(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記リード線部の前記電極パッドに固定される部分が生体電気信号を検出する検出電極を含んだ電極部を形成し、前記導電細線パターンが前記電極部に設けられる場合、メッシュ状のパターンを形成することを特徴とする請求項1または2に記載の生体電極。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の例示的な実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る生体電極のうち、一端を電極パッドに固定され、他端をコネクタに接続されるリード線部の基本的な構成例を示す分解斜視図である。電極パッドとリード線部とが一体に構成される使い捨て型の生体電極では、印刷や粘着材層を介した接着などよって平板状の基材に様々な機能を有する複数の層を形成した積層構造のリード線部を有する。本実施形態では、4つの電極を用いて2chの心電図の測定可能な生体電極に本発明を適用した例を説明する。しかし、本発明は心電図計測用の生体電極に限らず、他の生体電気信号を測定する電極にも適用可能である。また、電極の数にも特に制限は無く、1電極、3電極、5電極、7電極など、4電極以外の電極数の生体電極にも適用可能である。なお、1電極の場合、生体電気信号の測定時には他の1つ以上の電極と組み合わせて用いられる。他の1つ以上の電極は本実施形態で説明する構造を有するものであってもなくてもよい。
【0013】
図1に示す生体電極は、A〜Dの4つの電極を有する。各電極は基本的に共通の構成を有するが、電極Aは心電計(コネクタ)に近い位置に配置されている。一方、他の電極B〜Dについては、電極Aの外縁から、各電極に独立して設けられたコード部150を介して設けられている。なお、
図1は生体電極の構成要素のうち、基材114に対して印刷によって設けられる層の構造を示している。
図1に示す本実施形態の生体電極では、電極Cが共用電極である。
【0014】
なお、共用電極を用いない場合、2chの心電図波形を測定するための生体電極には5つの電極(1ch+/−,2ch+/−,不関電極)が必要である。5電極を用いる場合は、特許文献1に示されているように、個々の電極が独立したコード部を有する構成となる。
【0015】
平板状の基材114は例えばPETフィルムからなる。基材114の下面(電極装着時に体表面と対向する面)には、例えば印刷によりからなる電極パターン115が形成される。電極パターン115は先端部分が2層構造になっており、下層部分には円形の検出電極104と、検出電極104から手前に短いコード部1501が設けられている。また、後述する接続部121を設ける電極については、接続部121も下層に設けられる。下層部分は導電性粘着ゲル103と接する部分を含むため、変質しにくい塩化銀と銀の混合物から形成されている。一方、上層は銀から形成され、コード部150の先端部分1502は、下層の検出電極の中心からコード部1501と重複するように配置される。この重複部分は銀で形成されている上層の先端部分1502を塩化銀と銀の混合物で形成されている下層のコード部1501で保護するために設けられている。
【0016】
電極パターン115の下面には、電極パターン115を絶縁するためのレジストパターン116がやはり印刷により設けられる。レジストパターン116の下面には、導電性物質からなる、静電気除去用の下シールドパターン117が印刷により設けられる。本実施形態では、下シールドパターン117はカーボンペーストで形成されている。下シールドパターン117のコード部150と、電極Aから至近端(コネクタ側)の下面、すなわち生体電極の最下面(生体表面に装着される面)には、不織布や発泡フォームといった、柔軟性を有する絶縁性シートが粘着材によって接着される。
【0017】
基材114の上面(生体に装着されない面)には、上シールドパターン113が形成されている。本実施形態では、上シールドパターン113の抵抗率(または導電率)が少なくとも2段階に制御されていることを特徴とする。
【0018】
従来、上シールドパターン113はカーボンと銀がブレンドされた導電性ペーストで基材114の全面を覆うように形成される、すなわち上シールドパターン113の抵抗率又は導電率は全体を通じて一定であった。しかし、このようなシールドパターン(シールド層)では着衣との摩擦によって生じる静電気による電荷や外部から伝播するノイズに対するシールド効果は必ずしも十分ではなく、測定される生体電気信号に重畳するノイズのさらなる低減が求められていた。
