(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記トレンチを形成する工程の後、かつ、前記第2の二酸化珪素膜を形成する工程の前に、緩衝フッ酸を用いて前記第1の二酸化珪素膜の表層部をエッチングする工程をさらに備える、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[本発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施態様を列記して説明する。本明細書中においては、個別方位を[]、集合方位を<>、個別面を()、集合面を{}でそれぞれ示す。また、負の指数については、結晶学上、”−”(バー)を数字の上に付けることになっているが、本明細書中では、数字の前に負の符号を付けている。また、「酸化膜」とは二酸化珪素(SiO
2)の膜を意味する。
【0014】
(1)本発明の一態様に係る炭化珪素半導体装置の製造方法は、第1の主面(11A)および第1の主面(11A)の反対側に位置する第2の主面(10B)を有する炭化珪素基板(5)を準備する工程(S1)を備える。炭化珪素基板(5)は、第1の導電型を有するドリフト層(11)と、第1の導電型と異なる第2の導電型を有し、かつドリフト層(11)の内部に配置されるボディ領域(13)と、第1の導電型を有し、ボディ領域(13)の内部に形成されるとともに炭化珪素基板(5)の第1の主面(11A)に接するソース領域(15)とを含む。製造方法は、さらに、炭化珪素基板(5)の第1の主面(11A)を覆う第1の二酸化珪素膜(21)を形成する工程(S40)と、第1の二酸化珪素膜(21)の一部を除去することにより、ソース領域(14)を露出させる開口部(21a)を第1の二酸化珪素膜(21)に形成する工程(S50)と、第1の二酸化珪素膜(21)の開口部(21a)を介して炭化珪素基板(5)に対して化学エッチングを施すことにより、第1の主面(11A)からソース領域(14)およびボディ領域(13)を貫通して、ドリフト層(12)に達する側壁部(SW)を有するトレンチ(TR)を形成する工程(S60)とを備える。トレンチ(TR)は、第1の主面(11A)において、第1の二酸化珪素膜(21)の開口部(21a)の幅よりも大きい幅を有する開口部を有する。製造方法は、さらに、トレンチ(TR)の少なくとも側壁部(SW)に、第1の二酸化珪素膜(21)とつながる第2の二酸化珪素膜(22a)を形成する工程(S70)と、不活性ガス雰囲気において炭化珪素基板に熱処理を施すことにより、第1の二酸化珪素膜(21)が、トレンチ(TR)の側壁部(SW)において第1の主面側(11A)に位置する角部(UT)を覆うように、第1の二酸化珪素膜(21)を軟化させる工程(S80)と、炭化珪素基板(5)に熱酸化処理を施すことにより、トレンチ(TR)の側壁部(SW)に接するゲート絶縁膜(22)を形成する工程(S90)とを備える。
【0015】
上記構成によれば、トレンチゲートの開口部上端の角部においてゲートリークが生じる可能性を低減可能な炭化珪素半導体装置を製造することができる。第1の二酸化珪素膜を軟化させる工程によって、炭化珪素の第1の主面に接触するトレンチの側壁部(角部)が第1の二酸化珪素膜によって覆われる。これにより、上記角部を覆う絶縁膜(二酸化珪素膜)の厚みを大きくすることができる。したがって、ゲートリークが生じる可能性が低減された炭化珪素半導体装置を製造することができる。
【0016】
(2)好ましくは、第1の二酸化珪素膜(21)を形成する工程は、ドライ酸化によって、50nm以上かつ100nm以下の厚みを有する熱酸化膜を形成する工程を含む。
【0017】
上記構成によれば、第1の二酸化珪素膜を軟化させる工程において、トレンチの角部を、十分な厚みを有する二酸化珪素膜によって覆うことができる。さらに、この二酸化珪素膜は、熱酸化膜を含むことによって高い絶縁性を有する。これにより、ゲートリークが生じる可能性が低減された炭化珪素半導体装置を製造することができる。
【0018】
(3)好ましくは、第1の二酸化珪素膜(21)を軟化させる工程は、1200℃以上かつ1400℃以下の温度で炭化珪素基板(5)に熱処理を施す工程を含む。
【0019】
上記構成によれば、第1の二酸化珪素膜をより確実に軟化させることができる。
(4)好ましくは、トレンチ(TR)を形成する工程は、第1の二酸化珪素膜(21)の開口部(21a)の縁が、トレンチ(TR)の角部(UT)に対して0.1μm以上かつ0.3μm以下の範囲(L)で突出するように、トレンチ(TR)を形成する工程を含む。
【0020】
上記構成によれば、第1の二酸化珪素膜を軟化させる工程において、角部を、第1の二酸化珪素膜によって覆うことができる。さらに、炭化珪素半導体装置のオン抵抗が大きくなる可能性を低減できる。
【0021】
(5)好ましくは、製造方法は、トレンチ(TR)を形成する工程の後、かつ、第2の二酸化珪素膜(22a)を形成する工程の前に、緩衝フッ酸を用いて第1の二酸化珪素膜(21)の表層部をエッチングする工程をさらに備える。
【0022】
上記構成によれば、第2の二酸化珪素膜を形成する工程の前に、第1の二酸化珪素膜の表面を清浄にすることができる。第2の二酸化珪素膜を形成する工程、あるいは第1の二酸化珪素膜を軟化させる工程において、第1の二酸化珪素膜に取り込まれる不純物の量を低減できる。これにより、ゲートリークが生じる可能性が低減された炭化珪素半導体装置を製造することができる。
【0023】
(6)好ましくは、第2の二酸化珪素膜(22a)を形成する工程は、ドライ酸化によって、1nm以上の厚みを有する熱酸化膜を形成する工程を含む。
【0024】
上記構成によれば、第2の二酸化珪素膜を、第1の二酸化珪素膜に、より確実につなげることができる。第2の二酸化珪素膜を第1の二酸化珪素膜につなげることにより、第1の二酸化珪素膜を軟化させるための熱処理を、炭化珪素基板に対して施したときに、角部を第1の二酸化珪素膜によって覆うことができる。
【0025】
(7)好ましくは、第2の二酸化珪素膜(22a)を形成する工程は、1000℃以上かつ1200℃以下の温度で、熱酸化膜を形成する工程を含む。
【0026】
