(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
触媒材料でできた触媒本体を含み、前記触媒材料は、触媒活性材料を含むかまたは触媒活性材料の前駆体材料を含む、安定化された成形触媒であって、成形触媒の表面の少なくとも一部に、有機バインダーを含む保護コーティングが施されており、
前記有機バインダーは、成形触媒の表面に隣接する層内にのみ存在し、他方、成形触媒の内部は、このような有機バインダーを含まず、及び
前記触媒活性材料が、次の一般式
VPxOyMz
[式中、Mは促進剤であり、xは0.1〜3の数であり、yは、V、P及びMの価数に従う数であり、そしてzは0〜1.5の数である]
に従う組成を有し、及び
前記有機バインダーが少なくとも二種のモノマーのコポリマーを含むか、または前記有機バインダーがポリビニルアセテートである、
ことを特徴とする、成形触媒。
促進剤Mが、クロム、ニッケル、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、タングステン、ニオブ、アンチモン、セシウム及びこれらの混合物から形成される群から選択される金属であることを特徴とする、請求項1に記載の成形触媒。
触媒活性材料が、リチウム、亜鉛、鉄、ビスマス、テルル、銀、モリブデン、ジルコニウム及びこれらの混合物の群から選択される更に別の促進剤を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の成形触媒。
安定化された成形触媒の製造方法であって、触媒活性材料を含むかまたは触媒活性材料の前駆体材料を含む触媒材料を用意し、この触媒材料を成形して触媒本体を得、及びこの触媒本体の表面の少なくとも一部に有機バインダーを施して、有機バインダーにより繋がれた触媒材料の粒子でできた保護コーティングを得て、安定化された成形触媒を得、
ここで有機バインダーの施用のために、少なくとも一種の溶媒中の有機バインダーの溶液及び/または分散液が提供され、そして有機バインダーのこの溶液及び/または分散液が触媒本体の表面の少なくとも一部に噴霧して施用され、及び
前記触媒活性材料が、次の一般式
VPxOyMz
[式中、Mは促進剤であり、xは0.1〜3の数であり、yは、V、P及びMの価数に従う数であり、そしてzは0〜1.5の数である]
に従う組成を有し、及び
前記有機バインダーが少なくとも二種のモノマーのコポリマーを含むか、または前記有機バインダーがポリビニルアセテートである、
ことを特徴とする、前記方法。
促進剤Mが、クロム、ニッケル、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、タングステン、ニオブ、アンチモン、セシウム及びこれらの混合物から形成される群から選択される金属であることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
触媒活性材料が、リチウム、亜鉛、鉄、ビスマス、テルル、銀、モリブデン、ジルコニウム及びこれらの混合物の群から選択される更に別の促進剤を含むことを特徴とする、請求項12または13に記載の方法。
【背景技術】
【0001】
本発明は、触媒本体を含む安定化された成形触媒(catalyst mould)であって、前記触媒本体が触媒材料を含む成形触媒、並びに安定化された成形触媒を製造する方法に関する。
【0002】
多くの触媒は、それらの物理的性質の故に、化学工業に使用される時に、触媒の取り扱いの際の摩耗(abrasion)及び摩減(attrition)によって非常に多量のダスト形成を引き起こす。これらの触媒は非常に多くの場合に有害なまたは有毒でさえある元素または化合物(例えばCr(VI)、V
2O
5、ピロリン酸バナジル、貴金属など)を含むために、このような触媒を取り扱う作業者が生成した触媒ダストに暴露されることは危険である。この観点は、本質的に、2013年に施行されるEU化学品規制(EU Regulation for Chemicals)(REACHと称される)を考慮して考える必要がある。
【0003】
無水マレイン酸は、商業的な関心が大きい化学的中間物である。例えば、無水マレイン酸は、アルキド及びポリエステル樹脂の生産に、単独でまたは他の酸との組み合わせで使用されている。その他、無水マレイン酸は、様々な化学合成、例えばγ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン及び1,4−ブタンジオールの合成に有用な中間物でもあり、これらは、再び溶剤として使用されるか、または更に加工されてポリテトラヒドロフランまたはポリビニルピロリドンなどのポリマーにされる。
【0004】
無水マレイン酸(MA)の製造は、通常は、炭化水素、特にブタンまたはベンゼンを、気相中で、分子状酸素をまたは分子状酸素含有ガスを用いて、バナジウムリン酸化物触媒(VPO)の存在下に部分酸化することによって行われている。様々な酸化触媒、成形触媒の様々な形状、及び様々な手順条件が使用される。一般的に、酸化触媒は、バナジウム及びリンの混合酸化物を含み、この際、3.8〜4.8の価数を有するバナジウムを含むこのような酸化触媒が、直鎖中に少なくとも4つの炭素原子を有する炭化水素からの無水マレイン酸の生産に特に適していることが分かっている。バナジウム、リン及び酸素の他に、例えば、VPO触媒は金属を含んでもよく、このような金属は、酸化触媒中にそれらの酸化物の形で存在し得る。例として、炭化水素の不均一系触媒気相酸化による無水マレイン酸の生産には、バナジウム、リン及び酸素を含み及び様々な幾何形状を持つ成形触媒が使用される。
【0005】
例えば、従来技術において無水マレイン酸の製造に使用される典型的な触媒は、リングまたは中空シリンダの形態を取る。これらのリングまたは中空シリンダは、触媒活性材料を含むかまたは触媒活性材料の前駆体材料を含む粉体を圧縮することによって製造される。このような成形触媒は、比較的低い破砕強度を示し、それ故、摩耗及び摩減する強い傾向を持つ。例えば製造後にドラムに詰める間、輸送中、ドラムを空にする間、及び最終的な反応器への装填中に、触媒リングが機械的な応力に付されると、摩耗及び摩減のためにダストが多量に形成する。篩い分けによるこれらの微細物の分離は一次的な対策に過ぎない。なぜならば、任意の更なる機械的応力が新しいダストの形成を招くからである。
【0006】
この多量のダストの形成は、触媒の取り扱い及び反応器中での触媒の使用にとって重大な欠点をまねく。
1.無水マレイン酸を製造するための触媒の活性成分は、ピロリン酸バナジルを含み、これは、毒性でありかつ環境に有害であると考えられている。例えばドラムに詰める間、ドラムから取り出す間及び反応器に装填する間に、この触媒を扱う作業者は、大がかりな個人用保護具を身につける必要がある。また、触媒を取り扱う時はいつでも、作業者や環境が触媒ダストに暴露されることをできるだけ少なくするために、然るべき真空システムを設置しなければならない。これらの大がかりな保護手段は、費用集約的であり、また時折、実現困難である。
2.触媒微細物が触媒の装填中に反応器管中に到達すると、個々の反応器管の不揃いの圧力低下が起こるかもしれない。しかし、良好な触媒性能及び反応器の安全な運転のためには、個々の反応器管の圧力低下は、所定の許容範囲内に抑えることが重要である。個々の管中の圧力低下が、かなりの量の微細物のために許容範囲を超えてしまうと、これらの管を空にし、そして例えば篩い分けされたもしくは新鮮な成形触媒で再充填する必要がある。時間と作業労力がますますかかる上に、追加の新鮮な成形触媒の使用によってコストも高くなる。
3.化学品の登録、評価、認可及び制限のための欧州連合が管理するREACHの故に、完全なプロセスチェーンのための暴露のシナリオを確立しなければならない。また、この観点の下に、非ダスチング触媒を提供できることも有用であろう。
【0007】
触媒の製造と取り扱いの間のダスト形成の問題は、特定の触媒、例えば無水マレイン酸またはホルムアルデヒドの製造のための触媒に限った話ではなく、摩減強度が低い全ての触媒に共通している。
【0008】
摩減強度が低い触媒の他の例は、Houdry−Catofin(登録商標)プロセスに従うことによる、プロパンなどの炭化水素からプロピレンなどのオレフィンへの非酸化的脱水素化のための触媒である。このようなプロセスは、例えばUS2007/32691A1(特許文献1)に記載されている。その触媒は、通例、例えば3mmの公称直径を有する押出物の形で提供される。この触媒は、Cr
2O
3及びアルミナを含む。クロムは基本的にCr(III)として含まれるが、毒性の高いCr(VI)がかなりの量で常に存在する。
【0009】
耐摩減性の低い触媒の他の例は、例えばUS2006/0142619A1(特許文献1)に記載のような、メタノールからホルムアルデヒドを製造するためのモリブデン酸鉄触媒である。この触媒は、Fe
2(MoO
4)
3とMoO
3との混合物を含み、Mo/Fe原子数比は1.5〜5である。
