特許第6315006号(P6315006)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6315006
(24)【登録日】2018年4月6日
(45)【発行日】2018年4月25日
(54)【発明の名称】摩擦締結要素及び自動変速機
(51)【国際特許分類】
   F16D 25/0638 20060101AFI20180416BHJP
   F16D 48/02 20060101ALI20180416BHJP
   F16H 3/66 20060101ALN20180416BHJP
【FI】
   F16D25/0638
   F16D48/02 640U
   !F16H3/66 B
【請求項の数】8
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-32043(P2016-32043)
(22)【出願日】2016年2月23日
(65)【公開番号】特開2017-150534(P2017-150534A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2017年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
【住所又は居所】広島県安芸郡府中町新地3番1号
(74)【代理人】
【識別番号】100067828
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 悦司
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100127797
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 晴洋
(72)【発明者】
【氏名】笹原 学
【住所又は居所】広島県安芸郡府中町新地3番1号 マツダ株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】土取 悠喜
【住所又は居所】広島県安芸郡府中町新地3番1号 マツダ株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】佐治 恒士郎
【住所又は居所】広島県安芸郡府中町新地3番1号 マツダ株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 忠志
【住所又は居所】広島県安芸郡府中町新地3番1号 マツダ株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】石坂 友隆
【住所又は居所】広島県安芸郡府中町新地3番1号 マツダ株式会社内
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 龍彦
【住所又は居所】広島県安芸郡府中町新地3番1号 マツダ株式会社内
【審査官】 星名 真幸
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−312956(JP,A)
【文献】 特開2006−009973(JP,A)
【文献】 特開昭49−014851(JP,A)
【文献】 特開2011−179561(JP,A)
【文献】 特開2016−017528(JP,A)
【文献】 特開2016−001034(JP,A)
【文献】 特開2009−103244(JP,A)
【文献】 実開平01−096538(JP,U)
【文献】 米国特許第04346796(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 25/00−39/00
F16D 48/00−48/12
F16D 13/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クリアランスを置いて配置された複数の摩擦板と、
前記摩擦板を解放状態とする解放位置と、前記摩擦板を押圧して前記摩擦板同士を締結状態とする締結位置との間を移動可能なピストンと、
前記ピストンを、前記解放位置から前記締結位置に向かう締結方向に付勢する第1付勢手段及び第2付勢手段と、を備え、
前記解放位置から前記締結方向の第1位置までは、前記第1付勢手段及び第2付勢手段の双方の付勢力が前記ピストンに作用し、
前記第1位置から、該第1位置よりも前記締結位置に近い第2位置までは、前記第1付勢手段の付勢力が前記ピストンに作用するものであって、
前記第1位置は、前記ピストンが前記摩擦板に当接しない所定位置であり、
前記第2位置は、前記ピストンが前記摩擦板に当接し且つ前記クリアランスを詰めた位置であることを特徴とする摩擦締結要素。
【請求項2】
請求項1に記載の摩擦締結要素において、
前記第1付勢手段は第1圧縮コイルバネからなり、前記第2付勢手段は第2圧縮コイルバネからなり、
前記第1圧縮コイルバネの作用長さは、前記第2圧縮コイルバネの作用長さよりも長い、摩擦締結要素。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の摩擦締結要素において、
前記第2付勢手段の付勢力が、前記第1付勢手段の付勢力よりも大きい、摩擦締結要素。
【請求項4】
請求項3に記載の摩擦締結要素において、
前記ピストンは円板型の形状を有し、
前記第1付勢手段は前記ピストンの径方向内側に配置され、前記第2付勢手段は前記ピストンの径方向外側に配置されている、摩擦締結要素。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の摩擦締結要素において、さらに
前記ピストンを前記解放位置に向かう方向に移動させるための解放油圧室と、
前記解放油圧室に供給する油圧を制御する油圧制御部と、を備え、
前記油圧制御部は、前記ピストンを前記解放位置に向かわせる際、少なくとも前記第1付勢手段の付勢力よりも大きい油圧を前記解放油圧室に供給する、摩擦締結要素。
【請求項6】
請求項5に記載の摩擦締結要素において、
前記油圧制御部は、前記ピストンを前記締結方向へ向かわせる際、前記解放油圧室内の油圧を排出させる、摩擦締結要素。
【請求項7】
請求項5に記載の摩擦締結要素において、さらに、
前記ピストンを前記締結位置に向かう方向に移動させるための締結油圧室を備え、
前記油圧制御部は、前記ピストンを前記締結方向へ向かわせる際、前記締結油圧室に所定の油圧を供給する、摩擦締結要素。
【請求項8】
変速機構と、
請求項1〜7のいずれか1項に記載の摩擦締結要素と、
