特許第6316063号(P6316063)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人慶應義塾の特許一覧

特許6316063情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、およびプログラム
<>
  • 特許6316063-情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、およびプログラム 図000011
  • 特許6316063-情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、およびプログラム 図000012
  • 特許6316063-情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、およびプログラム 図000013
  • 特許6316063-情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、およびプログラム 図000014
  • 特許6316063-情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、およびプログラム 図000015
  • 特許6316063-情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、およびプログラム 図000016
  • 特許6316063-情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、およびプログラム 図000017
  • 特許6316063-情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、およびプログラム 図000018
  • 特許6316063-情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、およびプログラム 図000019
  • 特許6316063-情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、およびプログラム 図000020
  • 特許6316063-情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、およびプログラム 図000021
  • 特許6316063-情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、およびプログラム 図000022
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6316063
(24)【登録日】2018年4月6日
(45)【発行日】2018年4月25日
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/11 20060101AFI20180416BHJP
   A61B 5/103 20060101ALI20180416BHJP
【FI】
   A61B5/10 310A
   A61B5/10ZDM
【請求項の数】9
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-71572(P2014-71572)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-192715(P2015-192715A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2017年3月29日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2013年度 社団法人電子情報通信学会 無線通信システム研究会(RCS) テーマ「移動通信ワークショップ」予稿集、第419−424頁
(73)【特許権者】
【識別番号】899000079
【氏名又は名称】学校法人慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】大槻 知明
(72)【発明者】
【氏名】冨井 翔一朗
【審査官】 門田 宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−072865(JP,A)
【文献】 特開2014−039666(JP,A)
【文献】 特表平11−511036(JP,A)
【文献】 特開2012−130391(JP,A)
【文献】 特開2006−346221(JP,A)
【文献】 特開2006−263454(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/019091(WO,A1)