上記構成によれば、第2の二酸化珪素膜を、第1の二酸化珪素膜に、より確実につなげることができる。
【0027】
(8)好ましくは、化学エッチングは、塩素ガスを用いた熱エッチングを含む。
上記構成によれば、ゲートリークの可能性が低減され、かつ低いオン抵抗を有する炭化珪素半導体装置を製造することが可能になる。
【0028】
(9)好ましくは、トレンチ(TR)を形成する工程は、化学エッチングに先立って、炭化珪素基板(5)に反応性イオンエッチングを施して、炭化珪素基板(5)の一部をエッチングする工程を含む。
【0029】
上記構成によれば、化学エッチングによるトレンチの形成を促進することができる。
(10)好ましくは、第1の主面(11A)は、C面である。
【0030】
上記構成によれば、ゲートリークの可能性が低減され、かつ低いオン抵抗を有する炭化珪素半導体装置を製造することが可能になる。この明細書において、「C面」とは、(000−1)面、および、(000−1)面に対して所定の範囲内(たとえば±8°以内)のオフ角を有する面を包含することができる。
【0031】
(11)好ましくは、側壁部(SW)は、C面に対して50°以上かつ65°以下の角度で傾斜した面を含む。
【0032】
上記構成によれば、ゲートリークの可能性が低減され、かつ低いオン抵抗を有する炭化珪素半導体装置を製造することが可能になる。
【0033】
(12)好ましくは、側壁部(SW)は、面方位{0−33−8}を有する面を含む。
上記構成によれば、ゲートリークの可能性が低減され、かつ低いオン抵抗を有する炭化珪素半導体装置を製造することが可能になる。
【0034】
(13)好ましくは、ゲート絶縁膜(22)を形成する工程は、第1の二酸化珪素膜(21)を軟化させる工程に続けて、雰囲気ガスを不活性ガスから酸素含有ガスに切換えて炭化珪素基板(5)に熱酸化処理を施す工程を含む。
【0035】
上記構成によれば、炭化珪素半導体装置の製造に要する時間を短縮することができる。これにより炭化珪素半導体装置の生産性を高めることができる。
【0036】
(14)本発明の一態様に係る炭化珪素半導体装置は、第1の主面(11A)および第1の主面(11A)の反対側に位置する第2の主面(10B)を有する炭化珪素基板(5)を備える。炭化珪素基板(5)は、第1の導電型を有するドリフト層(12)と、第1の導電型と異なる第2導電型を有し、かつドリフト層の内部に配置されるボディ領域(13)と、第1の導電型を有し、ボディ領域の内部に形成されるとともに炭化珪素基板の第1の主面に接するソース領域(14)とを含む。第1の主面(11A)からソース領域(14)およびボディ領域(13)を貫通して、ドリフト層(12)に達する側壁部(SW)を有するトレンチ(TR)が、炭化珪素基板(5)に形成される。炭化珪素半導体装置は、さらに、トレンチ(TR)の側壁部(SW)において第1の主面(11A)側に位置する角部(UT)を覆う熱酸化膜を含む二酸化珪素膜(21)と、トレンチ(TR)の少なくとも側壁部(SW)を覆うとともに上記の二酸化珪素膜(21)につながる熱酸化膜を含むゲート絶縁膜(22)とを備える。第1の主面(11A)に垂直かつ第1の主面(11A)から二酸化珪素膜(21)へと向かう方向を第1の方向(D1)とし、第1の主面(11A)に平行かつトレンチ(TR)に向かう方向を第2の方向(D2)とすると、二酸化珪素膜(21)は、第1の方向(D1)に沿った第1の厚み(T1)と、トレンチ(TR)の角部(UT)から第2の方向(D2)に沿った第2の厚み(T2)とを有する。第1の厚み(T1)に対する第2の厚み(T2)の比率は、50%以上である。
【0037】
上記構成によれば、炭化珪素の第1の主面に接触するトレンチの側壁部(角部)が第1の二酸化珪素膜によって覆われる。これにより、上記角部を覆う絶縁膜(二酸化珪素膜)の厚みを大きくすることができる。したがって、ゲートリークが生じる可能性を低減可能な炭化珪素半導体装置を実現することができる。
【0038】
(15)好ましくは、上記の比率は、100%以下である。
上記構成によれば、炭化珪素半導体装置においてゲートリークが生じる可能性をより低減することができる。
【0039】
(16)好ましくは、第1の主面(11A)は、C面である。側壁部(SW)は、C面に対して50°以上かつ65°以下の角度で傾斜した面を含む。
【0040】
上記構成によれば、ゲートリークの可能性が低減されるとともに、低いオン抵抗を有する炭化珪素半導体装置を実現できる。なお「C面」は、上記のように下定義されるので、「C面」に関する説明は繰り返さない。
【0041】
(17)好ましくは、側壁部は、面方位{0−33−8}を有する面を含む。
ゲートリークの可能性が低減されるとともに、低いオン抵抗を有する炭化珪素半導体装置を実現できる。
【0042】
(18)好ましくは、第2の厚みは、50nm以上かつ100nm以下である。
上記構成によれば、トレンチゲートを有する炭化珪素半導体装置においてゲートリークが生じる可能性をより低減することができる。
【0043】
(19)好ましくは、第1の方向(D1)と異なる方向を第3の方向(D3)と定義し、第3の方向(D3)が第2の方向(D2)に一致するときに、第1の方向(D1)に対して、第3の方向(D3)がなす角度を90°と定義すると、二酸化珪素膜(21)は、第1の主面(11A)の延長方向と、トレンチの側壁部(SW)の延長方向とが交差する位置を通り、かつ第3の方向(D3)に沿う、第3の厚み(T3)を有する。第1の方向(D1)に対する第3の方向(D3)のなす角度が少なくとも95°までは、第1の厚み(T1)に対する第3の厚み(T3)の比率は、50%以上である。
【0044】
上記構成によれば、トレンチゲートを有する炭化珪素半導体装置においてゲートリークが生じる可能性をより低減することができる。なお、第1の主面の延長方向と、トレンチの側壁部の延長方向とが交差する位置は、第1の主面内の位置であってもよく、第1の主面とトレンチの側壁部との両方から離れた位置であってもよい。たとえばトレンチの角部が曲率を有する場合、第1の主面の延長方向と、トレンチの側壁部の延長方向とが交差する位置は、トレンチの開口部内の位置であり得る。
【0045】
[本発明の実施形態の詳細]