を備えることを特徴とする自動変速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の摩擦板とピストンとを備えた摩擦締結要素、及びこれを用いた自動変速機に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に搭載される自動変速機は、プラネタリギヤセットと、多板クラッチや多板ブレーキ等の複数の摩擦締結要素とを備える。エンジンの運転状態に応じて複数の摩擦締結要素が選択的に締結されることにより、所定の変速段に自動的に変速される。摩擦締結要素は、クリアランスを置いて配置された複数の摩擦板と、この摩擦板を押圧するピストンとを含む。ピストンは、摩擦板を押圧して摩擦板同士を締結状態とする締結位置と、前記押圧を解除して摩擦板同士を解放状態とする解放位置との間を移動する。
【0003】
特許文献1には、ピストンを締結位置に向かうように付勢するばね部材が適用された摩擦締結要素が開示されている。この摩擦締結要素では、前記ばね部材の付勢力を受けたピストンに摩擦板が押圧されることによって、所定の締結力をもって摩擦板同士が締結される。なお、大きな締結力を要する場合は、ピストンには油圧による付勢のアシストが与えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−65607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の摩擦締結要素では、専らばね部材の付勢力によって締結状態が形成される。従って、摩擦締結要素を解放状態から締結状態へ切り換えるに際して、その状態移行に遅れが発生する懸念がある。移行遅れを解消のために、ばね部材の付勢力を大きくすることによって、ピストンを高速で移動させることが考えられる。しかし、この場合、摩擦板が急激に締結されることに伴う締結ショックが発生する虞がある。
【0006】
本発明の目的は、ピストンを解放位置から締結位置へ向けて速やかに移動させることができる一方で、締結ショックを発生させることのない摩擦締結要素、及びこれを用いた自動変速機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面に係る摩擦締結要素は、クリアランスを置いて配置された複数の摩擦板と、前記摩擦板を解放状態とする解放位置と、前記摩擦板を押圧して前記摩擦板同士を締結状態とする締結位置との間を移動可能なピストンと、前記ピストンを、前記解放位置から前記締結位置に向かう締結方向に付勢する第1付勢手段及び第2付勢手段と、を備え、前記解放位置から前記締結方向の第1位置までは、前記第1付勢手段及び第2付勢手段の双方の付勢力が前記ピストンに作用し、前記第1位置から、該第1位置よりも前記締結位置に近い第2位置までは、前記第1付勢手段の付勢力が前記ピストンに作用するものであって、前記第1位置は、前記ピストンが前記摩擦板に当接しない所定位置であり、前記第2位置は、前記ピストンが前記摩擦板に当接し且つ前記クリアランスを詰めた位置であることを特徴とする。
【0008】
この摩擦締結要素によれば、解放位置から第1位置までは、第1及び第2付勢手段の双方の付勢力がピストンに作用するので、該ピストンを締結方向に素早く移動させることができる。さらに、ピストンは、第1付勢手段の付勢力が与えられて前記第1位置から第2位置まで移動する。ピストンが前記第2位置まで至ると、摩擦板のクリアランスが詰められた状態となる。従って、その後にピストンに油圧等を作用させることによって、速やかに摩擦板を締結状態とすることができる。また、前記第2位置では締結状態は形成されないので、締結ショックの発生を防止することができる。
【0009】
上記の摩擦締結要素において、前記第1付勢手段は第1圧縮コイルバネからなり、前記第2付勢手段は第2圧縮コイルバネからなり、前記第1圧縮コイルバネの作用長さは、前記第2圧縮コイルバネの作用長さよりも長いことが望ましい。
【0010】
この摩擦締結要素によれば、ピストンに対する前記第1位置又は第2位置までの付勢力の印加を、第1及び第2圧縮コイルバネの作用長さによって設定することができる。従って、上記摩擦締結要素を簡易に構築することができる。
【0011】
上記の摩擦締結要素において、前記第2付勢手段の付勢力が、前記第1付勢手段の付勢力よりも大きいことが望ましい。
【0012】
この摩擦締結要素によれば、第1及び第2付勢手段の双方の付勢力が作用する、解放位置から第1位置までのピストンの移動速度を、第1位置から第2位置までのピストンの移動速度に比べて、相対的に早くすることができる。すなわち、ピストンの動き出しを素早くすることができ、締結位置へ向けた移動を一層迅速化することができる。
【0013】
この場合、前記ピストンは円板型の形状を有し、前記第1付勢手段は前記ピストンの径方向内側に配置され、前記第2付勢手段は前記ピストンの径方向外側に配置されていることが望ましい。
【0014】
この摩擦締結要素によれば、第2付勢手段がピストンの径方向外側に配置される。径方向外側の方が、径方向内側に比べて周長が長いので、付勢部材をより多く配置することができる。従って、第2付勢手段の付勢力が第1付勢手段の付勢力よりも大きくなる状況を、容易に構築することができる。
【0015】
上記の摩擦締結要素において、さらに前記ピストンを前記解放位置に向かう方向に移動させるための解放油圧室と、前記解放油圧室に供給する油圧を制御する油圧制御部と、を備え、前記油圧制御部は、前記ピストンを前記解放位置に向かわせる際、少なくとも前記第1付勢手段の付勢力よりも大きい油圧を前記解放油圧室に供給することが望ましい。
【0016】
この摩擦締結要素によれば、第1付勢手段の付勢力に抗して、ピストンを、解放油圧室に供給する油圧によって解放位置に向けて速やかに戻すことができる。
【0017】
上記の摩擦締結要素において、前記油圧制御部は、前記ピストンを前記締結方向へ向かわせる際、前記解放油圧室内の油圧を排出させることが望ましい。
【0018】
この摩擦締結要素によれば、ピストンに対して解放位置へ向かわせる方向の力が作用しなくなるので、第1位置までは第1及び第2付勢手段の双方の付勢力で、第2位置までは第1付勢手段の付勢力で、ピストンを速やかに締結方向へ移動させることができる。すなわち、クリアランスを詰めた状態を速やかに形成することができる。
【0019】
上記の摩擦締結要素において、さらに、前記ピストンを前記締結位置に向かう方向に移動させるための締結油圧室を備え、前記油圧制御部は、前記ピストンを前記締結方向へ向かわせる際、前記締結油圧室に所定の油圧を供給することが望ましい。
【0020】
