特許第6315691号(P6315691)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6315691
(24)【登録日】2018年4月6日
(45)【発行日】2018年4月25日
(54)【発明の名称】電界紡糸装置の評価方法
(51)【国際特許分類】
   D01D 5/04 20060101AFI20180416BHJP
【FI】
   D01D5/04
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-163221(P2014-163221)
(22)【出願日】2014年8月8日
(65)【公開番号】特開2016-37683(P2016-37683A)
(43)【公開日】2016年3月22日
【審査請求日】2017年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100112818
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 昭久
(74)【代理人】
【識別番号】100101292
【弁理士】
【氏名又は名称】松嶋 善之
(74)【代理人】
【識別番号】100107205
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 秀一
(74)【代理人】
【識別番号】100155206
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 源一
(72)【発明者】
【氏名】小玉 伸二
【審査官】 相田 元
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2009/0233057(US,A1)
【文献】 特開2010−179221(JP,A)
【文献】 特開2015−185418(JP,A)
【文献】 特開2015−052193(JP,A)
【文献】 特開2016−014202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01D 1/00−13/02
D04H 1/00−18/04
B05D 1/00− 7/26
B05B 5/00− 5/16
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルと電極とを備えた電界紡糸装置の評価方法であって、
直流電圧を印加し、前記電極と前記ノズルとの間に電界を形成した状態下に、前記ノズルに水を供給して該ノズルの先端から滴下させるとともに、滴下させた水を金属容器に捕集し、
捕集した水の電荷量を電荷量測定器で計測し、その計測値及び滴下又は捕集した水の質量から、水の単位質量当りの電荷量を算出し、
得られた水の単位質量当りの電荷量を指標として電界紡糸装置を評価する、電界紡糸装置の評価方法。
【請求項2】
前記電極と前記ノズルとの間に印加する直流電圧を絶対値で10kV以下とする、請求項1に記載の電界紡糸装置の評価方法。
【請求項3】
前記ノズルに対する水の供給速度を5.0g/min以下とする、請求項1又は2に記載の電界紡糸装置の評価方法。
【請求項4】
捕集した水の電荷量の計測を、前記金属容器内の水量が増加する過程の複数の時点で行い、複数の時点での計測値を用いて、水の単位質量当りの電荷量を算出する、請求項1〜3の何れか1項に記載の電界紡糸装置の評価方法。
【請求項5】
電界紡糸装置のノズルを交換し、異なるノズルを備えた複数の装置のそれぞれについて、前記の水の単位質量当りの電荷量を算出することにより、電界紡糸装置のノズルの性能を評価する、請求項1〜4の何れか1項に記載の電界紡糸装置の評価方法。
【請求項6】
電極を交換した複数の電界紡糸装置のそれぞれについて、前記の水の単位質量当りの電荷量を算出し、それらの結果から電界紡糸装置の電極の性能を評価する、請求項1〜4の何れか1項に記載の電界紡糸装置の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電界紡糸装置の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電界紡糸法(エレクトロスピニング法)は、機械力や熱力を使わずにナノサイズの直径のファイバ(以下、ナノファイバという)を比較的簡単に製造できる技術として注目を浴びている。これまで行われてきた電界紡糸法では、ナノファイバの原料となる物質の溶液をシリンジに充填しておき、該シリンジに取り付けられている針状のノズルと、これに対向する捕集用電極との間に直流高電圧を印加した状態下に、該ノズルの先端から溶液を吐出する操作を行う。吐出された溶液はクーロン力で延伸されるとともに溶媒が瞬時に蒸発し、原料は凝固しながらナノファイバが形成される。そしてナノファイバは捕集用電極の表面に堆積する。
【0003】
このナノファイバ製造の生産性を高めることを目的として、多数の企業や研究機関において、ナノファイバ製造の生産性を向上させるための技術開発が行われており、電界紡糸装置の電極やノズルの形状や材質等に様々な工夫が施されている。
例えば、特許文献1においては、直径の小さい金属球と、金属球とノズル開口との距離を小さくして配置した金属製の紡出ノズルと、金属球と紡出ノズル開口との経路に直交するように高速気流を噴射させる高速気流噴射ノズルとからなるユニットを複数並列に並べ、金属球と紡出ノズルとの間に高電圧を印加してナノファイバを生成し、複数のユニットから飛散するナノファイバをナノファイバ捕集部で集約して捕集するナノファイバ製造方法が開示されている。
【0004】
また特許文献2には、直径10mm〜300mmの導電性円筒の側面に多数の流出孔を設けた流出体を有するナノファイバ製造装置が開示されている。そして流出体と、該流出体に対向する面に絶縁体層を設けた電極との間に電圧を印加してナノファイバを形成し、逆極性の電位をもつ二つの捕集用電極(誘引電極)でナノファイバを誘引して被堆積部材上に収集している。0.2mm厚の薄い絶縁体層によって、電極にナノファイバが付着するのを防止できるとともに、ナノファイバの帯電状態を変化させ、二つの捕集用電極(誘引電極)を用いて効率よくナノファイバを収集できるとしている。
