特許第6317650号(P6317650)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6317650
(24)【登録日】2018年4月6日
(45)【発行日】2018年4月25日
(54)【発明の名称】熱空気圧式アクチュエータの作業流体層
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/14 20060101AFI20180416BHJP
   B41J 2/05 20060101ALI20180416BHJP
   B41J 2/16 20060101ALI20180416BHJP
【FI】
   B41J2/14 607
   B41J2/05
   B41J2/14 205
   B41J2/16 503
   B41J2/16 507
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-172399(P2014-172399)
(22)【出願日】2014年8月27日
(65)【公開番号】特開2015-51634(P2015-51634A)
(43)【公開日】2015年3月19日
【審査請求日】2017年8月22日
(31)【優先権主張番号】14/020,198
(32)【優先日】2013年9月6日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】596170170
【氏名又は名称】ゼロックス コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】XEROX CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ピーター・ジェイ・ニストロム
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー・ダブリュ・ヘイズ
【審査官】 上田 正樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−112099(JP,A)
【文献】 特開2000−141658(JP,A)
【文献】 特表2012−530617(JP,A)
【文献】 特開2000−85129(JP,A)
【文献】 特開2010−23397(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 〜 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の熱空気圧式(TP)アクチュエータをTP式アクチュエータのアレイの一部として含む記録ヘッドであって、
前記TP式アクチュエータのアレイが、
基板と、
その中の各抵抗が個々にアドレス可能な複数の抵抗と、
前記基板の上に形成され、前記TP式アクチュエータのアレイ内で隣接するTP式アクチュエータ間に延在する貫通した複数のチャネルを含む隔離層と、
作業流体チャンバと、前記複数のTP式アクチュエータごとのインクチャンバとの間に配置され、前記隔離層に取り付けられるTP作動可能薄膜と、
前記TP作動可能薄膜に取り付けられる支持層であって、前記TP作動可能薄膜が当該支持層と前記隔離層との間に挟まれる支持層と、
前記支持層に取り付けられるノズルプレートと、
前記TP式アクチュエータのアレイの外面に配置される、少なくとも1つの作業流体入口と、
前記TP式アクチュエータのアレイの前記外面に配置される、少なくとも1つの作業流体出口と、
を含み、
前記複数のチャネルがそれぞれ、前記少なくとも1つの作業流体入口および前記少なくとも1つの作業流体出口と流体連通し、
吸引ノズルが1以上の前記作業流体出口に配置され、作業流体を前記作業流体入口に注入する間、前記作業流体出口に吸引力を加えて、前記作業流体を前記複数の作業流体チャンバに通して前記作業流体出口から外に流す、記録ヘッド。
【請求項2】
前記複数のTP式アクチュエータの各々の前記作業流体チャンバが、前記少なくとも1つの作業流体入口および前記少なくとも1つの作業流体出口と、前記複数のチャネルのうちの少なくとも1つのチャネルを通して流体連通する、請求項1に記載の記録ヘッド。
【請求項3】
前記複数のTP式アクチュエータの各々の前記作業流体チャンバ内に入る作業流体をさらに含み、前記記録ヘッドの動作中、前記作業流体チャンバの各々内の前記作業流体が、隣接するアクチュエータの前記作業流体チャンバに自由に流れ込む、請求項2に記載の記録ヘッド。
【請求項4】
前記TP式アクチュエータのアレイの各TP式アクチュエータにおける前記作業流体チャンバは、その内部に通じる少なくとも4つのチャネルを含む、請求項3に記載の記録ヘッド。
