特許第6317961号(P6317961)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6317961
(24)【登録日】2018年4月6日
(45)【発行日】2018年4月25日
(54)【発明の名称】油入変圧器
(51)【国際特許分類】
   H01F 30/10 20060101AFI20180416BHJP
   H01F 30/12 20060101ALI20180416BHJP
   H01F 27/245 20060101ALI20180416BHJP
【FI】
   H01F30/10 A
   H01F30/10 E
   H01F30/10 C
   H01F30/12 A
   H01F30/12 E
   H01F30/12 C
   H01F27/24 S
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-49745(P2014-49745)
(22)【出願日】2014年3月13日
(65)【公開番号】特開2015-176881(P2015-176881A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2016年8月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110000062
【氏名又は名称】特許業務法人第一国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】御子柴 諒介
(72)【発明者】
【氏名】宮島 和宏
(72)【発明者】
【氏名】土肥 学
【審査官】 井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭53−128816(JP,U)
【文献】 特公昭35−000065(JP,B1)
【文献】 実公昭06−013422(JP,Y1)
【文献】 特開昭58−070511(JP,A)
【文献】 特開昭49−121124(JP,A)
【文献】 特開昭52−058818(JP,A)
【文献】 特開平10−340815(JP,A)
【文献】 特開昭54−142520(JP,A)
【文献】 特開2013−105783(JP,A)
【文献】 特公昭49−012042(JP,B1)
【文献】 特開2015−008238(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 30/10
H01F 30/12
H01F 27/245
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面が矩形の磁性体を用いて形成される複数の鉄心と、
前記鉄心の外側に絶縁物たるボビンを設け、該ボビンを隔て前記鉄心に導体を巻回して内側導体及び外側導体を形成するコイルを複数有し、該コイルを一列に並べて配置する変圧器において、
両端に配置される前記コイルの双方には少なくとも1つの同一の鉄心が挿通され、
隣接する前記コイルの双方には少なくとも1つの同一の鉄心が挿通され、
両端のコイル内を挿通する最も外側の鉄心の幅を、内側の鉄心の幅に対して狭く形成すると共に、前記最も外側の鉄心と前記内側の鉄心の断面積は同等に形成し、
両端のコイル内を挿通する鉄心に前記ボビンを取り付け、前記内側導体及び前記外側導体を巻き回すことで、両端のコイルの外形を端部外方に張り出すよう形成することを特徴とする油入変圧器。
【請求項2】
前記変圧器は、前記コイルを2つ具備する単相変圧器であることを特徴とする請求項1記載の油入変圧器。
【請求項3】
前記変圧器は、前記コイルを3つ具備する三相変圧器であることを特徴とする請求項1記載の油入変圧器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油入変圧器を提供する技術に関し、特に油入変圧器の鉄心とコイル形状に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、特開平10−340815号公報(特許文献1)がある。この公報には、アモルファス磁性薄帯を多層に巻回したアモルファス巻鉄心と複数のコイルを具備するアモルファス巻鉄心変圧器において、内側巻線及び外側巻線に対する座屈強度を確保して、アモルファス巻鉄心を圧迫せず、鉄損、励磁電流を悪化させない。と記載されている。また、特開2010−118384号公報(特許文献2)がある。この公報には、変圧器において内側巻線の座屈強度を確保し、鉄心を圧迫することを防止して、鉄損や励磁電流を悪化させない変圧器用のコイル巻枠、及びそれを用いた変圧器を提供する。と記載されている。
