特許第6315306号(P6315306)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6315306
(24)【登録日】2018年4月6日
(45)【発行日】2018年4月25日
(54)【発明の名称】排ガス浄化用触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 37/02 20060101AFI20180416BHJP
   B01J 23/42 20060101ALI20180416BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20180416BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20180416BHJP
【FI】
   B01J37/02 101C
   B01J23/42 AZAB
   B01D53/94 245
   B01D53/94 280
   F01N3/10 A
【請求項の数】3
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2013-269856(P2013-269856)
(22)【出願日】2013年12月26日
(65)【公開番号】特開2015-123412(P2015-123412A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2016年11月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大村 哲賜
(72)【発明者】
【氏名】須田 明彦
(72)【発明者】
【氏名】秋元 裕介
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−214394(JP,A)
【文献】 特開昭51−094490(JP,A)
【文献】 特開2010−005531(JP,A)
【文献】 特開2007−229642(JP,A)
【文献】 A.Dolmella. et al.,Structural Characterization of the `lantern-shaped`platinum(III)complex[Pt2Cl2{N(H)C(But)O}4],Polyhedron,2002年,vol.21,pp275-280
【文献】 社団法人日本化学会編,化学便覧 基礎編II,丸善株式会社,1966年 9月25日,p.1009
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
B01D 53/86−53/90,53/94−53/96
F01N 3/10
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Pt−Pt結合を有し且つ担体と結合可能な配位不飽和サイトを有する白金二核錯体をトルエンに溶解させる溶解工程と、
前記溶解工程で得られた溶液と担体とを接触させて前記担体に前記白金二核錯体を吸着担持させる担持工程と、
前記白金二核錯体が吸着担持された担体に熱処理を施して前記白金二核錯体中の配位子を除去し、前記担体に白金2原子クラスターが担持された触媒を得る熱処理工程と、
を含むことを特徴とする排ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項2】
前記白金二核錯体が、白金原子に配位している窒素原子を含む配位子を有するものであることを特徴とする請求項1に記載の排ガス浄化用触媒の製造方法。
【請求項3】
前記配位子が、アミド基を有するものであることを特徴とする請求項2に記載の排ガス浄化用触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白金が担持された排ガス浄化用触媒の製造方法、並びにその方法により製造された排ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車等の内燃機関から排出されるガス中に含まれる一酸化炭素(CO)、炭化水素(HC)、窒素酸化物(NOx)等の成分を浄化するために様々な触媒が用いられてきた。このような排ガス浄化用触媒としては、例えば、γ−アルミナ等からなる担体に白金(Pt)やロジウム(Rh)等の貴金属を担持させた触媒が知られている。また、このような排ガス浄化用触媒の製造方法としては、貴金属の塩を含有する溶液と担体とを接触させた後、焼成し、担体に貴金属を担持する方法等が知られている(例えば、特開平5−285385号公報(特許文献1))。しかしながら、このような方法により製造された排ガス浄化用触媒の活性は、必ずしも十分なものではなく、高活性の触媒を得るために、様々な排ガス浄化用触媒の製造方法が提案されている。
【0003】
例えば、特開2006−55807号公報(特許文献2)には、複数の有機多座配位子と複数の貴金属原子からなる多核錯体を酸化物担体上に析出させ、次いで有機多座配位子を除去することにより、貴金属クラスター担持触媒を製造する方法が開示されている。また、特開2009−226295号公報(特許文献3)には、金属酸化物の表面の酸素原子と結合し得る官能基と貴金属原子に配位し得る原子とを含有する有機基を金属酸化物の表面上に導入した後、前記有機基と貴金属原子との錯体を形成することによって、前記有機基を介して貴金属原子を金属酸化物担体に担持させる触媒材料の製造方法が開示されている。
【0004】
さらに、特開2009−255064号公報(特許文献4)、特開2011−83765号公報(特許文献5)及び特開2010−5529号公報(特許文献6)には、カルボン酸ロジウム二核錯体又はカルボン酸ルテニウム二核錯体を担体に担持させた後、焼成することにより、担体上にロジウム又はルテニウムの2原子クラスターを担持させる排ガス浄化用触媒の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−285385号公報
【特許文献2】特開2006−55807号公報
【特許文献3】特開2009−226295号公報
【特許文献4】特開2009−255064号公報
【特許文献5】特開2011−83765号公報