この摩擦締結要素によれば、第1及び第2付勢手段の付勢力に加えて、締結油圧室に与えられる油圧によって、より高速にピストンを締結方向へ移動させることができる。なお、第1及び第2付勢手段の付勢力でピストンが急速に締結方向へ移動されると、締結油圧室が負圧になってピストンの移動速度が鈍る場合がある。この不具合も、締結油圧室に所定の油圧が供給されることによって解消される。
【0021】
本発明の他の局面に係る自動変速機は、変速機構と、上記の摩擦締結要素とを備える。この自動変速機によれば、上記の摩擦締結要素の利点、すなわち摩擦締結要素の解放状態から締結状態への移行が速やかで、且つ、締結ショックが生じないという利点を有する。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ピストンを解放位置から締結位置へ向けて速やかに移動させることができる一方で、締結ショックを発生させることのない摩擦締結要素、及びこれを用いた自動変速機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施形態に係る自動変速機の骨子図である。
図2】上記自動変速機が備える摩擦締結要素の締結表である。
図3】前記摩擦締結要素の構成を示す概略的な断面図である。
図4】第1及び第2圧縮コイルバネの配置例を示す図である。
図5】前記摩擦締結要素の動作を説明するための概略的な断面図である。
図6】前記摩擦締結要素の動作を説明するための概略的な断面図である。
図7】前記摩擦締結要素の動作を説明するための概略的な断面図である。
図8】前記摩擦締結要素の動作を説明するための概略的な断面図である。
図9】前記摩擦締結要素の動作を説明するための概略的な断面図である。
図10】上記自動変速機の油圧経路を示すブロック図である。
図11】停車から発進時における、摩擦締結要素への油圧の供給状況を示す表形式の図である。
図12】第1及び第2圧縮コイルバネの配置の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[自動変速機の全体構成]
図1は、本発明の実施形態に係る自動車(車両)用の自動変速機1の構成を示す骨子図である。自動変速機1は、変速機ケース2と、この変速機ケース2内に配置された、エンジン側から延びる入力軸3と、出力ギヤ4と、変速機構としての4つのプラネタリギヤセット(第1、第2、第3、第4プラネタリギヤセット11、12、13、14)、2つのブレーキ(第1、第2ブレーキ21、22)、及び、3つのクラッチ(第1、第2、第3クラッチ31、32、33)と、を備えている。
【0025】
入力軸3は、エンジンで生成された動力が入力される軸である。出力ギヤ4は、変速機構によって所定の変速比とされた駆動力を出力するギヤである。本実施形態では、入力部にはエンジンの動力がトルクコンバータ(流体伝動装置)を介さずに入力される、いわゆるトルコンレス型の自動変速機を例示している。
【0026】
変速機ケース2は、外周壁2aと、外周壁2aのエンジン側端部に設けられた第1中間壁2bと、第1中間壁2bの反エンジン側に設けられた第2中間壁2cと、外周壁2aの軸方向中間部に設けられた第3中間壁2dと、外周壁2aの反エンジン側端部に設けられた側壁2eと、側壁2eの中央部からエンジン側に延設されたボス部2fと、第2中間壁2cの内周側端部から反エンジン側に延設された円筒部2gとを有する。
【0027】
4つのプラネタリギヤセット11〜14は、エンジン側から、第1プラネタリギヤセット11、相互に径方向に重ねて配置された内周側の第2プラネタリギヤセット12及び外周側の第3プラネタリギヤセット13、第4プラネタリギヤセット14の順に配置されている。第1プラネタリギヤセット11は、キャリヤ11c、キャリヤ11cに支持されたピニオン(図示せず)、サンギヤ11s及びリングギヤ11rを含む。第1プラネタリギヤセット11は、前記ピニオンが、サンギヤ11sとリングギヤ11rとに直接噛合するシングルピニオン型である。第2、第3、第4プラネタリギヤセット12、13、14もシングルピニオン型であり、キャリヤ12c、13c、14cと、図略のピニオンと、サンギヤ12s、13s、14sと、リングギヤ12r、13r、14rとを含む。
【0028】
径方向に2段に重ねて配置されている第2プラネタリギヤセット12のリングギヤ12rと第3プラネタリギヤセット13のサンギヤ13sとは、溶接や焼嵌め等により一体化されている。すなわち、リングギヤ12rとサンギヤ13sとは常時連結されており、一体回転要素15を形成している。第1プラネタリギヤセット11のサンギヤ11sと第2プラネタリギヤセット12のサンギヤ12s、第1プラネタリギヤセット11のリングギヤ11rと第4プラネタリギヤセット14のキャリヤ14c、第1プラネタリギヤセット11のキャリヤ11cと第3プラネタリギヤセット13のキャリヤ13cとが、それぞれ常時連結されている。入力軸3は、第2プラネタリギヤセット12のキャリヤ12cに常時連結されている。出力ギヤ4は、第1プラネタリギヤセット11のキャリヤ11cと、第3プラネタリギヤセット13のキャリヤ13cとに、それぞれ常時連結されている。出力ギヤ4は、ベアリング41を介して変速機ケース2の円筒部2gに回転自在に支持されている。
【0029】
第4プラネタリギヤセット14のサンギヤ14sには、第1回転部材34が連結されている。第1回転部材34は、反エンジン側に延在している。同様に、第3プラネタリギヤセット13のリングギヤ13rには第2回転部材35が、一体回転要素15には第3回転部材36が各々連結されている。これら回転部材34、35も、反エンジン側に延在している。第2プラネタリギヤセット12のキャリヤ12cには、入力軸3を介して第4回転部材37が連結されている。
【0030】
第1ブレーキ21は、変速機ケース2の第1中間壁2bに配設されている。第1ブレーキ21は、シリンダ211と、シリンダ211に嵌合されたピストン212と、シリンダ211及びピストン212で区画される作動油圧室213とを含む。第1ブレーキ21は、作動油圧室213に所定の締結油圧が供給されることによって摩擦板が締結され、第1プラネタリギヤセット11のサンギヤ11sと、第2プラネタリギヤセット12のサンギヤ12sとを変速機ケース2に固定する。
【0031】
第2ブレーキ22は、第3中間壁2dに配設されている。第2ブレーキ22は、シリンダ23と、シリンダ23に嵌合されたピストン24と、シリンダ23及びピストン24で区画される締結油圧室25とを含む。第2ブレーキ22は、締結油圧室25に所定の締結油圧が供給されることによって摩擦板が締結され、第4プラネタリギヤセット14のリングギヤ14rを変速機ケース2に固定する。本実施形態では、この第2ブレーキ22に本発明に係る摩擦締結要素が適用される例を示す。第2ブレーキ22については、図3以下に基づいて後記で詳細に説明する。
