特許第6315037号(P6315037)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6315037連続鋳造用タンディッシュ用内張り耐火物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6315037
(24)【登録日】2018年4月6日
(45)【発行日】2018年4月25日
(54)【発明の名称】連続鋳造用タンディッシュ用内張り耐火物
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/10 20060101AFI20180416BHJP
   B22D 41/02 20060101ALI20180416BHJP
   F27D 1/00 20060101ALI20180416BHJP
   C04B 35/103 20060101ALI20180416BHJP
【FI】
   B22D11/10 310J
   B22D41/02 A
   F27D1/00 N
   C04B35/103
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-145229(P2016-145229)
(22)【出願日】2016年7月25日
(65)【公開番号】特開2018-15763(P2018-15763A)
(43)【公開日】2018年2月1日
【審査請求日】2017年1月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100122437
【弁理士】
【氏名又は名称】大宅 一宏
(74)【代理人】
【識別番号】100161115
【弁理士】
【氏名又は名称】飯野 智史
(72)【発明者】
【氏名】土井 菜保子
(72)【発明者】
【氏名】井上 一浩
(72)【発明者】
【氏名】冨谷 尚士
【審査官】 酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−293569(JP,A)
【文献】 特開2000−203953(JP,A)
【文献】 特開2016−175093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 11/10,41/02,
C04B 35/00,35/103,35/565
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化珪素原料20〜70質量%及びアルミナ原料30〜80質量%よりなる耐火原料100質量%に対し、バインダーを外掛けで1〜5質量%含有してなり、且つ炭素質原料の配合量またはバインダーに起因する固定炭素量と炭素質原料の配合量の合計量が外掛けで2質量%未満(ゼロを含む)の範囲内にあるアルミナ−炭化珪素質不焼成耐火物からなることを特徴とする製鋼分野で用いられる連続鋳造用タンディッシュ用内張り耐火物。
【請求項2】
更に、珪砂、珪石、ろう石、シリカフラワー及び耐火粘土からなる群から選択される1種または2種以上のその他の原料を耐火原料100質量%に対し、外掛けで5質量%以下の量で含有する、請求項1記載の製鋼分野で用いられる連続鋳造用タンディッシュ用内張り耐火物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶融金属容器、特に、連続鋳造用タンディッシュに使用する内張り耐火物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製鋼分野で用いられる溶融金属容器、特に、連続鋳造用タンディッシュは、耐火物が内張り材として施工された構造を持つ。さらに、内張り材の保護や残鋼処理を容易にすることで内張り材の寿命を延長する目的で、内張り材にコーティング材が施工されている。従来、連続鋳造用タンディッシュの内張り用耐火物としては、非特許文献1に示されるようなアルミナ−シリカ質流し込み材やろう石質煉瓦、高アルミナ質煉瓦が用いられてきた。不定形耐火物であるアルミナ−シリカ質流し込み材は、施工時の省力化という利点を有するが、ミキサーや施工枠、乾燥用バーナー等の専用設備が施工場所に必要となる。そのため、様々な理由から同設備の導入が困難な場合には、成形・熱処理後の状態で製品となる定形煉瓦が採用されている。
【0003】
