(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6317871
(24)【登録日】2018年4月6日
(45)【発行日】2018年4月25日
(54)【発明の名称】乾燥果実の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23B 7/02 20060101AFI20180416BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20180416BHJP
【FI】
A23B7/02
A23L19/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-12106(P2018-12106)
(22)【出願日】2018年1月27日
【審査請求日】2018年1月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518031723
【氏名又は名称】山▲崎▼ 孝博
(73)【特許権者】
【識別番号】511001471
【氏名又は名称】エイアイピイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100144130
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 実
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 孝博
【審査官】
中村 勇介
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2010/038276(WO,A1)
【文献】
特開2002−051696(JP,A)
【文献】
M.Zielinska, et al.,Freezing/thawing and microwave-assisted drying of blueberries(Vaccinium corymbosum L.),LWT - Food Science and Technology,2015年,Vol.62,p.555-563
【文献】
千葉 直樹ほか,マイクロ波減圧乾燥により加工したイチゴの味と香り評価,New Food Industry,2017年,Vol.59,p.75-82
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B 7/00− 9/34
A23L19/00−19/20JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
果実中の自由水が凍結し、結合水の少なくとも一部が凍結しない温度で果実を冷凍する冷凍工程と、
水の沸点が50℃以上70℃以下になる減圧環境下で、冷凍してある前記果実に、水を沸騰させずに蒸発させる条件の電磁波を印加して水分を蒸発させる乾燥工程とを備えることを特徴とする乾燥果実の製造方法。
【請求項2】
前記乾燥工程では、前記果実の温度が35℃以上45℃以下となる条件で電磁波を印加することを特徴とする請求項1に記載の乾燥果実の製造方法。
【請求項3】
前記乾燥工程では、前記果実の表面に液体が現れたときに電磁波の強度を低下させることを特徴とする請求項1又は2に記載の乾燥果実の製造方法。
【請求項4】
前記乾燥工程では、前記果実の表面の一部の乾燥硬化が開始する状態まで乾燥した時に電磁波の強度をさらに低下させることを特徴とする請求項3に記載の乾燥果実の製造方法。
【請求項5】
前記乾燥工程では、最後に電磁波の照射を停止し、前記果実が30℃以下になるまで請求項1に記載の減圧環境下で自然放熱させることを特徴とする請求項4に記載の乾燥果実の製造方法。
【請求項6】
前記果実が、粒状のイチゴであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の乾燥果実の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍処理を行った対象物に電磁波(例えばマイクロ波)を照射して減圧乾燥させる乾燥果実(ドライフルーツ)の製造方法である。