【0032】
第1〜第3クラッチ31〜33は、変速機ケース2内の反エンジン側端部に配設されている。第1〜第3クラッチ31〜33は、軸方向の同じ位置で、第1クラッチ31の内周側に第2クラッチ32が位置し、第2クラッチ32の内周側に第3クラッチ33が位置するように、相互に径方向に重ねて配置されている。
【0033】
第1クラッチ31は、第4プラネタリギヤセット14のサンギヤ14sと、第3プラネタリギヤセット13のリングギヤ13rとを断接する。換言すると、サンギヤ14sに連結された第1回転部材34と、リングギヤ13rに連結された第2回転部材35との接続状態を切り換える。
【0034】
第2クラッチ32は、第4プラネタリギヤセット14のサンギヤ14sと、一体回転要素15(すなわち第2プラネタリギヤセット12のリングギヤ12r及び第3プラネタリギヤセット13のサンギヤ13s)とを断接する。換言すると、サンギヤ14sに連結された第1回転部材34と、一体回転要素15に連結された第3回転部材36との接続状態を切り換える。
【0035】
第3クラッチ33は、第4プラネタリギヤセット14のサンギヤ14sと、入力軸3及び第2プラネタリギヤセット12のキャリヤ12cとを断接する。換言すると、サンギヤ14sに連結された第1回転部材34と、入力軸3を介してキャリヤ12cに連結された第4回転部材37との接続状態を切り換える。
【0036】
第1回転部材34は、第1クラッチ31によって第2回転部材35との接続状態が切り換えられ、第2クラッチ32によって第3回転部材36との接続状態が切り換えられ、第3クラッチ33によって第4回転部材37との接続状態が切り換えられる。つまり、第1回転部材34は、各クラッチ31〜33が接続状態を切り換える2つの回転部材のうちの、共通する一方の回転部材である。そのため、第1〜第3クラッチ31〜33の反エンジン側に、変速機ケース2の側壁2eに近接して、軸心と直交する壁部を有する共用回転部材30が配置されている。そして、共用回転部材30に第1回転部材34が連結されている。
【0037】
共用回転部材30は、第1〜第3つのクラッチ31〜33で共用されるものであり、各クラッチ31〜33が備えるシリンダ、ピストン、作動油圧室、作動油圧通路、遠心バランス油圧室、遠心バランス室構成部材等が共用回転部材30によって支持されている。図1では、第1、第2、第3クラッチ31、32、33のピストン31p、32p、33pを簡略的に図示している。なお、第2クラッチ32及び第3クラッチ33に対して、これらクラッチの摩擦板を保持する共通部材38が組み付けられている。
【0038】
以上のように、本実施形態の自動変速機1は、第1〜第4プラネタリギヤセット11〜14と、5つの摩擦締結要素としての第1、第2ブレーキ21、22及び第1〜第3クラッチ31〜33とを含む、入力軸3と出力ギヤ4との変速比を変更する変速機構を備える。図2は、自動変速機1が備える5つの摩擦締結要素の締結表である。図2の締結表の通り、5つの摩擦締結要素から3つの摩擦締結要素を選択的に締結(○印)することにより、前進1〜8速と後退速とが達成される。図2において、CL1、CL2、CL3は第1、第2、第3クラッチ31〜33を示し、BR1、BR2は第1、第2ブレーキ21、22を示す。本実施形態では、第1クラッチ31(CL1)、第1ブレーキ21(BR1)及び第2ブレーキ22(BR2)が、車両の前進時における発進変速比を実現するための摩擦締結要素である。
【0039】
[摩擦締結要素の詳細]
図3は、本発明の実施形態に係る変速機構の摩擦締結要素の構成を示す概略的な断面図である。変速機構は、入力軸3と出力ギヤ4との変速比を変更する。ここでは、当該摩擦締結要素が第2ブレーキ22に適用される例を示す。図3(及び以下の図4図9)において、入力軸3の軸方向をX方向、自動変速機1の径方向をY方向で示す。また、X方向については、便宜上、図面の左方を−X、右方を+Xとする。
【0040】
第2ブレーキ22は、ハウジング20、上述のピストン24及び締結油圧室25、解放油圧室26、リング部材27、摩擦板ユニット5(複数の摩擦板)、第1圧縮コイルバネ61(第1付勢手段)及び第2圧縮コイルバネ62(第2付勢手段)を備えている。このような第2ブレーキ22に対し、油圧機構70が付設されている。油圧機構70は、オイルポンプ71、油圧回路72及び油圧制御部75を含む。
【0041】
ハウジング20は、図1に示した変速機ケース2の一部であり、外筒部201、フランジ部202及び内筒部203を備える。外筒部201は、入力軸3(図1)の軸方向に延びる筒状部であり、変速機ケース2の外周壁2aに相当する部分である。フランジ部202及び内筒部203は、変速機ケース2の中間壁2dに相当する部分である。フランジ部202は、外筒部201から径方向内側に延びる部分である。内筒部203は、外筒部201の径方向内側に、外筒部201に対して所定間隔を置いて配置されている。これら外筒部201、フランジ部202及び内筒部203が作る空間は、第2ブレーキ22における前述のシリンダ23の空間を構成している。
【0042】
外筒部201の内面の、フランジ部202に隣接する領域には、溝部204が形成されている。これにより、フランジ部202の内面20Aと軸方向に所定距離をおいて対向する受け面205が、外筒部201の内面側に形成されている。溝部204には、第2圧縮コイルバネ62が収容される。内筒部203には、締結油圧室25に油圧を供給するための第1供給口206と、解放油圧室26に油圧を供給するための第2供給口207とが設けられている。
【0043】
ピストン24は、外筒部201と内筒部203との間において軸方向に移動可能な部材であり、外筒部201の内周面と摺動する押圧片241と、フランジ部202と対向する受圧片242とを備える。押圧片241は、移動方向の先端側(+X側)に、摩擦板ユニット5に押圧力を与える先端面24Aを備える。また、受圧片242は、油圧の押圧力、並びに第1、第2圧縮コイルバネ61、62の付勢力を受ける後端面24Bを後端側(−X側)に備える。ピストン24は、摩擦板ユニット5を解放状態とする解放位置(図5に示す位置)と、摩擦板ユニット5に押圧力を与えて締結状態とする締結位置(図9に示す位置)との間を移動する。
【0044】
締結油圧室25は、ピストン24を前記締結位置に向かう方向に移動させる油圧が供給される空間である。締結油圧室25は、ハウジング20の外筒部201、フランジ部202及び内筒部203と、ピストン24の押圧片241とによって区画される空間である。本実施形態では、この締結油圧室25内に、第1、第2圧縮コイルバネ61、62が配置されている。
