特許第6318622号(P6318622)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6318622
(24)【登録日】2018年4月13日
(45)【発行日】2018年5月9日
(54)【発明の名称】車両用駆動力配分装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 48/22 20060101AFI20180423BHJP
   F16H 48/30 20120101ALI20180423BHJP
   F16H 57/04 20100101ALI20180423BHJP
【FI】
   F16H48/22
   F16H48/30
   F16H57/04 B
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-522(P2014-522)
(22)【出願日】2014年1月6日
(65)【公開番号】特開2015-129534(P2015-129534A)
(43)【公開日】2015年7月16日
【審査請求日】2016年12月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100071526
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100128211
【弁理士】
【氏名又は名称】野見山 孝
(74)【代理人】
【識別番号】100145171
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩行
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 邦彦
【審査官】 藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/045444(WO,A1)
【文献】 特開2013−177093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 48/00−48/42
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力軸から入力される駆動力を第1及び第2の出力軸に配分する車両用駆動力配分装置であって、
前記入力軸から入力された駆動力を前記第1の出力軸及び中間軸に差動を許容して配分する差動装置と、
前記中間軸から前記第2の出力軸へ伝達される駆動力を調節可能な駆動力伝達装置と、
前記差動装置を収容する第1収容室、及び前記駆動力伝達装置を収容する第2収容室を有するケース部材とを備え、
前記ケース部材には、前記第1収容室から前記第2収容室へ潤滑油を流動させる第1流路、前記第2収容室から前記第1収容室へ潤滑油を流動させる第2流路、及び前記第2流路とは異なる経路で前記第2収容室から前記第1収容室へ潤滑油を流動させる第3流路が形成され、
前記入力軸が非回転で前記中間軸と前記第2の出力軸とが逆方向に回転するとき、前記第2流路を介して前記第2収容室から前記第1収容室へ潤滑油が流動し、
前記入力軸が回転し、前記中間軸と前記第2の出力軸とが同方向に回転するとき、前記第1流路を介して前記第1収容室から前記第2収容室へ潤滑油が流動し、前記第2収容室における潤滑油の量が所定量よりも多くなったとき、前記第3流路を介して前記第2収容室から前記第1収容室へ潤滑油が流動し、
前記第2収容室において潤滑油を収集するキャッチタンクが前記第2流路に連通して前記ケース部材に設けられ、前記キャッチタンクに潤滑油が流入する開口が、車両搭載状態において前記第3流路よりも上方に形成されている、
車両用駆動力配分装置。
【請求項2】
前記ケース部材は、前記第1収容室と前記第2収容室とを区画する壁部に前記中間軸を挿通させる挿通孔が形成されており、
前記第3流路は、前記挿通孔の内面と前記中間軸の外周面との間に形成された隙間である、
請求項1に記載の車両用駆動力配分装置。
【請求項3】
前記駆動力伝達装置は、
前記中間軸と一体に回転する円筒状のクラッチドラムと、
前記クラッチドラムに一端部が収容されると共に、前記第2の出力軸が相対回転不能に連結されるインナシャフトと、
前記クラッチドラムと前記インナシャフトとの間に配置され、前記クラッチドラムと前記インナシャフトとをトルク伝達可能に連結する摩擦クラッチとを有し、
前記第2流路は、前記中間軸が前記第2の出力軸と逆方向に回転するときの前記クラッチドラムの回転により掻き上げられた潤滑油を前記第2収容室から前記第1収容室へ流動させる、
請求項1又は2に記載の車両用駆動力配分装置。
【請求項4】
前記差動装置は、前記入力軸に設けられたピニオンギヤに噛み合うリングギヤが外周囲に配置されたデフケースと、前記デフケースに収容された差動歯車機構とを有し、
前記第1流路は、前記リングギヤ及び前記デフケースの回転により掻き上げられた潤滑油を前記第1収容室から前記第2収容室へ流動させる、
請求項1乃至3の何れか1項に記載の車両用駆動力配分装置。
【請求項5】
前記ケース部材は、前記第1流路に連通して前記第1収容室側に設けられ、前記第1収容室において前記潤滑油を収集する第1のキャッチタンクを有する、
請求項1乃至の何れか1項に記載の車両用駆動力配分装置。
【請求項6】
駆動源の駆動力が常に伝達される一対の主駆動輪と、駆動力の伝達を遮断可能な断接機構及び前記入力軸としてのプロペラシャフトを介して前記駆動源の駆動力が伝達される一対の補助駆動輪とを備えた4輪駆動車に搭載され、
前記差動装置は、前記入力軸から入力された駆動力を前記一対の補助駆動輪のうち一方の補助駆動輪に連結された前記第1の出力軸としてのドライブシャフト及び前記中間軸に配分し、
前記駆動力伝達装置は、前記中間軸から前記一対の補助駆動輪のうち他方の補助駆動輪に連結された前記第2の出力軸としてのドライブシャフトへ伝達される駆動力を調節可能である、