【0010】
US2006/0135821A1(特許文献2)は、上述のものと類似するメタノールからホルムアルデヒドへの酸化のための触媒を開示している。この触媒を製造するための方法は、原料を水溶液の状態で混合し、この溶液を次いで噴霧乾燥機に供給することを含む。生じる粉体は、潤滑化の後に、三小葉形態の断面を有するシリンジ型のペレットに変形させる。貫通穴がこの葉状部に設けられる。このペレットを500℃で四時間か焼して、触媒を形成する。
【0011】
触媒材料、特に100%活性材料で形成された触媒本体を反応器に充填する間、作業者をダストによる汚染から完全に保護することは殆ど不可能である。工業的規模での製造に使用されるような典型的な反応器の充填は約四日間から六日間続き、その際、最大30トンの触媒材料が反応器に充填される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
成形触媒の外側表面に形成された保護層によって、成形触媒の摩減及び摩耗耐性は大きく高まり、そして本発明による成形触媒の通常の取り扱いの間にはダストの形成はほとんど観察されない。更に、成形触媒の縁も安定化され、それ故、触媒の取り扱いの間、例えば反応器の充填の間に剥がれる触媒材料の量が最小化される。該保護コーティングの接着性は、ペレット化(キャッピング)の間に起こり得る亀裂をも安定化させ、それによってダストの形成を更に最小化する。更に、平滑な表面を提供するバインダーでできた外側保護層の故に、該成形触媒は互いに対して非常にスムーズに滑り合うことができ、このことは、例えば輸送のためのドラムの充填または反応器の充填の間の触媒の取り扱いを更に容易にする。
【0017】
有機バインダーは、成形触媒の表面に隣接する層内にのみ存在し、他方、成形触媒の内部は、このような有機バインダーを含まない。
【0018】
非常に少量のバインダーのみが、成形触媒の外側に保護コーティングを形成するのに必要であるため、有機バインダーは、例えば成形触媒が反応器管中に充填された後には、簡単にかつ残渣を残すことなく再び除去することができる。バインダーの除去は、例えば触媒材料中に含まれる触媒活性材料の前駆体材料の活性化の間に、例えば空気などの酸素含有雰囲気中で、例えば成形触媒を加熱することによって、マイルドな条件で行うことができる。有機バインダーでできた保護コーティングは簡単に除去できるため、触媒活性材料の本質的なパラメータ、例えばそれのBET表面積、それの細孔体積及び細孔サイズ分布は、有機バインダー除去の間に変化しないか、または保護コーティングを設けないで調製された触媒のパラメーターを比べて、少なくとも悪くは変化しない。触媒性能、例えば触媒活性材料の活性、それ故、触媒寿命は、有機バインダーを含む保護コーティングの適用によって悪影響は受けない。それとは反対に、反応器充填の間に生成されるダストの量がより少ないために、触媒の寿命を長くすることができ、そして例えば反応器に反応ガスを供給するのに使用される圧縮機の電力消費が減少することによって、反応器装填の全体的な効率を高めることができる。
【0019】
保護コーティングを形成するのに必要なバインダーの量は非常に少量に選択でき、それ故、成形触媒は、有機バインダーを触媒本体に適用する時に互いに接着しないで、自由流動状態を維持する。触媒本体の触媒材料によって提供される多孔性の故に、バインダーは、触媒本体に施用された時、その施用の間に直ぐに吸着され、及びバインダーの粘着質なフィルムは成形触媒表面上に生じない。それ故、成形触媒の対になったものやより大きな集団の形成は確実に避けられる。更に、本発明による成形触媒中に含まれるバインダー量が少ないことから、バインダーはマイルドな反応条件下に実に簡単に除去できる。バインダーの除去は、例えば触媒の活性化の間に、触媒の活性または性能に悪影響を及ぼす恐れのある残渣を後に残すことなく行うことができる。
【0020】
それ故、本発明の一般的な態様は、触媒材料でできた触媒本体を含み、前記触媒材料は、触媒活性材料を含むかまたは触媒活性材料の前駆体材料を含む、安定化された成形触媒であって、触媒本体の表面の少なくとも一部に、有機バインダーを含む保護コーティングが施されていることを特徴とする、成形触媒を対象とする。
【0021】
一つの態様では、成形触媒の少なくとも外側幾何学的表面に、有機バインダーを含む保護コーティングが施されている。成形触媒または触媒本体の幾何学的表面とは、成形触媒または触媒本体の形状に対応する幾何学的形状の表面のことと解され、例えば、成形触媒が球体の形状を取る場合には、幾何学的表面は、球体の表面である(4πr
2)。この幾何学的形状は孔を持たず、平滑で緻密な表面を有する。
【0022】
外側幾何学的表面とは、触媒を取り扱う間、例えば反応器を充填する間に互いに接触して擦り合い、そうして摩減を起こす恐れのある成形触媒表面の部分のことと解される。成形触媒は、例えば貫通孔を含むことができ、これは例えば中空シリンダの形を取る時である。成形触媒幾何学的表面のこのような保護された部分は、成形触媒の内側幾何学的表面と解される。内側幾何学的表面は、例えば中空シリンダの貫通孔によって形成される表面である。
【0023】
好ましくは、成形触媒幾何学的表面の少なくとも50%に、有機バインダーを含む保護コーティングが施される。他の態様の一つでは、成形触媒幾何学的表面の少なくとも70%に、有機バインダーを含む保護コーティングが施され、そして更に別の態様の一つでは、成形触媒幾何学的表面の少なくとも90%に、有機バインダーを含む保護コーティングが施される。
【0024】
更に別の態様の一つでは、成形触媒の全幾何学的表面(100%)に、有機バインダーを含む保護コーティングが施される。
【0025】
「表面」という用語は、成形触媒の幾何学的表面を示し、そして例えばシリンダまたは球体の表面であることができる。
【0026】
一つの態様による成形触媒は、触媒材料の点で、すなわち有機バインダーの施用の前に、均一な組成を持つ。一つの態様では、成形触媒は、触媒活性材料またはそれの前駆体材料を含む触媒材料の少なくとも一つの層を含むシェルで覆われた不活性キャリアを含むシェル形触媒ではない。
【0027】
成形触媒とは、外側幾何学的表面の少なくとも一部に有機バインダーを含む保護コーティングが施された触媒本体のことと解される。
【0028】
触媒本体とは、触媒材料を含む特性の形状を持つ触媒の本体と解される。触媒本体は、有機バインダーを含む保護コーティングを含まない。
【0029】
保護コーティングとは、有機バインダー及び触媒材料から形成された層のことと解され、ここで、触媒材料の粒子は、有機バインダーによって繋がれて、それによって、触媒本体の外側表面のところに層が形成して、成形触媒の幾何学的表面の少なくとも一部にそれの保護コーティングが形成される。
【0030】
触媒材料とは、触媒活性材料を含むかまたは触媒活性材料の前駆体材料を含む材料のことと解される。
【0031】
触媒活性材料または触媒活性材料の前駆体材料の他に、触媒材料は、他の成分、例えば不活性固形希釈材、造孔剤、例えばおが屑、タブレット化用助剤、潤滑剤などを含んでいてもよく、これらは、好ましくは、触媒の活性化の間に除去される。
【0032】
触媒活性材料とは、それの活性形態で提供されそして特定の反応、例えば酸化反応を触媒する化合物または材料と解される。
【0033】
触媒活性材料の前駆体材料とは、好ましくは化学的または熱的反応、例えば前駆体材料を酸化物に変換することによって、触媒活性材料に変換できる化合物または材料のことと解される。
【0034】
一つの態様では、触媒材料は、少なくとも50重量%の触媒活性材料を含むか、またはそれの等価の量の触媒活性材料の前駆体材料を含む。一つの態様では、触媒材料は、少なくとも70重量%の及び更に別の態様の一つでは少なくとも90重量%の触媒活性材料を含むか、またはそれの等価の割合の触媒活性材料の前駆体材料を含む。
【0035】
一つの態様では、触媒材料は、100重量%までの触媒活性材料からできているか、またはそれの等価の割合の前駆体材料からできている。
【0036】
一つの態様では、触媒本体は、触媒材料からなる。
【0037】
本発明では、成形触媒または触媒本体の外側層の固定及び安定化に有機バインダーが使用され、それによって保護コーティングが形成される。
【0038】
基本的に、接着効果を持つものであれば任意の有機材料を有機バインダーとして使用できる。保護コーティングの形成には小さなバインダー分子が適切であり得、例えばグリセロールなどが適している。しかし、より大きい分子量を有する有機バインダー、例えばポリマーを用いた場合に、成形触媒の安定性に関してより良好な結果が得られる。
【0039】