次に、本発明の実施形態の具体例を図面を参照しつつ説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付し、その説明は繰り返さない。
【0046】
<第1の実施の形態>
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る炭化珪素半導体装置の構造を概略的に示す断面図である。
図1を参照して、MOSFET1は、本発明の第1の実施の形態に係る炭化珪素半導体装置である。MOSFET1は、炭化珪素基板5を含む。炭化珪素基板5は、主面11A(第1の主面)と、主面10B(第2の主面)とを有する。主面10Bは、主面11Aの反対側に位置する。
【0047】
炭化珪素基板5は、炭化珪素単結晶基板10と、ドリフト層11とを含む。炭化珪素単結晶基板10は、たとえばポリタイプ4Hの六方晶炭化珪素単結晶からなる。炭化珪素単結晶基板10の厚みは、たとえば700μm以下であり、好ましくは500μm以下である。
【0048】
炭化珪素単結晶基板10は、互いに反対側に位置する2つの主面10A,10Bを有する。主面10Bは、炭化珪素基板5の第2の主面に相当する。たとえば主面10A,10Bは、互いに平行な面であり得る。
【0049】
主面10Aは、「C面」である。一般に、「C面」とは、最表面原子が炭素原子である炭化珪素基板の面と定義される。本明細書において、C面は、(000−1)面だけでなく、(000−1)面から8°以下オフした面を含み得る。言い換えるとC面は、(000−1)面に対するオフ角が−8°以上8°以下となる面である。
【0050】
主面10Bは、「Si面」である。この明細書では、「Si面」は、(0001)面だけでなく(0001)面から8°以下程度オフした面を含み得る。言い換えるとSi面は、(0001)面に対するオフ角が−8°以上8°以下となる面である。
【0051】
炭化珪素単結晶基板10は、第1の導電型を有する。この実施の形態では、第1の導電型は、n型である。具体的には、炭化珪素単結晶基板10は、たとえば窒素(N)などのn型不純物(ドナー)を含む。
【0052】
ドリフト層11は、炭化珪素単結晶基板10の主面10A上に配置される。ドリフト層11は、主面11Aを有する。主面11Aは、炭化珪素基板5の第1の主面に相当する。具体的には、主面11Aは、上記の定義に従うC面である。
【0053】
ドリフト層11は、ドリフト領域12と、ボディ領域13と、ソース領域14と、コンタクト領域15とを含む。
【0054】
ドリフト領域12は、第1の導電型(n型)を有する。ドリフト領域12のn型不純物の濃度は、炭化珪素単結晶基板10のn型不純物の濃度よりも低い。一実施形態では、ドリフト領域12のn型不純物の濃度は、5.0×10
15cm
-3程度である。
【0055】
ボディ領域13は、ドリフト層11の内部に配置されて、第2の導電型を有する。第2の導電型は、第1の導電型と異なる。言い換えると、第2の導電型は、第1の導電型とは逆である。この実施の形態では、第2の導電型は、p型である。ボディ領域13は、たとえばAl(アルミニウム)あるいはB(硼素)などのp型不純物(アクセプタ)を含む。ボディ領域13に含まれるp型不純物の濃度は、たとえば1×10
17cm
-3程度である。ドリフト層11における、ボディ領域13以外の領域がドリフト領域12に相当する。
【0056】
ソース領域14は、ボディ領域13の内部に配置されるとともに炭化珪素基板5の第1の主面(主面11A)に接する。ソース領域14は、ボディ領域13によって、ドリフト領域12から隔てられる。なお、ソース領域14は、コンタクト領域15に接触してもよい。
【0057】
ソース領域14は、第1の導電型(n型)を有する。具体的には、ソース領域14は、P(リン)などのn型不純物を含む。ソース領域14のn型不純物濃度は、ドリフト領域12のn型不純物濃度よりも高い。一実施形態では、ソース領域14に含まれるn型不純物の濃度は、たとえば1×10
19cm
-3である。
【0058】
コンタクト領域15は、ボディ領域13の内部に配置されて、炭化珪素基板5の第1の主面(主面11A)に接する。上述のように、コンタクト領域15は、ソース領域14に接してもよい。コンタクト領域15は、第2の導電型(p型)を有する。具体的には、コンタクト領域15は、アルミニウムあるいは硼素などのp型不純物を含む。コンタクト領域15は、ボディ領域13のp型不純物濃度よりも高いp型不純物濃度を有する。
【0059】
この実施の形態では、炭化珪素基板5に、トレンチTRが形成される。トレンチTRは、炭化珪素基板5の主面11A側に開口する。トレンチTRは、側壁部SWおよび底部BWを有する。
【0060】
側壁部SWは、主面11Aから、ソース領域14およびボディ領域13を貫通してドリフト領域12に到達する。側壁部SWは、炭化珪素のC面に対して50°以上65°以下のオフ角を有する面を含むことができる。オフ角の測定としては、たとえば、一般的なX線回折を用いた方法を用い得る。
【0061】
側壁部SWは、面方位{0−33−8}を有する第1の面を含むことができる。好ましくは、側壁部SWは、第1の面を微視的に含み、さらに、面方位{0−11−1}を有する第2の面を微視的に含むことができる。さらに好ましくは、第1の面および第2の面は、面方位{0−11−2}を有する複合面を含むことができる。「C面に対して50°以上65°以下のオフ角を有する面」が、上記の第1の面および第2の面を含んでもよい。上記の面を含む側壁部SWによって、チャネル領域CHにおける抵抗(チャネル抵抗)を低減することができる。したがって、オン抵抗の低減された炭化珪素半導体装置を実現することができる。
【0062】
底部BWは、側壁部SWに接続される。底部BWは、炭化珪素基板5の主面11Aに平行な面を有していてもよい。なお、側壁部SWは、炭化珪素基板5の主面11Aに対して傾斜した面を含む。したがってトレンチTRの開口部の大きさによっては、底部BWが省略されていてもよい。
【0063】
MOSFET1は、さらに、保護絶縁膜21と、ゲート絶縁膜22と、ゲート電極30と、ソース電極40と、層間絶縁膜50と、ソース配線60と、ドレイン電極70とを含む。
【0064】
図2は、