【文献】 A. Tariq et al.,Vital signs detection using Doppler radar and Continuous Wavelet Transform,Proceedings of the 5th European Conference on Antennas and Propagation(EUCAP),2011年,pp.285-288
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00
A61B 5/02
A61B 5/08
A61B 5/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人体の動きの計測を行う計測装置と接続する情報処理装置であって、
前記計測装置から計測データを取得する取得手段と、
計測の対象となる被験者が安静状態で前記人体の動きを計測したデータである基準データを記憶する記憶手段と、
前記基準データに基づいてスケールファクタを決定する決定手段と、
前記決定手段によって決定されたスケールファクタに基づいて前記計測データをウェーブレット変換して前記人体の動きを計測する情報処理装置。
【請求項2】
前記人体の動きは、心拍数である請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記人体の動きは、被験者の体の動きである請求項1に記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記計測データをフィルタリングして0Hzより大きく、かつ、10Hz以下の周波数の計測データを取り出すフィルタ手段を有する請求項1乃至3のいずれかに記載の情報処理装置。
【請求項5】
人体の動きの計測を行う計測装置と接続する情報処理装置に行わせる情報処理方法であって、
前記情報処理装置に、
前記計測装置から計測データを取得させる取得手順と、
計測の対象となる被験者が安静状態で前記人体の動きを計測したデータである基準データを記憶させる記憶手順と、
前記基準データに基づいてスケールファクタを決定させる決定手順と、
前記決定手順で決定されたスケールファクタに基づいて前記計測データをウェーブレット変換して前記人体の動きを計測させる情報処理方法。
【請求項6】
人体の動きの計測を行う計測装置と接続する情報処理装置に実行させるプログラムであって、
前記情報処理装置に、
前記計測装置から計測データを取得させる取得手順と、
計測の対象となる被験者が安静状態で前記人体の動きを計測したデータである基準データを記憶させる記憶手順と、
前記基準データに基づいてスケールファクタを決定させる決定手順と、
前記決定手順で決定されたスケールファクタに基づいて前記計測データをウェーブレット変換して前記人体の動きを計測することを実行させるためのプログラム。
【請求項7】
1以上のコンピュータを有し、人体の動きの計測を行う計測装置と接続する情報処理システムであって、
前記計測装置から計測データを取得する取得手段と、
計測の対象となる被験者が安静状態で前記人体の動きを計測したデータである基準データを記憶する記憶手段と、
前記基準データに基づいてスケールファクタを決定する決定手段と、
前記決定手段によって決定されたスケールファクタに基づいて前記計測データをウェーブレット変換して前記人体の動きを計測する情報処理システム。
【請求項8】
人体の動きの計測を行う計測装置と、情報処理装置と、を有する情報処理システムであって、
前記計測装置は、
前記人体の動きに係る計測データを生成する生成手段を有し、
前記情報処理装置は、
前記計測装置から計測データを取得する取得手段と、
計測の対象となる被験者が安静状態で前記人体の動きを計測したデータである基準データを記憶する記憶手段と、
前記基準データに基づいてスケールファクタを決定する決定手段と、
前記決定手段によって決定されたスケールファクタに基づいて前記計測データをウェーブレット変換して前記人体の動きを計測する情報処理システム。
【請求項9】
人体の動きの計測を行う計測装置と、情報処理装置に実行させるプログラムと、を有する情報処理システムであって、
前記計測装置は、
前記人体の動きに係る計測データを生成する生成手段を有し、
前記情報処理装置に、
前記計測装置から計測データを取得させる取得手順と、
計測の対象となる被験者が安静状態で前記人体の動きを計測したデータである基準データを記憶させる記憶手順と、
前記基準データに基づいてスケールファクタを決定させる決定手順と、
前記決定手順で決定されたスケールファクタに基づいて前記計測データをウェーブレット変換して前記人体の動きを計測することを実行させるためのプログラムを有する情報処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報処理装置、情報処理システム、情報処理方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、いわゆるドップラーレーダ(Doppler radar)、およびウェーブレット変換(Wavelet Transform)を用いて心拍などを計測する方法が知られている(例えば、非特許文献1、および非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Jingyu Wang他、「1−D Microwave Imaging of Human Cardiac Motion:An Ab−Initio Investigation」、IEEE TRANSACTIONS ON MICROWAVE THEORY AND TECHNIQUES,VOL.61,NO.5、MAY 2013
