特許第6316934号(P6316934)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6316934尿試料分析方法、尿試料分析用試薬及び尿試料分析用試薬キット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6316934
(24)【登録日】2018年4月6日
(45)【発行日】2018年4月25日
(54)【発明の名称】尿試料分析方法、尿試料分析用試薬及び尿試料分析用試薬キット
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/493 20060101AFI20180416BHJP
   G01N 33/49 20060101ALI20180416BHJP
   G01N 21/53 20060101ALI20180416BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20180416BHJP
【FI】
   G01N33/493 A
   G01N33/49 H
   G01N21/53 Z
   G01N21/64 F
【請求項の数】15
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-505330(P2016-505330)
(86)(22)【出願日】2015年2月27日
(86)【国際出願番号】JP2015055897
(87)【国際公開番号】WO2015129869
(87)【国際公開日】20150903
【審査請求日】2016年11月30日
(31)【優先権主張番号】特願2014-39281(P2014-39281)
(32)【優先日】2014年2月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(72)【発明者】
【氏名】河合 昭典
【審査官】 草川 貴史
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−170960(JP,A)
【文献】 特開2006−105625(JP,A)
【文献】 特開2002−090365(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
G01N 21/53
G01N 21/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
尿試料と、3,3'-ジエチルオキサカルボシアニンアイオダイド、3,3-ジプロピルオキサカルボシアニンアイオダイド、3,3'-ジブチルオキサシアニンアイオダイド及び3,3-ジペンチルオキサカルボシアニンアイオダイドから選択される少なくとも1つの蛍光色素を含む第1試薬と、分散剤としてのドデシルトリメチルアンモニウムブロミドを含む第2試薬とを混合して測定試料を調製する工程と、
調製工程で得られた測定試料に含まれる尿中有形成分として少なくとも円柱及び赤血球を検出する工程と
を含む、尿試料分析方法。
【請求項2】
第2試薬が、キレート剤をさらに含む請求項1に記載の尿試料分析方法。
【請求項3】
キレート剤が、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA塩)である請求項2に記載の尿試料分析方法。
【請求項4】
調製工程で得られた測定試料に含まれる尿中有形成分に光を照射して光学的情報を取得する工程をさらに含み、
検出工程が、取得した光学的情報に基づいて、尿中有形成分として少なくとも円柱及び赤血球を検出する工程である請求項1〜3のいずれか1項に記載の尿試料分析方法。
【請求項5】
光学的情報が、散乱光情報および蛍光情報である請求項4に記載の尿試料分析方法。
【請求項6】
3,3'-ジエチルオキサカルボシアニンアイオダイド、3,3-ジプロピルオキサカルボシアニンアイオダイド、3,3'-ジブチルオキサシアニンアイオダイド及び3,3-ジペンチルオキサカルボシアニンアイオダイドから選択される少なくとも1つの蛍光色素を含む第1試薬と、
分散剤としてのドデシルトリメチルアンモニウムブロミドを含む第2試薬と
を含む、尿中有形成分として少なくとも円柱及び赤血球を検出するための尿試料分析用試薬キット。
【請求項7】
第2試薬が、キレート剤をさらに含む請求項6に記載の尿試料分析用試薬キット。
【請求項8】
キレート剤が、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA塩)である請求項7に記載の尿試料分析用試薬キット。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の尿試料分析方法に用いられ、分散剤としてのドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、前記ドデシルトリメチルアンモニウムブロミドを溶解するための溶媒、及び緩衝剤を含む、試薬。
【請求項10】
前記溶媒が、水、水溶性有機溶媒及びそれらの混合物から選択される請求項9に記載の試薬。
【請求項11】
前記水溶性有機溶媒が、炭素数1〜3の低級アルコール、エチレングリコール及びジメチルスルホキシドから選択される請求項10に記載の試薬。
【請求項12】
前記緩衝剤が、pH5以上9以下の範囲で緩衝作用を有する緩衝剤である請求項9〜11のいずれか1項に記載の試薬。
【請求項13】
前記緩衝剤が、Tris、MES、Bis-Tris、ADA、PIPES、ACES、MOPS、MOPSO、BES、TES、HEPES、DIPSO、TAPSO、POPSO、HEPPSO、EPPS、Tricine、Bicine及びTAPSから選択される請求項12に記載の試薬。