図1中に示す破線四角により囲まれた領域の拡大図である。
図1および
図2を参照して、保護絶縁膜21は、炭化珪素基板5の主面11Aを覆うとともに、トレンチTRの角部UTを覆う。角部UTは、側壁部SWの上端側(主面11A側)に位置する。
【0065】
保護絶縁膜21は、二酸化珪素(SiO
2)の膜である。より具体的には、保護絶縁膜21(第1の二酸化珪素膜)は、熱酸化膜である。保護絶縁膜21は、ドリフト層11(炭化珪素基板5)の主面11A側の表層部を熱酸化することにより形成される。
【0066】
ゲート絶縁膜22は、トレンチTRの側壁部SWおよび底部BWに接するように形成される。ゲート絶縁膜22は、二酸化珪素の膜である。具体的には、ゲート絶縁膜22は、ドリフト層11(より特定的には、トレンチTRの側壁部SWおよび底部BW)の表層部を熱酸化することにより形成される。
【0067】
方向D1は、主面11Aに垂直かつ、主面11Aから保護絶縁膜21と向かう方向である。厚みT1は、方向D1に沿った保護絶縁膜21の厚みを示す。一実施形態において、厚みT1は、50nm以上である。好ましくは、厚みT1は、50nm以上かつ100nm以下である。
【0068】
方向D2は、主面11Aに平行かつトレンチTRに向かう方向である。厚みT2は、トレンチTRの角部UTから方向D2に沿った保護絶縁膜21の厚みを示す。比率rを、厚みT1に対する厚みT2の比率と定義する。すなわちr=T2/T1である。この実施の形態では、比率r(=T2/T1)は、50%以上(r≧0.5)である。好ましくは、比率rは、50%以上かつ100%以下である。したがって、厚みT2は、上記の比率rの範囲を満たすように定められる。一実施形態では、厚みT2は、50nm以上100nm以下であり、好ましくは、60nm以上80nm以下である。
【0069】
さらに、方向D3を方向D1とは異なる方向と定義する。方向D3を説明するために、方向D1に対して方向D3がなす角度を用いる。方向D3が方向D2に一致する場合、この角度を90°と表す。方向D1は0°の方向と言い換えることもできる。
【0070】
厚みT3は、主面11Aの延長方向と、トレンチTRの側壁部SWの延長方向とが交差する位置を通り、方向D3に沿った厚みである。
図2では、主面11Aの延長方向と、トレンチTRの側壁部SWの延長方向とが交差する位置は、トレンチTRの角部UTに相当する。この実施の形態では、方向D1に対する方向D3のなす角度が少なくとも95°までは、厚みT1に対する厚みT3の比率は、50%以上である。
【0071】
ゲート電極30は、ゲート絶縁膜22および保護絶縁膜21上に接するように配置される。ゲート電極30は、たとえば不純物が添加されたポリシリコン(p−Si)、あるいはモリブデン(Mo)などの導電体からなる。
【0072】
層間絶縁膜50は、ゲート絶縁膜22および保護絶縁膜21を覆うとともに、ゲート電極30を、ソース電極40およびソース配線60に対して電気的に絶縁する。層間絶縁膜50は、たとえば二酸化珪素膜からなる。たとえば堆積酸化膜を層間絶縁膜50に適用することができる。
【0073】
ソース電極40は、ソース領域14およびコンタクト領域15に接するように、炭化珪素基板5の主面11A上に配置される。ソース電極40は、ソース領域14に対して電気的に接続される。ソース電極40は、ソース領域14に対してオーミック接触することができる材料からなることが好ましい。ソース電極40は、たとえばNi
xSi
y(ニッケルシリサイド)、Ti
xSi
y(チタンシリサイド)、Al
xSi
y(アルミシリサイド)およびTi
xAl
ySi
z(チタンアルミシリサイド)などからなる。
【0074】
ドレイン電極70は、炭化珪素基板5(炭化珪素単結晶基板10)の主面10B(第2の主面)に接するように配置される。ドレイン電極70は、炭化珪素単結晶基板10に対して電気的に接続される。ドレイン電極70は、炭化珪素単結晶基板10に対してオーミック接触することができる材料からなることが好ましい。たとえばドレイン電極70は、ソース電極40と同様の材料からなっていてもよい。
【0075】
ソース配線60は、ソース電極40に接するように配置される。これにより、ソース配線60は、ソース電極40に電気的に接続される。さらにソース配線60は、ソース電極40を介してソース領域14と電気的に接続される。ソース配線60は、導電体(たとえば、アルミニウム)からなる。
【0076】
図1および
図2に示されるように、MOSFET1は、n型MOSFETである。ソース配線60およびソース電極40を通じて、ソース領域14、コンタクト領域15およびボディ領域13には、低い電圧(たとえば0V)が与えられる。MOSFET1をオンさせる場合、ゲート電極30には、ソース領域14の電圧よりも高い電圧が与えられる。
【0077】
ゲート電極30に印加された電圧が閾値電圧未満(ゲート電圧は正である)の状態では、ソース電極40とドレイン電極70との間に電圧が印加されても、ボディ領域13にはチャネルが形成されない。このためMOSFET1はオフ状態(非導通状態)である。一方、ゲート電極30に閾値電圧以上の電圧が印加されると、ボディ領域13では、ゲート絶縁膜22の近傍の領域にチャネルが形成される。
図1および
図2には、チャネルが形成される領域が、チャネル領域CHとして示される。
【0078】
上記のとおり、炭化珪素基板5の主面11Aは、C面である。この面にトレンチTRを形成することにより、MOSFET1のオン抵抗を低減することができる。さらに、トレンチTRの側壁部SWは、C面に対して50°以上かつ65°以下の角度で傾斜した面を含む。より好ましくは、側壁部SWは、面方位{0−33−8}を有する面を含む。したがって、MOSFET1のオン抵抗をより低減することができる。
【0079】
MOSFET1をオンさせる場合には、ゲート電極30とソース領域14(あるいはボディ領域13)との間に電圧差が発生する。ゲート電極30とソース領域14との間には、絶縁膜(保護絶縁膜21およびゲート絶縁膜22)が存在する。
【0080】
