(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記非水電解質二次電池用電極合剤層の面内方向への前記繊維状炭素の配向度が0.4以上0.7未満である接合層が、前記非水電解質二次電池用電極合剤層の前記集電体側に形成されている請求項8に記載の非水電解質二次電池用電極。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の電極合剤層の4つの態様についてそれぞれ説明する。
本明細書において、繊維状炭素、その実効長、配向度は以下のように定義される。
【0020】
(i) 繊維状炭素
本発明において、繊維状炭素とは、平均繊維径が1000nm未満であって、3〜100μmの平均実効長を有する繊維状の炭素材料をいう。かかる炭素材料としては、例えば、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、炭素繊維を挙げることができる。
【0021】
(ii) 繊維状炭素の実効長
本発明に用いる繊維状炭素の長さは、実際の繊維長ではなく、実効長によって定義される。なぜなら、繊維状炭素は、電極合剤層内において実際の繊維長で導電に寄与しているとは限らないからである。例えば、電極合剤層内で繊維が折れ曲がったり丸まったりして、実際の繊維長で導電に寄与していない場合がある。本発明において、繊維状炭素の実効長は、単体の繊維状炭素に両端が接する最長の線分の長さとして定義される。換言すれば、単体の繊維状炭素が導電することができる最大の直線距離である。即ち、繊維状炭素が完全な直線構造を有する場合は、実効長はその繊維長と略等しい。繊維状炭素が分岐構造を有する場合や丸まっている場合は、その単体の繊維状炭素上にある2点間を結ぶ最大の線分の長さをいう。
【0022】
(iii) 配向度
本発明において、配向度は、電極合剤層の表面或いは該表面と平行な断面から観察される繊維状炭素の平均繊維長を、電極合剤層を解体して得た繊維状炭素の粉体での実効長で除した値として定義される。即ち、電極合剤層の表面と繊維状炭素の繊維軸方向が平行である場合、該繊維状炭素の面内方向への配向度は1である。なお、電極合剤層の表面或いは該表面と平行な断面から観察される繊維状炭素の平均繊維長は、無作為に20本選択して測定した平均値である。
【0023】
1. 第1態様の電極合剤層
第1の発明は、
電極活物質と、
平均実効長が10μm以上である繊維状炭素を含む炭素系導電助剤と、
バインダーと、
を含有して成る、膜厚が50μm以上の電極合剤層であって、
前記繊維状炭素が前記電極合剤層内において3次元でランダム分散する内層部を有することを特徴とする非水電解質二次電池用電極合剤層である。
【0024】
第1の発明の電極合剤層は、電極の厚み方向(膜厚方向)の電気抵抗が低いため、電極層を厚膜化できる。そのため、これを用いる非水電解質二次電池は優れた出力特性を有する。
【0025】
本発明の電極合剤層の厚さ(膜厚)は50μm以上であり、60μm以上であることが好ましく、70μm以上であることがより好ましく、80μm以上であることがさらに好ましく、90μm以上であることが特に好ましく、100μm以上、特には100μm超であることがさらに好ましく、120μm以上であることが最も好ましい。本発明の電極合剤層の厚さ(膜厚)は特に制限はないが、1000μm以下であることが好ましく、1000μm未満であることがより好ましく、900μm未満であることがさらに好ましく、800μm未満であることが特に好ましい。また、本発明の電極合剤層の厚さ(膜厚)は50〜1000μmであり、80〜1000μmであることが好ましく、100〜1000μmであることがさらに好ましく、120〜1000μmであることが特に好ましい。
【0026】
電極合剤層の膜厚が50μm未満であると、任意の容量セルを製造しようとした場合、セパレータや集電体を多量に使用することになり、セル内活物質層体積占有率が低下する。これは、エネルギー密度の観点から好ましくなく、用途がかなり制限されてしまう。特に、エネルギー密度の要求の高い電源用途への適用は困難となってしまう。一方、電極合剤層の膜厚が1000μmを超える電極は、電極合剤層にクラックが発生し易くなり製造が比較的困難である。電極の安定的製造の観点からは、電極合剤層の膜厚は1000μm以下であることが好ましい。また、電極合剤層の膜厚が1000μmを超える電極は、Liイオンの輸送が阻害されやすく、抵抗の上昇につながる。そのため、電極合剤層の膜厚は1000μm以下とすることが、抵抗低減の観点からも好ましい。
電極合剤層の膜厚の測定方法としては特に限定されないが、例えばマイクロメーターを使用して計測することができる。
【0027】
第1の発明は、電極合剤層内に内層部が形成されている。内層部は繊維状炭素が電極合剤層内において3次元にランダム分散する層である。繊維状炭素が3次元にランダム分散することによって膜厚方向への導電パスを形成し、電極合剤層の膜厚方向への抵抗が低減される。繊維状炭素が電極合剤層の面内方向に2次元に配向する場合、繊維状炭素による膜厚方向への導電パスが形成され難くなる。内層部における繊維状炭素の面内方向への配向度は、0.7未満であることが好ましく、0.1以上0.7未満であることがより好ましく、0.1以上0.6未満であることがさらに好ましく、0.1以上0.5未満であることが特に好ましい。0.7以上である場合、面内方向への配向が強過ぎて、膜厚方向の抵抗が十分に低減され難い。一方、配向度を0.1未満とすることは困難である。
【0028】
電極合剤層の空孔率は15〜60%であることが好ましく、20〜50%であることがより好ましい。空孔率が15%未満である場合、イオンの移動が阻害されてしまい、高出力化の観点から好ましくない。また、空孔率が60%を超える場合、体積当たりの容量密度が小さくなってしまうため好ましくない。
【0029】
第1の発明は、電極合剤層内に内層部が形成されている。この内層部の一表面には、繊維状炭素が面内方向に配向して成る表層部が形成されていることが好ましい。表層部は、電池構成時における集電体側の反対側、即ちセパレータ側の表面に形成される。
【0030】
表層部における繊維状炭素の面内方向への配向度は、0.7以上であり、0.7以上1未満であることが好ましく、0.75以上1未満であることがより好ましく、0.8以上1未満であることがさらに好ましい。0.7未満である場合、電池構成時に電極合剤層の表層部に存在する繊維状炭素の繊維軸が、セパレータを損傷する恐れがある。
【0031】