【請求項14】
キレート剤をさらに含む請求項9〜13のいずれか1項に記載の試薬。
【請求項15】
前記キレート剤が、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA塩)である請求項14に記載の試薬。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、尿中有形成分として少なくとも円柱及び赤血球を検出するための尿試料分析方法、尿試料分析用試薬及び尿試料分析用試薬キットに関する。
【背景技術】
【0002】
腎・尿路系における感染症、炎症性病変、変性病変、結石症、腫瘍などの疾患では、それぞれの疾患に応じて、尿中に種々の有形成分が出現する。有形成分としては、赤血球、円柱、白血球、上皮細胞、酵母様真菌、精子などが挙げられる。尿中のこれらの成分を分析することは、腎・尿路系の疾患や異常部位の推定をする上で重要である。例えば、赤血球は、腎臓の糸球体から尿道に至る経路における出血の有無を判定するのに有用な尿中有形成分である。
【0003】
円柱は、Tamm-Horsfallムコタンパク質と尿中血漿タンパク質(主にアルブミン)との凝固沈殿物を基質とする固形成分であり、主に遠位尿細管及び集合管で形成される。この基質のみからなる円柱は硝子円柱と呼ばれるが、腎臓や尿細管の状態によっては硝子円柱に細胞などの種々の成分が封入され、さらに変性した円柱が生じることがある。そのため、円柱は、腎臓及び尿細管の病態や障害の程度を把握するのに有用な尿中有形成分である。
【0004】
円柱及び赤血球などの尿中有形成分の分析では、尿を遠心分離して得られる沈殿物(有形成分)を顕微鏡で観察することによる目視検査が広く行われている。また、近年ではフローサイトメータを用いた自動分析法も開発されている。例えば、特許文献1〜4には、希釈用試薬及び尿中有形成分の染色のために、シアニン系色素の3,3'-ジヘキシル-2, 2'-オキサカルボシアニンアイオダイド(DiOC6(3))を含む染色用試薬で処理した尿試料をフローサイトメータで測定することにより、尿中有形成分を分析する方法が記載されている。
【0005】
一方、尿中には、形状が円柱に極めて類似した成分である粘液糸や、細菌や塩類など凝集体も存在する。尿試料中の円柱の数は臨床的に重要な情報であるので、円柱の検出の際には、円柱と、粘液糸などの円柱に類似した成分とを弁別することが重要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−23446号公報
【特許文献2】特開平9−329596号公報
【特許文献3】特開平8−240520号公報
【特許文献4】特開平8−170960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来技術に比べて、赤血球を溶血させずに精度良く検出することができ、さらに円柱を粘液糸などの夾雑物と区別して精度良く検出することができる尿試料分析方法を提供することを目的とする。また、本発明は、その方法に好適に用いられる尿試料分析用試薬及び尿試料分析用試薬キットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討の結果、尿中有形成分を染色するための色素として、特定のシアニン系蛍光色素を用いることにより、赤血球を実質的に損傷させずに検出し、且つ円柱と粘液糸とを区別して検出することができることを見出して、本発明を完成した。
【0009】
よって、本発明は、尿試料と、3,3'-ジエチルオキサカルボシアニンアイオダイド(DiOC2(3))、3,3-ジプロピルオキサカルボシアニンアイオダイド(DiOC3(3))、3,3'-ジブチルオキサシアニンアイオダイド(DiOC4(3))及び3,3-ジペンチルオキサカルボシアニンアイオダイド(DiOC5(3))から選択される少なくとも1つの蛍光色素を含む第1試薬とを混合して測定試料を調製する工程と、調製工程で得られた測定試料に含まれる尿中有形成分として少なくとも円柱及び赤血球を検出する工程とを含む、尿試料分析方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、DiOC2(3)、DiOC3(3)、DiOC4(3)及びDiOC5(3)から選択される少なくとも1つの蛍光色素を含む、尿中有形成分として少なくとも円柱及び赤血球を検出するための尿試料分析用試薬を提供する。
【0011】
さらに、本発明は、DiOC2(3)、DiOC3(3)、DiOC4(3)及びDiOC5(3)から選択される少なくとも1つの蛍光色素を含む第1試薬と、分散剤としての界面活性剤を含む第2試薬とを含む、尿中有形成分として少なくとも円柱及び赤血球を検出するための尿試料分析用試薬キットを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、赤血球を実質的に損傷させずに検出し、且つ円柱及び赤血球を精度良く検出することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】尿試料分析用試薬の一例を示す図である。
図2】尿試料分析用試薬キットの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[尿試料分析方法]
本実施形態の尿試料分析方法(以下、単に「方法」ともいう)は、尿中有形成分のうち赤血球、円柱、結晶成分及び粘液糸を分析対象とし、特に円柱及び赤血球の分析に好適である。
【0015】
