(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6316900
(24)【登録日】2018年4月6日
(45)【発行日】2018年4月25日
(54)【発明の名称】グリース組成物、転がり軸受、およびモータ
(51)【国際特許分類】
C10M 169/00 20060101AFI20180416BHJP
C10M 101/02 20060101ALN20180416BHJP
C10M 105/32 20060101ALN20180416BHJP
C10M 107/02 20060101ALN20180416BHJP
C10M 129/26 20060101ALN20180416BHJP
C10M 145/10 20060101ALN20180416BHJP
C10M 115/08 20060101ALN20180416BHJP
C10M 129/42 20060101ALN20180416BHJP
C10M 145/16 20060101ALN20180416BHJP
F16C 19/06 20060101ALN20180416BHJP
F16C 33/66 20060101ALN20180416BHJP
C10N 10/02 20060101ALN20180416BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20180416BHJP
C10N 30/08 20060101ALN20180416BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20180416BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20180416BHJP
【FI】
C10M169/00
!C10M101/02
!C10M105/32
!C10M107/02
!C10M129/26
!C10M145/10
!C10M115/08
!C10M129/42
!C10M145/16
!F16C19/06
!F16C33/66 Z
C10N10:02
C10N10:04
C10N30:08
C10N40:02
C10N50:10
【請求項の数】8
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-209200(P2016-209200)
(22)【出願日】2016年10月26日
(65)【公開番号】特開2017-88871(P2017-88871A)
(43)【公開日】2017年5月25日
【審査請求日】2016年12月7日
(31)【優先権主張番号】特願2015-220400(P2015-220400)
(32)【優先日】2015年11月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000114215
【氏名又は名称】ミネベアミツミ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001771
【氏名又は名称】特許業務法人虎ノ門知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅井 佑介
(72)【発明者】
【氏名】榎本 祐介
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 真太郎
【審査官】
松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−124035(JP,A)
【文献】
特開2013−035882(JP,A)
【文献】
特開2008−274091(JP,A)
【文献】
特開2007−177123(JP,A)
【文献】
特開2002−003872(JP,A)
【文献】
特開2003−206493(JP,A)
【文献】
特開2013−129794(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2015/0045272(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00−177/00
C10N 10/00− 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステル油、ポリ−α−オレフィンおよび鉱油のいずれかを単独または混合して用いた基油と、増ちょう剤と、分散剤0.5wt%以上とを含有し、
前記増ちょう剤は芳香族ウレア化合物と脂肪族ウレア化合物、または脂肪族ウレア化合物と脂環式ウレア化合物を含み、
前記分散剤はカルボン酸金属塩およびカルボン酸金属塩と炭化水素化合物との共重合体の少なくともいずれかを含むことを特徴とするグリース組成物。
【請求項2】
前記カルボン酸金属塩は、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩のうち少なくとも一種を含むアルカリ金属塩、またはマグネシウム塩、カルシウム塩のうち少なくとも一種を含むアルカリ土類金属塩であることを特徴とする請求項1に記載のグリース組成物。
【請求項3】
