特許第6318612号(P6318612)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6318612
(24)【登録日】2018年4月13日
(45)【発行日】2018年5月9日
(54)【発明の名称】鋳ぐるみ方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 19/00 20060101AFI20180423BHJP
【FI】
   B22D19/00 G
   B22D19/00 H
【請求項の数】2
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-271005(P2013-271005)
(22)【出願日】2013年12月27日
(65)【公開番号】特開2015-42416(P2015-42416A)
(43)【公開日】2015年3月5日
【審査請求日】2016年11月10日
(31)【優先権主張番号】特願2013-154764(P2013-154764)
(32)【優先日】2013年7月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】特許業務法人プロスペック特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100155767
【弁理士】
【氏名又は名称】金井 憲志
(72)【発明者】
【氏名】皆木 肇
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 辰徳
【審査官】 藤長 千香子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−080385(JP,A)
【文献】 特開2010−164169(JP,A)
【文献】 特開2003−080458(JP,A)
【文献】 特開昭59−191561(JP,A)
【文献】 特開昭52−097015(JP,A)
【文献】 特開昭54−038231(JP,A)
【文献】 特開2003−181619(JP,A)
【文献】 特開平10−176282(JP,A)
【文献】 特開昭57−086580(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 19/00−19/16
B24C 1/00−11/00
C23C 2/00−2/40
C23C 18/00−20/08
C25D 1/00−3/66
C25D 5/00−7/12
C25D 9/00−9/12
C25D 13/00−21/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被鋳ぐるみ材を鋳造用金属により鋳ぐるむ鋳ぐるみ方法であって、
液体と固体粒子との混合液を被鋳ぐるみ材の表面に吹き付けることにより被鋳ぐるみ材の表面をウェットブラスト処理する第1工程と、
前記第1工程にてウェットブラスト処理された前記被鋳ぐるみ材の表面に錫メッキ皮膜を形成するメッキ工程と、
前記ウェットブラスト処理された被鋳ぐるみ材の前記表面に形成された前記錫メッキ皮膜に前記鋳造用金属の溶湯を接触させて、被鋳ぐるみ材を鋳ぐるむ第2工程と、
を含み、
前記第2工程にて、前記鋳造用金属の溶湯の熱によって前記錫メッキ皮膜が溶融するとともに、溶融した前記錫メッキ皮膜の熱によって、前記第1工程にて前記被鋳ぐるみ材の表面に形成されている凹凸部分が溶融し、前記凹凸部分を構成していた溶融成分が前記鋳造用金属の溶湯と混ざり合う、鋳ぐるみ方法。
【請求項2】
請求項1に記載の鋳ぐるみ方法において、
前記第1工程にて、被鋳ぐるみ材の表面の算術平均粗さが4.0μm以上となるように、被鋳ぐるみ材がウェットブラスト処理される、鋳ぐるみ方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳ぐるみ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
被鋳ぐるみ材を鋳造用金属により鋳ぐるむ場合、被鋳ぐるみ材と鋳ぐるみ材(鋳造用金属)との接触界面での強い接合力が要求される。この接合力を向上させるための様々な手法が提案されている。
【0003】
特許文献1は、被鋳鋳ぐるみ材に対して通常より多めの鋳造用金属溶湯、例えば被鋳ぐるみ材の47〜70重量倍の金属溶湯、或いは鋳ぐるみ材(鋳造材)の重量に対する押し湯重量が2〜7倍の金属溶湯、を金型内に注湯して金型内の被鋳ぐるみ材を鋳ぐるむ方法を開示する。これによれば、大量の金属溶湯を連続的に注湯することにより、被鋳ぐるみ材の表面に形成されている酸化膜が除去される。被鋳ぐるみ材表面の酸化膜は、被鋳ぐるみ材表面に鋳造用金属溶湯が接触した場合に接触界面に介在するため鋳造用金属から被鋳ぐるみ材への伝熱を阻害する。こうした伝熱の阻害要因が大量の金属溶湯により除去されることにより、鋳造用金属から被鋳ぐるみ材への伝熱量が向上する。このため鋳造時に鋳造用金属溶湯の熱で被鋳ぐるみ材の表面が十分に溶融し、被鋳ぐるみ材の溶融成分と鋳造用金属の溶湯とが接触界面で十分に混合する。よって、鋳造用金属と被鋳ぐるみ材との接触界面の接合強度を向上させることができる。
【0004】
特許文献2は、表面が鏡面加工された被鋳ぐるみ材を鋳ぐるむ方法を開示する。被鋳ぐるみ材表面を鏡面加工することにより、被鋳ぐるみ材表面に形成されていた酸化膜が除去される。その状態で被鋳ぐるみ材に鋳造用金属の溶湯を接触させて被鋳ぐるみ材を鋳ぐるむことにより、接触界面の強度を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−300137号公報
【特許文献2】特開2009−248132号公報
【発明の概要】
【0006】
(発明が解決しようとする課題)
特許文献1に記載の鋳ぐるみ方法によれば、被鋳ぐるみ材の47〜70重量倍あるいは鋳造材重量に対する押し湯重量が2〜7倍の金属溶湯を注湯するので、一つの製品を鋳造するために大量の金属溶湯が必要であるとともに、鋳造型のサイズも大型化する。このため材料コストおよび設備コストの高騰を招く。また、特許文献2に記載の鋳ぐるみ方法によれば、被鋳ぐるみ材の表面が鏡面加工できるような形状に限定されるため、さまざまな形状の被鋳ぐるみ材に対してこの工法を適用することができず、汎用性に乏しい。また、複雑な形状の被鋳ぐるみ材に鏡面加工を施した場合、被鋳ぐるみ材の製造コストが高騰する。