【特許文献6】特開2010−5529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2に記載の方法で製造された貴金属クラスター担持触媒においては、貴金属原子が凝集して貴金属クラスターが粗大化するため、触媒活性は必ずしも十分なものではなかった。また、特許文献3に記載の方法により製造された触媒材料に熱処理等を施して触媒材料中の有機基を除去した場合も、貴金属原子が凝集して貴金属粒子が粗大化するため、触媒活性は必ずしも十分なものではなかった。さらに、特許文献5の実施例7又は実施例8に記載の方法に従ってカルボン酸白金二核錯体を調製することが困難であったため、カルボン酸二核錯体を用いて担体に白金2原子クラスターを担持させることは困難であった。
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、白金が原子状態で担持され且つ熱処理を施しても粗大化しにくく、高い触媒活性を有する排ガス浄化用触媒を製造することが可能な方法、並びにその方法により製造された排ガス浄化用触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、白金を担体に担持させる際に、Pt−Pt結合を有し且つ担体と結合可能な配位不飽和サイトを有する白金二核錯体を用いることによって、担体に白金の2原子クラスターを担持させることができ、しかも、このような白金2原子クラスターは熱処理を施しても安定に存在し、粗大な白金粒子が形成されにくいことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の排ガス浄化用触媒の製造方法は、
Pt−Pt結合を有し且つ担体と結合可能な配位不飽和サイトを有する白金二核錯体をトルエンに溶解させる溶解工程と、
前記溶解工程で得られた溶液と担体とを接触させて前記担体に前記白金二核錯体を吸着担持させる担持工程と、
前記白金二核錯体が吸着担持された担体に熱処理を施して前記白金二核錯体中の配位子を除去し、前記担体に白金2原子クラスターが担持された触媒を得る熱処理工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0010】
本発明の排ガス浄化用触媒の製造方法においては、前記白金二核錯体が白金原子に配位している窒素原子を含む配位子を有するものであることが好ましく、前記配位子がアミド基を有するものであることがより好ましい。
【0013】
なお、本発明の製造方法により得られる排ガス浄化用触媒において、粗大な白金粒子が形成されにくい理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、白金塩化物等の白金の塩を用いて白金を担体に担持する従来の触媒の製造方法においては、白金の塩が担体と静電的な弱い結合を形成するものであるため、担体に担持した後に焼成(還元)処理を施すと、担体から白金塩が離れやすく、また、白金塩同士の立体障害が小さいため、担持された白金原子の間隔が狭くなり、白金原子の凝集を十分に抑制することができなかった。このため、従来の触媒の製造方法においては、白金粒子が凝集により粒成長して粗大化し、十分な触媒活性が得られなかったと推察される。
【0014】
また、白金の単核錯体を用いて白金を担体に担持する場合においては、白金の単核錯体を担体に担持させた後、熱処理等を施して錯体から配位子を除去することによって、白金が単原子の状態で担持される。しかしながら、単原子の状態で担持された白金は、加熱されると飛散しやすく、飛散した白金原子は他の白金原子と凝集しやすい。このため、配位子を除去する際の熱処理によって、単原子の状態で担持された白金は、凝集により粒成長し、粗大化すると推察される。また、白金が単原子の状態で担持されている触媒が高温に長時間曝された場合にも、白金は、凝集により粒成長して粗大化すると推察される。
【0015】
これに対して、本発明の排ガス浄化用触媒の製造方法においては、Pt−Pt結合を有し且つ担体と結合可能な配位不飽和サイトを有する白金の二核錯体を担体に担持させた後、熱処理等を施して錯体から配位子を除去することによって、白金は、前記二核錯体の核の形態(状態)を維持したまま、すなわち、2原子クラスターとして、担持される。このような白金2原子クラスターは、白金単原子に比べて質量が2倍であるため、加熱による飛散が起こりにくく、配位子を除去するための熱処理時の凝集が十分に抑制され、本発明の排ガス浄化用触媒は高い触媒活性を示すと推察される。また、本発明の排ガス浄化用触媒が高温に長時間曝された場合にも、白金2原子クラスターが飛散しにくいため、凝集による粒成長が抑制され、粗大な白金粒子が形成されにくいと推察される。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、白金が2原子クラスターとして担体に担持されており、高温に長時間曝された場合であっても、白金粒子が粗大化しにくく、高い触媒活性を有する排ガス浄化用触媒を製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例で使用した白金二核錯体の各種有機溶媒中のマススペクトル(MALDI−MS)を示すグラフである。
図2】実施例で使用した白金二核錯体のトルエン中のマススペクトル(MALDI−MS)を示すグラフである。
図3図2に示すマススペクトルの質量電荷比(m/z)=790付近の拡大図である。
図4図2に示すマススペクトルの質量電荷比(m/z)=825付近の拡大図である。
図5】Pt(NHCOCの理論上のマススペクトル(計算値)を示すグラフである。
図6】PtCl(NHCOCの理論上のマススペクトル(計算値)を示すグラフである。
図7】実施例1で得られた乾燥後の触媒粉末の走査透過型電子顕微鏡(STEM)写真である。
図8】実施例1で得られた焼成後の触媒粉末の走査透過型電子顕微鏡(STEM)写真である。
図9】実施例1で得られた触媒の耐久試験後の状態を示す走査透過型電子顕微鏡(STEM)写真である。
図10】実施例1及び比較例1で得られた触媒のCOについての50%転化温度を示すグラフである。
図11】実施例1及び比較例1で得られた触媒のCについての50%転化温度を示すグラフである。
図12】比較例1で得られた乾燥後の触媒粉末の走査透過型電子顕微鏡(STEM)写真である。
図13】比較例1で得られた触媒の耐久試験後の状態を示す走査透過型電子顕微鏡(STEM)写真である。
図14比較例3で得られた乾燥後の触媒粉末の走査透過型電子顕微鏡(STEM)写真である。
図15比較例3で得られた焼成後の触媒粉末の走査透過型電子顕微鏡(STEM)写真である。
図16比較例6で得られた乾燥後の触媒粉末の走査透過型電子顕微鏡(STEM)写真である。