【背景技術】
【0002】
食品乾燥の技術には、天日干し、温風乾燥(あるいは熱風乾燥と呼ばれる場合もある)、凍結乾燥(あるいは冷凍乾燥と呼ばれる場合もある)、砂糖漬け、フライ等がある。
【0003】
近年の健康志向により、砂糖および油分、そのほかの添加物を用いない食品が好まれる傾向にあるが、イチゴ等の軟弱果実はその独特の形状により、果実(偽果を含む)の内部に大量の水分を包含しており、果実表面への熱源照射では十分に乾燥できず、乾燥途中で「腐り、へたり、潰れ」が生じる。このため、果実を薄切りにするなど表面積を豊富に確保した形状で乾燥させることが一般的である。
【0004】
上記に列挙した乾燥技術のうち、凍結乾燥は真空環境下における水分の昇華を利用したものであり、果実を薄切りにすることなく乾燥処理を行うことが可能である。しかしながら、凍結乾燥は数時間から数十時間という長時間をかけて処理が必要であることから、処理時間だけでなく電力消費のコスト負担も大きくなる。
【0005】
さらに、凍結乾燥においては目標水分量まで乾燥しきるために、補填手段として温風やマイクロ波等の熱源を対象物に与える併用処理が古くから行われている。長時間かつ多大な電力コストを伴う凍結乾燥の欠点を補った乾燥方法に「マイクロ波乾燥」がある。
【0006】
「マイクロ波乾燥」は、電磁波を対象物に印加し水分子の運動に伴う摩擦熱等を利用した乾燥技術である。「マイクロ波乾燥」には、減圧環境下において対象物の周囲に発生した水蒸気の除去を同時に達成する「マイクロ波減圧乾燥」もある。これまでの主な「マイクロ波減圧乾燥」は、温風乾燥とマイクロ波乾燥とを併用する手法が一般的であった(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5358772号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
「マイクロ波減圧乾燥」と「温風乾燥」とを組み合わせることで、乾燥させた食感のよい乾燥果実を製造できる。しかしながら、「温風乾燥」と組み合わせると製造工程や加工装置が複雑になるという課題がある。また、外観を良好に保ち、食感や味がより優れた乾燥果実の製造方法の開発が以前から求められている。
【0009】
本発明は、前記の課題を解決するためになされたもので、簡便に製造でき、さらに、外観を良好に保ちつつ、食感や味のより優れた乾燥果実を製造することができる乾燥果実の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記の目的を達成するためになされた、特許請求の範囲の請求項1に記載された乾燥果実の製造方法は、果実中の自由水が凍結し、結合水の少なくとも一部が凍結しない温度で果実を冷凍する冷凍工程と、水の沸点が50℃以上70℃以下になる減圧環境下で、冷凍してある前記果実に、水を沸騰させずに蒸発させる条件の電磁波を印加して水分を蒸発させる乾燥工程とを備えることを特徴とする。
【0011】
請求項2に記載された乾燥果実の製造方法は、請求項1に記載のものであり、前記乾燥工程では、前記果実の温度が35℃以上45℃以下となる条件で電磁波を印加することを特徴とする。
【0012】
請求項3に記載された乾燥果実の製造方法は、請求項1又は2に記載のものであり、前記乾燥工程では、前記果実の表面に液体が現れたときに電磁波の強度を低下させることを特徴とする。
【0013】
請求項4に記載された乾燥果実の製造方法は、請求項3に記載のものであり、前記乾燥工程では、前記果実の表面の一部の乾燥硬化が開始する状態まで乾燥した時に電磁波の強度をさらに低下させることを特徴とする。
【0014】
請求項5に記載された乾燥果実の製造方法は、請求項4に記載のものであり、前記乾燥工程では、最後に電磁波の照射を停止し、前記果実が30℃以下になるまで請求項1に記載の減圧環境下で自然放熱させることを特徴とする。