【0007】
本発明は、コストアップすることなく被鋳ぐるみ材と鋳造用金属との接合強度を向上させることができる鋳ぐるみ方法を提供することを目的とする。
【0008】
(課題を解決するための手段)
本発明は、被鋳ぐるみ材を鋳造用金属により鋳ぐるむ鋳ぐるみ方法であって、液体と固体粒子との混合液を被鋳ぐるみ材の表面に吹き付けることにより被鋳ぐるみ材の表面をウェットブラスト処理する第1工程と、ウェットブラスト処理された被鋳ぐるみ材の表面に鋳造用金属の溶湯を接触させて被鋳ぐるみ材を鋳ぐるむ第2工程と、を含む、鋳ぐるみ方法を提供する。
【0009】
本発明によれば、第2工程にて被鋳ぐるみ材が鋳造用金属で鋳ぐるまれる前に、第1工程にて被鋳ぐるみ材がウェットブラスト処理に供される。ウェットブラスト処理では液体(例えば水)と固体粒子(例えば研磨材)との混合液が被鋳ぐるみ材の表面に吹き付けられる。ウェットブラスト処理にて固体粒子が被鋳ぐるみ材の表面に吹き付けられることにより被鋳ぐるみ材の表面が粗化されて、微小な凹凸が表面に形成される。また、ウェットブラスト処理にて液体が被鋳ぐるみ材の表面に吹き付けられることにより、被鋳ぐるみ材の表面の酸化膜等の膜類やその他の不純物等が除去される。
【0010】
こうしてウェットブラスト処理された被鋳ぐるみ材の表面に、第2工程にて鋳造用金属の溶湯が接触されて、被鋳ぐるみ材が鋳造用金属で鋳ぐるまれる。この場合において、被鋳ぐるみ材の表面には第1工程のウェットブラスト処理により凹凸が形成されているため、凹凸が形成されていない場合と比較して、第2工程で被鋳ぐるみ材の表面に鋳造用金属の溶湯が接触する面積(接触面積)が大きい。このため、第2工程で鋳造用金属の溶湯が被鋳ぐるみ材の表面に接触した際における鋳造用金属から被鋳ぐるみ材への伝熱量が増大する。また、鋳造用金属溶湯の接触時に伝熱の阻害要因となり得る酸化膜等の膜類やその他の不純物が第1工程のウェットブラスト処理により被鋳ぐるみ材の表面から除去されている。伝熱の阻害要因が除去されているため、第2工程で鋳造用金属の溶湯が被鋳ぐるみ材の表面に接触した際における鋳造用金属から被鋳ぐるみ材への伝熱量が増大する。
【0011】
このように、本発明によれば、第2工程で鋳造用金属が被鋳ぐるみ材表面に接触した際における鋳造用金属から被鋳ぐるみ材への伝熱が促進され且つ伝熱が阻害されないように、第1工程にてウェットブラスト処理により被鋳ぐるみ材が表面改質される。そのため、第1工程の実施後に被鋳ぐるみ材の表面に鋳造用金属の溶湯が接触した場合には、鋳造用金属の熱で被鋳ぐるみ材の表面が十分に加熱され、被鋳ぐるみ材の表面を溶融状態とすることができる。よって、接触界面で被鋳ぐるみ材と鋳造用金属とを十分に混合させることができ、その結果、接合強度の高い接合面を得ることができる。つまり、接触界面の接合強度を高めることができる。また、さほどコストのかからないウェットブラスト処理を実施するのみで接合強度の高い接合面を得ることができるため、コストアップすることなく接合強度が向上された被鋳ぐるみ材の鋳ぐるみ方法を提供することができる。
【0012】
第1工程では、被鋳ぐるみ材の表面の算術平均粗さが4.0μm以上となるように、被鋳ぐるみ材をウェットブラスト処理するのがよい。算術平均粗さRaが4.0μm以上の凹凸が被鋳ぐるみ部材の表面に形成されるように第1工程で被鋳ぐるみ材の表面をウェットブラスト処理した場合、第2工程で鋳造用金属が被鋳ぐるみ材の表面に接触した際における鋳造用金属から被鋳ぐるみ材への受熱効率が、ウェットブラスト処理していない場合と比較して1.1倍以上になる。よって、第2工程で鋳造用金属の溶湯が被鋳ぐるみ材の表面に接触した際に鋳造用金属から被鋳ぐるみ材に十分に熱を伝えることができ、それ故、被鋳ぐるみ材と鋳造用金属との接触界面における接合強度をより向上させることができる。
【0013】
また、第1工程のウェットブラスト処理で用いられる固体粒子の大きさが60メッシュ以上であるのがよい。ここで、「メッシュ」とは、JIS規格(JIS Z8801)に規定される標準篩表に記載のメッシュ寸法であり、60メッシュは公称目開き250μmに該当する大きさを表す。これによれば、大きさ(粒径)が60メッシュで表わされる径以上の径の固体粒子をウェットブラスト処理に用いることにより、第2工程で鋳造用金属の溶湯が被鋳ぐるみ材の表面に接触した際における鋳造用金属から被鋳ぐるみ材への受熱効率を高めることができる。よって、第2工程で鋳造用金属から被鋳ぐるみ材に十分に熱を伝えることができ、それ故、被鋳ぐるみ材と鋳造用金属との接触界面における接合強度をより向上させることができる。
【0014】
また、本発明の鋳ぐるみ方法は、第1工程と第2工程との間に実施される工程であり、第1工程にてウェットブラスト処理された被鋳ぐるみ材の表面に錫メッキ皮膜を形成するメッキ工程をさらに含む。そして、第2工程にて、被鋳ぐるみ材の表面に形成された錫メッキ皮膜に鋳造用金属の溶湯を接触させる。この場合、第2工程にて、鋳造用金属の溶湯の熱によって錫メッキ皮膜が溶融するとともに、溶融した錫メッキ皮膜の熱によって被鋳ぐるみ材の表面に形成されている凹凸部分が溶融し、凹凸部分を構成していた溶融成分が鋳造用金属の溶湯と混ざり合う。
【0015】
これによれば、メッキ工程にて、ウェットブラスト処理された被鋳ぐるみ材の表面に錫メッキ皮膜が密着形成される。そして、その後の第2工程によって鋳造用金属溶湯が錫メッキ皮膜に接触される。錫メッキの融点は約230℃と非常に低いため、鋳造用金属溶湯が錫メッキ皮膜に接触した場合に錫メッキ皮膜は容易に溶融する。溶融した錫メッキ皮膜と鋳造用金属溶湯(特にアルミニウム金属溶湯)の濡れ性は非常に良いので、錫メッキ皮膜に接触された鋳造用金属溶湯は錫メッキ皮膜上に濡れ拡がる。このため、鋳造用金属溶湯の熱が錫メッキ皮膜の全体に伝達され、錫メッキ皮膜が一様に溶融する。また、錫メッキ皮膜はウェットブラスト処理された被鋳ぐるみ材の表面に一様に密着しているため、錫メッキ皮膜の溶融成分の熱は被鋳ぐるみ材の表面に均一に(むらなく)伝達される。このため被鋳ぐるみ材の表面全体が溶融する。つまり、被鋳ぐるみ材と鋳造用金属との接触界面(接合界面)において、被鋳ぐるみ材の表面に未溶融部分がほとんど存在しない。よって、未溶融部分の存在による接合強度の低下を回避することができ、より一層接合強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】評価サンプル1〜3、比較サンプル1、及び比較サンプル2の表面の光学顕微鏡写真である。