表層部の厚さは、20μm以下であり、0.05μm以上20μm以下であることが好ましく、1μm以上20μm以下であることがより好ましい。20μmを超える場合、電極合剤層の膜厚方向の抵抗が増大し易くなる。
【0032】
第1の発明において、電極合剤層内に内層部と表層部とが形成される場合、これらが明確な界面を以て区別されている必要はない。即ち、繊維状炭素の面内方向への配向度が、電極合剤層の表面から深さ20μmまでの範囲内で0.7未満になればよい。また、繊維状炭素の面内方向への配向度が、表層部から内層部にかけて漸減するように構成しても良い。
【0033】
(1) 炭素系導電助剤
本発明の電極合剤層は炭素系導電助剤を含有している。電極合剤層に含有されている炭素系導電助剤は、平均実効長が10μm以上である繊維状炭素を含むことを必須とする。
本発明の電極合剤層に含まれる繊維状炭素は、本発明の効果を奏すれば、特に限定されることはなく、天然黒鉛、石油系及び石炭系コークスを熱処理することで製造される人造黒鉛や難黒鉛化性炭素、易黒鉛化性炭素などを代表例として挙げることができる。その中でも、易黒鉛化性炭素であることが好ましい。易黒鉛化性炭素とは、2,500℃以上の高温での加熱処理によって3次元的な積層規則性を持つ、黒鉛構造が生成し易い炭素原料である。軟質炭素、ソフトカーボンなどとも呼ばれる。易黒鉛化性炭素としては、石油コークス、石炭ピッチコークス、ポリ塩化ビニル、3,5−ジメチルフェノールホルムアルデヒド樹脂などが挙げられる。中でも、メソフェーズピッチと呼ばれる、溶融状態において光学的異方性相(液晶相)を形成しうる化合物又はその混合物が、高結晶性、高導電性が期待されることから好ましい。メソフェーズピッチとしては、石油残渣油を水素添加・熱処理を主体とする方法ないし水素添加・熱処理・溶剤抽出を主体とする方法で得られる石油系メソフェーズピッチ;コールタールピッチを水素添加・熱処理を主体とする方法ないし水素添加・熱処理・溶剤抽出を主体とする方法で得られる石炭系メソフェーズピッチ;ナフタレン、アルキルナフタレン、アントラセン等の芳香族炭化水素を原料として超強酸(例えばHF、BF3等)の存在下で重縮合させて得られる合成液晶ピッチ等が挙げられる。中でも、合成液晶ピッチが、不純物を含まない点でより好ましい。繊維状炭素の導電性の観点から、粉末X線回折による黒鉛構造の(002)面の面間隔d(002)が0.335〜0.340nmの範囲にあるものが好ましい。
繊維状炭素の製造方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。
【0034】
本発明の電極合剤層内に含まれる繊維状炭素の平均実効長は、10μm以上であり、10〜100μmの範囲にあることが好ましく、12〜80μmの範囲にあることがより好ましく、15〜70μmの範囲にあることがさらに好ましい。繊維状炭素の平均実効長が長いほど、非水電解質二次電池用電極内の導電性、電極の強度、電解液保液性が増して好ましい。しかし、長すぎる場合、繊維状炭素が電極合剤層の面内方向に配向し易くなる。その結果、膜厚方向への導電パスを形成し難くなってしまう。そのため、本発明における繊維状炭素の平均実効長は上記範囲内にあることが好ましい。
【0035】
繊維状炭素の平均実効長は電極合剤層の厚さ(膜厚)の1/3以下であることが好ましく、3/10以下であることがより好ましい。1/3を超える場合、繊維状炭素が面内方向に配向し易くなり、3次元でランダムに配向させることが困難になる。
また、繊維状炭素の平均実効長は電極合剤層の厚さ(膜厚)の1/100以上であることが好ましく、1/70以上であることがより好ましく、1/50以上であることがさらに好ましい。1/100未満である場合、繊維状炭素により形成される導電パスが短くなり易い。その結果、電極合剤層の膜厚方向の抵抗値が十分に低下しない場合がある。
【0036】
本発明における繊維状炭素は直線構造を有することが好ましい。ここで、直線構造とは、分岐度が0.01個/μm以下であることをいう。分岐とは、繊維状炭素の主軸が中途で枝分かれしていることや、繊維状炭素の主軸が枝状の副軸を有することをいう。
図1は、本発明において用いる繊維状炭素の一例を示す走査型電子顕微鏡写真(2,000倍)である。
図1から明らかなように、本発明における繊維状炭素は直線構造を有しており、平均実効長が3〜100μmであることが確認できる。
【0037】
電極合剤層内に含まれる繊維状炭素の実効長を測定する方法としては、次に記載の方法を採用できる。先ず、電極合剤層を溶解可能な溶媒を用いて、電極合剤層を溶解して解体する。これにより、電極合剤層内に埋没していた繊維状炭素の全体が露出する。この繊維状炭素を、電界放射型走査電子顕微鏡を用いて写真撮影し、得られた写真図から繊維状炭素の実効長を測定する。
【0038】
本発明における繊維状炭素は超極細繊維であり、その平均繊維径は1000nm未満であり、50〜900nmの範囲にあることが好ましく、100〜600nmの範囲にあることがより好ましく、150〜500nmの範囲にあることがさらに好ましく、200〜400nmの範囲にあることが特に好ましい。この平均繊維径は、電界放射型走査電子顕微鏡を用いて撮影した写真図より測定される値である。平均繊維径が50nm未満である場合、繊維状炭素が折れていたり丸まったりして、その実効長が短くなり易い。一方、平均繊維径が900nmを超える場合、単位質量当たりの繊維本数が少なくなる。その結果、導電パスの形成が不十分になる場合がある。
【0039】
本発明における繊維状炭素は、繊維状炭素のアスペクト比と、
前記繊維状炭素の体積含有率と、
が下記式(1)を満たすことが好ましい。
0.8≦ 平均アスペクト比 × 体積含有率(vol%) ≦3.5 ・・・式(1)
式(1)の範囲は、0.9以上3.0以下であることがより好ましく、1.0以上2.5以下であることがさらに好ましい。
ここで、上記体積含有率とは、電極合剤層に対する繊維状炭素の割合をいう。
【0040】
実効長が10μm以上である繊維状炭素の含有量は、炭素系導電助剤の全配合量に対して10質量%以上100質量%以下であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることがさらに好ましい。10質量%未満の場合、導電パスの形成が不十分になり易く、電極合剤層の膜厚方向の抵抗値が十分に低下しない場合がある。
【0041】
繊維状炭素の内、実効長が平均実効長よりも長い繊維状炭素の含有量は、繊維状炭素の全本数に対して本数基準で50%以下であることが好ましく、40%以下であることがより好ましく、30%以下であることが特に好ましい。下限は10%以上であることが好ましい。50%を超える場合、平均実効長を大きく下回る短い繊維状炭素が多くなるため、長距離の導電パス形成の観点から好ましくない。
