【実施例】
【0053】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、触媒中の白金担持量は以下の方法により測定した。
【0054】
<白金含有量の測定>
触媒粉末0.2gを王水([HNO
3]:[HCl]=1:3(体積比))中に添加して分解した後、この分解液に硫酸水溶液を添加して触媒を完全に溶解した。得られた溶解液について、ICP(Inductively Coupled Plasma)分析装置((株)リガク製「CIROS 120EOP」)を用いてICP分析を行なった。すなわち、溶解液をアルゴンプラズマ中に導入し、白金の発光スペクトル強度(測定波長:214.423nm)を測定し、予め作成した検量線を用いて溶解液中の白金濃度を求め、この白金濃度から触媒中の白金の含有量を算出した。
【0055】
(調製例)
K
2PtCl
4(Aldrich社製)445mg及びK
2PtCl
6(Aldrich社製)522mgをフラスコに入れ、イオン交換水40mlを加えて溶解させた。得られた溶液に
tBu−NH
2CO(東京化成(株)製)6.3gを加えた後、オイルバスの温度を約90℃に保ち、終夜撹拌した。反応物から不純物を取り除く工程としては、先ず、過剰に加えた
tBu−NH
2COを取り除くために熱水で洗浄した。次に、アセトンで抽出を行い、再結晶を行って、下記式:
Pt
2(
tBu−NHCO)
4Cl
2
で表される白金二核錯体を得た。
【0056】
(参考例)
調製例で得られた白金二核錯体を下記濃度となるように下記有機溶媒(いずれも和光純薬工業(株)製)に溶解し、試料溶液(1)〜(6)を調製した。
<試料溶液>
(1)0.3mg/100μL−アセトニトリル
(2)0.3mg/100μL−アセトン
(3)0.3mg/100μL−酢酸エチル
(4)0.3mg/100μL−メタノール
(5)0.4mg/100μL−THF(テトラヒドロフラン)
(6)0.4mg/100μL−トルエン。
【0057】
また、2−[(2E)−3−(4−tert−ブチルフェニル)−2−メチル−2−プロペニリデン]マロノニトリル(DCTB、Aldrich社製)を下記濃度となるように下記有機溶媒(いずれも和光純薬工業(株)製)に溶解し、マトリックス溶液(1)〜(6)を調製した。
<マトリックス溶液>
(1)0.9mg/100μL−アセトニトリル
(2)0.9mg/100μL−アセトン
(3)1.1mg/100μL−酢酸エチル
(4)1.0mg/100μL−メタノール
(5)1.1mg/100μL−THF(テトラヒドロフラン)
(6)1.0mg/100μL−トルエン。
【0058】
次に、前記試料溶液(1)〜(6)1μlと前記マトリックス溶液(1)〜(6)10μlとをそれぞれ混合し、得られた混合溶液(1)〜(6)について、質量分析装置(Bruker Daltonics社製「Autoflex」)を用い、レーザー波長:337nm(窒素ガスレーザー)、加速電圧:19kVの条件でマトリックス支援レーザー脱離イオン化法による質量分析(MALDI−MS分析)を行なった。その結果を
図1〜
図4に示す。なお、
図2は
図1中の(6)トルエンのマススペクトルの拡大図であり、
図3は
図2中の質量電荷比(m/z)=790付近のマススペクトルの拡大図であり、
図4は
図2中の質量電荷比(m/z)=825付近のマススペクトルの拡大図である。
【0059】
また、用いた白金二核錯体の溶液中での予想される構造と計算精密質量(Exact mass)は、以下の通り:
<目的物(M)>
Pt
2Cl
2(NHCOC
4H
9)
4 Exact mass:860.17
<目的物[M−Cl]
+>
Pt
2Cl(NHCOC
4H
9)
4 Exact mass:825.20
<目的物[M−2Cl]
2+>
Pt
2(NHCOC
4H
9)
4 Exact mass:790.23
であり、
図5には目的物[M−2Cl]
2+の理論上のマススペクトル(計算値)を、
図6には目的物[M−Cl]
+の理論上のマススペクトル(計算値)をそれぞれ示す。
【0060】
図1〜
図4に示した前記試料溶液のMSパターンが
図5〜