前記カルボン酸金属塩と炭化水素化合物との共重合体を形成する前記カルボン酸金属塩は、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩のうち少なくとも一種を含むアルカリ金属塩、またはマグネシウム塩、カルシウム塩のうち少なくとも一種を含むアルカリ土類金属塩であることを特徴とする請求項1または2に記載のグリース組成物。
【請求項4】
前記分散剤の含有量は、10wt%以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のグリース組成物。
【請求項5】
エステル油、ポリ−α−オレフィンおよび鉱油のいずれかを単独または混合して用いた基油と、芳香族ウレア化合物と脂肪族ウレア化合物、または脂肪族ウレア化合物と脂環式ウレア化合物を含む増ちょう剤と、分散剤0.5wt%以上10%以下とを含有し、
前記分散剤はマレイン酸ナトリウム塩とイソブチレンとの共重合体、およびセバシン酸のナトリウム塩の少なくともいずれかを含むことを特徴とするグリース組成物。
【請求項6】
前記基油がトリオクチルトリメリテートとテトラオクチルピロメリテートの混合油で、前記増ちょう剤が芳香族ウレア化合物と脂肪族ウレア化合物を含む増ちょう剤であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載のグリース組成物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のグリース組成物が封入されていることを特徴とする転がり軸受。
【請求項8】
請求項7に記載の転がり軸受を備えていることを特徴とするモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、グリース組成物、転がり軸受、およびモータに関する。
【背景技術】
【0002】
家電製品や通信機器のファンモータなどに適用される転がり軸受において、潤滑のためにグリース組成物が使用されている。グリース組成物は、基油と増ちょう剤と添加剤とを含有しており、例えば増ちょう剤としてウレア化合物を含有したウレアグリースがある。このウレアグリースは耐熱性が良いため、これを使用した転がり軸受は、高温で使用されても音響特性が良好である。
【0003】
例えば、特許文献1には、基油と増ちょう剤と添加剤とを含有するグリース組成物において、増ちょう剤としてのウレア化合物と、添加剤(防錆剤)としてカルボン酸、カルボン酸塩及びエステルのうち少なくとも1種を含有したウレアグリースが開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、基油と増ちょう剤と添加剤とを含有するグリース組成物において、基油が30質量%(wt%)以上の芳香族エステル油を含み、ジウレア化合物を5〜35質量%(wt%)含有したウレアグリースが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−224823号公報
【特許文献2】特開2004−339448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、家電製品や通信機器の発熱量の増加などによりファンモータの使用環境が高温化しており、これに伴い転がり軸受の使用環境がより高温化している。したがって、ウレアグリースには、従来よりも高温の環境下で使用されても熱劣化が抑制されることが求められている。しかしながら、特許文献1、2に記載されたようなウレアグリースを用いても耐熱性が不十分なため、前述したような高温の環境ではウレアグリースが凝集し、転がり軸受に使用した時に音響特性が劣化する問題があり、さらなる改善が必要とされている。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、高温環境で使用されても熱劣化が少ないグリース組成物、高温環境で使用されても音響特性が良好な転がり軸受、およびモータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の一態様に係るグリース組成物は、基油と、増ちょう剤と、分散剤0.5wt%以上とを含有し、前記分散剤はカルボン酸の金属塩、ポリカルボン酸の金属塩、およびカルボン酸金属塩と炭化水素化合物との共重合体の少なくともいずれかを含むことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の一態様に係るグリース組成物において、前記カルボン酸の金属塩および前記ポリカルボン酸の金属塩の少なくとも一方は、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩のうち少なくとも一種を含むアルカリ金属塩、またはマグネシウム塩、カルシウム塩のうち少なくとも一種を含むアルカリ土類金属塩であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の一態様に係るグリース組成物において、前記カルボン酸金属塩と炭化水素化合物との共重合体を形成する前記カルボン酸金属塩は、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩のうち少なくとも一種を含むアルカリ金属塩、またはマグネシウム塩、カルシウム塩のうち少なくとも一種を含むアルカリ土類金属塩であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の一態様に係るグリース組成物において、前記分散剤の含有量は、10wt%以下であることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の一態様に係るグリース組成物において、前記増ちょう剤が下記一般式(1)で示されるジウレア化合物を含むことを特徴とする。