図17比較例6で得られた焼成後の触媒粉末の走査透過型電子顕微鏡(STEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0019】
先ず、本発明の排ガス浄化用触媒の製造方法について説明する。本発明の排ガス浄化用触媒の製造方法は、
Pt−Pt結合を有し且つ担体と結合可能な配位不飽和サイトを有する白金二核錯体を有機溶媒に溶解させる溶解工程と、
前記溶解工程で得られた溶液と担体とを接触させて前記担体に前記白金二核錯体を吸着担持させる担持工程と、
前記白金二核錯体が吸着担持された担体に熱処理を施して前記白金二核錯体中の配位子を除去し、前記担体に白金2原子クラスターが担持された触媒を得る熱処理工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0020】
本発明に用いられる白金二核錯体は、Pt−Pt結合を有し且つ担体と結合可能な配位不飽和サイトを有するものである。Pt−Pt結合を有し且つ担体と結合可能な配位不飽和サイトを有する錯体を用いることによって、本発明にかかる白金2原子クラスターを担体により確実に担持させることが可能となり、そのため配位子を除去するための熱処理時の白金2原子クラスターの凝集が十分に抑制され、さらに高温に長時間曝された場合にも白金2原子クラスターの凝集による粒成長が抑制されるようになる。
【0021】
本発明の排ガス浄化用触媒の製造方法においては、前記白金二核錯体が白金原子に配位している窒素原子を含む配位子を有するものであることが好ましく、前記配位子がアミド基を有するものであることがより好ましい。このような窒素原子を含む配位子(以下、「含窒素配位子」という)を用いることによって、白金二核錯体は、有機溶媒中で、イオンに分解されず、含窒素配位子が白金原子に配位した状態を保持して安定に存在する傾向にある。その結果、白金二核錯体をそのままの状態で担体により確実に吸着担持させることができる傾向にあり、その後、配位子を除去することによって、白金を2原子クラスターとして担体により確実に担持させることが可能となる傾向にある。
【0022】
このような白金二核錯体としては、例えば、下記式(1−1)〜(1−3):
【0023】
【化1】
【0024】
(前記式(1−1)〜(1−3)中、Lは含窒素配位子を表し、Xはカウンターアニオンを表す。)
で表されるものが挙げられる。後述する有機溶媒中においては、前記式(1−1)で表される錯体の形態であっても、カウンターアニオン(X)が脱離した前記式(1−2)又は(1−3)で表される形態であってもよく、それらが混合した状態であってもよい。本発明にかかる白金二核錯体においては、前記式(1−1)で表される錯体からXが脱離した部位が、後述する担体表面の原子(例えば、酸素原子)と結合可能な配位不飽和サイトとなる。前記式(1−1)、(1−2)中のXとしては、前記式(1−1)で表される白金二核錯体が分子全体で電気的に中性となるものであれば特に制限はなく、例えば、BF、PO、OH、NO、CN、ClO、SCN、PF、F、Cl、Br、I等が挙げられ、中でも、ハロゲンイオンが好ましく、Clがより好ましい。
【0025】
本発明に用いられる白金二核錯体中の配位子としては、Pt−Pt結合を形成している白金原子に配位できるものであれば特に制限はなく、例えば、アミド基、シアノ基、ピリジル基、ピリミジル基等の窒素原子を含む官能基を備える配位子が挙げられる。中でも、Pt−Pt結合に対して二座でキレート配位し、より白金二核を安定化させるという観点から、アミド基{R−CONH−(Rは炭化水素基を表す。)}を有する配位子が好ましい。
【0026】
また、本発明に用いられる白金二核錯体中の配位子1分子中に含まれる炭素数としては1〜10(より好ましくは1〜6)が好ましい。このような配位子に含まれる炭化水素基は、飽和であっても不飽和であってもよい。また、直鎖状であっても分岐状であっても環状であってもよく、環状の炭化水素基においては置換基を有していてもよい。このような白金二核錯体は、その立体障害により、高度に分散した状態で担体に吸着担持され、その後、配位子を除去することによって、白金2原子クラスターが担体に高度に分散した状態で担持された排ガス浄化用触媒を得ることができる。特に、白金2原子クラスターは加熱による飛散が起こりにくいため、配位子を除去する際に熱処理を施しても、白金2原子クラスターが飛散しにくく、白金粒子の凝集が起こりにくい。さらに、このような排ガス浄化用触媒は、高温に長時間曝された場合であっても、白金粒子(白金2原子クラスター)の凝集が起こりにくく、高い触媒活性を維持することが可能である。
【0027】
このような白金二核錯体の中でも、下記式(2−1)〜(2−3):
【0028】
【化2】
【0029】
(前記式(2−1)〜(2−3)中、Rは炭化水素基を表し、Xはカウンターアニオンを表す。)
で表されるものが特に好ましい。後述する有機溶媒中においては、前記式(2−1)で表される錯体の形態であっても、カウンターアニオン(X)が脱離した前記式(2−2)又は(2−3)で表される形態であってもよく、それらが混合した状態であってもよい。この白金二核錯体は、配位子としてアミド基を有するものであるため、有機溶媒中で安定に存在し、白金2原子クラスターを担体により確実に担持させることができる傾向にある。また、アミド基においては窒素原子と共に酸素原子も白金に配位するため、担体に高度に分散した状態で吸着担持される傾向にある。その結果、白金二核錯体中の配位子を除去することによって、白金2原子クラスターが担体により高度に分散した状態で担持される傾向にある。特に、白金2原子クラスターは加熱による飛散が起こりにくいため、配位子を除去する際に熱処理を施しても、生成した白金2原子クラスターが飛散しにくく、白金粒子の凝集が起こりにくい傾向にある。
【0030】
前記式(2−1)〜(2−3)中のRで表される炭化水素基としては、炭素数が1〜10の炭化水素基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基等の炭素数が1〜6の炭化水素基がより好ましい。中でも、このような炭化水素基としては、白金二核錯体を形成しやすく、また、得られた白金二核錯体が有機溶媒中に安定に存在し、さらに、立体障害による効果がより確実に発揮される傾向にあるという観点から、イソブチル基、t−ブチル基が特に好ましい。
【0031】