【0042】
繊維状炭素以外の炭素系導電助剤としては、カーボンブラック、アセチレンブラック、鱗片状炭素、グラフェン、グラファイトが例示される。
【0043】
本発明の電極合剤層は、これらの炭素系導電助剤の一種又は二種以上を含んでいても良い。
【0044】
(2) 電極活物質
次に、本発明の電極合剤層に含まれる電極活物質(正極活物質、負極活物質)について詳細に説明する。
【0045】
[正極活物質]
本発明の電極合剤層に含まれる正極活物質としては、非水電解質二次電池において、正極活物質として知られている従来公知の材料の中から、任意のものを一種又は二種以上を適宜選択して用いることができる。例えば、リチウムイオン二次電池であれば、リチウムイオンを吸蔵・放出可能なリチウム含有金属酸化物が好適である。このリチウム含有金属酸化物としては、リチウムと、Co、Mg、Mn、Ni、Fe、Al、Mo、V、W及びTiなどからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含む複合酸化物を挙げることができる。
【0046】
具体的には、Li
xCoO
2、Li
xNiO
2、Li
xMnO
2、Li
xCo
aNi
1−aO
2、Li
xCo
bV
1−bO
z、Li
xCo
bFe
1−bO
2、Li
xMn
2O
4、Li
xMn
cCo
2−cO
4、Li
xMn
cNi
2−cO
4、Li
xMn
cV
2−cO
4、Li
xMn
cFe
2−cO
4、Li
xNi
aCo
dAl
1−a―dO
2、Li
xCoPO
4、Li
xFePO
4、Li
xVPO
4、Li
xMnPO
4(ここで、x=0.02〜1.2、a=0.1〜0.9、b=0.8〜0.98、c=1.2〜1.96、d=0.1〜0.9、z=2.01〜2.3、a+d=0.8〜0.98である。)などからなる群より選ばれる少なくとも一種が挙げられる。好ましいリチウム含有金属酸化物としては、Li
xCoO
2、Li
xNiO
2、Li
xMnO
2、Li
xCo
aNi
1−aO
2、Li
xMn
2O
4、Li
xCo
bV
1−bO
z、Li
xFePO
4(ここで、x、a、b及びzは上記と同じである。)からなる群より選ばれる少なくとも一種を挙げることができる。なお、xの値は充放電開始前の値であり、充放電により増減する。
上記正極活物質は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、当該正極活物質の平均粒子径は、本発明の効果を奏するものであればよく、特に限定されるものではない。
【0047】
[負極活物質]
本発明の電極合剤層に含まれる負極活物質としては、非水電解質二次電池において、負極活物質として知られている従来公知の材料の中から、一種又は二種以上選択して用いることができる。例えば、リチウムイオン二次電池であれば、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素材料、Si及びSnのいずれか、又はこれらの少なくとも一種を含む合金や酸化物などを用いることができる。これらの中でも炭素材料が好ましい。
【0048】
上記炭素材料としては、天然黒鉛、石油系及び石炭系コークスを熱処理することで製造される人造黒鉛、樹脂を炭素化したハードカーボン、メソフェーズピッチ系炭素材料などを代表例として挙げることができる。天然黒鉛や人造黒鉛を用いる場合、電池容量の増大の観点から、粉末X線回折による黒鉛構造の(002)面の面間隔d(002)が0.335〜0.337nmの範囲にあるものが好ましい。
【0049】
天然黒鉛とは、鉱石として天然に産出する黒鉛質材料をいう。天然黒鉛は、その外観と性状によって、結晶化度の高い鱗状黒鉛と、結晶化度が低い土状黒鉛と、の二種類に分けられる。鱗状黒鉛は、外観が葉状の鱗片状黒鉛と、塊状である鱗状黒鉛と、にさらに分けられる。黒鉛質材料となる天然黒鉛は、産地や性状、種類は特に制限されない。また、天然黒鉛又は天然黒鉛を原料として製造した粒子に熱処理を施して用いてもよい。
【0050】
また、人造黒鉛とは、広く人工的な手法で作られた黒鉛、及び黒鉛の完全結晶に近い黒鉛質材料をいう。代表的な例としては、石炭の乾留、原油の蒸留による残渣などから得られるタールやコークスを原料として、500〜1000℃程度の焼成工程、2000℃以上の黒鉛化工程を経て得たものが挙げられる。また、溶解鉄から炭素を再析出させることで得られるキッシュグラファイトも人造黒鉛の一種である。
【0051】
極活物質として炭素材料の他に、Si及びSnの少なくとも一種を含む合金を使用することは、Si及びSnのそれぞれを単体で用いる場合やそれぞれの酸化物を用いる場合に比べ、電気容量を小さくすることができる点で有効である。中でもSi系合金が好ましい。
Si系合金としては、B、Mg、Ca、Ti、Fe、Co、Mo、Cr、V、W、Ni、Mn、Zn及びCuなどからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素と、Siと、の合金などを挙げることができる。具体的には、SiB
4、SiB
6、Mg
2Si、Ni
2Si、TiSi
2、MoSi
2、CoSi
2、NiSi
2、CaSi
2、CrSi
2、Cu
5Si、FeSi
2、MnSi
2、VSi
2、WSi
2、ZnSi
2などからなる群より選ばれる少なくとも一種が挙げられる。
【0052】
本発明においては、負極活物質として、既述の材料を一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、当該負極活物質の平均粒子径は本発明の効果を奏するものであればよく、特に限定されるものではない。
【0053】
(3) バインダー
次に、本発明の電極合剤層に含まれるバインダーについて、詳細に説明する。
本発明の電極合剤層に含まれるバインダーとしては、電極成形が可能であり、十分な電気化学的安定性を有しているバインダーであれば用いることが可能である。かかるバインダーとしては、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、フルオロオレフィン共重合体架橋ポリマー、ポリイミド、ポリアミドイミド、アラミド、フェノール樹脂等よりなる群から選ばれる一種以上を用いることが好ましく、特にポリフッ化ビニリデン(PVDF)が好ましい。
【0054】