【0005】
しかし、電極やノズルの形状や材質等を工夫した電界紡糸装置の効果検証は、紡糸用の原料液として、高分子と溶媒を調合又は分散させた高分子溶液を用意し、実際に紡糸実験を行うことによって行われている。即ち、実際に紡糸を行うことによって得られるナノファイバ等の極細サイズの繊維で構成される不織布をサンプリングして直接、電子顕微鏡等などで観察し、それによって得られる繊維径、繊維化率、外観などを指標として行うのが一般的である。
しかし、このような従来の効果検証方法は、多くの時間や手間を要するものであった。例えば、電子顕微鏡で観察する場合、高倍率での観察になることから、視野が狭まり、同時に観察又は評価できる範囲が限定的になるため、ナノファイバで形成された不織布の全体の状態を観察又は評価するには、広く且つ多くの箇所を観察する必要があり、膨大な時間を要することとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2012−107364号公報
【特許文献2】特開2010−59557号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって本発明の課題は、電界紡糸装置の性能を簡便に評価可能な電界紡糸装置の評価方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ノズルと電極とを備えた電界紡糸装置の評価方法であって、直流電圧を印加し、前記電極と前記ノズルとの間に電界を形成した状態下に、前記ノズルに水を供給して該ノズルの先端から滴下させるとともに、滴下させた水を金属容器に捕集し、捕集した水の電荷量を電荷量測定器で計測し、その計測値及び滴下又は捕集した水の質量から、水の単位質量当りの電荷量を算出し、得られた水の単位質量当りの電荷量を指標として電界紡糸装置を評価する、電界紡糸装置の評価方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の電界紡糸装置の評価方法によれば、ナノファイバの製造等に用いられる電界紡糸装置の性能を、簡便に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の電界紡糸装置の評価方法の一実施態様で性能を評価する電界紡糸装置の一例及び本発明の一実施態様で用いる評価装置の一例を示す模式図である。
図2図2(a)は、評価対象の電界紡糸装置の一例であるナノファイバ製造装置を示す側面図であり、図2(b)は、図2(a)における正面図である。
図3図3は、図2に示すナノファイバ製造装置におけるノズルの構造の一例を示す断面図である。
図4図4は、評価対象の電界紡糸装置の別の例であるナノファイバ製造装置を示す分解斜視図である。
図5図5は、図4に示すナノファイバ製造装置の断面構造を示す模式図である。
図6図6は、本発明の評価方法で評価する対象の電界紡糸装置の前記別の例を、図1に示した評価装置の一例と共に示す模式図である。
図7図7は、水の滴下開始からの経過時間と電荷量の積算値との関係を示すグラフである。
図8図8(a)は、水の単位質量当りの電荷量の低いナノファイバ製造装置で製造されたナノファイバの走査型電子顕微鏡写真であり、図8(b)は、水の単位質量当りの電荷量が高いナノファイバ製造装置で製造されたナノファイバの走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。
図1には、本発明の電界紡糸装置の評価方法の一実施態様で性能を評価する電界紡糸装置の一例及び本発明の一実施態様で用いる評価装置の一例が示されている。
本発明の一実施態様は、図1に示すように、ノズル13と電極14とを備えた電界紡糸装置10の評価方法であり、図1に示すように、直流電圧を印加し、電極14とノズル13との間に電界Eを形成した状態下に、定量ポンプ等の定量送液装置2により、ノズル13に水を供給して該ノズルの先端から該水4を滴下させるとともに、滴下させた水4を金属容器5に捕集する。そして、捕集した水(帯電した水)の電荷量を電荷量測定器6で計測する。そして、その電荷量の計測値及び滴下又は捕集した水の質量から、水の単位質量当りの電荷量を算出する。そして、得られた水の単位質量当りの電荷量を指標として電界紡糸装置10の性能を評価する。
【0012】
本発明の評価方法の一実施態様で性能評価を行う電界紡糸装置は、例えば、図2(a)及び図2(b)に示すナノファイバ製造装置10である。これらの図に示すとおり、ナノファイバ製造装置10は、基本的にはESD(Electro−Spray Deposition)と高速噴出気流(ジェット)を組み合わせたジェットESD法を採用したものである。製造装置10は、ナノファイバ製造用の原料液を噴射する原料噴射手段11を備えている。原料噴射手段11は送液部12及びノズル13を有している。ノズル13は送液部12の先端の位置に立設されている。ノズル13は鉛直上方端が開口しており、該開口を通じて原料液の噴射が可能になっている。ノズル13は金属等の導電性材料から構成されており導電性を有している。送液部12は、定量ポンプ(図示せず)を備えており、原料液をノズル13から単位時間当たりに定められた量で噴射することが可能になっている。
【0013】
ノズル13は針状の直管から構成されている。ノズル13内には、原料液が流通可能になっている。ノズル13の内径は、例えば200μm以上3000μm以下で、好ましくは300μm以上2000μmである。ノズル13の外径は、例えば、好ましくは300μm以上4000μm以下で、好ましくは400μm以上3000μm以下である。ノズル13の内径及び外径をこの範囲内に設定することで、高分子を含有し粘性をもつ原料液を容易に、かつ定量的に送液できるとともに、ノズル周辺の狭い領域に電界が集中し、原料液を効率よく帯電させられる。
【0014】