【0015】
請求項6に記載された乾燥果実の製造方法は、請求項1から5のいずれかに記載のものであり、前記果実が、粒状のイチゴであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の乾燥果実の製造方法によれば、温風乾燥が不要であるため、例えば水分を豊富に含んだ軟弱果実であっても簡便に良好に乾燥させることができる。さらに、乾燥工程でスクロース等の糖類を含んだ結合水を果実の表面上に滲み出させながら糖類を果実表面上で結晶化させつつ乾燥させるため、サクサクとした食感の「スナック状・クリスピー状」の仕上がりの食感になり、味のより優れた乾燥果実を製造することができる。果実が潰れず、形状・色彩・風味・香りを良好に保つことができるだけでなく、糖類の結晶が表面に現れ煌めく外観の乾燥果実を製造することができる。
【0017】
乾燥工程で果実の温度が35℃以上45℃以下となる条件で電磁波を印加する場合、水の蒸発を促進させつつ、水の沸騰を確実に防止できる。
【0018】
乾燥工程で果実の表面に液体が現れたときに電磁波の強度を低下させる場合、果実の温度の急激な上昇を防止することができる。
【0019】
乾燥工程で果実の表面の一部の乾燥硬化が開始する状態まで乾燥した時に電磁波の強度をさらに低下させる場合、果実表面を熱で焦がしたり変質させたりすることを防止することができる。
【0020】
乾燥工程で最後に電磁波の照射を停止し、果実が30℃以下になるまで減圧環境下で自然放熱させることで、果実表面を熱で焦がしたり変質させたりすることなく、水分を十分に乾燥することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】乾燥工程で使用するマイクロ波減圧乾燥装置の構成を模式的に示すブロック図である。
【
図3】実施例:製造した乾燥イチゴの写真(ヘタ切断面側から撮影)である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための形態を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの形態に限定されるものではない。
【0023】
本発明の乾燥果実の製造方法は、果実中の自由水が凍結し、結合水の少なくとも一部が凍結しない温度で果実を冷凍する冷凍工程と、水の沸点が50℃以上70℃以下になる減圧環境下で、冷凍してある前記果実に、水を沸騰させずに蒸発させる条件の電磁波を印加して水分を蒸発させる乾燥工程とを備えるものである。
【0024】
冷凍工程を行う目的について説明する。果実としてイチゴを例に挙げる。
【0025】
[冷凍する目的1]
イチゴの果実はBrix糖度が13%を超えることも珍しくなく、糖類を多く含んでいる。これにより、果実の中には多くの「結合水」が存在することになる。結合水とは、糖分等と結合した水である。果実の中には結合水のほかに、通常の水である「自由水」が存在している。
【0026】
イチゴをスライスせずに粒状(ホール型)のまま温風乾燥した場合には、糖類と結び付いた結合水の影響で、完成物には水分量が18%ほど残り、茶褐色の粘り気を伴ったへたったグミ状・カラメル状となり乾燥しきらない。それ以上に温風乾燥させると、焦げになるか硬化する。
【0027】
多く流通しているスライス状のドライ(乾燥)イチゴではなく、ホール型のドライイチゴの製造を目指す時に、結合水の問題が大きく立ちふさがり、結合水の乾燥は最も解決しなければならない課題である。
【0028】
結合水は乾燥しにくいだけでなく、冷凍凍結しにくいという特性を持つ。自由水は0℃以下で凍結する。一方、結合水は結びつく物質等により異なるが、−20℃から−40℃程度の低温で凍結する。これを利用し、乾燥させやすい自由水は氷として凝固させ、乾燥しにくい結合水は液体、あるいは液体と固体が共存する状態、あるいは固体であっても水分子が緩く結合している状態に冷凍処理を行う。
【0029】