本発明に用いられる有機溶媒としては、前記白金二核錯体を溶解することができるものであれば特に制限はなく、トルエン、アセトニトリル、アセトン、酢酸エチル、メタノール、THF(テトラヒドロフラン)、キシレン、DMF(ジメチルホルムアミド)、DMSO(ジメチルスルホキシド)、クロロホルム、ジエチルエーテル、ジクロロベンゼン等が挙げられる。なお、「前記白金二核錯体を溶解することができる」とは、有機溶媒中に前記白金二核錯体が僅かでも溶解することができればよく、室温において白金の含有率が白金の質量換算で0.00001質量%以上の錯体含有溶液を得ることができることが好ましい。また、このような有機溶媒は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0032】
また、本発明に用いられる有機溶媒としては、白金二核錯体をより効率よく担体に吸着担持できるようになるという観点から、比誘電率が10以下のものが好ましく、このような有機溶媒としては、トルエン(2.4)、酢酸エチル(6.4)、THF(7.5)、キシレン(2.3)、クロロホルム(4.8)、ジエチルエーテル(4.3)、ジクロロベンゼン(9.93)等が挙げられる(カッコ内は比誘電率)。さらに、このような有機溶媒の中でも、白金担持量が特に増大する(あるいは、白金二核錯体の使用量を特に低減する)ことができる傾向にあるという観点から、トルエンが特に好ましい。
【0033】
本発明においては、先ず、本発明にかかる溶解工程において、前記白金二核錯体を有機溶媒に溶解して錯体含有溶液を調製する。この錯体含有溶液中の白金の含有率としては特に制限はないが、白金の質量換算で、0.01〜1.0質量%が好ましい。錯体含有溶液中の白金の含有率が前記下限未満になると、担体に白金二核錯体を効率よく担持できない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、錯体及び担体の分散性がともに低下するため、担体に白金二核錯体を均一に吸着担持できない傾向にある。なお、このような錯体含有溶液の調製方法としては特に制限はなく、例えば、前記白金二核錯体を有機溶媒中に溶解することが可能な公知の方法を適宜採用することができる。
【0034】
本発明においては、次に、本発明にかかる担持工程において、前記錯体含有溶液と担体とを接触させて、担体に白金二核錯体を吸着担持させる。錯体含有溶液と担体との接触方法としては特に制限はなく、担体に白金二核錯体を吸着担持させることが可能な公知の方法を適宜採用することができ、例えば、錯体含有溶液中に担体を浸漬することによって、担体に白金二核錯体を吸着担持させることができる。
【0035】
また、錯体含有溶液中に担体を浸漬する場合においては、圧力1〜10atm、温度0〜150℃(好ましくは室温)の条件下で0.5〜100時間撹拌することが好ましい。錯体含有溶液中に担体を浸漬する際の圧力や温度が前記下限未満になると、白金二核錯体の吸着担持効率が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、余剰な撹拌を続けることにより製造コストが増加する傾向にある。
【0036】
本発明にかかる担体としては特に制限されず、排ガス浄化用の触媒に用いることが可能な公知の担体を適宜用いることができ、例えば、炭素材料又は金属酸化物等からなる担体を適宜用いることができる。このような担体に利用される炭素材料としては、例えば、活性炭、グラフェン等が挙げられる。また、金属酸化物としては、例えば、活性アルミナ、アルミナ−セリア−ジルコニア、セリア−ジルコニア、ジルコニア、ランタン安定化活性アルミナ等が挙げられ、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)及びバナジウム(V)の酸化物、これらの固溶体、並びにこれらの複合酸化物からなる群から選択される少なくとも一種が好ましい。また、このような金属酸化物の中でも、より高い触媒活性が得られるという観点から、CeO、ZrO、Y、TiO、Al、これらの固溶体、及びこれらの複合酸化物からなる群から選択される少なくとも一種を含有するものがより好ましい。
【0037】
このような担体の形状は特に制限されないが、十分な比表面積が得られるという観点から粉末状であることが好ましい。また、このような担体が粉末状の場合には、より高い触媒活性を得るという観点からは、担体の平均一次粒子径は5〜200nmであることが好ましく、5〜100nmであることがより好ましい。更に、このような担体の比表面積は特に制限されないが、より高い触媒活性を得るという観点からは、30m/g以上であることがより好ましく、50〜200m/gであることが更に好ましい。
【0038】
本発明においては、次に、本発明にかかる熱処理工程において、前記白金二核錯体が吸着担持された担体に熱処理を施して、前記白金二核錯体中の配位子を除去する。これにより、担体に白金2原子クラスターが担持された排ガス浄化用触媒を得ることができる。前記熱処理の温度としては、200〜600℃が好ましく、300〜500℃がより好ましい。また、熱処理時間としては、1〜5時間が好ましい。熱処理温度や熱処理時間が前記下限未満になると、配位子を効率よく十分に除去できない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、担体に担持された白金原子が凝集する傾向にある。
【0039】
このような本発明の排ガス浄化用触媒の製造方法によれば、原子状態の白金を、その少なくとも一部が2原子クラスターを形成した状態で担体に担持することが可能となる。このような白金は、十分且つ高度に分散した状態で担体に担持されており、本発明の排ガス浄化用触媒は高い触媒活性を示すものとなる。
【0040】
次に、本発明の排ガス浄化用触媒について説明する。本発明の排ガス浄化用触媒は、前記本発明の製造方法により得られた排ガス浄化用触媒であり、担体と該担体に原子状態で担持されている白金とを備え、前記白金の少なくとも一部が2原子クラスターを形成しているものである。
【0041】
このような2原子クラスターは、走査透過型電子顕微鏡(STEM)等によって確認することができる。本発明の排ガス浄化用触媒においては、白金が原子状態で担持されているため、白金原子の分散性が高く、触媒上には十分な量の活性点が存在し、高い触媒活性が得られる。また、本発明にかかる白金2原子クラスターは、白金単原子に比べて重いため、加熱による飛散が起こりにくく、担体上を移動しにくくなるため、粒成長しにくい。その結果、本発明の排ガス浄化用触媒は、高温に長時間曝されても、白金粒子の凝集が起こりにくく、高い触媒活性を維持することができる。