【請求項5】
複数の熱空気圧式(TP)アクチュエータをTP式アクチュエータのアレイの一部として含む記録ヘッドであって、
前記TP式アクチュエータのアレイが、
基板と、
その中の各抵抗が個々にアドレス可能な複数の抵抗と、
前記基板の上に形成され、前記TP式アクチュエータのアレイ内で隣接するTP式アクチュエータ間に延在する貫通した複数のチャネルを含む隔離層と、
作業流体チャンバと、前記複数のTP式アクチュエータごとのインクチャンバとの間に配置され、前記隔離層に取り付けられるTP作動可能薄膜と、
前記TP作動可能薄膜に取り付けられる支持層であって、前記TP作動可能薄膜が当該支持層と前記隔離層との間に挟まれる支持層と、
前記支持層に取り付けられるノズルプレートと、
前記TP式アクチュエータのアレイの外面に配置される、少なくとも1つの作業流体入口と、
前記TP式アクチュエータのアレイの前記外面に配置される、少なくとも1つの作業流体出口と、
を含み、
前記複数のチャネルがそれぞれ、前記少なくとも1つの作業流体入口および前記少なくとも1つの作業流体出口と流体連通し、
吸引ノズルが1以上の前記作業流体出口に配置され、作業流体を前記作業流体入口に注入する間、前記作業流体出口に吸引力を加えて、前記作業流体を前記複数の作業流体チャンバに通して前記作業流体出口から外に流す、記録ヘッドと、
前記記録ヘッドを収納するプリンタ筺体と、を含むプリンタ。
【請求項6】
前記複数のTP式アクチュエータの各々の前記作業流体チャンバが、前記少なくとも1つの作業流体入口および前記少なくとも1つの作業流体出口と、前記複数のチャネルのうちの少なくとも1つのチャネルを通して流体連通する、請求項5に記載のプリンタ。
【請求項7】
前記記録ヘッドが、前記複数のTP式アクチュエータの各々の前記作業流体チャンバ内に入る作業流体をさらに含み、
前記記録ヘッドの動作中、前記作業流体チャンバの各々内の前記作業流体が、隣接するアクチュエータの前記作業流体チャンバに自由に流れ込む、請求項6に記載のプリンタ。
【請求項8】
前記TP式アクチュエータのアレイの各TP式アクチュエータにおける前記作業流体チャンバは、その内部に通じる少なくとも4つのチャネルを含む、請求項7に記載のプリンタ。
【請求項9】
複数の熱空気圧式(TP)アクチュエータをTP式アクチュエータのアレイの一部として含む記録ヘッドを作成する方法であって、
基板および個々にアドレス可能な複数の抵抗を提供するステップと、
前記基板の上に隔離層を形成するステップと、
前記隔離層にエッチングを施して、前記隔離層を貫通する複数のチャネルを形成するステップと、
前記隔離層を貫通する前記複数のチャネルが複数の作業流体チャンバに通じるように、TP作動可能薄膜を前記隔離層に取り付けて、前記複数の抵抗の上に複数の作業流体チャンバを形成するステップと、
支持層を前記TP作動可能薄膜に取り付けるステップと、
前記隔離層にエッチングを施す間に、前記TP式アクチュエータのアレイの外面に少なくとも1つの作業流体入口を形成するステップと、
前記隔離層にエッチングを施す間に、前記TP式アクチュエータのアレイの前記外面に少なくとも1つの作業流体出口を形成するステップと、
吸引ノズルを1以上の前記作業流体出口に渡って配置するステップと、
前記作業流体が前記複数の作業流体チャンバに流れ込むように、作業流体を前記少なくとも1つの作業流体入口に注入するステップと、
前記作業流体を前記複数の作業流体チャンバに通して前記作業流体出口から外に流すステップと、
前記作業流体を前記作業流体入口に注入する間、前記作業流体出口に吸引力を加えるステップと、
を含み、前記TP作動可能薄膜が前記支持層と前記隔離層との間に挟まれる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本教示はインクジェット印刷装置の分野に関し、より具体的には、インクジェット記録ヘッドのアクチュエータのアレイに関する方法および構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ドロップ・オン・デマンド式インクジェットの技術は、印刷業界で広く用いられている。このドロップ・オン・デマンド式インクジェットの技術を用いるプリンタは、サーマルインクジェット(TIJ)技術または圧電技術のどちらかを使用することができる。圧電技術を用いる記録ヘッドは、サーマルインクジェット式の記録ヘッドと比べると、製造コストは高めだが、より幅広い種類のインクを使用可能である。また同じ数のノズルを用いた場合、圧電記録ヘッドはサーマル記録ヘッドと比べてサイズが大きくなってしまう、このため印刷時にインクを吐出するノズルを配置するためにより大きなスペースを要するため、インク滴の密度および速度が低下する。インク滴の速度が低下すると、インク滴の速度のばらつきおよび方向性の許容範囲も下がり、画質が低下し、印刷速度が遅くなる可能性がある。