態様の一つでは、成形触媒の表面の少なくとも一部に施されそして保護コーティングを形成する有機バインダーは、少なくとも100g/モルの数平均分子量、更に別の態様では、少なくとも500g/モルの数平均分子量、他の態様では、少なくとも1,000g/モルの数平均分子量、他の態様では、少なくとも2,000g/モルの数平均分子量、他の態様では、少なくとも5,000g/モル、更に別の態様では少なくとも10,000g/モルの数平均分子量を有する。他の態様によれば、保護コーティングを形成するために成形触媒の表面の少なくとも一部に施される有機バインダーは、500,000g/モル未満、他の態様では200,000g/モル未満の数平均分子量を有する。
【0040】
一つの態様では、有機バインダーはポリマーを含むかまたはポリマーでできている。ポリマーは、基本的に、任意の構造を有してよく、例えば線状ポリマーまたは分枝状ポリマーであることができる。ポリマーは架橋されていることができ、または架橋のない構造を有していることができる。
【0041】
一つの態様では、ポリマーは線状構造を有する。
【0042】
他の態様の一つでは、ポリマーは、少なくとも二種のモノマーのコポリマーとして形成される。一つの態様によれば、コポリマーは、正確に二種または正確に三種のモノマーから形成される。
【0043】
ポリマーについて既に述べた通り、コポリマーは任意の構造を有することができ、例えば線状構造または分枝状構造を持つことができ、または架橋されていることができる。
【0044】
他の態様の一つによれば、有機バインダーのコポリマーは線状コポリマーである。
【0045】
一つの態様では、有機バインダーのポリマー、一つの態様ではコポリマーは、炭素、水素、酸素及び窒素からなる群から選択される原子を含み、一つの態様では、炭素、水素及び酸素からなる群から選択される。一つの態様では、有機バインダーのコポリマーは、炭素、水素、酸素及び窒素からなる群から選択される原子からなり、更に別の態様では、炭素、水素及び酸素から選択される原子からなる。
【0046】
一つの態様では、有機バインダーは、第一のビニルモノマーと、重合可能な少なくとも一種の他のモノマーとのコポリマーを含む。この他のモノマーは、一つの態様では少なくとも一つの、一つの態様では正確に一つの、重合可能な炭素−炭素二重結合を含む。
【0047】
この他のモノマーが、他のビニルモノマーであることができる。この他のビニルモノマーは、第一のビニルモノマーとは異なるものである。この他のビニルモノマーは、特定の構造のビニルモノマー、すなわち第二のビニルモノマーであることができるか、またはビニルモノマーの混合物、すなわち第二、第三等のビニルモノマーを含むことができる。
【0048】
一つの態様によれば、第一のビニルモノマーは、酢酸ビニル、ビニルアルコール、ビニルピロリドンの群から選択される。
【0049】
他のモノマーは、一つの態様によれば、ビニルモノマー、特に第一のビニルモノマーについて上述したビニルモノマー、エチレン、プロピレン及び/または無水マレイン酸の群から選択される。これらのモノマーは、単独でまたは互いに組み合わせて使用することができる。
【0050】
他の態様によれば、ポリビニルアセテート、特に酢酸ビニル及びエチレンをモノマーとして含むポリビニルアセテートが有機バインダーとして使用される。ポリビニルアセテート、特に酢酸ビニル及びエチレンモノマーを含むポリビニルアセテートは、水不溶性であるが、水中に簡単に分散でき、それ故、例えばポリマーもしくはコポリマーのエマルションもしくは懸濁液を触媒本体に噴霧することによって(この際、前記触媒本体は、好ましくは噴霧中に攪拌される)、または例えば触媒本体を、ポリマーもしくはコポリマーのエマルションもしくは懸濁液で含浸することによって、触媒本体に施用することができる。
【0051】
高められた温度、例えば300℃〜500℃の温度において、有機バインダー、一つの態様ではポリビニルアセテート、特にポリビニルアセテートコポリマーは分解して、例えば酢酸、二酸化炭素及び水となり、それ故、例えば触媒活性材料の前駆体材料の活性化の間に、簡単に成形触媒から除去することができる。
【0052】
一つの態様によれば、有機バインダーとして使用されるコポリマーはビニルアルコールモノマーを含む。
【0053】
更に、一つの態様によれば、有機バインダーを形成するコポリマーはマレイン酸モノマーを含む。
【0054】
代替的な態様では、本発明による成形触媒中に有機バインダーとして使用されるポリマーは、一種のモノマーのみを、一つの態様では酢酸ビニルのみを含む。
【0055】
一つの態様によれば、有機バインダー中に含まれるポリマーは、部分的にケン化されたポリビニルアセテートであり、そのため、このポリマーの化学的性質は、「ポリ(ビニルアルコール−酢酸ビニル)のコポリマー」とも記載することができる。
【0056】
「ポリビニルアセテート」という用語は、本発明の意味において使用される時、通常のまたは未加水分解の酢酸ビニルモノマーを含むポリマーのことを言う。ポリビニルアセテートは、一つの態様では、ビニルアルコールモノマーも含むことができ、そうして、一つの態様では、遊離のOH基、及び酢酸でエステル化されたOH基の両方が、ポリビニルアセテート中に同時に存在する。
【0057】
他の態様の一つでは、有機バインダーを形成するポリマーは、ポリ(メタ)アクリラート、例えばアクリル/メタクリラートエステル、メチル(メタ)アクリラート/ブチル(メタ)アクリラート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリラート及び他の(メタ)アクリラートである。ポリ(メタ)アクリラートバインダーの利点は、これらが、有機酸を生成することなく比較的低温で分解することである。
【0058】
本発明の更なる態様の一つは、有機バインダー中に含まれるポリマーとしての水溶性セルロース誘導体、好ましくはセルロースエーテル及びエステルに関する。セルロースエーテルの中でも、ヒドロキシエチルセルロース及びヒドロキシプロピルセルロースが好ましく、セルロースエステルの中ではセルロースアセテートが好ましい。
【0059】
ヒドロキシエチルセルロールは毒性がなく、過剰の酸素中で200℃を超える温度で残渣を生じることなく分解してCO
2及び水になる。ヒドロキシエチルセルロールは水溶性であり、それ故、例えば噴霧または含浸によって、触媒本体に施用することができる。乾燥の間に、接着性を持った安定したフィルムが生じ、それによって、成形触媒の表面上に本発明の意味での保護コーティングが生じる。
【0060】
更なる態様の一つでは、デンプン、加工デンプン、デキストリン、及び可塑剤、例えばポリプロピレンで変性されたデキストリンが、有機バインダー中に含まれるポリマーとして使用される。
【0061】
既に上に述べた通り、成形触媒を安定化させ及びダストの形成を減少もしくは防止するためには、少量のバインダーしか必要ではない。
【0062】
一つの態様による成形触媒中に含まれる有機バインダーの量はできるだけ少なく選択され、そうして成形触媒は、有機バインダーによって外側層中に浸透されるだけであり、それによって薄い保護コーティングが形成される。
【0063】
一つの態様によると、保護コーティングは、成形触媒の体積の50%未満を占め、態様の一つでは成形触媒の体積の20%未満、他の態様の一つでは成形触媒の体積の10%未満、他の態様の一つでは5%未満、他の態様の一つでは2%未満を占める。一つの態様では、保護コーティングは、成形触媒の体積の0.01%超、一つの態様では成形触媒の体積の0.1%超を占める。既に上述したように、保護コーティングが占める体積は、成形触媒の外側表面に隣接して位置し、そうして、一つの態様では、成形触媒の内側部分は有機バインダーがない状態のままであることができる。
【0064】
浸透の深さ、すなわち保護コーティングの厚さは、一つの態様では300μm未満である。浸透の最小深さ、すなわち保護コーティングの厚さは、一つの態様では少なくとも約50μmである。有機バインダーは、好ましくは、成形触媒の外側上に存在するかなりの厚さの層を形成しない、すなわち有機バインダーは、ほぼ完全に触媒本体中に浸透している。
【0065】
有機バインダーが少量であること及び触媒本体中への有機バインダーの浸透深さが短いことから、隣接している成形触媒は互いに接着しない。例えば溶液、エマルションまたは懸濁液の形態の有機媒体の施用の間、触媒本体は、「ドライ」な外観を有し、自由流動性である。接着剤の外層、すなわち成形触媒中に浸透していない有機バインダーの層は、一つの態様によれば、乾燥後に10μm未満の層厚を有する。
【0066】
一つの態様によれば、本発明による成形触媒中に含まれる有機バインダーの量は、それぞれ成形触媒の重量に対して、少なくとも0.05重量%、他の態様によれば少なくとも0.1重量%、更に別の態様によれば少なくとも0.25重量%である。他の態様によれば、成形触媒中に含まれる有機バインダーの量は、それぞれ成形触媒の重量に対して、多くとも5.0重量%、他の態様によれば多くとも1.0重量%、他の態様によれば多くとも0.75重量%、更に別の態様によれば多くとも0.5重量%である。百分率は、溶媒を含まない有機バインダーを基準とする。
【0067】