ノズル13と離間した位置に電極14が配置されている。詳細には、電極14は、ノズル13の開口の直上の位置において、該ノズル13の開口に対面して配置されている。電極14は板状のものであり、二つの平面部と4つの側面部を有している。これら二つの平面部のうちの一方の平面部(図2中の下側の面)がノズル13に対向している。ノズル13の延びる方向と、電極14の平面部とは略直交している。電極14は、金属等から構成されており導電性を有している。ノズル13の先端と電極14との間の距離(最短距離)は、20mm以上、特に30mm以上に設定することが好ましい。これよりも狭いと、ノズル13の先端から噴射され、ファイバ状になった原料液が電極14に付着しやすくなる。ノズル13の先端と電極14との間の距離は、例えば20mm以上200mm以下に設定し、好ましくは30mm以上100mm以下に設定する。
【0015】
導電性材料からなるノズル13と電極14との間には、アース102と金属導線103を介して、電圧発生手段101によって直流電圧が印加されるようになっている。ノズル13は図2に示すとおり接地されている。これに対して電極14には負電圧が印加されている。したがって電極14が陰極になり、かつノズル13が陽極になり、電極14とノズル13との間に電圧が発生し、電界が形成される。なお、電極14とノズル13との間に電界を生じさせるためには、図2に示す電圧の印加のしかたに代えて、ノズル13に正電圧を印加するとともに、電極14を接地してもよい。尤も、ノズル13に正電圧を印加するよりも、該ノズル13を接地する方が、絶縁対策を簡便にできるので好ましい。また電圧発生手段101によって発生させる電圧は、電極14が陰極に保たれ、かつノズル13が陽極に保たれる限り、すなわちノズル13が電極14よりも高電位に保たれる限り、直流電圧に交流電圧を重畳したような変動電圧でもよい。原料液の帯電量を一定に保ち、均一な太さのナノファイバを製造するという観点からは電圧は直流電圧であることが好ましい。
【0016】
電圧発生手段101には高圧電源装置などの公知の装置を用いることができる。電極14とノズル13との間に加わる電位差は、1kV以上、特に10kV以上とすることが、原料液を十分に帯電させ得る点から好ましい。一方、この電位差は100kV以下、特に50kV以下とすることが、ノズル13と電極14との間における放電を防止する点から好ましい。例えば1kV以上100kV以下、特に10kV以上50kV以下とすることが好ましい。なお電圧発生手段101で印加した電圧が変動電圧である場合は、電極14とノズル13との間に発生する電位差の時間平均が前記範囲内とすることが好ましい。
【0017】
製造装置10は更に空気流噴射手段15を備えている。空気流噴射手段15は、一次高速空気流の噴射が可能になっている。空気流噴射手段15は、ノズル13と電極14の間に空気流を噴射することが可能な位置に配置されている。原料液から形成されたナノファイバは正に帯電しており、陽極であるノズル13から陰極である電極14に向かって伸びていこうとする。空気流噴射手段15から噴射された空気流はこのナノファイバの進行方向を転換させ、捕集手段のある方向(図2(a)の図の右方向)に搬送するとともに、ナノファイバを延伸させることに寄与する。
【0018】
空気流噴射手段15から噴射される空気流としては、例えばドライヤー等によって湿度30%RH以下に乾燥させたものを用いることができる。また空気流は、製造されるナノファイバの状態が一定に維持されるようにするために、温度が一定に保たれていることが好ましい。空気流の風速は、例えば20m/sec以上、特に25m/sec以上とすることが好ましい。これよりも遅いと、ナノファイバの進行方向を、ノズル13と電極14の間の電界に逆らって、捕集手段のある方向に転換するのが難しくなる。風速の上限は例えば60m/sec以下、特に53m/sec以下とすることが好ましい。これよりも風速が速いと、空気流でファイバが千切れる心配がある。風速は20m/sec以上60m/sec以下にすることが好ましく、特に25m/sec以上53m/sec以下であることが好ましい。
【0019】
空気流噴射手段15に加えて、製造装置10は第2空気流噴射手段16も備えている。第2空気流噴射手段16は、空気流噴射手段15からの一次高速空気流を包含するように、この一次高速空気流の速度よりは遅い空気流である二次高速空気流を広範囲に噴射するものである。一次高速空気流を包含するように二次高速空気流を大量に噴射することで、一次高速空気流の乱れを抑制することができ、ナノファイバの製造を安定に行うことが可能になる。
【0020】
製造装置10においては、空気流噴射手段15及び第2空気流噴射手段16に対向する位置に、ナノファイバを捕集する捕集手段を配置する。特に捕集手段の一部として捕集用電極(図示せず)を配置することができる。捕集用電極は、金属等の導電性材料から構成されている平板状のものとすることができる。捕集用電極の板面と、空気流の噴射方向とは略直交している。また後述するように、捕集用電極はその略全面を表面に誘電体の露出した被覆体で被覆することができ、更に好ましくは全面を被覆することができる。ここで略全面とは当該面の全表面積の90%以上の面積を占める面を意味する。全面とは、当該面の全表面積の100%を占める面を意味する。正に帯電したナノファイバを捕集用電極に誘引するために、捕集用電極には陽極であるノズル13よりも低い(負の)電位を与える。誘引を更に効率的にするため、陰極である電極14よりも低い(負の)電位を与えることが好ましい。捕集用電極(電極表面)とノズル13の先端との距離(最短距離)は、その下限値を好ましくは100mm以上、更に好ましくは500mm以上とすることができる。これよりも狭いと、捕集用電極に到達するまでにナノファイバが十分に固化できないことがある。上限値は好ましくは3000mm以下、更に好ましくは1000mm以下とすることができる。これよりも広いと、捕集用電極による電気的誘引の力が弱くなり、ナノファイバの捕集率が低下する。例えば好ましくは100mm以上3000mm以下、更に好ましくは500mm以上1000mm以下とすることができる。
【0021】
更に本実施形態の製造装置10においては、前記の捕集用電極に隣接するように、該捕集用電極とノズル13との間に、ナノファイバが捕集される捕集体(図示せず)を捕集手段として配置することもできる。捕集体としては、例えばフィルム、メッシュ、不織布、紙などの絶縁体を用いることができる。
【0022】