【0042】
本発明の排ガス浄化用触媒において、このような2原子クラスターを形成している2個の白金原子の中心間距離は、通常、0nm超過0.5nm以下である。白金原子の中心間距離が0.5nmを超過すると、白金原子と担体との強い相互作用によってPt−Pt結合距離が長くなることを考慮しても、2個の白金原子は、もはや2原子クラスターを形成しているとは言えない。そして、2個の白金原子が確実に2原子クラスターを形成しているという観点から、2原子クラスターを形成している2個の白金原子の中心間距離としては、0.1〜0.4nmが好ましく、0.2〜0.3nmがより好ましい。なお、本発明において、前記白金原子の中心間距離は、本発明の排ガス浄化用触媒を電子顕微鏡により観察することによって測定することができる。
【0043】
また、本発明の排ガス浄化用触媒においては、担体上の全ての白金のうちの50at%以上(より好ましくは、70at%以上、特に好ましくは80at%以上)が2原子クラスターを形成していることが好ましい。2原子クラスターを形成している白金原子の割合が前記範囲にあると、白金が十分に分散して担持された状態となるため、触媒上には十分な量の活性点が存在し、高い触媒活性が得られる。一方、2原子クラスターを形成している白金原子の割合が前記下限未満になると、十分な触媒活性が得られない傾向にある。本発明において、このような2原子クラスターを形成する白金原子の割合(at%)は、収束レンズに球面収差補正装置を備えた走査透過型電子顕微鏡(Cs−STEM)を用いて触媒を観察し、得られたSTEM像において、担体上の縦10nm×横10nmの領域を無作為に抽出し、その領域中に存在する全白金の原子数と2原子クラスターを形成している白金の原子数とをそれぞれ求め、全白金の原子数に対する2原子クラスターを形成する白金の原子数との比を算出することによって求めることができる。なお、走査透過型電子顕微鏡(STEM)としては、例えば、日本電子(株)製「JEM−2100F」を用いることができる。
【0044】
さらに、本発明の排ガス浄化用触媒においては、隣接する白金2原子クラスター間の平均距離が1.0nm以上であることが好ましく、1.5nm以上であることがより好ましい。また、このような隣接する白金2原子クラスター間の平均距離としては、1.0nm(より好ましくは1.5nm)〜3.0nmであることが更に好ましく、2.0nm〜3.0nmであることが特に好ましい。このような平均距離が前記下限未満になると、白金の分散性が低下し、十分に高度な触媒活性が得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、担体の比表面積が小さい場合には、活性点の数が減少して十分に高度な触媒活性が得られない傾向にある。本発明において、隣接する2原子クラスター間の平均距離は、前述の2原子クラスターを形成している白金原子の割合を求める方法と同様にCs−STEMを用いて触媒を観察し、得られたSTEM像において、担体上の縦10nm×横10nmの領域を無作為に抽出し、その領域中に存在する5個以上(好ましくは7個以上)の2原子クラスターについて、隣接する2原子クラスター間の距離を求め、これらを平均することによって算出することができる。なお、前記「隣接する2原子クラスター間の距離」とは、各2原子クラスターから見て、隣接する2原子クラスター間の距離が最短となる線分の長さをいう。
【0045】
また、本発明の排ガス浄化用触媒においては、白金2原子クラスターの総数のうちの50〜100%(数基準による割合)において、隣接する白金2原子クラスター間の距離が1.0nm以上(より好ましくは1.5nm以上)であることが好ましく、より高い触媒活性が得られるという観点からは、前記数基準による割合が100%であること(すなわち、全ての白金2原子クラスターにおいて、隣接する白金2原子クラスター間の距離が1.0nm以上(より好ましくは1.5nm以上)であること)が好ましい。なお、前記「2原子クラスターの総数」とは、前記STEM像中に確認される全ての2原子クラスターの数をいう。また、隣接する白金2原子クラスター間の距離が1.5nm以上である白金2原子クラスターの割合が白金2原子クラスターの総数の50%未満では、高温条件下で長時間使用した後において十分な触媒活性が得られない傾向にある。
【0046】
本発明の排ガス浄化用触媒において、白金の担持量としては特に制限されないが、0.01〜1.0質量%が好ましく、0.05〜0.5質量%がより好ましい。白金の担持量が前記下限未満になると、十分な触媒活性が得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、白金のシンタリングが起こりやすく、白金の分散度が低下して十分な触媒活性が得られない傾向にある。
【0047】
また、本発明の排ガス浄化用触媒においては、設定焼成温度700℃で下記耐久試験を行なった後、後述するCOパルス測定法により50℃で測定されるCO吸着量と白金の担持量とに基づいて、下記式:
[白金分散度(%)]=([CO吸着量(mol)]/[白金担持量(mol)])×100
により求められる白金分散度が4.5%以上であることが好ましく、5.0%以上であることがより好ましい。前記白金分散度が前記下限未満になると、十分な触媒活性が得られない傾向にある。
【0048】
なお、前記耐久試験においては、先ず、冷間静水圧法により成形した触媒を直径0.3〜0.71mmに粉砕してペレット状の触媒を調製する。次に、このペレット触媒をるつぼに入れ、大気雰囲気の条件下、室温から設定焼成温度まで1時間で昇温させた後、設定焼成温度に1時間保持し、その後室温まで自然冷却する。
【0049】
また、本発明において、CO吸着量は、以下の「COパルス測定法」により求めることができる。すなわち、前記耐久試験後のペレット触媒試料を、0.05g、0.10g、0.15gの3水準で秤量し、ガス吸着量測定装置の計量管の内部にそれぞれ設置する。各計量管の内部をO(100容量%)のガス雰囲気にして400℃まで40分で昇温した後、15分間保持する。次に、前記計量管それぞれの内部のガス雰囲気をHe(100容量%)のガス雰囲気に変更し、400℃で40分間保持する。その後、前記計量管それぞれの内部のガス雰囲気をH(100容量%)のガス雰囲気に変更して400℃で15分間保持し、次いで、ガス雰囲気をHe(100容量%)のガス雰囲気に変更して400℃で15分間保持した後、He(100容量%)のガス雰囲気を保ったまま、50℃まで自然冷却する。その後、He(100容量%)のガス雰囲気下において、温度を50℃(一定)に維持したまま、各水準量の触媒それぞれに対して、1.0μmol/pulseのCOを吸着が飽和するまでパルスする(吸着温度:50℃)。このパルスしたCOのうち、触媒に吸着されなかったCOの量を、熱伝導検出器(TCD)を用いて検出し、パルス回数と吸着が飽和した時のTCD面積から、各水準量の触媒へのCO吸着量をそれぞれ測定する。その後、このようにして求められる3水準量の触媒へのCO吸着量を平均して「CO吸着量」を算出する。なお、ガス吸着量測定装置としては、例えば、大倉理研(株)製の全自動触媒ガス吸着量測定装置「R6015」を用いることができる。