液体の水は固体の氷と比較して、約8000倍ほどマイクロ波(電磁波の一例)によって加熱されやすいとされている。言い換えると、氷は水の約1/8000ほどマイクロ波の影響が少ないことになる。
【0030】
本発明では、敢えてマイクロ波による「解凍ムラ」を利用することによって、結合水から優先的にマイクロ波の影響を受けさせ解凍し、蒸発へとつなげていく。
【0031】
つまり、果実中の自由水が凍結し、結合水の少なくとも一部が凍結しない温度で果実を冷凍する冷凍工程を行うことで、「結合水」と「自由水」の凍結温度の違いを利用して、次の乾燥工程で、乾燥しにくい結合水から優先的に(先に)マイクロ波印加により加熱(エネルギーを付与)して蒸発させ乾燥させる。
【0032】
イチゴの冷凍温度は、イチゴ中の自由水が凍結し、結合水の少なくとも一部が凍結しない温度である、例えば、−10℃以下−29℃以上とすることが好ましい。−30℃以下だと、結合水の多くが凍結する場合があるので、イチゴの冷凍温度を、−15℃以下−25℃以上とすることがより好ましく、−20℃前後とすることがより好ましい。
【0033】
冷凍は、急速冷凍で行ってもよい。急速冷凍とは、氷結晶最大生成温度帯(−1℃から−5℃)を30分以内に通過する冷凍法である。急速冷凍すると氷結晶が大きく成長しないため、果実の細胞が傷つきにくく、解凍時の不要なドリップの発生量が少なくなる。
【0034】
本発明の製造方法では、糖類を含んだ結合水を果実の表面上に滲み出させながらスクロース等の糖類を果実表面で結晶化させつつ乾燥させる。つまり、解凍時にドリップをあえて発生させて、ドリップを果実表面で蒸発乾燥させている。通常の解凍では、ドリップの発生を少なくすることが求められるが、本発明では、ドリップの発生を積極的に利用していることが特徴である。
【0035】
そのため、冷凍工程で急速冷凍してもよいが、意図している乾燥果実の完成形品質に応じて、ドリップの発生量をより増やすことを目的に、急速冷凍せずに、氷結晶最大生成温度帯を30分を超える時間(期間)で通過させる通常の冷凍法で冷凍してもよい。果実表面のスクロースの生成量を、氷結晶最大生成温度帯を通過させる時間の長さに基づいて調整してもよい。
【0036】
[冷凍する目的2]
前述したように、氷は水の約1/8000ほどマイクロ波の影響が少ない。例えば、実験において100Wの照射で出力が強かった場合は、10Wごとないし数Wの出力微調整が求められるが、マイクロ波照射機は常に一定の出力ではなく、設定出力値を目安にミリ秒単位で数Wのぶれ幅のなかで照射処理が行われる。このため、数Wの出力値設定変更をしたとしても、実際には設定値を超えるぶれ幅出力があるため、数Wから10W程度の出力微調整は困難と言える。このことから、対象物を事前処理として冷凍させておくと、マイクロ波の影響を受けにくくなり、対象物が100g前後の少量あるいは水分量が90%前後の軟弱果実であっても50Wないしは100W単位での出力値変更を行うことができる。
【0037】
さらに、マイクロ波乾燥の出力を微調整したい場合は、冷凍温度を−20℃以下に下げることによって、氷晶の結晶化がより強固になり強い水素結合のため電気双極子が回転できず、マイクロ波で加熱されにくくなる。一方、−5℃前後の弱い凍結温度とすると、マイクロ波印加中に室温等のマイクロ波以外の要因も相俟って解凍が進み、比較して短時間でマイクロ波乾燥処理を完了させたい場合に有効である。
【0038】
つまり、マイクロ波乾燥法において、対象物の水分量が非常に多いあるいは対象物の質量が小さい等の、マイクロ波による加熱をより受けやすい対象物に印加する際において、予め果実を冷凍しておくことで、マイクロ波出力の影響を軽微にすることができる。本発明の乾燥法は、このような付随的な効果もある。
【0039】
[予備冷却]
冷凍工程を行う前に、果実を1℃以上10℃以下の温度に冷却する予備冷却工程を行うことが好ましい。予め、予備冷却工程を行うことで、冷凍工程の時間を短くすることができる。特に、冷凍工程で急速冷凍する場合、氷結晶最大生成温度帯を短時間で通過させやすくなる。
