【実施例】
【0047】
(実施例1: CaSi
2F
xの合成)
[1. 試料の作製]
CaSi
2の結晶粒をイオン液体[BMIM][BF
4]に浸し、240〜300℃において、10〜130hの熱処理を行った。
【0048】
[2. 試験方法及び結果]
[2.1. CaSi
2F
x結晶粒の組成変化]
260℃−90hの熱処理により得られたCaSi
2F
x結晶粒を、原料のCaSi
2のc面と垂直に切断した。
図1に、CaSi
2F
x結晶粒の切断面の反射電子像を示す。
図2に、
図1に示すCaSi
2F
x結晶のEPMA定量線分析結果を示す。測定方向は、
図1中に矢印で示した方向である。
結晶端から結晶内部へフッ素が拡散するため、熱処理後は、F濃度が結晶端から増加した。260℃−90h熱処理では、端から200μmの範囲の組成は、CaSi
2F
2となっていた。
【0049】
図3に、260℃−130hの熱処理により得られたCaSi
2F
x結晶粒のEPMA定量線分析結果を示す。
260℃−130hで熱処理すると、
図3に示すように、結晶端と内部の組成がCaSi
2F
2.25〜CaSi
2F
2.5の範囲内でほぼ一定になっていた。
【0050】
図4に、300℃−15hの熱処理により得られたCaSi
2F
x結晶粒のEPMA定量線分析結果を示す。
図5に、300℃−15hの熱処理により得られたCaSi
2F
x結晶粒であって、
図4に示す結晶粒とは異なる結晶粒のEPMA定量線分析結果を示す。
図4に示すように、300℃の熱処理では、CaSi
2結晶粒の大きさ、形状などによってばらつきはあるものの、ある一つの結晶粒において、結晶端からCaSi
2F
2.25、CaSi
2F
2、CaSi
2F
1.75と、段階的に組成が変化していた。また、
図5に示すように、CaSi
2F
2で組成が一定となる結晶粒も存在していた。
【0051】
以上の結果から、
(a)安定相として、CaSi
2F
1.75、CaSi
2F
2、CaSi
2F
2.25が存在すること、及び、
(b)更にフッ素が拡散すると、約CaSi
2F
2.5付近までF濃度が増加すること、
が確認された。
また、260℃、300℃熱処理ともに、組成がCaSi
2F
1.1まではF濃度が上昇した後は、F濃度変化はなだらかになっている。よって、CaSi
2F
xの安定相の組成範囲は、CaSi
2F
x(1.1<x≦2.5)である。
【0052】
[2.2. CaSi
2F
x結晶粒の構造変化]
[2.2.1. XRD分析]
原料のCaSi
2を[BMIM][BF
4]中において、240℃、260℃、280℃、又は300℃で各10時間熱処理した。得られた約φ0.5〜2mmのCaSi
2F
x結晶粒を粉砕し、粉末XRD測定を行った。
図6に、各温度で10h熱処理することにより得られたCaSi
2F
xの粉末XRDパターンを示す。
原料であるCaSi
2には存在しなかった2.8Å(0.28nm)付近と3.2Å(0.32nm)付近の2箇所に、ブロードなピークが検出された。260℃以上の熱処理では、2.8Å付近のピークがほとんど検出されないのに対し、3.2Å付近のピークは強くなった。さらに、熱処理温度が高温になるほど、3.25Å(0.325nm)(240℃)→3.15Å(0.315nm)(300℃)と、面間隔が狭くなる傾向が見られた。
【0053】
[2.2.2. HAADF−STEM観察及びEDS分析]
図4に示す結晶粒から、集束イオンビーム(FIB)で3種類のサンプルを切り出した。サンプルは、それぞれ、組成がCaSi
2F
1.75、CaSi
2F
2、又はCaSi
2F
2.25である箇所から切り出した。原料のCaSi
2における[100]方位から、各サンプルに含まれるCaSi
2F
xの高角度散乱暗視野−走査型透過電子顕微鏡(HAADF−STEM)観察を行った。HAADF−STEM像のコントラストは、重い元素の方が明るくなるため、原子像のコントラストは、F、Si、Caの順に明るくなる。
【0054】
図7に、CaSi
2F