更に本実施形態の製造装置10においては、空気流噴射手段15及び第2空気流噴射手段16に対向するように、噴射された空気流の排気を行う空気排気手段(図示せず)を配置することもできる。空気排気手段は、上述した捕集用電極よりも背面側(ノズル13から遠い側)に配置されることが好ましい。空気排気手段としては、例えばサクションボックス等の公知の装置を用いることができる。
【0023】
図2に示すナノファイバ製造装置10においては、板状の電極14を構成する平面部のうち、ノズル13に対向する面(図中の電極14の底面)が、表面に誘電体の露出した被覆体17で被覆されている。図2の場合、被覆体17は単一種の誘電体から構成されている。ノズルと対向する面とは、ノズルの先端(原料液が噴射する開口部)から臨むことのできる電極の表面のことである。表面に誘電体の露出した被覆体17とは、該表面の略全面(90%以上の面積)が誘電体のみで構成された被覆体のことである。被覆体17は表面の全面(100%の面積)が誘電体のみで構成されていることが好ましい。被覆体は表面に誘電体が露出し、表面に金属などの導電体が非存在とした被覆体である。単一種の誘電体から構成された被覆体がその典型例であるが、被覆体は複数種の誘電体が積層された複合体であってもよいし、表面が誘電体のみで構成されていれば、内部(表面に露出しない部分)に金属の粒子又は金属や空気の層等を含んだ複合体であってもよい。特に電極と被覆体の接合部の一部に空気の層が存在していてもよいが、電極と被覆体の接合を強固にする観点からは電極と被覆体は密着している方が好ましい。なお、被覆体の表面を更に被覆するような物体は存在しない。
【0024】
図2に示す電極14は、ノズル13に対向する面のみが被覆体17で被覆されているが、これに加えて、ノズル13と対向しない面の一部も、表面に誘電体の露出した被覆体17で被覆されていることが好ましい。更に、ノズル13と対向しない面のすべてが、表面に誘電体の露出した被覆体17で被覆されていることが好ましい。ここでノズルと対向しない面とは、ノズルの先端(原料液が噴射する開口部)から臨むことのできない電極の表面のことである。より詳細には、電極の表面のうち、ノズルと対向する面を除いた面のことである。
【0025】
被覆体17に使用する誘電体としては、絶縁材料であるマイカ、アルミナ、ジルコニア、チタン酸バリウム等のセラミック材料や、ベークライト(フェノール樹脂)、ナイロン(ポリアミド)、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリ四フッ化エチレン、ポリフェニレンサルファイド等の樹脂系材料が挙げられる。これらのうち、アルミナ、ベークライト、ナイロン、塩化ビニル樹脂の中から選ばれる少なくとも1種以上の絶縁材料を用いることが好ましく、特にナイロンを用いることが好ましい。ナイロンとしては、6ナイロンや66ナイロンなどの各種のポリアミドを用いることができる。またナイロンとして市販品を用いることもできる。そのような市販品としては、例えばMCナイロン(登録商標)が挙げられる。被覆体17に用いる誘電体には帯電防止剤を含有させることができる。帯電防止剤を含有させることによって、帯電した原料液やナノファイバ等が被覆体17に付着したとき、被覆体17の帯電を低減することができる。帯電防止剤としては公知の市販品を使用することができ、例えばペレクトロン(三洋化成工業(株))、エレクトロストリッパー(花王(株))、エレクトロマスター(花王(株))、リケマール(理研ビタミン(株))、リケマスター(理研ビタミン(株))などを用いることができる。
【0026】
被覆体17は、均一な厚みで電極14を被覆していることが好ましい。被覆体17を構成する、表面に露出した誘電体の厚みは、0.8mm以上、特に8mm以上であることが好ましい。なお当該厚みは、被覆体17が単一種又は複数種の誘電体から構成されている場合、被覆体17の厚みを指す(被覆体17の厚みに等しい)ものとする。また被覆体17が内部(表面に露出しない部分)に金属の粒子又は金属や空気の層等を含んだ複合体である場合は、表面から金属又は空気までの間に存在する誘電体の厚みを指すものとする。被覆体17の厚みの上限値は、20mm以下、特に15mm以下であることが好ましい。
【0027】
製造装置においては、電極14の表面のうちの、ノズル13と対向する面の略全面に被覆体17を配置することに加えて、又はそれに代えて、ノズル13の外面の略全面を表面に誘電体の露出した被覆体によって被覆することも好ましい。詳細には、図3に示すとおり、ノズル13は、その外面が被覆体107によって被覆されている。そして被覆体107は、ノズル13の先端13aを越えて延出している。被覆体107のうち延出部分107aは、ノズル13を取り囲む筒状の形態をしており、中空部を有している。この中空部がノズル13の内部と連通している。なおノズル13の外面とは、ノズル13の表面のうち、ノズル13内を流通する原料液と接するノズル内面及び原料液の噴射されるノズル13の先端13aの面及びそれと逆側のノズル13の後端の面を除いた面のことである。被覆体107は単一種の誘電体で構成されている。ノズル13は、外面の略全面(90%以上の面積)を被覆体107で被覆することが好ましく、ノズル13の外面の全面(100%の面積)を被覆体107で被覆することがより好ましい。また被覆体107をノズル13の先端13aを越えて延出させることも好ましい。ノズル13を被覆する被覆体107を構成する誘電体としては、電極14を被覆する被覆体17を構成する誘電体と同様のものを用いることができる。該誘電体には被覆体17で使用したのと同様の帯電防止剤を含有させることができる。被覆体107の厚みも、電極14を被覆する被覆体17の厚みと同様とすることができる。
【0028】
図1に示す本発明の評価方法の一実施態様においては、前述した図2及び図3に示したナノファイバ製造装置10を、図1に示すように、ノズル13の延びる方向が略水平になるように90度回転して配置し、当該製造装置10の評価試験を行う。図1に示すように、ノズル13と電極14とを略水平方向に離間した状態として評価することが、帯電させた水が、送液部12及び電極14に近づき影響を受ける危険性が低い点から好ましい。また、図1に示すように、ノズル13の先端の位置に対して鉛直下方に金属容器5を配して、ノズル13から滴下する水4を捕集することが作業性の点から好ましい。