R
1−NHCONH−R
2−NHCONH−R
3・・・(1)
ここで、R
1、R
2、R
3は、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基から選ばれる炭化水素基である。
【0013】
本発明の一態様に係るグリース組成物は、基油と、下記一般式(1)で示されるジウレア化合物を含む増ちょう剤と、分散剤0.5wt%以上10wt%以下とを含有し、前記分散剤はセバシン酸のナトリウム塩、ポリアクリル酸のナトリウム塩、およびマレイン酸ナトリウム塩とイソブチレンとの共重合体の少なくともいずれかを含むことを特徴とする。
R
1−NHCONH−R
2−NHCONH−R
3・・・(1)
ここで、R
1、R
2、R
3は、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基から選ばれる炭化水素基である。
【0014】
本発明の一態様に係る転がり軸受は、前述のグリース組成物が封入されていることを特徴とする。
【0015】
本発明の一態様に係るモータは、前述の転がり軸受を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、高温環境で使用されても熱劣化が少ないグリース組成物、高温環境で使用されても音響特性が良好な転がり軸受、およびモータを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る転がり軸受を備えたファンモータの断面図である。
【
図2】
図2は、本発明の実施形態に係る転がり軸受の断面図である。
【
図3】
図3は、本発明の実施例の実験結果を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明の実施例の実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に添付図面を参照して、本発明に係るグリース組成物、転がり軸受、およびモータの実施形態について詳細に説明する。なお、以下の実施形態により本発明が限定されるものではない。また、各図面において、同一又は対応する要素には適宜同一の符号を付し、重複した説明を適宜省略する。
【0019】
図1は、本発明の実施形態に係る転がり軸受20を備えたファンモータ10の断面図である。
図2は、本発明の実施形態に係る転がり軸受20の断面図である。
本発明の実施形態に係るファンモータ10は、ロータシャフト11と、転がり軸受20と、ステータ12と、インペラ13と、ケーシング16とを備えている。ロータシャフト11は転がり軸受20により回転可能に保持されている。インペラ13は、ロータハウジング14と、ロータハウジング14の外周に設けられた羽根15とを有している。
【0020】
転がり軸受20は、内輪21と、外輪22と、球状の転動体23と、保持器24と、シール材25とを備えている。そして、シール材25によりシールされた内部に、グリース組成物Gが封入されている。なお、本発明の実施形態に係る転がり軸受20が適用されるのは、ファンモータに限定されるものではなく、他の種類のモータに適用されても良い。
【0021】
次に、本発明の実施形態に係るグリース組成物Gについて説明する。本発明の実施形態に係るグリース組成物Gは、基油と、増ちょう剤とを含有し、さらに分散剤として、カルボン酸の金属塩、ポリカルボン酸の金属塩およびカルボン酸金属塩と炭化水素化合物との共重合体の少なくともいずれかを含有している。本発明者らは、グリース組成物について鋭意検討した結果、転がり軸受にグリース組成物を適用して高温環境下(例えば140℃以上)で長時間使用した場合、グリース組成物中の凝集物が粗大化することにより、転がり軸受の音響特性が劣化することを確認した。そして、グリース組成物に、分散剤としてカルボン酸の金属塩、ポリカルボン酸の金属塩およびカルボン酸金属塩と炭化水素化合物との共重合体の少なくともいずれかを含有させることにより、転がり軸受を高温環境下で長時間使用しても凝集物の粗大化が抑制でき、音響特性の劣化が低減できることを見出した。本発明の実施形態に係るグリース組成物Gは、この知見によりなされたものである。
【0022】
基油の種類は特に限定されるものではなく、一般的にグリース基油として使用される、合成炭化水素油、アルキルエーテル油、アルキルジフェニルエーテル油、エステル油、鉱油、フッ素油、シリコーン油などを単独または混合して使用できる。基油の含有量は、例えば70wt%以上90wt%以下とすればよい。
【0023】