【0045】
解放油圧室26は、ピストン24を前記解放位置に向かう方向に移動させる油圧が供給される空間である。解放油圧室26は、ハウジング20の内筒部203と、ピストン24の押圧片241及び受圧片242と、内筒部203に組み付けられるリング部材27とによって区画される空間である。本実施形態では、この解放油圧室26にはリターンスプリング等は配置されない。
【0046】
摩擦板ユニット5は、クリアランスを置いて配置された複数の摩擦板を備える。具体的には、摩擦板ユニット5は、複数枚のドライブプレート51と、複数枚のドリブンプレート52とが、所定のクリアランスCを空けて交互に配列されている。ドライブプレート51の両面には、フェーシングが貼着されている。ドライブプレート51は第1スプライン片53にスプライン結合され、ドリブンプレート52は第2スプライン片54にスプライン結合されている。第1スプライン片53は、図1に示した第4プラネタリギヤセット14のリングギヤ14rの外周部分に相当する部材である。また、第2スプライン片54は、変速機ケース2の外周壁2aの内周部分に相当する部材である。
【0047】
ピストン24の先端面24Aは、最も−X側に位置するドリブンプレート52に当接し、摩擦板ユニット5に押圧力を加える。最も+X側に位置するドライブプレート51に隣接して、リテーニングプレート55が配置されている。リテーニングプレート55は、ドライブプレート51及びドリブンプレート52の+X方向への移動を規制する。
【0048】
第1圧縮コイルバネ61及び第2圧縮コイルバネ62は、ピストン24を前記解放位置から前記締結位置に向かう締結方向(+X方向)に付勢するバネである。第1、第2圧縮コイルバネ61、62は、ピストン24の摩擦板ユニット5と対向する面とは反対側の面に配置されている。第1、第2圧縮コイルバネ61、62の−X側端部は、不動のフランジ部202の内面20Aで支持され、+X側端部は、X方向に移動するピストン24の後端面24Bに当接している。但し、第2圧縮コイルバネ62は、溝部204に収容されるように配置されている。従って、溝部204の受け面205が、第2圧縮コイルバネ62の+X側端部が当接する規制面となり、これにより第2圧縮コイルバネ62の+X方向への伸長が規制されている。
【0049】
一方、第1圧縮コイルバネ61に対してはこのような規制面は設けられておらず、第1圧縮コイルバネ61は自由高さまで伸長することが可能である。第1圧縮コイルバネ61の自由高さは、内面20Aと受け面205との間の距離よりも長い。すなわち、第1圧縮コイルバネ61がピストン24に対して+X方向の付勢力を与える作用長さは、第2圧縮コイルバネ62の作用長さよりも長い。これにより、ピストン24が前記解放位置に存在している状態から受け面205の位置(第1位置;後述の図6の位置)までは、第1、第2圧縮コイルバネ61、62の双方の付勢力がピストン24に作用し、受け面205から第1圧縮コイルバネ61が自由高さまで伸長する位置(第2位置;後述の図8の位置)までは第1圧縮コイルバネ61の付勢力だけがピストン24に作用することになる。
【0050】
また、第1圧縮コイルバネ61に比べて、第2圧縮コイルバネ62は大型のバネである。つまり、第2圧縮コイルバネ62の付勢力の方が、第1圧縮コイルバネ61の付勢力よりも大きいものとされている。従って、前記解放位置から受け面205の位置までは、第1圧縮コイルバネ61の付勢力に第2圧縮コイルバネ62の比較的大きな付勢力のアシストが重畳されて、ピストン24の移動速度は早いものとなる。
【0051】
図4は、第1及び第2圧縮コイルバネ61、62の配置例を示す図である。第1及び第2圧縮コイルバネ61、62は、円板状(円環状)のピストン24の後端面24Bに対して、それぞれ複数個が円環状に配列されている。第1圧縮コイルバネ61はピストン24の径方向内側に配置され、第2圧縮コイルバネ62はピストン24の径方向外側に配置されている。第1圧縮コイルバネ61の+X側端部及び−X側端部には、各々端板63が取り付けられている。同様に、第2圧縮コイルバネ62の+X側端部及び−X側端部には、各々端板64が取り付けられている。端板63、64によって、第1及び第2圧縮コイルバネ61、62の付勢力を、安定的且つ周方向に均一にピストン24に与えることができる。
【0052】
図4に示すような第1、第2圧縮コイルバネ61、62の配置は、複数の第2圧縮コイルバネ62群による付勢力を大きくし易い配置である。すなわち、第2圧縮コイルバネ62がピストン24の径方向外側に配置されるが、径方向外側の方が径方向内側に比べて周長が長いので、第2圧縮コイルバネ62のための配置スペースを第1圧縮コイルバネ61よりも多く確保することができる。従って、第1圧縮コイルバネ61より大型の圧縮コイルバネを第2圧縮コイルバネ62として採用したり、同じサイズであってもより多くの第2圧縮コイルバネ62を配置したりすることで、第2圧縮コイルバネ62群による付勢力が第1圧縮コイルバネ61群の付勢力よりも大きくなる状況を、容易に構築することができる。
【0053】
油圧機構70のオイルポンプ71は、エンジンに駆動されてオイルを所要部位に流通させると共に、所定の油圧を生成するポンプである。油圧回路72は、摩擦締結要素としての第1、第2ブレーキ21、22及び第1〜第3クラッチ31〜33に油圧を選択的に供給して、図2に示す各変速段を達成するための油圧回路である。図3では、第2ブレーキ22に対して油圧を供給及びその排出を行うための、第1ソレノイドバルブ73及び第2ソレノイドバルブ74だけを示している。
【0054】
第1ソレノイドバルブ73は、第1供給口206を通して締結油圧室25にオイルポンプ71が発生する油圧を供給し、また締結油圧室25の油圧を排除する制御を行うバルブである。第1ソレノイドバルブ73は、入力ポート731、出力ポート732及びドレンポート733を備える。ソレノイドの動作によって、締結油圧室25への油圧供給時には入力ポート731と出力ポート732とが連通され、油圧排除時には出力ポート732とドレンポート733とが連通される。締結油圧室25に所定の締結油圧が供給されると、ピストン24は前記締結位置に移動する。
【0055】