【0029】
本実施態様の評価方法においては、製造装置10に備わる電圧発生手段101を用いて、電極14とノズル13との間に電位差を生じさせ、それによって、電極14とノズル13との間に電界Eを形成している。そのため、性能評価のために別途、高圧電源装置を用意する必要がない。ただし、電極14とノズル13との間に印加する直流電圧は、帯電した水が飛散ないし霧散して金属容器5に捕集される水量が減ることを防止する観点から、絶対値で10kV以下とすることが好ましく、絶対値で5kV以下とすることが更に好ましい。ノズル13に供給される水量と金属容器5に回収される水量との差は、測定精度の観点から小さい程好ましい。また、電極14とノズル13との間に印加する直流電圧は、測定精度の観点から、絶対値で0.5kV以上とすることが好ましく、絶対値で1.0kV以上とすることが更に好ましい。
【0030】
本実施態様の評価方法においては、電極14とノズル13との間に電界Eを形成した状態で、ノズル13に水を供給してノズル13の先端から滴下させるとともに、滴下させた水を金属容器5に捕集する。ノズル13への水の供給は、原料液に代えて水を用いることによって、製造装置10に備わる原料噴射手段11の送液部12を用いて行うことができる。図1には、送液部12が備える定量ポンプ等の定量送液装置2が示されている。本発明の評価方法を実施する際には、実際の紡糸の際に用いる定量ポンプをそのまま用いても良いし、他の定量ポンプに交換してそれを用いることもできる。
【0031】
また、ノズル13に対する水の供給速度は、ノズルから送出される液を、連続する水流ではなく、水滴として滴下させる観点から、好ましくは10.0g/min以下、より好ましくは5.0g/min以下、更に好ましくは2.0g/min以下である。また、ノズル13に対する水の供給速度は、測定精度の点から、好ましくは0.2g/min以上、より好ましくは0.5g/min以上である。ノズル13から金属容器5に亘る連続する水流が形成されると、該水流を介して電気的な連絡が生じて、金属容器5内の水の電荷量の測定が困難となる。
【0032】
金属容器5に捕集した水の電荷量の計測には、各種の電荷量測定器6を用いることができる。電荷量測定器6としては、例えば、春日電機製のクーロンメータ(NK−1001、1002)を用いることができる。
また、金属容器5内の水の電荷量の計測は、図1に示すように、金属容器5を、導電性材料から構成されたファラデーケージ61内に配置して行うことが、外部からの電場を遮り、電荷量を高精度に計測する観点から好ましい。なお、図1中、符号51は、帯電した水であり、符号62、63及び64は、測定プローブ先端、測定プローブ、及びアースにつながる金属導線である。
【0033】
本実施態様においては、ノズル13と電極14との間に直流電圧を印加し、電場Eを形成した状態下に、ノズル13に水を所定の速度で送液し、その液をノズル13の先端から流出させる。帯電した水は重力によって略鉛直下方に滴下する。所定時間内(例えば数分内)に金属容器5内に溜まった水の帯電量を計測し、その計測値を、溜まった水の質量で除して、水の単位質量あたりの帯電量(nC/g)を求める。金属容器5内に溜まった水の質量は、例えば、溜まった水の帯電量の測定終了後に、金属容器5を、ファラデーケージ61から取り出し、化学天秤上に移して測定する。また、定量性に優れた定量送液装置2を用いた場合等には、単位時間当たりの送液量(g/min)に送液時間(分)を乗算して、その値を、当該所定時間内に、ノズルの先端から滴下させた水の量又は金属容器5に捕集された水の質量として用いることもできる。
【0034】
本発明においては、捕集した水の電荷量の計測値、及び滴下又は捕集した水の質量から、水の単位質量当りの電荷量を算出し、得られた水の単位質量当りの電荷量を指標として電界紡糸装置を評価する。
【0035】
評価は、通常、水の単位質量当りの電荷量が多い方が性能が高いと判断し、水の単位質量当りの電荷量が低い方が性能が低いと判断する。
前述したように、捕集した水の電荷量の計測は、ノズルから所定時間水を滴下させた後に、溜まった水の電荷量の計測を一度のみ行っても良いが、捕集した水の電荷量の計測を、金属容器内の水量が増加する過程の複数の時点で行い、複数の時点での計測値を用いて、水の単位質量当りの電荷量を算出することが好ましい。複数の計測値は、例えば、図7に示すように、金属容器に溜まった水の量(又はそれに比例する滴下開始からの経過時間等)を横軸、電荷量を縦軸として、1分毎の電荷量(積算値)をプロットし、得られたグラフに、切片0を通る最小二乗法による近似直線を引いて求めた傾きを単位質量当りの電荷量とする。
【0036】
本発明で用いる水としては、イオン交換水、蒸留水、超純水等が挙げられる。電界紡糸装置の評価に、通常の紡糸原料液のような曳糸性を有する液体を用いる場合は、帯電した液体が電極に付着し、正確な質量が図り難くなったり、極細の繊維が電極に接触することにより電荷が消失したり反対の極性に帯電したりすることがある。また、蒸発度合いの違いにより電荷量は大きく変わるため、乾燥状態での測定が望ましいが、乾燥して測定可能となるまでに時間が斯かり、また乾燥状態となるまで待つ間、帯電状態を維持しておくことは極めて困難であり、高精度の測定には不向きである。
更に水を用いることは、水が容易に入手可能であること、安価であること、調合が不要であること、準備や後片づけが容易であること、身体にふれても無害なこと、装置間の比較がしやすいこと等の利点がある。
【0037】
図4及び図5は、本発明の評価方法の一実施態様で性能評価を行う電界紡糸装置の別の例を示すものである。なお図4及び図5に示す製造装置18に関し、特に説明しない点については、図2及び図3に示す製造装置10に関する説明が適宜適用される。
【0038】
製造装置18は、電極19と原料液噴射用ノズル20とを有している。電極19は全体として凹球面形状をしており、特に略椀形をしている。そしてその内面に凹曲面Rを備えている。凹曲面Rを有する電極19は、その開口端の位置に、平面状のフランジ部19aを有している。電極19は、その内面が凹曲面Rとなっている限りにおいて、その外面の形状は略椀形になっていることを要せず、その他の形状となっていてもよい。電極19は導電性材料から構成されており、一般には金属製である。電極19は、電気絶縁性材料からなる基台30に固定されている。また電極19は、図5に示すとおり電圧発生手段である直流高圧電源40に接続され、負電圧が印加されている。