図6に示した白金2原子から構成される分子の理論上の同位体MSパターンに類似していることから、前記試料溶液中において白金2原子は互いに結合していると考えられる。すなわち、前記白金二核錯体は、前記試料溶液中でイオンに分解されることなく、下記式(3−1)〜(3−3)で表される状態で存在していることが確認された。従って、前記白金二核錯体を有機溶媒に溶解させた溶液を用いることによって、Pt−Pt結合を保持したまま、白金を担体に担持させることが可能であると考えられる。
【0061】
【化3】
【0062】
(実施例1)
調製例で得られた白金二核錯体442mgをトルエン(和光純薬工業(株)製)2Lに大気中で溶解させた。得られた溶液にγ−アルミナ(デグッサ(株)製、比表面積:100m
2/g、凝集体平均粒子径(平均二次粒子径):>100nm、平均一次粒子径:約10nm)20gを添加し、ホットスターラーを用いて30℃で100時間撹拌して前記白金二核錯体をγ−アルミナに吸着担持させた。その後、固形分をろ過により回収し、大気中で85℃で12時間乾燥し、次いで大気中で室温から300℃まで1時間で昇温させ、その温度に1時間保持して焼成し、γ−アルミナに白金が担持された触媒粉末を得た。この触媒粉末について、前記方法に従ってICP分析を行なったところ、白金含有量は表1に示すように0.95質量%であった。
【0063】
【表1】
【0064】
<球面収差補正装置付走査透過型電子顕微鏡による観察>
実施例1で得られた乾燥後の触媒粉末と焼成後の触媒粉末をそれぞれ、球面収差補正装置付走査透過型電子顕微鏡(Cs−STEM、日本電子(株)製「JEM−2100F」)を用い、以下の条件で観察した。
〔観察条件〕
加速電圧 :200kV
格子分解能(格子像):0.1nm
点分解能(粒子像) :0.19nm
STEM分解能 :0.2nm
倍率 :〜150000000(適宜倍率を変更して測定)
電子銃 :熱陰極電界放出形
X線検出立体角 :0.24sr(単位srはステラジアンを示す。球の半径の平方に等しい面積の球面上の部分の中心に対する立体角)。
【0065】
図7には実施例1で得られた乾燥後の触媒粉末のSTEM写真を、
図8には実施例1で得られた焼成後の触媒粉末のSTEM写真をそれぞれ示す。
図7及び
図8に示した結果から、前記白金二核錯体の配位子を焼成処理により熱分解して除去した場合であっても、大部分の白金原子は凝集したり、飛散したりせず、2原子クラスターとして分散した状態となっていることが確認された。
【0066】
<耐久試験>
実施例1で得られた触媒粉末2.0gを冷間静水圧法(CIP:1000kg/cm
2)で1分間成形した後、直径0.3〜0.71mmに粉砕してペレット状の触媒を調製した。次に、このペレット触媒をるつぼに入れ、大気雰囲気の条件下、室温から各設定焼成温度(400℃、500℃、600℃、700℃、800℃、900℃、1000℃)まで1時間で昇温させた後、各設定焼成温度に1時間保持し、その後室温まで自然冷却して各設定焼成温度における耐久試験を行なった。
【0067】
<耐久試験後の触媒のCs−STEMによる観察>
設定焼成温度700℃で前記耐久試験後のペレット触媒をCs−STEMを用いて上記条件で観察した。
図9は、実施例1で得られた触媒の前記耐久試験後の状態を示すSTEM写真である。
図9に示した結果から明らかなように、実施例1で得られた本発明の触媒に前記耐久試験を施しても、大部分の白金原子は2原子クラスターとして分散した状態となっており、白金粒子(2原子クラスター)の凝集が起こりにくいことが確認された。
【0068】
<耐久試験後の白金分散度の測定>
前記各設定焼成温度における耐久試験後のペレット触媒を、0.05g、0.10g、0.15gの3水準で秤量し、全自動触媒ガス吸着量測定装置(大倉理研(株)製「R6015」)の計量管の内部にそれぞれ設置した。その後、各計量管の内部をO
2(100容量%)のガス雰囲気にして400℃まで40分で昇温した後、15分間保持した。次に、前記計量管それぞれの内部のガス雰囲気をHe(100容量%)のガス雰囲気に変更し、400℃で40分間保持した。その後、前記計量管それぞれの内部のガス雰囲気をH