第2ソレノイドバルブ74は、第2供給口207を通して解放油圧室26にオイルポンプ71が発生する油圧を供給し、また解放油圧室26の油圧を排除する制御を行うバルブである。第2ソレノイドバルブ74は、入力ポート741、出力ポート742及びドレンポート743を備える。ソレノイドの動作によって、解放油圧室26への油圧供給時には入力ポート741と出力ポート742とが連通され、油圧排除時には出力ポート742とドレンポート743とが連通される。解放油圧室26に所定の解放油圧が供給されると、ピストン24は第1、第2圧縮コイルバネ61、62の付勢力に拘わらず前記解放位置に移動する。
【0056】
油圧制御部75は、第1、第2ソレノイドバルブ73、74のソレノイドの動作を制御することによって、締結油圧室25、解放油圧室26に供給する油圧を制御する。この他、油圧制御部75は、他の摩擦締結要素の各ソレノイドバルブ等を制御するものであって、第1ブレーキ21及び第1〜第3クラッチ31〜33に供給する油圧も制御する。
【0057】
[摩擦締結要素の動作]
図5図9は、前記摩擦締結要素の動作を説明するための概略的な断面図である。図5は、ピストン24が解放位置に存在している状態を示している。すなわち、ピストン24の先端面24Aが摩擦板ユニット5から所定距離だけ離間し、ドライブプレート51とドリブンプレート52とが解放状態にある。図5では、先端面24AのX方向の位置を解放位置P0として示している。このとき、油圧制御部75は、締結油圧室25に締結油圧を供給させない(図中、「OFF」と記載)。つまり、油圧制御部75は、第1ソレノイドバルブ73を、出力ポート732とドレンポート733とが連通される状態に制御する。
【0058】
一方、油圧制御部75は、解放油圧室26には、第2供給口207を通して所定の解放油圧を供給する(図中、「ON」と記載)。つまり、油圧制御部75は、第2ソレノイドバルブ74を、入力ポート741と出力ポート742とが連通される状態に制御する。解放油圧は、少なくとも第1圧縮コイルバネ61の付勢力よりも大きい油圧であり、本実施形態では第1、第2圧縮コイルバネ61、62の重畳付勢力よりも大きな油圧である。ピストン24の受圧片242は解放油圧の供給を受け、これによりピストン24は前記重畳付勢力に抗して−X方向に移動する。第1、第2圧縮コイルバネ61、62は、最も圧縮された状態となる。
【0059】
図6は、ピストン24が前記第1位置に存在している状態を示している。第1位置は、ピストン24の先端面24Aが摩擦板ユニット5に当接しない所定位置に設定される。具体的には、溝部204のX方向の幅によって決定される。図6では、このときの先端面24AのX方向の位置を第1位置P1として示している。ピストン24を解放位置P0から締結方向に移動させる指令があるとき、油圧制御部75は、解放油圧室26の解放油圧の供給をOFF(油圧の排出)とする。締結油圧室25については、OFFを維持する。
【0060】
解放油圧がOFFを維持とされることで、ピストン24は+X方向へフリーに移動できる状態となる。そして、解放位置P0から第1位置P1へ移動するとき、ピストン24には第1、第2圧縮コイルバネ61、62の双方の付勢力が重畳して加わる。これにより、ピストン24は+X方向に強く押圧され、締結方向へ高速で移動する。つまり、ピストン24の締結方向への動き出しを、素早く行わせることができる。
【0061】
図7は、ピストン24が第1位置P1からさらに締結方向に所定距離だけ移動した状態を示している。この状態では、2つの圧縮コイルバネのうち第1圧縮コイルバネ61の付勢力だけがピストン24に作用している。図7では、このときの先端面24AのX方向の位置を接触直前位置P11として示している。
【0062】
ピストン24が第1位置P1に到達するタイミングで、油圧制御部75は、締結油圧室25に締結油圧よりも低いプリチャージ油圧(所定の油圧)を供給する。解放油圧室26については、OFFを維持する。ピストン24の解放位置P0から第1位置P1への急激な移動によって、締結油圧室25内が負圧化する。この負圧化は、ピストン24の+X方向への移動の妨げとなる。そこで、プリチャージ油圧を締結油圧室25に供給することによって、ピストン24の+X方向への移動をアシストする。なお、プリチャージ油圧は負圧抵抗を解消する程度の油圧であり、第1位置P1から次の第2位置P2(図8)までのピストン24の移動は、専ら第1圧縮コイルバネ61の付勢力に依存する。従って、ピストン24は、第1位置P1から第2位置P2までは、解放位置P0から第1位置P1への移動時に比べて、比較的ゆっくりと移動する。
【0063】
図8は、ピストン24が、その先端面24Aが摩擦板ユニット5(ドリブンプレート52)に当接し、且つ、ドライブプレート51とドリブンプレート52との間のクリアランスCを詰めた前記第2位置に存在している状態を示している。第2位置では、第1圧縮コイルバネ61が最も伸長した状態となるが、ピストン24は前記締結位置には至らない。図8では、このときの先端面24AのX方向の位置を第2位置P2として示している。ピストン24が接触直前位置P11から第2位置P2に至る途中で、油圧制御部75は、締結油圧室25への前記プリチャージ油圧の供給を停止する。従って、第2位置P2では、締結油圧室25及び解放油圧室26の双方について油圧の供給がOFFとされる。
【0064】
第2位置P2は、いつでも発進が行える発進準備状態であって、いわゆるゼロタッチ状態である。ゼロタッチ状態とは、ドライブプレート51とドリブンプレート52とが摩擦締結に至る直前まで両者間のクリアランスCが詰められ、これ以上ピストン24が+X方向に移動されると両者間に摩擦締結力が発生する状態をいう。本実施形態では、このゼロタッチ状態を、第1圧縮コイルバネ61の付勢力によって安定的に作り、これを維持させることができる。換言すると、第1圧縮コイルバネ61の作用長さは、ゼロタッチ状態を創出できるように選定される。
【0065】
図9は、ピストン24が締結位置に至った状態を示している。すなわち、ピストン24の先端面24Aがドリブンプレート52を+X方向に押し込み、ドライブプレート51とドリブンプレート52とが締結状態にある。図9では、このときの先端面24AのX方向の位置を、締結位置P3として示している。このとき、締結油圧室25は締結油圧が供給されるON状態とされる。解放油圧室26についてはOFFに維持される。
【0066】
油圧制御部75は、ピストン24が第2位置P2のゼロタッチ状態に存在する場合において前進又は後進の発進指示が与えられると、締結油圧室25に締結油圧を供給する。受圧片242はこの締結油圧を受け、ピストン24は第2位置P2からさらに+X方向に移動し、締結位置P3へ至る。これにより、ドライブプレート51とドリブンプレート52とが締結され、両者間に締結力が発生する。
【0067】