図2】受熱効率を測定するために用いた砂型を示す図である。
図3】第2熱電対H2で計測したワークWの温度の経時変化を表すグラフの一例である。
図4】各ワークW1〜W5を用いた場合について計算されたそれぞれの受熱効率比S1〜S5と、ワークの内周面の算術平均粗さRaとの関係を表わすグラフである。
図5】第1ワークW1の内周面と鋳造用金属との接触界面付近を切断した断面のSEM画像である。
図6】第1ワークW1の内周面と鋳造用金属との接触界面付近を切断した断面に現れる元素の分析結果を示す画像である。
図7】メッキ工程の一例を示すフローチャートである。
図8】メッキ工程にて、錫メッキ皮膜が被鋳ぐるみ材のウェットブラスト面に形成されている凹凸部分に密着した状態を示す図である。
図9】作製した各サンプルのウェットブラスト面に鋳造用金属の溶湯を接触させる際に用いる実験装置の概略図である。
図10】成形体の接合状態を観察する部位を示す図である。
図11】鋳ぐるみ時における各サンプルのの表面温度と、そのサンプルを用いて成形した成形体の界面接合率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1実施形態]
第1実施形態に係る鋳ぐるみ方法は、第1工程と第2工程とを含む。第1工程では、被鋳ぐるみ材の表面がウェットブラスト処理される。第2工程では、ウェットブラスト処理された被鋳ぐるみ材の表面に鋳造用金属の溶湯が接触される。本実施形態に係る鋳ぐるみ方法は、第1工程と第2工程を実施することにより得られる後述の作用効果を喪失しない限りにおいて、他の工程を含んでも良い。また、被鋳ぐるみ材は、鋳造部材でもよいし、切削加工やその他の方法により成形された金属部材でもよい。好ましくは、被鋳ぐるみ材は、その表面に鋳造用金属の溶湯が接触されたときに、鋳造用金属溶湯の熱によって表面が溶融する程度の融点を有する金属部材である。
【0018】
第1工程で実施されるウェットブラスト処理は、液体と固体粒子との混合液を対象物に吹き付けることにより、対象物の表面洗浄、表面粗化、などの表面改質を行う処理である。したがって、本実施形態では、第1工程にて被鋳ぐるみ材が表面改質される。ウェットブラスト処理に用いられる液体は典型的には水である。ウェットブラスト処理に用いられる固体粒子(投射材)は典型的にはアルミナなどの研磨材である。
【0019】
ウェットブラスト処理では、圧縮エアーの力を利用して、液体と固体粒子の混合液を高速で投射ガンから噴射して被鋳ぐるみ材表面に吹き付ける。圧縮エアーの圧力が高ければ高いほど、被鋳ぐるみ材表面に吹き付けられる混合液の勢いが高まる。このウェットブラスト処理にて混合液中の固体粒子が被鋳ぐるみ材表面に吹き付けられることにより、被鋳ぐるみ材表面が粗化されて、表面に微小の凹凸が形成される。吹き付ける固体粒子が大きいほど、被鋳ぐるみ材表面の凹凸の大きさが大きい。このような凹凸を被鋳ぐるみ材表面に形成することにより、被鋳ぐるみ材の表面積が増大する。
【0020】
また、ウェットブラスト処理にて被鋳ぐるみ材表面に液体(水)が吹き付けられることにより、被鋳ぐるみ材表面に付着していた酸化膜や汚れ等の膜(例えば油膜)、あるいは吸着分子により構成される膜等(以下、膜類)が除去される。また、被鋳ぐるみ材が鋳造により成形されている場合、鋳造に用いられる離型剤の残渣(シリコンや炭素など)が不純物として被鋳ぐるみ材の表面に付着する。このような不純物もウェットブラスト処理にて被鋳ぐるみ材表面に液体(水)が吹き付けられることによって除去される。
【0021】
第2工程では、第1工程でウェットブラスト処理された被鋳ぐるみ材表面に鋳造用金属の溶湯を接触させる。これにより被鋳ぐるみ材が鋳造用金属で鋳ぐるまれる。この第2工程は、例えば、第1工程でウェットブラスト処理された被鋳ぐるみ材を金型キャビティの所定位置にセットし、その後、キャビティ内に鋳造用金属の溶湯を注湯することにより、実施される。なお、ダイカスト鋳造によって被鋳ぐるみ材を鋳ぐるんでもよい。鋳造用金属として、典型的にはアルミニウム、亜鉛、マグネシウムやこれらの合金(例えば炭化ケイ素(SiC)含有のアルミニウム合金)を主成分とするものが用いられるが、この限りでない。
【0022】
第2工程で被鋳ぐるみ材の表面に鋳造用金属の溶湯が接触した場合、鋳造用金属の熱が被鋳ぐるみ材の表面に伝達される。十分な熱が被鋳ぐるみ材に伝わった場合、被鋳ぐるみ材の表面温度が融点付近まで上昇し、被鋳ぐるみ材の表面が溶融状態になる。この溶融状態とされた被鋳ぐるみ材の表面と鋳造用金属の溶湯とが混合することにより、冷却凝固後における接触界面が良好な密着状態となり、接合強度の高い接合面を得ることができる。逆に、十分な熱が被鋳ぐるみ材に伝わらない場合、被鋳ぐるみ材の表面温度が十分に上がらないため、表面が未溶融あるいは部分溶融状態となる。このような場合、接触界面で鋳造用金属と被鋳ぐるみ材が十分に混合しないため、冷却凝固後における接合強度が低下する。したがって、接合強度を向上させるためには、被鋳ぐるみ材の表面に鋳造用金属の溶湯が接触したときに、被鋳ぐるみ材が溶損しない程度に多くの熱が鋳造用金属から被鋳ぐるみ材の表面に伝わるのがよい。
【0023】
この点につき、本実施形態では、第1工程のウェットブラスト処理で被鋳ぐるみ材の表面に凹凸を形成することによって、被鋳ぐるみ材の表面積を増大させている。したがって、第2工程で被鋳ぐるみ材の表面に鋳造用金属が接触する面積(接触面積)が増大する。接触面積の増大により、鋳造用金属から被鋳ぐるみ材への伝熱量が増大する。つまり、受熱効率が向上する。
【0024】