連続鋳造用タンディッシュの内張り用耐火物として用いられる定形煉瓦に求められる特性として、使用時の耐スラグ侵食性、耐メタル溶損性が挙げられる。加えて、鋳造後、残鋼除去を容易にするため内張り材表面に水をかけて急冷を行う場合があるため、耐熱スポーリング性も重要である。従来用いられてきたろう石質煉瓦は耐スポーリング性に優れる一方で、耐スラグ侵食性に劣るという問題があった。また、高アルミナ質煉瓦は1000℃以上の高温条件で焼成された煉瓦であり、耐熱スポーリング性に劣るという問題があった。また、溶鋼の脱酸剤として金属アルミニウムを用いない場合には、スラグ中のアルミナ含有量が低くなるため、耐スラグ侵食性が不十分となる問題があり、異なる材質系の定形煉瓦が求められていた。
【0004】
内張り耐火物の耐用性を向上する手段として、炭化珪素を活用する検討がなされてきている。炭化珪素は、非特許文献2に示されるように、化学的に安定で、反応性に乏しく、非酸化性スラグに対して溶解度が低いため耐食性に優れ、さらに、熱膨張係数が小さく、熱伝導率が高いため熱スポーリングに対しても優れた耐性を持つ。その一方で、炭化珪素は酸化によって分解し、劣化するという短所を有し、特に、酸化性スラグが生成する製鋼部門では、当該スラグによって液相酸化が継続的に進行し、侵食が進むため耐用性に劣る。そのため、製鋼部門においては、炭化珪素を多量に添加した炭化珪素質耐火物の使用は困難であるとされてきた。
【0005】
また、定形煉瓦に炭化珪素を用いた例として、例えば以下の特許文献1〜4がある。
特許文献1には、アルミナ質耐火材料及び炭素質材料を主構成成分とする溶銑容器用耐火物において、表面に炭素質材料をコーティングしたアルミナ粗粒をアルミナ質耐火材料と炭素質材料の全部または一部として使用することを特徴とする溶銑容器用耐火物が開示されている。また、特許文献1の[0008]段落には、「れんがはこれらのアルミナ及び炭素質材料を主体としてその他に炭化珪素を添加してアルミナ・炭化珪素・炭素質耐火物としてもよく(以下、略)」旨の記載があり、さらに、[0015]段落の表1には、アルミナ原料に、鱗状黒鉛を5〜13重量部、炭化珪素を5〜10重量部配合した例が開示されている。特許文献1によれば、表面に炭素質材料をコーティングしたアルミナ粗粒をアルミナ質耐火材料と炭素質材料の全部または一部として使用することにより、アルミナ・炭化珪素・炭素質耐火物の耐スポーリング性を改善できるとしている。
また、特許文献2には、金属マグネシウム10重量%以上、残部が石灰、蛍石等からなる脱硫剤を溶銑中に注入し脱硫処理を行う処理容器において、耐火骨材としてアルミナ原料60〜98重量%、炭化珪素1〜20重量%、炭素1〜20重量%を含む不焼成炭素含有れんがにより、内張りの一部又は全部を構成したことを特徴とする溶銑処理用容器が開示されている。
さらに、特許文献3には、煉瓦と不定形耐火物を用いた施工体により形成された混銑車の多層耐火ライニング構造において、鉄皮側から、熱伝導率が0.5〜2.5Kcal/mh℃の本パーマ煉瓦と、熱伝導率が5〜20Kcal/mh℃の準パーマ煉瓦の順に形成し、さらに、溶湯と接する稼働面部を前記準パーマ煉瓦の熱伝導率を越えない熱伝導率を有する不定形耐火物によって形成したことを特徴とする混銑車の多層耐火ライニング構造(請求項1);本パーマ煉瓦をアルミナ・シリカ系とし、準パーマ煉瓦をアルミナ・炭化珪素・カーボン質としたことを特徴とする前記混銑車の多層耐火ライニング構造(請求項2)が開示されている。また、特許文献3の[0034]段落の表2には、Al52〜81%、SiO3〜20%、SiC4〜15%、固定炭素1〜23%の化学成分値を有する準パーマ煉瓦が開示されている。
また、特許文献4には、βアルミナ−炭化珪素−黒鉛からなる耐火材料に、さらに金属珪素を2〜10%含み、粒子間が炭化珪素結合もしくは炭素結合された溶鉱炉用耐火物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−91916号公報
【特許文献2】特開平10−110210号公報
【特許文献3】特開平9−59707号公報
【特許文献4】特開昭52−76313号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】耐火物技術協会編、 「耐火物手帳 改定12版」、2015年、pp426-428
【非特許文献2】耐火物技術協会編、 「耐火物手帳 改定12版」、2015年、pp181-183