ドライブプレート51とドリブンプレート52との締結を解除する場合、締結油圧室25は、締結油圧室25をOFFとする一方で、解放油圧室26に解放油圧を供給するON状態とする。この制御により、ピストン24は、図5に示す解放位置P0に復帰する。
【0068】
[車両の発進時の制御]
続いて、自動変速機1において車両の発進時において実行される油圧制御について説明する。図10は、自動変速機1の油圧経路を示すブロック図、図11は、車両の停車時から発進時における、各摩擦締結要素への油圧の供給状況を示す表形式の図である。図3では、油圧回路72を第2ブレーキ22に対応するものとして示したが、図10では全ての摩擦締結要素(第1、第2ブレーキ21、22及び第1〜第3クラッチ31〜33)に対応する油圧回路72として示している。この油圧回路72には、各擦締結要素対して油圧を供給及びその排出を行うためのソレノイドバルブが備えられている。
【0069】
図2に示したように、車両の停車時から発進時に締結される摩擦締結要素、すなわち前進1速の変速比(発進変速比)は、本実施形態では第1クラッチ31(CL1)、第1ブレーキ21(BR1)及び第2ブレーキ22(BR2)で実現される。従って、図11では、これら3つの摩擦締結要素だけを表に示している。図11の第1クラッチ31及び第1ブレーキ21の欄において、「ON」はこれらが締結状態にあることを、「OFF」はこれらが非締結状態(解放状態)にあることを示す。第2ブレーキ22の欄において、「ON」は締結油圧又は解放油圧が供給されている状態を、「OFF」は締結油圧又は解放油圧が供給されていない状態を示す。
【0070】
図11を参照して、車両の停車時において油圧制御部75は、第1クラッチ31及び第1ブレーキ21には締結油圧を供給せず、OFF状態とする。また、油圧制御部75は、締結油圧室25をOFFとする一方、解放油圧室26には所定の解放油圧を供給してON状態とする(図5に示す状態)。
【0071】
次に、停車時から発進準備時に移行する。車両の発進準備時とは、車両は停車状態にあるものの、先述のゼロタッチ状態が形成されている状態を意味する。このゼロタッチ状態において油圧制御部75は、第1クラッチ31及び第1ブレーキ21に対して締結油圧を供給し、ON状態とする。一方、油圧制御部75は、第2ブレーキ22については先述の通り、締結油圧室25には締結油圧を供給せずOFF状態とし、解放油圧室26の解放油圧を解除してOFF状態とする(図8に示す状態)。
【0072】
つまり、油圧制御部75は、発進準備時(停車時)において第2ブレーキ22の締結油圧室25を締結油圧よりも低い油圧が供給された状態(OFF状態)とする一方で、発進変速比を形成する他の摩擦締結要素である第1クラッチ31及び第1ブレーキ21については、締結油圧が供給された状態(ON状態)とする。これにより、あとは第2ブレーキ22を締結状態に移行させることで、発進変速比が実現される状態が作られる。しかも、ゼロタッチ状態では、第1圧縮コイルバネ61の付勢力によってピストン24が摩擦板ユニット5を押圧し、ドライブプレート51とドリブンプレート52との間のクリアランスCが詰められた状態が作られている。
【0073】
発進準備状態において発進指示が与えられると(発進時)、油圧制御部75は、第1クラッチ31及び第1ブレーキ21だけでなく、第2ブレーキ22の締結油圧室25にも締結油圧を供給し、ON状態とする。これにより、発進変速比が実現され、車両は前進する。このように、発進準備時から発進時への移行は、既にゼロタッチ状態とされている第2ブレーキ22の締結のみで実現されるので、停車状態から発進変速比を実現するまでの応答性が、極めて高くなる。なお、発進準備状態から発進指示が与えられない場合は、第2ブレーキ22はゼロタッチ状態で待機し、停車指示が与えられると、図11の「停車時」の油圧状態が形成される。
【0074】
本実施形態において、圧縮コイルバネの付勢力によってゼロタッチ状態を形成する摩擦締結要素として、第2ブレーキ22が選択された理由は次の通りである。図2に示すように、本実施形態の変速機構は、前進において発進変速比を作る1速から最高速の変速比を作る8速までの有段式の変速機構である。この中で、第2ブレーキ22は1速から5速までの変速比の実現において連続して締結状態とされる摩擦締結要素である。これに対し、1速〜5速において、第1クラッチ31は2速、4速では締結されず、第1ブレーキ21は3速〜5速では締結されない摩擦締結要素である。
【0075】
このことから、第2ブレーキ22は、低速〜中速の変速比において最も汎用性の高い摩擦締結要素であるといえる。つまり、所定の変速マップに従って低速〜中速の変速比が実現される場合に、第2ブレーキ22は常に締結される擦締結要素となる。例えば、車両の急減速の後、再加速が行われるシーンにおいて、変速マップに基づき1速〜5速のいずれの変速比が実現される場合でも、第2ブレーキ22は常に締結される。従って、第2ブレーキ22を、ゼロタッチ状態を形成する摩擦締結要素とすることで、応答性に優れ、締結ショックが発生しない変速が達成できる。
【0076】
[作用効果]
以上説明した本実施形態に係る摩擦締結要素乃至は自動変速機によれば、次のような作用効果を奏する。本実施形態に係る摩擦締結要素が適用される第2ブレーキ22は、ピストン24を、解放位置P0(図5)から締結位置P3(図9)に向かう締結方向に付勢する第1、第2圧縮コイルバネ61、62を備える。そして、解放位置P0から第1位置P1(図6)までは、第1、第2圧縮コイルバネ61、62の双方の付勢力がピストン24に作用するので、該ピストン24を締結方向に素早く移動させることができる。つまり、ピストン24の締結方向への動き出しを、素早く行わせることができる。
【0077】
さらに、ピストン24は、第1圧縮コイルバネ61の付勢力が与えられて第1位置P1から第2位置P2(図8)まで移動する。ピストン24が第2位置P2まで至ると、ドライブプレート51とドリブンプレート52との間(摩擦板同士の間)のクリアランスCが詰められた状態となる。つまり、締結状態には至らないものの、両プレート51、52の間のクリアランスが実施的に消失し、締結寸前の状態に至る。従って、その後に締結油圧室25に締結油圧を供給することによって、速やかに両プレート51、52を締結状態とすることができる。このように、第1圧縮コイルバネ61の付勢力によって締結寸前の状態が形成され、その後に締結状態が形成されるので、締結ショックの発生を防止することができる。また、第1圧縮コイルバネ61によって、安定的にゼロタッチ状態を形成することができる。
【0078】