トレンチTRの上端側(主面11A側)には角部UTが存在する。トレンチTRの上端側の角部UTにおいて電界集中が生じやすい。この実施の形態では、トレンチTRの上端側の角部UTを保護絶縁膜21で覆う。トレンチTRの上端側の角部UTにおける保護絶縁膜21の厚みに関して、角度が90°であるときの比率r(=T2/T1)は、50%以上である。より具体的には、厚みT2は、50nm以上かつ100nm以下である。さらに、方向D1に対する方向D3のなす角度が少なくとも+95°までは、厚みT1に対する厚みT3の比率は、50%以上である。これにより、トレンチTRの上端側の角部UTを覆う絶縁膜の厚みを大きくすることができる。したがってゲートリークの可能性を低減することができる。
【0081】
さらに、この実施の形態によれば、トレンチTRの側壁部SWは、炭化珪素基板5の第1の主面(主面11A)に対して鈍角をなしている。側壁部SWが主面11Aに対して直角をなす場合に比べると、トレンチTRの角部UTにおける電界強度を弱めることができる。これにより、ゲートリークの可能性を低減することができる。さらに、保護絶縁膜21をトレンチTRの角部UTに覆いやすくすることができる。この点からもゲートリークの可能性を低減することができる。
【0082】
一方、チャネル領域CH上のゲート絶縁膜22が厚いほど、MOSFET1の閾値電圧が高くなる。この実施の形態によれば、トレンチTRの側壁部SWにおいて、保護絶縁膜21に覆われる範囲が、ソース領域14に限定される。ボディ領域13が保護絶縁膜21によって覆われるのを避けることにより、チャネル領域CH上のゲート絶縁膜22をMOSFET1の動作にとって好適な厚みとすることができる。これによりMOSFET1のオン抵抗が高くなるのを避けることができる。
【0083】
次に、本実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法について説明する。
図3は、本発明の第1の実施の形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を概略的に示すフローチャートである。
【0084】
図3および
図4を参照して、まず、工程(S10)として炭化珪素基板準備工程が実施される。この工程(S10)では、たとえば4H−SiCからなるインゴット(図示しない)を切断し、研磨処理などを行なうことにより、n型の炭化珪素単結晶基板10が準備される。
【0085】
次に、工程(S20)としてエピタキシャル成長工程が実施される。この工程(S20)では、たとえばCVD(Chemical Vapor Deposition)法を用いたエピタキシャル成長により、ドリフト層11が炭化珪素単結晶基板10の主面10A上に形成される。一実施形態では、炭化珪素単結晶基板10上に、水素(H
2)を含むキャリアガスと、モノシラン(SiH
4)、プロパン(C
3H
8)および窒素(N
2)などを含む原料ガスとが供給され、炭化珪素単結晶基板10がたとえば1500℃以上1700℃以下程度に加熱される。ドリフト層11(エピタキシャル層)の厚みは特に限定されるものではないが、たとえば、10μm程度以上35μm程度以下の範囲内の適切な値(たとえば15μm程度)である。工程S10および工程S20を経て、炭化珪素基板5が準備される。炭化珪素基板5は、主面11Aと、主面10Bとを有する。主面11A(第1の主面)は、C面に対応する。
【0086】
図3および
図5を参照して、次に、工程(S30)としてイオン注入工程が実施される。この工程(S30)では、たとえばアルミニウム(Al)イオンが、炭化珪素基板5の主面11Aからドリフト層11内に注入される。これにより、ドリフト層11内に、導電型としてp型を有するボディ領域13が形成される。ボディ領域13の厚み(上記アルミニウムイオンの注入深さ)は、たとえば0.7μm以上0.8μm以下である。
【0087】
次に、たとえばリン(P)イオンが、ボディ領域13内に注入される。リンイオンは、ドリフト層11内に、アルミニウムイオンよりも浅く注入される。これにより、導電型としてn型を有するソース領域14が、ボディ領域13内に形成される。
【0088】
続いて、たとえばアルミニウム(Al)イオンが、上記リンイオンと同程度の注入深さでボディ領域13内に選択的に注入される。これにより、導電型としてp型を有するコンタクト領域15が、ボディ領域14内に形成される。ドリフト層11において、ボディ領域13、ソース領域14およびコンタクト領域15のいずれも形成されない領域が、ドリフト領域12になる。ソース領域14は、ボディ領域13によって、ドリフト領域12から隔てられる。
【0089】
図5には示されないが、炭化珪素基板5への選択的なイオン注入のため、たとえば炭化珪素基板5の主面11A上に、マスクとして二酸化珪素膜が形成される。フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術により、コンタクト領域15を形成すべき領域を露出させる開口部が二酸化珪素膜に形成される。イオン注入が完了した後には、当該マスク(二酸化珪素膜)が除去される。その後、炭化珪素基板5が、不活性ガス雰囲気中で加熱される。この加熱工程(アニール)によって、炭化珪素基板5に導入された不純物イオンを活性化することができる。
【0090】
図3では、上記の工程S10,S20およびS30が、工程S1として総括的に示される。すなわち、工程(S1)は、n型を有するドリフト層11と、p型を有し、かつドリフト層11の内部に配置されるボディ領域13と、n型を有し、ボディ領域13の内部に形成されるとともに炭化珪素基板5の主面11Aに接するソース領域14とを含む炭化珪素基板5を準備する工程に相当する。
【0091】
図3および
図6を参照して、工程(S40)として、マスク酸化膜形成工程が実施される。この工程(S40)では、炭化珪素基板5の主面11A上に、マスク酸化膜を形成する。一実施形態では、酸素含有ガス雰囲気において、ドライ酸化によって炭化珪素基板5の主面11A上に、熱酸化膜を形成する。この熱酸化膜が、後述するトレンチ形成工程(S60)においてマスク酸化膜として利用され、その後、MOSFET1(炭化珪素半導体装置)の保護絶縁膜21として利用される。したがって、