請求項1乃至5の何れか1項に記載の車両用駆動力配分装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力軸から入力される駆動力を第1及び第2の出力軸に配分する車両用駆動力配分装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、駆動源の駆動力が常時伝達される主駆動輪(例えば前輪)と走行状態に応じて駆動源の駆動力が伝達される補助駆動輪(例えば後輪)とを備えた4輪駆動車の駆動力伝達系における補助駆動輪側に配置され、プロペラシャフトから入力される駆動力を左右の車輪に配分する駆動力配分装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載のものは、4輪駆動車の後輪側に配置されたデフキャリア内に、ディファレンシャル装置と駆動力断続部とが収容されている。ディファレンシャル装置は、デフケース内に一対のサイドギヤ及び一対のピニオンギヤからなる差動歯車機構を備えている。駆動力断続部は、円筒状のクラッチハウジングと、クラッチハウジング内に収容されたインナシャフトと、クラッチハウジングの内周面とインナシャフトの外周面との間に配置された多板クラッチと、多板クラッチを軸方向に押圧する押圧機構とを備えている。
【0004】
一対のサイドギヤは、一方のサイドギヤが右後輪に連結され、他方のサイドギヤが駆動力断続部のクラッチハウジングに連結されている。インナシャフトには、左後輪が連結されている。多板クラッチは、クラッチハウジングに相対回転不能に係合した複数のアウタクラッチプレートと、インナシャフトに相対回転不能に係合した複数のインナクラッチプレートとを、軸方向に沿って交互に配置して構成されている。アウタクラッチプレートとインナクラッチプレートとの間には、摩耗を低減して摩擦摺動を滑らかにするための潤滑油が介在する。そして、多板クラッチが押圧機構により押圧されると、クラッチハウジングとインナシャフトとがトルク伝達可能に連結され、後輪側の左右輪に駆動力が伝達される。
【0005】
また、特許文献1に記載の4輪駆動車は、プロペラシャフトの前輪側に噛み合いクラッチ(ドグクラッチ)が配置されている。4輪駆動の走行状態では、この噛み合いクラッチが連結されて駆動源の駆動力がプロペラシャフトに伝達され、プロペラシャフトから後輪側のディファレンシャル装置及び駆動力断続部の多板クラッチを介して後輪側の左右輪に駆動力が伝達される。
【0006】
一方、2輪駆動の走行状態では、噛み合いクラッチの連結が解除されると共に駆動力断続部の多板クラッチが開放状態となり、後輪側の左右輪に駆動力が伝達されなくなる。この場合、プロペラシャフトは、駆動源からの駆動力の伝達が噛み合いクラッチにより遮断され、後輪の左右輪からも回転力が伝達されなくなるので、4輪駆動車が走行状態であっても、プロペラシャフトの回転が停止する。また、これに伴い、デフケースの回転も停止する。これにより、プロペラシャフト及びデフケースの回転に伴う各部のギヤによる潤滑油の撹拌抵抗が低減され、4輪駆動車の燃費を改善することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2013−154827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の4輪駆動車は、2輪駆動の走行状態において、駆動力断続部のクラッチハウジングとインナシャフトとが互いに逆方向に回転する。つまり、ディファレンシャル装置における一対のサイドギヤのうち、右後輪に連結された一方のサイドギヤは右後輪と共に回転し、他方のサイドギヤはピニオンギヤの自転によって一方のサイドギヤと反対方向に回転する。また、左後輪に連結されたインナシャフトは、右後輪に連結された一方のサイドギヤと同方向に回転する。これにより、駆動力断続部のクラッチハウジングとインナシャフトとが互いに逆方向に回転する。
【0009】
クラッチハウジングとインナシャフトとが逆方向に回転することにより、多板クラッチの複数のアウタクラッチプレートと複数のインナクラッチプレートとの間には、潤滑油の粘性による引き摺りトルクが発生する。つまり、2輪駆動の走行状態では、このクラッチプレート間の引き摺りトルクが走行抵抗となり、動力ロスが発生する。特許文献1に記載のものは、この点において、なお改善の余地があった。
【0010】
そこで、本発明は、4輪駆動車の2輪駆動の走行状態におけるクラッチの引きずりトルクを低減し、燃費の向上を図ることが可能な車両用駆動力配分装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するため、入力軸から入力される駆動力を第1及び第2の出力軸に配分する車両用駆動力配分装置であって、前記入力軸から入力された駆動力を前記第1の出力軸及び中間軸に差動を許容して配分する差動装置と、前記中間軸から前記第2の出力軸へ伝達される駆動力を調節可能な駆動力伝達装置と、前記差動装置を収容する第1収容室、及び前記駆動力伝達装置を収容する第2収容室を有するケース部材とを備え、前記ケース部材には、前記第1収容室から前記第2収容室へ潤滑油を流動させる第1流路、前記第2収容室から前記第1収容室へ潤滑油を流動させる第2流路、及び前記第2流路とは異なる経路で前記第2収容室から前記第1収容室へ潤滑油を流動させる第3流路が形成され、前記入力軸が非回転で前記中間軸と前記第2の出力軸とが逆方向に回転するとき、前記第2流路を介して前記第2収容室から前記第1収容室へ潤滑油が流動し、前記入力軸が回転し、前記中間軸と前記第2の出力軸とが同方向に回転するとき、前記第1流路を介して前記第1収容室から前記第2収容室へ潤滑油が流動し、前記第2収容室における潤滑油の量が所定量よりも多くなったとき、前記第3流路を介して前記第2収容室から前記第1収容室へ潤滑油が流動し、前記第2収容室において潤滑油を収集するキャッチタンクが前記第2流路に連通して前記ケース部材に設けられ、前記キャッチタンクに潤滑油が流入する開口が、車両搭載状態において前記第3流路よりも上方に形成されている、車両用駆動力配分装置を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、4輪駆動車の2輪駆動の走行状態におけるクラッチの引きずりトルクを低減し、燃費の向上を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態に係る車両用駆動力配分装置が搭載された4輪駆動車の構成例を示す概略図である。