バインダーとして用いる際の形状としては特に制限はなく、固体状であっても液体状(例えばエマルジョン状)であってもよく、電極の製造方法(特に乾式混練か湿式混練か)、電解液への溶解性等を考慮のうえ、適宜選択することができる。
バインダーを溶解する溶媒としては、バインダーを溶解するものである限り特に制限はない。具体的には、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホオキシド(DMSO)等よりなる群から選ばれる1種類以上を挙げることができ、特にNMP又はDMAcが好適である。
【0055】
2. 第2態様の電極合剤層
第2の発明は、
電極活物質と、
平均実効長が10μm以上である繊維状炭素を含む炭素系導電助剤と、
バインダーと、
を含有して成る厚さが50μm以上の電極合剤層であって、
前記繊維状炭素の平均実効長が前記電極合剤層の膜厚の1/3以下であることを特徴とする電極合剤層である。
【0056】
平均実効長が電極合剤層の膜厚の1/3以下である繊維状炭素は、電極合剤層内において電極合剤層内において3次元でランダム分散させ易い。そのため、電極合剤層内に繊維状炭素による導電パスが形成され、膜厚方向の抵抗値を低減できる。
繊維状炭素の平均実効長は、電極合剤層の膜厚の1/3以下であり、3/10以下であることが好ましい。1/3を超える場合、繊維状炭素が3次元でランダム分散し難くなる。
また、繊維状炭素の平均実効長は、電極合剤層の膜厚の1/100以上であることが好ましく、1/70以上であることがより好ましく、1/50以上であることがさらに好ましい。1/100未満である場合、繊維状炭素により形成される導電パスが短くなり易い。その結果、電極合剤層の膜厚方向の抵抗値が十分に低下しない場合がある。
【0057】
第2の発明の電極合剤層の好ましい態様、構成材料、及び製造方法は、第1の発明と同様である。
【0058】
3. 第3態様の電極合剤層
第3の発明は、
電極活物質と、
平均実効長が10μm以上である繊維状炭素を含む炭素系導電助剤と、
バインダーと、
を含有して成る膜厚が50μm以上の電極合剤層であって、
前記電極合剤層中の前記繊維状炭素の含有率が0.5〜3.0質量%であり、
前記膜厚方向の電気伝導度が0.0005Scm
−1以上である電極合剤層である。
【0059】
第3の発明においては、電極合剤層の膜厚方向に繊維状炭素による導電パスが形成されるため、繊維状炭素の含有率が0.5〜3.0質量%であっても、膜厚方向の電気伝導度を0.0005Scm
−1以上とすることができる。繊維状炭素の含有率は、0.5〜2.5質量%であることが好ましく、1.0〜2.5質量%であることがより好ましい。0.5質量%未満である場合、膜厚方向の電気伝導度を0.0005Scm
−1以上とすることが困難である。3.0質量%を超える場合、膜厚方向の電気伝導度は高くなるが、任意の容量セルを製造しようとした場合、電極中の活物質量が少なくなってしまい、エネルギー密度の要求の高い電源用途への適用は困難となってしまうことがある。
膜厚方向の電気伝導度の値としては、好ましくは0.0007Scm
−1以上、より好ましくは0.0009Scm
−1以上である。
【0060】
第3の発明の電極合剤層の好ましい態様、構成材料、及び製造方法は、第1の発明と同様である。
【0061】
4. 第4態様の電極合剤層
第4の発明は、
電極活物質と、
平均実効長が10μm以上である繊維状炭素を含む炭素系導電助剤と、
バインダーと、
を含有して成る膜厚が50μm以上の電極合剤層であって、
前記繊維状炭素の平均アスペクト比と、
前記繊維状炭素の体積含有率と、
が下記式(1)
0.8≦ 平均アスペクト比 × 体積含有率(vol%) ≦3.5 ・・・式(1)
を満たす電極合剤層である。
【0062】
第4の発明においては、上記式(1)を満足することにより、繊維状炭素同士が接触し合った導電パスが、電極合剤層の膜厚方向を貫通した状態で形成される。(1)式の範囲は、0.9以上3.0以下であることがより好ましく、1.0以上2.5以下であることがさらに好ましい。
解析ソフトDIGIMAT−FEを用いて、繊維長の異なる繊維状炭素のパーコレーション挙動についてシミュレーションによる解析を行った結果を
図30に示す。パーコレーションとは、繊維状炭素同士が接触し合った導電パスが、電極の膜厚方向を貫通した状態をいう。
発生させた繊維状炭素のうち、導電パス形成に関与している繊維状炭素の割合をPaで表す。すなわち、Paが100%に近づくほど、繊維状炭素が導電パス形成に有効であるため、電極の電気伝導度の急激な向上につながる。
繊維長が大きいほど低添加量(vol%)でパーコレーションが起きている。また、同一添加量では繊維長が大きいほどPa値が大きい。
本発明においては、繊維状炭素の繊維径に対する実効長の比(アスペクト比)が、上記式(1)を満足することにより、導電パスが有効に形成されるので、電気導電性の良好な電極合剤層を提供できる。
【0063】
第4の発明の電極合剤層の好ましい態様、構成材料、及び製造方法は、第1の発明と同様である。
【0064】
5. 非水電解質二次電池用電極
以下、本発明の非水電解質二次電池用電極(以下、単に「電極」ともいう)について説明する。
本発明の電極は、
集電体と、
該集電体の表面に積層された電極合剤層と、
から構成され、電極合剤層が本発明の非水電解質二次電池用電極合剤層から成る電極である。
【0065】
電極の作製方法としては、以下の二つの方法が一般的である。一つの方法は、電極活物質、炭素系導電助剤及びバインダーを混合・混練し、押し出し成形によりフィルム化して、これを圧延、延伸した後、集電体と張り合わせる方法である。
もう一つの方法は、電極活物質、炭素系導電助剤、バインダー及びバインダーを溶解する溶媒を混合してスラリーを調製し、このスラリーを集電体表面に塗布して溶媒を除去した後、プレスを行う方法である。
【0066】
本発明の場合、どちらの方法でも可能であるが、後者の方法が好適であるので、以下後者の方法について詳述する。
【0067】
本発明における電極の作製において、スラリー中の炭素系導電助剤の添加割合としては、電極合剤層の合計量、つまり、電極活物質、炭素系導電助剤及びバインダーの合計量に対して20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらにより好ましい。炭素系導電助剤の添加割合が20質量%を超える場合、任意の容量セルを製造しようとした場合、電極中の活物質量が少なくなってしまい、エネルギー密度の要求の高い電源用途への適用は困難となってしまうことがある。スラリー中の炭素系導電助剤の添加割合の下限値としては、電極合剤層の合計量に対して0.5質量%以上が好ましい。