図6および以後説明する図において、マスク酸化膜は、保護絶縁膜と同じ符号(21)によって示される。熱酸化膜を保護絶縁膜21に採用することによって、保護絶縁膜21の絶縁性を高めることができる。これにより、ゲートリークが生じる可能性が低減された炭化珪素半導体装置を製造することができる。
【0092】
一実施形態では、マスク酸化膜(および保護絶縁膜21)として形成される熱酸化膜は、50nm以上かつ100nm以下の厚みを有する。熱酸化膜の厚みが50nm未満であると、トレンチTRの角部UTを覆う酸化膜の部分が薄くなりやすい。このため、MOSFET1では、角部UTにおけるゲートリークが生じる可能性が高くなる。一方、熱酸化膜の厚みが100nmよりも大きい場合、その厚みを有する熱酸化膜を形成するために要する時間が長くなる。角部UTにおいて、ゲートリークの可能性を低減するためには、角部UTを覆う酸化膜はできるだけ緻密であることが好ましい。このためには、熱酸化膜の形成のためにドライ酸化を用いるのが好適である。角部UTを覆う絶縁膜(熱酸化膜)の厚み、および、その厚みを有する絶縁膜を形成するための時間の両方の観点から、マスク酸化膜(および保護絶縁膜21)として形成される熱酸化膜の厚みは、50nm以上かつ100nm以下とされる。
【0093】
なお、マスク酸化膜は熱酸化膜に限定されるものではない。熱酸化膜に代えて、堆積酸化膜をマスク酸化膜(二酸化珪素膜)に適用することもできる。この場合、トレンチTRの角部UTにおいてゲートリークが生じる可能性を低減するために、堆積酸化膜は、不純物が添加されていない(ノンドープの)酸化膜であることが好ましい。
【0094】
図3および
図7を参照して、工程(S50)として、開口部形成工程が実施される。この工程(S50)では、フォトリソグラフィ工程およびエッチング工程(いずれも図示せず)により、開口部21aが、マスク酸化膜(保護絶縁膜21)に形成される。開口部21aは、主面11Aのうち、トレンチを形成すべき領域を露出させる。
【0095】
図3および
図8を参照して、工程(S60)として、トレンチ形成工程が実施される。この工程(S60)では、炭化珪素基板5に対して化学エッチングを施す。一実施形態では、化学エッチングは、ハロゲン系ガス(一例として塩素(Cl
2)ガス)を用いた熱エッチングである。トレンチ形成工程により、主面11A側に開口部を有するトレンチTRが、ドリフト層11に形成される。
【0096】
トレンチTRは、側壁部SWおよび底部BWを有する。側壁部SWは、主面11Aからソース領域14およびボディ領域13を貫通して、ドリフト領域12に達する。さらに、側壁部SWは、主面11Aに対して鈍角をなす。すなわち、底部BWから主面11Aへ向かうにつれて、トレンチTRの開口径が大きくなる。熱エッチングによって、側壁部SWを形成することにより、側壁部SWは、炭化珪素のC面に対して50°以上65°以下のオフ角を有する面(1つの具体例として面方位{0−33−8}を有する面)を含むことができる。このような面を含む側壁部SWが形成されることにより、チャネル領域CHにおける抵抗(チャネル抵抗)を低減することができる。
【0097】
主面11Aでは、マスク酸化膜の開口部21aの縁が、トレンチTRの開口部の縁(角部UTに相当する)よりも、トレンチTRの開口部の内部に向けて突出する。言い換えると、主面11Aにおいて、トレンチTRの開口部の幅がマスク酸化膜の開口部21aの幅よりも大きい。
【0098】
長さLは、トレンチTRの開口部の縁(角部UT)からマスク酸化膜の開口部21aの縁までの長さを示す。一実施形態において、長さLは、0.1μm以上0.3μm以下である。
【0099】
図3および
図9を参照して、工程(S70)として、バッファ酸化膜形成工程が実施される。この工程(S70)では、まず、マスク酸化膜(保護絶縁膜21)が形成された炭化珪素基板5に対して洗浄(一例では、RCA洗浄)を施す。これにより、トレンチTRの表面あるいはマスク酸化膜(保護絶縁膜21)の表面に付着したパーティクル、金属イオン等が除去される。
【0100】
次に、トレンチTRの側壁部SWおよび底部BWを覆うバッファ酸化膜22aを形成する。一実施形態では、1000℃以上かつ1200℃以下の温度で、酸素含有ガス雰囲気中において、ドライ酸化によって、1nm以上の厚みを有するバッファ酸化膜22aを形成する。
【0101】
トレンチTRの側壁部SWおよび底部BWと同じく、マスク酸化膜(保護絶縁膜21)の下部に位置する炭化珪素基板5の表層部において、珪素と酸素とが結合することによって酸化膜が形成される。したがって、バッファ酸化膜22aをマスク酸化膜(保護絶縁膜21)につなげることができる。言い換えると、工程(S70)において、マスク酸化膜(保護絶縁膜21)と一体化されたバッファ酸化膜22aが形成される。
【0102】
図3および
図10を参照して、工程(S80)として、マスク酸化膜軟化工程が実施される。この工程では、たとえばアルゴン(Ar)などの不活性ガス雰囲気中において、たとえば1200℃程度以上1300℃程度以下の温度で、炭化珪素基板5が熱処理される。これにより、マスク酸化膜(保護絶縁膜21)が軟化する。トレンチTRの上端の角部UTから突出するマスク酸化膜の部分は、その角部UTからトレンチTRの側壁部SWへと垂れ下がり、その結果、側壁部SWに接触する。この結果、トレンチTRの上端の角部UTを覆う保護絶縁膜21が形成される。
【0103】
バッファ酸化膜22aがなければ、不活性ガス雰囲気中において炭化珪素基板5に熱処理を施したときに、トレンチTRの上端の角部UTから突出したマスク酸化膜の部分が収縮し、さらに、炭化珪素基板5の主面11A(マスク酸化膜と炭化珪素基板5との界面)からマスク酸化膜が外れる可能性がある。したがって、トレンチTRの角部UTを保護絶縁膜21で覆うことが難しい可能性がある。一方、この実施の形態では、工程(S70)において、マスク酸化膜(保護絶縁膜21)につながるように、バッファ酸化膜22aが形成される。これにより、工程(S80)において、マスク酸化膜の収縮を抑えつつ、マスク酸化膜を軟化させることができる。したがって、マスク酸化膜(保護絶縁膜21)によってトレンチTRの角部UTを覆うことが可能になる。
【0104】