【非特許文献2】A.Tariq他、「Vital signs detection using Doppler radar and Continuous Wavelet Transform」、the 5th European Conference on Antennas and Propagation、2011
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の方法では、ウェーブレット周波数スペクトルに表れるピークに基づき心拍などを検出していたが、周波数スペクトルを求める際に用いるスケールファクタ((Scale Factor)以下、SFという。)を、予め計測した波形に基づいて決定していないため、計測の精度が劣化する場合があった。
【0005】
本発明の1つの側面は、心拍などの計測の精度を良くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一態様における、人体の動きの計測を行う計測装置と接続する情報処理装置であって、前記計測装置から計測データを取得する取得手段と、計測の対象となる被験者が安静状態で前記人体の動きを計測したデータである基準データを記憶する記憶手段と、前記基準データに基づいてスケールファクタを決定する決定手段と、前記決定手段によって決定されたスケールファクタに基づいて前記計測データをウェーブレット変換して前記人体の動きを計測することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
心拍などの計測の精度を良くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る全体構成の一例を説明する概念図である。
図2】本発明の一実施形態に係るドップラーレーダの一例を説明する概念図である。
図3】本発明の一実施形態に係る情報処理装置のハードウェア構成の一例を説明するブロック図である。
図4】本発明の一実施形態に係るマザーウェーブレットに関する処理の一例を説明する概念図である。
図5】本発明の一実施形態に係る心拍数の計算の一例を説明するための図である。
図6】本発明の一実施形態に係る評価結果の一例を説明するための図である。
図7】本発明の一実施形態に係るRMSEによる評価結果の一例を説明するための図である。
図8】本発明の計測に係る被験者の動作の影響の一例を説明するための図である。
図9】本発明の計測に係る情報処理システムによる全体処理の一例を説明するシーケンス図である。
図10】本発明の計測に係るPCによる全体処理の一例を説明するフローチャートである。
図11】本発明の計測に係るPCによるSFの選定処理の一例を説明する図である。
図12】本発明の計測に係る基準データの取得における評価結果の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0010】
<全体構成>
図1は、本発明の一実施形態に係る全体構成の一例を説明する概念図である。
【0011】
情報処理システムは、例えば情報処理システム1である。以下、情報処理システム1を例に説明する。情報処理システム1は、PC(Personal Computer)10と、アンプ11と、ドップラーレーダ12と、フィルタ13と、を有する。
【0012】
情報処理装置は、例えばPC10である。以下、PC10を例に説明する。
【0013】
計測装置は、例えばドップラーレーダ12である。以下、ドップラーレーダ12を例に説明する。
【0014】
図1に示すようにPC10は、アンプ11に接続している。アンプ11は、フィルタ13に接続している。フィルタ13は、ドップラーレーダ12に接続している。PC10は、アンプ11、およびフィルタ13を介してドップラーレーダ12から計測データを取得する。PC10は、取得した計測データに基づいて被験者2の心拍、呼吸、および体の動きなど体動を解析し、心拍数など人体の動きを計測する。以下、人体の動きが心拍数の場合を例に説明する。
【0015】
アンプ11、およびフィルタ13は、ドップラーレーダ12が出力した信号を前処理する。
【0016】
フィルタ13が行う前処理は、例えばハイパスフィルタ(High−pass filter)、ローパスフィルタ(Low−pass filter)、またはバンドパス(Band−pass filter)などフィルタ処理である。
【0017】
フィルタ13は、心拍を精度良く計測できるようにするために0Hzより大きく10Hzを取り出す設定が望ましい。さらに、フィルタ13は、より精度良く計測できるようにするために、0.016Hz乃至7.0Hzの周波数を取り出す設定が望ましい。フィルタ13は、例えばハイパスフィルタのカットオフ周波数が0.016Hz、およびローパスフィルタのカットオフ周波数が7.0Hzとするなどである。