【0003】
圧電インクジェット式記録ヘッドは、圧電素子(すなわち、変換器またはPZT)のアレイを含むことができる。このアレイを形成する処理の一例では、接着剤を用いてブランケットの圧電層を搬送用キャリアに取外し可能に取り付けるステップと、このブランケット圧電層を、さいの目にカットして複数の圧電素子の小片を形成するステップとを含むことができる。ダイシングソーを数回に渡って用いることにより、隣接する圧電素子間に残る圧電材料を完全に取り除いて、各圧電素子間に正確な間隔を設けることができる。
【0004】
圧電インクジェットの記録ヘッドは、一般に、可撓性隔膜をさらに含むことができ、この隔膜には、圧電素子のアレイが取り付けられる。圧電素子に電圧をかけると(一般には、電源と電気接続する電極との電気接続を介して)、この圧電素子は曲がり、すなわち屈曲し、これにより、隔膜を収縮させてチャンバから一定の量のインクを、ノズルを通して放出する。さらにこの隔膜を収縮させると、放出したインクと入れ替り、インクのメイン容器から開口を通ってチャンバにインクが吸い込まれる。
【0005】
サーマルインクジェットの記録ヘッドには、熱エネルギ生成器すなわち発熱体が含まれる。通常、この発熱体は抵抗器であり、この抵抗器はインクチャネルによりノズルプレート内のノズルから隔てられている。各発熱体は個々にアドレス可能であり、これにより、電気パルスをかけることで抵抗器が発熱するようになる。この熱がヒータからインクに伝わり、インク内で気泡が発生する。例えば、水性インクの場合、気泡の核を生成するために280°Cの臨界温度に達する。核を有する気泡すなわち水蒸気により、インクと発熱体とを熱的に分離して、抵抗器からインクにこれ以上熱が伝わることを防ぐ。そして電気パルスが停止する。インクから余剰な熱が消散されるまで、核を有する気泡は膨張し続ける。蒸気の気泡が膨張している間、インクはノズルの方に押しやられ、ノズルプレートの外側で膨らみ始めるが、インクの表面張力によりメニスカスとしてノズルに留まる。
【0006】
電気パルスの印加が停止すると、インクから余剰な熱が消散され、気泡は収縮し消え始める。この気泡とノズルの間のチャネル内のインクが、収縮し始めた気泡に向かって動き始め、これにより、ノズルプレートから膨らんだインクが分離しインク滴が形成される。気泡が膨張している間にインクがノズルの外側に向かって加速することで、インク滴の推進力および速度が得られ、インク滴をノズルから紙などの記録媒体にほぼ直線方向に放出する。ノズルからインクが吐出された後、インクをチャネル内に再充填可能なように少し遅らせてから、インクをチャネル内へ再発射することができる。
【0007】
別のタイプの記録ヘッドでは、熱空気圧式アクチュエータ(TPA:Thermo−Pneumatic Actuator)が用いられている。TPAは、熱空気圧式(TP:thermo−pneumatic)マイクロポンプと同様であるが、入口弁および出口弁は備えていない。ほとんどの記録ヘッドは、表面張力、メニスカス圧力、およびインク流のインピーダンスに依存して流体の流れを管理する。一方、TPAを用いた記録ヘッドは、ポンプで汲みあげられた流体(例えば、インク)と、作業流体、または各アクチュエータ内に密封された閉じこめられた流体とを薄膜で分離する。インク自体は最適な熱特性を有していないので、装置が動作する間に熱性能を向上させるために作業流体が選択される。この薄膜が、作業流体を分離し、ポンプで汲みあげられた流体と混ざりあうことを防止する。TPAの下半分(薄膜の真下の部分)には抵抗ヒータおよび作業流体が含まれ、TPAの上半分(薄膜とノズルプレートとの間の部分)にはポンプで汲みあげられた流体が含まれる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
使用前に作業流体をアクチュエータに供給し、かつメンテナンス処理として作業流体を交換することができる、記録ヘッド装置の設計およびその製造過程が所望される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の実施形態では、記録ヘッドが、TP式アクチュエータのアレイの一部として、複数の熱空気式(TP:thermo−pneumatic)アクチュエータを含むことができ、このTP式アクチュエータのアレイには、基板と、それぞれの抵抗が個々にアドレス可能な複数の抵抗と、この基板の上に形成された隔離層とが含まれる。この隔離層には、TP式アクチュエータのアレイ内で隣接するTP式アクチュエータ間を延在する複数の貫通チャネルと、複数のTP式アクチュエータのアクチュエータごとに作業流体チャンバとインクチャンバとの間に配置されたTP作動可能薄膜とが含まれる。このTP作動可能薄膜は隔離層に取り付けられ、かつTP作動可能薄膜には支持層が取り付けられ、したがって、TP作動可能薄膜は、支持層と隔離層との間に挟まれる。そして、この支持層には、ノズルプレートが取り付けられている。