【0068】
本発明における電極活物質の添加割合としては、電極活物質、炭素系導電助剤及びバインダーの合計量に対して60質量%以上であることが好ましく、70〜98.5質量%であることがより好ましく、75〜98.5質量%であることがさらに好ましい。電極活物質量が60質量%未満である場合、エネルギー密度の要求の高い電源用途への適用は困難となってしまう場合がある。98.5質量%を超える場合、バインダー量が少な過ぎて電極合剤層にクラックが発生したり、電極合剤層が集電体から剥離してしまうことがある。又は、炭素系導電助剤の量が少な過ぎて電極合剤層の導電性が不十分になる場合がある。
【0069】
また、本発明におけるバインダーの添加割合としては、電極活物質、炭素系導電助剤及びバインダーの合計量に対して1〜25質量%であることが好ましく、3〜15質量%であることがより好ましく、5〜10質量%であることがさらに好ましい。バインダー量が1質量%未満である場合、電極合剤層にクラックが発生したり、電極合剤層が集電体から剥離してしまうことがある。また、バインダー量が25質量%を超える場合、任意の容量セルを製造しようとした場合、電極中の活物質量が少なくなってしまい、エネルギー密度の要求の高い電源用途への適用は困難となってしまう場合がある。
【0070】
電極を作製する際に、スラリー中のチクソ性が強過ぎると、塗布に適した流動性を確保することが困難となる場合がある。このような場合には、スラリー化助剤を使用してもよい。スラリー化助剤としては、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアセテート、ポリビニルアルコール等よりなる群から選ばれる1つ以上を挙げることができる。特に、ポリビニルピロリドンを使用することが好適である。上記のようなスラリー化助剤を添加することにより、少ない溶媒量であっても十分な流動性を確保することができ、炭素系導電助剤の分散性も格段に向上する。また、溶媒除去後のクラックの発生も抑制できる。スラリー化助剤の添加量としては、スラリー中の溶媒以外の成分の合計に対して、10質量%以下であることが好ましく、0.5〜10質量%であることがより好ましく、0.5〜8質量%であることがさらに好ましい。スラリー化助剤の添加量が10質量%を超えると、逆にスラリー粘度が急激に低下し、分散不良を生じて好適なスラリー作製が困難となる場合がある。スラリー化助剤の添加量が0.5質量%未満である場合、スラリー化助剤の効果が現れ難い。
【0071】
上記スラリーにおける固形分濃度(上記スラリーの溶媒以外の成分の合計質量がスラリーの全質量に占める割合をいう。)は、10〜80質量%であることが好ましく、20〜70質量%であることがより好ましい。固形分濃度が80質量%を超えると、均一なスラリー作製が困難である場合がある。また、固形分濃度が10質量%未満であると、スラリーの粘度が不十分であり、電極の厚みが不均一になってしまう場合がある。
【0072】
上記スラリーは、後述する集電体の表面に塗布する。塗布方法としては、ドクターブレード等の適宜の塗布方法を採用することができる。塗布後、例えば、60〜150℃、好ましくは80〜120℃において、好ましくは60〜180分加熱処理することにより溶媒を除去する。その後、溶媒除去後の塗布物をプレスすることにより、電極を製造することができる。
上記のごとくして得られる集電体上の電極合剤層は、電極活物質、炭素系導電助剤及びバインダーを含有してなる。これらの含有割合は、電極の作製におけるスラリー中の各々の添加割合と同じである。好ましくは、電極活物質、炭素系導電助剤及びバインダーの合計量に対し、質量基準(合計で100質量%とする)で、電極活物質が70〜98.5%、炭素系導電助剤が0.5〜20%、バインダーが1〜25%である。
【0073】
本発明の電極に用いる集電体は、任意の導電性材料から形成することができる。例えば、集電体は、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス鋼、チタン、銅の金属材料から形成することができる。特に、アルミニウム、ステンレス鋼、銅から形成することが好ましい。正極には、アルミニウム又はカーボンコートを施したアルミニウムを用いることがより好ましく、負極には、銅を用いることがより好ましい。
集電体の厚みとしては、10〜50μmが好適である。
【0074】
本発明の電極は、繊維状炭素の面内方向への配向度が0.4以上0.7未満である接合層が内層部の前記集電体側に形成されていることが好ましい。これにより、内層部に形成されている導電パスと集電体との電気的な接続がより高くなる。接合層における繊維状炭素の面内方向への配向度は、0.45以上0.7未満であることがより好ましく、0.45以上0.65未満であることがさらに好ましい。
0.4未満である場合、電極合剤層の内層部に形成されている導電パスと集電体との電気的な接続が不十分になる場合がある。0.7以上である場合、電極合剤層の膜厚方向の抵抗が増大し易い。
【0075】
接合層の厚さは、20μm以下であり、0.05μm以上が好ましく、1〜20μmであることが好ましい。20μmを超える場合、電極合剤層の抵抗が増大し易くなる。
【0076】
6. 非水電解質二次電池
以下、本発明の非水電解質二次電池について説明する。本発明の非水電解質二次電池は、本発明の非水電解質二次電池用電極を含む電池である。
本発明による非水電解質二次電池は、例えば、リチウムイオン二次電池、リチウム電池、リチウムイオンポリマー電池等が挙げられるが、リチウムイオン二次電池であることが好ましい。本発明の非水電解質二次電池は、正極材料層が集電体の表面に形成されてなる正極、電解質を含む電解質層、及び本発明の非水電解質二次電池用負極から構成され、この正極の正極材料層と本発明の負極の負極材料層とが向き合い、かつ、正極材料層と負極材料層との間に電解質層が挿入されるようにして積層されていてよい。また、本発明の非水電解質二次電池は、本発明の非水電解質二次電池用正極、電解質を含む電解質層、及び負極材料層が集電体の表面に形成されてなる負極から構成され、本発明の正極の正極材料層と負極の負極材料層とが向き合い、かつ、正極材料層と負極材料層との間に電解質層が挿入されるようにして積層されていてよい。さらに、本発明の非水電解質二次電池は、本発明の非水電解質二次電池用正極、電解質を含む電解質層、及び本発明の非水電解質二次電池用負極から構成され、本発明の正極の正極材料層と本発明の負極の負極材料層とが向き合い、かつ、正極材料層と負極材料層との間に電解質層が挿入されるようにして積層されてよい。