【0019】
シールドの効果を高めるには、シールドの導電率を高め、ノイズの原因となる電荷を速やかに接地させれば良い。シールド層の形成にカーボンと銀がブレンドされた導電性ペーストを用いる場合であれば、カーボンの比率を下げて銀の比率を上げればよい。しかし、銀の比率を高めるとコストが大きく上昇し、使い捨てを前提とした生体電極には見合わなくなってしまう。発明者が検討したところ、カーボンと銀の比が1:1の導電性ペーストを用いた場合でも、耐ノイズ性能(シールド性能)は改良の余地があった。
【0020】
ノイズの大半は、体表面と検出電極104とを電気的に接続するための導電性粘着ゲル103(
図3参照)を通じて信号に重畳するが、静電気によるノイズはコード部150においても重畳する。従って、接地すべき総電荷量は、検出電極104を有する電極部1141から接地端子に向かって増加していく。そこで、上シールドパターン113の抵抗率を、接地端子に最も近い部分が最も低い抵抗率(または最も高い導電率)を有するように接地端子からの距離に応じて複数段階に制御することにより、耐ノイズ性能を向上できることを見出し、本発明に到達した。換言すれば、接地すべき総電荷量の増加に従って電荷の移動速度を向上させることで、電荷が経路上に滞留する時間を短縮させ、スムーズな耐電除去を実現するものである。
【0021】
抵抗率または導電率の制御は、様々な方法により行うことが可能であるが、使い捨て型生体電極のように印刷を用いて配線やシールドパターンを形成する構成においては、シールドパターンを形成する物質の抵抗率または導電率を制御するか、層構成を制御することが現実的であろう。なお、以下では説明及び理解を容易にするため、抵抗率を制御するとの説明を行うが、抵抗率と導電率は逆数の関係にあり相互に変換可能であるため、導電率の制御としてもよいことはいうまでもない。
【0022】
図1には、上シールドパターン113を、共通の素材で生体電極全体に形成する全面パターン113Bに加え、抵抗値を低下させる区間には、導電性の高い物質で独立した細線状パターンを全面パターン113Bの下層に形成した構成により、2段階の抵抗率制御を実現した例を示している。
【0023】
導電細線パターン113Aは、導電率(電気伝導度)が高い物質から形成する。具体的には20℃における導電率が1.43×10
5[S/m]以上(電気抵抗率が7×10
-6[Ω・m]以下)の物質であることが好ましい。この条件を満たせば、非金属、金属、非金属と金属との混合物のいずれを用いてもよいが、金属を含有することが好ましい。金属の中でも、20℃における導電率が1.0×10
7[S/m]以上(電気抵抗率が10×10
-8[Ω・m]以下)であるものが好ましく、20℃における導電率が2.5×10
7[S/m]以上(電気抵抗率が4×10
-8[Ω・m]以下)であるものがさらに好ましい。この条件を満たす金属の例としては、単体では銀(6.4×10
7[S/m], 1.55×10
-8[Ω・m])、銅(6.1×10
7[S/m], 1.64×10
-8[Ω・m])、アルミニウム(3.8×10
7[S/m], 2.58×10
-8[Ω・m])、金(3.0×10
7[S/m], 3.28×10
-8[Ω・m])などがある。
【0024】
また、金属はFe-Cr系合金、Fe-Ni-Mn系合金やMo-Cr-Fe-Ni系合金など、合金であってもよい。また、非導電性の成分が含まれてもよい。具体的にどのような物質を用いるかは、細線パターンの形成方法や入手の容易性、コストなどを勘案して決定することができる。例えば印刷によってパターンを形成する場合、ペースト状の製品の入手性と導電率のバランスから銀や銀を含有する物質が好ましく用いることができる。
【0025】
導電細線パターン113Aが設けられた区間は、上層に設けられる全面パターン113Bを導通する電荷を、全面パターン113Bのみが設けられている区間よりも速やかに接地端子に向かって移送することができる。また、導電細線パターン113Aは、もともと、基材114の全面を隙間なく覆って単体でシールド機能を実現することを目的としておらず、高い導電性を有する高価な金属を用いる場合でも、少量で形成可能である。
【0026】