円柱には様々な種類があり、上記の基質のみからなる硝子円柱、尿細管上皮細胞が封入された上皮円柱、赤血球が封入された赤血球円柱、白血球が封入された白血球円柱、脂肪顆粒が封入された脂肪円柱、顆粒成分(主に変性した上皮細胞)が封入された顆粒円柱、円柱の全体又は一部が均質で蝋のように変性した蝋様円柱が知られている。本実施形態において、円柱の種類は特に限定されない。
【0016】
本実施形態において、赤血球の種類は特に限定されず、正常赤血球及び異常赤血球のいずれであってもよい。
【0017】
本実施形態の方法では、まず、尿試料と、3,3'-ジエチルオキサカルボシアニンアイオダイド(DiOC2(3))、3,3-ジプロピルオキサカルボシアニンアイオダイド(DiOC3(3))、3,3'-ジブチルオキサシアニンアイオダイド(DiOC4(3))及び3,3-ジペンチルオキサカルボシアニンアイオダイド(DiOC5(3))から選択される少なくとも1つの蛍光色素を含む第1試薬とを混合して測定試料を調製する工程が行われる。
【0018】
本実施形態において、尿試料は、尿中有形成分を含む液体試料であれば特に限定されないが、好ましくは被験者から採取した尿である。なお、被験者から採取した尿を試料として用いる場合、時間経過により尿中有形成分が劣化するおそれがあるので、採取後24時間以内、特に3〜12時間以内に尿試料を本実施形態の方法に用いることが望ましい。
【0019】
本実施形態の方法に用いられる第1試薬は、少なくとも円柱及び赤血球を含む尿中有形成分を染色するための試薬である。第1試薬に用いうる蛍光色素のDiOC2(3)、DiOC3(3)、DiOC4(3)及びDiOC5(3)は、それぞれNK-85、NK-2605、NK-5587及びNK-2453とも呼ばれ、いずれも株式会社林原生物化学研究所から入手可能である。従来の分析方法では、尿中有形成分の染色のために、シアニン系色素の3,3'-ジヘキシル-2, 2'-オキサカルボシアニンアイオダイド(DiOC6(3))を含む染色用試薬が用いられている。本発明者らは、このDiOC6(3)を含む染色用試薬で尿試料を処理するよりも、DiOC2(3)、DiOC3(3)、DiOC4(3)及びDiOC5(3)から選択される少なくとも1つの蛍光色素を含む染色用試薬で尿試料を処理する方が、試料中の赤血球の形態がより保持でき、赤血球を正確に検出できることを見出した。また、本実施形態の方法では、これらの色素により、赤血球の膜成分及び円柱は良好に染色されるが、粘液糸はほとんど染色されない。これらの色素の構造式を、以下に示す。
【0020】
【化1】
【0021】
第1試薬中の蛍光色素は1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。第1試薬中の蛍光色素の濃度は、調製した測定試料中において、少なくとも円柱及び赤血球を適切に染色することができるような終濃度で該蛍光色素が含まれるように設定することが望ましい。測定試料中の終濃度は、上記の蛍光色素の種類に応じて適宜設定される。例えば、蛍光色素としてDiOC3(3)を用いる場合、測定試料中の終濃度は0.1μg/mL以上200μg/mL以下、好ましくは1μg/mL以上20μg/mL以下である。
【0022】
第1試薬は、上記の蛍光色素を適切な溶媒に溶解させることにより得ることができる。溶媒は、上記の蛍光色素を溶解させることができる水性溶媒であれば特に限定されず、例えば、水、水溶性有機溶媒、及びこれらの混合物が挙げられる。それらの中でも、水溶性有機溶媒が特に好ましい。水溶性有機溶媒としては、例えば、炭素数1〜3の低級アルコール、エチレングリコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられる。
【0023】
本実施形態では、必要に応じて、調製工程において、尿試料を希釈するための希釈用試薬をさらに混合してもよい。そのような希釈用試薬としては、水又は緩衝液が好ましい。緩衝液は、pHを5以上9以下、好ましくは6.5以上8.6以下、より好ましくは7.0以上7.8以下の範囲にて緩衝作用を有する緩衝剤の水溶液であれば特に限定されない。そのような緩衝剤としては、例えば、Tris、MES、Bis-Tris、ADA、PIPES、ACES、MOPS、MOPSO、BES、TES、HEPES、DIPSO、TAPSO、POPSO、HEPPSO、EPPS、Tricine、Bicine、TAPSなどのグッド緩衝剤などが挙げられる。
【0024】
本実施形態では、調製工程において、分散剤としての界面活性剤を含む第2試薬をさらに混合することが好ましい。このような第2試薬をさらに混合することにより、円柱の正確な検出を阻害する細菌や塩類などの夾雑物の凝集体を分散させ、除去することができる。
【0025】
第2試薬は、界面活性剤を適切な溶媒に溶解させることにより得ることができる。溶媒は、界面活性剤を溶解させることができれば特に限定されず、例えば、水、水溶性有機溶媒、及びこれらの混合物が挙げられる。水溶性有機溶媒としては、例えば、炭素数1〜3の低級アルコール、エチレングリコール、DMSOなどが挙げられる。本実施形態においては、水が特に好ましい。なお、第2試薬は、上記の希釈用試薬に界面活性剤を溶解させることにより調製してもよい。
【0026】
第2試薬に用いられる界面活性剤の種類は特に限定されず、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤及び両性界面活性剤から適宜選択することができる。第2試薬に含まれる界面活性剤は1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。2種類以上の界面活性剤を含む場合、その組み合わせは任意に選択することができる。
【0027】