【0010】
別の実施形態では、プリンタが記録ヘッドを含むことができ、この記録ヘッドは、TP式アクチュエータのアレイの一部として、複数の熱空気(TP)式アクチュエータを含み、このTP式アクチュエータのアレイには、基板と、それぞれの抵抗が個々にアドレス可能な複数の抵抗と、この基板の上に形成された隔離層とが含まれる。この隔離層には、TP式アクチュエータのアレイ内で隣接するTP式アクチュエータ間を延在する複数の貫通チャネルと、複数のTP式アクチュエータのアクチュエータごとに、作業流体チャンバとインクチャンバとの間に配置されたTP作動可能薄膜とが含まれる。このTP作動可能薄膜は隔離層に取り付けられ、かつこのTP作動可能薄膜には支持層が取り付けられ、したがって、このTP作動可能薄膜は支持層と隔離層との間に挟まれる。そして、この支持層には、ノズルプレートが取り付けられ、記録ヘッドはプリンタ筺体に収納されている。
【0011】
別の実施形態では、TP式アクチュエータのアレイの一部として、複数の熱空気(TP)アクチュエータを有する記録ヘッドを作成する方法が開示される。この方法には、基板および複数の個々にアドレス可能な抵抗を供給するステップと、この基板の上に隔離層を形成するステップと、この隔離層をエッチングして、隔離層を貫通する複数のチャネルを形成するステップと、この隔離層を貫通する複数のチャネルが複数の作業流体チャンバと通じるようTP作動可能薄膜を隔離層に取り付けて、複数の抵抗の上に複数の作業流体のチャンバを形成するステップと、この支持層をTP作動可能薄膜に取り付けて、このTP作動可能薄膜が支持層と隔離層との間に挟まれるようにするステップと、が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、本教示の実施形態に従った製造過程中の構造を示す断面図である。
図2A図2Aは、本教示の実施形態に従った製造過程中の構造を示す断面図である。
図2B図2Bは、本教示の実施形態に従った製造過程中の構造を示す断面図である。
図2C図2Cは、本教示の実施形態に従った製造過程中の構造を示す平面図である。
図2D図2Dは、本教示の実施形態に従った製造過程中の構造を示す平面図である。
図3図3は、本教示の実施形態に従った製造過程中の構造を示す断面図である。
図4図4は、本教示の実施形態に従った製造過程中の構造を示す断面図である。
図5図5は、本教示の実施形態に従った製造過程中の構造を示す断面図である。
図6図6は、本教示の実施形態に従った製造過程中の構造を示す断面図である。
図7図7は、本教示の実施形態に従った製造過程中の構造を示す断面図である。
図8図8は、本教示の実施形態に従ったプリンタの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
尚、構造的な正確さ、詳細、および縮尺を厳密に維持するよりも、むしろ本教示の理解を容易にする目的で、図中のいくらかの詳細部は、簡略化されて示されている。
【0014】
別段定めがない限り、本明細書で使用される用語「プリンタ」には、デジタル複写機、製本機、ファクシミリ、多機能装置、静電写真装置など、あらゆる目的で印刷出力機能を実行する、すべての装置が包含されるものとする。
【0015】
本教示の実施形態は、複数のTPAを含む熱空気圧式アクチュエータ(TPA)のアレイの使用を有する記録ヘッドを含むことができ、この記録ヘッドにより、複数の射出ノズルを通して紙などの記録媒体上にインクを吐出する。作動可能薄膜により、各TPAの作業流体を、ポンプで汲みあげられた流体(例えば、インク)から分離することができる。ある実施形態では、複数の作業流体チャネルは、TPAアレイの一部を成す複数の作業流体チャンバと相互接続する。TPAの構造の完成後、各TPAの作業流体チャンバに作業流体を流し込むことができ、例えば、メンテナンス処理として記録ヘッドを最初に使用した後、この作業流体を入れ替えることができる。
【0016】