また、第2工程の実施時に、被鋳ぐるみ材の表面に膜類や不純物が堆積していると、これらが被鋳ぐるみ材と鋳造用属溶湯との間に介在することにより鋳造用金属から被鋳ぐるみ材への伝熱を阻害する。伝熱が阻害されると被鋳ぐるみ材に十分に熱が伝わらない。これに対し、本実施形態では、第1工程のウェットブラスト処理で被鋳ぐるみ材の表面から膜類や不純物を除去している。したがって、第2工程で被鋳ぐるみ材表面に鋳造用金属の溶湯を接触させた際に、伝熱を阻害する要因が除去されていることによって鋳造用金属から被鋳ぐるみ材に十分に熱が伝達される。つまり、受熱効率が向上する。なお、第1工程で被鋳ぐるみ材をショットブラスト処理した場合、被鋳ぐるみ材表面に凹凸は形成されるものの、被鋳ぐるみ材表面の膜類や不純物は除去されない。よって、第2工程時にこれらの膜類や不純物が被鋳ぐるみ材と鋳造用金属との接触界面に介在し、これらの介在物が伝熱を阻害する。つまり、本実施形態に係る鋳ぐるみ方法によれば、被鋳ぐるみ材表面をショットブラスト処理する場合よりも、受熱効率が良好である。
【0025】
このように、本実施形態に係る鋳ぐるみ方法によれば、鋳造用金属溶湯が被鋳ぐるみ材表面に接触した際における鋳造用金属から被鋳ぐるみ材への伝熱が良好である(受熱効率が向上する)ので、接触界面での接合強度を向上させることができる。また、ウェットブラスト処理といった比較的安価に実施できる前処理工程を設けるだけであるので、コストアップすることなく、被鋳ぐるみ材と鋳造用金属との接触界面を良好な密着状態にすることができ、接合強度の高い接合面を得ることができる。また、被鋳ぐるみ材を鋳ぐるむ際に金型や被鋳ぐるみ材の予熱温度を下げることができ、さらに鋳造用金属の溶湯温度を低下させることもでき、押し湯の量も低減できる。このように、被鋳ぐるみ材を鋳ぐるむ際における省エネルギーに貢献できるとともに製造コストも低減できる。
【0026】
(ウェットブラスト処理による効果の確認)
第1工程にて実施するウェットブラスト処理による被鋳ぐるみ材表面への凹凸の形成及び表面からの膜類や不純物等の除去を確認するために、以下のような試験を行った。
【0027】
まず、鋳造により5個のアルミニウム製(材質:AC4C材)の平板状テストピース(縦50mm×横50mm×厚さ5mm)を作製した。次いで、作製した5個の平板状テストピースのうちの3個のテストピースの表面を異なる大きさの研磨材を用いてウェットブラスト処理することにより、評価サンプルを作製した。ウェットブラスト処理に用いた液体は水、研磨材(固体粒子)はアルミナ粒子であり、投射圧(圧縮エア圧)は0.15〜0.25MPaである。また、用いた研磨材の大きさは、60メッシュ、120メッシュ、800メッシュである。60メッシュで表わされる大きさのアルミナ粒子を用いてウェットブラスト処理して作製した評価サンプルを評価サンプル1、120メッシュで表わされる大きさのアルミナ粒子を用いてウェットブラスト処理して作製した評価サンプルを評価サンプル2、800メッシュで表わされる大きさのアルミナ粒子を用いてウェットブラスト処理して作製した評価サンプルを評価サンプル3とした。また、1つの平板状テストピースをスチールワイヤでショットブラスト(乾式ブラスト)処理して比較サンプル1を作製した。残りの一つのテストピースには、ウェットブラスト処理もショットブラスト処理もしていない。つまり、表面改質されていない。表面改質されていない未処理のテストピースを比較サンプル2とした。
【0028】
評価サンプル1〜3、比較サンプル1、2の表面を、光学顕微鏡で観察した。図1は、これらのサンプルの表面の光学顕微鏡写真である。図1からわかるように、評価サンプル1〜3の表面には微小な凹凸が形成されている。また、評価サンプル1の表面の凹凸は評価サンプル2の表面の凹凸よりも大きく、評価サンプル2の表面の凹凸は評価サンプル3の表面の凹凸よりも大きい。このことから、ウェットブラスト処理にて用いる研磨材が大きいほど表面の凹凸も大きいことがわかる。なお、ショットブラスト処理された比較サンプル1の表面にも凹凸が形成される。
【0029】
また、各サンプルの表面の粗さをレーザー顕微鏡により測定した。測定結果を表1に示す。
【表1】
表1において、Raが算術平均粗さ(μm)であり、Rmaxが最大高さ(μm)であり、Rzが十点平均粗さ(μm)である。
【0030】
表1からわかるように、評価サンプル1、評価サンプル2の表面の算術平均粗さRaは、比較サンプル2の表面の算術平均粗さRaよりも大きい。このことから、ウェットブラスト処理(第1工程)にて用いる研磨材の大きさを120メッシュで表わされる大きさ以上にすることにより、サンプル表面を粗くできることがわかる。一方、評価サンプル3の表面の算術平均粗さRaは比較サンプル2の表面の算術平均粗さRaよりも小さい。したがって、ウェットブラスト処理(第1工程)にて用いる研磨材の粒子径が800メッシュで表わされる大きさ以下であると、形成される凹凸が小さすぎて、サンプル表面を粗くすることができないことがわかる。
【0031】
また、各サンプルの表面に存在する元素の濃度をEDXにより測定した。測定結果を表2に示す。
【表2】
【0032】
表2に示す元素のうち、Si,C,Na,Mg,Caが、鋳造成形されたテストピースの表面に予め付着した膜類や不純物(酸化膜、油膜、離型剤残渣等)を構成する元素(以下、不純物元素)である。表2からわかるように、評価サンプル1〜3の表面から検出される不純物元素の濃度は比較サンプル2の表面から検出される不純物元素の濃度よりも少ない。このことから、ウェットブラスト処理によって、サンプル表面の膜類や不純物が洗い流されて除去されたことがわかる。一方、比較サンプル1の表面から検出される不純物元素濃度は比較サンプル2の表面から検出される不純物元素濃度とさほど変わらない。このことから、ショットブラストによっては、サンプル表面の膜類や不純物を十分に除去できないことがわかる。また、ショットブラスト処理においてはスチールワイヤをテストピースにぶつけるため、ショットブラスト処理後のサンプル(比較サンプル1)の表面から鉄成分が検出されている。
【0033】
このように、本実施形態に係る鋳ぐるみ方法の第1工程(ウェットブラスト処理)では、被鋳ぐるみ材(平板状のテストピース)の表面に微小な凹凸が形成されるとともに、表面の膜類や不純物がほとんど除去されることがわかる。
【0034】
(被鋳ぐるみ材への受熱効率向上効果の確認)