2(100容量%)のガス雰囲気に変更して400℃で15分間保持し、次いで、ガス雰囲気をHe(100容量%)のガス雰囲気に変更して400℃で15分間保持した後、He(100容量%)のガス雰囲気を保ったまま、50℃まで自然冷却した。その後、He(100容量%)のガス雰囲気下において、温度を50℃に維持したまま、各水準量の触媒それぞれに対して、1.0μmol/pulseのCOを吸着が飽和するまでパルスした。このパルスしたCOのうち、触媒に吸着されなかったCOの量を、熱伝導検出器(TCD)を用いて検出し、パルス回数と吸着が飽和した時のTCD面積から、各水準量の触媒へのCO吸着量をそれぞれ測定した。このようにして求めた3水準量の触媒へのCO吸着量を平均して「CO吸着量」を算出した。
【0069】
このようにして得られたCO吸着量と、ICP分析により測定した白金担持量とから、下記式:
[白金分散度(%)]=([CO吸着量(mol)]/[白金担持量(mol)])×100
を用いて、白金の分散度を算出した。その結果を表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
表2に示した結果から明らかなように、実施例1で得られた本発明の触媒は、前記耐久試験後の白金分散度が高いものであり、設定焼成温度700℃で前記耐久試験を行なった後であっても、6.9%という高水準の白金分散度が維持されていた。この結果から、本発明の触媒は、高温に曝されても白金粒子の凝集が起こりにくく、高い白金分散度が維持されることが確認された。
【0072】
<触媒活性評価>
前記各設定焼成温度における耐久試験後のペレット触媒0.5gを常圧固定床流通式触媒評価装置((株)ベスト測器製)に設置し、CO(0.1000容量%)、CO
2(10.000容量%)、O
2(10.000容量%)、NO(0.0100容量%)、C
3H
6(0.0500容量%C1)、H
2O(10.000容量%)、N
2(残り)からなるストイキガスを、温度400℃、流量7L/minの条件で10分間供給した。次に、触媒入りガス温度が100℃となるように調整した後、触媒入りガス温度を15℃/minで700℃まで昇温しながら前記ストイキガスを7L/minの流量で供給し、100℃〜700℃の間の各ガス温度において、触媒入りガス中及び触媒出ガス中の一酸化炭素(CO)及びプロピレン(C
3H
6)の濃度を測定してCO及びC
3H
6の転化率を求めた。これらの転化率を触媒入りガス温度に対してプロットして転化率曲線を作成した。得られた転化率曲線から、CO及びC
3H
6の転化率が50%に到達する温度(以下、「50%浄化温度(℃)」という。)を求めた。
図10にCOについての50%浄化温度を、
図11にC
3H
6についての50%浄化温度を示す。
【0073】
図10及び
図11に示した結果から明らかなように、実施例1で得られた本発明の触媒は、一酸化炭素(CO)及びプロピレン(C
3H
6)のいずれの50%浄化温度も低く、前記各設定焼成温度における耐久試験後であっても優れた触媒活性を有するものであることが確認された。
【0074】
(比較例1)
硝酸白金(Pt(NO
3)
3)水溶液(田中貴金属工業(株)製、Pt含有量:8.5質量%)4401mgをイオン交換水2Lに大気中で溶解させた。得られた水溶液に前記γ−アルミナ10gを添加し、ホットスターラーを用いて30℃で100時間撹拌したが、硝酸白金がγ−アルミナに吸着担持されなかったため、得られた分散液を大気中で100℃で蒸発乾固させた。得られた固形分を大気中で室温から300℃まで1時間で昇温させ、その温度に1時間保持して焼成し、γ−アルミナに白金が担持された触媒粉末を得た。この触媒粉末について、前記方法に従ってICP分析を行なったところ、白金含有量は表1に示すように1.0質量%であった。
【0075】
比較例1で得られた乾燥後の触媒粉末について、実施例1と同様にCs−STEMによる観察を行った。
図12に比較例1で得られた乾燥後の触媒粉末のSTEM写真を示す。
図12に示した結果から、白金の塩を用いて白金を担持させた場合には、白金が凝集した状態で担持されており、担体上に白金2原子クラスターは観察されなかった。
【0076】