図1図6には、本教示の実施形態で作成される製造過程中の構造が示されている。図1には、例示的なヒーターウェハ10が示される。このヒーターウェハ10は当業者により製造可能であり、本教示の実施形態では、このヒータ―ウェハ10を使用しているが、その他のヒータの設計を考慮することも可能である。各図面に示される実施形態は、一般化された概略図であり、他の構成部品を加えることや、あるいは既存の構成部品を取り除くこと、または修正することができることは言うまでもない。
【0017】
図1のヒーターウェハは、半導体(シリコン、ガリウムヒ素など)基板などの基板12を含み、この半導体基板には、イオン注入領域、誘電層、およびその上に、および/またはその中に、形成された導電層(簡略化のために、個々には図示せず)などのその他の様々な構造が含まれ得る。さらに、分離領域として下部層14(例えば、二酸化ケイ素(SiO)などの誘電層)を形成することができる。次いで、例えば、ポリシリコン、金属、または金属合金を用いた化学気相蒸着(CVD)により、この下部層14の上にパターン化された抵抗16(すなわち、抵抗発熱体)を形成することができる。
【0018】
図1には、抵抗16が1つだけ示されているが、複数の抵抗16、および図1図6のその他の構造は、基板12全体に渡って繰り返され、1つの抵抗16ごとにノズル56と伴わせた抵抗アレイとして同時に形成することができることは理解されよう(図5、下記に議論する)。さらに、別の実施形態では、図1に示す通り基板12を覆う個々の層を分割させるよりも、ヒーターウェハ10の各抵抗16を、基板12内の1つ以上の埋め込み領域として、供給することができる(簡潔にするため、個々には図示せず)。したがって、これらの図面は概略図であり、構造の構成部品を加えること、あるいは、既存の構造の構成部品、および/または、処理ステージを取り除く、あるいは修正することが可能であることは言うまでもない。したがって、この抵抗アレイ内の各抵抗16は、ノズルからインクを吐出させるアクチュエータの一部として形成される。したがって、この抵抗アレイは、ノズルのアレイからインクを吐出するよう設定された、アクチュエータアレイの一部として形成される。
【0019】
その後、誘電層18(例えば、りんけい酸ガラス(PSG:phosphosilicate glass))を形成し、平坦化し、パターン化して、抵抗16との接触開口を形成する。次に、図示する通り、タンタルなどの材料から成る誘電体不動態化層20および保護層22を形成しパターン化する。この誘電体不動態化層20により、装置を使用している間に、抵抗16と、腐食している可能性のある作業流体が物理的に接触することが防止され、保護層22により不動態化層20がインクと同様に接触することが防止される。
【0020】
図1のヒーターウェハ10を完成させるために、例えば、スパッタリングまたはCVDを用いて、電極層(例えば、アルミニウムまたはその他の導体の層)を付着させ、次いで、これにエッチングを施して、第1の電極23および第2の電極24を形成して、抵抗アレイ内の各抵抗16が個々にアドレス可能になるようにする。
【0021】
次に、図2Aおよび図2Bの断面図、図2Cおよび図2Dの平面図に示す通り、隔離層26(例えば、PSG、SiO、SU−8フォトレジスト、金属など)を形成し平坦化し、図示される通りにパターン化する。下記に記載する通り、この隔離層26は、上塗り不動態化層として機能することができ、この上塗り不動態化層により、続く処理のための、および作業流体のための格納構造のための安定した平面ベースが提供される。この隔離層26を用いて、作業流体のチャンバ40(図4)の高さを画定することもできる。装置の設計によって、その他の厚さも考慮可能だが、この実施形態では、隔離層26は、約0.025μmから約2.5μmの厚さ、または約0.1μmから約0.2μmの厚さを有し得る。図示する通り、この隔離層26は、複数のチャネルすなわち開口28を含むことができ、これらの開口28により、記録ヘッド内に作業流体を供給することができ、供給後、アクチュエータアレイが完成する。その他の実施形態も考えられるが、この実施形態では、下記に記載する通り、完成した各アクチュエータは4つのチャネル28を含むことができ、これらのチャネル28が作業流体チャンバ40(図4)と流体連通し、これにより作業流体は、作業流体チャンバ内に流入したり、作業流体チャンバから流出したりすることが可能となる。これらのチャネル28を複数の横列および縦列として配列し、アクチュエータのアレイ内の各アクチュエータへのアクセスを可能にすることができる。チャネル28は、アクチュエータアレイの外面のチャネル28から形成される、横列の作業流体入口28A、横列の作業流体出口28B、縦列の作業流体入口28C、および縦列の作業流体出口28Dを含むことができる。下記に記載する通り、種々の要因により、図2Cに示す通り、このチャネル28は比較的狭い幅Wで設計することができる、または、図2Dに示す通り、比較的広い幅Wで設計することができる。図2Cおよび図2Dには、2×2のアクチュエータアレイが示されているが、アクチュエータアレイは、何百または何千ものアクチュエータを含む可能性があることは言うまでもない。