1.75組成から切り出したサンプルのHAADF−STEM像を示す。
図7では、CaF
x層とSi層とが、それぞれ、2原子層〜4原子層の積層構造を形成していた。
【0055】
図8に、CaSi
2F
2組成から切り出したサンプルのHAADF−STEM像を示す。この組成もCaF
2層とSi層が、それぞれ、2原子層〜4原子層の積層構造を形成していたが、
図8に示すように、3原子層ずつの積層が主な構造であった。また、HAADF−STEM像は、原料のCaSi
2では[100]方位であり、バルクSi及びCaF
2の構造では[110]である方位から観察した像である。そのため、Siには、Siダンベルが確認された。よって、この積層構造は、バルクSiの(111)3層と、CaF
2の(111)3層が積層した構造であることがわかる。
【0056】
図9に、CaSi
2F
2.25組成から切り出したサンプルのHAADF−STEM像を示す。CaF
2層とSi層とが、それぞれ、2原子層〜4原子層の積層構造を形成していた。
【0057】
図10に、CaSi
2F
2組成のサンプルの3層Siと2層Siの混合積層エリアの、(a)HAADF−STEM像、(b)SiのEDSマッピング、(c)CaのEDSマッピング、(d)FのEDSマッピング、及び(e)ラインプロファイル、を示す。2原子層、及び3原子層のSi層、並びにCaF
2層のいずれも、単相であることが確認された。
【0058】
[2.2.3. 2層Siの構造モデル及びHAADFイメージシミュレーション]
図11(a)に、2層Si(DL−Si)モデルのユニットセルを、
図11(b)に、各方位から投影した2層Siモデルを示す。また、
図12(a)に、原料のCaSi
2における[100]入射([010]
DL-Si、[110]
DL-Si入射、[1−10]
Si and CaF2入射)によるHAADF−STEM像(左側の挿入図)、シミュレーション結果(右側の挿入図)、及びモデルを示す。
図12(b)及び(c)に、CaSi
2における[120]入射([−100]
DL-Si、[−130]
DL-Si入射、[11−2]
Si and CaF2)によるHAADF−STEM像、シミュレーション結果(左側の挿入図)、及びモデルを示す。尚、
図12(b)、及び
図12(c)のHAADF−STEM像は、スキャン中のドリフトによって像の歪みが生じている。
【0059】
原料であるCaSi
2は、c面に垂直に3回対称軸を有し、2層Siを挟んでいるCaF
2層の(111)面も垂直に3回対称軸を有している。よって、
図12のように、原料のCaSi
2における[100]方位([1−10]
CaF2)から2種類の2層Si像が観察されるのは、[1−10]
CaF2、[01−1]
CaF2、[−101]
CaF2と[010]
DL-Siが平行になるように、2層SiはCaF
2層間に形成することが可能であるためと考えられる。
【0060】
図13に、[100]及び[010]方位と垂直な方向から投影した2層Siモデル、及び2層Siと接しているCaSi
2との原子位置関係を示す。原料である三方晶のCaSi
2と、フッ素拡散後の立方晶のバルクSi及びバルクCaSi
2、並びに単斜晶のDL−Siとの方位関係は、以下のようになる。
[001]
CaSi2||[111]
Si and CaF2
[100]
CaSi2||[1−10]
Si and CaF2||[010]
DL-Si or [−110]
DL-Si
[120]
CaSi2||[11−2]
Si and CaF2||[−100]
DL-Si or [−130]
DL-Si
[100]
CaSi2⊥[120]
CaSi2
【0061】
2層Siは、2D構造体であるため、本来は3次元の空間群で表記されないが、便宜上、2層Siの(001)面を、CaF
2層と2層Siの界面のF面と五員環頂点Siとの中心距離の面とする。空間群はP2/mで表される。誤差範囲を3σとすると、格子定数は、6.57Å(0.657nm)≦a≦6.66Å(0.666nm)、3.75Å(0.375nm)≦b≦3.90Å(0.390nm)、6.18Å(0.618nm)≦c≦6.78Å(0.678nm)、α=90°、68.8≦β≦76.6°、γ=90°となる。尚、2層SiとCaF