【0050】
本発明の排ガス浄化用触媒においては、設定焼成温度700℃で前記耐久試験後の白金粒子の平均粒子径が0.5〜5nmであることが好ましく、1〜2nmであることがより好ましい。前記耐久試験後の白金粒子の平均粒子径が前記下限未満になると、白金と担体との相互作用が強くなりすぎ、十分な触媒活性が得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、活性点の数が減少して十分に高度な触媒活性が得られない傾向にある。また、本発明において、白金粒子の平均粒子径は、前記Cs−STEMを用いて触媒を観察し、得られたSTEM像において、無作為に10個の白金粒子を抽出し、これらの粒子径を測定して平均することによって求めることができる。
【0051】
本発明の排ガス浄化用触媒においては、その形態は特に制限されず、例えば、前記触媒を基材に担持したハニカム形状のモノリス触媒や、ペレット形状のペレット触媒の形態等としてもよい。ここで用いられる基材も特に制限されず、パティキュレートフィルタ基材(DPF基材)、モノリス状基材、ペレット状基材、プレート状基材等を好適に採用することができる。また、このような基材の材質も特に制限されないが、コーディエライト、炭化ケイ素、ムライト等のセラミックスからなる基材や、クロム及びアルミニウムを含むステンレススチール等の金属からなる基材を好適に採用することができる。
【0052】
また、このような基材に前記触媒を担持する方法も特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。なお、このような排ガス浄化用触媒においては、本発明の効果を損なわない範囲で排ガス浄化用触媒に用いることが可能な他の成分(例えばNOx吸蔵材等)を適宜担持してもよい。
【実施例】
【0053】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、触媒中の白金担持量は以下の方法により測定した。
【0054】
<白金含有量の測定>
触媒粉末0.2gを王水([HNO]:[HCl]=1:3(体積比))中に添加して分解した後、この分解液に硫酸水溶液を添加して触媒を完全に溶解した。得られた溶解液について、ICP(Inductively Coupled Plasma)分析装置((株)リガク製「CIROS 120EOP」)を用いてICP分析を行なった。すなわち、溶解液をアルゴンプラズマ中に導入し、白金の発光スペクトル強度(測定波長:214.423nm)を測定し、予め作成した検量線を用いて溶解液中の白金濃度を求め、この白金濃度から触媒中の白金の含有量を算出した。
【0055】
(調製例)
PtCl(Aldrich社製)445mg及びKPtCl(Aldrich社製)522mgをフラスコに入れ、イオン交換水40mlを加えて溶解させた。得られた溶液にBu−NHCO(東京化成(株)製)6.3gを加えた後、オイルバスの温度を約90℃に保ち、終夜撹拌した。反応物から不純物を取り除く工程としては、先ず、過剰に加えたBu−NHCOを取り除くために熱水で洗浄した。次に、アセトンで抽出を行い、再結晶を行って、下記式:
PtBu−NHCO)Cl
で表される白金二核錯体を得た。
【0056】
(参考例)
調製例で得られた白金二核錯体を下記濃度となるように下記有機溶媒(いずれも和光純薬工業(株)製)に溶解し、試料溶液(1)〜(6)を調製した。
<試料溶液>
(1)0.3mg/100μL−アセトニトリル
(2)0.3mg/100μL−アセトン
(3)0.3mg/100μL−酢酸エチル
(4)0.3mg/100μL−メタノール
(5)0.4mg/100μL−THF(テトラヒドロフラン)
(6)0.4mg/100μL−トルエン。
【0057】
また、2−[(2E)−3−(4−tert−ブチルフェニル)−2−メチル−2−プロペニリデン]マロノニトリル(DCTB、Aldrich社製)を下記濃度となるように下記有機溶媒(いずれも和光純薬工業(株)製)に溶解し、マトリックス溶液(1)〜(6)を調製した。
<マトリックス溶液>
(1)0.9mg/100μL−アセトニトリル
(2)0.9mg/100μL−アセトン
(3)1.1mg/100μL−酢酸エチル
(4)1.0mg/100μL−メタノール
(5)1.1mg/100μL−THF(テトラヒドロフラン)
(6)1.0mg/100μL−トルエン。
【0058】
次に、前記試料溶液(1)〜(6)1μlと前記マトリックス溶液(1)〜(6)10μlとをそれぞれ混合し、得られた混合溶液(1)〜(6)について、質量分析装置(Bruker Daltonics社製「Autoflex」)を用い、レーザー波長:337nm(窒素ガスレーザー)、加速電圧:19kVの条件でマトリックス支援レーザー脱離イオン化法による質量分析(MALDI−MS分析)を行なった。その結果を図1図4に示す。なお、図2図1中の(6)トルエンのマススペクトルの拡大図であり、図3図2中の質量電荷比(m/z)=790付近のマススペクトルの拡大図であり、図4図2中の質量電荷比(m/z)=825付近のマススペクトルの拡大図である。
【0059】
また、用いた白金二核錯体の溶液中での予想される構造と計算精密質量(Exact mass)は、以下の通り:
<目的物(M)>
PtCl(NHCOC Exact mass:860.17
<目的物[M−Cl]
PtCl(NHCOC Exact mass:825.20
<目的物[M−2Cl]2+
Pt(NHCOC Exact mass:790.23
であり、図5には目的物[M−2Cl]2+の理論上のマススペクトル(計算値)を、図6には目的物[M−Cl]の理論上のマススペクトル(計算値)をそれぞれ示す。
【0060】