【0022】
その後、図3に示す通り、薄膜層32および支持層34を、図2の構造に取り付ける。ある実施形態では、これらの薄膜層32および支持層34は、シリコン・オン・インシュレータ(SOI:silicon−on−insulator)のウェハ30の一部を成すことができ、このウェハ30には、埋め込み層33(例えば、埋め込み酸化層)などのその他の層も含まれる。したがって、ある実施形態では、このSOIウェハ30は、素子層32、(例えば、約1.0μmから約20μmの厚さ、または約10μmから約12μmの厚さを有する単結晶の第1のシリコン層)を含むことができる。このSOIウェハは、酸化層(例えば、約0.01μmから約5.0μmの厚さを有する埋め込み酸化層)などの誘電層33をさらに含むことができる。このSOIウェハは、第2のシリコン層34(例えば、約500μmから約800μmの厚さを有するシリコンハンドル層(すなわち、シリコンハンドルウェハ))をさらに含むことができる。この埋め込み酸化層33は、素子層32とハンドル層34との間に挟まれ、素子層32をハンドル層34から物理的に分離する。接着剤36を用いて、シリコン層32を隔離層26に取り付けることができる。この接着剤36として、例えば、スピンコートされ、蒸着され、気相蒸着され、噴霧されたたエポキシなどエポキシ樹脂、樹脂接着剤、または作業流体と相性がよく、かつ処理条件に合うその他の材料などが挙げられる。さらに、例えば、スクリーン印刷法、密着印刷法などを用いて、この接着剤36をシリコン層32、および/または、隔離層26に塗布することができる。別の実施形態では、陽極接合法または融着接合法、あるいは銀や金を使用した金属拡散法を用いて、このシリコン層32を隔離層26に取り付けることができる。
【0023】
別の実施形態では、薄膜層32を支持層34に分離可能に取り付けることができる。例えば、この薄膜32は、ポリマー層、金属層、シリコン層、または(下記に記載する通り)圧力で曲げられるよう十分に薄く、かつ可撓性のあるその他の層でよく、この薄膜32は接着剤36を用いて、隔離層26に取り付けられる。薄膜32を支持層34に取り付けた後、好適な堆積法を用いて、例えば、酸化物または窒化物を薄膜32上に堆積させることができる。さらに、この支持層34を随意的に取り除いたり、または平坦化して支持層34のウェハを薄くしたりして、例えば、その後に続く、支持層34をエッチングするためのエッチング時間を短縮することができる。支持層34の一部を取り除くことで、インクチャンバ56の高さを画定することもできる(図5)。湿式化学エッチング、またはドライエッチング、機械的ドライエッチング、化学機械平坦化(CMP:chemical mechanical planarization)、または研磨処理用いて、支持層34を薄くすることが可能である。
【0024】
その後、図示のように、支持層34と作業流体チャンバ40が重なる位置で、フォトレジスト層38のパターンにより、この支持層34が露出されるように、パターン化されたフォトレジスト層38を支持層34の上に形成することができる。同様に、抵抗16のアレイ内の各作業流体チャンバ40が、フォトレジスト層38のパターンにより露出される。
【0025】
次に、支持層34および、随意的に、埋め込み層33に対して異方性エッチングを施して、支持層34内および、随意的に、埋め込み層33内に複数の凹部を形成する。図4に示す通り、抵抗16ごとに1つの凹部を形成する。ある実施形態では、シリコン層32を、支持層34をエッチングする際のエッチング停止層として用いることができる。別の実施形態では、埋め込み層33は、支持層34をエッチングする際のエッチング停止層として用いることができ、薄膜32は、埋め込み層33をエッチングする際のエッチング停止層として用いることができる。エッチング終了後、パターン化されたフォトレジスト層38を取り除き、図4に示す構造と同様の構造が完成する。本教示の実施形態に従って作成された装置は、例えば、インク供給マニホールドを記録ヘッド全体に分配することができる構造など、当技術分野で知られている様々なその他の構造(簡略化するため図示せず)を含むことができることは理解されよう。
【0026】