図8に示した長さLが0.1μmよりも小さい場合、トレンチTRの上端の角部UTをマスク酸化膜によって覆うことが難しくなりやすい。一方、長さLが0.3μmを上回る場合、トレンチTRの上端の角部UTの全体をマスク酸化膜(保護絶縁膜21)によって覆うことは可能になる。しかしながら、軟化したマスク酸化膜がチャネル領域CHに被さる可能性がある。この結果、ゲート絶縁膜22の厚みが大きくなることが考えられる。チャネル領域CH上におけるゲート絶縁膜22の厚みが大きいほど、MOSFET1の閾値電圧が高くなる。
【0105】
側壁部SWにおいて、ソース領域14とボディ領域13との境界は、主面11Aから0.3μm程度以上離れた位置にある。したがって、
図8に示した長さLが0.3μm以下であれば、軟化したマスク酸化膜を、トレンチTRの角部UTを覆いつつ、ソース領域14に被さらないようにすることができる。これにより、MOSFET1のオン抵抗が増大することを抑えることができる。以上の観点から、
図8に示した長さLは、0.1μm以上かつ0.3μm以下であることが好ましい。
【0106】
さらに、工程(S80)において、1200℃程度以上1400℃程度以下の温度、かつ、不活性ガス雰囲気において、マスク酸化膜を軟化させる。温度が1200℃より低い場合には、マスク酸化膜を軟化させることが難しくなる。その一方、雰囲気温度が1400℃を超える場合には、たとえば、炭化珪素基板5を加熱する加熱炉の性能を低下させる、あるいはその加熱炉の寿命を短縮させる可能性がある。したがって、1200℃程度以上1400℃程度以下の温度で、マスク酸化膜を軟化させることが好ましい。
【0107】
図3および
図11を参照して、工程(S90)として、ゲート絶縁膜形成工程が実施される。この工程では、酸素含有ガス雰囲気中で、たとえばドライ酸化によって、炭化珪素基板5の表層部を酸化する。具体的には、酸素含有ガス雰囲気中において、たとえば1100℃程度以上かつ1400℃以下の温度(一例では、1300℃)に、保護絶縁膜21およびバッファ酸化膜22aが形成された炭化珪素基板5が保持される。
【0108】
トレンチTRにおいては、バッファ酸化膜22aの下部に位置する炭化珪素基板5の表層部が酸化される。バッファ酸化膜22aが成長することによりゲート絶縁膜22が形成される。したがってバッファ酸化膜22aは、ゲート絶縁膜22の一部となり得る。ゲート絶縁膜22は、トレンチTRの側壁部SWにおいて、ドリフト領域12と、ボディ領域13と、ソース領域14とに接する。ゲート絶縁膜22の厚みは、たとえば50nm程度である。
【0109】
一実施形態では、マスク酸化膜軟化工程(S80)およびゲート絶縁膜形成工程(S90)が、連続的に実行される。具体的には、炭化珪素基板5が加熱炉内に配置されて、マスク酸化膜軟化工程(S80)が実施される。炭化珪素基板5を、その加熱炉の内部に保持したまま、雰囲気ガスが不活性ガスから酸素含有ガスに切り換えられる。続けて、ゲート絶縁膜形成工程(S90)が実施される。これにより、MOSFET1(炭化珪素半導体装置)を製造するために要する時間を短縮することができる。したがってMOSFET1(炭化珪素半導体装置)の生産性を高めることができる。
【0110】
図3および
図12を参照して、工程(S100)としてゲート電極形成工程が実施される。この工程(S100)では、たとえばLP(Low Pressure)−CVD法により、保護絶縁膜21およびゲート絶縁膜22に接触するようにゲート電極30が形成される。
【0111】
次に、工程(S110)として層間絶縁膜形成工程が実施される。この工程(S110)では、たとえばP(Plasma)−CVD法により、二酸化珪素からなる層間絶縁膜50が、ゲート電極30、保護絶縁膜21およびゲート絶縁膜22を覆うように形成される。
【0112】
図3および
図13を参照して、工程(S120)として、オーミック電極形成工程が実施される。この工程(S120)では、まずソース電極40を形成すべき領域において層間絶縁膜50、保護絶縁膜21およびゲート絶縁膜22が除去される。これにより、ソース領域14およびコンタクト領域15が露出した領域が形成される。当該領域上に、たとえばニッケル(Ni)からなる金属膜が形成される。一方、炭化珪素基板5(炭化珪素単結晶基板10)の主面10B(第2の主面)上において、たとえばニッケルからなる金属膜が形成される。
【0113】
炭化珪素基板5を加熱して、当該金属膜の少なくとも一部をシリサイド化する。これにより、ソース電極40およびドレイン電極70が形成される。
【0114】
図1および
図3を参照して、工程(S130)として、配線形成工程が実施される。この工程(S130)では、たとえば蒸着法により、アルミニウム(Al)などの導電体からなるソース配線60が、ソース電極40上に接触するように形成される。上記の工程S10〜S130が実施されることにより、第1の実施の形態に係る炭化珪素半導体装置(MOSFET1)を製造することができる。
【0115】
以上のように、第1の実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法では、マスク酸化膜軟化工程により、トレンチTRの上端の角部UTを覆うように、保護絶縁膜21が形成される。電界集中が起こり易いトレンチTRの角部UTを、十分な厚みを有する保護絶縁膜21によって覆うことができる。したがって、ゲートリークが生じる可能性を低減することができる。一方、チャネル領域CH上のゲート絶縁膜22の厚みを、MOSFET1の動作にとって必要な厚み(所望の閾値電圧を得るための厚み)に維持することができる。これにより、オン抵抗の増大を抑えることができる。
【0116】
<第2の実施の形態>
第2の実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法は、基本的には第1の実施の形態に係る製造方法と同じである。第2の実施の形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法は、トレンチTRを形成する工程において、第1の実施形態とは異なる。具体的には、トレンチTRを形成する工程(
図3に示す工程S60)は、炭化珪素基板5に反応性イオンエッチング(RIE)を施して、炭化珪素基板5の一部をエッチングする工程と、その工程に続けて、炭化珪素基板5に化学エッチングを施す工程とを含む。