【0077】
本発明の非水電解質二次電池を構成する電解質層としては、本発明の目的及び効果を損なわない限りあらゆる電解質層を用いることができる。例えば、電解質層としては、有機溶媒にリチウム塩が溶解した溶液のような液体電解質を用いることができる。ただし、このような液体電解質を用いる場合、正極活物質層と負極活物質層との間の直接の接触を防ぐために、多孔質層からなるセパレータを用いることが一般に好ましい。なお、電解質層としては、固体電解質を用いることもでき、この場合には、別個のセパレータを省略することができる。
【0078】
液体電解質を構成する有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)を使用することができる。これらの有機溶媒は、一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また、液体電解質を構成するリチウム塩としては、例えば、LiPF
6、LiClO
4、LiN(CF
3SO
2)
2、LiBF
4を使用することができる。これらのリチウム塩は、一種又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0079】
サイクル安定性、充放電効率の向上等を目的として、電解質に公知の添加剤を添加してもよい。
【実施例】
【0080】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら限定を受けるものではない。
実施例中の各種測定や分析は、それぞれ以下の方法に従って行った。
【0081】
(1) 前駆体成形体、繊維状炭素の平均繊維径、平均実効長の算出及びその他の炭素系導電助剤の形状確認
走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製S−2400)を用いて観察及び写真撮影を行った。繊維状炭素の粉体での平均繊維径は、得られた電子顕微鏡写真から無作為に20箇所を選択して繊維径を測定し、それらのすべての測定結果(n=20)の平均値を平均繊維径とした。繊維状炭素の粉体での平均実効長についても同様に算出した。
【0082】
(2) 繊維状炭素のX線回折測定
X線回折測定はリガク社製RINT−2100を用いてJIS R7651法に準拠し、格子面間隔(d002)及び結晶子大きさ(Lc002)を測定した。
【0083】
(3) 繊維状炭素の実効長
繊維状炭素を含む電極を、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製TM−3000)を用いて観察し、電極を構成する電極合剤層中において繊維状炭素が丸まっていないことを確認した。その後、電極中の電極合剤層を溶媒に溶解し、デジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス製VHX−200)を用いて観察及び写真撮影を行った。繊維状炭素の平均実効長は、写真から無作為に20箇所を選択して実効長を測定し、それらのすべての測定結果(n=20)の平均値を平均実効長とした。
【0084】
[製造例1] <繊維状炭素の製造>
熱可塑性樹脂として高密度ポリエチレン(HI−ZEX(登録商標)5000SR、(株)プライムポリマー製;350℃、600s
−1の溶融粘度14Pa・s)90質量部及び熱可塑性炭素前駆体として合成メソフェーズピッチAR・MPH(三菱ガス化学(株)製)10質量部を、同方向二軸押出機(東芝機械(株)製「TEM−26SS」、バレル温度310℃、窒素気流下)で溶融混練して樹脂組成物を調製した。
上記樹脂組成物をシリンダー式単孔紡糸機により、390℃で紡糸口金より紡糸し、前駆体成形体(熱可塑性炭素前駆体を島成分として含有する海島型複合繊維)を作成した。
次に、前駆体成形体を熱風乾燥機により、空気中において215℃で3時間保持することにより、安定化前駆体成形体を得た。
【0085】
次に、上記安定化前駆体成形体を、真空ガス置換炉中で、窒素置換を行った後に1kPaまで減圧した。減圧状態下で、5℃/分の昇温速度で500℃まで昇温し、500℃で1時間保持することにより、熱可塑性樹脂を除去して繊維状炭素前駆体を形成した。次いで、この繊維状炭素前駆体をイオン交換水中に加え、ミキサーで2分間粉砕することにより、繊維状炭素前駆体が0.1質量%で分散する予備分散液を作製した。
この予備分散液を、湿式ジェットミル(株式会社スギノマシン社製、スターバーストラボHJP−17007、使用チャンバー:シングルノズルチャンバー)を用いて、ノズル径0.17mm、処理圧力100MPaにより、処理を10回繰り返すことによって、繊維状炭素前駆体の分散液を作製した。次いで、得られた分散液から溶媒液を濾過することによって、繊維状炭素前駆体から成る不織布を作製した。
この不織布をアルゴンガス雰囲気下、室温から3000℃まで3時間かけて昇温し、繊維状炭素を作製した。得られた繊維状炭素の粉体での平均繊維径は346nm、平均実効長は21μmであり、分岐構造は見られなかった。すなわち、直線構造が確認された。また、X線回折法により測定した(002)面の平均面間隔d002は0.3375nmであった。ここで、製造された繊維状炭素である超極細炭素繊維(以下、CNFということがある)の走査型電子顕微鏡写真(2,000倍)を
図1に示す。また、粉体での繊維径及び実効長を測定したヒストグラムを
図2、3に示す。
【0086】
<電極合剤層中の繊維状炭素の実効長>
製造例1の繊維状炭素を含んで構成される電極の電極合剤層を、溶媒に溶解し、乾燥後、デジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス製VHX−200)を用いて撮影した写真の中から代表的なものを
図4に示す。繊維状炭素の平均実効長は19.6μmであった。また、これの実効長を測定したヒストグラムを
図31に示す。
【0087】
<表層部における繊維状炭素の面内方向への配向度>
製造例1の繊維状炭素を含む電極の集電体と接していない側の電極合剤層の表面(表層部)を走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製TM−3000)を用いて観察した。その結果、表層部における繊維状炭素の配向度は電極合剤層の膜厚に依存しないことが確認された。代表的な写真(2,000倍)を
図5に示す(実施例4に相当)。