本実施形態においては、カチオン性界面活性剤として、第四級アンモニウム塩型界面活性剤及びピリジニウム塩型界面活性剤から選択される少なくとも1種を用いることができる。第四級アンモニウム塩型界面活性剤としては、例えば、以下の式(I)で表される、全炭素数が9〜30の界面活性剤が挙げられる。
【0028】
【化2】
【0029】
上記の式(I)中、R1は炭素数6〜18のアルキル基またはアルケニル基であり;R2及びR3は互いに同一又は異なって、炭素数1〜4のアルキル基又はアルケニル基であり;R4は炭素数1〜4のアルキル基若しくはアルケニル基、又はベンジル基であり;X-はハロゲンイオンである。
【0030】
上記の式(I)中、R1としては、炭素数が6、8、10、12及び14のアルキル基またはアルケニル基が好ましく、特に直鎖のアルキル基が好ましい。より具体的なR1としては、オクチル基、デシル基及びドデシル基が挙げられる。R2及びR3としては、メチル基、エチル基及びプロピル基が好ましい。R4としては、メチル基、エチル基及びプロピル基が好ましい。
【0031】
ピリジニウム塩型界面活性剤としては、例えば、以下の式(II)で表される界面活性剤が挙げられる。
【0032】
【化3】
【0033】
上記の式(II)中、R1は炭素数6〜18のアルキル基またはアルケニル基であり;X-はハロゲンイオンである。
【0034】
上記の式(II)中、R1としては、炭素数が6、8、10、12及び14のアルキル基またはアルケニル基が好ましく、特に直鎖のアルキル基が好ましい。より具体的なR1としてはオクチル基、デシル基及びドデシル基が挙げられる。
【0035】
上記のカチオン性界面活性剤の具体例としては、ドデシルトリメチルアンモニウムブロミド、デシルトリメチルアンモニウムブロミド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、オクチルトリメチルアンモニウムブロミド、オクチルトリメチルアンモニウムクロライド、ミリスチルトリメチルアンモニウムブロミド、ミリスチルトリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルピリジニウムクロライドなどが挙げられる。それらの中でもドデシルトリメチルアンモニウムブロミド(DTAB)が特に好ましい。
【0036】
本実施形態においては、ノニオン性界面活性剤として、以下の式(III)で表されるポリオキシエチレン系ノニオン界面活性剤が好適に用いられる。
【0037】
1−R2−(CH2CH2O)n−H (III)
【0038】
上記の式(III)中、R1は炭素数8〜25のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基であり;R2は−O−、−COO−または
【0039】
【化4】
であり;nは10〜50の整数である。
【0040】
上記のノニオン性界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンステロール、ポリオキシエチレンヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビット脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテルなどが挙げられる。
【0041】
本実施形態においては、アニオン性界面活性剤として、カルボン酸塩型界面活性剤、スルホン酸塩型界面活性剤及び硫酸エステル塩型界面活性剤から選択される少なくとも1種を用いることができる。カルボン酸塩型界面活性剤としては、例えば、以下の式(IV)で表される界面活性剤が挙げられる。
【0042】
1−COO-+ (IV)
【0043】
上記の式(IV)中、R1は炭素数8〜25のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基であり;Y+はアルカリ金属イオンである。
【0044】
上記の式(IV)中、R1としては炭素数が12〜18の直鎖のアルキル基が好ましい。上記のカルボン酸塩型界面活性剤は、当該技術においてはセッケンとして知られ、例えば、ラウリン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0045】
スルホン酸塩型界面活性剤としては、例えば、以下の式(V)で表される界面活性剤が挙げられる。
【0046】
【化5】
【0047】
上記の式(V)中、m及びnは0以上の整数であって、mとnの和が8〜25であり;Y+はアルカリ金属イオンである。
【0048】
上記の式(V)中、mとnの和が9〜18であることが好ましい。上記の式(V)で表されるスルホン酸塩型界面活性剤は、当該技術においてはアルキルベンゼンスルホン酸塩として知られ、例えば、直鎖デシルベンゼン硫酸ナトリウム、直鎖ウンデシルベンゼン硫酸ナトリウム、直鎖ドデシルベンゼン硫酸ナトリウム、直鎖トリデシルベンゼン硫酸ナトリウム及び直鎖テトラデシルベンゼン硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0049】
また、スルホン酸塩型界面活性剤として、以下の式(VI)及び(VII)のそれぞれで表される界面活性剤の混合物を用いてもよい。
【0050】
CH3(CH2)j−CH=CH−(CH2)k−SO3-+ (VI)
【0051】
上記の式(VI)中、j及びkは0以上の整数であって、jとkの和が10〜25の整数であり;Y+はアルカリ金属イオンである。
【0052】
CH3(CH2)m−CH(−OH)−(CH2)n−SO3-+ (VII)
【0053】
上記の式(VII)中、m及びnは0以上の整数であって、mとnの和が10〜25の整数であり;Y+はアルカリ金属イオンである。
【0054】