図1図4に示した前記試料溶液のMSパターンが図5図6に示した白金2原子から構成される分子の理論上の同位体MSパターンに類似していることから、前記試料溶液中において白金2原子は互いに結合していると考えられる。すなわち、前記白金二核錯体は、前記試料溶液中でイオンに分解されることなく、下記式(3−1)〜(3−3)で表される状態で存在していることが確認された。従って、前記白金二核錯体を有機溶媒に溶解させた溶液を用いることによって、Pt−Pt結合を保持したまま、白金を担体に担持させることが可能であると考えられる。
【0061】
【化3】
【0062】
(実施例1)
調製例で得られた白金二核錯体442mgをトルエン(和光純薬工業(株)製)2Lに大気中で溶解させた。得られた溶液にγ−アルミナ(デグッサ(株)製、比表面積:100m/g、凝集体平均粒子径(平均二次粒子径):>100nm、平均一次粒子径:約10nm)20gを添加し、ホットスターラーを用いて30℃で100時間撹拌して前記白金二核錯体をγ−アルミナに吸着担持させた。その後、固形分をろ過により回収し、大気中で85℃で12時間乾燥し、次いで大気中で室温から300℃まで1時間で昇温させ、その温度に1時間保持して焼成し、γ−アルミナに白金が担持された触媒粉末を得た。この触媒粉末について、前記方法に従ってICP分析を行なったところ、白金含有量は表1に示すように0.95質量%であった。
【0063】
【表1】
【0064】
<球面収差補正装置付走査透過型電子顕微鏡による観察>
実施例1で得られた乾燥後の触媒粉末と焼成後の触媒粉末をそれぞれ、球面収差補正装置付走査透過型電子顕微鏡(Cs−STEM、日本電子(株)製「JEM−2100F」)を用い、以下の条件で観察した。
〔観察条件〕
加速電圧 :200kV
格子分解能(格子像):0.1nm
点分解能(粒子像) :0.19nm
STEM分解能 :0.2nm
倍率 :〜150000000(適宜倍率を変更して測定)
電子銃 :熱陰極電界放出形
X線検出立体角 :0.24sr(単位srはステラジアンを示す。球の半径の平方に等しい面積の球面上の部分の中心に対する立体角)。
【0065】
図7には実施例1で得られた乾燥後の触媒粉末のSTEM写真を、図8には実施例1で得られた焼成後の触媒粉末のSTEM写真をそれぞれ示す。図7及び図8に示した結果から、前記白金二核錯体の配位子を焼成処理により熱分解して除去した場合であっても、大部分の白金原子は凝集したり、飛散したりせず、2原子クラスターとして分散した状態となっていることが確認された。
【0066】
<耐久試験>
実施例1で得られた触媒粉末2.0gを冷間静水圧法(CIP:1000kg/cm)で1分間成形した後、直径0.3〜0.71mmに粉砕してペレット状の触媒を調製した。次に、このペレット触媒をるつぼに入れ、大気雰囲気の条件下、室温から各設定焼成温度(400℃、500℃、600℃、700℃、800℃、900℃、1000℃)まで1時間で昇温させた後、各設定焼成温度に1時間保持し、その後室温まで自然冷却して各設定焼成温度における耐久試験を行なった。
【0067】
<耐久試験後の触媒のCs−STEMによる観察>
設定焼成温度700℃で前記耐久試験後のペレット触媒をCs−STEMを用いて上記条件で観察した。図9は、実施例1で得られた触媒の前記耐久試験後の状態を示すSTEM写真である。図9に示した結果から明らかなように、実施例1で得られた本発明の触媒に前記耐久試験を施しても、大部分の白金原子は2原子クラスターとして分散した状態となっており、白金粒子(2原子クラスター)の凝集が起こりにくいことが確認された。
【0068】
<耐久試験後の白金分散度の測定>
前記各設定焼成温度における耐久試験後のペレット触媒を、0.05g、0.10g、0.15gの3水準で秤量し、全自動触媒ガス吸着量測定装置(大倉理研(株)製「R6015」)の計量管の内部にそれぞれ設置した。その後、各計量管の内部をO(100容量%)のガス雰囲気にして400℃まで40分で昇温した後、15分間保持した。次に、前記計量管それぞれの内部のガス雰囲気をHe(100容量%)のガス雰囲気に変更し、400℃で40分間保持した。その後、前記計量管それぞれの内部のガス雰囲気をH(100容量%)のガス雰囲気に変更して400℃で15分間保持し、次いで、ガス雰囲気をHe(100容量%)のガス雰囲気に変更して400℃で15分間保持した後、He(100容量%)のガス雰囲気を保ったまま、50℃まで自然冷却した。その後、He(100容量%)のガス雰囲気下において、温度を50℃に維持したまま、各水準量の触媒それぞれに対して、1.0μmol/pulseのCOを吸着が飽和するまでパルスした。このパルスしたCOのうち、触媒に吸着されなかったCOの量を、熱伝導検出器(TCD)を用いて検出し、パルス回数と吸着が飽和した時のTCD面積から、各水準量の触媒へのCO吸着量をそれぞれ測定した。このようにして求めた3水準量の触媒へのCO吸着量を平均して「CO吸着量」を算出した。
【0069】
このようにして得られたCO吸着量と、ICP分析により測定した白金担持量とから、下記式:
[白金分散度(%)]=([CO吸着量(mol)]/[白金担持量(mol)])×100
を用いて、白金の分散度を算出した。その結果を表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
表2に示した結果から明らかなように、実施例1で得られた本発明の触媒は、前記耐久試験後の白金分散度が高いものであり、設定焼成温度700℃で前記耐久試験を行なった後であっても、6.9%という高水準の白金分散度が維持されていた。この結果から、本発明の触媒は、高温に曝されても白金粒子の凝集が起こりにくく、高い白金分散度が維持されることが確認された。
【0072】
<触媒活性評価>
前記各設定焼成温度における耐久試験後のペレット触媒0.5gを常圧固定床流通式触媒評価装置((株)ベスト測器製)に設置し、CO(0.1000容量%)、CO(10.000容量%)、O(10.000容量%)、NO(0.0100容量%)、C(0.0500容量%C1)、HO(10.000容量%)、N(残り)からなるストイキガスを、温度400℃、流量7L/minの条件で10分間供給した。次に、触媒入りガス温度が100℃となるように調整した後、触媒入りガス温度を15℃/minで700℃まで昇温しながら前記ストイキガスを7L/minの流量で供給し、100℃〜700℃の間の各ガス温度において、触媒入りガス中及び触媒出ガス中の一酸化炭素(CO)及びプロピレン(C)の濃度を測定してCO及びCの転化率を求めた。これらの転化率を触媒入りガス温度に対してプロットして転化率曲線を作成した。得られた転化率曲線から、CO及びCの転化率が50%に到達する温度(以下、「50%浄化温度(℃)」という。)を求めた。図10にCOについての50%浄化温度を、図11にCについての50%浄化温度を示す。