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の特許文献1〜4に記載されている耐火物はいずれも1〜34質量%程度の炭素成分を含有するものであるが、これらの耐火物を連続鋳造用タンディッシュの内張り耐火物として使用しても、上述のような水冷を行うと、炭素が水蒸気酸化により消失して脆化が問題となる。また、特許文献3のアルミナ・炭化珪素・カーボン質煉瓦は、炭化珪素の化学成分値が15質量%以下であり、耐スラグ侵食性を高めるという目的には不十分なものであった。更に、特許文献4の溶鉱炉用耐火物は、950〜1350℃で還元雰囲気下で熱処理した焼成品であるが、高温で熱処理すると、骨材の焼結により耐スポーリング性が低下するという問題点があった。
【0009】
従って、本発明の目的は、連続鋳造用タンディッシュにおいて、スラグ曝露時の溶損や熱スポーリングによる損耗を低減することができる連続鋳造用タンディッシュ用内張り耐火物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
連続鋳造用タンディッシュの寿命は、内張り耐火物の耐用によって決まる。内張り耐火物として定形煉瓦を適用する場合、上述のように、ろう石質煉瓦、高アルミナ質煉瓦が使用される場合が多い。連続鋳造用タンディッシュ用内張り耐火物の主たる損傷として、スラグ曝露時の溶損が挙げられる。従って、スラグとの接触を阻害すれば耐用の向上に繋がると考えられる。スラグの反応を抑制する手法として炭化珪素の適用の検討がなされており、各種窯炉において効果が得られている。しかし、炭化珪素を多量に添加した耐火物は、非特許文献2に示されるように炭化珪素の液相酸化による劣化の問題がある。そのため、酸素ポテンシャルの高いスラグが生成する製鋼部門では液相酸化が継続的に進行し耐用が低下するため、適用は困難であり、ほとんど使用されておらず、炭化珪素を多量に添加した耐火物の適用は、製鉄分野では、高炉や溶銑容器、溶銑予備処理など精錬工程よりも前の設備に限られている。
【0011】
本発明者らは酸化による劣化の問題を解決し、製鋼用耐火物に対して炭化珪素を多量に添加することが可能となれば、耐スラグ浸潤・反応性を飛躍的に向上することが可能となると考えた。製鋼分野において、炭化珪素を適用すると耐用が低下する主たる要因としては、精錬に伴い生成する高酸素ポテンシャルスラグによる液相酸化である。そこで、本発明者らは種々スラグの成分について調査を行った結果、連続鋳造用タンディッシュにおいて存在するスラグの酸素ポテンシャルは高炉におけるそれと同等程度に低いとの知見を得た。本発明者らはさらに検討を行い、適用箇所を連続鋳造用タンディッシュに限定することで、製鋼分野においても炭化珪素を多量に添加した耐火物の適用が可能であることを見出した。
【0012】
一方で、精錬済みの溶鋼は炭素や珪素の濃度が低く、溶銑と比較して炭化珪素の溶解が容易に進行するため、製鋼分野に用いられる耐火物への炭化珪素の多量添加は、耐メタル性の低下につながり、好ましくないと考えられていた。本発明者らはさらに検討を進めたところ、炭化珪素の添加量には最適範囲が存在し、この範囲で炭化珪素を添加することで耐メタル性を維持しつつスポーリングやスラグ反応を抑制することができ、耐用性を飛躍的に向上することが可能であることを見出した。
本発明はかかる知見に基づきなされたものである。
【0013】
即ち、本発明は、炭化珪素原料20〜70質量%及びアルミナ原料30〜80質量%よりなる耐火原料100質量%に対し、バインダーを外掛けで1〜5質量%含有してなり、且つ炭素質原料の配合量またはバインダーに起因する固定炭素量と炭素質原料の配合量の合計量が外掛けで2質量%未満(ゼロを含む)の範囲内にあるアルミナ−炭化珪素質不焼成耐火物からなることを特徴とする連続鋳造用タンディッシュ用内張り耐火物に係るものである。
【0014】
本発明の連続鋳造用タンディッシュ用内張り耐火物は、更に、珪砂、珪石、ろう石、シリカフラワー及び耐火粘土からなる群から選択される1種または2種以上のその他の原料を耐火原料100質量%に対し、外掛けで5質量%以下の量で含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、連続鋳造用タンディッシュにおいて、スラグ曝露時の溶損やスラグ成分の浸透による構造スポーリングによって損耗が拡大するという問題を解決し、損傷の低減を可能とする連続鋳造用タンディッシュ用内張り耐火物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の連続鋳造用タンディッシュ用内張り耐火物は、以下に規定されるアルミナ−炭化珪素質不焼成耐火物から構成される。