図5に代表される写真より、上記表層部において観察される実効長は16.2μmであり、表層部における繊維状炭素の面内方向への配向度は0.83であった。観察可能な深さを2μm(活物質平均粒径を2μmと仮定した場合)すれば、電極表面と繊維状炭素のなす角度(配向角度)は7.0°と算出される。
また、電極の断面を観察し、エネルギー分散型X線分析装置(Bruker AXS製、Quantax70)を用いてマッピングした結果を
図6(表層部)及び
図7(電極中央部)に示す。
図6及び
図7から明らかなように、表層部では、多くの繊維状炭素が電極面内方向に配向している。一方、電極中央部では、繊維状炭素が3次元でランダムに近い配向状態で存在している。
図8は厚膜電極中における繊維状炭素の配向状態を模式的に示した図であり、
図9は薄膜電極中における繊維状炭素の配向状態を模式的に示した図である。なお、電極中央部とは、電極全体のうち、集電体と接していない側の電極合剤層の表面(表層部)及び集電体を除いた部分をいう。
【0088】
[実施例1]
<電極の作製>
炭素系導電助剤として製造例1の繊維状炭素(CNF)を2質量部、正極活物質(LiFePO
4;宝泉株式会社製、SLFP−ES01)を91質量部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製、W#7200)を7質量部、溶媒としてN−メチルピロリドンを用いてスラリーを作製した。作製したスラリーを集電体(厚さ15μmのアルミニウム箔)に塗布後、120℃で3h乾燥させ、プレスすることで電極を作製した。電極を構成する電極合剤層の膜厚は72μm、空孔率は25%、密度は2.5g/cm
3であった。
電極合剤層の表面から深さ30μm分を取り除いた状態で、繊維状炭素の面内方向への配向度を観察した。内層部において観察された平均実効長は4.8μmであり、内層部における繊維状炭素の面内方向への配向度は0.24であった。観察可能な深さを2μmと仮定すれば、電極表面とCNFのなす角度(配向角度)は22.5°と算出される。
【0089】
[実施例2]
<電極の作製>
電極合剤層の膜厚を92μm、密度を2.6g/cm
3とした以外は、実施例1と同様に操作を行い、電極を作製した。
【0090】
[実施例3]
<電極の作製>
電極合剤層の膜厚を106μm、密度を2.5g/cm
3とした以外は、実施例1と同様に操作を行い、電極を作製した。
【0091】
[実施例4]
<電極の作製>
電極合剤層の膜厚を119μm、密度を2.6g/cm
3とした以外は、実施例1と同様に操作を行い、電極を作製した。
前記したように、上記表層部において観察される実効長は16.2μmであり、前記表層部における繊維状炭素の面内方向への配向度は0.83であった。観察可能な深さを2μm(活物質平均粒径を2μmと仮定した場合)すれば、表層部とCNFのなす角度(配向角度)は7.0°と算出される。
さらに、電極合剤層の表面から深さ60μm分を取り除いた状態で同様の観察をしたところ、観察された平均実効長は4.4μmであり、この内層部における繊維状炭素の面内方向への配向度は0.22であった。観察可能な深さを2μmと仮定すれば、電極表面とCNFのなす角度(配向角度)は24.5°と算出される。
また、集電体と接している側の電極合剤層の表面(即ち、接合層)を同様にして観察したところ、接合層部で観察された平均実効長は10.4μmであり、接合層部における繊維状炭素の面内方向への配向度は0.53であった。観察可能な深さを2μmと仮定すれば、電極表面とCNFのなす角度(配向角度)は10.9°と算出される。
【0092】
[実施例5]
<電極の作製>
電極合剤層の膜厚を146μm、密度を2.6g/cm
3とした以外は、実施例1と同様に操作を行い、電極を作製した。
【0093】
[実施例6]
<電極の作製>
電極合剤層の膜厚を165μm、密度を2.6g/cm
3とした以外は、実施例1と同様に操作を行い、電極を作製した。
【0094】
[実施例7]
<電極の作製>
炭素系導電助剤として、実施例1で用いられた繊維状炭素(CNF)を1質量部及びアセチレンブラック(AB)(電気化学工業株式会社製、デンカブラック)を1質量部で用いたこと以外は、実施例1と同様に操作を行い、電極を作製した。電極合剤層の膜厚は71μm、密度は2.5g/cm
3であった。
【0095】
[実施例8]
<電極の作製>
電極合剤層の膜厚を121μm、密度を2.6g/cm
3とした以外は、実施例7と同様に操作を行い、電極を作製した。
【0096】
[実施例9]
<電極の作製>
電極合剤層の膜厚を152μm、密度を2.6g/cm
3とした以外は、実施例7と同様に操作を行い、電極を作製した。
【0097】
[実施例10]
<電極の作製>
繊維状炭素(CNF)を5質量部、正極活物質(LiFePO
4;宝泉株式会社製、SLFP−ES01)を88質量部、バインダーとしてポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製、W#7200)を7質量部、溶媒としてN−メチルピロリドンを用いることによりスラリーを作製した。作製したスラリーをアルミニウム箔に塗布、乾燥させることで電極を作製した。電極を構成する電極合剤層の膜厚は121μm、密度は2.5g/cm
3であった。
ただし、電気伝導度は良好である一方、繊維状炭素(CNF)の添加量が過剰なため、電極合剤層中の正極活物質量が少なくなり、その結果電池の容量が小さくなった。
【0098】
[比較例1]
<電極の作製>
電極合剤層の膜厚を18μm、密度を2.5g/cm
3とした以外は、実施例1と同様に操作を行い、電極を作製した。
【0099】
[比較例2]
<電極の作製>
電極合剤層の膜厚を30μm、密度を2.5g/cm
3とした以外は、実施例1と同様に操作を行い、電極を作製した。
【0100】
[比較例3]
<電極の作製>
電極合剤層の膜厚を20μm、密度を2.5g/cm
3とした以外は、実施例7と同様に操作を行い、電極を作製した。
【0101】
[比較例4]
<電極の作製>
実施例1で用いられた繊維状炭素を粉砕(株式会社スギノマシン社製、スターバースト)し、平均実効長5.5μmの繊維状炭素(S−CNF)として用いたこと以外は、実施例1と同様に操作を行い、電極を作製した。ここで、平均実効長5.5μmの繊維状炭素(S−CNF)を走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製S−2400)を用いて撮影した写真を
図10(2,000倍)、
図11(8,000倍)に示す。電極合剤層の膜厚は20μm、密度は2.6g/cm