上記の式(VI)中、jとkの和が11〜15の整数であって、上記の式(VII)中、mとnの和が12〜16の整数であることが好ましい。上記の式(VI)及び(VII)でそれぞれ表される界面活性剤は、当該技術においてはα−オレフィンスルホン酸塩として知られ、例えば、1−テトラデセンスルホン酸ナトリウム、ヘキサデセンスルホン酸ナトリウム、3−ヒドロキシヘキサデシル−1−スルホン酸ナトリウム、オクタデセン−1−スルホン酸ナトリウム及び3−ヒドロキシ−1−オクタデカンスルホン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0055】
硫酸エステル塩型界面活性剤としては、例えば、以下の式(VIII)で表される界面活性剤が挙げられる。
【0056】
1−O−SO3-+ (VIII)
【0057】
上記の式(VIII)中、R1は炭素数10〜25のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基であり;Y+はアルカリ金属イオンである。
【0058】
上記の式(VIII)中、R1としては、炭素数が10〜18の直鎖のアルキル基が好ましく、特に炭素数が12の直鎖のアルキル基が好ましい。上記の式(VIII)で表される硫酸エステル塩型界面活性剤は、当該技術においては高級アルコール硫酸エステル塩として知られ、例えば、デシル硫酸ナトリウム、ウンデシル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウム、トリデシル硫酸ナトリウム及びテトラデシル硫酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0059】
また、硫酸エステル塩型界面活性剤として、以下の式(IX)で表される界面活性剤を用いてもよい。
【0060】
1−O−(CH2CH2O)n−SO3-+ (IX)
【0061】
上記の式(IX)中、R1は炭素数10〜25のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基であり;nは1〜8の整数であり;Y+はアルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンである。
【0062】
上記の式(IX)中、R1としては、炭素数が12〜18の直鎖のアルキル基が好ましく、特に炭素数が12の直鎖のアルキル基が好ましい。上記の式(IX)で表される硫酸エステル塩型界面活性剤は、当該技術においてはポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩として知られ、例えば、ドデシルエーテル硫酸エステルナトリウムなどが挙げられる。
【0063】
また、硫酸エステル塩型界面活性剤として、以下の式(X)で表される界面活性剤を用いてもよい。
【0064】
1−CH(−SO3-)−COOCH3+ (X)
【0065】
上記の式(X)中、R1は炭素数8〜25のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基であり;Y+はアルカリ金属イオンである。
【0066】
上記の式(X)中、R1としては、炭素数が10〜18の直鎖のアルキル基が好ましく、特に炭素数が12の直鎖のアルキル基が好ましい。上記の式(X)で表される硫酸エステル塩型界面活性剤は、当該技術においてはα−スルホ脂肪酸エステルとして知られ、例えば、2−スルホテトラデカン酸−1−メチルエステルナトリウム塩及び2−スルホヘキサデカン酸−1−メチルエステルナトリウム塩などが挙げられる。
【0067】
本実施形態において、両性界面活性剤として、アミノ酸型両性界面活性剤及びベタイン型両性界面活性剤から選択される少なくとも1種を用いることができる。アミノ酸型両性界面活性剤としては、例えば以下の式(XI)で表される界面活性剤が挙げられる。
【0068】
1−N+2−CH2CH2COO- (XI)
【0069】
上記の式(XI)中、R1は炭素数8〜25のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基である。
【0070】
上記の式(XI)中、R1としては、炭素数が12〜18の直鎖のアルキル基が好ましい。上記のアミノ酸型両性界面活性剤としては、例えば、3−(ドデシルアミノ)プロパン酸及び3−(テトラデカ−1−イルアミノ)プロパン酸などが挙げられる。
【0071】
ベタイン型両性界面活性剤としては、例えば、以下の式(XII)で表される界面活性剤が挙げられる。
【0072】
【化6】
【0073】
上記の式(XII)中、R1は炭素数6〜18のアルキル基又はアルケニル基であり;R2は炭素数1〜4のアルキル基又はアルケニル基であり;R3は炭素数1〜4のアルキル基若しくはアルケニル基、又はベンジル基であり;nは1又は2である。
【0074】
ベタイン型両性界面活性剤としては、例えば、ドデシルジメチルアミノ酢酸ベタイン及びステアリルジメチルアミノ酢酸ベタインなどが挙げられる。
【0075】
第2試薬中の界面活性剤の濃度は、上記のようにして調製した測定試料中において、赤血球を溶血させず、且つ夾雑物の凝集体を分散させることができるような終濃度で該界面活性剤が含まれるように設定することが望ましい。測定試料中の界面活性剤の終濃度は適宜設定できるが、好ましくは3ppm以上30 ppm以下である。
【0076】
本実施形態においては、pH変化による赤血球の溶血を防止するために、第2試薬のpHを5以上9以下、好ましくは6.5以上8.6以下、より好ましくは7.0以上7.8以下の範囲とすることができる。よって、第2試薬は、pHを一定に保つために緩衝剤を含んでいてもよい。そのような緩衝剤としては、上記の希釈用試薬に用いた緩衝剤と同様である。
【0077】