2層との間が空いている場合があるため、格子定数cのばらつきは特に大きい。
【0062】
表1に、α=6.612Å(0.6612nm)、b=3.824Å(0.3824nm)、c=6.53Å(0.653nm)、α=90°、β=72.7°、γ=90°の場合のDL−Siモデルの原子座標を示す。
【0063】
【表1】
【0064】
2層Siは、
図14に示すように2D構造体である。2D構造の表面である(001)面は、変形チェア型(
図14中の枠1)とボート型(
図14中の枠2)の六員環で構成される。エッジ面である(010)面は、四員環と五員環(
図14中の枠3)で構成されたSiネットワークである。
【0065】
CaSi
2F
2組成の3層のSiは、バルクSiの(111)が3層積層した構造である。CaF
2も同様に、バルクCaF
2(111)の積層構造である。HAADF−STEM像撮影の条件下で、バルクSi及びCaF
2の[110]方位のHAADF像のシミュレーションをMac TempasXを用いて行った。
図15に、CaSi
2F
2組成の[110]
bulk Si入射のHAADF−STEM像、HAADFイメージシミュレーション結果(左側の挿入図)、及び格子モデル(右側の挿入図)を示す。
図15のHAADF像中の左側の挿入図が、シミュレーションにより得られた像である。シミュレーション像は、撮影したHAADF−STEM像とほぼ同じコントラストとなった。
【0066】
以上の結果から、
(a)CaSi
2にFを拡散させて合成したSi層とCaF
2層は、それぞれ単相であること、及び、
(b)CaSi
2F
2組成の構造は、バルクSi(111)3層とCaF
2(111)3層の積層構造であること、
が判明した。
【0067】
CaSi
2F
2.25、CaSi
2F
2.33、及びCaSi
2F
2.5は、いずれも、バルクSi(111)層からなるSi層と、CaF
2(111)層からなるCaF
2層の積層構造であった。大部分は3〜4原子層であるが、ばらつきがあり、1〜5原子層構造を取りうる。
【0068】
[2.3. Si層とCaF
2層の界面に関して]
図16に、(a)3層SiとCaF
2の界面のHAADF−STEM像、及び(b)2層SiとCaF
2の界面のHAADF−STEM像を示す。エピタキシャル成長させたSi層とCaF
2層の界面は、Si面とCa面が対峙している。これに対し、本発明に係る方法で合成した3層Si構造の場合は、
図16(a)のように、Si面とCaF
2のF面が対峙している。
【0069】
2層SiとCaF
2の界面も、3層Siと同様に、Si面とCaF
2のF面とが対峙している。しかし、五員環の頂点のSiサイトに近いFサイトは空孔(V)となり、2層Siに対峙しているF面のFサイトは、2個に1個の割合で空孔となる(
図16(b))。界面のFサイトが2個に1個の割合で空孔である2層CaF
2と2層Siの積層構造は、組成がCaSi
2F
1.5のとき最も安定である。よって、
図7に示すように、組成がCaSi
2F
1.75のエリアでは、CaSi
2F
1.5組成の2層積層構造とCaSi
2F
2組成の3層積層構造が混在している。但し、F面の空孔が[100]方位に2倍周期でオーダリングしている可能性もある。
一方、CaSi
2F
2.25、CaSi
2F
2.33、及びCaSi
2F
2.5組成では、Si−Fの結合エネルギーは5.6eVと比較的大きいので、SiとCaF
2の界面のSiにFが終端する。
【0070】
(実施例2: リチウムイオン電池の負極としての性能評価)
原料であるCaSi
2は、Liイオン電池の負極活物質としての容量が310mAh/g(10サイクル)であると報告されている(J. Wolfenstine, J. Power Sources 124 (2003) 241(以下、「参考文献1」という)参照)。これに対し、CaSi