図2】駆動力配分装置を示す断面図である。
図3図2の部分拡大図である。
図4】差動装置が収容された第1ケース部材を第2ケース部材側から見た状態を示す全体図である。
図5】第1ケース部材の一部を拡大して示す斜視図である。
図6】第2ケース部材を示し、(a)は第2ケース部材の全体を第1ケース部材側から見た状態を示す斜視図、(b)は(a)と異なる角度から見た第2ケース部材の一部を示す斜視図である。
図7】第2ケース部材を第3ケース部材側から見た状態を示す斜視図である。
図8】クラッチドラムの回転方向と、第3キャビティに流入する潤滑油の移動方向との関係を示す説明図であり、(a)は2輪駆動の走行時の状態を、(b)は4輪駆動の走行時の状態を、それぞれ示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[実施の形態]
図1は、本発明の実施の形態に係る車両用駆動力配分装置が搭載された4輪駆動車の構成例を示す概略図である。
【0015】
4輪駆動車100は、駆動源としてのエンジン102と、トランスミッション103と、一対の主駆動輪としての前輪104L,104Rと、一対の補助駆動輪としての後輪105L,105Rと、エンジン102のトルクを一対の前輪104L,104R及び一対の後輪105L,105Rに伝達する駆動力伝達系101とを備えている。
【0016】
駆動力伝達系101は、フロントディファレンシャル11と、駆動力の伝達を遮断可能な断接機構としての噛み合いクラッチ12と、プロペラシャフト10と、駆動力配分装置1と、前輪側のドライブシャフト106L,106Rと、後輪側のドライブシャフト107L,107Rとを有し、エンジン102の駆動力を前輪104L,104R及び後輪105L,105Rに伝達するように構成されている。前輪104L,104Rには、エンジン102の駆動力が常に伝達される。後輪105L,105Rには、噛み合いクラッチ12及びプロペラシャフト10を介してエンジン102の駆動力が伝達される。
【0017】
フロントディファレンシャル11は、一対の前輪側のドライブシャフト106L,106Rに連結された一対のサイドギヤ111、一対のサイドギヤ111にギヤ軸を直交させて噛合する一対のピニオンギヤ112、一対のピニオンギヤ112を支持するピニオンギヤ支持部材113、及びこれら一対のサイドギヤ111と一対のピニオンギヤ112とピニオンギヤ支持部材113を収容するフロントデフケース114を有している。
【0018】
噛み合いクラッチ12は、フロントデフケース114と一体に回転する第1回転部材121と、第1回転部材121と同軸上で相対回転可能な第2回転部材122と、第1回転部材121と第2回転部材122とを相対回転不能に連結することが可能なスリーブ123とを有している。具体的には、第1回転部材121及び第2回転部材122の外周面に設けられた外周スプライン嵌合部がスリーブ123の内周面に設けられた内周スプライン嵌合部に噛み合うことで、第1回転部材121と第2回転部材122とがスリーブ123によって一体回転するように連結される。また、スリーブ123の軸方向移動により、スリーブ123が第2回転部材122の外周スプライン嵌合部のみに噛み合い、第1回転部材121の外周スプライン嵌合部に噛み合わなくなった場合には、第1回転部材121と第2回転部材122とが相対回転可能な連結遮断状態となる。スリーブ123は、図略のアクチュエータによって軸方向に進退移動可能である。
【0019】
プロペラシャフト10は、エンジン102のトルクをフロントデフケース114から噛み合いクラッチ12を介して受け、駆動力配分装置1側に伝達する。プロペラシャフト10の前輪側端部には、プロペラシャフト10に設けられたピニオンギヤ10a、及びピニオンギヤ10aに噛み合うリングギヤ10bからなる歯車機構13が配置されている。リングギヤ10bは、噛み合いクラッチ12の第2回転部材122に相対回転不能に連結されている。
【0020】
エンジン102は、トランスミッション103、及びフロントディファレンシャル11を介して、一対の前輪側のドライブシャフト106L,106Rに駆動力を出力することにより、一対の前輪104L,104Rを駆動する。また、エンジン102は、トランスミッション103、噛み合いクラッチ12、プロペラシャフト10、及び駆動力配分装置1を介して駆動力を後輪側のドライブシャフト107L,107Rに出力することにより、一対の後輪105L,105Rを駆動する。
【0021】
駆動力配分装置1は、入力軸としてのプロペラシャフト10から入力される駆動力を第1及び第2の出力軸としての後輪側のドライブシャフト107L,107Rに差動を許容して配分する。ドライブシャフト107Lは左後輪105Lに連結され、ドライブシャフト107Rは右後輪105Rに連結されている。以下、この駆動力配分装置1の構成について詳細に説明する。
【0022】
(駆動力配分装置1の構成)
図2は、駆動力配分装置1を示す断面図である。図3は、図2の部分拡大図である。
【0023】