次に、本実施形態に係る鋳ぐるみ方法により、鋳造用金属の溶湯と被鋳ぐるみ材との接触時に鋳造用金属から被鋳ぐるみ材への受熱効率が向上することを確認するために、図2に示す砂型1を用いて鋳造用金属の溶湯を被鋳ぐるみ材に接触させた。そして、その際における受熱効率を測定した。
【0035】
図2に示すように、この砂型1には、上方に開口した円柱状の凹部1aが形成され、また内部に湯道1bが形成される。湯道1bの一端は砂型1の上面に開口し、他端は円柱状の凹部1aの底面に開口する。そして、被鋳ぐるみ材としての有底円筒状のワークWが、凹部1aに嵌り込んで上面に開口するように砂型1にセットされる。
【0036】
ワークWはアルミニウム合金(AC4C)製であり、鋳造により成形される。ワークWの外径は140mm、高さは100mm、側壁および底壁の厚さは20mmである。また、ワークWの底面の中心部分には、直径23mmの孔Hが設けられている。ワークWが凹部1a内に嵌り込むように砂型1にセットされたときに、孔Hを介してワークWの内周空間が湯道1bに連通する。
【0037】
第1熱電対H1が、砂型1にセットされたワークWの底壁付近に設置され、第2熱電対H2がワークWの側壁内に埋め込まれる。第1熱電対H1および第2熱電対H2は、温度データロガー2に電気的に接続される。温度データロガー2は、第1熱電対H1および第2熱電対H2で測定された温度を表示および記憶する。
【0038】
上記構成の砂型1の凹部1aにワークWがセットされ、約140℃に加熱される。その後、約750℃に加熱した鋳造用金属であるアルミニウム合金(SiC20vol%含有)の溶湯が湯道1bの一方端側から湯道1bに供給される。湯道1bに供給されたアルミニウム合金溶湯は孔HからワークW内に進入し、ワークWの内部に溜まる。これによりアルミニウム合金溶湯がワークWの内周面に接触する。なお、ワークWの内部に供給されるアルミニウム合金溶湯の温度が第1熱電対H1により測定される。また、ワークWの温度の経時変化が第2熱電対H2により測定される。
【0039】
ここで、砂型1にセットするワークとして、同一形状のワークを5個用意した。用意した5個のワークのうちの3個のワークの内周面に異なる大きさの研磨材(アルミナ粒子)と水とを用いてウェットブラスト処理を施し、1個のワークの内周面にスチールワイヤを用いてショットブラスト処理を施した。ウェットブラスト処理に用いた研磨材の大きさは、60メッシュ、120メッシュ、800メッシュの3種類である。以下、60メッシュで表わされる大きさの研磨材を用いてウェットブラスト処理したワークを第1ワークW1と呼び、120メッシュで表わされる大きさの研磨材を用いてウェットブラスト処理したワークを第2ワークW2と呼び、800メッシュで表わされる大きさの研磨材を用いてウェットブラスト処理したワークを第3ワークW3と呼ぶ。また、ショットブラスト処理したワークを第4ワークW4と呼ぶ。残りの1個のワークにはウェットブラスト処理もショットブラスト処理もしていない。ウェットブラスト処理もショットブラスト処理もしていない(表面改質されていない)未処理ワークを第5ワークW5と呼ぶ。以下、ワークW1〜W5を総称する場合および区別しない場合、ワークWと言うこともある。作製した各ワークW1〜W5の内周面の算術平均粗さRaは、表3に示す通りであった。
【表3】
【0040】
こうして用意された5個のワークW1〜W5のそれぞれを砂型1にセットし、アルミニウム合金溶湯を砂型1にセットされたワークWの内部に供給した。そして、供給されたアルミニウム合金溶湯の重量および温度、ワークWの温度変化(第2熱電対H2で検出される温度の変化)を計測した。
【0041】
図3は、第2熱電対H2で計測したワークWの温度の経時変化を表すグラフの一例である。図3のグラフの横軸は、砂型1にアルミニウム合金溶湯の供給を開始してからの経過時間(分)を表し、縦軸が温度(℃)を表す。図3からわかるように、ワークWの初期温度がT2により表わされ、ワークWの最高到達温度がT3により表わされる。ここで、ワークWの内周空間に供給されるアルミニウム合金溶湯の温度をT1とすると、アルミニウム合金溶湯(鋳造用金属)の熱がワークW(被鋳ぐるみ材)に伝達される効率を表す受熱効率は、下記の式(1)により表わされる。
【数1】
【0042】
上記式(1)において、C1はワークWの内周空間に供給されたアルミニウム合金溶湯の比熱(J/kg℃)、W1はワークWの内周空間内に供給されたアルミニウム合金溶湯の重量(kg)、C2はワークWの比熱(J/kg℃)、W2はワークWの重量(kg)である。
【0043】
ワークW1〜W5を用いたそれぞれの場合について、ワークWの内周空間内に供給されるアルミニウム合金溶湯の温度T1および重量W1、ワークWの初期温度T2および最高到達温度T3を求め、求めた値を式(1)に代入することにより、各ワークW1〜W5を用いたそれぞれの場合についての受熱効率を計算した。そして、計算した各受熱効率をワークW5を用いた場合について計算した受熱効率で除すことにより得られる受熱効率比(つまり、ワークW5を用いた場合についての受熱効率を1.0とした場合における各受熱効率の倍率)Sを、ワークW1〜W5を用いたそれぞれの場合について計算した。この場合、ワークW5を用いた場合について計算される受熱効率比S5は1.0である。
【0044】
各ワークW1〜W5を用いたそれぞれの場合における受熱効率の算出に使用した各パラメータの値、受熱効率、受熱効率比Sを、表4にまとめて示す。
【表4】
【0045】
図4は、各ワークW1〜W5を用いた場合について計算されたそれぞれの受熱効率比Sと、ワークWの内周面の算術平均粗さRaとの関係を表わすグラフである。図4の横軸が各ワークW1〜W5の内周面の算術平均粗さRa(μm)であり、縦軸が受熱効率比S(−)である。
【0046】
図4に示すように、ワークWの内周面の算術平均粗さRaが大きいほど受熱効率比Sが高い傾向にある。これは、表面が粗くなる(算術平均粗さが大きくなる)ほど、アルミニウム合金溶湯の接触面積が増大し、それに伴い受熱量も増大することに起因すると考えられる。特に、ウェットブラスト処理を施したワークW1、W2,W3についてそれぞれ計算された受熱効率比S1,S2,S3から得られる受熱効率比Sと算術平均粗さRaとの相関関係を表す特性線(図4の特性線P)から、表面の算術平均粗さRaが4μm以上となるように被鋳ぐるみ材の表面をウェットブラスト処理することにより、受熱効率比Sが1.1以上となる。つまり、受熱効率が、ウェットブラスト処理していない(前処理していない)場合の1.1倍以上になり、受熱効率が十分に向上することがわかる。