本発明による成形触媒では、バインダーは、成形触媒の外側表面付近または外側表面のところに存在する触媒材料と共に保護コーティングを形成する。触媒材料または触媒本体は多孔性であり、そのため、バインダーは、液状の形態で、すなわち溶液、懸濁液またはエマルションの形態で触媒本体に施用された時に材料中に浸透できる。
【0068】
一つの態様によれば、成形触媒への有機バインダーの浸透深さ、すなわち保護コーティングの厚さは、せいぜい300μm、他の態様によればせいぜい200μm、更に別の態様によればせいぜい100μmである。成形触媒に十分な安定性を提供するためには、一つの態様によれば、成形触媒中への有機バインダーの浸透深さ、すなわち保護コーティングの厚さは、少なくとも50μmである。
【0069】
一つの態様では、成形触媒は自由流動性である。
【0070】
成形触媒は、基本的に、任意の形状及び任意のサイズを有することができる。
【0071】
一つの態様によれば、成形触媒は、最大の寸法が20mm、他の態様によれば最大の寸法が10mm、他の態様によれば最大の寸法が5mm、他の態様によれば最大の寸法が4mm、更に別の態様によれば最大の寸法が3mmである。
【0072】
他の態様によれば、成形触媒は、最大の寸法が少なくとも1mm、他の態様によれば最大の寸法が少なくとも2mmである。
【0073】
成形触媒の幾何形状は、一般的に、触媒活性材料の化学的性質にも、この触媒によって触媒される反応のタイプにも依存しない。しかし、特定のケースでは、成形触媒の或る特定の形状が、収率及び選択性、圧力低下、熱及び質量輸送現象などの特定の理由の故に、特定の触媒及び反応にとって好ましいこともあるであろう。それ故、原則的に、全ての幾何学的形状の触媒本体または成形触媒を、本発明を実施するために使用することができる。
【0074】
一つの態様によれば、成形触媒は、塊状のボディ、例えばシリンダ、球体、円形タブレットなどの形態を取ることができる。
【0075】
他の態様の一つによれば、成形触媒は少なくとも一つの貫通穴を有し、一つの態様によれば正確に一つの貫通穴または正確に二つの貫通穴を有する。この時、成形触媒は、例えばリングまたは中空シリンダの幾何学的形状を取ることができる。一つの態様による中空シリンダの前面は、どちらも外側の縁と内側貫通穴の縁の方向に面取りされるか、またはどちらか一方向のみに、例えば外側縁の方向にのみ面取りされる。
【0076】
一つの態様による貫通穴は、少なくとも1mm、他の態様では、少なくとも2mmの直径を有する。他の態様の一つでは、貫通穴の直径は4mm未満、一つの態様では2.5mm未満である。
【0077】
一つの態様によれば、成形触媒は回転対称形態を有する。
【0078】
成形触媒は、他の幾何学的形態、例えば三葉形態、四葉形態または直方形態、例えば立方体またはプリズムの形態を取ることもできる。
【0079】
一つの態様によれば、成形触媒は、無水マレイン酸の製造、例えば少なくとも四つの炭素原子を有する炭化水素の不均一系触媒化気相酸化による無水マレイン酸の製造のための触媒として設計される。
【0080】
基本的に、全ての触媒材料、または言い換えれば、無水マレイン酸の製造のために既知の全ての触媒活性材料、または触媒活性材料の各々の前駆体材料を、本発明による成形触媒中に含まれる触媒材料のために使用できる。
【0081】
一つの態様によれば、成形触媒は、バナジウムリン混合酸化物をまたはバナジウムリン混合酸化物の前駆体材料を含む触媒材料を含む。
【0082】
バナジウム、リン及び酸素の他に、触媒材料は、触媒活性材料の性能を改良するための更に別の促進剤を含むことができる。
【0083】
一つの態様によれば、触媒活性材料は、次の一般式に従う組成を有する。
VP
xO
yM
z
式中、Mは促進剤であり、xは0.1〜3の数であり、yは、V、P及びMの価数に従う数であり、そしてzは0〜1.5の数である。
【0084】
促進剤Mは、金属であることができ、この金属は、他の態様によれば、クロム、ニッケル、マグネシウム、アルミニウム、ケイ素、タングステン、ニオブ、アンチモン、セシウム及びこれらの混合物から形成される群から選択できる。
【0085】
触媒活性材料は更に別の促進剤も含むことができる。他の態様の一つでは、この更に別の促進剤は、リチウム、亜鉛、鉄、ビスマス、テルル、銀、モリブデン、ジルコニウム及びこれらの混合物の群から選択される。
【0086】
一つの態様によれば、促進剤は、酸化物の形で、または(例えば酸素含有雰囲気中で加熱することによって)酸化物に変換できる前駆体化合物の形で存在する。一つの態様によれば、促進剤または複数種の促進剤の混合物は、その酸化物の形態で触媒活性材料の総重量に対して酸化物として計算して0.005〜5重量%の量で存在する。
【0087】
触媒本体、すなわち成形触媒の保護層中に含まれる有機バインダーの施用の前または除去の後の形である触媒本体のBET表面積は、一つの態様では10〜300m
2/gの範囲内で選択され、他の態様の一つによれば12〜80m
2/gの範囲であり、他の態様の一つでは15〜50m
2/gの範囲である。BET表面積は、DIN66132に従い窒素の吸着による1点法を用いて決定する。
【0088】
他の態様の一つでは、触媒材料、一つの態様では触媒本体、すなわち成形触媒の保護層中に含まれる有機バインダーの施用前または除去後の形である触媒本体の全(integral)細孔体積(DIN66133(Hg多孔度測定)により決定)は、>100mm
3/g、他の態様の一つでは>180mm
3/gである。更に別の態様の一つでは、触媒材料のまたは一つの態様では触媒本体の全細孔体積は<300mm
3/gである。
【0089】
他の態様の一つでは、成形触媒は、メタノールの酸化によるホルムアルデヒドの製造のための触媒として設計される。
【0090】
一つの態様では、触媒活性材料はモリブデン酸鉄を含む。他の態様の一つでは、触媒活性材料は、Fe
2(MoO
4)
3及び三酸化モリブデン(MoO
3)を含む。Fe/Mo比率は、一つの態様では、1.5超で5未満の範囲内で選択される。
【0091】
Fe
2(MoO
4)
3及び三酸化モリブデン(MoO
3)の他に、触媒活性材料は更に別の化合物を含むことができる。一つの態様では、触媒活性材料は、更に別の化合物として、セリウム、モリブデン及び酸素の化合物を含む。一つの態様では、更に別の化合物は、セリウムとして表して0.1〜10重量%の量で存在する。
【0092】
適当な触媒活性材料は、例えばUS2006/0135821A1(特許文献2)及びUS2006/0142619A1(特許文献3)に記載されている。
【0093】
他の態様の一つでは、成形触媒は、プロパンなどの炭化水素を非酸化的に脱水素化してプロピレン等のオレフィンにすることによるプロピレンの製造のための触媒として設計される。この態様では、触媒活性材料はCr(III)を含む。
【0094】
他の態様の一つでは、成形触媒は、炭化水素の酸化のための触媒、特にプロパンの酸化によるアクリル酸の製造のための触媒として設計される。このような態様では、触媒材料は、モリブデン、バナジウム、ニオブ、テルル、マンガン及びコバルトを含み、ここでマンガン及びコバルトから選択される少なくとも一つの元素とモリブデンとのモル比は、0.01〜0.2の範囲、好ましくは0.02〜0.15の範囲内であり、より好ましくは0.03:1〜0.1:1の範囲内である。一つの態様によれば、触媒材料は、次式の混合酸化物で形成されている。
MoV
aNb
bTe
cMn
dCo
eNi
fO
x
式中、以下の必要条件のうちの少なくとも一つが該当する:
a=0.22または0.23、
b=0.18または0.195、
c=0.18または0.196、
d=0.07または0.08、
e=0.0375、
f=0または0.02、及び
x=2.635、または酸素とは異なる元素の価数及び量によって決定されるモル数。
【0095】
他の態様の一つでは、成形触媒は、アクリル酸を得るためのアクロレインの酸化のための触媒として設計される。この態様による触媒材料は、ナノ結晶性混合モリブデン酸化物であり、これは次のようにして得られる:
a)モリブデン出発化合物と、タングステン含有及び/またはバナジウム含有出発化合物から選択される少なくとも一種の他の金属含有出発化合物とを含む溶液、懸濁液またはスラリーを、キャリア液を用いて反応室中に導入し、
b)モリブデン出発化合物及び少なくとも一種の他の金属含有出発化合物を含む前記溶液、懸濁液またはスラリーを、熱処理域中で、脈動流を用いて、200〜500℃の温度で熱処理し、
c)ナノ結晶性モリブデン混合酸化物を形成し、
d)ステップb)及びc)で得られたナノ結晶性モリブデン混合酸化物を反応器から排出する。
【0096】
このようなナノ結晶性混合モリブデン酸化物は、例えばWO2009/121626(特許文献4)に記載されている。
【0097】
他の態様の一つによれば、成形触媒は、オレフィンの酸化によるα,β−不飽和アルデヒドの製造のための触媒として設計される。この成形触媒の触媒材料は複合材料であって、これは次のようにして得ることができる。