【0073】
図10及び図11に示した結果から明らかなように、実施例1で得られた本発明の触媒は、一酸化炭素(CO)及びプロピレン(C)のいずれの50%浄化温度も低く、前記各設定焼成温度における耐久試験後であっても優れた触媒活性を有するものであることが確認された。
【0074】
(比較例1)
硝酸白金(Pt(NO)水溶液(田中貴金属工業(株)製、Pt含有量:8.5質量%)4401mgをイオン交換水2Lに大気中で溶解させた。得られた水溶液に前記γ−アルミナ10gを添加し、ホットスターラーを用いて30℃で100時間撹拌したが、硝酸白金がγ−アルミナに吸着担持されなかったため、得られた分散液を大気中で100℃で蒸発乾固させた。得られた固形分を大気中で室温から300℃まで1時間で昇温させ、その温度に1時間保持して焼成し、γ−アルミナに白金が担持された触媒粉末を得た。この触媒粉末について、前記方法に従ってICP分析を行なったところ、白金含有量は表1に示すように1.0質量%であった。
【0075】
比較例1で得られた乾燥後の触媒粉末について、実施例1と同様にCs−STEMによる観察を行った。図12に比較例1で得られた乾燥後の触媒粉末のSTEM写真を示す。図12に示した結果から、白金の塩を用いて白金を担持させた場合には、白金が凝集した状態で担持されており、担体上に白金2原子クラスターは観察されなかった。
【0076】
また、比較例1で得られた触媒粉末を用いて、実施例1と同様に設定焼成温度700℃で前記耐久試験を行ったペレット触媒について、実施例1と同様に耐久試験後のCs−STEMによる観察を行った。図13は、比較例1で得られた触媒の前記耐久試験後の状態を示すSTEM写真である。図13に示した結果から、白金の塩を用いて白金を担持させた場合には、前記耐久試験後も白金が凝集した状態で担持されており、高温下で白金粒子が凝集して粗大化することが確認された。
【0077】
さらに、比較例1で得られた触媒粉末を用いて、実施例1と同様に前記各設定焼成温度における耐久試験を行ったペレット触媒について、実施例1と同様に触媒活性を評価した。得られた結果を図10(COについての50%浄化温度)及び図11(Cについての50%浄化温度)に示す。
【0078】
図10及び図11に示した結果から明らかなように、白金の塩を用いて白金を担持させて得られた比較例1の触媒は、一酸化炭素(CO)及びプロピレン(C)のいずれの50%浄化温度も高く、触媒活性が劣るものであることが確認された。
【0079】
比較例2
トルエンの代わりにアセトニトリル(和光純薬工業(株)製)2Lを用いた以外は実施例1と同様にして触媒粉末を調製した。この触媒粉末について、実施例1と同様にしてICP分析を行い、白金含有量を求めた。その結果を表1に示す。
【0080】
比較例3
トルエンの代わりにアセトン(和光純薬工業(株)製)2Lを用いた以外は実施例1と同様にして触媒粉末を調製した。この触媒粉末について、実施例1と同様にしてICP分析を行い、白金含有量を求めた。その結果を表1に示す。また、比較例3で得られた乾燥後の触媒粉末と焼成後の触媒粉末について、実施例1と同様にCs−STEMによる観察を行った。図14には比較例3で得られた乾燥後の触媒粉末のSTEM写真を、図15には比較例3で得られた焼成後の触媒粉末のSTEM写真をそれぞれ示す。図14及び図15に示した結果から、前記白金二核錯体の配位子を焼成処理により熱分解して除去した場合であっても、大部分の白金原子は凝集したり、飛散したりせず、2原子クラスターとして分散した状態となっていることが確認された。
【0081】
比較例4
トルエンの代わりに酢酸エチル(和光純薬工業(株)製)2Lを用いた以外は実施例1と同様にして触媒粉末を調製した。この触媒粉末について、実施例1と同様にしてICP分析を行い、白金含有量を求めた。その結果を表1に示す。
【0082】
比較例5
トルエンの代わりにメタノール(和光純薬工業(株)製)2Lを用いた以外は実施例1と同様にして触媒粉末を調製した。この触媒粉末について、実施例1と同様にしてICP分析を行い、白金含有量を求めた。その結果を表1に示す。
【0083】
比較例6
トルエンの代わりにテトラヒドロフラン(和光純薬工業(株)製)2Lを用いた以外は実施例1と同様にして触媒粉末を調製した。この触媒粉末について、実施例1と同様にしてICP分析を行い、白金含有量を求めた。その結果を表1に示す。また、比較例6で得られた乾燥後の触媒粉末と焼成後の触媒粉末について、実施例1と同様にCs−STEMによる観察を行った。図16には比較例6で得られた乾燥後の触媒粉末のSTEM写真を、図17には比較例6で得られた焼成後の触媒粉末のSTEM写真をそれぞれ示す。図16及び図17に示した結果から、前記白金二核錯体の配位子を焼成処理により熱分解して除去した場合であっても、大部分の白金原子は凝集したり、飛散したりせず、2原子クラスターとして分散した状態となっていることが確認された。
【0084】
以上の結果から、Pt−Pt結合を有し且つ担体と結合可能な配位不飽和サイトを有する白金二核錯体を用いて得た本発明の触媒においては、白金が2原子クラスターとして担体に担持されており、高温に長時間曝された場合であっても、白金粒子が粗大化しにくく、高い触媒活性を有することが確認された。また、中でも有機溶媒としてトルエンを用いた場合(実施例1)に、ICPによる白金担持量とSTEM像による白金の分散状態との両者が高水準となり、白金二核錯体の使用量を低減しても高い触媒活性を維持することが可能となることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0085】
以上説明したように、本発明によれば、原子状態の白金が、その少なくとも一部が2原子クラスターを形成した状態で担体に担持された排ガス浄化用触媒をより確実に得ることが可能となる。このような排ガス浄化用触媒は、白金が十分且つ高度に分散した状態で担体に担持されたものであるため、高い触媒活性を示す。
【0086】
したがって、本発明の排ガス浄化用触媒は、自動車からの排ガス中に含まれるCO、NO、HC等を浄化するための触媒等として有用である。
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