駆動力配分装置1は、プロペラシャフト10から入力された駆動力をドライブシャフト107L,107R及び中間軸31に配分する差動装置2と、中間軸31からドライブシャフト107Lへ伝達される駆動力を調節可能な駆動力伝達装置3と、差動装置2を収容する第1収容室4a、及び駆動力伝達装置3を収容する第2収容室4bを有するケース部材4とを備えている。第1収容室4a及び第2収容室4bには、潤滑油が収容されている。この潤滑油は、ギヤの潤滑に適した粘度を有するデフオイルである。
【0024】
差動装置2は、リングギヤ21が外周囲に配置されたデフケース22と、デフケース22に収容された差動歯車機構20とを有している。リングギヤ21は、デフケース22の外周に形成されたフランジ221に複数のボルト222によって取り付けられている。リングギヤ21には、プロペラシャフト10と共に回転するように設けられたピニオンギヤシャフト14のギヤ部141が噛み合っている。デフケース22は、ケース部材4の第1収容室4a内に円錐ころ軸受50,51によって回転可能に支持されている。
【0025】
差動歯車機構20は、デフケース22に支持されたピニオンシャフト23と、ピニオンシャフト23に回転可能に軸支された一対のピニオンギヤ24と、一対のピニオンギヤ24に噛み合う第1及び第2のサイドギヤ25,26とによって構成されている。第1のサイドギヤ25には、ドライブシャフト107Rがスプライン嵌合によって連結される連結孔25aが中心部に形成されている。第2のサイドギヤ26には、後述する駆動力伝達装置3のクラッチドラム32に一体的に設けられた中間軸31がスプライン嵌合によって連結される連結孔26aが中心部に形成されている。
【0026】
駆動力伝達装置3は、軸状の中間軸31と、中間軸31と一体に回転する円筒状のクラッチドラム32と、クラッチドラム32に一端部が収容されると共に、ドライブシャフト107Lが相対回転不能に連結されるインナシャフト33と、クラッチドラム32とインナシャフト33との間に配置され、クラッチドラム32とインナシャフト33とをトルク伝達可能に連結する摩擦クラッチ34と、摩擦クラッチ34に軸方向の押圧力を付与する押圧機構35とを有している。押圧機構35は、ケース部材4の外部に固定された電動モータ6によって作動する。
【0027】
本実施の形態では、中間軸31及びクラッチドラム32が一体であり、クラッチハウジング30の一部として形成されている。クラッチハウジング30は、ケース部材4の第1収容室4a及び第2収容室4bにわたって配置され、中間軸31はクラッチハウジング30の軸方向における差動装置2側の端部に、またクラッチドラム32はクラッチハウジング30の軸方向におけるインナシャフト33側の端部に、それぞれ形成されている。クラッチドラム32は、円筒部321と底部322とを有する有底円筒状であり、底部322の中心部から中間軸31が軸方向に延在している。これにより、クラッチドラム32は、中間軸31と一体に回転する。
【0028】
インナシャフト33は、中心部にドライブシャフト107Lがスプライン嵌合により連結される連結孔33aが形成された円筒状であり、クラッチドラム32に収容された大径部331と、大径部331よりも連結孔33aの開口側に設けられた小径部332と、大径部331における小径部332とは反対側の端部に設けられたボス部333とを一体に有している。インナシャフト33は、小径部332がケース部材4との間に配置された玉軸受52によって支持され、ボス部333がクラッチハウジング30に形成された凹部30aの内面との間に配置された針状ころ軸受53によって回転可能に支持されている。また、大径部331とクラッチハウジング30の底部322との間には、針状スラストころ軸受54が配置されている。
【0029】
インナシャフト33、クラッチハウジング30、及びデフケース22は、共通の回転軸線Oを中心として回転する。
【0030】
摩擦クラッチ34は、図3に示すように、クラッチドラム32に対して相対回転可能かつ軸方向移動可能に連結された複数のアウタクラッチプレート341と、インナシャフト33に対して相対回転可能かつ軸方向移動可能に連結された複数のインナクラッチプレート342とからなり、複数のアウタクラッチプレート341及び複数のインナクラッチプレート342が交互に配置されている。アウタクラッチプレート341は、その外周部がクラッチドラム32の円筒部321の内面に形成されたスプライン係合部32aに係合している。インナクラッチプレート342は、その内周部がインナシャフト33の大径部331の外周に形成されたスプライン係合部331aに係合している。摩擦クラッチ34が軸方向に押圧されると、複数のアウタクラッチプレート341と複数のインナクラッチプレート342とが摩擦接触し、その摩擦力によってクラッチドラム32とインナシャフト33とがトルク伝達可能に連結される。
【0031】
押圧機構35は、電動モータ6の出力軸の回転が減速機61で減速されたトルクによって回転するカム部材351と、カム部材351に形成されたカム面351aを転動する転動体352と、転動体352を支持する環状のリテーナ353と、摩擦クラッチ34を押圧する環状の押圧部材354とを備えて構成されている。押圧部材354は、クラッチドラム32のスプライン係合部32aに係合し、クラッチドラム32に相対回転不能に連結されている。
【0032】
カム部材351は、図2に示すように、周方向の一部が外方に突出し、突出した部分の外周面にギヤ部351bが形成されている。カム部材351は、ギヤ部351bに噛み合う減速機61の出力ギヤ611から回転力を受け、回転軸線Oの周りを所定の角度範囲で回転する。カム部材351の内周面とインナシャフト33の小径部332との間には、針状ころ軸受551が配置されている。また、カム部材351の軸方向端面と第3ケース部材43の内面との間には、針状スラストころ軸受552が配置されている。カム部材351のカム面351aは、カム部材351の周方向(回転方向)に対して傾斜している。
【0033】