【0047】
また、ウェットブラスト処理したワークW1,W2,W3についてそれぞれ計算された受熱効率比S1,S2,S3は、前処理されていないワークW5について計算された受熱効率比S5(=1.0)よりも大きい。これは、ウェットブラスト処理により伝熱を阻害する要因(膜類や不純物)がワークWの内周面から除去されたためと考えられる。特に、第1ワークW1についての受熱効率比S1が極めて高く、ショットブラスト処理した第4ワークW4について計算された受熱効率比S4と比較しても、受熱効率が約7%向上していることがわかる。つまり、60メッシュで表わされる大きさ以上の大きさの研磨材を用いて被鋳ぐるみ材の表面にウェットブラスト処理を施すことにより、鋳造用金属から被鋳ぐるみ材への受熱効率を十分に向上させることができる。
【0048】
(接触界面の接合状態の確認)
また、図2に示す砂型1を用いて第1ワークW1をアルミニウム合金(SiC20vol%含有)で鋳ぐるんだサンプルを切断し、第1ワークW1(被鋳ぐるみ部材)と鋳造用金属(SiC20vol%含有アルミニウム合金)との接触界面を電子顕微鏡(SEM)で観察するとともに、EDXにより接触界面付近の元素を調べた。図5は、第1ワークW1と鋳造用金属との接触界面付近を切断した断面のSEM画像であり、図6は、接触界面付近を切断した断面のEDXによる元素分析結果を示す画像である。
【0049】
図5に示す画像中の比較的黒い部分がSiCを表す。SiCが多数存在する部分がアルミニウム合金(鋳造用金属)を表し、SiCがほとんど存在しない部分が第1ワークW1(被鋳ぐるみ材)を表す。図5からわかるように、SiCが写真の上側部分に多く存在し、下側部分にはSiCがほとんど観察されていない。また、SiCが多数存在する部分(アルミニウム合金(鋳造用金属)を表す部分)とSiCがほとんど存在しない部分(第1ワークW1(被鋳ぐるみ材)を表す部分)が図5に示す接触界面を境にきれいに分かれている。また、接触界面には隙間が形成されていない。このことから、アルミニウム合金溶湯が第1ワークW1の内周面(表面)に接触したときにアルミニウム合金溶湯から第1ワークW1に十分に熱が伝達されて第1ワークW1の内周面が溶融状態とされ、接触界面で第1ワークW1とアルミニウム合金溶湯が混合したと推定される。そして、冷却凝固後には図5に示すように接触界面に空隙等が形成されることなくきれいに両者が接合されている。このため、接触界面の接合強度は高い。
【0050】
また、図6において、(a)がアルミニウムの存在を示す画像、(b)がケイ素の存在を示す画像、(c)が酸素の存在を示す画像、(d)が炭素の存在を示す画像、(e)がマグネシウムの存在を示す画像、(f)が鉄の存在を示す画像である。図6(c)、(d)、(e)、(f)からわかるように、接触界面付近に炭素、酸素、マグネシウム、鉄等の不純物元素は微量にしか存在しない。また、図6(b)からわかるように、ケイ素の濃度は、接触界面を跨いで緩やかに変化しており、接触界面でアルミニウム合金とワークの材料が十分に混合したことが推察される。これらのことからも、接合強度の高い接触界面が形成されていることがわかる。
【0051】
以上のように、本実施形態に係る鋳ぐるみ方法は、液体と固体粒子との混合液を被鋳ぐるみ材の表面に吹き付けることにより被鋳ぐるみ材の表面をウェットブラスト処理する第1工程と、ウェットブラスト処理された被鋳ぐるみ材の表面に鋳造用金属の溶湯を接触させて被鋳ぐるみ材を鋳ぐるむ第2工程と、を含む。
【0052】
本実施形態に係る鋳ぐるみ方法によれば、第1工程にて、後の第2工程での鋳造用金属から被鋳ぐるみ材への伝熱が促進されるようにウェットブラスト処理により被鋳ぐるみ材を表面改質している。従って、その後に被鋳ぐるみ材の表面に鋳造用金属の溶湯を接触させて被鋳ぐるみ材を鋳ぐるむ際に鋳造用金属と被鋳ぐるみ材との接触界面での被鋳ぐるみ材と鋳造用金属との溶融・混合が酸化膜等の膜類や不純物によって阻害されない。そのため、接触界面にて均一に被鋳ぐるみ材と鋳造用金属が溶融・混合し、冷却凝固後において接触界面に空隙等が形成されることがない。よって接触界面の接合強度が高められる。また、さほどコストのかからないウェットブラスト処理を実施するのみで接触界面の接合強度を十分に高めることができるため、コストアップすることなく接合強度が向上された被鋳ぐるみ材の鋳ぐるみ方法を提供することができる。
【0053】
また、第1工程にて、被鋳ぐるみ材の表面の算術平均粗さが4.0μm以上となるように、被鋳ぐるみ材をウェットブラスト処理することにより、受熱効率をウェットブラスト処理していない場合と比較して1.1倍以上にすることができる。よって、第2工程で鋳造用金属から被鋳ぐるみ材に十分に熱を伝えることができ、それ故、被鋳ぐるみ材と鋳造用金属との接触界面が良好な密着状態となり、接触界面における接合強度を向上させることができる。
【0054】
[第2実施形態]
第2実施形態に係る鋳ぐるみ方法は、第1工程と、メッキ工程と、第2工程を含む。メッキ工程は、第1工程と第2工程との間に実施される。第1工程では、被鋳ぐるみ材の表面がウェットブラスト処理される。メッキ工程では、ウェットブラスト処理された被鋳ぐるみ材の表面(ウェットブラスト処理面)に錫メッキ皮膜が形成される。第2工程では、被鋳ぐるみ材のウェットブラスト処理面に形成された錫メッキ皮膜に鋳造用金属の溶湯を接触させて被鋳ぐるみ材を鋳造用金属で鋳ぐるむ。
【0055】
第1工程で実施されるウェットブラスト処理は、上記第1実施形態にて説明した第1工程で実施されるウェットブラスト処理と同一であるので、その具体的な説明は省略する。
【0056】