a)ビスマスとニッケルまたはビスマスとコバルトの塩を含む第一の水溶液を用意し;
b)モリブデン化合物、任意選択的に及びバインダー剤を含む第二の水溶液を用意し;
c)第一の水溶液を第二の水溶液に添加し、第一の懸濁液を得;
d)第二の懸濁液を第一の懸濁液に添加し、その際、第三の懸濁液が得られ、ここで第二の懸濁液は、0.1〜10ml/gの範囲の細孔体積及び3〜20μmの範囲の平均粒度を有するSiO2を含む;
e)第三の懸濁液を200〜600℃の範囲の温度で噴霧か焼し、この際、ビスマス−モリブデン−ニッケル混合酸化物またはビスマス−モリブデン−コバルト混合酸化物を含む複合材料が得られる。
【0098】
このような触媒材料は、例えばWO2013/021020(特許文献5)に記載されている。
【0099】
他の態様の一つによれば、本発明による成形触媒は、少なくとも四つの炭素原子を有する炭化水素の不均一系触媒化気相酸化による無水マレイン酸の製造のために設計される。この態様による成形触媒は、バナジウムリン混合酸化物の触媒活性材料またはそれの前駆体材料を含み、そして本質的に中空シリンダ形状の構造を有する。この中空シリンダは、一つの態様によれば貫通穴の直径に対する高さの比率が最大で1.5であり、更に成形触媒の幾何学的体積に対する幾何学的表面積の比率が少なくとも2mm
−1であるように形成される。このような触媒の幾何学的形状は、例えばUS2003/0114688A1(特許文献6)に記載されている。
【0100】
他の態様の一つによれば、本発明による成形触媒は、無水マレイン酸の製造が意図されており、この際、この成形触媒は、外表面に少なくとも一つの窪み空間を持つ塊状幾何学的形態を含む。触媒活性材料は、バナジウムとリンの混合酸化物で形成される。成形触媒または触媒本体は、塊状幾何学的形態が窪み空間が無い場合に持つ幾何学的体積の30〜67パーセントの幾何学的体積を有し、ここで、成形触媒または触媒本体の幾何学的体積に対する成形触媒または触媒本体の幾何学的表面積の比率は少なくとも20cm
−1である。成形触媒または触媒本体のこの幾何学的形態は、例えばWO92/05870(特許文献7)に記載されている。
【0101】
他の態様の一つによれば、本発明による成形触媒は、無水マレイン酸の製造に意図されており、そして触媒活性材料は、触媒成分としてのバナジウム及びリンの混合酸化物を含んでいる。成形触媒の性質を改善するためには、一つの態様によれば成形触媒を包み込む触媒形状は、第一及び第二の三角エリアを有するプリズムであり、そして成形触媒は三つの連続穴を持って提供され、この連続穴は、プリズムの第一の三角エリアと接する成形触媒の第一のエリアから、プリズムの第二の三角エリアと接する成形触媒の第二のエリアまで延在している。このような成形触媒の幾何形状は、例えばUS2009/0306410A1(特許文献8)に記載されている。
【0102】
更に別の観点によれば、本発明は、安定化された成形触媒の製造方法に関する。
【0103】
本発明による方法では、触媒活性材料を含むかまたは触媒活性材料の前駆体を含む触媒材料を用意し、そして触媒本体に成形する。次いで、この触媒本体に、少なくともその表面の一部に有機バインダーの層を設けて、有機バインダーによって繋がれた触媒材料の粒子でできた保護コーティングを得、それによって安定化された成形触媒を提供する。
【0104】
触媒本体の成形は、当業者には既知の方法によって行われる。
【0105】
第一の態様では、触媒材料は塊状の触媒本体に成形される。塊状の触媒本体とは、その全体が触媒材料で形成されている触媒本体と解される。このような塊状触媒本体を得るための適当な方法は、例えば、触媒活性材料を含むかまたは触媒活性材料の前駆体を含む塊または粉体をタブレット化または押出しすることによる。触媒活性材料または触媒活性材料の前駆体の他に、通常の助剤化合物、例えば造孔剤または潤滑剤、例えばグラファイトが触媒材料中に含まれていることができる。
【0106】
第二の態様では、触媒本体は、触媒活性材料をまたは触媒活性材料の前駆体材料を含む触媒材料の少なくとも一つの層で形成されたシェルで囲まれる不活性支持体コアで形成されている。第二の態様による触媒本体は、シェル形触媒本体の形態を取る。
【0107】
触媒材料を含むシェル形触媒本体の層はバインダーを含まず、特に有機バインダーを含まない。それ故、シェル形触媒本体のシェルは脆く、シェル形触媒本体の取り扱いの間に簡単に剥落して、強いダストの形成を招く。
【0108】
本発明による方法の第二の態様によるシェル形触媒本体を得るためには、先ず、予備段階のシェル形触媒本体を製造する。
【0109】
予備段階のシェル形触媒本体を得るためには、不活性支持体コアを、予備段階の触媒材料でコーティングして、不活性支持体コアが、予備段階の触媒材料の少なくとも一つの層を含むシェルで囲まれるようにする。
【0110】
予備段階触媒材料は、触媒活性材料または触媒活性材料の前駆体、及びバインダー、特に有機バインダーを含む。シェル型触媒の製造に通例使用される有機バインダー、例えば上述のような有機バインダーを使用することができる。
【0111】
一つの態様によれば、予備段階シェル型触媒本体は、シェル内に触媒活性材料の前駆体を含む。
【0112】
次いで、予備段階シェル型触媒本体を、酸化性雰囲気中で、好ましくは空気中で加熱してバインダーを除去し、及び一つの態様では、触媒活性材料の前駆体を触媒活性材料に変換することによって、予備段階シェル型触媒本体を、本発明による方法で触媒本体として使用されるべきシェル型触媒本体へと変換する。
【0113】
触媒活性材料を含む第二の態様で使用されるシェル型触媒本体のシェルは、有機バインダーを含まず、それ故、非常に脆く、それ故、機械的応力を受けた時に不活性支持体ボディから容易に剥落する。
【0114】
シェル型触媒本体の脆いシェルにバインダー、特に有機バインダーを適用することによって、高い機械的安定性を有する成形触媒が得られ、これは、例えば、不活性支持体コアから相応な量のシェルが剥落することなく、反応器の管に装填することができる。
【0115】
一つの態様によれば、シェル型触媒のシェル全体が有機バインダーによって浸透される。
【0116】
この第二の態様は、活性化に高い温度を必要とする触媒活性材料の前駆体、特に、反応器中でその意図された用途の間に触媒が受ける温度よりもかなり高い活性化温度を必要とする触媒活性材料の前駆体を含むシェル型触媒に特に適している。このようなシェル型触媒は、通常は触媒の用途に意図された反応器内では活性化されず、より高い温度用に構成された活性化反応器中で活性化される。活性化後、活性化された触媒は、意図された反応に使用するための反応器中に装填される。
【0117】
耐摩減性が低い例示的なシェル型触媒は、アクロレインの製造のためのビスマス/モリブデンをベースとする触媒である。この触媒は、不活性な支持体ボディを含み、これは、この不活性な支持体ボディの周りにシェルを形成する触媒活性材料の層でコーティングされている。コーティングプロセスのためには、シェルが不活性支持体ボディに付着することを確実にするために適切な有機バインダーを使用する必要がある。このコーティング手順は十分に確立されており、例えば、無水フタル酸の製造のための触媒などの他のシェル型触媒の製造から既知である。通常は、このようなシェル型触媒の有機バインダーは、反応器の加熱中にインサイチュー(in situ)で除去される。アクロレインの製造のための触媒の場合は、触媒は、約330℃である反応温度よりもかなり高い約600℃の温度で熱的に活性化する必要がある。この温度活性化の間に、有機バインダーは残渣なく除去される。有機バインダーの除去の後、触媒活性材料を含むシェルは、不活性支持体ボディに対し非常に弱い付着性を示す。触媒の取り扱い、例えばドラムへの充填、反応器への触媒の装填などの間、摩耗のために非常に強いダストの形成が起こる。事実、シェルの付着性は、触媒の取扱中に殆ど全てのシェルが剥落するほどに弱い。これは、本発明方法による、有機バインダー、例えばアクリル−/メタクリレートを含む保護コーティングの適用によって防止できる。
【0118】
触媒活性材料、一つの態様では触媒活性材料の前駆体の形態で存在する触媒活性材料は、一つの態様によれば粉末の形態で提供される。粉体粒子の粒度は、触媒本体を成形するのに使用される方法に適したものが選択される。触媒本体の成形に押出またはタブレット化が使用される場合には、適切な粒度は例えば10〜200μmの範囲である。触媒本体を成形するためにスプレー法を使用する場合、例えば不活性な支持体ボディを、予備段階触媒材料のシェルでコーティングして予備段階シェル型触媒本体を得る場合には、例えば1〜150μmの範囲の粒度を有するより微細な前駆体材料の懸濁液を使用することができる。
【0119】
しかし、他の粒度も同様に使用し得る。粒度は、通常の方法、例えば篩い分けによって調節することができる。
【0120】