図4に示す構造と同様の構造が完成した後、図5に示す通り、複数の射出ノズル52を有する好適なノズルプレート50が、支持層34の上部に形成され、例えば、接着剤54により取り付けられる。このノズルプレート50は、シリコン、ガラス、およびステンレス鋼、ポリマーまたはそれらの組み合わせなどの1種類以上の種々の金属でよい。別の実施形態では、このノズルプレート50は、溶解法またはその他の方法により支持層34に取り付けられる。ノズルプレート50を取り付けると、薄膜32、支持層34、およびノズルプレート50により画定されるインクチャンバ56が形成され、アクチュエータ58のアレイが完成する。マニホールド、インクルーティング層、および/またはノズルプレート50と支持層34との間に挟まれるその他の層などの中間機能を有する記録ヘッドでは、ノズルプレート50は、支持層34に直接取り付けられず、中間機能との接触および直接接着を介して、支持層34に間接的に取り付けることが可能である。
【0027】
図5に示す構造と同様の構造が完成した後、工程は続き、熱空気圧式アクチュエータTIJ記録ヘッドを完成させることができる。これには、図6に示す通り、各アクチュエータ58の流体チャンバ40に作業流体60を充填するステップが含まれ、例えば、図6に示す通り、横列の作業流体入口28Aまたは縦列の作業流体入口28Cのうちの1か所以上に配置された作業流体注入ノズル62からの圧力により、作業流体60を作業流体チャンバ40内に注入することにより、このステップを実行可能である。この作業流体60には、例えば、エタノール、水、フロリナート(商標)FC−72(すなわち、ペルフルオロヘキサン)(ミネソタ州セントポールの3M社などから購入可能)が含まれ得る。横列の作業流体出口28Bまたは縦列の作業流体出口28Dのうちの1か所以上に配置された、吸引力を有する作業流体吸引ノズル64が、チャネル28のマトリクスを通過し、作業流体出口28B、28Dから外に出る作業流体の流れを補佐することができ、この作業流体の流れには、作業流体チャンバ40が充填された後の全ての余剰な作業流体60も含まれる。図示を簡略化するために、図6では、注入ノズル62および吸引ノズル64が単一のアクチュエータ58と接触して示されているが、例えば、図2Cに示す通り、複数のアクチュエータ58が注入ノズルと吸引ノズルとの間に挟まれていることは言うまでもない。さらに、図2Cおよび図6では、個々の注入ノズル62および個々の吸引ノズル64に関して入口と出口がそれぞれ示されているが、図2Dに示す通り、アクチュエータ58のアレイの外側との封入接点を介して、単一の注入ノズル66および単一の吸引ノズル68が、複数の入口および複数の出口として機能することができる(すなわち、作業流体を供給する、または作業流体を注入する)。
【0028】
さらに、複数の作業流体チャンバ40に充填中、注入ノズル62と吸引ノズル64との間で流体が流れる方向を逆にして、例えば、作業流体チャンバ40から空気を抜く性能を向上させることができる。まず、作業流体60を、注入ノズル62を通して注入し、吸引ノズル64を通して吸引する。次いで吸引ノズル64を通して注入し、注入ノズル62を通して吸入することができる。したがって、これらのノズル62および64は、注入ノズルと吸引ノズルの間で変化することができる。
【0029】
それに加えて、図7に示す通り、従来の技術を用いてインクチャンバ56にインク70を充填することができる。アクチュエータのアレイ内の複数のアクチュエータ58のうちの個々のアクチュエータ58全体に渡って、熱空気式薄膜32により、作業流体チャンバ40をインクチャンバ56から分離させる。本教示の実施形態では、水性および非水性インク、UVインク、ゲルインク、導電性インク、および生体液などの様々なインク70が使用可能である。
【0030】
使用中は、2つの電極23および24の間で電圧を印加することにより、抵抗16を個々にアドレス可能であり、これによりこの抵抗16を加熱する。この抵抗16が臨界温度に達すると、作業流体60が気化して気泡72が形成され始め、圧力の衝撃が発生し、これにより、作業流体チャンバ40に圧力が加わる。作業流体チャンバ40内に加えられた圧力により、薄膜32が屈曲し、これによりインクチャンバ56の容積は小さくなる。この容積の減少により、射出ノズル52からインク70がインク滴74として吐出され、記録媒体88(図8)上に付着する。
【0031】
アクチュエータ58のアレイの隔離層26内のチャネル28を、好適な幾何学的な配置で設計して、1枚以上の薄膜32が作動することによる圧力衝撃がそのチャネル28を介して、隣接するアクチュエータ58に影響を及ぼすような余剰な圧力を与えないようにすることが可能である。つまり、あるアクチュエータが作動中に、そのクロストーク(crosstalk)により、隣接する1つ以上のアクチュエータの射出ノズルからインクがほとんど吐出されない、または全く吐出されない、あるいは漏れないようにチャネル28を設計することが可能である。