【0041】
[減圧による工夫]
電子レンジで野菜を加熱した際に対象物が萎むように、マイクロ波乾燥時には乾燥に至るまでに茹で状態による対象物の萎みや潰れが生ずる。さらにイチゴ等の軟弱果実は、沸騰時の気泡発生による破壊も実験で発生した。また、沸騰させると、果実の色の脱落が生じる場合がある。
【0042】
解凍時に氷から溶けた水分で対象物自体が茹であがることを防止するために、いち早く対象物の外に水分を除去させることと、沸騰状態に至らないような温度帯に調整することが肝要である。さらに、果実は低温で処理することで色や味を良好なものとすることができる。そのため、果実を50℃未満の温度で沸騰させずに氷を解凍させて乾燥させることが必要である。
【0043】
これら理由から、乾燥工程では、水の沸点が50℃以上70℃以下になる減圧環境下で、冷凍してある前記果実に、水を沸騰させずに蒸発させる条件の電磁波を印加して水分を蒸発させる。水の沸点が50℃の気圧は0.012MPaであり、水の沸点が70℃の気圧は0.031MPaであるため、圧力で表示すると、0.012MPa以上0.031MPa以下になる。なお、水の沸点が60℃の気圧は0.020MPaである。この程度の減圧環境は比較的安価な真空ポンプで実現できるため、簡便で安価に本発明を実施することができる。
【0044】
ここで、水を沸騰させずに蒸発させる条件の電磁波とは、果実に印加する電磁波の波長、強度及び照射時間である。電磁波としてマイクロ波(周波数300MHz〜3THz)を例に挙げているが、電磁波はマイクロ波よりも低い周波数の高周波であってもよい。電子レンジと同様の原理を利用して、電子レンジと同様のマイクロ波(例えば、915MHz、2450MHz)を用いてもよい。例えば、13.56MHzの高周波を用いてもよい。電磁波の強度が強いと水が沸騰してしまうため、強度を適宜調整する。電磁波を連続的に印加してもよいし、断続的に印加してもよい。時間の経過や温度に対応させて強度を変化させるようにしてもよい。
【0045】
乾燥工程では、前述の減圧環境下で果実の温度が35℃以上45℃以下となる条件で電磁波を印加することが好ましい。この温度範囲に規定することで、水の蒸発を促進させつつ、水の沸騰を確実に防止できる。これより低い温度であると、乾燥工程の時間が長くなる。これより高い温度であると、水が沸騰しやすくなる。
【0046】
本発明では、水の沸点が50℃以上70℃以下になる減圧環境下において、解凍工程によって対象物内部に発生した水分を減圧を利用して表面上に移動させることで、マイクロ波印加の効果を高めている。減圧環境下のため内部に空隙が生じても対象物を大気圧で押し潰すことなく原型のままの形状を維持できる。さらに、本発明では、高真空環境下ではなく減圧環境下としていることから処理容器内に若干の大気ないし乾燥に伴って発生した水蒸気が存在し、真空ポンプで吸引し続けることによって、対象物周囲に発生した水蒸気を微弱な気流を伴って、トラップに集めることが可能である。
【0047】
[マイクロ波減圧装置]
乾燥工程では、例えば、
図1に模式的に構成を示すマイクロ波減圧乾燥装置1を使用する。マイクロ波減圧乾燥装置1は、マイクロ波照射装置2、容器5、真空ポンプ9、及びトラップ8を備えている。マイクロ波照射装置2は、マグネトロンなどのマイクロ波発生器3を備え、内部空間に収容した果実11にマイクロ波を印加(照射)する。果実11は、容器5に収容してマイクロ波照射装置2の内部空間に収容される。容器5は、水分を含まずマイクロ波を透過する例えばガラス又はセラミックで形成されている。容器5は、果実11を収容できるよう例えば上下に分離可能に形成されている。容器5は、内部を減圧しても耐えられる強度を有している。容器5は、内部を減圧するための管路6を接続可能な口部を有している。容器5の口部に接続された管路6は、水分を冷却して収集するトラップ8を介して、真空ポンプ9に接続されている。
【0048】