助剤、例えばタブレット化用助剤または造孔剤などの助剤を、触媒材料に添加することもできる。タブレット化用助剤は、通常は触媒的に不活性であり、そして例えば滑り性及び/または流動性を高めることによって、触媒材料のタブレット化性を向上する。特に好適なタブレット化用助剤の一つは例えばグラファイトである。添加されたタブレット化用助剤は活性化された触媒中に残り得、そして一つの態様では、触媒材料の全重量に対して、触媒本体中に1〜5重量%のオーダーで存在する。
【0121】
加えて、触媒材料は造孔剤を含むことができる。造孔剤は、孔構造をメソ孔及びマクロ孔範囲に目的通りに設定するのに使用される物質である。概して、これらは、炭素、水素、酸素及び/または窒素を含む化合物であり、これらは、成形の前に触媒前駆体粉末に加えられ、そして次いで例えばか焼によって、触媒本体または成形触媒が活性化される間に分解または蒸発する。
【0122】
成形後は、触媒本体には、その表面の少なくとも一部に、有機バインダーが施され、これは、触媒本体中に浸透した後に、成形触媒の表面に保護コーティングを供する。
【0123】
好ましくは、触媒本体の表面全体に有機バインダーが施され、それによって、保護コーティングによって形成された表面を有する成形触媒が提供される。バインダー、特に有機バインダーは、任意の既知の方法で施用することができる。
【0124】
例えば、有機バインダーの施用は、コーティングドラム中でまたは流動床コーター中で行うことができる。一つの態様によれば、有機バインダーの分散液または溶液が、攪拌された触媒本体上に噴霧される。本発明では、触媒本体は、例えば篩分離・運搬機を用いて、噴霧サイトに沿って運搬することができる。
【0125】
既に更に上述した通り、一つの態様による適当な有機バインダーは、約300〜400℃に加熱することによって完全に除去できるポリマーである。このような有機バインダーは、従来技術において既知であり、そして例えば、コア−シェル形触媒の製造に使用される。適当な有機バインダーは、例えばポリビニルアセテート、デンプン、加工デンプン、デキストリン、及び可塑剤、例えばポリプロピレンで変性されたデキストリンである。
【0126】
成形触媒の製造は、好ましくは、先ず、例えばタブレットプレス機中で成形ステップを行って触媒ボディーを得ることにより行われる。
【0127】
次いで、一つの態様によれば、触媒本体をか焼することができ(一つの態様では、プレス後直ぐに)、それにより既に顕著な安定性が得られる。これは、有機バインダーの施用の間の触媒本体のより簡単な取り扱いを可能とする。
【0128】
有機バインダーは、例えばそれの溶液または分散液を触媒本体上に噴霧するかまたは触媒本体を、例えば有機バインダーの溶液、エマルションまたは懸濁液で含浸することによって、(場合によりか焼された)触媒本体上に施される。有機バインダーは、触媒本体の表面を浸透して、それにより触媒本体表面上に保護コーティングを形成する。
【0129】
更なるステップにおいて、一つの態様によれば、スプレーコートされた触媒本体を乾燥して、安定化された成形触媒を得ることができる。
【0130】
プラントでの製造では、触媒本体の外層中へのバインダーの浸透によって形成された保護コーティングは、流動床コーターの使用によって施用することできる。
【0131】
一つの態様では、ドラムコーター、例えば改修セメントミキサーと類似のミキサーが、触媒本体表面に有機バインダーを施用するのに使用される。この際、適当な溶媒、例えば水中のバインダー、例えばポリビニルアセテートの分散液または溶液が触媒本体上に噴霧され、触媒本体は、セメントミキサー中で注意深く混合、攪拌される。保護コーティングを施した後、成形触媒は、例えば送風機を用いて乾燥することができ、この際、セメントミキサー中での成形触媒の攪拌は続行される。
【0132】
本発明の方法の更なる態様の一つによれば、保護コーティングの施用は、篩分離・運搬機の使用によって行われる。この機械は、基本的に、篩底(sieve bottom)を備えたボックスを含む。このボックスは、接続された不平衡モーターによって振動させる。触媒本体がこのボックスの一方の末端に導入されると、触媒本体は、ボックスの一方の末端から他方の末端に向けて篩底上で「飛び跳ね(jumping)」ながら移動し、前記の他方の末端から成形触媒が、例えばドラム中に排出され得る。個々の触媒本体がボックス内を渡って篩底上を移動する間に、微細物及び断片が除去される。同時に、保護コーティングが触媒本体に施される。これは、例えば、前記ボックスの上に設置された噴霧ノズルの使用によって実現する。噴霧セクションの後に、成形触媒は、例えば通風機の使用または同様に前記ボックスの上に設置されたUV乾燥ランプの使用によって乾燥することができ、その後に、成形触媒が、例えば触媒ドラム中に落下することによってボックスから出る。
【0133】
一つの態様によれば、少なくとも一種の溶媒中の有機バインダーの溶液及び/または分散液が提供され、そして有機バインダーのこの溶液及び/または分散液が触媒本体の表面上に施用される。
【0134】
この溶液または分散液の調製のためには、適当な溶媒が選択される。この溶媒は、触媒本体に溶液または分散液を施した後に簡単に蒸発できるように、低い沸点を有するのがよい。適当な溶媒の例は、メタノール、エタノールまたはプロパノールのようなアルコールである。好ましい溶媒の一つは水である。
【0135】
溶媒中に分散または溶解する有機バインダーの量は、使用する有機バインダーのタイプ及び触媒本体にバインダー溶液または分散液を適用するのに使用する方法に応じて適宜選択される。
【0136】
一つの態様によれば、有機バインダーの溶液または分散液に含まれる有機バインダーの量は5〜20重量%の範囲で選択される。
【0137】
一つの態様では、有機バインダーの溶液及び/または分散液は、触媒本体の表面上に噴霧して施用される。好ましくは、成形触媒を攪拌しながら噴霧を行う。好ましい態様の一つでは、触媒本体の表面上への有機バインダーの溶液及び/または分散液の噴霧は、高められた温度及び攪拌下に行われる。適当な温度範囲は、一つの態様によれば、20〜60℃の範囲である。しかし、使用する溶媒に依存して、60℃を超えるより高い温度も使用し得る。
【0138】
有機バインダーの溶液または分散液の施用速度は、一つの態様によれば、触媒本体が濡れないものの、溶媒が触媒本体により素早く吸着されるように選択される。
【0139】
更に別の態様の一つでは、有機バインダーを施用した後に、成形触媒を高められた温度下に乾燥して、溶液及び/または分散液の少なくとも一種の溶媒を除去する。適当な温度範囲は、一つの態様によれば20〜80℃の範囲である。乾燥は、一つの態様によれば通風機またはUV乾燥ランプによって行うことができる。
【0140】
乾燥後、成形触媒は自由流動性である。
【0141】
それ故、本発明による方法によって得られる成形触媒は、反応器、例えば反応器の管中に、多量のダストの形成を伴うことなく、簡単に充填することができる。
【0142】
反応器の充填の後、有機バインダーは簡単に除去することができる。
【0143】
有機バインダーの除去の後、成形触媒は、高められた温度下に、一つの態様によれば少なくとも200℃の温度下に、更に別の態様によれば少なくとも300℃の温度下にか焼することができる。更に別の態様の一つによれば、成形触媒のか焼は、400℃未満の温度で行われる。
【0144】
一つの態様によれば、か焼は、空気または窒素の存在下に行われる。か焼時間は、成形触媒の処理量に依存し、そして例えば反応器の出口のガスを分析することによって決定できる。
【0145】
好ましい方法の一つでは、然るべき反応を行うべき反応器中に成形触媒を充填した後にか焼が行われる。言い換えれば、成形触媒は、次のような条件、すなわち保護コーティングが存在し及びか焼及び保護コーティングの除去後に、その触媒によって触媒される然るべき反応を開始できる条件で反応器中に充填される。
【0146】
本発明の方法は、特定の触媒に限定されないし、またこの触媒、例えば無水マレイン酸またはホルムアルデヒドの製造のための触媒によって触媒される特定の反応にも限定されない。これらの例は、最小化するべきダストの形成が製造及び使用に伴う全ての触媒への本発明の一般的な適用可能性を示すためだけに記載するものである。
【0147】
更に、本発明の方法は、触媒の幾何形態または形とは無関係に、触媒に適用できる。触媒の特定の幾何形態が、他のものよりも多くのダスト形成を招く傾向を示す場合もある。しかし、ダストの形成及び触媒の幾何形態は、一般的に二つの独立したパラメータである。
【0148】
特許請求の範囲に記載の発明を、添付の図面の参照の下、例によってより詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0149】
【
図1】
図1は、試験方法a)による篩分離・運搬機での摩耗及び摩減試験におけるバナジウムリン酸化物触媒(VPO触媒)の剥落した触媒材料の量を比較して示す。
【
図2】
図2は、試験方法b)によるダスト測定試験で発生した空気中のダストの量を示す。
【
図3】