【0003】
また、特開昭54−142520号公報(特許文献3)や実開昭58−129624号公報(特許文献4)といった、ボビン(絶縁枠)の内外にスペーサ(くさび)を設け、短絡時の変形を防止する構成が開示されている。
【0004】
さらに、特開平10−97928号公報(特許文献5)では、鉄心と1次巻線の間、1次巻線と2次巻線の間にスペーサを設け、変圧器駆動時に巻線が振動し、摩擦を防止し騒音を防ぐ構成が開示されている。本発明は、1次巻線と2次巻線の間にスペーサを設けるものではなく、1次巻線と2次巻線の両方又は一方に複数段巻線を巻き回す際にスペーサ(ダクト)を巻き込んで、コイルの断面形状を略楕円形に近い形状とするものである。
【0005】
さらに、本技術分野の上記の公知技術を背景技術として特開2013−105783号公報(特許文献6)がある。この文献には、1次巻線と2次巻線の両方又は一方に複数段巻線を巻き回す際にスペーサ(ダクト)を巻き込んで、コイルの断面形状を略楕円形に近い形状とする構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−340815号公報
【特許文献2】特開2010−118384号公報
【特許文献3】特開昭54−142520号公報
【特許文献4】実開昭58−129624号公報
【特許文献5】特開平10−97928号公報
【特許文献6】特開2013−105783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献6の構成は、スペーサによりコイル形状を略楕円形としているものの、電磁鋼板等の磁性体で形成される鉄心形状に改良を加えたものではない。
【0008】
図5に従来の油入変圧器のコイル断面図を示し、図6図5コイルの短絡試験後のコイル断面図を示す。従来の油入変圧器のコイルを製作する際、電磁鋼板等の磁性体で形成される鉄心形状に合わせたボビン60を設け、前記ボビンに沿って電線を巻回して内側導体70と外側導体80からなるコイルを製作する。内側導体70は、矩形ボビン60角部に合わせ内側導体70を構成する電線を曲げることが困難であり、内側導体70が外側に膨らむため、ボビン60の面と内側導体70の間に隙間90が生じてしまう。
【0009】
特に、アモルファス鉄心30を用いた変圧器を製作する際には、アモルファス薄帯は非常に薄く成形が難しいため幅が同寸法のアモルファス薄帯を積層し巻鉄心形状とすることが一般的であった。そのためアモルファス鉄心30の断面形状は矩形状となり、それに合せ矩形状に近いボビン60を用いるため、巻線作業時に内側導体70と矩形状ボビン60間の直線部に隙間90が生じるものであった。
【0010】
従来技術では、上述の隙間90を低減するため、導体を巻回し終えた後のコイルにプレス工程を設け、導体が外側へ膨らむのを軽減するように成形をしているので、作業工数増加の原因となっている。または、電線を強く巻回すことで隙間90を低減させる方法があるが、この方法では電線が矩形状ボビン60の角部より受ける力が増加し、電線の絶縁被膜を破壊する可能性がある。
【0011】
それによりコイル寸法が設計値よりも大きくなり組立不可となる事例や、変圧器組立完成後の短絡試験において、短絡時に発生する電磁機械力によって内側導体70と外側導体80間に反発が生じ、内側導体70と矩形状ボビン60間の隙間90に電線が落ち込むことで内側導体70と外側導体80間に隙間91が発生し短絡インピーダンスが増大することになる。また、アモルファス鉄心を圧迫し、アモルファス鉄心に負荷がかかることで無負荷損失が悪化する。これにより規格値に入らず型式試験等で不合格となる場合がある。特に、短絡時の電磁機械力が大きくなる大容量機種において、これらの問題から製作が困難であった。
【0012】
このように、従来の方法では、変圧器組立完成後の短絡試験において、短絡時に発生する電磁機械力によって内側導体70と外側導体80間に反発が生じ、内側導体70と矩形状ボビン60の隙間90に電線が落ち込むことで内側導体70と外側導体80の間に隙間90が生じる。このとき生じた隙間90が原因となって短絡インピーダンスが増大し、短絡インピーダンス変化率が規格値に入らず不合格となる場合がある。特に、短絡時の電磁機械力が大きくなる大容量機種においては、内側導体70と外側導体80の反発を押えるために、コイル外側に強固な押え金具を設けることにより、短絡時の電磁機械力によるコイル変形量の低減を図っているため、更に作業工数や変圧器寸法を増加させている。尚、コイルの電磁機械力とは、短絡時に同方向の電流を流す電線は相引合い、反対方向の電流を流す電線は相反発するという法則に従い作用する力である。