尿試料には、リン酸アンモニウム、リン酸マグネシウム、炭酸カルシウムなどの無晶性塩類が含まれている場合がある。本実施形態においては、これらの無晶性塩類の影響を低減させるために、第2試薬はキレート剤を含んでいてもよい。キレート剤は、無晶性塩類を除去可能なキレート剤であれば特に限定されず、当該技術において公知の脱カルシウム剤、脱マグネシウム剤などから適宜選択することができる。具体的には、エチレンジアミン四酢酸塩(EDTA塩)、CyDTA、DHEG、DPTA-OH、EDDA、EDDP、GEDTA、HDTA、HIDA、Methyl-EDTA、NTA、NTP、NTPO、EDDPOなどが挙げられ、それらの中でもEDTA塩が特に好ましい。
【0078】
第2試薬中のキレート剤の濃度は、上記のようにして調製した測定試料中において、無晶性塩類の影響を低減できるような終濃度で該キレート剤が含まれるように設定することが望ましい。測定試料中の終濃度は、上記のキレート剤の種類に応じて適宜設定される。例えば、キレート剤としてEDTA2カリウム(EDTA-2K)を用いる場合、測定試料中の終濃度は0.1 mM以上500 mM以下、好ましくは1mM以上100 mM以下である。
【0079】
尿中に酵母様真菌及び赤血球が存在する場合、フローサイトメータによる分析では、酵母様真菌と赤血球との分画があまり良好ではない場合があることが知られている。したがって、第2試薬は、酵母様真菌の細胞膜を損傷させる物質を含んでいてもよい。そのような物質としては、2−フェノキシエタノール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコール、1−フェノキシ−2−プロパノール、フェノール、酢酸フェニル、ベンゾチアゾールなどが挙げられ、それらの中でも2−フェノキシエタノールが特に好ましい。このような物質を含む第2試薬を用いることにより、酵母様真菌の染色性が変化して、赤血球と酵母様真菌との分画が改善される。
【0080】
尿の浸透圧は、50〜1300 mOsm/kgと広範囲に分布していることが知られているが、測定試料において浸透圧が低すぎるか又は高すぎる場合、赤血球が損傷するおそれがある。測定試料における適切な浸透圧は100 mOsm/kg以上600 mOsm/kg以下、好ましくは150 mOsm/kg以上500 mOsm/kg以下である。尿の浸透圧が高すぎる場合は、希釈用試薬又は第2試薬で希釈することにより浸透圧を適宜調節することができる。反対に、尿の浸透圧が低すぎる場合は、第2試薬は浸透圧補償剤を含んでいてもよい。そのような浸透圧補償剤としては、無機塩類、有機塩類、糖類などが挙げられる。無機塩類としては、塩化ナトリウム、臭化ナトリウムなどが挙げられる。有機塩類としては、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カリウム、プロピオン酸アンモニウムシュウ酸塩などが挙げられる。糖類としては、ソルビトール、グルコース、マンニトールなどが挙げられる。
【0081】
本実施形態においては、尿試料と、第1試薬と、第2試薬とを混合する順序は特に限定されず、これらを同時に混合することもできる。好ましくは、尿試料と第2試薬とを先に混合し、ここへ第1試薬をさらに混合する。あるいは、第1試薬と第2試薬とを先に混合し、ここへ尿試料をさらに混合してもよい。
【0082】
本実施形態において、尿試料と、第1試薬と、第2試薬との混合割合は特に限定されず、各試薬に含まれる成分濃度に応じて適宜決定すればよい。例えば、尿試料と第1試薬との混合割合は、体積比で1:0.01〜1の範囲から決定することができる。また、尿試料と第2試薬との混合割合は、体積比で1:0.5〜10の範囲から決定することができる。なお、尿試料の量は、第1試薬と第2試薬に応じて適宜決定すればよい。尿試料の量は測定時間が長くなり過ぎないようにする観点から1000μL以下が好ましい。尿試料の量は10〜1000μL程度で測定に十分である。
【0083】
調製工程における温度条件は、10〜60℃、好ましくは35〜45℃である。各試薬を予めこれらの温度となるように加温していてもよい。また、尿試料と、第1試薬及び/又は第2試薬とを混合した後、1秒〜5分間、好ましくは5〜60秒間インキュベーションしてもよい。
【0084】
本実施形態の方法では、上記の調製工程で得られた測定試料に含まれる尿中有形成分として少なくとも円柱及び赤血球を検出する工程が行われる。
【0085】
得られた測定試料においては、尿中有形成分、特に円柱及び赤血球が、上記の蛍光色素により染色されている。よって、蛍光顕微鏡を用いて、測定試料中の各有形成分の形状及び染色の程度などを観察することにより、これらの有形成分を検出することができる。
【0086】
好ましい実施形態においては、上記の検出工程の前に、測定試料に含まれる尿中有形成分に光を照射して光学的情報を取得する工程をさらに行う。この光学的情報の取得工程は、フローサイトメータにより行われることが望ましい。フローサイトメータによる測定では、染色された尿中有形成分がフローセルを通過する際に該有形成分に光を照射することにより、該有形成分から発せられるシグナルとして光学的情報を得ることができる。そのような光学的情報としては、散乱光情報および蛍光情報が好ましい。
【0087】
散乱光情報は、一般に市販されるフローサイトメータで測定できる散乱光の情報であれば特に限定されず、例えば、前方散乱光(例えば、受光角度0〜20度付近)や側方散乱光(受光角度90度付近)などの散乱光の強度及び波形情報などが挙げられる。より具体的には、散乱光情報として、散乱光強度、散乱光パルス幅及び散乱光積分値などが挙げられる。当該技術においては、側方散乱光は、細胞の核や顆粒などの内部情報を反映し、前方散乱光は、細胞の大きさの情報を反映することが知られている。実施形態においては、前方散乱光の情報を用いることが好ましい。