図3は、キャリアガスとして空気を用いた、本発明によるVPO触媒(サンプルB)の熱重量分析図を示す。
【
図4】
図4は、キャリアガスとして窒素を用いた、保護コーティングの無いVPO触媒(サンプルF)の熱重量分析図を示す。
【
図5】
図5は、様々な触媒サンプルについて反応ガスの空間速度に対して無水マレイン酸の収率を示した図を示す。
【
図6】
図6は、ブタン転化率に対する無水マレイン酸選択性を示した図を示す。
【
図7】
図7は、未コートの触媒サンプル及び本発明による触媒サンプルについて反応器管の充填高さに対して圧力低下を示した図である。
【
図8】
図8は、触媒の様々な充填高さについて反応器管中の触媒パッケージの充填密度を記録した図を示す。
【
図9】
図9は、未コートの触媒サンプル及び本発明による触媒サンプルについて反応器管中への触媒充填により得られた破損及び微細物の量を示した図である。
【0150】
ダストフリーの安定化された成形触媒を得るための保護コーティングの形成についてのビニルアセテートとエチレンとのコポリマー、アクリル/メタクリレート、及びヒドロキシエチルセルロースの適性を実証するために、実験室用サンプルを以下に記載のように作製した。これらのサンプル、並びに未処理の触媒本体のサンプルを、以下の試験を行うために使用した:
a)篩分離機での摩耗&摩減試験
b)ダスト形成試験
c)熱重量分析
【0151】
試験方法
a)篩分離機での摩耗&摩減試験
触媒の取り扱いの間に摩耗及び摩減によって生じる触媒ダスト形成をシミュレートするために、触媒サンプルを篩分離機で処理した。500gの量の各触媒サンプル(未処理の触媒本体、並びに本発明による保護コーティングを含む成形触媒)を篩分離機上に置いた。篩を通過した画分の重量を計った(g)。
試験パラメータ:
−篩分離機:Retsch AS 200
−振幅:100
−篩のメッシュ開口:500μm
−試験時間:10分間
【0152】
b)ダスト測定
反応器装填の間の周囲雰囲気中での触媒ダスト形成をシミュレートするために、ダスト測定を行った。ダストの発生を定量化するために、触媒サンプルを10リットルのバケツ中に注ぎ入れた。次いで、バケツから約10cm上方で、10分間の期間、ダストの形成を測定した。
試験パラメータ:
−ダスト測定デバイス:Dust Trak II Modell 8530,Driesen & Kern GmbH;
−触媒の量:1000ml
−落下高さ:75cm
【0153】
c)熱重量分析
反応器のスタートアップの時の保護コーティングの「焼失挙動(burn−off behaviour)」をシミュレートするために、二つの熱重量分析を行った。第一の分析のためにはキャリアガスとして空気を使用し、第二の分析のためにはキャリアガスとして窒素を使用した。
試験パラメータ:
−デバイス:Netzsch STA 409 PG
−キャリアガス:空気&窒素
−1.加熱速度:2℃/分
−開始温度:20℃
−1.最終温度:200℃
−200℃での保持時間:3時間
−2.加熱速度:2℃/分
−2.最終温度:400℃
試験結果を
図3及び4に示す。
【0154】
d)性能試験
性能試験のために、加熱及び攪拌された塩浴中に入れた四つの21mm内径の反応管を含むベンチスケール反応器を使用した。
【0155】
各々の管には、272個の不活性リングで希釈した68グラムのVPO触媒を充填した。これらの管の一部には、酢酸ビニルとエチレンとのコポリマー0.5重量%を施用することによって得られた本発明による保護コーティングを施したVPO触媒を充填した。一部の管には、未コートのVPO触媒を充填した。全ての管の充填高さは100cmであった。
【0156】
反応器を、425SCM/h(SCM:標準立方メートル; 1.01325hPa、湿度0%、273.15Kでのガス体積)の空気流下に360℃に加熱した。次いで、ブタン供給物を導入した。供給物流中のブタンの濃度は1.5体積%であり、供給物流中での空気の濃度は98.5体積%であった。反応器を更に420℃に加熱し、そしてこれらの条件下に72時間置いて平衡させた。触媒性能(MA収率及びMA選択性)は、1800h
−1、2500h
−1、3500h
−1、及び5500h
−1の空間速度(一時間あたり触媒1リットル当たりのガスのリットル量)で測定した。
図5及び6に示すMA収率、MA転化率及びMA選択性は、IR分析機及びガスクロマトグラフで測定された、ブタン入口濃度、ブタン出口濃度、CO出口濃度、CO
2出口濃度及びMA出口濃度から計算した(MA:無水マレイン酸)。
【0157】
実験室内実験
1.酢酸ビニルとエチレンとのコポリマー0.1重量%を含む保護コーティングの製造(サンプルA)
−1000gのVPO触媒を120℃で16時間乾燥した。
−酢酸ビニルとエチレンとのコポリマーの分散液(固形物含有率50%)2gを、脱イオン水20g中に分散した。
−この分散液を、塗装用に通例使用されるスプレーガン中に充填した。
−前記の乾燥した触媒リングを10リットルのドラムに充填した。
−このコポリマー分散液を微細なミストとして前記触媒リング上に噴霧した。この手順の間、均一なコーティングを保証するために前記の10リットルドラムを注意深く振盪することによって触媒を絶えず動かした。
−最後に、コーティングを熱風で乾燥した。
【0158】
2.ポリビニルアセテート0.25重量%を含む保護コーティングの製造(サンプルB)
−実験1で使用した同じVPO触媒1000gを120℃で16時間乾燥した。
−例1で使用した同じポリビニルアセテート分散液(固形物含有率50%)5gを、脱イオン水20g中に分散した。
−この分散液を、塗装用に使用されるスプレーガン中に充填した。
−前記の乾燥した触媒本体を10リットルのドラムに充填した。
−このポリビニルアセテート分散液を微細なミストとして前記触媒リング上に噴霧した。この手順の間、均一なコーティングを保証するために前記の10リットルドラムを注意深く振盪することによって触媒本体を絶えず攪拌した。
−最後に、成形触媒を熱風で乾燥した。
【0159】
3.酢酸ビニルとエチレンとのコポリマー0.5重量%を含む保護コーティングの製造(サンプルC)
ポリマー0.5重量%を含む成形触媒を得るためにポリビニルアセテートポリマーの量を高めて製造例2を繰り返した(サンプルC)。
【0160】
4.アクリル−/メタアクリレート0.50重量%を含む保護コーティングの製造(サンプルD)
−1000gのVPO触媒を120℃で16時間乾燥した。
−商業的に入手可能なアクリル−/メタクリレート分散液(固形物含有率42%)11.9gを脱イオン水15g中に分散した。
−この分散液を、塗装用に使用されるスプレーガン中に充填した。
−前記の乾燥した触媒本体を10リットルのドラムに充填した。
−このポリビニルアセテート分散液を微細なミストとして前記触媒リング上に噴霧した。この手順の間、均一なコーティングを保証するために前記の10リットルドラムを注意深く振盪することによって触媒本体を絶えず攪拌した。
−最後に、成形触媒を熱風で乾燥した。
【0161】
5.ヒドロキシエチルセルロース0.05重量%を含む保護コーティングの製造(サンプルE)
−1000gの市販のMA触媒を120℃で16時間乾燥した。
−1gのヒドロキシエチルセルロースを、攪拌することによって40gの脱イオン水中に分散した。攪拌は、ヒドロキシエチルセルロースが完全に溶解しそして安定な粘度を発達させるまで2時間続けた。
−この溶液を、塗装用に使用されるスプレーガン中に充填した。
−前記の乾燥した触媒本体を10リットルのドラムに充填した。
−このヒドロキシエチルセルロース溶液を微細なミストとして前記触媒リング上に噴霧した。この手順の間、均一なコーティングを保証するために前記の10リットルドラムを注意深く振盪することによって触媒本体を絶えず攪拌した。
−最後に、コーティングを熱風下に乾燥した。
【0162】
VPO触媒の未処理のサンプルをサンプルFとして試験した。
【0163】
サンプルA〜Fを、上記の試験に従ってそれらの摩減及び摩耗挙動について試験した。試験Fをコントロールとして繰り返した(サンプルF’)。各々のサンプルについて試験中に剥落した触媒材料の量を表1に纏め及び
図1に示す。
【0164】
【表1】
【0165】
摩耗&摩減試験の結果を
図1に示す。
【0166】
図1は、ポリビニルアセテート0.1、0.25もしくは0.5重量%、またはアクリル−/メタクリレート0.5重量%を施用することによって(サンプルA〜D)、ダストの発生量のかなりの減少を達成できることを示している。これは更に、ヒドロキシエチルセルロース0.05重量%の施用(サンプルE)は、未処理の成形触媒(サンプルF、F’)と比べて、摩耗及び摩減の減少はそれほど大きくない結果となることを示している。
【0167】
ダスト測定試験の結果を表2に纏め、及び
図2に示す。
【0168】
【表2】
【0169】
目に見えるダストの形成(空気m