【0018】
アンプ11は、フィルタ13がフィルタ処理した信号を増幅させる処理を行う。
【0019】
アンプ11は、心拍をより精度良く計測できるようにするために、ドップラーレーダ12に応じて出力が数ボルト程度になるように増幅度を設定するのが望ましい。
【0020】
フィルタ13は、ドップラーレーダ12が出力した信号を後段のPC10による処理で処理しやすくするために、ノイズを減少させる処理などを行う。
【0021】
ドップラーレーダ12は、信号に基づいて計測対象の位置、および速度を計測する計測装置である。ドップラーレーダ12は、信号を発信する。発信された信号は、被験者2で反射し、ドップラーレーダ12に受信される。ドップラーレーダ12は、発信した信号と、受信した信号と、を比較する。発信した信号、および受信した信号は、いわゆるドップラー効果によって周波数が異なる。ドップラーレーダ12は、比較結果である周波数の差に基づいて被験者2の位置、または速度などを出力する。データは、例えば信号で出力される。
【0022】
なお、全体構成は、図1に示した構成に限られない。全体構成は、例えばPC10、アンプ11、フィルタ13、およびドップラーレーダ12は、一体となった一装置であってもよい。
【0023】
<ドップラーレーダ>
図2は、本発明の一実施形態に係るドップラーレーダの一例を説明する概念図である。
【0024】
ドップラーレーダ12は、例えば図2で示す装置である。ドップラーレーダ12は、ソース(Source)12Sと、発信器12Txと、受信器12Rxと、ミキサー(Mixer)12Mと、を有する。ドップラーレーダ12は、受信器12Rxが受信したデータのノイズを減らすなどの処理を行う調整器12LNA(Low Noise Amplifier)を有する。
【0025】
ソース12Sは、発信器12Txが発信する信号を生成する発信源である。
【0026】
発信器12Txは、被験者2に対して信号を発信する。発信する信号は、時間tに係る関数Tx(t)で示せ、例えば下記(1)式で示せる。
【0027】
【数1】
上述の(1)式で、ωは、発信する信号の角周波数である。
【0028】
ここで被験者2、すなわち発信された信号の反射面は、時間tにてx(t)の変位がある場合を例に説明する。被験者2の変位x(t)は、例えば下記(2)式で示せる。
【0029】
【数2】

上述の(2)式で、mは、変位の振幅を示す定数である。ωは、被験者2の動きによってシフトした角速度である。
【0030】
受信器12Rxは、発信器Txが発信し、被験者2で反射した信号を受信する。受信する信号は、時間tに係る関数Rx(t)で示せ、例えば下記(3)式で示せる。
【0031】
【数3】
上述の(3)式で、dは、被験者2と、ドップラーレーダ12と、の距離である。λは、信号の波長である。
【0032】
ドップラーレーダ12は、(1)式で示した発信信号の関数Tx(t)と、(3)式で示した受信信号の関数R(t)をミキシングしてドップラー信号を生成する。ドップラー信号は、時間tに係る関数B(t)で示すと下記(4)式で示せる。
【0033】
【数4】
ここで、ドップラー信号の角周波数をωとすると、ドップラー信号の角周波数ωは、下記(5)式で示せる。
【0034】
【数5】
上述の(4)、および(5)式の位相θは、下記(6)式で示せる。
【0035】
【数6】
上述の(6)式のθは、被験者2、すなわち反射面での位相変位である。
【0036】
ドップラーレーダ12は、発信した信号と、受信した信号と、を比較する上述の式で示した計算に基づいて被験者2の位置、および速度を示す信号を出力する。
【0037】
<情報処理装置のハードウェア構成>
図3は、本発明の一実施形態に係る情報処理装置のハードウェア構成の一例を説明するブロック図である。
【0038】
PC10は、CPU(Central Processing Unit)10H1と、記憶装置10H2と、入力装置10H3と、出力装置10H4と、入力I/F(Interface)10H5と、を有する。PC10の有する各要素は、バス(Bus)10H6で接続され、データなどを相互に送受信する。
【0039】
CPU10H1は、PC10の有する要素の制御、および各種処理を行うための演算を行う。
【0040】
記憶装置10H2は、主記憶装置と、補助記憶装置と、である。主記憶装置は、例えばメモリなどである。補助記憶装置は、例えばハードディスクである。記憶装置10H2は、PC10が用いる中間データを含むデータ、およびプログラムなどを記憶する。
【0041】
入力装置10H3は、ユーザの操作によって計算に必要なパラメータ、および命令をPC10に入力するための装置である。入力装置10H3は、例えばキーボード、マウス、およびドライバなどである。
【0042】
出力装置10H4は、PC10による各種処理結果、および計算結果をユーザなどに出力するための装置である。出力装置10H4は、例えばディスプレイなどである。
【0043】
なお、PC10のハードウェア構成は、図3の構成に限られない。例えばPC10は、CPU10H1、および記憶装置10H2の並列、分散、または冗長に行う要素(図示せず)を有してもよい。また、PC10は、演算、制御、または記憶を並列、分散、または冗長に行う他の装置(図示せず)がPC10の外部、またはネットワークを介して接続されている構成でもよい。