アルミナ−炭化珪素質不焼成耐火物の耐火原料は、炭化珪素原料を20〜70質量%、好ましくは25〜60質量%、アルミナ原料を30〜80質量%、好ましくは40〜75質量%含有してなるものである。炭化珪素原料の割合が20質量%未満、即ち、アルミナ原料が80質量%を超えると、得られる内張り耐火物のスラグに対する耐食性、耐浸潤性、耐スポーリング性が低下するため好ましくない。また、炭化珪素原料の割合が70質量%を超える、即ち、アルミナ原料が30質量%未満であると、溶鋼に対する耐食性の低下、液相酸化による組織の劣化につながるため好ましくない。
【0017】
ここで、アルミナ原料は、耐食性の観点から、アルミナ原料全体でのAl含有量が好ましくは50質量%以上、より好ましくは70質量%以上の範囲にあるものを挙げられる。例えば、白色電融アルミナ、褐色電融アルミナ、焼結アルミナ、ボーキサイト、仮焼アルミナなどの高アルミナ質原料をはじめ、ムライト、シャモットなどのアルミナ−シリカ質原料などを使用することができ、また、複数のアルミナ原料を組み合わせて使用することができる。また、スピネルもAl含有量が50質量%以上であれば、アルミナ原料として使用することができる。
【0018】
また、炭化珪素原料は、耐食性の観点から、SiC純度が好ましくは80質量%以上、より好ましくは85質量%以上のものを使用する。
【0019】
なお、耐火原料(アルミナ原料及び炭化珪素原料)の粒度配合は特に限定されるものではなく、例えば、耐火原料の全量を100質量%とした場合、粒径1mm超の粗粒を25〜50質量%、0.15〜1mmの中粒を30〜45質量%、0.15mm未満の微粉を10〜40質量%の粒度構成とすることができる。
【0020】
アルミナ−炭化珪素質不焼成耐火物において、バインダーとは、混練する際に添加し、成形時に結合剤として働き、乾燥時に硬化する働きを持つ。バインダーとしては、無機バインダーまたは有機バインダーまたはそれら両者の混合物を使用することができる。無機バインダーとしては、例えば、ケイ酸ソーダやケイ酸カリウム、リン酸ソーダ、コロイダルシリカなどが使用でき、これらの2種以上の混合物であっても差し支えない。また、有機バインダーとしては、例えば、フェノール樹脂、液体ピッチ、糖類の加水分解物及び/または還元澱粉糖化物、糖蜜などが使用でき、これらの2種以上の混合物を利用することもできる。しかしながら、バインダーに含まれる炭素分が水蒸気酸化される場合、アルミナ−炭化珪素質不焼成耐火物の脆化に繋がるため、より好ましいのは無機バインダーである。
【0021】
バインダーの添加量は、耐火原料100質量%に対して外掛けで1〜5質量%、好ましくは1.5〜4質量%の範囲内である。バインダーの添加量が外掛けで1質量%未満であると、施工体の強度が確保できないため好ましくない。また、バインダーの添加量が外掛けで5質量%を超えると、煉瓦成形時にラミネーションを起こし、製品歩留まりが極度に悪化するため好ましくない。なお、バインダーとして有機バインダーを用いる場合には、有機バインダーの固定炭素量と、下記に示す炭素質原料との合計量が下記の範囲を超えて添加することは好ましくない。
【0022】
また、アルミナ−炭化珪素質不焼成耐火物の耐スラグ浸潤性の向上することを目的として、炭素質原料を添加することができる。炭素質原料としては鱗状黒鉛、土状黒鉛、コールタールピッチ、メソフェーズカーボン、石油ピッチ、カーボンブラック、コークス粉などを使用することができる。また、有機バインダーが高温使用時に熱分解して残留する固定炭素も含まれる。ここで、固定炭素とは、JIS K 6910(フェノール樹脂試験方法)中の固定炭素測定法に基づいて測定したものである。ここで、炭素質原料の添加量が多すぎると水蒸気酸化による組織の劣化につながる。炭素質原料の添加量は耐火原料100質量%に対して外掛けで2質量%未満(ゼロを含む)、好ましくは1質量%未満(ゼロを含む)、より好ましくはゼロ(無添加)である。ここで、炭素質原料の添加量が外掛けで2質量%を超えると、組織脆化が著しくなり、酸化脆化後の耐スラグ侵食性や耐スポーリング性に影響を及ぼすため好ましくない。
【0023】