メッキ工程では、被鋳ぐるみ材のウェットブラスト処理面に錫メッキ処理が施される。錫メッキ処理の前後に様々な前処理及び後処理がなされてもよい。図7は、メッキ工程の一例を示すフローチャートである。この例によれば、メッキ工程は、前処理(S1〜S6)と、錫メッキ処理(S7)と、後処理(S8〜S9)を含む。前処理は、被鋳ぐるみ材の表面のエッチング処理(S1)、硝酸による表面活性化処理(S2)、ジンケート(亜鉛)置換処理(S3)、硝酸剥離処理(S4)、再度のジンケート置換処理(S5)、ニッケルストライクメッキ(下地メッキ)処理(S6)を含む。このような前処理工程が全て完了した後に、被鋳ぐるみ材のウェットブラスト処理面に錫メッキを施す(S7)。その後、錫メッキ皮膜を中和し(S8)、次いで、乾燥する(S9)。なお、各処理と各処理の間に処理面の水洗処理が実施される。図7に水洗処理がRで表わされる。こうした一連の処理を経て被鋳ぐるみ材のウェットブラスト処理面に錫メッキ皮膜が形成される。メッキ工程にて形成される錫メッキ皮膜の膜厚は、1〜10μm程度であるとよい。
【0057】
錫メッキ皮膜のメッキ方法としては一般的な電解メッキが好適に用いられる。ここで、第1工程のウェットブラスト処理にて被鋳ぐるみ材のウェットブラスト処理面には凹凸部分が形成されているため、メッキ工程では、図8に示すように、錫メッキ皮膜Sが被鋳ぐるみ材Cのウェットブラスト処理面に形成されている凹凸部分Pに完全に密着し、凹凸部分Pと錫メッキ皮膜Sとの間に隙間は生じていない。ここで、「凹凸部分」とは、ウェットブラスト処理により粗化された被鋳ぐるみ材の表面に現れる凸状の部分を言う。
【0058】
第2工程では、メッキ工程で被鋳ぐるみ材のウェットブラスト処理面に形成された錫メッキ皮膜の表面に鋳造用金属の溶湯を接触させる。この点において本実施形態は上記第1実施形態と異なる。すなわち、上記第1実施形態では、被鋳ぐるみ材のウェットブラスト処理面に直接鋳造用金属溶湯を接触させるのに対し、本実施形態では、被鋳ぐるみ材のウェットブラスト処理面に形成された錫メッキ皮膜の表面に鋳造用金属溶湯を接触させる。
【0059】
ところで、第1工程では、上記第1実施形態にて説明したように、被鋳ぐるみ材の表面にウェットブラスト処理を施すことによって表面に予め付着されていた酸化膜及び不純物が除去される。しかしながら、ウェットブラスト処理してもその処理面に自然酸化膜は存在する。自然酸化膜上での鋳造用金属溶湯、特にアルミニウム合金溶湯の濡れ性は良好ではない。従って、自然酸化膜が存在する被鋳ぐるみ材のウェットブラスト処理面に直接鋳造用金属溶湯を接触させた場合、鋳造用金属溶湯が被鋳ぐるみ材の表面に均一に且つ十分に濡れ拡がらない虞が有る。つまり、被鋳ぐるみ材と鋳造用金属溶湯との接触界面に非接触部位(鋳造用金属溶湯が被鋳ぐるみ材に接触していない部位)が存在する可能性がある。接触界面に非接触部分が多数存在すると、伝熱不足によって被鋳ぐるみ材のウェットブラスト処理面が部分溶融状態となり、接合強度の低下を引き起こす。
【0060】
これに対し、本実施形態では、第1工程の実施後にメッキ工程を実施し、このメッキ工程にて、被鋳ぐるみ材のウェットブラスト処理面に錫メッキ皮膜が形成される。この錫メッキ皮膜は、例えば錫メッキ浴中で電気的に錫イオンを被鋳ぐるみ材の表面に吸着させることによって形成される。このような電気化学反応により形成される錫メッキ皮膜は、たとえ被鋳ぐるみ材のウェットブラスト処理面に自然酸化膜が存在している場合であっても、ウェットブラスト処理面に一様に密着する。
【0061】
こうして形成された錫メッキ皮膜上に、第2工程にて鋳造用金属溶湯が接触される。ここで、錫メッキ皮膜上での鋳造用金属溶湯、特にアルミニウム合金溶湯の濡れ性は非常に良い。したがって、第2工程にて錫メッキ皮膜の表面に鋳造用金属溶湯を接触させた場合、鋳造用金属の溶湯が錫メッキ皮膜上に一様に濡れ拡がる。このため、鋳造用金属溶湯の熱が錫メッキ皮膜の全体に伝達され、錫メッキ皮膜が一様に溶融する。なお、錫メッキ皮膜の融点は230℃程度である。
【0062】
また、錫メッキ皮膜は被鋳ぐるみ材のウェットブラスト処理面に一様に密着しているため、錫メッキ皮膜の溶融成分の熱は被鋳ぐるみ材のウェットブラスト処理面にむらなく一様に伝達される。このためウェットブラスト処理面の全面が溶融状態とされる。つまり、被鋳ぐるみ材と鋳造用金属との接触界面が部分溶融状態ではなく全溶融状態とされる。なお、ウェットブラスト処理面には図8に示すように凹凸部分Pが形成されているので、第2工程では、少なくとも凹凸部分Pが溶融し、溶融成分がウェットブラスト処理面の全面を覆う。そして、凹凸部分Pを構成していた溶融成分が鋳造用金属の溶湯と混ざり合い、被鋳ぐるみ材と鋳造用金属との接触界面(接合界面)にて被鋳ぐるみ材と鋳造用金属との混合層を形成する。その後、混合層が冷却凝固されることによって被鋳ぐるみ材と鋳造用金属が隙間なく接合される。このように、本実施形態では、被鋳ぐるみ材と鋳造用金属溶湯との間に錫メッキ皮膜を介在させることによって、被鋳ぐるみ材のウェットブラスト面に自然酸化膜が存在すること起因して第2工程にて被鋳ぐるみ材のウェットブラスト面が部分溶融状態になることを回避することができる。そのため第2工程にて被鋳ぐるみ材のウェットブラスト面が全溶融状態とされ、被鋳ぐるみ材と鋳造用金属との接合強度をより一層高めることができる。
【0063】
(界面接合強度の実証実験)
上記した本実施形態に係る鋳ぐるみ方法により鋳ぐるまれた被鋳ぐるみ材と鋳造用金属との接合強度が高いことを確認するため、以下に示すような実験を行った。
【0064】
1.サンプルの作製
アルミニウム合金(AC4C材)の溶湯を砂型のキャビティに流し込み、直径50mm、高さ50mmの円柱状金属部材を鋳造により6個作製した。作製した6個の円柱状金属部材の外周面にウェットブラスト処理(投射圧:0.45MPa)を施した。この場合において、研磨剤として60メッシュの大きさのアルミナ粉を使用した。
【0065】
その後、2個の円柱状金属部材の外周面(ウェットブラスト処理面)に膜厚約10μmの錫メッキ皮膜を形成し、他の2個の円柱状金属部材の外周面(ウェットブラスト処理面)に膜厚約10μmの亜鉛メッキ皮膜を形成した。このようにして、ウェットブラスト処理面に錫メッキ皮膜が形成された2個の被鋳ぐるみ部材(サンプルNo.1,2)と、ウェットブラスト処理面に亜鉛メッキ皮膜が形成された2個の被鋳ぐるみ部材(サンプルNo.3,4)と、ウェットブラスト処理面にメッキ皮膜が形成されていない2個の被鋳ぐるみ部材(サンプルNo.5,6)とを作製した。