【0044】
<ウェーブレット変換、およびマザーウェーブレットに基づく処理>
PC10は、図1のアンプ11を介してドップラーレーダ12から取得したデータに対してウェーブレット変換を行う。
【0045】
ウェーブレット変換は、予め定められている所定の波形であるマザーウェーブレットを用いて行う。マザーウェーブレットに基づく処理は、対象となる波形に対してマザーウェーブレットを当てはめ、一致度を計算する処理である。当てはめは、マザーウェーブレットを変換対象の波形に時間軸上で移動させながら行う。当てはめの際、マザーウェーブレットは、拡大、または縮小が行われる。
【0046】
図4は、本発明の一実施形態に係るマザーウェーブレットに関する処理の一例を説明する概念図である。
【0047】
図4(a)は、本発明の一実施形態に係るマザーウェーブレットの一例を説明する図である。
【0048】
マザーウェーブレットは、例えばマザーウェーブレット3Aである。マザーウェーブレット3Aは、いわゆるMorletウェーブレットである。
【0049】
Morletウェーブレットは、例えば時間領域で下記(7)式の関数Ψ(η)で表せる波形である。
【0050】
【数7】
上述の(7)式でmは、ウェーブ数である。(7)式でηは、非次元パラメータである。
【0051】
なお、実施形態は、マザーウェーブレットにMorletウェーブレットを用いるに限られない。例えば実施形態は、マザーウェーブレットにMexican hat、Daubechies、またはSymletなどを用いてもよい。
【0052】
心拍を計測する場合、マザーウェーブレットは、心拍のタイミングを精度良く抽出できるMorletウェーブレットが望ましい。
【0053】
以下、Morletウェーブレットであるマザーウェーブレット3Aを例に説明する。
【0054】
PC10は、変換対象の波形に当てはめるためにマザーウェーブレット3Aを拡大、または縮小する処理を行う。
【0055】
図4(b)は、本発明の一実施形態に係る縮小されたマザーウェーブレットの一例を説明する図である。
【0056】
PC10は、図4(a)のマザーウェーブレット3Aを縮小する処理を行い、例えば縮小されたマザーウェーブレット3Bを生成する処理を行う。
【0057】
図4(c)は、本発明の一実施形態に係る拡大されたマザーウェーブレットの一例を説明する図である。
【0058】
PC10は、図4(a)のマザーウェーブレット3Aを拡大する処理を行い、例えば拡大されたマザーウェーブレット3Cを生成する処理を行う。
【0059】
SFは、拡大、および縮小の処理の際の拡大縮小率である。
【0060】
縮小されたマザーウェーブレット3Bは、図4(a)のマザーウェーブレット3Aを図示するように時間軸方向へ縮小して生成される。縮小の場合、SFは、例えばSF=0.5など1.0より小さい値となる。
【0061】
拡大されたマザーウェーブレット3Cは、図4(a)のマザーウェーブレット3Aを図示するように時間軸方向へ拡大して生成される。拡大の場合、SFは、例えばSF=2.0など1.0より大きい値となる。
【0062】
図4(d)は、本発明の一実施形態に係る解析対象となる波形の一例を説明する図である。
【0063】
図4(d)で示す波形は、図1のアンプ11、およびフィルタ13を介してドップラーレーダ12からPC10が取得した波形のデータの例である。
【0064】
PC10は、図4(d)で示す波形の解析を図4(a)のマザーウェーブレット3Aなどを当てはめて行う。
【0065】
図4(d)で示す波形が上述の(2)式で示した関数x(t)である場合、解析の結果であるx(t)に対する一致度は、下記(8)式のウェーブレット係数CWTで示せる。
【0066】
【数8】
上述の(8)式で、aは、0より大きい値であり、図4で説明したSFである。(8)式で、τは、時間遅延である。(8)式で、関数hは、インパルス応答である。(8)式で、*は、複素共役を表す。
【0067】
PC10は、事前学習の処理によってSFを決定する。
【0068】
事前学習の処理は、図2の被験者2の動作が少ない状態で計測データ4を取得する処理である。動作が少ない状態は、例えば図2の被験者2が20秒間安静にしている状態である。
【0069】
基準データは、心拍計測のノイズの少ない状態でドップラーレーダ12に計測された計測データである。心拍計測のノイズは、計測の対象である心拍以外の被験者の動作である。ノイズは、例えば被験者の腕の動き、または呼吸などである。すなわち、基準データは、被験者の動作が少ない状態で取得された計測データ4である。以下、動作が少ない状態で取得された計測データ4を例に説明する。
【0070】
PC10は、事前学習の処理で計測データ4を取得し、取得した計測データ4で図4で説明した計算でSFを計算する。図2の被験者2の体動が少ない状態の計測データ4でSFを決定することによって、PC10は、心拍などを検出しやすくすることができる。
【0071】
<心拍数の計算>