管路6には、圧力計7が設けられている。圧力計7が所望の圧力を指示するように、手動又は自動で真空ポンプ9を作動させる。マイクロ波発生器3が所望の強度のマイクロ波を出力するように、手動又は自動で強度を調整可能にマイクロ波照射装置2が構成されている。イチゴの温度は、図示しないが、非接触で温度測定可能な公知の赤外線温度センサ、又は、イチゴの表面又は内部に装着して温度検出する熱電対などの公知の接触式の温度センサなどで測定すればよい。
【0049】
「マイクロ波出力強度の段階的な変更」
乾燥工程では、果実の表面に液体が現れたときに電磁波の強度を低下させることが好ましい。さらに、乾燥工程では、果実の表面の一部の乾燥硬化が開始する状態まで乾燥した時に電磁波の強度をさらに低下させることが好ましい。
【0050】
果実等の糖分を豊富に含んだ対象物は、マイクロ波乾燥等の熱源を主体とした乾燥方法では焦げの影響を受けやすい。このため乾燥工程では、段階的又は連続的な出力変更を伴って乾燥を進めることが好ましい。
【0051】
まず、「解凍」の段階では、室温等のマイクロ波以外の影響を極力減らすよう、短時間で「結合水」の加熱(凍結している結合水に対しては液体化を促進)を行うために、比較的高い出力強度で短時間のうちに処理する必要がある。対象物の表面上に水滴が見えるまで処理を行う。
(実験では、合計70gの対象物に200Wを15分間照射)
【0052】
次に、「初期乾燥」の段階では、表面上に現れた水分を手早く水蒸気化させ除去させなければ表面が硬化し内部の乾燥に至らなくなるか、解凍に伴う軟弱化によって水分を含んだ自重に負けへたりが生ずる。その一方で、解凍が進み水分がマイクロ波の影響を受けやすい段階に移行しているため、マイクロ波の出力強度を低下させる(例えば一段階強度を落とす)。この出力強度で、対象物の表面上の固形化が始まるまでマイクロ波印加を行う。
(実験では、合計70gの対象物に100Wを25分間照射)
【0053】
最後は、「最終乾燥」の段階である。90%程度の乾燥に至るまで処理を行い、果実をホール型のまま乾燥固形化させる。この工程では、結合水が蒸発し表面上に残ったスクロース等の糖類が結晶化しており非常に焦げやすいので、出力強度をさらに下げたあと、温度が30℃以下に下がるまで減圧下でクールダウンを行う。
(実験では、合計70gの対象物に50Wを10分間照射、その後出力を止め15分間クールダウン)
【0054】
このように、マイクロ波の出力強度を段階的に低下させるように調整することで、果実の崩壊と焦げを確実に防止することができる。
【0055】
なお、マイクロ波の強度を、上記の「解凍」から「最終乾燥」までの条件とは適宜変えて照射してもよい。例えば、液体が沸騰せず、果実の表面が熱で変質しないような弱い一定の強度のマイクロ波を最初から最後まで連続的に照射するようにしてもよい。
【0056】
「成果物」
イチゴの形状が粒状(ホール型)にそのまま残ったドライフルーツという観点では、従来の凍結乾燥法と本発明による乾燥方法は同じである。しかしながら、本発明の製造方法で果実を乾燥させると、糖類を含んだ結合水が果実の表面上に解凍によって滲み出してから蒸発することで、果実の表面上にスクロース等の糖類が結晶化しつつ果実が乾燥していく。このため、従来の凍結乾燥法で製造した乾燥果実の「パフ状」の仕上がりと比較して、本発明の製造方法による乾燥果実はサクサクとした食感の「スナック状・クリスピー状」の仕上がりとなり、食感の全く異なる乾燥果実を生成することができる。本発明による乾燥果実は味も良好である。本発明によれば、粒状の果実であっても潰れず、形状・色彩・風味・香りを良好に保った乾燥果実を製造できる。さらに、本発明によれば、糖類の結晶があたかもダイヤモンド様に表面に現れ、煌めく外観を伴うような、美観に優れた乾燥果実を製造することができる。本発明によれば、イチゴ等のように糖分を多く含む軟弱果実であっても、粒状のまま乾燥することができる。本発明により、スライス又は分割した果実を乾燥させてもよい。
【0057】