【0039】
凹曲面Rをその開口端側から見たとき、該開口端は円形をしている。この円形は、真円形でもよく、あるいは楕円形でもよい。後述するとおり、ノズル20の先端に電界を集中させる観点からは、凹曲面Rの開口端は真円形であることが好ましい。一方、凹曲面Rは、そのいずれの位置においても曲面になっている。ここで言う曲面とは、(イ)平面部を全く有していない曲面のことであるか、(ロ)平面部を有する複数のセグメントを繋ぎ合わせて全体として凹曲面とみなせる形状となっていることであるか、又は(ハ)互いに直交する三軸のうち一軸が曲率を有さない帯状部を有する複数の環状セグメントを繋ぎ合わせて全体として凹曲面とみなせる形状となっていることのいずれかを言う。(ロ)の場合は、例えば縦及び横の長さが0.5〜5mm程度の矩形となっている、同一の又は異なる大きさの平面部を有するセグメントを繋ぎ合わせて凹曲面Rを形成することが好ましい。
(ハ)の場合は、例えば半径が種々異なり、かつ高さが0.001〜5mmである扁平な複数種類の円筒からなる環状セグメントを繋ぎ合わせて凹曲面Rを形成することが好ましい。この環状セグメントにおいては、互いに直交する三軸、すなわちX軸、Y軸及びZ軸のうち、円筒の横断面を含むX軸及びY軸が曲率を有し、かつ円筒の高さ方向であるZ軸が曲率を有していない。
ノズル20の先端20aと凹曲面Rとの間の距離(最短距離)は、製造装置10におけるノズル13の先端と電極14との間の距離(最短距離)と同様にすることができる。
【0040】
凹曲面Rは、その任意の位置における法線がノズル20の先端又はその近傍を通るような値となっていることが好ましい。この観点から、凹曲面Rは、真球の球殻の内面と同じ形状をしていることが特に好ましい。図4及び図5に示すとおり、凹曲面Rの最底部は開口しており、その開口部にノズルアセンブリ21が取り付けられている。
【0041】
ノズルアセンブリ21は、先に述べたノズル20と、該ノズル20を支持する支持部22とを有している。ノズル20は導電性材料から構成されており、一般には金属から構成されている。一方、支持部22は電気絶縁性材料から構成されている。したがって、先に述べた電極19とノズル20とは、支持部22によって電気的に絶縁されている。ノズル20は接地されている。ノズル20の先端20aは凹曲面Rからなる電極19内に露出している。ノズル20は支持部22を貫通しており、ノズル20の後端20bは、電極19の背面側(すなわち、凹曲面Rと反対側)において露出している。なおノズル20は必ずしも支持部22を貫通している必要はなく、支持部22に設けた原料液供給用の貫通孔の途中にノズル20の後端20bが位置していてもよい。ノズル20の後端20bあるいは支持部22に設けた原料液供給用の貫通孔は、原料液の供給源(図示せず)に接続されている。ノズルアセンブリ21は原料の供給源とともに原料噴射手段を構成する。
【0042】
製造装置18においては、図4及び図5に示すとおり、ノズルアセンブリ21におけるノズル20の基部の近傍に、貫通孔からなる空気流噴射手段23が設けられている。空気流噴射手段23は、ノズル20の延びる方向に沿って形成されている。更に空気流噴射手段23は、ノズル20の先端20aの方向に向けて空気流を噴射させることが可能なように形成されている。電極19の開口端側から見たとき、空気流噴射手段23は、ノズル20を取り囲むように2個設けられている。空気流噴射手段23は、ノズル20を挟んで対称な位置に形成されている。貫通孔からなる空気流噴射手段23は、その後端側の開口部が空気流の供給源(図示せず)に接続されている。この供給源から空気が供給されることで、ノズル20の周囲から空気が噴射されるようになっている。噴射した空気は、ノズル20の先端20aから噴射され、かつ電界の作用によって細長く引き伸ばされた原料液を、空気流噴射手段23に対向する位置に配置された捕集用電極(図示せず)に向けて搬送する。なお、図4及び図5においては、空気流噴射手段23が2個設けられている状態が示されているが、空気流噴射手段23を設ける個数はこれに限られず、1個又は3個以上であってもよい。更に空気流噴射手段をなす貫通孔の形状(断面形状)は円形に限られず、矩形、楕円、二重円環、三角、ハニカム等でもよい。均一な空気流を得る観点からはノズルを囲む環状の貫通孔が望ましい。
【0043】
製造装置18においては、陰極である電極19の表面のうちの、ノズル20と対向する面の全面とノズル20と対向しない面の一部に、表面に誘電体の露出した被覆体207が配置されている。電極19と被覆体207とは直接に接触している。被覆体207は、凹曲面Rからなる電極19と相補形状を有する中空の凸部207aを有している。凸部207aの頂部は開口しており、該開口には、ノズルアセンブリ21が嵌め込まれるようになっている。凸部207aは電極19の表面のうちのノズル20と対向する面を被覆する。また被覆体207は、中空の凸部207aの開口端から水平方向に延出するフランジ部207bを有している。フランジ部207bは電極19の表面のうちのノズル20と対向しない面の一部(フランジ部19a)を被覆する。被覆体207を、電極19の凹曲面Rに嵌め合わせた状態においては、電極19のフランジ部19a及び被覆体207のフランジ部207bに形成された貫通孔にボルトを通して電極19と被覆体207とをボルト締めによって固定する。
【0044】
本実施形態で用いる被覆体207を構成する誘電体としては、電極14を被覆する被覆体17を構成する誘電体と同様のものを用いることができる。そして各種の熱可塑性樹脂を溶融成形して得られた成形体を用いると簡便でよい。該誘電体には被覆体17で使用したのと同様の帯電防止剤を含有させることができる。また電極19を被覆する被覆体207の厚みは、電極14を被覆する被覆体17の厚みと同様とすることができる。
【0045】