転動体352は、円筒状であり、リテーナ353に固定された支持軸353a(図3に示す)によって支持されている。カム部材351が回転すると、転動体352がカム面351aを転動し、リテーナ353が摩擦クラッチ34側に移動する。リテーナ353と押圧部材354との間には針状スラストころ軸受56が配置され、転動体352の転動によりリテーナ353に発生する軸方向の移動力は、摩擦クラッチ34を押圧する押圧力として、針状スラストころ軸受56を介して押圧部材354に伝達される。押圧部材354は、複数のアウタクラッチプレート341のうち、クラッチドラム32の底部322とは反対側の端部に配置されたアウタクラッチプレート341に接触し、摩擦クラッチ34を底部322に向かって押圧する。
【0034】
これにより、アウタクラッチプレート341とインナクラッチプレート342との間に摩擦力が発生し、クラッチドラム32からインナシャフト33へ電動モータ6の出力トルクに応じた駆動力が伝達される。つまり、ドライブシャフト107Lを介して左後輪105Lに配分される駆動力は、電動モータ6へ供給する電流を増減することで調節することができる。また、差動歯車機構20の動作原理に基づき、右後輪105Rには、左後輪105Lと同等の駆動力が配分される。よって、駆動力配分装置1は、例えば前後輪の回転速差や、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量、あるいは車速や操舵角等に基づいて電動モータ6へ供給する電流を増減することで、車両走行状態に応じた適切な駆動力を後輪105L,105Rに配分することが可能である。
【0035】
ケース部材4は、主として差動装置2を収容する第1ケース部材41と、主としてクラッチドラム32を収容する第2ケース部材42と、主として押圧機構35を収容する第3ケース部材43とを有して構成されている。第1ケース部材41と第2ケース部材42とは複数のボルト401(図2には1つのボルト401のみを示す)によって固定され、第2ケース部材42と第3ケース部材43とは複数のボルト402(図2には1つのボルト402のみを示す)によって固定されている。
【0036】
第1ケース部材41には、ドライブシャフト107Rを挿通させるシャフト挿通孔41aが形成されている。第3ケース部材43には、ドライブシャフト107Lを挿通させるシャフト挿通孔43aが形成されている。シャフト挿通孔41a,43aの内面には、シール部材441,442がそれぞれ配置されている。また、第1ケース部材41には、ピニオンギヤシャフト14の軸部140を挿通させる挿通孔41bが形成され、この挿通孔41b内に配置された一対の円錐ころ軸受571,572によってピニオンギヤシャフト14の軸部140が回転可能に支持されている。
【0037】
第1収容室4aは、第1ケース部材41と第2ケース部材42との組み合わせによって形成されている。第2収容室4bは、第2ケース部材42と第3ケース部材43との組み合わせによって形成されている。第1収容室4aと第2収容室4bとは、第2ケース部材42に形成された壁部421によって区画されている。壁部421は、クラッチドラム32とデフケース22との間に配置され、その中心部に中間軸31を挿通させる挿通孔421aが形成されている。挿通孔421aの内面と中間軸31との間には、針状ころ軸受58が配置されている。また、壁部421とクラッチドラム32の底部322との間には、スラストころ軸受59が配置されている。
【0038】
以上のように構成された4輪駆動車100は、前輪104L,104R及び後輪105L,105Rにエンジン102の駆動力が伝達される4輪駆動時には、噛み合いクラッチ12を連結状態とし、かつ駆動力伝達装置3の摩擦クラッチ34を押圧してトルク伝達可能な状態とする。これにより、エンジン102の駆動力がフロントディファレンシャル11を介して前輪側のドライブシャフト106L,106Rに伝達され、さらにフロントデフケース114、噛み合いクラッチ12、プロペラシャフト10、及び駆動力配分装置1を介して後輪側のドライブシャフト107L,107Rに伝達される。
【0039】
一方、前輪104L,104Rのみにエンジン102の駆動力が伝達される4輪駆動車100の2輪駆動時には、噛み合いクラッチ12を連結遮断状態とし、駆動力伝達装置3の摩擦クラッチ34を開放状態(押圧機構35により押圧されない状態)とする。これにより、2輪駆動の走行時には、プロペラシャフト10、歯車機構13のピニオンギヤ10a及びリングギヤ10b、ピニオンギヤシャフト14、ならびにリングギヤ21及びデフケース22が非回転状態となり、潤滑油の撹拌抵抗や各部の摺動抵抗が低減され、4輪駆動車100の燃費を改善することが可能となる。
【0040】
しかし、この2輪駆動の走行時には、差動歯車機構20の第1のサイドギヤ25がドライブシャフト107Rと共に回転し、この第1のサイドギヤ25の回転に伴うピニオンギヤ24の自転(ピニオンシャフト23を回転中心とする回転)により、第2のサイドギヤ26が第1のサイドギヤ25と逆方向に回転する。これにより、第2のサイドギヤ26に連結されたクラッチハウジング30と、ドライブシャフト107Lに連結されたインナシャフト33とが逆方向に回転し、これに伴って摩擦クラッチ34のアウタクラッチプレート341とインナクラッチプレート342とが互いに逆方向に回転する。
【0041】
このため、アウタクラッチプレート341とインナクラッチプレート342との間に介在する潤滑油の粘性に起因する引き摺りトルクが大きくなると、2輪駆動の走行時にプロペラシャフト10等の回転を停止させる効果が十分に発揮されず、燃費の改善効果が低下してしまうおそれがある。そこで、本実施の形態に係る駆動力配分装置1では、2輪駆動の走行時にアウタクラッチプレート341とインナクラッチプレート342との間に介在する潤滑油を減らし、摩擦クラッチ34における引き摺りトルクを低減するように構成されている。この構成について、以下詳細に説明する。