【0013】
上記問題を解決する構成として、特許文献6では上記ボビンと内側導体間に予めスペーサを介在させる方法が開示されている。これによれば、生じる隙間を低減することが可能であるが、そのためのスペーサ等の部品点数が増え、作業工数やコストも増加する。そこで、本発明は、低コストでボビンと内側導体間における隙間を低減したコイルを有し、省スペース化を実現した変圧器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、特許文献6のようにスペーサを設けるのではなく、電磁鋼板等の磁性体で形成される鉄心のうち、両端に位置するコイルの内側を挿通する外側の電磁鋼板等の磁性体の幅を、隣接するコイルの内側を挿通する内側の電磁鋼板等の磁性体の幅に対して狭くすることで、これらの磁性体で形成される鉄心と、鉄心を覆うように設けられた絶縁物であるボビンの形状を鉄心に合わせて形成する。コイルはこのボビンの上に導体を巻回すことで、その形状を平面視略楕円形に形成することにより課題を解決するものである。
【0015】
即ち、本発明の油入変圧器は、断面が矩形の磁性体を用いて形成される複数の鉄心と、鉄心の外側に絶縁物たるボビン設け、該ボビンを隔て前記鉄心に導体を巻回して内側導体及び外側導体を形成するコイルを複数有し、該コイルを一列に並べて配置する変圧器において、両端に配置される前記コイルの双方には少なくとも1つの同一の鉄心が挿通され、隣接する前記コイルの双方には少なくとも1つの同一の鉄心が挿通され、両端のコイル内を挿通する最も外側の鉄心の幅を、内側の鉄心の幅に対して狭く形成すると共に、前記最も外側の鉄心と前記内側の鉄心の断面積は同等に形成し、該鉄心に前記ボビンを取り付け、ボビンを矩形状から楕円形に近い形状とし、前記内側導体及び前記外側導体を巻き回すことで、両端のコイルの外形を端部外方に張り出すよう形成することを特徴とする。
【0016】
さらに、本発明の油入変圧器は、前記コイルを2つ或いは3つ具備する単相或いは三相変圧器であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電磁鋼板等の磁性体で形成される鉄心のうち、隣接するコイルを挿通する内側の磁性体に対し、両端コイル内を挿通する外側の磁性体の幅を狭く形成し、磁性体で形成される鉄心に合わせた形状でボビンを設けていることにより、ボビンに電線を巻回した場合、両端のコイル内を貫通する外側の電磁鋼板等の磁性体のある内側導体の巻線時曲げ角度が緩やかになるため、電線を強く巻回すことが可能となる。強く電線を巻回すことによりボビンの面と内側導体の間の隙間を無くすことで、短絡時に発生する電磁機械力により内側導体と外側導体間に反発が生じても、内側導体とボビン間に電線が落ち込む隙間が無くなり、内側導体の変形による短絡インピーダンスの増加を低減することが出来る。さらに、電磁機械力の大きい大容量機種において、従来コイル外側を押えていた強固な金具を簡素化、又は不要とすることが可能となり、部品点数と作業工数の低減が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施例1における、変圧器の全体構成の概略を示す外観斜視図である。
図2】本発明の実施例1における、変圧器の両端のコイルを示す断面図である。
図3】本発明の実施例2における、変圧器のコイルの全体構成を示す断面図である。
図4】本発明の実施例2の更にその他の実施例における、変圧器の両端のコイル構成を示す断面図である。
図5】従来の変圧器コイル断面図である。
図6図5における変圧器の短絡後の状態を示すコイル断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明による変圧器の実施例を図面を用いて説明する。なお、本発明において「両端のコイル」とは、単相或いは三相変圧器において、外側に位置したコイルを言い、「隣接するコイル」とは、互いに隣り合ったコイル同士を意味する用語として使用する。従って、単層変圧器の場合のコイルは、互いに「隣接するコイル」であり、かつ「両端のコイル」である。三相変圧器の場合のコイルは、第1層コイル、第2層コイル、第3層コイルとして隣接して配列されるとすると、第1層コイルと第3層コイルが「両端のコイル」である。