【0066】
2.実験方法
次に、図9に示す実験装置を用い、作製した各サンプルのウェットブラスト処理面(外周面)に鋳造用金属の溶湯を接触させてサンプルを鋳造用金属で鋳ぐるんだ。この実験装置3は、内径100mm、高さ115mmのSiC坩堝4を備える。このSiC坩堝4内に鋳造用金属の溶湯としてSiC10vol%含有のアルミニウム複合材の溶湯(アルミニウム合金溶湯)が充填される。充填されたアルミニウム合金溶湯の温度は720℃〜750℃に調整される。そして、作製した各サンプルを150℃程度に予熱するとともに、予熱した各サンプルをSiC坩堝4内のアルミニウム合金溶湯内に浸漬した。これにより各サンプルのウェットブラスト処理面(外周面)にアルミニウム合金溶湯が接触されて、サンプルがアルミニウム合金に鋳ぐるまれる。
【0067】
表5に、上記した実験装置1を用いて各サンプルをアルミニウム合金溶湯で鋳ぐるむ際における実験条件を示す。表5において、アルミニウム合金溶湯重量とは、SiC坩堝4内に充填されたアルミニウム合金溶湯の重量であり、アルミニウム合金溶湯温度とは、SiC坩堝4内に充填されたアルミニウム合金溶湯の温度である。
【表5】
【0068】
なお、サンプルをアルミニウム溶湯に浸漬しているときにおけるサンプルの表面温度を把握するため、図9に示すように、サンプルの外周面から2mmだけ径内方に進入した位置におけるサンプルの温度を熱電対H3により検出した。検出した温度はサンプルの表面温度として温度データロガー5に記憶される。
【0069】
サンプルをSiC坩堝4内のアルミニウム溶湯に浸漬させた後、自然放令によりアルミニウム溶湯をSiC坩堝4内で凝固させた。その後、サンプル及びその外周に接合されたアルミニウム合金からなる成形体をSiC坩堝4から取り出し、サンプル(被鋳ぐるみ材)とアルミニウム合金(鋳造用金属)との接合部分を切断して接合断面を光学顕微鏡を用いて観察した。この場合において、図10に示すように、成形体Rをサンプル(被鋳ぐるみ材)の軸方向に垂直な断面で切断し、切断面内の部位であってサンプルの周方向に等間隔に位置する4箇所の部位(部位I、部位II、部位III、部位IV)の接合状態を観察した。
【0070】
3.評価方法
各部位の観察結果に基づいて、各部位の接合状態のそれぞれに評価点数を付した。この場合において、接合界面に隙間が全く形成されていないような接合状態である部位に100点を付し、部分的に隙間が形成されている(部分的に接合されている)ような接合状態である部位に50点を付し、全体的に隙間が形成されている(接合されていない)ような接合状態である部位に0点を付した。そして、4箇所の部位に付された評価点数の合計を4で除すことにより、それぞれのサンプルを用いて成形した成形体の界面接合率(%)を算出した。
【0071】
図11は、アルミニウム溶湯へのサンプルの浸漬時(鋳ぐるみ時)に熱電対H3により検出された各サンプルの表面温度と、そのサンプルを用いて成形した成形体の界面接合率との関係を示すグラフである。なお、熱電対H3は、各サンプルの表面(外周面)から径内方に2mm侵入した位置における温度を検出しているため、実際のサンプルの最表面温度(界面部の温度)は、図11に示される表面温度よりも高い。
【0072】
図11に示すように、外周面にウェットブラスト処理を施すがウェットブラスト処理面にメッキ皮膜を形成しないサンプル(サンプル5,6)を用いて成形体を鋳造成形した場合、鋳ぐるみ時におけるサンプルの表面温度が575℃以下であると、界面接合率は低い。しかし、表面温度が585℃程度であれば、界面接合率は80%を越える。このことから、ウェットブラスト処理面にメッキ皮膜を形成しない場合、サンプルの加熱温度が高ければ接合強度は高いが、加熱温度が低い場合には、被鋳ぐるみ材と鋳造用金属溶湯との接触界面にて被鋳ぐるみ材の表面が自然酸化膜の存在により部分溶融状態となり、それ故に接合強度(界面接合率)が低下すると推察される。
【0073】
また、外周面にウェットブラスト処理を施し且つウェットブラスト処理面に錫メッキ皮膜を形成したサンプル(サンプル1,2)を用いて成形体を鋳造成形した場合、すなわち本実施形態に係る鋳ぐるみ方法により成形体を鋳造成形した場合、鋳ぐるみ時におけるサンプルの表面温度が570℃程度であっても界面接合率が80%を越える。また、表面温度が580を越えると、界面接合率がほぼ100%である。このことから、本実施形態に係る鋳ぐるみ方法(サンプル1,2)によれば、被鋳ぐるみ材の表面温度が高い場合はもちろんのこと、低い場合であっても十分に接合強度(界面接合率)が高められることがわかる。
【0074】
なお、鋳ぐるみ時における被鋳ぐるみ材の表面温度が高いほど、被鋳ぐるみ材の形状変化(溶湯・軟化による変形)が発生する。そのため、鋳ぐるみ時における被鋳ぐるみ材の温度が低い方が望ましい。つまり、鋳ぐるみ時に被鋳ぐるみ材の表面温度が低く、最表面のみが溶融するような状態が実現されるのが良い。この点について、本実施形態に係る鋳ぐるみ方法(サンプルNo.1,2)においては、鋳ぐるみ時における被鋳ぐるみ材の表面温度が比較的低い場合であっても良好な接合強度を得ることができる。よって、本実施形態によれば、比較的低い温度で被鋳ぐるみ材を鋳ぐるむことにより、被鋳ぐるみ材の形状変化を抑制し、且つ、被鋳ぐるみ材と鋳造用金属との接合強度を十分に高めることができる。
【0075】
また、図11に示すように、外周面にウェットブラスト処理を施し且つウェットブラスト処理面に亜鉛メッキを形成したサンプル(サンプル3,4)を用いて成形体を成形した場合は、鋳ぐるみ時におけるサンプル(被鋳ぐるみ材)の表面温度が580℃であっても界面接合率は極めて悪い。このことから、被鋳ぐるみ材のウェットブラスト処理面に形成するメッキ皮膜の成分は錫であるのが良いことがわかり、亜鉛メッキ皮膜をウェットブラスト処理面に形成しても、接合強度が向上しないことがわかる。
【符号の説明】
【0076】
1…砂型、1a…凹部、1b…湯道、2…温度データロガー、H1…第1熱電対、H2…第2熱電対、3…実験装置、4…SiC坩堝、5…温度データロガー、H3…熱電対
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11