【0042】
(ケース部材4における潤滑油の流路の構成)
ケース部材4には、第1収容室4aから第2収容室4bへ潤滑油を流動させる第1流路44、及び第2収容室4bから第1収容室4aへ潤滑油を流動させる第2流路45が形成されている。なお、図2では、説明の明確化のため、ケース部材4の第2ケース部材42において、駆動力配分装置1の4輪駆動車100への搭載状態における水平方向に対して傾斜した断面で第1流路44及び第2流路45を示している。
【0043】
ケース部材4は、プロペラシャフト10が非回転で中間軸31とドライブシャフト107Lとが逆方向に回転するとき、第2流路45を介して第2収容室4bから第1収容室4aへ潤滑油が流動し、またプロペラシャフト10が回転し、中間軸31とドライブシャフト107Lとが同方向に回転するとき、第1流路44を介して第1収容室4aから第2収容室4bへ潤滑油が流動するように構成されている。
【0044】
図4は、差動装置2が収容された第1ケース部材41を第2ケース部材42側から見た状態を、デフケース22の図示を省略して示す全体図である。図5は、第1ケース部材41の一部を拡大して示す斜視図である。図4において、4輪駆動車100の4輪駆動の前進時にはリングギヤ21が反時計回り(矢印R方向)に回転するものとする。なお、図4及び図5の下側が、駆動力配分装置1が4輪駆動車100に搭載された状態における鉛直方向の下方にあたる。なお、以下の記載において、「上」及び「下」とは、駆動力配分装置1が4輪駆動車100に搭載された状態における鉛直方向の上下をいうものとする。
【0045】
第1ケース部材41には、差動装置2のリングギヤ21及びデフケース22の回転により掻き上げられた潤滑油を収集するための収集空間である第1キャビティ411が形成されている。第1キャビティ411は、第1収容室4a内において、リングギヤ21の外側であって4輪駆動車100の前方(フロント側)に張り出すように形成されている。第1キャビティ411の内面は、上面411a、底面411b、下面411c、及び側面411dによって形成されている。上面411a及び下面411cは、底面411b側ほど下方に傾斜するように形成されている。よって、第1キャビティ411は、底面411bから見た場合に、斜め上方に向かって開口している。
【0046】
第1キャビティ411には、リングギヤ21の回転によって掻き上げられた潤滑油が、リングギヤ21に向かい合う円筒状の内面41c及び上面411aをつたって流れ込む。また、第1キャビティ411には、リングギヤ21から飛散した潤滑油が直接的に飛び込む。このようにして第1キャビティ411内に収集された潤滑油は、上面411a及び下面411cの傾斜によって、第1キャビティ411の底部(底面411b側)に集まる。
【0047】
図6は、第2ケース部材42を示し、(a)は第2ケース部材42の全体を第1ケース部材41側から見た状態を示す斜視図、(b)は(a)と異なる角度から見た第2ケース部材42の一部を示す斜視図である。
【0048】
第2ケース部材42には、第1ケース部材41の第1キャビティ411と連通する第2キャビティ422が形成されている。第2キャビティ422は、第2ケース部材42における第1ケース部材41側の端面から回転軸線Oと平行な方向に向かって窪むように形成されている。本実施の形態では、第1ケース部材41側から見た第2キャビティ422の開口が略矩形状であり、第2キャビティ422の内面は、上面422a、一対の側面422b,422c、下面422d、及び底面422eによって形成されている。
【0049】
一対の側面422b,422cは、回転軸線Oに直交する方向に向かい合い、一対の側面422b,422cのうち回転軸線Oに近い側の側面422bと下面422dとの角部には、図6(b)に示すように、第1流路44の流入口44aが形成されている。これにより、第1キャビティ411によって収集された潤滑油は第2キャビティ422に流れ込み、第2キャビティ422の内面に形成された流入口44aから第1流路44に流入する。
【0050】
第1キャビティ411及び第2キャビティ422は、第1流路44に連通してケース部材4の第1収容室4a側に設けられ、第1収容室4aにおいて潤滑油を収集する第1のキャッチタンク4cを構成する。第1のキャッチタンク4cは、リングギヤ21及びデフケース22が矢印R方向に回転した場合に潤滑油が飛散する方向に沿って開口し、その開口面積は第1流路44の流路面積よりも大きく形成されている。これにより、リングギヤ21及びデフケース22の回転により掻き上げられた潤滑油が効率よく第1のキャッチタンク4cに収集され、第1流路44を介して第2収容室4bへ供給される。
【0051】
図7は、第2ケース部材42の全体を第3ケース部材43側(図6の反対側)から見た状態を示す斜視図である。
【0052】
第2ケース部材42には、クラッチドラム32の外周面と向かい合う円筒状の内面42aの一部に、第1流路44の吐出口44bが形成されている。すなわち、第1流路44の吐出口44bは、駆動力伝達装置3を収容する第2収容室4bに開口している。吐出口44bは、流入口44aよりも下方に設けられ、流入口44aから流入した潤滑油は、その自重によって第1流路44を流動し、吐出口44bから第2収容室4bに供給される。このように、第1流路44は、リングギヤ21及びデフケース22の回転により掻き上げられた潤滑油を第1収容室4aから第2収容室4bへ流動させる。
【0053】
第1流路44を介して第2収容室4bに供給された潤滑油は、クラッチドラム32の開口部(底部322とは反対側の端部)からクラッチドラム32内に流入し、摩擦クラッチ34におけるアウタクラッチプレート341とインナクラッチプレート342との摩擦摺動を潤滑する。これにより、アウタクラッチプレート341及びインナクラッチプレート342の摩耗が抑制される。一方、プロペラシャフト10の非回転状態では、リングギヤ21及びデフケース22が回転しないので、第1収容室4a内の潤滑油が掻き上げられず、第1流路44を介した第2収容室4bへの潤滑油の供給が遮断される。