なお、導電細線パターン113Aは、コード部150では1本の細線で構成されるが、コード部150より面積が大きく、かつ検出電極104が形成される電極部1141については、より効率よく電荷を捕集するため、二次元図形の外縁と、外縁内に存在し、外縁に接続される線状パターンからなるメッシュ状のパターン1131Aで形成することができる。ここで、メッシュの形状には特に制限は無いが、その外縁が、検出電極104の外縁もしくは、体表面と検出電極104とを電気的に接続するための導電性粘着ゲル103(
図4参照)の外縁を包含するように形成することが好ましい。これは、ノイズの大半が導電性粘着ゲル103部分を通じて信号に重畳するためである。
【0027】
図1では、円の外縁と、円の外縁を6等分する点の2つを円の中心を通って接続する3つの直線パターンが導電性物質の細線で形成されたメッシュ形状を示しているが、
図2(a)に示すように複数の同心円と、それらの外縁を接続する直線パターンを有する形状や、
図2(b)に示すように規則的な格子状であってもよい。一方、
図2(c)に示すようならせん状のパターンはここでいうメッシュ状のパターンには該当しない。なお、らせん状のパターンは外部からノイズが到来した際に誘導電流を生じるため好ましくない。メッシュ状のパターン1131Aは、基材114の電極部1141上の各位置から、メッシュ状のパターン1131Aを形成する細線までの最短距離にばらつきが少ない形状とすることが好ましい。換言すれば、外縁の内部に設けられるパターンは等間隔もしくは対称形状を有することが好ましい。
【0028】
図3(a)は、
図1に示した電極構造における上シールドパターン113が接地されるまでの経路を模式的に示している。
図1の例では、基材114の下面側でのみコネクタと電気的に接続可能な構成を有するため、基材114の上面側に設けられる上シールドパターン113は、電極Bの上シールドパターン113と電極パターン115に設けられた接続部120,121と通じて電気的に接続されることで、接地されている。つまり、電極C,Dについての上シールドパターン113Bは電極A,B間の上シールドパターン113Bを経由して接地端子に接続されている。
【0029】
そのため、本実施形態では、電極Aから電極Bへ至る経路では、(1)電極C,Dの導電性粘着ゲル103からのノイズ、(2)電極C,Dから電極Aに至るまでの経路でのノイズ、(3)電極Aの導電性粘着ゲル103からのノイズ、(4)コネクタ部品から電極Aまでの経路でのノイズ、に係る電荷を移送する必要がある。従って、複数の経路からのノイズに係る電荷が流入する位置(電極A)より下流(コネクタ接地端子側)の上シールドパターン113の抵抗率を、それより上流における抵抗率より低下させるように制御する。具体的には、電極Aから下流においては導電細線パターン113Aを設けて、上シールドパターン113を2層構造とする。
【0030】
導電細線パターン113Aの上に設けられる全面パターン113Bは、導電細線パターン113Aの上から基材114の表面全体を覆うように形成される。全面パターン113Bは導電性物質から形成されるが、導電細線パターン113Aを形成する物質よりも導電性が低い。また導電細線パターン113Aを酸化や腐食等の変質から保護する機能を持たせるため、全面パターン113Bも酸化や腐食をしにくい素材で形成することが好ましい。本実施形態ではこれらの条件を満たし、かつ印刷でパターンを形成可能な素材として、非金属であるカーボンペーストを用いて全面パターン113Bを形成しているが、金属の使用を含め、他の物質を用いてもよい。
【0031】
上述の通り、導電細線パターン113Aは細線から形成されるいわば配線であるため、その面積は基材114よりずっと小さい。従って、導電性物質からなる全面パターン113Bは、導電細線パターン113Aから離れた位置に存在する電荷を導電細線パターン113Aまで速やかに移動させる経路を提供し、両者が設けられた区間では全面パターン113Bのみが設けられる区間よりも速やかな帯電除去が実現される。
【0032】
なお、電極Bより下流では上述の(1)〜(4)に加え、(5)電極Aから電極Bに至るまでの経路でのノイズ、(6)電極Bの導電性粘着ゲル103からのノイズ、に係る電荷がさらに加わるため、接地電極Bに関する電極パターン115の抵抗率をさらに低下させてもよい。
【0033】
なお、
図1の例とは異なり、個々の電極が直接コネクタ接地端子に接続される形態(
図3(b))では、電極部より下流の部分を電極部より低抵抗に構成すればよい。
【0034】