【0088】
蛍光情報は、適当な波長の励起光を染色された尿中有形成分に照射して、励起された蛍光を測定して得られる情報であれば特に限定されず、例えば、蛍光の強度及び波形情報が挙げられる。より具体的には、蛍光情報として、蛍光強度、蛍光パルス幅及び蛍光積分値などが挙げられる。なお、蛍光は、第1試薬に含まれる蛍光色素によって染色された有形成分内の核酸などから発せられる。また、受光波長は、第1試薬に含まれる蛍光色素に応じて適宜選択することができる。
【0089】
本実施形態においては、フローサイトメータの光源は特に限定されず、蛍光色素の励起に好適な波長の光源を適宜選択することができる。例えば、赤色半導体レーザ、青色半導体レーザ、アルゴンレーザ、He-Neレーザ、水銀アークランプなどが使用される。特に半導体レーザは、気体レーザに比べて非常に安価であるので好適である。
【0090】
本実施形態の方法において上記の取得工程を行う場合、検出工程では、該取得工程で得られた光学的情報に基づいて、尿中有形成分として少なくとも円柱及び赤血球を検出する。なお、「検出」には、測定試料中に尿中有形成分の存在を見出すことだけではなく、尿中有形成分を分類及び計数することも含まれる。
【0091】
本実施形態において、尿中有形成分の検出は、散乱光情報と蛍光情報とを二軸とするスキャッタグラムを作成し、得られたスキャッタグラムを適当な解析ソフトを用いて解析することにより行われることが好ましい。例えば、X軸を蛍光強度とし、Y軸を前方散乱光強度としてスキャッタグラムを描いた場合、各尿中有形成分の粒子サイズ及び染色性(核酸含有量)に応じて、それぞれの集団(クラスター)がスキャッタグラム上に出現する。本実施形態の方法においては、少なくとも円柱及び赤血球を、それぞれ異なる領域に出現する2種類の集団として検出することができる。また、解析ソフトによって、スキャッタグラム上にて各集団を囲むウィンドウを設け、各ウィンドウ中の粒子数を計数することができる。
【0092】
[尿試料分析用試薬]
本実施形態の尿試料分析用試薬11(以下、単に「試薬」ともいう)は、尿試料中の有形成分として少なくとも円柱及び赤血球を検出するための試薬である。本実施形態の試薬は、DiOC2(3)、DiOC3(3)、DiOC4(3)及びDiOC5(3)から選択される少なくとも1つの蛍光色素を含む。なお、本実施形態の試薬については、本実施形態の尿試料分析方法に用いた第1試薬について述べたことと同じである。
【0093】
本発明の範囲には、尿試料中の有形成分として少なくとも円柱及び赤血球を検出するための、DiOC2(3)、DiOC3(3)、DiOC4(3)及びDiOC5(3)から選択される少なくとも1つの蛍光色素を含む試薬の使用も含まれる。図1に、本実施形態の試薬11の一例を示した。
【0094】
[尿試料分析用試薬キット]
本実施形態の尿試料分析用試薬キット(以下、単に「試薬キット」ともいう)は、尿試料中の有形成分として少なくとも円柱及び赤血球を検出するための試薬キットである。この試薬キットは、DiOC2(3)、DiOC3(3)、DiOC4(3)及びDiOC5(3)から選択される少なくとも1つの蛍光色素を含む第1試薬と、分散剤としての界面活性剤を含む第2試薬とを含む。
【0095】
試薬キットに含まれる第1試薬及び第2試薬については、本実施形態の尿試料分析方法に用いた第1試薬及び第2試薬について述べたことと同じである。
【0096】
本実施形態においては、第1試薬と第2試薬とを別々の容器に収容し、これらを備えた2試薬型の試薬キットとすることが好ましい。図2に、容器に収容された第1試薬22及び容器に収容された第2試薬33を含む本実施形態の試薬キットの一例を示した。
【0097】
本発明の範囲には、尿試料中の有形成分として少なくとも円柱及び赤血球を検出するための、DiOC2(3)、DiOC3(3)、DiOC4(3)及びDiOC5(3)から選択される少なくとも1つの蛍光色素を含む第1試薬と、分散剤としての界面活性剤を含む第2試薬とを含む試薬キットの使用も含まれる。
【0098】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0099】
実施例1
実施例1では、円柱を染色可能であって、且つ円柱と粘液糸とを染色の差により判別可能な色素を探索した。なお、円柱と粘液糸との判別は、試料を蛍光顕微鏡下で観察することにより行った。また、フローサイトメータによる測定も行った。
【0100】
(1)尿試料
尿試料として、円柱及び粘液糸を含む尿を用いた。
(2)試薬
・染色用試薬
染色用試薬として、表1に示される各色素を含む染色液1〜29を調製した。なお、これらの染色液はいずれも、色素を1mg/mLの濃度となるようにエチレングリコール(ナカライテスク株式会社)に溶解して調製した。
【0101】
【表1】
【0102】
・希釈用試薬
希釈用試薬として、HEPES-OH(100 mM、pH7)(株式会社同仁化学研究所)を用いた。なお、溶媒には、逆浸透膜で濾過した水を用いた。
【0103】
(3)蛍光顕微鏡による観察及び結果
尿試料(200μL)と、希釈用試薬(580μL)と、各染色液(20μL)とを混合し、40℃にて1分間反応させ測定試料を調製した。そして、得られた測定試料中の円柱及び粘液糸を蛍光顕微鏡BX51(オリンパス株式会社製)により観察した。観察の結果、上記の29種の色素のうち、円柱を染色可能であって、且つ円柱と粘液糸とを染色の差により判別可能な色素は、DioC2(3)、DioC3(3)、DioC4(3)、DioC5(3)、DioC6(3)及びDioC7(3)の6種のみであった。これらの色素を用いた場合、粘液糸よりも円柱が良好に染色され、その結果、円柱と粘液糸との判別が可能であった。