【0054】
また、図7に示すように、第2ケース部材42には、クラッチドラム32の回転によって掻き上げられた潤滑油を収集するための第3キャビティ423が形成されている。第3キャビティ423は、第2収容室4bにおいて、クラッチドラム32の外周面と向かい合う内面424aを有する円弧状の周壁部424の外側に形成されている。すなわち、第2収容室4bは、クラッチドラム32が収容される円筒状の収容空間40bと第3キャビティ423とが周壁部424によって区画されている。第3キャビティ423に潤滑油が流入する開口423aは、第2収容室4bの最上部に形成されている。
【0055】
第3キャビティ423の開口423aは、周壁部424の上端部424bと、開口部内面423bとの間に形成されている。開口部内面423bは、周壁部424の上端部424bよりも上方に形成され、回転軸線Oに直交する方向(クラッチドラム32の径方向)に対して第3キャビティ423側を指向するように傾斜している。
【0056】
第3キャビティ423の下部には、第2収容室4bから第1収容室4aへ潤滑油を流動させる第2流路45(図2に示す)が形成されている。第2流路45の流入口45aは、第2ケース部材42の第3キャビティ423の下部における第2収容室4b側に形成されている。第2流路45の吐出口45b(図2に示す)は、第2ケース部材42の第1収容室4a側に形成されている。
【0057】
第2流路45は、クラッチドラム32及び中間軸31がドライブシャフト107Lと逆方向に回転するときのクラッチドラム32の回転により掻き上げられた潤滑油を第2収容室4bから第1収容室4aへ流動させる。
【0058】
図8は、クラッチドラム32の回転方向と、第3キャビティ423に流入する潤滑油の移動方向との関係を示す説明図であり、(a)は2輪駆動の走行時の状態を、(b)は4輪駆動の走行時の状態を、それぞれ示す。
【0059】
図8(a)に示すように、2輪駆動の走行時には、クラッチドラム32が矢印R方向に回転する。この場合、クラッチドラム32の回転による遠心力を受けた潤滑油は、矢印Aに示すように、クラッチドラム32の外周面の接線方向に飛散し、その一部は開口423aから第3キャビティ423に飛び込む。このとき、開口部内面423bに付着した潤滑油は、クラッチドラム32から飛び散ったときの勢いによって第3キャビティ423の奥側に移動し、第3キャビティ423内に収集される。すなわち、回転軸線Oに直交する方向に対する開口部内面423bの傾斜角は、クラッチドラム32が矢印R方向に回転した場合に潤滑油が飛散する方向に開口部内面423bが沿うように設定されている。
【0060】
一方、4輪駆動の走行時には、図8(b)に示すように、クラッチドラム32が矢印R方向に回転する。この場合、クラッチドラム32の回転による遠心力を受けた潤滑油は、矢印Bに示すように、クラッチドラム32の外周面の接線方向に飛散するが、この方向から見た第3キャビティ423の開口423aの幅は、クラッチドラム32が矢印R方向に回転する場合よりも狭くなる。また、開口部内面423bに付着した潤滑油は、クラッチドラム32から飛び散ったときの勢いによって第3キャビティ423の奥側に移動することはなく、開口部内面423bを下方に流動し、第3キャビティ423に収集されない。
【0061】
このように、第3キャビティ423に収集される潤滑油の量は、クラッチドラム32の回転方向によって異なり、クラッチドラム32が矢印R方向に回転する場合には、クラッチドラム32が矢印R方向に回転する場合よりも多くの潤滑油が収集される。つまり、2輪駆動の走行時には、クラッチドラム32に収集された潤滑油が第2流路45を介して第1収容室4a側へ移動し、第2収容室4b内の潤滑油が減少する。これにより、アウタクラッチプレート341とインナクラッチプレート342との間に介在する潤滑油の粘性に起因する引き摺りトルクが低減される。なお、2輪駆動時には、摩擦クラッチ34が押圧機構35によって押圧されないので、第2収容室4b内の潤滑油が減少しても、アウタクラッチプレート341及びインナクラッチプレート342が摩耗するおそれはない。
【0062】
第3キャビティ423は、第2流路45に連通してケース部材4の第2収容室4b側に設けられ、第2収容室4bにおいて潤滑油を収集する第2のキャッチタンク4dを構成する。第2のキャッチタンク4dは、その開口423aの開口面積が第2流路45の流路面積よりも大きく形成されている。これにより、クラッチドラム32の矢印R方向への回転により掻き上げられた潤滑油が効率よく第2のキャッチタンク4dに収集され、第2流路45を介して第1収容室4aへ供給される。
【0063】
また、4輪駆動の走行時において第2収容室4bにおける潤滑油の量が所定量よりも多くなった場合には、第2ケース部材42の壁部421における挿通孔421aの内面と中間軸31の外周面との間の隙間G(図3に示す)を介して、潤滑油が第2流路45を経由することなく第2収容室4bから第1収容室4aに流動する。これは、潤滑油が過度に第2収容室4bに偏在し、差動装置2の各部の潤滑が適切に行われなくなることを回避するための構成である。つまり、中間軸31と第2ケース部材42の壁部421との間の隙間Gは、第2収容室4bにおける潤滑油の量が所定量よりも多くなったときに第1収容室4aへ潤滑油を流動させる第3流路である。
【0064】
なお、この隙間Gには、針状ころ軸受58が配置されているが、潤滑油は、針状ころ軸受58の複数のころの間を流動可能である。隙間Gを経由して第1収容室4aに流動した潤滑油は、デフケース22をケース部材4に支持する円錐ころ軸受50の隙間を通過して差動装置2の各部を潤滑する。