図5は、本発明の一実施形態に係る心拍数の計算の一例を説明するための図である。
【0072】
情報処理システム1は、作業などを行っている図2の被験者2の計測を行う。計測によって、PC10は、作業などを行っている場合の計測データ4を取得する。PC10は、事前学習の処理で決定したSFに基づいて計測データ4をウェーブレット変換し、解析を行う。
【0073】
解析図5は、計測データ4を事前学習の処理で決定したSFに基づいて計測データ4をウェーブレット変換して解析した解析結果の一例である。
【0074】
図5の計測データ4が取得された場合、PC10は、ウェーブレット変換、および事前学習の処理で決定したSFに基づいて解析することによって、例えば頂点P1、頂点P2、および頂点P3などの極大値を算出することができる。
【0075】
PC10は、算出した頂点間の時間から心拍数を計算する。例えば頂点P1、および頂点P2の場合、PC10は、頂点P1と、頂点P2と、の時間から頂点P1、および頂点P2の間の時間T1を計算する。同様に頂点P2、および頂点P3の場合、PC10は、頂点P2と、頂点P3と、の時間から頂点P2、および頂点P3の間の時間T2を計算する。PC10は、時間T1から頂点P1、および頂点P2の場合の図2の被験者2の心拍数を計算できる。PC10は、時間T2から頂点P2、および頂点P3の場合の図2の被験者2の心拍数を計算できる。
【0076】
<評価結果>
図6は、本発明の一実施形態に係る評価結果の一例を説明するための図である。
【0077】
評価結果図6は、4通りの計測で心拍を計測した結果を比較するための図である。評価結果図6は、第一計測結果61、第二計測結果62、第三計測結果63、および第四計測結果64を示す。評価結果図6の縦軸「R−R」は、心拍の極大値の間隔を示す値である。すなわち、評価結果図6の縦軸「R−R」は、図5の場合、時間T1、および時間T2などを示す値である。
【0078】
第一計測結果61は、図1の情報処理システム1で計測された計測結果である。
【0079】
第二計測結果62は、人体の動作を考慮しないウェーブレット変換で計測された計測結果である。
【0080】
第三計測結果63は、計測データから不要な体動を多項式近似して除去した計測結果である。
【0081】
第四計測結果64は、いわゆる心電計で計測された心電図(ECG(Electrocardiogram))である。
【0082】
評価結果は、第四計測結果64に近いほど望ましい状態である。
【0083】
図示するように、図1の情報処理システム1で計測された第一計測結果61は、第二計測結果62、および第三計測結果63に対し、第四計測結果64に近い値を計測することができる。
【0084】
図7は、本発明の一実施形態に係るRMSEによる評価結果の一例を説明するための図である。
【0085】
図7は、評価結果をRMSE(Root Mean Square Error、二乗平均平方根誤差)で示している図である。RMSEは、下記(9)式で示される値である。
【0086】
【数9】
上述の(9)式で、r(t)は、心電計で計測された計測結果である。r(t)は、図6の第四計測結果64に相当する値である。(9)式で、X(t)は、各種の計測方法で計測された計測結果である。X(t)は、評価対象となる図6の第一計測結果61乃至第四計測結果64の計測結果である。RMSEは、r(t)と、X(t)と、の値が近いほど小さい値となる。すなわち、各計測方法の計測結果は、RMSEが小さくなる、心電計の計測結果により近い計測結果が望ましい。
【0087】
図7は、被験者の動作がそれぞれ異なる条件で評価した結果を示す図である。
【0088】
図7(a)は、被験者が着座静止の状態の場合のRMSEによる評価結果を示す図である。
【0089】
図7(b)は、被験者がデスクワークの一例であるタイピングゲームを行っている状態の場合のRMSEによる評価結果を示す図である。
【0090】
図7(c)は、被験者がデスクワークの一例であるPC画面を見ながらメモを取っている状態の場合のRMSEによる評価結果を示す図である。
【0091】
図7(d)は、被験者がデスクワークの一例である紙面での書類作成を行っている状態の場合のRMSEによる評価結果を示す図である。
【0092】
図7の各図で、グラフ7Aは、図6の第三計測結果63に相当する計測データを多項式近似して計測された計測結果をRMSEで評価した結果である。
【0093】
図7の各図で、グラフ7Bは、図6の第二計測結果62に相当する人体の動作を考慮しないウェーブレット変換で計測された計測結果をRMSEで評価した結果である。
【0094】
図7の各図で、グラフ7Cは、図6の第一計測結果61に相当する図1の情報処理システム1で計測された計測結果をRMSEで評価した結果である。
【0095】
図7より、図1の情報処理システム1で計測された計測結果は、他の計測方法と比較して被験者が動作がある場合でもRMSEが低い値となる。図6の第二計測結果62、および図6の第三計測結果63など他の計測方法は、計測の際、心拍に似た被験者の動作があった場合、被験者の動作がノイズとなり、心拍数の計測の精度が悪くなる場合があった。
【0096】