図4及び図5に示す製造装置18について評価を行う際には、図6に示すように、ノズル20の延びる方向が鉛直下向きになるように製造装置18を配置し、図1に示した評価方法の一実施態様と同様にして評価を行う。より詳細には、直流電圧を印加し、電極19とノズル20との間に電界を形成した状態下に、定量ポンプ等の定量送液装置2により、ノズル20に水を供給して該ノズルの先端から該水4を滴下させるとともに、滴下させた水4を金属容器5に捕集する。そして、捕集した水(帯電した水)の電荷量を電荷量測定器6で計測する。そして、その電荷量の計測値及び滴下又は捕集した水の質量から、水の単位質量当りの電荷量を算出する。そして、得られた水の単位質量当りの電荷量を指標として電界紡糸装置18の性能を評価する。図6に示した評価方法については、特に説明しない点は、図1に示した評価方法と同様であり、上述した説明が適宜適用される。
なお、上述した製造装置10,18によって製造されるナノファイバは、その太さを円相当直径で表した場合、一般に10nm以上3000nm以下、特に10nm以上1000nm以下のものである。ナノファイバの太さは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)観察によって測定することができる。
【0046】
また、上述した製造装置10,18においてナノファイバの製造に用いられる原料液としては、ファイバ形成の可能な高分子化合物が溶媒に溶解又は分散した溶液あるいは高分子化合物を加熱、溶融した溶融液を用いることができる。原料液に高分子溶液を用いるエレクトロスピニング法は溶液法、高分子融液を用いる方法は溶融法と呼ばれることがある。該溶液又は融液には適宜、無機物粒子、有機物粒子、植物エキス、界面活性剤、油剤、イオン濃度を調整するための電解質等を配合することができる。
【0047】
ナノファイバ製造用の高分子化合物としては一般に、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリウレタン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−m−フェニレンテレフタレート、ポリ−p−フェニレンイソフラテート、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ナイロン、アラミド、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリペプチド等が例示できる。用いられる高分子化合物は1種類に限定されるわけではなく、前記例示した高分子化合物から任意の複数種類を組み合わせて用いることができる。
【0048】
原料液に、高分子化合物が溶媒に溶解又は分散した溶液を用いる場合、該溶媒としては、水、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジベンジルアルコール、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセトン、ヘキサフルオロアセトン、フェノール、ギ酸、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、塩化メチル、塩化エチル、塩化メチレン、クロロホルム、o−クロロトルエン、p−クロロトルエン、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロプロパン、ジブロモエタン、ジブロモプロパン、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、酢酸、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、ピリジン等を例示することができる。用いる溶媒は1種類に限定されるわけではなく、前記例示した溶媒から任意の複数種類を選定し、混合して用いても構わない。
【0049】
特に溶媒として水を用いる場合は、水への溶解度の高い下記のような天然高分子及び合成高分子を用いるのが好適である。天然高分子としては、例えばプルラン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ポリ−γ−グルタミン酸、変性コーンスターチ、β−グルカン、グルコオリゴ糖、ヘパリン、ケラト硫酸等のムコ多糖、セルロース、ペクチン、キシラン、リグニン、グルコマンナン、ガラクツロン酸、サイリウムシードガム、タマリンド種子ガム、アラビアガム、トラガントガム、大豆水溶性多糖、アルギン酸、カラギーナン、ラミナラン、寒天(アガロース)、フコイダン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。合成高分子としては、例えば部分鹸化ポリビニルアルコール、低鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸ナトリウム等が挙げられる。これらの高分子化合物は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの高分子化合物のうち、ナノファイバの調製が容易である観点から、プルラン等の天然高分子、並びに部分鹸化ポリビニルアルコール、低鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン及びポリエチレンオキサイド等の合成高分子を用いることが好ましい。
【0050】
また、水への溶解度は高くないが、ナノファイバ形成後に不溶化処理できる完全鹸化ポリビニルアルコール、架橋剤と併用することでナノファイバ形成後に架橋処理できる部分鹸化ポリビニルアルコール、ポリ(N−プロパノイルエチレンイミン)グラフト−ジメチルシロキサン/γ−アミノプロピルメチルシロキサン共重合体等のオキサゾリン変性シリコーン、ツエイン(とうもろこし蛋白質の主要成分)、ポリエステル、ポリ乳酸(PLA)、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリメタクリル酸樹脂等のアクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリエチレンテフタレート樹脂、ポリブチレンテフタレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂などの高分子化合物も用いることができる。これらの高分子化合物は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0051】