3当たりのダストmg)を測定して、未コートの成形触媒(サンプルF)と、各々成形触媒の重量に対して0.1または0.25重量%のポリビニルアセテートで処理した成形触媒(サンプルA、B)、並びに成形触媒の重量に対して0.05重量%のヒドロキシエチルセルロースで処理した成形触媒(サンプルE)とを比較した。サンプルA、Bでは目に見えるダストの形成は観察されなかったのに対し、未処理の成形触媒(サンプルF)及び0.05重量%のヒドロキシエチルセルロースで処理された成形触媒(サンプルE)ではダストの形成は目視可能であった。
【0170】
これらの試験の結果は、触媒の取り扱いの間の摩耗及び摩減並びにダスト形成は、酢酸ビニルとエチレンとのコポリマー0.1重量%〜0.5重量%を含む保護コーティングの施用またはアクリル−/メタクリレート0.5重量%〜1.0重量%の施用によって最小化できることを示している。
【0171】
酢酸ビニルとエチレンとのコポリマー0.1重量%の保護コーティングは、摩耗及び摩減試験の後の微細物を73.5%減少させる(
図1参照)。酢酸ビニルとエチレンとのコポリマー0.25重量%の保護コーティングは、摩耗及び摩減試験の後の微細物を86.1%減少させ、そしてポリマー0.50重量%の保護コーティングは、91.1%もの微細物の減少をもたらす。アクリル−/メタクリレート0.5重量%の保護コーティングは、微細物を86.6%減少させる。
【0172】
この摩耗及び摩減試験の間の触媒リングへの機械的応力は、反応器の装填のための通常の触媒の取り扱いの時よりもかなり高いことを考慮する必要がある。それ故、反応器装填の間の触媒ダスト形成の減少は、この試験が示すよりもずっと大きい。
【0173】
酢酸ビニルとエチレンとのコポリマー0.1重量%の保護コーティングは、ダスト形成試験によると、周囲空気中で微細物を84.8%減少させる。酢酸ビニルとエチレンとのコポリマー0.25重量%の保護コーティングは、ダスト形成試験の後の92.9%もの微細物の減少をもたらす(
図2参照)。この試験もまた、実際での触媒の取り扱いの場合のよりもかなり粗いものである。それ故、反応器装填の間の触媒ダスト形成の減少は、この試験が示すよりもずっと大きい。
【0174】
サンプルBの熱重量分析は、キャリアガスとして空気または窒素が使用されたかには関係なく、400℃の温度に達した後に保護コーティングが完全に焼失したことを示している(
図3及び4)。
【0175】
サンプルB及びFを用いて行った性能試験の反応条件及び結果を表3〜6に纏める。これらの性能試験の結果は、
図5及び6にも図示される。
【0176】
【表3】
【0177】
【表4】
【0178】
パイロットプラントにおける性能試験は、除去可能な保護コーティングは触媒性能に全く影響しないことを示している。
図5及び6から直接的に分かるように、本発明による保護コーティングを含む触媒は、保護コーティングの無い触媒と同じ収率及び選択性を達成する。
【0179】
これらの結果は、保護コーティングとしてのポリビニルアセテートは、反応器のスタートアップ時に少なくとも400℃の温度に加熱されるあらゆる種類の触媒に使用できることも示している。この加熱が、空気雰囲気下で行われるかまたは窒素雰囲気下で行われるかは重要ではない。
【0180】
圧力低下試験
試験の説明
リング形状のMA触媒のサンプルを、390cmの全充填高さまで21mm反応器管中に手作業で充填した。100cm毎に、充填された触媒の重量及び3.0Nm
3/hの空気流量での圧力低下を測定した。反応器管の全長は400cmであるため、最後に充填した増分は丁度90cmであった。反応器管を390cmの充填高さまで触媒で充填しそして圧力低下を測定した後、管を注意深く空にしそして触媒をプラスチックビーカー中に集めた。次いで、この抜き取った触媒を2.5mm篩中に移した。この篩を、篩分離機上に30秒間おいて、触媒の装填及び抜き取りの間に生じた触媒リングからの破損物及び微細物を分離した。最後に、破損物及び微細物の重量を天秤で決定した。100cm充填高さ毎の測定された触媒重量から、充填された触媒100cm毎の触媒充填密度を計算した。
【0181】
同じリング形状のMA触媒の第二のサンプルを、0.5重量%のポリビニルアセテートでコーティングした。水性コーティング分散液を触媒に施用した後、このサンプルを熱風ファンを用いて乾燥して水を全て除去した。次いでこのサンプルを使用して、上述と同じ試験を行った。
【0182】
試験結果
圧力低下試験
圧力低下試験の結果を表5及び6に纏め、及び
図7に示す。
【0183】
【表5】
【0184】
【表6】
【0185】
未コートの触媒サンプル(サンプルB)と比べると、ポリビニルアセテートで形成された保護コーティング0.5%を備えた触媒サンプルは、かなりより低い圧力低下を示した(
図7参照)。390cmの充填高さで、未コートの触媒サンプルに268mbarの圧力低下が測定され、他方、コートされたサンプルの場合の圧力低下は220mbarであった。
【0186】
充填密度
充填高さに依存する充填密度のデータを表8に纏め及び
図8に示す。
【0187】
【表7】
【0188】
100cm毎に決定された充填密度は、未コートの触媒サンプルでは大きな勾配を示し、他方で、保護コーティングを備えたサンプルの場合の充填密度は殆ど勾配を示さなかった(
図8参照)。
【0189】
破損物及び微細物の形成
サンプルB及びFについて決定された微細物の量を表9に纏め及び
図9に示す。
【0190】
【表8】
【0191】
破損物及び微細物の形成も、コートされたサンプルと比較して未コートの触媒サンプルでは約4倍多かった(
図9参照)。
【0192】
反応器管の装填中に多くの破損が生じたものと推定される。この多量の破損物及び微細物の形成は、成形触媒のより密な充填を招き、これは最終的にはより大きな圧力低下の結果となる。充填密度の勾配は、成形触媒が管中のより深いところまで落ちるほど、より多くの破損が起こることを示している。この試験では、反応器管が390cmの充填高さまでしか充填されていないが、他方で、工業的規模の反応器の場合の典型的な充填高さは550cmであることを考慮する必要がある。それ故、工業的規模の反応器の充填の時には、更により多くの破損物及び微細物が生じることを想定する必要がある。
【0193】
これらの結果は、保護コーティングの施用が、反応器管の装填の時の破損物及び微細物の形成を大きく減少させ、その結果、かなりより低い圧力低下及び管長のより均一な充填密度をもたらすことを明らかに示している。それ故、保護コーティングの施用は、環境及び健康に危険なダスト形成を防止するだけでなく、反応器を通じた圧力低下が圧縮機の電気エネルギー消費量に直接関連することを考えた場合には技術的な利点をも供し得る。
本願は特許請求の範囲に記載の発明に係るものであるが、本願の開示は以下も包含する:
1.
触媒材料でできた触媒本体を含み、前記触媒材料は、触媒活性材料を含むかまたは触媒活性材料の前駆体材料を含む、安定化された成形触媒であって、成形触媒の表面の少なくとも一部に、有機バインダーを含む保護コーティングが施されていることを特徴とする、成形触媒。
2.
有機バインダーが少なくとも100g/モルの平均分子量を有することを特徴とする、上記1に記載の成形触媒。
3.
有機バインダーが少なくとも二種のモノマーのコポリマーを含むことを特徴とする、上記1または2に記載の成形触媒。
4.
有機バインダーが、酢酸ビニルと更に別のモノマー、好ましくはエチレン、プロピレン及び/または無水マレイン酸とのコポリマーを含むことを特徴とする、上記1〜3のいずれか一つに記載の成形触媒。
5.
有機バインダーがポリビニルアセテートであることを特徴とする、上記1〜4のいずれか一つに記載の成形触媒。
6.
成形触媒中に含まれる有機バインダーの量が少なくとも0.05重量%であることを特徴とする、上記1〜5のいずれか一つに記載の成形触媒。
7.
自由流動性であることを特徴とする、上記1〜6のいずれか一つに記載の成形触媒。
8.
最大で20mmの寸法を有することを特徴とする、上記1〜7のいずれか一つに記載の成形触媒。
9.
少なくとも一つの貫通穴を有することを特徴とする、上記1〜8のいずれか一つに記載の成形触媒。
10.
安定化された成形触媒の製造方法であって、触媒活性材料を含むかまたは触媒活性材料の前駆体材料を含む触媒材料を用意し、この触媒材料を成形して触媒本体を得、及びこの触媒本体の表面の少なくとも一部に有機バインダーを施して、有機バインダーにより繋がれた触媒材料の粒子でできた保護コーティングを得て、安定化された成形触媒を得ることを特徴とする、前記方法。
11.
有機バインダーの施用のために、少なくとも一種の溶媒中の有機バインダーの溶液及び/または分散液が提供され、そして有機バインダーのこの溶液及び/または分散液が触媒本体の表面の少なくとも一部に施用されることを特徴とする、上記10に記載の方法。
12.
有機バインダーの溶液及び/または分散液が、触媒本体の表面上に噴霧して施用されることを特徴とする、上記11に記載の方法。
13.
噴霧が触媒本体を攪拌しながら行われることを特徴とする、上記11または12に記載の方法。