【0032】
チャネル28の幅(WおよびW)および断面積をより小さいサイズで設計することにより、クロストークを抑えることができる(すなわち、クロストークは断面積と比例する)。これとは逆に、チャネル28の幅WおよびWならびに断面領域が大きくなると、チャネル28を通る作業流体60の流れに対する抵抗は小さくなる。つまり、チャネル28の幅と断面積が小さくなると、作業流体チャンバ40内に流体を注入するのに必要な圧力が大きくなる(すなわち、注入圧力は断面積に反比例する)。流れの抵抗が小さくなると、作業流体の充填速度が速くなり、かつ充填中にチャネル28内に作業流体60を注入するときに加わる圧力が小さくなるが、インク吐出中のクロストークが増える可能性がある。これらの2つの相反する要因が、互いに反対の影響を及ぼすため、あらゆる最終幾何学配置を最適化させることができる。例えば、600dpiの薄膜は、1200dpiの薄膜より大きく、より大きな作業流体の容積に影響を与える。作業流体の容積がより大きくなり、より広い領域に渡って広がることで、適合性の許容範囲が広がり、チャネル28をより自由に設計することが可能である。
【0033】
ある実施形態では、隔離層26内のチャネル28は、複数のアクチュエータ58の作業流体チャンバ40を接続し、かつアクチュエータのアレイ内の全てのアクチュエータ58の作業流体チャンバ40に接続するよう形成することができる。起動したアクチュエータ58のインクチャンバ56からインク滴74が吐出されているとき、作業流体60は、起動したアクチュエータ58の作業流体チャンバ40から、隣接するアクチュエータ58の作業流体チャンバ58(例えば、非起動アクチュエータ58)に流れることができる。ある実施形態では(例えば、図2Cの実施形態)、起動したアクチュエータ58の作業流体は、4個までの隣接する非起動アクチュエータ58の作業流体チャンバ40に流れ込むことができる。
【0034】
ある実施形態では、作業流体入口28Aおよび28Cは、複数のチャネル28と流体連通する。そして、これらのチャネル28は、複数の作業流体チャンバ40と流体連通する。そして、これらの作業流体チャンバ40は、作業流体出口28Bおよび28Dと流体連通する。さらに、複数の作業流体入口28Aおよび28Cは、複数のチャネル28および複数の作業流体チャンバ40を通して、作業流体出口28Bおよび28Dと流体連通する。作業流体60に対して好適なチャネル(流れ経路)28を作って薄膜32の下の作業流体チャンバ40と接続、または相互接続させることにより、装置構造の製造が完成した後、アクチュエータのアレイの各アクチュエータ58内の作業流体チャンバ40内に作業流体60が流れ込むことができる。さらに、記録ヘッドの動作中に、作業流体が流れることができる、すなわち再循環することができる。作業流体60内の気泡は、アクチュエータ58の作動中の圧力パルスの強さに対して減退効果を有する。ある実施形態では、作業流体を取り除くことができる。そうでない場合には、例えば、メンテナンス処理としての、記録ヘッドの印刷での最初の使用の後、装置の動作中に発生し得る作業流体の気泡をパージ処理する。作業流体内に混入した全ての気泡、あるいは、環境の変化または流体自体の分解により、装置の動作中に発生した全ての気泡を、これにより、作業流体60から取り除くことが可能である。
【0035】
図8には、プリンタ筺体82を含むプリンタ80が示され、このプリンタ80には、本教示の実施形態を含む少なくとも1つの記録ヘッド84が搭載されている。この筺体82は、記録ヘッド84を収納することができる。動作中、1つ以上の記録ヘッド84からインク86が吐出される。記録ヘッド84は、デジタル信号の命令に従って動作して、紙のシート、プラスチックなどの印刷媒体88の上に所望の画像を作成する。記録ヘッド84は、スキャニング動作で印刷媒体88に対して前後に移動して、帯ごとに印刷画像を生成することができる。あるいは、記録ヘッド84は保持・固定され、印刷媒体88を記録ヘッド84に対して移動させて、単一のパスの記録ヘッド84の幅一杯に画像を作成することが可能である。この記録ヘッド84の幅は、印刷媒体88の幅よりも狭くてもよい、または印刷媒体88の幅と同じでもよい。別の実施形態では、記録ヘッド84は、回転ドラム、ベルト、またはドレルト(drelt)(簡略化のために図示せず)などの中間面に印刷し、その後、印刷媒体に転写させることができる。
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図3
図4
図5
図6
図7
図8