合成炭化水素油系としては、例えばノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1−デセンオリゴマー、1−デセントエチレンオリゴマーなどのポリアルファオレフィンが挙げられる。エステル油としては、例えばジブチルセバケート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート、ジオクチルセバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルタレート、メチル・アセチルシノレートなどのジエステル油、トリオクチルトリメリテート、トリ−2−エチルヘキシルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート、テトラ−2−エチルヘキシルピロメリテート等の芳香族エステル油、トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンベラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネートなどのポリオールエステル油、炭酸エステル油などが挙げられる。アルキルジフェニルエーテル油としては、モノアルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリアルキルジフェニルエーテルなどが挙げられる。上述した中でも、芳香族エステル油が好ましく、単独または混合して使用できる。特に、トリ−2−エチルヘキシルトリメリテートとテトラ−2−エチルヘキシルピロメリテートとを混合した基油を使用することが好ましい。
【0024】
増ちょう剤としては、非ウレア化合物またはウレア化合物を使用できるが、耐熱性および音響特性の点からウレア化合物を使用することが好ましい。増ちょう剤の含有量は、例えば10wt%以上30wt%以下の範囲とすればよい。
【0025】
非ウレア化合物としては、金属石鹸、ポリテトラフルオロエチレン樹脂などが挙げられる。金属石鹸は、ステアリン酸などの脂肪族モノカルボン酸や、12−ヒドロキシステアリン酸などの少なくとも1個の水酸基を含む脂肪族モノカルボン酸とアルカリ土類金属水酸化物から合成される。また、脂肪族モノカルボン酸と、脂肪族ジカルボン酸などの二塩基酸とから合成される複合金属石鹸も用いることができる。
【0026】
ウレア化合物としては、ジウレア化合物、トリウレア化合物、ポリウレア化合物などのウレア化合物を使用できる。特に、耐熱性及び音響特性(静音性)の点から、ジウレア化合物を使用することが好ましい。ジウレア化合物は、下記の式(1)で示すことができる。
R
1−NHCONH−R
2−NHCONH−R
3・・・(1)
ここで、R
1、R
2、R
3は、脂肪族炭化水素基、脂環族炭化水素基、芳香族炭化水素基から選ばれる炭化水素基である。具体的には、R
1、R
2、R
3は脂肪族炭化水素基でも脂環族炭化水素基でも芳香族炭化水素基でもよく、炭素数に特に限定はない。R
2は、芳香族炭化水素基であることが好ましく、フェニル基が1個もしくは2個置換したものであることがより好ましい。これらを合成する際に使用する原料には、アミン化合物とイソシアネート化合物を用いる。アミン化合物として、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ドデシルアミン、ヘキアデシルアミン、オクタデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミンなどに代表される脂肪族アミンや、シクロヘキシルアミンなどに代表される脂環式アミンの他に、アニリン、p−トルイジン、エトキシフェニルアミンなどに代表される芳香族アミンが用いられる。イソシアネート化合物として、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、オクタデカンジイソシアネート、デカンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネートが用いられる。脂肪族アミンと芳香族アミンをアミン原料に用いて、芳香族イソシアネートとで合成する脂肪芳香族ジウレア化合物を用いることが好ましい。
【0027】
分散剤として含有されるカルボン酸の金属塩に使用されるカルボン酸に限定はないが、脂肪族カルボン酸が好ましく、脂肪族飽和カルボン酸でも脂肪族不飽和カルボン酸でもよい。またポリカルボン酸の金属塩に使用されるポリカルボン酸にも限定はなく、ポリカルボン酸を構成するカルボン酸としては、同様に脂肪族カルボン酸が好ましく、脂肪族飽和カルボン酸でも脂肪族不飽和カルボン酸でもよい。ポリカルボン酸を構成するカルボン酸としては、脂肪族不飽和カルボン酸がより好適に用いられる。不飽和カルボン酸ではアクリル酸、クロトン酸、イソクロトン酸、3−ブテン酸、メタクリル酸、アンゲリカ酸、チグリン酸、4−ペンテン酸、2−エチル−2−ブテン酸、10−ウンデセン酸、オレイン酸などがあり、飽和ジカルボン酸ではシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸がある。飽和カルボン酸ではギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸があり、不飽和ジカルボン酸では、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸などがある。また、これらのカルボン酸によって構成されるポリカルボン酸は、モノカルボン酸のポリマーやジカルボン酸のポリマーでもよい。特にカルボキシル基を1個または2個含む不飽和カルボン酸のポリマーであることが好ましい。