本発明の被乾燥対象となる果実(偽果を含む)は、イチゴに限定されない。果実として、例えば、イチゴ、ブドウ、メロン、ブルーベリー、プルーン、リンゴ、柿、柑橘類、アボカド、イチジク、林檎、梨、キウイ、パイナップル、マンゴー、スイカ、ナツメ、カボチャが挙げられる。一般的には野菜や穀物に該当する食品であっても、乾燥果実(乾燥果物、ドライフルーツ)として加工されているニンジン、サツマイモ等の食品は、本発明において果実に含めるものとする。
【0058】
本発明は、従来の凍結乾燥にマイクロ波照射を併用した乾燥法とは異なるものであることに注意が必要である。凍結乾燥法は、高真空中で凍結果実の水分を昇華させる方法である。マイクロ波照射を併用することで、水分の固体から気体への昇華を促進させている。つまり、従来の凍結乾燥にマイクロ波照射を併用した乾燥法では、液体の状態の水が存在しない。そのため、果実表面に見えるようにスクロース等の糖類の結晶が生成されない。一方、本発明の乾燥法は、凍結果実の氷をマイクロ波照射により液体に融かしてから、その液体を蒸発させている(又は液体の状態の結合水を蒸発させている)。本発明では、この液体が果実表面に滲み出してから蒸発することで、表面にスクロース等の糖類の結晶が生成されるという効果を有している。
【実施例】
【0059】
実施例として、本発明の乾燥果実の製造方法を適用して、乾燥イチゴの製造を行った。イチゴには、エイアイピイ株式会社の自社農園で栽培した、完熟状態で収穫したものを用いた。イチゴの品種は、紅ほっぺである。
【0060】
[予備冷却工程]
イチゴを6℃の保冷庫で予め冷却した。
【0061】
[冷凍工程]
予備冷却したイチゴからヘタを切除し、直ちにショックフリーザー(急速冷凍機)に入れて、イチゴの芯温度が−20℃になるまで急速冷凍した。
【0062】
[乾燥工程]
急速冷凍した3粒のイチゴ(合計70g)を、
図1に示したように、ガラス製の容器5に入れ、マイクロ波減圧乾燥装置1のマイクロ波照射装置2内に収容し、0.02MPa(水の沸騰温度60℃の減圧環境下)に減圧し、マイクロ波を照射した。マイクロ波照射装置2として、四国計測工業株式会社製、型名 μ Reactor EXを使用した。マイクロ波の周波数は、2450MHzであった。
【0063】
マイクロ波の強度200Wで15分間連続照射したところ、表面に液体(水分)が現れたので、マイクロ波の強度を100Wに低下させて25分間連続照射した。液体は沸騰せず、蒸発していく状態(湯気が発生)であった。この照射により、イチゴの表面の一部の乾燥硬化が開始する状態まで乾燥した。なお、このマイクロ波照射の条件は、イチゴの温度(内部温度)が35℃以上45℃以下となるように予め実験的に決めた条件である。続いて、マイクロ波の強度を50Wに低下させて10分間連続照射し、マイクロ波の照射を停止した。その後、温度が30℃以下に下がるまで減圧下で15分間クールダウンを行った。
【0064】
実施例で製造した乾燥イチゴの写真を
図2、
図3に示す。形状・色彩・風味・香りを良好に保った乾燥イチゴが製造できた。乾燥イチゴの表面にスクロース等の糖類の結晶が生成された。
図2、
図3に示した乾燥イチゴの表面に存在する透明な物質が糖類の結晶である。乾燥イチゴの成分データ等を表1に示す。
【0065】
比較例として、温風乾燥で製造した乾燥イチゴの成分データ等を表1に示す。
【0066】
【表1】
【符号の説明】
【0067】
1はマイクロ波減圧乾燥装置、2はマイクロ波照射装置、3はマイクロ波発生器、5は容器、6は管路、7は圧力計、8はトラップ、9は真空ポンプ、11は果実である。
【要約】
【課題】簡便に製造でき、さらに、外観を良好に保ちつつ、食感や味のより優れた乾燥果実を製造することができる乾燥果実の製造方法を提供する。
【解決手段】乾燥果実の製造方法は、果実11中の自由水が凍結し、結合水の少なくとも一部が凍結しない温度で果実11を冷凍する冷凍工程と、水の沸点が50℃以上70℃以下になる減圧環境下で、冷凍してある前記果実11に、水を沸騰させずに蒸発させる条件の電磁波を印加して水分を蒸発させる乾燥工程とを備えるものである。
【選択図】
図1