図8は、本発明の計測に係る被験者の動作の影響の一例を説明するための図である。
【0097】
図8(a)は、被験者の動作が少ない状態における計測データの一例を示す図である。
【0098】
図8(b)は、図8(a)の計測データを図6の第二計測結果62と同様のウェーブレット変換した結果の一例を示す図である。
【0099】
図8(c)は、被験者の動作がある状態における計測データの一例を示す図である。
【0100】
図8(d)は、図8(c)の計測データを図6の第二計測結果62と同様のウェーブレット変換した結果の一例を示す図である。
【0101】
図8(b)で示すように、被験者の動作が少ない場合、PC10は、図6の第二計測結果62と同様のウェーブレット変換で心拍のピーク8を検出する。図8(b)の心拍のピーク8に対して、図8(d)で図示するように図8(b)の心拍のピーク8に相当する場合であってもピークを被験者の動作の影響のため検出することが難しい。
【0102】
図1の情報処理システム1で計測された計測結果、すなわち基準データに基づいて決定したSFに基づくウェーブレット変換による心拍の計測は、被験者の動作がある図8(c)のような場合であっても図5で説明したように心拍のピーク8を精度良く検出できる。
【0103】
図1の情報処理システム1で計測された計測結果は、心拍数の計測において被験者の動作の影響を少なくすることができる。よって、PC10は、体動が少ない状態で取得された計測データ4に基づいて決定したSFで計測データをウェーブレット変換することによって、精度良く心拍数を算出することができる。
【0104】
なお、人体の動きは、心拍数に限られない。人体の動きは、例えば被験者の所定の動作でもよい。事前学習の処理で、PC10は、心拍に代えて所定の動作についてSFを決定する。すなわち、被験者の所定の動作を計測する場合、基準データを心拍のデータに代えて被験者の所定の動作のデータとする。PC10は、所定の動作について決定されたSFに基づいて計測データをウェーブレット変換することによって被験者が所定の動作が行ったタイミングを検出することができる。
【0105】
<全体処理>
図9は、本発明の計測に係る情報処理システムによる全体処理の一例を説明するシーケンス図である。
【0106】
ステップS0901乃至ステップS0904の処理は、事前学習の処理である。事前学習の処理は、基準データに基づいてSFを決定するための処理である。
【0107】
ステップS0901では、ドップラーレーダ12は、図2の被験者2の動作が少ない状態で基準データを生成する処理を行う。
【0108】
ステップS0902では、PC10は、受信電力を計測する処理を行う。すなわち、PC10は、S0901でドップラーレーダ12が生成した基準データを取得する処理を行う。
【0109】
ステップS0903では、PC10は、ステップS0902で取得した計測データに対してウェーブレット変換を行う。
【0110】
ステップS0904では、PC10は、SFを決定する処理を行う。SFを決定する処理の詳細は、後述する。
【0111】
ステップS0905乃至ステップS0909の処理は、心拍数を計測するための処理である。心拍数は、事前学習の処理で決定したSFに基づいて計測データをウェーブレット変換する処理である。
【0112】
ステップS0905では、ドップラーレーダ12は、体動を計測し、計測データを生成する処理を行う。
【0113】
ステップS0906では、PC10は、受信電力を計測する処理を行う。すなわち、PC10は、ステップS0905でドップラーレーダ12が生成した計測データ4を取得する処理を行う。
【0114】
ステップS0907では、PC10は、ステップS0906で取得した計測データ4をステップS0901乃至ステップS0904の処理の事前学習処理で決定したSFに基づいてウェーブレット変換する処理を行う。ステップS0907の処理で、PC10は、図5に説明したデータを生成する。
【0115】
ステップS0908では、PC10は、ステップS0907のSFに基づくウェーブレット変換で生成されたデータにおいて頂点を検出する処理を行う。ステップS0908の処理結果は、例えば図5の頂点P1、頂点P2、および頂点P3のようにピークを検出する場合である。
【0116】
ステップS0909では、PC10は、心拍数の計算を行う。ステップS0909では、PC10は、ステップS0908で検出された頂点に基づいてピーク間隔から心拍数を計算する。
【0117】
<PCによる処理>
図10は、本発明の計測に係るPCによる全体処理の一例を説明するフローチャートである。
【0118】
ステップS1001乃至ステップS1003の処理は、事前学習の処理である。
【0119】
ステップS1001では、PC10は、基準データを取得する処理を行う。ステップS1001の処理は、図9のステップS0902の処理に相当する。
【0120】
ステップS1002では、PC10は、ウェーブレット変換処理を行う。ステップS1002の処理は、図9のステップS0903の処理に相当する。
【0121】
ステップS1003では、PC10は、SFの選定処理を行う。ステップS1003の処理は、図9のステップS0904の処理に相当する。