また、比較例1で得られた触媒粉末を用いて、実施例1と同様に設定焼成温度700℃で前記耐久試験を行ったペレット触媒について、実施例1と同様に耐久試験後のCs−STEMによる観察を行った。
図13は、比較例1で得られた触媒の前記耐久試験後の状態を示すSTEM写真である。
図13に示した結果から、白金の塩を用いて白金を担持させた場合には、前記耐久試験後も白金が凝集した状態で担持されており、高温下で白金粒子が凝集して粗大化することが確認された。
【0077】
さらに、比較例1で得られた触媒粉末を用いて、実施例1と同様に前記各設定焼成温度における耐久試験を行ったペレット触媒について、実施例1と同様に触媒活性を評価した。得られた結果を
図10(COについての50%浄化温度)及び
図11(C
3H
6についての50%浄化温度)に示す。
【0078】
図10及び
図11に示した結果から明らかなように、白金の塩を用いて白金を担持させて得られた比較例1の触媒は、一酸化炭素(CO)及びプロピレン(C
3H
6)のいずれの50%浄化温度も高く、触媒活性が劣るものであることが確認された。
【0079】
(
比較例2)
トルエンの代わりにアセトニトリル(和光純薬工業(株)製)2Lを用いた以外は実施例1と同様にして触媒粉末を調製した。この触媒粉末について、実施例1と同様にしてICP分析を行い、白金含有量を求めた。その結果を表1に示す。
【0080】
(
比較例3)
トルエンの代わりにアセトン(和光純薬工業(株)製)2Lを用いた以外は実施例1と同様にして触媒粉末を調製した。この触媒粉末について、実施例1と同様にしてICP分析を行い、白金含有量を求めた。その結果を表1に示す。また、
比較例3で得られた乾燥後の触媒粉末と焼成後の触媒粉末について、実施例1と同様にCs−STEMによる観察を行った。
図14には
比較例3で得られた乾燥後の触媒粉末のSTEM写真を、
図15には
比較例3で得られた焼成後の触媒粉末のSTEM写真をそれぞれ示す。
図14及び
図15に示した結果から、前記白金二核錯体の配位子を焼成処理により熱分解して除去した場合であっても、大部分の白金原子は凝集したり、飛散したりせず、2原子クラスターとして分散した状態となっていることが確認された。
【0081】
(
比較例4)
トルエンの代わりに酢酸エチル(和光純薬工業(株)製)2Lを用いた以外は実施例1と同様にして触媒粉末を調製した。この触媒粉末について、実施例1と同様にしてICP分析を行い、白金含有量を求めた。その結果を表1に示す。
【0082】
(
比較例5)
トルエンの代わりにメタノール(和光純薬工業(株)製)2Lを用いた以外は実施例1と同様にして触媒粉末を調製した。この触媒粉末について、実施例1と同様にしてICP分析を行い、白金含有量を求めた。その結果を表1に示す。
【0083】
(
比較例6)
トルエンの代わりにテトラヒドロフラン(和光純薬工業(株)製)2Lを用いた以外は実施例1と同様にして触媒粉末を調製した。この触媒粉末について、実施例1と同様にしてICP分析を行い、白金含有量を求めた。その結果を表1に示す。また、
比較例6で得られた乾燥後の触媒粉末と焼成後の触媒粉末について、実施例1と同様にCs−STEMによる観察を行った。
図16には
比較例6で得られた乾燥後の触媒粉末のSTEM写真を、
図17には
比較例6で得られた焼成後の触媒粉末のSTEM写真をそれぞれ示す。
図16及び
図17に示した結果から、前記白金二核錯体の配位子を焼成処理により熱分解して除去した場合であっても、大部分の白金原子は凝集したり、飛散したりせず、2原子クラスターとして分散した状態となっていることが確認された。
【0084】
以上の結果から、Pt−Pt結合を有し且つ担体と結合可能な配位不飽和サイトを有する白金二核錯体を用いて得た本発明の触媒においては、白金が2原子クラスターとして担体に担持されており、高温に長時間曝された場合であっても、白金粒子が粗大化しにくく、高い触媒活性を有することが確認された。また、中でも有機溶媒としてトルエンを用いた場合(実施例1)に、ICPによる白金担持量とSTEM像による白金の分散状態との両者が高水準となり、白金二核錯体の使用量を低減しても高い触媒活性を維持することが可能となることが確認された。