3であった。また、粉体での実効長を測定したヒストグラムを
図12に示す。
上記繊維状炭素(S−CNF)を含んで構成される電極の電極合剤層を、溶媒に溶解し、乾燥後、デジタルマイクロスコープ(株式会社キーエンス製VHX−200)を用いて撮影した写真の中から代表的なものを
図13に示す。繊維状炭素(S−CNF)の実効長は5.5μmであった。
【0102】
<電極表層部における繊維状炭素(S−CNF)の面内方向への配向度>
上記繊維状炭素(S−CNF)を含む電極の集電体と接していない側の表面(電極表層)を走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製TM−3000)を用いて観察した。その結果、表層部における繊維状炭素(S−CNF)の配向度は、電極合剤層の膜厚に依存しないことが確認された。代表的な写真(5,000倍)を
図14に示す。
図14に代表される写真より、表層部において観察される繊維状炭素(S−CNF)の実効長は5.0μmであり、表層部における繊維状炭素(S−CNF)の面内方向への配向度は0.91であった。
【0103】
[比較例5]
<電極の作製>
電極合剤層の膜厚を30μm、密度を2.5g/cm
3とした以外は、比較例4と同様に操作を行い、電極を作製した。
【0104】
[比較例6]
<電極の作製>
電極合剤層の膜厚を74μm、密度を2.5g/cm
3とした以外は、比較例4と同様に操作を行い、電極を作製した。
【0105】
[比較例7]
<電極の作製>
電極合剤層の膜厚を85μm、密度を2.6g/cm
3とした以外は、比較例4と同様に操作を行い、電極を作製した。
【0106】
[比較例8]
<電極の作製>
電極合剤層の膜厚を104μm、密度を2.5g/cm
3とした以外は、比較例4と同様に操作を行い、電極を作製した。
【0107】
[比較例9]
<電極の作製>
電極合剤層の膜厚を123μm、密度を2.5g/cm
3とした以外は、比較例4と同様に操作を行い、電極を作製した。
【0108】
<電極の抵抗測定>
ポテンショスタット/ガルバノスタット(北斗電工株式会社製HA−151)を用いて、作製した電極の膜厚方向の電極抵抗を測定した結果と、その抵抗値から算出される電気伝導度を表1、
図15及び
図16に示す。繊維状炭素の実効長が長い方が抵抗(電極抵抗)が低く、電気伝導度(電極電導度)が高いことがわかる。また、導電性に膜厚依存性が見られるのは、繊維状炭素の配向度に由来するものと考えられる。
【0109】
【表1】
【0110】
<コインセルの作製>
上記実施例及び比較例で作製した正極を、ガラス繊維不織布セパレータ、又は、ポリエチレン多孔質セパレータのいずれかを介して金属リチウムと対向させ、1mol/L濃度のLiPF
6を含むエチレンカーボネートとエチルメチルカーボネート混合溶液(3/7質量比、キシダ化学社製)からなる電解液を2032型コインセルに注入して、電池評価用のコインセルを作製した。表2中、実施例及び比較例中、セパレータとしてガラス繊維不織布を用いたものを「実施例1−A」のように表記した。セパレータとしてポリエチレン多孔質を用いたものを「実施例1−B」のように表記した。
【0111】
<放電レート特性>
上記のように作製したコインセルを用いて、充放電装置(北斗電工株式会社製HJ−1005SD8)を用いて、プレサイクル実施後、放電レート特性の測定を行った。プレサイクル条件としては、4.0Vまで0.2C定電流充電後、定電圧充電(0.01Cカットオフ)し、10分間の休止時間をおいてから2.5Vまで0.2C定電流放電し、10分間の休止時間をおくという一連のサイクルを5サイクル繰り返すこととした。プレサイクル実施後、放電レート特性を評価した。放電レート特性の測定条件は次の通りである。充電条件としては、4.0Vまで0.2C定電流充電後、定電圧充電(0.01Cカットオフ)することとし、10分間の休止時間をおいてから放電に切り替えた。放電条件としては、下限電圧を2.5Vに設定し各放電レートにて定電流放電とした。放電レートは0.2C→0.5C→1C→2C→3C→5C→7Cのように段階的に上げることとした。
測定された放電レート特性を
図17〜26に示す。また、電極電位3Vカットオフ時における0.2C放電容量及び各放電レートにおける容量維持率(0.2C放電容量を100%とする)を下記表2に示す。
【0112】
【表2】
【0113】
<直流抵抗>
上記のように測定した放電レート特性の結果から、直流抵抗を算出した結果を表3に示す。本測定における0.2C放電を対象とし、1mAh/g、10mAh/g、35mAh/g、70mAh/g放電時の電圧降下分を、0.2Cに対応する放電電流密度の値によって除することで直流抵抗を算出することができる。
【0114】
【表3】
【0115】
<交流インピーダンス測定>
ポテンショスタット/ガルバノスタット(ソーラトロン製SI1287)及びインピーダンスアナライザ(ソーラトロン製SI1260)を用いて、各コインセルの交流インピーダンス測定を行った。結果を表4及び
図27に示す。測定には、放電レート特性と同様に、充放電装置を用いてプレサイクルを実施し、70mAh/g充電状態としたコインセルを用いた。電極膜厚がほとんど同じである電極同士を比較すると、繊維状炭素の繊維長が長い方が、インピーダンスが低くなる傾向がわかる。
【0116】
【表4】
【0117】
<導電パス形成のシミュレーション解析>
解析ソフトDIGIMAT−FEを用いて、繊維長の異なる繊維状炭素の、電極膜厚方向への導電パスの形成の仕方に関して、シミュレーションによる解析を行った。結果を表5、
図28に示す。解析手法としては、表5に示した各電極合剤層膜厚の仮想電極に対し、球状粒子(活物質)及びフィラー(繊維状炭素)を発生させ、フィラーにより形成された導電パスの本数、及びその導電パスに接触した有功な活物質の割合を計測することとした。球状粒子及びフィラーを発生させた様子の一例を
図29に示す。また、フィラーの発生に際しては、面配向及びランダム配向条件を採用しており、面配向では[X−Y−Z]=[0.4−0.4−0.2](Zが膜厚方向)の配向性を持たせた条件とした。
【0118】
上記の通り解析を行った結果、表5、
図28に示すように、繊維長が長い方が、有効活物質割合が大きくなり、導電パス数も増えるため、電極の導電性向上に有効であることがわかる。また、繊維状炭素の配向性に関して検討したところ、有効活物質割合にはほとんど違いが見られなかったのに対し、導電パス数に関しては面配向よりもランダム配向の方が有効であることがわかる。
【0119】
【表5】