2F
x化合物は、CaSi
2よりも更に反応が容易であることが期待される。そこで、本実施例では、合成したCaSi
2F
x化合物の用途探索の一貫として、Liイオン電池の負極活物質としての特性評価を行った。
【0071】
[1. 実験方法]
CaSi
2及びCaSi
2F
x(0≦x≦2)を負極活物質とする電極を作製した。その電極を用いてセルを組み、充放電評価を行った。
[1.1. CaSi
2F
x(0≦x≦2)化合物の合成]
CaSi
2結晶粒をφ5〜50μmに粉砕した。粉砕粉をAr雰囲気下において、イオン液体[BMIM][BF
4]中で280℃−10h熱処理し、CaSi
2F
x(0≦x≦2)化合物を合成した。
【0072】
[1.2. 電極の作製]
粒径が5〜50μmであるCaSi
2、及び粒径が5〜30μmであるCaSi
2F
xを負極活物質とし、活物質:88%、アセチレンブラック(HS100;電気化学工業製):6%、ポリフッ化ビニリデン:6%の重量比で混練した。この混練体を厚さ10μmの圧延Cu箔に100μmの厚さに均一に塗布した。これを真空雰囲気下で一晩、120℃で熱処理し、乾燥させた。その後、φ16mmに切り出し、電極とした。
【0073】
[1.3. セルの充放電評価]
日本トムセル製二極式セルを用い、作用極に上記で作製した電極を、対極に金属リチウム箔を用いた。電解液には、1M LiPF
6(炭酸エステル(EC):炭酸ジエチル(DEC)=1:1v/v%;キシダ化学株式会社製)を、セパレータにはポリプロピレン微多孔膜を用いて、セル組みを行った。その後、セルを電池充放電装置(HJR−1010SM8;北斗電工株式会社製)にセットし、電圧範囲:0〜3V又は0〜1.5V、電流密度:0.15mA/cm
2の測定条件で充放電を5サイクル繰り返し、充放電特性評価を行った。
【0074】
[2. 結果]
[2.1. CaSi
2の充放電特性]
図17に、粒径5〜50μmのCaSi
2の充放電曲線を示す。充放電は起こるものの、5サイクル後の放電容量は15mAh/gであった。Wolfenstineは、Liイオン電池の負極活物質としてのCaSi
2の性能評価を行い、310mAh/gの容量を報告した(参考文献1参照)。一方、本実施例での容量は、文献値と比較すると非常に低い値を示した。
【0075】
CaSi
2の反応機構に関して、Wolfenstineは、CaSi
2とLiの反応式は式(1)で表されるが(A. Anani, R. A. Huggins, J. Power Sources 38 (1992) 351参照)、実際に容量として機能するのは、Siが合金化したLi
4.4Siであり、Li
2Caは機能しないと報告している(参考文献1参照)。
10.8Li+CaSi
2 → Li
2Ca+2Li
4.4Si ・・・(1)
【0076】
表2に、参考文献1で報告されているCaSi
2の容量を示す。参考文献1で報告されているCaSi
2の容量(310mAh/g)は、表2に示すように、粒径が25〜30μmであるCaSi
2の10サイクル目の容量である。同文献には、更に結晶粒をボールミルで粉砕し、アモルファス化したCaSi
2は、400mAh/gの容量を示すと報告されている。
なお、電極作製条件は、活物質:85%、アセチレンブラック:5%、ポリフッ化ビニリデン:10%の重量比であり、測定条件は、電圧範囲:0.005〜1.5V、電流密度:20μA/cm
2であった。
【0077】
【表2】
【0078】
結晶化Siを負極活物質として充放電すると、
(a)まず、初回の放電電圧:−0.05VまでにSiが非晶質Li
xSiへと変化し、
(b)〜0VでLi
15Si
4へ変化し、
(c)その後の充放電ではSiに戻ることなく、非晶質Li
xSiとLi
14Siとの間で可逆的に変化する、
と報告されている(M. N. Obrovac and L. Christensen, Electrochem Solid State Lett, 7(5)(2004)A93参照)。