【0104】
(4)フローサイトメータによる測定及び結果
蛍光顕微鏡による観察結果を受けて、染色液1〜6のそれぞれで染色した試料について、フローサイトメータによっても円柱と粘液糸とを弁別可能であるかを検討した。試料の測定は、フローサイトメータUF-1000i(シスメックス株式会社製)を用いて行った。このフローサイトメータによる測定の具体的な工程は、次のとおりである。まず、尿試料(200μL)と、希釈用試薬(580μL)と、各染色液(20μL)とを混合し、40℃にて60秒間反応させて測定試料を調製した。そして、測定試料に光を照射して、前方散乱光強度、側方散乱光強度、蛍光強度及び蛍光の積分値を取得した。なお、フローサイトメータの光源として、励起波長488 nmの半導体レーザを用いた。蛍光強度及び蛍光の積分値から、円柱の粘液糸に対する蛍光強度比及び蛍光総和比を算出した。結果を表2に示す。
【0105】
【表2】
【0106】
表2より、染色液1〜6のいずれを用いた場合でも、蛍光強度比及び蛍光総和比はどちらも1.2以上であった。特に、染色液1〜4を用いた場合に、蛍光強度比及び蛍光総和比が高いことが分かった。この結果より、DioC2(3)、DioC3(3)、DioC4(3)及びDioC5(3)は、フローサイトメータによる円柱と粘液糸との弁別に適していることが示された。
【0107】
実施例2
実施例2では、DioC2(3)、DioC3(3)、DioC4(3)、DioC5(3)、DioC6(3)及びDioC7(3)による赤血球への影響(溶血)を検討した。なお、赤血球への影響は、測定試料中の赤血球数に基づいて評価した。
【0108】
(1)赤血球試料
健常ボランティアから採取したヒト血液を生理食塩水(大塚製薬工場)で1000倍に希釈して、赤血球試料を調製した。
(2)試薬
染色用試薬として、実施例1と同じ染色液1〜6を用いた。希釈用試薬として、実施例1と同じ緩衝液を用いた。
【0109】
(3)測定及び結果
試料の測定はフローサイトメータUF-1000i(シスメックス株式会社製)を用いて行った。なお、測定試料は実施例1と同様にして調製した。そして、測定試料に光を照射して、蛍光強度及び前方散乱光強度を取得した。なお、フローサイトメータの光源として、励起波長488 nmの半導体レーザを用いた。そして、これらの測定値に基づいて、測定試料中の赤血球数をカウントした。結果を表3に示す。
【0110】
【表3】
【0111】
表3から明らかなように、染色液5及び6を用いた場合では、染色液1〜4を用いた場合に比べて、測定試料中の赤血球の数が顕著に減少していた。これは、染色用試薬中のDioC6(3)及びDioC7(3)の影響により赤血球が溶血したことを示す。したがって、DioC6(3)及びDioC7(3)を尿試料の染色に用いた場合、該試料中の赤血球を正確に計数することは難しい。これに対して、DioC2(3)、DioC3(3)、DioC4(3)及びDioC5(3)は、DioC6(3)及びDioC7(3)に比べて、赤血球に及ぼす影響が極めて小さく、尿試料中の赤血球の測定に適していることがわかる。
【0112】
実施例3
実施例3では、フローサイトメータを用いる本実施形態の尿試料分析方法の臨床性能を、目視検査の結果と比較して評価した。
【0113】
(1)尿試料
尿試料として、顕微鏡観察により円柱が出現していないと判断された陰性尿検体(42検体)を用いた。
【0114】
(2)試薬
・染色用試薬
染色用試薬として、実施例1と同じ染色液2(DioC3(3)含有)を用いた。
・希釈用試薬
希釈用試薬として、下記の組成の希釈液1及び2を調製した。なお、希釈液1及び2には、逆浸透膜で濾過した水を溶媒として用いた。
希釈液1:HEPES-OH(100 mM、pH7)及びEDTA-2K(25 mM)(中部キレスト株式会社)
希釈液2:HEPES-OH(100 mM、pH7)、EDTA-2K(25 mM)及びDTAB(10 ppm)(東京化成工業株式会社)
【0115】
(3)測定及び結果
試料の測定はフローサイトメータUF-1000i(シスメックス株式会社製)を用いて行った。このフローサイトメータによる測定の具体的な工程は、次のとおりである。まず、尿試料(200μL)と、希釈用試薬(580μL)と、各染色液(20μL)とを混合し、40℃にて10秒間反応させて測定試料を調製した。そして、得られた測定試料に光を照射して、前方散乱光強度、側方散乱光強度及び蛍光強度を取得した。なお、フローサイトメータの光源として、励起波長488 nmの半導体レーザを用いた。これらの測定値に基づいて測定試料中の円柱の数を算出し、フローサイトメータ(FCM)により陰性と判断された検体数を求めた。また、目視(顕微鏡観察)による陰性検体数をリファレンスとして、FCMによる円柱の分析の特異度を求めた。結果を表4に示す。
【0116】
【表4】
【0117】
表4より、DioC3(3)を含む染色用試薬と、希釈液とを用いて尿試料を処理し、得られた測定試料をFCMで測定することにより、70%以上の特異度で尿試料を分析できることが示された。また、分散剤としてカチオン性界面活性剤のDTABを含む希釈液で尿試料を処理することにより、特異度が向上した。これは、DTABの作用により、円柱に類似した夾雑物が低減されたことによると考えられる。
【0118】
本出願は、2014年2月28日に出願された日本国特許出願特願2014−39281号に関し、これらの特許請求の範囲、明細書、図面及び要約書の全ては本明細書中に参照として組み込まれる。
【符号の説明】
【0119】
11 尿試料分析用試薬
22 第1試薬
33 第2試薬
図1
図2