以上、本発明をその好ましい実施態様に基づき説明したが、本発明は前記実施態様に制限されない。例えば、図2に示す製造装置において、ノズル13は曲率を有する曲管であってもよい。あるいは図4及び図5に示す製造装置において、電極19の凹曲面Rは、半球の球殻の内面の形状であることが好ましいが、これに代えて例えば、球冠の球殻の内面の形状としてもよい。また、図4及び図5に示す実施形態においては、ノズル20を凹曲面Rの最底部に配置したが、それ以外の位置にノズル20を配置してもよい。
また、本発明で評価する対象の電界紡糸装置は、ノズルと電極とを備えた電界紡糸装置である限り特に制限されず、特許文献1や特許文献2に記載のものであっても良い。特許文献2の装置においては、導電性円筒の側面に多数の流出孔を設けた流出体が、ノズルに該当する。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」及び「部」はそれぞれ「質量%」及び「質量部」を意味する。
【0053】
〔実施例1〕
図2に示す製造装置10において、原料噴射手段11の構成として、表1に示すノズル長さ、ノズル内径、及び送液部材質を採用したものを装置A〜Hとし、そのそれぞれの装置A〜Hについて、水をモデル原料液として用いた評価試験を行い、水の単位質量当りの電荷量(以下、単に「帯電量」ともいう)を測定した。ノズル長さは、図2中に符号Lで示す長さである。
【0054】
帯電量の測定方法を以下に示した。なお、電極14の平面部(ノズル13と対向する面)の面積は81cm2(縦9cm×横9cm)とし、該面の全面を誘電体からなる被覆体17で被覆した。誘電体の厚みは10mmとした。ノズル13の先端と電極14との距離(最短距離)は50mmとした。
【0055】
〔帯電量の測定方法〕
製造装置10に対しては、図1に示すように、ノズル13の延びる方向が略水平になるように、装置全体を90度回転して配置した。そしてノズルと電極との間に−5kVの直流電圧を高電圧発生装置(松定プレシジョン製 HAR−60R1−LF)で印加し、シリンダポンプを用いて、ノズル13に1.0g/minの速度で水を供給し、同じ速度で、ノズル13から水を滴下させた。重力によって略鉛直下方に滴下した水滴を、ファラデーケージ61(春日電機製 NQ−1400)内に配置した金属容器5に受けた。ノズル13から6分間、水を滴下させ、金属容器5内に溜まった水の電荷量を、クーロンメータ(春日電機製 NK−1001、1002)により1分毎に計測してその計測値を記録した。金属容器5は、ステンレス製のものを用いた。空気流噴射手段15及び第2空気流噴射手段16からの空気流の噴射は行わなかった。
図7に、電荷量を求めた際に描いたグラフの1例を示す。測定したノズル13の長さLは、形状1が15mm、形状2が50mmである。ノズル13の呼び径は16Gで共通とした。経過時間を横軸、電荷量を縦軸として、1分毎の電荷量(積算値)をプロットし、そこで得られたグラフに、切片0を通る最小二乗法による近似直線を引き、その傾きを求めた。6分後の電荷量の計測後に、金属容器5を取り出し、内部に溜まった水の質量を化学天秤で測定したところ、金属容器5内に溜まった水の質量P(g)と、ノズル13への水の供給速度(ノズル13の先端からの水の適下速度)からの推定質量6.0gとの間にずれが生じたため、前述した傾きに、それらの比(P/6)の逆数(6/P)を掛けて補正し、補正後の値を帯電量(水の単位質量当りの電荷量)とした。補正後の値を表1に示した。
【0056】
【表1】
【0057】
〔評価〕
表1で示した帯電量の結果において、最大の値が得られている装置Dと材質が同じ条件で最少の値が得られている装置Aを用いてナノファイバの製造を行った。原料液としてプルラン15%水溶液を用いた。ノズル13から原料液を噴射する速度は1.0g/minとした。電極14の平面部(ノズル13と対向する面)の面積を81cm2(縦9cm×横9cm)とし、該面の全面をベークライトからなる被覆体17で被覆した。ベークライトの厚みは10mmとした。空気流噴射手段15から流量200L/minの空気流を噴射し、第2空気流噴射手段16からは空気流を噴射しなかった。ノズル13の先端と電極14との距離(最短距離)は40mmとし、ノズル13と電極14の間に−30kVの電圧を印加した。得られたナノファイバを走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影し、装置Aで得られたナノファイバの写真を図8(a)、装置Dで得られたナノファイバの写真を図8(b)に示した。また、平均繊維径は図8(a)が約500nm、図8(b)が約200nmであった。
【0058】
本発明の電界紡糸装置の評価方法によれば、このように、電界紡糸装置のノズルを交換し、異なるノズルを備えた複数の装置のそれぞれについて、実施例1のような評価試験を行い、水の単位質量当りの電荷量を算出することにより、その電荷量を用いて、電界紡糸装置のノズルの性能を評価することができる。
また、本発明の電界紡糸装置の評価方法においては、ノズルに代えて、電界紡糸装置の電極を交換し、異なる電極を備えた複数の装置のそれぞれについて、実施例1のような評価試験を行うこともできる。その場合も、複数の装置のそれぞれについて、水の単位質量当りの電荷量を算出することにより、その帯電量を用いて、電界紡糸装置のノズルの性能を評価することができる。ここでいう、異なる電極には、電極の形状や材質、厚み等の他、電極を被覆する誘電体の形状や材質、厚み等を異ならせたものも含まれる。
【符号の説明】
【0059】
1 評価装置
5 金属容器
6 電荷量測定器
10,18 ナノファイバ製造装置(電界紡糸装置)
11 原料噴射手段
12 送液部
13,20 ノズル
14,19 電極
15,23 空気流噴射手段
16 第2空気流噴射手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8