアップガスの流量比が1:1から外れた場合にも良好な結果が得られるかどうかを検証するために、メイクアップガス流量/パージガス流量が40mL/50mLの場合と、50mL/40mLの場合を、適切と考えられる45mL/45mLの場合と比較した。その結果を表2に示す。表1の測定結果を得た時の分析条件と異なるのは、パルスオン時間を0.8μ秒とした点だけである。
【0065】
表2の結果によれば、メイクアップガス流量/パージガス流量が40mL/50mLの場合も50mL/40mLの場合も45mL/45mLの場合と同様の直線性とMDQが得られている。したがって、この実施形態のESD検出器はパージガスとメイクアップガスの流量差が10mL以内ならば、検出感度も直線性もともに要求仕様を満たすことができるといえる。