なお、ここでは上シールドパターン113を二層構造として抵抗率の制御を行う例について説明したが、三層以上の多層構造としてもよいし、パターンの幅によって抵抗率を制御してもよい。上シールドパターン113を単層構造とする場合には、基材114の幅が下流に向かって広くなるように構成することができる。また、二層構造の場合でも、全面パターンでない層の幅を同様に制御することで抵抗率を制御できる。また、層の厚さを制御して抵抗率を制御してもよい。例えば、同一組成の導電性ペーストの塗布回数を接地端子に近い区間ほど増やすようにしてもよい。
【0035】
なお、抵抗率を何段階に分けて制御するか、抵抗率をどこから変化させるか、ならびに具体的な抵抗率をどのように設定するかは、生体電極が使用される環境におけるノイズの特性などに応じて適宜定めることができる。ただし、接地すべき電荷が複数の経路から合流する位置より下流は、上流よりも抵抗を低下させるように制御することが好ましい。また、パターンの幅を制御する場合には、幅を徐々に拡げることで、滑らかに抵抗を低下させるように制御してもよい。
【0036】
図4は、本実施形態の生体電極における電極パッド101の構成を説明するための図である。電極パッドは生体表面に取り付けられる部分である。使い捨て型でない生体電極は、電極パッドとリード線(誘導コード)とが分離した構造を有するのが一般的であるが、使い捨て構造の場合は電極パッドとリード線とが一体化された構造を有する。
【0037】
図1に示したように、電極パターン115の先端部分に検出電極104が形成されている。電極パッド101のうち、導電性粘着ゲル103を体表面に固定するパッド基材106は、皮膚から発生する水分を発散させて皮膚に対する密着性を良好とし、かつ体動により生じる皮膚の皺などにも追従して変形可能とするため、柔軟性のある透湿防水フィルムで構成されている。パッド基材106として使用可能な透湿防水フィルムの厚さは、好ましくは20〜70μm、より好ましくは30〜60μm、特に好ましくは40〜60μm、最も好ましくは45〜55μmである。
【0038】
透湿防水フィルムが厚すぎると、皮膚からの水分を発散する効果が十分得られず、剥がれ易くなるほか、かぶれや蒸れなどの原因となり、装着感が悪化する。さらに、柔軟性(特に皮膚表面の皺に対する追従性)が低下するため、電極がごわごわして装着感が悪化するほか、剥がれやすくなる。さらに、柔軟性が低下することにより、生体電気信号にノイズが重畳しやすくなるという問題もある。
【0039】
パッド基材106の装着面には粘着剤が塗布されており、また、円弧状の第2のセパレータ102が装着面の外縁部に設けられている。第2のセパレータは剥離紙であり、電極パッド101全体のセパレータである第1のセパレータ109と対向する面は粘着性を有さない。従ってパッド基材106の装着面の第2のセパレータ102の存在する領域は第1のセパレータ109から容易に分離することが可能である。
【0040】
パッド基材106の略中央部には電極に対応する穴1061が設けられている。
図1における各電極A〜Dとその近傍はシール部材105によってパッド基材106に取り付けられるため、最上面および最下面には絶縁性シート111が設けられていない。
【0041】
電極の下面には、導電性粘着ゲル103が設けられる。導電性粘着ゲル103は、電極の下面に塗布された導電性粘着剤により電極に取り付けられてもよいし、外周部分をパッド基材106の装着面に塗布される粘着剤によって固定され、電極とは直接接するようにされてもよい。
【0042】
シール部材105は、例えばパッド基材106と同じ透湿防水フィルムから構成される。シール部材105は、電極をパッド基材106に固定するために設けられる。
【0043】
電極パッド101を装着する場合、まず第2のセパレータ102を用いて電極パッド101を第1のセパレータ109から分離する。そして、第2のセパレータ102で電極パッド101を支持しながら、装着部位に移動し、第2のセパレータの無い外縁部から体表面に貼り付ける。そして、第2のセパレータ102を剥がしながら、パッド基材106の全面を体表面に密着させる。
【0044】
以上説明したように本実施形態によれば、電極パッドとリード線部とが一体的に構成される使い捨て型の生体電極におけるシールド層の抵抗率が、第1の区間より接地端子に近い第2の区間では第1の区間より低くなるように制御することにより、低コストで耐ノイズ性能を向上させることができる。