更に、アルミナ−炭化珪素質不焼成耐火物には、珪砂、珪石、ろう石、シリカフラワー及び耐火粘土からなる群から選択される1種または2種以上のその他の原料を外掛けで5質量%以下、好ましくは4質量%以下の量で配合することができる。その他の原料の配合量が外掛けで5質量%を超えると、耐食性の低下につながるため好ましくない。
【0024】
ここで、本明細書に記載する「アルミナ−炭化珪素質不焼成耐火物」とは、成形後に酸化または還元雰囲気条件下において、800℃以下、より好ましくは500℃以下で乾燥・熱処理を行った耐火物を指すものとする。アルミナ−炭化珪素質耐火物は800℃を超える温度付近から炭化珪素に含まれる不純物の焼結が始まるため、800℃を超えるような高温での熱処理は耐熱スポーリング性の低下につながるため好ましくない。
【0025】
アルミナ−炭化珪素質不焼成耐火物の製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば下記のようにして製造することができる:
まず、所定の配合割合にて配合された原料を一括あるいは分割して、混合機もしくは混練機により混合及び混練する。一般的にれんがのプレス成形の前処理工程である混練としては、容器固定型では、ローラー式のSWPやシンプソンミキサー、ブレード式のハイスピードミキサー、加圧式ハイスピードミキサーやヘンシェルミキサー、あるいは加圧ニーダーと呼ばれる混練機や、容器駆動型でローラー式のMKPやウェットパン、コナーミキサー、ブレード式のアイリッヒミキサー、ボルテックスミキサーなどの混練機を使用することができる。なお、これら混練機や混合機に、加圧もしくは減圧、温度制御装置(加温や冷却もしくは保温)等を設置することもできる。混合もしくは混練時間は、原料の種類、配合量、バインダーの種類、温度(室温、原料やバインダー)、混合機もしくは混練機の種類や大きさによって異なるが、通常数分から数時間の範囲内である。
【0026】
次に、得られた混練物を成形機によって成形することができる。成形機としては、例えば、衝撃圧プレスであるフリクションプレス、スクリュープレスあるいはハイドロスクリュープレスなど、静圧プレスである油圧プレスやトッグルプレスなどのほか、振動プレス、CIPと呼ばれている成形機を使用することができる。なお、これら成形機には真空脱気装置や温度制御装置(加温や冷却もしくは保温)等を設置することもできる。プレス成形機による成形圧力や締め回数は、成形されるれんがの大きさ、原料の種類、配合量、バインダーの種類、温度(室温、原料やバインダー)、成形機の種類や大きさ、によって異なるが、成形圧力は通常0.2〜3.0トンであり、締め回数は1回から数十回で成形される。
【0027】
得られた成形体の乾燥は、例えば乾燥温度が500℃未満の場合には、熱風循環式の乾燥加熱炉を使用することができ、また、乾燥温度が500〜800℃の範囲の場合には、電気加熱式、ガス加熱式、オイル加熱式などの、バッチ式単独窯、例えばシャトルキルンやカーベルキルンや、連続式のトンネル窯などが最適である。もちろん、温度が十分に調整可能で均質加熱ができる加熱炉であればどのような形式のものでも使用できる。
【実施例】
【0028】
実施例1
以下の表1に、本発明品の連続鋳造タンディッシュ用内張り耐火物を構成するアルミナ−炭化珪素質不焼成耐火物を示し、表2に比較品を示す。
【0029】
【表1】
【0030】
【表2】
【0031】
上記表において、アルミナ原料としては、褐色電融アルミナ(Al:95質量%)、焼成ばん土頁岩(Al:83質量%)、電融スピネル(Al:71質量%)およびムライト(Al:71質量%)を使用した。また、炭化珪素原料はSiC純度97質量%のものを使用した。
バインダーとしては、ケイ酸ソーダ、ケイ酸カリウムもしくはフェノール樹脂を使用し、耐火原料に対して外掛け添加した。フェノール樹脂は固定炭素が50質量%のものを用いた。また、成形後の保形性を保つため、粘土質微粉を添加した。また、バインダー以外の炭素質原料として、カーボンブラックまたは鱗状黒鉛を用いた。
【0032】
各種のアルミナ原料、炭化珪素原料、バインダー、粘土質微粉、カーボンブラック、鱗状黒鉛を表1及び2に記載する組み合わせにて配合物を作成し、プレス成形に適当な練り土になるよう適度に水分を加え混練した後、フリクションプレスを用いて成形圧力1トン/cmにて成形した。なお、混練において液体バインダーを使用した場合は、必要がなければ水分は加えなかった。また、フェノール樹脂をバインダーに使用した配合物では、水は加えていない。得られた成形体を熱処理を行って不焼成耐火物としたが、熱処理温度が250℃の場合は熱風循環式加熱炉を用いて24時間加熱した。また、熱処理温度が500℃以上の場合は、炭化珪素の酸化を抑制するため還元雰囲気下で24時間加熱した。