【0065】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明した実施の形態によれば、以下に示す作用及び効果が得られる。
【0066】
(1)2輪駆動の走行時には、第2流路45を介して第2収容室4bから第1収容室4aに潤滑油が流動するので、第2収容室4bにおける潤滑油が減少し、摩擦クラッチ34における引き摺りトルクが低減される。これにより、4輪駆動車100の燃費が改善される。また、4輪駆動の走行時には、第1流路44を介して第1収容室4aから第2収容室4bに潤滑油が流動するので、摩擦クラッチ34が潤滑油によって潤滑され、アウタクラッチプレート341及びインナクラッチプレート342の摩耗が抑制される。つまり、本実施の形態によれば、4輪駆動時に摩擦クラッチ34を適切に潤滑しながら、2輪駆動時における摩擦クラッチ34に引き摺りトルクを低減し、燃費を改善することが可能となる。
【0067】
(2)2輪駆動時において、クラッチドラム32の回転によって掻き上げられた潤滑油が第2流路45を経由して第2収容室4bから第1収容室4aへ流動するので、例えばポンプを用いて潤滑油を流動させる場合に比較して簡素な構成で、第1収容室4a側へ潤滑油を流動させることができる。
【0068】
(3)4輪駆動時において、リングギヤ21及びデフケース22の回転によって掻き上げられた潤滑油が第1流路44を経由して第1収容室4aから第2収容室4bへ流動するので、例えばポンプを用いて潤滑油を流動させる場合に比較して簡素な構成で、第2収容室4b側へ潤滑油を流動させることができる。
【0069】
(4)4輪駆動の走行時において第2収容室4bにおける潤滑油の量が所定量よりも多くなった場合には、第2ケース部材42の壁部421における挿通孔421aの内面と中間軸31の外周面との間の隙間Gを介して、潤滑油が第2収容室4bから第1収容室4aに流動するので、潤滑油が過度に第2収容室4bに偏在して差動装置2の潤滑が適切に行われなくなることを回避することができる。
【0070】
以上、本発明の車両用駆動力配分装置を上記の実施の形態に基づいて説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能であり、例えば次に示すような変形も可能である。
【0071】
上記実施の形態では、中間軸31及びクラッチドラム32をクラッチハウジング30の一部として一体に構成したが、中間軸31とクラッチドラム32とを別体とし、相対回転不能に連結してもよい。
【0072】
また、摩擦クラッチ34を押圧する押圧機構35としては、電動モータ6を用いたものに限らず、電磁クラッチ及びカム機構を用いたものや、油圧によって進退移動するピストンによって摩擦クラッチを押圧する機構等を適宜採用することが可能である。
【0073】
またさらに、第2ケース部材42の壁部421に貫通孔を形成し、第2収容室4bにおける潤滑油の量が所定量よりも多くなった場合に、この貫通孔を介して第2収容室4bから第1収容室4aに潤滑油を流動させてもよい。
【符号の説明】
【0074】
1…駆動力配分装置、2…差動装置、3…駆動力伝達装置、4…ケース部材、4a…第1収容室、4b…第2収容室、4c…第1のキャッチタンク、4d…第2のキャッチタンク、6…電動モータ、10…プロペラシャフト、10a…ピニオンギヤ、10b…リングギヤ、11…フロントディファレンシャル、12…噛み合いクラッチ、13…歯車機構、14…ピニオンギヤシャフト、20…差動歯車機構、21…リングギヤ、22…デフケース、23…ピニオンシャフト、24…ピニオンギヤ、25…第1のサイドギヤ、26…第2のサイドギヤ、25a,26a…連結孔、30…クラッチハウジング、30a…凹部、31…中間軸、32…クラッチドラム、32a…スプライン係合部、33…インナシャフト、33a…連結孔、34…摩擦クラッチ、35…押圧機構、40b…収容空間、41…第1ケース部材、41a,43a…シャフト挿通孔、41b…挿通孔、41c…内面、42…第2ケース部材、42a…内面、43…第3ケース部材、43a…シャフト挿通孔、44…第1流路、44a…流入口、44b…吐出口、45…第2流路、45a…流入口、45b…吐出口、50,51…円錐ころ軸受、52…玉軸受、53…針状ころ軸受、54…針状スラストころ軸受、56…針状スラストころ軸受、58…針状ころ軸受、59…スラストころ軸受、61…減速機、100…4輪駆動車、101…駆動力伝達系、102…エンジン、103…トランスミッション、104L,104R…前輪、105L,105R…後輪、106L,106R,107L,107R…ドライブシャフト、111…サイドギヤ、112…ピニオンギヤ、113…ピニオンギヤ支持部材、114…フロントデフケース、121…第1回転部材、122…第2回転部材、123…スリーブ、140…軸部、141…ギヤ部、321…円筒部、322…底部、331…大径部、331a…スプライン係合部、332…小径部、333…ボス部、341…アウタクラッチプレート、342…インナクラッチプレート、351…カム部材、351a…カム面、351b…ギヤ部、352…転動体、353…リテーナ、353a…支持軸、354…押圧部材、401,402…ボルト、411…第1キャビティ、411a…上面、411b…底面、411c…下面、411d…側面、421…壁部、421a…挿通孔、422…第2キャビティ、422a…上面、422b,422c…側面、422d…下面、422e…底面、423…第3キャビティ、423a…開口、423b…開口部内面、424…周壁部、424a…内面、424b…上端部、441,442…シール部材、551…針状ころ軸受、552…針状スラストころ軸受、571,572…円錐ころ軸受、611…出力ギヤ、G…隙間、O…回転軸線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8