また、+X方向の異なる位置である第1位置P1と第2位置P2とへのピストン24の移動は、第1、第2圧縮コイルバネ61、62の作用長さの相違に依存している。すなわち、第1圧縮コイルバネ61の作用長さは、第2圧縮コイルバネ62の作用長さよりも長いものとされ、ピストン24に対する第1位置P1又は第2位置P2までの付勢力の印加が為される構成である。従って、第1、第2圧縮コイルバネ61、62の作用長さの設定により、本発明の作用効果を果たす摩擦締結要素を簡易に構築することができる。
【0079】
さらに、第2圧縮コイルバネ62の付勢力が、第2圧縮コイルバネ62の付勢力よりも大きい。これにより、第1、第2圧縮コイルバネ61、62の双方の付勢力が作用する、解放位置P0から第1位置P1までのピストン24の移動速度を、第1位置P1から第2位置P2までのピストンの移動速度に比べて、相対的に早くすることができる。すなわち、ピストン24の動き出しを素早くすることができ、締結位置P3へ向けたピストン24の移動を一層迅速化することができる。
【0080】
第1圧縮コイルバネ61はピストン24の径方向内側に配置され、第2圧縮コイルバネ62はピストン24の径方向外側に配置されている。径方向外側の方が、径方向内側に比べて周長が長いので、第2圧縮コイルバネ62のための配置スペースを第1圧縮コイルバネ61よりも多く確保することができる。従って、複数の第2圧縮コイルバネ62群の付勢力が複数の第1圧縮コイルバネ61群の付勢力よりも大きくなる状況を、容易に構築することができる。
【0081】
摩擦締結要素の油圧制御において、油圧制御部75は、ピストン24を解放位置P0に向かわせる際、少なくとも第1圧縮コイルバネ61の付勢力よりも大きい油圧を解放油圧室26に供給する。上記実施形態では、油圧制御部75は、第1、第2圧縮コイルバネ61、62の双方の付勢力よりも大きな解放油圧を解放油圧室26に供給する。これにより、第1、第2圧縮コイルバネ61、62の重畳付勢力に抗して、ピストン24を解放位置P0に向けて速やかに戻すことができる。
【0082】
また、油圧制御部75は、ピストン24を締結方向へ向かわせる際、解放油圧室26内の解放油圧を排出させる。これにより、ピストン24に対して解放位置P0へ向かわせる方向の力が作用しなくなるので、第1位置P1までは第1、第2圧縮コイルバネ61、62の重畳付勢力で、第2位置P2までは第1圧縮コイルバネ61の付勢力で、ピストン24を速やかに締結方向へ移動させることができる。すなわち、両プレート51、52間のクリアランスCを詰めた状態を速やかに形成することができる。
【0083】
さらに、油圧制御部75は、ピストン24を締結方向へ向かわせる際、締結油圧室25にプリチャージ油圧を供給する(図7)。これにより、第1、第2圧縮コイルバネ61、62の付勢力に加えて、前記プリチャージ油圧によって、より高速にピストン24を締結方向へ移動させることができる。また、第1、第2圧縮コイルバネ61、62の付勢力によってピストン24が急速に締結方向へ移動されることで、締結油圧室25が負圧になってピストン24の移動速度が鈍る問題も、前記プリチャージ油圧の供給によって解消することができる。
【0084】
以上の通り、本実施形態によれば、ピストン24を解放位置P0から締結位置へ向けて速やかに移動させることができる一方で、締結ショックを発生させることのない摩擦締結要素、及びこれを用いた自動変速機1を提供することができる。
【0085】
[変形実施形態の説明]
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、次のような変形実施形態を取ることができる。
【0086】
(1)上記実施形態では、第1付勢手段及び第2付勢手段として、第1圧縮コイルバネ61及び第2圧縮コイルバネ62を例示した。ピストン24に締結方向の付勢力を与えることができ且つ変速機ケース2に組み込むことができる限りにおいて、他の付勢部材を第1、第2付勢手段として適用することができる。例えば、引っ張りコイルバネ、皿バネ、板バネ、弾発性のゴムや樹脂等を、第1、第2付勢手段として用いるようにしても良い。
【0087】
(2)上記実施形態では、図4に示したように、第1圧縮コイルバネ61に比べて、第2圧縮コイルバネ62は大型のバネである例を示した。図12は、圧縮コイルバネの配置の変形例を示す図である。ここでは、第1圧縮コイルバネ61と同じサイズの第2圧縮コイルバネ62Aが用いられている例を示している。但し、径方向外側の第2圧縮コイルバネ62Aの配列密度を、径方向内側の第1圧縮コイルバネ61の配列密度よりも密としている。このような態様で、第2圧縮コイルバネ62A群による付勢力が第1圧縮コイルバネ61群の付勢力よりも大きくなる付勢環境を構築するようにしても良い。
【0088】
(3)上記実施形態では、第1圧縮コイルバネ61の付勢力によってゼロタッチ状態を形成する摩擦締結要素が、第2ブレーキ22である例を示した。これに代えて、或いはこれに加えて、他の摩擦締結要素、すなわち、第1ブレーキ21、第1〜第3クラッチ31〜33のいずれか又は複数を、ゼロタッチ状態を形成する摩擦締結要素としても良い。
【0089】
(4)図10及び図11では、前進の発進変速比が実現される場合を例示した。後進の発進変速比が実現される場合は、図2の締結表の通り、第1クラッチ31及び第1ブレーキ21と第2ブレーキ22との組合せが、第3クラッチ33及び第1ブレーキ21と第2ブレーキ22との組合せに置き換えられる。
【0090】
(5)上記実施形態では、ピストン24が第1位置P1に到達するタイミングに、締結油圧室25にプリチャージ油圧を供給する例を示した。締結油圧室25の負圧化に伴うピストン24の抵抗対策としては、プリチャージ油圧の供給以外に、各種弾性部材の弾性力を利用するようにしても良い。
【0091】
(6)上記実施形態では、付勢手段として、締結油圧室25内に第1、第2圧縮コイルバネ61、62を配置する例を示した。これに代えて、解放油圧室26に引っ張りコイルバネ等からなる付勢手段を配置するようにしても良い。
【符号の説明】
【0092】
1 自動変速機
2 変速機ケース
21 第1ブレーキ
22 第2ブレーキ(摩擦締結要素)
24 ピストン
25 締結油圧室
26 解放油圧室
3 入力軸
31 第1クラッチ
32 第2クラッチ
33 第3クラッチ
4 出力ギヤ
5 摩擦板ユニット
51 ドライブプレート(摩擦板)
52 ドリブンプレート(摩擦板)
61 第1圧縮コイルバネ(第1付勢手段)
62 第2圧縮コイルバネ(第2付勢手段)
72 油圧回路
75 油圧制御部
C クリアランス
P0 解放位置
P1 第1位置
P2 第2位置
P3 締結位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12