【0033】
耐食性および耐浸潤性について、回転ドラム法を用いて耐スラグ性を評価した:
スラグ侵食試験は、侵食剤としてタンディッシュスラグ(CaO/SiO質量比=0.9)を1時間あたり1.2kg使用し、1600℃で4時間行った。侵食剤は1時間ごとに排出し、新しいものと交換した。加熱方法はアーク加熱による。試験終了後に溶損深さを測定し、比較品1の溶損深さを100として指数表示し溶損指数とした。この溶損指数は数値が小さいほど溶損量が少なく耐スラグ溶損性に優れることを示している。耐スラグ溶損性の評価としては、溶損指数が60未満のものを○、60以上80未満のものを△、80以上のものを×とした。
メタル侵食試験は、侵食剤として鋼鉄13kgを使用し、1600℃で4時間行った。試験終了後に溶損深さを測定し、比較品1の溶損深さを100として指数表示した。この溶損指数は数値が小さいほど溶損量が少なく耐メタル溶損性に優れることを示している。耐メタル溶損性の評価としては、溶損指数が120未満のものを○、120以上150未満のものを△、150以上のものを×とした。
【0034】
耐スポーリング性の評価は、並型形状(230mm×114mm×65mm)に加工した煉瓦サンプルを使用し、「電気炉にて加熱1500℃、45分間―自然冷却15分間」を1サイクルとして8サイクル繰り返して発生した亀裂の本数を測定した。比較品1の亀裂発生本数を100として指数表示し、亀裂指数とした。この亀裂指数は小さいほど亀裂の発生が少なく耐スポーリング性に優れることを示している。評価としては亀裂指数が70未満のものを○、70以上100未満のものを△、100以上のものを×とした。
【0035】
耐酸化性は、試験片として40mm角の立方体試料を作成し、酸化雰囲気条件下で1200℃、3時間熱処理した際に表面に形成される酸化層厚みで評価した。本発明品2の酸化層厚みを100として指数表示し、120未満のものを○、120以上150未満のものを△、150以上のものを×とした。
【0036】
総合評価は、前述スラグ耐食性、耐スポーリング性、メタル耐食性、耐酸化性の各評価のうち、すべてが○であるものを総合評価○、一つでも×があるものを総合評価×、それ以外を総合評価△とし、総合評価が○ないし△であるものについて基準を満たしたと判断した。
【0037】
本発明品は、何れも比較品1の高アルミナ質不焼成耐火物よりも耐食性が顕著に向上した。一方、比較品2は炭化珪素原料を90質量%含有する不焼成耐火物であり、メタル耐食性が著しく低下して好ましいものではなかった。比較品3は、成形後、900℃で熱処理を行った焼成耐火物であり、耐スポーリング性が低下して好ましいものではなかった。比較品4はフェノール樹脂を外掛けで4質量%配合し、従って、耐火原料100質量%に対する固定炭素量が2質量%の不焼成耐火物であり、耐酸化性が低下して好ましいものではなかった。比較品5及び6は、カーボンブラックまたは鱗状黒鉛を外掛けで2質量%添加し、フェノール樹脂の固定炭素量との合計量が耐火原料100質量%に対して外掛け3質量%の不焼成耐火物であり、耐酸化性が著しく低下して好ましいものではなかった。
【0038】
実施例2
表1の本発明品2、および表2の比較品1及び2の不焼成耐火物を内張り材として用いた連続鋳造用タンディッシュについて実稼働試験を行った。試験は各不焼成耐火物を適用した連続鋳造用タンディッシュの使用可能チャージ数、及び使用後の状況を比較することで行った。なお、稼働に際しては各不焼成耐火物の表面にマグネシア質コーティング材を吹き付け施工したうえで供した。
比較品1の不焼成耐火物を内張り材として適用した連続鋳造用タンディッシュは、スラグによる溶損の影響が大きく、平均寿命は50チャージであった。
比較品2の不焼成耐火物を内張り材として適用した連続鋳造用タンディッシュは、スラグ浸潤による変質層の生成はみられたものの、比較品1と比較してスラグライン部での溶損は軽微であった。しかし、鋼浴部での侵食が大きく、平均寿命は60チャージであった。
本発明品2の不焼成耐火物を内張り材として適用した連続鋳造用タンディッシュは、スラグライン部での溶損も軽微であり、平均寿命も大きく改善して90チャージであった。