また、初回の放電で観察されるプラトーの電位は、約0.1〜0.05Vであるのに対し、その後の充放電ではプラトーは観察されない。
【0079】
また、参考文献1で報告されている2回目以降の充放電曲線において、25〜30μm粒径のCaSi
2は、約0.16〜0.07Vでプラトーが観察される。これに対し、ボールミルでアモルファス化した1〜3μm粒径のCaSi
2は、プラトーが観察されず、スロープ状の放電電位変化を示し、このスロープ状変化はアモルファス材料に典型的に見られると報告されている。
【0080】
一方、本実施例のCaSi
2は、結晶性が高いものの、プラトーは観察されず、スロープ状変化を示している。この原因は、Si−Li間の合金化反応がうまく起こっていないか、もしくは起こっているとしても結晶表面のみであり、内部はCaSi
2のままであるため、容量も非常に低く、プラトーも観察されないと考えられる。
本実施例のCaSi
2の粒径は5〜50μmであり、参考文献1の25〜30μmと比較してそれほど変化がないにもかかわらず、プラトーが観察されず、容量に20倍もの差がでている。この要因の一つは、本実施例で用いたCaSi
2結晶粒は結晶性が高いのに対し、参考文献1は、ややアモルファス化しているためであると推測される。
【0081】
[2.2. CaSi
2F
x(0≦x≦2)の充放電特性]
図18に、280℃−10h熱処理により合成したCaSi
2F
x化合物の充放電曲線を示す。CaSi
2と比較すると、初回の可逆容量は500mAh/g以上と、CaSi
2の30倍以上に増加した。但し、5サイクル後は約380mAh/gまで減少している。また、初回の不可逆容量は、約230mAh/gと大きな値を示している。
【0082】
CaSi
2F
xの充電曲線には、初回の充電曲線では0.05Vの非常に低いプラトーが観察され、その後の充放電でも0.2〜0.02Vにプラトーが観察された。よって、CaSi
2F
xの充電曲線は、結晶化Siの充電曲線とは異なる傾向を示した。2回目以降の充電曲線の形状は、参考文献1の25〜30μm粒径のCaSi
2の充電曲線と似ているため、CaSi
2F
xは、SiよりもCaSi
2に似た反応機構を持つことが示唆された。
初回の充電曲線の非常に低い0.05Vのプラトーにおける反応機構は不明である。しかし、初回の大きな不可逆容量の要因は、プラトーが非常に低電圧であるために、有機溶媒が還元され、SEIが形成しやすいためであると予想される。
【0083】
充放電前後の電極の定性比較を行うために、ブランクのポリエチレンのみ、充放電前、1回充電後、及び5サイクル後の電極のXRD分析を行った。
図19に、各サンプルの充放電前後でのXRDパターンを示す。
充放電前のCaSi
2F
xは、CaSi
2からCaSi
2F
xへ完全には変態しておらず、CaSi
2由来のピークが検出された。また、CaSi
2のピークは、5サイクル後も残っていることから、やはり結晶性が高いCaSi
2とLiの反応性は低いと推察される。
【0084】
放電前後の変化としては、CaSi
2F
xの{001}面の面間隔(格子定数c)は放電前が3.07Å(0.307nm)であるのに対し、1回充電後は3.16Å(0.316nm)と、矢印で示すように低角側にシフトしている。一方、c軸と平行な面である110のピーク位置は変化していないため、格子定数aは変化していないことがわかる。
【0085】
また、5サイクル後の放電後サンプルでは、CaSi
2F
x由来のピーク強度は弱くなっているものの、1回充電後のピークと同位置にピークが検出された。よって、1回充電後以降は、Li挿入(放電)後と、Li抜去(充電)後では格子定数の変化がない可能性が示された。また、
図19に示す1回放電後、及び5サイクル後のXRDパターンには、Li
4.4Si合金に由来するピークは存在しないため、やはりSiや原料であるCaSi
2とは異なる反応機構であることが確認された。
【0086】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。