【0117】
なお、第2の実施形態に係る炭化珪素半導体装置の構成は、第1の実施形態に係る炭化珪素半導体装置の構成と同じである。したがって第2の実施形態に係る炭化珪素半導体装置の構成は
図1等に示されているので、詳細な説明は繰り返さない。
【0118】
図14は、本発明の第2の実施の形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法にに含まれるトレンチ形成工程を説明するための第1の図である。
図14を参照して、マスク酸化膜(保護絶縁膜21)をハードマスクとして、マスク酸化膜の開口部に露出する炭化珪素基板5の部分を、反応性イオンエッチング(RIE)により除去する。反応性イオンエッチングには、誘導結合プラズマ(ICP)RIEを採用することができる。具体的には、たとえば反応ガスとしてSF
6またはSF
6とO
2との混合ガスを用いたICP−RIEにより、炭化珪素基板5をエッチングすることができる。このようなエッチングにより、側壁が炭化珪素基板5の主面11Aに対してほぼ垂直となる溝を形成することができる。
【0119】
主面11Aからのエッチング深さdは、後の工程(化学エッチング)において形成されたトレンチTRの開口部の寸法を所望の寸法とするための深さである。上記「所望の寸法」とは、
図8および
図15に示す長さLが、0.1μm〜0.3μmの範囲となる値である。
【0120】
図15は、本発明の第2の実施の形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法にに含まれるトレンチ形成工程を説明するための第2の図である。
図15を参照して、炭化珪素基板5に対して化学エッチングを施す。この工程は、第1の実施の形態に係る工程と同一であるので、以後の詳細な説明は繰り返さない。
【0121】
第2の実施の形態によれば、トレンチを形成する工程において、化学エッチングに先立って反応性イオンエッチングが炭化珪素基板に施される。これによりトレンチTRの形成を促進することができる。したがって、本発明の実施の形態に係る炭化珪素半導体装置(MOSFET1)を安定的に製造することができる。
【0122】
<第3の実施の形態>
図16は、本発明の第3の実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を示すフローチャートである。
図3および
図16を参照して、第3の実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法は、エッチング工程(S65)が、トレンチ形成工程(S60)とバッファ酸化膜工程(S70)との間に追加される。より具体的には、第3の実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法は、トレンチTRを形成する工程(S60)の後、かつ、バッファ酸化膜22aを形成する工程(S70)の前に、緩衝フッ酸(BHF)を用いてマスク酸化膜の表面をエッチングする工程を備える。この点において、第3の実施の形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法は、第1の実施の形態に係る製造方法と異なる。
【0123】
なお、第3の実施の形態に係る炭化珪素半導体装置の構成は、第1の実施の形態に係る炭化珪素半導体装置の構成と同じである。したがって第3の実施の形態に係る炭化珪素半導体装置の構成は
図1等に示されているので、詳細な説明は繰り返さない。
【0124】
図17は、第3の実施の形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法に含まれるエッチング工程(S65)を説明するための図である。
図16および
図17を参照して、マスク酸化膜(保護絶縁膜21)の表層部(破線で示す)が緩衝フッ酸によってエッチングされる。
【0125】
緩衝フッ酸は、たとえばフッ化水素酸(HF)とフッ化アンモニウム(NH
4F)との混合液を用いることができる。HFおよびNH
4Fの各々の重量%(wt%)および容積比(フッ化水素酸の容積に対する、フッ化アンモニウムの比率)は特に限定されるものではない。エッチング後のマスク酸化膜(保護絶縁膜21)の厚みが、50nm程度以上100nm程度以下となるように、エッチングの時間が決定される。
【0126】
たとえば金属イオンがマスク酸化膜の表面に付着したままま、バッファ酸化膜形成工程(S70)、マスク酸化膜軟化工程(S80)およびゲート絶縁膜形成工程(S90)を実施した場合、保護絶縁膜21に金属イオンが取り込まれやすい。保護絶縁膜21に取り込まれた金属イオンの量が多くなるほど、ゲートリークが生じる可能性が高くなる。第3の実施の形態によれば、緩衝フッ酸(BHF)を用いてマスク酸化膜の表面がエッチングされる。これによりマスク酸化膜の表面の汚れを洗浄することが可能になるので、保護絶縁膜21に金属イオンが取り込まれる可能性を低減できる。したがって、第3の実施の形態によれば、炭化珪素半導体装置において、ゲートリークが生じる可能性をより低減することができる。
【0127】
なお、エッチング工程(S65)を、第2の実施の形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法に追加することもできる。
【0128】
また、本発明の実施の形態に係る炭化珪素半導体装置としてMOSFETが例示される。しかしながら、本発明の実施の形態に係る炭化珪素半導体装置は、トレンチゲートを有するトランジスタであればよい。したがって、本発明の実施の形態に係る炭化珪素半導体装置は、IGBTであってもよい。
【0129】
さらに上記の各実施の形態では、第1の導電型はn型であり、第2の導電型はp型である。p型の領域をn型の炭化珪素層に形成することによって、炭化珪素半導体装置の製造しやすさを向上することができる。しかしながら第1の導電型がp型であり、かつ第2の導電型がn型であってもよい。
【0130】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。