なお、これらのカルボン酸の金属塩は炭化水素化合物との共重合体を形成してもよい。すなわち、グリース組成物は、分散剤としてカルボン酸金属塩と炭化水素化合物との共重合体を含んでいても良い。また、グリース組成物は、カルボン酸金属塩、ポリカルボン酸の金属塩およびカルボン酸金属塩と炭化水素化合物との共重合体の少なくともいずれかを含む構成としても良い。カルボン酸金属塩およびポリカルボン酸の金属塩またはカルボン酸金属塩と炭化水素化合物との共重合体を形成するカルボン酸金属塩の具体例としては、たとえばアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。アルカリ金属塩としては、ナトリウム塩、リチウム塩、カリウム塩などが好ましく、アルカリ土類金属塩としてはマグネシウム塩やカルシウム塩などが好ましい。カルボン酸金属塩と炭化水素化合物との共重合体においてカルボン酸金属塩と重合(重合反応)させる炭化水素化合物としては、例えばイソブチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエンなどがある。
【0028】
ポリカルボン酸の重量平均分子量は、ゲルパーミーエーションクロマトグラフィー(GPC)によるポリエチレングリコール換算の重量平均分子量(Mw)が5000以上200000以下であることが好ましく、より好ましくは7000以上80000以下、さらに好ましくは9000以上16000以下である。
【0029】
本発明の実施形態に係るグリース組成物G中において、分散剤であるカルボン酸金属塩またはポリカルボン酸の金属塩は、0.5wt%以上含有されることが好ましい。カルボン酸金属塩またはポリカルボン酸の金属塩の含有量が0.5wt%以上の場合、耐熱性を十分に向上させ熱劣化を低減でき、音響特性が良好となる。なお、分散剤がカルボン酸金属塩と炭化水素化合物との共重合体である場合も、0.5wt%以上含有されることが好ましい。本発明の実施形態に係るグリース組成物G中において、分散剤の含有量は、10wt%以下であることが好ましい。
【0030】
また、グリース組成物Gには、その他の添加剤として、酸化防止剤、摩擦防止剤、金属不活性剤、錆止め剤、油性剤、粘度指数向上剤などを必要に応じて含有させることができる。
【0031】
以上のような構成とされた本実施形態に係るグリース組成物、転がり軸受、およびモータにおいては、グリース組成物が上述の分散剤を含有しているので、耐熱性が高く、高温環境下において使用されても熱劣化が少なく、転がり軸受の音響特性が良好である。ここで、グリース組成物は、分散剤を含有していることにより、高温環境下において長時間使用されても凝集物の粗大化が抑制されるため、転がり軸受に使用した時に高温で使用されても音響特性が良好となる。
【0032】
なお、上述した各構成要素を適宜組み合わせて構成したものも本発明に含まれる。また、さらなる変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。よって、本発明のより広範な態様は、上記の実施形態に限定されるものではなく、様々な変更が可能である。
【0033】
例えば、上記実施形態で、グリース組成物は、分散剤としてカルボン酸またはポリカルボン酸のナトリウム塩を含有することができる。また、分散剤としてカルボン酸またはポリカルボン酸のナトリウム塩以外のポリカルボン酸の金属塩を含有する構成であっても良い。カルボン酸またはポリカルボン酸の金属塩としては、ナトリウム塩以外に、例えばリチウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩が挙げられる。この場合、カルボン酸またはポリカルボン酸の金属塩のうち少なくとも1種を含んでいればよい。グリース組成物がカルボン酸またはポリカルボン酸の金属塩を含有していれば、上記実施形態で説明したグリース組成物Gと同様の効果を奏する。また、カルボン酸金属塩と炭化水素化合物とからなる共重合体がナトリウム塩またはナトリウム塩以外の金属塩を用いた構成であっても良い。また、グリース組成物が、分散剤としてカルボン酸金属塩、ポリカルボン酸の金属塩、カルボン酸金属塩と炭化水素化合物とからなる共重合体のうち2種以上を含む場合は、合計で0.5wt%以上含有させることが好ましい。
【0034】
(実施例および比較例)
次に、本発明の実施例および比較例について説明する。実施例および比較例では、種々のグリース組成物を作製し、その特性について比較検討した。
表1、2に示す成分で、基油と増ちょう剤と分散剤とを混合して、実施例1〜20および比較例1〜9のグリース組成物を作製した。基油としては、エステル油(TOTM(トリオクチルトリメリテート)+TOPM(テトラオクチルピロメリテート))、PAO(ポリ−α−オレフィン)、鉱油を使用した。増ちょう剤としては、ジウレア化合物A(表1、2においてジウレアA)として芳香族ウレア化合物と脂肪族ウレア化合物を混合したもの、ジウレア化合物B(表1、2においてジウレアB)として脂肪族ウレア化合物と脂環式ウレア化合物を混合したものを使用した。分散剤としては、ポリカルボン酸の金属塩としてポリアクリル酸のナトリウム塩(表1、2においてA)、カルボン酸金属塩と炭化水素化合物との共重合体として、マレイン酸ナトリウム塩とイソブチレンとの共重合体(表1、2においてB)、カルボン酸金属塩としてセバシン酸ナトリウム塩(表1、2においてC)を使用した。