【0122】
図11は、本発明の計測に係るPCによるSFの選定処理の一例を説明する図である。
【0123】
図11(a)は、本発明の計測に係るPCによるSFの選定処理の一例を説明するフローチャートである。図11(a)で説明する処理は、図10のステップS1003の処理の一例である。
【0124】
ステップS1101では、PC10は、各SFにおけるウェーブレット係数のピーク数をカウントする処理を行う。
【0125】
ステップS1102では、PC10は、例えばピーク数が最も「安定」、かつ、最小のSFに決定する処理を行う。
【0126】
図11(b)は、本発明の計測に係るPCによるSFの選定処理の一例を説明する図である。
【0127】
ステップS1101の処理は、図11(b)のデータを生成する処理である。図示するように、各SFにおけるウェーブレット係数のピーク数をカウントすることによって、ピーク数が同一となる「安定」した値が計算される。
【0128】
ステップS1101の処理によって、計算された「安定」した値から、例えばSFが最も最小となる値をSFと決定する。
【0129】
なお、実施形態は、SFのピーク数が最も「安定」、かつ、最小のSFに決定する場合に限られない。例えばSFは、平均値によって算出されてもよい。
【0130】
ステップS1004では、PC10は、計測データを取得する処理を行う。ステップS1004の処理は、図9のステップS0906の処理に相当する。
【0131】
ステップS1005では、PC10は、事前学習の処理で決定したSFに基づいてウェーブレット変換処理を行う。ステップS1005の処理は、図9のステップS0907の処理に相当する。
【0132】
ステップS1006では、頂点を検出する処理を行う。ステップS1006の処理は、図9のステップS0908の処理に相当する。
【0133】
ステップS1007では、心拍数を計算する処理を行う。ステップS1007の処理は、図9のステップS0909の処理に相当する。
【0134】
なお、ステップS0901乃至ステップS0904の処理である事前学習の処理は、被験者の腕などの動作が少ない場合に取得した基準データに基づくことが望ましい。
【0135】
図12は、本発明の計測に係る基準データの取得における評価結果の一例を説明する図である。
【0136】
図12(a)は、本発明の計測に係る基準データの取得における被験者の動作に係る評価結果の一例を説明する図である。
【0137】
図示するように、SFは、被験者が腕の動作などが少ない安静な状態にある場合、より「安定」した状態になりやすい。したがって、基準データは、「安定」しやすい状態でSFを決定するために、被験者の動作が少ない場合に計測するが望ましい。
【0138】
図12(b)は、本発明の計測に係る基準データの取得における被験者との距離に係る評価結果の一例を説明する図である。
【0139】
図示するように、SFは、被験者との距離が1メートル、および2メートルの場合でも「安定」した状態である。したがって、基準データは、距離によらずアンプなど各種パラメータの設定を変更することなく、共通の設定による事前学習の処理によって取得できる。
【0140】
PC10は、ドップラーレーダ12から取得した基準データによって、事前学習の処理でSFを決定する。事前学習の処理は、心拍以外のノイズが少ない状態で計測されたデータで行うため、ウェーブレット変換において心拍を精度良く検出できるSFを決定することができる。PC10は、基準データを用いるため、心拍など計測の対象となる人体の動きをウェーブレット変換する際、ノイズなどがあった場合でも心拍のピークを精度良く検出できる。心拍のピークが精度良く検出できることによって、PC10は、心拍のピークに基づいて計算される心拍数を精度良く計算できる。
【0141】
したがって、PC10は、ドップラーレーダ12から取得した計測データ4に対して、事前学習の処理で決定したSFに基づいてウェーブレット変換処理を行うことによって心拍などの計測の精度を良くできる。
【0142】
以上、本発明の好ましい実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【符号の説明】
【0143】
1 情報処理システム
10 PC
10H1 CPU
10H2 記憶装置
10H3 入力装置
10H4 出力装置
10H5 入力I/F
10H6 バス
11 アンプ
12 ドップラーレーダ
12S ソース
12Tx 発信器
12Rx 受信器
12LNA 調整器
12M ミキサー
13 フィルタ
2 被験者
3A マザーウェーブレットレット
3B 縮小されたマザーウェーブレット
3C 拡大されたマザーウェーブレット
4 計測データ
5 解析図
6 評価結果図
61 第一計測結果
62 第二計測結果
63 第三計測結果
64 第四計測結果
71 第一RMSE計算結果
72 第二RMSE計算結果
73 第三RMSE計算結果
74 第四RMSE計算結果
7A グラフ
7B グラフ
7C グラフ
8 心拍のピーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12