【実施例1】
【0020】
図1は本実施例における油入変圧器である三相変圧器の全体構成を示している。変圧器10は、電磁鋼板等の磁性体で形成される鉄心を備えており、この鉄心は、図1におけるコイル1aとコイル1bのように、隣接するコイルの双方の内側に挿通される電磁鋼板等の磁性体より形成される第一の鉄心内側(以降、単に「第一の鉄心内側」と称呼する)2、同じく磁性体より形成される第二の鉄心内側(以降、単に「第二の鉄心内側」と称呼する)3と、両端に設置されるコイルの双方の内側に挿通される電磁鋼板等の磁性体より形成される第一の鉄心外側(以降、単に「第一の鉄心外側」と称呼する)4、同じく磁性体より形成される第二の鉄心外側(以降、単に「第二の鉄心外側」と称呼する)5とから構成される。
【0021】
図2に変圧器の両側コイル1a(両端コイルに於いて隣接するコイルと接する面を窓内側とし、反対の面を窓外側とする)の断面図を示す。従来の変圧器では、電磁鋼板等の磁性体で形成される鉄心のうち、第二の鉄心内側3と第二の鉄心外側5の断面積及び両磁性体の幅は同等とするのが一般的である。しかし本発明の実施例における油入変圧器1では磁性体で形成される鉄心のうち、第二の鉄心内側3と比較して第二の鉄心外側5は、断面積を同等としながらも幅を狭くしている。このように形成した4つの磁性体で形成される鉄心に合わせた形状で絶縁物であるボビン6を設け、ボビン6の面に沿って内側導体7及び外側導体8を巻回すことで、ボビン全体の形状を楕円形に近づけ、コイル1aを窓外側に張り出すよう形成し、変圧器10全体を平面視略楕円形に構成する。
【0022】
両端のコイルに用いるボビン6は、図1及び図2に示すがごとく変圧器の中身の長手方向端部に向かって幅狭となるように形成することで、4つの磁性体のずれを防止する。このような形状のボビン6とすることで、ボビン6上に導体を巻回しコイルを形成する際、ボビン6の角部における電線の曲げ角度が矩形状の場合より緩やかになり、従来の変圧器のコイルより強く巻回すことが可能となるため、内側導体7とボビン6間の隙間を低減することが出来る。また、第二の鉄心外側5が窓外側に張出す構造となるため、変圧器10の形状は平面視において略楕円形となる。
【0023】
また、大容量の機種では電磁機械力が大きくなるのを考慮し、従来技術ではコイル外側を金具で押えていたが、本発明では内側導体7とボビン6との間に隙間の無い構造であるため、短絡時電線がその隙間に落ち込むことは無い。よって、上記の強固な金具を簡素化、又は不要とすることが可能となり、従来油入変圧器と比べ、タンクの小型化が可能となる。
【実施例2】
【0024】
図3は本発明の別の実施形態である単相変圧器の全体構成の断面図を示している。コイル1a、1aは隣接すると共に両端であることから、実施例1の両端のコイルを隣接させて用いる構成となる。従って実施例1と同様に第二の鉄心内側3の断面積と第二の鉄心外側5の断面積を等しく、且つ第二の外側磁性体5の幅を狭くすることによって、ボビン6の形状を図3に示すように平面視六角形に形成することで、ボビン6の角部における内側導体7の曲げ角度が矩形状の場合より緩やかとすることができ、内側導体7とボビン6間の隙間を低減することが出来る。
【0025】
尚、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。上記実施例は本発明を分かりやすく詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。例えば両端コイル内を貫通する全ての電磁鋼板等の磁性体の幅を狭くする構造や、両端コイル内を貫通する電磁鋼板等の磁性体の幅の種類を3種以上とし階段状にする構造など両端コイル外側断面が略楕円形となる構成にすることが可能であれば、電磁鋼板等の磁性体で形成される鉄心形状は問わない。例えば、図4に示すコイル1cのように、第二の鉄心外側5を第二の鉄心内側3の幅よりも狭くしてボビン全体の形状を楕円形に近づければよく、必ずしも断面積を同程度とするよう構成したものでなくてもよい。
【符号の説明】
【0026】
10 変圧器
1a コイル(両端側コイル)
1b コイル(中央コイル)
2 第一の鉄心内側
3 第二の鉄心内側
4 第一の鉄心外側
5 第二の鉄心外側
6 ボビン
7 内側導体
8 外側導体
90 隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6