表1、2中、百分率で示す数字は分散剤の含有量を質量%で示したものである。すなわち、実施例1〜20のグリース組成物には、分散剤A、BまたはCを0.5wt%〜10.0wt%の範囲で含有させた。比較例1〜3のグリース組成物には、分散剤を含有させなかった。比較例4、5、8のグリース組成物には、分散剤A、B、Cをそれぞれ0.1wt%含有させた。また、比較例6、7のグリース組成物には、ポリカルボン酸塩であるが金属塩以外のものとしてポリアクリル酸アンモニウム塩(表2においてD)、ポリアクリル酸アミン塩(表2においてE)をそれぞれ2.0wt%含有させた。さらに、比較例9のグリース組成物には、カルボン酸塩であるが金属塩以外のものとしてセバシン酸アンモニウム塩(表2においてF)を2.0wt%含有させた。作製した各グリース組成物に対して、後述する加熱静置試験を行った後、凝集物の大きさについて評価を行った。
【0037】
凝集物の大きさは、各グリース組成物を160℃の環境で500時間、静置するという加熱静置試験を行った後に、光学顕微鏡で凝集物の大きさを観察することにより評価した。このとき、200倍の倍率で300μm角の領域を1か所視野観察した際の凝集物の最大径を測定した。上記の実験の結果を表1、2に示す。
【0038】
表1、2の耐熱性の評価結果に示すように、実施例1〜20においては、160℃の高温環境で長時間静置されても凝集物の最大径が100μm未満であった。一方、比較例1〜9では、グリース組成物中の凝集物が100μm以上に粗大化していた。
【0039】
さらに、実施例3、9、16と比較例1、4のグリース組成物については、耐熱性の評価として、粘度の測定を行った。具体的には、作製した実施例3、9、16と比較例1、4のグリース組成物に対して、120℃、140℃、160℃のそれぞれの温度条件で500時間の加熱静置試験を行った後に、各グリース組成物の粘度を測定した。粘度の測定は、温度25℃、せん断速度1/s、ギャップ0.2mmの条件で、レオメータを用いて測定した。実験結果を
図3に示す。
図3において、横軸は静置温度を示し、縦軸は粘度を示している。
図3の結果より、120℃の加熱静置試験結果では実施例と比較例との間の粘度の差はあまり大きくないが、140℃や160℃のような高温環境下での加熱静置試験後において、実施例3、9、16のグリース組成物では比較例1、4のグリース組成物と比較して大幅に粘度が低かった。すなわち、実施例3、9、16のグリース組成物は、120℃を超える高温環境下でも熱劣化が少なく、グリースの特性が維持されていることが確認された。
【0040】
さらに、実施例3、9、16と比較例1、4のグリース組成物については、耐熱性試験として、転がり軸受に各グリース組成物を封入し、120℃、140℃、160℃のそれぞれの試験温度において、回転速度3000rpmで500時間回転させるという加熱回転試験を行い、その後の転がり軸受の音響特性を調べた。
具体的には、鋼シールド付き玉軸受(内径8mm、外径22mm、幅7mm)に、試験グリースを、軸受容積の25%〜35%で封入した。そして、この玉軸受をハウジングにセットし、軸受内径にシャフトを挿入して、試験用モータの回転軸にシャフトを結合し、玉軸受が内輪回転するようにしてそれぞれの試験温度条件で回転させ、加熱回転試験を行った。
加熱回転試験後の音響特性の評価は、各試験温度で回転させた後の玉軸受についてアンデロンメータ(株式会社菅原研究所社製)を用いてMバンド(300〜1800Hz)のアンデロン値を測定した。尚、Mバンドの周波数300〜1800Hzは、人にとって耳障りな音と言われている。この実験結果を
図4に示す。
図4において、横軸は試験温度を示し、縦軸はアンデロン値を示している。
図4に示すように、実施例3、9、16のグリース組成物は、140℃や160℃のような高温環境においても、加熱回転試験後のアンデロン値が比較例1、4のグリース組成物よりも大幅に低い値を示し、音響特性(静音性)が良好であることが確認された。例えば、160℃の加熱回転試験後の場合は、実施例3、9、16のアンデロン値はいずれも約5であり、比較例1、4のアンデロン値(それぞれ約17、約13)の1/2以下または1/3以下の値であった。
なお、比較例1、4のグリース組成物は、表2に示すように、加熱静置試験を行うと凝集物の最大径がそれぞれ250μm、130μmであり、100μmを超える大きさとなるものである。そして、比較例1、4のグリース組成物は、160℃での加熱回転試験後のアンデロン値が10を超える値となり、耳障りな音が感じられた。したがって、グリース組成物としては、グリース組成物を160℃の環境で500時間、静置するという加熱静置試験を行った後に発生する凝集物の最大径が100μm以下となるように、分散剤を含有させたグリース組成物が好ましい。
上記実施例、比較例からもわかるように、本発明における分散剤は、グリース組成物において、ウレア化合物等の増ちょう剤の熱劣化による凝集物の粗大化抑制を目的とし含有されるものである。
【符号の説明】
【0041】
G グリース組成物
10 モータ(ファンモータ)
11 ロータシャフト
12 ステータ
13 インペラ
14 ロータハウジング
15 羽根
16 ケーシング
20 転がり軸受
21 内輪
22 外輪
23 転動体
24 保持器
25 シール材